以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の制御装置が適用されたハイブリッド車両の動力伝達装置(車両用動力伝達装置)10を説明する骨子図である。図1において、上記動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に例えば直接に連結された無段変速部16と、その無段変速部16から駆動輪18(図5参照)への動力伝達経路の一部を構成し伝達部材20を介して直列に連結された有段変速部(有段変速機)22と、この有段変速部22に連結されている出力回転部材としての出力軸24とを直列に備えている。上記動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン26と一対の駆動輪18との間に設けられて、エンジン26からの動力を動力伝達経路の一部を構成するプロペラシャフト27(図5参照)、差動歯車装置28(図5参照)及び一対の車軸30(図5参照)等を順次介して一対の駆動輪18へ伝達する。なお、上記動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
無段変速部16には、動力分配機構32と、その動力分配機構32に動力伝達可能に連結されて動力分配機構32の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機MG1と、伝達部材20と一体的に回転するように動力伝達可能に連結されている第2電動機MG2とが備えられている。なお、上記伝達部材20は無段変速部16の出力側回転部材であるが有段変速部22の入力側回転部材すなわち入力軸にも相当するものである。
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の電動機は主動力源であるエンジン26の代替として、或いはそのエンジン26と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ34(図5参照)を介して他の電動機に供給したり、その電気エネルギを蓄電装置(バッテリ)36(図5参照)に蓄積する等の作動を行う。
動力分配機構32は、エンジン26に動力伝達可能に連結された差動機構であって、所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン26の出力を機械的に分配する機械的機構である。この遊星歯車装置は、サンギヤS0、遊星歯車P0、その遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持するキャリヤCA0、遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合うリングギヤR0を回転要素として備えている。なお、サンギヤS0の歯数をZS0、リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ1はZS0/ZR0である。
動力分配機構32においては、キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン26に連結され、サンギヤS0は第1電動機MG1に連結され、リングギヤR0は伝達部材20に連結されている。このように構成された動力分配機構32は、その遊星歯車装置の3要素であるサンギヤS0、キャリヤCA0、リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態とされることから、エンジン26の出力が第1電動機MG1と伝達部材20とに分配されると共に、分配されたエンジン26の出力の一部で第1電動機MG1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機MG2が回転駆動されるので、無段変速部16(動力分配機構32)は電気的な差動装置として機能させられて例えば無段変速部16は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン26の所定回転に拘わらず伝達部材20の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構32が差動状態とされると無段変速部16も差動状態とされ、その無段変速部16はその変速比γ0(入力軸14の回転数NIN/伝達部材20の回転数N20)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。また、エンジン26と無段変速部16とは、例えば、有段変速部22の入力軸すなわち伝達部材20に動力を伝達させる動力源42として構成されている。
有段変速部22は、エンジン26から駆動輪18への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置38及びシングルピニオン型の第2遊星歯車装置40を備え、機械的に複数の変速比が段階的に設定される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。上記第1遊星歯車装置38は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、所定のギヤ比ρ2を有している。上記第2遊星歯車装置40は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、所定のギヤ比ρ3を有している。
有段変速部22では、第1サンギヤS1は第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材20に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力軸24に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材20に選択的に連結され、第1サンギヤS1が第3クラッチC3を介して伝達部材20に選択的に連結されている。更に第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン26と同方向の回転が許容され逆方向の回転が禁止されている。
