以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施の形態における液封入式防振装置1の軸方向断面図である。液封入式防振装置1は、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントであり、振動源であるエンジン側に取り付けられる第1取付具2と、支持側の車体に取り付けられる筒状の第2取付具7と、第1取付具2及び第2取付具7の間に介設されて互いに連結するゴム状弾性体から構成される防振基体5とを備えている。なお、図1に示す液封入式防振装置1は無負荷状態を示している。
第1取付具2は、第2取付具7の軸心上に配置されたボス金具であり、径方向外側に向けてフランジ状に突出するストッパ部3が設けられている。第1取付具2の軸心にボルト孔2aが形成されており、第1取付具2は、ボルト孔2aに螺着されるボルト(図示せず)を介してエンジン側に取り付けられる。
第2取付具7は、防振基体5が加硫成形される円筒状の筒状金具8と、筒状金具8の軸方向一端に配置されるカップ状の底金具9とを備えて構成される。底金具9に取付ボルト(図示せず)が突設され、その取付ボルトを介して車体側に取り付けられる。筒状金具8は、下端部が、底金具9の上端開口に対してかしめ部8aによりかしめ固定され、上端部が、ストッパ金具4にかしめ固定される。ストッパ金具4は、第1取付具2のストッパ部3との間でストッパ作用を発揮する部材である。
防振基体5は略傘状に形成され、上端部が第1取付具2に、下端部が筒状金具8の上端開口部にそれぞれ加硫接着される。防振基体5は、筒状金具8の内周面を覆うゴム膜状のシール壁部6が下端部に連成されている。
第2取付具7は、防振基体5の軸方向Xの端面(下面)に対向配置される第1ダイヤフラム30が取り付けられる。第1ダイヤフラム30は、変位を生じる円形状の膜部31と、膜部31の外周に連成される外周部32とを備え、可撓性を有するゴム状弾性膜から一体に構成される。外周部32に、環状の補強金具33が加硫接着されており、補強金具33を介してかしめ部8aに固定される。
防振基体5、筒状金具8及び第1ダイヤフラム30により区画される密閉空間に液体が封入され、液室が形成される。液室は、仕切体10により、防振基体5が室壁の一部を構成する主液室41と、第1ダイヤフラム30が室壁の一部を構成する第1副液室42とに区画される。
仕切体10は、軸方向X視が円形状に形成されると共にシール壁部6を介して筒状金具8の内周に嵌着される仕切体本体11と、仕切体本体11の軸方向Xの端面(下面)に当接配置される仕切受板15とを備えて構成される。仕切受板15は、厚さ方向(軸方向X)に貫通する開口部15aを有する円盤状の金具であり、外周部が、補強金具33と共にかしめ部8aに固定される。仕切体本体11は、防振基体5とシール壁部6との境界に設けられた段部5aと仕切受板15との間で、軸方向Xに挟まれた状態に保持される。仕切体10は、第1副液室42側に、第2ダイヤフラム18によって第1副液室42から仕切られた第2副液室43が設けられ、主液室41側に、ゴム状弾性膜から構成される弁部材20が設けられる。弁部材20は、仕切体10に形成された弁収容室40内に配設される。
次に図2から図5を参照して仕切体10について説明する。図2及び図3は仕切体10の分解立体図である。図4(a)は仕切体本体11の平面図であり、図4(b)は仕切体本体11の側面図であり、図4(c)は仕切体本体11の底面図であり、図4(d)は仕切体本体11の正面図である。図5は図4(a)のV−V線における仕切体本体11の断面図である。
図2、図4(a)及び図5に示すように、仕切体本体11は、略円柱状に形成される部材であり、平面視略円形状の大径凹部11aが上面(軸方向端面)に凹設され、大径凹部11aの軸方向端面に、大径凹部11aより小径の小径凹部11bが段差状に凹設される。小径凹部11bの底面部12(軸方向端部)は、弁収容室40の室壁を構成する部位であり、平面視して円形状の壁部12aが軸方向上側に向かって突設され、壁部12aの径方向内側の底面部12の略中央に、底面部12を厚さ方向(軸方向)に貫通する断面円形状の開口部12bが形成されている。
