以下、本発明に係るハイブリッド式建設機械を実施するための形態を図に基づいて説明する。
本発明に係るハイブリッド式建設機械の一実施形態は、例えば、図1に示すハイブリッド式油圧ショベル(以下、便宜的に油圧ショベルと呼ぶ)1に適用される。この油圧ショベル1は、走行用油圧モータ2A(図2参照)により駆動される走行体2と、この走行体2上に旋回フレーム3aを介して旋回可能に設けられた旋回体3と、これらの走行体2と旋回体3との間に介在され、走行体2に対して旋回体3を旋回させる旋回用油圧モータ3A1(図2参照)が搭載された旋回装置3Aと、旋回体3の前部の片側(前方を向いて右側)に取り付けられ、上下方向に回動して掘削等の作業を行うフロント作業機4とを備えている。上述の走行体2、旋回体3、及びフロント作業機4が油圧作業装置として機能する。
フロント作業機4は、基端が旋回フレーム3aに回動可能に取り付けられて上下方向に回動するブーム4Aと、このブーム4Aの先端に回動可能に取り付けられたアーム4Bと、このアーム4Bの先端に回動可能に取り付けられたバケット4Cとを有する多関節構造から成っている。また、フロント作業機4は、旋回体3とブーム4Aとを接続し、伸縮することによってブーム4Aを回動させるブームシリンダ4aと、ブーム4Aとアーム4Bとを接続し、伸縮することによってアーム4Bを回動させるアームシリンダ4bと、アーム4Bとバケット4Cとを接続し、伸縮することによってバケット4Cを回動させるバケットシリンダ4cとを有している。
旋回体3は、車体の前部の他方の片側(前方を向いて左側)に配置されたキャビン5と、車体の後部に配置され、車体の重量のバランスを保つカウンタウェイト6と、これらのキャビン5とカウンタウェイト6との間に配置され、後述のエンジン11(図2参照)が収納される原動機室7とを備えている。
図2はキャビン5を含む旋回体3の内部の構成の詳細を示す図である。
図2に示すように、キャビン5は、走行用油圧モータ2A、旋回用油圧モータ3A1、ブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、及びバケットシリンダ4c等の各油圧アクチュエータ2A,3A1,4a〜4cの所望の動作を可能とし、キャビン5内のオペレータが把持して操作する操作装置としての走行レバー5A及び操作レバー5Bと、上下方向に回動可能に設けられ、操作レバー5Bによるフロント作業機4の操作を不能とするロック位置又は操作レバー5Bによるフロント作業機4の操作を可能とするロック解除位置へ操作するゲートロックレバー5Cとを有している。
このゲートロックレバー5Cは、オペレータの乗降を許容する上方へ回動されると、ロック位置に保たれることにより、オペレータが乗降するときの安全が図られている。一方、ゲートロックレバー5Cは、オペレータの乗降を妨げる下方へ回動されると、ロック解除位置に保たれることにより、オペレータが操作レバー5Bを操作して意図通りに掘削等の作業を進めることができる。
また、キャビン5は、車体の動作モードを設定し、車体に要求する負荷を変更するモード設定部5Dと、このモード設定部5Dによって設定された動作モードにおいて、エンジン11の目標回転数を設定する回転数設定ダイヤル5Eと、後述するように、車体の稼働を強制的に禁止する稼働禁止部としての稼働禁止スイッチ5Fと、車体の動作に関する情報を含む各種の情報を表示する表示装置としてのモニタ5Gとを有している。モード設定部5Dは、例えば、軽掘削作業やならし作業等の軽負荷又は中負荷の作業を行うときのモードであるエコモード、及びこのエコモードより高負荷の作業を行うときのモードであるパワーモード等の動作モードを選択するモード設定スイッチから成っている。稼働禁止スイッチ5Fは、例えばトグルスイッチであり、オペレータにより設定が変更でき、稼働禁止情報として「稼働禁止」又は「稼働可」を後述の出力指令部22Cへ送信する。
旋回体3は、前述のエンジン11と、このエンジン11に取付けられ、エンジン11の回転数を検出する回転数検出部としての回転数センサ11Aと、エンジン11の燃料を貯蔵する燃料タンク(図示せず)と、エンジン11の燃料噴射量を調整するガバナ(図示せず)と、エンジン11に設けられたターボチャージャ式の過給機(図示せず)と、エンジン11の動作を制御するエンジンコントローラ(ECU)12とを備えている。
また、旋回体3は、エンジン11に接続され、エンジン11の駆動力で動作するエアコン等の補機負荷13と、エンジン11の駆動軸上に配置され、エンジン11との間でトルクを伝達することにより、エンジン11の動力のアシスト及び発電を行う電動発電機(M/G)14と、この電動発電機14に接続され、電動発電機14の動作を制御するインバータ15と、インバータ15を介して電動発電機14との間で電力の授受を行う蓄電装置16と、エンジン11及び電動発電機14に対して直列に接続され、エンジン11及び電動発電機14の駆動力で動作することにより圧油を吐出する可変容量型油圧ポンプ(以下、便宜的に油圧ポンプと呼ぶ)17とを備えている。