以上のように構成された有段変速部22では、解放側油圧式摩擦係合装置の解放と係合側油圧式摩擦係合装置の係合とにより例えばクラッチツウクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材20の回転数N20/出力軸24の回転数NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合及び一方向クラッチFにより第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により第2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により第4速ギヤ段が成立させられ、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2の係合により後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。なお、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置(油圧式係合装置)であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する無段変速部16と有段変速部22とで無段変速機が構成される。また、無段変速部16の変速比を一定となるように制御することにより、無段変速部16と有段変速部22とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
具体的には、無段変速部16が無段変速機として機能し、且つ無段変速部16に直列の有段変速部22が有段変速機として機能することにより、有段変速部22の少なくとも1つの変速段Mに対して有段変速部22に入力される回転数(以下、有段変速部入力回転数)すなわち伝達部材20の回転数(以下、伝達部材回転数N20)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転数NIN/出力軸24の回転数NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、無段変速部16の変速比γ0と有段変速部22の変速比γとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。例えば、図2の係合作動表に示される有段変速部22の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転数N20が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
また、無段変速部16の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれかが選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
図3は、第1変速部として機能する無段変速部16と第2変速部として機能する有段変速部22とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置32、38、40のギヤ比の関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン26の回転速度すなわちエンジン回転数Neを示し、横線XG(X3)が伝達部材20の回転数N20すなわち無段変速部16から有段変速部22に入力される後述する第3回転要素RE3の回転数を示している。
また、無段変速部16を構成する動力分配機構32の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0、第1回転要素RE1に対応するキャリヤCA0、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は動力分配機構32の遊星歯車装置のギヤ比ρ1に応じて定められている。更に、有段変速部22の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応する第2サンギヤS2、第5回転要素RE5に対応する相互に連結された第1リングギヤR1及び第2キャリヤCA2、第6回転要素RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2、第7回転要素RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1遊星歯車装置38、第2遊星歯車装置40のギヤ比ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比に対応する間隔とされる。
図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構32(無段変速部16)において、その動力分配機構32の第1回転要素RE1(キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン26に連結され、第2回転要素(サンギヤS0)RE2が第1電動機MG1に連結され、第3回転要素(リングギヤR0)RE3が伝達部材20及び第2電動機MG2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材20を介して有段変速部22へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、縦線Y2と横線X2の交点を通る斜めの直線L0によりサンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
例えば、無段変速部16においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示されるリングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機MG1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示されるサンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示されるキャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転数Neが上昇或いは下降させられる。また、無段変速部16の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転がエンジン回転数Neと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転数Neと同じ回転でリングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材20が回転させられる。或いは、無段変速部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転数Neよりも増速されて伝達部材20が回転させられる。
