以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による内燃機関100の概略構成図である。
図1に示すように、内燃機関100は、機関本体1と、吸気装置20と、排気装置30と、電子制御ユニット200と、を備える。
機関本体1は、シリンダブロック2と、シリンダブロック2の上部に取り付けられたシリンダヘッド3と、シリンダブロック2の下部に取り付けられたクランクケース4と、クランクケース4の下部に取り付けられたオイルパン5と、を備える。
シリンダブロック2には、複数のシリンダ6が形成される。シリンダ6の内部には、燃焼圧力を受けてシリンダ6の内部を往復運動するピストン7が収められる。ピストン7は、コンロッド8を介してクランクケース4内に回転可能に支持されたクランクシャフト9と連結されており、クランクシャフト9によってピストン7の往復運動が回転運動に変換される。シリンダヘッド3の内壁面、シリンダ6の内壁面及びピストン冠面によって区画された空間が燃焼室10となる。
シリンダヘッド3には、シリンダヘッド3の一方の側面に開口すると共に燃焼室10に開口する吸気ポート11と、シリンダヘッド3の他方の側面に開口すると共に燃焼室10に開口する排気ポート12と、が形成される。
またシリンダヘッド3には、燃焼室10と吸気ポート11との開口を開閉するための吸気弁13と、燃焼室10と排気ポート12との開口を開閉するための排気弁14と、吸気弁13を開閉駆動する吸気カムシャフト15と、排気弁14を開閉駆動する排気カムシャフト16と、が取り付けられる。吸気カムシャフト15の一端部には、吸気弁13の閉弁時期を任意の時期に変更することができる可変バルブタイミング機構Bが設けられている。可変バルブタイミング機構Bの詳細については、図4及び図5を参照して後述する。
さらにシリンダヘッド3には、後述する吸気マニホールド27の各吸気枝管27bに取り付けられた燃料噴射弁17から噴射された燃料と空気との混合気を燃焼室10内で点火するための点火プラグ18が取り付けられる。なお、燃料噴射弁17は、燃焼室10内に燃料を噴射するようにシリンダヘッド3に取り付けてもよい。
シリンダブロック2とクランクケース4との連結部には可変圧縮比機構Aが設けられる。本実施形態による可変圧縮比機構Aは、シリンダブロック2とクランクケース4とのシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによって、ピストン7が圧縮上死点に位置するときの燃焼室10の容積を変更するものである。シリンダブロック2とクランクケース4との連結部には、シリンダブロック2とクランクケース4との相対位置関係を検出するための相対位置センサ211が取付けられており、この相対位置センサ211からはシリンダブロック2とクランクケース4との間隔の変化を示す出力信号が出力される。可変圧縮比機構Aの詳細については、図2及び図3を参照して後述する。
吸気装置20は、吸気ポート11を介してシリンダ6内に空気を導くための装置であって、エアクリーナ21と、吸気管22と、スーパチャージャ23と、インタークーラ24と、エアバイパス管25と、エアバイパス弁26と、吸気マニホールド27と、電子制御式のスロットル弁28と、スロットルセンサ212と、エアフローメータ213と、過給圧センサ214と、を備える。
エアクリーナ21は、空気中に含まれる砂などの異物を除去する。
吸気管22は、一端がエアクリーナ21に連結され、他端が吸気マニホールド27のサージタンク27aに連結される。
スーパチャージャ23は、吸気管22に設けられる。スーパチャージャ23は、クランクシャフト9の回転力によって機械的に駆動される過給機であって、エアクリーナ21を介して吸気管22内に流入してきた空気を圧縮し、圧縮した空気を強制的にシリンダ6内に供給するための装置である。クランクシャフト9の回転力をスーパチャージャ23に伝達する伝達経路上には、電子制御ユニット200によって制御される過給機駆動用の電磁クラッチ29が設けられており、過給機駆動用の電磁クラッチ29を締結すると、スーパチャージャ23がベルト等を介してクランクシャフト9によって駆動され、過給が行われる。一方で過給機駆動用の電磁クラッチ29を解放すると、スーパチャージャ23がクランクシャフト9と機械的に切り離され、過給が停止される。
インタークーラ24は、スーパチャージャ23よりも下流の吸気管22に設けられ、スーパチャージャ23から吐出された空気を冷却する。
エアバイパス管25は、スーパチャージャ23による過給を停止したときなど、エアクリーナ21を介して吸気管22内に流入してきた空気を、必要に応じてスーパチャージャ23及びインタークーラ24をバイパスさせてシリンダ6内に供給するために設けられた通路である。エアバイパス管25は、一端がスーパチャージャ23よりも上流の吸気管22に接続され、他端がインタークーラ24とスロットル弁28との間の吸気管22に接続されている。
エアバイパス弁26は、エアバイパス管25内に設けられる。エアバイパス弁26は、エアバイパス管25の通路断面積を連続的又は段階的に変化させる。エアバイパス弁26の開度は、スーパチャージャ23による過給が行われているときのサージタンク27a内の圧力(以下「過給圧」という。)が目標過給圧となるように、電子制御ユニット200によって制御される。
吸気マニホールド27は、サージタンク27aと、サージタンク27aから分岐してシリンダヘッド側面に形成されている各吸気ポート11の開口に連結される複数の吸気枝管27bと、を備える。サージタンク27aに導かれた空気は、吸気枝管27bを介して各シリンダ6内に均等に分配される。このように、吸気管22、吸気マニホールド27及び吸気ポート11が、各シリンダ6内に空気を導くための吸気通路を形成する。
スロットル弁28は、インタークーラ24とサージタンク27aとの間の吸気管22内に設けられる。スロットル弁28は、スロットルアクチュエータ(図示せず)によって駆動され、吸気管22の通路断面積を連続的又は段階的に変化させる。スロットルアクチュエータによってスロットル弁28の開度(以下「スロットル開度」という。)を調整することで、各シリンダ6内に吸入される吸気量(吸入空気量)を調整することができる。スロットル開度は、スロットルセンサ212によって検出される。
エアフローメータ213は、スーパチャージャ23よりも上流側の吸気管22内に設けられる。エアフローメータ213は、吸気管22内を流れる空気の流量(以下「吸入吸気量」という。)を検出する。
過給圧センサ214は、サージタンク27a内に設けられる。過給圧センサ214は、サージタンク27a内の圧力を検出する。
排気装置30は、燃焼室10内で生じた燃焼ガス(排気)を浄化して外気に排出するための装置であって、排気マニホールド31と、排気後処理装置32と、排気管33と、空燃比センサ215と、を備える。
