実際、本発明者らは、シアン蛍光性タンパク質ECFPのpH感受性が特定のアミノ酸、より詳しくはECFPタンパク質配列の65位および148位のアミノ酸の性質によって強く支配されることを発見した。したがって、本発明の方法は、配列番号2の配列のシアン蛍光性タンパク質ECFPに、好ましくはこの配列の65位および/または148位に突然変異が導入されるステップを含む。さらに、単一の突然変異の導入は、蛍光性タンパク質の物理化学的特性、特にスペクトル特性に劇的な影響を及ぼすことができるが(Espagneら、2011;Sawanoら、2000)、本発明者らによって同定された配列番号2の65位および/または148位の一部の突然変異の導入は、前記特性にマイナスの作用を及ぼさず、中性pHでのこれらのタンパク質の平均蛍光寿命(タウまたはτ)をさらに増加させ、pH1/2を低下させることができる。
本発明による「シアン蛍光性タンパク質」は、エクオレア・ビクトリア(Aequorea victoria)(ECFP)タンパク質配列、配列番号2を起源とする全ての突然変異蛍光性タンパク質を指し、その吸収スペクトルは415〜450nmに含まれる吸光度最大値を示し、その発光スペクトルは470〜490nmに含まれる蛍光最大値を有する。好ましくは、前記タンパク質の吸収スペクトルはおよそ435nmの吸光度最大値を示し、それらの発光スペクトルはおよそ476nmの蛍光最大値を示す。吸収スペクトルは蛍光性タンパク質が励起される波長に対応し、発光スペクトルはタンパク質が蛍光を放出する波長に対応する。
したがって、本発明による突然変異シアン蛍光性タンパク質は、配列番号2のECFPのスペクトルに類似した吸収および発光スペクトルを示すという利点を有する。さらに、これらのタンパク質の蛍光強度(If)およびそれらの平均蛍光寿命(タウまたはτ)は、より広いpH範囲で安定し、より高いままである。
したがって、本発明の方法は、酸性pHでの蛍光強度(If)および平均蛍光寿命(τ)のその減損がECFPのそれらより低い、換言するとそれぞれ50%および33%より低い、好ましくは30%より低い、さらにより好ましくは20%より低いシアン蛍光性タンパク質を得ることを可能にする。さらにより好ましくは、これらの減損はゼロである。
これらの突然変異タンパク質の中性pHでの平均寿命は、ECFPと比較してさらに強化される。したがって、この寿命は2.5ナノ秒(ns)より優れ、4.12nsに到達することができる。
本発明のタンパク質のpH1/2は、それが5.6未満であり、3.4、さらには3.1のpH1/2値に到達することもできるので、ECFPのものより低いpH1/2値へ低減もされる。
本発明の別の特定の利点は、これらの単一の突然変異を、FRET適用でより特に用いられる既存のバイオセンサーに直接的に導入することができるという事実に存する。本発明によるシアン蛍光性タンパク質は、バイオセンサーの中で、pH感受性が低減されているオレンジ色蛍光性タンパク質(TagRFP)または黄色蛍光性タンパク質(YFP型)に特にカップリングすることができる。したがって、そのようなバイオセンサーの開発は、任意のpH条件下、特に酸性pHでの様々な生物学的過程の研究を可能にし、それはECFPタンパク質のpH感受性のために今まで不可能であった。この点に関して、本発明者らは本発明のシアン蛍光性タンパク質がオレンジ色蛍光性タンパク質TagRFPにカップリングしている、低減されたpH感受性を有するバイオセンサーを開発した。
したがって、本発明は、現在のリアルタイム定量的画像化方法の必要条件を満たし、酸性pH条件下でのシアン蛍光性タンパク質の使用を可能にする。
本発明の第1の態様は、単一の突然変異が下記の配列番号2の配列を含むタンパク質配列に導入されるステップa)を含む、低減されたpH感受性を示すシアン蛍光性タンパク質を生成する方法である:
VSKGEELFTGVVPILVELDGDVNGHKFSVSGEGEGDATYGKLTLKFICTTGKLPVPWPTLVTTLTWGVQCFSRYPDHMKQHDFFKSAMPEGYVQERTIFFKDDGNYKTRAEVKFEGDTLVNRIELKGIDFKEDGNILGHKLEYNYISHNVYITADKQKNGIKANFKIRHNIEDGSVQLADHYQQNTPIGDGPVLLPDNHYLSTQSALSKDPNEKRDHMVLLEFVTAAGITLGMDELYK(配列番号2)。
本明細書で、「含む」または「含有する」とは、記載される要素が必要であるか必須であるが、他の任意選択の要素が存在しても存在しなくてもよいことを意味する。
したがって、本明細書で、「配列番号2の配列を含むタンパク質配列」は、配列番号2の配列がそのN末端またはC末端の位置にN末端のメチオニンなどの他のアミノ酸、シグナルペプチド配列、またはタンパク質の精製を可能にするアミノ酸配列でさえも含むことができることを意味する。タンパク質の精製を可能にするアミノ酸配列は、当業者が選択することができる。
タンパク質の機能的特性に影響を及ぼさないペプチド配列、例えばポリヒスチジン配列および/またはプロテアーゼ切断部位配列に含まれるもの(例えば、配列がMSYYHHHHHHDYDIPTTENLYFQGAの配列番号70)。したがって、突然変異させるタンパク質配列は、配列番号4の配列を含むか、それからなることができる。
別の好ましい実施形態により、前記配列番号2の配列は他のアミノ酸を含まず、その結果前記タンパク質配列は配列番号2の配列だけからなる。
好ましくは、前記突然変異は、配列番号2の配列の65位または148位に導入される。
本発明の特定の実施形態により、本方法は、ステップa)の突然変異が148位に導入される場合は、追加の突然変異が配列番号2の配列の65位に導入される別のステップb)を含む。相反的に、ステップa)の突然変異が65位に導入される場合は、前記方法のステップb)は、追加の突然変異を配列番号2の配列の148位に導入することにある。
本発明の別の特定の実施形態により、本方法は、上で規定されるステップa)およびステップb)からなる。
有利な実施形態により、本方法は、上で規定されるステップa)だけからなる。
好ましくは、上記の方法の異なる実施形態により、65位のアミノ酸はセリンによって置換され、および/または148位のアミノ酸はグリシン、アラニン、セリンまたはグルタミン酸によって置換される。さらにより好ましくは、148位の前記アミノ酸は、グリシン、アラニンまたはセリンによって置換される。別の好ましい実施形態により、65位のアミノ酸はセリンによって置換され、148位のアミノ酸は、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸またはセリン、好ましくはグリシン、アスパラギン酸またはセリンによって置換される。さらにより好ましくは、65位のアミノ酸はセリンによって置換され、148位のアミノ酸はグリシンによって置換される。
それがステップa)またはステップa)およびb)を含むかそれらからなるかどうかにかかわらず、本発明の方法は、低減されたpH感受性を示す、上で規定されるシアン蛍光性タンパク質の生成を可能にすると理解される。
65位のアミノ酸がセリンによって置換される場合には、本発明の方法に従って得られるシアン蛍光性タンパク質は、増加した量子収量、単純化された蛍光動態、低減された可逆的光退色、ならびに減速された不可逆的光退色も示す。それらの有利な光物理的特性の結果、少なくとも65S突然変異を含む本発明のシアン蛍光性タンパク質は、生細胞の画像化適用、例えばFRETまたはFLIM型適用で特に有益である。
本発明の方法により、「突然変異」とは、ECFPタンパク質をコードする配列番号1のヌクレオチド配列の改変に続く、前記タンパク質の配列番号2のアミノ酸配列の変更を意味する。本発明による突然変異は、元のタンパク質配列と比較して、別のアミノ酸によるアミノ酸の付加、欠失または置換であってよい。好ましくは、前記突然変異は置換である。
ヌクレオチド配列への突然変異の導入を可能にする方法は、当業者に公知である。例えば、ランダムもしくは定方向突然変異誘発によって、変性プライマーを用いるPCRによって、放射線によって、または突然変異誘発物質を用いることにより、突然変異を導入することが可能である。前記技術は、Sambrookら著、「Molecular Cloning: A laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、(2001)、およびAusubelら著、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons(2011)に特に記載される。好ましくは、本発明による突然変異は、定方向突然変異誘発によって導入される。前記突然変異を導入するために、当業者は機能的に同等のコドン(またはヌクレオチドトリプレット)、すなわち同じアミノ酸または生物学的に同等のアミノ酸をコードするコドンを用いることができるものと理解される。さらに、当業者が本発明の突然変異シアン蛍光性タンパク質の発現を最適化することを望むならば、様々な生物体およびオルガネラでのコドンの最適使用を掲載するウェブサイトhttp://www.kazusa.or.jp/codon/上のデータベースを参照することができる。
本発明との関連で、「アミノ酸」は、天然のα-アミノ酸(例えばアラニン(Ala、A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リシン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)およびバリン(Val、V)のDまたはL形)、ならびに非天然のアミノ酸の全ての残基を意味する。
本発明の別の態様は、ステップa)またはステップa)およびb)を含むかそれらからなる上記の方法によって得られた、低減されたpH感受性を有するシアン蛍光性タンパク質に関する。
本明細書で、本発明による「pH感受性」またはpH依存性は、タンパク質が存在する媒体のpHが塩基性pHから酸性pHになるときのシアン蛍光性タンパク質の蛍光強度(If)の減損および/または蛍光寿命(タウまたはτ)の減少を意味する。本発明によるpH感受性は、2つの上記基準の少なくとも1つによって規定することができる。
好ましくは、用語「pH感受性」は、タンパク質が存在する媒体のpHが塩基性pHから酸性pHになるときのシアン蛍光性タンパク質の蛍光強度(If)の減損および蛍光寿命(タウまたはτ)の減少を指す。本発明により、用語減損、低下、減少、減衰または低減は同義であり、互換的に用いることができる。
用語蛍光強度(If)、量子収量または輝度は、相互依存している。本発明との関連で、用語「蛍光強度」は、所与の波長で容量1単位につき、および時間1単位につき蛍光性タンパク質によって放出される光子数を意味する。用語「量子収量」は、発光スペクトル全体での放出蛍光の強度の比、および前記タンパク質の吸収強度の比を指す。用語「輝度」に関しては、これは、前記タンパク質の量子収量およびモル吸収係数の積を指す。
蛍光性タンパク質の「蛍光強度」は、分光蛍光光度計、例えばFluorolog(登録商標)3(HORIBA Jobin Yvon)などを用いて、および低濃度条件、例えば、
の下で得ることができ、それは、
で表され、上式で、
-ε(λex)およびI0(λex)は、前記タンパク質のモル吸収係数および励起波長λexでの入射光線の強度をそれぞれ指し;
- f(λem)は、発光波長λemでの蛍光強度を表す。
発光スペクトルに組み込むと、このパラメータは、量子収量に等しく;
- Cは、前記タンパク質の濃度であり;
- lは、試料中の光路の長さである。
これらのパラメータの測定を可能にする方法は、B. Valeur著、「Molecular Fluorescence: Principles and Applications」、第3版。(2006)、Wiley-VCHに記載される。
さらに、蛍光強度の測定は、以下の変動を考慮することを可能にする:
-モル吸収係数、したがって吸収スペクトル;
-タンパク質を異なるpH条件下で研究するときの、発光波長での、したがって発光スペクトルの伸長による発光の可能性。
用語「蛍光寿命」(タウ、<τ>)は、蛍光性タンパク質がその基底状態に戻るまで励起状態のままである平均時間を意味する。この持続時間は、好ましくはナノ秒で測定される。ここでは、蛍光寿命は平均寿命(<τ>)であり、蛍光発光減衰I(t)を、式:
による指数合計を用いて調整することによって得られ、
である。
ここでは、蛍光発光減衰は、O'Connorら(1984)によって記載される特異な光子計数法によって得られる。