また、有段変速部22において第4回転要素(第2サンギヤS2)RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材20に選択的に連結され、第5回転要素(第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2)RE5は出力軸24に連結され、第6回転要素(第1キャリヤCA1、第2リングギヤR2)RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材20に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素(第1サンギヤS1)RE7は第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。
有段変速部22では、図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸24と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速(1st)の出力軸24の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸24と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速(2nd)の出力軸24の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸24と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速(3rd)の出力軸24の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力軸24と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速(4th)の出力軸24の回転速度が示される。
図4は、本実施例のハイブリッド車両の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置50に入力される信号およびその電子制御装置50から出力される信号を例示している。上記電子制御装置50は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン26や第1電動機MG1および第2電動機MG2に関するハイブリッド駆動制御、有段変速部22の変速制御等の各種制御を実行するものである。なお、上記電子制御装置50には、図4に示すように、上記ハイブリッド駆動制御を実行するハイブリッド駆動制御用電子制御装置50aと、そのハイブリッド駆動制御用電子制御装置50aから出力される第1電動機トルク指令信号SM1および第2電動機トルク指令信号SM2によって第1電動機MG1および第2電動機MG2を制御する電動機用電子制御装置50bと、そのハイブリッド駆動制御用電子制御装置50aから出力されるエンジントルク指令信号SEによってエンジン26を制御するエンジン用電子制御装置50c等とが備えられている。
上記電子制御装置50には、図4に示すように、車速センサ52により検出された出力軸24の回転数NOUTに対応する車速Vを表す信号、アクセル開度センサ54により検出された例えば運転者の出力要求量に対応する図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、ブレーキセンサ56により検出された例えば運転者の減速要求量に対応する図示しないブレーキペダルの操作量すなわち踏込量を表す信号、シフトポジションセンサ58により検出された図示しないシフトレバーのシフトポジションPSHを表す信号、レゾルバ等からなる第1電動機回転数センサ60により検出された第1電動機MG1の回転数(第1電動機回転数)NM1(rpm)を表す信号、レゾルバ等からなる第2電動機回転数センサ62により検出された第2電動機MG2の回転数(第2電動機回転数)NM2(rpm)すなわち伝達部材20の回転数N20である有段変速部22の入力軸の回転数(有段変速部入力回転数)を表す信号、出力軸回転数センサ64により検出された出力軸24の回転数NOUT(rpm)を表す信号、エンジン回転数センサ66により検出されたエンジン26の回転数であるエンジン回転数Ne(rpm)を表す信号等が、それぞれ供給される。
また、上記電子制御装置50からは、図4および図5に示すように、エンジン26の出力を制御するエンジン出力制御装置68への制御信号例えばエンジン26の吸気管70に備えられた電子スロットル弁72のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ74への駆動信号や燃料噴射装置76による吸気管70或いはエンジン26の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置78によるエンジン26の点火時期を指令する点火信号、第1電動機MG1および第2電動機MG2の作動を指令する指令信号、有段変速部22の油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路80に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号等が、それぞれ出力される。
図5は、本実施例のハイブリッド車両の動力伝達装置10を制御するための電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。その図5において、有段変速制御部82は、有段変速部22の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御部82は、例えば図6に示す車速Vと有段変速部22の出力トルクTOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として予め記憶されたアップシフト線及びダウンシフト線を有する変速マップから実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する有段変速部22の要求出力トルクで示される車両状態に基づいて、有段変速部22の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち有段変速部22の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように有段変速部22の変速制御を実行する。