排気マニホールド31は、シリンダヘッド側面に形成されている各排気ポート12の開口と連結される複数の排気枝管と、排気枝管を集合させて1本にまとめた集合管と、を備える。
排気後処理装置32は、一端が排気マニホールド31の集合管に連結され、他端が排気管33に連結されている。排気後処理装置32は、排気を浄化した上で外気に排出するための装置であって、有害物質を浄化する各種の触媒(例えば三元触媒)を担体に担持させたものである。
排気管33は、一端が排気後処理装置32に連結され、他端が開口端となっており、各シリンダ6から排気ポート12を介して排気マニホールド31に排出された排気は、排気管33を流れて外気に排出される。
空燃比センサ215は、排気マニホールド31の集合管に設けられ、排気後処理装置32に流入する排気の空燃比を検出する。
電子制御ユニット200は、デジタルコンピュータから構成され、双方性バス201によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)202、RAM(ランダムアクセスメモリ)203、CPU(マイクロプロセッサ)204、入力ポート205及び出力ポート206を備える。
入力ポート205には、前述した相対位置センサ211やスロットルセンサ212、エアフローメータ213、過給圧センサ214、空燃比センサ215などの出力信号が、対応する各AD変換器207を介して入力される。また入力ポート205には、アクセルペダル220の踏み込み量(以下「アクセル踏込量」という。)に比例した出力電圧を発生する負荷センサ217の出力電圧が、対応するAD変換器207を介して入力される。また入力ポート205には、機関回転速度を算出するための信号として、機関本体1のクランクシャフト9が例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ218の出力信号が入力される。このように入力ポート205には、内燃機関100を制御するために必要な各種センサの出力信号が入力される。
出力ポート206には、対応する駆動回路208を介して燃料噴射弁17や点火プラグ18、過給機駆動用の電磁クラッチ29、可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構Bなどの各制御部品が電気的に接続される。
電子制御ユニット200は、入力ポート205に入力された各種センサの出力信号に基づいて、各制御部品を制御するための制御信号を出力ポート206から出力して内燃機関100を制御する。
図2は、本実施形態による可変圧縮比機構Aの分解斜視図である。
図2に示すように、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50には断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース4の上壁面上には互いに間隔を隔ててそれぞれ対応する突出部50の間に嵌合する複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52にもそれぞれ断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
また可変圧縮比機構Aは、一対のカムシャフト54,55を備えており、各カムシャフト54,55上には、所定の間隔を空けて各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57(図3参照)が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。
各カムシャフト54,55の一端部には、制御軸60に設けられた一対のウォーム61,62とそれぞれ噛み合うウォームホイール63,64が取り付けられている。一対のウォーム61,62は、各カムシャフト54,55をそれぞれ反対方向に回転させることができるように、螺旋方向が逆向きとなっている。制御軸60は、図9を参照して後述する駆動装置40によって回転させられ、制御軸60を回転させて各カムシャフト54,55をそれぞれ反対方向に回転させることで、図3に示すように、ピストン7が圧縮上死点に位置するときの燃焼室10の容積が変更させられる。カムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ216が取付けられており、カム回転角度センサ216の出力信号は対応するAD変換器207を介して電子制御ユニット200に入力されている。以下、図3を参照して可変圧縮比機構Aの動作について説明する。
図3は、可変圧縮比機構Aの動作について説明する図である。
図3(A)は、可変圧縮比機構Aによって、ピストン7が圧縮上死点に位置するときの燃焼室10の容積が最大にされている状態の図である。図3(B)は、可変圧縮比機構Aによって、ピストン7が圧縮上死点に位置するときの燃焼室10の容積が最大と最少との間にされている状態の図である。図3(C)は、可変圧縮比機構Aによって、ピストン7が圧縮上死点に位置するときの燃焼室10の容積が最少にされている状態の図である。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム58を、図3(A)において矢印で示されるように互いに反対方向に回転させると、偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示される方向に回転させると図3(C)に示されるように偏心軸57は最も低い位置となる。
なお図3(A)、図3(B)及び図3(C)には、それぞれの状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)を比較するとわかるように、クランクケース4とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース4から離間側に移動する。すなわち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース4とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース4から離れるとピストン7が圧縮上死点に位置するときの燃焼室10の容積は増大する。このように、各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン7が圧縮上死点に位置するときの燃焼室10の容積を変更することができる。
図4は、吸気カムシャフト15の一端部に設けられている本実施形態による可変バルブタイミング機構Bの概略構成図である。
