JP6330328B2 - 糖液の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、バイオマスから糖液を製造する方法に関するものである。
近年、セルロース系バイオマスを酸、熱水およびアルカリなどで前処理した後、セルラーゼを添加し加水分解することにより糖液を製造する方法が広く検討されている。このようにして得られた糖液は、澱粉やケーンジュースなど従来の可食原料由来の糖液に比べ、糖濃度が低い場合があった。
一般的に、糖濃度が低い場合、減圧あるいは加熱濃縮などの手法により、糖液中の水分を蒸発させることにより、糖濃度を高めることができる。例えば、ビート含蜜糖を濃縮缶にて濃縮した事例が開示されている(特許文献1参照。)。
また一方で、有機性廃棄物のメタン発酵処理において、廃棄物中に含まれるカルシウムやマグネシウムなどアルカリ土類金属の析出に伴う各種配管の閉塞や膜面付着による分離膜の機能不全などのトラブル発生の要因となっていた(特許文献2参照。)。
特開2005−27807号公報 WO2009/041009号公報
本発明では、セルロース系バイオマス糖液、特にセルロース系バイオマス濃縮糖液を発酵原料として使用した微生物の培養において、マグネシウムを主成分として含む不溶性物質が析出することにより、発酵装置へのスケール付着、配管閉塞、分離膜閉塞、pH・DOセンサー不具合発生、連続培養での分離膜へのスケール付着、および培養液と発酵産物の膜分離が困難になることを課題として見出した。
本発明の目的は、上記の課題、すなわち、発酵装置へのスケール付着、配管閉塞、分離膜閉塞、pH・DOセンサー不具合発生および連続培養での分離膜へのスケール付着を防ぎ、培養液と発酵産物の膜分離を可能ならしめた糖液の製造方法を提供することにある。
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであって、本発明の糖液の製造方法は、セルロース系バイオマス濃縮糖液にアルカリを添加し、pHを7以上に調整し、少なくともマグネシウムを含む不溶性物質を析出させる工程、および、精密濾過膜に通じて濾過し、該不溶性物質を除去し、透過液として糖液を得る工程を含む糖液の製造方法である。
本発明の糖液の製造方法の好ましい態様によれば、前記のセルロース系バイオマス濃縮糖液は、セルロース系バイオマスの水熱処理、酸処理、アルカリ処理および酵素処理のいずれか1以上の処理により得られた加水分解物を、膜濃縮、減圧濃縮および熱濃縮のいずれか1以上の処理で濃縮した糖液である。
本発明の糖液の製造方法の好ましい態様によれば、前記のセルロース系バイオマス濃縮糖液のアルカリによる調整を、pH8以上に調整することである。
本発明の糖液の製造方法の好ましい態様によれば、前記の精密濾過膜の平均細孔径は0.01μm〜1μmの範囲である。
本発明の糖液の製造方法の好ましい態様によれば、前記の精密濾過膜は中空糸精密濾過膜である。
本発明の糖液の製造方法の好ましい態様によれば、窒素源、金属塩、ビタミン、アミノ酸、糖類、消泡剤および界面活性剤からなる群から選ばれた添加剤をさらに添加する糖液の製造方法である。
本発明においては、前記の製造方法で得られた糖液を発酵原料として、各種の化学品を製造することができる。
本発明においては、前記の製造方法で得られた糖液を発酵原料として微生物を培養し、培養液中に化学品を産生させるとともに、微生物と化学品を連続的あるいは間欠的に分離膜に通じて濾過し、化学品を回収することができる。
本発明によれば、高価なイオンクロマトなどを使用することなく、簡易な手法、すなわち、セルロース系バイオマス濃縮糖液にアルカリを添加し、pHを7以上に調整し、少なくともマグネシウムを含む不溶性物質を析出させた後、該不溶性物質を精密濾過膜に通じて濾過除去し、透過液として糖液を得る、操作を行うことにより、前述の課題であった発酵槽あるいは分離膜へのスケール付着を抑制することができる。さらに、本操作を実施することにより、セルロース系バイオマス濃縮糖液を発酵原料とした際、発酵収率が改善する新たな効果が得られる。
本発明における糖液の製造方法は、セルロースを含むバイオマスから発酵原料となる糖液を製造することに使用できる。また、本発明で製造した糖液は、各種化学品の発酵原料として使用することができる。
図1は、本発明の糖液の製造方法のブロックフローを示す図面である。 図2は、本発明の他の糖液の製造方法のブロックフローを示す図面である。 図3は、不溶性物質を塩酸水溶液に再溶解させた後、イオンクロマトを用いて分離したクロマトグラフである。 図4は、本発明の糖液の製造方法のための中空糸膜を使用した簡易モジュールの構成を説明するための概略断面図である。 図5は、本発明の糖液の製造方法で用いられる装置の一例を示す側面図である。 図6は、本発明の糖液の製造方法で用いられる他の装置の一例を示す側面図である。 図7は、本発明の糖液を発酵原料として化学品を製造するための装置の一例を示す側面図である。
本発明を実施するための形態に関し、次に説明する。
本発明の糖液の製造方法は、セルロース系バイオマス濃縮糖液にアルカリを添加し、pHを7以上に調整し、少なくともマグネシウムを含む不溶性物質を析出させる工程、および、精密濾過膜に通じて濾過し、該不溶性物質を除去し、透過液として糖液を得る工程を含む糖液の製造方法である。
図1は、本発明の糖液の製造方法のブロックフローを示す図面である。
まず、本発明のセルロース系バイオマス濃縮糖液にアルカリを添加し、pHを7以上に調整し、少なくともマグネシウムを含む不溶性物質を析出させる工程[工程(1)]について説明する。