また、有段変速制御部82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、有段変速部22の変速に関与する油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の解放と係合とを実行させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち有段変速部22の変速に関与する解放側油圧式摩擦係合装置を解放すると共に係合側油圧式摩擦係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路80へ出力する。油圧制御回路80は、その指令に従って、例えば解放側油圧式摩擦係合装置を解放すると共に係合側油圧式摩擦係合装置を係合して有段変速部22の変速が実行されるように、油圧制御回路80内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
ハイブリッド制御部84は、エンジン出力制御装置68を介してエンジン26の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ34を介して第1電動機MG1及び第2電動機MG2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン26、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。なお、上記ハイブリッド制御部84は、有段変速制御部82で有段変速部22の変速制御が実行されない場合には、上記ハイブリッド駆動制御等すなわち通常時制御を実行する。
例えば、ハイブリッド制御部84は、動力性能や燃費向上などのために有段変速部22の変速段を考慮してエンジン26及び第1電動機MG1、第2電動機MG2の制御を実行する。このようなハイブリッド駆動制御では、エンジン26を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転数Neと車速V及び有段変速部22の変速段で定まる伝達部材20の回転速度とを整合させるために、無段変速部16が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御部84は、例えばエンジン回転数NeとエンジントルクTeとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて予め記憶されたエンジン26の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)にエンジン26の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン26が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTeとエンジン回転数Neとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように有段変速部22の変速段を考慮して無段変速部16の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転数Ne及びエンジントルクTeなどで例示されるエンジン26の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン26の動作状態を示す動作点である。
また、ハイブリッド制御部84は、例えば図6の動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域とのいずれかであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実施する。
すなわち、ハイブリッド制御部84は、動力源42の運転状態すなわちエンジン26の駆動状態を、走行中の車両状態によって適宜、例えば、モータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のうちのいずれか1の運転状態に切り換える。なお、上記動力源42の運転状態において、上記モータリングは、例えば第2電動機MG2を走行用の動力源として車両を走行させる運転状態であり、そのモータリングの時には、エンジン26で燃料噴射が停止され、エンジン回転数Neが所定値に維持されるように第1電動機MG1によってトルク制御が実行される。また、上記エンジン負荷運転は、エンジン26のフリクション分以上のトルクをエンジン26から出力させる運転状態である。また、上記エンジン無負荷運転は、エンジン26のフリクション分のトルクをエンジン26から出力してエンジン回転数Neを所定値に維持させる運転状態である。また、上記エンジン運転停止は、エンジン26が回転していない運転状態である。
係合圧制御部86は、有段変速制御部82で有段変速部22の変速制御が実行されると判定されると、伝達部材20の回転数N20が所定の変化となるように図7に例示される油圧学習値マップに基づいて、有段変速制御部82により油圧制御回路80へ出力される油圧指令に用いられる有段変速部22の変速に関与する油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の係合油圧を制御する。なお、上記伝達部材20の回転数N20の所定の変化とは、車速Vと有段変速部22の変速比γとで一意的に定められる伝達部材20の回転数N20が理想状態となるように、例えば伝達部材20の回転数N20の変化率N20D(=dN20/dt)が、有段変速部22の変速中にフィーリングが良いとされているような伝達部材20の回転数N20の変化率N20Dが大きくなる速やかな変速応答性と、変速ショックが抑制し易いとされているような伝達部材20の回転数N20の変化率N20Dが小さくなる緩やかな変速応答性とが両立するように、予め実験的に求められて定められている変化である。
