以下、インクジェット装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
本実施形態のインクジェット装置は、ノズルの開口近傍におけるインクの圧力を常に適正圧力に維持できるとともに、インク流路にインクを充填し易い効果を奏するものである。また、本実施形態のインクジェット装置は、ノズルの開口近傍におけるインクの圧力を常に適正圧力に維持できるとともに、インクタンクから近いヘッドと遠いヘッドの流量差を抑える効果も奏し得る。
はじめに、図2を用いて、本実施形態で用いるインク循環式のインクジェットヘッド11について説明する。図2は、インクジェットヘッド11の断面の一部を示している。インクジェットヘッド11は、インク吐出用のノズル1を有するオリィフィスプレート2を備える。またインクジェットヘッド11は、オリィフィスプレート2の上面側に、圧力室3を備える。圧力室3は、インク4が通るヘッド内流路5の中途部が狭められることにより形成される。圧力室3は、ノズル1と連通する。インクジェットヘッド11は、圧力室3のノズル1と対向する側の面にアクチュエータ6を備える。インク4は、ヘッド内流路5を図示右側から左側へと、圧力室3を通って流れる。
このような構成のインクジェットヘッド11は、アクチュエータ6の駆動により圧力室3が変形する。すると、この圧力室3の変形に伴い、圧力室3内のインク4がインク滴4aとなってノズル1から吐出される。因みに、アクチュエータ6としては、PZT等の圧電素子を用いて圧力室3を直接又は間接的に変形させるものが知られている。
なお、インク循環式のインクジェットヘッド11は、図2に示すものに限定されるものではない。インクジェットヘッド11としては、静電気でダイアフラムを駆動するもの、ヒータでインクを加熱して気泡を生成し圧力を発生させるもの、インク4を静電気で直接的に移動させるものなど、そのいずれを用いてもよい。また、アクチュエータ6を設ける位置は、ノズル1と対向する側の面に限定されない。例えば、図の奥行き方向に位置する面にアクチュエータ6を設けてもよい。また、必ずしも圧力室3のインク4が直接ノズル1から吐出するようになっている必要はない。要は、アクチュエータ6を駆動して圧力室3に圧力を発生させたときにノズル1からインク4が吐出するように、圧力室3がノズル1と連通していればよい。
このようなインク循環式のインクジェットヘッド11は、印字の直前及び直後を含む印字可能な待機状態または印字動作中に、ノズル1の開口におけるインク4の表面がその開口の内側に湾曲するメニスカス(図2を参照)を適正に保ちつつインク4を循環させるインク供給系によって最大の能力を発揮する。通常、循環流量は、印字のための最大流量の数倍〜十数倍程度に取る。インクジェットヘッド11は、上述したような印字可能な待機状態または印字動作中においてもインク4を循環させることで、以下の(1)〜(6)の機能を発揮する。
(1)ノズル1の表面からの空気の混入、インク中に混入した気泡や微小異物などに起因する不慮の印字抜けを自己回復する機能。
(2)白インクや金属インクなどの比重の大きい顔料インクの顔料が沈降するのを防止する機能。
(3)インクを常時撹拌することによってインクを化学的に安定させる機能。
(4)時間の経過とともにノズル1からインク中の揮発成分が揮発し、ノズル1の近傍のインクの顔料など不揮発成分の濃度が増加して、その部分のインクの特性が時間とともに変化してしまう現象を防ぐ機能。
(5)インクの比熱を利用して各所のインク温度とアクチュエータ6の温度を均一化し、複数のインクジェットヘッド11の相互間、またはノズル1の相互間におけるインクの吐出量及び吐出速度のばらつきを抑えるとともに、熱履歴に起因するインクの吐出量及び吐出速度のばらつきを抑え、かつ吐出動作を安定させる機能。
(6)圧力室3内に微小な気泡があってもインクとともに常に下流側に流し出すことによって微小な気泡が圧力室3内で滞留することを防ぎ、吐出に影響しない程度に微小な気泡が、長時間の圧力振動の間に吐出に影響する大きさに成長する現象(整流拡散)を防ぐ機能。
これらのインク循環式の特徴となる機能は、複数のインクジェットヘッド11の全てに均一に働かせることが望ましく、その為には複数のインクジェットヘッド11の相互間でそれぞれのインクジェットヘッド11の循環流量が均一になっていることが望ましい。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態であるインクジェット装置100の全体構成を示す模式図である。インクジェット装置100は、ヘッドユニット101と、圧力源ユニット102と、圧力制御ユニット103と、メインタンク104と、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)105とを含む。
ヘッドユニット101は、インク循環式の複数のインクジェットヘッドH1,H2,H3,H4,H5,H6(以下、インクジェットヘッドH1,H2,H3,H4,H5,H6を総称してヘッドH1〜H6とする)を備える。各ヘッドH1〜H6は、各々のノズル1が互いに同じ高さ位置になるようにほぼ水平状態に配列される。各ヘッドH1〜H6は、それぞれ図2で示したインクジェットヘッド11と基本的な構成を同じとする。
各ヘッドH1〜H6の圧力室3はそれぞれ636個あって、各圧力室3はそれぞれ1個のノズル1と連通する。すなわち各ヘッドH1〜H6は、636個の圧力室3と同数のノズル1とを備える。これらの圧力室3及びノズル1は、各圧力室3におけるインク4の流れ方向と直交する方向(図2の奥行き方向)に配列される。
各ヘッドH1〜H6の個々のインク吐出能力は、1つのヘッドすなわち636ノズルあたり0.167(mL/sec)である。また、各ヘッドH1〜H6における各圧力室3は、図2の奥行き方向の断面の周長が7.6×10−4(m)であり、断面積が2.4×10−8(m2)である。
なお、図1では、ヘッドユニット101が備えるインクジェットヘッド11の数を6個としたが、インクジェットヘッド11の数は6個に限定されるものではない。2以上のインクジェットヘッド11が、各々のノズル1が同じ高さ位置になるようにほぼ水平状態に配列されていればよい。
圧力源ユニット102は、上流側インクタンク21、下流側インクタンク22、帰還流路23、ポンプ24、フィルタ25及びバルブ26a,26b,26cを備える。
上流側インクタンク21は、各ヘッドH1〜H6に供給するためのインク4を収容する。上流側インクタンク21に収容されたインク4は、上流側共通流路41及びヘッドH1〜H6毎の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fを通って、各ヘッドH1〜H6の流入側インク接続ポートに導かれる。流入側インク接続ポートに導かれたインク4は、各ヘッドH1〜H6のそれぞれの圧力室3を通って流出側インク接続ポートから流出する。
上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fは、例えばΦ3mmの円管であり、上流側共通流路41は、例えばΦ6mmの円管である。上流側共通流路41は、複数のヘッドH1〜H6にインク4を供給しなくてはならない。このため上流側共通流路41は、通常、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fよりも断面積が大きい。
下流側インクタンク22は、各ヘッドH1〜H6から流出したインク4を収容する。各ヘッドH1〜H6の流出側インク接続ポートから流出されたインク4は、ヘッド毎の下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f及び下流側共通流路44を通って、下流側インクタンク22に導かれる。
下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fは、例えばΦ3mmの円管であり、下流側共通流路44は、例えばΦ6mmの円管である。下流側共通流路44は、複数のヘッドH1〜H6から流入するインク4を流さなくてはならない。このため下流側共通流路44は、通常、下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fよりも断面積が大きい。
上流側共通流路41の一端は、上流側インクタンク21内に配置される。下流側共通流路44の一端は、下流側インクタンク22内に配置される。上流側共通流路41の他端と下流側共通流路44の他端とは、流路を開閉するためのバルブ46を設けた連結流路45によって接続される。この接続により、上流側共通流路41と下流側供給流路44とは、バルブ46の開放時に連結流路45を介して連通する。連結流路45は、上流側共通流路41及び下流側共通流路44と同等の太さの流路である。すなわち本実施形態において、連結流路45は、Φ6mmの円管である。バルブ46は、各ヘッドH1〜H6にインク4を充填するときに開放される。なお、バルブ46の開閉は、CPU105によって自動制御される。
