以下に、本願に係る波の送信方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本願に係る波の送信方法が限定されるものではない。
[概要]
まず、図1及び図2を用いて、本願に係る波の送信方法の概要を説明する。図1に示すように、検査対象物である長尺部材200には、軸方向に所定の間隔を開けて2組のセンサ11,12が設置される。以下では、長尺部材200の検査する方向を前方とし、検査しない方向を後方として以下説明する。ここに、センサ11は、長尺部材200の軸方向においてセンサ12よりも前方に設置される。また、センサ11,12は、同等の波を送信することができるセンサを用いる(同等の波を送信することができれば、センサ11,12は必ずしも同じセンサである必要は無い)。例えば、センサ11,12は、図2に示すように、検査装置100に接続され、検査装置100により駆動される。なお、本実施形態においては、センサ11は、送信センサ及び受信センサとして用いられる。
ここから、センサ11,12を用いた波の送信方法について説明する。以下では、センサ11,12として、送信する波の位相速度がVph、波長がλ、周波数がfであるセンサを用いることとする(Vph=λ・f)。なお、センサ11,12は、空間的に有限な幅の波を送信する場合、周波数fの波を含む様々な周波数の波(通常は、f近傍のある範囲の周波数の波)の重ね合せによって形成される波束を送信することとなる。ここに、センサ11,12が送信する波束の群速度をVgとする。以下では、センサ11,12から前方に送信される波を前方送信波と称し、センサ11,12から後方に送信される波を後方送信波と称する場合がある。また、センサ11,12から前方へ送信される波束を併せてまたは、それぞれの前方への波束と称し、センサ11,12から後方へ送信される波束を併せてまたは、それぞれの後方への波束と称する場合がある。また、tは時間を表す変数とし、センサ11,12のうち最初に駆動されたセンサの駆動開始時刻を時間の原点(t=0)とする。また、センサ11,12のいずれか一方が駆動された時間の原点(t=0)から他方のセンサが駆動されるまでに経過した時間t0を遅延時間t0と称する場合がある。
まず、センサ11,12から送信される後方送信波を相殺させて消去する方法を説明する。位相速度よりも群速度が速い(Vph<Vg)場合、下記の式(2)を満たす距離Lの間隔を長尺部材200の軸方向に開けてセンサ11,12を設置する。
L = Vg・t0 ・・・ (2)
ここで、時間t0は、第1の整数nを1以上の整数として、波長、群速度、位相速度で決定される時間であり、下記の式(3)によって表される。
t0 = 0.5・n・λ/(Vg−Vph) ・・・ (3)
つまり、距離Lは、群速度と位相速度とで進行する距離の差が半波長の整数倍となるような時間t0の間に波束の進行する距離(群速度で進行する距離)を示しており、図1に示す例において、センサ11,12は、その様な距離だけ離して設置される。
次に、センサ11及びセンサ12を駆動するタイミング及び極性について説明する。以下では、センサ11が駆動された時間の原点(t=0)から遅延時間t0だけ経過した後、センサ12が駆動される場合について説明する。
まず、第1の整数nが奇数の場合、最初にセンサ11を駆動し、遅延時間t0が経過後(t=t0)、センサ12をセンサ11と同一極性の信号で駆動する。ここで、センサ11から後方に送信された波束の先端はt0後にはセンサ12に到達する。このとき、センサ11から送信された後方送信波の位相は送信時点と反転している。言い換えると、センサ11から送信された後方送信波において、時刻t=0の時点の波束の先端の位相に対して、時刻t=t0の時点の波束の先端の位相はπずれて反転している。そのため、センサ11を駆動した極性と同一極性(同一の位相、即ち位相差0)でt=t0にセンサ12を駆動した場合、センサ12は、センサ11から送信されセンサ12に到達した波束と逆位相(位相差π)の波束を後方へ送信することができる。また、波束の形がセンサ11からの送信時と比べて変形しないとの近似が成り立つ場合、センサ11及びセンサ12から後方へ送信された波束が空間的に完全に重ね合わされる。したがって、原理的にはセンサ11及びセンサ12から後方へ送信される波束を完全に相殺して消し去ることができる。
ここで、図3を用いて波束における位相のずれについて例を示す。図3は、横軸は波束の進行方向(軸方向)の距離(空間的な位置)を表し、ある任意の時刻t1(上図)とそれからt0後(n=1、下図)における波束の形状を比較したものであり、位相速度と群速度の関係の一例を示す概念図である。図3に示す例においては、群速度Vgは、位相速度Vphよりも速い。まず、図3において、時刻t=t1の時点での波束は、点P11を含む波束として表される。ここで、図3に示す例において、点P11は、時刻t=t1の時点での波束のほぼ中心に位置し、地点L11に位置する。
次に、図3において、時刻t=t1+t0の時刻での波束は、点P12,P13を含む波束として表される。ここで、図3に示す例において、時刻t=t1から時刻t=t1+t0まで時間が経過した場合、波束全体は、群速度Vg・t0だけ進行する。つまり、時刻t=t1+t0の時点では、時刻t=0の点P11に対応する波束の点は、地点L12に到達する。一方、時刻t=t1から時刻t=t1+t0まで時間が経過した場合、位相速度Vphであるため、点P11に対応するピークの頂点は、位相速度Vph・t0だけ進行する。図3に示す例において、位相速度Vphは、群速度Vgよりも遅いため、時刻t=t1における点P11のピークの頂点は、波束の中で後方へλ/2ずれる。ここに、時刻t=t1+t0における点P13の位相は、時刻t=t1における点P11の位相とπずれている。なお、以上の説明においては、時刻t=t1の点P11を基準として説明したが、いつの時刻の波束のどの点についても同様である。
そこで、本願に係る波の送信方法においては、センサ11からの後方送信波の位相が反転(n:奇数)または一致(n:偶数)する時間間隔に群速度で進行する距離(図3で、地点L11と地点L12との距離は、反転する距離の一例)間隔でセンサ11とセンサ12を設置する、つまり時刻t=0の時点の波束の先端の位相に対して、時刻t=t0の時点の波束の先端の位相がπずれて反転しているかまたは位相差が0で一致する位置にセンサ12を設置する。
