JP6351916B1 - コーティング膜、コーティング組成物および該コーティング膜を備えた物品 - Google Patents

コーティング膜、コーティング組成物および該コーティング膜を備えた物品 Download PDF

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Abstract

フッ素オイルと、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下のフッ素樹脂と、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上50質量%以下の鱗片状粒子とを含むコーティング膜であって、前記鱗片状粒子の平均粒子径が1μm以上100μm以下であるコーティング膜。前記フッ素樹脂および前記フッ素オイルは、前記フッ素樹脂からなる膜に対する前記フッ素オイルの接触角が、測定温度20℃において40°以下となる組み合わせから選択されることが好ましい。

Description

本発明は、コーティング膜、コーティング組成物および該コーティング膜を備えた物品に関する。
工作機械における潤滑油、レンジフードにおける食用油等の油汚れは、時間の経過とともに硬化し除去が困難になる。そのため、各種物品の表面に、油汚れの付着を抑制することのできるコーティング膜を形成する技術が有用である。このような油汚れの付着を抑制するための膜は、油に対する優れた潤滑性を長期間安定して維持する必要がある。
油汚れ等の付着物に対して潤滑性が高く安定なコーティング膜を形成する材料としては、一般にフッ素化合物が用いられている。例えば、特許文献1には、フッ素樹脂とフッ素オイルとを特定の割合で含む表面処理組成物が開示されている。
また、特許文献2には、無機微粒子が積層して形成された無機多孔質層と、各無機微粒子の表面に形成されたフッ素樹脂等からなる撥油膜と、撥油膜が形成された無機微粒子間に包含されるフッ素オイル等の撥油性液体とを備えるコーティング材が開示されている。
特開2014−65884号公報 国際公開第2016/125409号
しかしながら、特許文献1又は特許文献2に開示されている表面処理組成物により形成される膜は、油に対する潤滑性を有しているものの、長期間の使用においてその性能が徐々に低下するという問題があった。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、油汚れ等の付着物に対して高い潤滑性を有し且つその性能を長期間安定して維持できるコーティング膜を形成可能なコーティング組成物、コーティング膜および物品を得ることを目的とする。
本発明者らは、上記のような問題の原因解明に取り組んだ結果、従来のコーティング膜では、コーティング膜中のフッ素オイルが時間の経過に伴って徐々に蒸発して減少するとともに、フッ素オイルの蒸発により膜の表面に微小な凹凸が生じて平坦性が低下することが、性能低下の原因であることを突き止めた。そこで、本発明者らは、フッ素オイルの蒸発を抑制するため、コーティング膜の組成を種々検討した結果、フッ素樹脂およびフッ素オイルに加えて鱗片状粒子を配合するのが有効であることを見出した。
すなわち、本発明は、フッ素オイルと、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下のフッ素樹脂と、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上50質量%以下の鱗片状粒子とを含むコーティング膜であって、前記鱗片状粒子の平均粒子径が1μm以上100μm以下であるコーティング膜である。
また、本発明は、フッ素オイルと、フッ素系溶剤と、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下のフッ素樹脂と、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上50質量%以下の鱗片状粒子とを含むコーティング組成物であって、前記鱗片状粒子の平均粒子径が1μm以上100μm以下であるコーティング組成物である。
さらに、本発明は、上記コーティング膜が基材の表面に形成されていることを特徴とする物品である。
本発明によれば、油汚れ等の付着物に対して優れた潤滑性を有し且つその性能を長期間安定して維持できるコーティング膜およびそれを形成可能なコーティング組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、油汚れの付着が抑制された物品を提供することができる。
本発明の実施の形態1に係るコーティング膜を示す模式断面図である。 本発明の実施の形態1に係るコーティング膜上での付着油の移動を説明する図である。 本発明の実施の形態2に係るコーティング膜を示す模式断面図である。 本発明の実施の形態1および2に係るコーティング膜が形成されている物品の一例を示す図である。 本発明の実施の形態1および2に係るコーティング膜が形成されている物品の一例を示す図である。 フッ素オイル含有量に対する鱗片状粒子含有量とコーティング膜の油滑落性との関係を示すグラフである。 フッ素オイル含有量に対するフッ素樹脂含有量とコーティング膜の油滑落性との関係を示すグラフである。
実施の形態1.
