本発明は、以下に述べる発明を実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の色々な実施の形態が含まれる。
図1は、本発明の改ざん防止用紙(S1)の平面図である。改ざん防止用紙(S1)の領域(Z)には、図1(a)に示すように、反射光下では表面からは視認することができないが、図1(b)に示すように、透過光下で視認可能な改ざん防止模様(1)が付与されている。
図2は、改ざん防止用紙(S1)の図1におけるY−Y’断面図である。改ざん防止用紙(S1)は、繊維から成る単層の用紙における紙層(Q)内の一部に、改ざん防止模様(1)が形成されている。改ざん防止模様(1)は、拡大図に示すように、少なくとも一種類の改ざん防止材料(2)から成る。なお、本発明において単層とは、抄紙機上の長網部における一つの網で形成された用紙の層のことをいう。
用紙を形成する繊維は、特に限定されるものではなく、木材や非木材などの植物繊維を原料とするKP、SP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用できるが、木材や非木材繊維から成る紙、水素結合を形成できる官能基を持つ合成繊維から成る合成繊維紙が好ましい。
詳細については後述するが、改ざん防止模様(1)は、改ざん防止材料(2)を水に分散させた後に、その分散液(以下「改ざん防止分散液」という。)を、抄紙機上の湿紙に、噴射流量を変動させながら噴射することで、用紙の紙層(Q)に付与される。よって、用紙を、木材繊維や非木材繊維等の天然繊維や水素結合を形成できる官能基を持つ合成繊維で形成することで、水に分散させた改ざん防止材料(2)を、水素結合により紙層(Q)内に強固に定着することが、可能となる。
なお、水素結合を形成できる官能基を持たない合成繊維から成る合成繊維紙や、水素結合をしないプラスチック繊維やガラス繊維が入った用紙であっても、改ざん防止分散液に少量のバインダー成分を配合して、改ざん防止材料(2)を紙層(Q)内に定着することができれば、使用することができる。
改ざん防止模様(1)は、単層の用紙における紙層(Q)内の一部に、用紙の表面(F)に対し、少なくとも一部が深さ方向(L)に異なった領域を有する。例えば、図2において、改ざん防止模様(1)は、用紙の表面(F)に対し、h1とh2で深さ方向に異なった領域を有している。
改ざん防止模様(1)を、用紙の表面(F)から全て同じ深さで形成した場合、図16(c)を用いて前述したように、一つの紙層内の剥離強度の弱い箇所で剥離され、改ざん防止模様(1)が、剥離された一方の紙層にのみ付与されることで、剥離された用紙と、異なる用紙とを貼り合わせる偽造に用いられる可能性があり、好ましくない。改ざん防止模様(1)を、単層の用紙における紙層(Q)内の一部に、用紙の表面(F)から深さが異なる箇所を、少なくとも二箇所有して形成された場合、紙層(Q)内に剥離強度の弱い箇所がなくなることで、紙層(Q)のどの位置で剥離しようとしても、剥離が困難となる。
また、用紙が剥離された場合においても、紙層(Q)内において、改ざん防止模様(1)が、用紙の表面(F)から深さが異なることで、異なる用紙と貼りあわせても、改ざん防止模様(1)の平面形状及び断面形状を再現することが困難であることから、偽造防止効果が高くなる。よって、本発明においては、改ざん防止模様(1)を、単層の用紙における紙層(Q)内の一部に、用紙の表面(F)から深さが異なる箇所を、少なくとも二箇所有して形成される必要がある。
なお、図2において改ざん防止模様(1)は、Y−Y’断面形状が波線状となるように、用紙の表面(F)から異なる深さに付与されているが、一つの改ざん防止模様(1)内において、表面(F)から少なくとも二箇所深さがが異なる箇所を有してもよく、断面形状に特に限定はない。