第1の整数nが偶数の場合には、最初にセンサ11を駆動し、遅延時間t0が経過後(t=t0)、センサ12をセンサ11と逆極性の信号で駆動する。ここで、センサ11から後方に送信された波束の先端はt0後にはセンサ12に到達する。センサ11からの後方送信波束の波形は、任意の時刻において、そのt0時間の前あるいは後の波束と同一であり、センサ11からの後方送信波において、時刻t=0の時点の波束の先端の位相に対して、時刻t=t0のときの波束の先端の位相は同じである。そのため、センサ11を駆動した極性と逆極性の信号(位相差π)でt=t0にセンサ12を駆動した場合、センサ12は、センサ11から到達した波束と逆位相の波束を後方へ送信することができる。波束の形がセンサ11からの送信時と比べて変形しないとの近似が成り立つ場合、センサ11及びセンサ12から後方への波束は空間的に完全に重ね合わされる。したがって、原理的にはセンサ11及びセンサ12から後方へ送信される波束を完全に相殺して消し去ることができる。
[処理手順]
ここで、上述した後方への波束を消去する波の送信方法の処理手順について説明する。図4は、実施の形態に係る送信方法の処理手順の一例を示す図である。
図4に示すように、まず、前方のセンサ11を駆動する(ステップS11)。センサ11を駆動した後、遅延時間t0が経過するまで(ステップS12:No)、処理を待機する。
センサ11を駆動した後、遅延時間t0が経過した場合(ステップS12:Yes)、第1の整数nの偶奇により処理が分かれる。遅延時間t0が経過した後(ステップS12:Yes)、第1の整数nが奇数である場合(ステップS13:Yes)、後方のセンサ12をセンサ11と同一極性で駆動する(ステップS14)。
一方、遅延時間t0が経過した後(ステップS12:Yes)、第1の整数nが偶数である場合(ステップS13:No)、後方のセンサ12をセンサ11と逆極性で駆動する(ステップS15)。このように、第1の整数nの偶奇に応じて、センサ12から送信する波の極性を変更することにより、センサ11及びセンサ12から後方へ送信される波束を相殺し、消去する。
なお、以上に述べた後方送信波相殺の制御は、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる場合、両者がいかなる値であっても行うことができる。また更に、上述の様に後方送信波の相殺を実施した場合に、センサ11,12からの前方送信波の位相を合わせることを同時に行うこともできる。そのためには、遅延時間t0の2倍が、周期1/fの半整数倍であるような波を選択すれば良い。すなわち、変数mを0以上の整数として、下記の式(4)を満たすような波を選択する。
2・t0 = (0.5+m)/f ・・・ (4)
これにより、第1の整数nの偶奇によらず、センサ11,12からの前方送信波束の位相が一致するため、両者が空間的に重なる部分で振幅を増大させることができる。具体的には、t=2・t0の時刻には、センサ12から前方に送信された波束の先端がセンサ11の位置に到達する。この時、センサ12から前方に送信された波束の先端の位相は、センサ11が駆動され続けていればセンサ11から前方に送信される波束の位相と一致するため、両者の振幅は重ね合わされて増大する。一方、センサ12から前方に送信された波束がセンサ11に到達した時に、センサ11の送信が終了していた場合、センサ11,12から前方に送信された2つの波束は空間的には重ならずに一定の距離を保ったまま前方に進行する。
ここで、後方への波束の理論的には完全な相殺と前方への波束の位相の一致を実現するための具体的な条件について説明する。まず、周期1/fは、下記の式(5)により表される。
1/f = λ/Vph ・・・ (5)
そこで、上記の式(3)及び式(5)を上記の式(4)に代入して整理すると、下記の式(6)を得る。
(Vg/Vph) = 1+n/(m+0.5) ・・・ (6)
つまり、上記の式(6)を満たすような位相速度、群速度の関係を満たす波を選択して利用することにより、後方への波束の理論的には完全な相殺と前方への波束の位相の一致を実現することができる。なお、式(6)は、下記の式(7)とも表現することができる。
Vg・t0 = (n+m+0.5)・λ/2 ・・・ (7)
後方への波束を完全に相殺して、かつ前方への波束を可能な限り空間的に重ね合せるためには、センサ11,12間の距離L(=Vg・t0)は可能な限り短いものが望ましいが、式(7)より、距離L(=Vg・t0)の最小値は、(n,m)=(1,0)の時であり、下記の式(8)のように表される。
Vg・t0 = 3・λ/4 ・・・ (8)
また、(n,m)=(1,0)の時の位相速度と群速度の関係は、上記の式(6)に基づき下記の式(9)により表される。
(Vg/Vph) = 3 ・・・ (9)
つまり、群速度が位相速度の3倍の場合であることがわかる。図5には、距離Lが波長λに対して短い場合のいくつかの例について、n、m、Vg・t0、Vg/Vphの関係を示す。
なお、上記の式(4)に代えて下記の式(10)を満たす場合、センサ11,12からの前方送信波の極性を逆にする、つまり位相をπずらすことが可能となる。
2・t0 = m/f ・・・ (10)
つまり、遅延時間t0の2倍が、周期1/fの整数倍であるような波を選択することによって、センサ11,12から前方へ送信される波束の極性を逆とし、空間的に重畳する領域について、お互いに打ち消す位相の関係で重ね合せることができる。
ここから、位相速度が群速度よりも速い(Vph>Vg>0)場合について説明する。位相速度が群速度よりも速い場合、遅延時間t0が下記の式(11)を満たす時間に波束が進行する距離L(=Vg・t0)の間隔を長尺部材200の軸方向に開けてセンサ11,12を設置する。
t0 = 0.5・n・λ/(Vph−Vg) ・・・ (11)
これにより、位相速度よりも群速度が速い(Vph<Vg)場合と同様の制御により、後方送信波の理論的には完全な消去、及び前方送信波の位相の一致を実現することができる。そこで、上記の式(11)及び式(5)を式(4)に代入して整理すると、下記の式(12)を得る。
(Vg/Vph)=1−n/(m+0.5) ・・・ (12)
ここで、図6を用いて波束における位相のずれについて例を示す。図6は、横軸は波束の進行方向(軸方向)の距離(空間的な位置)を表し、ある任意の時刻t1(上図)とそれからt0後(n=1、下図)における波束の形状を比較したものであり、位相速度と群速度の関係の一例を示す概念図である。図6に示す例においては、位相速度Vphは、群速度Vgよりも速い。まず、図6において、時刻t=t1の時点での波束は、点P21を含む波束として表される。ここで、図6に示す例において、点P21は、時刻t=t1の時点での波束のほぼ中心に位置し、地点L21に位置する。