電動発電機14は、力行時にエンジン11の動力をアシストし、エンジン11に接続された補機負荷13及び油圧ポンプ17を駆動し、回生時に発電を行うようにしている。インバータ15は、直流電力を交流電力に変換し、交流電力を直流電力に変換するものである。蓄電装置16は、例えば、複数の電池セルが積層されて形成されたリチウムイオン電池16Aと、このリチウムイオン電池16Aとインバータ15との間に接続され、リチウムイオン電池16Aの電流を測定する電流センサ16Bと、リチウムイオン電池16A及び電流センサ16Bに接続され、リチウムイオン電池16Aの電圧、温度、電流等を測定して管理するバッテリコントローラ(BCU)16Cとを有している。
そして、リチウムイオン電池16Aに蓄えられた電力(エネルギー)は、インバータ15へ供給されると、インバータ15によって直流から交流に変換され、電動発電機14へ供給される。これにより、蓄電装置16が放電されるようになっている。一方、電動発電機14によって発電された電力(エネルギー)は、インバータ15によって交流から直流に変換され、蓄電装置16へ供給される。これにより、蓄電装置16が充電されるようになっている。
油圧ポンプ17は、可変容量機構として、例えば、斜板(図示せず)を有し、この斜板の傾転角が調整されることにより、吐出する圧油の流量を制御している。さらに、油圧ポンプ17には、図示されないが、吐出された圧油の圧力を測定する吐出圧センサ、吐出された圧油の流量を測定する吐出流量センサ、及び油圧ポンプ17の斜板の傾転角を測定する傾転角センサ等が設けられている。なお、油圧ポンプ17は、可変容量型斜板式油圧ポンプである場合について説明するが、この場合に限らず、吐出する圧油の流量を制御する機能を有するものであれば、斜軸ポンプ等であっても良い。
また、旋回体3は、油圧アクチュエータ2A,3A1,4a〜4cへ供給する圧油の流れ(流量及び方向)を制御するコントロールバルブ20と、油圧ポンプ17の容量を調節するポンプ容量調節装置21と、走行レバー5A、操作レバー5B、ゲートロックレバー5C、モード設定スイッチ5D、回転数設定ダイヤル5E、稼働禁止スイッチ5F、モニタ5G、油圧ポンプ17、エンジンコントローラ12、インバータ15、バッテリコントローラ16C、ポンプ容量調節装置21に接続され、車体全体の動作を制御するハイブリッドコントローラ(HCU)22とを備えている。
コントロールバルブ20は、油圧ポンプ17及び油圧アクチュエータ2A,3A1,4a〜4cとの間で油圧回路を構成し、図示されないが、外殻を形成するハウジング内でストロークすることにより、油圧ポンプ17から吐出された圧油の流量及び方向を調整するスプールと、ハイブリッドコントローラ22の指令値に応じて、スプールのストローク量を変更する電磁比例弁とを有している。
図3は油圧ポンプ17の負荷特性を説明する図である
ポンプ容量調節装置21は、ハイブリッドコントローラ22から出力される制御指令に基づいて油圧ポンプ17の容量(押しのけ容積)を調節するものである。具体的には、ポンプ容量調節装置21は、図示されないが、油圧ポンプ17の斜板を傾転可能に支持するレギュレータと、ハイブリッドコントローラ22の指令値に応じて、レギュレータに制御圧を加える電磁比例弁とを有している。レギュレータは、電磁比例弁から制御圧を受けると、この制御圧によって油圧ポンプ17の斜板の傾転角を変更することにより、油圧ポンプ17の容量(押しのけ容積)が調節される。これにより、油圧ポンプ17の吐出圧を可変とし、油圧ポンプ17の吸収トルク(入力トルク)を制御することにより、油圧ポンプ17の負荷(ポンプ出力)を調節することができる。
ハイブリッドコントローラ22は、吐出圧センサによって測定された吐出圧、吐出流量センサによって測定された吐出流量、及び、傾転角センサによって測定された傾転角を入力し、これらの入力情報から油圧ポンプ17の負荷を演算する。また、ハイブリッドコントローラ22は、キャビン5内の走行レバー5A及び操作レバー5Bの操作信号を入力し、各レバー5A,5Bの操作量に対応する制御指令をコントロールバルブ20の電磁比例弁へ出力するようになっている。
従って、キャビン5内のオペレータが走行レバー5A及び操作レバー5Bを操作すると、ハイブリッドコントローラ22から各レバー5A,5Bの操作量に対応する制御指令がコントロールバルブ20の電磁比例弁に入力されることにより、コントロールバルブ20のスプールの位置が切換えられ、油圧ポンプ17からコントロールバルブ20を流通した圧油が油圧アクチュエータ2A,3A1,4a〜4cへ供給される。これにより、油圧アクチュエータ2A,3A1,4a〜4cが油圧ポンプ17からコントロールバルブ20を介して供給された圧油によって駆動する。
ここで、蓄電装置16の温度特性について図4を参照して詳細に説明する。図4は蓄電装置16のリチウムイオン電池16Aの温度が3つの異なる温度のときの蓄電装置16のSOC(State Оf Charge:充電率)と出力との関係の一例を示している。
図4に示すように、リチウムイオン電池16Aは、SOCが上昇するにつれて出力も増大するが、リチウムイオン電池16Aの温度が低くなると、出力が低下する。特に、低温の環境下では、出力が大幅に減少しているので、十分な出力が供給可能となる温度まで蓄電装置16の暖気運転を行う必要がある。そこで、本実施形態では、ハイブリッドコントローラ22は、リチウムイオン電池16Aの温度に応じて、蓄電装置16を充放電して暖機運転を行うかどうかを判定する判定部を有している。
図5はバッテリコントローラ16Cの構成を示す機能ブロック図である。
