以下に、本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末の製造方法とそれによって得られる多結晶シリコン鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末、該窒化ケイ素粉末を含有する多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリー、及び、前記窒化ケイ素粉末を用いた、離型層を有する多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の製造方法とそれによって得られる多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の実施形態について詳しく説明する。
本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末の製造方法で得られる窒化ケイ素粉末(以下、本発明に係る窒化ケイ素粉末と略記することがある)は、比表面積が4.0〜9.0m2/gであり、β相の割合が40%より小さく、酸素含有量が0.20〜0.95質量%であり、レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる頻度分布曲線(以下、粒度分布の頻度分布曲線と記すことがある)が、二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.4〜0.7μmの範囲と、1.5〜3.0の範囲にあり、前記ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5〜1.5であることを特徴とする、非晶質Si−N(−H)系化合物を焼成することによって得られる易焼結性の窒化ケイ素粉末である。なお、以下においては、前記ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)を、ピークトップの頻度の比と記すことがある。
本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末は、比表面積が300〜800m2/g、酸素含有量が0.15〜0.50質量%の非晶質Si−N(−H)系化合物を、坩堝に収容して、窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下、1000〜1400℃の温度範囲では250〜1000℃/時間の昇温速度で加熱し、1400〜1700℃の温度で焼成することにより製造することができる。
(非晶質Si−N(−H)系化合物の製造方法)
本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の製造方法について説明する。
本発明では、非晶質Si−N(−H)系化合物を焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造する。本発明で使用する非晶質Si−N(−H)系化合物とは、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンクロルイミド等の含窒素シラン化合物の一部又は全てを加熱分解して得られるSi、N及びHの各元素を含む非晶質のSi−N(−H)系化合物、又は、Si及びNを含む非晶質窒化ケイ素のことであり、以下の組成式(1)で表される。なお、本発明においては、非晶質Si−N(−H)系化合物は、以下の組成式(1)において、x=0.5で表されるSi6N1(NH)10.5からx=4で表される非晶質窒化ケイ素までの一連の化合物を総て包含しており、x=3で表されるSi6N6(NH)3はシリコンニトロゲンイミドと呼ばれている。後述するが、非晶質Si−N(−H)系化合物は、原料の含窒素シラン化合物が含有する酸素、及び/または含窒素シラン化合物を加熱分解する際の雰囲気中の酸素に由来する酸素を含有している。
Si6N2x(NH)12−3x・・・・(1)
(ただし、式中x=0.5〜4であり、組成式には明記しないが、不純物としてハロゲンを含有する化合物を含む。)
本発明における含窒素シラン化合物としては、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンクロルイミド等が用いられる。これらの化合物は以下の組成式(2)で表される。本発明においては、便宜的に、以下の組成式(2)においてy=8〜12で表される含窒素シラン化合物をシリコンジイミドと表記する。後述するが、含窒素シラン化合物は、含窒素シラン化合物を気相合成する際の雰囲気中の酸素に由来する酸素、または含窒素シラン化合物を液相合成する際の反応溶媒中の水分に由来する酸素を含有している。
Si6(NH)y(NH2)24−2y・・・・(2)
(ただし、式中y=0〜12であり、組成式には明記しないが、不純物としてハロゲンを含有する化合物を含む。)
本発明における非晶質Si−N(−H)系化合物は、公知の方法、例えば、前記含窒素シラン化合物を窒素又はアンモニアガス雰囲気下に1200℃以下の温度で加熱分解する方法、四塩化珪素、四臭化珪素、四沃化珪素等のハロゲン化珪素とアンモニアとを高温で反応させる方法等によって製造される。
本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積は、300〜800m2/gである。非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積が、この範囲であれば、焼成時の、窒化ケイ素の結晶化反応を、適切な速度に制御しやすいので、得られた窒化ケイ素粉末の比表面積を4.0〜9.0m2/gの範囲に調整することが容易である。
非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積が300m2/gよりも小さいと、焼成時の1000〜1400℃、特に1100〜1250℃の温度範囲で非常に急激な結晶化反応が起こり、粒子径が小さい粒子の割合が増加し、特に粒子径が小さい粒子も生成するので、得られる窒化ケイ素粉末の比表面積は大きくなり易く、粒子径の最小値は小さくなり易い。また、得られる窒化ケイ素粉末は、レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる頻度分布曲線が、粒子径が比較的小さい範囲にピークトップがある、一つのピークのみ有するものになる。
また、本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積が800m2/gより大きいと、結晶化反応が緩やかに進行するために、得られる窒化ケイ素粉末は、粒子径が大きい粒子の割合が大きくなりやすく、比表面積が4.0m2/gより小さくなりやすい。また、粒度分布の頻度分布曲線が、粒子径が大きい範囲に一つのピークしか有さないか、二つのピークを有する場合でも、粒子径が大きい方のピークトップが3.0μmより大きくなる。
非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積は、その原料となる含窒素シラン化合物の比表面積と、含窒素シラン化合物を加熱分解する際の最高温度で調節できる。含窒素シラン化合物の比表面積を大きくするほど、また前記加熱分解時の最高温度を低くするほど、非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積を大きくすることができる。含窒素シラン化合物の比表面積は、含窒素シラン化合物がシリコンジイミドである場合には、例えば特許文献3に示す公知の方法、すなわちハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる際のハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとの比率(ハロゲン化ケイ素/液体アンモニア(体積比))を変化させる方法により調節することができる。前記ハロゲン化ケイ素/液体アンモニアを大きくすることで含窒素シラン化合物の比表面積を大きくすることができる。
