図1は、第1実施例による灯具に使用されるエレクトロデポジション素子2を示す概略的な断面図である。
エレクトロデポジション素子2は、たとえば略平行に離間して対向配置された上側基板(セグメント基板)10a、下側基板(コモン基板)10b、及び、両基板10a、10b間に配置された電解質層14を含んで構成される。
上側基板10a、下側基板10bは、それぞれ上側透明基板11a、下側透明基板11b、及び、各透明基板11a、11b上に形成された上側透明電極(セグメント電極)12a、下側透明電極(コモン電極)12bを含む。透明電極12a、12bは、表面が平滑な電極である。上側透明基板11a及び下側透明基板11bは、たとえばガラス基板であり、上側透明電極12a及び下側透明電極12bは、たとえばITOで形成される。
電解質層14は、上側基板10aと下側基板10bの間の、シール部13の内側領域に配置され、銀を含有するエレクトロデポジション材料(たとえばAgNO3)を含む。
図2Aに、上側基板10aの概略的な平面図を示す。上側透明電極12aは、上側透明基板11a上に形成されたパターニング電極である。上側透明電極12aは、相互に電気的に独立した4つの透明電極12a1〜12a4からなる。各透明電極12a1〜12a4の電極幅は、たとえば2mmであり、各透明電極12a1〜12a4間の距離は、たとえば50μmである。電極幅、電極間距離はこれに限られない。
図2Bに、下側基板10bの概略的な平面図を示す。下側透明電極12bは、下側透明基板11b上に形成され、短辺(電極幅)が2mmの矩形の1つの角部から、1つの角が15°の直角三角形状領域を切り取った形状の電極パターンを有する。
図2Cに、エレクトロデポジション素子2の概略的な平面図を示す。基板10a、10b法線方向から見たとき、電極12a1〜12a4と電極12bが重なる領域に画素が画定される。本図においては、画素に斜線を付して示した。エレクトロデポジション素子2は、一方向(図の左右方向)に画素間距離50μmで配置される4つの画素を備える。右側の2つの画素は2mm×2mmの正方形状である。左側の2つの画素は台形状である。画素は、シール部13の内側領域に配置される。
エレクトロデポジション素子2は、電極12a、12bに印加する直流電圧によって、各画素の透明状態と非透明状態(ミラー状態)を電気的に切り替えることができる。
電圧無印加時、エレクトロデポジション素子2に入射する光は、これを透過する。
電圧印加時、一例として、下側透明電極12bをアースし、上側透明電極12aに−2.5Vの直流電圧を印加すると、電解質層14に含まれる銀イオンが還元されて、上側透明電極12a(負電圧側となる電極)近傍で金属の銀に変化し、電極12a上に析出・堆積して、銀薄膜が形成される。銀薄膜は鏡面として作用し、画素に入射する光を正反射する。画素の面積や使用材料等により異なるが、たとえば上側透明電極12aと下側透明電極12bとの間に、1.5V〜8Vの電位差を設けることで銀薄膜を形成することができる。
銀薄膜は、電圧をOFF(0Vもしくは開放状態)とするか、逆バイアス(たとえば+1V)を印加することにより、上側透明電極12a上から消失する。逆バイアスを印加する方が、速やかに銀を消失させてエレクトロデポジション素子2を透明状態とすることができる。
エレクトロデポジション素子2は、直流電圧の無印加−印加により、画素位置の透明状態とミラー状態(反射状態)を可換的に実現するミラーデバイスとして用いることができる。
エレクトロデポジション素子2の各画素(各電極12a1〜12a4)には独立して電圧を印加可能である。したがってエレクトロデポジション素子2は、画素単位で任意に、透明状態とミラー状態を切り替えることができる。
エレクトロデポジション素子2は、たとえば以下のように作製した。
一対の透明電極パターン付きガラス基板(基板10a、10b)を準備する。ガラス基板上の透明電極には、平滑性のある透明導電膜、一例としてITO膜を用いる。透明導電膜は、スパッタ、CVD、蒸着等により成膜することができる。
一対のガラス基板を、ITO膜が対向するように配置してセル化を行った。