図3及び図4は、改ざん防止模様(1)の他の断面形状を示す図である。前述した、波線状に限らず、図3(a)に示すように、断面形状が鋸歯状となるように形成することも、可能である。また、前述した図2及び図3(a)は、規則的な断面形状であったが、図3(b)に示すように、一つの改ざん防止模様(1)内に、幅が異なる箇所を有していてもよい。例えば、図3(b)においては、E1とE2で幅が異なる箇所を有している。
また、断面形状を、図3(c)に示す矩形状や、一つの改ざん防止模様(1)内で、厚みの異なる箇所を有していてもよい。例えば、図3(c)においては、G1とG2で厚みが異なる箇所を有している。
さらに、図4(a)に示すように、改ざん防止模様(1)は、E1に示す用紙の表面(F)に対し、深さ方向に異なった領域と、E2に示す深さ方向に同じ領域とを有する構成としてもよい。図4(a)の構成とした場合でも、一つの改ざん防止模様(1)において、表面(F)からの深さが、h3とh4で異なっていることから、少なくとも二箇所深さがが異なる箇所を有する本発明の構成となる。
また、図4(b)に示すように、斜めの直線形状や、改ざん防止用紙(S1)の幅方向(E3)に対して、全体ではなく、一部(E4)に改ざん防止模様(1)を形成してもよい。
次に、改ざん防止模様(1)を形成する、改ざん防止材料(2)について説明する。改ざん防止材料(2)は、単層の用紙における紙層(Q)内の一部に付与される、材料のことである。
改ざん防止材料(2)には、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂、インクジェット印刷用のインク、プロセスインキ等の印刷インキ、着色繊維、蛍光繊維、ポリマー繊維、金属繊維、ナノファイバー、サーモ繊維等の繊維や、カーボン、酸化チタン、有色顔料、雲母(パール顔料)、有色蛍光顔料、無色蛍光顔料等の顔料、有色染料である機能性染料、金属粉末、金属片、金属箔、蒸着薄膜等の細片等がある。
本発明の改ざん防止材料(2)は、紙層(Q)と化学結合可能な官能基を有するか及び/又は繊維で形成された紙層(Q)による三次元の網目より大きい幅を有する必要がある。
まず、改ざん防止材料(2)が、紙層(Q)と化学結合可能な官能基を有する必要について説明する。前述のとおり、紙層(Q)は、繊維間の水素結合によって繊維が結合してシート状になっている。よって、改ざん防止材料(2)が、紙層(Q)と化学結合の一つである水素結合可能な官能基を有することで、紙層(Q)の繊維と水素結合して、紙層(Q)の内部に歩留まるという理由からである。
紙層(Q)と水素結合可能な官能基を有する改ざん防止材料(2)は、水酸基を持つ材料であれば、レーヨン、ポリビニルアルコール製の合成繊維等を適宜用いることが可能である。
また、水素結合以外の化学結合としては、バインダーを用いた分子間力による結合がある。例えば、パール顔料、ポリエステル製の合成繊維、マイクロカプセル等、水素結合可能な官能基を有さない機能性材料(3)と、少量のバインダー成分を配合した機能性分散液を抄紙機上で湿紙に付与することで、紙層(Q)の内部に機能性材料(3)を付与することが、可能である。
次に、機能性材料(3)が、繊維で形成された紙層(Q)による三次元の網目(K)より大きい幅を有する必要について説明する。図2の拡大図に示すように、本発明の用紙は、紙層(Q)内で繊維が立体的に入り組んだ形状となることで、網目(K)を有する構造となる。
本発明の機能性材料(3)は、三次元の網目(K)の大きさ(KW)より、大きい幅を有する材料とする。機能性材料(3)が、紙層(Q)による三次元の網目(K)より大きい幅を有することで、紙層(Q)と化学結合可能な官能基を有していない機能性材料(3)であっても、紙層(Q)の三次元の網目(K)から抜け落ちず、紙層(Q)内に歩留まるという理由からである。
紙層(Q)の三次元の網目(K)より大きい幅とは、改ざん防止材料(2)が顔料であるならば、紙層(Q)の三次元の網目(K)より大きい粒子径のことをいう。紙層(Q)の三次元の網目(K)より大きい粒子径を有する改ざん防止材料(2)には、例えば、網目(K)の大きさが10μmであるならば、金属顔料、液晶顔料等がある。