図4に示すように、可変バルブタイミング機構Bは、クランクシャフト9によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転させられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気カムシャフト15と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを備えており、各ベーン75の両側にはそれぞれ進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77にそれぞれ連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気カムシャフト15のカムの位相を進角すべきときは、図4においてスプール弁85が右方に移動させられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転させられる。
これに対し、吸気カムシャフト15のカムの位相を遅角すべきときは、図4においてスプール弁85が左方に移動させられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転させられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転させられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止させられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。このようにして、可変バルブタイミング機構Bによって吸気カムシャフト15のカムの位相を所望の量だけ進角又は遅角させることができる。
図5は、可変バルブタイミング機構Bの動作について説明する図である。
図5の実線は、可変バルブタイミング機構Bによって吸気カムシャフト15のカムの位相が最も進角されているときを示しており、図5の破線は、吸気カムシャフト15のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁13の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、吸気弁13の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
すなわち可変バルブタイミグ機構Bによって、吸気弁13の閉弁時期を、吸気カムシャフト15のカムの位相が最も進角されているときの閉弁時期(以下「進角側限界閉弁時期」という。)から吸気カムシャフト15のカムの位相が最も遅角されているとき閉弁時期(以下「遅角側限界閉弁時期」という。)までの任意の時期に変更することができる。
なお、図1及び図4に示す可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁13の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁13の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照して、本明細書で使用する機械圧縮比、実圧縮比及び膨張比という各用語の意味について説明する。なお、図6(A)、図6(B)及び図6(C)には、各用語の説明のために燃焼室容積が50mlでピストン7の行程容積が500mlである機関本体1が示されており、これら図6(A)から図6(C)において燃焼室容積とはピストン7が圧縮上死点に位置するときの燃焼室10の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明する図である。
機械圧縮比は、圧縮行程時のピストン7の行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であって、(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例では、機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明する図である。
実圧縮比は、実際に圧縮作用が開始されたときからピストン7が上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であって、(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。すなわち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストン7が上昇を開始しても吸気弁13が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁13が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の通り表される。図6(B)に示される例では、実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明する図である。
膨張比は、膨張行程時のピストン7の行程容積と燃焼室容積から定まる値であって、(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例では、膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図7は、理論熱効率と膨張比との関係を示す図である。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合、すなわち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、すなわち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比はある程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果、理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことがわかった。すなわち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギが必要となり、結果として実圧縮比を高めても理論熱効率がほとんど高くならないことがわかった。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストン7に対し押下げ力が作用する期間が長くなり、ピストン7がクランクシャフト9に回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比を大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7に実線で示す実圧縮比が膨張比と共に増大していく場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大幅に高めることができる。そして一般的に、内燃機関は機関負荷が低いときほど熱効率が悪くなる傾向にあるので、機関運転時における熱効率を向上させて燃費を向上させるためには、機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが有効である。
