以下、鋭意研究し得られた知見に基づき、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に記載された例示にのみ限定されるわけではない。
(飼育装置1:分離型)
図1は、本発明の実施形態に係る飼育装置(以下「本装置」という。)1の概念図である。本図で示すように本装置1は、好気環境を形成する飼育槽2と、水塊を形成する対流槽3と、飼育槽2と対流槽3との間において懸濁液を循環させる循環経路形成部材4と、を備える。
本装置1において、飼育槽は、メダカ、金魚、コイ等の魚類、カラシン、スズキ、ナマズ等の熱帯魚、カメ等の水生爬虫類、アサリ、シジミ等の貝類、カニやエビ等の甲殻類等の飼育対象となる水生生物を飼育するための領域を確保するための水槽である。飼育槽の構造としては、液体を保持する程度の堅さを備えた部材であることが好ましく、観賞のためであれば少なくとも一部が光透過性を備えているガラスや透明な樹脂(アクリル樹脂等)等の部材であることが好ましい。大きさなどについては適宜調整可能である。
また本装置1において、対流槽3は、飼育槽とは区別される領域を形成する水槽であり、上記の通り水塊を内部で形成することができる程度の大きさを備えたものである。対流槽3の構造としては、液体を保持する程度の剛性を備えた部材であることが好ましく、観賞のためであれば少なくとも一部が光透過性を備えているガラスや透明な樹脂(アクリル樹脂等)等の部材であることが好ましい。大きさなどについても適宜調整可能である。なお、後述の記載からも明らかであるが、飼育槽と対流槽は一つの大きな水槽を遮蔽板等で区切ることで形成することとしてもよい。
また本装置1において、循環経路形成部材4は、上記の通り、飼育槽と対流槽を区切るとともに、これらの間において懸濁液を循環させるための経路を形成することができるものである。これについてはこの機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば配管と送水するためのポンプの組合せであってもよい。
飼育槽2と対流槽3はまず水生生物を飼育することのできる液体(水(淡水・海水・汽水等)を含む)で満たされるが、この液体は使用によって水生生物を飼育すると懸濁液となっている。なお懸濁液とは、余剰の餌、排泄物、亡骸等の有機物及びこの分解物を含有する液体のことをいう。この懸濁液は、言い換えると脂質と糖質と蛋白質等の有機化合物を含有する液体となっている。すなわち飼育槽2内と対流槽3内は懸濁液によって満たされる。
本装置1は、懸濁液中の所定の領域に好気性の環境を形成する一方、他の所定の領域に嫌気性の淀み(以下「水塊」という。)を形成する。この結果、懸濁液中に浮遊している有機物は、水流によって水塊内に侵入し停滞及び沈殿し、蓄積される。
一方、水塊内では、沈殿物の分解作用によって、酸素があるうちは好気性の微生物が活性化するものの、酸素供給が乏しいため結果的に嫌気性の環境(貧酸素環境を含む。)が形成される。つまり、嫌気性の微生物が活発化する。水塊の境界線は、好気環境と常に接触しており、嫌気環境と好気環境は相互作用が生じるといった効果がある。この相互作用によって、好気環境によって生ずる腐敗作用の変質を抑え、有機物を浄化(還元)させるといった効果がある。
ところで、本装置1において用いる微生物は大気中の常在菌であり、本装置1に充填される液体と大気が接触することで液体内に取り込まれ、各自繁殖に適した場所を見つけて増殖してくれる。また、嫌気性の微生物も実際のところ多く大気中に存在しており、上記と同様本装置1に充填される液体と大気が接触することで液体内に取り込まれ、それらの微生物群を用いて流動還元濾過を形成することができる。例えば、本装置で水生生物を飼育した場合、有機物の還元作用を一観点において、容易に浄化できるといった効果がある。この更なる詳細については飼育方法のところで改めて詳述する。
ここで、本装置1のより具体的な構成及びその機能について説明する。図2は本装置1の正面図であり、図3は本装置を右側面(取水配管側)から見た場合の断面図であり、図4は本装置1を左側面(排水配管側)から見た場合の断面図である。これらの図で示す装置は、上記図1の概念図で示す概念を基準にして溢水型排水式にした実施形態である。
本装置1において、飼育槽2は、底面が矩形であって、底面の辺に沿って壁面を備えた中空柱状のものであって、懸濁液を収容することができるものである。また飼育槽2は、中に背面遮蔽板41と、ノズル42、飼育槽側ポンプ43、が配置されており、排水口44及び取水口45が形成され、循環経路形成部材4を介して懸濁が循環さる。以下に飼育槽2の構成について具体的に説明する。
本装置1では、飼育槽2内に、循環経路形成部材4としてのノズル41と、背面遮蔽板41を備えている。また、飼育槽2は、水生生物を飼育するための飼育領域21と、背面遮蔽板41によって区切られる他の背面領域22に区切られる。飼育槽2の形状は水生生物を好適に飼育することができる限りにおいて限定されず、例えば底面が円形状であってもよく、三角形や六角形等他の多角形であってもよい。更には、壁面が平面でなく曲面であってもよい。
また、背面遮蔽板41には水面排水口411が備えられており、上記ノズル41を挿入して保持するための孔413が形成されている。また背面遮蔽板41は、飼育槽1の底面との間に間隙が設けられ、底面排水口412として機能するよう飼育槽内において固定されている。このように構成することで、懸濁液中に最良の好気環境を形成することができる。なお、上述の図1における飼育槽2は、図2の飼育槽と同じである。なお、本図の例では、底面排水口412を飼育槽2の底面との間の間隙によって形成しているが、例えば上記水面排水口411と同様、背面遮蔽板41に横長の孔としての底面排水口を設ける構成としてもよい。このようにすることで、底面との距離を確実に確保することが可能となる。そして、水面排水口も、孔ではなく、背面遮蔽板41の上辺が水面に出ない程度の位置に背面遮蔽板41を設置させてもよい。
また、本装置1において、背面遮蔽板41と飼育槽の壁面との間は、70mm以上100mm以下となるよう配置されていることが好ましい。70mm以上とすることで、本図で示すように、この間に水流ポンプの設置を可能とし好気環境として使用時の対流の形成が出来る。一方で、100mm以下にすることで、好気環境の形成が最小限の動力で可能になるといった効果がある。
上述しているように背面遮蔽板41において、底面排水口412の間隙は、1mm以上3cm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以上5mm以下である。1mm以上とすることで、吸水の圧力を上げてより効果的に湧昇流w5を形成出来るといった効果があり、3cm以下にすることで、水生生物が誤って吸水されてしまうのを防ぐといった効果があり、5mm以下とすることでより小型の水生生物が誤って給水されてしまうのを防ぐ効果がより顕著となる。