蛍光寿命を測定する方法の中で、我々は蛍光寿命画像化鏡検(FLIM)および時間相関単一光子計数法(TCSPC)を引用することができる。
上記の方法は、好ましくは0℃〜100℃に含まれる温度範囲で、好ましくは1℃〜90℃、2℃〜80℃、3℃〜70℃、4℃〜60℃、5℃〜50℃に含まれる範囲で、さらにより好ましくは6℃〜40℃、7℃〜30℃、8℃〜25℃、9℃〜24℃、10℃〜23℃、さらにより好ましくは11℃〜22℃、12℃〜21℃に含まれる範囲で実施することができる。有利には、前記温度範囲は20℃±0.1℃である。
塩基性pHとは7〜14に含まれるpH値を意味し、酸性pHとは0〜7に含まれるpH値を意味する。したがって、本発明による前記pH感受性は、0から14のpH範囲、好ましくはpH1からpH13、pH2からpH12のpH範囲にわたって、より好ましくはpH2.5からpH11、pH3から10、pH4からpH9の範囲にわたって、さらにより好ましくはpH5からpH8およびpH5.5からpH7.5の範囲にわたって研究される。有利には、試験されるpHは、pH5.5からpH7.4までである。上記の減損、減少または変化は、本発明により、最も塩基性のpHと最も酸性のpHの間で常に測定される。
「低減されたpH感受性」とは、本発明の方法により得られたタンパク質の蛍光強度(If)の減損が、前記タンパク質が存在する媒体のpHが塩基性pHから酸性pHになるとき、50%より低く、好ましくは33%より低く、さらにより好ましくは30%、25%、20%、15%、10%、5%より低く、有利には0%に等しいことを意味する。より詳しくは、前記pHがpH7.4からpH5.5になるときに、蛍光強度の前記減損は50%より低く、好ましくは33%より低く、さらにより好ましくは30%、25%、20%、15%、10%、5%より低く、有利には0%に等しい。
用語「低減されたpH感受性」は、本発明の方法により得られたタンパク質の蛍光寿命(タウまたはτ)の減損が、前記タンパク質が存在する媒体のpHが塩基性pHから酸性pHになるとき、33%より低く、好ましくは32%より低く、さらにより好ましくは30%、25%、20%、15%、10%、5%より低く、有利には0%に等しいことを意味することもできる。より詳しくは、前記pHがpH7.4からpH5.5になるときに、蛍光寿命の前記減損は33%より低く、好ましくは32%より低く、さらにより好ましくは30%、25%、20%、15%、10%、5%より低く、有利には0%に等しい。
上で規定される2つの基準の少なくとも1つが満たされるとき、本発明により、シアン蛍光性タンパク質のpH感受性は低減される。
好ましくは、上で規定される2つの基準が満たされる場合に、シアン蛍光性タンパク質のpH感受性は低減される。
これらの基準に加えて、「低減されたpH感受性」を有するシアン蛍光性タンパク質は、ECFPのpH1/2値に対してそれらの半移行pH(pH1/2)の低下を時には示すことができる。したがって、pH1/2の低下は、少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4pH単位、好ましくは少なくとも0.5、1、1.5、2pH単位、さらにより好ましくは少なくとも2.2pH単位である。
本明細書で、本発明による「pH1/2」は、上で規定される最も塩基性のpHおよび最も酸性のpHでのタンパク質の474nmでの蛍光強度の合計が半減されるpH値を意味する。蛍光強度は、上で規定される方法で測定される。好ましくは、pH1/2は、pH7.4およびpH2.5での前記タンパク質の474nmでの蛍光強度の合計が半減されるpH値である。蛍光性タンパク質の半移行pHを測定するための同等の方法は、各試験pH値で、420nmでの励起によって得られる蛍光発光スペクトルの下の面積を計算することによって、前記タンパク質によって放出される総蛍光の強度を測定することにある。この総強度は、次に420nmでの吸光度から補正される。半移行期間は、類似した計算法によってこのように得られる補正された総強度のpHの関数としての変動から推定することもできる(これらの総強度の合計などのpH値は最も塩基性のpHであり、最も酸性では半減される)。
さらに、これらのタンパク質は、ECFP寿命と比較してpH7.4でそれらの蛍光寿命(タウまたはτ)の前向きの増加を示すこともできる。したがって、τ値の増加は、少なくとも0.1ns、好ましくは少なくとも0.5ns、1ns、さらにより好ましくは少なくとも1.5nsである。
それにもかかわらず、「低減されたpH感受性」特性は、熱力学または動態学的安定性、より一般的には「安定性」として知られるものに例えるべきでない。実際、タンパク質の「安定性」は、外部の物理化学的条件(温度、気圧など)の所与の範囲内でのこのタンパク質のネイティブ構造の保持で特徴づけられ、それは、タンパク質構造を破壊するために用いられる外部条件だけでなくこのタンパク質の変性状態を評価するために選択されるパラメータにも依存するので、評価するのが困難なことがある複雑な概念である。
シアン蛍光性タンパク質を記載する本発明による基準は、以下の規則に従う:ECFP(突然変異アミノ酸番号-導入されたアミノ酸の名前)。
本発明によるアミノ酸のナンバリングは、N末端メチオニンアミノ酸に基づく従来のものでなく、ECFP配列番号2の配列のバリンアミノ酸に基づくものである。したがって、配列番号2の配列は、突然変異したアミノ酸の番号または位置を割り当てるための参照としての役割を果たし、導入されるアミノ酸の名前は、さらに記載されるように、配列番号2の配列と本発明の方法によって得られるシアン蛍光性タンパク質のそれとの最適アラインメントを実行することによって決定することができる。
本発明による低減されたpH感受性を有するシアン蛍光性タンパク質の例は、配列番号6、配列番号8、配列番号58、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号60、配列番号72、配列番号74および配列番号76(下記のTable 1(表1)を参照)の配列からなる群の中から選択されるタンパク質配列を非限定的に含むかそれからなる。
本発明の好ましい実施形態により、本発明によるシアン蛍光性タンパク質は、配列番号12、配列番号14、配列番号60、配列番号74および配列番号76の配列からなる群から選択されるタンパク質配列を非限定的に含むかそれからなる。
別の有利な実施形態により、本発明によるシアン蛍光性タンパク質は、配列番号12の配列のタンパク質配列を含むかそれからなる。
本発明は、上で規定されるシアン蛍光性タンパク質をコードする核酸にも関する。
「核酸」またはヌクレオチド配列は、cDNA、ゲノムDNAおよびプラスミドDNAから選択される一本鎖または二本鎖DNAならびに前記DNAの転写生成物の両方に対応することができる、非天然のヌクレオチドを含むか含まない、核酸の断片または領域を規定することを可能にする、改変されたか改変されていないヌクレオチドの正確な鎖を意味する。
本発明による核酸の例は、配列番号5、配列番号7、配列番号57、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号59、配列番号71、配列番号73および配列番号75(下記のTable 1(表1)を参照)の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を非限定的に含むかそれからなる。
本発明の好ましい実施形態により、核酸は、配列番号11、配列番号13、配列番号59、配列番号73および配列番号75の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を非限定的に含むかそれからなる。
別の有利な実施形態により、本発明による核酸は、配列番号11の配列のヌクレオチド配列を含むかそれからなる。
上で規定される核酸は、それらの配列の5'末端に開始コドンおよび/または3'末端に終止コドンを含むか含まないことができる。開始コドンには、コドン(またはトリヌクレオチド、またはヌクレオチドトリプレット)のATG、AUG、TTG、UUG、GTG、GUG、CTGおよびCUGが非限定的に含まれ、翻訳される前記核酸がある宿主細胞に基づいて当業者が選択することができる。終止コドンには、コドンのTAG、UAG、TAA、UAA、TGAおよびUGAが特に含まれ、翻訳される前記核酸がある宿主細胞に基づいて当業者が選択することができる。
有利には、これらの核酸は、それらがコードするシアン蛍光性タンパク質が別のタンパク質と直接的または間接的に融合するとき、開始コドンおよび/または終止コドンを含まない。
これらの核酸は、それらの5'末端および/または3'末端に、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列および/またはそれらがコードするタンパク質の精製を可能にするアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むこともできる。後者は、タンパク質の機能的特性に影響を及ぼさないヌクレオチド、例えばポリヒスチジン配列および/またはプロテアーゼ切断部位配列の中から当業者が選択することができる(例えば、配列がATGTCGTACT ACCATCACCA TCACCATCAC GATTACGATA TCCCAACGAC CGAAAACCTG TATTTTCAGG GCGCCの配列番号69)。
本発明の別の実施形態により、本方法は、ステップa)、またはステップa)およびステップb)に加えて、9G、11I、19E、26R、68L、72A、87V、145A、164H、167A、172T、175G、194Iおよび206Kの群から選択される少なくとも1つの他の突然変異が配列番号2の配列に導入され、ステップa)および/またはステップb)の前か後のいずれかに実行されるステップc)を含む。
したがって、本発明による「シアン蛍光性タンパク質」は、65位および148位以外の位置に1つまたはいくつかの補助的(または追加の)突然変異を有することができるが、ただし、これらの突然変異が、前述の本発明のタンパク質の吸収および発光スペクトルの保存を可能にする場合に限る。そのような保存的な突然変異は、当業者に公知であり、突然変異9G、11I、19E、26R、68L、72A、87V、145A、164H、167A、172T、175G、194Iおよび206Kの中から、好ましくは突然変異26R、72A、145A、164Hおよび206Kの中から非限定的に選択することができる。これらの補助的突然変異は、同一の方法により、本発明に特徴的な65位および/または148位の突然変異の前か後にさらに導入することができる。したがって、ステップa)、b)およびc)を含むかそれらからなる本発明の方法は、低減されたpH感受性を示す、上で規定されるシアン蛍光性タンパク質の生成を可能にする。
したがって、このように突然変異シアン蛍光性タンパク質のアミノ酸配列は、隣接して、または隣接せずに、ECFPの配列番号2の配列と少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を示すことができる。好ましくは、本発明によるアミノ酸配列は、隣接して、または隣接せずに、配列番号2の配列と少なくとも約85%、有利には少なくとも約90%の同一性を示す。さらにより好ましくは、本発明によるアミノ酸配列は、隣接して、または隣接せずに、配列番号2の配列と少なくとも約95%の同一性、有利には少なくとも約97%、さらにより好ましくは少なくとも約99%の同一性を示す。
上記の同一性百分率は、比較するアミノ酸配列の(ここでは配列番号2の配列との)最適アラインメントを実行することによって求めることができ、この百分率は純粋に統計的であり、2つの配列間の差はそれらの全長にわたって分布する。このアラインメントは当業者に公知であるアルゴリズム、例えばNeedlemanおよびWunsch(J.Mol. Biol.、1970、48:443頁)のグローバルアラインメントおよびコンピュータ化されたアプリケーションを用いて、またはただ単なる検査によって実行することができる。最良のアラインメント(すなわち最も高い百分率の同一性を生成するもの)を次に選択する。2つのアミノ酸配列間の同一性百分率は、これらの2つの配列の最適アラインメントのために、参照配列(ここでは配列番号2の配列)と比較して、比較されるアミノ酸配列が付加または欠失を含むことができる最適な様式でアラインメントさせたこれらの2つの配列を比較することによって求められる。同一性百分率は、アミノ酸残基が2つの配列の間で同一である同一位置の数を求め、この同一位置の数を位置の総数で割り、得られた結果を100倍して、これらの2つの配列の間で同一性百分率を得ることによって計算される。