以下、図8を参照しながら、本実施形態による可変圧縮比機構A及び可変バルブタイミング機構Bの基本的な制御について説明する。
図8は、機関本体1の運転領域を示すマップである。図8に示すように、本実施形態では、機関本体1の運転領域が第1負荷ラインと第2負荷ラインとによって3つの領域に区分されている。以下の説明では、便宜上、第1負荷ライン以下の領域を低負荷無過給領域という。第2負荷ライン以下の領域であって低負荷無過給領域を除く領域を中負荷無過給領域という。第2負荷ラインよりも機関負荷の高い領域を高負荷過給領域という。
電子制御ユニット200は、機関回転速度とアクセル踏込量(機関負荷)とに基づいて定まる機関運転点が低負荷無過給領域にあるときは、スーパチャージャ23による過給を実施することなく吸気弁13の閉弁時期を吸気下死点から最も遅角させた遅角側限界閉弁時期に固定し、スロットル弁28によって吸入空気量を制御すると共に、機械圧縮比を上限機械圧縮比に固定する。なお上限機械圧縮比とは、燃焼室容積が最少にされているとき(図3(C)の状態)の機械圧縮比である。
このように電子制御ユニット200は、機関運転点が低負荷無過給領域にあるときは、機械圧縮比を上限機械圧縮比に固定することで膨張比を最大膨張比に維持し、吸気弁13の閉弁時期を遅角側限界閉弁時期に固定することで実圧縮比をノッキングやプレイグニッションが発生しない程度の所定値(本実施形態では11)に維持する。図6に示した機関本体1に適用した場合、吸気弁13の閉弁時期を遅角側限界閉弁時期に固定することで、例えば実際のピストン行程容積が500mlから200mlになっており、機械圧縮比を上限機械圧縮比に固定することで、例えば燃焼室容積が50mlから20mlになっている。したがって、図6に示した機関本体1では、機関運転点が低負荷無過給領域にあるときは、実圧縮比が(20ml+200ml)/20ml=11となっており、膨張比が(20ml+500ml)/20ml=26となっている。
これにより低負荷無過給領域内においては、実圧縮比をノッキングが発生しない程度の値に維持しつつ、膨張比を最大膨張比に維持することができるので、ノッキングの発生を抑制しつつ理論熱効率を大幅に高めることができる。
そして電子制御ユニット200は、機関運転点が低負荷無過給領域にあるときは、吸入空気量が機関負荷に応じた目標吸入空気量となるようにスロットル弁28を制御している。具体的には、機関回転速度が一定であるとすると、図8に示すように機関負荷が第1負荷ライン上のA点に存在するときにスロットル弁28が全開となるように、機関負荷が高くなるほどスロットル開度を大きくしている。そのため、機関負荷が第1負荷ラインよりも高くなると、もはやスロットル弁28で吸入空気量を制御できなくなる。そこで機関負荷が第1負荷ラインよりも高くなったときは、吸気弁13の閉弁時期を遅角側限界閉弁時期から吸気下死点側に進角させることで、吸入空気量を増大させる。
すなわち電子制御ユニット200は、機関運転点が中負荷無過給領域にあるときは、スーパチャージャ23による過給を実施することなくスロットル弁28を全開に固定し、可変バルブタイミング機構Bよって吸入空気量を制御すると共に、実圧縮比が所定値に維持されるように機械圧縮比を上限機械圧縮比から低下させる。
具体的には、電子制御ユニット200は、機関回転速度が一定であるとすると、図8に示すように機関負荷が第2負荷ライン上のB点に存在するときに吸気弁13の閉弁時期が進角側限界閉弁時期となるように、機関負荷が高くなるほど吸気弁13の閉弁時期を遅角側限界閉弁時期から吸気下死点側に進角させることで吸入空気量を増大させる。そして電子制御ユニット200は、実圧縮比が所定値に維持されるように、機関負荷が高くなるほど機械圧縮比を上限機械圧縮比から低下させる。図6に示した機関本体において、吸気弁13の閉弁時期を遅角側限界閉弁時期から吸気下死点側に進角させることで、例えば実際のピストン行程容積が500mlから400mlになったとすると、実圧縮比を一定の11に維持するために、電子制御ユニット200は燃焼室容積が40mlとなるように機械圧縮比を低下させる。
このように、中負荷無過給領域内においては、吸気弁13の閉弁時期が遅角側限界閉弁時期と進角側限界閉弁時期との間の閉弁時期に制御され、実圧縮比を所定値に維持するために、制御された閉弁時期に応じて機械圧縮比が上限機械圧縮比よりも小さくされる。そのため、中負荷無過給領域内においては、膨張比が最大膨張比よりも小さくなるものの、引き続き膨張比を実圧縮比よりも高い値に維持した状態で機関本体を運転させることができる。よって、中負荷無過給領域内においても、ノッキングの発生を抑制しつつ理論熱効率を高めることができる。また、中負荷無過給領域ではスロットル弁28が全開に固定されているので、ポンピング損失をほぼゼロにすることができる。
そして機関負荷が第2負荷ラインよりも高くなると、もはやスロットル弁28でも可変バルブタイミング機構Bでも吸入空気量を制御できなくなる。そこで機関負荷が第2負荷ラインよりも高くなったときは、スーパチャージャ23による過給を行って吸入空気量を増大させる。
すなわち電子制御ユニット200は、機関運転点が高負荷過給領域にあるときは、スロットル開度を全開に固定しつつ吸気弁13の閉弁時期も進角側限界閉弁時期に固定し、吸入空気量が目標吸入空気量となるようにスーパチャージャ23による過給圧(エアバイパス弁26の開度)を制御すると共に、機械圧縮比を下限機械圧縮比に固定する。なお下限機械圧縮比とは、燃焼室容積が最大にされているとき(図3(A)の状態)の機械圧縮比である。
このように本実施形態では、可変圧縮比機構Aと可変バルブタイミング機構Bとを協調的に制御することで、低負荷無過給領域及び中負荷無過給領域において、実圧縮比をノッキングが発生しない程度の値に維持しつつ、実圧縮比よりも膨張比を高めた状態で機関本体1を運転させている。
そのため、機関運転領域の中で、スロットル弁28を全開とした状態で可変バルブタイミング機構Bによって吸入空気量を制御する領域、すなわち中負荷無過給領域が占める割合が高くなる。その結果、図8において破線で囲われた比較的使用頻度の高い運転領域(低中回転・低中負荷領域)内に中負荷無過給領域が広い範囲で存在することになり、機関運転中にスロットル弁28が全開とされる状態が長く続く場合がある。このような場合、スロットル弁28よりも下流側の吸気通路内の圧力が負圧にならないため以下のような問題が生じる。