また、背面遮蔽板41において、水面排水口411は、背面遮蔽板41の底面排水口412から吸引された水の一部を飼育領域に戻すために用いられるものであり、水面排水口411の下端が水面より低い位置に設定されていることが好ましく、例えば1mm以上水面から低い位置に設定されていることが好ましい。なおこの場合において、水面排水口411において、飼育領域21と背面領域22の類面は接続されていることが好ましい。これにより、飼育領域21と背面領域22の水面を接続させ、水面上の波を伝えることが可能となる。
また、この水面排水口411の孔の大きさは、水槽の大きさ等によって適宜調整可能であり、限定されず、飼育槽2の横の長さに相対して出来るだけ長くすることが好ましいが、例えば横50mm以上300mmであることが好ましく、より好ましくは100mm以上200mm以下である。また、縦の長さとしては、10mm以上20mm以下であることが好ましい。縦の長さとしては、10mm以上にすることで背面領域22の波を飼育槽1に伝えて溶存酸素量を増すといった効果があり、20mm以下とすることで、底面排水口412の吸引力を保ち、吸水された懸濁液が、背面領域22の底面から飼育槽2の水面へ循環する作用を効果的に行うことができるといった効果がある。以上のような構成で、水面の波の伝達をより多く伝えることで好気環境を増すことができる。
更に、水面排水口411の形状は、上記の例に限定されるわけではなく、生物混入防止のため、例えばメッシュ状、網目状の素材を用いることも好ましい。このようにすることで、波をより繊細に飼育槽1に伝えることができ、さらに水生生物が誤って背面対流層2に侵入することを防ぐことができるといった効果がある。また、水面排水口411の形状はスリット状の形状でもよい。
また、本装置1では、排水配管46を飼育槽2の背面領域22にある排水口44に接続して設置しており、飼育槽2内の懸濁液は背面遮蔽板41の底面排水口412を通り、背面領域22に入り、排水配管46によって対流槽3側へ排水される。このように背面遮蔽板41は、飼育槽2の懸濁液を水面側と底面側から排水できる。この場合において、排水配管46の排水吸入口461は、満水時において、下端が水面以下となる又は上端が水面より高くなるよう背面遮蔽板41の上部に設置し、水位の上昇を抑えつつ懸濁液を排水する溢水型排水式であることが好ましい。このようにすることで、飼育槽2の水位を常時一定に保つことができ、ノズルによる効果も一定に維持できるといった効果がある。また、排水配管46によって排水時に空気を巻き込みながら排出させることで、対流槽3の懸濁液中に泡沫を拡散させることができる。
すなわち、上記の記載から明らかなように、循環経路形成部材4は、上記ノズル42及び飼育槽側ポンプ43の他、排水配管46を備えている。また後述するように、循環経路形成部材4には、対流槽3から水を取水するための取水配管47、この取水管に水を送るための対流槽側ポンプ48を備えていることが好ましい。
また、本装置1の対流槽3は、上記飼育槽2と同様の構造のものを採用することができる。ただし、大きさとしては特に制限されない。
また本装置1の対流槽3では、上述の排水配管46、取水配管47及び対流槽側ポンプ48が配置されており、飼育槽2からの懸濁液を受け付け、水塊を形成して所望の効果を発揮しつつ、懸濁液を飼育槽2に戻すことができる。
本装置1において、排水配管46の排水放出口462は、対流槽3の懸濁液に浸かるよう設置しておくことが好ましい。排水放出口462を懸濁液に浸けることで、排水の飛沫によって器材等が汚れてしまうのを抑える効果があるとともに、懸濁液中の溶存酸素量を増すことができる。
また、限定される訳ではないが、排水配管46の排水放出口462の設置位置を、図4で示すように、隅(角部)又は壁面近傍に設置することが好ましい。このようにすることで、対流槽3内に形成される水流に水塊を形成することができるようになる。なお、水塊を形成する限りにおいて中央部分であることも可能ではある。
また、限定されるわけではないが、排水配管46の排水放出口の設置高さは、底面近傍で底面から1cm以上20cm以下離した位置にあることが好ましい。この範囲とすることで排水の能力を維持することができる。
また、対流槽3には、取水配管47及び対流槽側ポンプ48が配置されており、対流槽側ポンプ48によって懸濁液は取水され、取水配管47に送水され、飼育槽2に送られる。また限定される訳では無いが、取水配管47からノズル42までの設置位置としては、排水吸入口461と同じ高さで設置することが好ましい。同じ高さとすることで、ノズルの一部を水面から露出させて設置することができると言った効果がある。
また対流槽3において、対流槽側ポンプ48は、排水配管46とできる限り離れた位置に配置しておくことが好ましい。なお対流槽側ポンプ48の取水口は対流槽下部に配置されていることが好ましいが、底面近傍に集まる懸濁液中の有機物を吸い込まない程度に底面から離しておくことが好ましい。
上記の構成によって、対流槽3内では、排水配管3の排水放出口461から対流槽側ポンプ48の間の底面近傍、より具体的には、排水配管46の排水排出口461と対流槽側ポンプ48を結ぶ直線から少し外れた底面近傍の位置に水塊が形成される。本実施形態の対流槽3では、これらによって形成される水の流れと懸濁液のみで水塊を形成することができる。
また、対流槽3では、床砂を用いて水塊を形成してもよい。床砂(泥粒・珊瑚砂・麦飯石・大砂利等)を用いることで水質(pH)の調整等が可能になるといった効果がある。このように床砂の部分に水塊が形成されることで、有機物等の沈殿物で目詰まりが生じる為効果が増す。また、床砂を定期的に洗浄及び交換等を行わずとも浄化効果を維持できるといった効果がある。
上述の水塊には、細分化された有機物が集まり、バイオフィルムを形成し、嫌気性細菌及び通性嫌気性細菌の活動を可能にし、酸素の供給より消費が増すため嫌気性細菌及び通性嫌気性細菌が活動できる貧酸素の(酸素が希薄な領域)の水塊となる。この水塊は、ある程度定まった位置に形成されている一方で、好気環境の懸濁液と常に接触しているため、通性嫌気性細菌を好気環境に拡散させることができる。つまり、通性嫌気性細菌が好気環境中の有機物を分解することで、水質の悪化を抑制するといった効果がある。具体的には、菌類が付着し、有機物を溶かして普遍的に嫌気環境が形成され有害物質を拡散させる変質的腐敗を抑えることができる。
ところで、本装置1において、対流槽3には、水塊に光を照射する照明器具31を備えていることが好ましい。水塊に光を照射することにより、硫化水素を還元し水質をより安定できるといった効果がある。また、水生生物の飼育個体数を限定されずに飼育できるといった効果がある。