本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有量は、0.15〜0.50質量%である。
酸素含有量が多い非晶質Si−N(−H)系化合物を原料に用いると、結晶化が高温から始まり、急速に進行するため、結晶核の生成割合が大きくなる。その結果、得られる窒化ケイ素粉末は、一次粒子が小さくなりやすく、比表面積が大きくなりやすい。
非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有量が0.50質量%より多いと、得られる窒化ケイ素粉末は、酸素含有量が多くなることに加えて、一次粒子が小さくなりやすく、比表面積が9.0m2/gより大きくなりやすい。また、粒度分布の頻度分布曲線は、粒子径が小さい範囲にピークトップがある、一つのピークのみ有するものになりやすい。
酸素含有量の少ない非晶質Si−N(−H)系化合物を原料に用いると、結晶化が低温から始まり、ゆっくり進行するため、結晶化過程において、結晶核の生成よりも結晶の成長が優先的に進行する。その結果、得られる窒化ケイ素粉末は、粒子径が大きい粒子の割合が大きくなり、比表面積は小さくなりやすい。
特に、本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有量が0.15質量%より小さいと、得られる窒化ケイ素粉末は、酸素含有量が少なくなることに加えて、一次粒子が大きくなりやすく、比表面積が4.0m2/gより小さくなりやすい。また、β相の割合が大きくなりやすい。また、粒度分布の頻度分布曲線は、粒子径が0.7μmより大きい範囲にピークトップがある、一つのピークのみ有するものになりやすい。比表面積が比較的大きい非晶質Si−N(−H)系化合物を原料に用いると、得られる窒化ケイ素粉末は、一部の粒子が粗大化することがあり、その場合、粒度分布の頻度分布曲線は、二つのピークを有することがあるが、粒子径が大きい方のピークトップが3.0μmより大きくなる。また、得られる窒化ケイ素粉末は、酸素含有量が小さくなりやすい。
非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有量は、含窒素シラン化合物の酸素量と含窒素シラン化合物を加熱分解する際の雰囲気中の酸素分圧(酸素濃度)及び又は流量を制御することにより調節できる。含窒素シラン化合物の酸素量を少なくするほど、また前記加熱分解時の雰囲気中の酸素分圧及び又は流量を低くするほど、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有量を低くすることができる。また含窒素シラン化合物の酸素量を多くするほど、また前記加熱分解時の雰囲気中の酸素分圧及び又は流量を多くするほど、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有量を多くすることができる。含窒素シラン化合物の酸素含有量は、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させるときには、その反応時の雰囲気ガス中の酸素の濃度で調節でき、前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させるときには、トルエンなどの有機反応溶媒中の水分量を制御することで調節できる。有機反応溶媒中の水分量を少なくするほど含窒素シラン化合物の酸素含有量を低くすることができ、有機反応溶媒中の水分量を多くするほど含窒素シラン化合物の酸素含有量を多くすることができる。
(多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の窒化ケイ素粉末の製造方法)
本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の窒化ケイ素粉末の製造方法について説明する。
本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の窒化ケイ素粉末は、比表面積が300〜800m2/gで、酸素含有量が0.15〜0.50質量%の非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容して、窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下、前記非晶質Si−N(−H)系化合物を1000〜1400℃の温度範囲では250〜1000℃/時間の昇温速度で加熱し、1400〜1700℃の保持温度で焼成することによって製造できる。
以上の方法により得られた非晶質Si−N(−H)系化合物を解砕し、解砕された非晶質Si−N(−H)系化合物の少なくとも一部を顆粒状に成形した後、坩堝に収容して焼成することが好ましい。非晶質Si−N(−H)系化合物を解砕し、その少なくとも一部を顆粒状に成形して焼成することで、針状結晶粒子及び微粒子の生成が抑制されやすくなる。その結果、粒子径の最小値が相対的に大きくなり、また、粒状粒子の割合が相対的に大きくなって、離型層の密度をより高くできる窒化ケイ素粉末が得られやすくなる。また、非晶質Si−N(−H)系化合物の坩堝への充填密度が調節しやすくなる。
前記解砕は、成形前の非晶質Si−N(−H)系化合物に、50μmを超える凝集粒子が残らないように行うことが好ましく、30μmを超える凝集粒子が残らないように行うことが特に好ましい。ここで、非晶質Si−N(−H)系化合物の解砕とは、一次粒子の破壊を目的とした粉砕とは異なり、比較的大きな凝集粒子の凝集または凝集を解く目的で行う処理のことである。解砕処理を行う場合は、非晶質Si−N(−H)系化合物を、ポットにボールとともに収容して振動ボールミル処理を行うことが好ましい。振動ボールミル処理には、内壁面が樹脂でライニングされたポットと、樹脂でライニングされたボール、或いは窒化ケイ素焼結体製ボールを用いることが好ましい。また、非晶質Si−N(−H)系化合物の解砕は、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸化を抑制するために、窒素雰囲気などの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。振動ボールミル処理としては、解砕前の粉末をポットに収容して処理を行うバッチ式の振動ボールミル処理、解砕前の粉末をフィーダーからポット内に連続的に供給しながら処理を行う連続式の振動ボールミル処理のいずれを採用しても良い。処理量に合わせて、バッチ式、または連続式の振動ボールミル処理のいずれかを選択すれば良い。
また、非晶質Si−N(−H)系化合物の、少なくとも一部を顆粒状に成形する場合は、窒素雰囲気下、新東工業株式会社製ブリケットマシンBGS−IV型を用いて、窒素雰囲気下で、密度が0.40〜0.60g/cm3になるように、厚み6mm×短軸径8mm×長軸径12mm〜厚み8mm×短軸径12mm×長軸径18mmのアーモンド状に成形することが好ましい。非晶質Si−N(−H)系化合物の少なくとも一部を、このような顆粒状の成形物にすることによって、焼成に供する非晶質Si−N(−H)系化合物の、坩堝への充填密度が特に調節しやすくなる。
本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容して焼成するとは、非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容し、静置させた状態で、バッチ炉、プッシャー式連続炉等を用いて焼成することである。