帰還流路23は、下流側インクタンク22と上流側インクタンク21との間に、各ヘッドH1〜H6を介さずに設けられる。この帰還流路23には、バルブ26a、ポンプ24及びフィルタ25が、下流側インクタンク22の側から上流側インクタンク21の側に向けて順に設けられる。バルブ26aは、帰還流路23を開閉する。ポンプ24の動作中にバルブ26aが開動作すると、下流側インクタンク22からインク4が帰還流路23に流出する。この帰還流路23に流出したインク4は、ポンプ24の運転により上流側インクタンク21に送られる。このとき、フィルタ25によって、帰還流路23内を流れるインク4に混入している異物等が除去される。
ここに、上流側インクタンク21、上流側共通流路41、ヘッドH1〜H6毎の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f、ヘッドH1〜H6毎の下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f、下流側共通流路44、下流側インクタンク22及び帰還流路23によって、インク4の循環路が形成される。
帰還流路23は、バルブ26aとポンプ24との間で分岐する。そしてこの帰還流路23の分岐路23aは、バルブ26bを介してメインタンク104内に到達する。バルブ26bは、分岐路23aを開閉する。バルブ26bが開動作すると、ポンプ24の運転によりメインタンク104内のインクが上流側インクタンク21に供給される。
メインタンク104は、大気に開放される。一方、上流側インクタンク21は、大気から閉塞される。そして、この上流側インクタンク21の空間領域に、エアパイプ51の一端が配置される。同様に、下流側インクタンク22は閉塞される。そして、この下流側インクタンク22の空間領域に、エアパイプ52の一端が配置される。エアパイプ51は、エア流路を開閉するためのバルブ26cを備える。各バルブ26a,26b,26cの開閉及びポンプ24の運転は、CPU105によって自動制御される。
圧力制御ユニット103は、正圧エアタンク31,負圧エアタンク32、エアポンプ33、エアパイプ34a,34b,34c、第1圧力センサ35、第2圧力センサ36及びバルブ37a,37b,37c,37dを備える。
正圧エアタンク31は、前記エアパイプ51の他端と連通する。また正圧エアタンク31は、エアパイプ34aの一端と連通する。エアパイプ34aの他端は、大気に開放される。エアパイプ34aは、バルブ37a,37bを備える。正圧エアタンク31側のバルブ37bは吸気及び排気用のエアバルブであり、大気開放側のバルブ37aは、排気用のリークバルブである。排気用のリークバルブ37aは、開放時の空気の流速を制限するための空気抵抗を有する。
負圧エアタンク32は、前記エアパイプ52の他端と連通する。また負圧エアタンク32は、エアパイプ34bの一端と連通する。エアパイプ34bの他端は、大気に開放される。エアパイプ34bは、バルブ37c,37dを備える。負圧エアタンク32側のバルブ37dは吸気及び排気用のエアバルブであり、大気開放側のバルブ37cは、吸気用のリークバルブである。吸気用のリークバルブ37cは、開放時の空気の流速を制限するための空気抵抗を有する。
エアパイプ34aにおけるバルブ37aとバルブ37bとの間の位置で、エアパイプ34cの一端が連通する。エアパイプ34cの他端は、エアパイプ34bにおけるバルブ37cとバルブ37dとの間の位置で連通する。エアパイプ34cは、その中途部にエアポンプ33を備える。
エアポンプ33は、エアパイプ34bを流れる空気を吸込み、吸込んだ空気をエアパイプ34aに送り込む。このエアポンプ33の動作及び各バルブ37a,37b,37c,37dの開閉により、正圧エアタンク31内及び負圧エアタンク32内の気体分子数がそれぞれ調節される。その結果、正圧エアタンク31内及び負圧エアタンク32内の空気圧PS1,PS2が調整される。
第1圧力センサ35は、正圧エアタンク31内の空気圧PS1を検知する。第2圧力センサ36は、負圧エアタンク32内の空気圧PS2を検知する。
正圧エアタンク31は、上流側インクタンク21に収容されているインク4に、ノズル1の開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P1(J/m3)が生じるように、上流側インクタンク21内の圧力を調整する(上流側圧力調整手段)。負圧エアタンク32は、下流側インクタンク22に収容されているインク4に、ノズル1の開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」P2(J/m3)が生じるように、下流側インクタンク22内の圧力を調整する(下流側圧力調整手段)。
「単位体積当たりのエネルギー」P1,P2の単位(J/m3)は、Pa(パスカル)に等しい。この「単位体積当たりのエネルギー」P1(Pa),P2(Pa)は、“ベルヌーイの式”の「単位体積当たりのエネルギー」のことであり、静圧、動圧及びポテンシャル圧力の合計値である。以下の説明では、特に断らない限り、ポテンシャル圧力の基準高さは、ノズル1の開口の高さ位置とし、「単位体積当たりのエネルギー」の基準はノズル1の開口の高さ位置の大気圧Poの静止インクとする。
このようなインクジェット装置100では、ノズル1内部のインク4を除き、インクジェット装置100内における各部のインク4の動圧は、通常、上記各部のインク4の静圧またはポテンシャル圧力に比べて、十分に小さい。ここで、動圧が無視できるほど小さいとき、「単位体積当たりのエネルギー」P1(Pa)は、上流側インクタンク21内の液面のインク4の静圧Pi1と、上流側インクタンク21内のインク4の液面のポテンシャル圧力“ρ・g・h1”との合計値“Pi1+ρ・g・h1”で表わされる。ρ(kg/m3)は、インク4の密度である。g(m/s2)は、重力加速度である。h1(m)は、ノズル1の開口の高さ位置を基準とする、上流側インクタンク21内のインク4の液面の高さ位置、すなわちポテンシャルヘッドである。上流側インクタンク21内の液面のインク4の静圧Pi1は、正圧エアタンク31内の空気圧PS1と等しい。したがって、「単位体積当たりのエネルギー」P1(Pa)は、“PS1+ρ・g・h1”で表わされる。すなわち上流側インクタンク21内のインク4の「単位体積当たりのエネルギー」P1(Pa)は、上流側インクタンク21内のインク4の液面の高さ位置h1と、正圧エアタンク31内の空気圧PS1の大きさとによって定まる。そこで上流側インクタンク21内のインク4の液面の高さ位置h1を検出するために、第1液面センサ61が上流側インクタンク21に設けられる。
「単位体積当たりのエネルギー」P1(Pa)の場合と同様に、動圧が無視できるほど小さいとき、「単位体積当たりのエネルギー」P2(Pa)は、下流側インクタンク22内の液面のインク4の静圧Pi1と、下流側インクタンク22内のインク4の液面のポテンシャル圧力“ρ・g・h2”との合計値“Pi1+ρ・g・h2”で表わされる。h2(m)は、ノズル1の開口の高さ位置を基準とする下流側インクタンク22内のインク4の液面の高さ位置、すなわちポテンシャルヘッドである。下流側インクタンク22内の液面のインク4の静圧Pi2は、負圧エアタンク32内の空気圧PS2と等しい。したがって、「単位体積当たりのエネルギー」P2(Pa)は、“PS2+ρ・g・h2”で表わされる。すなわち下流側インクタンク2221内のインク4の「単位体積当たりのエネルギー」P2(Pa)は、下流側インクタンク22内のインク4の液面の高さ位置h2と、負圧エアタンク32内の空気圧PS2の大きさとによって定まる。そこで下流側インクタンク22内のインク4の液面の高さ位置h2を検出するために、第2液面センサ62が下流側インクタンク22に設けられる。
因みに、空気圧PS1、PS2の大きさは自由に設定できる。したがって、「単位体積当たりのエネルギー」P1の値を正にするために、必ずしも上流側インクタンク21内のインク4の液面の高さ位置h1の値が正である必要はない。高さ位置h1がノズル1の高さより低くても良い。同様に、「単位体積当たりのエネルギー」P2の値を負にするために、必ずしも下流側インクタンク22内の液面のインク4の液面の高さ位置h2の値が負である必要はない。高さ位置h2がノズル1の高さより高くても良い。上流側インクタンク21がヘッドH1〜H6よりも下方に置かれ、下流側インクタンク22がヘッドH1〜H6よりも上方に置かれる、という組み合わせであっても何ら問題は無い。
第1液面センサ61及び第2液面センサ62の検知結果と、第1圧力センサ35及び第2圧力センサ36の検知結果とは、それぞれCPU105に出力される。CPU105は、第1液面センサ61及び第2液面センサ62の検知結果に基づき、上流側インクタンク21内のインク4の液面の高さ位置h1と下流側インクタンク22内の液面のインク4の液面の高さ位置h2とが一定に保たれるように、圧力源ユニット102におけるポンプ24の運転及び各バルブ26a,26b,26cの開閉を制御する。またCPU105は、第1圧力センサ35及び第2圧力センサ36の検知結果に基づき、空気圧PS1、PS2の大きさを調整するように、圧力制御ユニット103のエアポンプ33の運転及び各バルブ37a,37b,37c,37dの開閉を制御する。これらの制御により、上流側インクタンク21に収容されているインク4には、「単位体積当たりのエネルギー」P1(Pa)が与えられる。同様に、下流側インクタンク22に収容されているインク4には、「単位体積当たりのエネルギー」P2(Pa)が与えられる。