小径凹部11bは、弁部材20が収装される部位であり、大径凹部11aは、略円盤状の蓋部材16が内嵌固定される部位である。図2及び図3に示すように蓋部材16は、底面部12に対向して配置されることで弁収容室40の室壁を構成する部材であり、蓋部材16を厚さ方向(軸方向)に貫通する断面円形状の開口部16aが略中央に形成され、底面視して円形状の壁部16bが軸方向下側に向かって突設される。
図2、図3及び図4(a)に示すように、仕切体本体11は、大径凹部11aが凹設される上面の外周に主液室側開口11cが切欠形成される。図2、図3及び図4(b)に示すように、主液室側開口11cは、仕切体本体11の外周に凹設され周方向に延設される第1オリフィス形成溝11dに連設される。図4(b)及び図4(d)に示すように、第1オリフィス形成溝11dは、仕切体本体11の外周に立設され軸方向に延設される軸方向壁11e,11fにより流路が形成され、仕切体本体11の下面の外周に切欠形成された副液室側開口11jに連設される。
第1オリフィス形成溝11dは、シール壁部6(図1参照)との間で絞り流路としての第1オリフィス44を形成するための部位であり、第1オリフィス44は、主液室側開口11c及び副液室側開口11jを介して、主液室41及び第1副液室42に連通される。本実施の形態では、第1オリフィス44は、車両走行時のシェイク振動を減衰するために、シェイク振動に対応した低周波数域(例えば5〜15Hz程度)にチューニングされる。即ち、第1オリフィス44を流動する液体の共振現象に基づく減衰効果がシェイク振動の入力時に有効に発揮されるように、第1オリフィス44の断面積、長さ、断面周長などが設定される。
図1、図3、図4(c)及び図5に示すように、仕切体本体11は下面に凹所11kが凹設され、図3及び図4(c)に示すように、凹所11kの底面部12に、第2オリフィス形成溝13及び第3オリフィス形成溝14が蛇行状に凹設される。図4(c)に示すように、第2オリフィス形成溝13及び第3オリフィス形成溝14は、底面部12に貫通形成された開口部12bに各々の一端が連設される。
図3に示すように仕切体本体11は、凹所11k内に、略円盤状の蓋状部材17と、蓋状部材17の外周から軸方向に延設される筒状部17bに当接される円環状の環状体19とが収装される。第2ダイヤフラム18は、蓋状部材17と環状体19との間に液密に挟持されることにより、仕切体10の下端側に保持される。
蓋状部材17は、環状体19との間で第2ダイヤフラム18を保持すると共に、仕切体本体11(底面部12)との間で、第2オリフィス形成溝13及び第3オリフィス形成溝14によって、絞り流路としての第2オリフィス45及び第3オリフィス46(図1参照)を形成するための部材である。蓋状部材17は、厚さ方向に貫通する開口部17aが形成されている。開口部17aは、仕切体本体11の凹所11kに蓋状部材17が収装されると、第2オリフィス形成溝13(図4(c)参照)の他端13aに連設されるような位置に形成される。
図2及び図3に示すように、第2ダイヤフラム18は、変位を生じる円形状の膜部18aと、膜部18aの外周の全周に亘って連成され膜部18aより厚肉に形成される外周部18bとを備え、可撓性を有するゴム状弾性膜から一体に構成される。蓋状部材17と環状体19との間に第2ダイヤフラム18が液密に挟持されることにより、蓋状部材17と第2ダイヤフラム18との間に第2副液室43が設けられる。第2副液室43は、連通孔21a及び第2オリフィス45(開口部12b,16a,17aを含む)を介して、主液室41に連通される。