さらに、有機物に硫黄(=S)は必ず含まれており硫黄化合物を用いる硫酸還元細菌等も大気中に存在していることが知られている。水塊内で嫌気的分解によって生成される硫化水素は水生生物に有害であり、溶解性が高く少量であれは懸濁液に紛れて蒸発するが、光合成細菌を有することで硫黄(=S)を高効率で還元するといった効果がある。
つまり、本装置において照明器具31の設置としては、上述しているように対流槽3の正面から見て、手前から奥に向う中心部分に上述している水塊が形成されるので、その上部近傍に設置する事が好ましい。(対流槽のみに照射させる構成とするのが好ましい。)
また、本装置では、600nm以上800nm未満の波長を含む光が好ましいが、この波長範囲では人間が感じる赤色になる。このように、対流槽3のみに照射させ、飼育槽2には別途別の波長範囲、例えば白色の照明器具を設ける事で、飼育槽2には自然な色味を持たせる事が可能になる。
また、照明器具としては、限定される訳ではないが、例えばLED電球、白熱電球の少なくとも何れかを用いる事が好ましい。LED電球の場合は特定の波長しか放出しないので藻類等が対流槽3で繁殖するのを抑える効果がある。白熱電球の時には、人間から見て明るく、対流槽3内の状況を把握しやすい効果がある。
また、本装置において、好ましくは、光のスペクトルにおけるピークが600nm以上800nm以下の範囲にあることがより好ましい。この範囲の波長とすることで、光合成細菌が同化的代謝を行い、硫化水素を効果的に還元する事が出来る。水生生物を過密度で飼育した場合に餌の食べ残しや排泄物も多くなる為、嫌気環境を形成しやすくなり(バイオフィルムの形成が増す為。)硫化水素が増して生成される。少量は大気に放出されるが残りは懸濁液に溶解する。例えば、600nm以下の波長を照射すると、光合成細菌は代謝を行えず硫化水素が懸濁液に充満し致死量の濃度になる虞がある為、好ましくない。800nm以上の波長を照射すると、光合成細菌は代謝を行えず、赤外領域の光を吸収してしまい、水温の上昇による細菌の不活性化に繋がる虞がある為、好ましくない。
また、本装置において、水塊に照射される光の強度としては、限定される訳ではないが、LED電球の場合、20lm/W(ルーメンパーワット)以上25lm/W以下である事が好ましい。20lm/W以上とすることで、光合成細菌の代謝を増す効果があり、25lm/W以下とすることで、設備コストを抑えるといった効果がある。
また、実施形態の設置高さは限定される訳ではないが、照射角60度で水塊上部より高さ40cmの位置で照射し効果を得た。光合成細菌は嫌気環境で光合成する細菌であることから、水塊の上部より照射する事が好ましい。例えば横から照射した場合、有機物の表面に光が当たらず光合成細菌が定着しない虞がある為、好ましくない。
さらに、1日の照射時間は、限定される訳ではないが、6時間以上12時間未満で照射することが好ましい。6時間以上とする事で、光合成細菌による硫化水素の分解が十分行えるといった効果がある。12時間未満とする事で、藻類の光合成を制御し、溶存酸素量の過飽和状態によるガス病などの病気に水生生物がなるのを防ぐといった効果がある。また、特定の波長(600nm以上800nm未満)を照射するLED電球は24時間照射してもよい。
以上説明した通り、本装置によると、飼育槽2において好気環境を形成する一方、対流槽3において貧酸素な水塊を形成し、有機物の十分な浄化効果を発揮することができる。
ところで、飼育槽2では、より好適な好気環境を形成するためにノズルが重要な役割を果たすことができる。ここで、ノズル42を含めた効果について具体的に説明する。
図5は、飼育槽2における水流の流れを示すイメージ図である。本図に示す水流を形成する飼育槽2では、上述しているように底面排水口412を通じて飼育領域21から背面領域22に水の流れ(背面側水流w6)が生じることで、飼育槽2内における懸濁液の循環作用を形成することができる。具体的には底面排水口412による流れが生じることで、飼育領域21において水面から底面に向かう水流(以下「下降流」と言う)の水量、及び速流が増すといった効果がある。なお、この流れにおいて、底面排水口412に入りきらない流れは、背面遮蔽板41に沿った上昇水流となる(図中w4参照)。
また、水面排水口411が設けられることにより飼育領域21から背面領域22への水の流れが生じるため水面の懸濁液を排水させることによって、水面近傍にノズルから水面排水口411への流れが形成されることになる。水面排水口411からノズル近傍への流れを形成することができ、水面近傍における循環流を形成することが可能となりより好適な好気環境の形成に寄与する(図中w1参照)。
また一方で、ノズルから排出された懸濁液は、対抗する飼育槽2の壁面に当たり方向が変えられることなるとともに、上記下降流(例えば上記w4)と水面近傍における循環流(例えば上記w1)が組み合わさった方向の下降流となる(例えば図中w2、w3参照)。なお、図6は、説明をよりわかりやすくする観点から、この水流を下降流と湧昇流として示したものである。そして、このように複数の下降流(w1〜w4)が形成できる結果、図7で示されるような湧昇流w5も形成できる。この湧昇流w5は、飼育領域21の底面の内部(壁面から離れた部分)において発生する流れとなっており、懸濁液中の蓄積物を上昇させ、水塊の形成を防止し、好気環境の形成により寄与する。
上記のように、飼育領域21内では好適に好気環境を形成することができるが、念のためより詳細に説明する。
図6に示す下降流w1は、水面のすぐ下で壁面に沿って一方向に進む。つまり矢印の始点から、線のように水流を形成し、背面遮蔽板41側からノズル42の噴流に引き込まれて最後に始点に戻る循環作用が生じる。また、気液界面部の水面部と気体部をコアンダ効果によって引き寄せることができる。その作用は、海洋の流れが卓越風により生じる効果と同じであり、水槽内の物質量が大気中の物質と相互し、平衡することで、水面の水塊を解消し浄化作用を促進することができる。さらに、水面をノズルの噴流によって拡散し、循環ができるといった効果がある。このように、気液界面部からの酸素の溶解によって水面付近の溶存酸素濃度が飽和状態になるのを防ぎ、底面に酸素を浸透させるといった効果がある。また、前記循環作用の途中で排水作用及び放水作用が生じてもよい。
下降流w2は、左側で隅の水塊を解消する下降流であり、始点から底面に向かって一方向に斜線的に進む水流が形成される。また、上述しているコアンダ効果を持ち、壁面に沿って進み、角まで到達すると下降流w3と衝突が生じ水面方向に向かった縦状の渦を形成する。また、角で、全ての下降流は渦にならず、一部は角に沿って背面遮蔽板41の方向へ進み、下降流w3と衝突が生じ底面と並行の渦を形成する。すなわち、「渦」によって図7に示す湧昇流w5を生成することができる。また、下降流は、水面から酸素を含み底面まで侵入し続けることで、排泄物等の沈殿物の細片化を促進させ、かつ、浮遊させることができるといった効果がある。