上記図7は、上記油圧学習値マップの一例であり、(a)はアップシフト用、(b)はダウンシフト用に区別されている。また、上記油圧学習値マップは、エンジントルク1〜7で示すようにその大きさで層別(区別)され、且つ1→2、2→3等の変速の種類毎に区別された各油圧学習値から構成されている。例えばエンジントルク1の1→2アップシフトにおいて、解放側油圧式摩擦係合装置の油圧学習値はPb2u121であり、係合側油圧式摩擦係合装置の油圧学習値はPb1u121である。また、この油圧学習値マップには、予め実験的に求められた各油圧学習値のデフォルト値が記憶されており、後述する係合圧学習制御部88の係合油圧学習制御が実行されるに従って逐次書き替えられる。
なお、上記図7の油圧学習値マップは、例えば動力源42の運転状態がエンジン負荷運転の際に使用される油圧学習値マップであり、本実施例の電子制御装置50には、その動力源42の運転状態すなわちモータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のそれぞれの運転状態に対応する油圧学習値マップが記憶されている。このため、係合圧制御部86では、有段変速制御部82で有段変速部22の変速制御が実行されたと判定されると、動力源42の運転状態(モータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止)を判定し、その運転状態に対応する油圧学習値マップに基づいて、油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の係合油圧を制御する。なお、上記動力源42の運転状態において、電子制御装置50から出力されるモータ走行指令信号によりその運転状態がモータリングであるか否かが判定される。また、例えばスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転数Neと推定エンジントルクとの予め実験的に求められて記憶された関係から実際のスロットル弁開度θTHとエンジン回転数Neとに基づいて運転状態がエンジン負荷運転或いはエンジン無負荷運転であるか否かが判定される。また、エンジン回転数Neが略零であるか否かによって運転状態がエンジン運転停止であるか否かが判定される。
係合圧学習制御部88は、有段変速制御部82で有段変速部22の変速制御が実行されたと判定されると、その変速制御中において例えば図9、図11に示す学習パラメータA、B(sec)を計測しその学習パラメータA、B(sec)を用いて図7に示す油圧学習値マップの油圧学習値を補正する係合油圧学習制御、すなわち有段変速部22の変速状態を維持するように油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の係合油圧を学習により補正する係合油圧学習制御を実行する。なお、上記学習パラメータA(sec)は、図9および図11に示すように、例えば変速開始からイナーシャ相開始までの時間である。上記変速開始は、例えば有段変速制御部82で有段変速部22の変速制御が実行された時であり、上記イナーシャ相開始は、第2電動機MG2の回転数NM2が上記変速開始時の第2電動機MG2の回転数NM2から所定の変化量上昇或いは下降した時である。また、上記学習パラメータB(sec)は、図9に示すように、上記有段変速部22の変速制御がダウン変速制御である場合には、例えば第2電動機MG2の回転数NM2すなわち有段変速部22の入力軸である伝達部材20の回転数N20のアンダシュートの時間であり、図11に示すように、上記有段変速部22の変速制御がアップ変速制御である場合には、例えば第2電動機MG2の回転数NM2すなわち有段変速部22の入力軸である伝達部材20の回転数N20のオーバシュートの時間である。上記アンダシュートの時間は、第2電動機MG2の回転数NM2が上記変速開始時の第2電動機MG2の回転数NM2から低下しその後上記変速開始時の第2電動機MG2の回転数NM2を超えるまでの時間である。上記オーバシュートの時間は、第2電動機MG2の回転数NM2が上記変速開始時の第2電動機MG2の回転数NM2から上昇しその後上記変速開始時の第2電動機MG2の回転数NM2を下回るまでの時間である。
また、上記係合圧学習制御部88では、上記学習パラメータA(sec)を計測するとその学習パラメータA(sec)に基づいて図7に示す油圧学習値マップの係合側油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧学習値を補正する、すなわちその学習パラメータA(sec)に基づいて上記係合側油圧式摩擦係合装置の供給圧(アプライ油圧)を学習するアプライ油圧学習制御と、上記学習パラメータB(sec)を計測するとその学習パラメータB(sec)に基づいて図7に示す油圧学習値マップの解放側油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧学習値を補正する、すなわちその学習パラメータB(sec)に基づいて上記解放側油圧式摩擦係合装置の排出圧(ドレン油圧)を学習するドレン油圧学習制御とが実行される。すなわち、上記係合圧学習制御部88では、上記アプライ油圧学習制御および上記ドレン油圧学習制御を含む前記係合油圧学習制御が実行される。なお、上記係合油圧学習制御では、前述のように係合油圧を学習により補正するが、ここで示す係合油圧は、例えば上記係合側油圧式摩擦係合装置および上記解放側油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ内にそれぞれ作用する油圧であり、上記供給圧および上記排出圧を含むものである。また、上記アプライ油圧学習制御では、上記学習パラメータA(sec)が大きいほど次の変速時に上記係合側油圧式摩擦係合装置の供給圧が高くなるように油圧学習値を補正し、その学習パラメータA(sec)が小さいほど次の変速時に上記係合側油圧式摩擦係合装置の供給圧が低くなるように油圧学習値を補正する。また、上記ドレン油圧学習制御では、上記学習パラメータB(sec)が大きいほど次の変速時に上記解放側油圧式摩擦係合装置の排出圧が高くなるように油圧学習値を補正し、その学習パラメータB(sec)が小さいほど次の変速時に上記解放側油圧式摩擦係合装置の排出圧が低くなるように油圧学習値を補正する。
学習禁止部90は、有段変速制御部82で有段変速部22の変速制御が実行されると判定されると、動力源42の運転状態が、モータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のうちのいずれか1の運転状態であるかを判定し、その有段変速部22の変速制御中すなわち有段変速部22の変速中に、動力源42の運転状態がその判定した前記モータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のうちのいずれか1の運転状態から他の運転状態へ切り替えが発生したか否かを判定する。例えば、学習禁止部90は、有段変速制御部82で有段変速部22の変速制御が実行されると判定されると、動力源42の運転状態が、モータリングからエンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のいずれかに切り替えが発生したか否か、又は、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のいずれかからモータリングに切り替えが発生したか否かを判定する。