本発明において、非晶質Si−N(−H)系化合物の焼成に用いる坩堝としては、特に限定はされないが、坩堝の底面の辺または直径が15mm以上で、高さが150mm以上の内寸を有する坩堝を用いることが好ましい。例えば、底面の辺が15mm以上で、高さが150mm以上の内寸を有する箱型(底付角筒状の)坩堝や、底面の内径が15mm以上で、高さが150以上の内寸を有する坩堝等を用いることが好ましい。生産性の観点からは、内部が15mm以上の間隔を有するように格子板によって仕切られた、底面の辺が150mm以上の箱型坩堝や、内部が15mm以上の間隔を有するように、同心円状に配置された円筒によって仕切られた、底面の内径が150mm以上の底付円筒状の坩堝等を用いることが好ましい。坩堝及びそれを収容する焼成炉のコストの観点からは、坩堝は大きすぎないことが好ましく、内径が400mm以下で、高さが600mm以下の内寸を有する坩堝を用いることが好ましい。例えば、特許文献4及び特許文献5の実施例に記載されている坩堝などを用いことが好ましい。
本発明において、焼成時の最高温度、すなわち焼成温度は1400〜1700℃の範囲である。焼成温度が1400℃より低いと、得られる窒化ケイ素粉末の、β相の割合が小さくなりやすい。また、結晶化度が低くなることもある。また、焼成温度が1700℃より高いと、得られる窒化ケイ素粉末は、融着粒子の割合が大きくなり、粒度分布測定により得られる頻度分布曲線が、3.0μmより大きい範囲にピークトップがあるピークを有するものになる。更に焼成温度が1750℃を越えると窒化ケイ素粉末の分解が始まる。焼成温度は1400〜1700℃の範囲であれば限定されないが、1400〜1600℃、さらには1450〜1550℃の範囲が好ましい。また、焼成温度では、0.25〜2.0時間保持することが好ましい。
本発明においては、本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物を、坩堝に収容して、1000〜1400℃の温度範囲では250〜1000℃/時間の昇温速度で加熱して焼成する。焼成時の1000〜1400℃の温度範囲での昇温速度が250℃/時間未満の場合は、得られる窒化ケイ素粉末は、比表面積が比較的小さくなりやすく、粒度分布測定により得られる頻度分布曲線がシャープになり、粒子径が比較的大きい範囲に一つのピークしか有さなくなる。また得られる窒化ケイ素粉末は、β相の割合が小さくなりやすい。
焼成時の1000〜1400℃の温度範囲での昇温速度が1000℃/時間を超える場合は、得られる窒化ケイ素粉末は、比表面積が比較的大きくなりやすく、粒度分布測定により得られる頻度分布曲線がブロードになり、粒子径が比較的小さい範囲にピークトップがある、一つのピークのみ有するものになる。また、得られる窒化ケイ素粉末は、β相の割合が大きくなりやすい。
本発明においては、焼成後の窒化ケイ素粉末を解砕することが好ましい。解砕処理を行う場合、解砕処理として好ましいのは、非晶質Si−N(−H)系化合物の解砕と同様の処理であり、窒化ケイ素粉末の一次粒子を破壊するような粉砕処理ではなく、比較的大きい凝集粒子の凝集を解く処理である。解砕処理を行う場合は、窒化ケイ素粉末を、ポットにボールとともに収容して振動ボールミル処理を行うか、ジェットミル処理を行うことが好ましい。振動ボールミル処理を行う場合は、内壁面が樹脂でライニングされたポットと、樹脂でライニングされたボール、或いは窒化ケイ素焼結体製ボールを用いることが好ましい。ジェットミル処理を行う場合は、窒化ケイ素焼結体でライニングされたジェットミルで解砕処理を行うことが好ましい。また、解砕処理を行う際の雰囲気は特に限定されず、窒素などの不活性ガス雰囲気下、大気などの酸素含有雰囲気下のいずれでも良い。振動ボールミル処理で解砕を行う場合は、解砕前の粉末をポットに収容して処理を行うバッチ式の振動ボールミル処理、解砕前の粉末をフィーダーからポット内に連続的に供給しながら処理を行う連続式の振動ボールミル処理のいずれを採用しても良い。処理量に合わせて、バッチ式、または連続式の振動ボールミル処理のいずれかを選択すれば良い。以上のような解砕処理を行うことで、得られる窒化ケイ素粉末の、粒度分布測定により得られる粒子径の最大値を30μm以下にすることができるので、粒度分布測定により得られる粒子径の最小値が0.10〜0.30μmの範囲にあり、粒度分布測定により得られる粒子径の最大値が6〜30μmの範囲にある窒化ケイ素粉末を得ることができる。
本発明に係る窒化ケイ素粉末の製造方法によって、比表面積が4.0〜9.0m2/gであり、β相の割合が40%より小さく、酸素含有量が0.20〜0.95質量%であり、レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる頻度分布曲線が、二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.4〜0.7μmの範囲と、1.5〜3.0の範囲にある、ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5〜1.5である窒化ケイ素粉末を、初めて得ることができる。本発明に係る窒化ケイ素粉末の製造方法によれば、焼成後に粉砕や分級を行わなくても、以上の特徴的な粒度分布を有する窒化ケイ素粉末を得ることができる。
(多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末)
次に、本発明に係る窒化ケイ素粉末の製造方法によって得られる、多結晶シリコンインゴットの離型性が良好で、多結晶シリコンインゴット鋳造後でも鋳型への密着性が良好な離型層を形成できる、本発明に係る新規な多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末について説明する。
本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末は、比表面積が4.0〜9.0m2/gであり、β相の割合が40%より小さく、酸素含有量が0.20〜0.95質量%であり、レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる頻度分布曲線が、二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.4〜0.7μmの範囲と、1.5〜3.0の範囲にあり、前記ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5〜1.5であることを特徴とする窒化ケイ素粉末である。
本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末の比表面積は4.0〜9.0m2/gの範囲である。比表面積がこの範囲であれば、窒化ケイ素粒子の表面エネルギーが適切な大きさになるので、多結晶シリコンインゴット鋳造後でも鋳型への密着性が良好な離型層を形成しやすい。
本発明に係る窒化ケイ素粉末のβ相の割合は、40%より小さい。β相の割合がこの範囲であれば、窒化ケイ素粒子同士の密着性も、窒化ケイ素粒子と鋳型との密着性も良くなりやすいので、多結晶シリコンインゴットの離型性も、多結晶シリコンインゴット鋳造後の鋳型への密着性も良好な離型層を形成しやすい。また、本発明に係る窒化ケイ素粉末のβ相の割合は5〜35%であることが好ましい。窒化ケイ素粒子同士の密着性も、窒化ケイ素粒子と鋳型との密着性も特に良くなりやすいので、多結晶シリコンインゴットの離型性も、多結晶シリコンインゴット鋳造後でも鋳型への密着性も特に良好な離型層を形成しやすい。
本発明に係る窒化ケイ素粉末の酸素含有量は0.20〜0.95質量%である。酸素含有量がこの範囲であれば、窒化ケイ素粒子同士の密着性も、窒化ケイ素粒子と鋳型との密着性も良くなりやすいので、多結晶シリコンインゴットの離型性も、多結晶シリコンインゴット鋳造後でも鋳型への密着性も良好な離型層を形成しやすい。
