以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
[第1実施例]
図1Aは、第1の実施例の指の血管を用いた生体認証システムの全体の構成を示す図である。尚、本発明はシステムとしてではなく、全てまたは一部の構成を筐体に搭載した装置としての構成であってもよいことは言うまでも無い。装置は、認証処理を含めた生体認証装置としてもよい。また、認証処理は外部の装置で行ってもよく、装置は、血管画像の取得に特化した血管画像取得装置又は血管画像抽出装置としてもよい。したがって、以下で説明する機能は、ネットワーク上に存在する複数の装置で構成されてもよい。また、装置は、後述のように形態端末として実施されてもよい。
生体認証システムは、入力装置2と、認証処理部10と、記憶装置14と、表示部15と、入力部16と、スピーカ17と、画像入力部18とを含む。
入力装置2は、被認証者の生体から生体特徴を含む画像を取得する装置である。入力装置2は、筐体に設置された光源3と、その筐体内部に設置された撮像装置9とを含む。画像入力部18は、入力装置2の撮像装置9で撮影された画像を取得し、取得した画像を認証処理部10へ入力する。認証処理部10は、画像入力部18から入力された画像に対して画像処理し、認証処理を実行する。
なお、認証処理部10の画像処理機能の部分、又は、この画像処理機能に画像入力部18を含めて画像処理部という場合がある。いずれにしても、認証処理部10は画像処理機能を備える。
光源3は、例えば、LED(Light Emitting Diode)などの発光素子であり、入力装置2の上に提示された指1に光を照射する。撮像装置9は、入力装置2に提示された指1の画像を撮影するものである。
図1Aに示すように、認証処理部10は、中央処理部(CPU:Central Processing Unit)11、メモリ12及び種々のインターフェイス(IF)13を含む。CPU11は、メモリ12に記憶されているプログラムを実行することによって各種処理を行う。メモリ12は、CPUによって実行されるプログラムを記憶する。また、メモリ12は、画像入力部18から入力された画像を一時的に記憶する。
図1Bは、認証処理部10の機能ブロック図を示す。認証処理部10は、認証部10aと、登録部10bとを備える。認証部10aは、画像入力部18から入力された入力データと、記憶装置14に登録されている登録データとを照合し、利用者の認証を行う。登録部10bは、入力装置2によって取得された画像から、登録データを作成し、記憶装置14内に格納する。
上述の認証処理部10の各処理部は、各種プログラムにより実現することができる。メモリ12には、例えば記憶装置14に格納されている各種プログラムが展開される。CPU11は、メモリ12にロードされたプログラムを実行する。以下で説明する認証処理部10を主体とする処理及び演算は、CPU11が実行する。
インターフェイス13は、認証処理部10と外部の装置とを接続する。具体的には、インターフェイス13は、入力装置2、記憶装置14、表示部15、入力部16、スピーカ17及び画像入力部18などと接続される。
記憶装置14は、利用者の登録データを予め記憶している。登録データは、利用者を照合するための情報であり、例えば、指静脈パターンの画像等である。通常、指静脈パターンの画像は、主に指の掌側の皮下に分布する血管(指静脈)を暗い影のパターンとして撮像した画像である。
表示部15は、例えば、液晶ディスプレイであり、認証処理部10から受信した情報を表示する出力装置である。入力部16は、例えば、キーボードであり、利用者から入力された情報を認証処理部10に送信する。スピーカ17は、認証処理部10から受信した情報を、音響信号(例えば、音声)で発信する出力装置である。
図2Aは、第1の実施例の生体認証システムの入力装置2の構造を説明する断面図である。図2Bは、入力装置2を上面から見た図である。入力装置2は、指先の皮膚の多層構造に含まれる生体特徴を撮影する。入力装置2は、各種機器を設置する筐体21を備える。図2Bに示すように、筐体21は円筒形状を有し、筐体21は、開口部22を有する。
開口部22には透明アクリル板23がはめ込まれ、指1の指先がその上に載置される。この透明アクリル板23が、以下で説明する指1の載置領域となる。
光源3は、筐体21の内側に具備されており、開口部22を通じて指1に向けて可視光を投影することができる。本実施例における光源3はLEDであるとし、1つのLEDの素子から青、緑、赤の3種類の波長の可視光がそれぞれ任意の強度で照射できるものとする。具体的な波長の一例として、青が450nm、緑が550nm、赤が620nmの波長を選択する。ただし、各波長のLED素子は一体となっていなくてもよい。またこれらの波長帯を含む連続的なスペクトルを持つ白色光源としてもよいが、波長ごとに個別に光量を調整できる方が望ましい。
本実施例では、4つの光源3が、撮像装置9の周囲に配置されており、開口部22を介して被写体(指先)を一様に照らすことができる。また、光源3の照射する光がアクリル板23に反射すると被写体が見えなくなるため、ここで示す4つの光源3を時系列的に点灯して被写体を連続撮影し、各画像をHDR(High dynamic range)技術により合成し、反射成分のない鮮明な被写体を獲得してもよい。
また、撮像装置9はカラーカメラであるものとし、可視光と赤外光の波長帯に感度を持つ複数の受光素子を有する。カラーカメラ9は、たとえば青(B)、緑(G)、赤(R)に感度を持つ3種類のCMOS又はCCD素子を有し、これらが画像の画素ごとに格子状に配置されている。また、赤に感度を持つ受光素子は近赤外にも感度を有する。カラーカメラ9は受光感度のピーク波長が異なる3つの受光センサを持つ。各受光センサの受光感度は、たとえば青で450nm付近、緑で550nm付近、赤で620nm付近に受光感度のピークを持つセンサから構成され、それぞれの波長の感度より、生体から放射された光の空間的な色分布を獲得できる。また、撮影されるカラー画像は、RGBそれぞれの色プレーンが独立に獲得できるRGBカラー画像形式であるとする。なお、撮像装置9は、3波長を超えるマルチスペクトルカメラであってもよい。また、撮像装置9には光源3の出力するすべての光の波長を透過し、それ以外の帯域を遮断するフィルタが備えられており、不要な迷光を遮断して画質を高めている。
以上の構成により、入力装置2は、複数の可視光を照射することで指先の皮膚内に存在する様々な生体特徴を撮影することができる。ここで、皮膚内の生体組織について詳述する。
図3は、体表付近の生体組織を説明するための皮膚断面の模式図である。皮膚は多層構造を成しており、大別すると表皮34、真皮層35、皮下組織36の3つに分類される。表皮34は最も外側の層であり、表面には凹凸が存在し、これが皮膚のしわとして観察される。特に指先における凹凸は指紋31として知られている。また、指の関節部や手のひらには、それぞれ関節紋、掌紋と呼ばれるしわが存在するが、この部分の表皮は薄く、真皮や更に深部の血液の赤色を呈する。また、表皮34の奥側にはメラニンを生成する細胞組織が存在し、白色、黄色、茶褐色などの皮膚の色を呈すると共に、しみやほくろといった不均一な紋様を形成する。
表皮34の奥に存在する層が真皮層35である。真皮層35は、線維芽細胞やコラーゲン、エラスチンなどの組織で形成され、その中には皮脂線、汗腺、神経、そして毛細血管32や静脈30が分布しており、場所によっては毛根も存在する。皮膚の赤み掛った色彩は、この真皮層35の毛細血管32により運ばれる血液によるものである。
最も奥に存在する層が皮下組織36である。皮下組織36には、比較的太い静脈30や動脈が存在すると共に、皮下脂肪が存在している。皮下脂肪は、脂肪細胞が一つの塊を成した小葉構造となっており、この塊を脂肪小葉33と呼ぶ。脂肪組織はこの脂肪小葉33が多層に重なり合い、その隙間を微小血管や静脈30が走行する構造となっている。すなわち、脂肪小葉33の存在する部分は血液が存在せず、その隙間にのみ血液が分布している。