第2オリフィス45は、開口部12b,16a,17aに連通されると共に、第1オリフィス44よりも高周波数域にチューニングされたオリフィスである。本実施の形態では、第2オリフィス45は、アイドル時(車両停止時)のアイドル振動を低減するために、アイドル振動に対応した高周波数域(例えば15〜50Hz程度)にチューニングされる。即ち、第2オリフィス45を流動する液体の共振現象に基づく減衰効果がアイドル振動の入力時に有効に発揮されるように、第2オリフィス45(開口部12b,16a,17aを含む)の断面積、長さ、断面周長などが設定される。
第3オリフィス形成溝14は、蓋状部材17(図1及び図3参照)との間で絞り流路としての第3オリフィス46を形成するための部位である。第3オリフィス形成溝14は、底面部12に貫通形成された開口部12bに一端が連設され、他端が、仕切体本体11の外周部を径方向に貫通する開口11h(図2、図3及び図4(b)参照)に連設される。開口11hは、仕切体本体11の外周に立設された軸方向壁11f,11g間に位置する。
軸方向壁11f,11gは所定の間隔をあけて軸方向に延設され、仕切体本体11の下面の外周に切欠形成された副液室側開口11iに連設される。軸方向壁11f,11gをシール壁部6(図1参照)に密着させることにより、第3オリフィス46は、開口部12b及び副液室側開口11iを介して、第2オリフィス45及び第1副液室42に連通される。
第3オリフィス46は、第2オリフィス45より低周波数域にチューニングされたオリフィスである。即ち、第3オリフィス46を流動する液体の共振現象に基づく減衰効果が、第2オリフィス45を流動する液体の共振現象に基づく減衰効果より低周波数域で有効に発揮されるように、第3オリフィス46の断面積、長さ、断面周長などが設定される。第3オリフィス46は第2オリフィス45より低周波数域で共振するように設定されるので、第3オリフィス46を流動する液体の共振現象により、第2オリフィス45より低周波数域の減衰性能を向上できる。
第2オリフィス45及び第3オリフィス46は、仕切体本体11の一方の軸方向端面(底面部12)に形成される。第2オリフィス45及び第3オリフィス46を仕切体本体11の一方の軸方向端面(底面部12)に集約することにより、仕切体本体11の他方の軸方向端面に大径凹部11a及び小径凹部11bを凹設して、仕切体本体11内に弁部材20を配置することができる。従って、スペースの有効活用を図ることができる。
また、第2オリフィス45及び第3オリフィス46が、仕切体本体11の一方の軸方向端面(底面部12)に凹設された第2オリフィス形成溝13及び第3オリフィス形成溝14によって形成される。そのため、第2オリフィス45及び第3オリフィス46の断面積、長さ、断面周長を比較的自由に設計することができる。そのため、第2オリフィス45及び第3オリフィス46のチューニングの自由度を確保できる。
仕切体本体11の一方の軸方向端面に第2オリフィス形成溝13及び第3オリフィス形成溝14が形成され、凹所11kに収容された蓋状部材17との間で第2オリフィス45及び第3オリフィス46が形成される。蓋状部材17は、第2ダイヤフラム18を保持する役割も果たしているので、仕切体本体11の凹所11k内に第2ダイヤフラム18が保持されることで、第2副液室43が形成される。そのため、第3オリフィス46の追加が、仕切体本体11の軸方向長の延長に繋がることを防止できる。その結果、液封入式防振装置1の軸方向長が過大になることを防止できる。
第3オリフィス46は、第1副液室42に連通する他端(副液室側開口11i)が、仕切体本体11の径方向外側端面に開口している。よって、仕切体本体11の軸方向に位置する第2副液室43や第2ダイヤフラム18による制約を、第3オリフィス46が受け難くできる。また、第3オリフィス46の他端を仕切体本体11の径方向外側端面に設けることで、第3オリフィス46を設けるスペースを確保できるので、第3オリフィス46の断面積や長さ、断面周長を設定し易くできる。よって、第3オリフィス46の設計の自由度を向上できる。
