以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の機能を有する部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
図1は、本発明の実施例に係る電動工具1の上面図である。ここでは電動工具1の一例として、モータの回転軸に接続される作業機器が円形の砥石等であるディスクグラインダを示している。電動工具1のハウジング(外枠)は、動力伝達機構を収容するギヤケース3と、モータ6を収容するモータハウジング2と、モータハウジング2の後方に取り付けられ電気機器類を収容するリヤカバー4の3つの主要部分により構成される。本実施例では電動工具1のハウジングを3つに分割された部分により構成したが、ハウジングを何分割で形成するかは任意であり、例えば、モータハウジング2とリヤカバー4を本実施例のように前後方向に分割構成とするのでは無く、長手方向中心軸を通る鉛直面で左右方向に分割する形式としても良いし、その他の構成としても良い。モータハウジング2はモータの外形よりも僅かに大きい外径を有する略円筒形であって、作業者が片手で把持する部分(把持部)を構成し、樹脂又は金属の一体成形にて製造される。モータハウジング2の後方には、長手方向中心軸を通る鉛直面で左右方向に分割され、後方側が閉鎖されるリヤカバー4が取り付けられる。リヤカバー4は、その内部にモータ6の回転を制御する制御回路(コントローラ)と、モータ6の巻線へ供給される三相交流を生成するためのインバータ回路と、電源コード28によって外部から供給される商用交流を整流して直流化する整流回路等の電気的な構成機器を収容する。
モータ6は軸方向(前後方向)に細長い形状であり、コントローラがロータ7の回転位置をホールICを用いた回転位置検出手段40にて検出し、複数のスイッチング素子66で構成されるインバータ回路を制御することにより、モータ6の所定のコイルに順次駆動電力を供給することにより回転磁界を形成してロータ7を回転させる。モータ6は3相ブラシレスDCモータであり、略円筒状の外形をもつステータコア8の内周部内にて円筒状のロータ7が回転する、いわゆるインナーロータタイプである。モータ6のステータは、ステータコア8とインシュレータ11a、11bと、コイル12により構成される。
回転軸10は、モータハウジング2に固定される後方側の軸受(第一の軸受)17と、ギヤケース3とモータハウジング2との接続部付近で固定される前方側の軸受(第二の軸受)18とにより、回転可能に保持される。回転軸10の軸方向に見て軸受18とモータ6の間には冷却ファン20が設けられる。冷却ファン20は例えばプラスチック製の遠心ファンであって、モータ6が回転すると回転軸10と同期して回転することにより、モータ6や制御回路等を冷却するための風の流れを発生させる。
ギヤケース3は、例えばアルミニウム等の金属の一体成形により構成され、1組の傘歯車機構(22、32)を収容すると共に、出力軸となるスピンドル31を回転可能に保持する。スピンドル31は、モータ6の回転軸の軸線方向(ここでは前後方向)とは略直交方向(ここでは上下方向)に延びるように配置され、回転軸10の前端部分には第1の傘歯車22が設けられ、第1の傘歯車22はスピンドル31の上側端部に取り付けられた第2の傘歯車32に噛合する。第2の傘歯車32は直径が大きく、第1の傘歯車22に比べて歯車数が多いので、これらの動力伝達手段は減速機構として作用する。スピンドル31の上端側はメタル34によって回転可能に軸支され、中央付近にはボールベアリングによる軸受33によって軸支される。軸受33はスピンドルカバー35を介してギヤケース3に固定される。
スピンドル31の先端にはワッシャナット36によって円板状の先端工具が装着される。ここでは先端工具として砥石29を装着した例を示している。砥石29は、例えば直径100mmのレジノイドフレキシブルトイシ、フレキシブルトイシ、レジノイドトイシ、サンディングディスク等であり、用いる砥粒の種類の選択により金属、合成樹脂、大理石、コンクリートなどの表面研磨、曲面研磨が可能である。尚、電動工具1に装着される先端工具としては、砥石だけに限られず、ベベルワイヤブラシ、不織布ブラシ、ダイヤモンドホイール等を取り付けるようにしても良い。
モータ6の回転軸10の後端には、回転方向に磁極が異なる磁性体であるセンサ磁石14が取り付けられる。センサ磁石14は比較的厚み(前後方向長さ)をもつ円環状、又は円柱状の形状であって、近接して設けられるホールIC(後述)やホールIC等の磁気検出素子によって回転方向の位置が検出される。ここでは、センサ磁石14と回路基板44に搭載される複数のホールICがロータ
7の回転位置検出を行う回転位置検出手段40を主に構成する。回路基板44には3つのホールICが搭載されるが、これについては後述する。
制御基板65には、モータ6の回転制御を行うコントローラ(制御手段)と、モータ6を駆動させるためのインバータ回路と、外部から電源コード28にて供給される交流を直流に変換するための整流回路が主に搭載される。モータ駆動回路を構成するインバータ回路には、コイル12に大駆動電流を通電する必要があり、例えば、スイッチング素子66として動作するFET(電界効果トランジスタ)やIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)のような大容量の出力トランジスタが使用される。これらスイッチング素子66は発熱が大きいので冷却効果を向上させるための放熱構造が考慮され、風窓48、49よりも風下側に配置される。スイッチング素子66の後方には、交流を直流に変換する整流回路67が設けられる。整流回路67は配線の効率性から、電源コード28(図1参照)に近いようにケーシング61の後方側であって、スイッチング素子66よりもモータ6から遠い部分に搭載される。整流回路67は、例えばダイオードブリッジとコンデンサを用いた全波整流回路で実現できるが、これに限られるものではなく、その他の公知の整流回路を用いることができる。