一般的に、皮膚に対して赤外線を透過または反射させて撮影した映像には静脈パターンが暗い影となって観測される。これは、赤外線が血液中のヘモグロビンに強く吸収されるため、静脈30の部分の光量が低下することによる。一方、静脈30よりも浅い層には毛細血管32が存在しており、実際には毛細血管32による光の吸収も生じている。それにもかかわらず、毛細血管32の模様はほとんど観測されずに静脈30の模様だけが観測される。その理由は、静脈30が毛細血管32よりも相対的に太く、それに伴い光の吸収率も毛細血管32によるものより大きいためである。
これに対し、白色光などの可視光を透過または反射させてカラー撮影した皮膚の映像には、皮膚表面の凹凸による陰影や、表皮内のメラニンの白色あるいは黄褐色、真皮の毛細血管内の血液の赤、そして皮下組織36に存在する静脈30の青もしくは灰色など、皮膚内外に存在する様々な生体組織が呈する色彩が重畳された状態で観測される。特に表皮から真皮にかけての浅い皮膚層の色彩としては、血液が多く分布している部分は赤色を呈し、そうでない部分はメラニンの色素が支配的となって白あるいは黄色を呈する。
特に手指や手のひらにおいては、血液とメラニンによる皮膚の色彩は一様ではなく、不均一なまだら模様として観察される。これは主に血液の分布が不均一であることに起因する。血液の分布が不均一になる要因として、血管の走行の不均一性によるものと、血液が浸潤している層の厚みの不均一性によるものがある。前者に関し、真皮内の毛細血管32は極めて細く、照射光の散乱の影響もあってその模様はほとんど観測できず、ほぼ一様な赤色として観測される。よって、後者の影響が主な要因となる。
血液の浸潤する層が不均一となる理由のひとつとして考えられるものは脂肪小葉33の影響である。上述の通り、皮下組織36に存在する脂肪小葉33は脂肪の塊であり、その内部にはヘモグロビンを含まないため光の強い吸収は生じない。一方、脂肪小葉33の隙間には血液が充満しているためヘモグロビンを含む。よって、脂肪小葉33が存在する部分は真皮の毛細血管による光の吸収だけが生じ、脂肪小葉33の隙間の部分は真皮層35と皮下組織36の両方の血液の層による光の吸収が生じる。そのため、脂肪小葉33の分布の不均一性が血液の吸収率の差として観測される。また、脂肪小葉33が皮膚の奥から外に向けて真皮層35を圧迫し、脂肪小葉33が存在する部分の真皮内の血液量が低減する影響もある。これも同様に脂肪小葉33が存在する部分の血液による光の吸収量が低減し、その結果、不均一な模様として観察される。この2つの要因が複合して、脂肪小葉33の模様がヘモグロビンとメラニンとのコントラストとして観測される。ここでは、このコントラストを脂肪紋と呼ぶ。
脂肪紋は、皮膚表面に何も触れていない非接触な状態だけではなく、接触状態においても観測される。たとえば指先を透明なアクリル板に押し付けた時、圧迫の力加減によって血液の量が変化するため血液とメラニンの色彩の模様は変化するものの、脂肪小葉33の位置そのものは変化しないため、パターンとしての再現性は保たれる。したがって、圧迫の力加減による血流量の変動を吸収することができれば、パターンが同一なものであるかどうかを判定することが可能となる。
以上のように、皮膚では、指紋、ほくろなどのメラニン分布、脂肪紋、静脈、指関節など、多層に重畳した生体特徴が観測できる。これらの生体特徴は識別能力の高いものから低いものまで様々存在するが、少なくとも単体の認識成功率が0.5を上回るものであれば複数の生体特徴の融合により認証精度を高めることが可能となる。このような多層の生体情報を個人認証に活用する認証方式をマルチレイヤー生体認証と称する。この方式の利点として、(1)同時に多数の異なる生体情報が獲得できるため精度が高まる、(2)互いに重畳しているため位置補正用の情報として活用でき、さらに重なりの特徴を活用することでより精度が高まる、(3)脂肪紋などは密な特徴量であり、装置の小型化が実現しやすい、(4)偽造がより一層困難となる、などがある。
ここで、脂肪紋の情報を獲得する計測技術の一実施例を示す。図4は、上述の図2A及び図2Bで示した入力装置2を用いて脂肪紋を計測する処理フローの一例である。
まず、利用者が指1を入力装置2の載置領域に載せたことを検知する(S401)。この検知方法としては、タッチセンサを入力装置2の開口部22に具備してもよい。また、別の検知方法として、光源3を点滅させて画像を動画撮影し、光源3の点滅に同期して画像の輝度値の明暗が繰り返された場合は装置上部に被写体が存在すると判定してもよい。
次に、指1が入力装置2の載置領域にあるかを判定し(S402)、指1があると判定された場合は、LED(光源3)の青・緑・赤のそれぞれの波長の光を指に照射しながら光源3の照射強度を調整する(S403)。カメラ感度や光源3の出力強度の関係により画像の輝度値が飽和することがあるため、各波長で画像の輝度平均値が概ね一定になるように照射と撮影を繰り返し、光量値を収束させる。各波長の光量値が収束したら、その時の各波長の画像を撮影し、指表面のカラー画像を獲得する(S404)。入力装置2で獲得された画像は、画像入力部18を介して認証処理部10に入力される。
カラー画像として撮影された生体表面あるいは生体表面付近の内部組織の色彩情報には、指紋などの皮膚表面の凹凸や関節部分のしわなどの表皮34の情報のほか、表皮34に分布するメラニン色素、真皮層35に存在する毛細血管32、そしてその奥の皮下組織36に存在する脂肪小葉33や静脈30など、様々な深さに存在する様々な色特性を持った生体組織の反射像が含まれている。たとえば、指の腹側はヘモグロビンに起因する赤み掛った血液の色と、メラニンに起因する白、黄色あるいはほくろなどの黒色の模様が見え、さらに真皮層35あるいは皮下組織36に分布する比較的太い静脈30が青もしくは灰色に見える。このように、多波長の可視反射光を与えることで、様々な生体組織の色情報が重畳して1枚の反射画像として観測できる。
次に、認証処理部10の認証部10aは、撮影されたカラー画像を用いてメラニンとヘモグロビンの色素濃度の分布を計測する(S405)。ここで、脂肪紋の情報を獲得するためにメラニンとヘモグロビンの色素量を計測する理由について述べる。個人認証に用いることのできる、たとえば指紋や静脈などの生体特徴は、ヘモグロビンやメラニンをはじめとする基本的な生体組織により構成されている。また、生体組織の存在する位置や生体組織の厚さなどの違いによっても生体特徴としては異なる部位となる。たとえば真皮層35の毛細血管32と皮下組織36の静脈30は共にヘモグロビンから形成されているが、真皮層35の毛細血管32は赤く、皮下組織36の静脈30は青く見えることから生体特徴としては異なるものであることが把握できる。さらに、関節紋は表皮が薄くなって赤みを呈する部位であり、基本的には真皮層35の毛細血管32と同じヘモグロビンの色彩ではあるが、その他の皮膚の部分に比べて表皮の厚み(凹凸の有無)が薄い。そのため、関節紋は、メラニン量が僅かであるという点において、真皮層35の毛細血管32とは異なる生体特徴として捉えられる。このように、特に皮膚の生体特徴を撮影して抽出する上では、ヘモグロビンとメラニンの色彩の強度を解析することが重要であり、メラニンとヘモグロビンの色素濃度の分布を計測することで、指の内部の複数の生体組織が呈する色彩が重畳した状態を考慮した情報を得ることができる。
そこで、本実施例では、反射画像の色彩情報より表皮のメラニンと真皮のヘモグロビンの空間的な濃度分布をそれぞれ独立に獲得し、それらに基づいて脂肪紋の画像を高精細に再構成する。なお、以下の例では、脂肪紋の計測として、メラニンとヘモグロビンの色素濃度の分布を計測するが、上述したように、メラニンとヘモグロビンの色素濃度の計測は、他の生体特徴、たとえば指紋、ほくろやしみ、静脈、関節紋などの計測にも適用可能である。
メラニンの濃度とヘモグロビンの濃度を独立に獲得する手法の一実施例は次の通りである。まず、Modified Lambert-beer則によると、画像の座標(x,y)におけるヘモグロビン濃度をρh(x,y)、メラニン濃度をρm(x,y)としたとき、これらと画像の色情報Clog(x,y)との関係は以下の式(1)で示されることが知られている。
Clog(x,y) = -ρm(x,y)σmlm - ρh(x,y)σhlh- plog(x,y)1 + elog ・・・(1)