次に、図6において、時刻t=t1+t0の時刻での波束は、点P22,P23を含む波束として表される。ここで、図6に示す例において、時刻t=t1から時刻t=t1+t0まで時間が経過した場合、波束全体は、群速度Vg・t0だけ進行する。つまり、時刻t=t1+t0の時点では、時刻t=0の点P21に対応する波束の点は、地点L22に到達する。一方、時刻t=t1から時刻t=t1+t0まで時間が経過した場合、位相速度Vphであるため、点P21に対応するピークの頂点は、位相速度Vph・t0だけ進行する。図6に示す例において、位相速度Vphは、群速度Vgよりも速いため、時刻t=t1における点P21のピークの頂点は、波束の中で前方へλ/2ずれる。ここに、時刻t=t1+t0における点P23の位相は、時刻t=t1における点P21の位相とπずれている。なお、以上の説明においては、時刻t=t1の点P21を基準として説明したが、いつの時刻の波束のどの点においても同様である。
そこで、本願に係る波の送信方法においては、センサ11からの後方送信波の位相が反転(n:奇数)または一致(n:偶数)する時間間隔に群速度で進行する距離(図6で、地点L21と地点L22との距離は、反転する距離の一例)間隔でセンサ11とセンサ12を設置する、つまり時刻t=0の時点の波束の先端の位相に対して、時刻t=t0において波束の先端の位相がπずれて反転しているかまたは位相差が0で一致する位置にセンサ12を設置する。
つまり、上記の式(12)を満たすような位相速度、群速度の関係を満たす波を選択して利用することにより、後方への波束の略完全な相殺と前方への波束の位相の一致を実現することができる。なお、後方への波束を略完全に相殺して、かつ前方への波束を可能な限り空間的に重ね合せるためには、センサ11,12間の距離L(=Vg・t0)は可能な限り短いものが望ましい。なお、図7には、距離Lが波長λに対して短い場合のいくつかの例について、n、m、Vg・t0、Vg/Vphの関係を示す。また、図8には、以上で述べた条件、関係式の一覧を示す。
なお、以上に示したセンサ11,12間の距離L(=Vg・t0)や遅延時間t0等は、必ずしも厳密な値でなくてもよい。例えば、後方送信波の消去や、前方送信波の重ね合わせに大きな影響は与えない範囲において、送信する波の波長に対して小さな範囲でセンサ11,12間の距離Lを変化させたり、周期1/fに対して小さな範囲でt0を変化させたりしてもよい。
なお、以上の説明では遅延時間t0とセンサ11,12間の距離L(=Vg・t0)を決定するt0とを同一とした場合について説明したが、遅延時間としては、第2の整数n’を0以上の整数として、下記の式(13)を満たすt0’を用いてもよい。
t0’=0.5・n’・λ/(Vg−Vph) ・・・ (13)
つまり、センサ11が駆動された時刻(t=0)から遅延時間t0’だけ経過した後、センサ12を駆動する。この場合、第2の整数n’が奇数のときセンサ12の極性をセンサ11の極性と同一で、第2の整数n’が偶数のときセンサ12の極性をセンサ11の極性と逆の極性で駆動することにより、センサ11,12から後方に送信される波の位相を反転する、つまり位相差をπとすることができる。なお、nとn’とが異なる場合、センサ11,12から後方に送信される波は空間的にはずれるため、完全に重ね合せることはできない。
次に、センサ11,12から送信される前方送信波を理想的には完全に重ね合せて振幅を2倍とする方法を説明する。位相速度よりも群速度が速い(Vph<Vg)場合、下記の式(14)を満たす距離である距離Lの間隔を長尺部材200の軸方向に開けてセンサ11,12を設置する。以下では、センサ12が駆動された時間の原点(t=0)から遅延時間t0だけ経過した後、センサ11が駆動された場合について説明する。
L = Vg・t0 ・・・ (14)
ここで、時間t0は、第1の整数nを1以上の整数として、波長、群速度、位相速度で決定される時間であり、下記の式(15)によって表される。
t0 = 0.5・n・λ/(Vg−Vph) ・・・ (15)
つまり、距離Lは、群速度と位相速度とで進行する距離の差が半波長の整数倍となるような時間t0の間に波束の進行する距離を示しており、図1に示す例において、センサ11,12は、この距離だけ離して設置される。
まず、第1の整数nが奇数の場合、最初にセンサ12を駆動し、遅延時間t0が経過後(t=t0)、センサ11をセンサ12と逆極性の信号で駆動する。ここで、センサ12から前方に送信された波束の先端はt0後にはセンサ11に到達する。このとき、センサ12からの前方送信波の位相は送信時点と反転している。言い換えると、センサ12からの前方送信波において、時刻t=0の時点の波束の先端の位相に対して、時刻t=t0の時点の波束の先端の位相はπずれて反転している。そのため、センサ12を駆動した極性と逆極性の信号でt=t0にセンサ11を駆動した場合、センサ11は、センサ12から到達した波束と同位相の波束を前方へ送信することができる。また、センサ11及びセンサ12から前方への波束が、空間的に略完全に重ね合わされるため、原理的には前方への波束を略完全に重ね合せて振幅を約2倍とすることができる。
また、第1の整数nが偶数の場合、最初にセンサ12を駆動し、遅延時間t0が経過後(t=t0)、センサ11をセンサ12と同一極性(同一)の信号で駆動する。ここで、センサ12から前方に送信された波束の先端はt0後にはセンサ11に到達する。このとき、センサ12からの前方送信波の位相は送信時点と同一である。言い換えると、センサ12からの前方送信波において、時刻t=0の時点の波束の先端の位相に対して、時刻t=t0の時点の波束の先端の位相は同じである。そのため、センサ12を駆動した極性と同一極性の信号でt=t0にセンサ11を駆動した場合、センサ11は、センサ12から到達した波束と同位相の波束を前方へ送信することができる。また、センサ11及びセンサ12から前方への波束が空間的に略完全に重ね合わされるため、原理的には前方への波束を略完全に重ね合せて振幅を約2倍とすることができる。
[処理手順]
ここで、上述した前方への波束を理論的には完全に重ね合せる波の送信方法の処理手順について説明する。図9は、実施の形態に係る送信方法の処理手順の一例を示す図である。
図9に示すように、まず、後方のセンサ12を駆動する(ステップS21)。センサ12を駆動した後、遅延時間t0が経過するまで(ステップS22:No)、処理を待機する。
センサ12を駆動した後、遅延時間t0が経過した場合(ステップS22:Yes)、第1の整数nの偶奇により処理が分かれる。遅延時間t0が経過した後(ステップS22:Yes)、第1の整数nが奇数である場合(ステップS23:Yes)、前方のセンサ11をセンサ12と逆極性で駆動する(ステップS24)。
