JP6284004B2 - Mo合金スパッタリングターゲット材の製造方法およびMo合金スパッタリングターゲット材 - Google Patents
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Description
現在、TFTには、非晶質Si半導体膜が用いられており、主配線膜であるCuは、Siと直接触れると、TFT製造中の加熱工程により熱拡散して、TFTの特性を劣化させる。このため、CuとSiの間にキャップ膜として、耐熱性に優れたMoやMo合金をバリア膜とした積層配線膜が用いられている。
TFTからつながる画素電極や携帯型端末やタブレットPC等に用いられているタッチパネルの位置検出電極には、一般的に透明導電膜であるインジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide:以下、ITOという)が用いられている。主配線膜のCuは、ITOとのコンタクト性は得られるが、基板との密着性が低いことにより、密着性を確保するために、下地膜として基板をMoやMo合金で被覆した積層配線膜とする必要がある。
さらに、これまでの非晶質Si半導体膜から、より高速応答を実現できる酸化物を用いた透明な半導体膜の適用検討が行われており、これら酸化物半導体の配線薄膜にも主配線膜のCuと下地膜やキャップ膜としてMoやMo合金を用いた積層配線膜が検討されている。このため、これらの積層配線膜の形成に用いられるMo合金薄膜からなる薄膜配線の需要が高まっている。
このようなスパッタリングターゲット材を得る手法としては、例えば特許文献2に開示されるように、原料Mo粉、Ni粉およびその他の添加元素(例えばNb)からなる粉末とを混合した混合粉末またはアトマイズ法で得たMo合金粉末を加圧焼結した焼結体に機械加工を施す方法が提案されている。
しかし、Moが高融点金属であるために、Moを主成分とするMo合金の融点は高く、一般に用いられている誘導加熱装置を用いて溶解してアトマイズ法でMo合金粉末を歩留よく製造することは困難である。また、Mo合金は融点が高いため、合金粉末の粒度が大きいと高密度の焼結体を得にくく、合金粉末の粒度を細かくしようとすると得られるスパッタリングターゲット材中の不純物が増加してしまうといった問題がある。
また、Moは酸化すると、その酸化物がMoの融点に達する前に容易に昇華し気化するため、工程中のMoの酸化を抑制するためには溶解雰囲気を制御した大がかりで高価な装置が必要となるため、得られるMo合金粉末も高価な物となる。
前記Ni合金粉末は、Ni−Mo合金からなり、さらにTi粉末を添加して混合することが好ましい。また、前記Ni−Mo合金粉末は、Moを8〜40原子%含有することが好ましい。
本発明のMo合金スパッタリングターゲット材は、前記Ni合金相がNi−Mo合金相およびNi−Ti合金相から選ばれた一つ以上からなることが好ましく、前記Ni合金相と前記Moのマトリックスとの界面に拡散層を有することがより好ましい。
先ず、本発明の製造方法で用いる粉末について説明すると、本発明で用いるMo粉末は、入手が容易な市販されているMo粉末を用いることができる。Mo粉末の平均粒径が1μm未満だと得られるスパッタリングターゲット材中の不純物が増加してしまい、50μmを超えると高密度の焼結体を得にくくなる。したがって、Mo粉末の平均粒径の範囲は1μm〜50μmとすることが好ましい。また、Mo粉末は、スパッタリングターゲット材においてMoのマトリックスを形成するために、総量で50原子%以上混合することが好ましい。
Ni合金粉末の平均粒径が5μm未満だと、得られるスパッタリングターゲット材中の不純物が増加してしまう。一方、Ni合金粉末の平均粒径が300μmを超えると高密度の焼結体を得にくくなる。したがって、Ni合金粉末の平均粒径は、5μm〜300μmにすることが好ましい。
尚、本発明でいう平均粒径は、JIS Z 8901で規定される、レーザー光を用いた光散乱法による球相当径で表す。
加圧焼結は、熱間静水圧プレス(以下、「HIP」という。)やホットプレスが適用可能であり、1000〜1500℃、10〜200MPa、1〜10時間の条件で行うことが好ましい。これらの条件の選択は、加圧焼結する装置に依存する。例えばHIPは、低温高圧の条件が適用しやすく、ホットプレスは高温低圧の条件が適用しやすい。本発明の製造方法では、加圧焼結に、低温で焼結してもNi合金やTiの拡散を抑制でき、且つ高圧で焼結して高密度の焼結体が得られるHIPを用いることが好ましい。
また、圧力は、10MPa以下では、焼結が進みにくく高密度の焼結体を得にくい。一方、圧力が200MPaを超えると、耐え得る装置が限られるという問題がある。