本発明で用いられるセルロース系バイオマス濃縮糖液とは、セルロース系バイオマスを原料として、これを加水分解することにより得られた糖を含む水溶液であって、少なくとも1以上の濃縮操作によって濃縮する工程を経た糖液のことを指す。ここでいうセルロース系バイオマスとは、セルロースを含むバイオマスのことを指す。
セルロース系バイオマスの具体例としては、バガス、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、コーンストーバー、稲わら、麦わら、籾殻および椰子殻などの草本系バイオマス、あるいは樹木、ポプラおよび廃建材などの木質系バイオマス、さらに藻類、海草など水生環境由来のバイオマスのことを指す。
このようなバイオマスには、セルロースおよびヘミセルロース(以下、セルロースとヘミセルロースの総称として「セルロース」ということがある。)の他に、芳香族高分子であるリグニン等を含有している。
また、ここでいう糖液とは、前記のセルロース系バイオマスを酸処理、酵素処理、アルカリ処理および粉砕処理の1以上の処理を行い、セルロース系バイオマスに含まれるセルロース成分あるいはヘミセルロース成分の加水分解を行ったもののことを指す。また、加水分解直後のものだけではなく、前記加水分解物に微生物を添加し、発酵した後のものであっても、糖を含む水溶液あれば糖液と見なすことができ、本発明に使用することができる。
この加水分解物には、糖としてグルコースなどの6単糖やシロースなどの5単糖を主として含まれている。また、濃縮糖液とは、前記セルロース系バイオマス糖液を、蒸発法濃縮あるいは膜濃縮法など公知の手法により濃縮を行った糖液のことをいう。また、濃縮方法は、各種手法を組み合わせてもよい。また濃縮糖液は、前記濃縮方法で濃縮した液、あるいは濃縮により水分を除去し固体状態まで濃縮した糖を、再度水等を添加し、希釈したものであってもよい。
本発明においては、セルロース系バイオマス濃縮糖液にアルカリを添加しpHを7以上に調整し、少なくともマグネシウムを含む不溶性物質を析出させる操作を実施する。
添加するアルカリとしては、アンモニア、アンモニア水、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどが好ましく使用される。
アルカリとして、水酸化カルシウムなどのアルカリも使用することができるが、カルシウムもマグネシウム同様、スケール発生の要因となるため、あえてアルカリとして使用する利点はない。アルカリとして、特に好ましく使用されるのは、アンモニアである。
セルロース系バイオマスの加水分解において、硫酸を使用した場合、得られる加水分解物、さらに濃縮糖液中に硫酸イオンが含まれていることが多く、アンモニアを添加することにより、硫酸アンモニウムを塩として生成することができる。硫酸アンモニウムは、周知のとおり、微生物の増殖、発酵生産等において窒素源として、微生物が有効利用することができる。すなわち、前記のpH調整に使用されるアルカリとしては、アンモニアが最も好ましい。pHを7以上に調整することにより、セルロース系バイオマス濃縮糖液中に溶解したマグネシウムが水酸化マグネシウムとなり、不溶性結晶として析出させることができる。pHは、好ましくはpH8以上、さらに好ましくはpH9以上、最も好ましくはpH10以上に調整する。pHの上限値は、pH14未満であれば、特に限定はされないが、pH12を超えても特段の効果はないことから、アルカリの使用量を少なくする観点で、pH12以下で設定することが好ましい。すなわち、好ましいpHは、8以上から12以下、さらにこのましいpHは、9以上から12以下、最も好ましいpHは、10以上から12以下の範囲である。
pH設定を行うアルカリの使用量は、セルロース系バイオマス濃縮糖液を予め、使用するアルカリで滴定しておき、所定量のアルカリを投入する方法、あるいはpHセンサーなどでpH増加を確認しながら、所定のpHとなるまでアルカリを投入する方法などを例示することができる。
また、添加したアルカリを均一化させるために、攪拌や混合などの操作を行っても良い。アルカリに調整後、水酸化マグネシウムの析出は、適宜保温・冷却などの操作を行ってもよい。また、析出させる時間は、適宜設定すればよいが、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上、最も好ましくは3時間以上析出を行うことが好ましい。
アルカリに調整後の析出時間は、長いほど、十分に水酸化マグネシウムを析出させる効果が高く、また別の効果として、糖液中に含まれる微生物、カビおよび胞子などをアルカリ条件にさらすことにより、これらを殺菌、除菌あるいは滅菌する効果をも有している。
図2は、本発明の他の糖液の製造方法のブロックフローを示す図面である。図2に示されるように、図2では、水酸化マグネシウムを析出させる工程において、セルロース系バイオマスの濃縮糖液の輸送、貯蔵・保管あるいは輸送・貯蔵・保管などの期間を活用するフローである。不溶性物質の析出には一定時間を要するため、それらの時間を前記目的として有効利用することができる。本発明では前述のとおり、アルカリでpHを調整しているため、微生物コンタミネーション等に対する保存性が向上する。
精密濾過膜で処理する前工程として、糖液を発酵原料として使用する際に必要な栄養素と副原料として、窒素源、金属塩、ビタミン、アミノ酸、糖類、抗生物質および界面活性剤および消泡剤などを添加してもよい。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、ペプトン、大豆ペプトンおよびコーンスティープリカーなどを例示することができる。