バッテリコントローラ16Cは、リチウムイオン電池16Aの温度を測定する温度測定部16C1と、リチウムイオン電池16Aのセル電圧及び総電圧を測定する電圧測定部16C2、電流センサ16Bの測定値をAD変換して入力する電流測定部16C3と、温度測定部16C1によって測定された温度、電圧測定部16C2によって測定された総電圧、及び電流測定部16C3によって入力された電流に基づいて、蓄電装置16のSOCを推定する充電率推定部としてのSOC推定部16C4とを有している。
また、バッテリコントローラ16Cは、温度測定部16C1によって測定された温度、電圧測定部16C2によって測定された総電圧、電流測定部16C3によって入力された電流、及びSOC推定部16C4によって推定されたSOCに基づいて、リチウムイオン電池16Aの充放電可能な最大電力である許容充放電電力を演算する最大電力演算部としての許容充放電電力演算部16C5とを有している。そして、温度測定部16C1によって測定された温度、SOC推定部16C4によって推定されたSOC、及び許容充放電電力演算部16C5によって演算された許容充放電電力の情報はハイブリッドコントローラ22に入力される。
次に、SOC推定部16C4による蓄電装置16のSOCの推定について詳細に説明する。
例えば、車体が稼動する前のリレー開放状態におけるリチウムイオン電池16Aの電圧、すなわち開回路電圧をSOC(0)、車体の稼働中におけるリチウムイオン電池16Aの充放電電流の積算値をIS、リチウムイオン電池16Aの満充電容量をCmaxとすると、下記の数式(1)が成立する。
SOC推定部16C4は、図示されないが、蓄電装置16のSOCと開回路電圧との関係が示されたSOC−開回路電圧のテーブルAを内部に保有している。SOC推定部16C4は、車体の起動時の開回路電圧をこのテーブルAに適用することにより、得られたSOCをSOC(0)として演算する。そして、SOC推定部16C4は、演算したSOC(0)、車体の稼働中におけるリチウムイオン電池16Aの充放電電流の積算値ISとリチウムイオン電池16Aの満充電容量Cmaxの比率、及び上記の数式(1)からその変化量を演算し、現在の蓄電装置16のSOCを求める。
次に、許容充放電電力演算部16C5による許容充放電電力の演算について詳細に説明する。
例えば、許容充電電流をIC、リチウムイオン電池16Aの電圧の上限値をVmax、開回路電圧をVo、内部抵抗をr、許容充電電力をECとすると、下記の数式(2)、(3)が成立する。
許容充放電電力演算部16C5は、リチウムイオン電池16Aの電圧の上限値Vmax及び後述の下限値Vminを内部に保有している。また、許容充放電電力演算部16C5は、蓄電装置16のSOCと開回路電圧Voとの関係が示されたテーブルBを内部に保有している。さらに、許容充放電電力演算部16C5は、蓄電装置16のSOC、リチウムイオン電池16Aの温度、及び内部抵抗rの関係が示されたテーブルCを内部に保有している。なお、リチウムイオン電池16Aの電圧の上限値Vmax、下限値Vmin、開回路電圧Vo、及び内部抵抗rは、リチウムイオン電池16Aにおける複数の電池セルを接続した際の総和の値である。
許容充放電電力演算部16C5は、SOC推定部16C4によって推定されたSOCをテーブルBに適用することにより、開回路電圧Voを演算する。また、許容充放電電力演算部16C5は、SOC推定部16C4によって推定されたSOC、及び温度測定部16C1によって測定された温度をテーブルCに適用することにより、内部抵抗rを演算する。
そして、許容充放電電力演算部16C5は、リチウムイオン電池16Aの電圧の上限値Vmax、演算した開回路電圧Vo、及び内部抵抗rを上記の数式(2)に代入することにより、許容充電電流ICを演算する。さらに、許容充放電電力演算部16C5は、演算した許容充電電流IC、開回路電圧Vo、及び内部抵抗rを数式(3)に代入することにより、許容充電電力ECを演算する。
一方、許容放電電流をID、許容放電電力をEDとすると、下記の数式(4)、(5)が成立する。
許容充放電電力演算部16C5は、リチウムイオン電池16Aの電圧の下限値Vmin、上述の許容充電電流ICの演算と同様に演算した開回路電圧Vo、及び内部抵抗rを上記の数式(4)に代入することにより、許容放電電流IDを演算する。さらに、許容充放電電力演算部16C5は、演算した許容放電電流ID、開回路電圧Vo、及び内部抵抗rを数式(5)に代入することにより、許容放電電力EDを演算する。なお、許容充放電電力演算部16C5による演算は、リチウムイオン電池16Aが内部短絡等の熱的影響を防止するため、リチウムイオン電池16Aの電圧を正常な範囲内に制御することを目的に行われたが、このような目的に限らず、例えば、過充電や過放電を防止する目的で蓄電装置16CのSOCによる制限や、過充電や過放電を防止する目的でリチウムイオン電池16Aの温度による制限を別途設けても良い。
図6はハイブリッドコントローラ22の構成を示す機能ブロック図である。
ハイブリッドコントローラ22は、走行レバー5A、操作レバー5B、及びモード設定スイッチ5Dに接続され、油圧ポンプ17に要求される出力(以下、便宜的にポンプ要求出力と呼ぶ)を推定する油圧ポンプ要求出力推定部22Aと、エンジンコントローラ12に接続され、エンジン11の出力の上限(以下、便宜的にエンジン出力上限と呼ぶ)を演算するエンジン出力上限演算部22Bと、油圧ポンプ要求出力推定部22A、モード設定スイッチ5D、ゲートロックレバー5C、稼働禁止スイッチ5F、モニタ5G、エンジン出力上限演算部22B、バッテリコントローラ16C、油圧ポンプ17、ポンプ容量調節装置21、及びインバータ15に接続され、油圧ポンプ17、ポンプ容量調節装置21、エンジンコントローラ12、及びインバータ15への制御指令を出力する出力指令部22Cとを含んでいる。
