以下、本発明の実施の形態による減衰力調整式緩衝器の制御装置を、鉄道車両に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図1ないし図7は本発明の第1の実施の形態を示している。図1及び図2において、鉄道車両1(車両)は、例えば乗客、乗員等が乗車する車体2と、車体2の下側に設けられた前側及び後側の台車3とを備えている。これらの台車3は、車体2の前部側と後部側とに離間して配置され、各台車3にはそれぞれ4個の車輪4が設けられている。鉄道車両1は、各車輪4が左,右のレール5(一方のみ図示)上を回転することにより、レール5に沿って走行駆動する。
各台車3と各車輪4との間には、車輪4(輪軸)からの振動や衝撃を緩和する軸ばね6が設けられている。また、車体2と各台車3との間には、枕ばねとしての空気ばね7が設けられると共に、空気ばね7と並列に減衰力調整式緩衝器8(以下、ダンパ8)が設けられている。空気ばね7及びダンパ8は、各台車3の左,右両側にそれぞれ2個ずつ設けられ、鉄道車両1全体で合計4個設けられている。
図1ないし図3に示すように、各ダンパ8は、それぞれの減衰力を個別に調整可能なシリンダ装置として、例えば、セミアクティブダンパと呼ばれる減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成されている。ダンパ8は、台車3に対する車体2の上下方向の振動に対して、振動を低減させるような減衰力を発生する。これにより、ダンパ8は、車体2の上下方向の振動を低減する。
図3に示すように、ダンパ8は、被取付側となる車体2と路面側となる台車3との間に配置されている。このダンパ8は、作動流体(作動油)が封入された筒状のシリンダ9と、シリンダ9の内部に摺動変位可能に設けられたピストン10と、一端側(図3の上端側)がシリンダ9の一端から外部に延出されると共に他端側(図3の下端側)がピストン10に連結されたピストンロッド11と、ピストンロッド11の周囲を覆うカバー12と、ピストン10を含むシリンダ9内に設けられ作動流体の流れを抑制する減衰力調整機構としてのアクチュエータ13とにより大略構成されている。ここで、ピストンロッド11の突出端は車体2に取付けられ、シリンダ9の他端は台車3に取付けられている。
アクチュエータ13は、ピストン10の摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる。このアクチュエータ13は、減衰力を発生する制御バルブ13Aと、電流に応じて制御バルブ13Aを駆動させる比例ソレノイド13Bとを備え、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整する。比例ソレノイド13Bは、後述の制御装置15からソレノイド電流(駆動電流)が供給され、このソレノイド電流に応じて制御バルブ13Aの開弁圧を調整する。これにより、比例ソレノイド13Bに供給するソレノイド電流を制御することで、ダンパ8の減衰力特性をハードとソフトの間で調整することができる。なお、アクチュエータ13は、減衰力特性を連続的でなくとも、2段階または複数段階に調整可能なものであってもよい。
車体2には、車体加速度として車体2の上下方向の振動加速度を検出する加速度センサ14が設けられている。加速度センサ14は、各ダンパ8に対応した位置で車体加速度を検出し、その検出信号を後述の制御装置15に出力する。このため、加速度センサ14は、例えば車体2の下部、即ち、車体2の下面側で各ダンパ8の直上近傍となる位置に取付けられている。なお、加速度センサ14は、車両の前,後方向両側に設けられた各ダンパ8に対応してそれぞれ設けられているため、一車両当たり(一車体当たり)、合計4個の加速度センサ14を有する構成となっている。
制御装置15は、例えば、マイクロコンピュータ等からなる演算処理装置としてのCPU15Aと、アクチュエータ13の比例ソレノイド13BにPWM信号を出力するスイッチング回路15Bと、該スイッチング回路15Bに電源電圧を供給する電源電圧回路15Cと、図6に示すダンパ8の制御用のプログラム等を格納する記憶部(図示せず)等を含んで構成されている。この制御装置15は、車体2の上下方向の振動を低減すべく、サンプリング時間毎に例えばスカイフック理論(スカイフック制御則)に基づいてダンパ8の減衰力を制御する制御手段を構成するものである。ここで、制御装置15は、その入力側が加速度センサ14等に接続され、出力側がダンパ8の比例ソレノイド13B等に接続されている。
CPU15Aの入力側は加速度センサ14に接続されていて、CPU15Aの出力側はスイッチング回路15Bに接続されている。CPU15Aは、加速度センサ14によって検出された車体2の上下方向の振動加速度の値に基づいて、車体2の振動を制御するためにダンパ8が発生すべき減衰力を演算する。そして、CPU15Aは、算出した減衰力に基づいて比例ソレノイド13Bに供給すべき目標電流値を演算し、該目標電流値からデューティ比を決定して、デューティ比に応じたPWM信号を、スイッチング回路15Bに出力する。
スイッチング回路15Bの入力側はCPU15A及び電源電圧回路15Cに接続されていて、出力側はアクチュエータ13の比例ソレノイド13Bに接続されている。スイッチング回路15Bは、例えば、MOSFET等のスイッチング素子と還流ダイオード(いずれも図示せず)とを含んで構成されている。このスイッチング回路15Bは、CPU15Aから出力されたPWM信号に応じたデューティ比でスイッチング素子を開閉動作することによって、目標電流値に応じた駆動電流を比例ソレノイド13Bに供給するものである。
電源電圧回路15Cの入力側は電源ライン(図示せず)に接続され、出力側はスイッチング回路15Bに接続されている。電源電圧回路15Cは、電源ラインからの電圧を、スイッチング回路15Bを作動させるための電源電圧に変換し、スイッチング回路15Bに給電する。
また、制御装置15は、各ダンパ8の比例ソレノイド13Bに流れる駆動電流(ソレノイド電流I)に基づいて、各ダンパ8の比例ソレノイド13Bの温度(ソレノイド温度T)を推定する。そこで、次に、制御装置15において、各ダンパ8の比例ソレノイド13Bのソレノイド温度T[℃]を推定する演算方法について説明する。