本発明に係る窒化ケイ素粉末は、レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる頻度分布曲線が、二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.4〜0.7μmの範囲と、1.5〜3.0μmの範囲にあり、前記ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5〜1.5である。粒度分布の頻度分布曲線がこの要件を備えていれば、窒化ケイ素粒子同士の密着性も、窒化ケイ素粒子と鋳型との密着性も良くなりやすく、また緻密な離型層を形成しやすいので、多結晶シリコンインゴットの離型性も、多結晶シリコンインゴット鋳造後の鋳型への密着性も良好な離型層を形成しやすい。
本発明に係る窒化ケイ素粉末は、粒度分布測定により得られる粒子径の最小値が0.10〜0.30μmの範囲にあり、前記粒度分布測定により得られる粒子径の最大値が6〜30μmの範囲にあることが好ましい。粒子径の最小値及び最大値がこの範囲にあれば、特に離型層の密度が高くなりやすいので、多結晶シリコンインゴットの離型性も、多結晶シリコンインゴット鋳造後の鋳型への密着性も特に良好な離型層を形成しやすい。
本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末の製造方法によって得られる、本発明に係る窒化ケイ素粉末は、比表面積が4.0〜9.0m2/gであり、β相の割合が40%より小さい窒化ケイ素粉末であって、酸素含有量が0.20〜0.95質量%であり、レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる頻度分布曲線が、二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.4〜0.7μmの範囲と、1.5〜3.0の範囲にあり、前記ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5〜1.5であることを特徴とする、新規な多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末あり、多結晶シリコンインゴットの離型性、及び多結晶シリコンインゴット鋳造後でも鋳型への密着性が良好な多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤として好適である。
本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末の製造方法は、酸素含有量が従来に比べかなり少ない非晶質Si−N(−H)系化合物を、坩堝に収容して、1000〜1400℃の温度範囲では250〜1000℃/時間の、従来にない大きい昇温速度で加熱して焼成する、窒化ケイ素粉末の製造方法である。従来は、粒状で粒度分布がシャープな窒化ケイ素粉末が、多くの用途に適した窒化ケイ素粉末と考えられており、このような窒化ケイ素粉末を調製するために、特許文献6の段落[0050]〜[0053]に記載されているように、非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容して焼成して窒化ケイ素粉末を製造する場合は、酸素含有量が多い非晶質Si−N(−H)系化合物を用いて、昇温速度を低くして焼成することが必要と考えられていた。
非晶質Si−N(−H)系化合物を焼成することで得られる窒化ケイ素粉末は、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸素含有量、その焼成時の温度や環境、及び大きな発熱を伴う結晶化の際の昇温速度等によって、粒子径及び粒子形態が変化する。これらの因子が、窒化ケイ素の結晶化メカニズムに大きな影響を与えるからである。例えば、非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容して焼成する場合、窒化ケイ素の結晶化に伴って発生する結晶化熱を、効率的に除熱できないと、窒化ケイ素の急激な結晶化が起こりやすい。窒化ケイ素の急激な結晶化が起こると、得られる窒化ケイ素粉末は、微粒子の凝集粒子や、柱状結晶化または針状結晶化した粗大な粒子を多く含むので、このような窒化ケイ素粉末を用いても離型層の密度は高くなり難く、多結晶シリコンインゴットの離型性も、鋳型への密着性も良好な離型層は形成できないと考えられていた。
非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容して焼成する場合でも、焼成時の昇温速度を遅くして、結晶化熱を十分除熱しながら加熱できれば、結晶化速度を遅くできるので、窒化ケイ素の急激な結晶化を抑制することができ、柱状結晶化または針状結晶を抑制できる。ところが、昇温速度が遅いと、粒成長しやすく、得られる窒化ケイ素粉末の粒子径が粗大になりやすい。昇温速度を遅くしても、離型剤に適した、適度に小さい粒子径の窒化ケイ素粉末を得るためには、焼成時に、同時に多くの窒化ケイ素の結晶核が生成することが必要で、結晶核生成を促進するSiOガスを多く発生する、酸素含有量が多い非晶質Si−N(−H)系化合物を原料に用いる必要がある。以上の理由から、非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容して焼成して窒化ケイ素粉末を製造する場合は、酸素含有量が多い非晶質Si−N(−H)系化合物を用いて、昇温速度を最大でも200℃/時間にして焼成することが必要と考えられていた。非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容して焼成する場合は、酸素含有量の少ない非晶質Si−N(−H)系化合物を用いることも、非晶質Si−N(−H)系化合物を、昇温速度を速くして焼成することも、高い離型性と高い密着性を有する離型層を形成できる窒化ケイ素粉末を得る手段としては適切とは考えられていなかった。
本発明は、非晶質Si−N(−H)系化合物を坩堝に収容して焼成する窒化ケイ素粉末の製造方法としては不適切と考えられていた、酸素含有量が従来になく極端に少ない非晶質Si−N(−H)系化合物を使用することと、極端に大きい昇温速度を採用することを敢えて行って、意外にも、多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型に、多結晶シリコンインゴットの離型性、及び多結晶シリコンインゴット鋳造後でも鋳型への密着性が良好な離型層を形成できる多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末を製造し得ることを見出したものである。
(多結晶シリコン鋳造用鋳型及びその製造方法)
次に、本発明の多結晶シリコン鋳造用鋳型及びその製造方法について説明する。
本発明に係る多結晶シリコン鋳造用鋳型は、本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末、すなわち、比表面積が4.0〜9.0m2/gであり、β相の割合が40%より小さい窒化ケイ素粉末であって、酸素含有量が0.20〜0.95質量%であり、レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる頻度分布曲線が、二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.4〜0.7μmの範囲と、1.5〜3.0の範囲にあり、前記ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5〜1.5であることを特徴とする、多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末を、水に混合してスラリーを形成するスラリー形成工程と、得られたスラリーを鋳型表面に塗布するスラリー塗布工程と、鋳型表面に塗布された前記スラリーを乾燥するスラリー乾燥工程と、酸素を含有する雰囲気下で、表面に該スラリーが塗布された鋳型を加熱する加熱処理工程を備える、多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の製造方法により製造される。