たとえば20μm〜数百μm径、実施例においては500μm径のギャップコントロール剤を、一対の基板の一方上に、一例として1個〜3個/mm2となるように散布する。ギャップコントロール剤の径に応じ、灯具の機能に影響を与えにくい散布量とすることが望ましい。なお、実施例による灯具に使用されるエレクトロデポジション素子2においては、多少ギャップムラがあっても影響は少ないため、ギャップコントロール剤の散布量の重要性は高くない。また実施例においては、ギャップコントロール剤を用いたギャップコントロールを行うが、リブなどの突起によってギャップコントロールを行うことも可能である。更に、小型セルの場合は、シール部分に所定厚さのフィルム状スペーサを配置してギャップを制御してもよい。
一対の基板の他方上に、メインシールパターンを形成した。実施例では、紫外線+熱硬化タイプのシール材を用いた。シール材として、光硬化タイプ、または熱硬化タイプを使用してもよい。なお、ギャップコントロール剤の散布とメインシールパターンの形成は同一基板側に行ってもよい。
次に、エレクトロデポジション材料を含む電解液を一対の基板間に封入した。
実施例では、ODF工法を用いた。一対の基板の一方上に、エレクトロデポジション材料を含む電解液を適量滴下する。滴下方法として、ディスペンサーやインクジェットを含む各種印刷方式が適用可能である。ここではディスペンサーを用いた。なお、前述のシール材は、用いる電解液に耐えるシール材料(腐食されないシール材)であることが好ましい。
真空中で、一対の基板の重ね合わせを行った。大気中、もしくは窒素雰囲気中で行ってもよい。
紫外線を、たとえば6J/cm2のエネルギ密度でシール材に照射し、シール材を硬化して、シール部13を形成した。なお、紫外線がシール材のみに照射されるように、SUSマスクを使用した。
エレクトロデポジション材料を含む電解液は、エレクトロデポジション材料(AgNO3等)、電解質(TBABr等)、メディエータ(CuCl2等)、支持電解質(LiBr等)、溶媒(DMSO; dimethyl sulfoxide 等)、ゲル化用ポリマー(PVB; polyvinyl butyral 等)などにより構成される。実施例においては、溶媒であるDMSO中に、エレクトロデポジション材料としてAgNO3を50mM添加し、LiBrを250mM支持電解質として加え、メディエータとしてCuCl2を10mM添加した。そしてホストポリマーとしてPVBを10wt%加え、ゲル状(ゼリー状)の電解質層14とした。
エレクトロデポジション材料には、たとえば銀を含むAgNO3、AgClO4、AgBr等を使用することができる。
支持電解質は、エレクトロデポジション材料の酸化還元反応等を促進するものであれば限定されず、たとえばリチウム塩(LiCl、LiBr、LiI、LiBF4、LiClO4等)、カリウム塩(KCl、KBr、KI等)、ナトリウム塩(NaCl、NaBr、NaI等)を好適に用いることができる。支持電解質の濃度は、たとえば10mM以上1M以下であることが好ましいが、特に限定されるものではない。
溶媒は、エレクトロデポジション材料等を安定的に保持することができるものであれば限定されない。水や炭酸プロピレン等の極性溶媒、極性のない有機溶媒、更にはイオン性液体、イオン導電性高分子、高分子電解質等を使用することが可能である。具体的には、DMSOの他、炭酸プロピレン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ポリビニル硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸等を好適に用いることができる。
作製したエレクトロデポジション素子2を観察したところ、初期状態ではほぼ透明であった。わずかに黄みを帯びても見えたが、これはメディエータであるCuCl2の色であると思われる。メディエータとして異なる材料を使用する、または、セル厚を薄くすることで無色透明の電解質層14とすることができる。
本願発明者は、作製したエレクトロデポジション素子2の光学特性(透過率特性及び反射率特性)を測定した。
図3に、測定時のエレクトロデポジション素子2の配置態様を示す。測定に当たっては、基板10a側の、基板法線方向から光を入射させた。また、基板10a側が負電圧側となるように直流電圧を印加した。すなわち測定光は、銀を析出させる基板側から、エレクトロデポジション素子2に入射する。
図4A、図4Bは、それぞれエレクトロデポジション素子2の透過率特性、反射率特性を示すグラフである。図4Aのグラフの横軸は、波長を単位「nm」で表し、縦軸は透過率を「%」で表す。また、図4Bのグラフの横軸は、波長を単位「nm」で表し、縦軸は、反射率を「%」で表す。各グラフにおいて、実線で示す曲線は、電圧無印加状態、点線で示す曲線は、基板10aに−2.5Vの直流電圧を印加した状態の透過率、反射率を示す。透過率、反射率は、エアーでの光透過量を100%としたときの値である。なお、電圧印加時にエレクトロデポジション素子2を観察したところ、鏡面反射を示していることが確認された。