まず、比例ソレノイド13Bのソレノイド温度がT[℃]の場合、温度Tに依存した比例ソレノイド13Bの抵抗値をR(T)[Ω]、電源電圧をV[V]、比例ソレノイド13Bに供給するPWM信号のデューティ比をD[%]、比例ソレノイド13Bに流れるソレノイド電流をI[A]、スイッチング回路15Bの抵抗値をRON[Ω]とおくと、これらには以下の数1式が成立する。
数1式を比例ソレノイド13Bの抵抗値R(T)に対して展開すると、以下の数2式となる。
ここで、スイッチング回路15Bの抵抗値RON[Ω]は、以下の数3式ないし数6式に示す通り、実験的に求められる。例えば、20[℃]で比例ソレノイド13Bの抵抗値R(20)が4.53[Ω]になる比例ソレノイド13Bを用いたときに、ソレノイド電流Iとデューティ比Dとの特性線が図5に示すようになる場合、特性線の傾きから以下の数3式が求められる。
このとき、スイッチング回路15Bの出力電圧をVOUT[V]とすると、以下の数4式が求まる。但し、電源電圧Vを11.4[V]とする。
よって、比例ソレノイド13Bの抵抗値R(20)とスイッチング回路15Bの抵抗値RONとの関係は、以下の数5式で示される。
数5式の関係に基づき、スイッチング回路15Bの抵抗値RONは、以下の数6式で示されるように、非線形な成分として求まる。
ここで、比例ソレノイド13Bの抵抗値R(T)には、以下の数7式で示す温度依存性がある。
従って、数1式ないし数7式より、比例ソレノイド13Bのソレノイド温度Tは以下の数8式で求められる。これにより、ソレノイド電流Iを計測すれば、比例ソレノイド13Bのソレノイド温度Tが得られる。このようにして得られたソレノイド温度Tに基づいて、制御装置15は、異常が生じているダンパ8を特定することができる。
次に、制御装置15が制御周期毎に実行するダンパ8の制御用のプログラムについて図6を用いて説明する。
まず、ステップ1では、上記演算方法を用いて、各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定する。即ち、比例ソレノイド13Bに所定の電源電圧Vでデューティ比DのPWM信号を供給したときに、比例ソレノイド13Bの抵抗値R(T)によるソレノイド電流Iの変化からソレノイド温度Tを推定する。この場合、各ダンパ8の比例ソレノイド13Bに電流センサを設けることにより、各ソレノイド電流Iを計測する。
次に、温度比較手段としてのステップ2では、ステップ1で求めた、一のダンパ8のソレノイド温度Tと他のダンパ8のソレノイド温度Tとを比較する。この場合、誤判定を抑制するためには、少なくとも3個以上のダンパ8のソレノイド温度Tを比較するのが好ましい。この点について、以下に具体的に説明する。
1台の車両1には、前,後の台車3にそれぞれ2個ずつ合計4個のダンパ8が設けられている。そこで、車両1の左前側のダンパ8のソレノイド温度T1と、他の3個(右前側、左後側、右後側)のダンパ8のソレノイド温度T2〜T4とを比較し、これらの温度差ΔT12,ΔT13,ΔT14を算出する。同様に、右前側のダンパ8のソレノイド温度T2と、他の3個(左前側、左後側、右後側)のダンパ8のソレノイド温度T1,T3,T4との温度差ΔT21,ΔT23,ΔT24を算出する。左後側のダンパ8のソレノイド温度T3と、他の3個(左前側、右前側、右後側)のダンパ8のソレノイド温度T1,T2,T4との温度差ΔT31,ΔT32,ΔT34を算出する。右後側のダンパ8のソレノイド温度T4と、他の3個(左前側、右前側、左後側)のダンパ8のソレノイド温度T1〜T3との温度差ΔT41,ΔT42,ΔT43を算出する。なお、ここでは、ダンパ8が配置された車体2の左前側の上下方向の軸を第1軸とし、ダンパ8が配置された車体2の右前側の上下方向の軸を第2軸とし、ダンパ8が配置された車体2の左後側の上下方向の軸を第3軸とし、ダンパ8が配置された車体2の右後側の上下方向の軸を第4軸としている。
次いで、減衰抜け軸判定手段としてのステップ3では、4軸(左前軸、右前軸、左後軸、右後軸)のダンパ8のうちいずれかのダンパ8が減衰力を発生していない状態、即ち減衰抜け状態(異常状態)であるか否かを判定する。減衰抜け状態の判定は、例えば、一のダンパ8のソレノイド温度Tが少なくとも2個以上のダンパ8のソレノイド温度Tに対して、所定の温度範囲外のときに、減衰抜け状態であると判定する。即ち、一のダンパ8のソレノイド温度Tが他のダンパ8のソレノイド温度Tに対して、所定の閾値より温度が低い場合には、異常とし、減衰抜けと判定する。
このような判定処理について、図7を用いて、具体的に説明する。同一の車両1に設けられた4個のダンパ8は、平均的に同程度の減衰力を発生させると考えられる。また、減衰力の発生に伴って、ダンパ8のソレノイド温度Tは上昇する。そこで、ステップ2で求めた一のダンパ8のソレノイド温度Tと他のダンパ8のソレノイド温度Tとの比較結果に基づいて、いずれかのダンパ8に減衰抜け軸があるか否かを判定する。
例えば車両1の左前側のダンパ8と他の3個(右前側、左後側、右後側)のダンパ8の間の温度差ΔT12,ΔT13,ΔT14に基づいて、左前側のダンパ8のソレノイド温度T1が、他の3個のダンパ8のソレノイド温度T2〜T4のうち少なくとも2つよりも所定の温度差分だけ低温となっているか否かを判定する。そして、左前側のダンパ8のソレノイド温度T1が、他の3個のダンパ8のソレノイド温度T2〜T4のうち少なくとも2つよりも所定の温度差分だけ低温となっているときには、左前側のダンパ8は減衰力を発生していない状態、即ち減衰抜け状態(異常状態)であると判定する(図7(1),(2)参照)。このように、異常判定処理は、各ダンパ8との温度比較の多数決により行われる。
このとき、減衰抜け状態を判定するための所定の温度差(閾値)としては、ダンパ8が減衰力を発生したときと減衰力を発生しないときとで生じる温度差(例えば数十℃程度)に基づいて設定されており、実験的に求められるものである。
一方、左前側のダンパ8のソレノイド温度Tが、他の3個のダンパ8のソレノイド温度T2〜T4のうち1つよりも所定の温度差分だけ低温となっているときには、1個のダンパ8のソレノイド温度(例えば、右前側のダンパ8のソレノイド温度T2)だけが必要以上に高温になっている可能性がある(図7(3)参照)。このため、この場合には、左前側のダンパ8は、正常状態であると判定する。同様に、左前側のダンパ8のソレノイド温度T1が、他の3個のダンパ8のソレノイド温度T2〜T4とほぼ同程度であるときにも、左前側のダンパ8は、正常状態であると判定する。
