しかし、関節部位などの動きのある部位の場合、ネジの弛みが生じることがあった。ネジが緩むとその頭部がプレート表面から突出して、患者に痛みを感じさせたり筋肉組織や皮膚組織を損傷することがある。一方、ネジを増し締めするためには皮膚を再切開する必要があり、患者に肉体的負担をかけることとなる。
本願出願人は従前よりハードロックナット(登録商標)のいわゆる楔作用を応用した各種緩み止め構造を提案しているが、外科用インプラントにおけるプレートは板厚が5mm程度であるとともに、プレート表面から大きく突出する部位が存在しないことが求められており、数mm程度の板厚内で楔作用による緩み止め効果が得られる緩み止め構造は従来存在しなかった。
本発明は、数mm程度の板厚内であっても楔作用による緩み止め効果が得られる新規な構造を提案するものである。
すなわち、本発明は、人体の骨組織にねじ込まれるタッピングネジと、該ネジによって前記骨組織に対して取付固定される被取付部材とを備え、前記ネジは、外周面にネジ山を有するネジ軸部と、該ネジ軸部の上端に設けられた頭部とを備え、前記被取付部材は、前記ネジの頭部が嵌合するよう前記被取付部材の上面側に設けられた収容凹部と、該収容凹部の底部から前記被取付部材の下面側に貫通状に設けられて前記ネジ軸部が嵌挿される取付孔とを有する、インプラント器具において、前記ネジ軸部の軸心に対して前記頭部の軸心が僅かに偏心されているか、或いは、前記取付孔の軸心に対して前記収容凹部が僅かに偏心され、これにより前記ネジの頭部が前記収容凹部内に嵌合した状態で、周方向一部において前記頭部が前記収容凹部の内周面に圧接されるとともに、該圧接部分に対して直径方向反対側において前記ネジ軸部の基部が前記取付孔の内周面に圧接されるよう構成されている。
かかる本発明のインプラント器具によれば、前記ネジ軸の軸心に対して前記頭部の軸心が僅かに偏心されているか、或いは、前記取付孔の軸心に対して前記収容凹部が僅かに偏心され、これにより前記ネジの頭部が前記収容凹部内に嵌合した状態で、周方向一部において前記頭部が前記収容凹部の内周面に圧接されるとともに、該圧接部分に対して直径方向反対側において前記ネジ軸部の基部が前記取付孔の内周面に圧接されるよう構成されているので、ネジの締め込み完了状態でネジに大きな剪断応力を作用させることができ、骨組織に負担をかけることなく薄い板厚内で緩み止め作用を生じさせることができる。
上記本発明のインプラント器具において、前記ネジ軸部の基部はネジ山が設けられていない円柱状に構成され、その外径は前記ネジ山の外径と一致するよう構成されていてよい。これによれば、ネジ軸部の基部と取付孔内周面との圧接状態がより安定化し、確実に緩み止め効果を発揮させることができる。
また、前記ネジ軸部の基部にも前記ネジ山が設けられていてもよく、この場合、前記ネジの頭部が前記収容凹部内に嵌合した状態で、前記頭部と前記収容凹部の内周面との圧接部分に対して直径方向反対側において前記ネジ軸部の基部の前記ネジ山が前記取付孔の内周面に圧接されるよう構成することが好ましい。
タッピングネジのネジ山のピッチは比較的大きいため、偏心嵌合構造との関係でどのようにネジ軸部の基部にネジ山を設けるかが、数mm程度の板厚内で楔作用による緩み止め効果を生じさせるためには重要である。
上述したように、タッピングネジのネジ山のピッチは粗いため、取付孔の軸長がピッチよりも小さい場合には、意図的に「前記ネジの頭部が前記収容凹部内に嵌合した状態で、周方向一部において前記頭部が前記収容凹部の内周面に圧接されるとともに、該圧接部分に対して直径方向反対側において前記ネジ軸部の基部のネジ山が前記取付孔の内周面に圧接されるよう構成」しなければ、頭部と収容凹部との圧接部分に対してちょうど直径方向反対側ではネジ山が取付孔内周面に圧接する保証がなくなる。直径方向反対側でネジ山が取付孔内周面に圧接しなければ、ネジの頭部と収容凹部との偏心嵌合による楔作用が生じず、緩み止め効果が得られないこととなる。
一方、上記構成によれば、被取付部材の厚さが3〜5mm程度、取付孔の軸長が1〜2mm程度、ネジ山のピッチが1〜2mm程度であっても、ネジ軸部の基部のネジ山を上記直径方向反対側で取付孔の内周面に圧接させることで、確実に楔作用による緩み止め効果を発揮できる。
より好ましくは、前記ネジの頭部が前記収容凹部内に嵌合した状態で、前記直径方向反対側において前記取付孔の内周面に軸方向少なくとも2箇所で前記ネジ山が圧接されるよう構成されていてよく、このように2箇所でネジ山が圧接することによって一層安定的に緩み止め作用が生じる。