金属塩としては、モリブデン、コバルト、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、クロム、セレン、ヨウ素、フッ素、珪素およびパナジウムなどを例示することができる。ビタミンとしては、ビタミンB12、チアミン、ビオチンおよびビタミンB1などを例示することができる。
糖類としては、グルコース、アラビノース、キシロース、フルクロース、プシコース、ガラクトース、マンノース、キシルロース、トレオース、エリトロース、リボースなどを例示することができる。アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンなどを例示することができる。
抗生物質としては、テトラサイクリン系、βラクタム系、アミノグリコシド系、マクロライド系およびクロラムフェニコール系などを例示することができる。
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などを例示することができる。
このような成分は、糖液を発酵原料として使用する際、必要な成分および量を予め、この段階で添加しておくことが好ましい。これは、発酵の段階で、糖液にこれらの成分を添加することにより、不溶性物質が再度生成することを防ぐことを目的にしている。
本発明で使用されるセルロース系バイオマス濃縮糖液は、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜を用いて濃縮された糖液であることが好ましい。ナノ濾過膜とは、ナノフィルター(ナノフィルトレーション膜、NF膜)とも呼ばれるものであり、「一価のイオンは透過し、二価のイオンを阻止する膜」と一般に定義される膜である。数ナノメートル程度の微小空隙を有していると考えられる膜で、主として、水中の微小粒子や分子、イオンおよび塩類等を阻止するために用いられる。
逆浸透膜とは、RO膜とも呼ばれるものであり、「一価のイオンを含めて脱塩機能を有する膜」と一般に定義される膜である。数オングストロームから数ナノメートル程度の超微小空隙を有していると考えられる膜で、主として海水淡水化や超純水製造などイオン成分除去に用いられる。
本発明で使用されるナノ濾過膜あるいは逆浸透膜の素材には、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーおよびポリサルホンなどの高分子化合物からなる素材を使用することができるが、前記1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。
本発明で用いられるナノ濾過膜は、スパイラル型の膜エレメントが好ましく使用される。好ましいナノ濾過膜エレメントの具体例としては、例えば、酢酸セルロース系のナノ濾過膜エレメントであるGE Osmonics社製GEsepa、ポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノ濾過膜エレメントのNF99もしくはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノ濾過膜エレメントのNF−45、NF−90、NF−200、NF−270もしくはNF−400、あるいは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とする東レ株式会社製ナノ濾過膜のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜エレメントSU−210、SU−220、SU−600もしくはSU−610が挙げられ、より好ましくはNF99、NF99HF、NF−45、NF−90、NF−200、NF−400、SU−210、SU−220、SU−600またはSU−610であり、さらに好ましくはSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610が用いられる。
本発明で使用される逆浸透膜としては、酢酸セルロース系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいうことがある。)、およびポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいうことがある。)等が挙げられる。
ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロースおよび酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。
本発明で使用される逆浸透膜の具体例としては、例えば、東レ株式会社製ポリアミド系逆浸透膜モジュールである超低圧タイプのSUL−G10、SUL−G20、低圧タイプのSU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710PもしくはSU−720Pの他、逆浸透膜としてUTC80を含む高圧タイプのSU−810、SU−820、SU−820LもしくはSU−820FA、同社酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100もしくはSC−8200、日東電工株式会社製NTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−UもしくはLF10−D、アルファラバル製RO98pHt、RO99、HR98PPもしくはCE4040C−30D、GE製GE Sepa、Filmtec製BW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040もしくはSW30HRLE−4040、KOCH製TFC−HRもしくはTFC−ULP、またはTRISEP製ACM−1、ACM−2もしくはACM−4などが挙げられる。