好ましくは、1〜20個の補助的突然変異、好ましくは1〜10個の突然変異、さらにより好ましくは1〜5個の突然変異、有利には1〜2個の突然変異を配列番号2の配列に導入することができる。
本発明の好ましい実施形態により、配列番号2の配列に導入される追加の突然変異は、突然変異9G、11I、19E、26R、68L、72A、87V、145A、164H、167A、172T、175G、194Iおよび206Kの中から単独で選択される。さらにより好ましくは、これらの追加の突然変異は、突然変異26R、72A、145A、164Hおよび206Kの中から単独で選択される。
このように生成することができるタンパク質の例は、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号62、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号64、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号66、配列番号34、配列番号80および配列番号82(下記のTable 1(表1)を参照)の配列からなる群から選択されるタンパク質配列を非限定的に含むかそれからなる。
好ましい実施形態により、本発明のシアン蛍光性タンパク質は、配列番号18、配列番号20、配列番号62、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号64、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号66、配列番号34、配列番号80および配列番号82の配列からなる群から選択されるタンパク質配列を非限定的に含むかそれからなる。
さらにより好ましい実施形態により、本発明によるシアン蛍光性タンパク質は、配列番号18、配列番号20、配列番号62、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号64、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号66、配列番号80および配列番号82の配列からなる群から選択されるタンパク質配列を非限定的に含むかそれからなる。
さらにより好ましくは、本発明のシアン蛍光性タンパク質は、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号64、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号66、配列番号80および配列番号82の配列からなる群から選択されるタンパク質配列を非限定的に含むかそれからなる。
さらにより有利な実施形態により、本発明のシアン蛍光性タンパク質は、配列番号22、配列番号24、配列番号26および配列番号64の配列からなる群から選択されるタンパク質配列を非限定的に含むかそれからなる。
本発明の別の有利な実施形態により、本発明のシアン蛍光性タンパク質は、配列番号28、配列番号30、配列番号32および配列番号66の配列からなる群から選択されるタンパク質配列を非限定的に含むかそれからなる。
別の有利な実施形態により、本発明のシアン蛍光性タンパク質は、配列番号80または配列番号82のタンパク質配列を含むかそれからなる。
本発明は、上記のシアン蛍光性タンパク質をコードする核酸にも関する。
したがって、前記タンパク質またはヌクレオチド配列をコードする核酸は、隣接して、または隣接せずに、ECFPの配列番号1の配列と少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を示すことができる。好ましくは、本発明によるヌクレオチド配列は、隣接して、または隣接せずに、配列番号1の配列と少なくとも約85%、有利には少なくとも約90%の同一性を示す。さらにより好ましくは、本発明によるヌクレオチド配列は、隣接して、または隣接せずに、配列番号1の配列と少なくとも約95%の同一性、有利には少なくとも約97%、さらにより好ましくは少なくとも約99%の同一性を示す。
上記の同一性百分率は、比較するヌクレオチド配列の(ここでは配列番号1の配列との)最適アラインメントを実行することによって求めることができ、この百分率は純粋に統計的であり、2つの配列間の差はそれらの全長にわたって分布する。このアラインメントは当業者に公知であるアルゴリズム、例えばNeedlemanおよびWunsch(J.Mol. Biol.、1970、48:443頁)のグローバルアラインメントおよびコンピュータ化されたアプリケーションを用いて、またはただ単なる検査によって実行することができる。最良のアラインメント(すなわち最も高い百分率の同一性を生成するもの)を次に選択する。2つのヌクレオチド配列間の同一性百分率は、これらの2つの配列の最適アラインメントのために、参照配列(この場合は配列番号1の配列)と比較して、比較されるヌクレオチド配列が付加または欠失を含むことができる最適な様式でアラインメントさせたこれらの2つの配列を比較することによって求められる。同一性百分率は、核酸が2つの配列の間で同一である同一位置の数を求め、この同一位置の数を位置の総数で割り、得られた結果を100倍して、これらの2つの配列の間で同一性百分率を得ることによって計算される。
追加の突然変異を示す本発明のタンパク質をコードする核酸の例は、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号61、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号63、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号65、配列番号33、配列番号79および配列番号81(下記のTable 1(表1)を参照)の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を非限定的に含むかそれからなる。
好ましい実施形態により、本発明によるシアン蛍光性タンパク質をコードする核酸は、配列番号17、配列番号19、配列番号61、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号63、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号65、配列番号33、配列番号79および配列番号81の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を非限定的に含むかそれからなる。
より好ましい実施形態により、本発明による核酸は、配列番号17、配列番号19、配列番号61、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号63、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号65、配列番号79および配列番号81の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を非限定的に含むかそれからなる。
さらにより好ましくは、本発明による核酸は、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号63、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号65、配列番号79および配列番号81の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を非限定的に含むかそれからなる。
さらにより有利な実施形態により、本発明の核酸は、配列番号21、配列番号23、配列番号25および配列番号63の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を非限定的に含むかそれからなる。
本発明の別の有利な実施形態により、本発明の核酸は、配列番号27、配列番号29、配列番号31および配列番号65の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を非限定的に含むかそれからなる。
別の有利な実施形態により、本発明による核酸は、配列番号79または配列番号81のヌクレオチド配列を含むかそれからなる。
本発明の別の態様は、上で規定される、本発明による突然変異シアン蛍光性タンパク質をコードする核酸を含む組換えベクターに関する。したがって、前記核酸は、この核酸を増幅するか、または本発明によるシアン蛍光性タンパク質を発現させる目的で、複製が可能なベクターに挿入することができる。本発明によるベクターには、核酸の増幅を可能にするクローニングベクターおよびタンパク質の発現を可能にする発現ベクターが含まれ、これらのベクターは、当業者に周知である。そのようなベクターには、非限定的に、プラスミド、コスミド、YACS、ウイルス(アデノウイルス、レトロウイルス、エピソームEBV)およびファージベクターが含まれる。当業者は、本発明のシアン蛍光性タンパク質の発現を可能にする他の任意の適当なベクターをさらに用いることができる。
核酸をそのようなベクターに挿入する方法は、当業者に公知である。一般に、核酸は、当技術分野で公知の技術を用いることによって、少なくとも1つの適当なエンドヌクレアーゼ制限部位に挿入される(例えば、Sambrookら(2001)およびAusubelら(2011)に記載される技術を参照)。
本発明の核酸の転写、本発明のシアン蛍光性タンパク質の発現および/または精製を可能にするヌクレオチド配列が、本発明の組換えベクターにさらに含有される。これらの配列には、一般に、および非限定的に、1つまたはいくつかのペプチドシグナル配列、複製起点、1つまたはいくつかの選択遺伝子マーカー、増幅エレメント、プロモーター、転写終止配列、およびおそらくタンパク質の精製を可能にする配列が含まれる。前記ベクターへのそのような配列の挿入は、当業者に公知である標準のライゲーション技術によって実行することができる。
選択される複製起点に従い、前記クローニングまたは発現ベクターは、1つまたは複数の宿主細胞で複製することができる。したがって、プラスミドpBR322の複製起点は、大多数のグラム陰性細菌に適合し、プラスミド2μのそれは酵母に特異的であり、様々なウイルスの複製起点(SV40、ポリオーム、アデノウイルス、VSVまたはBPV)は哺乳動物細胞でのクローニングベクターのために有益である。
選択されるプロモーターに従い、核酸を転写し、対応するタンパク質を1つまたは複数の宿主細胞で発現させることができる。したがって、プロモーターT7、Lac、trp、tac、λPLは、大腸菌(E. coli)属の細菌に特異的であり;プロモーターPHO5、GAP、TPI1、ADHは酵母に適合し;プロモーターポリヘドリンおよびP10およびそれらの同等物は、昆虫細胞で用いられ;最後に、プロモーターCMV、MT1、由来SV40、SRα、レトロウイルス、および熱ショックタンパク質遺伝子プロモーターは、哺乳動物細胞に適合する。
クローニングまたは発現ベクターに典型的に含まれる選択マーカー遺伝子の中では、非限定的に以下のものを引用することができる:(a)抗生物質または毒素(例えば、ネオマイシン、ゼオシン、ハイグロマイシン、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール)への抵抗性を付与する遺伝子、および(b)栄養要求性欠陥の補償を可能にする遺伝子(例えばメトトレキセート抵抗性を可能にするジヒドロ葉酸還元酵素DHFRをコードする遺伝子、またはS.ポンベ(S. pombe)のTPI遺伝子も)。
タンパク質の精製を可能にするヌクレオチド配列には、ヒスチジン配列(ヒスチジンタグまたはHisx6)、FLAG配列およびGST配列が含まれるが、これらに限定されない。その後精製配列を抑制するために、TEVなどのプロテアーゼ切断配列がさらに存在してよい。
本発明の好ましい実施形態により、6個のヒスチジンのヌクレオチド配列およびプロテアーゼ切断配列TEV、より詳しくはアミノ酸配列、MSYYHHHHHHDYDIPTTENLYFQGA(配列番号70)をコードするヌクレオチド配列が本発明の組換えベクターに存在する。
本発明の特に好ましい実施形態により、本発明の発現ベクターは、ベクターpPROEX(商標)HTa(GibcoBRL)である。