制御基板65にはさらに、モータ6の回転制御を行うコントローラが搭載される。コントローラは、図示しないマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と称する)を含んで構成される。ここでは制御基板65は電動工具1に対して前後及び上下方向に延びるようにしてケーシング61の内部に搭載される。ケーシング61により画定される空間内には、制御基板65と共に、2つの小型の回路基板(44、57)が配置される。一つは上述した回転位置検出素子(後述するホールIC41〜43)を搭載する回路基板44であり、もう一つはスイッチ機構50の構成部品(後述)を搭載するための回路基板57である。これらの小型回路基板(44、57)は制御基板65に対して直交する方向に配置され、回路基板44は上下左右方向に延びる方向であって、回転軸方向と直交するように配置される。また、回路基板57は前後左右方向に延びる方向であって、回転軸方向と平行になるように配置される。
スイッチ機構50は、作業者によってモータ6の起動又は停止を行うもので、作業者はスイッチレバー51を前後方向にスライド移動させることによりモータ6のオン、又は、オフの状態に設定できる。スイッチレバー51はその操作性を考えてモータハウジング2の把持部分の前方側、つまりモータ6の前端付近の上部に配置され、モータ6とモータハウジング2の間の風路内において前後方向に移動する。スイッチレバー51には、軸方向に細長い平板状の可動アーム52が接続され、スイッチレバー51を操作することにより可動アーム52が前後方向に移動する。可動アーム52の後方側は、モータ6の回転軸方向に見てケーシング61と重複する部分まで延び、その後端付近に小型の磁石53が設けられる。磁石53は、回路基板57に搭載されるホールIC等の磁気検出手段(後述)に作用することによりホールICからマイコンに対してオン信号又はオフ信号を出力させるものである。
次に図2を用いてスイッチレバー51をオンにした状態における冷却風の流れを説明する。図2ではスイッチレバー51を前方側に移動して、モータ6が起動し、冷却ファン20が回転した状態における風の流れを矢印にて示している。冷却ファン20が回転すると、リヤカバー4に形成された外気吸入用の風窓48、49から矢印25a、26aの方向に外気が吸引される。矢印25aのように吸引された外気は、ケーシング61の周囲であって、リヤカバー4の壁面との間の空間(風路)を矢印25b、25c、25dのように流れて矢印25eのように、軸受17付近に至る。軸受17の外周部分ではリブ19a(図4にて後述)に形成された貫通穴を通過してモータハウジング2内の空間に流入し、モータ6のステータコア8の外周側のステータコア8外周面とモータハウジング2の壁面の間の空間(風路)を矢印25fのように流れ、モータ6の前方側で矢印25gのように回転軸10方向に集まった後に矢印25hのように冷却ファン20に流入する。冷却ファン20から排出された冷却風は、矢印25iのように冷却ファン20の外周部から、軸受ホルダ21に形成された貫通穴を通って矢印25jのようにギヤケース3側の内部空間に流入し、矢印25kのようにギヤケース3の前方側に形成された貫通穴3cを介して外部に排出される。ここで、風窓3cは電動工具1のハウジングの排出口の一つである。同様にして、矢印26aのように吸引された外気は、ケーシング61の周囲を矢印26b、26c、26dのように流れて矢印26eのように、軸受17の外周部分を通過して、リブ19a(図4にて後述)によって後方側(コントローラ側)の空間と前方側(モータ側)の空間の境界位置を通過してモータハウジング2内の空間に流入する。その後、モータ6のステータコア8の外周側を矢印26fのように流れ、モータ6の前方側で矢印26gのように回転軸10方向に集まった後に矢印26hのように冷却ファン20に流入し、矢印26iのように冷却ファン20の外周部から、軸受ホルダ21に形成された貫通穴21cを通って矢印26jのように外部に排出される。ここで、矢印25b〜25g、26b〜26iの空気流は明確に分離されているわけでは無く、風窓48と49から吸引された空気が混在しながら風路を風下側から風上側に流れる。本実施例では、モータ6の回転軸10の軸線上に見て、後方(風上側)から前方側にかけて、制御基板65、センサ磁石14、軸受17、モータ6、冷却ファン20、及び、軸受18が軸方向に直列に(一直線上に)配置される。そして、外気の吸入口となる風窓48、49は、制御基板65の周囲であって発熱の大きい素子(ここではスイッチング素子66)よりも後方側に配置され、外気の排出口となる風窓(ここでは貫通穴3cと貫通穴21c)によって排出される。このように、本実施例ではモータ6の回転軸方向にみて、ステータコア8の後方側端部から前方側端部の全外周面にほぼ接する様に冷却風が流れるものである。
スイッチング素子66や整流回路67は、稼働時の温度上昇が大きいので、冷却効果を考えてその搭載位置やその搭載方法が工夫される。ここでは、スイッチング素子66よりも後方側に複数の風窓48、49が形成されるようにしたので、発熱の大きい電子素子が冷却風の風路内に良好に晒されるようになった。一方、防水性、防塵性を考慮して、制御基板65はシリコン等の樹脂にてすべてを覆うようにする(具体的構造については後述する)。モータハウジング2の内部においては、モータ6の外周側の風路(径方向で見てステータコア8の外側と、モータハウジング2の内側の空間)には冷却風を流すが、図14で流していたようなステータコア8とロータ7の間の空間には冷却風を流さないように構成される。このため、モータ6から見て上流側(後方側)においては、軸受17やセンサ磁石14部分に冷却風が流れ込まないように構成されると共に、モータ6の下流側(前方側)においても、ステータコア8とロータ7の間の空間に冷却風が極力入らないような構成にされる。この構成を図3を用いて更に説明する。