ナノ濾過膜および/または逆浸透膜を使用して、糖液を濃縮する効果として、糖液中の糖濃度を高めるとともに、透過液として発酵阻害物質を除去できるという利点を有する。ここでいう発酵阻害物質とは、後段発酵工程で発酵を阻害する糖以外の成分のことを指し、具体的には、芳香族化合物、フラン系化合物、有機酸および1価無機塩などを例示することができる。このような代表的な発酵阻害物質として、芳香族化合物およびフラン系化合物の例としては、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、バニリン、バニリン酸、シリンガ酸、コニフェリルアルデヒド、クマル酸およびフェルラ酸などを例示することが示できる。
有機酸と無機塩としては、酢酸やギ酸、およびカリウムやナトリウムなど塩を例示することができる。
濃縮糖液の糖濃度は、好ましくは50g/L〜400g/Lの範囲で任意に設定することができ、濃縮糖液の用途等に応じて任意に設定すればよい。また、前述した発酵阻害物質をより除去したい場合、糖液あるいは濃縮糖液に加水し、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜で目的の糖濃度となるまで濃縮すればよく、この際、透過液として発酵阻害物質を除去することができる。逆浸透膜に比べ、ナノ濾過膜を使用した方が、発酵阻害物質の除去効果が高く、好ましい態様である。ナノ濾過膜を使用するか、あるいは逆浸透膜を使用するかは、混合糖液に含まれる発酵阻害物質の濃度あるいは後段発酵で影響を鑑みて選択すればよい。
次に、本発明の精密濾過膜に通じて濾過し、該不溶性物質を除去して透過液として糖液を得る工程[工程(2)]について説明する。
前記の工程で析出した水酸化マグネシウムを含む析出物を、精密濾過膜を使用して濾過を行い、透過液として糖液を得る。
精密濾過膜とは、メンブレンフィルトレーションとも呼ばれ、圧力差を駆動力として、微粒子懸濁液から0.01〜10μm程度の粒子を分離除去できる分離膜である。精密濾過膜の表面には0.01〜10μmの範囲の細孔を有し、その細孔以上の微粒子成分は膜側に分離除去することができる。
精密濾過膜の材質は、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セラミック、ポリプロピレン、ポリカーボネートおよびポリテトラフルオロエチレン(“テフロン”(登録商標))などを例示することができるが、対汚性、薬品耐性、強度および濾過性の観点において、ポリフッ化ビニリデン製の精密濾過膜であることが好ましい。
本発明で使用される精密濾過膜の平均細孔径は、0.01μm〜1μmであることが好ましい。これは、セルロース系バイオマス濃縮糖液において、アルカリ析出する不溶性物質の大きさが約2μm程度であり、精密濾過膜の平均細孔径が1μmであれば、析出した不溶性物質をほぼ完全に精密濾過膜を使用して濾過除去することが可能である。一方で、精密濾過膜の平均細孔径が0.01μm未満の場合、平均細孔径が小さいため、析出した不溶性物質を完全に除去することは理論的には当然可能であるが、一方で濾過流量(フラックス)が低下する、濾過に高い圧力を必要とするという課題を有する。また、このような膜を使用した場合、膜表面あるいは膜内部やモジュールの微小な間隙で不溶性物質に起因する目詰まり(ファウリング)が発生する可能性が高い。したがって、平均細孔径が0.01μm以上の膜、すなわち、精密濾過膜を使用することが好ましい。
精密濾過膜の前工程として、スクリューデカンタなどの遠心分離法、加圧・吸引濾過などの濾過法あるいは精密濾過などの膜濾過法という公知の固液分離を前処理として実施してもよい。特に、セルロース濃縮糖液が、pH調整如何に関わらず、多くの有機性固形物、リグニン、未分解セルロース、キシランおよびオリゴ糖などを含む場合、有効な手段となる。但し、このような固液分離を実施したとしても、精密濾過膜での濾過を行わないと、水酸化マグネシウムを含む不溶性物質を除去することはできない。
前記の精密濾過膜の方式としては、クロスフロー方式やデッドエンド濾過方式が挙げられるが、ファウリングあるいはフラックスの面でクロスフロー濾過方式が好ましい。また、精密濾過膜の性状として、平膜および中空糸膜に分類できるが、中空糸膜であることが好ましい。中空糸膜の場合、膜面に付着した汚れあるいはスケール成分を、膜二次側から薬液を含む溶液によって圧力をかけることにより逆洗を行うことができる。中空糸膜は、内圧式中空糸膜(内側から外側に濾過)、外圧式中空糸膜(外側から内側に濾過)の2種に分類できるが、内圧式中空糸ではマグネシウムを含む不溶性物質が、中空内部に発生し、膜閉塞の要因となるため好ましくなく、外圧式中空糸膜が好ましく使用できる。特に、本発明において、アルカリ条件にて析出する成分が水酸化マグネシウムであるため、逆洗は酸性の薬剤で行うことが好ましい。酸性の薬剤としては、pH0.4〜4の範囲にあって、硫酸や塩酸などを含むものが好ましく使用できる。
[糖液を発酵原料として使用する化学品の製造方法]
本発明により得られた糖液を、発酵原料として化学品を生産する能力を有する微生物を培養することにより、各種化学品を製造することができる。ここでいう発酵原料として微生物を培養するとは、糖液に含まれる糖成分あるいはアミノ源を微生物の栄養素として利用し、微生物の増殖と糖の代謝変換を行うことを意味している。
