JP6331198B2 - 溶接装置 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼板などの金属板を片側電極でスポット溶接する片側スポット溶接方法および溶接装置に関する。
スポット溶接は、自動車などの車両の製造ラインから一般産業に使われる制御装置の筐体接合などに広く使われている。
スポット溶接は、一般的には上下の電極で鋼板などの被溶接物を挟持し電流が印加され溶接される(特許文献1、特許文献2、特許文献3、参照)
しかし、近年上下の電極とせず、一方向から二つの電極を押付けて溶接するいわゆる片側溶接の発明が多く見られるが、技術的にはかなり難しい面がある(特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7参照)
上記とは別に、本願発明者等は特許文献8、特許文献9を提案し、スポット溶接の従来技術に対しての改善を試みて来た。
特開2008−105041号公報 特開2009−291827号公報 特開2011−5544号公報 特開2011−31269号公報 特開2012−71311号公報 特開2012−96249号公報 特開2013−52427号公報 特開2012−210654号公報 特開2013−179205号公報
本発明は、本願の発明者等が先に特許文献8、特許文献9で提案した抵抗溶接用の溶接トランス、溶接方法、溶接装置を活用し、二枚の鋼板を片側溶接する溶接方法である。
本発明では、先に提案した特許文献8、特許文献9を活用することと、更に、新たに提案した片側電極を用い、被溶接物(鋼板)にプロジェクションや逃がし孔を付加することなどで、保護シート付の鋼板や、片面塗装した鋼板にも、一方向から容易にスポット溶接できることを課題とする。更に、極めて短い通電時間により材料の美麗さを損なわず、かつ、消費電力を節減する溶接方法を課題とするものである。
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈片側スポット溶接方法〉
平行部25aと両端のU字状の湾曲部25bにより構成される環状磁心25と、前記環状磁心25の前記平行部25aに、複数の部分に分けて間隙12aを空けて分割巻きされる1次コイル12と、前記1次コイル12と共に前記環状磁心25の前記平行部25aに巻回され、前記1次コイル12に設けられた前記各間隙12aに1個ずつ挟み込むように、複数の正側コイル14と複数の負側コイル16とを交互に配列した2次コイルと、前記複数の正側コイル14は全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、前記複数の負側コイル16は全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、前記接続された前記複数の正側コイル14と前記複数の負側コイル16とが互いに直列接続されるように、前記正側コイル14と前記負側コイル16の端子間を電気接続する導体群を有し、かつ、前記導体群により、前記全ての正側コイル14と負側コイル16とを一方の面上に支持固定する接続基板62を備え、前記複数の正側コイル14の一方の端子は、前記接続基板62の他方の面上で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第1連結極板44に電気接続され、前記複数の負側コイル16の一方の端子は、前記接続基板62の他方の面側で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第2連結極板46に電気接続され、前記正側コイル14と前記負側コイル16の他端は、共に、前記接続基板62の他方の面側で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第3連結極板48に電気接続され、前記第1連結極板44には、正側導体30が連結され、前記第2連結極板46には、負側導体32が連結され、前記正側導体30と前記負側導体32とは、前記接続基板62の他方の面側において、当該他方の面から垂直に離れる方向に伸びる境界面に配置された絶縁層31を介して重ね合わされた一対の導体板であって、前記正側導体30と第1極板34に挟まれて、前記正側導体30に負極を接触させ前記第1極板34に正極を接触させた整流素子18と、前記負側導体32と第2極板36に挟まれて、前記負側導体32に負極を接触させ前記第2極板36に正極を接触させた整流素子20と、前記第1極板34と前記第2極板36を支持し、両者を電気接続する第3極板38と、を備えた溶接トランスと、