一方、遅延時間t0が経過した後(ステップS22:Yes)、第1の整数nが偶数である場合(ステップS23:No)、前方のセンサ11をセンサ12と同一極性で駆動する(ステップS25)。このように、第1の整数nの偶奇に応じて、センサ11から送信する波の極性を変更することにより、センサ11及びセンサ12から前方への波束を理想的には完全に重ね合せることができる。
なお、以上に述べた前方送信波重ね合せの制御は、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる場合、両者がいかなる値であっても行うことができる。また更に、上述の様に前方送信波の重ね合わせを実施した場合に、センサ11,12からの後方送信波の位相をπずらして、互いに相殺する関係とすることを同時に行うこともできる。そのためには、遅延時間t0の2倍が、周期1/fの半整数倍であるような波を選択すれば良い。すなわち、mを0以上の整数として、下記の式(16)を満たすような波を選択する。なお、センサ11,12から後方に送信された波束は、空間的にある距離ずれるため、理論的には完全に相殺することはできない。
2・t0 = (0.5+m)/f ・・・ (16)
この条件式を満たすような波を利用することによって、第1の整数nの偶奇によらず、センサ11,12から後方に送信される波束の位相がπずれるため、両者が空間的に重なる部分で振幅を相殺する位相の関係で波を重ねることができる。具体的には、t=2・t0の時刻には、センサ11から後方に送信された波束の先端がセンサ12の位置に到達する。この時、センサ11から後方に送信された波束の先端の位相は、センサ12が駆動され続けていればセンサ12から後方に送信される波の位相とπずれるため、両者が空間的に重なる領域においては、お互いに相殺する位相の関係になる。一方、センサ11から後方に送信された波束がセンサ12に到達した時に、センサ12の送信が終了していた場合、センサ11,12から後方に送信された2つの波束は空間的には重ならずに一定の距離を保ったまま後方に進行する。
ここで、理想的には完全な前方への波束の重ね合わせと後方への波束の位相差πでの重ね合せ、つまり空間的に重なる部分については振幅の減少を実現するための条件について説明する。まず、周期1/fは、上記の式(5)により表される。そこで、上記の式(15)及び式(5)を式(16)に代入して整理すると、下記の式(17)を得る。
(Vg/Vph) = 1+n/(m+0.5) ・・・ (17)
つまり、上記の式(17)を満たすような位相速度、群速度の関係を満たす波を選択して利用することにより、完全な前方への波束の位相差0の重ね合わせと後方への波束の位相差πでの重ね合せを実現することができる。なお、式(17)は、下記の式(18)とも表現することができる。
Vg・t0 = (n+m+0.5)・λ/2 ・・・ (18)
理論的には完全に前方への波束を重ね合わせて、かつ後方への波束を可能な限り空間的に重ね合せて相殺するためには、センサ11,12間の距離L(=Vg・t0)は可能な限り短いものが望ましいが、式(18)より、距離L(=Vg・t0)の最小値は、(n,m)=(1,0)の時であり、下記の式(19)のように表される。
Vg・t0 = 3・λ/4 ・・・ (19)
また、(n,m)=(1,0)の時の位相速度と群速度の関係は、上記の式(17)より下記の式(20)により表される。
(Vg/Vph) = 3 ・・・ (20)
つまり、群速度が位相速度の3倍の場合であることがわかる。上記のように、n、m、Vg・t0、Vg/Vphの関係のいくつかの例は、図5に示す様になる。
なお、上記の式(16)に代えて下記の式(21)を満たす場合、センサ11,12からの後方送信波の位相を一致させることも可能である。
2・t0 = m/f ・・・ (21)
つまり、遅延時間t0の2倍が、周期1/fの整数倍であるような波を選択することによって、センサ11,12から後方へ送信される波束の位相を一致させ、空間的に重畳する領域について、お互いに位相を合わせて重ね合せ、振幅を増大させることも可能である。
ここから、位相速度が群速度よりも速い(Vph>Vg>0)場合について説明する。位相速度が群速度よりも速い場合、遅延時間t0が下記の式(22)を満たす時間に波束が進行する距離L(=Vg・t0)の間隔を長尺部材200の軸方向に開けてセンサ11,12を設置する。
t0 = 0.5・n・λ/(Vph−Vg) ・・・ (22)
これにより、位相速度よりも群速度が速い(Vph<Vg)場合と同様の制御により、前方への波束の完全な重ね合わせと、後方への波束の位相差πでの重ね合せ、つまり空間的に重なる部分については振幅の減少を実現することができる。そこで、上記の式(22)及び式(5)を式(4)に代入して整理すると、下記の式(23)を得る。
(Vg/Vph)=1−n/(m+0.5) ・・・ (23)
つまり、上記の式(23)を満たすような位相速度、群速度の関係を満たす波を選択して利用することにより、理論的には完全な前方への波束の重ね合わせと、後方への波束の位相差πでの重ね合せを実現することができる。なお、n、m、Vg・t0、Vg/Vphの関係のいくつかの場合は、図7に示すようなものとなる。
なお、以上に示したセンサ11,12間の距離L(=Vg・t0)や遅延時間t0等は、必ずしも厳密な値でなくてもよい。例えば、前方への送信波の重ね合わせや、後方への送信波の空間的に重なる領域での振幅の減少に大きな影響は与えない範囲において、送信する波の波長に対して小さな範囲でセンサ11,12間の距離Lを変化させたり、周期1/fに対して小さな範囲でt0を変化させたりしてもよい。
なお、以上の説明では遅延時間t0とセンサ11,12間の距離L(=Vg・t0)を決定するt0とを同一とした場合について説明したが、第2の整数n’を0以上の整数として、下記の式(24)を満たす遅延時間t0’を用いてもよい。
t0’=0.5・n’・λ/(Vg−Vph) ・・・ (24)
つまり、センサ11が駆動された時刻(t=0)から遅延時間t0’だけ経過した後、センサ12を駆動する。この場合、第2の整数n’が奇数のときセンサ12の極性をセンサ11の極性と逆の極性で、第2の整数n’が偶数のときセンサ12の極性をセンサ11の極性と同一の極性で駆動することにより、センサ11,12から前方に送信される波の位相を同一とする、つまり位相差を0として重ね合せることができる。なお、nとn’とが異なる場合、センサ11,12から前方に送信される波は空間的にはずれるため、波束の全体に渡って完全に重ね合せることはできない。