<コーティング組成物>
本実施の形態のコーティング組成物は、フッ素オイルと、フッ素系溶剤と、フッ素樹脂と、鱗片状粒子とを含む。
本実施の形態のコーティング組成物に含有されるフッ素オイルは、水、植物油、炭化水素系の油に相溶しない液体であり、フッ素樹脂と混合されると分離せず分子レベルで混ざり合い、コーティング組成物に含有されるフッ素系溶剤が蒸発すると流動性がないゲルを形成できるものである。ここでのゲル(ゲル状)とは、フッ素樹脂とフッ素オイルとが分子レベルで均質に混在した流動性がない状態であることが好ましいが、僅かに相分離した状態であってもよい。油に対する潤滑性を長期に維持する観点から、蒸発速度の低いフッ素オイルを用いることが好ましい。ここでの蒸発速度とは、フッ素オイルを平板に数μm程度の膜厚となるように塗布した後、100℃の環境に24時間放置した場合の質量減少割合である。蒸発速度の低いフッ素オイルは、その質量減少割合が好ましくは30%以下、より好ましくは3%以下である。30%以下の質量減少割合を示すフッ素オイルを配合すると、高温環境下においてもコーティング膜の油に対する潤滑性を長期に維持することができる。
油汚れ等の付着物に対してより優れた潤滑性を得る観点から、フッ素オイルの動粘度は、コーティング膜を形成する物品表面の通常使用時の温度において、600cSt以下であることが好ましく、300cSt以下であることがより好ましい。600cSt以下の動粘度を有するフッ素オイルを配合すると、コーティング膜の油に対する潤滑性を十分に発揮することができる。例えば、通常、室温で使用される換気扇の場合、コーティング膜を形成する表面の温度は20℃程度であるため、20℃における動粘度が600cSt以下であるフッ素オイルを用いればよい。また、通常、モータの熱が加わる工作機械の場合、コーティング膜を形成する表面の温度は100℃程度であるため、100℃における動粘度が600cSt以下であるフッ素オイルを用いればよい。ここでのフッ素オイルの動粘度は、毛細管粘度計で10回測定した値を算術平均したものである。
フッ素オイルとしては、限定されないが、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)やポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)のような、直鎖状フッ化炭素もしくは側鎖を有するフッ化炭素からなる高分子化合物、またはこれらの高分子化合物に各種置換基を導入したものが挙げられる。また、シリコーンあるいは炭化水素系の高分子化合物にフッ化炭素基を導入したものであってもよい。
フッ素オイルの含有量は、コーティング組成物に対して、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。フッ素オイルの含有量が0.1質量%以上50質量%以下であれば、コーティング膜の高い油滑落性が得られ、さらにコーティング組成物の流動性が良好となり、鱗片状粒子がコーティング膜の表面と平行に配置され易くなる。
本実施の形態のコーティング組成物に含有されるフッ素系溶剤としては、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)等のフッ素樹脂を溶解させることのできるものであればよく、例えば、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)およびこれらの混合物が挙げられる。
フッ素系溶剤の含有量は、コーティング組成物に対して、50質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、90質量%以上99質量%以下であることがより好ましい。フッ素系溶剤の含有量が50質量%以上99.9質量%以下であれば、コーティング組成物の流動性が良好となり、鱗片状粒子がコーティング膜の表面と平行に配置され易くなる。
本実施の形態のコーティング組成物に含有されるフッ素樹脂は、フッ素系溶剤に可溶であり、塗布時に均質な被膜を形成できるものであればよく、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニルフルオライド(PVF)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびこれらのフッ素樹脂に官能基を導入したものが挙げられる。導入する官能基としては、反応性を有するものであっても、あるいは反応性を有さないものであってもよいが、反応性官能基を導入したフッ素樹脂を使用すると、フッ素樹脂と鱗片状粒子との密着性およびフッ素樹脂と基材との密着性が向上する。反応性官能基としては、例えば、水酸基、エポキシ基、ウレタン基、カルボニル基、アミノ基等が挙げられる。架橋剤の添加によっても同様の密着性向上効果が得られる。
フッ素樹脂の含有量(固形分として)は、フッ素オイルの含有量に対して、1質量%以上100質量%以下であり、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。フッ素樹脂の含有量が100質量%を超えると、コーティング膜の油に対する潤滑性が得られないだけでなく、コーティング組成物の流動性が低下し、鱗片状粒子がコーティング膜の表面と平行に配置され難くなる。一方、フッ素樹脂の含有量が1質量%未満であると、コーティング膜の強度が不十分となり、油汚れ等の付着物を剥離する際にコーティング膜が破壊されやすくなる。
また、フッ素オイルとフッ素樹脂とは、両者が混合されてゲルを容易に形成できるように、親和性が高いものを組み合わせることが好ましい。そうすることでフッ素樹脂とフッ素オイルとが分離し難くなり、より均一なコーティング膜を形成することができる。フッ素樹脂とフッ素オイルとの親和性は、フッ素樹脂からなる膜に対するフッ素オイルの接触角を指標として判断することができる。この接触角が小さい程、両者の親和性は高いと言える。具体的には、フッ素樹脂からなる膜に対するフッ素オイルの接触角が、測定温度20℃において、40°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましい。