油圧ポンプ要求出力推定部22Aは、走行レバー5Aと操作レバー5Bの操作量、及びモード設定スイッチ5Dの動作モードを入力し、これらの入力情報に基づいて、走行用油圧モータ2A、旋回用油圧モータ3A1、ブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、及びバケットシリンダ4cに要求される負荷をそれぞれ推定する。
図7は油圧アクチュエータ2A,3A1,4a〜4cのうち走行用油圧モータ2Aに要求される負荷特性を説明する図である。
図7に示すように、走行用油圧モータ2Aに要求される負荷は、走行レバー5Aの操作量が増加するにつれて増大するように設定される。また、走行用油圧モータ2Aに要求される負荷は、オペレータがモード設定スイッチ5Dで設定した動作モードに応じて、その大小を変更するように設定される。
例えば、オペレータが車体の動作モードをエコモードに設定した場合には、燃費を重視するために、走行用油圧モータ2Aに要求される負荷が低く設定され、オペレータが車体の動作モードをパワーモードに設定した場合には、作業速度を重視するために、走行用油圧モータ2Aに要求される負荷が高く設定される。従って、油圧ポンプ要求出力推定部22Aは、モード設定スイッチ5Dで設定された動作モードにおける走行レバー5Aの操作量から走行用油圧モータ2Aに要求される負荷を推定する。
また、油圧ポンプ要求出力推定部22Aは、他の油圧アクチュエータである旋回用油圧モータ3A1、ブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、及びバケットシリンダ4cに要求される負荷に関しても、上述の走行用油圧モータ2Aと同様に、モード設定スイッチ5Dで設定された動作モードにおける操作レバー5Bの操作量から推定する。そして、油圧ポンプ要求出力推定部22Aは、走行用油圧モータ2A、旋回用油圧モータ3A1、ブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、及びバケットシリンダ4cに要求される負荷の合計値をポンプ要求出力として出力指令部22Cへ出力する。
図8はエンジン11の回転数と出力の上限との関係を示す図である。
図8に示すように、エンジン出力上限は、エンジン11の回転数によって定まり、エンジン11の回転数が低いときには、エンジン11の回転数の上昇に伴ってエンジン出力上限が増大し、エンジン11の回転数が高くなると、エンジン11の回転数の上昇に伴ってエンジン出力上限が減少するようになっている。このように、エンジン出力上限は、エンジン11の回転数から推定することができる。
本実施形態では、エンジン出力上限演算部22Bは、回転数センサ11Aによって検出されたエンジン11の回転数を、エンジンコントローラ12を介して入力し、この入力情報からエンジン出力上限を推定する。そして、エンジン出力上限演算部22Bは、推定したエンジン出力上限を出力指令部22Cへ出力する。なお、エンジン11の回転数は、オペレータが回転数設定ダイヤル5Eによって目標回転数を調整することで変更することができる。
出力指令部22Cは、油圧ポンプ要求出力推定部22Aによって推定されたポンプ要求出力、及びエンジン出力上限演算部22Bによって演算されたエンジン出力上限に基づいて、ポンプ容量調節装置21、エンジンコントローラ12、及びインバータ15へ出力する指令値を演算する。そして、出力指令部22Cは、演算した指令値に対応する制御指令として、バルブ出力指令、ポンプ出力指令、エンジン出力指令、及びインバータ電力指令をポンプ容量調節装置21、エンジンコントローラ12、及びインバータ15へそれぞれ出力し、これらの各装置を制御する。
具体的には、出力指令部22Cは、車体の動作に関する情報に基づいて、車体が稼働しているかどうかを判定する稼働判定部22C1と、稼働判定部22C1の判定結果に応じて、蓄電装置16の暖機運転時の目標SOCを設定する目標充電率設定部としての目標SOC設定部22C2と、蓄電装置16を充放電させる電力を設定する充放電電力設定部22C3と、蓄電装置16の暖機運転が行われたとき、温度測定部16C1によって測定される温度が目標温度に達するまでにかかる蓄電装置16の暖機運転の終了時間を推定する終了時間推定部22C4とを含んでいる。稼働判定部22C1は、稼働禁止スイッチ5Fによって車体の稼働が禁止された場合に、車体の動作に関する情報に拘わらず、車体が稼働していないと判定する。
ここで、車体の動作に関する情報とは、例えば、走行レバー5A及び操作レバー5Bの操作量、ゲートロックレバー5Cの位置、モード設定スイッチ5Dによって設定された動作モード、回転数設定ダイヤル5Eによって設定された目標回転数、回転数センサ11Aによって検出された回転数、SOC推定部16C4によって推定された充電率、油圧ポンプ要求出力推定部22Aによって推定されたポンプ要求出力、及びエンジン出力上限演算部22Bによって推定されたエンジン出力上限等の情報を含んでいる。