化学品の具体例としては、アルコール、有機酸、アミノ酸、核酸および酵素など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。このような化学品は、糖液中の糖成分を炭素源として、その代謝の過程において生体内外に化学品として蓄積生産する。微生物によって生産可能な化学品の具体例として、エタノール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールもしくはグリセロールなどのアルコール、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸もしくはクエン酸などの有機酸、イノシンやアノシンなどのヌクレオシド、イノシン酸やグアニル酸などのヌクレオチド、またはカダベリンなどのアミン化合物を挙げることができる。さらに、本発明で得られる糖液は、酵素、抗生物質および組換えタンパク質などの生産に適用することも可能である。このような化学品の製造に使用する微生物に関しては、目的の化学品を効率的に生産可能な微生物であればよく、大腸菌、酵母、糸状菌および担子菌などの微生物を使用することができる。
本発明の糖液の製造方法で得られる糖液は、前述したようにマグネシウム成分が除去されているため、分離膜を使用して間欠的あるいは連続的に、濾過する化学品の製造方法に好ましく利用することができる。ここで使用する分離膜は、PVDFなどの有機高分子膜およびゼオライトなどの無機性分離膜のいずれであってもよい。本発明の処理を行った糖液は、マグネシウム成分が除去されているため、格段に長期濾過性に優れるという利点を有している。
[糖液の製造装置]
次に、本発明の糖液を製造する装置に関して説明する。
図5は、本発明の糖液の製造方法で用いられる装置の一例を示す側面図である。
図5において、セルロース系バイオマス濃縮糖液は、析出槽1に保持される。次に、析出槽1において、pHの調整を行う。pHの調整としては、アルカリ貯槽6からアルカリを添加する方法や、散気管3よりアンモニアガスなどの気体状態でアルカリを供給する方法などがある。また、アルカリ添加に際しては、pHセンサー4によって、析出槽1のpHをモニターしつつ、その信号をアルカリ供給調整ポンプ5に送りアルカリ添加量を調整することもできる。また、アンモニアガスに関しても、同様にバルブによりガス量を制御しながらpHの調整を行うことができる。また散気管3から空気を供給し、析出槽1に保持されたセルロース系バイオマス濃縮糖液を混合し、pH均一化、水酸化マグネシウム析出の促進を行うことができる。
析出槽1には温度調節設備2を備えていてもよい。温度調節設備2では、保温および冷却のいずれを行ってもよいが、水酸化マグネシウムがより析出できるよう冷却する方がよい。冷却の温度は特にセルロース系バイオマス濃縮糖液が凍結しない温度であれば限定されない。析出槽1は、精密濾過膜ポンプ7を介して、精密濾過膜モジュール8に連結してある。精密濾過膜モジュール8には、前述した精密濾過膜がモジュール内に配置されている。精密濾過膜モジュール8には、膜表面を洗浄する曝気を行う圧空供給装置9を設置していてもよい。定期的に圧空供給装置9を使用して、精密濾過膜表面に付着もしくは堆積した汚れ成分を除去することができる。
精密濾過膜モジュール8の濾液成分は、MF濾液槽11に回収される。精密濾過膜モジュール8の一次側に分離された固形物は、適時排出される。精密濾過膜モジュール8が外圧式中空糸膜である場合、逆洗ポンプ10を使用して濾液側から圧力をかけ、MF濾液槽11に貯留された濾液を使用して中空糸膜の逆洗を行うことができる。また、その際、酸供給ライン12より酸を配管内に供給し、洗浄バルブ13を閉じ、さらに逆洗ポンプ10にて圧力を加えることにより、酸供給ライン12から酸水溶液を供給し、外圧式中空糸膜の洗浄を行うことができる。酸を供給することで、精密濾過膜モジュール8の膜表面や流路に析出した水酸化マグネシウムなどを溶解除去することができる。これにより、精密濾過モジュール8の濾過フラックスを回復させることができる。析出槽1には、副原料を供給してもよい。セルロース系バイオマス濃縮糖液に副原料を添加する際、場合によって不溶性の析出物が生成することがある。析出槽1に副原料を予め添加しておくことにより、精密濾過モジュール8でそのような析出物を除去することができる。析出槽1には、気体供給を行ってもよい。特に、アルカリとして、アンモニアガスを気体で流入する場合、散気管3から供給することが好ましい。
また、図6は、本発明の糖液の製造方法で用いられる他の装置の一例を示す側面図であり、この図6の装置は、図5の装置に対して、クロスフロー戻りライン14を加えた装置である。本装置では、精密濾過膜モジュール8の膜表面を精密濾過膜ポンプ7で液流を発生させることで、クロスフローで濾過することができる。
[発酵装置]
次に、本発明の糖液を発酵原料として、化学品を製造する装置に関して説明する。
図7は、本発明の糖液を発酵原料として化学品を製造するための装置の一例を示す側面図である。
図7において、発酵装置15には、発酵槽21および攪拌装置19が設置されている。また、発酵槽15には、保温装置18が配置されており、使用する微生物の培養に最適な温度に調整することができる。特に化学品の発酵生産が、好気的な条件の場合、発酵槽21に、DOセンサー17を設置し、発酵時の溶存酸素濃度を測定し、このシグナルをバルブ制御することにより、通気管16より発酵槽21に通気される気体量を制御することができる。気体は、窒素、酸素および空気などから選択される。また、pHセンサー20を設置し、このシグナルによって、酸供給槽22からの酸供給、アルカリ供給槽23からのアルカリ投入を制御することができる。また、発酵槽21には、菌体と培養液中に生産された化学品を分離するための精密濾過膜モジュール24を設置してもよい。精密濾過膜モジュール24は、クロスフローポンプ25にてクロスフロー濾過を行うことが好ましい。精密濾過膜モジュール24の濾液は、培養濾液貯槽26に回収される。 発酵槽21に投入される糖液の液量と、精密濾過膜の濾液の液量は、同一で制御されることが好ましく、糖液流量制御装置27によって制御される。