図4Aの実線で示す曲線を参照する。電圧無印加時の透過率には若干の波長依存性があり、波長が短いと透過率が低いという関係が見られるが、平均すると80%以上の光が透過されることがわかる。また、この透過率曲線から、電圧無印加時においては、素子が黄みを帯びることが理解される。メディエータであるCuCl2の色であると思われるため、たとえばセル厚を薄くすることで改善することができる。また、異なる材料を使用することで、フラットな透過率を実現することも可能である。
図4Aの点線で示す曲線を参照すると、電圧印加時(鏡面状態)においても、波長によらず20%程度以下の光が透過(光抜け)していることがわかる。この点は、たとえば駆動条件や電解質層の構成を検討することで改善可能である。
図4Bの点線で示す曲線を参照する。電圧印加時(鏡面状態)においては広い波長領域にわたって、高い反射率、平均すると80%以上の反射率が得られることがわかる。
図4Bの実線で示す曲線を参照すると、電圧無印加時においても、表面反射等により、波長によらず10%〜20%超程度の光が反射されることがわかる。この反射は、たとえば反射防止膜の形成などにより、低く抑えることが可能である。
図5Aは、第1実施例による灯具(車両用前照灯)を示す概略図である。第1実施例による灯具は、発光部(光源)1、エレクトロデポジション素子2、反射板3、及び、投影レンズ4を備える。たとえば図の上方向は鉛直上方、下方向は鉛直下方に対応する。
1つの発光部1から光が出射される。出射される光の光軸方向は、たとえば図の左右方向である。発光部1を出射した光は、ミラー面が光軸に対し垂直から傾斜するように配置されたエレクトロデポジション素子2に入射する。ミラー面の角度は、反射光が発光部1から外れ、反射板3に向かうように設定される。
エレクトロデポジション素子2は、一方向に沿って配列する4つの画素2p1〜2p4を備え、画素単位で任意に、透明状態とミラー状態を切り替えることができる。エレクトロデポジション素子2は、画素2p1〜2p4面(電極面、基板面)の法線方向と、入射光の光軸方向とが非平行になるように配置される。セグメント電極12a1〜12a4とコモン電極12bとの間に印加する電圧の印加態様を異ならせ、画素2p1〜2p4ごとに独立して透明状態とミラー状態を切り替えて、画素2p1〜2p4単位で、画素2p1〜2p4位置に入射する入射光の透過または反射を行う。
図5Bに、エレクトロデポジション素子2に入射する光の入射範囲を示す。図5Bの左右方向は、図5Aの紙面垂直方向と平行な方向である。発光部1を出射した光は、たとえば本図に点線で示した領域の内側、すなわちシール部13のパターンに沿ってその内側の一定領域に照射される。画素2p1〜2p4以外の位置に入射した光は、エレクトロデポジション素子2を透過する。このため、エレクトロデポジション素子2の画素2p1〜2p4非形成位置、及び、透明状態にある画素2p1〜2p4に入射した光が、エレクトロデポジション素子2の透過光となる。
なお、エレクトロデポジション素子2は、発光部1を出射した光が、たとえばセグメント電極12a1〜12a4側(銀を析出させる基板側)から入射するように配置される。コモン電極12b側(銀を析出させない基板側)から入射するように配置してもよい。セグメント電極12a1〜12a4側から入射させる方がエレクトロデポジション素子2における光反射率を高くすることができる。
図6A〜図6Cは、エレクトロデポジション素子2の光出射面側から発光部1を観察した写真である。なお本図に示す写真は、第1実施例による灯具から、反射板3と投影レンズ4を除いて撮影した。
図6Aは、エレクトロデポジション素子2を完全OFF(画素2p1〜2p4をすべて透明状態)にした場合を示す。発光部1を出射した光は、すべてエレクトロデポジション素子2を透過する。
図6Bは、エレクトロデポジション素子2を全面ON(画素2p1〜2p4をすべてミラー状態)にした場合を示す。エレクトロデポジション素子2の画素2p1〜2p4位置に入射した光は透過されない(反射される)。