上記の追加の配列に本発明による核酸を接続させる方法は、当業者に公知である。
本発明は、前記タンパク質をコードする核酸によって、または前記核酸を含む組換えベクターによって形質転換される宿主細胞にも関する。
本明細書で用いるように、用語「宿主細胞」、「細胞」および「細胞系」は、互換的に用いることができる。全てのこれらの用語はそれらの後代も含み、それは全ての以降の世代を含む。故意または偶然の突然変異を考慮すると、全ての後代が必ずしも同一であるとは限らないものと理解される。
本明細書で「宿主細胞」とは、本発明による突然変異蛍光性タンパク質をコードする核酸または前述の組換えベクターを複製することが可能で、したがって本発明の突然変異蛍光性タンパク質を発現することが可能である原核生物または真核生物の細胞を指す。前記核酸または前記ベクターが宿主細胞に移されるか導入される、当業者に公知の方法によって、宿主細胞を「トランスフェクト」または「形質転換」させることができる。そのような方法の例には、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストランによるトランスフェクション、マイクロインジェクションおよび微粒子銃が含まれるが、これらに限定されない。
宿主細胞には、非限定的に、細菌、酵母、真菌または他の任意の高等真核細胞が含まれる。したがって、特にAmerican Type Culture Collection(ATCC)(www.ATCC.org)を通して、当業者は多くの入手できる細胞系の中から適当な宿主細胞を選択することができる。宿主細胞の例には、非限定的に、微生物、例えばエシェリヒア属(Escherichia)(例えば、大腸菌RR1、LE392、B、X1776、W3110、DH5アルファ、JM109、KC8)、セラチア属(Serratia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、エルウィニア属(Erwinia)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium)、ロドバクター属(Rhodobacter)、サルモネラ属(Salmonella)またはザイモモナス属(Zymomonas)のグラム陰性細菌、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、バシラス属(Bacillus)、アルスロバクター属(Arthrobacter)またはストレプトミセス属(Streptomyces)のグラム陽性細菌、サッカロミセス属(Saccharomyces)の酵母、アスペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポラ属(Neurospora)、フザリウム属(Fusarium)およびトリコデルマ属(Trichoderma)の真菌からの細胞、HEK293、NIH3T3、Jurkat、MEF、Vero、HeLa、CHO、W138、BHK、COS-7、MDCK、C127、Saos、PC12、HKGを含む動物細胞、ならびに昆虫細胞のSf9、Sf21、Hi Five(商標)またはカイコ(Bombyx mori)が含まれる。昆虫細胞の使用は、特にマニュアル「Baculovirus Expression vectors, A Laboratory Manual」、David R. O'Reillyら著、Oxford University Press、USA、(1992)に記載される。
宿主細胞が上記の本発明の組換えベクターによって形質転換される場合には、前記宿主細胞の選択は、前記ベクターの選択によって、および選択される使用、すなわち核酸のクローニングまたは本発明の突然変異シアン蛍光性タンパク質の発現に従って決定することができる。
本発明の別の態様は、本発明の突然変異シアン蛍光性タンパク質を発現させ、精製する方法に関する。この方法により、上記の宿主細胞は、本発明のタンパク質の発現を可能にする条件下で適当な培養培地で培養される。当業者は、前記タンパク質の単離および精製を可能にする任意の従来の方法を用いることができる。例えば、前記タンパク質が宿主細胞で可溶形で発現された場合には、後者は遠心分離によって回収されて緩衝液に懸濁され、次に、例えば超音波ホモジナイザーによって細胞を破壊することによって細胞抽出物が得られる。この抽出物の遠心分離によって得られる上清から、本発明のタンパク質を単離し、精製するための従来の方法または従来の方法の組合せを用いて、精製された試料が得られる。これらの方法には、溶媒による抽出、硫安放出、脱塩、有機溶媒による沈殿、ゲル濾過、調製用電気泳動、等電フォーカライゼーション、限外濾過、多数のクロマトグラフィー方法、例えばイオン交換クロマトグラフィー(例えばジエチルアミノエチル(DEAE)セファロースなどの樹脂を用いるアニオン性か、例えばS-セファロース(Pharmacia)などの樹脂を用いるカチオン性)、疎水性クロマトグラフィー(例えばブチルセファロースまたはフェニルセファロースなどの樹脂を用いる)、抗体による親和性クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、クロマトフォーカライゼーション、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および逆相HPLCが含まれるが、これらに限定されない。
さらに、プロテアーゼによる切断配列と融合している、タンパク質の精製を可能にするヌクレオチド配列が組換えベクターに存在する場合は、生成されるタンパク質は前記切断配列に特異的なプロテアーゼ(トロンビン、トリプシン、プロテアーゼTEVなど)による処理を通して回収することができる。
本発明の別の態様は、本発明によるシアン蛍光性タンパク質を含むバイオセンサーに関する。
本明細書で「バイオセンサー」は、共有結合または非共有結合によって別の分子に連結する生体感受性センサーを含み、生物学的応答を電気的、化学的、物理的、光物理的または光化学的シグナルに変換させる分子と理解するものとする。本発明による「生体感受性センサー」は、天然または合成の分子であり、そのバイオセンサーが上で規定される宿主細胞で発現されるとき、イオン、糖、酵素、核酸、抗体、補因子または天然であるか改変されたタンパク質(例えばグリコシル化またはリン酸化によって)などの分析物の存在の検出および/またはその濃度もしくは活性の測定を可能にする。したがって、前記細胞に存在する前記分析物と前記センサーとの間の相互作用はバイオセンサーの構造再配置をもたらし、それは上記のシグナルによって反映される。前記センサーは、例えば、糖、脂質、タンパク質または核酸であってよい。好ましくは、前記センサーはペプチド性の分子である。
本発明の好ましい実施形態により、生体感受性センサーには、ペプチド、例えばメリチン、ハイブリッドポリペプチド(すなわち少なくとも2つのタンパク質の融合から生じるポリペプチド)、抗体、酵素または酵素基質も含まれるが、これらに限定されない。前記ハイブリッドポリペプチドの中では、結合部位に融合している酵素(例えば、ペプチドM13に融合しているカルモジュリン、またはその活性立体構造を認識することが可能なドメインに融合しているGTPアーゼも)を引用することができる。感受性バイオセンサーの例としては、タンパク質キナーゼ基質であるペプチド配列、プロテアーゼ基質であるペプチド配列、cAMP結合ドメイン、リン酸化アミノ酸結合ドメイン(FHA)、グルタミン酸結合ドメイン(YbeJ)、スクロース結合ドメイン(例えば、マルトースに結合するMBP)、ならびにCa2+結合ドメイン、例えばトロポニンCおよびその断片を引用することもできる。
したがって、本発明によるバイオセンサーは、細胞代謝または細胞シグナル伝達事象の研究を可能にすることができる。
本発明との関連で、バイオセンサーは、共有結合または非共有結合によって前記感受性バイオセンサーに連結される、低減されたpH感受性を示すシアン蛍光性タンパク質を含む。したがって、このバイオセンサーが宿主細胞で発現されるとき、前記細胞に存在する分析物と前記センサーとの間の相互作用は前記バイオセンサーの構造再配置をもたらし、それは、それが融合される蛍光性タンパク質の蛍光発光の改変によって反映される。本明細書で、「蛍光発光の改変」は、前記タンパク質によって放出される蛍光強度の変動であって、前記変動が前記分析物の濃度もしくは活性に比例するか、またはこの分析物の存在を反映することを特徴とする変動を意味する。蛍光強度は前に記載される通りに測定することができる。
好ましい実施形態により、本発明のバイオセンサーは、その吸収スペクトルが前記バイオセンサーのシアンタンパク質の発光スペクトルと部分的に重複する蛍光性タンパク質をさらに含む。
特定の実施形態により、その吸収スペクトルがシアンタンパク質の発光スペクトルと部分的に重複する蛍光性タンパク質は、前記バイオセンサーに直接的に連結される。本明細書で、「直接的に連結される」は、前記タンパク質が、共有結合または非共有結合によって前記バイオセンサーの生体感受性センサーに連結されることを意味する。
別の特定の実施形態により、その吸収スペクトルがシアンタンパク質の発光スペクトルと部分的に重複する蛍光性タンパク質は、バイオセンサーに間接的に連結される。本明細書で、「間接的に連結される」は、前記タンパク質が、分子を通して、例えば前記分子と前記バイオセンサーの生体感受性センサーの間の非共有結合を通して前記生体感受性センサーに連結されることを意味する。
好ましくは、その吸収スペクトルが本発明のシアンタンパク質の発光スペクトルと部分的に重複する蛍光性タンパク質は、495〜600nm、有利には500〜590nm、さらにより有利には510〜580nm、さらにより有利には520〜570nmおよび550〜570nmに含まれる吸光度最大値を示す。生体感受性センサーを通してこのようにして本発明のタンパク質に融合することができる蛍光性タンパク質の例には、非限定的に、黄色蛍光性タンパク質、例えばYFP、Topaz、EYFP、YPET、SYFP2、Citrine、Venus、cp-Venus、蛍光性オレンジ色タンパク質、例えばKusabira Orange、Kusabira Orange2、mOrange、mOrange2、dTomato、dTomato-Tandem、DsRedおよびその変形体(DsRed2、DsRed-Express(T1)、DsRed-Express2、DsRed-Max、DsRed-Monomer)、TagRFPおよびTagRFP-T、赤色蛍光性タンパク質、例えばmRuby、mApple、mStrawberry、AsRed2、mRFP1、JRed、mCherry、eqFP611、tdRFP611、HcRed1、mRaspberry、ならびに遠赤放出蛍光性タンパク質、例えばtdRFP639、mKate、mKate2、Katushka、tdKatushka、HcRed-Tandem、mPlumおよびAQ143が含まれる(Dayら、2009)。好ましくは、その吸収スペクトルが本発明のシアンタンパク質の発光スペクトルと部分的に重複する蛍光性タンパク質は、上記の黄色またはオレンジ色の蛍光性タンパク質の中から選択される。
特に有利な様式では、その吸収スペクトルが本発明のシアンタンパク質の発光スペクトルと部分的に重複する蛍光性タンパク質は、低減されたpH感受性をそれ自体示す。次に、このタンパク質は、タンパク質Citrine、Venus、cp-Venus、TagRFPおよびTagRFP-Tの中から、好ましくはTagRFPおよびTagRFP-Tの中から選択することができ、さらにより好ましくはこのタンパク質はTagRFPである(Merzlyakら、2007)。
本発明の特に有利な実施形態により、本発明のバイオセンサーは、その配列が65Sおよび148G突然変異を少なくとも含む本発明のシアン蛍光性タンパク質に加えて、TagRFP蛍光性タンパク質を含む。好ましい実施形態により、前記シアン蛍光性タンパク質は、配列番号12、配列番号80または配列番号82の配列からなる群から選択されるタンパク質配列、さらにより好ましくは配列番号82のタンパク質配列を含むかそれからなる。
本発明のバイオセンサーの構築のための蛍光性タンパク質への生体感受性センサーの融合は、当業者に公知である遺伝子工学、酵素または化学的カップリング技術を用いて実行される。そのような技術は、Sambrookら(2001)およびAusubelら(2011)に記載される。