下降流w3は、始点から2つに分かれてそれぞれ底面に向かって一方向に斜線的に進む。上述しているコアンダ効果を含み、底面に到達したら底面に沿って進むことができる。つまり、前面の隅と底面に生成される水塊を解消する下降流である。また、上述している下降流w2と衝突することで図7に示す湧昇流w5を生成するといった効果がある。
下降流w4は、右側で隅の水塊を解消する下降流であり、始点から上述しているコアンダ効果を含み、底面に向かって壁面に沿って進む。底面に到達すると背面遮蔽板41に向かって進み、到達すると、一部は底面排水口412より排水されるが、一部は、背面遮蔽板41の側面を水面に向かって進み、下噴流w02のコアンダ効果によって引き込まれる循環作用が形成されるといった効果がある。
また、飼育領域21に形成する下降流w1〜w4及び湧昇流w5による効果は、限定される訳ではなく、流動的であり底面に装飾品を設置してもよい。飼育領域21の水流は、装飾品の側面を沿うように水流が形成され装飾品を過ぎれば、上述している水流の流れに戻るといった効果がある。例えば、装飾品としては、限定される訳ではないが、石組みのレイアウトや流木を用いたレイアウト等を設置することが可能である。このように鑑賞時の美観を高めることができ、鑑賞時の途用別にレイアウトを構成できる柔軟性を備えている。
ところで図8は、背面側水流w6の略図を示す図である。本図で示すように、背面遮蔽板41を用いて背面領域22を形成し、懸濁液を対流させることで、水面排水口411から飼育領域21へ放水する循環経路と対流槽3へ排水される循環経路の形成を増すといった効果がある。また、背面領域22の水流は穏やかでバイオフィルムの定着を促進し、有機物の細分化を促進することができるといった効果がある。
また、本装置の飼育槽2は、上記効果によって常時懸濁液を大気と触れることができ、懸濁液と大気で物質が平衡し、過飽和状態と貧酸素状態になるのを防ぐことができるといった効果がある。
ところで、水流には上述しているコアンダ効果を生じる速流であることが好ましい。コアンダ効果は気体、液体に効果を発揮し、本装置において微細泡沫の生成、及び懸濁液の好気環境を形成するといった効果がある。
つまり、本装置の下降流w1〜w4は、速流に比例して増すコアンダ効果を有して、飼育領域21内の側面、底面に沿って進む。そのコアンダ効果は気体液体のように噴流に引き込めない壁面のそばを通過する場合、逆に壁面に引き寄せられる性質があり、下降流w1〜w4は、コアンダ効果によって隅、底面の水流が淀みやすい水塊にまで懸濁液が循環することができる。さらに、上記図5に示す矢印の周囲の懸濁物も矢印の方向に引き込み水塊の形成を抑え、懸濁液中或いは沈殿する有機物に通性嫌気性細菌等の微生物を確実に付着させ細片化し水塊へ誘導できるといった効果がある。
また、コアンダ効果の生じる水流の速流では藻類が飼育槽2の壁面に付着しにくいといった効果がある。
また、図8に示す背面側水流w6の略図は、本装置において上述しているが、飼育槽側ポンプ43を用いて背面領域内22に好気環境を形成する場合の例である。飼育槽側ポンプ43には、限定される訳ではないが、背面領域22内の好気環境を増すといった効果がある。また、本装置のように対流槽3を別空間で設置したとき使用することで効果がより顕著となる。背面領域22に好気環境を形成することで普遍的に生じる水塊の形成を防ぐことができる。また、飼育槽側ポンプ43はエアーレーション等の泡沫を生成する器具でもよい。
さらに、本装置において、背面遮蔽板41は限定される訳ではないが、光の遮断効果のある部材で構成されていることが好ましく、具体的には着色されたもの、黒色であることがより好ましい。このようにすることで、水生生物の発色をよくするといった効果がある。また、背面領域22内にある配管類、飼育槽側ポンプ等の機材が見えず、飼育領域21において鑑賞時に美観を損なわない効果がある。
ところで、泡沫を懸濁液に混入させると溶存酸素量が増すことが知られている。本装置は、泡沫を生成し懸濁液中に混入させることが好ましい。より具体的には、ノズル42によって、泡沫を生成することができる。
また、泡沫は微細であるほどよい。上述している泡沫の膜は、気液界面であり、微細であるほど泡沫の自己加圧効果によって浮力に乏しくなり、下降流に混入することによって、長期浮遊させることができる。また、長期浮遊によって懸濁液中に泡沫内部の気体溶解量を増すといった効果がある。また、本装置の実施形態は矩形形状に限定される訳ではなく、例えば球体のような壁面が曲面でもコアンダ効果によって下降流w1〜w4の形成が可能である。
つまり、飼育領域21では、下降流と湧昇流と微細泡沫が生じて形成される好気環境であることが好ましい。このように形成した懸濁液中では、好気性生物(水生生物・好気性細菌・原生生物等)が良好に生命活動を行えるといった効果がある。
また、本装置の、循環槽3内に設置してある対流槽側ポンプ48から取水配管47を通った懸濁液は、背面遮蔽板41の上部で一部水面から露出したノズル42によって噴射することで上述している下降流w1〜w4をより効果的に形成することができる。
本装置における水流方向の略図において、下降流w1〜w4はノズル42から放出する上噴流w01と下噴流w02は、上記図6乃至図8で示したとおりである。
また図9は、ノズルによって生じる噴流方向の略図である。本図に示す墳流方向の略図において、水面上に露出する部分は限定される訳ではないが、5mm以上15mm未満が好ましい。5mm以上にすることで微細泡沫を生成できるといった効果がある。15mm未満にすることで、上噴流10が水面に衝突する時の衝撃を緩和するといった効果がある。
また、対流槽側ポンプ48から送水されるノズルの設置場所としては、限定される訳ではないが、ノズル42を水面から一部露出させるようにし、背面遮蔽板41の上部で排水配管46一定の距離を取った場所に、飼育領域21に噴出口を出すよう設置する。なおここで「一定」とは背面遮蔽板41の幅に収まる範囲であれば近くても離れていてもよい(背面領域22内の設置場所によって本装置の効果が劣ることがない)。
このように設置することで、ノズル42の噴射口上部1bは水面上で上向きになり、噴射口下部1aは水面と並行するように水面下に設置されることによって、噴射口上部1bから噴射される上噴流w01は、上に進む力が働き重力に反発する抵抗が上に行けば行くほど大きく掛かる。つまり、速流が失速しながら矢印の方向へ進むといった効果があり、その時下噴流w02は水面下を水面と並行して進む。すなわち、ノズルから放水する噴流形状は上噴流w01と下噴流w02で噴射方向が違うように形成することが好ましい。
さらに限定される訳ではないが、本図の墳流方向の略図に示した噴射口上部1bと噴射口下部1aの間はつながっており、水面が一体化する事で、水面を噴流の進行方向に向かわせることができるといった効果がある。つまり、上墳流w01の水面進入時の速流と近い速流で水面が移動している為、前記進入時の衝撃による水面との抵抗を抑え、水面下に侵入後により大きなコアンダ効果を生じることができる。すなわち、前記進入後の上噴流w01の上部に負圧が生じ、衝突地点w03が形成されて微細泡沫w04を生成することができる。