高周波交流を前記溶接トランスの1次コイル12に供給し2次コイルに生起する電流を直流化して溶接ガン75に装着される片側電極80に供給する電流の制御を行うものであって、溶接電流供給開始時刻t0からその後の時刻t1までの、電流増加率が最大の部分を立ち上げ制御期間T1と呼び、これに続く時刻t1から時刻t2までの、ピーク電流値C1に近い所定レベルの電流を維持する期間をピークレベル制御期間T2と呼び、その後の時刻t2から電流遮断時刻t3に至るまでの期間を、温度維持制御期間T3と呼ぶとき、前記立ち上げ制御期間T1は10ミリ秒以下とし、前記立ち上げ制御期間T1と前記ピークレベル制御期間T2の和の(T1+T2)時間は15ミリ秒以下とし、前記立ち上げ制御期間T1と前記ピークレベル制御期間T2と前記温度維持制御期間T3の和の(T1+T2+T3)時間は、50ミリ秒以下とする溶接制御電源装置と、
を備えた溶接装置に用いられる片側スポット溶接方法において、
前記溶接ガン75を、先端部分と基端部分の双方が同一方向に直角に曲がったコ字状形状のガン本体76と、前記ガン本体76の両端部分が直角に曲がった側の面と反対側の面の長手方向に沿って摺動可能であり、先端部分が前記ガン本体76の先端部分と同一方向に直角に曲がり、先端が前記ガン本体76の先端に達する長さを有するL字状形状の摺動導電体77とで構成し、
前記溶接ガン75に装着する片側電極80を、前記ガン本体76と導通し、先端に絶縁リング83が設けられた円柱状形状の内側電極82と、前記摺動導電体77と一体化し、軸方向に前記内側電極82を内挿可能な両端が開口した筒状形状の外側電極81と、前記内側電極82の先端に装備される絶縁リング83とで構成し、
溶接する2つの被溶接物5a、5bのうち、一方の被溶接物5aには、前記内側電極82が通過可能な大きさの逃がし孔を形成するとともに、他方の被溶接物5bと合わさる側の面の前記逃がし孔7の周囲に複数個のプロジェクション6を形成し、
前記片側電極80の前記内側電極82を前記被溶接物5aに設けた前記逃がし孔7に挿入して前記逃がし孔7の内側で前記被溶接物5bを押圧し、同時に前記片側電極80の前記外側電極81の先端で前記被溶接物5aの前記逃がし孔7の周囲を押圧し、この状態で前記内側電極82と前記外側電極81の間に給電して前記2つの被溶接物5a、5bを溶接する。
〈溶接装置〉
平行部25aと両端のU字状の湾曲部25bにより構成される環状磁心25と、前記環状磁心25の前記平行部25aに、複数の部分に分けて間隙12aを空けて分割巻きされる1次コイル12と、前記1次コイル12と共に前記環状磁心25の前記平行部25aに巻回され、前記1次コイル12に設けられた前記各間隙12aに1個ずつ挟み込むように、複数の正側コイル14と複数の負側コイル16とを交互に配列した2次コイルと、前記複数の正側コイル14は全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、前記複数の負側コイル16は全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、前記接続された前記複数の正側コイル14と前記複数の負側コイル16とが互いに直列接続されるように、前記正側コイル14と前記負側コイル16の端子間を電気接続する導体群を有し、かつ、前記導体群により、前記全ての正側コイル14と負側コイル16とを一方の面上に支持固定する接続基板62を備え、前記複数の正側コイル14の一方の端子は、前記接続基板62の他方の面上