また、焼結時間は、1時間以下では焼結を十分に進行させるのが難しく、高密度の焼結体を得にくい。一方、焼結時間が10時間を超えると製造効率において避ける方がよい。
HIPやホットプレスで加圧焼結をする際には、混合粉末を加圧容器や加圧用ダイスに充填した後に、加熱しながら減圧脱気をすることが望ましい。減圧脱気は、加熱温度100〜600℃の範囲で、大気圧(101.3kPa)より低い減圧下で行うことが望ましい。これは、得られる焼結体の酸素をより低減することができ、高純度のMo合金スパッタリングターゲット材を得ることが可能となるためである。
また、本発明のMo合金スパッタリングターゲット材は、Ni合金とMoマトリックスの界面に拡散層を有することが好ましい。これにより、欠陥の少ない高密度なMo合金スパッタリングターゲット材となり、スパッタリング時にスパッタリングターゲット材の表面の浸食により形成されるエロージョンエリアに生じる凹凸の高さを低減することが可能となる。その結果、異常放電やスプラッシュ等を抑制することができ、欠陥のないMo合金薄膜を安定して形成することが可能となるという効果を有する。
Niの添加量が10原子%未満では、酸化抑制効果が十分でない。一方、NiはMoに比較してCuやAlに熱拡散しやすい元素であり、Niリッチの合金になると、主配線膜のCuやAlに拡散しやすく、電気抵抗値を増加させるため、49原子%以下にする。
また、Tiの添加量は、1原子%未満では耐湿性の改善効果が得られない。一方、Tiの添加量が30原子%超えると耐湿性の向上効果が飽和するとともに、エッチング性が低下するため、できる限り少ない添加量が望ましい。したがって、本発明のMo合金スパッタリングターゲット材は、Tiの添加量を1〜30原子%とする。また、TiもMoに比較して主配線膜のCuやAlに対して熱拡散しやすい元素であるため、本発明はNiの添加量を10〜49原子%とし、且つNiとTiの合計を50原子%以下とする。
また、主配線膜のCuは、Alと比較して耐酸化性、耐湿性が低い。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材で成膜したMo合金薄膜をキャップ膜とした際に、耐酸化性、耐湿性を十分に確保するためには、Niの添加量を20原子%以上、Tiの添加量を10原子%以上にすることが好ましい。したがって、本発明のMo合金スパッタリングターゲット材は、Niを20〜35原子%、Tiを10〜20原子%の範囲がより好ましい。また、主配線膜のAlは、耐酸化性、耐湿性に優れるところ、Cuに比較してNi、Tiが熱拡散しやすいため、Niの添加量は25原子%以下、Tiの添加量は15原子%以下にすることが好ましい。したがって、本発明のMo合金スパッタリングターゲット材は、Niを10〜25原子%、Tiを3〜15原子%の範囲で添加することがより好ましい。
なお、比較のために、原子比で20%Ni−15%Ti−残部がMoおよび不可避的不純物からなるMo合金を溶解法で作製することを試みたが、Moが溶け残り、正常な合金塊を作ることができなかった。
また、得られた試験片の金属元素の定量分析を株式会社島津製作所製の誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)(型式番号:ICPV−1017の)で行ない、酸素の定量を非分散型赤外線吸収法により測定したところ、Mo、Ni、Tiの分析値の合計の純度は99.9%、酸素濃度は350質量ppmであり、本発明の製造方法によれば、高純度のMo合金スパッタリングターゲット材が得られることが確認できた。
密着性の評価は、JIS K5400で規定された方法で行なった。先ず、上記のMo合金薄膜上に、住友スリーエム株式会社製の透明粘着テープ(製品名:透明美色)を貼り、2mm角のマス目をカッターナイフで入れ、透明粘着テープを引き剥がして、薄膜の残存の有無で評価をした。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、一マスも剥がれず、高い密着性を有することが確認できた。
耐湿性の評価は、上記のMo合金薄膜を、温度85℃、湿度85%の雰囲気に300時間放置し、Mo合金薄膜表面の変色の有無を目視で確認した。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、高温高湿雰囲気にさらしても変色せず、高い耐湿性を有することが確認できた。
耐熱性の評価は、上記のMo合金薄膜を、大気中の350℃の雰囲気で30分加熱し、Mo合金薄膜の変色の有無を目視で確認した。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、高温で加熱しても変色せず、高い耐熱性を有する薄膜であることが確認できた。