また、前記ネジの頭部の外周面並びに前記収容凹部の内周面は、下方に至るにしたがって僅かに小径となるテーパー面となされていることが好ましい。これによれば、ネジの頭部が収容凹部内に嵌合していくにしたがって楔作用が徐々に大きくなり、ネジに大きな剪断応力を生じさせることができる。なお、ネジの頭部及び収容凹部を直円柱状に構成することもでき、この場合は頭部の下端部及び/又は収容凹部の上端部にテーパー状案内面を形成しておくことが好ましい。
さらに、上記本発明のインプラント器具において、前記被取付部材は、本体と、該本体に対して揺動可能に装着されるネジ受けとを備え、前記収容凹部及び前記取付孔は前記ネジ受けに設けられていてよい。かかる構成によれば、ネジ受けを揺動させることによってタッピングネジの軸心を斜めに傾けることができ、骨内部で亀裂が斜めに生じた場合などに骨折した骨の状態に応じて適切な方向にタッピングネジをタッピングすることが可能になる。さらに、小さな部材であるネジ受けに収容凹部及び取付孔を設ける構成であるから、ネジ受けとして硬度の高い高価な材質を用いても器具全体の原材料コストを抑えることができるとともに、ネジ受けの揺動範囲内でネジ受けを揺動させたとしても偏心嵌合による大きな緩み止め効果を発揮できる。
より好ましくは、前記ネジ受けの外周面は略半球面状に形成されており、前記本体には、前記ネジ受けの外周面を支持する略半球面状の内周面を有する装着孔が設けられていてよい。これによれば、ネジ受けを揺動可能に支持しつつもネジ受けを安定的に保持できる。
さらに、前記ネジ受けの揺動方向を一軸周りに制限する案内溝及び案内凸部の一方が前記ネジ受けの外周面に設けられ、他方が前記装着孔の内周面に設けられていてよい。これによれば、揺動方向を一軸周りに制限することでタッピングネジをねじ込んでいく際に上記した偏心嵌合による反力によって不本意な方向にネジ受けが捩れてしまうことを防止できる。
なお、取付孔の軸心に対して収容凹部を僅かに偏心させ、その偏心方向に直交する水平軸周りにネジ受けが揺動するよう案内溝及び案内凸部を設けることが好ましい。これによれば、頭部と収容凹部の内周面との圧接による反力が案内溝及び案内凸部が延びている方向に沿う方向に常に作用する。
また、本発明は、インプラント器具の他、タッピングネジによって取付対象物に対して取付固定される被取付部材を有する種々の取付器具に適用できる。例えば、戸口を構成する木枠(取付対象物)に対して取付固定される取付プレート(被取付部材)を有する扉取付器具など、種々の用途に適用可能である。
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は本発明の一実施形態に係る外科用インプラント器具を示しており、該インプラント器具は、人体の骨組織1にねじ込まれるタッピングネジ2と、該ネジ2によって骨組織1に対して取付固定される骨固定プレート3(被取付部材)とを備えている。
タッピングネジ2は、チタン合金等の金属製であって、外周面にタッピング用ネジ山を有するネジ軸部22と、ネジ軸部22の上端(基端)に一体的に設けられた頭部21とを備えている。ネジ軸部22の長さはねじ込む骨組織の大きさや部位に応じて適宜であってよいが、通常は数cm程度である。頭部21は円錐台形状であって、下方に至るにしたがって僅かに小径となるテーパー面からなる外周面を有している。頭部21の上面には六角レンチなどの回転工具が係合する係合凹部が設けられている。ネジ軸部22の基部には、ネジ山の設けられていない円柱状の基部22aが設けられている。この基部22aの軸長は取付孔3bの軸長と同程度か若しくは少し大きい程度となされている。基部22aの外径は、ネジ山の外径と一致する。また、本実施形態では、ネジ軸部22の軸心Aに対して、頭部21の軸心Bが僅かに偏心されている。
プレート3は、チタン合金等の金属製であって、板厚は3〜5mm程度とされている。プレート3の上面側にはネジ2の頭部21が嵌合するよう収容凹部3aが設けられ、この収容凹部3aの底部からプレート3の下面側まで貫通状にネジ軸部22が嵌挿される取付孔3bが設けられている。取付孔3bは収容凹部3aよりも小径であり、本実施形態では収容凹部3aの軸心と取付孔3bの軸心とは一致している。また、収容凹部3aの内周面は、ネジ頭部21の外周面に合致するテーパー面となされている。
プレート3には、適宜の箇所に複数の上記収容凹部3a及び取付孔3bが設けられている。