本発明の多結晶シリコン鋳造用鋳型の製造方法におけるスラリー形成工程は、本発明の離型剤用窒化ケイ素粉末を水に混合してスラリーとする工程である。離型剤用窒化ケイ素粉末スラリーは以下のようにして製造する。本発明の離型剤用窒化ケイ素粉末をポリエチレン製の容器に収容し、窒化ケイ素が質量割合で20質量%となるように水を加え、窒化ケイ素製ボールを充填して振動ミル、ボールミル、ペイントシェーカーなどの混合粉砕機を用いたり、またボールを用いない場合にはパドル翼等の羽のついた撹拌機や、高速自公転式撹拌機を用いて所定時間混合することで、窒化ケイ素粉末と水とを混合し、離型剤用窒化ケイ素粉末スラリーを製造する。スラリーは、ポリビニルアルコール(PVA)を、窒化ケイ素粉末に対して1〜5質量%添加して調製することができるが、本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末を用いれば、PVA等のバインダーを使用しなくても鋳型への密着性や強度が十分高い離型層を形成することができるので、本発明に係るスラリー形成工程は、PVA等のバインダーを添加せずに窒化ケイ素粉末を水に混合してスラリーとする工程であることが好ましい。また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化珪素粉末含有スラリーは、バインダーを添加せずに窒化珪素粉末を水に混合して得られるスラリーであることが好ましい。
本発明に係るスラリー形成工程に用いられる多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリーは、本発明の離型剤用窒化ケイ素粉末を水に混合させたスラリーである。本発明の離型剤用窒化ケイ素粉末スラリーは、所定量の離型剤用窒化ケイ素粉末を蒸留水とともに容器に入れ、窒化ケイ素製ボールを充填して振動ミル、ボールミル、ペイントシェーカーなどの混合粉砕機を用いたり、またボールを用いない場合にはパドル翼等の羽のついた撹拌機や、高速自公転式撹拌機を用いて所定時間混合して得られる。
本発明に係るスラリー塗布工程は、前記離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリーを粒子の流動性を保ったまま、鋳型表面に塗布する工程である。前記離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリーは、鋳型である気孔率16%〜26%の石英坩堝(以下、鋳型と表記することがある)の内表面に、スプレーや刷毛もしくはへらを使用して塗布されるので、塗布後のスラリー内での窒化ケイ素粒子の流動性を保つことができながらも、塗布したスラリーが鋳型から垂れ落ちない程度の粘度に調整することが好ましい。
鋳型に塗布した前記離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリーは、鋳型内の細孔による毛管現象の吸水によって、鋳型表面近傍に引き寄せられて、離型層の内側(鋳型側)に離型層が形成される。前記離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリーの粘度が500P(ポイズ)以上の場合は、離型剤用窒化ケイ素粉末スラリーを塗布した離型層内での窒化珪素粒子の移動速度は遅くなり、また、前記記載の離型剤用窒化ケイ素粉末スラリーの粘度が1.5cP(センチポイズ)以下の場合は、離型剤用窒化ケイ素粉末スラリーを塗布した離型層は垂れ易くなる。したがって、本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリーの粘度は1.5cp〜500Pであることが好ましい。
本発明に係るスラリー乾燥工程は、鋳型表面に塗布した離型剤用窒化ケイ素粉末スラリーから水を除去する、すなわち、鋳型表面に塗布した離型剤用窒化ケイ素粉末スラリーを乾燥させる工程であれば良く、例えば、30℃〜120℃で乾燥させる工程である。
本発明に係る加熱処理工程は、窒化ケイ素粉末含有スラリーを塗布した鋳型を、酸素を含む雰囲気下で加熱処理を行う工程である。加熱処理を行う際の雰囲気は、経済的観点から大気雰囲気が好ましく、加熱処理の温度は1000〜1200℃が好ましい。加熱処理の温度が1000〜1200℃であれば、離型性悪化の原因になる離型層最表面の窒化ケイ素粒子の酸化を抑制しながらも、離型層を構成する窒化ケイ素粒子同士の密着性と、離型層と鋳型との密着性を特に良くできるからである。
本発明に係る多結晶シリコン鋳造用鋳型は、本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末、すなわち、比表面積が4.0〜9.0m2/gであり、β相の割合が40%より小さい窒化ケイ素粉末であって、酸素含有量が0.20〜0.95質量%であり、レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる頻度分布曲線が、二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.4〜0.7μmの範囲と、1.5〜3.0の範囲にあり、前記ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5〜1.5である窒化ケイ素粉末からなる離型層をその内表面に有する。
本発明に係る多結晶シリコン鋳造用鋳型は、鋳型内壁面へのシリコン融液の浸透を防止でき、多結晶シリコンインゴットの離型性が良好で、離型時の多結晶シリコンインゴットの欠けや破損の発生を抑えることが可能である。さらに、多結晶シリコンインゴットを鋳造し、離型した後も、離型層が鋳型に密着しており、鋳型に由来する不純物や離型層の一部が多結晶シリコンインゴットに混入しないので、多結晶シリコンインゴットを高い歩留まりで得ることができる。本発明に係る多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の離型剤用窒化ケイ素粉末を用いると、以上の、多結晶シリコンインゴットの離型性が良好で、多結晶シリコンインゴット鋳造後も鋳型への密着性が良好な多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型を、簡便で低コストな方法で製造することができる。
離型層を形成して、多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型とするための坩堝(鋳型)としては、特に限定されないが、通常、石英坩堝や、黒鉛容器に内装した石英坩堝等が用いられる。
以下では、具体的例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
本発明に係る窒化ケイ素粉末及びその窒化ケイ素粉末を用いて製造した窒化ケイ素焼結体の各パラメータは、以下の方法により測定した。
(非晶質Si−N(−H)系化合物の組成分析方法)