また、上噴流w01の水面下に侵入する力は、ノズル42から放水される水量に比例して大きくなり、それによって、噴流に生じる周りの気体液体を引き込むコアンダ効果を増すといった効果がある。またコアンダ効果を生じて、水面に侵入後に墳流近傍の水面上部では、水面の歪みにより負圧が生じる。上噴流w01は、水中で下墳流w02と合体し前方に進行方向が変わるが、上記負圧部(図中w03参照)が障害物となり墳流に生じているコアンダ効果によって生じる負圧に引き込まれるように進行方向が水面に向かう。さらに下噴流w02の速流によって上噴流w01の速流が上がり、水面まで到達したら行き場を失い底面へ方向を変え、上噴流w01に衝突地点w03で衝突することで微細泡沫w04を生成する。このように、水面を用いた剪断が生じて微細泡沫w04を生成することによって、表面張力の働く水面を循環させることができる。さらに衝突地点w03では乱流が生じ、水面に波を形成し水面の面積が広くなることで気体の溶解能力を増すことができるといった効果がある。
すなわち、飼育領域21では下降流w1〜w4と湧昇流w5と微細泡沫w04を生成することによって、より好適な好気環境を形成できるといった効果がある。また、微細泡沫w04によって飼育槽2と対流槽3の懸濁液は、水塊を除き好気環境が形成されるといった効果がある。
また、本装置でノズル形状は限定されるわけではないが、図10に示す形状であることが好ましい。ノズルの円形断面部の中心から上下に直線状の点線を縦軸(x)とし、前記円形断面部の中心から左右に直線状の点線を横軸の(y)とする。形状は(a)のノズル正面図に示すように、円形状(起点部)と、その面積と相対して一番絞られた面積比の終点(噴射口)を有するノズル形状である。より具体的には、終点(噴射口)の下端である1aの幅が、上端である1bの幅より1:2の比で小さい幅で、さらに終点(噴射口)の一部に直線を有し、1aの末端部から(e)の側面図に示した延伸方向(起点)にかけて直線の形状になるように、(y)軸の左右両側から均等に絞った形状を有する。このように噴射口形状は円周の長さの範囲で(x)軸方向に延伸され、その長さは(y)軸の直径よりも長くなり、前記円形状の起点の上端部より吐出して1bの末端部は形成される。つまり、上端部から起点までの形状が(e)の側面図で示す延伸方向(起点)に向かい一部曲線を有する形状になる。前記構成により噴射口の上端部である1bの末端部から起点の上端部までの長さは、下端部である1aの末端部から起点の下端部までの長さより相対的に短く形成される。すなわち、Bの長さが延伸方向にあるAの長さよりも長く起点の上端位置より高い上記形状を有することで、1bは上向きの噴流を形成できる。また、限定される訳ではないが、1b及び1aは末端部より3mm程度下であり、1bより7mm程下部にくびれを有することで1aから1b間の断面積で、前記くびれより上部の噴射水量を相対的に多くでき、上述している上記図9に示した微細泡沫w04の生成を増すことができるといった効果がある。
すなわち、噴出口において、下噴出口と、前記下噴出口と噴出形状が異なる上噴出口を有するノズル形状が好ましい。
また、下噴流と、下噴流と噴出方向が異なる上噴流を生じさせることは、一体の噴出口としても、別々の噴出口を設けることとしてもよい。別々の噴出口とする場合、二つの噴出口の方向を異ならせることで達成できるし、一つの噴出口において、方向を異ならせるための方向を傾けた仕切板を配置することも可能である。(別々の噴出口を設ける場合、一方の噴出口を水槽の水面下になるように配置し、他方の噴出口を水槽の水面上になるように配置することが好ましい。)
また、噴出口において、水流を絞ることが好ましい。「絞る」ことで、噴出する水量を抑えて水生生物の飼育に好ましい水流を形成できるといった効果がある。
特に、一体の噴出口を形成する場合、一方向に細長く伸びた形状とすることが好ましい。さらには、この幅も、一方の端(下端)から他方の端(上端)に向かうに従い、幅が広がっている形状であることが好ましい。このようにすることで図9に示す噴流形状を形成できる。ただしくびれがあってもよい。
また、噴出口の反っている(配管の入り口の長さよりも噴出口の長さが長い)ことが好ましい。一体にすることで水面が変化したとしても、柔軟に対応できる。
また、上述している微細泡沫13は限定される訳ではないが、0.5cm以下の微細である事が好ましい。微細であるほど自己加圧効果が高まり浮力が劣るため衝突地点12で生成された微細泡沫13は、壁面に衝突し下降流w1〜w4(図9参照)として分散し、長時間浮遊して懸濁液の内部から溶存酸素を増すといった効果がある。
また、生成した微細泡沫w04を懸濁液中に充満させることによって、飼育槽2と対流槽3の溶存酸素量を全体的に高めるといった効果がある。
上述している微細泡沫w04の大きさについて、目視確認できる最大10μm程度の泡沫まで確認している。このような10μmの大きさとはとても小さく、例えば、塗料の1粒子程であり肉眼で確認できる最小の大きさであることが知られている。
また、本装置において、飼育領域21の懸濁液に照明を照射するとチンダル現象が発生する状況が好ましく、ライトを水槽上部より照射し斜め下から観察すると輝く点状の泡沫が無数に確認できる。このように10μm程の泡沫の目視が可能である。また、ライトを照射しないと目視確認できない泡沫も存在する。つまり、泡沫の表面は気液界面であり光を屈折させる為、10μm以下の泡沫も生成することが可能といった効果がある。
ところで上述しているノズル42の知見は、実施形態で複数の異なる形状のノズルを設置し得た知見であり、さらに詳細を下記に記載する。
図9の噴流をノズルで形成することで、飼育領域21の図6に示す水流(下降流)w1〜w4を形成できるといった効果があり、さらにエアーレーションを使用した時の飛沫による水槽外の汚れを抑えるといった効果がある。また、水流ポンプやエアーレーション等の設置を不要とし、鑑賞時の見栄えが良くなるといった効果がある。
また、実施形態で当初のノズルは筒状であって噴射方法を底面からの吹上或いは、水面下或いは水面上より懸濁液を放水し淀みを解消しようと実施したが、極めて困難であったことから本発明のノズルの構造による効果であることはいうまでもない。
ただし、上述している図9に示す墳流の形成は上記図10で示す形状であることが好ましいものであるが、このノズル形状に限定されるのではなく、図11乃至図14に示すノズルでも同等の効果を得ることができる。以下具体的に説明する。