以上の判定処理を、左前側のダンパ8以外の3個(右前側、左後側、右後側)のダンパ8についても行い、減衰抜けの生じているダンパ8を特定する。
そして、ステップ3で「YES」と判定した場合は、減衰抜け軸が存在しないので、プログラムを終了する。一方、ステップ3で「NO」と判定した場合は、4個のダンパ8のうちいずれかのダンパ8が減衰抜け状態になっているので、ステップ4に進む。
ステップ4では、いずれかのダンパ8が減衰抜け状態になっているので、警告信号を出力し、減衰抜け状態となったダンパ8を報知する。警告信号は、例えば、警告ランプ又は警告音等により減衰抜けを知らせる構成とすればよい。
かくして、本実施の形態によれば、制御装置15は、一のダンパ8のソレノイド温度Tと他のダンパ8のソレノイド温度Tとを比較するから、これらの比較結果に基づいて、減衰抜け状態(異常状態)となったダンパ8を特定することができる。このとき、各ダンパ8が正常状態であれば、車両1の走行速度が大きく変動しても、各ダンパ8のソレノイド温度Tはほぼ同程度の値になる。このため、車体2の上下方向やピッチング方向の加速度のように、車体2の制御状態に基づいてダンパ8の減衰抜けを判定した場合に比べて、車両1の走行速度に応じて異常判定の精度が変化することがなく、ダンパ8の異常判定の精度を高めることができる。
また、制御装置15は、一のダンパ8のソレノイド温度Tと他のダンパ8のソレノイド温度Tとを比較して、ダンパ8の異常判定を行うから、ダンパ8毎に減衰抜け状態か否かを判定することができる。このため、ダンパ8毎には異常検出用センサ等を設ける必要がなく、異常判定のコストを抑えることができる。
また、制御装置15は、ソレノイド温度Tに応じて比例ソレノイド13Bの抵抗値R(T)が変化する特性を利用して、比例ソレノイド13Bを流れるソレノイド電流Iを計測し、所定の演算をすることにより、ソレノイド温度Tを推定する。この結果、複雑な演算方法や別個の温度センサを用いることなく、ソレノイド電流Iを計測することによって、簡易に各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定することができる。
また、制御装置15は、少なくとも3個以上のダンパ8の各ソレノイド温度Tを比較する。この場合、制御装置15は、一のダンパ8のソレノイド温度Tが少なくとも他の2個以上のダンパ8のソレノイド温度Tに対して、所定の温度範囲外のときに、一のダンパ8に異常が発生し、減衰抜けが生じていると判断する。このため、1個のダンパ8のソレノイド温度Tを他の1個のダンパ8のソレノイド温度Tと比較した場合に比べて、減衰抜け状態の誤判定を抑制することができ、異常判定の精度をさらに高めることができる。
次に、図1及び図8は本発明の第2の実施の形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、制御装置が車両進行方向に応じてソレノイド温度を補正することにある。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
第2の実施の形態による鉄道車両21は、第1の実施の形態による鉄道車両1とほぼ同様に、車体2、台車3、車輪4、ダンパ8、アクチュエータ13、加速度センサ14、制御装置22等を備える。
制御装置22は、第1の実施の形態による制御装置15とほぼ同様に構成され、加速度センサ14によって検出された車体2の上下方向の振動加速度の値に基づいて、ダンパ8の減衰力を制御する。この制御装置22は、図8に示すダンパ8の制御用のプログラム等を格納する記憶部(図示せず)等を含んで構成されている。そして、制御装置22は、この制御プログラムを所定の制御周期毎に実行することによって、ダンパ8のアクチュエータ13を制御し、台車3の振動を低減する。
次に、制御装置22が制御周期毎に実行するダンパ8の制御プログラムについて図8を用いて説明する。なお、ステップ11,13,14,15の処理については、上述した第1の実施の形態によるステップ1,2,3,4とそれぞれ同様であるので、簡略に説明する。
まず、ステップ11では、各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定する。そして、温度補正手段としてのステップ12では、ステップ11で推定したソレノイド温度Tについて、鉄道車両21の進行方向による温度補正を行う。例えば、鉄道車両21の進行方向前側と進行方向後側とを比較して、後側の方が揺れやすい場合に、後側のダンパ8の方が発熱量は大きくなり、ソレノイド温度Tの推定温度も高くなる。この場合、前側又は後側のダンパ8のソレノイド温度Tに、例えば前側と後側との振動量の違いに基づく補正係数を掛けたり、所定の補正温度差分を打ち消したりすることにより、振動量の違いを考慮したソレノイド温度Tを推定する。
なお、後側に比べて前側のダンパ8が高温になるか、前側に比べて後側のダンパ8が高温になるかは、鉄道車両21の形式、仕様、軌道状況、走行速度等に応じて異なる。また、前側と後側との間のソレノイド温度Tの温度差も、鉄道車両21の形式等に応じて異なる。このため、前側と後側のうち高温になり易いダンパ8の位置、及び、ソレノイド温度Tの補正係数や補正温度差は、例えば、鉄道車両21の走行状態で計測した各ダンパ8のソレノイド温度Tに基づいて、適宜設定される。
温度比較手段としてのステップ13では、ステップ12で補正した、一のダンパ8のソレノイド温度Tと他のダンパ8のソレノイド温度Tとを比較する。次いで、減衰抜け軸判定手段としてのステップ14では、いずれかのダンパ8が減衰抜け状態であるか否かを判定する。
ステップ14で「YES」と判定した場合は、減衰抜け軸が存在しないので、プログラムを終了する。一方、ステップ14で「NO」と判定した場合は、4個のダンパ8のうちいずれかのダンパ8が減衰抜け状態になっているので、ステップ15に進む。
ステップ15では、いずれかのダンパ8が減衰抜け状態になっているので、警告信号を出力する。