本実施の形態では、上流側インクタンク21内のインク4の液面の高さ位置h1と下流側インクタンク22内の液面のインク4の液面の高さ位置h2とを一定に保ちつつ、空気圧PS1、PS2の大きさを調整することによって「単位体積当たりのエネルギー」P1,P2を調節する。この点については、逆に、空気圧PS1、PS2の大きさを一定に保ちつつ上流側インクタンク21内のインク4の液面の高さ位置h1流と下流側インクタンク22内の液面のインク4の液面の高さ位置h2とを調整してもよい。あるいは、両者の併用によって「単位体積当たりのエネルギー」P1,P2を調節してもよい。
メインタンク104の高さ位置とその中のインク4の液面高さの範囲は、メインタンク104内のインク4の「単位体積当たりのエネルギー」が上記循環路を循環中のインク4の、帰還流路23と分岐路23aとの接続位置の静止インクの「単位体積当たりのエネルギー」よりも大きくなるように設定されている。したがってバルブ26bが開くとき、分岐路23aを流れるインク4の向きは、バルブ26aの開閉に関わらず常にメインタンク104から圧力源ユニット102側へインク4を供給する向きである。
インク4の循環動作に際し、CPU105は、圧力制御ユニット103のエアポンプ33の運転及び各バルブ37a,37b,37c,37dの開閉を制御する。この制御により、CPU105は、「単位体積当たりのエネルギー」P2(Pa)が「単位体積当たりのエネルギー」P1(Pa)よりも小さくなるように、負圧エアタンク32内の空気圧PS2と正圧エアタンク31内の空気圧PS1とを調節する。このとき、上流側インクタンク21内のインク4が、上流側共通流路41及び各ヘッドH1〜H6の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fを通って各ヘッドH1〜H6の圧力室3に供給される。また、各ヘッドH1〜H6の圧力室3を流れるインク4は、各ヘッドH1〜H6の下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f及び下流側共通流路44を通って、下流側インクタンク22に導かれる。さらに、下流側インクタンク22内のインク4は、帰還流路23、ポンプ24及びフィルタ25を介して上流側インクタンク21に戻る。すなわち、上流側インクタンク21から各ヘッドH1〜H6の圧力室3、さらには下流側インクタンク22と帰還流路23とを通って上流側インクタンク21に戻るインク4の循環路が形成される。
このような各ヘッドH1〜H6に対するインク供給系では、上記循環路内の各所の動圧は、十分小さいので無視できる。また、上記循環路内の各所のレイノルズ数も十分小さいので、インク4の乱流の影響も無視できる。
吐出のためのインク4の流量は、印字内容に依存してほぼゼロから最大流量(ベタ印字)まで変化する。この実施形態のヘッドH1〜H6から吐出するインク4の流量は、0〜10mL/分である。吐出のためのインク4の流量が大きいとき、吐出流量の大きさに比例してノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力(Pa)が低下する。圧力がどれだけ低下するかを求めるには、重ね合わせの原理を利用できる。つまり、吐出流量に起因する圧力(Pa)の低下量は、別に計算して求めて加算すれば良い。
すなわち、先ず、吐出のためのインク4の流量が循環流量に比べて無視できる程度に十分小さい場合についてノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力を計算する。その後、吐出による圧力の低下分を見込んで、インク4の流量がゼロから最大流量まで変化いたとしてもノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力が適正範囲内にあるように、目標とするノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力(Pa)を高めに調整し直せばよい。所定の吐出流量に対する圧力低下量は単純に吐出流量とヘッドH1〜H6から見込んだ上流側、下流側の流路の並列流路抵抗の乗算となる。このため、圧力低下幅を小さくする必要がある場合には、各部の流路抵抗を下げる必要がある。
以下、ノズル1におけるインク4の「単位時間当たりの吐出量」が、圧力室3におけるインク4の循環流量に比べて十分小さい場合について、説明を続ける。この場合、各ヘッドH1〜H6に対するインク供給系および各ヘッドH1〜H6内の圧力損失は、各流路の物理的形状、インク4の粘度と循環流量とによって決定される。この実施形態の圧力室3におけるインク4の循環流量は、各ヘッドH1〜H6の平均でおおよそ50[mL/分]、全体で300[mL/分]である。
上流側インクタンク21から圧力室3のノズル1近傍を経由して下流側インクタンク22に至るインク流路を流れるインク4の流量Q(m3/sec)は、式(1)で表わされる。
Q=(P1−P2)/(R21+R22)……(1)
式(1)において、R21は、上流側インクタンク21から圧力室3のノズル1近傍までのインク4の流路抵抗(Pa・sec/m3)である。R22は、圧力室3のノズル1近傍から下流側インクタンク22までのインク4の流路抵抗(Pa・sec/m3)である。すなわち、インク4の流量Qは、流路抵抗R21,R22、および上流側インクタンク21内のインク4の「単位体積当たりのエネルギー」P1と下流側インクタンク22内のインク4の「単位体積当たりのエネルギー」P2との差、によって定まる。
図1の構成のようにヘッドH1〜H6が複数ある場合、一般にはR21とR22はヘッドH1〜H6毎に異なる値を取るものとして流路ネットワークの計算をしなくてはならない。しかし、説明を簡単にするために、以下では先ず、1個のヘッドだけの場合について説明する。複数個のヘッドについて計算する場合には、流路を共通流路とヘッド毎の流路とに分ける。そして、共通流路部分は各ヘッドの流量の逆数に比例して並列流路抵抗が按分されると考えればよい。
流路抵抗R21,R22は、インク4の粘度と流路形状によって決まってしまう。このため、インク4の流量Qを所望の値に調整するためには、「単位体積当たりのエネルギー」P1,P2の値を調整する。すなわちCPU105は、正圧エアタンク31内の空気圧PS1及び負圧エアタンク32内の空気圧PS2のいずれか一方または両方を調整することによって「単位体積当たりのエネルギー」P1,P2の値を調整し、これにより所望のインク流量Qを得る。例えば、「単位体積当たりのエネルギー」P1を大きくするか、あるいは「単位体積当たりのエネルギー」P2を小さくすれば、インク流量Qを増やすことができる。逆に、「単位体積当たりのエネルギー」P1を小さくするか、あるいは「単位体積当たりのエネルギー」P2を大きくすれば、インク流量Qを減らすことができる。
同時に、CPU105は、「単位体積当たりのエネルギー」P1,P2の関係を式(2)のように保つ。ここで、Pnは、定数である。
P2={(R21+R22)/R21}×Pn−(R22/R21)×P1……(2)
インク4を吐出しないとき、ノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力(Pa)は、“P2+Q×R22”である。この“P2+Q×R22”に上記の式(1)、(2)を代入すると、式(3)のように展開される。
P2+Q×R22
=P2+{(P1−P2)/(R21+R22)}×R22
={1−R22/(R21+R22)}×P2+{R22/(R21+R22)}×P1
={R21/(R21+R22)}×P2+{R22/(R21+R22)}×P1
=Pn−{R21/(R21+R22)×(R22/R21)×P1}
+{R22/(R21+R22)}×P1
=Pn……(3)
すなわち定数Pnは、ノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力(Pa)に相当する。定数Pnは、ノズル1の開口におけるインクの表面がその開口の内側に湾曲するメニスカス(図2を参照)を保つように、例えば0(Pa)〜−3000(Pa)の範囲に含まれる値が選定される。仮に、定数Pnが、0(Pa)より大きいとノズル1からインク4が漏れてしまう虞があり、−3000(Pa)より小さいとノズル1に余計な空気が引き込まれてしまう虞がある。以下、定数Pnのことを、ノズル1の開口近傍におけるインク4の適正圧力と称する。
ノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力は、インク4の吐出動作を行っている間は、吐出のために、高い周波数で大きく変化する。しかし、インク4を吐出するときは、吐出のためにメニスカスを意図的に壊すのであるから、ここで維持すべきノズル1の開口近傍におけるインク4の適正圧力Pnは、吐出動作のための高周波成分を除く平均値、あるいは吐出動作と次の吐出動作との間の休止時間中の圧力を意味する。
ノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力は、厳密に言えば圧力室3のノズル1近傍の圧力に、圧力室3のノズル1近傍とノズル1の開口近傍との間の僅かな高低差に起因するポテンシャル圧力差を加えた値である。
なお、流路抵抗R21,R22の関係が“R21=R22”であれば、「単位体積当たりのエネルギー」P2の式(2)は、式(4)のように、より単純になる。
P2=2・Pn−P1……(4)
また、流路抵抗R21と流路抵抗R22との比を“1:k”と表せば(つまりR22/R21=k)、「単位体積当たりのエネルギー」P2の式(2)は、式(5)のようになる。
P2={(1+k)×Pn}−(k×P1)……(5)
すなわち、ノズル1の開口近傍におけるインク4の適正圧力Pnを維持するための「単位体積当たりのエネルギー」P1,P2の関係は、流路抵抗R21,R22の絶対値に影響されず、流量Qにも影響されず、流路抵抗R21と流路抵抗R22との比“1:k”だけで決定される。逆に「単位体積当たりのエネルギー」P1,P2が固定のとき、ノズル1の開口近傍におけるインク4の適正圧力Pnを一定に維持しつつ流量Qを調整するには、流路抵抗比kを変えずに流路抵抗R21と流路抵抗R22の大きさを調整すれば良い。
上流側インクタンク21は、「単位体積当たりのエネルギー」P1の圧力源として働く。この場合の「単位体積当たりのエネルギー」P1は、式(6)で表される。
P1=PS1+ρgh1……(6)
この式(6)を正圧エアタンク31内の空気圧PS1について解けば、式(7)が得られる。
PS1=P1−ρgh1……(7)
下流側インクタンク22は、「単位体積当たりのエネルギー」P2の圧力源として働く。この場合の「単位体積当たりのエネルギー」P2は、式(8)で表される。
P2=PS2+ρgh2……(8)
この式(8)を負圧エアタンク32内の空気圧PS2について解けば、式(9)が得られる。
PS2=P2−ρgh2……(9)
ここで、ノズル1の開口近傍のインク4の圧力を適正圧力Pnに保つには、式(5)と、式(7)と、式(9)とを用いて、空気圧PS1,PS2の関係を式(10)のように定める。
PS2=P2−ρgh2
={(1+k)×Pn}−(k×P1)−ρgh2
={(1+k)×Pn}−k×(PS1+ρgh1)−ρgh2 ……(10)
上記kは、上流側インクタンク21から各圧力室3のノズル1近傍までのインク4の流路抵抗R21と、各圧力室3のノズル1近傍から下流側インクタンク22までのインク4の流路抵抗R22と、の比である。
k=1であれば、式(10)は、式(11)で表わされる。
PS2=2Pn−PS1−(ρgh1+ρgh2)……(11)
このとき、適正圧力Pnは、式(12)で表わされる。
Pn=(PS1+PS2)/2+(ρgh1+ρgh2)/2……(12)
式(12)からわかるように、第1圧力センサ35で検知される圧力PS1と第2圧力センサ36で検知される圧力PS2の平均と、上流側インクタンク21液面のポテンシャル圧力ρgh1と下流側インクタンク22液面のポテンシャル圧力ρgh2の平均とを加算したものがノズル4の適正圧力Pnである。
すなわちCPU105は、液面の高さ位置h1、h2を一定に保ちつつ、第1圧力センサ35で検知される圧力PS1と第2圧力センサ36で検知される圧力PS2が、式(10)を保つように、正圧エアタンク31内の気体分子数および負圧エアタンク32内の気体分子数のいずれか一方あるいは両方を増減する。特にk=1であれば、CPU105は、式(11)を保つように、正圧エアタンク31内の気体分子数および負圧エアタンク32内の気体分子数のいずれか一方あるいは両方を増減する。
図1に示す構成では、ヘッドユニット101は、複数のヘッドH1〜H6を搭載する。そしてインクジェット装置100は、上流側インクタンク21に収容されたインク4を、上流側共通流路41及びヘッドH1〜H6毎の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fを介して、各ヘッドH1〜H6に供給する。またインクジェット装置100は、各ヘッドH1〜H6の圧力室3を経たインク4を、ヘッド毎の下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f及び下流側共通流路44を介して下流側インクタンク22に戻す。
このような構成の場合、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fの太さと長さが互いに同じで、かつそれぞれ上流側共通流路41、下流側供給流路44上の各一点から分岐していれば、各ヘッドH1〜H6を流れるインク4の流量とノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力とを各々一致させることができる。
しかし実際には、図1に示すように、上流側インクタンク21および下流側インクタンク22に近い位置に置かれたヘッド(近い順にヘッドH1,ヘッドH2,ヘッドH3,…)と遠い位置に置かれたとが混在する。このため、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fの長さを全て一致させることは困難である。
その一方で、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとの太さを一致させ、さらに上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとの長さの比を一致させることは比較的容易である。各ヘッドH1〜H6の相互間で、分岐流路の太さが一致しかつ長さの比が一致すれば、分岐流路の流路抵抗比kは互いに等しくなる。さらに、ヘッドH1〜H6毎の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとの長さを一致させ、流路抵抗比kを“1”とすることも比較的容易である。
なお、流路抵抗比kは、定数、すなわちヘッドH1〜H6間で一致していれば、必ずしも“1”である必要はないが、説明を簡単にするために以下の実施例では流路抵抗比k=1として説明を進める。
上流側共通流路41及び下流側共通流路44の節点間の各セグメントに生じる流路抵抗をRc、連結流路45の流路抵抗をRb、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fにそれぞれ生じる流路抵抗をr1,r2,r3,r4,r5,r6とする。また、ヘッドH1〜H6のノズル1の近傍から流入側インク接続ポート及び流出側インク接続ポートまでの各流路抵抗をrhとする。この場合、インク4の循環路に生じる各流路抵抗Rc,Rb、r1,r2,r3,r4,r5,r6と、ヘッドH1〜H6内の流路抵抗rhと、上流側インクタンク21、下流側インクタンク22内のインク4の単位体積当たりエネルギーP1,P2と、各ヘッドH1〜H6のノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力Pn1,Pn2,Pn3,Pn4,Pn5,Pn6との関係は、図3のように表される。
ここで、分岐流路とヘッド内部とを含むヘッドH1〜H6毎の合計流路抵抗R1〜R6は、それぞれ、「R1=2r1+2rh」、「R2=2r2+2rh」、「R3=2r3+2rh」、「R4=2r4+2rh」、「R5=2r5+2rh」、「R6=2r6+2rh」と表す。
なお、図3において、矢印とともに示される符号Qc1,Qc2,Qc3,Qc4,Qc5,Qc6,Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6,Q7は、インク4の流量を表す。インク流量Qc1は、“Q1+Q2+Q3+Q4+Q5+Q6+Q7”と等しい。インク流量Qc2は、“Q2+Q3+Q4+Q5+Q6+Q7”と等しい。インク流量Qc3は、“Q3+Q4+Q5+Q6+Q7”と等しい。インク流量Qc4は、“Q4+Q5+Q6+Q7”と等しい。インク流量Qc5は、“Q5+Q6+Q7”と等しい。インク流量Qc6は、“Q6+Q7”と等しい。
図3において、“R1=R2=R3=R4=R5=R6”とした場合、各ヘッドH1〜H6をそれぞれ流れるインク4の流量Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6の関係は、“Q1>Q2>Q3>Q4>Q5>Q6”となる。このように、各ヘッドH1〜H6をそれぞれ流れるインク4の流量Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6に差が生じると、各ヘッドH1〜H6の間で温度差を生じ易い。温度差が生じると、各ヘッドH1〜H6の間で濃度差を生じる。また、流量が少ないヘッド(例えばヘッドH5やヘッドH6)では、不吐出の自己回復機能または比重の大きい顔料などの沈降防止機能等のインク循環式ヘッドの特徴となっている機能が低下する。したがって、各ヘッドH1〜H6の相互間の流量差はなるべく小さい方が良い。