図11に示すノズル421の形状において、(a)の正面図では、ノズルの起点から終点(噴射口)まで円形(筒口)であり、その内側の(y)軸上に仕切り板を有し、上端部の噴射口上部2bと下端部の噴射口下部2aを形成する。噴出口側の噴射分離板2cを中心に設置し、延伸方向に向かい2aが狭くなるように中心から3度以上10度未満の角度をつけて設置することが好ましい。3度以上とすることで上向きの墳流を形成出来るといった効果がある。また、10度未満とすることで2aから放出する速流を維持することができるといった効果がある。つまり、可動時に、仕切り板2cに壁面に沿うコアンダ効果を生じて、上墳流10が仕切り板2cの沿線上のラインを描くことになる。噴射口の下端である2aは、(b)の側面図に示すように延伸方向に向かい直線であるため、直線状の墳流を放出できる。また、2aの全てが直線状に放出する訳ではなく、一部仕切り版2cに沿って放出され上墳流と下噴流の間を形成する墳流となる。すなわち、噴出口において、下噴流と、前記下噴流と噴出方向が異なる上噴流を生じさせる噴流を形成することができる。
図12に示すノズル422の形状において、(a)が正面図で、一つのノズル(筒口)を中心から(x)軸の2mm以上5mm未満下でノズルの終点(噴射口)部を分裂させる事が好ましい。2mm以上とすることで、噴射口の上端部である噴射口上部3bが下端部である噴射口下部3aより水量が多くなるため上墳流の形成が出来るといった効果がある。また5mm未満とすることで、噴射口下部3aの水量を維持することができ、下墳流w02を形成出来るといった効果がある。また、(b)の側面図で示すように、噴射口上部3bと噴射口下部3aは、延伸方向に向かい一つの筒となり、起点の下端部から上端部までの長さと終点(噴射口)の下端部から上端部までの長さは同じである。つまり、水面上の墳流と、水面下の墳流を、ノズルの形状によって区別することで、上墳流w01と下墳流w02が形成される。つまり、噴射時に(a)の中心部分が水面の気液界面部になることが好ましい。対流槽3の懸濁液が噴射口に送水されることで、噴射後に噴射口上部3bと噴射口下部3aから送水された墳流は、図9に示す形状を有する。つまり、下噴流と、前記下噴流と噴出方向が異なる上噴流を生じさせる噴流を形成することができる。
図13に示すノズル423は(a)が正面図で、(b)は側面図であり、上述しているノズル42の噴射口上部1bにあるくびれが無い逆三角形状の形状であるが、噴射水量を相対的に多くすることで、水面上の水量が増して、図9に示す形状を生じると言った効果がある。すなわち、噴出口において、水量を増すことによって下噴流と、前記下噴流と噴出方向が異なる上噴流を生じさせる噴流を形成することができる。
図14に示すノズル424は(a)が正面図で、(b)は側面図であり、噴射口上部5bと噴射口下部5aが等しい幅を有していることを特徴とする。また、上記ノズル423と同様に水量を増やすことで、噴射後に図9に示す墳流形状を形成でき、噴出口において、下噴流と、前記下噴流と噴出方向が異なる上噴流を生じさせる噴流を形成することができる。
上記の実施形態から、飼育領域21内に水面から一部露出して放水し、衝突地点w03で、方向の違いを生じる噴射口形状を有し、微細泡沫w04及び下降流w1〜w4を生成するノズルであれば、上述している墳流形状を形成することができるといった効果がある。すなわち、飼育領域21に好気環境を形成するためには、下噴流w02と、前記下噴流と噴出方向が異なる上噴流w01を生じさせるノズルを用いることが好ましい。
ところで、図15に示す浄化作用における有機物の還元を示す略図は上述しているように、有機物が還元されるサイクルを微生物群によって形成する。つまり各微生物が増殖できる環境が形成されていることが必須である。
上述している有機物は好気環境の懸濁液中を浮遊しながら微生物によって硫黄(S)が代謝され硫化水素(H2S)になる腐敗を伴いながら細分化せれていき、細かい粒状にまでなる。細分化された前記有機物は、微生物(細菌の酵素)によって窒素(N)を含むアミンと炭素原子(C)を含む有機化合物(有機酸)に分かれる。アミンは無機化合物として懸濁液中の好気環境で硝化処理(ニトロソモナス属、ニトロバクター属等の硝酸細菌類)による代謝の最終産物で硝酸塩となり水塊(嫌気環境)で脱窒される。前記作用により、硝酸細菌類は増殖が可能となる。
有機化合物(有機酸)は多種の化合物で構成されている為、質量があり早期に水塊に沈殿し、微生物群が共生するバイオフィルムを形成する。上述しているように水塊内は酸素に乏しく、バイオフィルム内では通性嫌気性及び嫌気性の微生物が代謝を行えて、有機化合物は発酵を生じて増殖が可能な環境となる。
しかしながら微生物にも寿命があり、死んで亡骸となる。前記亡骸は有機物として微生物に代謝に用いるサイクルができる。つまり、懸濁液中の相互作用によって有機物が水槽内に共生する微生物群の代謝に用いられることで水生生物が飼育できる水質を形成できるといった効果がある。
また、微生物とは、目視するのが困難な生物で細菌類、プランクトン類、藻類等の真核生物及び原核生物であり、大気中に無数に休眠状態で浮遊しており、個々の繁殖に適した環境に着地した時に活動を開始するため、気液界面では大気中の微生物が懸濁液に常時落下し流動還元濾過で用いる微生物群となり、食物連鎖を形成する。
また、水生生物等の多細胞生物は酸素を必須とするが、原核生物である細菌はその限りではない。嫌気性と通性嫌気性と好気性のそれぞれの環境で活動する事が知られており、それぞれが相互性を有する事で水生生物等の活動に優位な環境が形成されるといった効果がある。
さらに、一観点に係る流動還元濾過の構成をより詳細に下記に図16の浄化作用における有機物の還元を詳細に示す略図に基づいてより詳細に説明する。
始めに飼育装置を立ち上げ、水生生物を投入し有機物である餌を投与し、その餌の食べ残しや水生生物の排泄物等が本装置内に発生し始めた時から流動還元濾過が開始される。
その餌の蛋白質と蛋白質の結合部分である硫黄(=S)が微生物に取り込まれ細片化し、懸濁液中に浮遊する。硫黄(=S)の反応では硫化水素(H2S)を生成する事が知られており水槽など閉鎖的空間で有機物の量に比例して生成され、水生生物の生存が困難になるばかりか周囲に激臭を漂わせる腐敗が起こる。上述している硫黄(=S)を光合成細菌に固定させることで還元でき、次の反応式に示す。
上記の反応式は懸濁液中に浮遊している有機物が好気性微生物によって代謝し、流動によって水塊に集結して嫌気性の微生物による異化的硫酸還元によって硫化水素(=H2S)を生成する。前記水塊に、上述している光を照射し、嫌気性の光合成細菌が光を用いた同化的反応で炭素を固定し、同時に硫黄(=S)も体内に固定し、硫黄の粒が体内で形成されるといった還元的効果がある。また、水生生物の飼育数に限定される事無く懸濁液の浄化が可能になる。