また、改ざん防止材料(2)が繊維であるならば、紙層(Q)の三次元の網目(K)より大きい幅とは、紙層(Q)の三次元の網目(K)より長い繊維長のことをいう。紙層(Q)の三次元の網目(K)より長い繊維長を有する機能性材料(3)には、例えば、網目(K)の大きさが10μmであるならば、NBKP繊維、木綿繊維等がある。
さらに、改ざん防止材料(2)が細片であるならば、紙層(Q)の三次元の網目(K)より大きい幅とは、紙層(Q)の三次元の網目(K)より長い細片長のことをいう。紙層(Q)の三次元の網目(K)より長い細片長を有する改ざん防止材料(2)には、例えば、網目(K)の大きさが10μmであるならば、金属細片、アルミ細片等がある。
以上の理由から、紙層(Q)内に改ざん防止材料(2)を付与するために、改ざん防止材料(2)は、紙層(Q)と化学結合可能な官能基を有するか及び/又は繊維で形成された紙層(Q)における三次元的な網目より大きい幅を有する必要がある。
詳細については後述するが、改ざん防止材料(2)は、改ざん防止材料(2)を水に分散させたのち、分散剤や水溶性高分子、改ざん防止材料(2)の分散状態を阻害しない水溶性液体、有機溶媒、あるいは粉末や微粒子等を加えることで作製した改ざん防止分散液を抄紙機上で湿紙に付与することで付与することが可能である。
改ざん防止分散液は、改ざん防止材料(2)同士が、すぐに水素結合で再結合しない程度の濃度が必要であり、固形分濃度0.1〜3%程度での使用が望ましい。本発明における固形分濃度とは、改ざん防止分散液中に含まれる改ざん防止材料(2)の割合のことである。ただし、改ざん防止材料(2)を強撹拌又は分散剤を添加することで、改ざん防止材料(2)同士を再分離させることができれば、3〜35%程度でも問題はない。
これは、固形分濃度が35%以上の高濃度になると、撹拌又は分散剤を加えるのみでは、改ざん防止材料(2)同士の再結合を抑止できず、再解繊処理が必要となる可能性があるためであり、逆に、固形分濃度が0.1%以下の低濃度では、用紙への付与及び乾燥段階において、水分過多による用紙の膨潤等を促進する可能性があるためである。ただし、それらの問題が他の手段で回避できれば特に制限はない。
改ざん防止分散液を付与する量は、付与する方式によって異なるが、乾燥後の改ざん防止材料(2)の固形分量が、0.01g/m2以上と成るように調製する必要がある。固形分量が0.01g/m2未満であると、可視光による透過光下において、改ざん防止分散液の付与部が肉眼で視認しづらくなり、好ましくない。また、付与方式によっては、一回での付与限界量が当該量以下の場合もあるが、この場合は数回付与を繰り返し、目標の固形分量を得ればよい。改ざん防止材料(2)は、改ざん防止分散液を湿紙の状態の紙層(Q)内に付与した後、乾燥させることで、本発明の改ざん防止用紙(S1)が作製される。
いずれの断面形状においも、単層用紙の表面(F)から異なる深さに改ざん防止模様(1)を形成することで、層間同士が剥がれるということがなくなり、仮に真正品の表裏を剥がして複数枚に分解したのち、その分解した個々の紙層を、他の用紙に貼り合わせることで一部を真正品とした複数の偽造品を作製しようとした場合、厚み方向の異なる位置に改ざん防止材料(2)を付与することで形成された改ざん防止模様(1)が破断することから、偽造が困難となる。
次に、改ざん防止用紙の他の形態について、図5に示す、本発明の第二の形態の改ざん防止用紙(S2)の平面図を用いて説明をする。前述した改ざん防止模様(1)は、図1(b)に示したように、透過光下では、用紙の表面(F)から実線状に視認される構成であったが、図5(a)に示す、改ざん防止用紙(S2)は、反射光下では視認することができないが、図5(b)に示すように、透過光下では、用紙の表面(F)から破線状に視認可能となるように、改ざん防止模様(1)が付与されている。