ここで、図2に示すように、検査装置100は、送受信部110と、信号処理部120と、記憶部130と、判定部140と、出力部150とを備えている。
送受信部110は、図2に示すように、検査対象となる長尺部材200に設置されたセンサ11,12を駆動する。また、送受信部110は、例えば、センサ11によって検出された信号を信号処理部120に出力する。なお、図2に示す検査装置100においては、送信部と受信部とが一体となった送受信部110としているが、構成要素は機能概念的なものであり送信部と受信部とが分かれてもよい。
信号処理部120、記憶部130、判定部140および出力部150は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、メモリ、HDD(Hard Disc Drive)等の記憶装置と、キーボード、マウス、ポインティングデバイス、ボタン、タッチパネル等の外部から情報の入力を検出する入力装置と、外部との情報の送受を行うI/F(Interface)装置と、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro Luminescence)等の表示装置とを備えたコンピュータから構成されている。具体的には、コンピュータにインストールされたプログラムにより上述したようなハードウェア資源が制御されて、ハードウェア装置とソフトウェアが協働することにより、信号処理部120、記憶部130、判定部140および出力部150が実現される。
信号処理部120は、送受信部110に対して所定の波形のデータを与えて、長尺部材200に波を送出する。また、信号処理部120は、センサ11が受信した信号を処理して長尺部材200を伝播した波の平均群速度の周波数特性を検出する。例えば、信号処理部120は、波を送出してから受信するまでの時間を測定し、波が進行した距離から波の平均群速度の算出を、所定の周波数範囲に渡って繰り返し行うことにより、周波数分布プロファイルを得る。
記憶部130は、長尺部材200等の比較対象部材を伝播する波の平均群速度の周波数依存性を予め記憶する。例えば、記憶部130は、平均群速度の周波数特性として、周波数プロファイルを記憶する。ここで、比較対象部材とは、上述したように、検査対象部材が変形したか否かを検出するための比較対象であり、例えば、使用前の検査対象部材やこの使用前の検査対象部材と同一の形状を有する部材などからなる。比較対象部材の周波数プロファイルは、信号処理部120が長尺部材200の周波数プロファイルを検出する方法と同等の方法により取得することができる。
判定部140は、信号処理部120により検出された検査対象部材を伝播する波の平均群速度の周波数特性と、記憶部130に記憶された比較対象部材の平均群速度の周波数特性とを比較して、検査対象部材の形状が比較対象部材の形状と同一であるか否かを判定する。本実施の形態においては、検査対象部材の周波数プロファイルと、比較対象部材の周波数プロファイルとを比較し、これらが同一であるか否かにより検査対象部材に欠陥が存在するか否かを判定する。この判定結果は、出力部150に出力される。
出力部150は、判定部140による判定結果をモニタ等に出力する。なお、上述した検査装置100は、一例であり、距離Lだけ離して設置されたセンサ11,12を用いた波の送信方法により長尺部材200の検査が実現できれば、どのような構成であってもよい。
なお、センサ11,12を用いて長尺部材200に波を送信する方法としては、センサ11,12として圧電素子探触子(アレー)を用いる方法、センサ11,12として磁歪センサを用いる方法、センサ11,12として電磁超音波探触子(ElectroMagnetic Acoustic Transducer、EMAT)を用いる方法、レーザー超音波法等、原理的にはどのような組み合わせのセンサ11,12を利用しても良い。また、本実施例においては、センサ11が送信センサ及び受信センサとして用いられる場合を示したが、送信センサとは別のセンサを受信センサとして用いてもよい。
[具体例1]
ここから、本実施形態に係る波の送信方法の具体例をいくつか示す。まず、図10に、真空中における直径10mmのスチール製円柱形中実ロッド中のガイド波F(1,1)モードの分散曲線の計算結果を示す。ここで、Fモードとは、円柱形の長尺部材200が軸に対して非対称に振動するモードを意味する。図10に示す例において、横軸は周波数、縦軸は音速であり、破線は位相速度、実線は群速度を表している。また、図11は、図10に示す計算に用いたパラメータを示す。このモードについては、図10に示した範囲では、位相速度より群速度の方が速い。
図10に示すように、F(1,1)モードについて、110kHzの時、位相速度Vph及び、群速度Vgは、それぞれ下記の式(25)及び式(26)に示す値になる。
Vph = 2.3×103(m/s) ・・・ (25)
Vg = 3.2×103(m/s) ・・・ (26)
したがって、両者の比は1.4となり、図5に示す(n,m)=(1,2)の条件に対応することが分かる。また、上記の式(25)と式(5)により、波長λは、21mmとなる。そのため、距離L(=Vg・t0)及び遅延時間t0は、上記の式(2)及び式(3)により、それぞれ下記の式(27)及び式(28)に示す値になる。
L = 7・λ/4 = 37(mm) ・・・ (27)
t0 = 0.5・λ/(Vg−Vph)=1.2×10−5(s)・・・(28)
つまり、本具体例においては、センサ11,12の距離Lを37mmに設置し、遅延時間t0を12μsとすれば良いことが分かる。そして、最初にセンサ11を駆動して110kHzのF(1,1)モードガイド波の波束を送信し、12μs後にセンサ12をセンサ11と同一の極性で駆動することによって、理論的には完全に後方への波束を相殺して消去し、前方への波束の位相を合わせて送信することができる。この場合、センサ11とセンサ12とから前方に送信される波束は、空間的には、下記の式(29)に示す2・Vg・t0だけ間隔を開けて進行する。
2・Vg・t0 = 2・7・λ/4 = 74(mm) ・・・ (29)
なお、波束の幅が上記の式(29)により得られた74mmより十分大きい場合、例えば幅が420mm(=20・λ)であれば、センサ11とセンサ12とから送信された波束は概ね重なって、1つのセンサから波を送信した場合と比べて、ほぼ振幅を2倍にした1つの波束を前方に送信することが可能となる。一般に、幅20・λの波束を送信するためには、原理的には20周期の時間(20/f)に渡ってセンサを駆動させれば良い。