また、分解された蛋白質はアミノ酸の集合体(=−CO−NH2 +)であり、懸濁液中に浮遊し微生物により分解されるとアミン(=R−NH2 +)と有機酸(=−COOH)に細片化する。アミン(=R−NH2 +)はアミノ基(=−NH2 +)と溶解性の高い物質になる。さらに、懸濁液中でアンモニア(=NH3 +)に酸化されて、アンモニウム(=NH4 +)となる。このように有機物は腐敗作用から始まる事は明らかである。
また、アンモニウム(=NH4 +)は窒素(=N)の還元作用として、硝化処理及び脱膣によって還元される。好気性の細菌により好気環境化でアンモニウム(=NH4 +)を酸化反応させて亜硝酸塩(=NO2 −)へ酸化させ、硝酸塩(=NO3 ー)を生成することを硝化処理という。その硝酸塩(=NO3 −)は、水流によって嫌気環境(水塊)に集結し嫌気性細菌及び通性嫌気性細菌によって亜硝酸塩(=NO2 −)へ還元され亜酸化窒素(=N2Oー)に還元された後に、最終産物の窒素分子(=N2)へ還元されることを脱膣という。上記硝化処理及び脱膣の反応式を下記に記載する。
上記の反応で生成される最終産物の窒素分子(=N2)は、大気へ放出される。また、大気中の窒素分子(=N2)を窒素固定細菌によりアンモニア(=NH3 +)に還元されるといった循環も水槽内の環境によって平衡して生じる。
また、有機酸(=−COOH)は、炭素(=C)を含む様々な化合物で構成されており、沈殿物として水塊に移動し、微生物群に分解及び吸収されていく。また、バイオフィルムのバリアー的役割をするEPSの構成要素であり、多種多様の微生物群の住みかとなる。(デトリタスとも言う。)本装置でプランクトンの一種で、カイアシ類等の甲殻類を確認しており、有機物を摂取する細菌類の共生関係が形成され、その細菌類を捕食するプランクトンが発生するといった食物連鎖を形成していることが確認できた。つまり水槽内で微生物群が共生し安定した環境で維持されていることが立証されている。上記で述べたバイオフィルムは、水塊内で主に形成され嫌気性と通性嫌気性の微生物が繁殖できる環境であり、繰り返し微生物の酵素によって分解されて行き核酸等のリン(=P)及び他元素が吸収されて、さらに微生物は増殖して炭素(=C)が固定されていく発酵が生じる。また、発酵により細分化されていく沈殿物(有機酸)は、微細で質量も軽く容易に浮遊するようになり、徐々に好気環境へ分散し好気性の微生物にも摂取できるようになる為、微生物群の活動は衰えず平衡し浄化効果を持続できるといった効果がある。
すなわち、上述している流動還元濾過を形成するには、好気環境で形成された懸濁液中の特定の場所に水塊(嫌気環境及び貧酸素環境で形成されていればよい。)が形成された空間を用いることが好ましい。
また、水生生物を過密度で飼育或いは大型の水生生物の場合、餌の摂取量及び排泄物が増し閉鎖的空間内では、有機物が増大し沈殿物(有機酸)が急激に増すことがある。上記有機酸は分解しにくい複雑な化合物(多糖類など)も含有しており、上述している流動還元濾過の中で発酵による分解が相対的に遅れることで生じるが、浄化作用に問題はなく還元されていく。尚、沈殿物(有機酸)により形成されたバイオフィルムは食物としてベントス(水底生物)に摂取されることで、沈殿物(有機酸)を解消する事が可能であり、フィルター等の基材を不要で浄化できるといった効果がある。
ところで、微生物の寿命は短命である事が多い為、亡骸が蓄積されて行く。また、排泄物には多くの微生物の亡骸が含まれ多量に蓄積される。前記亡骸は、上述しているような有機化合物で構成された多細胞、或いは単細胞の有機体であり、懸濁液中を浮遊させることで微生物によって細胞間マトリックスの主成分である糖質が分解され、細胞膜の主成分である脂質(主にリン酸を含有する脂質)の分解が始まるサイクルができる。このように、好気環境と嫌気環境で浄化作用を生じる各微生物の活動できる環境を提供することで相互作用が生じ、さらに各微生物に増殖するための栄養が有機物である為、水槽内の環境を平衡させることができる。また、腐敗作用を適切に用いることで水槽内の環境を適正に形成できるといった効果がある。また、上述している食物連鎖を構成することで水生生物及び微生物に必須元素が提供されるため、前記環境下では換水を不要で水生生物の飼育ができる。
また、限定される訳ではないが、通性嫌気性の乳酸菌を取り入れることが好ましい。通性嫌気性の乳酸菌は、排泄物や大気中に存在し、周囲を酸性にして病原菌に多いアルカリ性の菌の繁殖を抑制し流動還元濾過を長期間持続出来るといった効果がある。
すなわち、上述している流動還元濾過は乳酸菌によって病原体の繁殖を抑制でき、腐敗作用を用いる為、基材を設置する必要性が無く水生生物を良好に飼育出来るといった効果がある。また、大気中に存在する常在菌の増殖できる環境を形成する事で有機物の浄化作用を水流と水塊で行うことができるといった効果がある。
また、流動還元濾過は、懸濁液中の有機物が増えたら微生物の数も増え続けて無くなれば数は制限される為、浄化能力が水生生物の数及び排泄物の量に平衡した一定の能力を維持できるといった効果がある。また、分子より小さい有機物は、懸濁液中の環境を維持しようとする力が働くといった効果がある。つまり懸濁液に含有する有機物が多すぎた場合には、必要に応じて水面から水蒸気に付着或いはそのまま大気中に放出されるといった効果があり、人にとって臭いとして確認できる。また、乳酸菌は複数の種類がおり海洋環境に適応する物も発見されている為本装置は海水、汽水でも上述している効果を発揮する。
上述している流動還元濾過の方法は懸濁液で満たされていれば可能である。例えばアオコの発生などの環境汚染においても浄化できるといった効果がある(例えば上記非特許文献1参照)。
すなわち上記非特許文献1で述べているように、アオコの発生環境では、水は富栄養であり真核生物及び原核生物が大量に発生する。つまり、昼間は藻類の光合成による大量の酸素放出及び増殖で水中は飽和状態の好気環境になり、夜になると藻類が呼吸代謝を行い大量の酸素が消費された貧酸素の嫌気環境になる。つまり一日の循環過程で一つの空間に極端な好気環境と嫌気環境が交互に形成され、水生生物が生存出来ない汚染環境となる。
しかしながら、上述している流動還元濾過の方法に従い好気環境と嫌気環境で、好気環境中に一定域において嫌気環境を形成し上述している相互性を持たせると、好気環境で通性嫌気性細菌による代謝が常時行えて食物連鎖を生じ、甲殻類の微生物等が藻類を捕食し、活動を抑制することで夜間の酸素消費が軽減され、食物連鎖を形成し汚染環境を浄化させるといった効果がある。
また、好気環境の懸濁液中に普遍的な水塊の形成は腐敗の進行を妨げ、変質さしてしまい硫化水素等の水生生物にとって有害物質を散乱さしてしまう為流動還元濾過を形成することは極めて困難である。すなわち、浄化作用において一定域に水塊を形成することが好ましい。
以上、本飼育装置によっても、上記と同様、飼育装置内で有機物の十分な浄化効果を発揮することのできる飼育装置及び飼育方法を提供することができる。
(飼育装置2:一体型)