図6Cは、エレクトロデポジション素子2を部分的にON(本図に示す例においては、画素2p1、2p3をミラー状態)にした場合を示す。エレクトロデポジション素子2のONされた画素(画素2p1、2p3)位置に入射した光は透過されない(反射される)。
図6A〜図6Cの写真に示されるように、発光部1を出射した光の光路上にエレクトロデポジション素子2を配置し、画素2p1〜2p4の状態(透明状態/ミラー状態)を制御することで、エレクトロデポジション素子2を出射する光の制御を行うことができる。
再び、図5Aを参照する。光源1を出射し、エレクトロデポジション素子2を透過した光は、投影レンズ4に入射し、これを透過して照明光(ロービーム及びハイビーム)として車両前方(図面右方向)に出射される。投影レンズ4は、エレクトロデポジション素子2の位置の像を反転投影する。このため、エレクトロデポジション素子2を透過し、投影レンズ4のロービーム出射部4a(図5Aにおいては、レンズ4の上側半分)に入射した光は、ロービームとして投影レンズ4を出射する。また、エレクトロデポジション素子2を透過し、投影レンズ4のハイビーム出射部4b(図5Aにおいては、レンズ4の下側半分)に入射した光は、ハイビームとして投影レンズ4を出射する。エレクトロデポジション素子2の画素2p1〜2p4位置(透明状態にある画素2p1〜2p4)に入射し、これを透過した光はハイビーム出射部4bに入射し、ハイビームとして投影レンズ4から出射される。なお投影レンズ4は、エレクトロデポジション素子2の位置(画素形成位置)の像を反転投影するため、4つの画素2p1〜2p4は、少なくとも投影レンズ4の焦点部分の大きさに収まるサイズとすることが望ましい。
光源1を出射し、エレクトロデポジション素子2のミラー状態にある画素2p1〜2p4で反射された光は、更に反射板3で反射される。反射板3は、たとえば発光部1の下方に、エレクトロデポジション素子2の画素2p1〜2p4に対向して配置される平板ミラーである。反射板3で反射された光は、エレクトロデポジション素子2のミラー状態にある画素2p1〜2p4以外の領域、たとえば画素2p1〜2p4非形成位置(透明領域)、一例として、発光部1から出射され、エレクトロデポジション素子2に入射する光の入射範囲(図5B参照)内の画素2p1〜2p4非形成位置に入射して、これを透過する。透過した光は、たとえば投影レンズ4のロービーム出射部4aに入射して、ロービームとして車両前方に出射される。図5Aには、エレクトロデポジション素子2のミラー状態にある画素2p1〜2p4に入射した光の進行方向を矢印で示した。
ミラー状態にある画素2p1〜2p4で反射された光が、更に反射板3で反射され、ロービームとして再利用される分、ロービームの照度を高くすることができる。運転の高い安全性が実現されるとともに、発光部1から出射される光の利用効率が高められる。
なお、エレクトロデポジション素子2の配設位置(画素2p1〜2p4位置)は、たとえばシェードが用いられる車両用前照灯における、シェード配設位置に対応する。シェードは所定形状(カットオフパターン)の遮光部を備え、投影レンズを出射する照明光のカットオフパターン(カットオフライン)を形成する。第1実施例による灯具では、たとえば図5Bにおける画素2p1〜2p4の上側輪郭を用いてカットオフパターンが形成される。すなわち、コモン電極12bは、カットオフ形状パターン電極である。
第1実施例による灯具においては、投影レンズ4(ロービーム出射部4a及びハイビーム出射部4b)を出射した照明光(ロービーム及びハイビーム)により、複数の配光パターンが形成される。
図7A及び図7Bに、第1実施例による灯具(車両用前照灯)を用いて得られる配光パターンの例を示す。両図には、自動車の運転席から視認される車両状況及び前照灯の配光パターン(投影状態)を概略的に示した。
図7Aは、エレクトロデポジション素子2の全画素をミラー状態(全面ON)にしたときの配光パターンである。全画素2p1〜2p4がミラー状態のとき、画素2p1〜2p4で反射され、更に、反射板3で反射された光は、エレクトロデポジション素子2に再入射してこれを透過し、投影レンズ4のロービーム出射部4aに入射する。そして、発光部1を出射後、たとえばエレクトロデポジション素子2の画素2p1〜2p4位置以外を透過して投影レンズ4のロービーム出射部4aに入射した光とともに、ロービームとして出射される。図示する配光領域は、ミラー状態の画素2p1〜2p4に入射する光を再利用しない場合よりも明るい。