で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第1連結極板44に電気接続され、前記複数の負側コイル16の一方の端子は、前記接続基板62の他方の面側で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第2連結極板46に電気接続され、前記正側コイル14と前記負側コイル16の他端は、共に、前記接続基板62の他方の面側で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第3連結極板48に電気接続され、前記第1連結極板44には、正側導体30が連結され、前記第2連結極板46には、負側導体32が連結され、前記正側導体30と前記負側導体32とは、前記接続基板62の他方の面側において、当該他方の面から垂直に離れる方向に伸びる境界面に配置された絶縁層31を介して重ね合わされた一対の導体板であって、前記正側導体30と第1極板34に挟まれて、前記正側導体30に負極を接触させ前記第1極板34に正極を接触させた整流素子18と、前記負側導体32と第2極板36に挟まれて、前記負側導体32に負極を接触させ前記第2極板36に正極を接触させた整流素子20と、前記第1極板34と前記第2極板36を支持し、両者を電気接続する第3極板38と、を備えた溶接トランスと、
高周波交流を前記溶接トランスの1次コイル12に供給し2次コイルに生起する電流を直流化して溶接ガン75に装着される片側電極80に供給する電流の制御を行うものであって、溶接電流供給開始時刻t0からその後の時刻t1までの、電流増加率が最大の部分を立ち上げ制御期間T1と呼び、これに続く時刻t1から時刻t2までの、ピーク電流値C1に近い所定レベルの電流を維持する期間をピークレベル制御期間T2と呼び、その後の時刻t2から電流遮断時刻t3に至るまでの期間を、温度維持制御期間T3と呼ぶとき、前記立ち上げ制御期間T1は10ミリ秒以下とし、前記立ち上げ制御期間T1と前記ピークレベル制御期間T2の和の(T1+T2)時間は15ミリ秒以下とし、前記立ち上げ制御期間T1と前記ピークレベル制御期間T2と前記温度維持制御期間T3の和の(T1+T2+T3)時間は、50ミリ秒以下とする溶接制御電源装置と、
を備えた溶接装置において、
先端部分と基端部分の双方が同一方向に直角に曲がったコ字状形状のガン本体76と、前記ガン本体76の両端部分が直角に曲がった側の面と反対側の面側で前記ガン本体76と併設され、先端部分が前記ガン本体76の先端部分と同一方向に直角に曲がり、先端が前記ガン本体76の先端に達する長さを有するL字状形状の摺動導電体77と、前記摺動導電体77が前記ガン本体76の長さ方向に沿って摺動できるように前記摺動導電体77と前記ガン本体76を連結する直動ガイド78とで構成される溶接ガン75と、
前記溶接ガン75に装着され、前記ガン本体76と導通し、円柱状形状の内側電極82と、前記摺動導電体77と一体化し、軸方向に前記内側電極82を内挿可能な両端が開口した筒状形状の外側電極81と、前記内側電極82の先端に装備される絶縁リング83とで構成される片側電極80と、
を更に備え、
内側電極82が通過可能な大きさの逃がし孔が形成されるとともに、一方の面の前記逃がし孔の周囲に複数個のプロジェクションが形成された被溶接物5a及び被溶接物5aのプロジェクションが形成された側の面に合わされる被溶接物5bに対し、前記内側電極82を前記被溶接物5aに設けた逃がし孔7に挿入して前記逃がし孔7の内側で前記被溶接物5bを押圧し、同時に前記外側電極81の先端で前記被溶接物5aの前記逃がし孔7の周囲を押圧し、この状態で前記内側電極82と前記外側電極81の間に給電して前記2つの被溶接物5a、5bを溶接する。
(1)正側導体30と負側導体32とを絶縁層を介して密着させ、正側コイル14と負側コイル16との間に1次コイル12を挟むように配置したので、2次回路の転流時のインダクタンスが低減して、転流時間が短くなり、これによって高い周波数のインバータ制御が可能になる。