本実施の形態のコーティング組成物に含有される鱗片状粒子は、形成されたコーティング膜においてフッ素オイルの蒸発を抑制する蓋の役割を果たす。鱗片状粒子としては、薄板形状の粒子であればよく、Siの酸化物、Al、Fe、Ti、Mg等の金属の酸化物、金属、グラフェン等の炭素材料、ガラス、金属が樹脂で被覆されたもの、ガラスが金属酸化物で被覆されたものなどが挙げられる。上記した酸化物の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウムなどが挙げられる。鱗片状粒子は、コーティング組成物において、凝集していないか、または弱い凝集状態のものであることが好ましい。コーティング組成物中で鱗片状粒子が強く凝集していると、フッ素オイルの蒸発を抑制する効果が得られにくい上に、コーティング膜表面の平坦性が低下し、油に対する潤滑性が低下する場合がある。また、コーティング組成物に針状や球状の微粒子を含有させると、コーティング膜中で鱗片状粒子のようには配向せず、ランダムに配置されるため、コーティング膜表面に凹凸が形成されてしまい、油に対する潤滑性が低下する。さらに、凹凸の形成に伴ってコーティング膜の表面積が増大するため、フッ素オイルの蒸発をむしろ促進してしまう。
鱗片状粒子の平均粒子径(平均長径)は、1μm以上100μm以下であり、10μm以上50μm以下であることが好ましい。鱗片状粒子の平均粒子径が1μm未満であると、フッ素オイルの蒸発を抑制する効果が得られない。一方、鱗片状粒子の平均粒子径が100μmを超えると、フッ素樹脂とフッ素オイルとの混合ゲル膜から鱗片状粒子が突き出て、コーティング膜表面の平坦性が低下し、油に対する潤滑性が低下する。
また、鱗片状粒子の平均厚みは、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。鱗片状粒子の平均厚みが0.1μm以上1μm以下であると、フッ素オイルとフッ素樹脂との混合ゲル膜から鱗片状粒子が突き出しにくく、コーティング膜表面が平坦となり、油に対する潤滑性が高くなる。上述した鱗片状粒子の平均粒子径はレーザー回折・散乱法によって測定された粒度分布の体積累積50%での粒径を意味する。鱗片状粒子の粒子径は、鱗片状粒子を平面視したときの面積Sの平方根で表される値である。また、鱗片状粒子の平均厚みは、走査電子顕微鏡で50個の鱗片状粒子の厚さを測定し、それを算術平均したものである。
鱗片状粒子の含有量は、フッ素オイルの含有量に対して、1質量%以上50質量%以下であり、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。鱗片状粒子の含有量が50質量%を超えると、フッ素樹脂とフッ素オイルとの混合ゲル膜から鱗片状粒子が突き出て、コーティング膜表面の平坦性が低下し、油に対する潤滑性が低下する。一方、鱗片状粒子の含有量が1質量%未満であると、フッ素オイルの蒸発を抑制する効果が得られない。
また、コーティング組成物における固形分濃度、すなわち、フッ素樹脂および鱗片状粒子の濃度は、それぞれ5質量%以下であることが好ましい。フッ素樹脂および鱗片状粒子の濃度がそれぞれ5質量%以下であると、コーティング組成物の流動性が良好となり、鱗片状粒子がコーティング膜表面で配向し易くなる。
本実施の形態のコーティング組成物には、フッ素樹脂とフッ素オイルとをより均一に混合するため、界面活性剤を添加してもよい。さらに、本実施の形態のコーティング組成物には、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールを5質量%以下の範囲で添加してもよい。アルコールの添加が5質量%以下であれば、フッ素樹脂やフッ素オイルの溶解性にほとんど影響を与えない。
<コーティング組成物の調製方法>
次に、本実施の形態のコーティング組成物の調製方法を説明する。
コーティング組成物の調製方法は、特に限定されるものではないが、以下の方法で行うことが好ましい。
初めに、フッ素系溶剤とフッ素樹脂とを混合する。ここで混合されるフッ素樹脂は、樹脂単独であっても他の溶剤に溶解された状態であってもよい。この後、鱗片状粒子を添加し、液中に分散させる。フッ素オイルは、いずれの段階で混合してもよい。鱗片状粒子の分散は、撹拌、超音波振動等の公知の手法により行うことができる。鱗片状粒子が液中に分散しにくい場合には、湿式の微粒化装置による処理を施すことが好ましい。湿式の微粒化装置では、鱗片状粒子を含む液体を高圧で細孔に通したり衝突させたりして、液中の鱗片状粒子に衝撃を与えることで強制的に分散させることができる。分散された鱗片状粒子の表面には液中に存在するフッ素樹脂が付着することで、鱗片状粒子は分散された状態のまま安定化される。分散処理した液は、時間の経過とともに流動性が低下する場合がある。この場合には、コーティング組成物を塗布する前に、上記の分散処理を再度施すことで、鱗片状粒子が均一に分散したコーティング組成物とすることができる。
以上のようにして調製されたコーティング組成物では、フッ素系溶剤中に、フッ素樹脂およびフッ素オイルが溶解した状態で存在し且つ鱗片状粒子が分散した状態で存在している。
<コーティング膜>
次に、本実施の形態のコーティング組成物を用いて形成したコーティング膜について図1を用いて説明する。図1に示されるように、基材1上には、本実施の形態のコーティング組成物を用いたコーティング膜2が形成されている。コーティング膜2は、フッ素オイルと、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下のフッ素樹脂と、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上50質量%以下の鱗片状粒子3とを含む。また、鱗片状粒子3は、1μm以上100μm以下の平均粒子径を有しており、コーティング膜2の表面に対して平行となる状態で配置されている。具体的には、鱗片状粒子3の卓面とコーティング膜2の表面とが平行となる状態で配置されている。ここでいう卓面とは、端面ではない、鱗片状粒子3における最大平面部分のことである。ここでいう平行とは、鱗片状粒子3の全てがコーティング膜2の表面に対して平行に配置された状態だけではなく、平行から僅かにずれた状態も含むものとする(以下、「略平行」と記載することがある)。
コーティング膜2の最表面は、表面エネルギーが低いフッ素樹脂およびフッ素オイルで構成されているため、コーティング膜2は、撥油性、撥水性、表面滑り性および防汚性を有する。特に、コーティング膜2の最表面にはフッ素オイルが存在しているため、最表面が非常に柔軟な性質を有している。そのため、最表面がフッ素樹脂のみで構成される膜と比べて、コーティング膜2では油滴や固体状の油が付着しても、最表面が柔軟な分だけ付着油が流れたり、取り除かれたりしやすい。例えば、図2に示されるように、重力や気流による風圧といった非常に小さな駆動力が付着油に加わることで、コーティング膜2の表面を付着油4が移動方向5に移動する。