次に、実施例を挙げて本発明の糖液の製造方法について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(参考例1)糖濃度の測定
糖液に含まれるグルコースおよびキシロース濃度は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。
・カラム:Luna NH(Phenomenex社製)
・移動相:ミリQ:アセトニトリル=25:75(流速0.6mL/分)
・反応液:なし
・検出方法:RI(示差屈折率)
・温度:30℃。
(参考例2)セルロース系バイオマス濃縮糖液の製造1
セルロースとして、稲藁を使用した。前記のセルロースを水に浸し、撹拌しながら180℃の温度で20分間オートクレーブ処理(日東高圧株式会社製)した。処理後、遠心分離(3000G)を行い、溶液成分(水熱処理液)と固形物(セルロース画分)に分離を行った。これら水熱処理液およびセルロース画分に対し、ジェネンコア製「アクセルレースデュエット」(酵素濃度:40g/L)を添加(最終濃度1mg/L)して、50℃の温度で、24時間保温し、加水分解を実施した。得られた水熱処理液分解物およびセルロース画分分解物は、遠心分離によって固液分離した後、上澄みを精密濾過膜にて濾過した。水熱処理液分解物およびセルロース画分分解物の糖濃度を参考例1に準じて測定を行い、表1および表2にまとめた。
さらに、セルロース画分分解物および水熱処理液分解物は、ナノ濾過膜を用いて糖濃縮を行い、濃縮糖液1および濃縮糖液2を得た。ナノ濾過膜としては、東レ株式会社製ナノ濾過膜“SU−610”に使用されている“UTC−60”の平膜を切り出して使用した。加水分解物およびセルロース系バイオマス濃縮糖液の糖濃度は、参考例1に順じて測定を行った。結果を表1および表2に示す。また各糖液の濁度(Nephelometric Turbidity Units;NTU)は、HACH社製室内用高度濁度計(2100N)を用いて定量した。また、濃縮糖液1のpHは、4.8、濃縮糖液2のpHは、3.8、であった。
Figure 0006330328
Figure 0006330328
(参考例3)セルロース系バイオマス濃縮糖液の製造2
参考例2記載の手順で調製した、セルロース画分分解物および水熱処理液分解物を減圧濃縮により濃縮し、濃縮糖液3および濃縮糖液4を得た。減圧濃縮はロータリーエバポレーター(アズワン製)を使用して行い、80℃、200hPaまで減圧して、糖濃縮を行った。得られた濃縮糖液の糖濃度および濁度を、参考例2に準じて測定を行った。結果を表3に示す。
Figure 0006330328
参考例2の膜濃縮に比べると、濁度が上昇することが判明した。加熱による糖変性によるものと推定される。
(実施例1)セルロース系バイオマス濃縮糖液へのアルカリ添加によるpH7以上への調整
前記の参考例1で調製したセルロース系バイオマス濃縮液1および2を、水酸化ナトリウム(1N)を使用して、pHを6、7、8、9,10、11、12および13に調製した。所定pHに調製した後、1時間25℃の温度で放置した。その後、濁度(Nephelometric Turbidity Units;NTU)を測定した。糖液の濁度は、HACH社製室内用高度濁度計(2100N)を用いて定量した。その結果を表4に示す。pH調整前の各糖液の濁度は、0(ゼロ)NTUであった。
Figure 0006330328
pH7以上、特にpH8以上になると、顕著にいずれの濃縮糖液(1〜4)においても濁度が上昇することが判明した。特に、水熱処理液の濃縮糖液2および4の方が、最終的な濁度の到達点が、濃縮糖液1および3に対し高いことが判明した。また、濃縮糖液1および2と、濃縮糖液3および4を比較すると、蒸発濃縮の方が、濁度の到達点が高いことが判明した。
(実施例2)不溶性物質のイオンクロマト分析
前記の実施例1で得られた濃縮糖液1のpHを10に調整し、1時間放置したサンプル1mLを遠心分離(15,000rpm、5分)し、不溶性物質を沈殿として分離回収した。得られた沈殿に対し、1N硫酸水溶液1mLを添加し、不溶性物質を再度溶解させた。溶解液を、次の条件でイオンクロマト分析(カチオン分析)を実施した。
分析条件:
・カラム:Ion Pac AS22(DIONEX社製)
・移動相:4.5mM NaCO/1.4mM NaHCO(流速1.0mL/分)
・反応液:なし
・検出方法:電気伝導度(サプレッサ使用)
・温度:30℃。
上記の分析で得たクロマトチャートを図3に示す。分析の結果、ナトリウムイオン(Naイオン)、カリウムイオン(Kイオン)、マグネシウムイオン(Mgイオン)、およびカルシウムイオン(Caイオン)に対応する位置にピークが確認でき、中でもMgイオンの量が極めて多く含まれることが分かった。また、NaイオンとKイオンが形成する、アルカリまたは塩は、アルカリ条件下においても溶解性が高いことが知られているため、不溶性物質と共存する糖液中に溶解していた成分であることが推測された。一方、Mgイオンは、アルカリ条件下で、水酸化マグネシウム(Mg(OH))を形成することが知られており、その溶解度積(Ksp)は1.2x1012であり、特にアルカリ条件下で不溶化する。すなわち、pH調整で生成した不溶性物質は少なくともマグネシウム(水酸化マグネシウム)を成分として含む物質であることが確認された。