非晶質Si−N(−H)系化合物のケイ素(Si)含有量は、「JIS R1603 ファインセラミックス用窒化ケイ素微粉末の化学分析方法」の「7 全けい素の定量方法」に準拠したICP発光分析により測定し、窒素(N)含有量は、「JIS R1603 ファインセラミックス用窒化ケイ素微粉末の化学分析方法」の「8全窒素の定量方法」に準拠した水蒸気蒸留分離中和滴定法により測定した。また酸素(O)含有量は、「JIS R1603 ファインセラミックス用窒化ケイ素微粉末の化学分析方法」の「10 酸素の定量方法」に準拠した不活性ガス融解−二酸化炭素赤外線吸収法(LECO社製、TC−136型)により測定した。ただし、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸化を抑制するために、ICP発光分析または水蒸気蒸留分離中和滴定法によるケイ素・窒素含有量測定の場合は、測定のための試料前処理直前までの試料保管時の雰囲気を窒素雰囲気とし、また赤外線吸収法による酸素含有量測定の場合は、測定直前までの試料保管時及び測定時の雰囲気を窒素雰囲気とした。非晶質Si−N(−H)系化合物の水素(H)含有量は、非晶質Si−N(−H)系化合物の全量よりケイ素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)含有量を除いた残分として、化学両論組成に基き算出して、求めた。以上より、Si、N及びHの比を求めて、非晶質Si−N(−H)系化合物の組成式を決定した。
(窒化ケイ素粉末及び非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積の測定方法)
本発明に係る窒化ケイ素粉末及び非晶質Si−N(−H)系化合物の比表面積は、Mountech社製Macsorbを用いて、窒素ガス吸着によるBET1点法にて測定した。
(多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の窒化ケイ素粉末の酸素含有量の測定方法)
本発明に係る窒化ケイ素粉末の酸素含有量は、「JIS R1603 ファインセラミックス用窒化ケイ素微粉末の化学分析方法」の「10 酸素の定量方法」に準拠した不活性ガス融解−二酸化炭素赤外線吸収法(LECO社製、TC−136型)により測定した。
(多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の窒化ケイ素粉末の粒度分布の測定方法)
本発明に係る窒化ケイ素粉末の粒度分布は、ヘキサメタリン酸ソーダ0.2質量%水溶液へ試料を入れ、直径26mmのステンレス製センターコーンを取り付けた超音波ホモジナイザーを用いて300Wの出力で6分間分散処理して調製した希薄溶液を、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラックMT3000)で測定した。得られた頻度分布曲線とそのデータから、ピークのピークトップの粒子径と、粒子径の最小値及び最大値を求めた。
(多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の窒化ケイ素粉末の粒子形態観察方法)
窒化ケイ素粉末の粒子形態観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察により行った。
(多結晶シリコンインゴット鋳造用鋳型の窒化ケイ素粉末のβ相の割合の測定方法)
本発明に係る窒化ケイ素粉末のβ相の割合は、X線回折測定により得られた窒化ケイ素粉末のX線回折データから、α型窒化ケイ素とβ型窒化ケイ素のみから構成されていることを確認し、リートベルト解析することによって、窒化ケイ素のα分率とβ分率を算出し、β分率を、α分率とβ分率の和で除すことによって求めた。この場合のX線回折測定は、ターゲットに銅の管球を使用し、またグラファイトモノクロームメーターを使用し、回折角(2θ)15〜80°の範囲を0.02°刻みでX線検出器をステップスキャンする定時ステップ走査法を採用して行った。
(多結晶シリコン鋳造用鋳型の評価方法)
本発明の多結晶シリコン鋳造用鋳型を、多結晶シリコンインゴットの離型性と、多結晶シリコンインゴット製造後の離型層の鋳型への密着性について、以下に説明する方法で評価した。
多結晶シリコンインゴットの離型性を次のように評価した。多結晶シリコンインゴットが、鋳型を破壊せずに鋳型から離型でき、離型層へのシリコンの浸透が目視では全く確認できない場合を○、多結晶シリコンインゴットが、鋳型を破壊せずに鋳型から離型でき、鋳型へのシリコンの浸透も目視では確認できないものの、離型層へのシリコンの浸透が目視で確認できる場合を△、多結晶シリコンインゴットが鋳型に固着して鋳型を破壊せずには離型できない(この場合は鋳型にシリコンが浸透している)場合を×として評価した。
また、多結晶シリコンインゴット製造後の離型層の鋳型への密着性を次のように評価した。多結晶シリコンインゴット離型後に離型層の剥離が目視では全く確認されない場合を○、多結晶シリコンインゴット離型後に、鋳型側面または鋳型底面の一部が剥離して鋳型表面が露出している場合を△、多結晶シリコンインゴット離型後に、鋳型側面または鋳型底面の少なくともいずれか一面の全面が剥離して鋳型表面が露出している場合を×として評価した。また、多結晶シリコンインゴットが、鋳型を破壊せずに離型できなかった場合には、鋳型を、ハンマーを用いて破壊して、鋳型から多結晶シリコンインゴットを取り外し、鋳型を破壊せずに多結晶シリコンインゴットが鋳型から離型できた場合と同様に、離型層の鋳型への密着性を評価した。
(実施例1)
実施例1の窒化ケイ素粉末を次のように調製した。まず、四塩化ケイ素濃度が30vol%のトルエンの溶液を液体アンモニアと反応させ、液体アンモニアを用いて洗浄し乾燥することでシリコンジイミド粉末を作製した。次いで、得られたシリコンジイミド粉末を、ロータリーキルン炉を用いて加熱分解して非晶質Si−N(−H)系化合物を得た。シリコンジイミド粉末の熱分解温度を1200℃、熱分解時に導入するガスを酸素濃度0.5vol%の空気−窒素混合ガス、その流量をシリコンジイミド粉末1kg当たり72リットル/時間とし、シリコンジイミド粉末を、25〜35kg/時間の速度を維持しながらロータリーキルン炉に供給して加熱分解した。得られた実施例1に係る非晶質Si−N(−H)系化合物は、表1に示すように、比表面積が302m2/g、酸素含有量が0.16質量%であった。また、実施例1に係る非晶質Si−N(−H)系化合物は、組成式Si6N8.04H0.12で表される非晶質Si−N(−H)系化合物、すなわちSi6N2x(NH)12−3xにおいて式中のxが3.96の化合物であった。
得られた非晶質Si−N(−H)系化合物を、連続式振動ミルを用いて次のように解砕した。得られた非晶質Si−N(−H)系化合物を、窒素雰囲気下で、窒化ケイ素焼結体のボールが充填された内壁面を樹脂ライニングしたポットに、25〜35kg/時間の速度を維持しながら供給し、50μm以上の粒子径の粗大な凝集粒子を含まない状態まで解砕した。ここで、粒子径とはレーザー回折散乱法により測定した場合の体積法粒度分布の粒子径である。解砕された非晶質Si−N(−H)系化合物を、新東工業株式会社製ブリケットマシンBGS−IV型を用いて、窒素雰囲気下で、厚み6mm×短軸径8mm×長軸径12mm〜厚み8mm×短軸径12mm×長軸径18mmのアーモンド状に成形した。
得られた非晶質Si−N(−H)系化合物のアーモンド状成形物を、内部に、各辺が270mmで厚みが6mmの角板が40mmの間隔で格子状に設けられた、底面の各辺が270mmで高さが270mmの内寸を持つ、表面を炭化珪素で被覆した箱形の黒鉛製容器(以下A型容器と表記する)に、充填密度0.30g/mLで約1.0kg充填し、バッチ式の焼成炉(富士電波工業製高温雰囲気炉、表1にはバッチ炉と略記)を用いて、窒素雰囲気下で焼成した。1000℃までを1000℃/時間、1000〜1400℃を250℃/時間の昇温速度で加熱し、1400℃で1時間保持して焼成した後、降温した。坩堝から取り出した、焼成後の窒化ケイ素粉末を、大気雰囲気下で、窒化ケイ素焼結体製のボールが充填された、内壁面を樹脂ライニングしたポットに収容して、バッチ式の振動ミルを用いて、30μm以上の粒子径の凝集粒子を含まない状態まで解砕することで、実施例1の窒化ケイ素粉末を得た。