そこで、ヘッドH1〜H6毎の各流路抵抗R1,R2,R3,R4,R5,R6の関係を、“R1>R2>R3>R4>R5>R6”とする。すると、各ヘッドH1〜H6をそれぞれ流れるインク4の流量Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6の差が小さくなる。その際、流路抵抗比kを各ヘッドH1〜H6の相互間で等しくなるように保っておけば、各ヘッドH1〜H6のノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力Pn1,Pn2,Pn3,Pn4,Pn5,Pn6を互いに同じ値に保つことができる。また、各ヘッドH1〜H6のノズル1の開口近傍におけるインク4の圧力を適正圧力に維持できることができる。ここでは、流路抵抗比kは“1”の一定値である。
また、各ヘッドH1〜H6をそれぞれ流れるインク4の流量Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6を完全に一致させることも可能である。この点について、以下に説明する。
バルブ46は閉じている(等価回路の図3のスイッチ46は開いている)ものとして、Qh=Q6とおく。R5の両端にはR6に両端よりも2Rc・Qhだけ大きな圧力が加わるから、式(13)が成立する。
Q5=Qh・((R6+2Rc)/R5)……(13)
ここで、Q5=Qhとするには、R5=R6+2Rcとすれば良い。
R4の両端にはR5に両端よりも4Rc・Qhだけ大きな圧力が加わるから、式(14)が成立する。
Q4=Qh・((R5+4Rc)/R4)……(14)
ここで、Q4=Qhとするには、R4=R5+4Rcとすれば良い。
R3の両端にはR4に両端よりも6Rc・Qhだけ大きな圧力が加わるから、式(15)が成立する。
Q3=Qh・((R4+6Rc)/R3)……(15)
ここで、Q3=Qhとするには、R3=R4+6Rcとすれば良い。
R2の両端にはR3に両端よりも8Rc・Qhだけ大きな圧力が加わるから、式(16)が成立する。
成立する。
Q2=Qh・((R3+8Rc)/R2)……(16)
ここで、Q2=Qhとするには、R2=R3+8Rcとすれば良い。
R1の両端にはR2に両端よりも10Rc・Qhだけ大きな圧力が加わるから、式(17)が成立する。
Q1=Qh・((R2+10Rc)/R1)……(17)
ここで、Q1=Qhとするには、R1=R2+10Rcとすれば良い。
すなわち、以下の式(18)〜(22)の関係を満足するようにR1〜R6を選べばよい。
R5=R6+2Rc……(18)
R4=R5+4Rc……(19)
R3=R4+6Rc……(20)
R2=R3+8Rc……(21)
R1=R2+10Rc……(22)
そのためのr1〜r6の選定は、以下の式(23)〜(27)とすればよい。
r5=r6+Rc……(23)
r4=r5+2Rc……(24)
r3=r4+3Rc……(25)
r2=r2+4Rc……(26)
r1=r1+5Rc……(27)
このとき、式(28)が成立するので、各ヘッドを流れるインク流量を一致させることができる。
Qh=(Qc1)/6=(Qc2)/5=(Qc3)/4=(Qc4)/3=(Qc5)/2=Qc6=Q1=Q2=Q3=Q4=Q5=Q6……(28)
本実施形態では、ヘッドH1〜H6が6個である。一般に、M個のヘッドが上流側及び下流側の共通流路に流路抵抗Rcを持つ流路間隔で分岐流路を介して接続され、それぞれの上流側、下流側の分岐流路の流路抵抗を上流側インクタンク、下流インクタンクに近い側から順にr(M)、r(M−1)、…r(2)、r(1)としたとき(Mの値は図1aと逆順)、N≦Mとしてそれぞれの上流側、下流側の分岐流路の流路抵抗を式(29)のように選定すれば、各ヘッドを流れるインク流量を一致させることができる。
r(2)=r(1)+Rc
r(3)=r(2)+2Rc
…
r(N)=r(N−1)+N・Rc……(29)
さて、インクジェット装置100は、図1に示すように、上流側インクタンク21内及び下流側インクタンク22を水平位置で並べて設ける。一方、上流側共通流路41は、上流側インクタンク21の近くに配置されているヘッドから遠くに配置されているヘッドに対して下向きに傾斜するように配置する。また、下流側共通流路44は、下流側インクタンク22の近くに配置されているヘッドから遠くに配置されているヘッドに対して下向きに傾斜するように配置する。さらに、上流側共通流路41が各ヘッドH1〜H6の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと接続する節点間における上流側共通流路41の長さおよび断面と、下流側共通流路44が下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fと接続する節点間における下流側共通流路44の長さおよび断面は全て等しくなっている。また、各ヘッドH1〜H6の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとは、それぞれヘッドH1〜H6毎に内径と全長とを等しくする。すなわち、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fの各全長をL1a,L1b,L1c,L1d,L1e,L1fとし、下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fの各全長をL2a,L2b,L2c,L2d,L2e,L2fとしたとき、L1a=L2a,L1b=L2b,L1c=L2c,L1d=L2d,L1e=L2e,L1f=L2fの関係を有する。
このような配置構成でインク4の循環路を形成した場合、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとをそれぞれ最短となるように配管すれば、必然的に、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22に最も近いヘッドH1に対する上流側分岐流路42a及び下流側分岐流路43aの全長L1a=L2aが最も長くなる。そして、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22から離れるにつれて、上流側分岐流路42b,42c,42d,42e及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43eの全長L1b=L2b,L1c=L2c,L1d=L2d,L1e=L2eは順次短くなり、最も離れたヘッドH6に対する上流側分岐流路42f及び下流側分岐流路43fの全長L1f=L2fが最も短くなる。すなわち上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fの全長は、“L1a(L2a)>L1b(L2b)>L1c(L2c)>L1d(L2d)>L1e(L2e)>L1f(L2f)”の関係を有する。
ここで、前述したように上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fの内径は等しい。したがって、各分岐流路の長さの違いによって、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fの各流路抵抗r1,r2,r3,r4,r5,r6は、r1>r2>r3>r4>r5>r6の関係となる。その結果、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22に近いものほど大きく分岐流路による流量の抑制効果が働く。これによって、仮に各流路抵抗r1〜r6が等しければ、Q1>Q2>Q3>Q4>Q5>Q6となるはずだった各ヘッドH1〜H6のインク4の流量Q1〜Q6間の差が低減される。さらに望ましくは隣接する分岐流路の流路抵抗差を式(29)に従って選べば、インク4の流量Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6はほぼ一致する。その結果、各ヘッドH1〜H6間の温度差が軽減され、かつ循環による自己回復能力や沈降防止能力もヘッド間で均一化される。
また、図1に示すように、上流側共通流路41は、上流側インクタンク21の近くに配置されているヘッドH1から遠くに配置されているヘッドH6に向かって下向きに傾斜している。同様に、下流側共通流路44は、下流側インクタンク22の近くに配置されているヘッドH1から遠くに配置されているヘッドH6に向かって下向きに傾斜している。仮に、共通流路41,44が水平に配置されていると、気泡の残り易い場所が不定となって気泡制御がしにくい。本実施形態では、共通流路41,44を水平方向に対して斜めに配置することで、気泡制御を容易にしている。