(2)複数の正側コイル14と複数の負側コイル16との間に分割巻きされた1次コイル12の各部を挟むように配置したので、トランス全体の熱分布が均一になる。
(3)1次コイルと2次側の正側コイルと負側コイルとを分割巻きしたので、1次2次コイル間の結合が良くなり、2次側の大電流による磁気飽和を防止できる。
(4)1次コイル12と正側コイル14と負側コイル16との関係がどの場所でも均等で互いに密接して配置させることができる。
(5)この結果として高速で大電流の図8に示すような溶接制御に追随できる溶接トランスが、得られ、これらを有する溶接装置を使用することと、また、通電時間が極めて短いため、溶接部裏面の焼けや圧痕のない外観が得られ、かつ、消費電力を低減するスタッド溶接方法が得られる。
(6)溶接ガンと片側電極の効果
被溶接物である溶接スタッド8を、溶接ガン75の先端に装着した片側電極80の内側電極82に把持して、もう一方の被溶接物である鋼板5を押圧し、さらに外側電極81で被溶接物(鋼板)5を押圧する。この状態で、内側電極82に溶接電流を供給する。このとき溶接スタッド8のフランジ部92と被溶接物(鋼板)5を経由して、外側電極81に電流が流れる。これにより、プロジェクション9が溶融し、被溶接物どうしが接合して、一方向からの操作によるスタッド溶接が完了する。
(7)外側電極81を支持する摺動導電体77と内側電極82を支持するガン本体76を直動ガイド78で摺動可能に連結しているので、外側電極81が内側電極82を案内することがないことから、内側電極82と外側電極81との間での摩擦の発生を無くすことができる。これにより、長期に亘って使用しても、常に安定した溶接品質を得ることができる。
本発明で採用する溶接装置の電源回路の結線図である。 整流素子18に順方向電流が流れたときの回路動作を示す結線図である。 整流素子20に順方向電流が流れたときの回路動作を示す結線図である。 (a)は溶接トランスの1次側に供給される電流を制御するための制御パルス、(b)は1次電流、(c)は整流後の溶接電流を示す図である。 本発明に係る溶接トランスの実施例を示す分解斜視図である。 ほぼ組み立てを完了した溶接トランスの斜視図である。 本発明に係る溶接装置のブロック図である。 本発明に係る溶接電流制御方法の説明図である。 本発明に係る被溶接物である鋼板のプロジェクション及び電極の逃がし孔の実施例を示す図である。 本発明に係る溶接ガンの事例を示す図である。 本発明に係る片側電極の一事例で、被溶接物を押圧前の状態を示す図である。 本発明に係る片側電極の一事例で、被溶接物を押圧時の状態を示す図である。 溶接時の電流の流れを示す説明図である。
以下、本発明の実施の形態を実施例1で詳細に説明する。
図6は、本発明で採用する溶接装置の溶接トランス10である。更に図8は溶接制御方法を示したものである。図7はこれらを有する溶接装置を示すブロック図である。本発明はこれらの装置を使用して実施している。
図1は、本発明で採用する溶接装置の電源回路の結線図である。
溶接トランス10の1次コイル12には、後で図4を用いて説明する1次電流が供給される。整流回路は、単相全波整流式を採用する。この回路自体は良く知られている。2次コイル自体に極性を考慮する必要はないが、便宜上、溶接トランス10の2次コイルを、正側コイル14と負側コイル16とを直列接続したものと呼ぶことにする。正側コイル14の一端に整流素子18の一端(アノード)を接続し、負側コイル16の一端に整流素子20の一端(アノード)を接続し、整流素子18の他端(カソード)と整流素子20の他端(カソード)をまとめてプラス電極22に接続する。正側コイル14の他端と負側コイル16の他端は接続点を介して連結しているが、この接続点をマイナス電極24に接続する。プラス電極22とマイナス電極24溶接機28が接続される。
図2は、整流素子18に順方向電流が流れたときの回路動作を示す図である。図3は整流素子20に順方向電流が流れたときの回路動作を示す図である