ここで、Clog(x,y)は画像の座標(x,y)におけるRGBのカラー画像の各色要素の画素値に対数を施した値を3次元ベクトルで表現した値、σh、σmはそれぞれヘモグロビンとメラニンの色ベクトル、lh、lmはそれぞれヘモグロビンとメラニンの存在する層に到達して反射する光の平均移動距離、plog(x,y)は座標(x,y)における影の強さ、1はノルムが1の3次元単位ベクトル、elogは照射光の強度である。色ベクトルとは、単位濃度の生体組織を反射撮影したときに得られるRGBの各輝度値のベクトルであり、たとえばその生体組織が完全な赤であれば3次元ベクトルの赤を示す要素のみ値を持ち、青と緑の要素がゼロとなる。この式によると、観測画像の輝度値は、その対数を取ることによってヘモグロビン濃度とメラニン濃度の線形結合で表わせることが示されている。
ここで、式(1)からヘモグロビンとメラニンの濃度を推定する手法について述べる。前提として、ヘモグロビンとメラニンの色ベクトルを既知とし、ヘモグロビンとメラニンに到達する光の平均移動距離をそれぞれ、平均的な真皮と表皮の層の厚みの和、表皮層の厚み、とし、バイアス項を無視すると、未知数はヘモグロビンとメラニンの濃度と影情報の3つとなる。このとき、撮影画像の色空間はRGBの3次元であることから、カラー画像を撮影することで3つの方程式が得られる。よって、これらを連立方程式として解くことにより、ヘモグロビンとメラニン濃度、そして影の情報の3つの未知数を画素ごとに計算することができる。ただし、バイアス項を無視しているためそれぞれの相対的な濃度分布の情報となる。
以上より、ヘモグロビン、メラニンの濃度の相対的な分布の情報、すなわちこれらの模様を得ることができる。また、陰影の情報も得られることから、皮膚表面の凹凸による光の減衰や拡散により観測できる指紋パターンも獲得することが可能となる。しかしながら、指紋パターンはその空間的なピッチが概ね一定であることから、上記の影のパラメータからその模様を獲得する必要はなく、ガボールフィルタをはじめとするエッジ強調フィルタの適用により強調して獲得してもよい。
図5A〜図5Cは、色空間から生体組織の濃度を算出する式(1)を説明するための模式図である。これらの図では、RGBの観測画像の輝度値の対数である3次元空間と、ある座標の輝度値として獲得された画素値とが式(1)の関係によって成り立つことが示されている。図5Aでは、ある画素の画素値Clogが、3次元空間の1点としてプロットされている。ここで、σh、σmがそれぞれ図5Bの通りであったとする。ここで、影の方向を示す1ベクトルに沿ってσhとσmが成す平面に投影すると、図5Cのように、ヘモグロビン濃度ρhの相対値とメラニン濃度ρmの相対値を読み取ることができる。
上述の方法では、式(1)に含まれるヘモグロビンとメラニンの色ベクトルσh、σmは既知であるとした。これらの値は、各生体の吸光・散乱特性、光源の波長、センサの分光感度特性によって決定される。よって、生体の吸光・散乱特性とカメラの特性とを事前に調べておくことで、既知のパラメータとして扱うことはできる。
しかしながら、実用面を考慮すると、事前にカメラ感度や生体の色特性などを調査した上で色ベクトルのパラメータを決定することは困難である。そのため、ヘモグロビンとメラニンの濃度分布は互いに独立であることを仮定した上で、各生体組織の色ベクトルと濃度分布の両方が未知なままブラインド信号分離を行う独立成分分析(Independent Component Analysis; ICA)に基づく計算方法が提案されており、この方法を利用してもよい。一方、この方法は両濃度分布に相関がないことが前提であること、また物理的に正しい分離が行われる保証がないことから、用途としては限定的となる。
そこで本実施例では、指先の接触を利用した、生体の実測値に基づく色ベクトルの推定を実施する。図6A〜図6Dは、上述の図5A〜図5Cで示した色空間における、多数の座標の画素値の変化から生体組織の色ベクトルを推定する方法の説明図である。
図2Aの入力装置2において指先をアクリル板23に押し付けると、通常は赤色を呈する皮膚表面がメラニンに起因する黄色あるいは白に変色する。これは、接触の圧力によって血液量が減少する一方で、圧力を掛けてもメラニンは減少しないことから、ヘモグロビンが呈する赤色のみ薄くなるために生じる。すなわち、指先でアクリル板23を押下したときの色情報の変化量を観測すると、その変化量からヘモグロビンが持つ色ベクトルを算出することができる。
図6Aは、指を押し付ける前の画素値60と、同じ座標における押し付けた後の画素値61の変化を示している。押し付けることにより血流が低減し、多くの画素値において色空間上で同じ方向に移動する様子が分かる。この移動方向はヘモグロビンの低減の影響によるため、図6Bに示すように、移動方向の平均値を求めることでヘモグロビンの色ベクトルσhを推定することができる。
ヘモグロビンの色ベクトルが既知となったため、もうひとつの生体組織であるメラニンの色ベクトルσmを推定する。この一手法として、押し付け前後において色空間上で変動した距離の大きい画素の上位から所定の割合だけ取り出し、そのデータの押し付け後の画素値を直線近似した結果をそのままメラニンの色ベクトルとする方法がある。この方法は、指先の圧迫によりヘモグロビンがほぼ消失した場所が存在することを前提とした推定方法であり、誤差を含む可能性はあるが実用的には十分な近似解を得ることができる。図6Cは変動の大きい画素値を上位半数だけ残した状態を示し、図6Dはそのときの押し付け後の画素値61より近似直線を獲得してメラニンの色ベクトルσmを獲得する様子を示している。このように、ヘモグロビンとメラニンの色ベクトルを推定することができるため、それぞれの濃度を算出できる。
上記のヘモグロビンの色特徴量の推定は物理的な変化を用いたものであるため、従来のICAに基づく手法に比べて信頼性の高い推定が可能となる。なお、上記で説明した推定方法は、指先でアクリル板23を押下したときの色情報の変化量を観測できれば利用できるため、指先を入力装置2のアクリル板23に接触させた又は押し付けたときの、少なくとも2つの異なる状態の画像が取得されればよい。
生体組織の色ベクトルを推定する別の方法として、生体特徴の形状に基づく推定方法を用いることもできる。この方法では、生体の形状より生体部位を推定し、その生体部位の色情報と一般的な生体部位が持つ生体組織の密度に関する事前知識から、生体組織の色ベクトルを推定するものである。たとえば、指の関節に見られる関節しわは、表皮が薄いためヘモグロビンに起因する赤色が周囲の表皮の色に比べて強く、メラニンに起因する色が薄い。よって指の関節しわの部分においては、ヘモグロビンの色特徴のみが強く表れ、メラニンの色特徴は少ないといえる。よって、指の輪郭線の形状より指の領域を特定し、そして指の方向と直交する赤みがかった線を関節しわとして位置を特定すれば、関節しわの部分の色情報をそのままヘモグロビンの色ベクトルとできる。このように、認証処理部10の認証部10aは、画像内の色情報から指の特定の部位を特定し、その部位の色情報をある色素の色ベクトルとみなしてもよい。この情報をもとに、認証処理部10の認証部10aは、ヘモグロビンの濃度分布の情報を得てもよい。
この方法は、上述の方法のように生体を圧迫することなく実施できるため、非接触の生体認証を実現する際に利用できるという利点を有する。なお、メラニンの色特徴量ついては、上述したように、ヘモグロビンの色特徴量が既知であるとして、ICAと同様の方法で推定してもよい。
上述のように獲得した生体組織の色特徴より、各画素においてヘモグロビンとメラニンとがどの程度の割合で存在しているかの情報を得ることができる。
図4の説明に戻り、最後に、認証処理部10の認証部10aは、脂肪紋画像の再構成を行う(S406)。この例では、獲得した生体組織の量から個人に特有な生体特徴として、脂肪紋画像を得る。
上述で得たヘモグロビンとメラニンのパターンは、生体同士が多層に重なり合って観測されても独立に推定できるものである。そのため、たとえば毛細血管32のパターンに重なって分布するメラニンのパターンも獲得される。よって、本来獲得したい生体特徴、ここでは脂肪紋であれば、ヘモグロビンとメラニンの分布をそのまま脂肪紋の情報として取得し、この情報をもとに再構成した画像を認証に利用することができる。上述したように脂肪小葉33が存在する部分によってヘモグロビンとメラニンの分布が不均一になり、その分布の模様を脂肪紋とみなして利用できるためである。同様に、関節紋についても、この部分のメラニン量が僅かであるという観点から、ヘモグロビンの分布をそのまま関節紋の情報として用いることができる。ここでの関節紋は、指の関節の部分であって、表皮34が薄くなって赤みを呈する部位を意味する。