かくして、第2の実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。第2の実施の形態のダンパ8の制御装置22では、ソレノイド温度Tについて、鉄道車両21の進行方向による温度補正を行う構成としている。これにより、車両進行方向による振動量の違いを考慮した、各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定することができる。この結果、進行方向前側のダンパ8と進行方向後側のダンパ8との温度比較は、鉄道車両21の車両進行方向による振動量の違いに影響されないので、減衰抜け状態の誤判定を抑制でき、ダンパ8の異常判定精度をさらに高めることができる。
次に、図1及び図9は本発明の第3の実施の形態を示している。第3の実施の形態の特徴は、制御装置が、減衰抜け状態となったダンパが存在する場合に、減衰抜け状態となったダンパを考慮して他のダンパの減衰力を制御することにある。なお、第3の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
第3の実施の形態による鉄道車両31は、第1の実施の形態による鉄道車両1とほぼ同様に、車体2、台車3、車輪4、ダンパ8、アクチュエータ13、加速度センサ14、制御装置32等を備えている。
制御装置32は、第1の実施の形態による制御装置15とほぼ同様に構成され、加速度センサ14によって検出された車体2の上下方向の振動加速度の値に基づいて、ダンパ8の減衰力を制御する。この制御装置32は、図9に示すダンパ8の制御用のプログラム等を格納する記憶部(図示せず)等を含んで構成されている。そして、制御装置32は、この制御プログラムを所定の制御周期毎に実行することによって、ダンパ8のアクチュエータ13を制御し、台車3の振動を低減する。
次に、制御装置32が制御周期毎に実行するダンパ8の制御プログラムについて図9を用いて説明する。なお、ステップ21,22,23の処理については、上述した第1の実施の形態によるステップ1,2,3とそれぞれ同様であるので、簡略に説明する。
まず、ステップ21では、各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定する。そして、温度比較手段としてのステップ22では、ステップ21で推定した、一のダンパ8のソレノイド温度Tと他のダンパ8のソレノイド温度Tとを比較する。次いで、減衰抜け軸判定手段としてのステップ23では、いずれかのダンパ8が減衰抜け状態であるか否かを判定する。
ステップ23で「YES」と判定した場合は、減衰抜け軸が存在しないので、ステップ24に進む。ステップ24では、各ダンパ8に減衰抜け軸が存在しないので、各加速度センサ14で検出された値に基づいて、スイッチング回路15Bのデューティ比を変化させる通常の制御を行う。
一方、ステップ23で「NO」と判定した場合は、減衰抜け軸が存在するので、ステップ25に進む。ステップ25では、いずれかのダンパ8が減衰抜け状態となっているので、減衰抜けを考慮した制御を行う。例えば、左前側のダンパ8に減衰抜けが発生した場合、このダンパ8の減衰力特性はソフトに固定される。このため、制御装置32は、左前側のダンパ8の減衰力特性がソフトに固定された点を考慮して、残余(右前側、左後側、右後側)のダンパ8の減衰力特性を演算し、これら3個のダンパ8の減衰力を制御する。この点は、2個または3個のダンパ8に減衰抜けが発生した場合も、同様である。
かくして、第3の実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。第3の実施の形態のダンパ8の制御装置32では、いずれかのダンパ8に減衰抜け軸が存在する場合に、減衰抜けを考慮した制御を行う構成としている。これにより、いずれかのダンパ8に減衰抜けが存在する場合でも、残りのダンパ8について減衰抜けを考慮した制御を行い、車体2の振動を抑えることができる。この結果、減衰抜け軸が存在するのを考慮していない場合に比べて、鉄道車両31の乗り心地を向上させることができる。
なお、第3の実施の形態による制御装置32は、図6,図8に示す第1,第2の実施の形態によるダンパの制御用のプログラムを組み合わせてダンパを制御する構成としてもよい。
次に、図1及び図10は本発明の第4の実施の形態を示している。第4の実施の形態の特徴は、制御装置は、異常高温状態となったダンパが存在する場合に、異常高温状態となったダンパを考慮した制御をすることにある。なお、第4の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
第4の実施の形態による鉄道車両41は、第1の実施の形態による鉄道車両1とほぼ同様に、車体2、台車3、車輪4、ダンパ8、アクチュエータ13、加速度センサ14、制御装置42等を備えている。
制御装置42は、第1の実施の形態による制御装置15とほぼ同様に構成され、加速度センサ14によって検出した値に基づいて、ダンパ8の減衰力を制御する。この制御装置42は、図10に示すダンパ8の制御用のプログラム等を格納する記憶部(図示せず)等を含んで構成されている。そして、制御装置42は、この制御プログラムを所定の制御周期毎に実行することによって、ダンパ8のアクチュエータ13を制御し、異常高温を考慮した制御をする。
次に、制御装置42が制御周期毎に実行するダンパ8の制御プログラムについて図10を用いて説明する。なお、ステップ31,32の処理については、上述した第1の実施の形態によるステップ1,2とそれぞれ同様であるので、簡略に説明する。
まず、ステップ31では、各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定する。そして、温度比較手段としてのステップ32では、ステップ31で推定した、一のダンパ8のソレノイド温度Tと他のダンパ8のソレノイド温度Tとを比較する。
次いで、異常高温判定手段としてのステップ33では、いずれかのダンパ8が異常高温状態であるか否かを判定する。異常高温判定は、例えば、各ダンパ8の所定時間の平均推定温度を求め、一のダンパ8の平均推定温度と他のダンパ8の平均推定温度とを比較して行う。そして、一のダンパ8の平均推定温度が他のダンパ8の平均推定温度よりも高温で、一のダンパ8の平均推定温度と他のダンパ8の平均推定温度との差が所定の閾値よりも高い場合は、一のダンパ8は異常高温があると判定する。