回路動作上問題になる等価的なインダクタンス成分を図2と図3に書き加えた。即ち、正側コイル14と整流素子18を接続する正側導体30と、負側コイル16と整流素子20を接続する負側導体32、及び溶接機28内部の導体のインダクタンスが、溶接装置の性能に影響を及ぼすと考えられる。
溶接トランス10や溶接機28に発生する大量の熱の発生を抑制することができれば、溶接装置の省エネルギ化を図ることができる。従来よりも大電流を短時間溶接部に供給するように制御して、溶接時間を短縮すれば、大きな節電効果が期待できる。
一方、溶接される材料や構造等に最適な溶接電流を供給するためには、溶接電流の供給時間をきわめて高精度に制御しなければならない。
このために、溶接電流を供給する溶接トランス10の1次側にインバータ(図示略)を接続して、PWM制御により溶接電流の大きさと供給時間とを制御することが行われている。
図4の(a)は溶接トランス10の1次側に供給される電流を制御するための制御パルス、(b)は1次電流、(c)は整流後の溶接電流を示す図である
図示しないインバータにより制御された幅Wのパルスが、一定時間H内に一定回数、ここでは正方向のパルスと負方向のパルスとで合計10回、溶接トランス10の1次コイル12に供給される。その結果、溶接トランス10の1次コイル12(図1参照)には、図4(b)に示すような電流が流れる。溶接トランス10の2次側で全波整流することで図4の(c)に示すような溶接電流発生する
図4の(a)に示したパルスの幅Wを増減すると溶接電流を調整できる。また、パルスの供給回数を増減すれば溶接時間を調整できる。このパルスの繰り返し周波数を高くすると、溶接時間をより細かく微調整できる。溶接トランス10の1次コイル12に供給する電力を増やせば、2次コイルからより大きな溶接電流を取り出すことができる
従来の溶接装置は、例えば、1万アンペアで200m秒〜700m秒の溶接電流を供給するようにしていたが、溶接電流をその2倍の2万アンペアにしてみる。溶接装置は、溶接部以外の場所で熱エネルギになって消費される電力損失がきわめて大きい。従って、溶接電流を2倍にして、溶接時間を10分の1に短縮すると、消費電力を5分の1にすることができる。これで、従来の1万アンペアでの溶接と同等の溶接品質が可能になる。
一方、溶接電流を供給するためのインバータの制御パルスは、従来、繰り返し周波数が1kHz程度のものを使用していた。しかしながら、大電流を短時間供給するには、もっと分解能の高い制御パルスが必要になる。望ましくは、繰り返し周波数が5kHz〜50kHz程度のパルスを使用することが望ましい。
このように、従来の数倍から数十倍の高い繰り返し周波数のパルスを1次コイルに供給した場合に、従来構造の溶接トランスでは、予定した溶接電流が得られないことがわかった。即ち、このような制御で溶接トランスの2次コイルから大電流を出力するためには、溶接トランスの構造に様々な改善が要求される。
図1に示すような2個の整流素子18、20を使用した全波整流型の2次回路は、ブリッジを使用した回路に比べて整流素子数が少なく、小型化できて電力損失も少ないため、溶接装置に適することが知られている。
しかしながら、この回路では、溶接トランス10の1次コイル12に流れる電流の極性反転によって、2次コイルに誘起される電圧が極性反転したとき、一方の整流素子を通じて供給されていた負荷電流が他方の整流素子側に流れを変える転流が生じる。
溶接電流が大電流になると、回路各部のインダクタンスに蓄積された電流エネルギは非常に大きくなる。この電流エネルギが一方の整流素子から他方の整流素子の側に移る転流時間は、図2や図3に示した2次コイルの各部のインダクタンスが大きいほど長くなる。
図4に示した1次コイル12の電流の立ち下がり開始から反対極性の電流の立ち上がり終了までの時間Mの間に2次回路の転流が完了しないと、2次電流の立ち上がりが遅れて、図4の破線に示すように、予定した溶接電流が得られなくなる。
図5、図6に示した溶接トランス10は特許文献9で提案した溶接トランスの事例と同等のものであり、高速で精密な大電流の溶接制御に追随可能なものである。また、図8には溶接電流制御方法の一例を示し、大電流を極く短い時間通電し、通電時間は50m秒以下に抑えることができる。これは従来の通電時間の5分の1程度である。