ただし、脂肪紋と関節紋とを区別して抽出し、これらを同時に認証に利用する目的であれば、関節紋のメラニン分布が周囲より少ないという事前知識に基づき、脂肪紋と関節紋とを区別できる。つまり、ヘモグロビンの濃度分布の高い部分で構成される模様のうち、メラニンの濃度が相対的に高い部分が脂肪紋、低い部分が関節紋、として区別される。脂肪紋や関節紋だけでなく、たとえばほくろやしみなど他の生体特徴であっても、基本的な生体組織の組成比率が事前に把握できるのであれば、基本的な生体組織の濃度よりその生体特徴である確からしさを得ることができ、よりコントラストが高い生体特徴の画像再構成が実現できる。このように、認証処理部10の認証部10aは、S405で計測したヘモグロビンとメラニンの濃度分布の情報を用いて複数の生体特徴(ここでは、脂肪紋と関節紋)を区別して抽出し、画像を再構成してもよい。
また、ヘモグロビンとメラニンのコントラストを撮影するだけであれば、青あるいは緑の可視光を照射し、その反射光または透過光をカラーカメラ9で撮影してもよい。真皮に存在する赤い色を呈するヘモグロビンは緑あるいは青の波長で強く光を吸収し、黄や赤においては相対的に吸収率が低下することから、可視光で赤く見えるヘモグロビンのパターンの観測は、緑あるいは青の照射で十分である。ただし、透過光での観測は生体の厚みと光強度との関係により光が透過しにくく、手指の付け根の水かき部分や耳などの比較的薄い部分以外では強い光を照射する必要がある。一方、反射光による撮影では比較的弱い光量で観察できる。ただし得られた画像のコントラストが低い場合も多く、アンシャープマスクなどの強調フィルタを施すことで、脂肪紋あるいは関節紋などの毛細血管32に関わる生体特徴を鮮明に獲得できる。また同様に、赤の波長を照射することで深部に存在する静脈30を観測できる。それは、青や緑のような短波長の光では深部の静脈に到達できないためである。
このように、本来では複数波長の映像解析により混色した各生体組織を分離することでより鮮明な生体組織の観察が可能となるが、ここで示したように、観察したい生体組織に合わせて単色の可視光を照射するだけでも、一定の画質で撮影が可能となる。この方法では複雑な画像再構成技術が不要となるため処理コストを低減することが可能となる。
続いて、図2A及び図2Bに示した入力装置2を用いて上述の方法で撮影した生体特徴を精度良く照合する一手法について述べる。入力装置2は、指先を載置領域(透明アクリル板23)に置くことが前提となるため、指先での圧迫による脂肪紋の変動が生じる。よって、この変動にロバストな照合処理を実施することが高精度化には必須となる。
図7A及び図7Bは、押し付け方の違いによる脂肪紋の変化を説明する図である。図7Aは、指1が入力装置2の載置領域に軽く接触している場合の脂肪紋の模様を示した図である。図7Aでは、指1の押し付けが弱く、血液の消失が少ないことから、指先画像70に映っている脂肪紋のうちの血液模様71の部分が比較的大きく観測できる。
一方、図7Bに示す通り、押し付ける力が図7Aに比べて強い場合は、血液模様71が一部消失し、消失していない血液模様72と消失した血液模様73に分けられる。その理由としては、毛細血管32や脂肪小葉33の存在する位置、形、大きさ、深さなどの関係によって、圧力を強く掛けても消えにくい毛細血管32と容易に消えてしまう毛細血管32とが分布しているためである。一方、圧力を掛けても毛細血管32や脂肪小葉33の形状そのものは変わらないため、繰り返し指先を押し付けてその圧力を変えると、これまで見えていた血液模様71が消失したり、逆に消失した血液模様73が再び観測されたりすることもある。このように、パターンそのものは再現するが、置き方によって変動が生じる。また、脂肪小葉33の位置や形状などの要因により、常に血液模様が観測される場所もあれば軽い圧力でも消失しやすい場所もあると考えられる。すなわち、血液模様が観測される確率分布を定量化することが可能となる。
そこで、本実施例においては、これまでに血液の分布が観測できた場所と消失していた場所の統計を取ることで、血液模様の観測確率分布を計算し、これを照合の重みテーブルとして登録する。そして、照合処理においては、この重みテーブルを用いてテンプレートマッチングを行う。
図8は、照合処理に用いる脂肪紋の登録データの登録処理手順の一実施例である。なお、図8の処理を行う前に、入力装置2において複数のカラー画像が撮影され、これらの画像が認証処理部10に入力されているとする。重みテーブルは、指先でアクリル板23を押下したときの色変化を観測できれば作成できるため、指先を入力装置2のアクリル板23に接触させた又は押し付けたときの、少なくとも2つの異なる状態の画像が取得されていればよい。以下の処理の主体は、認証処理部10の登録部10bである。
はじめに、登録部10bは、脂肪紋の登録データを生成する(S801)。登録データは、脂肪紋の血液部分と血液でない部分の2値データとなるように、上述の手法により獲得したメラニンとヘモグロビン濃度の分布に対して閾値処理を行い、ヘモグロビンの濃度の高い部分を血液部、それ以外を非血液部の2値へと変換されたデータである。さらに、登録部10bは、複数回の指の撮影により得られた複数の画像を用いて、複数の同一指の脂肪紋の登録データを作成する。そして、登録部10bは、これらのうち任意の1枚を、登録データとして記憶装置14に保存する。登録データは、最初の1枚目や最後の1枚を選択してもよい。また、別の例として、撮影した複数の登録データ候補間で総当たり照合し、他の候補との類似性が最も高い結果となるものを登録データとして選んでもよい。また、登録データは、1枚の画像に限定されず、複数の画像を登録データとして保存してもよい。
次に、登録部10bは、重みテーブルを初期化する(S802)。重みテーブルは、血液の観測確率の分布であり、後述の照合処理で利用する。具体的な初期化方法は、まず上記で撮影した複数の登録データ候補のすべてを最も類似性が高まる位置に重ね合わせ、各座標の画素値が血液と分類された頻度を確率として保持する。たとえば5枚の登録データ候補を獲得したとき、全画像を照合して重ね合わせ、ある座標の画素が3枚のデータで血液部となった場合、重みテーブルにおいてその座標は3という値を保存することになる。このように、重みテーブルの全画素において血液部の頻度数を埋め、これを重みテーブルの初期値とする。また、重みテーブルを作成する際に統計を取ったデータ数である、統計データ総数も初期化する。たとえば5枚の登録データを利用した場合、統計データ総数は5に初期化される。つまり、重みテーブルの値を統計データ総数で除算すると、その画素における血液の観測確率となる。したがって、重みテーブルは、画像中の各画素と、その画素における血液の観測頻度とが関連付けられたデータとなる。最終的に、登録部10bは、初期化された重みテーブルを記憶装置14に保存する。
次に、脂肪紋の照合処理手順の一実施例を図9を用いて説明する。図9は、利用者から得た入力データと登録データとの照合手順の一実施例である。
はじめに、図2A及び図2Bに示す入力装置2によって、載置領域に置かれた利用者の指を撮影する(S901)。撮影された画像は、画像入力部18を介して認証処理部10に入力される。続いて、認証処理部10の認証部10aは、上述の手法に基づき、入力された画像から脂肪紋のパターンを獲得する(S902)。その後、認証部10aは、脂肪紋の入力データを作成する。ここでは、登録データの生成と同様、血液部とそれ以外の2値データに変換しておく。
次に、脂肪紋の入力データと脂肪紋の登録データとの照合を実施するが、ここでは重みテーブルを用いた重み付け照合を実施する(S904〜S905)。
ここで、重み付けによる脂肪紋のテンプレート照合の一手法を図10A〜図10Cで説明する。ここでは、図10Aの登録データ100が指の接触圧力が小さい状態で撮影されたものであり、図10Bの入力データ101が指の接触圧力が大きい状態で撮影されたものである。また、図10Cは、上述した重みテーブルに格納された観測頻度の分布の情報を2次元平面上の濃淡で示した図である。