次に図6から図8を参照して弁部材20について説明する。図6(a)は弁部材20の平面図であり、図6(b)は弁部材20の側面図であり、図6(c)は弁部材20の底面図であり、図6(d)は図6(a)のVId−VId線における弁部材20の断面図である。図7は弁部材20の軸方向断面図であり、図8は弁収容室40及び弁部材20の軸方向断面図である。なお、図7及び図8では、図の簡略化のため、突起24の図示を省略する。
図6(a)から図6(d)に示すように、弁部材20は、可撓性を有するゴム状弾性膜から円盤状に形成される部材であり、薄肉膜状に形成される可撓性膜部21と、可撓性膜部21の外周の全周に亘って連成され可撓性膜部21より厚肉に形成される外周部22と、可撓性膜部21を厚さ方向に貫通する連通孔21aとを備えている。小径凹部11b(図2参照)に弁部材20が収装され、蓋部材16が大径凹部11aに内嵌固定されると、壁部12a,16b(図8参照)に外周部22が液密に挟持され、弁部材20は仕切体本体11に固定される。これにより、弁部材20は弁収容室40内に配置され、可撓性膜部21は、開口部12b,16aを結ぶ直線と交差(略直交)するように配設される。
可撓性膜部21は、弁部材20が仕切体本体11に固定されることで、開口部12b,16aを流動する液体によって軸方向X(図1参照)に撓み変形(弾性変形)する。開口部12b,16aに対向する可撓性膜部21の中央部21bには、可撓性膜部21の撓み変形により開口部12b,16aを閉塞する弁部23が設けられる。本実施の形態では、弁部23は、可撓性膜部21の表裏両側の膜面からそれぞれ突出する薄肉の円筒状の部位であり、ゴム状弾性体により可撓性膜部21と一体に形成される。
弁部23は、可撓性膜部21の撓み変形時に、開口部12b,16aの周りの底面部12及び蓋部材16(図8参照)に先端が当接して、開口部12b,16aを閉塞する。薄肉状の弁部23が表裏両側の膜面に突設されているので、蓋部材16及び仕切体本体11に弁部23が当接するときの衝撃を緩衝できると共に、開口部12b,16aの閉塞後にも可撓性膜部21の変形を許容して蓋部材16及び仕切体本体11への伝達エネルギーを緩和できる。
即ち、仕切体10(仕切体本体11及び蓋部材16)への伝達エネルギーEは、液流動による弁部材20の運動エネルギーをE1、弁部材20の変形による消費エネルギーをE2とすれば、E=E1−E2と表される。弁部材20の撓み変形による消費エネルギーE2の分だけ仕切体10への伝達エネルギーEを低減できるので、仕切体10と弁部材20とが干渉するときの異音の発生を抑制できる。
なお、弁部23が設けられる中央部21b(図7参照)は、中央部21bの周囲の可撓性膜部21(厚さT1)より厚さが大きく設定される。中央部21bによって弁部23の付け根部分を補強し、弁部23の繰り返し変形によるヘタリの発生を抑制するためである。なお、中央部21bの厚さを大きくしても弁部23の剛性に大きな影響を与えないので、弁部23の弾性変形能を確保し、異音の抑制効果が損なわれないようにできる。
ここで、図7に示すように、弁部23は、可撓性膜部21の膜面からの突出高さHが、その肉厚T2より大きくなるように設定される。これにより、弁部23が底面部12又は蓋部材16(図8参照)に当接して開口部12b,16aを閉塞した後も、弁部23の弾性変形を容易化できる。その結果、弁部材20の変形による消費エネルギーE2をさらに大きくすることができ、仕切体10への伝達エネルギーEをさらに低減できる。
また、弁部23は、突出高さHが、可撓性膜部21の厚さT1より大きく設定されると共に、弁部23の肉厚T2が、突出高さHの1/2未満になるように設定される。これにより、開口部12b,16aを弁部23が閉塞した後の弁部23の弾性変形をさらに容易化できる。その結果、弁部材20の変形による消費エネルギーE2をさらに大きくすることができ、仕切体10への伝達エネルギーEをさらに低減できる。