図7Bは、エレクトロデポジション素子2の一部の画素を透明状態、残部の画素をミラー状態としたときの配光パターンである。具体的には、画素2p1、2p3を透明状態、画素2p2、2p4をミラー状態とした。
透明状態にある画素2p1、2p3に入射した光は、投影レンズ4のハイビーム出射部4bに入射して、ハイビームとして出射される。ミラー状態にある画素2p2、2p4に入射した光は、画素2p2、2p4で反射され、更に、反射板3で反射され、エレクトロデポジション素子2に再入射してこれを透過し、たとえば投影レンズ4のロービーム出射部4aに入射する。そして、発光部1を出射後、たとえばエレクトロデポジション素子2の画素2p1〜2p4位置以外を透過して投影レンズ4のロービーム出射部4aに入射した光とともに、ロービームとして出射される。ミラー状態の画素2p2、2p4に入射する光を再利用しない場合よりも明るいロービーム配光が得られる。
図7Bの配光パターンは、画素2p1、2p3を透過した光が照明光として照明する領域(配光領域)が、図7Aの配光パターンに付加されている。付加される配光領域には、透明状態にある画素2p1〜2p4の位置及び形状が反映される。すなわち、第1実施例による灯具においては、投影レンズ4のハイビーム出射部4bを出射する照明光の少なくとも一部は、透明状態にある画素2p1〜2p4に応じた位置及び形状の領域を照明する。一方、ロービーム光学系を出射する照明光は、一定領域を照明する。これは、たとえば発光部1から出射された光がエレクトロデポジション素子2の一定領域に照射されること、画素2p1〜2p4位置に入射して、これを透過する光はハイビーム出射部4bに入射すること、及び、投影レンズ4が、エレクトロデポジション素子2の位置の像を投影することによる。第1実施例による灯具は、透過領域となる画素2p1〜2p4(セグメント電極12a1〜12a4への電圧印加態様)を変えることで、ハイビームの配光領域(投影像パターン)を変化させることができる。
付加される配光領域(セグメント電極12a1〜12a4への電圧印加態様)は、たとえば前方走行車や対向車の位置等の車両状況に応じて決定すればよい。図7Bに示す例においては、前方走行車や対向車のない位置の遠方領域が照明されるように、透過領域となる画素2p1、2p3を選択した。図7Bの配光パターンは、たとえば正面方向の遠方の状態や、沿道の状態の確認を可能にする。良好な視界を確保し、運転の安全性を高めるとともに、前方走行車や対向車の運転者が眩しくない状態を実現する配光パターンの一例である。
付加される配光領域の決定(透過領域となる画素2p1〜2p4の選択)は、たとえば運転者が行う。前方走行車や対向車の位置を感知するセンサを車両に搭載し、センサで得られた情報をもとに、エレクトロデポジション素子2の画素状態(透明状態/ミラー状態)を電気的に制御する制御装置を用いて、自動的に配光制御を行ってもよい。この場合、高い安全性を実現する配光状態を、常時得ることができる。
第1実施例による灯具は、たとえば車両状況に応じて配光パターンを形成することが可能な、高い配光制御性を備える配光可変型前照灯(Adaptive Driving Beam; ADB)である。発光部1から出射された光は、たとえば、基本的にエレクトロデポジション素子2を透過して、照明光として出射される。また、前方走行車や対向車の位置(照明することが適当でない位置)に対応する位置の画素2p1〜2p4のみがミラー状態となるように、エレクトロデポジション素子2への電圧印加態様が制御される。ミラー状態の画素2p1〜2p4で反射された光は、エレクトロデポジション素子2に再入射してこれを透過し、たとえばロービームとして再利用される。ミラー状態にある画素2p1〜2p4で反射された光が再利用されるため、たとえばロービームの照度が高く、また、発光部1から出射される光の利用効率が高められる。第1実施例による灯具は、自車、前方走行車、対向車のすべての運転者にとって、高い安全性を実現する。
更に、可動部(機械的手段)を用いずにADBを実現することができ、このため、たとえば小型化・薄型化・軽量化が可能である。また、振動に強く、信頼性の高いADBを低コストで実現することができる。
なお、図4A及び図4Bを参照して説明したように、エレクトロデポジション素子2の電圧無印加時透過率及び電圧印加時反射率は、ともに80%以上である。このためこの観点からも、第1実施例による灯具は、発光部1から出射される光の利用効率が高い。