一般的なテンプレートマッチングでは、登録データ100と、やや押し付け圧力の強い入力データ101の両データを重ね合わせ、位置や回転角をずらしながら最も一致する場所を探し、そのときの類似度を算出する。最も一致する場所の判定方法としては、両データを重ね合わせたとき、一方の血液部102ともう一方の非血液部103とが重なる相違画素の画素数を総和し、これを両データの血液部の総画素数で割った値を相違度とみなして、これが最も小さくなる重ね合わせ位置を探索する方法に基づく。そしてこのときの相違度を1から減算した値が両データの類似度を表す。
これに対し、本実施例のテンプレートマッチングでは、上述の相違画素の画素数と血液部102の総画素数の値を、重みテーブル104に基づいて変換する点が従来のテンプレート照合との相違である。まず、認証部10aは、上述の相違画素の画素数の重み付け合計値を、重みテーブル104を用いて計算する(S904)。
図10Cに示すように、重みテーブル104は、血液の観測頻度の高い部分105を濃い色で、血液の観測頻度が低い部分106を薄い色で、血液が出現しない個所を白い色で表わしており、その値は空間的に連続的に変化している。まず、登録データ100と入力データ101をある位置において重ね合わせ、さらに重みテーブル104を登録データ100に一致するように重ねる。そして、登録データ100と入力データ101とを重ね合わせた状態で、一方が血液の画素でもう一方が血液のない画素となる相違画素の数を数える。このとき、ある座標に対応する重みテーブル104に格納された値を前記の統計データ総数で割った具体値をWiとしたとき、従来は1画素と数えていたところ、本実施例においてはWi画素と数える。なお、Wiの値はその位置における血液部の出現確率を表しているから、0≦Wi≦1となる。
次に、認証部10aは、上述の相違画素の重み付け合計値を用いて、相違度を算出する(S905)。血液部の総画素数を数える際も同様に、同じ座標の重みテーブルの値から血液部の出現確率を計算し、この値を加えていく。そして最後に、重み付けられた相違画素数を、重み付けられた血液部の総画素数で割ることで、相違度を算出する。
次に、認証部10aは、類似度の大きさによって入力データ101と登録データ100とが一致しているかを判定する(S906)。類似度は、例えば、相違度を1から減算した値である。一致するかの判定は、例えば、類似度が所定の閾値を超えるかどうかで行うことができる。
類似度が高いと判定された場合は認証成功となり(S907)、所定の認証処理を実施する。そして、認証部10aは、重みテーブル104を更新(S908)し、認証処理を終了する。重みテーブル104の更新は、現時点の重みテーブル104、統計データ総数、認証が成功したときの入力データ101、の3つを用いて実施する。つまり、登録データ100と最も類似度が高まる重なりの位置において、入力データ101の血液部102となる画素に対応する重みテーブル104の値を1つインクリメントすると共に、統計データ総数も1つインクリメントする。これにより、血液の出現頻度が更新される。なお、重みテーブル104の更新は、入力中に押し付けている最中の映像を動画的に複数枚撮影し、これらから画素ごとに血液の観測される頻度を算出してもよい。
一方、類似度が所定の閾値より小さい場合は不一致となり、認証部10aは、指の撮影を開始してからのタイムアウトを判定する(S909)。タイムアウトでなければ再び指の撮影に戻り、タイムアウトであれば認証失敗となり(S910)、認証処理を終了する。
このように、相違画素数に血液の観測確率の重みを考慮することで、押し付け圧力によって変動しやすい部分の相違はほぼ無視でき、安定して観測されるパターンの相違はより大きなペナルティとして評価されるように照合処理を実施できる。これにより、押し付けによるパターンの変動の有無を吸収しながらパターンの形状の類似度を評価することが可能となる。
また、上述の照合手法は、登録データ100と重みテーブル104を別途持たせているが、重みテーブル104は血液のパターンを反映している情報であるため、登録データ100を保持せずに重みテーブル104を登録データ100と見なして照合することもできる。しかしながら、重みテーブル104は徐々に更新されていくため、意図的に僅かにパターンを変化させることができるならば、最終的に別パターンに差し替わってしまう可能性もある。そこで上述のように、重みテーブル104とは別に登録データ100を持たせ、これを基準に照合する方法が安全である。また、統計データ総数が十分大きい値となったときに、登録データ100は非血液部だが重みテーブル104には高い頻度で血液部が出現しているという画素がある場合、登録データ100の該当する画素の非血液部を血液部に変更してもよい。これは、登録データ100を生成する際に血液部が欠落している場合もあるため、この変更により真のパターンを反映した登録データ100を作成することが可能となり、認証精度を高めることができる。
なお、上述の実施例ではテンプレートマッチングをベースとした照合処理について説明したが、たとえば端点や分岐点や屈曲点を抽出してその周辺の輝度勾配などの情報によって照合を行う、特徴点マッチングをベースとした照合手法においても、同様の重みテーブルを用いて押し付けの変動にロバストな処理を実現できることはいうまでもない。
本実施例によれば、狭い範囲から人を特徴付ける多様な生体特徴の情報を取得し、高精度に認証を行うことができる。指先などの狭い範囲から、複数の生体組織が呈する色彩が重畳した状態を考慮した情報を抽出できるため、小型で使い勝手が良い、高精度な生体認証装置を提供できる。
[第2実施例]
図11は、第2実施例である、脂肪紋と指静脈とを用いた生体認証装置の一実施例である。入力装置2の筐体21には、指1を置くための指置き台113が設けられている。本実施例では、指を開口部22のアクリル板23に接触させない状態で画像を取得する。
また、入力装置2の筐体21には、光源支持部112が設けられている。光源支持部112は、指1の載置領域の上方に延びるように設けられており、光源支持部112には、近赤外の透過光源110が取付けられている。近赤外の透過光源110は、指1の手の甲側を照射するように設置されている。
筐体21の内部には、可視光の反射光源111が具備され、反射光源111は指1の手のひら側を照射する。撮像装置9は一般的なカラーカメラであり、近赤外線はカラーカメラ9の赤に感度のある受光素子によって受光される。これにより、透過光源110の光を透過した映像から指静脈パターンが、そして反射光源111の光を反射した映像から脂肪紋パターンが得られる。ただし、反射画像から得られる生体特徴は脂肪紋に限らず、指紋、関節紋、メラニン分布などを組み合わせられることは言うまでもない。
図12は、本実施例の認証処理システムにおける、脂肪紋と指静脈とを用いた認証の一実施例の処理フローである。なお、以下の認証処理の前提として、記憶装置14には、利用者の指静脈パターン(たとえば、図14Aのパターン)と脂肪紋パターン(たとえば、図14Bのパターン)とがそれぞれ登録データとして記憶装置14に格納されているとする。
まず、利用者が入力装置2の載置領域に指1を置くと、透過光源110が点灯すると共に反射光源111が消灯する。そして、カラーカメラ9によって赤外透過画像を撮影し、指静脈の画像を得る(S1201)。続いて、透過光源110を消灯した上で反射光源111が点灯し、カラーカメラ9によって、可視光の反射画像を撮影して脂肪紋の画像を得る(S1202)。ここで得られた指静脈の画像及び脂肪紋の画像は、画像入力部18を介して認証処理部10に入力される。
なお、これらの光源を同時に点灯しない理由は、赤外透過光と可視反射光は共に赤の波長に感度のある受光素子に反応するため、透過光と反射光を同時に受光すると赤成分の受光素子に到達した赤外光と赤色光とを分離できなくなるからである。そのため、これらの光源を瞬時に交互点灯する。すなわち、透過光を点灯した時と反射光を点灯した時の赤成分に感度を持つ受光素子は、それぞれ、赤外透過光、可視反射光を撮影することになる。このように、赤外光と赤色光の点灯を瞬時に切り替えながら時分割で受光することで、ほぼ同時刻の赤外透過画像と可視反射画像を一つのカラーカメラ9で受光できる。ほぼ同時刻の映像であるため、両画像における指の位置ずれはないものとみなせる。
なお、このカラーカメラ9を赤外波長に感度を持つセンサを具備したものに置き換える、あるいはプリズムなどで波長ごとに分光して受光したりする可視光・赤外カメラに置き換えれば、同時に赤外光と可視光を受光できることはいうまでもない。