すなわち機関運転中は、燃焼室10内からクランクケース4内に混合気や燃焼ガス(以下、これらをまとめて「ブローバイガス」という。)が漏れ出ることがある。このブローバイガスがクランクケース4内に溜まってクランクケース4内の圧力が上昇すると、ピストン7が上死点から下死点へ移動する際の大きな抵抗となって機関出力が低下する。また、ブローバイガスがクランクケース4内に溜まると、オイルパン5内のオイルを劣化させる要因となる。そのため内燃機関は、通常、クランクケース4内のブローバイガスを吸気通路に導入するためのブローバイガス還元装置を備えている。ブローバイガス還元装置は、スロットル弁28よりも下流側の吸気通路内に生じる負圧を利用して、クランクケース4内のブローバイガスを吸気通路に導入するように構成されている。
そのため、機関運転中にスロットル弁28が全開とされた状態が長く続くと、ブローバイガスがクランクケース4内に溜まってしまい、機関出力が低下したり、オイルパン5内のオイルが劣化したりするおそれがある。
そこで本実施形態では、スロットル弁28が全開とされた状態のときに、任意の流量のブローバイガスを強制的にクランクケース4内から吸気通路に導入することができるようにブローバイガス還元装置を構成している。以下、この本実施形態によるブローバイガス還元装置90の構成について、図9を参照して説明する。
図9は、本実施形態によるブローバイガス還元装置90の概略構成図である。なお、前述した図1ではブローバイガス還元装置90の図示を省略している。
図9に示すように、ブローバイガス還元装置90は、第1ブローバイガス通路91と、空気供給通路92と、PCV弁93と、ブローバイガス用バイパス通路94と、エゼクタ95と、第2ブローバイガス通路96と、第3ブローバイガス通路97と、逆止弁98と、ファン99と、を備える。
第1ブローバイガス通路91は、クランクケース4内と、スロットル弁28よりも下流側の吸気通路と、に連通する通路であって、本実施形態では一端がオイルセパレータ91aを介してクランクケース4に接続され、他端がサージタンク27aに接続されている。
空気供給通路92は、スーパチャージャ23よりも上流側の吸気通路と、クランクケース4内と、に連通する通路であって、本実施形態では一端がスーパチャージャ23よりも上流側の吸気管22に接続され、他端がシリンダヘッド3に接続されている。なお、空気供給通路92の他端は、シリンダヘッド3の内部空間を介してクランクケース4内と連通している。
PCV弁93は、第1ブローバイガス通路91に設けられる。PCV弁93は、クランクケース4内の圧力と、サージタンク27a内の圧力と、の圧力差によってその開度が変化する圧力作動弁である。具体的には、PCV弁93は、サージタンク27a内の負圧が大きいとき(スロットル開度が小さいとき)は小さいときと比べて、PCV弁93を通過できるブローバイガス流量が少なくなるように構成されている。そして、クランクケース4内の圧力がサージタンク27a内の圧力以下のときは全閉となるように構成されている。
したがって、機関運転点が低負荷無過給領域にあるとき、すなわちスロットル弁28が全開にされていないときは、サージタンク27a内の圧力が負圧になるため、クランクケース4内の圧力がサージタンク27a内の圧力よりも高くなってPCV弁93が開く。その結果、クランクケース4内のブローバイガスが第1ブローバイガス通路91を介してサージタンク27aに吸引される。
そして、クランクケース4内から第1ブローバイガス通路91を介してサージタンク27aに吸引されるブローバイガスの流量が、燃焼室10からクランクケース4内に漏れ出るブローバイガスの流量よりも多くなると、空気供給通路92を介してクランクケース4内に空気(新気)が供給される。クランクケース4内に供給された空気は、クランクケース4内を換気しながらブローバイガスと共に第1ブローバイガス通路91を介してサージタンク27aに吸引される。機関運転点が低負荷無過給領域にあるときは、このようにしてクランクケース4内のブローバイガスが吸気通路に導入される。
ブローバイガス用バイパス通路94は、スーパチャージャ23よりも下流側の吸気通路と上流側の吸気通路とに連通する通路であって、本実施形態では、一端がインタークーラ24とスロットル弁28との間の吸気管22に接続され、他端がスーパチャージャ23よりも上流側の吸気管22に接続されている。
エゼクタ95は、ブローバイガス用バイパス通路94に設けられる。エゼクタ95は、ブローバイガス用バイパス通路94に空気が流れたときに、吸込口95aからガスを吸い込むことができるように構成されている。
第2ブローバイガス通路96は、クランクケース4内と、エゼクタ95を介してブローバイガス用バイパス通路94とに連通する通路であって、本実施形態では一端がオイルセパレータ96aを介してクランクケース4に接続され、他端がエゼクタ95の吸込口95aに接続されている。
機関運転点が高負荷過給領域にあるときは、スロットル弁28が全開にされているため、サージタンク27a内が負圧とならず、第1ブローバイガス通路91を介してクランクケース4内のブローバイガスをサージタンク27aに吸引することができない。
その一方で、機関運転点が高負荷過給領域にあるときは、スーパチャージャ23による過給が行われるため、スーパチャージャ23よりも下流側の吸気管22内の圧力が、スーパチャージャ23よりも上流側の吸気管22内の圧力よりも高くなり、この圧力差によってブローバイガス用バイパス通路94に空気が流れる。その結果、クランクケース4内のブローバイガスが,エゼクタ95の吸込口95aから第2ブローバイガス通路96を介してブローバイガス用バイパス通路94に吸引され、吸気通路に戻される。
そしてクランクケース4内から第2ブローバイガス通路96を介してブローバイガス用バイパス通路94に吸引されるブローバイガスの流量が、燃焼室10からクランクケース4内に漏れ出るブローバイガスの流量よりも多くなると、空気供給通路92を介してクランクケース4内に空気が供給される。クランクケース4内に供給された空気は、クランクケース4内を換気しながらブローバイガスと共に第2ブローバイガス通路96を介してブローバイガス用バイパス通路94に吸引される。機関運転点が高負荷過給領域にあるときは、このようにしてクランクケース4内のブローバイガスが吸気通路に導入される。
第3ブローバイガス通路97は、クランクケース4内と吸気通路とに連通する通路であって、本実施形態では一端がPCV弁93よりも上流側の第1ブローバイガス通路91に接続され、他端がPCV弁93よりも下流側の第1ブローバイガス通路91に接続されている。