ところで、上記のとおり本発明に於いては、飼育槽2と対流槽3を分離した場合について説明したが、飼育槽2と対流槽3とを一体に形成する上記飼育装置1とすることも可能である。本装置の例について図17に示す。なお、本装置において、用いる各要素については、上記飼育装置1の場合と同様であり、異なる構成について主として説明する。
本装置では、一つの水槽によって飼育装置が形成されており、その内部に飼育槽2、対流槽3が形成されたものとなっている。なおこの飼育槽2と対流槽3の区切りは、背面遮蔽板41によって区切られる。そして、循環経路部材4は、対流槽3側に形成される排水口44、取水口45、対流槽側ポンプ48であるとともに、背面遮蔽板41とこの水槽の底面戸の隙間(底面排水口412)が含まれる。
本図の例では、背面領域22が対流槽3となっており、対流槽3にはポンプが配置されていない。この結果、対流槽3内の底面近傍においては穏やかな流れが形成され、この位置に貧酸素領域である水塊が形成されることになる。
また、本装置に於いて、対流槽側ポンプ48による取水位置は、限定されるわけではないが、底面近傍及び上端近傍ではなく、水槽の中央近傍にあることが好ましく、より好ましくは、水槽の底面から上端までの長さを1とし、底面位置を0とした場合、取水位置の位置は、0.2以上0.7以下であることが好ましい。0.2以上とすることで、この取水位置と底面との間の水の流れを穏やかにして水塊を形成することができるようになる一方、0.7以下とすることで、飼育槽内における水の循環を効率的に行い飼育槽2内の好気環境を好適に維持することができるようになる。尚、対流槽内に設置しても良い。(水槽内及び外にすることによって効果が変わることがないため。)
また、本装置において照明器具31は、上記の例と同様、対流槽3側に配置されるが、その波長が赤みの強い光であるため、できる限り飼育領域21には照射されないよう配置されていることが好ましい。またこのため、飼育領域21に光が照射されないよう、背面遮光板は上記波長の光を遮断する部材であることが好ましい。また、照明器具31の配置位置(照射方向)としては、水面側から水中に照射する位置であることが好ましいが、水槽の壁面側から照射するよう配置しても良い。この結果、照明器具31の照射範囲を対流層3に限定して照射することができ、更に、鑑賞時の美観を損なわないで浄化作用を有することができるといった効果がある。
以上、本飼育装置によっても、上記と同様、飼育装置内で有機物の十分な浄化効果を発揮することのできる飼育装置及び飼育方法を提供することができる。特に本装置によると、一体型とすることで、より省スペースにでき、製造コストを低減させることができるといった効果がある。
ここで、上記実施形態に記載の装置について、実際に作成を行いその効果を確認した。以下具体的に説明する。なお本実施例では、上記実施形態1に記載の装置について行った例である。
本装置には、上記のとおり、下降流w1〜w4と湧昇流w5の形成によって、泡沫の溶解作用或いは気液界面部で生じる気体溶解作用といった2つの溶解効果があり、大気の気体中に存在する酸素を懸濁液に高効率で溶解させることができる。すなわち好気環境の形成要素である酸素の溶存酸素量を十分に満たすことができる。
また、本装置で、酸素を消費した後の湧昇流w5地点でエアーリフト方式の器具を用いて懸濁液中に泡沫を放出し泡沫が溶解した時の水温27度時点の溶存酸素量は、平均6.27mgであったが、本装置に上述しているように構成されたノズルでは、同条件下で平均6.87mgであり相対的に溶存酸素量が増す効果がある。
また、溶存酸素量は水温により飽和溶存酸素量が異なる為、限定される訳ではないが、本装置において6.2mg以上にすることによって、過密度で水生生物を飼育しても酸欠になりにくいといった効果がある。
また、溶存酸素量7.8mg以下にすることによって、水温27度の飽和溶存酸素量を超えて過飽和状態になることを抑え、水生生物がガス病等を発症するのを防ぐといった効果がある。
さらに、原核生物による好気環境下での効果を立証する為、本装置に水生生物の亡骸を投入し浄化される過程の観察を、下記に記載する。
本装置で実施された図18に示す写真は、投入一日目である。相互性の無い好気環境であれば、一般的に通性嫌気性細菌等の数は少なく、真核生物である水カビ等の菌類が優勢であり、亡骸に水カビ等が付着し変質させる事が知られている。本装置に作用している流動還元濾過では、通性嫌気性細菌の乳酸菌等が、亡骸表面に付着し分解を始めて酸素が消費され水カビ等の菌類が付着出来ず白いカビ状の物質が見られなかった。
また、図19に示す写真は、二日目である。亡骸の腹部が無くなっており、これは、通常生体内には複数の通性嫌気性細菌及び嫌気性細菌が体内に住んで共存関係にある為であり、特に内臓に集中していることから、体内から腐敗作用が始まっていることを示している。これらの原核生物も水流によって水塊に集まり増殖するといった効果がある。
また、図20に示すのは3日目であり、体の構成で比較的柔らかい内臓、肉、皮膚、眼球はほぼ無くなっている。上記原核生物により分解された物質は、細片化され水塊に移動して、好気環境と嫌気環境の相互する流動還元濾過の効果によって、腐敗による水質の悪化及び悪臭は一切見られなかった。
また、図21に示すのは4日目であるが、骨格を形成している筋も全て分解されて骨がバラバラになり頭蓋骨のみ確認が取れた。
すなわち、通性嫌気性細菌等の原核生物によって、好気環境で細片化された有機物が、水流によって水塊へ移動し還元する浄化過程が確認できる。また、水質の悪化を伴わずに、有機体である亡骸の全ての還元が行える流動還元濾過の効果を発揮した。
また、上述している実施形態を基準として3〜15cm程度の水生生物を実施形態の飼育槽1で30匹180日飼育したところ、亜硝酸塩が20mg以下を維持し硝酸塩が1mg以下を維持して飼育できた。つまり、基材不要及び換水なしで良好に飼育できるといった効果がある。また、45匹の飼育も成功し、さらに循環槽7でベントスによるデトリタスの除去及び維持にも成功した。このように、高い浄化作用で肉食性の水生生物においても同等の浄化作用があるといった効果がある。また、脱皮を行うことで多くの元素が必要な甲殻類の飼育も成功し、上述している流動還元濾過の効果を立証している。このように水生生物の種類或いは個体数を限定されずに懸濁液が水生生物の生存可能な環境を維持できるといった浄化効果を示した。
以上、本実施例によって、本発明の効果について確認することができた。
なお本装置は、上述している実施形態に限定される訳ではなく、もっとも簡素な構造で加工が容易であり流動還元濾過の維持管理も容易であるといった効果がある。例えば内陸の水族館などの大型装置の簡素化も可能で、例えば車に搭載し移動式にする事も可能である。また商業施設で場所を選ばず簡素に設置することも可能である。また、飼育の維持管理が非熟練者で出来るため、従来では困難であったコストパフォーマンスを良くすることも可能である。