図6は、改ざん防止用紙(S2)の図5(a)のY−Y’断面図を示す。なお、紙層(Q)及び用いる改ざん防止材料(2)は、前述した改ざん防止用紙(S1)と同様であることから、説明を省略する。図6においては、改ざん防止材料(2)を、間隔(P2)を有して付与することで、紙層(Q)内に改ざん防止模様(1)が付与されている。改ざん防止模様(1)は、間隔(P2)を有している場合においても、単層の用紙における紙層(Q)内の一部に、用紙の表面(F)から、深さが異なる箇所を、少なくとも二箇所有して形成されている。例えば、図6においては、表面(F)から改ざん防止模様(1)までの深さが、h1とh2で異なっている。
図7は、間隔(P2)を有する改ざん防止模様(1)の他の断面形状を示す図である。前述した、図6において、間隔(P2)は一定間隔であったが、図7(a)に示すように、一つの改ざん防止模様(1)内で間隔を、P3とP4のように、異ならせて形成したり、断面形状を、斜めの波線状となるように形成したりすることも、可能である。
また、波線状の断面形状に限らず、紙層(Q)内に、用紙の表面(F)から、深さが異なる箇所を、少なくとも二箇所有して形成されるなら、図7(b)に示すように、
断面形状が鋸歯状となるように形成することも、可能である。
さらに、図7(c)に示すように、一つの改ざん防止模様(1)内において、間隔(P2)を有する箇所(1b)と、有さない箇所(1a)を形成してもよい。さらには、図7(d)に示すように、一つの改ざん防止模様(1)内において、平面状の間隔(P5)に加え、紙層(Q)内の厚みに対し、改ざん防止材料(2)が付与されていない空白部(K)を有する構成としてもよい。
第二の形態の改ざん防止用紙(S2)とすることで、改ざん防止材料(2)を付与した箇所と付与していない箇所では、剥離強度に差が生じることから、仮に剥離をして用紙を改竄しようとした場合、図2の構成と比べ、一つの改ざん防止模様(1)内で複数箇所が破断することから、より復元が困難となり、さらに剥離対策が向上した用紙を形成することが、可能となる。
また、他のメリットとして、間隔(P2)を有して付与することで、間隔(P2)を有さずに実線状に付与した場合と比べて、紙層(Q)内に付与する改ざん防止材料(2)の量が少なくて済む。よって、実線状に付与した場合と比べ、コストを削減することが、可能となる。
次に、改ざん防止用紙の他の形態について、図8に示す、本発明の第三の形態の改ざん防止用紙(S3)の平面図を用いて説明をする。図8に示す、改ざん防止用紙(S3)の領域(Z)には、前述した図1(a)及び図6(a)とは異なり、反射光下では改ざん防止模様(1)の一部が視認可能となるように、改ざん防止材料(2)が付与されている。
図9は、改ざん防止用紙(S3)の図9(a)のY−Y’断面図を示す。前述した改ざん防止用紙(S1)は、改ざん防止模様(1)は、全て紙層(Q)内に付与されていたが、図9の改ざん防止用紙(S3)では、改ざん防止模様(1)の一部が、用紙の少なくとも一方の面に表出させて成る。図9においては、一例として、改ざん防止模様(1)の一部が、用紙の表面(F)に表出している。なお、紙層(Q)及び用いる改ざん防止材料(2)は、前述した改ざん防止用紙(S1)と同様であることから、説明を省略する。
改ざん防止模様(1)の一部を、用紙の少なくとも一方の面に表出させて成る構成とすることで、前述した全て紙層(Q)内に形成された構成と比べ、用紙を剥離しようとした場合、用紙表面(F)に表出した箇所で、紙層(Q)が破壊されるため、改ざん防止模様(1)を剥離することが、より困難となる。
なお、図9においては、改ざん防止模様(1)の一部が、用紙の表面(F)に表出した構成であるが、裏面(B)に表出した構成とすることも、可能である。さらには、表面(F)及び裏面(B)に表出した構成とすることも、可能である。なお、用紙表面は、深さ方向ゼロとする。
改ざん防止模様(1)の一部を、用紙の少なくとも一方の面に表出させて成る構成とした場合、表出した面と同一の面から、用紙を剥離しようとした際には、前述のとおり、用紙表面(F)に表出した箇所で、紙層(Q)が破壊されるため、改ざん防止模様(1)を剥離することが、困難となる。