図3は、モータ部分とケーシングとの接続構造を説明するための図である。ここで用いられるモータ6は、いわゆるブラシレスDCモータと呼ばれるものであって、外周側に積層鉄心でできたステータコア8を配置し、ステータコア8の内周側に円筒形のロータ7を配置する。ステータコア8は、プレス加工によって製造された円環状の薄い鉄板を軸方向に多数枚積層した積層構造で製造される。ステータコア8の内周側には6つのティース(図示せず)が形成され、各ティースの軸方向前後方向には、樹脂製のインシュレータ11a、11bが装着され、インシュレータ11a、11b間にティースを挟んだ形で銅線が巻かれてコイル12が形成される。本実施例では、コイル12をU、V、W相の3相を有するスター結線とすることが好ましく、コイル12へ駆動電力を供給するための3本のリード線12aがモータ6の外部に引き出される。ステータコア8の内周側では、回転軸10にロータ7が固定される。ロータ7はプレス加工にて製造した円環状の薄い鉄板を軸方向に多数枚積層したロータコアに、軸方向と平行して形成され、その断面形状が長方形のスロット部分にN極およびS極を有する平板状の磁石9が挿入されて構成されるものである。
回転軸10の後方側は軸受17により軸支され、回転軸10の後端には、ロータ7の回転位置の検出用に用いられるセンサ磁石14がネジ24により固定される。センサ磁石14はロータ7の回転位置の検出のために取り付けられる薄い円柱形の永久磁石であって、周方向に90度ずつ隔ててNSNSと4極が順に形成される。センサ磁石14の後ろ側であってケーシング61の内部には、回転軸10と垂直方向に、略半円形の回路基板44が設けられ、回路基板44にはセンサ磁石14の位置を検出する回転位置検出素子としてホールIC41〜43が設けられる。ホールIC41〜43は、回転するセンサ磁石14の磁界の変化を検出することにより、ロータ7の回転位置を検出するものであり、回転方向に所定角度毎、ここでは60°毎に3つ配置される。図14で示した従来の電動工具101においては、センサ磁石114がホールIC141に直接対向するように配置されるが、本実施例では非磁性体のケーシング61の前方壁61bを隔てて対向するように配置した。ケーシング61の内部には、さらにスイッチ機構50を構成する2つのホールIC55、56が回路基板57上において、モータハウジング2の長手方向に並ぶようにして収容される。これらホールIC55、56においても、対向する磁石53(図1参照)との間にケーシング61の上方壁61aが配置され、上方壁61aを介して磁石53(図1参照)がホールIC55、56に作用するようにした。
軸受17の外輪は円筒状の軸受ホルダ19bによって保持される。軸受ホルダ19bは、軸受17の外輪部分を固定すると共に軸受17の後方側に配置されるセンサ磁石14の径方向外側を覆うカバー部材の役割をし、リブ19aと共に軸受保持部19の機能を果たす。軸受ホルダ19bの後方側の開口部分19cは、ケーシング61の先端に形成されたカップ状の覆い部分(円筒部62と前方壁61bによって形成される凹状部分)によって密閉される。この覆い部分(キャップ手段)を形成するために、ケーシング61の前方側では矢印61fの部分で上下方向に幅を細くして軸受ホルダ19bに嵌合できる幅にしている。覆い部分は、軸受17の中心軸から外径位置より外側までの全体を覆うように形成される。カップ状の覆い部分を軸受ホルダ19bに装着することは、軸受17部分が冷却風に対して露出しないように封鎖するだけでなく、ケーシング61の前方側を位置決めして固定する役割をも果たすものである。軸受ホルダ19bは、モータハウジング2の径方向内側に突出するリブ19aの貫通穴に装着されるものであり、後方側には円筒部62を嵌合させるための細径部19dが形成される。リブ19aは、リヤカバー4側からモータハウジング2側へ冷却風を流すため複数の空気穴が形成されるので、矢印25e、26eのように風が流れる。ここで本実施例では軸受保持部19をリブ19aと軸受ホルダ19bの2つの部品で分割して構成したが、これを一体に構成しても良い。また、軸受保持部19の全体をモータハウジング2と一体構成としても良いし、別体部品として構成しても良い。
軸受ホルダ19bの前方側とステータコア8の後方の外縁付近の間は、合成樹脂の一体成形で製造される第一のカバー部材15にて覆われることにより、矢印25e、26eのように流れる冷却風が後方側からステータコア8とロータ7の間の空間に入らないように遮風される。カバー部材15は後方側に小さい径の開口部15aが形成され、前方側に大きい径の開口部15bが形成される略円筒形のスリーブ状の導風板であり、非磁性材料製の一体成形品で製造される。カバー部材15はプラスチック等の合成樹脂によって製造すれば軽量である上に、製造コストが安くて済むので好ましい。カバー部材15の開口部15aの軸受ホルダ19bと接触する面には円周方向に連続して形成され、軸方向後方に突出する凸部が形成される。一方、軸受ホルダ19bの後方側の円環状の面には、カバー部材15の凸部に対応する溝状の凹部が、円周方向に連続して形成される。このようにカバー部材15を軸受ホルダ19bとステータコア8とで、カバー部材15の凸部と軸受ホルダ19bの凹部とを接触させた状態で挟持するので、この部分から冷却風がモータ6の内部に流入することを効果的に防止することができる。尚、カバー部材15の凸部と軸受ホルダ19bとを凹部は、凹凸の向きを反対にしても良い。また、カバー部材15の凸部と軸受ホルダ19bとを凹部とを単に接触させるだけで無く、接着剤や樹脂にて固定または密封しても良い。