インク流路に最初にインクを充填する際、先ず、バルブ26aを閉じる。次いで、バルブ26bを開いてポンプ24を作動させ、メインタンク104のインクを、フィルタ25を介して上流側インクタンク21に汲み上げておく。次いで、圧力制御ユニット103によって上流側インクタンク21に正圧を与え、インク4を上流側共通流路41へ押し出す。その際、バルブ46は開いておく。そうすることにより、インク4は、上流側共通流路41から連結流路45を通り、さらに下流側共通流路44を通って下流側インクタンク22に流出する。またインク4は、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fから各ヘッドH1〜H6の圧力室3内を通り、さらに下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f及び下流側共通流路44を通って下流側インクタンク22に流出する。
その結果、インク4を充填する前に、上流側共通流路41、下流側共通流路44、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f、下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f及び連結流路45内に存在していた空気は、インク4によって押されて下流側インクタンク22に向かって抜かれていく。その際、上流側共通流路41から連結流路45を通って下流側共通流路44、下流側インクタンク22に流れる流路は、流路抵抗が小さいため流量が大きく流速が速い。このため、共通流路41,44内で気泡が浮くことなく、気液界面がスムースに降下して気泡は残り難い。また分岐流路は、管径を細く設定してあるので流路抵抗が大きく、流量・流速は小さいものの、流量・流速の大きい上流側共通流路41に先にインク4が充填されるため、分岐流路に気泡が混入するおそれが少ない。このため、全ての場所に気泡が発生することなくインク4を充填することができる。インク4の充填が終了し下流側インクタンク22にインクが溜まったならば、バルブ26aを開き、バルブ46を閉じる。そうすることにより、各ヘッドH1〜H6に効率よく循環流を流すことができる。バルブ26bはインクの消費量に応じてCPU105が開閉制御する。たとえば第2液面センサ62が所定液面を下回ったときバルブ26bを開け、上回ったときバルブ26bを閉める。バルブバルブ26bを開けるとポンプ24が送る所定流量のインクのうちの一部は下流側インクタンク22の代わりにメインタンク104から帰還流路23に導入されるため、下流側インクタンク22の液面が上昇する。
[第2の実施形態]
次に、図4を用いて第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態の変形例である。
第1の実施形態でも、インク4の表面張力が小さいと充填時の気液界面が崩れやすく、上流側共通流路41に気泡無くインクを充填することが難しい場合がある。そのような条件のインク4を使用する場合には、図4に示すように、充填用流路49を設ける。
充填用流路49は、上流側共通流路41と同じ太さ、例えばΦ6mmの円管である。充填用流路49の一端は、フィルタ25と上流側インクタンク21の接続場所から分岐する。そして、その分岐点とインクタンク21との間の帰還流路23にバルブ47が設けられる。充填用流路49の他端は、バルブ46の上流側共通流路41側に接続される。この接続により、充填用流路49を介して上流側共通流路41の下方から帰還流路23へインク4を流し込むことができるようになっている。充填用流路49は、バルブ48を備える。また充填用流路49の一端は、充填用流路49の他端より低い場所に設置されている。すなわち充填用流路49は、一端から他端に向けて下ることなく単調に上昇する。充填用流路49が上流側共通流路41に合流した点から遡って上流側インクタンク21へ至る上流側共通流路41も、合流点側から見ると下ることなく単調に上昇する。
インク4の充填時、先ず、バルブ26a、47、46を閉じる。次いで、バルブ26b、48を開き、ポンプ24を稼働させて、充填用流路49を介して上流側共通流路41に下方からインク4を流し込む。インク4が上流側インクタンク21の第1液面センサ61によって検出される所定液面まで溜まったならば、バルブ48を閉じる。次いで、バルブ46、47を開くとともに圧力制御ユニット103によって上流側インクタンク21に正圧を与える。これにより、上流側インクタンク21の側からインク4が充填される。その後の操作は、第1の実施形態と同一である。第2の実施形態のようにインク4を充填することにより、上流側共通流路41内に気泡が浮いても上流側インクタンク21に排出されるため、表面張力の小さなインク4でも気泡なく充填できる効果を奏する。
第2の実施形態では、第1の実施形態に対して、「一端が前記帰還流路の前記上流側インクタンクと接続される側に接続され、他端が前記上流側共通流路の前記上流側インクタンクから遠くに配置されている前記インクジェットヘッドよりも下流側に接続される充填用流路を有し、前記上流側共通流路は、前記上流側インクタンクの近くに配置されている前記インクジェットヘッドから遠くに配置されている前記インクジェットヘッドに向かって下向きに傾斜し、前記充填用流路は前記一端から前記他端に向かって上向きに傾斜する。」
という構成が追加されている。この追加の構成によってインクをより充填し易くしている。
なお、第2の実施形態では、バルブ46を閉じたままとしても連結流路45を除く他の流路には充填が完了するため、動作に支障が無い。また、バルブ46とその前後の連結流路45、すなわち充填用流路49と上流側共通流路41の接続点から下流側共通流路44と下流側分岐流路43fの接続点までを省略することも可能である。
[第3の実施形態]
図5は、第3の実施形態であるインクジェット装置200の要部構成を示す模式図である。なお、図1と共通する部分には同一符号を付している。
インクジェット装置200は、第1の実施形態のインクジェット装置100と同様に、ヘッドユニット101、圧力源ユニット102、圧力制御ユニット103、メインタンク104及びCPU105を含む。なお図4では、ヘッドユニット101と、圧力源ユニット102の上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22と、上流側共通流路41、ヘッドH1〜H6毎の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f、ヘッド毎の下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f、連結流路45及び下流側共通流路44を示している。上流側インクタンク21、下流側インクタンク22及びメインタンク104の高さ位置は第1の実施形態と異なるが、先に説明した各数式を満足している。その余の部分については、インクジェット装置100と共通なので、図示を省略している。
上流側インクタンク21内の液面の高さ位置は、各ヘッドH1〜H6のノズル1の高さ位置よりも低い位置に位置し、下流側インクタンク22内のインク4の液面の高さ位置は、各ヘッドH1〜H6のノズル1の高さ位置よりも高い位置に位置するように、上流側インクタンク21内及び下流側インクタンク22を配置する。一方、上流側共通流路41は、上流側インクタンク21の近くに配置されているヘッドから遠くに配置されているヘッドに対して上向きに傾斜するように配置する。また、下流側共通流路44は、下流側インクタンク22の近くに配置されているヘッドから遠くに配置されているヘッドに対して下向きに傾斜するように配置する。さらに、上流側共通流路41が各ヘッドH1〜H6の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと接続する節点間における上流側共通流路41の長さおよび断面と、下流側共通流路44が下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fと接続する節点間における下流側共通流路44の長さおよび断面は全て等しくなっている。また、各ヘッドH1〜H6の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとは、それぞれヘッドH1〜H6毎に内径と全長とを等しくする。すなわち、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fの各全長をL1a,L1b,L1c,L1d,L1e,L1fとし、下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fの各全長をL2a,L2b,L2c,L2d,L2e,L2fとしたとき、L1a=L2a,L1b=L2b,L1c=L2c,L1d=L2d,L1e=L2e,L1f=L2fの関係を有する。