本発明での被溶接物(鋼板)5a、5bそれぞれの形状の実施例を図9に示す。
この例では上の鋼板5aの下の面に3個所のプロジェクション6を同一円周上に配置している。
プロジェクション形状は製品の用途により、溶接裏面の外観品質を保つためには、小さなプロジェクションとし、溶接強度を優先するときは大きなプロジェクションとし、選択して用いる。
また、上の鋼板(被溶接物)5aには、下の鋼板(被溶接物)5bに給電するための電極の逃がし孔7を設けている。
本発明で使用する溶接ガン75を図10に示す。溶接ガン75の先端には片側電極80が装備されている。この片側電極80は、下側電極を必要とせず一方向から溶接できる構造を有したものである。
図10に示す事例ではコ字状形状の溶接ガン75で、溶接トランス10からの給電を、一方は溶接ガン75のガン本体76から、他方はL字状形状をした摺動導電体77から給電している。
図10、図11で溶接ガン75と片側電極80との給電構造を説明する。
図10の溶接ガン75はコ字状形状をした溶接ガンの事例で、ガン本体76が一方の電極の導電体を形成し、他方の電極には、ガン本体76の外側にL字状形状の摺動導電体77を配置する。
すなわち、ガン本体76は、先端部分と基端部分の双方が同一方向に直角に曲がったコ字状形状を成している。摺動導電体77は、ガン本体76の両端部分が直角に曲がった側の面と反対側の面側でガン本体76と併設され、先端部分が前記ガン本体76の先端部分と同一方向に直角に曲がり、先端がガン本体76の先端に達する長さを有するL字状形状を成している。ガン本体76と摺動導電体77は、摺動導電体77がガン本体76の長さ方向に沿って摺動できるように直動ガイド78で連結されている。溶接ガン75の先端には片側電極80が装着される。
さらに、図11、図12には片側電極80と被溶接物5a、5bの給電構造を示している。片側電極80は、ガン本体76と導通し、円柱状形状の内側電極82と、摺動導電体77と一体化し、軸方向に内側電極82を内挿可能な両端が開口した筒状形状の外側電極81と、内側電極82の先端に装備される絶縁リング83とで構成される。被溶接物5aには、図9の事例に示すように、内側電極82が通過可能な大きさの逃がし孔7が形成されており、また一方の面の逃がし孔7の周囲に複数個のプロジェクション6が形成されている。被溶接物5bは、被溶接物5aのプロジェクション6が形成された側の面に合わされる。片側電極80の内側電極82は被溶接物5bを、外側電極81は被溶接物5aを押圧給電してこれらのプロジェクション6を溶融し溶接する。即ち、内側電極82を被溶接物5aに設けた逃がし孔7に挿入して逃がし孔7の内側で被溶接物5bを押圧し、同時に外側電極81の先端で被溶接物5aの逃がし孔7の周囲を押圧し、この状態で内側電極82と外側電極81の間に給電して溶接する。絶縁リング83は内側電極82が逃がし孔7への挿入時に、被溶接物5aの板厚面との接触を防止するものである
図11は溶接ガン75が降下して被溶接物5bに接触した時点の状態である。内側電極82が外側電極81より突出しているが、これは被溶接物5aの逃がし孔7に先に挿入するためである。ここでの事例では、図10に示す摺動導電体77の上部のエアシリンダ79で摺動導電体77と共に外側電極81を持ち上げる操作をしている。
更に溶接ガン75が降下し、中央部の逃がし孔7部で内側電極82が先に被溶接物5bを押圧、同時に持ち上げエアシリンダが解除され、外側電極81が被溶接物5aを押圧する。
図12は被溶接物5a、5bが押圧された状態を示す。内側電極82は溶接ガン75の上部に配置したエアシリンダ(図示せず)により加圧する。外側電極81は弾性材のばね88の撓みにより加圧する。
この加圧状態で溶接電流が印加され、3個所のプロジェクション6が溶融し、被溶接物(鋼板)5a、5bが接合する。
ここでは、溶接電流として大電流が極めて短い時間の印加であるため、プロジェクション6のみ溶融し、瞬間的に加熱された被溶接物(鋼板)5bの表面に溶着する。