前述の方法にて測定した実施例1の窒化ケイ素粉末の物性値を、その製造条件と併せて表1に示す。実施例1の窒化ケイ素粉末は、比表面積が5.0m2/g、酸素含有量が0.23質量%、β相の割合が31%であり、粒度分布の頻度分布曲線が二つのピークを有していた。また、それらのピークトップが0.63μmと3.00μmであり、ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が1.2であった。また、前記粒度分布測定により得られた粒子径の最小値が0.24μm、最大値が24μmであった。
次いで、得られた窒化ケイ素粉末を、密栓のできるポリエチレン製の容器に収容し、窒化ケイ素が質量割合で20質量%となるように水を加え、更に、窒化ケイ素粉末と水とを合わせた質量の2倍の質量の、直径約10mmの窒化ケイ素焼結体製のボールを同容器内に投入した上で、同容器を振幅5mm、振動数1780cpmの振動ミルに5分間積載して、窒化ケイ素粉末と水とを混合し、窒化ケイ素粉末含有スラリーを製造した。
得られた実施例1の窒化ケイ素粉末含有スラリーを、予め40℃で加温した気孔率16%の5cm角×深さ4cmの石英坩堝の内表面にスプレー塗布し、40℃で乾燥した。以上のスプレー塗布と乾燥を適度な離型層の厚みとなるように繰り返した後、塗布後の離型層の乾燥を完結するために、更に40℃の熱風乾燥を15時間行った。次いで大気雰囲気炉を用いて、大気下1100℃で3時間保持して加熱処理を行い、実施例1の多結晶シリコン鋳造用鋳型を得た。
得られた実施例1の鋳型に、純度99.999%で最大長2〜5mmのSi顆粒を75g充填し、箱型電気炉を用いて加熱することでSi顆粒を鋳型中で融解し、降温して溶融シリコンを凝固させて多結晶シリコンインゴットを得た。大気圧のAr流通下で、1000℃までを3時間、1000℃から1450℃までを3時間かけて昇温し、1450℃で4時間保持して降温することで、この処理を行った。降温後、鋳型を電気炉から取り出し、多結晶シリコンインゴットを鋳型から取り出し(離型し)、(多結晶シリコン鋳造用鋳型の評価方法)で説明する方法で、離型層が形成された多結晶シリコン鋳造用鋳型を評価した。以上の結果を表1に示す。実施例1の鋳型を用いた場合は、シリコンインゴットの離型性については、多結晶シリコンインゴットが、鋳型を破壊しなくても鋳型から離型でき、離型層へのシリコンの浸透が目視では全く確認できず、良好であった。また、離型層の鋳型への密着性については、多結晶シリコンインゴット離型後に離型層の剥離が目視では全く確認できず良好であった。
(実施例2〜12)
実施例2〜12の窒化ケイ素粉末を次のように製造した。実施例1と同じシリコンジイミド粉末を実施例1と同じロータリーキルン炉を用いて加熱分解した。シリコンジイミド粉末の熱分解温度を600〜1200℃、熱分解時に導入する空気−窒素混合ガスの酸素濃度を0.5〜4vol%、ガスの流量をシリコンジイミド粉末1kg当たり35〜150リットル/時間の範囲で調節したこと以外は実施例1と同様の方法でシリコンジイミド粉末を加熱分解し、表1に示す、比表面積が302〜789m2/gで酸素含有量が0.15〜0.50質量%の実施例2〜12に係る非晶質Si−N(−H)系化合物を製造した。なお、実施例2〜12に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の組成式Si6N2x(NH)12−3xにおけるxは、実施例2より順に3.96、3.94、3.94、2.40、2.40、2.38、2.38、3.51、3.51、3.03、3.03であった。
得られた非晶質Si−N(−H)系化合物を、実施例1と同様の方法で解砕し、実施例1と同様の方法で実施例1と同様のアーモンド状に成形した。得られた非晶質Si−N(−H)系化合物のアーモンド状成形物を、実施例2〜12においては、次の二種類の黒鉛製容器に充填して焼成した。一つは、内部に、各辺が380mmで厚みが8mmの黒鉛製角板が40.5mmの間隔で格子状に設けられた、底面の各辺が380mmで高さが380mmの内寸を持つ、箱形の黒鉛製容器(以下B型容器と表記する)で、もう一つは、内部に、内径が78mmで高さが360mmで厚みが8mm、内径が172mmで高さが360mmで厚みが8mm、及び内径が266mmで高さが360mmで厚みが8mmの、3種の黒鉛製円筒が同心円状に設けられた、底面の直径が360mmで高さが360mmの内寸を持つ、底付円筒状の黒鉛製容器(以下C型容器と表記する)である。
非晶質Si−N(−H)系化合物を、表1に示す黒鉛製容器に、充填密度0.25〜0.50g/mLで充填し、東海高熱株式会社製プッシャー炉を用いて、窒素雰囲気下で焼成した。プッシャー炉の各ゾーンの温度と坩堝の搬送速度を調整して、1000〜1400℃を250〜1000℃/時の速度で昇温し、保持温度(焼成温度)が1400℃の場合を除いて、以降所定の保持温度まで昇温した。さらに1400〜1700℃の温度で0.25〜2.0時間保持して焼成した後、降温した。坩堝から取り出した焼成後の窒化ケイ粉末を、連続式振動ミルを用いて次のように解砕した。焼成後の窒化ケイ素粉末を、大気雰囲気下で、窒化ケイ素焼結体のボールが充填された内壁面を樹脂ライニングしたポットに、25〜35kg/時間の速度を維持しながら供給し、30μm以上の粒子径の凝集粒子を含まない状態まで解砕して実施例2〜12の窒化ケイ素粉末を得た。前述の方法にて測定した実施例2〜12の窒化ケイ素粉末の物性値を、その製造条件と併せて表1に、実施例12の窒化ケイ素粉末の粒度分布の頻度分布曲線を図1に示す。
図1より、本発明に係る実施例12の窒化ケイ素粉末が二つのピークを有し、そのピークトップが、0.49μm(0.4〜0.7μmの範囲)と、1.94μm(1.5〜3.0μmの範囲)にあり、前記ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5(0.5〜1.5の範囲)であることが確認された。
また、実施例2〜12の窒化ケイ素粉末は、比表面積が4.0〜8.9m2/g、酸素の含有量が0.20〜0.94質量%、β相の割合が5〜35%、粒度分布の頻度分布曲線のピークトップが0.45〜0.69μmと1.50〜3.00μmで、ピークトップの頻度の比(粒子径0.4〜0.7μmの範囲のピークトップの頻度/粒子径1.5〜3.0μmの範囲のピークトップの頻度)が0.5〜1.5であった。
次いで、得られた実施例2〜12の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で実施例2〜12の離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリーを製造した。得られた実施例2〜12の離型剤用窒化ケイ素粉末含有スラリーを、実施例1と同様の方法で、実施例1と同様の石英坩堝の内表面に塗布し、実施例1と同様の方法で乾燥、加熱処理し、実施例1と同様の方法で離型層を石英坩堝の内表面に形成して、多結晶シリコン鋳造用鋳型を得た。
実施例2〜12の多結晶シリコン鋳造用鋳型を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で溶融シリコンを凝固させて、多結晶シリコンインゴットを製造した。実施例1と同様の方法で離型層の評価を行い、表1に示す結果を得た。いずれの実施例においても、シリコンインゴットの離型性については、多結晶シリコンインゴットが、鋳型を破壊しなくても鋳型から離型でき、離型層へのシリコンの浸透が目視では全く確認できず、良好であった。また、離型層の鋳型への密着性については、多結晶シリコンインゴット離型後に離型層の剥離が目視では全く確認できず良好であった。