(実施例3)マグネシウムを含む不溶性成分の粒径解析
前記の実施例3、濃縮糖液1、pHを10に調整し1時間放置したサンプル1mLを使用して、動的光散乱法(大塚電子)による不溶性物質の粒径測定を行った。積算回数は100回に設定した。その結果を表5に示す。
Figure 0006330328
不溶性物質の粒径は、概ね2000nm(2μm)前後に分布することが判明した。
(実施例4)pHを調整したセルロース系バイオマス濃縮糖液の精密濾過膜処理
参考例2および参考例3で調製した濃縮糖液1、濃縮糖液2、濃縮糖液3および濃縮糖液4を、28%アンモニア水(和光純薬工業)を用いてpH10に調整し、1時間放置した各糖水溶液(濃縮糖液1A、濃縮糖液2A、濃縮糖液3Aおよび濃縮糖液4A)を、試験サンプル(1L)として使用し、平均細孔径の異なる精密濾過膜を用いて濾過を行った。使用した膜種および平均細孔径を、表6にまとめて示す。
Figure 0006330328
濃縮糖液1A〜4Aを30kPaの圧力で、温度25℃の温度で供給してクロスフロー濾過させ、膜透過側から0.5Lの糖溶液の回収を試みた。ここで、クロスフロー濾過時の膜面線速度は30cm/秒となるようにし、膜透過流束0.1m/dayの条件下でそれぞれ精密濾過膜をセットして濾過を行った。その結果、すべての濃縮糖液において、MF−250のみ、濾過直後に対し、濾過流速が低下し、約100mL程度で濾過が出来なくなった。これは、MF−250の平均細孔径2.5μmに対して、セルロース系バイオマス濃縮糖液中で生成した不溶性物質の平均粒径が2μm程度と近く、精密濾過膜の細孔内に不溶性物質粒子が入り込みファウリングを引き起こしたものと推定される。一方、0.4μm〜0.9μmの精密濾過膜では、膜の目詰まりなく、0.5Lの濾過を完了することができた。濾液の濁度を測定したところ、MF−250を除くいずれの膜を使用しても濁度は0(ゼロ)NTUであった。
(実施例5)糖液を発酵原料とするエタノール発酵生産
実施例4で精密濾過膜(HVLP)を使用して得られた濾液(糖液1および糖液3)を使用して、酵母(Saccharomycecs cerevisiae OC−2:ワイン酵母)によるエタノール発酵試験を行った。
前述の酵母を、YPD培地(2%グルコース、1%酵母エキス(Bacto Yeast Extract/BD社)と2%ポリペプトン(日本製薬株式会社製)を用いて、1日間25℃の温度で前培養を行った。濃縮糖液1および濃縮糖液3は、pH6に1N硫酸を使用して調整した後、表7の糖濃度に滅菌水を用いて希釈して使用した。これらの濃縮糖液に、前培養液を、5%となるように添加した。酵母を添加後、25℃の温度で35時間インキュベートした。この操作で得られた培養液に含まれるエタノール蓄積濃度は、ガスクロマトグラフ法により定量した。Shimadzu GC−2010キャピラリーGC TC−1(GL science) 15 meter L.*0.53mm I.D.,df1.5μmを用いて、水素塩イオン化検出器により検出・算出して評価した。得られた測定結果を、表7に示す。
Figure 0006330328
糖液1および糖液3いずれも、エタノール生産可能であることが判明した。糖液1より糖液3の方が、エタノール生産が低かった。
(比較例1)糖液を発酵原料とするエタノール発酵生産2
比較のために、実施例4で精密濾過膜による濾過を行う前の糖液(実施例4の濃縮糖液1Aおよび濃縮糖液3A:pH調整のみ実施)を使用して、実施例5に準じてエタノール発酵試験を行った。結果を、表8に示す。実施例5の精密濾過膜によって処理した本発明の糖液に比べ、培養液中のエタノール蓄積濃度が低いことが判明した。
Figure 0006330328
(実施例6)糖液を発酵原料とする乳酸発酵生産
実施例4で精密濾過膜(HVLP)を使用して得られた濾液(濃縮糖液1および濃縮糖液3)およびラクトコッカス・ラクティスJCM7638株を使用して、乳酸発酵生産を検討した。
前記の乳酸菌は、濃縮糖液1および濃縮糖液3を1N硫酸を使用してpH6に調整した後、表9の糖濃度に滅菌水で希釈して使用した。これらの糖液に、乳酸菌を含む前培養液を、5%となるように添加した。酵母を添加後、25℃の温度で35時間インキュベートした。24時間、37℃の温度で静置培養した。培養液に含まれるL−乳酸濃度を、次の条件で分析した。
・カラム:Shim-Pack SPR-H(株式会社島津製作所製)
・移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
・反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA2Na(流速0.8mL/min)
・検出方法:電気伝導度
・温度:45℃。
糖液1および糖液3を使用したL−乳酸の発酵結果を表9に示す。
Figure 0006330328
糖液1および糖液3いずれを使用しても、L−乳酸生産可能であることが判明した。糖液1より糖液3の方が、乳酸生産量が低かった。
(比較例2)糖液を発酵原料とする乳酸発酵生産2
比較のために、実施例4で精密濾過膜による濾過を行う前の糖液(濃縮糖液1Aおよび濃縮糖液3A:pH調整のみ実施)を使用してラクトコッカス・ラクティスJCM7638株を24時間、37℃の温度で静置培養した。手順は、濃縮糖液が精密濾過を行っていないものを使用したこと以外は、実施例6と同じ手順で行った。濃縮糖液1Aおよび濃縮糖液3Aを使用して発酵した結果を表10に示す。実施例6に比べ、L−乳酸濃度が低いことが判明した。