本発明の特に有利な実施形態により、バイオセンサーは、本発明の方法により既存のバイオセンサーを突然変異させることによって、すなわちpH感受性を低減させる少なくとも1つの特異な突然変異を導入することによって生成することができる。当業者にこの他に公知である既存のバイオセンサーの中では、非限定的に、バイオセンサーEpac、Epac2、ECFP-YbeJ-Venus、ECFP-MBP-EYFP、CFP-TnC-Citrine、Aktus、Atomic、Erkus、Phocus、Picchu、AKAR、AKAR1(Zhangら、2001)、AKAR2(Zhangら、2005)、AKAR2.2(Dunnら、2006)、AKAR3、BKAR、CKARおよびDKARを引用することができる。好ましくは、突然変異させたバイオセンサーはAKAR型のバイオセンサーであり、さらにより好ましくはバイオセンサーはAKAR2.2である。
有利な実施形態により、65Sおよび148G突然変異は、本発明の方法によって前記バイオセンサーに導入される。したがって、65Sおよび148G突然変異がAKAR2.2バイオセンサーに導入されるとき、後者は配列番号82の配列を含むシアン蛍光性タンパク質を含む。さらにより好ましくは、65Sおよび148G突然変異は本発明の方法によってAKAR2.2バイオセンサーに導入され、それによって発現されるCitrineは、当業者に公知の古典的遺伝子工学、酵素または化学的カップリング技術によってTagRFPタンパク質と交換され、それによって前記バイオセンサーは、配列番号82の配列を含むシアン蛍光性タンパク質およびTagRFPオレンジ色蛍光性タンパク質を含む。
バイオセンサーに関するより詳細な情報のために、当業者はM.C. Morris(2010)およびFrommerら(2009)による刊行物を参照することができる。
本発明のバイオセンサーは下記の技術によって用いることができ、それらは、より好ましくは本発明によりFRETおよび/またはFLIMである。
本発明の別の態様は、本発明の生成物(特に、上で規定される突然変異蛍光性タンパク質、これらのタンパク質をコードする核酸、組換えベクター、宿主細胞およびバイオセンサー)の使用に関する。
これらには、非限定的に、フローサイトメトリー(FACS)、従来の画像化方法、例えば光子または共焦点鏡検、リアルタイム定量的画像化方法、例えば蛍光相関分光法(FCS)およびその変形(例えばFCCS)、Forster共鳴エネルギー転移(FRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)、蛍光寿命画像化鏡検(FLIM)、光退色後の蛍光再分布(FRAP)、光退色によって誘導される蛍光減損(FLIP)、時間相関単一光子計数法(TCSPC)、異等方性および蛍光脱分極、光活性化局在化鏡検(PALM)、確率的光学再構築鏡検(STORM)、誘導放出抑制鏡検(STED)が含まれる。これには、ハイスループット検出方法、例えば高含有量スクリーニング、ハイスループット鏡検、および従来のまたは超ハイスループット微小流体方法も含まれる。
本発明により用いられる最も好ましい画像化方法は、FRETおよびFLIMである。
本明細書で、用語「Forster共鳴エネルギー転移」(FRET)は、光子の蛍光分子「ドナー」を起源とする励起エネルギーの「アクセプター」蛍光分子への非放射転移を指し、この転移は、光子の「ドナー」が「アクセプター」分子に十分に間近であるとき、すなわち分子の幾何構造および観察系に従って10〜100Åの距離にあるときにだけ可能である(Heyduk(2002)、Truongら(2001)、Issadら(2003)、Bouteら(2002))。この方法は、光子の「ドナー」の蛍光の減少(例えばこの「ドナー」の蛍光の強度または寿命を測定することによって)、または「アクセプター」の蛍光の増加(例えばこの「アクセプター」の蛍光強度を測定することによって)のいずれかの定量化を可能にする。FRETに由来する任意の方法も、本発明に適用される。FRETの場合、本発明による突然変異シアン蛍光性タンパク質は、好ましくは光子の「ドナー」として用いられる。
「生物発光共鳴エネルギー転移」またはBRETは、「ドナー」のエネルギーが、酵素(例えばルシフェラーゼ)の存在下で励起されて光子を放出する生物発光分子、例えばルシフェリン(例えばセレンテラジン)を起源とするという点でFRETと異なる。これらの光子は、エネルギー転移のための近接条件および幾何構造が満たされるならば蛍光を放出する、GFP型の「アクセプター」蛍光分子に次に移される。したがって、本発明による突然変異蛍光性タンパク質は、この種の適用では「アクセプター」蛍光分子として用いられなければならない。
FLIM(または、蛍光寿命画像化鏡検)は、蛍光分子の蛍光減衰の測定およびこの分子の蛍光寿命の定量化を可能にする技術である。この技術は、単独で、またはFRETと組み合わせて、特にタンパク質間相互作用の局在化のため、または細胞シグナル伝達の研究のために用いることができる。FLIMに由来する任意の方法、例えば断層撮影FLIM、多重FLIM、マルチウェルプレート自動化FLIMまたは共焦点内鏡検FLIMが、本発明に含まれる。FLIM技術が本発明で用いられる場合には、好ましくは突然変異シアン蛍光性タンパク質は光子のドナーである。
前述の技術に関するいかなるさらなる詳細については、当業者はDayら(2009)、Trugnanら(2004)およびKumarら(2011)による論文を参照することができる。
特定の実施形態は、化合物および/または細胞のためのスクリーニング方法における、本発明の生成物の使用に関する。好ましくは、前記スクリーニング方法は、ハイスループット検出方法、例えば高含有量スクリーニング、フローサイトメトリー、ハイスループット鏡検、微小流体方法(従来のまたは超ハイスループット)およびプレートリーダーアッセイである。
別の特定の実施形態は、溶液で、より詳しくは、試料、生物抽出物、細胞、組織または生体からの溶液で実施される毒物学、遺伝毒性または環境汚染検出試験における前記生成物の使用に関する。
本発明は、以降の実施例に照らしてより深く理解される。
(実施例)
A-材料および方法
I.シアン蛍光性タンパク質のクローニング
以下の通りに、ECFP(pHis-ECFP)の発現プラスミドをpECFPN1ベクター(Clontech)から構築した:pECFPN1ベクターの全ECFP配列(配列番号1)を、配列番号35の配列の5'-AAGGCGCCGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3'(フォワードプライマー)および配列番号36の配列の5'-TTAAGCTTACTTGTACAGCTCGTCCATGCC-3'(リバースプライマー)のプライマーを用いて、PCRによって増幅した。
得られたPCR生成物を次にHindIIIおよびEheIによって消化し、pPROEX-HTa発現ベクター(GibcoBRL)にライゲーションし、次に制限マッピングおよび配列決定によって検査した。得られた組換えタンパク質(ここでは配列番号4)の精製を促進するために、pPROEX-HTaベクターの配列MSYYHHHHHHDYDIPTTENLYFQGA(配列番号70)(6個のヒスチジンおよびプロテアーゼTEV切断部位を含む)がECFPのN末端に挿入されるように、クローニングを実行した。ECFPの蛍光特性は、この配列による影響を受けない。
II.シアン蛍光性タンパク質のpH感受性の低減を可能にする方法
II.1.定方向突然変異誘発
Stratageneからの「QuikChange突然変異誘発」プロトコルに従って、定方向突然変異誘発により単一の突然変異をシアン蛍光性タンパク質に導入した。各突然変異のために特異的プライマーを設計した(Table 2(表2)を参照)。
したがって、148Gモノマー突然変異は、148Gf(配列番号37)および148Gr(配列番号38)プライマーを用いて導入し;148Sモノマー突然変異は、148Sf(配列番号39)および148Sr(配列番号40)プライマーを用いて導入し;65Sモノマー突然変異は、65Sf(配列番号49)および65Sr(配列番号50)プライマーを通して導入した。
簡潔には、使用した反応条件は以下の通りであった:39μLの水に、突然変異させるシアン蛍光性タンパク質(例えばpHis-ECFP)を発現する1μLのプラスミドベクター(10ng/μL)、導入する突然変異に特異的な各フォワードおよびリバースプライマーの1.5μL(100ng/μL)、1μLのdNTP(10mM)、5μLの反応緩衝液10×および1μLのDNAポリメラーゼPfuUltra HF(2.5U/μL)を加えた。次に、突然変異したヌクレオチド配列の増幅は、この混合物をサーモサイクラーの以下の条件にさらすことによって得られた:95℃で2分の初期サイクル、続いて各サイクルが95℃で30秒、58℃で30秒および72℃で10分からなる18の増幅サイクル、最後に72℃で10分の最終サイクル。最後に、PCR生成物中の突然変異の存在を、DpnI酵素による消化(2.5U;37℃で1時間)およびDNA配列決定によって検査した。
定方向突然変異誘発の同じ方法によって、前述の突然変異の前か後に以下の追加の突然変異を導入した。
- 72A、配列番号51および配列番号52の配列のプライマーを用いる;
- 145A、配列番号53および配列番号54の配列のプライマーを用いる;
- 206K、配列番号55および配列番号56の配列のプライマーを用いる。
II.2.シアン蛍光性タンパク質突然変異体の生成および精製
シアン蛍光性タンパク質突然変異体の生成および精製は、下記のプロトコルに従って実行した。
突然変異シアン蛍光性タンパク質は、製造業者の指示に従ってTOP10コンピテント細胞(Invitrogen)を対象のベクター(すなわち突然変異蛍光性タンパク質をコードするもの)で形質転換することによって調製した。100μg/mLのアンピシリンを含有する1.5LのLuria-Bertani培地(LB)の予熱した容量を、対象のベクターを発現する、事前に一晩培養した25mLの出発培養物で接種した。細胞のOD600が0.6の値に到達したときに、形質転換細胞にイソプロピル-D-チオガラクトピラノシド(IPTG、1mM)を加えることによって、タンパク質の生成を誘導した。30℃で18時間培養した後に、遠心分離によって誘導細胞を収集し、冷凍した。次に細胞を30mLの溶解緩衝液(50mMトリス-HCl、5mMの2-メルカプトエタノール、1mMのPMSFおよび0.02mg/mLのDNアーゼ)に懸濁させ、超音波処理した。最後に、上清だけを収集するために、遠心分離(40,000rpm、6℃で1h30)に細胞細片を除去させた。
各突然変異シアン蛍光性タンパク質の精製のために、0.22μmのフィルターを用いて上清を濾過し、pH7.5のリン酸緩衝液(30mMのNaH2PO4、700mMのNaCl、30mMのイミダゾール)で2倍に希釈した。この溶液を次に、5mLのニトロ酢酸ニッケル(Ni-NTA)アガロース(15mL、Sigma)を含有するカラム内で1時間沈着させた。カラムを次に洗浄し(30mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、10mMのイミダゾール、pH7.5)、対象のタンパク質を溶出した(30mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、150mMのイミダゾール、pH7.5)。-20℃で保管する前に、分光実験のために、各精製タンパク質の溶液を、等モル濃度のCAPS、2-(N-モルホリノ)エタン酸(MES)およびビス-トリスプロパンからなる2mMの濃度およびpH7.4の緩衝液で透析し、次に150μMの範囲の濃度のタンパク質溶液を得るために濃縮した。
次に、精製タンパク質の濃度を、標準としてBSA(ウシ血清アルブミン、1mg/mL)とビシンコニン酸を用いる検査によって求めた。
ECFPrの純度は、質量分析によって、99%より優れていると推定された。同じプロトコルによって精製した突然変異体の純度は、類似していると推定された(電気泳動ゲルにおいて挙動の差は観察されなかった)。
II.3.蛍光分光法およびpH感受性の評価
蛍光吸収および発光の全ての分光測定は、濃度が10μMを超えない精製タンパク質の溶液で実施した。定常分光測定(吸収および発光スペクトル)および蛍光発光減衰の獲得の両方で、タンパク質濃度は一般に10μMであった。
pH研究のために、対象タンパク質の濃溶液の一定分量を、適するpH(測定精度:0.1pH単位)に事前に調整した別々の緩衝液に希釈した。用いた緩衝液の性質は、研究したpH範囲による:
(i) 5.5より上のpH値(pH5.5〜11)のためには、用いた緩衝液は、H2SO4またはNaOH(Aldrich)の添加によってpHを調整したMCBtP 33mM(通常の緩衝液MES、CAPSおよびビス-トリスプロパンの等モル混合物)である;
(ii) 5.5より下のpH値(pH2.5〜5.5)のためには、用いた緩衝液は、NaOHの添加によって同じくpHを調整したクエン酸50mM/NaOHである。
蛍光性タンパク質溶液への濃酸の直接添加は、不可逆的なタンパク質凝集を避けるために避けられた。
II.3.a.定常蛍光分光法
厚さ1cmで黒い側壁を有するクォーツキュベット(Hellma)を用いて、Perkin Elmer Lambda 900分光計で紫外可視吸収スペクトルを実行した。
各精製タンパク質の蛍光発光スペクトルは、厚さ0.3cmで黒い壁を有するクォーツキュベット(Hellma 105-251-QS、Hellma Ltd)を用いて、Fluorolog3 HORIBA Jobin Yvonスペクトル蛍光光度計により制御された温度(T=20℃±0.1℃)で測定した。励起および発光モノクロメーターのスリット幅は、1nmに設定した。次に、1秒の積分時間および1nmの増分でスペクトルを収集した。緩衝液によって放出されるバックグラウンドノイズは、引き算した。
各精製蛍光性タンパク質のために、pHの関数として求めた蛍光発光スペクトルおよびその発生から、474nm(ECFPr発光スペクトルの最大値)での強度を測定した。次にこれらの蛍光強度を420nm(励起波長)での吸光度変動について補正し、これは、474nmでの蛍光発光の量子収量の変動の測定を可能にする。最も弱い蛍光強度に対応するpH7.4およびpH2.5でのこれらの蛍光強度の合計が半減されるpH値として、半移行pH、pH1/2を次に測定した。
II.3.b.時間分解蛍光分光法
蛍光発光減衰は、Ti:サファイヤチューナブルレーザーを励起源として、532nm(10W Verdi、Coherent)のレーザーダイオードによって光学的にポンプ輸送されるロックモード(MIRA 900、Coherent、Watford、UK)で、時間相関単一光子計数法(TCSPC)を用いて記録した。
レーザー繰返し数パルスは、パルスピッカー(結晶SiO2、APE、Berlin、Germany)を通して76MHzから3.8MHzに低減された。パルスピッカーの後、BBO結晶ダブラーを用いて840nmレーザー放射の周波数を2倍にすることによって420nmの励起波長を得た。周波数を2倍にした後、温度制御されたマルチポジション試料ホルダーに置かれた試料に、レーザー励起光を送った。試料での平均レーザー出力は、典型的に1〜1.5μW(約1〜2mmのビームウェスト)であった。蛍光減衰曲線は、急速電子装置(Ortec、Phillips & Tennelec)によって収集した。LUDOX溶液(Dupont)によって散乱された光を測定することによって得られた機器応答関数(IRF)は、60〜70psの半値全幅を典型的に有する。励起は垂直に分極され、試料蛍光は、発光モノクロメーターの前にマジック角(54.7°)に向けられた偏光子に通された。モノクロメータースペクトル分解能が24nmであったECFPr(H148D)で実行されたpH研究を除いて、ほとんどの実験でこの分解能は6nmである。十分統計量を得るために、数十サイクルにわたって試料蛍光およびIRFを交互に収集した:各減衰曲線のために、1秒につき約104ctの速度で、およそ20.106の総カウントを収集した。
III.低減されたpH感受性を有するバイオセンサーの開発
III.1. pHAKARバイオセンサーの構築
低減されたpH感受性を有するpHAKARバイオセンサーは、それぞれのエネルギーアクセプターおよびドナーとしてCitrineおよびシアン蛍光性タンパク質(特に突然変異26R、164Hおよび206Kを含む)、ならびにそれ自体リン酸化アミノ酸(FHA)への結合ドメインおよびプロテインキナーゼA基質配列(PKAと呼ばれる)からなる、これらの2つのタンパク質にはさまれる生体感受性センサーからなる、AKAR 2.2バイオセンサー(Dunnら、2006)から構築した。基質配列でのトレオニンのPKAによるリン酸化は、FHA結合ドメインによる後者の認識につながり;これはバイオセンサーの立体構造の変化につながり、それはシアン蛍光性タンパク質とCitrineとの間のFRETシグナルの増加もたらす。
AKAR2.2バイオセンサーをコードするヌクレオチド配列を、pcDNA3ベクター(Life Technologies)に最初に挿入した。
配列番号49および配列番号50の配列のプライマーカップルならびに配列番号37および配列番号38のカップルをそれぞれ用いる「QuikChange」キット(Stratagene)による点突然変異誘発によって、次に65Sおよび148G突然変異をpcDNA3-AKAR2.2プラスミドに導入した。したがって、バイオセンサーのシアン蛍光性タンパク質は、本発明の65Sおよび148G突然変異を含む。
次に、オレンジ色蛍光発光を有するTagRFPモノマータンパク質(Merzlyakら、2007)を、以下の通りにCitrineの代わりにクローニングした:バイオセンサーの突然変異シアン蛍光性タンパク質および生体感受性センサーをコードするヌクレオチド配列を、pPROEXHTaベクター(GibcoBRL)にHindIIIとSacIの制限部位の間に先ずクローニングした;次に、TagRFPタンパク質のためのヌクレオチド配列を、配列番号77(5'ATTAGAGCTCATGGTGTCTAAGGGCGAA3')の配列のTagRFPfおよび配列番号78(5'ATAATGAATTCTTAATTAAGTTTGTGCCCC3')の配列のTagRFPrのプライマーを用いて市販のpTagRFP-Cベクター(Evrogen)からPCRによって増幅し、pPROEXHTaベクターのSacIとEcoRI部位の間にクローニングした[配列番号82の配列のECFPr-生体感受性センサー]。
それによって得た、蛍光性タンパク質対配列番号82の配列のECFPr/TagRFP、ならびに生体感受性センサーを含有する、pHAKARという名称のプロテインキナーゼAバイオセンサーを、pCDNA3プラスミドベクターのHindIIIおよびEcoRI制限部位に次に導入した。各クローニングは、配列決定によって検査した。
ECFPr(65S、148G)タンパク質をコードするプラスミド(pECFPN1、Clontech)およびpHAKARバイオセンサーをコードするプラスミド(pcDNA3-pHAKAR)を大腸菌で増幅させ、1μg/μL濃度で保管した。
III.2. pHAKARバイオセンサーのpH感受性の蛍光分光法および評価
10%ウシ胎仔血清(Gibco)を追加したDMEM培地の存在下で、BHKハムスター細胞を25cm2フラスコで増殖させた。再ピッキングの間、6ウェルプレートの底に置いた25mm直径のガラスカバーグラスの上に細胞を沈着させ、次に、製造業者のプロトコルに従ってpECFPN1またはpcDNA3-pHAKARプラスミドで90%集密度のリポトランスフェクションによってトランスフェクトさせた(2mLの培地につき4μgのプラスミドおよび10μLのLipofectamine2000;Life Technologies)。トランスフェクションの24時間後に、カバーグラスをattofluor金属チャンバー(Life Technologies)に装着した。測定のために用いた培地は、140mMのKCL、15mMのMES緩衝液および15mMのHepes緩衝液を含有し、そのpHは所望値(7.4または5.9)に調整した。イオノフォア、ナイジェリシン(最終濃度10μM)によって、細胞内pHを外部のpHに調整した。ナイジェリシンとの37℃で5分間のインキュベーションの後、トランスフェクトさせた細胞を20℃で顕微鏡プレートの上に置いた。
単独かpHAKARバイオセンサーに組み込まれる65Sおよび148G突然変異を少なくとも含むECFPrタンパク質によって放出される蛍光の寿命を、水浸対物レンズ(×60、NA 1,2)、水銀ランプおよび蛍光細胞の同定を可能にする蛍光検出系(フィルター:ECFPrのためにOmega XF114-2およびTagRFPのためにTRITC-B-NTE Semrock)、ならびに蛍光寿命の測定のための励起および検出手段を取り付けたNIKON TE2000顕微鏡を用いて異なるpH値(7.40および5.9)で次に観察した。励起は、繊維状の、本来共焦点鏡検のために用いられるC1ヘッドスキャン型(Nikon)に注入された、442nmでのパルスダイオード(LDH 440およびPDL 800Dドライバー、PicoQuant)によって実行した。ヘッドスキャンはEZ-C1ソフトウェアによって導かれ、試料励起の空間制御を可能にする。対物レンズ下で、蛍光光子は、濾過(Omega 480AF30フィルターおよび2つの458nm RazorEdge Long-Pass Semrock)の後、格納式のダイクロイックミラー(45°のSWP-500、Lambda Research)によってマイクロチャネルプレート(Hamamatsu)の方へ反射された。励起レーザーパルスとも同期されている光子計数モジュールPicoHarp300(Picoquant)によって、次にシグナルを収集した。データは、SymPhoTime(Picoquant)ソフトウェアによって分析した。各細胞を対象領域として同定し、蛍光寿命のヒストグラムをこの領域内の全てのピクセルから計算した。カウント総数は1と5.106の間に含まれ、平均寿命はSymPhoTimeによって計算した。各pH条件のために、5〜10個の細胞を測定した。
IV. ECFPシアン蛍光性タンパク質の量子収量、蛍光減衰および光安定性に及ぼす65S突然変異の影響の研究
上のポイントIIに記載のプロトコルに従って、ECFPr、ECFPr(65S)、ECFPr(72A、145Aおよび148D)およびECFPr(65S、72A、145Aおよび148D)タンパク質を生成、生産および精製した。
IV.1.分光データの分析
Merolaら(1989)およびCouprieら(1994)によって記載される最大エントロピー法を用いて、対応する装置関数(IRF)を有する各蛍光発光減衰F(t)を個々に分析した。この分析は、実験的減衰F(t)が以下のコンボリューションの積であると仮定し:
上式で、g(t)は測定されたIRFであり、Im(t)は無限に短い励起へ連続する蛍光発光法則I(t)を表す。分析は、蛍光減衰法則が多数の指数項で構成されると推測する。したがって、総減衰は以下の式に対応し:
上式で、α(t)は標準化された前指数振幅(すなわち
)の分布であり、I0は、測定の実験条件を組み込む不定因子である。F(t)とg(t)の間の時間シフトも最適化し、低減したχ2値が範囲0.97〜1.05に見出され、残分および自己相関関数はランダムに分布する。
この方法によって回収される蛍光寿命α(t)の分布から、分布で観察される各別々のピークの積分によって、少数の個々の構成要素(τi)およびそれらの対応する前指数振幅(ci)が得られた。分布α(t)は、蛍光量子収量(Value B.、2006)に比例するべき平均蛍光寿命<τf>:
を計算するために用いられた。
ci、τiおよび<τf>の測定不確実性は、いくつかの反復同一実験からの標準偏差から求めた。
IV.2.シンクロトロン放射円二色性
測定は、11μmフッ化カルシウム円形キュベット(Wienら、2005)(Hellma)を用いて、Soleilシンクロトロン(Gif sur Yvette、France)(Giulianiら、2009)のDISCOビームラインで実行した。
典型的に、タンパク質濃度は、pH2.5で8mg/L、およびpH7.4で18mg/Lであった。全ての試料は、それらの緩衝液(pH7.4の30mM CAPS、30mM MESおよび30mMのビス-トリスプロパンならびにpH2.5の30mMクエン酸)でその前日に調製した。各タンパク質のために、1秒につき1nmの間隔での170から280nmまでの3つのスキャンを記録し、その後平均した。ベースライン(緩衝液を用いる)の3連続スキャンを同様に得、平均した。全てのタンパク質のために、実験を25℃で記録した。緩衝液スペクトルを、対応する試料のそれから引き算した。260〜270nm領域をゼロに設定し、生じたスペクトルは、CDtoolソフトウェアを用いてCSA(D-10-カンフォスルホン酸)で較正した(Leesら、2004)。残分あたりの平均円二色性は、M-1.cm-1と表される(Kellyら、2005)。二次構造の判定は、CDSSTRおよびCONTINLLアルゴリズムならびにSP175データベースを用いてDICHROWEB(Whitmoreら、2004)によって実施した(Leesら、2006)。2つのアルゴリズムは、類似した結果を提供する。結果は、CDSSTRアルゴリズムを用いて得られた。NRMSD調整パラメータは、全てのタンパク質について0.030〜0.050の範囲内である。