カバー部材15の前方側の開口部15bは、インシュレータ11aの外周側にて当接するので、ステータコア8とカバー部材15は良好にシールされ、この部分から冷却風がモータ6の内部に流入することを防止できる。このように、リヤカバー4側から吸い込まれた空気がステータコア8の外周部にまで導かれて、冷却風が外周面に沿って軸方向後方から前方に流れるので、モータ6の内部空間と冷却風の風路(モータハウジング2とステータコア8の外周面の間の空間)とを効果的に隔離することができる。また、軸受17が収容される空間も冷却風から隔離されるために、粉塵による軸受17の故障を防止できる。
ステータコア8の前方側の端部には、第二のカバー部材16が設けられる。カバー部材16は、後方側の開口部16aにおいては、インシュレータ11bの外周側かつステータコア8の前方側にて、インシュレータ11bにはめ込まれるようにして当接するのでシールすることができ、この部分から冷却風がモータ6の内部に流入することを抑制できる。カバー部材16の前方側は軸方向に絞り込まれた形状とされ、回転軸10に設けられる略円筒形のバランスウェイト13の外周面と微小間隔を隔てる開口部16bが形成される。バランスウェイト13はモータ6の回転部分のバランス取りをするために設けられる質量体であって、製造組み立て時に回転方向のいくつかの箇所において質量調整用の小さな穴を空けることによってロータ7がぶれずにスムーズに回るように調整される。本実施例では、カバー部材16の開口部16bはバランスウェイト13の外周側に近接するように配置されるが、その目的がロータ7の内部空間に冷却風が入らないようにするためであるので、バランスウェイト13よりも前方側において回転軸10に近接するように設けて、回転軸10を貫通させる貫通穴として形成しても良い。尚、カバー部材16の開口部16bは、ロータ7と共に回転する回転体ときわめて近接するように形成されるが接触まではしていない。しかしながら、近接する部分は冷却風の風下側になることと、開口部16bのすぐ前方に冷却ファン20が設けられるので、この開口部16bからモータ6の内部空間に冷却風が入り込むことをほぼ防止できる。このようにモータ6の周囲において冷却風は、矢印25e〜25gのように流れ、同様にして矢印26e〜26gのように流れるので、モータ6の内部に冷却風だけで無く、それによって運ばれる鉄粉や塵埃がモータ6の内部空間に混入することを効果的に抑制できる。以上のように、モータ6の前後の端部はカバー部材15、16と、軸受ホルダ19bと、ケーシングの前方壁61bによって覆われることによって冷却風の風路と隔離された状態となる。この状況を更に説明するのが図4である。
図4は電動工具1のモータ側隔離空間と、制御回路側隔離領域との関係を示す図である。本実施例では、モータ6の前方側をカバー部材16で覆い、後方側をカバー部材15、軸受ホルダ19b、ケーシング61の前方壁61bにて覆うことによりモータ側の隔離空間を形成するようにした。このようにモータ6部分を冷却風の風路とは隔離した空間としたため、磁界を発生させるステータコア8の磁極や、磁石9を有するロータ7や、センサ磁石14の各部分に冷却風があたらないので、磁性粉などを含む粉塵がはいりこんで吸着される現象を抑制できる。特に、磁石9付近は、鉄粉などの磁性粉が一旦吸着されるとモータ6の回転を停止しても外部に排出されないので、吸着状態の発生原因そのものを回避することは効果的である。一方、制御回路側においては、制御基板65に加えて回路基板44と57をケーシング61の内部に収容し、それらに搭載される電子素子の大部分、具体的には放熱のために冷却風に晒す必要がある素子以外のすべての素子をシリコンなどの樹脂を充填して固めることにより、冷却風に晒されることからほぼ完全に隔離するように構成した。ケーシング61は直方体の筐体であって、そのうちの1面だけを取り除いた容器状の形状であり、取り除かれた一面(開口面)が左側を向くように配置され、上方壁61aの内側にスイッチ機構50の検出要素を配置し、前方壁61bの内側に回転位置検出手段40の検出要素を配置した。下方壁61c付近や、後方壁61d付近には回転位置検出手段40やスイッチ機構50の構成要素は配置されない。このように構成することによって、冷却風と共に外部から水分が入った際にも、電子素子には付着することがないので、制御手段、回転位置検出手段、スイッチ手段の長期にわたって安定した動作が期待でき、電動工具1の大幅な長寿命化を達成できた。
図5は、モータ6に取り付けられるカバー部材15、16の取り付け構造を示す分解斜視図である。ステータコア8は公知の積層構造で製造されるもので、モータハウジング2の内側にて効果的に固定することができるように、その外周側には軸方向に平行に連続して形成される凸部8aが形成される。凸部8aは周方向に90度ずつ隔てて4本設けられるが、この凸部8aを形成したことによってロータ7がハウジングに対して回転方向にずれないように保持することが容易になると共に、ロータ7の外周部分であって凸部8a以外の外周面8bとモータハウジング2の内壁の間に所定の空間が確保されるため、この空間を冷却風が流れる風路とすることができる。尚、モータ6の冷却性能を向上させるために、外周面8bに複数の放熱フィンを形成するようにしても良い。ステータコア8の後方側(風上側)にはカバー部材15が装着され、前方側(風下側)にはカバー部材16が装着される。カバー部材15は、風上側の開口部15aから風下側の開口部15bに至る部分にテーパー状に広がる部分(テーパー部15c)が形成され、冷却風の流れを整流して軸受17の外周側付近を流れる冷却風を、モータ6の外周部分にまで径方向外側に導くようにしている。ここでモータ6のコイル12には3相の駆動電圧を供給するための3本のリード線12aが接続されるので、そのリード線12aを貫通させるためにカバー部材15の周方向の1カ所には軸方向に延びる円筒状の配線孔15dが形成される。