Figure 0006330328
(実施例7)中空糸精密濾過膜による濾過および中空糸膜の洗浄
実施例4で精密濾過膜による濾過を行う前の糖液(濃縮糖液1AA)を使用して、平均細孔径0.08μmの中空糸限外濾過膜(東レ製、“トレフィル”(登録商標)HFS)に通じて濾過を行った。トレフィルHFSは、PVDF製外圧式中空糸膜であり、中空糸外側から内側に向かって溶液の濾過を行う外圧式中空糸膜である。トレフィルHFSは、10cmにカットし片末端は、シリコン系接着剤を用いて封止した。もう一方には、シリコンチューブ(ラボラン、2x4)を前記接着剤で接着し、簡易膜モジュールとした(図4)。図4において、中空糸精密濾過膜30を接続したシリコンチューブ28は、シリコン系接着剤29で接続し、中空糸精密濾過膜30内部を陰圧にすることにより中空糸精密濾過膜外側の溶液を濾過できるようにした。なお中空糸精密濾過膜30の片端は、シリコン系接着剤29で封止した。
濾過フラックスは、1m/dayに初期設定して24時間濾過を行った。その結果、得られた約100mLの濾液が得られた。
その後、24時間濾過後の膜フラックスを測定したところ、0.2m/dayまで減少していることが確認されたため、シリコンチューブに、1N硫酸水溶液、を連結し、中空糸内側から外側に向かって、0.1m/dayの膜フラックスで逆洗を実施した。その後、簡易膜モジュールを、RO水でよく洗浄した後、再び、濃縮糖液の濾過を開始した。その際の濾過フラックスを測定したところ、1m/dayに回復することが確認できた。
(実施例8)中空糸精密濾過膜による培養液の濾過
前記の実施例7で作製した簡易中空糸モジュールを使用して、実施例6の糖液1を培養した後の培養液1および比較例2のの濃縮糖液1Aを培養した後の培養液1Aの濾過を行い、生産物である乳酸水溶液と微生物菌体(乳酸菌)の分離性を評価した。
分離は、前記の実施例7の簡易中空糸モジュールを、100mLの各培養液を含むビーカーに入れ、ビーカーにはマグネット攪拌子を入れ、スターラーを用いて100rpmで攪拌しながら濾過を行った。濾過フラックスは、0.5m/dayに初期設定して濾過を開始した。培養液1Aでは開始20分で濾過が困難となり、培養液1では、2時間以上濾過することができ、8mLのろ液(乳酸水溶液)を得ることができた。すなわち、本発明で得られた濃縮糖液(濃縮糖液1)を使用して化学品(乳酸)を生産した方が、発酵後の培養液からの発酵産物(乳酸水溶液)の分離(膜分離)に適していることが示された。
(実施例9)L−乳酸連続発酵
特開2008−237213号公報(図2)記載の連続培養装置を使用して、実施例4で精密濾過膜(HVLP)を使用して得られた濾液(糖液1)および、実施例5で精密濾過膜による濾過を行う前の濃縮糖液(濃縮糖液1A)を使用して、前記実施例7記載の乳酸菌を使用して連続発酵を実施した。その結果、濃縮糖液1Aでは、培養200時間で膜の閉塞が確認され培養困難となった。一方、精密濾過膜処理を行った糖液1では、500時間以上の連続培養が可能であった。すなわち、本発明で製造された糖液は、連続培養に使用する糖液として好ましく使用できることが確認できた。
1.析出槽
2.温度調節装置
3.散気管
4.pHセンサー
5.アルカリ供給ポンプ
6.アルカリ貯槽
7.精密濾過膜ポンプ
8.精密濾過膜モジュール
9.圧空供給装置
10.逆洗ポンプ
11.MF濾液槽
12.酸供給ライン
13.洗浄バルブ
14.クロスフロー戻りライン
15.発酵装置
16.通気管
17.DOセンサー
18.保温装置
19.攪拌装置
20.pHセンサー(発酵)
21.発酵槽
22.酸供給槽
23.アルカリ供給槽
24.精密濾過膜モジュール
25.クロスフローポンプ
26.培養濾液貯槽
27.糖液流量制御装置
28.シリコンチューブ
29.シリコン系接着剤
30.中空糸精密濾過膜

Claims (6)

  1. セルロース系バイオマス濃縮糖液にアルカリを添加し、pHを10以上に調整し、少なくともマグネシウムを含む不溶性物質を析出させる工程、および、精密濾過膜に通じて濾過し、該不溶性物質を除去し、透過液として糖液を得る工程を含む、糖液を製造する方法であって、
    前記セルロース系バイオマス濃縮糖液が、セルロース系バイオマスの水熱処理、酸処理、アルカリ処理および酵素処理のいずれか1以上の処理により得られた加水分解物を、膜濃縮、減圧濃縮および熱濃縮のいずれか1以上の処理で濃縮した糖液である糖液の製造方法
  2. 精密濾過膜の平均細孔径が0.01μm〜1μmの範囲である請求項に記載の糖液の製造方法。
  3. 精密濾過膜が中空糸精密濾過膜である請求項1または2に記載の糖液の製造方法。
  4. 窒素源、金属塩、ビタミン、アミノ酸、糖類、消泡剤および界面活性剤からなる群から選ばれた添加剤をさらに添加する請求項1〜のいずれかに記載の糖液の製造方法。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載の糖液の製造方法で得られた糖液を発酵原料として使用して、微生物を培養する化学品の製造方法。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載の糖液の製造方法で得られた糖液を発酵原料として微生物を培養し、培養液中に化学品を産生させるとともに、微生物と化学品を連続的あるいは間欠的に分離膜に通じて濾過し、化学品を回収する化学品の製造方法。
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