次に、認証処理部10の認証部10aは、撮影した赤外透過画像と可視反射画像より、それぞれ指静脈のパターンと脂肪紋のパターンを抽出する(S1203)。指静脈の抽出に関しては、一般的に知られている方法として、たとえば血管をマッチドフィルタやガボールフィルタで強調する方法や、血管の中心位置を検出するフィルタ処理などによって静脈パターンを獲得する。また、脂肪紋に関しては前述の実施例に記載の方法を用いることができる。なお、可視反射画像からは脂肪紋だけではなく、指紋や関節紋を同時に抽出してもよい。また、指輪郭が撮影できる場合においては、指輪郭に基づいて指の位置ずれ量を正規化してもよい。このような他の生体特徴を利用することにより、位置ずれにロバストな照合が実施できたり、認証精度を向上させたりすることが可能となる。
続いて、認証部10aは、登録された指静脈パターンと脂肪紋パターンに対し、入力された指静脈パターンと脂肪紋パターンを照合する(S1204)。そして、認証部10aは、両方の生体特徴の照合結果より、登録データと入力データの相違度を算出する(S1205)。照合処理と相違度の算出の具体的な実施例については後述する。
そして、認証部10aは、相違度を事前に設定された閾値と比較し、両データが一致するとみなせるかを判定する(S1206)。登録データと一致しているとみなせる場合は認証成功となり(S1207)、認証成功時の処理を実施して終了する。一方、一致ではないと判定された場合は指1の撮影開始からタイムアウトが生じているかどうかを判定し(S1208)、そうでなければ、入力装置2による指1の撮影に戻る。もしタイムアウトであれば認証失敗となり(S1209)、認証処理を終了する。
ここで、指静脈と脂肪紋の照合処理と相違度の算出の一実施例について述べる。図13A〜図13Cは、それぞれ撮影された指静脈と脂肪紋のパターンの模式図を示す。
図13Aは、指の赤外透過画像130である。指の赤外透過画像130は、透過光源110の光が透過した指が映っており、ここには指静脈132が映し出される。図13Bは、指の可視光反射画像131である。指の可視光反射画像131には反射光源111を照射したときの指が映っており、その中には脂肪紋133が分布している。
脂肪紋133は細かい斑点状の紋様を呈し、また指静脈132は線状の紋様を呈する。また、脂肪紋133と指静脈132は皮膚内の異なる層の生体特徴であるため、図13Cに示すように、指静脈132と脂肪紋133の合成画像134を作成する。合成画像134に示すように、脂肪紋133と指静脈132はそれぞれが重畳することがある。その部分では脂肪紋133の斑点状の模様は指静脈132の線に重なって観測される。この両方のパターンは独立に獲得できるため、それぞれを独立に照合することもできるが、両者の重なり方を利用して照合した方がより高い認証精度を得ることができる。ここでは、その手法に関する2つの実施例について記載する。
一つ目の実施例は、指静脈132を特徴点に基づいて照合する際、脂肪紋133の紋様の位置から特徴点を抽出する方法である。
指静脈パターンについては、たとえばSIFT(Scale-invariant feature transform)などの特徴点や、あるいは指紋のマニューシャに相当する情報を用いることで、位置ずれや変形にロバストな照合を実現できるが、このとき指静脈132の形状として特徴的となる部分を自動検出することになる。指静脈132の特徴的な部分としては、端点、分岐点、屈曲点が安定して検出できる。しかしながら、たとえば指紋などの細かい線パターンにより構成される生体特徴の分岐点や端点の数に比べると比較的少ない。また、静脈の分布しない部分の面積も比較的大きく、疎なパターンであることも多い。よって、指静脈パターンだけからは多数の特徴点が抽出できず、認証精度が劣化する問題が生じやすい。そこで、脂肪紋133の斑点状のパターンを活用すれば、指静脈132の特徴量を相対的に増やすことができる。
具体的な処理手順は次のとおりである。以下の処理の主体は、上述の通り、認証部10aである。図14A〜図14Eは、脂肪紋133と指静脈132の特徴量を組み合わせた特徴点照合方式を説明する模式図である。
まず、図14Aに示すように、認証部10aは、指静脈132の透過画像から指静脈パターン画像140を作成する。また、図14Bに示すように、認証部10aは、脂肪紋133の反射画像から脂肪紋画像141を作成する。
次に、図14Cに示すように、認証部10aは、指静脈パターン画像140の中から静脈の分岐点、端点、屈曲点などを検出し、図中では実線の丸印で示される指静脈132の特徴点143を得る。同様に、図14Dに示すように、認証部10aは、脂肪紋画像141から脂肪紋の斑点状の模様の中心位置を検出し、図中の破線の丸印で示される脂肪紋の特徴点145を得る。
最終的に、図14Eに示すように、特徴点143を得た指静脈パターン画像140と、特徴点145を得た脂肪紋画像141とを重ね合わせることにより、指静脈と脂肪紋の特徴点合成画像146を得る。これらの点を特徴点と見なし、上述のSIFTやマニューシャに基づく特徴点照合を実施する。このとき、特徴点の分類として、指静脈の特徴点143、脂肪紋の特徴点145のほか、指静脈のパターンに脂肪紋の点状の模様が重なったものを第三の特徴点と見なしてもよい。一般的に、マニューシャによる特徴点照合においては、その特徴点が端点か、あるいは分岐点かなどを分類することにより、誤対応を減らすことが行われるが、本実施例においても静脈か、脂肪紋か、静脈上の脂肪紋か、といった異なるラベルを付与することができる。より詳細には、本実施例では、特徴点を、生体特徴の種類及び特徴点の種類の観点で分類し、例えば、静脈上の端点、静脈上の分岐点、静脈上の屈曲点、脂肪紋、静脈上の脂肪紋のようなカテゴリーに分類できる。
特徴点が獲得できれば、それぞれの特徴点の周囲の特徴量を静脈と脂肪紋とでそれぞれ記述し、照合を行うことができる。特徴量としてはSIFTをはじめとする画像の輝度勾配特徴を用いることができる。認証部10aは、照合の際、同じカテゴリーに分類された特徴点同士の特徴量の類似度を計算する。そして、全特徴点のうち、類似したと判定できる特徴点の数の比率により、両データの最終的な類似度を得ることができる。
以上の処理により、従来では指静脈の特徴点として得ることができない部分(たとえば静脈が直線に走行している部分)などにおいても特徴点を得ることができるため、特徴量が増加し、指静脈の認証精度を高めることができるようになる。
二つ目の実施例は、脂肪紋と指静脈とを独立に照合する際、一方の照合で検出したパターン間の位置ずれ量を、もう一方の照合に活用するものである。
実運用の際、登録時の指の位置と認証時の指の位置は僅かに異なることが多い。そのため、一般的な指静脈の照合処理においては、登録データと入力データとを重ね合わせた上で位置をずらしながらパターンを比較し、パターンが最も類似する位置がその指の位置ずれ量であると推定する。これにより、位置ずれを含むデータ間の照合が正しくできることになる。
しかしながら、異なるパターン同士の照合の際も同様にパターンの類似性が高まる場所を探すことになるため、本来ならば類似性が低い別指パターン同士の照合においても類似性が高まってしまう傾向があった。これは、本質的な指の位置ずれ補正をする代わりに、パターンの類似性に基づいて位置ずれ量を推定しているために生じるものである。一方、真の指の位置ずれ量を検出するために、たとえば指の輪郭情報など、指の位置を特定できる情報を利用する方法もある。しかしながら、この方式では認証装置によっては指の輪郭が撮影できない場合もある。また、指の輪郭情報は2次元情報として獲得されるものであるが、実際の指のずれは3次元的に発生する場合もあり、2次元情報としての輪郭の位置を合わせても指のずれを正しく補正できるとは限らない。そのため、指の輪郭から指の絶対的な位置を特定することも困難であった。
この課題を解決するために、本実施例では、脂肪紋と指静脈とを独立に照合し、一方のパターンで類似性が最も高くなる位置ずれ量を算出したのち、もう一方のパターンで類似度を判定する。この手法を図15を用いて説明する。以下の処理の主体は、上述の通り、認証処理部10の認証部10aである。