また、係合圧学習制御部88は、前記学習禁止部90で有段変速部22の変速中に動力源42の運転状態がモータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のいずれか1の運転状態から他の運転状態へ切り替わったと判定されると、前記係合油圧学習制御すなわち前記アプライ油圧学習制御および前記ドレン油圧学習制御を禁止する。例えば、有段変速部22の変速制御中に計測された学習パラメータA、B(sec)を用いて、油圧学習値マップの油圧学習値を補正することを禁止する。なお、係合圧学習制御部88では、有段変速部22の変速中において、例えばアクセルペダル或いはブレーキペダルの操作量の変化量が所定範囲内で運転者の要求が略一定である場合には、前記係合油圧学習制御が実行されるが、その運転者の要求が変化する場合には、前記係合油圧学習制御が禁止される。
図8は、電子制御装置50において、有段変速部22で変速が実施された時に計測された学習パラメータA、B(sec)を用いて図7に示す油圧学習値マップの油圧学習値を補正する係合油圧学習制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。なお、図9乃至図12は、図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。上記図9のタイムチャートは、変速中に動力源42の運転状態に切替がなくエンジン無負荷運転において回生中にパワーOFFダウン変速制御が実行させられた場合のタイムチャートである。上記図10のタイムチャートは、回生中にパワーOFFダウン変速制御が実行している時に動力源42の運転状態に切替がありその運転状態がエンジン無負荷運転からモータリングに切り替えられた場合のタイムチャートである。上記図11のタイムチャートは、変速中に動力源42の運転状態に切替がなくエンジン無負荷運転において回生中にパワーOFFアップ変速制御が実行させられた場合のタイムチャートである。上記図12のタイムチャートは、回生中にパワーOFFアップ変速制御が実行している時に動力源42の運転状態に切替がありその運転状態がエンジン無負荷運転からエンジン負荷運転に切り替えられた場合のタイムチャートである。
先ず、有段変速制御部82に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、有段変速部22の変速制御が実行させられたか否かが判定される。このS1の判定が否定される場合には、ハイブリッド制御部84に対応するS2が実行されるが肯定される場合(図9および図10のta1時点、図11および図12のtb1時点)には、学習禁止部90に対応するS3が実行される。上記S2では、エンジン26、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2によるハイブリッド駆動制御等すなわち通常時制御が実行される。
上記S3では、動力源42の運転状態が、モータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のうちのいずれか1の運転状態であるかが判定される。
次に、学習禁止部90に対応するS4において、上記S3で判定されたモータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のうちのいずれか1の運転状態が、変速中に他の運転状態へ切り替わったか否かが判定される。このS4の判定が否定される場合には、係合圧学習制御部88に対応するS5が実行されるが、肯定される場合(図10のta2時点、図12のtb2時点)には、係合圧学習制御部88に対応するS6が実行される。
上記S5では、図9、図11のタイムチャートに示す学習パラメータA、B(sec)が計測されその学習パラメータA、B(sec)を用いて図7に示すような油圧学習値マップの油圧学習値を補正する係合油圧学習制御が実施される。なお、上記学習パラメータA(sec)は、図9のタイムチャートでは前記ta1時点からイナーシャ相が開始されるta3時点までの時間であり、図11のタイムチャートでは前記tb1時点からイナーシャ相が開始されるtb3時点までの時間(sec)である。
上記S6では、図10、図12のタイムチャートに示す学習パラメータAD、BD(sec)が計測されその学習パラメータAD、BD(sec)を用いて図7に示すような油圧学習値マップの油圧学習値を補正する係合油圧学習制御が禁止される。なお、上記学習パラメータAD(sec)は、図10のタイムチャートでは前記ta1時点からイナーシャ相が開始されるta3D時点までの時間であり、図12のタイムチャートでは前記tb1時点からイナーシャ相が開始されるtb3D時点までの時間(sec)である。
本実施例の電子制御装置50では、上記S4の判定が否定される場合、すなわち有段変速部22の変速制御が実行されている時に動力源42の運転状態に切替がない場合には、図9のタイムチャートに示すように、その有段変速部22の変速制御が実行されたと判定された時(図9のta1時点)からイナーシャ相開始(図9のta3時点)までの時間すなわち学習パラメータA(sec)を用いて例えば図7に示すような油圧学習値マップの係合側油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧学習値を補正するアプライ油圧学習制御が上記S5で実行され、第2電動機MG2の回転数NM2のアンダシュートの時間すなわち学習パラメータB(sec)を用いて例えば図7に示すような油圧学習値マップの解放側油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧学習値を補正するドレン油圧学習制御が上記S5で実行される。