連通孔21aは、開口部12b,16aを結ぶ直線が可撓性膜部21と交わる部位と異なる位置に形成される。本実施の形態では、連通孔21aは、弁部23の周囲(径方向外側)の4箇所に形成される。連通孔21aは、支持体本体11及び蓋部材16から弁部23が離間した状態で(開口部12b,16aが開放された状態で)、液体を通過させるための部位である。連通孔21aは、絞り効果が生じないように、開口部12b,16aの各断面積よりも開口面積(総面積)が大きく設定される。
可撓性膜部21は、弁部23より突出高さの大きい円柱状の突起24が、弁部23及び連通孔21aの径方向外側に弁部23と同心円状に複数設けられている。突起24は、可撓性膜部21の表裏両側の膜面からそれぞれ突出し、ゴム状弾性体により可撓性膜部21と一体に形成される。弁部23より突出高さの大きい突起24が設けられているので、可撓性膜部21の撓み変形時には、突起24、弁部23の順に蓋部材16及び仕切体本体11に当接する。蓋部材16及び仕切体本体11に弁部23が当接する前に、突起24が蓋部材16及び仕切体本体11に当接するので、蓋部材16及び仕切体本体11に弁部材20が当接するときの荷重変化を滑らかにすることができ、突起24が設けられていない場合と比較して、衝撃を低減できる。
なお、図7に示すように弁部23は、径方向長さL1が、開口部12b,16a(図8参照)の径方向長さ(内径)D1,D2より大きく設定される。よって、弁部23により開口部12b,16aを閉塞できる。即ち、弁部材20は、第2オリフィス45を流動する液体の作動力により可撓性膜部21が撓み変形され、底面部12又は蓋部材16(弁収容室40の室壁)に弁部23が密接されることで、開口部12b,16aを閉塞する。開口部12b,16aは第2オリフィス45に連通し、第2オリフィスの一部を構成する。従って、弁部材20によって開口部12b,16aが開閉されることで、弁部材20によって第2オリフィス45が開放または閉塞される。
液封入式防振装置1によれば、車両停止時のアイドル振動等の振幅(例えば±0.1mm程度)の小さい振動入力では、低周波数域から高周波数域に亘って第2オリフィス45を開放させることができる。その結果、低周波数域から高周波数域に亘って第2オリフィス45を液体が流動する。これにより、第2オリフィス45による減衰性能を、低周波数域から高周波数域に亘って得ることができる。
一方、乗り心地に影響を与える振幅(例えば±0.5mm程度)の大きい振動入力では、第2オリフィス45の液流動に加え、第3オリフィス46の液流動による作動力を弁部材20に与えることができる。その結果、第3オリフィス46が形成されていない場合と比較して、弁部材20の作動力を大きくできる。これにより、低周波数域から第2オリフィス45を閉塞できるので、低周波数域における減衰性能を向上できる。よって、低周波数域の振動を抑制して車両の乗り心地を向上できる。
さらに、弁部23は、径方向長さL1が、可撓性膜部21の外周縁(可動部分の最大径)の径方向長さL2の1/3以下に設定される。また、弁部23(図8参照)は、蓋部材16から開口部16aを臨む弁部23の先端までの距離(蓋部材16と弁部23の先端との隙間)C3と弁部23の周長とを乗じた面積S3(第2オリフィス45の断面積)が、開口部16aの面積S1の1/2以上に設定される。同様に、底面部12から開口部12bを臨む弁部23の先端までの距離(底面部12と弁部23の先端との隙間)C2と弁部23の周長とを乗じた面積S4(第2オリフィス45の断面積)が、開口部12bの面積S2の1/2以上に設定される。
次に図9を参照して、弁部23の径方向長さL1が、可撓性膜部21の外周縁(可動部分の最大径)の径方向長さL2の1/3以下に設定される効果について説明する。図9(a)は比較例1における弁部材P1の弁部P2と弁収容室の室壁P3との距離C1を示す模式図であり、図9(b)は実施例1における弁部材20の弁部23と弁収容室40の室壁(底面部12)との距離C2を示す模式図であり、図9(c)は距離C1,C2の大きさと弁部材20の変形による消費エネルギーとの関係を示す図である。