図8は、第2実施例による灯具(車両用前照灯)を示す概略図である。第2実施例においては、エレクトロデポジション素子2は、画素2p1〜2p4面(電極面、基板面)の法線方向と、入射光の光軸方向とのなす角が、第1実施例よりも大きくなるように、具体的には20°以上となるように配置される。また第1実施例では、エレクトロデポジション素子2のミラー状態にある画素2p1〜2p4で反射された光は、反射板3により、一回だけ反射されてエレクトロデポジション素子2に再入射したが、第2実施例では、複数回反射されてエレクトロデポジション素子2に再入射する。具体的には、ミラー状態にある画素2p1〜2p4の反射光は、たとえば画素2p1〜2p4に対向して配置される、椀形状の反射部材5の下側領域で反射され、更に、反射部材5の上側領域で反射されて、エレクトロデポジション素子2に再入射する。他の構成等は第1実施例と同様である。
第2実施例による灯具においては、第1実施例と同様の効果が奏される。更に、第1実施例に比べ、小型化が実現される。
なお第2実施例においては、1つの反射部材5の異なる2つの領域で反射を行ったが、画素2p1〜2p4に対向して配置される第1反射部材で反射した後、第1反射部材とは異なる第2反射部材で反射して、エレクトロデポジション素子2に再入射させてもよい。
図9Aは、第3実施例による灯具に使用されるエレクトロデポジション素子2の上側透明電極(セグメント電極)12a、及び下側透明電極(コモン電極)12bを示す概略的な平面図である。
実線で示される上側透明電極12aは、相互に電気的に独立した透明電極12a1〜12a12からなる。また破線で示される下側透明電極12bは、矩形状にパターニングされている。上側透明電極12a1〜12a11は、下側透明電極12bの矩形長辺に対し、たとえば15°傾斜して配置される、同一幅の短冊状電極である。また上側透明電極12a12は、たとえば図9Aにおいては、電極12a11の右側領域を蔽うように形成される。エレクトロデポジション素子2の他の構成は、第1実施例と同様である。
図9Bに、第3実施例による灯具の発光部1の概略を示す。第3実施例による灯具においては、発光部1は、複数のLED1a1〜1a16を含むLEDアレイとして構成され、複数のLED1a1〜1a16は、2段に配置される。第1段にはLED1a1〜1a12、第2段には、LED1a13〜1a16が、LED1a5〜1a8と隣接して配置される。
第3実施例による灯具は、発光部1及びエレクトロデポジション素子2を除いては、第1実施例と同様の構成を備える。なお後述するように、制御の態様が第1実施例と相違する。
図10は、第3実施例による灯具に使用されるエレクトロデポジション素子2を示す概略的な一部平面図である。基板10a、10b法線方向から見たとき、上側透明電極12a1〜12a12と下側透明電極12bが重なる領域に画素2p1〜2p12が画定される。本図には、図9BのLEDアレイ(LED1a1〜1a16)を、画素2p1〜2p12に対応するように、あわせて記載した。
領域Aは、画素2p12の形成位置に対応する領域である。また領域Bは、画素2p1〜2p11の形成位置に対応する領域である。発光部1から出射され、領域A、Bに入射する光は、画素2p1〜2p12の状態(透明状態/ミラー状態)に応じて、エレクトロデポジション素子2を透過または反射する。エレクトロデポジション素子2を透過した光は、投影レンズ4に入射して、照明光として出射される。エレクトロデポジション素子2で反射された光は、更に、反射板3で反射され、エレクトロデポジション素子2に再入射してこれを透過し、投影レンズ4に入射する。そして、発光部1を出射後、たとえばエレクトロデポジション素子2の画素2p1〜2p12位置以外を透過して投影レンズ4に入射した光とともに、照明光として出射される(図5A参照)。
領域Cは、画素2p1〜2p12非形成位置に対応する領域である。発光部1から出射され、領域Cに入射する光は、エレクトロデポジション素子2を透過して、投影レンズ4に入射し、照明光として出射される。
なお第3実施例による灯具では、たとえば画素2p1〜2p12の上側輪郭を用いて(ミラー状態にある画素2p1〜2p12で、発光部1から出射された光の一部を反射することで)カットオフパターンが形成される。すなわち、上側透明電極(セグメント電極)12a1〜12a12が、カットオフ形状パターン電極となる。また、エレクトロデポジション素子2は、印加する電圧値等によって、透過光量、反射光量の調整が可能である。