コーティング膜2が形成される基材1としては、特に限定されないが、油汚れ等の付着防止性能が要求される各種機器、什器等の物品が挙げられる。基材1の表面は、平坦面あるいは曲面であってもよいし、角、凹凸等を有していてもよい。基材1の表面が凹凸を有する場合、基材1の表面をコーティング膜2で被覆することで平坦化する効果が得られる。基材1の表面の算術平均粗さRaは、2000μm以下であることが好ましく、0.5μm以上20μm以下であることがより好ましい。2000μmを超えるRaを有する基材1の表面にコーティング膜2を形成したとしても、付着した油汚れが表面の窪みに溜まり易く、良好な油潤滑性が得られないことがある。基材1の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の汎用のプラスチック、ガラス、石材、ステンレス、アルミニウム等の金属、またはこれらの材料表面に有機コーティングもしくは無機コーティングが施されたものが挙げられる。
コーティング膜2の形成方法としては、コーティング組成物を基材1の表面に塗布および必要に応じて乾燥させればよい。本実施の形態のコーティング組成物では、分子レベルでフッ素系溶剤とフッ素樹脂とフッ素オイルとが混合されており、その液中に鱗片状粒子3が分散している。そのため、コーティング組成物を塗布した後にフッ素系溶剤が蒸発すると、フッ素樹脂とフッ素オイルとの混合物からなるゲル中で鱗片状粒子3がコーティング膜2の表面に対して略平行に配置された膜が得られる。ここで、コーティング組成物の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティングなどが挙げられる。乾燥方法としては、塗膜中のフッ素系溶剤を蒸発させることができれば特に限定されず、室温で乾燥させても、加熱して乾燥させてもよい。
コーティング組成物に含まれる鱗片状粒子3は薄板状粒子であり、その形状に起因する高い配向性を有している。コーティング組成物が流動して基材1の表面に拡がる際、液の流動の力によって、鱗片状粒子3の卓面がコーティング膜2の表面に対して平行になるように配向していき、最終的にコーティング膜2の表面に対して略平行に配置された状態となる。また、スプレーコーティングによる塗布のようにコーティング組成物の流動性が小さい場合においても、フッ素系溶剤が蒸発する際の塗膜の厚さの減少に伴って、鱗片状粒子3がコーティング膜2の表面に略平行となるよう配向する。仮に鱗片状粒子3の卓面が基材1の表面に対して垂直方向に配置されると、塗膜表面に凸部が形成されることになるが、その場合は液の表面張力により平坦化、すなわち鱗片状粒子3を寝かせる方向へ力が働くことになる。このような作用は、コーティング膜2の表面近傍に鱗片状粒子3を配置させやすい。本発明においては、フッ素オイルがコーティング膜2の表面から失われることを抑制することが鱗片状粒子3の重要な役割であるため、コーティング膜2の表面近傍に鱗片状粒子3が配置されることは好ましい。
フッ素オイルが失われやすい環境(例えば、高温環境、風当りの強い環境等)下であっても、コーティング膜2では、鱗片状粒子3が特定の状態で配置されているので、フッ素オイルの減少が抑制される。具体的には、鱗片状粒子3は、コーティング膜2において蓋のような役割を果たし、コーティング膜2に含まれるフッ素オイルが最表面に移動するまでの経路を長くする効果がある。また、鱗片状粒子3は、フッ素樹脂とフッ素オイルとからなるゲルの形状を固定する役割を果たし、フッ素オイルが抜けることによる体積収縮を起こしにくくする効果がある。これらの効果により、フッ素オイルの減少が抑制される。この結果、コーティング膜2の表面の平坦性が維持され、コーティング膜2の油に対する高い潤滑性を長期間維持することが可能となる。なお、フッ素樹脂とフッ素オイルとからなるゲルとは、フッ素樹脂とフッ素オイルとが均質に混合されて、分子レベルで混在した状態であることが好ましいが、僅かに相分離した状態であってもよい。相分離で生成するフッ素オイル単独相の最大粒子径が10μm程度以下であると、フッ素オイルがコーティング膜2から自然に分離しにくいため好ましい。
上述したコーティング膜2の膜厚は、平均膜厚として0.3μm以上50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上8μm以下であることがより好ましい。コーティング膜2の膜厚が0.3μm未満であると、フッ素オイルの減少による劣化が進みやすくなることがある。一方、コーティング膜2の膜厚が50μmを超えると、コーティング膜2を形成する際のフッ素系溶剤の蒸発による体積収縮により表面に凹凸ができやすくなることがある。
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1で説明したコーティング膜と基材との間に、下層を形成することによりコーティング膜を多層化した形態について説明する。図3に示されるように、基材1上には、下層6が形成され、下層6上に実施の形態1で説明したコーティング膜2が上層として形成されている。下層6は、フッ素オイルと、フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下のフッ素樹脂とが分子レベルで混合された流動性のないゲルである。上層(コーティング膜2)および下層6からなる多層コーティング膜では、下層6が鱗片状粒子3を含まないので上層と比べて下層6中のフッ素オイルの含有量を増やしたり、上層の膜厚を薄くすることで鱗片状粒子3の配向性を高めたり、あるいは上層中の鱗片状粒子3の含有量を増やしたりすることができるので、フッ素オイルの蒸発をより効率的に抑制することができる。下層6を構成するフッ素オイルおよびフッ素樹脂としては、実施の形態1で説明したものと同様のものを用いることができる。
多層コーティング膜の形成方法としては、まず、フッ素オイルと、フッ素系溶剤と、フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下、好ましくは5質量%以上50質量%以下のフッ素樹脂とを含み且つ鱗片状粒子3を含まないコーティング組成物を基材1の表面に塗布および必要に応じて乾燥させて下層6を形成し、次いで、実施の形態1で説明したコーティング組成物を下層6上に塗布および必要に応じて乾燥させて上層(コーティング膜2)を形成すればよい。下層6の形成に用いるコーティング組成物に含まれるフッ素オイル及びフッ素系溶剤の含有量は実施の形態1と同様である。下層6の形成に用いるコーティング組成物の調製方法は、鱗片状粒子3を添加しない以外、実施の形態1と同様である。また、下層6の形成に用いるコーティング組成物の塗布方法および乾燥方法は、実施の形態1と同様である。
実施の形態3.