図9(a)に示す比較例1における弁部材P1は、上述の弁部材20と同様に、可撓性膜部P2に円筒状の弁部P4が突設され、外周部P3を支点に可撓性膜部P2が撓み変形される。弁部P4の径方向寸法(図9(a)左右方向寸法)は、可撓性膜部P2の径方向寸法の1/2に設定される。外周部P3を支点にして角度θだけ可撓性膜部P2が撓み変形すると弁部P4の先端が到達する位置に、弁収容室の室壁P5が設けられる。可撓性膜部P2が撓み変形する前の状態で、室壁P5と弁部P4との距離はC1に設定される。
図9(b)に示す実施例1における弁部材20は、可撓性膜部21に円筒状の弁部23が突設され、外周部22を支点に可撓性膜部21が撓み変形される。弁部23の径方向寸法(図9(b)左右方向寸法)は、可撓性膜部21の径方向寸法の1/3に設定される。外周部22を支点にして角度θだけ可撓性膜部21が撓み変形すると弁部23の先端が到達する位置に、弁収容室40(図8参照)の室壁(底面部12)が設けられる。可撓性膜部21が撓み変形する前の状態で、室壁(底面部12)と弁部23との距離はC2に設定される。
なお、実施例1における弁部23の径方向寸法は、比較例1における弁部P4の径方向寸法と同一の大きさに設定される。また、実施例1における可撓性膜部21の径方向寸法は、比較例1における可撓性膜部P2の径方向寸法より大きく設定される。
実施例1及び比較例1において、室壁(底面部12)P5は、いずれも外周部22,P3を支点にして角度θだけ可撓性膜部21,P2が撓み変形するときに弁部23,P4が当接する位置に設けられている。外周部22,P3を支点にして可撓性膜部21,P2が撓み変形する角度θは、液流動による荷重に依存するので、実施例1及び比較例1における弁部材20,P1は、いずれも同じ大きさの荷重l(図9(c)参照)を受けて、室壁(底面部12)P5に弁部23,P4が当接する。
ここで、実施例1における弁部材20は、弁部23の可撓性膜部21からの突出高さが、比較例1における弁部材P1の弁部P4の可撓性膜部P2からの突出高さと同一に設定されている。また、実施例1における弁部材20は、可撓性膜部21の厚さが、比較例1における弁部材P1の可撓性膜部P2の厚さと同一に設定されており、弁部23,P4の肉厚も同一であるとする。実施例1における弁部材20は、比較例1における弁部材P1の可撓性膜部P2の径方向寸法に対する弁部P4の径方向寸法の比率(1/2)より小さい比率(1/3)に、可撓性膜部21及び弁部23の径方向寸法が設定されている。よって、実施例1における距離C2を、比較例1における距離C1より大きくできる。
次に図9(c)を参照して、実施例1及び比較例1における弁部材20,P1の弾性変形による消費エネルギーを説明する。比較例1における弁部材P1の弾性変形による消費エネルギーは、弁部P4が室壁P5に当接するまでは、三角形「0,A,C1」の面積で示される。弁部P4が室壁P5に当接した後は、可撓性膜部P2や弁部P4の弾性変形によって、液流動による運動エネルギーが消費される。
一方、実施例1における弁部材20の弾性変形による消費エネルギーは、弁部23が室壁(底面部12)に当接するまでは、三角形「0,B,C2」の面積で示される。C1<C2なので、図9(c)から明らかなように、実施例1における弁部材20は、比較例1と比べて、弁部23が室壁(底面部12)に当接するまでの弁部材20の弾性変形による消費エネルギーを大きくできる。その結果、実施例1は、比較例1と比べて弁部材20の撓み変形による消費エネルギーを大きくできる分だけ、仕切体10への伝達エネルギーを低減できる。よって、仕切体10と弁部材20とが干渉するときの異音の発生を抑制する効果を向上できる。