また、車体が稼働しているとは、例えば、油圧アクチュエータ2A,3A1,4a〜4cに対する作動が要求されている状態であり、その具体例として、オペレータが走行レバー5A又は操作レバー5Bを操作しており、ポンプ要求出力が所定の出力P1以上となる状態をいう。また、車体が稼働していない(非稼働)とは、例えば、油圧アクチュエータ2A,3A1,4a〜4cに対する作動が要求されていない状態であり、具体例として、オペレータが走行レバー5A又は操作レバー5Bを操作せず、ポンプ要求出力が所定の出力P1未満となる状態をいう。
目標SOC設定部22C2は、温度測定部16C1によって測定された温度が所定の温度T1以下であり、かつ稼働判定部22C1によって車体が稼働していないと判定された場合に、走行レバー5A及び操作レバー5Bの操作量、ゲートロックレバー5Cの位置、モード設定スイッチ5Dによって設定された動作モード、回転数センサ11Aによって検出された回転数、及びSOC推定部16C4によって推定された充電率の少なくとも1つ、例えば、ゲートロックレバー5Cの位置、及びモード設定スイッチ5Dによって設定された動作モードに基づいて、蓄電装置16の目標SOCを設定するようにしている。
充放電電力設定部22C3は、例えば、温度測定部16C1によって測定された温度が所定の温度T1以下であり、かつ稼働判定部22C1によって車体が稼働していると判定された場合に、油圧ポンプ要求出力推定部22Aによって推定されたポンプ要求出力、エンジン出力上限演算部22Bによって演算されたエンジン出力上限、及び許容充放電電力演算部16C5によって演算された許容充放電電力に基づいて、蓄電装置16を充放電させる電力をインバータ電力指令として設定するようにしている。
また、充放電電力設定部22C3は、例えば、温度測定部16C1によって測定された温度が所定の温度T1以下であり、かつ稼働判定部22C1によって車体が稼働していないと判定された場合に、SOC推定部16C4によって推定されたSOC及び目標SOC設定部22C2によって設定された目標SOCに基づいて、蓄電装置16を充放電させる電力をインバータ電力指令として設定するようにしている。
次に、出力指令部22Cによる蓄電装置16の暖機運転の制御について、図9のフローチャートを参照して詳細に説明する。図9に示す制御は、例えば、低温の環境下で油圧ショベル1を起動させたときに実施される。
まず、出力指令部22Cは、温度測定部16C1によって測定された温度が所定の温度T1以下であるかどうかを判定する((ステップ(以下、Sと記す)101)。S101において、温度測定部16C1によって測定された温度が所定の温度T1より大きいときには(S101/NO)、出力指令部22Cは、蓄電装置16の暖機運転を行わず、蓄電装置16の暖機運転の制御を終了する。
S101において、温度測定部16C1によって測定された温度が所定の温度T1以下のときには(S101/YES)、出力指令部22Cの稼働判定部22C1は、車体の動作に関する情報として、例えば、油圧ポンプ要求出力推定部22Aによって推定されたポンプ要求出力に基づいて、車体が稼働しているのかどうか、すなわち車体が稼動しているのか、あるいは稼働していないのかを判定する(S102)。
このとき、稼働判定部22C1は、ポンプ要求出力が所定の出力P1として、例えば、アイドリング状態のときの出力値である0kWより大きいときには(S102/NO)、車体が稼働していると判定する。そして、稼働判定部22C1は、稼働禁止スイッチ5Fによって車体の稼働が禁止されているかどうかを判定する(S103)。S103において、稼働判定部22C1は、車体の稼働が禁止されていないと判定すると(S103/NO)、出力指令部22Cは、車体の稼働時における蓄電装置16の暖機運転の制御を行う(S120)。
一方、S102において、稼働判定部22C1は、ポンプ要求出力が0kW以下であるときには(S102/YES)、車体が稼働していないアイドリング状態であると判定し、出力指令部22Cは、車体の非稼働時における蓄電装置16の暖機運転の制御を行う(S140)。また、S103において、稼働判定部22C1は、車体の稼働が禁止されていると判定したときにも(S103/YES)、S140の処理が行われる。上述したS120又はS140の処理が行われている間、終了時間推定部22C4は、蓄電装置16の暖機運転の終了時間を推定してキャビン5のモニタ5Gに表示する。なお、出力P1は、上述した0kWの場合に限らず、例えば、エンジン11の定格出力以下の任意の値に設定することで、ポンプ要求出力が僅かであっても、車体の非稼動時における蓄電装置16の暖機運転の制御が行われるようにしても良い。
S120又はS140において、蓄電装置16の暖機運転が一定時間実施されると、出力指令部22Cは、温度測定部16C1によって測定された温度が所定の目標温度T2以下であるかどうかを判定する(S104)。このとき、温度測定部16C1によって測定された温度Tが所定の目標温度T2以下であると判定された場合には(S104/YES)、S102からの処理が繰り返される。
一方、S104において、温度測定部16C1によって測定された温度が所定の目標温度T2より大きいときと判定された場合には(S104/NO)、出力指令部22Cは、蓄電装置16の暖機運転の実施を停止し、蓄電装置16の暖機運転の制御を終了する。なお、目標温度T2は、S101における温度T1と同一であっても良いし、あるいは別の値を設定しても良い。