モータ6のモータハウジング2への組み立て方法が以下の通りである。モータハウジング2は、金属又は合成樹脂の一体成形品にて軸方向と平行な分割面が無いように製造され、軸受保持部19のうちリブ19aはモータハウジング2と一体に成形される。そのため、回転軸10に軸受17とセンサ磁石14とを取り付け、インシュレータ11a、11bにコイル12が巻かれたステータコア8に、その前後方向からカバー部材15、16を装着して仮組みする。次に、これらの組立体をモータハウジング2の前方側の開口から後方側に挿入させて、カバー部材15がリブ19aの前面に当たる位置に位置決めして、軸受ホルダ19bをリブ19aにて固定させる。このような組み立て方法を採用することにより、モータハウジング2の外形を細めにしながら剛性が高いハウジングを実現できる。
図6は、本実施例の回転位置検出手段40付近の構成をさらに説明するための部分断面図である。センサ磁石14はモータ側の隔離領域内にあり、ホールICを搭載する回路基板44はケーシング61の内部に収容されるため制御回路側の隔離領域内にあることになる。ケーシング61の内部には制御基板65が搭載されるが、回路基板44は制御基板65とは別に設けられることにより、センサ磁石14に対向する最適な位置に配置することが容易となる。回路基板44と制御基板65は複数のリード線45によって接続されるが、この距離は短くて済むのでノイズの影響を低減できる上に、制御基板65と一緒に組み立てができる。モータ6のコイル12から延びるリード線12aは、制御基板65に接続される。制御基板65はマイコン等の制御回路を搭載するための回路基板であって、単層または多層のプリント基板が用いられる。スイッチ機構50用のホールICを搭載する回路基板57は制御基板65とは別に設けられ、しかも、制御基板65とは直交するように配置される。制御基板65を配置するために、制御基板65の一部には切り欠き65aが形成され、その部分に回路基板57が収容される。制御基板65と回路基板57は複数のリード線58によって結線される。
図7は、ケーシング61部分の底面図である。ケーシング61は前方側において回路基板44を配置するための径の小さい略円筒形の収容部分が形成され、その円筒形の後方側に、直方体であって一面だけが開口された形状の容器が連結されたような形状とされる。ケーシング61は、非磁性体材料で製造することが重要であり、ここでは合成樹脂の一体成形にて製造される。制御基板65はケーシング61の底面(一番面積が広い面)と平行になるように搭載される。制御基板65には複数のスイッチング素子66が搭載され、その後方側には整流回路67を構成する部品が搭載される。ここで、図7から理解できるように、ケーシング61を容器として見た場合の高さHは、スイッチング素子66や整流回路67の高さよりも低い。しかしながら、制御基板65に搭載されるマイコン、IC、コンデンサ、チップ抵抗等の電子素子を収容するのには、高さHは十分である。本実施例ではこの容器状のケーシング61を開口面が上側になるようにして、その内部に溶融したシリコン64を流し込んで、ケーシング61内の空間全体をシリコン64にて固めるようにした。流し込んだ直後のシリコン64の液面はスイッチング素子66の高さの半分くらいまでしか到達しない。しかしながら、スイッチング素子66の半分程度の充填であってもFET等の金属製の足をすべて覆うため、金属部分に水分が付着することを防止することができる。一方、FETの放熱板の部分は、シリコン64の液面よりも外部に露出するようにすれば放熱効果を良好に保つことができる。また、FETの放熱板にはシリコンやその他の樹脂を薄く塗布することにより、放熱性を良好に保ちながら防水性も保つことができる。整流回路67についても同様にして部分的にシリコン64の外部に露出するようにしても良い。このようにスイッチング素子66と整流回路67の全体で無く部分的に露出するようにしながら、残りの電子素子をすべて樹脂に浸すようにして覆うので、ケーシング61の内部の搭載部品をコントローラ組立体としてユニットしての一部品化が容易となる上に、防水性・防塵性を良好にすることができ、作業時の振動にも強くて耐久性が高い電動工具1を実現できる。尚、ケーシング61の内部を充填して固めるための樹脂は、シリコンだけに限られずに、その他の樹脂や、凝固可能な材料で実現しても良い。
本実施例ではさらに、ホールIC55、56を搭載する回路基板57と、ホールIC41〜43を搭載する回路基板44についてもシリコン64を充填する部分に完全に含まれるように配置される。このようにホールICをもシリコン64にて固めることにより、センサ磁石14やスイッチ機構50の磁石53との相対位置に関して、検出機器側にて位置がずれる等の変化がないので、長期にわたって安定して動作する検出機構を実現できる。ここでB−B部の断面形状を、図8を用いて説明する。ケーシング61においては、段差部61fより後方の幅(設置時に上下方向となる部分)が広く形成されるが、段差部61fより前方側は回路基板44を格納することと軸受ホルダ19bと嵌合させるためにその幅が狭く構成される。断面A−Aは幅が狭い位置の断面であるが、これを示すのが図8である。