また、実施例1における弁部材20は、距離C2を、比較例1における距離C1より大きくできるので、開口部12b,16a(図8参照)と弁部23との空間での圧力損失等の損失を、比較例1と比べて小さくできる。その結果、弁収容室40で生じる損失によって液封入式防振装置1の動特性が悪化することを防止できる。即ち、第2オリフィス45の断面積(開口部12b,16aの面積)を大きくしつつ、可撓性膜部21に対する弁部23の径方向長さを設定することによって、第2オリフィス45内の液体の運動による動的ばね定数を低下させ、液封入式防振装置1の防振性能を向上できる。
なお、実施例1は、弁部材20の可撓性膜部21の径方向寸法に対する弁部23の径方向寸法の比率(以下「比率R」と称す)が1/3に設定された場合について説明したが、その比率Rを1/3より小さくすると、弁部23と室壁(底面部12)との距離C2をさらに大きくできるので好ましい。但し、弁部23の径方向寸法の最小値は、開口部12b,16aの径方向寸法(内径)によって決まるので、その比率Rを、弁部23の径方向寸法を変えずに1/3より小さくするにつれて、可撓性膜部21の径方向寸法を大きくしなければならない。そのため、その比率Rは、液封入式防振装置1の径方向寸法を考慮して、液封入式防振装置1に弁部材20を収容可能な範囲で設定される。
次に図10及び図11を参照して、弁部23の径方向長さL1が、可撓性膜部21の外周縁(可動部分の最大径)の径方向長さL2の1/3以下に設定されると共に、開口部12b,16aを臨む弁部23の先端からそれぞれ底部材12、蓋部材16までの距離C2,C3と弁部23の周長とを乗じた面積S3,S4が、開口部12b,16aの面積S1,S2の1/2以上に設定される効果について説明する。図10は0.1mmの一定振幅で正弦波加振して得た液封入式防振装置の動特性を示す図であり、図11は図10の一部を拡大して示した拡大図である。図10及び図11において、横軸は周波数、縦軸は動的ばね定数を示す。
実施例2は、実施例1における液封入式防振装置において、開口部12b,16aを臨む弁部23の先端からそれぞれ底部材12、蓋部材16までの距離C2,C3と弁部23の周長とを乗じた面積S3,S4が、開口部12b,16aの面積S1,S2とそれぞれ同じ値に設定されている(S3=S1,S4=S2)。実施例3は、実施例1における液封入式防振装置において、面積S3,S4が、面積S1,S2の1/2にそれぞれ設定されている(S3=1/2・S1,S4=1/2・S2)。
比較例2は、実施例1における液封入式防振装置において、面積S3,S4が、面積S1,S2の1/3にそれぞれ設定されている(S3=1/3・S1,S4=1/3・S2)。比較例3は、実施例1における液封入式防振装置において、面積S3,S4が、面積S1,S2の1/4にそれぞれ設定されている(S3=1/4・S1,S4=1/4・S2)。なお、実施例2及び3、比較例2及び3における液封入式防振装置は、低動ばね効果が周波数Fで発揮されるように第2オリフィス45がチューニングされている。
図10及び図11から明らかなように、実施例2及び3は、比較例2及び3と比較して、周波数F付近における動的ばね定数を低くできることがわかる。比較例2及び3の動的ばね定数が高いのは、圧力損失等の損失が弁部23で生じているものと推察される。これに対し実施例2及び3は、弁部23と底部材12、蓋部材16との距離C2,C3と弁部23の周長とを乗じた面積S3,S4を、開口部12b,16aの面積S1,S2の1/2以上に設定したので、弁部23で生じる損失を低下させることができ、第2オリフィス45による防振性能を向上できた。