第3ブローバイガス通路97には、サージタンク27aから第3ブローバイガス通路97を介して空気がクランクケース4内に流入するのを防止するための逆止弁98と、クランクケース4内のブローバイガスを強制的に吸気通路に戻すためのファン99と、が設けられる。
そして本実施形態では、このファン99を、可変圧縮比機構Aの制御軸60を回転させて各カムシャフト54,55を回転させるための駆動装置40によって駆動できるようにしている。そのために本実施形態では、駆動装置40を、駆動力を発生させる例えばモータ等のアクチュエータ41と、アクチュエータ41の駆動力をファン99及び可変圧縮比機構Aの制御軸60の双方に伝達可能な駆動力伝達部42と、を備えるように構成する。
以下、駆動力伝達部42の構成について説明する。駆動力伝達部42は、第1歯車減速機43と、第2歯車減速機44と、ワンウェイクラッチ45と、電磁クラッチ46と、を備える。
第1歯車減速機43は、第1入力歯車43aと第1出力歯車43bとを備える。第1入力歯車43aは、アクチュエータ41の出力回転軸41aに連結され、アクチュエータ41によって回転させられる。第1出力歯車43bは、第1入力歯車43aと噛み合っており、その一面側がワンウェイクラッチ45の入力軸45aに連結され、他面側が電磁クラッチ46の入力軸46aに連結される。
第2歯車減速機44は、第2入力歯車44aと第2出力歯車44bとを備える。第2入力歯車44aは、電磁クラッチ46の出力軸46bに連結される。第2出力歯車44bは、第2入力歯車44aと噛み合っており、可変圧縮比機構Aの制御軸60に連結される。
ワンウェイクラッチ45は、その入力軸45aが第1出力歯車43bの一面側に連結され、その出力軸45bがファン99に連結される。ワンウェイクラッチ45は、入力軸45aに対して入力軸45aを正転方向に回転させるトルク(正転トルク)が入力されると自立的に締結状態となって出力軸45bを回転させ、入力軸45aに対して入力軸45aを逆転方向に回転させるトルク(逆転トルク)が入力されると自立的に解放状態となって出力軸を回転させないように構成されたクラッチである。したがって、入力軸45aに対して正転トルクが入力されたときのみ、入力トルクが出力軸45bに伝達されてファン99が駆動されることになる。
電磁クラッチ46は、その入力軸46aが第1出力歯車43bの他面側に連結され、その出力軸46bが第2歯車減速機44の第2入力歯車44aに連結される。電磁クラッチ46は、電子制御ユニット200によって解放状態又は締結状態のいずれかの状態に切り替えられるクラッチである。電磁クラッチ46が解放状態になっているときは、電磁クラッチ46の入力軸46aが回転しても出力軸46bは回転しない。電磁クラッチ46が締結状態になっているときは、電磁クラッチ46の入力軸46aが回転すると出力軸46bも回転する。
駆動装置40はこのように構成されており、ファン99を駆動するとき、すなわちクランクケース4内のブローバイガスを強制的に吸気通路に導入するときには、ワンウェイクラッチ45の入力軸45aに対して正転トルクが入力されるようにアクチュエータ41の出力トルクが電子制御ユニット200よって制御される。これにより、アクチュエータ41の出力トルクが第1歯車減速機43を介してワンウェイクラッチ45の入力軸45aに伝達され、ワンウェイクラッチ45が締結状態となってファン99が駆動されることになる。
したがって、アクチュエータ41の出力トルクを任意のトルクに制御することで、ファン99の回転速度を任意の回転速度に制御することができる。すなわち、機関運転点が中負荷無過給領域内にあるときに、任意の流量のブローバイガスを強制的にクランクケース4内から吸気通路に導入することができる。
このとき、アクチュエータ41の出力トルクは第1歯車減速機43を介して電磁クラッチ46の入力軸46aにも伝達されるが、電磁クラッチ46が解放状態であれば、アクチュエータ41の出力トルクは電磁クラッチ46の出力軸46bには伝達されず、制御軸60も回転しない。一方で電磁クラッチ46を締結状態にすれば、アクチュエータ41の出力トルクが電磁クラッチ46の出力軸46bに伝達され、第2歯車減速機44介して制御軸60に伝達される。その結果、制御軸60が正方向に回転させられ、可変圧縮比機構Aによって機械圧縮比が高圧縮比側から低圧縮比側に変更させられる。
一方、ファン99を駆動している状態で、可変圧縮比機構Aによって機械圧縮比を低圧縮比側から高圧縮比側に変更する必要が生じた場合には、制御軸60を逆方向に回転させる必要がある。この場合、電子制御ユニット200は、ワンウェイクラッチ45の入力軸45aに対して逆転トルクが入力されるようにアクチュエータ41の出力トルクを制御する。これにより、ワンウェイクラッチ45が解放状態となって、アクチュエータ41の出力トルクはワンウェイクラッチ45の出力軸に伝達されなくなり、ファン99は惰性で回転する。
そして、このときに電磁クラッチ46を締結状態にすれば、アクチュエータ41の出力トルクが電磁クラッチ46の出力軸46bに伝達され、第2歯車減速機44介して制御軸60に伝達される。その結果、制御軸60が逆方向に回転させられ、可変圧縮比機構Aによって機械圧縮比が低圧縮比側から高圧縮比側に変更させられる。
このように本実施形態では、1つのアクチュエータ41によってファン99及び可変圧縮比機構Aの制御軸60の双方を駆動できるようにしている。これは、ファン99を駆動したい領域と、可変圧縮比機構Aによって機械圧縮比を変更する領域と、がそれぞれ中負荷無過給領域で一致しているためである。
以下、電子制御ユニット200が実施する本実施形態による駆動装置40の制御について説明する。
図10は、本実施形態による駆動装置40の制御について説明するフローチャートである。電子制御ユニット200は、このフローに示されたルーチンを所定の演算周期ごとに繰り返し実行する。
ステップS1において、電子制御ユニット200は、機関運転点が中負荷無過給領域内にあるか否かを判定する。電子制御ユニット200は、機関運転点が中負荷無過給領域内にあればステップS2の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、機関運転点が中負荷無過給領域内になければ、機械圧縮比を変更する必要も、ファン99を駆動する必要もないためステップS11の処理に進む。
ステップS2において、電子制御ユニット200は、機械圧縮比を変更する必要があるか否かを判定する。具体的には、電子制御ユニット200は、本ルーチンとは別途に機関運転中に所定の演算周期ごとに算出している機械圧縮比の目標値(以下「目標機械圧縮比」という。)を読み込み、読み込んだ目標機械圧縮比と、相対位置センサ211の出力信号に基づいて算出される現在の機械圧縮比と、に相違があるか否かを判定する。電子制御ユニット200は、目標機械圧縮比と現在の機械圧縮比とに相違があれば、機械圧縮比を変更する必要があると判定してステップS3の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、目標機械圧縮比と現在の機械圧縮比とが一致していれば、機械圧縮比を変更する必要はないと判定してステップS8の処理に進む。