図8は、図7のB−B部の断面図である。B−B部においてはケーシング61の断面形状は四角形でなくて半球状に形成される。このように半球状に形成するのは、軸受17の風上側を覆うキャップ部材とするのに好適だからである。回路基板44は3つのホールIC41〜43を、周方向に回転角60°の間隔で配置されるものであり、センサ磁石14に対応した略半円形の形状とされる。このため、ホールIC41〜43はセンサ磁石14との位置関係が最適な位置に配置できる。ここで、シリコン64を充填して凝固させたあとには、ケーシング61の開口面が横向きになるように配置され、図8では図示しない制御基板65は前後及び上下方向に延在する鉛直状態に配置されることになる。モータハウジング2は、B−B断面部分のケーシング61の径よりも遙かに大きく形成されるので、図4にて示したように制御回路側隔離領域の周囲からモータ側隔離空間の周囲へ冷却風を効率良く送るような、冷却風路を確保することができる。
次に、モータ6の駆動制御系の構成と作用を図9に基づいて説明する。図9はモータ6の駆動制御系の構成を示すブロック図である。モータ6はいわゆるインナーロータ型の3相のブラシレスDCモータで構成される。モータ6は、複数組(本実施例では2組)のN極とS極を含む永久磁石(マグネット)を含んで構成されるロータ(回転子)7と、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wから成るステータコア8と、ロータ7の回転位置を検出するために周方向に所定の間隔毎、例えば角度60°毎に配置された3つのホールIC41〜43を有する。これらホールIC41〜43からの位置検出信号に基づいて固定子巻線U、V、Wへの通電方向と時間が制御され、モータ6が回転される。
演算部71は、図示していないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するためのマイコンを含んで構成され、マイコンには処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、タイマ等を含んで構成される。演算部71は、速度検出回路77を介して検出された速度調整ダイヤル78によるモータ6の設定回転速度と、回転子位置検出回路73の出力信号に基づいて所定のスイッチング素子66を交互にスイッチングするための駆動信号を形成し、その駆動信号を制御信号出力回路72に出力する。これによって固定子巻線U、V、Wの所定の巻線に交互に通電し、ロータ7を設定された回転方向に回転させる。回転数検出回路74は回転子位置検出回路73の出力からモータ6の回転数を算出して演算部71に出力する。モータ6に供給される電流値は、電流検出回路69によって測定され、その値が演算部71にフィードバックされることにより、設定された駆動電力、設定回転速度となるように調整される。
制御基板65(図8参照)に搭載される電子素子には、3相ブリッジ形式に接続されたFETなどの6個のスイッチング素子66を含む。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子(Q1〜Q6)66の各ゲートは、制御信号出力回路72に接続され、スイッチング素子66の各ドレインまたは各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。これによって、スイッチング素子66は、制御信号出力回路72から入力されたスイッチング素子駆動信号(H4、H5、H6等の駆動信号)によってスイッチング動作を行い、インバータ回路に印加される整流回路67からの直流電圧を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
スイッチング素子66の各ゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号(3相信号)のうち、3個の負極側スイッチング素子66のQ4、Q5、Q6をパルス幅変調信号(PWM信号)H4、H5、H6として供給し、演算部71によってPWM信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ6への電力供給量を調整し、モータ6の起動/停止と回転速度を制御する。
ここで、PWM信号は、スイッチング素子66によって構成されるインバータ回路の正極側スイッチング素子66のQ1〜Q3または負極側スイッチング素子66のQ4〜Q6の何れか一方に供給され、スイッチング素子66のQ1〜Q3またはスイッチング素子66のQ4〜Q6を高速スイッチングさせることによって整流回路67の直流電圧から各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を制御する。尚、本実施例では、負極側スイッチング素子66のQ4〜Q6にPWM信号が供給されるため、PWM信号のパルス幅を制御することによって各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を調整してモータ6の回転速度を制御することができる。尚、PWM信号は正極側スイッチング素子66のQ1〜Q3に印加しても良い。