IV.3.光退色実験
IV.3.a.シアン蛍光性タンパク質によるアガロースビーズの標識
ニッケル積載アガロースビーズ(Sigma)を、上述の突然変異組換えタンパク質で標識した。100μLの堆積したビーズを事前に洗浄し、リン酸緩衝液(pH7.5)で平衡させ、冷所で穏やかに撹拌しながら総容積1mLの1〜5μMの精製タンパク質と1時間インキュベートした。次に、ビーズを5000rpmで5分間遠心分離し、2回洗浄し、PBSに再懸濁させた。光退色のために、ビーズ懸濁液の数マイクロリットルを直径25mmの顕微鏡カバーグラスの上に沈着させた。
IV.3.b.サイトゾルシアン蛍光性タンパク質の発現
製造業者の推奨(Invitrogen)に従ってLipofectamine2000を用いて、直径25mmのカバーグラスの上で培養したMDCK細胞を、対象のシアン蛍光性タンパク質をコードする真核生物の発現プラスミドで一時的にトランスフェクトさせた。それらのトランスフェクションの24〜48時間後に、これらの細胞を研究した。
IV.3.c.照射および画像化条件
水浸対物レンズ(×60、NA 1.2;Nikon)、HBO 100WのHgランプを備えた落射蛍光顕微鏡を用い、および蛍光を検出するためのECFPダイクロイックフィルター(Omega XF114-2)を用いて、シアン蛍光性タンパク質の蛍光光退色実験を20℃±0.5℃で実施した。照射電力はニュートラルデンシティフィルターで調整し、いかなる減弱もなしで試料で測定された最大電力はほぼ200μW(FieldMaster 13M41検出器、Coherent)であって、照射場の半径は185μmと推定され、試料の上で約0.2W/cm2の平均照度をもたらした。単一のビーズまたはMDCK細胞の群を画像化場の中心に置き、冷却したCCDカメラ(ORCA-AG Hamamatsu)によって蛍光強度を測定し、NIH ImageJソフトウェアを用いて定量化した。ビーズサイズまたはビーズ標識の密度の関数として測定した光退色速度の有意な依存性は、観察することができなかった。
IV.3.d.光退色実験のモデル化および分析
動態モデル
シアン蛍光タンパク質ECFPは、速度定数koffおよびkonで特徴づけられる2つの状態、蛍光状態と非蛍光状態の間で光活性化可逆的反応を経ると仮定される。
このモデルはこれらの2つの状態の間での熱的緩和、ならびに不可逆的光退色(ここで試験される実験条件により、これらはより遅い時間スケールで起こる)を無視し、2つの形の同一の吸収を仮定する。これは、以下の式をもたらす:
x、蛍光状態の相対画分を設定し
x0=1ととると(系が暗所で熱的平衡にあるとき、時間0で非蛍光状態はない):
が得られ、すなわち、急激な照射の結果、蛍光状態のモル画分は、定常レベルy0=kon/(kon+koff)に向かって時定数τRev=1/(kon+koff)で単一指数関数的に減少する。
可逆的光退色実験の調整
初期強度の1への標準化の後、一過性の光退色曲線をモデル
によって調整し、上式で、y0は定常蛍光レベルを表し、y1は線形法則を仮定する不可逆的光退色速度定数を表し(y1値は、一般に≒-1*10-3s-1であり、得られる不可逆的光退色速度定数に一致する(図22を参照)、y2およびτRevは可逆的退色のそれぞれ相対的振幅および時定数である。
一過性光退色の後の蛍光回復は、照射下で速められる。
初期強度のゼロへの標準化および最大強度の1への標準化の後、同じ解析モデルによって蛍光強度回復曲線を調整した:
蛍光回復のための緩和時間τBackは、蛍光の減損のための緩和時間τRevと優れた一致を示す(図28)。
全ての速度定数konおよびkoffは、照射強度に依存する
速度定数konおよびkoffは、y0およびτRevから直接的に得られる:
照射電力へのkonおよびkoffの線形依存を仮定する2つの状態の動態モデルにより、緩和時間τRevは励起電力(または、W/cm2で表す照射)にも線形に依存するべきであり、可逆的蛍光減損の画分の場合にはそうあるべきでない(1-y0)(これは低励起電力についてほぼ検証されている:特に図28を参照)。
シアン蛍光性タンパク質光変換の量子収量
シアン蛍光性タンパク質ECFPrの光変換反応の量子収量φoffおよびφonは、以下の式によって与えられ:
上式で、kexcは1分子あたりの励起速度であり、有効吸収セクションσexc×励起波長λexcでの光子束Nexcの積によって与えられる:kexc=σexc(cm2)×Nexc(光子/秒/cm2)
ECFPrシアン蛍光性タンパク質については、Iexc=0.05W/cm2の場合、およびλexc=440nmでεon=εoff≒30000M-1cm-1を仮定すると、kexc=13s-1が得られ、koff=0.18s-1およびkon=0.77s-1であり、φoff=1.4%およびφon=6.1%を与える。
B-結果
I. pHの関数としてのECPFおよび本発明による突然変異シアン蛍光性タンパク質のpH感受性の比較
特に酸性pHへの低減されたpH感受性を有するシアン蛍光性タンパク質を生成する目的で、本発明者らは、ECFPのpH感受性に及ぼす様々な突然変異の影響を研究したかった。
したがって、組換え体形式(ECFPr)で様々な単一の突然変異をECFPに導入し、pHが塩基性pHから酸性pHになるときに通常このタンパク質で観察される蛍光強度の減損および蛍光寿命の低減に及ぼすそれらの作用を研究した。この研究の結果は、この後のTable 3(表3)に掲載する。
実際、図1およびTable 3(表3)(下記)に見られるように、pHが7.4から5.5に低下するときに、ECFPrは蛍光強度の50%の減損および蛍光寿命の33%の減少を示す。pHが酸性になるとき、スペクトルの改変も見られる。これらの特性は、FRETなどの生細胞での定量的画像化方法でのECFPrの使用の信頼性を強く制限し、その理由は、それらの方法は蛍光シグナルの極わずかな変動に特に感受性であるためである。実際、ECFPrが可溶化される細胞コンパートメントにより、および試験される実験条件により、細胞内pHは変動する。
さらに、本発明者らによって測定されるECFPrの半移行pH(pH1/2)は5.6であり、中性pHでのその蛍光寿命は2.5nsである。本発明者らによって決定されるECFPrのpH1/2値は、文献に記載のおよそ4.6〜4.7である値と異なることに注意すべきである。本明細書で報告されるような客観分析だけが、本発明のタンパク質と先行技術のそれらの間でのpH1/2の真の差を適切に研究することを可能にする。
したがって、ECFPのpH感受性の課題を解決するために、本発明者らはECFPrの148位に単一の突然変異を先ず導入した。
148D突然変異の導入は、pHが7.4から5.5になるときに、蛍光強度のほぼ50%の減損および蛍光寿命の40%の減少を示すシアン蛍光性タンパク質を生成した。したがって、中性pHでのその蛍光寿命は3.3nsに到達するのに対してECFPrのそれは2.5nsであるので、ECFPrのそれより高い(Table 3(表3))。したがって、この突然変異はECFPrと比較して酸性pHでの蛍光強度および寿命の減損を低減させなかったが、それは中性pHでの寿命を有意に向上させる。
次に、本発明者らは148G突然変異をECFPrに導入し、それによってECFPr(148G)タンパク質を生成した。このタンパク質は、酸性pHで蛍光強度の18%の減損および蛍光寿命の6%の減少だけを示す。そのpH1/2は4.9であり、中性pHでのその蛍光寿命は3.37nsである(図2およびTable 3(表3))。したがって、148G突然変異はECFPのpH感受性の低減を可能にする。
本発明者らは、ECFPの148位の他の突然変異、特に突然変異148E、148Sおよび148Aを次に試験した。
ECFPr(148E)タンパク質は、pH7.4からpH5.5の間で蛍光強度の27%の減損および蛍光寿命の18%の減少を示す。そのpH1/2は5.1であり、中性pHでのその蛍光寿命は3.15nsである(図15およびTable 3(表3))。
このように生成したECFPr(148S)タンパク質は、pH7.4からpH5.5の間で蛍光強度の9%の減損および蛍光寿命の15%の減少だけを示す。さらに、このタンパク質のpH1/2は4.5であり、中性pHでのその蛍光寿命は3.17nsである(図3およびTable 3(表3))。したがって、ECFPへの148S突然変異の導入は、低減されたpH感受性を有するシアン蛍光性タンパク質の取得を可能にする。
ECFPr(148A)タンパク質は、pH7.4からpH5.5の間で蛍光強度の7%の減損および蛍光寿命の4%の減少だけを示す。さらに、このタンパク質のpH1/2は4.5であり、中性pHでのその蛍光寿命は3.15nsである(図4およびTable 3(表3))。したがって、ECFPへの148A突然変異の導入は、低減されたpH感受性を有するシアン蛍光性タンパク質の取得を可能にする。
したがって、ECFPの148位のアミノ酸は、このタンパク質のpH感受性で重要な役割を演ずるようである。
その後、本発明者らはECFPの65位のアミノ酸に重点を置いた。彼らは定方向突然変異誘発によって65S突然変異を導入し、それによってECFPr(65S)タンパク質を生成した。pHが7.4から5.5になるときに、蛍光強度のその減損がわずか15%であり、蛍光寿命の減少が16%であるので、このタンパク質は有利な特性を示す。このタンパク質のpH1/2は4.5であり、その蛍光寿命は3.3である(図5およびTable 3(表3))。したがって、65位のアミノ酸も、ECFPのpH感受性特性に影響するようである。
148位または65位に導入したものに加えて、他の突然変異も評価した。これらは、突然変異72A、145Aおよび206Kの中から選択された。
したがって、ECFPr(72A、145A、148D)シアン蛍光性タンパク質は、ECFPrのようにスペクトルの改変を示す。pHが7.4から5.5になるとき、蛍光強度および寿命でのその減損はそれぞれ33%および32%であり、したがってECFPrのそれ未満である。その半移行pH(pH1/2)は、5.2である(図7およびTable 3(表3))。それにもかかわらず、これらの突然変異の組合せによって付与されるpH感受性の低減は、単一の突然変異148G、148S、148Aまたは65Sによって付与されるものより有利でない。
したがって、本発明者らは突然変異148Dを突然変異148Gに交換し、それによってECFPr(72A、145A、148G)を生成した。pHが7.4から5.5になるとき、蛍光強度および寿命の減損はそれぞれわずか13%および3%であるので、突然変異のこの組合せはpH感受性の低減を可能にする。さらに、このタンパク質のpH1/2はECFPrのそれ未満であり、中性pHでのその蛍光寿命は増加する(タウ=3.13ns)(図8およびTable 3(表3))。
65S突然変異と72Aおよび206Kの突然変異との組合せも、ECFPと比較したpH感受性の低減(図12およびTable 3(表3)を参照)を可能にする。しかし、このタンパク質(ECFPr(65S、72A、206K))で観察される蛍光強度および寿命の減損は、単一の突然変異65Sで観察されるものを超える。
したがって、本発明者らは、この場合突然変異72Aおよび206Kである追加の突然変異の存在下または不在下で、148位および65位の二重突然変異を試験した。
追加の突然変異の存在下または不在下でのこれらの二重突然変異の導入は、ECFPのpH感受性の大幅な低減を可能にし、それを消滅さえさせる(Table 3(表3)を参照)。
実際に、pHが塩基性pHから酸性pHになるとき、タンパク質ECFPr(65S、72A、145A、148D)、ECFPr(65S、72A、148D、206K)およびECFPr(65S、72A、148G、206K)、ECFPr(65S、148G)、ECFPr(65S、148D)およびECFPr(65S、148S)の蛍光強度および寿命の減損は、完全にゼロでないにしてもほとんど0%である。
これらのタンパク質の中で、二重突然変異(65S、148G)および(65S、148S)だけを示すECFPr、ならびにECFPr(65S、72A、148G、206K)は、本発明者らによって生成された全ての突然変異シアン蛍光性タンパク質の中で最良の特性を示す:実際、観察される蛍光強度および寿命の減損は、pHが7.4から5.5になるときはゼロであり、それらのそれぞれのpH1/2は、3.4;3.6および3.1であり、中性pHでのそれらのそれぞれの平均蛍光寿命は、4.12;3.86および4.06nsである。