(比較例1)
比較例1の窒化ケイ素粉末を次のように調製した。実施例1と同じシリコンジイミド粉末を実施例1と同じロータリーキルン炉を用いて加熱分解した。熱分解時に導入する酸素濃度0.5vol%の空気−窒素混合ガスの流量をシリコンジイミド粉末1kg当たり38リットル/時間としたこと以外は実施例1と同様の方法でシリコンジイミド粉末を加熱分解して、表1に示す、比表面積が302m2/g、酸素含有量が0.13質量%である非晶質Si−N(−H)系化合物を得た。なお、比較例1に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の組成式Si6N2x(NH)12−3xにおけるxは3.96であった。
得られた非晶質Si−N(−H)系化合物を、実施例1と同様の方法で解砕し、実施例1と同様の方法で実施例1と同様のアーモンド状に成形した。得られた非晶質Si−N(−H)系化合物のアーモンド状成形物を、実施例1と同様のA型容器に、同様に充填密度0.30g/mLで約1.0kg充填し、富士電波工業製高温雰囲気炉を用いて、窒素雰囲気下で焼成した。1000℃まで1000℃/時、1400℃まで200℃/時の昇温速度で加熱し、1400℃で1時間保持した後、降温した。坩堝から取り出した、焼成後の窒化ケイ素粉末を実施例1と同様の方法で解砕して、比較例1の窒化ケイ素粉末を得た。
前述の方法にて測定した比較例1の窒化ケイ素粉末の物性値を、その製造条件と併せて表1に示す。比較例1の窒化ケイ素粉末は、比表面積が3.8m2/g、酸素の含有量が0.17質量%、β相の割合が36%であり、粒度分布の頻度分布曲線は一つのピークを有していた。
次に、実施例1と同様に、得られた比較例1の窒化ケイ素粉末を、密栓のできるポリエチレン製の容器に収容し、窒化ケイ素が質量割合で20質量%となるように水を加え、更に、窒化珪素粉末と水とを合わせた質量の2倍の質量の、直径約10mmの窒化ケイ素焼結体製のボールを同容器内に投入した上で、同容器を振幅5mm、振動数1780cpmの振動ミルに5分間積載して、窒化ケイ素粉末と水とを混合し、比較例1の窒化ケイ素粉末含有スラリーを製造した。
得られた比較例1の窒化ケイ素粉末含有スラリーを、実施例1と同様に予め40℃で加温した気孔率16%の5cm角×深さ4cmの石英坩堝の内表面にスプレー塗布し、40℃で乾燥し、以上のスプレー塗布と乾燥を適度な離型層の厚みとなるように繰り返した後、塗布後の離型層の乾燥を完結するために、更に40℃の熱風乾燥を15時間行った。次いで、大気下1100℃で3時間保持して加熱処理を行い、比較例1の多結晶シリコン鋳造用鋳型を得た。
実施例1と同様に、得られた比較例1の鋳型に、純度99.999%で最大長2〜5mmのSi顆粒を75g充填し、箱型電気炉を用いて加熱することでSi顆粒を鋳型中で融解し、降温して溶融シリコンを凝固させて多結晶シリコンインゴットを得た。大気圧のAr流通下で、1000℃までを3時間、1000℃から1450℃までを3時間かけて昇温し、1450℃で4時間保持して降温することで、この処理を行った。降温後、鋳型を電気炉から取り出し、多結晶シリコンインゴットを鋳型から取り出し(離型し)、(多結晶シリコン鋳造用鋳型の評価方法)で説明する方法で、離型層が形成された多結晶シリコン鋳造用鋳型を評価した。以上の結果を表1に示す。比較例1の鋳型を用いた場合、多結晶シリコンインゴットが鋳型に固着しており、鋳型を破壊せずには離型できなかった。また、鋳型を破壊して多結晶シリコンインゴットを離型した後に、鋳型側面の一と鋳型底面の全面が剥離して鋳型表面が露出していることが確認された。
(比較例2〜6)
比較例2〜6の窒化ケイ素粉末を次のように調製した。実施例1と同じシリコンジイミド粉末を実施例1と同じロータリーキルン炉を用いて加熱分解した。熱分解温度を450〜1200℃、熱分解時に導入する空気−窒素混合ガスの酸素濃度を0〜1.3vol%、ガスの流量をシリコンジイミド粉末1kg当たり35〜265リットル/時間の範囲で調節したこと以外は実施例1と同様の方法でシリコンジイミド粉末を加熱分解し、表1に示す、比表面積が302〜822m2/gで酸素含有量が0.10〜0.35質量%の、比較例2〜6に係る非晶質Si−N(−H)系化合物を製造した。なお、比較例2〜6に係る非晶質Si−N(−H)系化合物の組成式Si6N2x(NH)12−3xにおけるxは、比較例2より順に、2.58、3.96、3.37、2.30、3.37であった。
得られた表1に示す非晶質Si−N(−H)系化合物を、実施例1と同様の方法で解砕し、実施例1と同様の方法で実施例1と同様のアーモンド状に成形した。得られたアーモンド状の非晶質Si−N(−H)系化合物成形物を、B型の黒鉛製容器に充填密度0.23〜0.45g/mLで充填し、東海高熱株式会社製プッシャー炉を用いて、窒素雰囲気下で焼成した。プッシャー炉の各ゾーンの温度と坩堝の搬送速度を調整し、1000〜1400℃を、保持温度(焼成温度)が1350℃の場合は1000〜1350℃を、200〜1200℃/時の速度で昇温し、保持温度が1350℃の場合を除いて、以降所定の保持温度まで昇温し、1350〜1750℃の温度で0.42〜2.0時間保持して焼成した後、降温した。
取り出した焼成後の窒化ケイ素粉末を、実施例2〜12と同様の方法で解砕して比較例2〜6の窒化ケイ素粉末を得た。前述の方法にて測定した比較例2〜6の窒化ケイ素粉末の物性を、その製造条件と併せて表1に示す。
比較例2〜6の窒化ケイ素粉末は、比表面積が2.8〜6.6m2/g、酸素の含有量が0.16〜0.78質量%、β相の割合が2〜55%であり、粒度分布の頻度分布曲線は、比較例2〜3では一つのピークを、比較例4〜6では二つのピークを有していた。比較例4〜6の頻度分布曲線は二つのピークを有するものの、比較例5のピークトップは0.69μmと3.27μmで、一方のピークトップが本発明とは異なっており、比較例6のピークトップは1.16μmと6.54μmで、いずれのピークトップも本発明と異なっていた。また、比較例4のピークトップは0.58μmと1.16μmであるものの、そのピークトップの頻度の比は3.3であり、本発明とは異なっていた。
得られた比較例2〜6の窒化ケイ素粉末を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例2〜6の窒化ケイ素粉末含有スラリーを製造した。次いで、得られた比較例2〜6の窒化ケイ素粉末含有スラリーを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例2〜6の多結晶シリコン鋳造用鋳型を製造した。
比較例2〜6の多結晶シリコン鋳造用鋳型を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で溶融シリコンを凝固させて、多結晶シリコンインゴットを製造した。実施例1と同様の方法で離型層の評価を行い、表1に示す結果を得た。比較例2及び5の鋳型を用いた場合は、多結晶シリコンインゴットが鋳型に固着しており、鋳型を破壊せずには離型できなかった。また、鋳型を破壊して多結晶シリコンインゴットを離型した後には、鋳型側面の一面または2面と鋳型底面の全面が剥離して鋳型表面が露出していることが確認された。比較例3及び6の鋳型を用いた場合は、多結晶シリコンインゴットを、鋳型を破壊せずに鋳型から離型できたものの、離型層へのシリコンの浸透が目視で確認された。また、多結晶シリコンインゴットを鋳型から離型した後には、鋳型側面の一面と鋳型底面の全面または鋳型底面の全面が剥離して鋳型表面が露出していることが確認された。比較例4の鋳型を用いた場合は、多結晶シリコンインゴットを、鋳型を破壊せずに鋳型から離型できたものの、離型層へのシリコンの浸透が目視で確認された。また、多結晶シリコンインゴットを鋳型から離型した後には、鋳型側面の一部が剥離して鋳型表面が露出していることが確認された。