作業者によりスイッチレバー51が操作されると、それによって可動アーム52が矢印の方向に移動する。その移動状態は、可動アーム52に設けられた磁石53の位置をホールIC55又はホールIC56によって検出することにより演算部71は検出することができる。ホールIC55に磁石53が近接している場合(図9の状態)では、ホールIC55の出力がHighとなり、ホールIC56の出力がLowとなる。従って、第一検出回路75はその状態を検出して演算部71に出力する。一方、磁石53がホールIC56側に近接するように移動された場合(図2の状態)では、ホールIC56の出力がHighとなり、ホールIC55の出力がLowとなる。従って、第二検出回路76はその状態を検出して演算部71に出力する。このように演算部71は、2つのホールIC55、56の出力を検出することによりトリガスイッチの状態を電気的に検出することが可能となる。しかも、ホールICを1つで制御するのでは無くて、2つ用いて検出をするので信頼性の高いスイッチ機構が実現できる。
図10は図1のスイッチ機構50の構成を説明するための部分断面図である。スイッチ機構50は大きく分けて、外部に露出した操作部と、操作部の動きを検出する検出部との2つの主要部分により構成される。操作部は、スイッチレバー51と、スイッチレバー51に連結されスイッチレバー51の操作によって前後方向に移動する可動部を有し、可動アーム52の後端にはホールIC55又は56に作用する磁界を発生させる磁石53が取り付けられる。スイッチレバー51は矢印59aのように前後方向に移動可能とされ、前方向に移動した状態がスイッチONであり、後ろ方向に移動した状態がスイッチOFFである。可動アーム52の一部に下方向に直角に延びるスプリング保持部52bが形成され、モータハウジング2に形成された取付部2cとの間にスプリング54が設けられる。この際、スプリング54が所定位置から脱落しないように保持することが重要である。可動アーム52はスプリング54を介してモータハウジング2に接続されており、スプリング54によって可動アーム52が後方に移動するように付勢される。スイッチレバー51は、上面にやや弓状の傾斜であって、横方向に延びる微小間隔の溝が複数形成された把持面51aが形成され、下方向には可動アーム52の先端付近に形成される貫通穴52aに嵌合される突出部51bが形成される。突出部51bはモータハウジング2の貫通穴2bを介して、モータハウジング2の外側から内側にまで延びるように配置される。貫通穴2bは前後方向に所定の大きさを有するので、スイッチレバー51が矢印59aの方向に移動することを許容する。
スイッチレバー51は側面視で略T字状に形成され、後端部分を矢印59bのように押下しないと前方側には移動できないように構成される。作業者は、スイッチをオンにする際にはスイッチレバー51の後半部分を矢印59bの方向に押し下げながら前方に移動させる。スイッチレバー51の前方側の下面には、凹部51cが形成され、その凹部51cがモータハウジング2に形成された凸部2dと係合することによりスイッチレバー51がオン状態を維持することができる。このようにしてスイッチレバー51のオンロック機能が実現される。スイッチをオフにする場合は、スイッチレバー51の後端を矢印59bの様に下方に押すことにより、凸部2dと凹部51cの係合状態が解消されるので、スプリング54の復帰力によってスイッチレバー51は元の位置(図10で示す位置)に復帰し、スイッチがオフの状態になる。
可動アーム52の後端付近は、磁石53を保持するために上下方向の厚さが厚くなった保持部52cが形成される。保持部52cの下面には凹部が形成され、そこに磁石53が設けられる。磁石53は接着しても良いし、圧入等の任意の固定方法によって可動アーム52に固定されるように構成しても良い。スイッチレバー51の前後方向の移動に伴い可動アーム52が連動して前後方向に動く結果、磁石53は後ろ側の位置(図10で示す位置)から、前側の位置まで移動する。この後側の位置と前側の位置に対応する位置に、ホールIC55とホールIC56が配置される。ホールIC55、56はケーシング61の上方壁61aを隔てるようにしてケーシング61の内部に配置される。尚、磁石53は制御回路側隔離領域(図4参照)の外側に位置することになるが、磁石53が稼働する部分を冷却風に晒されないように遮風板で覆うように構成したり、可動アーム52をモータ側隔離空間及び制御回路側隔離領域とは独立した第三の隔離空間内に配置するように構成しても良い。次に、図11を用いて磁石53とホールIC55、56との位置関係を説明する。
図11は、磁石53とホールIC55、56との位置関係を示す図であって、(1)はスイッチがオフ状態の時であり、(2)はスイッチがオン状態の時の状態を示している。可動アーム52の後端付近は、厚さTとなるように肉厚に形成され、その下面側に凹部52dが形成される。(1)に示すオフ状態においては、磁石53の後端位置がホールIC55の後端位置と一致するように配置される。また(2)に示すオン状態においては、磁石53の前端位置がホールIC55の後端位置と一致するように配置される。このように形成したことにより、磁石のストローク量Sは、ホールIC55、56の中心位置間の距離Dよりも短い関係になる。また、ホールIC55、56の間隔dは、磁石53の長さLよりも長くなるようにした。このように配置することによって、磁石53が一方のホールICと対向する位置にあるときに、他のホールICに磁界の影響を与えることを効果的に排除できるので、誤動作の少ないスイッチ機構を実現できる。
次に図12を用いて本実施例のスイッチ機構50を用いたモータ6の起動制御手順を説明する。図12に示すフローチャートは、例えば、演算部71に含まれるマイコンが、コンピュータプログラムを実行することによって実現できる。
図12において、電動工具1の電源コード28が図示しないACコンセントに接続されると整流回路67に電源が供給され、整流回路67に接続される制御回路用の電源となる低電圧電源回路(図示せず)に電源が供給されることにより演算部71に含まれるマイコンが起動する(ステップ91)。