図13に溶接時の電流の流れEを矢印で示している。ここでは、被溶接物5aのプロジェクション6の真上を外側電極81で押圧給電し、内側電極82へと通電している。
また、通電時間は最大50ミリ秒と非常に短いため、溶接した鋼板の裏面は熱による焼けや圧痕、歪が少ない美麗な面が確保できる。
図7に示す本発明の溶接装置は、図5、図6に示した溶接トランス10や、図8に示した制御方法の溶接制御電源装置11、および、溶接条件データベースに蓄積した記憶装置13などを具備している。この装置を用いて、溶接ガン75の先端に装着した片側電極80で被溶接物5a、5bを抵抗溶接する。従来の溶接ナゲットと比較すると、ナゲットが円弧上に複数点あるので単点のナゲットと比較し、高いトルク剥離溶接強度が得られる。
本発明での溶接電流制御方法の概要を図8に示すが、板厚1mmの鋼板同士を片側電極80で溶接する溶接条件を一例として記述する。それは、1万4千アンペアの溶接電流を30m秒の通電時間と極めて短い通電時間での溶接条件での溶接が可能である。一方、従来のスポット溶接は溶接電流6千7百アンペアで通電時間は240m秒(12サイクル)程度である。これに比べると、一事例ではあるが、本発明での通電時間は約8分の1で良いこととなる。概していうと本発明での溶接電流制御方法は、大電流を極めて短い時間通電することである。
従来、一般的なスポット溶接方法、溶接条件で一方向から片側電極で溶接することは、先行文献4から6の事例のようにかなり難しい面がある。
しかし、本発明は上述のように大電流を短時間通電する制御方法を活用し、それに追随可能な溶接トランス10を使用し、こういった条件の中、先に示した片側電極80や被溶接物に配置したプロジェクション6や逃がし孔7を適用することで一方向から、保護シート付の鋼板や、片面塗装した鋼板に容易に溶接できる。また、通電時間が極めて短いため、溶接した鋼板の裏面に圧痕や熱による焼け、歪が少なく外観面での利点もある。その上、従来のスポット溶接と比較し、消費電力の低減が可能である。
スポット溶接する薄い鋼板の溶接作業が一方向から効率良くでき、また、溶接品質を向上させ、かつ消費電力の節減に寄与できる。
1 抵抗溶接機
5a 被溶接物(鋼板)
5b 被溶接物(鋼板)
6 プロジェクション
7 逃がし孔
10 溶接トランス
11 溶接制御電源装置
12 1次コイル
13 記憶装置
14 正側コイル
16 負側コイル
18 整流素子
20 整流素子
22 プラス電極
24 マイナス電極
25 磁心
28 溶接機
30 正側導体
31 絶縁層
32 負側導体
34 第1極板
36 第2極板
38 第3極板
44 第1連結極板
46 第2連結極板
48 第3連結極板
58 入力端子
62 接続基体
75 溶接ガン
76 ガン本体
77 摺動導電体
78 直動ガイド
79 エアシリンダ
80 片側電極
81 外側電極
82 内側電極
83 絶縁リング
88 ばね
91 載置台
E 溶接電流の流れ

Claims (1)

  1. 平行部25aと両端のU字状の湾曲部25bにより構成される環状磁心25と、前記環状磁心25の前記平行部25aに、複数の部分に分けて間隙12aを空けて分割巻きされる1次コイル12と、前記1次コイル12と共に前記環状磁心25の前記平行部25aに巻回され、前記1次コイル12に設けられた前記各間隙12aに1個ずつ挟み込むように、複数の正側コイル14と複数の負側コイル16とを交互に配列した2次コイルと、前記複数の正側コイル14は全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、前記複数の負側コイル16は全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、前記接続された前記複数の正側コイル14と前記複数の負側コイル16とが互いに直列接続されるように、前記正側コイル14と前記負側コイル16の端子間を電気接続する導体群を有し、かつ、前記導体群により、前記全ての