このような配置構成でインク4の循環路を形成した場合も、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとをそれぞれ最短となるように配管すれば、必然的に、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22に最も近いヘッドH1に対する上流側分岐流路42a及び下流側分岐流路43aの全長L1a=L2aが最も長くなる。そして、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22から離れるにつれて、上流側分岐流路42b,42c,42d,42e及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43eの全長L1b=L2b,L1c=L2c,L1d=L2d,L1e=L2eは順次短くなり、最も離れたヘッドH6に対する上流側分岐流路42f及び下流側分岐流路43fの全長L1f=L2fが最も短くなる。したがって、第1、第2の実施形態と同様に各ヘッドH1〜H6のインク4の流量Q1〜Q6間の差は低減される。さらに望ましくは隣接する分岐流路の流路抵抗差を式(29)に従って選べば、流量Q1〜Q6はほぼ一致する。
また、図5に示すように、上流側共通流路41は、上流側インクタンク21の近くに配置されているヘッドH1から遠くに配置されているヘッドH6に対して上向きに傾斜している。その反対に、下流側共通流路44は、下流側インクタンク22の近くに配置されているヘッドH1から遠くに配置されているヘッドH6に対して下向きに傾斜している。最初に、インク4を各ヘッドH1〜H6に充填する際、まずバルブ26aを閉じる。次いで、バルブ26bを開いてポンプ24を作動させ、メインタンク104のインク4をフィルタ25を介して上流側インクタンク21に導入しておく。次いで圧力制御ユニット103によって上流側インクタンク21に正圧を与え、インク4を上流側共通流路41へ押し出す。その際、バルブ46は開いておく。インク4は、上流側共通流路41から連結流路45を通り、さらに下流側共通流路44を通って下流側インクタンク22に流出する。またインク4は、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fから各ヘッドH1〜H6の圧力室3内を通り、さらに下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f及び下流側共通流路44を通って下流側インクタンク22に流出する。
その結果、インク4を充填する前に、上流側共通流路41、下流側共通流路44、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f、下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f及び連結流路45内に存在していた空気は、インク4によって押されて下流側インクタンク22に向かって抜かれていく。上流側共通流路41及び下流側共通流路44は傾斜しているため、空気は上に向かって押し上げられ、流路内に空気が残ってしまうことはない。したがって、インク流路にインク4を充填し易い。
なお、第3の実施例では、連結流路45及びバルブ46を省略することも可能である。その場合、インク4は上流側共通流路41、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f、下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f、下流側共通流路44の順に上へ流れて充填される。
[第4の実施形態]
図6は、第4の実施形態であるインクジェット装置300の要部構成を示す模式図である。なお、図1と共通する部分には同一符号を付している。
インクジェット装置300は、第1及び第2の実施形態のインクジェット装置100,200と同様に、ヘッドユニット101、圧力源ユニット102、圧力制御ユニット103、メインタンク104及びCPU105を含む。なお図5では、ヘッドユニット101と、圧力源ユニット102の上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22と、上流側共通流路41、ヘッドH1〜H6毎の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42f、ヘッド毎の下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43f、連結流路45及び下流側共通流路44を示している。その余の部分については、インクジェット装置100及び200と共通なので、図示を省略している。
インクジェット装置300は、図6に示すように、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22を、水平位置で並べて設ける。このとき、上流側インクタンク21内及び下流側インクタンク22内のインク4の液面の高さ位置が、各ヘッドH1〜H6のノズル1の高さ位置よりも低い位置に位置するように、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22を配置する。一方、上流側共通流路41は、上流側インクタンク21の近くに配置されているヘッドから遠くに配置されているヘッドに対して上向きに傾斜するように配置する。また、下流側共通流路44は、下流側インクタンク22の近くに配置されているヘッドから遠くに配置されているヘッドに対して上向きに傾斜するように配置する。連結流路45は、上流側共通流路41が上流側インクタンク21から最も遠くに配置されているヘッドに分岐する点と、下流側共通流路44が下流側インクタンク22から最も遠くに配置されているヘッドに分岐する点とを接続する。また連結流路45は、バルブ46を備える。
上流側共通流路41が各ヘッドH1〜H6の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと接続する節点間における上流側共通流路41の長さおよび断面と、下流側共通流路44が下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fと接続する節点間における下流側共通流路44の長さおよび断面は全て等しくなっている。また、各ヘッドH1〜H6の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとは、それぞれヘッドH1〜H6毎に内径と全長とを等しくする。すなわち、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fの各全長をL1a,L1b,L1c,L1d,L1e,L1fとし、下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fの各全長をL2a,L2b,L2c,L2d,L2e,L2fとしたとき、L1a=L2a,L1b=L2b,L1c=L2c,L1d=L2d,L1e=L2e,L1f=L2fの関係を有する。
このような配置構成でインク4の循環路を形成した場合も、上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとをそれぞれ最短となるように配管すれば、必然的に、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22に最も近いヘッドH1に対する上流側分岐流路42a及び下流側分岐流路43aの全長L1a=L2aが最も長くなる。そして、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22から離れるにつれて、上流側分岐流路42b,42c,42d,42e及び下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43eの全長L1b=L2b,L1c=L2c,L1d=L2d,L1e=L2eは順次短くなり、最も離れたヘッドH6に対する上流側分岐流路42f及び下流側分岐流路43fの全長L1f=L2fが最も短くなる。したがって、第1〜第3の実施形態と同様に各ヘッドH1〜H6のインク4の流量Q1〜Q6間の差は低減される。さらに望ましくは隣接する分岐流路の流路抵抗差を式(29)に従って選べば、流量Q1〜Q6はほぼ一致する。
また、図6に示すように、上流側共通流路41は、上流側インクタンク21の近くに配置されているヘッドH1から遠くに配置されているヘッドH6に向かって上向きに傾斜している。同様に、下流側共通流路44は、下流側インクタンク22の近くに配置されているヘッドH1から遠くに配置されているヘッドH6に向かって上向きに傾斜している。
最初にインク4を各ヘッドH1〜H6に充填を充填する際、まずバルブ26aを閉じる。次いで、、バルブ26bを開いてポンプ24を作動させ、メインタンク104のインク4を、フィルタ25を介して上流側インクタンク21に汲み上げておく。次いで圧力制御ユニット103によって上流側インクタンク21に正圧を与え、インク4を上流側共通流路41へ押し出す。その際、バルブ46は、最初開いておく。インク4がバルブ46に達する時間が経過したら、バルブ46を閉じる。すると、インク4は、上流側分岐流路42b,42c,42d,42eを上昇し、インクジェットヘッドH1〜H6を充填し、下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43eから排出されて下流側共通流路44に達する。インク4が下流側共通流路44に達する時間が経過したら、バルブ46を再び開く。すると、インク4は、バルブ46から下流側共通流路44を下へ向かって流れ、下流側共通流路44に残った気泡を下流側タンク22へ押し出す。