次に、マイコンは、第一ホールIC55の出力信号がHighであるかを検出する(ステップ92)。ここで、第一ホールIC55の出力は、磁石53が近接している際にHighとなり、離れている際にLowとなる。例えば図1に示すようにスイッチレバー51がOFF状態の位置にあるときは、磁石53は第一ホールIC55に対向する近接位置にあるため、第一ホールIC55の出力はHighとなる。ステップ92で、出力信号がHighである場合は次にステップ93に進むが、Lowのままの場合、つまり、スイッチレバー51(図3参照)がON状態の位置にあるときは、ステップ92から次にステップに進まない。このことは、モータ6の起動は、スイッチレバー51がOFF状態の位置にあることを確認できた場合で無いと行われないことを意味する。従って、ステップ92に動作を行うことにより、スイッチレバー51をON状態のまま電源コード28を接続することによる、突然の砥石29の回転などの現象が起こることを確実に防止できる。
次にステップ93において、マイコンは第二ホールIC56の出力がLowであるかを検出する。ここで、第二ホールIC56の出力は、第一ホールIC55の出力と同様に磁石53が近接している際にHighとなり、離れている際にLowとなる。従って、ステップ93で、出力信号がLowである場合は次にステップ94に進むが、Highのままの場合、つまり、スイッチレバー51(図3参照)がON状態の位置にあるときは、ステップ93から次にステップに進まない。このようにしてステップ92と93において、マイコンは、第一ホールIC55と第二ホールIC55を用いてスイッチレバー51が確実にOFFの状況(図3で示す位置)にあるかを検出し、OFF状態判定処理88では「スイッチレバー51がOFF状態にあるかの検出を行う。
次に、OFF状態にあったスイッチレバー51がON状態に移行されたかの検出、即ちON状態判定処理89を行う。最初にマイコンは、第一ホールIC55がLow状態になったかを判定する(ステップ94)。ここでHigh状態であるときはLow状態になるまでステップ94にとどまることになる。ステップ94でLow状態になったことを検出できたら、次にマイコンは第二ホールIC56がHigh状態になったかを検出する(ステップ95)。このように、ON状態判定処理89においては、2つのホールICの検出値に矛盾がなくて、双方の検出値が正しいと判断された場合にモータ6の起動を行う(ステップ96)。
モータ6が起動すると、マイコンは第一ホールIC55と第二ホールIC56の出力を監視する事によってスイッチレバー51が操作されたかどうかを検出する。まずマイコンは、第二ホールIC56の出力がHighであるかどうかを判定する(ステップ97)。ここで、Highであるということは、磁石53が第二ホールIC56に正対している状態であり、スイッチレバー51がONの位置にあるのでステップ98に進む。ステップ98では、マイコンは第一ホールIC55の出力がLowであるかを検出する。第一ホールIC55の出力がLowであることは、磁石53が第一ホールIC55に正対していない状態であり、2つのホールIC55、56の出力により、スイッチレバー51が確実にON状態であることが判断できるので、ステップ97に戻る。このようにして、スイッチレバー51がON状態のときは、マイコンは2つのホールIC55、56の出力を監視することによりスイッチレバー51が操作されたかどうかを判定する。
ステップ98において、第一ホールIC55の出力がLowである場合は、第一ホールIC55と第二ホールIC56の出力が矛盾すること、つまりスイッチ機構50又は演算部71等に何らかの異常が発生したことを意味するので、ステップ99に移行して直ちにモータ6の回転を停止させる(スイッチ機構50の異常検出による異常停止)。一方、ステップ97で第二ホールIC56の出力がLowになったと判断した場合は、ステップ99に移行してモータ6の回転を停止させる(正常停止)。尚、ステップ97からステップ99へ移行する処理(Noの場合)において、これらのステップの間に第一ホールIC55の出力状態を検出して、2つのホールICの出力値に矛盾が無いかを比較した後にモータ6を止めるように制御しても良いが、モータ6を停止させる場合は一方のホールICの出力結果だけで直ちに停止させるようにするほうが迅速にモータ6を停止できる。演算部71は、ステップ99にてモータ6の回転を停止させたら、ステップ92に戻る。尚、図12のフローチャートの処理は、マイコンへの電源供給がオフになるまで、例えば、電源コード28からの電源供給が遮断されるか、あるいは、メインスイッチがある場合にはメインスイッチが遮断されるまでは継続して実行される。
以上、本実施例のスイッチ機構50によれば、機械的な接点を持たないホールIC55、56を用いて電子的にスイッチングを行う、いわゆる電子スイッチに置き換えたことでスイッチ機構50の信頼性を向上させて、小型化を図るとともに製品の製造原価の低減を図ることができる。このスイッチ機構50は、スイッチングの接点が無いため故障しにくい上に、ホールIC(55,56)を制御回路側の隔離領域内に設けたので、防塵性、防水性を向上させることができた。さらに、オフ状態検出用の第一ホールIC55と、オン状態検出用の第二ホールIC56を設け、これらの双方の出力を用いてモータ6のオンオフ制御を行うようにしたので、ホールICのうちどちらが故障してもモータ6を停止するか、又は、モータ6の起動ができないように制御できるので、安全性を一層高めた電動工具を実現できた。さらに、モータ6を回転させる前に、スイッチレバー51がオフ状態にあるかを複数のホールICの出力にて確実に検出してから、それ以降のステップを実行するので、電源コード28のプラグを商用電源のコンセントに差し込んだ瞬間にモータ6がいきなり起動するような動作を防止できる。