次に、図9のS120の車体の稼働時における蓄電装置16の暖機運転の制御について、図10のフローチャート及び図11を参照して詳細に説明する。図11はポンプ要求出力、エンジン出力上限、及びインバータに要求される電力(以下、便宜的にインバータ要求電力と呼ぶ)の時間推移を示す図である。
まず、出力指令部22Cは、油圧ポンプ要求出力推定部22Aによって推定されたポンプ要求出力及びエンジン出力上限演算部22Bによって演算されたエンジン出力上限に基づいて、インバータ15の電力の極性を推定する(S121)。このとき、出力指令部22Cは、例えば、ポンプ要求出力とエンジン出力上限の差分からインバータ要求電力を算出する。従って、図11に示すように、ポンプ要求出力がエンジン出力上限よりも大きければ、インバータ要求電力は0より大きくなって放電電力となり、ポンプ要求出力がエンジン出力上限よりも小さければ、インバータ要求電力は0より小さくなって充電電力となる。
S121において、出力指令部22Cは、インバータ電力要求が0より大きいと推定すると(S121/YES)、インバータ要求電力が許容充放電電力演算部16C5によって演算された許容放電電力より大きいかどうかを判定する(S122)。なお、本実施形態では、出力指令部22Cによる演算を簡易化するため、電動発電機14及びインバータ15の効率を100%とし、損失が発生しない理想状態とする。
S121において、出力指令部22Cは、インバータ要求電力が許容放電電力より大きいと判定すると(S122/YES)、充放電電力設定部22C3は、許容放電電力をインバータ電力指令として設定する(S123)。このとき、出力指令部22Cは、許容放電電力を超過する分のインバータ要求電力に対しては、油圧ポンプ17の出力をポンプ要求出力に対して低減することで調整し、後述のS128の処理が行われる。
S122において、出力指令部22Cは、インバータ要求電力が許容放電電力以下であると判定すると(S122/NO)、出力指令部22Cは、油圧バルブ(図示せず)を閉じて油圧ポンプ17の出力を高めるバルブ指令を油圧ポンプ17へ出力することにより、油圧ポンプ17に追加して要求される出力(以下、便宜的にポンプ追加要求出力と呼ぶ)を生成し、インバータ要求電力よりも大きな電力を放電して蓄電装置16の暖機運転を促進する。このとき、充放電電力設定部22C3は、インバータ要求電力とポンプ追加要求出力の和をインバータ電力指令として設定し(S124)、後述のS128の処理が行われる。なお、このポンプ追加要求出力は、インバータ要求電力との和が許容放電電力を超えない範囲で設定される。
一方、S121において、出力指令部22Cは、インバータ電力要求が0以下であると推定すると(S121/NO)、インバータ要求電力が許容充放電電力演算部16C5によって演算された許容充電電力より大きいかどうかを判定する(S125)。S125において、出力指令部22Cは、インバータ要求電力が許容充電電力より大きいと判定すると(S125/YES)、充放電電力設定部22C3は、インバータ要求電力をインバータ電力指令として設定し(S126)、後述のS128の処理が行われる。
S125において、出力指令部22Cは、インバータ要求電力が許容充電電力以下であると判定すると(S125/NO)、充放電電力設定部22C3は、許容充電電力をインバータ電力指令として設定する(S127)。このとき、出力指令部22Cは、許容充電電力を超過する分のインバータ要求電力(回生電力)に対しては、蓄電装置16への充電を制限することで調整し、後述のS128の処理が行われる。
そして、S128では、出力指令部22Cは、エンジン出力上限をエンジン出力指令として設定した後、エンジン出力指令とインバータ電力指令の和をポンプ出力指令として設定し、車体の稼働時における蓄電装置16の暖機運転の制御を終了する。
このように、充放電電力設定部22C3は、ポンプ要求出力、エンジン出力上限、及び許容充放電電力から蓄電装置16を充放電させる電力をインバータ電力指令として設定することにより、稼働中の作業に伴う車体への負荷の変動に拘わらず、暖機運転における蓄電装置16の電圧を正常な範囲内に制御することができる。これにより、蓄電装置16の状態を安定させることができるので、蓄電装置16にかかる負担を軽減することができ、蓄電装置16の高寿命化を図ることができる。
次に、図9のS140の車体の非稼働時における蓄電装置16の暖機運転の制御について、図12のフローチャート及び図13を参照して詳細に説明する。図13は目標SOC設定部22C2による蓄電装置16の目標SOCの設定の一例を示しており、出力指令部22Cに入力されるゲートロックレバー5Cの位置、及び車体の動作モードの情報から目標SOCを設定したときの蓄電装置16のSOCの時間推移を表している。
まず、出力指令部22Cの目標SOC設定部22C2は、蓄電装置16の目標SOCを設定する(S141)。
ここで、リチウムイオン電池16Aは、SOCが低い程、内部抵抗が高くなり、結果として発熱量が大きくなる傾向がある。また、低温時にはリチウムイオン電池16Aの電圧降下分が大きくなるため、リチウムイオン電池16Aは劣化し易い環境にある。このような環境下では、SOCが低い程、負極電位が高くなるので、充電によるリチウムイオン電池16Aの劣化の影響が低く抑制される傾向がある。これらの理由から、リチウムイオン電池16Aの観点では、できる限り低いSOCで暖機運転をすることが望ましい。