さらに、蛍光寿命に関して、ECFPr(65S、148G)は、本発明者らによって生成された全てのシアン蛍光性タンパク質の中で最良である。
結論として、ECFPの148位および/または65位の単一突然変異、より詳しくは148G/Aおよび/または65Sの突然変異の導入は、消滅させないまでもそのpH感受性が低減されたシアン蛍光性タンパク質の生成を可能にする。定量的画像化適用でのそのようなタンパク質の使用は、それらが放出する蛍光シグナルのより信頼できる定量化を可能にする。
II.新しいバイオセンサーのpH感受性の研究
生理的pH(7.4)では、pHAKARバイオセンサーに組み込まれ、その配列が中でも65Sおよび148G突然変異を含むシアン蛍光性タンパク質ECFPrによって放出される蛍光の平均寿命が、単独で発現されるECFPr(65S、148G)タンパク質と比較して16%低減されることを本発明者らは見出した(3.32ns対3.96ns)。蛍光寿命のこの低下は、シアン蛍光性タンパク質の光物理的特性の観点からサイレント突然変異である追加の突然変異26R、164Hおよび206Kの存在にでなく、シアン蛍光性タンパク質とTagRFPとの間のエネルギー転移に関連づけられる。
それにもかかわらず、細胞内pHが5.9に低減するとき、pHAKARバイオセンサーの突然変異タンパク質ECFPrの蛍光の平均寿命は、3.32nsから3.23nsまで非常にわずかに変更されるだけであり、pHAKARバイオセンサーのpH感受性の欠如を強調する。
したがってこれらの結果を考慮すれば、その光物理的特性に影響を及ぼさない追加の突然変異およびTagRFPをさらに含むことができる蛍光性タンパク質ECFPr(65S、148G)の対は、低減されたpH感受性を有する、性能を発揮するFRET対を構成するようである。
III.シアン蛍光性タンパク質の量子収量、蛍光減衰および光感受性に及ぼす65S突然変異の影響の研究
上記のように、65S突然変異の導入は、ECFPシアン蛍光性タンパク質のpH感受性を低減する作用を有する。本発明者らは、この突然変異の導入がさらに量子収量を増加させ、蛍光発光の動態を単純化し、光退色に対するこのタンパク質の光安定性を向上させることも発見した。
III.1. 65S突然変異は、シアン蛍光性タンパク質の均一性および量子収量を向上させる
精製タンパク質ECFPrおよびECFPr(72A、145A、148D)の蛍光吸収および発光特性を、中性pHおよび室温で、65S突然変異を含むタンパク質、すなわちタンパク質ECFPr-65SおよびECFPr(65S、72A、145A、148D)のそれらと比較した。これらのシアンタンパク質の吸収および蛍光スペクトルは実際に非常に類似し、インドール型発色団に典型的な二峰性吸収および発光スペクトルを示し、430nmおよび445nmでの2つの吸収最大値ならびに474nmおよび500nmでの2つの発光最大値を有することを本発明者らは見出した(図21)。実験不確実性を考慮すると、研究した全てのタンパク質について、430nmで32000±4000M-1.cm-1の範囲で非常に近い吸収係数が見出された(図22の表)。スペクトルの緊密な類似性にもかかわらず、これらのタンパク質は、それらの量子収量(図22)で、ならびにそれらの蛍光発光減衰から計算されるようにそれらの蛍光寿命分布で著しく異なる(図23)。これらの寿命分布は、全ての場合に、短い構成要素の可変量と関連する主要な、長い蛍光寿命を含む(図22)。ECFPr(72A、145A、148D)タンパク質は、ECFPrタンパク質のそれと比較して増強された量子収量を有するが、不均一な蛍光発光を保持し、その最も長い寿命は全振幅減衰の振幅のわずか64%に寄与する(図22および図23)。
本発明の方法により導入される65S単一突然変異は、ECFPrおよびECFPr(72A、145A、148D)タンパク質の性能をかなり向上させる。ECFPr-65Sのタンパク質の蛍光量子収量は、ECFPrと比較して48%増加し、ECFPr(65S、72A、145A、148D)のそれはECFPr(72A、145A、148D)と比較して25%増加する(図22)。65S突然変異は、蛍光寿命分布のかなりの単純化をももたらす(図23)。ECFPr(72A、145A、148D)タンパク質の場合、65S突然変異は高い蛍光量子収量および平均寿命につながり、蛍光減衰は83%の寿命振幅の近単一指数関数的動態に従う(図22)。
III.2. 65S突然変異は、酸移行の間に検出されるシアン蛍光性タンパク質の中間形を抑制する
酸移行の間のECFPrおよびその突然変異体の蛍光吸収および発光スペクトルの詳細な分析は、中間形の存在を支持する大量の証拠を提供する。詳しくは、ECFPrの場合、媒体のpH4.7までの酸性化に続いて蛍光発光スペクトルの最大値での赤へのシフトが観察される(図24)。pHがさらに低下するとき、発光最大値は再び青にシフトする。この挙動は2つの状態の間の単純移行によって説明することができず、赤にシフトしたその蛍光発光が高酸性のpHで2つの中性および変性した状態とは明らかに別個の中間状態の存在の証拠を提供する。この「赤い」中間体は、65S突然変異がECFPrに導入されるときには消える(図25C)。同様に、タンパク質ECFPr(72A、145A、148D)の場合、pK1/2より下で中間体が存在し、それは青で吸収され、発光する(図25Bおよび図26B);この異性化された中間状態(シストランス異性体の名称でより知られる)は、65S突然変異の導入の後、検出不能になる(図25Dおよび図26D)。実際は、ECFPr(65S、72A、145A、148D)タンパク質の蛍光吸収および発光スペクトルは、いかなる中間スペクトルの破壊もなしに、中性および酸性の両形の混合物を示す。蛍光強度ならびに吸収および発光スペクトルの微細構造の減損、加えて青へのスペクトルシフトは、非常に狭いpH範囲内で事実上同時に起こる。
III.3. 65S突然変異は、シアン蛍光性タンパク質の可逆的光退色の速度および振幅を低減する
多くの天然または遺伝子改変蛍光性タンパク質は、2つの光学的に別個の状態の間で光によって誘発される可逆的変換を経る(可逆的フォトスイッチングタンパク質またはRSFPとも呼ばれる)。そのような可逆的光反応は様々な程度で大多数の蛍光性タンパク質に共通し、このことは生物学的画像化でのそれらの使用に大きな結果をもたらすことができることがさらに認められる:したがって、標準のFRET適用では、蛍光団は、できる限りそのような光反応をなくすべきである。それにもかかわらず、シアンおよび黄色の蛍光性タンパク質の可逆的光変換特性に関する定量データは、かなり稀である。ブラウン拡散による干渉またはこれらのタンパク質を発現する生細胞の運動に関係がある干渉を除去するために、これらの反応は、精製され、固定化された蛍光性タンパク質で観察する方が一般により容易である。
本発明者らは、アガロースビーズに結合する精製タンパク質ECFPrが、その発色団吸収バンドで、照射下一過性の顕著な可逆的光退色を経ることを観察することができた。したがって、水銀ランプの最大電力を用いる急激な広視野照射の下で、1秒未満の単一指数関数的時定数の後、蛍光強度は23%減少する(図22および図27)。この一過性応答の後、おそらく不可逆的光退色のために、1秒につき約0.1%の蛍光強度のより遅い減少がある(下記参照)。照射時間が十分に短く保たれる場合、および完全な暗所で数分後、蛍光強度はその初期レベルに戻る(図27A)。
本発明者らは、一過性退色の後のECFPr蛍光の回復は、同じ波長での中程度の照射によって速められることをさらに観察した(図28)。このことは、その蛍光状態へのECFPrの復帰が光によっても活性化されることを示す。したがって、照射の数秒後に達成される蛍光の定常レベルは定常状態体系に対応しなければならず、そこでは、「off」(非蛍光状態)および「on」(蛍光状態)光反応は両方とも等しい速度で起こる。この系を記載するために、2つの最低状態を含む動態モデルを用いることができる:このモデルは、可逆的退色および光活性化復帰の素反応をそれぞれ記載する2つの速度定数koffおよびkonで特徴づけられる。このモデルにより、退色実験でのみかけの緩和時間τrevは、2つの速度定数の合計の逆数(kon+koff)-1であるが、数秒後に到達する蛍光強度の定常レベルはkon/(kon+koff)によって与えられ、そこから速度定数konおよびkoffを得ることができる(Table 4(表4))。これらの2つの速度定数から、両方向での光変換量子収量を推定することもできる:得られた値φoff=1%およびφon=6%は、ECFPrが高度に有効な可逆的フォトスイッチングタンパク質(RSFP)であることを示す。
65S突然変異を含むか含まない他のシアン蛍光性タンパク質の一過性退色も、同じ実験プロトコルに従って研究した。急激な照射の結果、全ての蛍光性タンパク質は、数秒の類似した時間スケールであるが非常に異なる振幅で、蛍光強度の可逆的減少を経る(図27)。したがって、ECFPr(72A、145A、148D)タンパク質が33%の顕著な減少を示す点に注目される。さらにより注目すべきは、ECFPrまたはECFPr(72A、145A、148D)に導入された65S突然変異は、一過性減少の振幅をいずれの場合も3%未満まで明らかに低減する(図27B)。これらのタンパク質(Table 4(表4))の各々の速度定数konおよびkoffを比較すると、65S突然変異を含むタンパク質は、この突然変異を欠くタンパク質のそれより10倍低い可逆的退色速度koffを示し、光活性化復帰には中程度の変化だけがある点が注目される(Table 4(表4))。したがって、65S突然変異の原理作用は、可逆的退色の基本速度koffをかなり減速することであり、それは一過性退色の振幅の低減につながる。
シアン蛍光性タンパク質の光反応は、それらのサイトゾルでこれらのタンパク質を発現するMDCK細胞でも観察可能である(図29)。しかし、同一の広視野照射条件を用いることにより、応答の振幅はin vitroで得られるものと比較してかなり低減されるようであり、緩和時間はかなりより短く(Table 4(表4))、これは獲得の条件から生じるのかもしれない。それにもかかわらず、異なるシアン蛍光性タンパク質の比較は、in vitroで観察されるものに非常に類似している傾向を明らかにし、すなわち、65S突然変異が一過性応答を強く低減することを明らかにする(図29)。
III.4. 65S突然変異は、シアン蛍光性タンパク質の不可逆的光退色を減速する
65S突然変異を含むか含まないシアン蛍光性タンパク質の不可逆的退色反応も研究した。そうするために、固定化されたアガロースビーズと細胞のサイトゾルの両方で、同一であるが長期の広視野照射条件を用いた。研究した全てのシアン蛍光性タンパク質は、水銀ランプの下での最大電力での30分間の照射後に、85%〜95%の不可逆的蛍光減損を示す。蛍光強度の減衰は、ほぼ指数関数的であり(図30)、暗所で1%未満強度回復であり、検出可能な光活性化回復はなく、これは照射停止から10分後までである。固定化アガロースビーズおよび細胞で実行された実験は、かなり類似した不可逆的退色時定数を与えた(図22):したがって、全ての場合に、単一突然変異65Sは、タンパク質ECFPrおよびECFPr(72A、145A、148D)の不可逆的退色をかなり減速する(Table 1(表1))。ECFPr(72A、145A、148D)タンパク質はECFPrよりわずかに速い退色を経るが、それによって、可逆的および不可逆的反応の両方について低下した光安定性をこのタンパク質が有することを実証する。
したがって、65S突然変異の作用は、照射に応じてのシアン蛍光性タンパク質の光安定性を向上させることである。
結論
したがって、本発明者らは、シアン蛍光性タンパク質の光物理的特性に及ぼす65S突然変異のかなりの影響を観察することができた。この特異的突然変異は、これらのタンパク質のpH感受性の低減に加えて、それらの量子収量の向上、それらの蛍光動態の複雑性の低下、ならびに可逆的光反応の阻害および不可逆的光退色の減速を可能にする。
したがって、より詳しくは、65S突然変異を含むシアン蛍光性タンパク質は、それらが蛍光シグナルのより精密でより感受性の高い定量分析を可能にし、したがってより信頼できる分析を可能にするので、生細胞でのForster共鳴エネルギー転移(FRET)または蛍光寿命画像化鏡検(FLIM)による画像化研究で用いることができる。
(参考文献)