また、上記S4の判定が肯定される場合、すなわち有段変速部22の変速制御が実行されている時に動力源42の運転状態が例えばエンジン無負荷運転からモータリングに切り替えられる場合には、図10のタイムチャートに示すように、その運転状態がエンジン無負荷運転からモータリングに切り替えられることにより、エンジン回転数Neが上昇して有段変速部22の入力軸である伝達部材20に作用するイナーシャトルクが増加し、イナーシャ相開始のタイミングが動力源42の運転状態が切り替えられない場合に比べて早くなる。このため、上記学習パラメータA、B(sec)に比べて大きな影響が図10のタイムチャートに示す学習パラメータAD、BD(sec)に与えられてしまう。しかしながら、上記S4の判定が肯定される場合には、上記S6において、その学習パラメータAD、BD(sec)を用いて図7に示すような油圧学習値マップの油圧学習値を補正する係合油圧学習制御が禁止されるので、次の有段変速部22の変速制御の実行の際に好適な変速状態を維持することが可能になる。なお、図10のタイムチャートの第2電動機回転数NM2、第1電動機トルク、第2電動機トルク、ペラ軸トルクに示す破線は、図9のタイムチャートの回生トルク低減制御ありの時の測定値である。また、学習パラメータAD(sec)は学習パラメータA(sec)に比べて小さい値であり、学習パラメータBD(sec)は学習パラメータB(sec)に比べて小さく略零である。
また、本実施例の電子制御装置50では、上記S4の判定が否定される場合、すなわち有段変速部22の変速制御が実行されている時に動力源42の運転状態に切替がない場合には、図11のタイムチャートに示すように、その有段変速部22の変速制御が実行されたと判定された時(図11のtb1時点)からイナーシャ相開始(図11のtb3時点)までの時間すなわち学習パラメータA(sec)を用いて例えば図7に示すような油圧学習値マップの係合側油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧学習値を補正するアプライ油圧学習制御が上記S5で実行され、第2電動機MG2の回転数NM2のオーバシュートの時間すなわち学習パラメータB(sec)を用いて例えば図7に示すような油圧学習値マップの解放側油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧学習値を補正するドレン油圧学習制御が上記S5で実行される。また、上記S4の判定が肯定される場合、すなわち有段変速部22の変速制御が実行されている時に動力源42の運転状態が例えばエンジン無負荷運転からエンジン負荷運転に切り替えられる場合には、図12のタイムチャートに示すように、その運転状態がエンジン無負荷運転からエンジン負荷運転に切り替えられることにより、エンジン回転数Neが低下して有段変速部22の入力軸である伝達部材20に作用するイナーシャトルクが低下し、イナーシャ相開始のタイミングが動力源42の運転状態が切り替えられない場合に比べて早くなる。このため、上記学習パラメータA、B(sec)に比べて大きな影響が図12のタイムチャートに示す学習パラメータAD、BD(sec)に与えられてしまう。しかしながら、上記S4の判定が肯定される場合には、上記S6において、その学習パラメータAD、BD(sec)を用いて図7に示すような油圧学習値マップの油圧学習値を補正する係合油圧学習制御が禁止されるので、次の有段変速部22の変速制御の実行の際に好適な変速状態を維持することが可能になる。なお、図12のタイムチャートの第2電動機回転数NM2、ペラ軸トルク、第2電動機トルク、第1電動機トルクに示す破線は、図11のタイムチャートの測定値である。また、学習パラメータAD(sec)は学習パラメータA(sec)に比べて小さい値であり、学習パラメータBD(sec)は学習パラメータB(sec)に比べて小さく略零である。
上述のように、本実施例の動力伝達装置10の電子制御装置50によれば、有段変速部22での変速中に、動力源42の運転状態がモータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のうちのいずれか1の運転状態から他の運転状態へ切り替わる場合には、前記係合油圧学習制御が禁止される。このため、動力源42の運転状態がモータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン運転停止のうちいずれか1の運転状態から他の運転状態へ切り替わって、有段変速部22の入力軸である伝達部材20にトルク変化が作用して前記係合油圧学習制御の学習パラメータAD、BD(sec)に影響を与える場合には、前記係合油圧学習制御を禁止して上記学習パラメータAD、BD(sec)が用いられないので、前記係合油圧学習制御の精度が好適に向上させられる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、ハイブリッド車両の動力伝達装置10は、二つの電動機すなわち第1電動機MG1および第2電動機MG2を有していたが、例えば一つの電動機を有する1モータ式のハイブリッド車両の動力伝達装置に本発明を適用しても良い。
また、前述の実施例において、動力源42は、モータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン停止の4つの運転状態に切り替えられたが、動力源42は、少なくとも2つ以上の運転状態に切り替えられれば良く、必ずしも4つの運転状態に切り替えられる必要はない。また、前述の実施例では、4つの運転状態すなわちモータリング、エンジン負荷運転、エンジン無負荷運転、エンジン停止にそれぞれ油圧学習値マップが設けられていたが、それら4つの運転状態の少なくとも1つに油圧学習値マップが設けられれば良い。
また、前述の実施例において、学習パラメータA(sec)は、有段変速部22の変速制御が実行されてからイナーシャ相開始までの時間であったが、予め実験的に定められた所定のタイミングからイナーシャ相開始までの時間であっても良い。また、学習パラメータB(sec)は、第2電動機MG2の回転数NM2すなわち有段変速部22の入力軸である伝達部材20の回転数N20のアンダシュート或いはオーバシュートの時間であったが、そのアンダシュート或いはオーバシュートの大きさを学習パラメータBとしても良いし、そのアンダシュート或いはオーバシュートの大きさの積分値を学習パラメータBとしても良い。
また、前述の実施例において、係合圧学習制御部88では、前記係合油圧学習制御である前記アプライ油圧学習制御および前記ドレン油圧学習制御が実行されたが、前記係合油圧学習制御で前記アプライ油圧学習制御と前記ドレン油圧学習制御のどちらか一方が実行されても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。