以上の様に、特定のモード、特定の周波数のガイド波を選択し、距離L(=Vg・t0)だけ離してセンサ11,12を設置し、遅延時間t0を設定することによって、後方への波束を消去し、前方への波束の位相を合わせて振幅を増大させることが可能となる。これにより、1つのセンサを用いた場合と比べて、SN比を増大させることができる。また、同じセンサ配置において、最初にセンサ12を駆動して110kHzのF(1,1)モードガイド波の波束を送信し、12μs後にセンサ11をセンサ12と反対の極性で駆動することによって、センサ11とセンサ12とから前方に送信される波束を理論的には完全に重ねて振幅が約2倍の波とし、かつセンサ11とセンサ12とから後方に送信される波の位相をπずらして重なる部分について振幅を減少させることもできる。
[具体例2]
図12に、真空中における直径10mmのスチール製円柱形中実ロッドのガイド波L(0,1)モードの分散曲線の計算結果を示す。ここで、Lモードとは、円柱形の長尺部材200が軸対称に振動するモードを意味する。図12に示す例において、横軸は周波数、縦軸は音速であり、破線は位相速度、実線は群速度を表している。また、図12に示す計算には図11に示すパラメータを用いた。このモードについては、図11に示した範囲では、群速度より位相速度の方が速い。
図12に示すように、L(0,1)モードについて、275kHzの時、位相速度Vph及び、群速度Vgは、それぞれ下記の式(30)及び式(31)に示す値になる。
Vph = 4.4×103(m/s) ・・・ (30)
Vg = 2.7×103(m/s) ・・・ (31)
したがって、両者の比は0.6となり、図7に示す(n,m)=(1,2)の条件に対応することが分かる。また、上記の式(30)と式(5)により、波長λは、16mmとなる。そのため、距離L(=Vg・t0)及び遅延時間t0は、上記の式(2)及び式(11)により、それぞれ下記の式(32)及び式(33)に示す値になる。
L = 3・λ/4 = 12(mm) ・・・ (32)
t0 = 0.5・λ/(Vph−Vg)=4.7×10−6(s)・・・(33)
つまり、本具体例においては、センサ11,12の距離Lを12mmに設置し、遅延時間t0を4.7μsとすれば良いことが分かる。そして、最初にセンサ11を駆動して275kHzのL(0,1)モードガイド波の波束を送信し、4.7μs後にセンサ12をセンサ11と同一の極性で駆動することによって、後方への波束を理論的には完全に相殺して消去し、前方への波束の位相を合わせて送信することができる。この場合、センサ11とセンサ12とから前方に送信される波束は、空間的には、下記の式(34)に示す2・Vg・t0だけ間隔を開けて進行する。
2・Vg・t0 = 2・3・λ/4 = 24(mm) ・・・ (34)
なお、波束の幅が上記の式(34)により得られた24mmより十分大きい場合、例えば幅が320mm(=20・λ)であれば、センサ11とセンサ12とから送信された波束はほとんどの領域で重なって、1つのセンサから波を送信した場合と比べて、略振幅を2倍にした1つの波束を前方に送信することが可能となる。一般に、幅20・λの波束を送信するためには、原理的には20周期の時間に渡ってセンサを駆動させれば良い。
以上の様に、特定のモード、特定の周波数のガイド波を選択し、距離L(=Vg・t0)だけ離してセンサ11,12を設置し、遅延時間t0を設定することによって、後方への波束を消去し、前方への波束の位相を合わせて振幅を増大させることが可能となる。これにより、1つのセンサを用いた場合と比べて、SN比を増大させることができる。また、同じセンサ配置において、最初にセンサ12を駆動して275kHzのL(0,1)モードガイド波の波束を送信し、4.7μs後にセンサ11をセンサ12と反対の極性で駆動することによって、センサ11とセンサ12とから前方に送信される波束を理論的には完全に重ねて振幅が約2倍の波とし、かつセンサ11とセンサ12とから後方に送信される波の位相をπずらして重なる部分について振幅を減少させることもできる。
[具体例3]
図13に、真空中における直径10mmのスチール製円柱形中実ロッドのガイド波L(0,2)モードの分散曲線の計算結果を示す。図13に示す例において、横軸は周波数、縦軸は音速であり、破線は位相速度、実線は群速度を表している。また、図13に示す計算には図11に示すパラメータを用いた。このモードについては、図13に示した範囲では、群速度より位相速度の方が速い。
図13に示すように、L(0,2)モードについて、460kHzの時、位相速度Vph及び、群速度Vgは、それぞれ下記の式(35)及び式(36)に示す値になる。
Vph = 5.9×103(m/s) ・・・ (35)
Vg = 4.2×103(m/s) ・・・ (36)
したがって、両者の比は0.71となり、図7に示す(n,m)=(1,3)の条件に対応することが分かる。また、上記の式(35)と式(5)により、波長λは、13mmとなる。そのため、距離L(=Vg・t0)及び遅延時間t0は、上記の式(2)及び式(11)により、それぞれ下記の式(37)及び式(38)に示す値になる。
L = 5・λ/4 = 16(mm) ・・・ (37)
t0 = 0.5・λ/(Vph−Vg)=4.4×10−6(s)・・・(38)
つまり、本具体例においては、センサ11,12の距離Lを16mmに設置し、遅延時間t0を4.4μsとすれば良いことが分かる。そして、最初にセンサ11を駆動して460kHzのL(0,2)モードガイド波の波束を送信し、4.4μs後にセンサ12をセンサ11と同一の極性で駆動することによって、後方への波束を理論的には完全に相殺して消去し、前方への波束の位相を合わせて送信することができる。この場合、センサ11とセンサ12とから前方に送信される波束は、空間的には、下記の式(39)に示す2・Vg・t0だけ間隔を開けて進行する。
2・Vg・t0 = 2・5・λ/4 = 32(mm) ・・・ (39)
なお、波束の幅が上記の式(39)により得られた32mmより十分大きい場合、例えば幅が260mm(=20λ)であれば、センサ11とセンサ12とから送信された波束はほとんどの領域で重なって、1つのセンサから波を送信した場合と比べて、ほぼ振幅を2倍にした1つの波束を前方に送信することが可能となる。
以上の様に、特定のモード、特定の周波数のガイド波を選択し、距離L(=Vg・t0)だけ離してセンサ11,12を設置し、遅延時間t0を設定することによって、後方への波束を消去し、前方への波束の位相を合わせて重ね合せて振幅を増大させることが可能となる。これにより、1つのセンサを用いた場合と比べて、SN比を増大させることができる。