この場合、図6中のステップ3に示す第1の実施の形態による減衰抜け軸判定と同様に、異常高温判定は、例えば、左前側のダンパ8のソレノイド温度T1についての所定時間の平均値が、他の3個のダンパ8のソレノイド温度T2〜T4についての所定時間の平均値のうち少なくとも2つよりも所定の温度差分だけ高温となっているか否かを判定する。そして、左前側のダンパ8のソレノイド温度T1についての平均値が、他の3個のダンパ8のソレノイド温度T2〜T4についての平均値のうち少なくとも2つよりも所定の温度差分だけ高温となっているときには、左前側のダンパ8は異常高温状態(異常状態)であると判定する。このように、異常高温判定処理は、各ダンパ8との温度比較の多数決により行われる。
ステップ33で「YES」と判定した場合は、異常高温軸が存在しないので、ステップ34に進む。ステップ34では、各ダンパ8に異常高温軸が存在しないので、各加速度センサ14で検出した値に基づいてスイッチング回路15Bのデューティ比を変化させる通常の制御を行う。
一方、ステップ33で「NO」と判定した場合は、異常高温軸が存在するので、ステップ35に進む。ステップ35では、いずれかのダンパ8に異常高温軸が存在するので、異常高温を考慮した制御を行う。例えば、左前側のダンパ8が異常高温状態となった場合、左前側のダンパ8の制御を停止して、ソフトに固定する。また、例えば、異常高温状態となった左前側のダンパ8のみに制御ゲインの低い制御を行い、デューティ比を小さくし、左前側のダンパ8の仕事量を残余(右前側、左後側、右後側)のダンパ8の仕事量よりも減らす制御をする。そして、左前側のダンパ8の平均推定温度と残余のダンパ8の平均推定温度との差が所定の閾値よりも低くなれば、制御を通常の制御に戻す。
かくして、第4の実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。第4の実施の形態のダンパ8の制御装置42では、いずれかのダンパ8が異常高温状態となった場合に、異常高温を考慮してダンパ8の制御を行う構成としている。これにより、異常高温状態となったダンパ8をソフトに固定する、または異常高温状態となったダンパ8の仕事量を減らす制御を行うので、ダンパ8が異常高温により故障するのを未然に防ぐことができる。この結果、ダンパ8の信頼性、耐久性を向上させることができる。
なお、第4の実施の形態による制御装置42は、図6,図8,図9に示す第1,第2,第3の実施の形態によるダンパの制御用のプログラムを組み合わせてダンパを制御する構成としてもよい。
次に、図11,図12は本発明の第5の実施の形態を示している。第5の実施の形態の特徴は、制御装置が同じ編成の別車体のダンパ情報を共有することによって、ダンパの減衰抜け状態を判定することにある。なお、第5の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
第5の実施の形態による鉄道車両51は、第1の実施の形態による鉄道車両1とほぼ同様に、車体52i、車体間ヨーダンパ53A,53B,54A,54B、制御装置55i等を備えている。
車体52iは第1の実施の形態による車体2とほぼ同様に構成されている。車体52iの前側には、車体52i+1が隣接して設けられ、車体52iの後側には、車体52i-1が隣接して設けられている。各車体52i,52i+1,52i-1との間には連結部(図示せず)が設けられ、駆動力が伝達可能となるように車体52i-1と車体52iとの間及び車体52iと車体52i+1との間をそれぞれ連結している。
車体52iと車体52i+1との間には、第1の実施の形態によるダンパ8とほぼ同様に構成される車体間ヨーダンパ53A,53Bが設けられている。車体間ヨーダンパ53Aは車体52iと車体52i+1との間の幅方向一端側(図11中の左側)に配置され、車体間ヨーダンパ53Bは車体52iと車体52i+1との間の幅方向他端側(図11中の右側)に配置されている。
車体間ヨーダンパ53A,53Bは、車体52iや車体52i+1の水平方向の回転(ヨーイング)を左右方向でそれぞれ個別に緩衝して低減させるように、後述の制御装置55iによって前後方向の減衰力が可変に制御される。
また、車体52iと車体52i-1との間には、第1の実施の形態によるダンパ8とほぼ同様に構成される車体間ヨーダンパ54A,54Bが設けられている。車体間ヨーダンパ54Aは車体52iと車体52i-1との間の幅方向一端側に配置され、車体間ヨーダンパ54Bは車体52iと車体52i-1との間の幅方向他端側に配置されている。
車体間ヨーダンパ54A,54Bは、車体52iや車体52i-1の水平方向の回転(ヨーイング)を左右方向でそれぞれ個別に緩衝して低減させるように、後述の制御装置55i-1によって前後方向の減衰力が可変に制御される。
車体52i,52i+1,52i-1には、第1の実施の形態による制御装置15とほぼ同様に構成される制御装置55i,55i+1,55i-1がそれぞれ設けられている。制御装置55iには車体52iの水平方向の回転振動を検出する加速度センサ(図示せず)と、車体間ヨーダンパ53A,53Bとが接続されている。また、制御装置55i-1にも、車体52i-1の水平方向の回転振動を検出する加速度センサ(図示せず)及び車体間ヨーダンパ54A,54Bが接続されている。制御装置55i+1にも、加速度センサ及び車体間ヨーダンパ(いずれも図示せず)がそれぞれ接続されている。制御装置55iと55i+1との間及び制御装置55iと55i-1との間は、例えばCAN(Controller Area Network)用の信号線によってそれぞれ接続されていて、各車体間ヨーダンパ53A,53B,54A,54Bの推定温度情報等を伝達し合っている。
この制御装置55i,55i+1,55i-1は、例えば、図6に示す第1の実施の形態の制御用のプログラム等を格納する記憶部(図示せず)等を含んで構成されている。制御装置55i,は、この制御プログラムを所定の制御周期毎に実行することによって、各車体間ヨーダンパ53A,53Bに減衰抜け軸があるか否かを判定する。
この場合、制御装置55iは、温度比較手段として、異なる車体で同じ位置に設けられたダンパ同士でソレノイド温度Tを比較する。例えば、車体52iの車体間ヨーダンパ53Aのソレノイド温度Tと車体52i-1の車体間ヨーダンパ54Aのソレノイド温度Tとをそれぞれ比較して行う。そして、減衰抜け軸判定手段として、例えば、車体間ヨーダンパ53Aのソレノイド温度Tが、車体間ヨーダンパ54Aのソレノイド温度Tよりも所定の温度差分だけ低温となっているときには、車体間ヨーダンパ53Aは減衰抜け状態であると判定する。以上のようなソレノイド温度Tの比較と減衰抜け状態の判定は、車体間ヨーダンパ53B,54Bについても、同様に行う。