実施の形態3では、実施の形態1および2で説明したコーティング膜を適用した物品について説明する。図4および図5は、実施の形態1および2に係るコーティング膜が基材の表面に形成されている物品の一例を示す図である。
図4は、金属切削などに利用される工作機械の一部である主軸モータである。モータ7が筒状のフレーム8の内部に設置されており、フレーム8には複数の空冷用風路9がある。モータ7を空冷するため、フレーム8の上部に設置されたファン10が稼働し、風が空冷用風路9を通ってファンガード11から排気されるように設計されている。
稼働中、切削油のミストが、空冷用風路9、ファン10およびファンガード11に付着してしまう。そこで、空冷用風路9の内壁、ファン10の表面およびファンガード11の表面に、実施の形態1および2に係るコーティング膜を形成することで、油汚れの固着を防ぐことができる。
図5は、キッチン等で排気を行う換気扇である。換気扇は、ファン10と、ファン10を保護するためのファンガード11とを備える。調理中の油煙などを排気する際、ファン10およびファンガード11に油汚れが付着してしまう。そこで、ファン10の表面およびファンガード11の表面に、実施の形態1および2に係るコーティング膜を形成することで、油汚れの固着を防ぐことができる。
以下、実施例を示すことにより本発明の詳細を説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
(実施例1)
表1に示す組成となるように、フッ素オイルとしてのパーフルオロポリエーテル(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン製、フォンブリン(登録商標)Y45、20℃での動粘度470cSt)、フッ素樹脂としてのフッ素樹脂コーティング液(スリーエム製、Novec1700、固形分濃度2質量%)およびフッ素系溶剤としてのハイドロフルオロエーテル(スリーエム製、Novec(登録商標)7200)を混合し、フッ素系溶剤にフッ素樹脂とフッ素オイルを溶解させた後に、鱗片状粒子としての酸化鉄粒子(チタン工業株式会社製、平均粒子径12μm〜15μm、平均厚み0.2μm〜0.3μm)を混合し、この液を湿式微粒化装置(吉田機械興業株式会社製、ナノヴェイタ(登録商標))にて分散処理し、実施例1のコーティング組成物を調製した。なお、ここで使用したフッ素樹脂からなる膜とフッ素オイルとの接触角は26°であった。
(実施例2、3、5、7、8および比較例1、4)
表1または2に示す組成に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2、3、5、7、8および比較例1、4のコーティング組成物をそれぞれ調製した。
(実施例4)
フッ素樹脂としてのフッ素樹脂コーティング液(スリーエム製、Novec1700、固形分濃度2質量%)の代わりにフッ素樹脂コーティング液(野田スクリーン株式会社製、WOP−019XQA、固形分濃度8質量%)を用い、表1に示す組成に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のコーティング組成物を調製した。なお、ここで使用したフッ素樹脂からなる膜とフッ素オイルとの接触角は26°であった。
(実施例6)
フッ素樹脂としてのフッ素樹脂コーティング液(スリーエム製、Novec1700、固形分濃度2質量%)の代わりにフッ素樹脂コーティング液(野田スクリーン株式会社製、WOP−019XQA、固形分濃度8質量%)を用い、表1に示す組成に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のコーティング組成物を調製した。
(実施例9)
鱗片状粒子としての酸化鉄粒子(チタン工業株式会社製、平均粒子径12μm〜15μm、平均厚み0.2μm〜0.3μm)の代わりにグラフェン(株式会社アイテック製、iGurafen(登録商標)−α、平均粒子径10μm〜100μm、平均厚み約0.01μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9のコーティング組成物を調製した。
(実施例10)
フッ素オイルとしてのパーフルオロポリエーテル(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン製、フォンブリン(登録商標)Y45、20℃での動粘度470cSt)の代わりに低粘度のパーフルオロポリエーテル(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン製、フォンブリンY15、20℃での動粘度156cSt)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例10のコーティング組成物を調製した。なお、ここで使用したフッ素樹脂からなる膜とフッ素オイルとの接触角は21°であった。
(実施例11)
フッ素オイルとしてのパーフルオロポリエーテル(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン製、フォンブリン(登録商標)Y45、20℃での動粘度470cSt)の代わりに低粘度のパーフルオロポリエーテル(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン製、フォンブリンY25、20℃での動粘度250cSt)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例11のコーティング組成物を調製した。なお、ここで使用したフッ素樹脂からなる膜とフッ素オイルとの接触角は23°であった。