ステップS3において、電子制御ユニット200は、目標機械圧縮比が現在の機械圧縮比よりも大きいか否かを判定する。電子制御ユニット200は、目標機械圧縮比が現在の機械圧縮比よりも大きければステップS4の処理に進み、小さければステップS5の処理に進む。
ステップS4において、電子制御ユニット200は、アクチュエータ41の目標出力トルクを、可変圧縮比機構Aの制御軸60を正方向に回転させるための予め設定された所定の第1出力トルクに設定する。
ステップS5において、電子制御ユニット200は、アクチュエータ41の目標出力トルクを、可変圧縮比機構Aの制御軸60を逆方向に回転させるための予め設定された所定の第2出力トルクに設定する。第2出力トルクは、第1出力トルクを正のトルクとすると、負のトルクとなる。本実施形態では、第2出力トルクと第1出力トルクの絶対値を同じにしているが、異なる値にしても良い。
ステップS6において、電子制御ユニット200は、電磁クラッチ46が解放状態であれば締結状態とし、締結状態であればそのまま締結状態に維持する。
ステップS7において、電子制御ユニット200は、アクチュエータ41の出力トルクがステップS4又はステップS5で設定された目標出力トルクとなるようにアクチュエータ41を制御する。これにより、機械圧縮比が目標機械圧縮比に向かって変更される。
ステップS8において、電子制御ユニット200は、機関運転状態に基づいてアクチュエータ41の目標出力トルクを算出する。本実施形態では、電子制御ユニット200は、機関運転状態に基づいて第3ブローバイガス通路97を介して吸気通路に強制的に戻すブローバイガスの目標流量を算出し、当該目標流量に基づいてアクチュエータ41の目標出力トルクを算出する。ブローバイガスの目標流量は、基本的に機関回転速度及び機関負荷が高くなるほど大きくなる傾向にある。アクチュエータ41の目標出力トルクは、ブローバイガスの目標流量が大きくなるほど大きくなる傾向にある。なお、機関運転状態から直接アクチュエータ41の目標出力トルクを算出するようにしても良い。
ステップS9において、電子制御ユニット200は、電磁クラッチ46が締結状態であれば解放状態とし、解放状態であればそのまま解放状態に維持する。
ステップS10において、電子制御ユニット200は、アクチュエータ41の出力トルクがステップS8で算出された目標出力トルクとなるようにアクチュエータ41を制御する。これにより、電磁クラッチ46が解放された状態で、第3ブローバイガス通路97を介して強制的に吸気通路に戻されるブローバイガスの流量が機関運転状態に応じた目標流量となるようにファン99が駆動される。
ステップS11において、電子制御ユニット200は、電磁クラッチ46が締結状態であれば解放状態とし、解放状態であればそのまま解放状態に維持する。
ステップS12において、電子制御ユニット200は、第3ブローバイガス通路97を介して吸気通路に強制的に戻すブローバイガスの目標流量をゼロとする。これにより、アクチュエータ41の目標出力トルクがゼロに設定され、アクチュエータ41が停止される。
なお上記の通り、本実施形態では可変圧縮比機構Aの制御軸60を駆動するためのアクチュエータ41によってファン99を駆動することとしたが、可変圧縮比機構Aによって機械圧縮比を変更するときに併せて駆動される駆動対象物(被駆動部)を駆動するための別途のアクチュエータがあれば、当該アクチュエータによってファン99を駆動するようにしても良い。例えば可変バルブタイミング機構Bとして、吸気弁13のバルブリフト量を任意のバルブリフト量に変更可能な可変バルブタイミング機構を用い、中負荷無過給領域において吸気弁13のバルブリフト量を変更することで吸入空気量を制御するようにした場合には、当該可変バルブタイミング機構がこのような駆動対象物に相当する。この場合、可変バルブタイミング機構によって吸気弁13のバルブリフト量を変更するときに回転駆動される回転軸を駆動するためのアクチュエータによってファン99を駆動することができる。
以上説明した本実施形態による内燃機関100は、機関本体1と、機関本体1の機械圧縮比を変更可能に構成された可変圧縮比機構Aと、駆動力を発生させるアクチュエータ41を含む駆動装置40と、可変圧縮比機構Aによって機械圧縮比を変更するときに、アクチュエータ41によって駆動される制御軸(被駆動部)60と、機関本体1のクランクケース4内と吸気通路とに連通する第3ブローバイガス通路(連通路)97と、第3ブローバイガス通路97に設けられ、第3ブローバイガス通路97を介してクランクケース4内のブローバイガスを強制的に吸気通路に導入するためのファン99と、少なくとも駆動装置40を制御可能に構成された電子制御ユニット(制御装置)200と、を備える。
そして駆動装置40が、アクチュエータ41の駆動力を制御軸60の他にファン99にも伝達可能に構成されると共に、アクチュエータ41の駆動力を制御軸60に伝達する駆動力伝達経路に電磁クラッチ(クラッチ)46を有しており、電子制御ユニット200が、機械圧縮比を変更する必要がないときは、電磁クラッチ46を解放状態にすると共に、第3ブローバイガス通路97を介して強制的に吸気通路に導入されるブローバイガスの流量が機関運転状態に応じた目標流量となるようにアクチュエータ41を駆動するように構成されている。
そのため、本実施形態による内燃機関100によれば、機械圧縮比を変更する必要がないときは、クラッチを解放状態にして、第3ブローバイガス通路97を介して強制的に吸気通路に導入されるブローバイガスの流量が機関運転状態に応じた目標流量、すなわち任意の流量となるようにアクチュエータ41を駆動することができる。これにより、機械圧縮比を変更する必要がないときは、電磁クラッチ46を解放状態にして、機関運転状態に応じて変化する燃焼室10からクランクケース4内に漏れ出るブローバイガスの流量に応じて、第3ブローバイガス通路97を介して強制的に吸気通路に戻すブローバイガスの流量を変更することができる。よって、スロットル弁28が全開とされてスロットル弁28よりも下流側の吸気通路内の圧力が負圧にならない場合であっても、所望の流量のブローバイガスを吸気通路に強制的に導入することができ、機関出力の低下及びオイルの劣化を抑制することができる。
また、1つのアクチュエータ41によってファン99及び可変圧縮比機構Aの制御軸60の双方を駆動することができるので、例えばファン99を駆動するためのアクチュエータを別途に追加する場合と比べてコストの低減を図ることができる。
(第2実施形態)