[具体例4]
本具体例においては、真空中における外径30mm、内径10mmのアルミニウム製円筒形パイプ中にガイド波L(0,2)モードの波を送信した場合を示す。この場合、音速計算(アルミニウム中のバルク縦波音速6400m/s、バルク横波音速3040m/s)によると、150kHzの時、位相速度Vph、群速度Vgは、それぞれ下記の式(40)及び式(41)に示す値になる。
Vph = 5.55×103(m/s) ・・・ (40)
Vg = 4.36×103(m/s) ・・・ (41)
したがって、両者の比は0.78となり、150kHzのL(0,2)モードは、図7に示す(n,m)=(1,4)の条件に対応することが分かる。また、上記の式(40)と式(5)により、波長λは、37mmとなる。そのため、距離L(=Vg・t0)及び遅延時間t0は、上記の式(2)及び式(11)により、それぞれ下記の式(42)及び式(43)に示す値になる。
L = 7・λ/4 = 65(mm) ・・・ (42)
t0 = 0.5・λ/(Vph−Vg)=1.6×10−5(s)・・・(43)
つまり、本具体例においては、センサ11,12の距離Lを65mmに設置し、遅延時間t0を16μsとすれば良いことが分かる。そして、最初にセンサ11を駆動して150kHzのL(0,2)モードガイド波の波束を送信し、16μs後にセンサ12をセンサ11と同一の極性で駆動することによって、後方への波束を理論的には完全に相殺して消去し、前方への波束の位相を合わせて送信することができる。この場合、センサ11とセンサ12とから前方に送信される波束は、空間的には、下記の式(44)に示す2・Vg・t0だけ間隔を開けて進行する。
2・Vg・t0 = 2・7・λ/4 = 130(mm) ・・・ (44)
なお、波束の幅が上記の式(44)により得られた130mmより十分大きい場合、例えば幅が740mm(=20・λ)であれば、センサ11とセンサ12とから送信された波束は概ね重なって、1つのセンサから波を送信した場合と比べて、ほぼ振幅を2倍にした1つの波束を前方に送信することが可能となる。一般に、幅20・λの波束を送信するためには、原理的には20周期の時間に渡ってセンサを駆動させれば良い。
以上の様に、特定のモード、特定の周波数のガイド波を選択し、距離L(=Vg・t0)だけ離してセンサ11,12を設置し、遅延時間t0を設定することによって、後方への波束を消去し、前方への波束の位相を合わせて振幅を増大させることが可能となる。これにより、1つのセンサを用いた場合と比べて、SN比を増大させることができる。また、同じセンサ配置において、最初にセンサ12を駆動して150kHzのL(0,2)モードガイド波の波束を送信し、16μs後にセンサ11をセンサ12と反対の極性で駆動することによって、センサ11とセンサ12とから前方に送信される波束を理論的には完全に重ねて振幅が約2倍の波とし、かつセンサ11とセンサ12とから後方に送信される波の位相をπずらして重なる部分について振幅を減少させることもできる。
[変形例]
上述した実施の形態においては、2つのセンサ11,12、つまり1つのセンサペアを用いた例を示したが、図14に示すように2対のセンサペア20,30を用いてもよい。図14に示す例においては、センサペア20は、前方側に設置されるセンサ21と、後方側に設置されるセンサ22とを有する。また、センサペア30は、前方側に設置されるセンサ31と、後方側に設置されるセンサ32とを有する。
ここで、本変形例においては、具体例1と同様に、図10に示す分散曲線を示す、真空中における直径10mmのスチール製円柱形中実ロッド中のガイド波F(1,1)モードを用いる。つまり、本変形例における、位相速度Vph、群速度Vg、距離L(=Vg・t0)、及び遅延時間t0は、具体例1と同様に上記の式(25)〜(28)に示す値になる。
つまり、センサ21とセンサ22とは、距離L=37mmの間隔を開けて配置される。また、センサ31とセンサ32とは、距離L=37mmの間隔を開けて配置される。なお、センサペア20とセンサペア30との間隔Lpについては後述する。センサ21,22,31,32の駆動開始時刻をそれぞれt21,t22,t31,t32として、以下説明する。
[処理手順]
ここで、本変形例における波の送信方法の処理手順について説明する。図15は、変形例に係る送信方法の処理手順の一例を示す図である。
図15に示すように、まず、センサペア30のセンサ31を駆動する(ステップS31)。センサ31を駆動した後、遅延時間t0が経過するまで(ステップS32:No)、処理を待機する。センサ31を駆動した後、遅延時間t0が経過した場合(ステップS32:Yes)、センサペア30のセンサ32をセンサ31と同一極性で駆動する(ステップS33)。
また、センサペア20のセンサ21をセンサ31と同一極性で駆動する(ステップS34)。センサ21を駆動した後、遅延時間t0が経過するまで(ステップS35:No)、処理を待機する。センサ21を駆動した後、遅延時間t0が経過した場合(ステップS35:Yes)、センサペア20のセンサ22をセンサ21と同一極性で駆動する(ステップS36)。なお、ステップS34においてセンサペア20のセンサ21を駆動するタイミングは、ステップS31においてセンサペア30のセンサ31を駆動した後であれば、センサ32を駆動する前であってもよい。
具体的には、最初にセンサ31を駆動してから、遅延時間t0=12μs(つまりt32−t31)が経過した後、センサ32を駆動する。また、センサ21はセンサ31よりは後に駆動することとし(つまり、t21>t31)、センサ21に対するセンサ22の遅延時間(つまりt22−t21)を12μsとする。
以上によってそれぞれのセンサペア20,30それぞれにおいて、後方送信波は消去され前方送信波は位相を合わせて送信される。つまり、本変形例は、具体例1のセンサ11,12を2対用いたことに相当する。ここでセンサ21のセンサ31に対する遅延時間t2(=t21−t31)を、n2を2以上の偶数として、下記の式(45)とする。
t2 = 0.5・n2・λ/(Vg−Vph) ・・・ (45)
例えばn2が2の時には、下記の式(46)に示す値になる。
t2 = λ/(Vg−Vph)= 2.4×10−5(s) ・・・ (46)
また、センサペア20とセンサペア30との間隔Lpを、下記の式(47)とする。
Lp = Vg・t2 ・・・ (47)
例えばn2が2の時には、下記の式(48)に示す値になる。
Lp = 77(mm) ・・・ (48)