まず、認証部10aは、登録された指静脈パターン150と入力された指静脈パターン151を重ね合わせ、静脈パターンが最も一致する位置ずれ量を探索する。次に、認証部10aは、その探索位置を利用し、その位置ずれ量の状態で登録された脂肪紋152と、入力された脂肪紋153とを重ね合わせて照合し、脂肪紋の類似度を算出する。ただし、このとき位置ずれ量の探索の誤差が含まれることを考慮し、脂肪紋を照合する際に僅かに位置をずらし、そのなかで最も類似度が高い結果を最終的な脂肪紋の類似度として獲得してもよい。
その後、指静脈での処理と脂肪紋での処理とを入れ替える。上述と同じように、認証部10aは、登録された脂肪紋152と、入力された脂肪紋153とを重ね合わせ、脂肪紋で類似性が最も高くなる位置ずれ量を求める。次に、認証部10aは、その位置ずれ量において、登録された指静脈パターン150と入力された指静脈パターン151を重ね合わせ、指静脈の類似度を算出する。最後に、認証部10aは、指静脈の類似度と脂肪紋の類似度を平均する、あるいは所定の重みに従って線形結合する、などの方法により、指静脈と脂肪紋の2つの類似度を合成し、最終的な類似度あるいは相違度を獲得する。
本実施例の方式においては、指の位置ずれ量の推定に用いる特徴量と類似度を算出する特徴量とが別の情報であるため、従来の課題である位置ずれ量の推定により別指同士の類似度が低下するという問題を回避しながら、位置ずれが生じている指同士の類似性を正しく判定することが可能となる。
図16A〜図16Cは、指静脈132と関節紋との重なり部分をコード化して認証する処理を説明する図である。
関節紋は、手などの関節部にある皮膚のしわのことであり、表皮層や皮下組織が周囲より薄くなっている。関節紋の位置はほぼ不変であり、またその形状も指によって異なることから、位置ずれに頑健な認証に活用できる生体特徴の一つである。なお、以降で取り上げる関節紋は、指の手のひら側の指先に最も近い関節部分にあるしわであるとする。
関節紋はその表皮が薄いことから、メラニンに比べてヘモグロビンの色彩が優位となる部位である。ヘモグロビンの色を呈する部位であるため、図11にて示した反射光と透過光を用いた認証装置では、脂肪紋だけでなく関節紋も撮影できる。このとき反射光を用いたヘモグロビンとメラニンの濃度分布の獲得手法において、ヘモグロビン濃度がメラニン濃度に比べて多い場所を関節紋の位置として特定できる。また、関節紋の奥側には指静脈132が走行しているが、これも図11の透過光を用いてその模様を撮影できる。
図16Aは、入力装置2によって取得された指静脈と関節紋の重畳映像160を示す。重畳映像160において、指静脈132は指の長手方向に沿って走行する血管が支配的であり、その一方で関節紋161は指の長手方向とは直交する方向に走行することから、指静脈132と関節紋161とは概ね直交する。
そこで、図16Bに示すように、認証処理部10の認証部10aは、静脈パターンと関節紋とを上述の手法で抽出し、両パターンを重畳した画像162を作成する。このとき、指静脈132と関節紋161との交差点163は指によって固有の特徴量となる。また、関節紋161は指の表面の模様として鮮明に観測できる上に、ほとんどの指でほぼ同じ位置に存在するため、その位置を一意に特定しやすく、指の位置がずれた場合でも検出しやすいという特徴を持つ。また、指静脈132に関しても、関節紋161の位置は表皮が薄いため鮮明に観測できるという利点を持つ。ただし、関節紋161は複数あったり屈曲したりする場合がある。そのため、認証部10aは、関節紋161を最小二乗法により直線近似する。さらに、もし複数の関節紋が観測された場合、認証部10aは、最も指先に近い関節紋を利用するか、あるいはすべての関節紋の近似直線を獲得するなどにより、関節紋の近似直線を一意に決定する。
次に、認証部10aは、関節紋161の近似直線と指静脈132の交差点163を一次元の2値コード164に変換する。関節紋161の近似直線に沿って、1画素ずつ、その点が指静脈132と交差しているかを調べ、交差していない場合は0、交差している場合は1のいずれかをコードとして割り当て、上から下に向けてコードを埋め、全体として2値コード164を作成する。2値コード164の白い部分が指静脈132と交差している部分を表し、黒い部分がそれ以外の部分を表す。この例では、2値コード164の黒い部分が0、白い部分が1に割り当てられたビット列である。2つの交差点の間の距離が大きいほど、その間に挿入される0のビット列が長くなる。また、交差している点の静脈の幅が広いほど1のビット列が長くなる。
この2値コード164のビット列の長さは、上述のように撮影した画像の画素に対応させて1画素につき1ビットとして割り当ててもよく、ビット列をある係数だけ拡大・縮小したスケールに変換してもよい。ただし、指静脈132の幅は変動する可能性があるため静脈幅の正規化を実施することにより安定性が高められる。つまり、指静脈132の中心線を検出しておき、その中心線を一定の幅に太らせる処理を行ったうえで関節紋161の近似直線との交点を交差点163として獲得する。このようにすれば、1のビット列の長さはすべての交差点に対して同じとなる。以上のように、関節紋161と指静脈132との相対的な位置は不変であるため、関節紋を検出することができれば、スケールによる相違は生じるものの、この2値コードはほぼ位置に不変な情報として獲得できる。
この2値コード164の照合処理の一例を示すと次のようになる。図16Cは、2値コードの照合処理を説明する図である。認証部10aは、入力された画像から得られた2値コード164と、上記と同様の手法で予め登録しておいた登録データである2値コード166とを照合し、類似度を算出する。一般的に2値コード同士の類似度の算出方法は、基本的にハミング距離やユークリッド距離に基づく方法を適用できるため、登録されている2値コードと入力された2値コードとの間の距離を相違度とみなすことができる。
ただし、指が中心軸に対して3次元的に回転した場合は図の上下方向に2値コード164がシフトする可能性がある。そのため、図16Cの矢印で示すように、例えば、入力データである2値コード165を1ビットずつ上下方向にずらしながら、登録データである2値コード166を比較し、両方の2値コード165、166が最も類似する結果を最終的な類似度として獲得する。また、指の拡大率が異なる場合もあるため、登録データの2値コード166のスケールを空間的に何通りか伸縮させ、すべてのデータとの照合を実施した上で最も類似度の高い結果を最終結果とする。あるいは、伸縮に対応できるDP(Dynamic programming)マッチング法により、拡大の変動にロバストな照合処理を実施してもよい。
また、指輪郭が撮影できる場合は、関節紋161を直線近似したときの延長線と指輪郭線の交点が一定の画素数になるように画像の拡大率を正規化した上で2値コードを生成してもよい。これが可能であれば2値コードのスケールの伸縮を考慮する必要がなく、処理が簡略化できると共に高速化や高精度化にも寄与する。
本実施例によれば、指の位置ずれが生じた場合においても位置を補正あるいは検知することができ、小型で利便性に優れた認証精度の高い生体認証装置を提供することができる。
また、本実施例により、指の位置ずれに不変な認証を実施することが可能となる。さらに、位置ずれに不変なコードを生成する技術は、たとえば暗号化した状態でパターン同士の類似度を算出するといった、セキュアな生体認証システムの構築や生体情報の管理にも応用できることが知られており、たとえば公開鍵基盤をバイオメトリクスのデータで実現するための、テンプレート公開型生体認証基盤(PBI; Public Biometric Infrastructure)技術に応用可能である。
なお、上記の図12の例では、重みテーブルを用いない認証処理のみを説明したが、第1実施例の内容を本実施例に組み入れて、重みテーブルを用いた認証処理も行ってもよい。
[第3実施例]
図17A及び図17Bは、第3の実施例である生体認証装置の一実施例である。本実施例の生体認証装置は、上記の第1実施例に適用可能な構成であり、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末に実装される。この例において、携帯端末は、入力装置として、反射光照射用の可視光源とカラーカメラとを具備する。