なお、制御装置55iは、車体間ヨーダンパ53Aのソレノイド温度Tと、異なる車体で同じ位置に設けられた少なくとも3つ以上の車体間ヨーダンパのソレノイド温度Tのうち少なくとも2つ以上のソレノイド温度Tとを比較する構成としてもよい。また、1台の車体52iの周囲に設けられた車体間ヨーダンパ53A,53B,54A,54Bで、減衰力の発生状況がほぼ同程度となる場合には、第1の実施の形態と同様に、車体間ヨーダンパ53Aのソレノイド温度Tと、他の3つの車体間ヨーダンパ53B,54A,54Bのうち少なくとも2つ以上のソレノイド温度Tとを比較する構成としてもよい。
かくして、第5の実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。第5の実施の形態の制御装置55iは、同じ編成の別車体52i-1の車体間ヨーダンパ54A,54Bの情報を共有することによって、車体間ヨーダンパ53A,53Bの減衰抜け状態を判定している。これにより、1車体に温度推定を行うダンパが1本又は2本しか取付けられていない場合でも、制御装置が別車体のダンパ情報を共有することにより、ダンパの減衰抜け状態や異常高温状態等を判定することができる。
なお、第5の実施の形態による制御装置55iは、図6,図8ないし図10に示す第1,第2,第3,第4の実施の形態によるダンパの制御用のプログラムを組み合わせてダンパを制御する構成としてもよい。
次に、図1及び図13は本発明の第6の実施の形態を示している。第6の実施の形態の特徴は、制御装置がソレノイド温度に基づいてダンパの累積仕事量を算出することにある。なお、第6の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
第6の実施の形態による鉄道車両61は、第1の実施の形態による鉄道車両1とほぼ同様に、車体2、台車3、車輪4、ダンパ8、アクチュエータ13、加速度センサ14、制御装置62等を備えている。
制御装置62は、第1の実施の形態による制御装置15とほぼ同様に構成され、加速度センサ14によって検出した値に基づいて、ダンパ8の減衰力を制御する。この制御装置62は、図13に示すダンパ8の制御用のプログラム等を格納する記憶部(図示せず)等を含んで構成されている。そして、制御装置62は、この制御プログラムを所定の制御周期毎に実行することによって、ダンパ8の累積仕事量を考慮した制御を行う。
次に、制御装置62が制御周期毎に実行するダンパ8の制御プログラムについて図13を用いて説明する。なお、ステップ41の処理については、上述した第1の実施の形態によるステップ1と同様であるので、簡略に説明する。
まず、ステップ41では、各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定する。そして、累積仕事量算出手段としてのステップ42では、ステップ41で推定した各ダンパ8のソレノイド温度Tから各ダンパ8の累積仕事量を算出する。ここで、ダンパ8は、運動エネルギを熱エネルギに変換して鉄道車両61の振動を低減しているため、減衰力特性がハードである程、運動エネルギが熱エネルギに多く変換され、比例ソレノイド13Bや作動油の劣化を早める。このとき、劣化進行速度はダンパ8の累積仕事量と比例し、また、累積仕事量はソレノイド温度Tの温度変化量と比例の関係にある。そこで、制御装置62は、ソレノイド温度Tの温度変化量に基づいて累積仕事量を算出し、ダンパ8の劣化状況を把握する。なお、累積仕事量の算出は、例えば、予め実験的に得られたソレノイド温度Tの温度変化量と累積仕事量との関係を、マップ、計算式等として記憶し、このマップ等を用いることによって行う。
次いで、累積仕事量判定手段としてのステップ43では、いずれかのダンパ8の累積仕事量が所定の閾値より小さいか否かを判定する。このとき、累積仕事量の閾値は、例えば比例ソレノイド13Bや作動油に劣化が生じて、ダンパ8にメンテナンスが必要になる累積仕事量に基づいて決定される。
ステップ43で「YES」と判定した場合は、ダンパ8の累積仕事量が所定の閾値より小さく、ダンパ8のメンテナンスは不要と考えられるので、プログラムを終了する。
一方、ステップ43で「NO」と判定した場合は、ダンパ8の累積仕事量が所定の閾値以上であるので、ステップ44に進む。ステップ44では、ダンパ8の累積仕事量が所定の範囲を超え、比例ソレノイド13Bや作動油の交換時期であるので、ダンパ8の保守・点検等のメンテナンスを促す信号を出力する。信号は、例えば、警告ランプ又は警告音等によりメンテナンス時期の到来を報知する。
かくして、第6の実施の形態のダンパ8の制御装置62は、第1の実施の形態による制御装置15と同様に、ソレノイド温度Tに応じて比例ソレノイド13Bの抵抗値R(T)が変化する特性を利用して、比例ソレノイド13Bを流れるソレノイド電流Iを計測し、所定の演算をすることにより、ソレノイド温度Tを推定する。この結果、第6の実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、ソレノイド電流Iを計測することによって、簡易に各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定することができる。
また、上述した特許文献1に記載の鉄道車両では、車体の上下方向加速度とピッチング方向加速度との位相差を求めて、この位相差が所定の閾値を超えた場合に、ダンパの異常と判断している。しかしながら、このような構成では、ダンパが実際に異常状態となるまでは、ダンパの異常を検出することができず、ダンパの異常を未然に予測してメンテナンス時期の到来を報知することはできないという問題がある。
これに対し、第6の実施の形態のダンパ8の制御装置62では、ソレノイド温度Tに基づいてダンパ8の累積仕事量を算出し、この累積仕事量に基づいてメンテナンス時期を報知する構成とした。このため、例えば車両の走行距離に基づいてダンパ8の交換時期や整備時期を算出した場合と比べて、各ダンパ8毎の累積仕事量を把握することができ、ダンパ8の使用状況に応じた適切なメンテナンスを行うことができる。また、ダンパ8の劣化状況を把握するために別個のセンサを設ける必要がなく、製造コストを抑えつつ、信頼性を高めることができる。