第3実施例による灯具においては、エレクトロデポジション素子2に印加する電圧の印加態様等によって、走行ビーム配光、及び、すれ違いビーム配光を得る。走行ビーム配光は、相対的に遠方の領域まで照明する配光パターンであり、すれ違いビーム配光は、相対的に近い領域を照明する、たとえば対向車の存在時に適用されることが望ましい配光パターンである。また第3実施例による灯具においては、たとえばすれ違いビーム配光時に、ステアリング操作に連動し、ステアリングの操舵角に応じて配光パターンを変化させる(Adaptive Front-lighting System; AFS)。
たとえば領域Aは、走行ビーム配光時には、透明状態として光透過率が90%程度となるように、また、すれ違いビーム配光時には、ミラー状態として光透過率が10%程度となるように制御される。制御は、制御装置を用い、画素2p12(上側透明電極12a12)に印加する電圧値を変えることで行われる。
領域Bは、走行ビーム配光時には、たとえば透明状態として光透過率が90%程度となるように、また、すれ違いビーム配光時には、たとえば一部の画素が透明状態(光透過率は90%程度)となり、残部の画素がミラー状態(光透過率は10%程度)となるように制御される。制御は、制御装置を用い、画素2p1〜2p11(上側透明電極12a1〜12a11)に印加する電圧値を変えることで行われる。すれ違いビーム配光時には、各画素2p1〜2p11への印加電圧値が制御されることで、エレクトロデポジション素子2におけるカットオフパターンが変更される。印加電圧値は、一例として、AFS機能に基づき、ステアリングの操舵角にしたがって、画素2p11から画素2p1に向かう方向に、順次、ミラー状態に切り替わるように制御される。ステアリングの操舵角に応じた画素状態(透明状態/ミラー状態)とすることで、すれ違いビーム配光の配光領域が揺動される。
領域Cに入射する光は、走行ビーム配光、すれ違いビーム配光のいずれの配光時にも、エレクトロデポジション素子2及び投影レンズ4を透過して、照明光として出射される。
第3実施例による灯具においては、画素2p1〜2p12の状態(透明状態/ミラー状態)と発光部1の発光状態(各LED1a1〜1a16の発光/非発光)を同期させる制御を行う。
たとえば、LED1a13〜1a16は、走行ビーム配光時には発光し、すれ違いビーム配光時には発光しないように、制御装置により制御される。またLED1a5〜1a8は、走行ビーム配光時に発光され、LED1a1〜1a4、1a9〜1a12は、走行ビーム配光時には発光されないように制御される。すれ違いビーム配光時には、画素状態に応じて、LED1a1〜1a12のうちの4つから発光が行われる。
図11〜図14を参照し、走行ビーム配光時とすれ違いビーム配光時の画素状態、及び発光部1の発光状態を詳述する。
図11に、走行ビーム配光時の画素状態、及び発光部1の発光状態を示す。走行ビーム配光時には、領域A及び領域Bの画素2p1〜2p12がすべて透明状態とされる。また、発光部1においては、LED1a5〜1a8、1a13〜1a16から発光が行われる。発光されるLED1a5〜1a8、1a13〜1a16を太線で囲んで示した。
エレクトロデポジション素子2に入射した光は、領域A〜領域Cのすべてにおいてこれを透過し、投影レンズ4に入射して、投影レンズ4から照明光として出射される。
図12Aは、直進時のすれ違いビーム配光を形成する画素状態、及び発光部1の発光状態を示す概略的な平面図である。直進時のすれ違いビーム配光の形成に当たっては、画素2p1〜2p5(領域Bの画素の一部)が透明状態とされ、画素2p6〜2p12(領域A、及び領域Bの画素の残部)がミラー状態とされる。また発光部1においては、LED1a5〜1a8から発光が行われる。
エレクトロデポジション素子2の透明状態位置(領域Bの画素2p1〜2p5位置及び領域C)に入射した光は、これを透過して投影レンズ4に入射し、投影レンズ4から照明光として出射される。
エレクトロデポジション素子2の反射状態位置(領域A、及び領域Bの画素2p6〜2p11位置)に入射した光は反射され、更に反射板3で反射された後、エレクトロデポジション素子2の透明状態位置、たとえば領域Cを透過して、投影レンズ4に入射し、投影レンズ4から照明光、たとえばロービームとして出射される。
図12Bに、直進時のすれ違いビーム配光パターンを示す。投影レンズ4から出射される照明光により、本図に示す配光パターンが得られる。なお、本図に示す配光パターンは、たとえば第1実施例における図7Aの配光パターンに対応する。