しかしながら、表出した面と異なる面から、用紙を剥離しようとした際には、紙層(Q)内において、改ざん防止模様(1)を有さない領域が存在し、その箇所で剥離されてしまう恐れがある。そこで、用紙の表面(F)及び裏面(B)に表出した構成とすることで、紙層(Q)内のどこで剥離しても、必ずどちらかの面に表出した部分で、改ざん防止模様(1)が破壊される構成となる。
なお、改ざん防止模様(1)の形状については、単層の紙層(Q)内に有意味情報として付与してもよく、特に限定はない。図10は、改ざん防止模様(1)の他の形状を示す平面図である。図10(a)に示すように、改ざん防止模様(1)は、複数の帯状として形成してもよい。また、図10(b)に示すように、図柄や、図10(c)に示すように文字としてもよい。
さらに、図1については、改ざん防止用紙(S1)の一部に改ざん防止模様(1)を形成していたが、図10(d)及び図10(e)に示すように、改ざん防止用紙(S1)の全面に改ざん防止模様(1)を形成することも可能である。
なお、改ざん防止用紙(S1)は、単層構造で説明したが、単層の紙層(Q)内に改ざん防止材料(2)が付与されてもよく、その単層構造を、多層紙の一層とする構成とすることも可能である。
次に、図1から図9に示した、改ざん防止用紙(S1、S2、S3)の作製方法について、その手順を示した図11のフローチャートと、図12の示す、改ざん防止用紙(S、S2 、S3)を作製する長網抄紙機(M)の模式図を用いて説明する。
長網抄紙機(M)は、少なくとも、準備部(3)、ワイヤー部(4)、プレス部(5)、乾燥部(6)、カレンダ部(7)、リール部(8)を有し、まず、準備部(3)において、用紙の原料である紙料(W)内の繊維を分散させたのち、ワイヤー部(4)において、紙料(W)をワイヤー(4a)の上面に供給したのち、シート状の湿紙(9)を形成する。
次に、プレス部(5)において、湿紙(9)に対して圧力をかけて脱水し、乾燥部(6)で脱水後の湿紙(9)を乾燥させたのち、最後に、カレンダ部(7)において、カレンダロール(7a)の間を通し、圧力をかけて用紙表面を平滑にし、用紙が完成する。完成した用紙は、リール部(8)により巻き取られたのち、次工程に送付する。
本発明の改ざん防止用紙(S1、S2、S3)の作製方法は、用紙の表面から異なる深さに改ざん防止模様(1)を形成する為に、二点特徴点がある。一点目は、水分量調整工程(ST1)として、改ざん防止材料(2)を湿紙(9)内の所望の位置に定着させるために、湿紙(9)の水分量を調整する点であり、二点目は、ノズル噴射流量調整工程(ST2)として、改ざん防止模様(1)を形成する改ざん防止材料(2)を分散した液体を、ノズルの噴射流量を変動させながら湿紙(9)に付与する点である。
まず、一点目の特徴点である、水分量調整工程(ST1)について説明する。図13(a)は、水分量調整工程(ST1)を示す模式図であり、長網抄紙機(M)のワイヤー部(4)における、ワイヤー(4a)上に湿紙(9)の水分量を調整する。
本発明においては、湿紙(9)に対して、複数の改ざん防止材料(2)を分散させた液体を、ノズル噴射により湿紙(9)内部に付与したのち、付与後の改ざん防止材料(2)の上に、湿紙(9)を形成する紙料(W)が覆いかぶさることで、改ざん防止模様(1)を形成している。
改ざん防止分散液(J)を付与した直後の湿紙(9)の表面(F)は、付与した箇所にライン状の跡が残るが、湿紙(9)の水分量を調整することで、そのライン状の跡の上に湿紙(9)を形成する紙料(W)が流動して、覆いかぶさったのち、表面張力の作用により表面(F)が平らとなることで、図13(d)に示すように、改ざん防止分散液(J)を湿紙(9)の紙層(Q)内に付与することが可能となる。
湿紙(9)の水分量が多いと、紙層(Q)を形成する繊維及び改ざん防止材料(2)の流動性が高いことに起因し、付与後の改ざん防止材料(2)が、湿紙(9)の内部に留まらず、湿紙(9)全体に拡散するか、又は全て湿紙(9)を通過し、ワイヤー(4a)の上に留まってしまう。よって、紙層(Q)内の所望の位置に改ざん防止材料(2)を付与することが不可能となる。