なお、第6の実施の形態による制御装置62は、図6,図8ないし図10に示す第1,第2,第3,第4の実施の形態によるダンパの制御用のプログラムを組み合わせてダンパを制御する構成としてもよい。また、第5の実施の形態と同様に、車体間ヨーダンパに適用してもよい。
次に、図1及び図14は本発明の第7の実施の形態を示している。第7の実施の形態の特徴は、制御装置が、ソレノイド温度に基づいて軌道(レール)整備時期を判定することにある。なお、第7の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
第7の実施の形態による鉄道車両71は、第1の実施の形態による鉄道車両1とほぼ同様に、車体2、台車3、車輪4、ダンパ8、アクチュエータ13、加速度センサ14、制御装置72等を備えている。
制御装置72は、第1の実施の形態による制御装置15とほぼ同様に構成され、加速度センサ14によって検出した値に基づいて、ダンパ8の減衰力を制御する。この制御装置72は、図14に示す制御用のプログラム等を格納する記憶部(図示せず)等を含んで構成されている。そして、制御装置72は、この制御プログラムを所定の制御周期毎に実行することによって、レール5の軌道整備が必要か否かを判定する。
次に、制御装置72が制御周期毎に実行する制御プログラムについて図14を用いて説明する。なお、ステップ51の処理については、上述した第1の実施の形態によるステップ1と同様であるので、簡略に説明する。
まず、ステップ51では、各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定する。そして、データ蓄積手段としてのステップ52では、ステップ51で推定した各ダンパ8のソレノイド温度Tのデータを蓄積する。ここで、データの蓄積は、制御装置72の記憶部に保存してもよいし、外部の記憶装置に保存する構成としてもよい。
次いで、温度差導出手段としてのステップ53では、軌道整備後の平均推定温度(平均温度)と最近の平均推定温度(平均温度)との温度差を導出する。具体的には、軌道整備後の平均推定温度は、整備後の軌道(所定の運転区間)を複数回にわたって走行したときの全ダンパ8のソレノイド温度Tのデータを蓄積し、このときに蓄積された全ダンパ8のソレノイド温度Tの平均値から求める。なお、軌道整備後の平均推定温度は、整備後の所定軌道を複数回にわたって走行したときのソレノイド温度Tのデータに限らず、複数日の所定期間にわたって所定軌道を走行したときのソレノイド温度Tのデータに基づいて、算出してもよい。
また、最新の平均推定温度は、最近の状態で同じ軌道を1回または複数回走行したときの全ダンパ8のソレノイド温度Tのデータを蓄積し、このときに蓄積された全ダンパ8のソレノイド温度Tの平均値から求める。なお、最近の平均推定温度は、所定軌道を所定回にわたって走行したときのソレノイド温度Tのデータに限らず、複数日の所定期間にわたって所定軌道を走行したときのソレノイド温度Tのデータに基づいて、算出してもよい。
温度差判定手段としてのステップ54では、ステップ53で求めた軌道整備後の平均推定温度と最近の平均推定温度との温度差が所定の閾値より小さいか否かを判定する。ここで、レール5の狂いが大きい場合、ダンパ8の発熱量も大きくなり、走行時のダンパ8のソレノイド温度Tの推定温度も上昇していく傾向にある。そこで、軌道整備後の平均推定温度と最近の平均推定温度との温度差が所定の閾値以上の場合は、レール5の整備時期であると判断する。
ステップ54で「YES」と判定した場合は、温度差が所定の閾値より小さいので、プログラムを終了する。
一方、ステップ54で「NO」と判定した場合は、温度差が所定の閾値以上であるので、ステップ55に進む。ステップ55では、軌道整備後の平均推定温度と最近の平均推定温度との温度差が所定の閾値を超えていて、レール5の整備時期であるので、軌道整備を促す信号を出力する。軌道整備信号は、例えば、警告ランプ又は警告音等により軌道整備時期の到来を報知する。
かくして、第7の実施の形態のダンパ8の制御装置72は、第1の実施の形態による制御装置15と同様に、ソレノイド温度Tに応じて比例ソレノイド13Bの抵抗値R(T)が変化する特性を利用して、比例ソレノイド13Bを流れるソレノイド電流Iを計測し、所定の演算をすることにより、ソレノイド温度Tを推定する。この結果、第7の実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、ソレノイド電流Iを計測することによって、簡易に各ダンパ8のソレノイド温度Tを推定することができる。
また、上述した特許文献1に記載の鉄道車両では、車体の上下方向加速度とピッチング方向加速度との位相差を求めて、この位相差が所定の閾値を超えた場合に、ダンパの異常と判断している。しかしながら、このような構成では、軌道に歪み等のような異常が生じたときでも、このような軌道の異常は検出できないという問題がある。
これに対し、第7の実施の形態のダンパ8の制御装置72では、ダンパ8のソレノイド温度Tに基づいて軌道整備時期を判定する構成とした。具体的には、制御装置72は、ダンパ8のソレノイド温度Tを推定し、推定温度のデータを蓄積することによって、軌道整備後の平均推定温度と最近の平均推定温度との温度差を導出する。そして、各平均推定温度の温度差が所定の閾値を超えているか否かを判定することによって、レール5の整備信号を出力する。このため、簡易な構成で、軌道整備時期を適切に把握することができる。この結果、軌道不良による振動量の増加から、発熱によるダンパ8の劣化を抑えるだけでなく、軌道不良の初期段階で軌道整備を行うことができ、鉄道車両71の乗り心地の悪化を抑えることができる。
なお、第7の実施の形態による制御装置72は、図6,図8ないし図10,図13に示す第1,第2,第3,第4,第6の実施の形態によるダンパの制御用のプログラムを組み合わせてダンパを制御する構成としてもよい。また、第5の実施の形態と同様に、車体間ヨーダンパに適用してもよい。
また、前記第1の実施の形態では、比例ソレノイド13Bのソレノイド温度Tを、ソレノイド電流Iから所定の演算方法を用いて求める構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、図3に示す変形例のように、アクチュエータ13にソレノイド温度Tを計測する温度センサ81を設ける構成としてもよい。この構成は、第2ないし第7の実施の形態でも同様に適用することができる。