図13Aは、たとえば左カーブ走行時、ステアリングが左に切られた場合のすれ違いビーム配光を形成する画素状態、及び発光部1の発光状態を示す概略的な平面図である。ステアリングが左に切られた場合には、領域Bにおけるミラー状態の画素が、直進時(図12A参照)よりも画素2p1の方向に多くなるとともに、発光が行われるLEDがそれと同方向(LED1a1の方向)に、順次移動する。図13Aに示す例においては、画素2p1が透明状態とされ、画素2p2〜2p12がミラー状態とされる。また、LED1a1〜1a4から発光が行われる。
図13Bに、ステアリングが左に切られた場合のすれ違いビーム配光パターンを示す。投影レンズ4から出射される照明光により、本図に示す配光パターンが得られる。エレクトロデポジション素子2の反射領域が画素2p1の方向に広がるとともに、発光するLEDがそれと同方向に移動することにより、照明光は、自動車の進行方向に沿って、左方に揺動して出射される。
図14Aは、たとえば右カーブ走行時、ステアリングが右に切られた場合のすれ違いビーム配光を形成する画素状態、及び発光部1の発光状態を示す概略的な平面図である。ステアリングが右に切られた場合には、領域Bにおける透明状態の画素が、直進時(図12A参照)よりも画素2p11の方向に多くなるとともに、発光が行われるLEDがそれと同方向(LED1a12の方向)に、順次移動する。図14Aに示す例においては、画素2p1〜2p9が透明状態とされ、画素2p10〜2p12がミラー状態とされる。また、LED1a9〜1a12から発光が行われる。
図14Bに、ステアリングが右に切られた場合のすれ違いビーム配光パターンを示す。投影レンズ4から出射される照明光により、本図に示す配光パターンが得られる。エレクトロデポジション素子2の透過領域が画素2p11の方向に広がるとともに、発光するLEDがそれと同方向に移動することにより、照明光は、自動車の進行方向に沿って、右方に揺動して出射される。
このように、第3実施例による灯具においては、領域Bの各画素2p1〜2p11が、画素2p1の方向に向かって、順次ミラー状態に切り替えられ、あるいは画素2p11の方向に向かって、順次透明状態に切り替えられる。それとともに、発光するLED1a1〜1a12がLED1a1方向、あるいはLED1a12方向に順次移動することにより、すれ違いビーム配光時の配光パターンが、ステアリングの操舵角に応じて揺動される。運転者にとって見やすく、また、対向車の運転者にとってまぶしくない照明を行うことができる。
第3実施例による灯具においては、発光部1から出射され、ミラー状態にある画素2p1〜2p12で反射された光は、更に、反射板3で反射され、エレクトロデポジション素子2に再入射してこれを透過し、たとえばロービームとして再利用されるため、ロービームの照度が高い。たとえばエレクトロデポジション素子2に代えて液晶表示素子を使用する場合、素子の光透過率が低下する、反射光の再利用を行えない等の理由から、照明光の照度が低くなる。
第3実施例による灯具は、高い配光制御性を備えるとともに、光の利用効率が高く、運転の高い安全性を実現するADBである。
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
たとえば、実施例においてはゲル状の電解質層としたが、銀の錯体を含む液体状の電解液を用いてもよい。電解質層は、たとえばエレクトロデポジション材料を含有する電解質液や電解質膜を含んで構成される。
また、たとえば第1実施例では、画素数が4の場合について説明したが、画素(セグメント電極)数はこれに限られない。たとえば更に多数のドット状画素としてもよい。セグメント電極だけでなく、コモン電極も複数とする構成も採用可能である。
更に、実施例においては、セグメント基板10a側に銀を析出させたが、たとえばセグメント基板10a側に正電圧を印加し、セグメント電極に対向するコモン基板10b上の位置に銀を析出させてもよい。
また、光学系は図示したものに限られず、たとえば光路上にレンズやプリズム、拡大・縮小反射板等を挿入することができる。更に、実施例では1つの投影レンズ4から照明光(ロービーム及びハイビーム)を出射したが、複数の投影レンズから照明光を出射する構成としてもよい。
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。