しかし、車体が非稼働状態から稼動状態へ移行した際に、直ちに蓄電装置16が容量不足に陥らないように、SOCが高い状態で蓄電装置16の暖機運転を行うことが望ましい。そこで、本実施形態は、ゲートロックレバー5Cがロック位置にあるときには、車体が非稼働状態から稼動状態へ直ちに移行することはない実情を考慮し、できる限り低いSOCの領域で蓄電装置16を充放電させるようにしている。
例えば、図13に示すように、目標SOC設定部22C2は、ゲートロックレバー5Cがロック位置にあるときに、目標SOCをSOC下限値付近のSOCを示す「低」に設定する。一方、ゲートロックレバー5Cがロック解除位置にあるときには、車体が非稼働状態から稼動状態へ直ちに移行することがあり得る。そこで、本実施形態では、目標SOC設定部22C2は、モード設定スイッチ5Dによって設定された動作モードに基づいて、リチウムイオン電池16Aに要求される電力を推定して目標SOCを設定する。
具体例として、モード設定スイッチ5Dによって設定された動作モードが、車体の動作性能を優先するパワーモードであるとき、電動発電機14に要求されるアシスト量が多いため、目標SOC設定部22C2は、目標SOCをSOC上限値付近のSOCを示す「高」に設定する。また、モード設定スイッチ5Dによって設定された動作モードが、燃料消費量(燃費)性能を優先するエコモードであるとき、電動発電機14に要求されるアシスト量がパワーモードのときに比べて少ないため、目標SOC設定部22C2は、SOC中心値付近のSOCを示す「中」に設定する。なお、下記の説明において、蓄電装置16の暖機運転中の目標SOC設定部22C2によるSOCの変動幅の設定値をαとする。
S141において、目標SOC設定部22C2によって目標SOCが設定されると、出力指令部22Cは、SOC推定部16C4によって推定された現在のSOCが目標SOC設定部22C2によって設定された目標SOCより大きいかどうかを判定する(S142)。このとき、出力指令部22Cは、現在のSOCが目標SOC以下であると判定すると(S142/NO)、充放電電力設定部22C3は、許容充放電電力演算部16C5によって演算された許容充電電力をインバータ電力指令として設定し(S143)、後述のS149の処理が行われる。なお、本実施形態では、出力指令部22Cによる演算を簡易化するため、アイドリング状態(車体の非稼働)におけるエンジン出力上限は、許容充電電力の絶対値に比べて十分に大きいと仮定する。
S142において、出力指令部22Cは、現在のSOCが目標SOCより大きいと判定すると(S142/YES)、現在のSOCが、目標SOCに設定値αを加算した値(目標SOC+α)より小さいかどうかを判定する(S144)。このとき、出力指令部22Cは、現在のSOCが、目標SOCに設定値αを加算した値(目標SOC+α)以上であると判定すると(S144/NO)、油圧バルブ(図示せず)を閉じて油圧ポンプ17の出力を高めるバルブ指令を油圧ポンプ17へ出力することにより、ポンプ追加要求出力を生成する。そして、充放電電力設定部22C3は、このポンプ追加要求出力をインバータ電力指令として設定し(S145)、後述のS149の処理が行われる。
S144において、出力指令部22Cは、現在のSOCが、目標SOCに設定値αを加算した値(目標SOC+α)より小さいと判定すると(S144/YES)、一制御周期前のインバータ電力指令が充電であるかどうかを判定する(S146)。このとき、出力指令部22Cは、一制御周期前のインバータ電力指令が充電であると判定すると(S146/YES)、充放電電力設定部22C3は、許容充放電電力演算部16C5によって演算された許容充電電力をインバータ電力指令として設定し(S147)、後述のS149の処理が行われる。S147の処理が行われることにより、蓄電装置16のSOCが目標SOCに設定値αを加算した値(目標SOC+α)以上になるまで、蓄電装置16の充電が継続される。
一方、S146において、出力指令部22Cは、一制御周期前のインバータ電力指令が放電であると判定すると(S146/NO)、油圧バルブ(図示せず)を閉じて油圧ポンプ17の出力を高めるバルブ指令を油圧ポンプ17へ出力することにより、ポンプ追加要求出力を生成する。そして、充放電電力設定部22C3は、このポンプ追加要求出力をインバータ電力指令として設定し(S148)、後述のS149の処理が行われる。S148の処理が行われることにより、蓄電装置16のSOCが目標SOC以下になるまで、蓄電装置16の放電が継続される。これにより、蓄電装置16の電力が電動発電機14へ円滑に流れるので、蓄電装置16のSOCを目標SOCへ迅速に減少させることができ、蓄電装置16の暖機運転の優れた効率性を実現することができる。
S149では、出力指令部22Cは、許容充放電電力演算部16C5によって演算された許容充電電力の絶対値をエンジン出力指令に設定した後、エンジン出力指令とインバータ電力指令の和をポンプ出力指令として設定し、車体の非稼働時における蓄電装置16の暖機運転の制御を終了する。
図14は車体が稼働していないときの蓄電装置16の暖機運転の制御によって蓄電装置16のSOC、電圧、及び電流が変化する様子を示す図である。