上述した入力装置2がスマートフォン170の筺体に搭載されている。入力装置2は、スマートフォン170のメインボタンを兼用しており、入力装置2を押下することでスマートフォン170の様々な操作を行うこともできる。
生体認証を行う場合、利用者は指1を入力装置2の上部の載置領域に接触するように置く。このとき、画面171に指を置く旨を表示することもできる。生体情報の撮影に関し、スマートフォン170などの小型端末に搭載できる入力装置2の大きさを鑑みると、入力装置の開口部22は指先より小さくなることが多く、よって撮影できる生体の面積は限定的となる(図17B)。たとえば入力装置2の開口部22の大きさが直径10mmの円であれば、指先の直径10mmの範囲が撮影できる。しかしながら、指先の面積はそれよりも広いことが多く、指先全体の情報を撮影することができない。これに対し、指先を中空に浮かせた非接触の状態で指先全体を撮影すれば、カメラの画角に指先すべてを映し出すことができる。
非接触で指先を中空に提示させる一般的な方法として、たとえば指の位置をカメラで撮影しながら目的となる指の位置をスマートフォンの画面に表示し、利用者はそれに合わせて指先を微調整する方法がある。しかし、この方法では、片手操作が難しいことや、位置合わせが直感的にやりにくかったり位置合わせに時間が掛かったりなどで疲労を起こすなど、操作性の低下が生じやすい。
そこで、本実施例では、はじめに指1を所定の載置領域に置き、その位置で指1をタップ操作させるインターフェイスにより操作性を高める。図18A及び図18Bは、指1をタップすることで認証を行うスマートフォン170用の指先認証装置の操作の一実施例である。
なお、本実施例では、上述した画像入力部18及び認証処理部10などの構成要素は、スマートフォン170にインストールされたソフトウェアとして実装されている。なお、これらの構成要素は、スマートフォン170とは別の外部の認証装置で実装されてもよく、スマートフォン170内の入力装置2で取得した画像をネットワークを介して外部の認証装置に送信し、その外部の認証装置で認証処理を実行してもよい。
まず、認証部10aは、スマートフォン170の画面171に「指をセンサに置いてください」と表示する。利用者はこれに合わせて親指180を入力装置2の載置領域上に置く。ただし、本実施例では、図17A、17Bないしは図18A、18Bに示す位置に入力装置2があるため親指180を載置領域に置くものとしたが、親指に限定されるものではない。たとえば、スマートフォン170の背面側に入力装置2を設け、人差し指ないしは中指を入力装置2に置かせるようにしても同様の操作性が実現できる。
次に、認証部10aは、スマートフォン170の画面171に「タップを開始してください」というガイダンスを表示する。これに合わせて利用者は親指180で入力装置2の開口部22の位置(載置領域)をタップする。タップ操作とは、所定の位置を指先で軽く叩く操作である。このとき、指先は宙に浮いたり装置に接触したりと上下に動くことになる。本実施例においては、入力装置2の開口部22を数回タップすることになる。図18Bには、中空に浮いている親指181が描かれている。利用者は、親指180を入力装置2の開口部22に接触させる動作(図18A)と、親指181を入力装置2の開口部22から浮かせる動作(図18B)とを繰り返す。
タップ操作の利点としては、はじめに指先を入力装置2に合わせて置く際の置き場所は容易に把握できるため置き場所で迷いにくいこと、タップ操作は指の移動範囲が限定されるためその軌道があまり大きくぶれないこと、さらには指の長さが一定であるため指を最も遠ざけたときの距離は概ね一定になるため拡大率が安定すること、片手操作が可能であること、などがある。
タップ操作中は、入力装置2内の可視光の光源3を親指に向けて照射し続けながら、カラーカメラ9により動画的に親指の反射光を撮影する。本実施例においては、脂肪紋が比較的鮮明に観測でき、かつ処理を簡単にするため、可視光源の波長を緑に限定し、撮影したカラー画像のうち緑のプレーンのみを利用するものとする。この利点は脂肪紋が観測しやすいだけでなく、色が緑に限定できるため指の領域を識別しやすいこともある。指がカメラに接している状態では画面全体が輝度飽和するが、指がカメラから遠ざかると指先全体が画角に入り、さらには周囲の背景画像も映り込む。タップした指が最も遠ざかった時点が最も指先が小さく見え、そして再びカメラに接近し、最後は指でカメラを覆う状態に戻る。この状態を数回繰り返す間にタップをしている最中の動画像が得られる。この動画像は、画像入力部18を介して認証処理部10に入力される。認証処理部10の認証部10aは、この動画像から、適正と判断できる指先の画像を抽出する。
適正と判断できる指先の画像は、指のぶれが少なく、指先全体が撮影できている状態が望ましい。この状態は、タップ中で最も指先が入力装置2から離れた状態であると考えられる。照射している緑の光源3が指先に照射されたときの画像上の面積が小さくなっているときに指が最も遠ざかっていると推定できる。そのため、動画像の各フレームの画像に対し、緑成分が強い画素値を持つ画素のうち、空間的に連続している画素の画素数を算出し、それを時系列に並べた時の最小値となるフレームを指が最も遠ざかったときの画像として獲得できる。指が最も遠ざかっている状態は、指の移動速度が最も遅いため、映像のぶれが少なく、安定した画像を得ることが可能となる。もしくは、空間的に連続している緑成分の強い画素の数が所定の範囲にあるときの画像を最適画像として獲得してもよい。また、数回タップを促すことから、適正と判断した画像が複数枚得られることになる。ここではこれらすべてを認証に用いるものとする。
指画像の撮影が完了すると、認証部10aは、その画像から指先の領域を切り出す。指先は緑の光源3が照射されているため、緑色で連続した画素の塊を指先と見なす方法で実施できる。あるいは、グラフカットなどのセグメンテーションに基づいて指先の領域を決定してもよい。
続いて、認証部10aは、指先の領域内に存在する脂肪紋の模様を抽出し、そして照合を行う。この処理は上述の通り、アンシャープマスク処理による脂肪紋の強調処理と、脂肪紋の照合処理手法を利用することができる。ただし、複数枚の指先画像が得られているため、認証部10aは、複数枚の登録画像と複数枚の入力画像の総当たり照合を実施し、最も類似度が高い結果を最終的な類似度を算出する。この類似度が事前に決定した所定の値を上回る場合に、登録された指が提示されたとして認証を成功させる。その結果、たとえばスマートフォン170のロック解除やネットショッピングの際の本人確認が自動的に実施できる。
なお、指先の脂肪紋を活用するだけではなく、反射画像から指紋などの他の生体特徴を抽出して併用してもよい。これにより、より認証精度を高めることができる。
本実施例によれば、スマートフォンなどの小型の携帯端末において使い勝手が良い、高精度な個人認証を実行する生体認証装置を提供することができる。特に、生体を提示する際の自由度が高く保ちつつ、高精度な個人認証が可能である。
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
例えば、重畳して存在する複数の生体組織に関する情報を獲得するという観点において、本発明は、認証部を備えていない画像撮影装置として実施されてもよい。当該画像撮影装置は、指が載置される載置領域と、指に光を照射する少なくとも1つの光源と、光源からの光を撮影して少なくとも1つの画像を取得する撮像部とを備える。撮像部は、指を載置領域に接触させた又は押し付けたときの、複数の異なる状態の画像を取得してもよい。これにより、重畳して存在する複数の生体組織に関する情報を獲得することが可能となる。また、上述した実施例と同様に、撮像部は、透過光源による第1の画像と、反射光源による第2の画像を取得するように構成されてもよい。さらに、上述した実施例と同様に、撮像部は、指で前記載置領域を叩く操作中に複数の画像を取得するように構成されてもよい。なお、認証処理以外の上述した画像処理部の機能の一部又は全部が、適宜、当該画像撮影装置に実装されてもよい。
上記各構成、機能、処理部等は、それらの一部や全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
上述の実施例において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。