また、前記第1の実施の形態では、車体2と台車3との間に設けられ上下方向の減衰力を発生するダンパ8に適用した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、図15に示す変形例による鉄道車両91のように、台車3と車輪4との間に設けられ上下方向の減衰力を発生する軸ダンパ92に適用してもよく、車体2と台車3との間に設けられ前後方向の減衰力を発生するヨーダンパ93に適用してもよい。また、車体2の上下方向の振動に限らず、車体の左右方向の振動を低減するように構成してもよく、車体のピッチング、ヨーイング、ローリング等を低減するように構成してもよい。これらの構成は、第2ないし第7の実施の形態にも同様に適用することができる。
また、制御装置15は、同一の車体2に配置しているダンパだけでなく、車体2と隣合う別の車体94に配置している、軸ダンパ92,ヨーダンパ93の各ソレノイド温度とダンパ8のソレノイド温度とを比較する構成としてもよい。この構成は、第2,第3,第4,第6,第7の実施の形態にも同様に適用することができる。
また、前記各実施の形態では、単一の比例ソレノイド13Bによって伸び側減衰力と縮み側減衰力とを一緒に制御する構成としたが、2つの比例ソレノイドによって伸び側減衰力と縮み側減衰力とを別個に制御する構成としてもよい。
また、前記第1の実施の形態では、制御装置15は、スカイフック制御則によってダンパ8の減衰力指令値を演算する構成としたが、本発明はこれに限らず、例えばLQG制御則、H∞制御則等のような他の制御則に基づいて減衰力指令値を演算してもよい。この構成は、第2ないし第7の実施の形態及び第1,第2の変形例にも適用することができる。
また、前記各実施の形態では、作動油が封入された減衰力調整式油圧緩衝器からなるダンパ8,53A,53B,54A,54Bに適用した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば作動流体として空気が封入された減衰力調整式空圧緩衝器に適用してもよい。
さらに、前記各実施の形態では、鉄道車両1,21,31,41,51,61,71に適用した場合を例に挙げて説明したが、自動車等の他の車両に適用してもよい。
次に、前記各実施の形態に含まれる発明について記載する。本発明によれば、減衰力調整機構を制御する制御手段と、一の減衰力調整式緩衝器のソレノイド温度と他の減衰力調整式緩衝器のソレノイド温度とを比較する温度比較手段と、を設ける構成とした。このため、ソレノイド温度の比較結果に基づいて、減衰抜け状態(異常状態)となった減衰力調整式緩衝器を特定することができる。この結果、車両の走行速度に応じて異常判定の精度が変化することがなく、減衰力調整式緩衝器の異常判定の精度を高めることができる。また、温度比較手段は、一の減衰力調整式緩衝器のソレノイド温度と他の減衰力調整式緩衝器のソレノイド温度とを比較するから、減衰力調整式緩衝器毎に減衰抜け状態か否かを判定することができる。
本発明によれば、温度比較手段は、少なくとも3つ以上の減衰力調整式緩衝器のソレノイド温度を比較して、一のソレノイド温度が少なくとも2つ以上の他のソレノイド温度に対して所定の温度範囲外のときに異常として判断する構成とした。これにより、1個のダンパのソレノイド温度を他の1個のダンパのソレノイド温度と比較した場合に比べて、減衰抜け状態の誤判定を抑制することができ、異常判定の精度をさらに高めることができる。
本発明によれば、ソレノイド温度は、ソレノイドに所定の電流値を与えたときにソレノイドの抵抗値による電流値の変化から推定する構成としている。これにより、ソレノイド温度を直接的に検出する場合に比べて、温度センサや接続ケーブルを省くことができ、製造コストを抑制することができる。
本発明によれば、減衰力調整式緩衝器には、ソレノイド温度を計測する温度センサを設ける構成としている。これにより、ソレノイド温度を直接的に検出するから、正確なソレノイド温度を計測することができる。
また、本発明によれば、
作動流体が封入されたシリンダと、
該シリンダ内に摺動可能に挿入されたピストンと、
該ピストンに連結されたピストンロッドと、
前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる前記作動流体の流れを制御して減衰力を発生させるソレノイドを有する減衰力調整機構と、
からなる減衰力調整式緩衝器が、車両に複数設けられる減衰力調整式緩衝器の制御装置であって、
前記減衰力調整機構を制御する制御手段と、
前記減衰力調整式緩衝器のソレノイド温度の温度変化量に基づいて前記減衰力調整式緩衝器の累積仕事量を算出する累積仕事量算出手段と、を設ける構成としている。
これにより、車両の走行距離に基づいて減衰力調整式緩衝器の交換時期や整備時期を算出した場合と比べて、各減衰力調整式緩衝器毎の累積仕事量を把握することができ、減衰力調整式緩衝器の使用状況に応じた適切なメンテナンスを行うことができる。また、減衰力調整式緩衝器の劣化状況を把握するために別個のセンサを設ける必要がなく、製造コストを抑えつつ、信頼性を高めることができる。
また、本発明によれば、
作動流体が封入されたシリンダと、
該シリンダ内に摺動可能に挿入されたピストンと、
該ピストンに連結されたピストンロッドと、
前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって生じる前記作動流体の流れを制御して減衰力を発生させるソレノイドを有する減衰力調整機構と、
からなる減衰力調整式緩衝器が、車両に複数設けられる減衰力調整式緩衝器の制御装置であって、
前記減衰力調整機構を制御する制御手段と、
所定軌道を走行したときの前記減衰力調整式緩衝器のソレノイド温度のデータを蓄積するデータ蓄積手段と、
軌道整備後の所定軌道を走行したときの前記ソレノイド温度の平均温度と最近の所定軌道を走行したときの前記ソレノイド温度の平均温度との温度差を導出する温度差導出手段と、を設ける構成としている。
これにより、各平均温度の温度差が所定の閾値を超えているか否かを判定することによって、軌道の整備信号を出力するので、簡易な構成で、軌道整備時期を把握することができる。この結果、軌道不良による振動量の増加から、発熱による減衰力調整式緩衝器の劣化を抑えるだけでなく、軌道不良の初期段階で軌道整備を行うことができ、車両の乗り心地の悪化を抑えることができる。