図14に示すように、蓄電装置16の暖機運転が行われると、蓄電装置16のSOCの変化に応じて蓄電装置16の電圧及び電流が変化し、蓄電装置16の電圧は一定の範囲内で制御されていることが分かる。また、図14に示すように、蓄電装置8の電流の絶対値も大きくなっているので、蓄電装置16の暖機運転によってリチウムイオン電池16Aの温度が上昇し、これに伴って蓄電装置16の出力が大きくなっていることが分かる。
図15は車体が稼働していないときの蓄電装置16の暖機運転の制御が実施されたシミュレーション結果の一例を示している。図15において、破線は、本実施形態に係る蓄電装置16の暖機運転の比較例として、蓄電装置16のSOCの上下限値まで、蓄電装置16の充放電を繰り返した結果を表しており、実線は、上述した本実施形態に係る蓄電装置16の暖機運転を実施した結果を表している。
図15に示すように、比較例では、車体が稼働しているかどうかに拘わらず、蓄電装置16のSOCが30%〜70%の範囲で変動することにより、リチウムイオン電池16Aの温度(約−25℃)が目標温度(25℃)になるまで、約300秒(s)かかっている。これに対し、本実施形態では、ゲートロックレバー5Cがロック位置にあるときに、蓄電装置16のSOCが30%〜40%の範囲で変動し、モード設定スイッチ5Dによって設定された動作モードがエコモードのときに、蓄電装置16のSOCが40%〜60%の範囲で変動することにより、リチウムイオン電池16Aの温度(約−25℃)が目標温度(25℃)になるまで、約170秒(s)で済んでおり、比較例に対して約130秒(s)短くなっている。
以上より、目標SOC設定部22C2は、ゲートロックレバー5Cの位置、及びモード設定スイッチ5Dによって設定された動作モードに応じて、車体の稼働状態への移行の可能性と蓄電装置16の性質を踏まえた最適なSOCで蓄電装置16の充放電を繰り返すことにより、蓄電装置16の暖機運転に要する時間を短縮することができる。これにより、車体の非稼働時における蓄電装置16の暖機運転を効率良く行うことができる。しかも、車体が非稼働状態から稼動状態へ移行した際に、蓄電装置16が各動作モードに対して十分なSOCを確保しているので、車体の移動等で放電が連続して行われる必要がある場合でも、蓄電装置16の容量不足を防止することができる。
このように構成した本実施形態によれば、ハイブリッドコントローラ22の出力指令部22Cによって蓄電装置16の暖機運転が行われるときに、出力指令部22Cの目標SOC設定部22C2が、稼働判定部22C1の判定結果を考慮して車体の稼働状況に適した目標SOCを設定できるので、蓄電装置16の暖機運転中であっても、電動発電機14がエンジン11の動力を十分にアシスト及び発電することができる。これにより、エンジン11の動作を適切な状態に維持できるので、エンジン11が損傷したり、あるいは停止する等のエンジン11の不具合が生じることなく、蓄電装置16を迅速に暖機運転させることができる。
また、本実施形態では、キャビン5内のオペレータは、図9のS103において、例えば、作業に対してエンジン11及び電動発電機14の出力が不足している場合には、稼働禁止スイッチ5Fを入れることにより、走行レバー5A及び操作レバー5Bの操作に拘わらず、車体が強制的に非稼働の状態に維持されるので、蓄電装置16を円滑に充放電させることができる。これにより、蓄電装置16の温度が上昇し、蓄電装置16から得られる出力を早急に増大させることができるので、オペレータが作業に迅速に取り掛かることができ、優れた利便性を得ることができる。
また、本実施形態では、図9のS120又はS140において、蓄電装置16の暖機運転が行われている間に、終了時間推定部22C4によってキャビン5内のモニタ5Gに蓄電装置16の暖機運転の終了時間が表示されるので、モニタ5Gの画面から作業を開始するまでの待ち時間を迅速に把握することができる。これにより、オペレータは、その待ち時間を他の作業に有効に活用できるので、蓄電装置16の暖機運転をより有意義なものとすることができる。
また、上述した本実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
さらに、本実施形態に係るハイブリッド式建設機械はハイブリッド式油圧ショベル1から成る場合について説明したが、この場合に限らず、例えば、ハイブリッド式ホイールローダ及びハイブリッド式ダンプ等のハイブリッド式建設機械(プラグインハイブリッド式建設機械を含む)、あるいはエンジン11を搭載せずに蓄電装置16の出力だけで駆動するバッテリ式建設機械であっても良い。さらに、本実施形態に係る蓄電装置16は、リチウムイオン電池16Aを含む構成について説明したが、この場合に限らず、リチウムイオン電池16Aの代わりに、例えば、キャパシタやニッケル水素電池等、低温時に出力が低下するその他の蓄電素子を含む構成にしても良い。
また、本実施形態は、出力指令部22Cの稼働判定部22C1は、車体の動作に関する情報として、油圧ポンプ要求出力推定部22Aによって推定されたポンプ要求出力に基づいて、車体が稼働しているのかどうかを判定した場合について説明したが、この場合に限らず、その他の車体の動作に関する情報に基づいて、車体が稼働しているのかどうかを判定しても良い。例えば、稼働判定部22C1は、走行レバー5A及び操作レバー5Bの操作量に基づいて、車体が稼働しているのかどうかを判定したり、あるいはゲートロックレバー5Cの位置に基づいて、車体が稼働しているのかどうかを判定しても良い。