次に、図11を参照して本発明の第2実施形態によるブローバイガス還元装置90について説明する。本実施形態によるブローバイガス還元装置90は、第3ブローバイガス通路97を設けず、第1ブローバイガス通路91内にファン99を設けると共に、ワンウェイクラッチ45を逆入力遮断クラッチ47に変更した点で第1実施形態と相違する、以下、その相違点を中心に説明する。
図11は、本実施形態によるブローバイガス還元装置90の概略構成図である。
図11に示すように、本実施形態では、ファン99をPCV弁93よりも下流側の第1ブローバイガス通路91内に設ける。このようにしても、機関運転点が中負荷無過給領域にあるときにファン99を駆動すれば、ファン99の下流側が負圧となってPCV弁93を開弁させることができるので、任意の流量のブローバイガスを強制的にクランクケース4内からサージタンク27aに導入することができる。
一方で、ファン99をPCV弁93よりも下流側の第1ブローバイガス通路91内に設けた場合、第1実施形態のようにファン99と第1出力歯車43bとをワンウェイクラッチ45を介して連結すると、以下のような問題が生じる。
すなわち、ファン99をPCV弁93よりも下流側の第1ブローバイガス通路91内に設けると、機関運転点が低負荷無過給領域内にあるときに、第1ブローバイガス通路91を流れるブローバイガスによってファン99が回転させられる。そのため、ワンウェイクラッチ45の出力軸45bが正転方向に回転させられ、その回転がワンウェイクラッチ45の入力軸45aに伝達され、第1歯車減速機43を介してアクチュエータ41の出力回転軸41aに伝達されることになる。つまり、ファン99がアクチュエータ41、ひいては駆動装置40と連結された状態で回転させられることになるため、駆動装置40が負荷となってファン99の回転が阻害され、結果としてファン99がブローバイガスの流れを阻害することになる。
そこで本実施形態では、図11に示すように、ファン99と第1出力歯車43bとを、入力軸47aからの回転トルクは出力軸47bに伝達するが、出力軸47bからの回転トルクは入力軸47aに伝達しない逆入力遮断クラッチ47を介して連結する。これにより、第1ブローバイガス通路91を流れるブローバイガスによってファン99が回転させられたときに、ファン99を駆動装置40から切り離した状態で回転させることができるので、ファン99がブローバイガスの流れを阻害するのを抑制することができる。
本実施形態による逆入力遮断クラッチ47は、ワンウェイクラッチ45のときと同様に、入力軸47aに対して入力軸47aを正転方向に回転させる正転トルクが入力されると自立的に締結状態となって出力軸47bを回転させ、入力軸47aに対して入力軸47aを逆転方向に回転させる逆転トルクが入力されると自立的に解放状態となって出力軸47bを回転させないように構成されている。そして、出力軸47bからの回転トルクは入力軸47aに伝達しないように構成されている。以下、このような逆入力遮断クラッチ47の構成について図12及び図13を参照して説明する。
図12は、本実施形態による逆入力遮断クラッチ47の一例を示す概略構成図である。図13は、図12のXIII-XIII線に沿う逆入力遮断クラッチ47の断面図である。
図12及び図13に示すように、逆入力遮断クラッチ47は、入力軸47a(図13参照)と、出力軸47bと、ケーシング471と、入力軸47aに連結されて入力軸47aと共に回転する外輪472と、外輪472と出力軸47bとの間に配置されたローラ473と、バネ474(図13参照)によって外輪472の側面とケーシング471の内側面に押し付けられているボール475と、ローラ473とボール475とを保持する保持器476と、を備える。
外輪472の内周面にはカム面472aが形成されており、本実施形態では、このカム面472aを、入力軸47aが正転方向に回転したときにのみローラ473が外輪472と出力軸47bとの間に噛み込むようなプロフィールとしている。
図12に示す中立状態から、入力軸47aが正転方向に回転して外輪472が図12に示す矢印A方向に回転すると、外輪472の側面とケーシング471の内側面とに押し付けられているボール475が、外輪472の側面とケーシング471の内側面との間を周方向に転がる。これにより、ボール475を保持している保持器476が、外輪472と所定の回転速度差で、外輪472と同方向に回転する。そのため、外輪472と保持器476との回転速度差によって、保持器476に保持されたローラ473が外輪472に対して図12に示す矢印B方向に相対的に移動し、ローラ473が外輪472のカム面472aと出力軸47bとの間に噛み込んでロック状態となり、出力軸47bが外輪472と一体となって回転する。ロック状態は、入力軸47aを逆転方向に少し回転させることで解除することができる。
一方で、入力軸47aが逆転方向に回転して外輪472が矢印A方向とは反対方向に回転したときは、ローラ473は外輪472に対して矢印B方向とは反対方向に相対的に移動するので、ローラ473が外輪472と出力軸との間に噛み込まずに中立状態のままとなり、出力軸47bは回転しない。
また、図12に示す中立状態から、出力軸47bが正逆いずれの方向に回転させられたとしても、ボール475は外輪472の側面とケーシング471の内側面との間を周方向に転がらない。そのため、保持器476は図12に示す状態から回転することなく、ローラ473が外輪472のカム面472aと噛み込まない位置に保持されたままとなり、入力軸47aは回転しない。そのため、機関運転点が低負荷無過給領域内にあるときに、第1ブローバイガス通路91を流れるブローバイガスによってファン99が回転させられても、その回転は逆入力遮断クラッチ47の入力軸47aには伝達されないので、ファン99を駆動装置40から切り離した状態で回転させることができる。よって、機関運転点が低負荷無過給領域内にあるときに、ファン99によってブローバイガスの流れが阻害されるのを抑制することができる。
以上説明した本実施形態による内燃機関100は、機関本体1のクランクケース4内とサージタンク(吸気通路)27aとに連通する第1ブローバイガス通路(連通路)91にファン99を備える。そのため、第1実施形態と同様の効果が得られるほか、第3ブローバイガス通路97が不要になるので、第1実施形態と比べてブローバイガス還元装置90を簡略な構成にすることができる。また、駆動装置40が、アクチュエータ41の駆動力をファン99に伝達する駆動力伝達経路に逆入力遮断クラッチ47を有するように構成される。そのため、機関運転点が低負荷無過給領域内にあるときに、第1ブローバイガス通路91に設けられたファン99によってブローバイガスの流れが阻害されるのを抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上記の各実施形態では過給機の一例としてスーパチャージャ23を例示したが、ターボチャージャに置き換えることもできる。