一方、湿紙(9)の水分量が少ない場合、改ざん防止材料(2)を付与後、紙層(Q)を形成する繊維の流動性が低いことに起因し、付与後の改ざん防止材料(2)の上に、湿紙(9)を形成する紙料(W)が流動せず、改ざん防止材料(2)が全て紙層(Q)上に表出したままとなり、紙層(Q)内に改ざん防止材料(2)を付与できない。よって、改ざん防止材料(2)を付与する前に、湿紙(9)の水分量を調節しておく必要がある。
湿紙(9)の水分量は、付与する改ざん防止材料(2)の種類や大きさ、また、紙層(Q)を形成する繊維の種類や繊維長等に併せて、湿紙(9)に対し、改ざん防止材料(2)を分散させた液体が、ノズル噴射により湿紙(9)内部に付与したのち、付与後の改ざん防止材料(2)の上に、湿紙(9)を形成する紙料(W)が流動して、覆いかぶさることが可能となるように、適宜調整するが、本発明においては、湿紙(9)の水分量は、含水率80〜97%の範囲とすることが、好ましい。
湿紙(9)の含水率が80%未満となった場合、前述した湿紙(9)の水分量が少ない場合と、同様の問題が生じる。また、含水率が97%を超えた場合、前述した湿紙(9)の水分量が多い場合と、同様の問題が生じる。
なお、図8及び図9に示した改ざん防止用紙(S3)は、改ざん防止模様(1)の一部が、用紙の一方の面に表出させて成る構成である。よって、湿紙(9)に対し、改ざん防止材料(2)を分散させた液体が、ノズル噴射により湿紙(9)内部に付与したのち、付与後の改ざん防止材料(2)の上に、湿紙(9)を形成する紙料(W)が流動して、全て覆いかぶさる必要はなく、少なくとも一部が覆いかぶさればよい。よって、その際の湿紙(9)の水分量は、前述した含水率より若干(1%程度)多くすることが、可能である。
湿紙(9)の水分量の調整は、脱水により行う。具体的には、ワイヤー(4a)上の湿紙(9)は、ワイヤー(4a)の下のテーブルロール(4b)により発生するバキューム圧により脱水する。なお、脱水は、テーブルロール(4b)と併せて、サクションボックス等の真空装置を併設したのち、真空装置を用いて強制脱水を行うことも、可能である。
次に、二点目の特徴点である、ノズル噴射流量調整工程(ST2)について説明する。図13(b)は、ノズル噴射流量調整工程(ST2)を示す模式図である。ノズル(10)は、少なくとも一つの孔又はスリットを有する、改ざん防止材料(2)を分散させた溶液を噴射するための装置であり、水分量調整工程(ST1)後のワイヤー(4a)上に設ける。
本発明においては、図1から図9に示したように、単層の用紙における紙層(Q)内の一部に、用紙の表面(F)から異なる深さに改ざん防止模様(1)が付与されている。これは、湿紙(9)に対し、ノズル(10)の噴射流量を変動させながら、改ざん防止分散液(J)を付与しているからである。
よって、改ざん防止模様(1)を、用紙の表面(F)から異なる深さに形成するために、あらかじめ、ノズル(10)の噴射流量の下限値、中間値及び上限値を設定する必要がある。
噴射流量の下限値とは、改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)の紙層(Q)内に付与されず表面(F)上に付与される噴射流量のことであり、噴射流量の中間値とは、改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)の紙層(Q)内の厚み方向における中間に付与される噴射流量のことであり、噴射流量の上限値とは、改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)紙層(Q)内に付与されず裏面(B)上に付与される噴射流量のことである。
湿紙(9)に対し、ノズル(10)の噴射流量の下限値、中間値及び上限値の範囲内で、変動させながら、改ざん防止分散液(J)を付与することで、改ざん防止模様(1)を、用紙の表面(F)から異なる深さに形成することが、可能となる。