なお、弁部23と底部材12、蓋部材16との距離C2,C3と弁部23の周長とを乗じた面積S3,S4に対する開口部12b,16aの面積S1,S2の比率(1/2以上)を大きくすればするほど、弁部23で生じる損失を低下させられるが、その比率(以下「比率S」と称す)を大きくすることは、弁部23の径方向長さや弁収容室40の軸方向寸法を大きくすることに繋がる。弁部23の径方向長さを大きくすると、弁部23の径方向寸法に関係する比率R(弁部材20の可撓性膜部21の径方向寸法に対する弁部23の径方向寸法の比率)を大きくすることに繋がる。比率Rが大きくなると、仕切体10に弁部材20が衝突するときの異音の問題や、弁収容室40で生じる損失の問題が生じるおそれがある。また、弁収容室40の軸方向寸法を大きくすると、液封入式防振装置1の軸方向長さが大きくなることに繋がる。そこで、比率Sは、それらの問題を考慮して、比率Rとの相対的な関係で設定される。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、弁部材20の可撓性膜部21に形成された連通孔21aや突起24の数や大きさは適宜設定することが可能である。
上記実施の形態では、弁部材20の可撓性膜部21の表裏両面に突起24を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、突起24を省略したり、突起24を可撓性膜部21の表面または裏面の一方に設けたりすることは当然可能である。
上記実施の形態では説明を省略したが、弁部材20の可撓性膜部21に突設された弁部23の径方向内側に、膜面から隆起されるリブを設けることは当然可能である。リブによって弁部23の付け根部分を補強し、弁部23の繰り返し変形によるヘタリの発生を抑制できる。なお、リブを設けても弁部23の剛性に大きな影響を与えないので、弁部23の弾性変形し易さを確保し、異音の抑制効果が損なわれないようにできる。
上記実施の形態では、弁部材20の可撓性膜部21の厚さ方向両側に、同じ形状で同じ大きさの弁部23が突設される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、開口部12b,16aの大きさ等に応じて、異なる形状や異なる大きさの弁部を設けることは当然可能である。
上記実施の形態では、主液室41と第1副液室42とが第1オリフィス44によって連通される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、主液室41と第2副液室43とを第1オリフィス44によって連通させ、主液室41、第1副液室42及び第2副液室43の内の2つの液室間を第2オリフィス45によって連通することは当然可能である。
また、上記実施の形態では2つの副液室(第1副液室42、第2副液室43)を備える液封入式防振装置について説明したが、要求特性に応じて、3つ以上の副液室を液封入式防振装置に設けることは当然可能である。また、第2副液室43を省略して、主液室41と第1副液室42(1つの副液室)とを備える液封入式防振装置に弁部材20を適用することは当然可能である。
上記実施の形態では、液封入式防振装置1が第3オリフィス46を有する場合について説明したが、第3オリフィス46は必ずしも必要ではない。第3オリフィス46を有しない液封入式防振装置であっても、上記実施の形態で説明した作用・効果を実現できる。
上記実施の形態では、振動源となるエンジンを第1取付具2に取り付け、支持側の車体を第2取付具7に取り付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ブラケット(図示せず)を適宜用いて、支持側(車体)に第1取付具2を取り付け、振動源(エンジン)に第2取付具7を取り付けることは当然可能である。
上記実施の形態では、シェイク振動(例えば5〜15Hz程度)とアイドル振動(例えば15〜50Hz程度)とを対象とする液封入式防振装置1を説明したが、これは一例であり、周波数の異なる種々の振動に対して適用可能な液封入式防振装置とすることは当然可能である。
上記実施の形態では、液封入式防振装置1を、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントとして用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。液封入式防振装置を、ボディマウント、デフマウント等、種々の防振装置に適用することは当然可能である。