(実施例12)
フッ素樹脂としてのフッ素樹脂コーティング液(スリーエム製、Novec1700、固形分濃度2質量%)の代わりに架橋性の加熱硬化タイプ(反応性)のフッ素樹脂コーティング液(スリーエム製、Novec2702、固形分濃度2質量%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例12のコーティング組成物を調製した。
(比較例2)
鱗片状粒子を添加せずに、表2に示す組成に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のコーティング組成物を調製した。
(比較例3)
フッ素樹脂としてのフッ素樹脂コーティング液(スリーエム製、Novec1700、固形分濃度2質量%)の代わりにフッ素樹脂コーティング液(野田スクリーン株式会社製、WOP−019XQA、固形分濃度8質量%)を用い、表2に示す組成に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のコーティング組成物を調製した。
(比較例5)
鱗片状粒子としての酸化鉄粒子(チタン工業株式会社製、平均粒子径12μm〜15μm、平均厚み0.2μm〜0.3μm)の代わりにカーボンブラック(旭カーボン株式会社製、旭♯52、平均粒子径0.06μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5のコーティング組成物を調製した。
(比較例6)
鱗片状粒子としての酸化鉄粒子(チタン工業株式会社製、平均粒子径12μm〜15μm、平均厚み0.2μm〜0.3μm)の代わりに鱗片状ガラスフレーク(松尾産業株式会社製、ガラスフレーク メタシャイン、シルバーコートシリーズ 5150PS、平均粒子径150μm、平均厚み5μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6のコーティング組成物を調製した。
Figure 0006351916
Figure 0006351916
上記した実施例1のコーティング組成物を、ガラス板の表面にバーコーターで塗布した後、100℃で15分間乾燥してフッ素系溶剤を蒸発させることで半透明のコーティング膜を形成した。形成されたコーティング膜は、図1に示すような、鱗片状粒子がコーティング膜の表面に対して略平行に配置されたものであった。同様にして、実施例2〜12および比較例1〜6のコーティング組成物をそれぞれ用いてコーティング膜を形成した。こうして得られたコーティング膜の組成を表3に示す。
Figure 0006351916
<コーティング膜の油滑落性の評価>
得られたそれぞれのコーティング膜について油滑落性を評価した。
油滑落性の評価は、コーティング膜が設けられたガラス板を水平にし、ヘキサデカン10μLをマイクロピペットで滴下した後、ガラス板をゆっくり傾け、ヘキサデカンの液滴が移動し始める傾斜の角度を転落角として測定した。転落角の測定は、コーティング膜の形成直後と、100℃のオーブン中で7日間加熱した後に行った。100℃のオーブン中での7日間の加熱は、コーティング膜を長期間使用した後の状態と模擬される。
初期の転落角はコーティング膜の油の潤滑のし易さを示し、転落角が小さい程、油滑落性が高く、油汚れ等の潤滑性に優れていると判断される。また、初期と加熱後の転落角の差は、コーティング膜の経時劣化がどれだけ抑制されるかの指標となり、その値が小さいほどコーティング膜の劣化が抑制されている、と判断される。
ここでは、転落角が50°未満であれば、油滑落性はやや高く、油に対する潤滑性に優れ、さらに30°以下である場合は油滑落性が高く、油に対する潤滑性に特に優れていると判断した。また、初期と加熱後の転落角の差が15°以内であれば、コーティング膜の経時劣化が抑制されていると判断した。
<フッ素オイルの含有量に対する鱗片状粒子の含有量を変化させた場合>
フッ素オイルの含有量に対する鱗片状粒子の含有量を変化させた実施例1〜3および比較例1〜2のコーティング膜について、それぞれのコーティング膜の初期の転落角と、初期と加熱後の転落角の差を表4および図6のグラフに示す。
Figure 0006351916
表4および図6のグラフに示すように、フッ素オイルの含有量に対する鱗片状粒子の含有量が10質量%〜40質量%である実施例1、2および3のコーティング膜では、ヘキサデカンの転落角が25°以下と小さく、高い油滑落性を有していることが分かる。また、実施例1、2および3のコーティング膜では、初期と加熱後の転落角の差は15°以内であり、油滑落性が維持されており、コーティング膜の油潤滑性が長期間維持され、経時劣化が抑制されることが確認できた。
これに対し、フッ素オイルの含有量に対する鱗片状粒子の含有量が50質量%を超える比較例1のコーティング膜は、膜の表面の平坦性が低下するため、転落角は50°であり、油滑落性が低い。また、鱗片状粒子を含まない比較例2のコーティング膜は、鱗片状粒子によりフッ素オイルの蒸発が抑制されないため、初期の転落角が15°であるのに対し、加熱後の転落角は50°と油滑落性が大きく低下している。このため、初期と加熱後の転落角の差は30°になり、鱗片状粒子が含有されていないとコーティング膜の経時劣化を抑制できないことが分かる。
<フッ素オイルの含有量に対するフッ素樹脂の含有量を変化させた場合>
フッ素オイルの含有量に対するフッ素樹脂の含有量を変化させた実施例1、4〜6および比較例3のコーティング膜について、それぞれのコーティング膜の初期の転落角と、初期と加熱後の転落角の差を表5および図7のグラフに示す。
Figure 0006351916