噴射流量の下限値、中間値及び上限値は、水分量調整工程(ST1)後の湿紙(9)の坪量及び水分量と、長網抄紙機(M)の抄速により適宜調整するが、例えば、水分量調整工程(ST1)後の湿紙(9)の坪量が85g/m2、水分量が95%で、長網抄紙機(M)の抄速が27m/minとした場合、噴射流量の下限値は、200ml/minとなる。また、噴射流量の中間値は、500ml/minとなり、噴射流量の上限値は、800ml/minとなる。
なお、ノズル(10)の噴射流量は、前述した、水分量調整工程(ST1)後の湿紙(9)の坪量が85g/m2、含水率が95%で、長網抄紙機(M)の抄速が27m/minとした場合の値である、噴射流量は500ml/minを基準値とし、坪量、含水率及び抄速の変動により、適宜調整する。
例えば、湿紙(9)の坪量が85g/m2より大きい場合、噴射流量は基準値より大きくする。坪量が大きい場合、湿紙(9)内の繊維量が多くなるため、基準値では、改ざん防止材料(2)が紙層(Q)内に入らない。よって、噴射流量を大きくし、高圧で付与する必要がある。
また、長網抄紙機(M)の抄速が27m/minより早い場合についても、噴射流量は基準値より大きくする。抄速が早い場合、紙層(Q)内に入る前に、ワイヤー(4a)上の湿紙(9)が動き、改ざん防止材料(2)は紙層(Q)に入らずに、紙層(Q)の表面(F)に乗ってしまう。よって、噴射流量を大きくし、高圧で付与する必要がある。
さらに、湿紙(9)の含水率が95%より高い場合、噴射流量は基準値より小さくする。含水率が高い場合、湿紙(9)内の繊維量が少なくなるため、基準値では、改ざん防止材料(2)が紙層(Q)を突き抜け、湿紙(9)の裏面(B)に出てしまう。よって、噴射流量を小さくし、低圧で付与する必要がある。
最後に、改ざん防止分散液付与工程(ST3)として、図13(c)に示すように、水分量調整工程(ST1)の湿紙(9)に対し、ノズル噴射流量調整工程(ST2)で調整した、上限値、中間値及び下限値の範囲内で、ノズル(10)の噴射流量を変動させながら、改ざん防止分散液(J)を湿紙(9)に付与することで、図13(d)に示すように、単層の用紙における紙層(Q)内の一部に、用紙の表面(F)から異なる深さに付与されて成る改ざん防止模様(1)を形成することが、可能となる。
なお、前述した図5に示す改ざん防止用紙(S2)を作製する場合、改ざん防止分散液付与工程(ST3)において、改ざん防止分散液(J)を、間隔を空けながら付与する。よって、タイマーと、ポンプ、電磁弁等の制御装置をノズル(10)に取り付けたのち、所望の間隔でノズル(10)の噴射のスイッチをオンオフすることで、改ざん防止分散液(J)を、間隔を空けながら湿紙(9)に付与することが、可能となる。
図14は、図5の改ざん防止用紙(S2)の領域(Z)を拡大した図である。図14に示す、改ざん防止材料(2)が付与されない箇所である間隔(P2)を有する改ざん防止模様(1)を形成する場合、まず、用いる長網抄紙機(M)の一秒当たりの抄速を測定する。例えば、長網抄紙機(M)の抄速が27m/minの場合、一秒当たりの抄速は、450mm/secとなる。
次に、改ざん防止材料(2)を付与する箇所の長さ(P1)を設定する。例えば、図14においては、P1=20mmとする。次に、改ざん防止材料(2)を付与する時間、つまり、ノズル(10)から改ざん防止分散液(J)の噴射をオンとする時間を算出する。オンとする時間は、改ざん防止材料(2)を付与する箇所の長さ(P1)を長網抄紙機(M)の一秒当たりの抄速で割ることで、算出できる。図14においては、算出すると、0.044secとなる。
次に、間隔(P2)の長さを設定する。例えば、図14においては、P2=20mmとする。次に、改ざん防止材料(2)を付与しない時間、つまり、ノズル(10)から改ざん防止分散液(J)の噴射をオフとする時間を算出する。オフとする時間は、間隔(P2)の長さを長網抄紙機(M)の一秒当たりの抄速で割ることで、算出できる。図14においては、算出すると、0.044secとなる。
以上、間隔(P2)を有する改ざん防止模様(1)は、改ざん防止分散液(J)の噴射を0.044secごとにオンオフすることで、形成することが、可能となる。