なお、収容凹部3aの軸長(すなわち凹部の深さ)は頭部21の軸長とほぼ同じとすることが好ましく、例えば2〜3mm程度であってよい。また、取付孔3bの径及び寸法精度は、ネジ軸部22の基部22aがスキマバメの状態で嵌挿されるよう設計することが好ましい。取付孔3bの軸長(収容凹部3aを除く部分の軸長)は、1〜2mmであってよい。
次に本実施形態のインプラント器具の作用効果について説明する。
図1に示すようにタッピングネジ2を骨組織1に対してタッピングしていくと、頭部21が僅かに偏心しているため、頭部21が収容凹部3a内に半分程度入り込んだときに、頭部21の偏心方向の周方向一部(図示左側)において頭部21が収容凹部3aの内周面に接触する。
タッピングネジ2をさらにねじ込んでいくと、上記周方向一部における接触圧が徐々に大きくなっていくとともに、その反力として、上記周方向一部に対して直径方向反対側(図示右側)においてネジ軸部22の基部22aが取付孔3bの内周面に圧接されることとなる。
そして、図2に示すように、頭部21が収容凹部3a内に完全に嵌合した状態では、周方向一部において頭部21が収容凹部3aの内周面に強く圧接されるとともに、該圧接部分に対してちょうど直径方向反対側においてネジ軸部22の基部22aが取付孔3bの内周面に圧接されるようになっている。これにより、図2に矢印で示すようにネジ2の頭部21及びネジ軸部の基部22aに反対方向の反力が作用(楔作用)し、薄い板厚内で緩み止め効果が発揮される。一方、上記の楔作用は薄い板厚内で生じさせており、骨組織1に埋め込まれたネジ軸部22に大きな横方向の力が生じないので、骨組織1に負担をかけることなく緩み止め効果を発揮できる。
図3及び図4は本発明の別の実施形態に係るインプラント器具を示しており、この実施形態ではネジ軸部22の基部22にわたってネジ山が設けられている。特に、ネジ2の頭部21が収容凹部3a内に嵌合して周方向一部において頭部21と収容凹部3aの内周面とが圧接した状態で、この圧接部分に対してちょうど直径方向反対側においてネジ軸部22の基部22aのネジ山が取付孔3bの内周面に圧接されるようにネジ山が形成されている。基部22aのネジ山と取付孔3b内周面との圧接箇所は少なくとも軸方向に1箇所存在すればよいが、図示実施形態では、頭部21が収容凹部3a内に嵌合した状態で、上記直径方向反対側において取付孔3bの内周面に軸方向2箇所で二山のネジ山が圧接されるように構成されている。
このようにネジ軸部22の全長にわたってネジ山を形成すれば、ネジ軸部22の基部22aの外周面に沿って骨組織が成長した場合でも円滑にネジ2を骨組織から取り外すことができる。
図5はさらに別の実施形態に係るインプラント器具を示しており、プレート3は、板状本体31と、本体31の所定部位に揺動可能に装着されるネジ受け32とから構成されている。ネジ受け32は、全体として略南半球状に構成され、収容凹部3a及び取付孔3bはネジ受け32の軸中央部に設けられている。
ネジ受け32の外周面は略半球面状に形成されている。一方、本体31には、所定部位にネジ受け32を装着するための装着孔31aが上下貫通状に設けられており、この装着孔31aの内周面は、ネジ受け32の外周面を面接触状態で支持する略半球面状に形成されている。
より好ましくは、図6に示すように、ネジ受け32の揺動方向を特定の一軸周りに制限する案内溝4及び案内凸部5の一方がネジ受け32の外周面に設けられ、他方が装着孔31aの内周面に設けられている。案内溝4及び案内凸部5は、平面視において装着孔31a又はネジ受け32の直径方向に沿う方向に延びており、これにより、図5において紙面に直交する軸周りにネジ受け32が揺動することは許容するが、その他の軸周りに揺動することを制限する。また、図5に示すインプラント器具によれば、図7に示すように、ネジ受け32を介してタッピングネジ2を、骨の破面が接合するように、当該骨に斜めにねじ込むことで、骨の破面を除く健常な骨のみに複数のタッピングネジ2をねじ込む場合に比較して、より早期の破面接合を期待できる。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更できる。例えば、上記実施形態ではネジ軸部に対してネジ頭部を偏心させたが、ネジ軸部とネジ頭部とを同心状に形成して、取付孔に対して収容凹部をわずかに偏心させることもできる。この場合、プレートの複数個所に設けた収容凹部毎に偏心方向を異なる方向とすることができる。