正側コイル14と負側コイル16とを一方の面上に支持固定する接続基板62を備え、前記複数の正側コイル14の一方の端子は、前記接続基板62の他方の面上で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第1連結極板44に電気接続され、前記複数の負側コイル16の一方の端子は、前記接続基板62の他方の面側で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第2連結極板46に電気接続され、前記正側コイル14と前記負側コイル16の他端は、共に、前記接続基板62の他方の面側で、前記環状磁心25の前記平行部25aに平行な方向に伸びた第3連結極板48に電気接続され、前記第1連結極板44には、正側導体30が連結され、前記第2連結極板46には、負側導体32が連結され、前記正側導体30と前記負側導体32とは、前記接続基板62の他方の面側において、当該他方の面から垂直に離れる方向に伸びる境界面に配置された絶縁層31を介して重ね合わされた一対の導体板であって、前記正側導体30と第1極板34に挟まれて、前記正側導体30に負極を接触させ前記第1極板34に正極を接触させた整流素子18と、前記負側導体32と第2極板36に挟まれて、前記負側導体32に負極を接触させ前記第2極板36に正極を接触させた整流素子20と、前記第1極板34と前記第2極板36を支持し、両者を電気接続する第3極板38と、を備えた溶接トランスと、
    高周波交流を前記溶接トランスの1次コイル12に供給し2次コイルに生起する電流を直流化して溶接ガン75に装着される片側電極80に供給する電流の制御を行うものであって、溶接電流供給開始時刻t0からその後の時刻t1までの、電流増加率が最大の部分を立ち上げ制御期間T1と呼び、これに続く時刻t1から時刻t2までの、ピーク電流値C1に近い所定レベルの電流を維持する期間をピークレベル制御期間T2と呼び、その後の時刻t2から電流遮断時刻t3に至るまでの期間を、温度維持制御期間T3と呼ぶとき、前記立ち上げ制御期間T1は10ミリ秒以下とし、前記立ち上げ制御期間T1と前記ピークレベル制御期間T2の和の(T1+T2)時間は15ミリ秒以下とし、前記立ち上げ制御期間T1と前記ピークレベル制御期間T2と前記温度維持制御期間T3の和の(T1+T2+T3)時間は、50ミリ秒以下とする溶接制御電源装置と、
    を備えた溶接装置において、
    先端部分と基端部分の双方が同一方向に直角に曲がったコ字状形状のガン本体76と、前記ガン本体76の両端部分が直角に曲がった側の面と反対側の面側で前記ガン本体76と併設され、先端部分が前記ガン本体76の先端部分と同一方向に直角に曲がり、先端が前記ガン本体76の先端に達する長さを有するL字状形状の摺動導電体77と、前記摺動導電体77が前記ガン本体76の長さ方向に沿って摺動できるように前記摺動導電体77と前記ガン本体76を連結する直動ガイド78とで構成される溶接ガン75と、
    前記溶接ガン75に装着され、前記ガン本体76と導通し、円柱状形状の内側電極82と、前記摺動導電体77と一体化し、軸方向に前記内側電極82を内挿可能な両端が開口した筒状形状の外側電極81と、前記内側電極82の先端に装備される絶縁リング83とで構成される片側電極80と、
    を更に備え、
    内側電極82が通過可能な大きさの逃がし孔が形成されるとともに、一方の面の前記逃がし孔の周囲に複数個のプロジェクションが形成された被溶接物5a及び被溶接物5aのプロジェクションが形成された側の面に合わされる被溶接物5bに対し、前記内側電極82を前記被溶接物5aに設けた逃がし孔7に挿入して前記逃がし孔7の内側で前記被溶接物5bを押圧し、同時に前記外側電極81の先端で前記被溶接物5aの前記逃がし孔7の周囲を押圧し、この状態で前記内側電極82と前記外側電極81の間に給電して前記2つの被溶接物5a、5bを溶接する溶接装置。
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