なお、前述した改ざん防止分散液(J)の固形分濃度は0.1〜4%が、好ましい。固形分濃度が、3%を超える場合、ノズル(10)の噴射流量及び噴射口の形状によっては、ノズル(10)に改ざん防止材料(2)が詰まり、好ましくない。
また、固形分濃度が1%未満の場合、改ざん防止材料(2)を紙層(Q)内に付与することは可能であるが、改ざん防止用紙(S1、S2)となった際の、改ざん防止模様(1)の視認性や、改ざん防止材料(2)の機械読取性が低下し、好ましくない。
なお、噴射流量は、ノズル(10)の噴射口の形状、改ざん防止材料(2)の坪量、固形分濃度等によりも変動することから、適宜調整を行う。
また、ノズル(10)は、一つに限らず複数設置することも可能である。
本発明の実施例1について、図1及び図2を用いて説明する。実施例1では、単層の紙層(Q)内に、複数の改ざん防止材料(2)が波線の実線状に付与された改ざん防止用紙(S1)を作製した例を示す。
紙層(Q)を形成する繊維は、アバカパルプを使用した。また、改ざん防止材料(2)は、湿紙と化学結合可能な官能基を有する材料として、着色した稲わらパルプを使用した。
改ざん防止分散液(J)は、改ざん防止材料(2)である着色した稲わらパルプを、水に固形分濃度0.35%で分散させることで作製した。
次に、水分量調整工程(ST1)として、図8及び図9に示す、長網抄紙機(M)を用いて、長網抄紙機(M)のワイヤー(4a)上に、紙料供給槽(3a)から紙層(Q)を形成する紙料(W)を供給したのち、ワイヤー(4a)上に湿紙(9)を形成する。
次に、湿紙(9)の水分量を、テーブルロール(4b)及びサクションボックスを用いて、脱水を行い、含水率95%に調整した。
次に、ノズル噴射流量調整工程(ST2)として、改ざん防止分散液(J)を湿紙(9)の紙層(Q)内の異なる位置に付与するために、改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)の表面(F)上に付与される噴射流量、改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)の紙層(Q)内の中間に付与される噴射流量及び、改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)の裏面(B)に付与される噴射流量の以上三つの条件における各ノズル(10)の噴射流量を調整した。
改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)の表面(F)上に付与される噴射流量は200ml/minに調整し、改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)の紙層(Q)内の中間に付与される噴射流量は500ml/minに調整し、改ざん防止分散液(J)が、湿紙(9)の裏面(B)上に付与される噴射流量は800ml/minに調整した。なお、噴射流量の調整は、ノズル(10)に流送ポンプを接続したのち、流送ポンプのインバータを調整することで行った。
次に、改ざん防止分散液付与工程(ST3)として、水分量調整工程(ST1)後の湿紙(9)に対し、改ざん防止分散液(J)を、ポンプを用いて流送し、ノズル(10)から、ノズル噴射流量調整工程(ST2)で設定した噴射流量300ml/minから700ml/minの範囲内で連続的に変動させながら噴射した。なお、この時、ノズル(10)と湿紙(9)表面の距離は50mmとした。
その後、ワイヤー(4a)下部に設置された搾水ボックスにより湿紙(9)の水分が脱水され、改ざん防止材料(2)である着色した稲わらパルプと湿紙(9)が絡み合うとともに、水素結合により結合した。さらに、プレスロールで脱水したのち、乾燥、カレンダ処理を行うことで、繊維間結合はより強固になり、単層の紙層(Q)内における厚み方向の異なる位置に改ざん防止材料(2)が付与された改ざん防止用紙(S1)となった。