表5および図7のグラフに示すように、フッ素オイルの含有量に対するフッ素樹脂の含有量が5質量%〜90質量%である実施例1および4〜6のコーティング膜では、フッ素オイルの含有量に対するフッ素樹脂の含有量が低いほど油滑落性が高くなることが確認できた。特に、フッ素オイルの含有量に対するフッ素樹脂の含有量が5質量%〜50質量%である実施例1、4および5のコーティング膜が、高い油滑落性を示し、油潤滑性に優れていることが分かる。また、実施例1および4〜6のコーティング膜では、初期と加熱後の転落角の差は10°であり、高い油滑落性が維持されており、コーティング膜の経時劣化が抑制されることが確認できた。
これに対し、フッ素オイルの含有量に対するフッ素樹脂の含有量が100質量%を超える比較例3のコーティング膜は、膜の表面の平坦性が低下するため、油滑落性が低いこと
<コーティング膜中のフッ素オイルの含有量を変化させた場合>
コーティング膜中のフッ素オイルの含有量を変化させた実施例1、7、8および比較例4のコーティング膜について、それぞれのコーティング膜の初期の転落角と、初期と加熱後の転落角の差を表6に示す。
Figure 0006351916
実施例7および8のコーティング膜は、実施例1と同様に高い油滑落性およびフッ素オイルの蒸発抑制によるコーティング膜の経時劣化を抑制する効果を示した。尚、実施例7および8のコーティング膜を比較すると、コーティング膜中のフッ素オイルの含有量が多い実施例7の方が、初期も加熱後も転落角が小さく、高い油滑落性を示すことが確認できた。
これに対し、比較例4のコーティング膜は、フッ素樹脂および鱗片状粒子の含有量に対してフッ素オイルの含有量が少ないため、コーティング膜の表面にフッ素オイルが染み出しにくくなっているため、油滑落性が低くなることが示唆された。
<鱗片状粒子の種類、大きさを変更した場合>
鱗片状粒子の種類を変えた場合(実施例9)、鱗片状ではない粒子を用いた場合(比較例5)、平均粒子径が大き過ぎる鱗片状粒子を用いた場合(比較例6)の各コーティング膜について、初期の転落角と、初期と加熱後の転落角の差を表7に示す。
Figure 0006351916
表7に示すように、実施例9では、実施例1の鱗片状粒子と素材は異なるが、同じ鱗片形状のグラフェンを利用しているため、実施例1と同様の油滑落性、フッ素オイルの蒸発抑制によるコーティング膜の経時劣化を抑制する効果が得られている。
一方、比較例5では、鱗片状ではない粒子を含有するコーティング膜を形成しているため、コーティング膜の表面の平坦性が低くなる。このため、実施例1のコーティング膜よりも初期の転落角が大きく、油滑落性が低い。また、フッ素オイルの蒸発抑制効果が小さいため、加熱後にさらに油滑落性が低くなることが確認できた。
比較例6では、平均粒子径が大き過ぎる鱗片状粒子を含有するコーティング膜を形成しているため、比較例5のコーティング膜と同様に、初期の段階で膜の表面に凹凸があるため、転落角が大きく、油滑落性が低い。さらにコーティング膜の経時劣化を抑制する効果も小さいことが確認できた。
<フッ素オイルの動粘度を変化させた場合>
フッ素オイルの20℃での動粘度を変化させた実施例1、10および11のコーティング膜について、それぞれのコーティング膜の初期の転落角と、初期と加熱後の転落角の差を表8に示す。
Figure 0006351916
表8に示すように、20℃におけるフッ素オイルの動粘度が600cSt以下であると、コーティング膜の転落角は小さく、油滑落性は高くなる。実施例10および11のコーティング膜では、低粘度のフッ素オイルを使用している。フッ素オイルは低粘度の方がコーティング膜の表面の油滑落性がより高くなることが確認できた。
<フッ素樹脂の種類を変更した場合>
フッ素樹脂の種類を変更した実施例1および12のコーティング膜について、それぞれのコーティング膜の初期の転落角と、初期と加熱後の転落角の差を表9に示す。
Figure 0006351916
表9に示すように、架橋性のフッ素樹脂を使用した実施例12のコーティング膜は、実施例1と同様の高い油滑落性とフッ素オイルの蒸発抑制によるコーティング膜の経時劣化を抑制する効果が得られることが確認できた。
<膜の構造が異なる場合>
(比較例7)
比較例7では、実施例1のコーティング膜と使用材料がほぼ同様であるが、膜構造が異なるコーティング膜を形成して、油滑落性等を比較した。具体的には、鱗片状粒子がランダムに積層し、かつフッ素樹脂とフッ素オイルとが分離した状態のコーティング膜を形成した。このコーティング膜では、鱗片状粒子(酸化鉄粒子、チタン工業株式会社製、平均粒子径12μm〜15μm、平均厚み0.2μm〜0.3μm)はフッ素樹脂(スリーエム製、Novec1700、固形分濃度2質量%)で被覆されており、鱗片状粒子同士の隙間にフッ素オイル(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン製、フォンブリンY45、20℃での動粘度470cSt)が充填されている。
膜構造の違いとして、実施例1では鱗片状粒子の卓面がコーティング膜表面に対して平行に配置されているのに対し、比較例7では鱗片状粒子がランダムに積層している。また、実施例1はフッ素オイルとフッ素樹脂とが分子レベルで混合された流動性のないゲルであるのに対し、比較例7ではフッ素樹脂とフッ素オイルとが接しているが混合しておらず、ゲル状ではない。
比較例7では、初期において、膜表面が凹凸であるため油滑落性が低かった。さらに比較例7では、膜表面が凹凸で表面積が大きくかつフッ素オイルが単体の状態であるため、フッ素オイルが蒸発しやすい。そのため、100℃、7日間加熱後において、フッ素オイルが減少して油滑落性が低下した。
(実施例13)
実施例1のコーティング組成物について、コーティング膜を形成する基材および塗布方法を変えて、油滑落性を評価した。結果を表10に示す。