連結流路45の流路抵抗は小さい。このため、バルブ46を開いたとき下流側共通流路44の流量と流速は一気に上がる。その結果、気泡を押し出し易く、充填し易い。充填が終了したならば、バルブ46を閉じる。そうすることにより、各ヘッドH1〜H6に効率よく循環流を流すことができる。
[第5の実施形態]
次に、図7を用いて第5の実施形態について説明する。第5の実施形態は、第4の実施形態の変形例である。
図7に示すように、第5の実施形態では、第4の実施形態に対して上流側共通流路41、連結流路45、下流側共通流路41のうち最上部に当たる場所に、気泡抜き流路71を追加する。気泡抜き流路71は、一端を前記最上部に当たる場所に接続し、その中途部にバルブ72とフィルタ73とを設け、他端を大気開放している。バルブ72を閉じている間、第5の実施形態の動作は第4の実施形態の動作と同一である。加えて、第5の実施形態では、上流側共通流路41、連結流路45、下流側共通流路41のうち最上部に当たる場所に気泡が残った場合に、バルブ72を開くことでその気泡を排出することができる。
上流側共通流路41、連結流路45、下流側共通流路41のうちの何処かに気泡が残っているとき、「単位体積当たりのエネルギー」P1と「単位体積当たりのエネルギー」P2とが等しくなるように圧力制御ユニット103を制御すると、インク4の循環は停止する。その状態で暫く静置すると、気泡は上流側共通流路41、連結流路45、下流側共通流路41のうちの最上部に浮いてくる。気泡が浮く時間だけ待ってからバルブ72を開いて、バルブ72の位置のインク4の単位体積当たりエネルギーがゲージ圧でゼロ(絶対圧では大気圧)よりもわずかに大きくなるように「単位体積当たりのエネルギー」P1と「単位体積当たりのエネルギー」P2、或いは、圧力PS1と圧力PS2を調整すれば、気泡は気泡抜き流路71から大気に排出される。気泡が排出される時間が経過したら、バルブ72を閉じる。その際、気泡抜き流路71の他端には、図示しない排インク皿を設けてインクが溢れても回収できるようにおくことが望ましい。
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。
例えば前記各実施形態では、各ヘッドH1〜H6の上流側分岐流路42a,42b,42c,42d,42e,42fと下流側分岐流路43a,43b,43c,43d,43e,43fとは、それぞれヘッドH1〜H6毎に内径と全長とを等しいとしたが、ヘッドH1〜H6毎に、相互間で上流側と下流側の流路抵抗比kが一定ならば、各分岐流路の内径と全長は必ずしも等しくなくても良い。
例えば前記各実施形態では、インクジェット装置100,200,300が圧力制御ユニット103を含む構成を示した。正圧エアタンク31及び負圧エアタンク32を有する圧力制御ユニット103は、必ずしも必須の要件ではない。要は、上流側インクタンク21に収容されているインク4に、「単位体積当たりのエネルギー」P1(Pa)が生じるように上流側インクタンク21内の圧力を調整する上流側圧力調整手段と、下流側インクタンク22に収容されているインク4に「単位体積当たりのエネルギー」P2(Pa)が生じるように下流側インクタンク22内の圧力を調整する下流側圧力調整手段とを備えていればよい。例えば、上流側インクタンク21及び下流側インクタンク22に、それぞれ圧力調整された気圧源を連結するか、または上流側インクタンク21、下流側インクタンク22に可撓性の袋を採用して袋の外部から圧力を与えてもよい。
また、上流側インクタンク21内の空気圧PS1、下流側インクタンク22の空気圧PS2のいずれかがゼロ(大気圧)となるような条件が成り立つ場合には、上流側インクタンク21または下流側インクタンク22は、大気開放されたインクタンクを採用してもよい。大気開放されたインクタンクの場合、インクタンク内の液面のインク4に生じる「単位体積当たりのエネルギー」は、ポテンシャル圧力だけである。よって、ノズル1の開口の高さ位置を基準とするインクタンク内のインク4の液面の高さ位置に応じて、定まる。すなわち、ノズル1の開口の高さ位置と、大気開放された上流側インクタンク内のインク4の液面の高さ位置の高低差を“P1/(ρ・g)”(m)に調整し、またはノズル1の開口の高さ位置と、大気開放された下流側インクタンク内のインク4の液面の高さ位置の高低差を“−P2/(ρ・g)”(m)に調整することによって、各実施形態と同じ動作となる。
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、ノズルの開口近傍におけるインクの圧力を常に適正圧力に維持できるとともに、インクタンクから近いヘッドと遠いヘッドの流量差を抑える課題をクリアするために、本実施形態により開示されている発明について付記する。
付記[1]
ノズルに連通する圧力室を有し、この圧力室に連通するインクを、ノズルから吐出する複数のインクジェットヘッドを、各ヘッドのノズルが互いに同じ高さ位置になるように配列してなるヘッドユニットと、
前記複数のインクジェットヘッドに供給するためのインクを収容する上流側インクタンクと、
前記複数のインクジェットヘッドから流出したインクを収容する下流側インクタンクと、
前記上流側インクタンク内のインクを前記複数のインクジェットヘッドに導く上流側共通流路と、
前記複数のインクジェットヘッドから流出したインクを前記下流側インクタンクに導く下流側共通流路と、
前記複数のインクジェットヘッド毎に設けられ、前記上流側共通流路を流れるインクを対応する前記インクジェットヘッドの流入側インク接続ポートに導く、上流側分岐流路と、
前記複数のインクジェットヘッド毎に設けられ、対応する前記インクジェットヘッドの流出側インク接続ポートから流出したインクを前記下流側共通流路に導く、下流側分岐流路と、
を具備し、
前記複数のインクジェットヘッドに接続される前記上流側分岐流路の流路抵抗と前記下流側分岐流路の流路抵抗との比は互いに等しく、かつ流路抵抗の大きさは前記上流側インクタンクに近いものほど大きいことを特徴とするインクジェット装置。
付記[2]
前記上流側共通流路と下流側共通流路がそれぞれ各上流側分岐流路、下流側分岐流路と接続する隣接する節点間の上流側共通流路の流路抵抗と下流側共通流路の流路抵抗は等しく値をRcとし、
前記上流側インクタンクと下流側インクタンクから最も遠い方からN番目の上流側分岐流路と上流側分岐流路の流路抵抗は等しく値をr(N)としたとき、
隣接するN−1番目とN番目とヘッドに接続される流路抵抗は、
r(N)=r(N−1)+N・Rcの関係にある(N≧2)ことを特徴とする、付記[1]記載のインクジェット装置。
付記[3]
ノズルに連通する圧力室を有し、この圧力室に連通するインクを、ノズルから吐出する複数のインクジェットヘッドを、各ヘッドのノズルが互いに同じ高さ位置になるように配列してなるヘッドユニットと、
前記複数のインクジェットヘッドに供給するためのインクを収容する上流側インクタンクと、
前記複数のインクジェットヘッドから流出したインクを収容する下流側インクタンクと、
前記上流側インクタンク内のインクを前記複数のインクジェットヘッドに導く上流側共通流路と、
前記複数のインクジェットヘッドから流出したインクを前記下流側インクタンクに導く下流側共通流路と、
前記複数のインクジェットヘッド毎に設けられ、前記上流側共通流路を流れるインクを対応する前記インクジェットヘッドの流入側インク接続ポートに導く、上流側分岐流路と、
前記複数のインクジェットヘッド毎に設けられ、対応する前記インクジェットヘッドの流出側インク接続ポートから流出したインクを前記下流側共通流路に導く、下流側分岐流路と、
を具備し、
前記複数のインクジェットヘッドに接続される前記上流側分岐流路の流路抵抗と前記下流側分岐流路の流路抵抗との比は互いに等しく、かつ前記複数の上流側分岐流路は前記上流側インクタンクに近いものほど長いことを特徴とするインクジェット装置。
付記[4]
前記複数の上流側分岐流路は、各々内径が等しいことを特徴とする付記[3]に記載のインクジェット装置。
付記[5]
前記上流側共通流路と下流側共通流路は水平方向に対して傾斜して配置されることを特徴とする付記[1]乃至[4]のうちいずれか1に記載のインクジェット装置。
付記[6]
一端が前記下流側インクタンクと、他端が前記上流側インクタンクと接続され、下流側インクタンク内のインクを上流側インクタンク内へ戻す帰還流路を有することを特徴とする付記[1]乃至[5]のうちいずれか1に記載のインクジェット装置。
付記[7]
前記上流側インクタンクに収容されているインクの、前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」を調整する上流側圧力調整手段と、
前記下流側インクタンクに収容されているインクの、前記ノズルの開口高さ位置の大気圧の静止インクを基準とする、「単位体積当たりのエネルギー」を調整する下流側圧力調整手段と、
を具備したことを特徴とする付記[1]乃至[6]のうちいずれか1に記載のインクジェット装置。