上記のMo合金スパッタリングターゲット材の組成となるように、各粉末を秤量し、クロスロータリー混合機により混合して混合粉末を得た。その後、内径133mm、高さ30mm、厚さ3mmの軟鋼製の容器に充填し、450℃で10時間加熱して脱ガス処理を行なった後に軟鋼製容器を封止し、HIP装置により1000℃、148MPaに5時間保持して焼結した。冷却後、HIP装置から取り出し、機械加工により軟鋼製容器を外し、直径100mm、厚さ5mmのMo合金スパッタリングターゲット材を得て、残部より試験片を切り出した。
また、得られた試験片の金属元素の定量分析を実施例1と同じ条件で行ない、酸素の定量を非分散型赤外線吸収法により測定したところ、Mo、Ni、Tiの分析値の合計の純度は99.9%、酸素濃度は400質量ppmであり、本発明の製造方法によれば、高純度のMo合金スパッタリングターゲット材が得られることが確認できた。
密着性の評価は、実施例1と同じ方法で行なった。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、一マスも剥がれず、高い密着性を有することが確認できた。
耐湿性の評価は、実施例1と同じ方法で行なった。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、高温高湿雰囲気にさらしても変色せず、高い耐湿性を有することが確認できた。
耐熱性の評価は、実施例1と同じ方法で行なった。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、高温で加熱しても変色せず、高い耐熱性を有する薄膜であることが確認できた。
また、得られた試験片の金属元素の定量分析を実施例1と同じ条件で行ない、酸素の定量を非分散型赤外線吸収法により測定したところ、Mo、Ni、Tiの分析値の合計の純度は99.9%、酸素濃度は350質量ppmであり、本発明の製造方法によれば、高純度のMo合金スパッタリングターゲット材が得られることが確認できた。
また、実施例1および実施例2に比べ、実施例3は、Ni合金中のMoやTiの添加量が少ないため、Moとの拡散領域が増加していることがわかる。
密着性の評価は、実施例1と同じ方法で行なった。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、一マスも剥がれず、高い密着性を有することが確認できた。
耐湿性の評価は、実施例1と同じ方法で行なった。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、高温高湿雰囲気にさらしても変色せず、高い耐湿性を有することが確認できた。
耐熱性の評価は、実施例1と同じ方法で行なった。本発明のMo合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した薄膜は、高温で加熱しても変色せず、高い耐熱性を有する薄膜であることが確認できた。
Claims (6)
- Niを10〜49原子%、Tiを1〜30原子%含有し、且つNiとTiの合計量が50原子%以下で、残部がMoおよび不可避的不純物よりなるMo合金スパッタリングターゲット材の製造方法であって、Mo粉末と少なくとも1種または2種以上のNi合金粉末とを前記組成を満足するように混合し、次いで加圧焼結することを特徴とするMo合金スパッタリングターゲット材の製造方法。
- Niを10〜49原子%、Tiを1〜30原子%含有し、且つNiとTiの合計量が50原子%以下で、残部がMoおよび不可避的不純物よりなるMo合金スパッタリングターゲット材の製造方法であって、Mo粉末とNi−Mo合金粉末とTi粉末とを前記組成を満足するように混合し、次いで加圧焼結することを特徴とするMo合金スパッタリングターゲット材の製造方法。
- 前記Ni−Mo合金粉末が、Moを8〜40原子%含有することを特徴とする請求項2に記載のMo合金スパッタリングターゲット材の製造方法。
- Niを10〜49原子%、Tiを1〜30原子%含有し、且つNiとTiの合計量が50原子%以下で、残部がMoおよび不可避的不純物よりなるMo合金スパッタリングターゲット材であって、Moのマトリックス中に非磁性のNi合金相が分散している組織を有することを特徴とするMo合金スパッタリングターゲット材。
- 前記Ni合金相が、Ni−Mo合金相およびNi−Ti合金相から選ばれた一つ以上からなることを特徴する請求項4に記載のMo合金スパッタリングターゲット材。
- 前記Ni合金相と前記Moのマトリックスとの界面に拡散層を有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のMo合金スパッタリングターゲット材。
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