Figure 0006351916
表10に示すように、コーティング膜の形成方法をディップコーティングにしても、基材をアルミ板にしても、実施例1と同様の油滑落性とコーティング膜の経時劣化を抑制する効果を得られることが確認できた。これにより、本発明のコーティング膜は、基材や塗布方法に関わらず、長期間、コーティング膜の油に対する優れた潤滑性を維持できることが示唆された。
(実施例14)
実施の形態2で説明した多層コーティング膜について油滑落性を評価した。
具体的には、鱗片状粒子を含まない比較例2のコーティング組成物を、実施例1と同様の方法で、ガラス板の表面に塗布して乾燥させることにより下層を形成した後、実施例1のコーティング組成物を下層の表面に塗布して乾燥させることにより膜の表面と略平行に鱗片状粒子が配置されたコーティング膜を上層として形成した。
得られた多層コーティング膜の油滑落性を評価したところ、初期の転落角は20°であり、高い油滑落性が認められた。また、加熱後の転落角は25°であり、初期と加熱後の転落角の差は5°とコーティング膜の経時劣化の抑制が認められた。下層の上に形成されたコーティング膜中の鱗片状粒子による蒸発抑制効果が有効であるため、より高い経時安定性が得られることが分かった。
(実施例15)
図4に示す工作機械部品のフレーム8の空冷用風路9の内壁に、実施例1と同様に調製したコーティング組成物を塗布した後、乾燥させることによりコーティング膜を形成した。コーティング組成物の塗布は、コーティング組成物を含ませたスポンジを空冷用風路9の内壁に密着させて移動させることで行った。空冷用風路9が地面に対して垂直になるようフレーム8を立て、水溶性切削油(協同油脂株式会社製、マルチクール(登録商標)CSF−9000)を20倍希釈したもの10μLをマイクロピペットで空冷用風路9の内壁に滴下したところ、切削油は表面に拡がることなく滑落した。これにより、本発明のコーティング膜が形成された工作機械部品は、油に対して優れた潤滑性を有することが確認できた。
(実施例16)
図5に示す換気扇のファン10の表面に、実施例1と同様に調製したコーティング組成物を塗布した後、乾燥させることによりコーティング膜を形成した。コーティング組成物の塗布は、ファン10をコーティング組成物に浸漬させることで行った。ファン10表面に食用サラダ油を10μL滴下し、ファンを回転させたところ、サラダ油は拡がることなく表面を滑り、飛び散る形で表面から取り除かれた。これにより、本発明のコーティング膜が形成された換気扇は、油に対して優れた潤滑性を有することが確認できた。
1 基材、2 コーティング膜、3 鱗片状粒子、4 付着油、5 付着油の移動方向、6 下層、7 モータ、8 フレーム、9 空冷用風路、10 ファン、11 ファンガード。

Claims (9)

  1. フッ素オイルと、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下のフッ素樹脂と、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上50質量%以下の鱗片状粒子とを含むコーティング膜であって、
    前記鱗片状粒子の平均粒子径が1μm以上100μm以下であることを特徴とするコーティング膜。
  2. 前記コーティング膜において前記フッ素オイルと前記フッ素樹脂との混合物がゲル状であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング膜。
  3. 前記鱗片状粒子が前記コーティング膜の表面に対して平行に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング膜。
  4. 前記フッ素樹脂および前記フッ素オイルは、前記フッ素樹脂からなる膜に対する前記フッ素オイルの接触角が、測定温度20℃において40°以下となる組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のコーティング膜。
  5. 前記コーティング膜の膜厚が0.3μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のコーティング膜。
  6. フッ素オイルと、フッ素系溶剤と、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下のフッ素樹脂と、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上50質量%以下の鱗片状粒子とを含むコーティング組成物であって、
    前記鱗片状粒子の平均粒子径が1μm以上100μm以下であることを特徴とするコーティング組成物。
  7. 前記フッ素樹脂および前記フッ素オイルは、前記フッ素樹脂からなる膜に対する前記フッ素オイルの接触角が、測定温度20℃において40°以下となる組み合わせから選択されることを特徴とする請求項6に記載のコーティング組成物。
  8. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のコーティング膜が基材の表面に形成されていることを特徴とする物品。
  9. 前記コーティング膜と前記基材の間に、フッ素オイルと、該フッ素オイルの含有量に対して1質量%以上100質量%以下のフッ素樹脂との混合物からなるゲル状の下層が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の物品。
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