このような配置(Lpの距離)、遅延時間(t2)とすることにより、センサペア30から送信される前方送信波とセンサペア20から送信される前方送信波について、位相を一致させた状態で空間的に完全に重ねて振幅を2倍とすることができる。すなわち、4つのセンサを用いて、後方送信波を消去しつつ、前方送信波の振幅をほぼ4倍とすることが可能となる。これにより、SN比の飛躍的な増大を実現することができる。
なお、センサ21,22,31,32は、センサ11,12と同様に、圧電素子探触子(アレー)を用いる方法、磁歪センサを用いる方法、電磁超音波探触子を用いる方法、レーザー超音波法等、原理的にはどのような組み合わせのセンサ21,22,31,32を利用しても良い。
以上、実施の形態および変形例では、長尺部材について波を送信させる例を示したが、その形状は長尺部材に限定されず、2次元、3次元的な広がりを持つものであっても良く、例えば平板に対してガイド波(例えばラム波)を送信する場合、バルク部材の表面に表面波を送信する場合等、各種形状について波を送信する場合に利用することができる。また、波を送信する対象として固体を例にとったが、対象は、固体、液体、気体を問わずそれらの組み合わされた構造体であっても良い。また、送信される波は、弾性波に限らず、種々の位相速度と群速度の異なる波動、例えば、光や電波等の電磁波に適用することもできる。
[効果]
上述してきたように、実施形態に係る波の送信方法は、第1のセンサ11及び第2のセンサ12の各々が位相速度と群速度とが異なる波を送信する送信工程、を含み、位相速度Vph、群速度Vg、1以上の整数である第1の整数n、送信した波の波長λである場合において、第1のセンサ11と第2のセンサ12との間の距離Lを上記の式(1)を満たす値とし、送信工程は、第1のセンサ11及び第2のセンサ12のうち、一方のセンサが、位相速度、群速度、及び波の波長に基づき、他方のセンサが送信する波を相殺または増幅するタイミング及び位相差で、波の送信を開始する。
これにより、実施形態に係る波の送信方法は、後方送信波の消去や前方送信波の振幅の増大により、SN比を向上させることができる。具体的には、波の送信方法は、後方送信波を略打ち消したり、前方送信波を重ね合せて振幅を略2倍としたりすることができる。
また、実施形態に係る波の送信方法は、mを0以上の整数として、群速度Vgが位相速度Vphより速い場合、上記の式(6)を満たし、位相速度Vphが群速度Vgより速い場合、上記の式(12)を満たす波を送信する。
これにより、後方送信波を略完全に打ち消しつつ前方送信波の位相を一致させたり、前方送信波を略完全に重ね合せて振幅を2倍としつつ、後方送信波の位相をπずらして相殺して送信したりすることができる。以上によって、位相速度と群速度とが異なる波について、後方送信波に起因するノイズを減らしたり、前方送信波によって得られる信号強度を増大させたりすることによって、SN比を飛躍的に増大させることができる。
また、実施形態に係る波の送信方法は、2つのセンサ11,12において、一方のセンサが波の送信を開始した時刻と、他方のセンサが波の送信を開始した時刻との間の時間である遅延時間td(実施形態においては、t0’)を、第2の整数n’を0以上の整数とした場合、下記の式(49)を満たす値とする。
td=0.5・n’・λ/|Vg−Vph| ・・・ (49)
これにより、実施形態に係る波の送信方法は、後方送信波を略打ち消したり、前方送信波を重ね合せて振幅を略2倍としたりすることができる。これにより、SN比を向上させることができる。
また、実施形態に係る波の送信方法は、2つのセンサ11,12の各々により送信される波の極性を同一または、反転させる。
これにより、実施形態に係る波の送信方法は、後方送信波を略打ち消したり、前方送信波を重ね合せて振幅を略2倍としたりすることができる。これにより、SN比を向上させることができる。
また、実施形態に係る波の送信方法は、第1の整数nと前記第2の整数n’とを同じ値とする。
これにより、実施形態に係る波の送信方法は、後方送信波を略打ち消したり、前方送信波を重ね合せて振幅を略2倍としたりすることができる。これにより、SN比を向上させることができる。
また、実施形態に係る波の送信方法は、パイプまたは中実ロッドの検査対象物に検査のために弾性波を送出する。
これにより、実施形態に係る波の送信方法は、パイプまたは中実ロッドの検査対象物において、後方送信波を略打ち消したり、前方送信波を重ね合せて振幅を略2倍としたりすることができる。これにより、SN比を向上させることができる。
また、実施形態に係る検査装置100は、位相速度と群速度とが異なる波を検査対象物へ送信する第1のセンサ11及び第2のセンサ12と信号を送受信する送受信部110と、送受信部110により受信された信号に基づいて検査対象物における欠陥の存在を判定する判定部140と、を備え、第1のセンサ11及び第2のセンサ12は、群速度で進行する距離と位相速度で進行する距離との差が、送信した波の半波長の1以上の整数倍となる時間に群速度で進行する距離だけ離して配置され、送受信部110は、第1のセンサ11及び第2のセンサ12のうち、一方のセンサに、位相速度、群速度、及び波の波長に基づき、他方のセンサが送信する波を相殺または増幅するタイミング及び位相差で、波の送信を開始させる。
これにより、実施形態に係る検査装置100は、後方送信波の消去または前方送信波の振幅の増大により、SN比を向上させることができる。具体的には、波の送信方法は、後方送信波を略打ち消したり、前方送信波を重ね合せて振幅を略2倍としたりすることができる。また更に、位相速度と群速度とが特定の関係(比)となるような波を選択することにより、後方送信波を略打ち消しつつ前方送信波の位相を一致させたり、前方送信波を重ね合せて振幅を略2倍としつつ、後方送信波の位相をπずらして送信したりすることができる。以上によって、位相速度と群速度とが異なる波について、後方送信波に起因するノイズを減らしたり、前方送信波によって得られる信号強度を増大させたりすることによって、SN比を飛躍的に増大させることができ、検査対象物における欠陥の存在を検出できる。
(構成等)
なお、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
また、本実施形態において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を手動的におこなうこともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
(プログラム)
また、上記実施形態に係る波の送信方法をコンピュータが実行可能な言語で記述したプログラムを作成することもできる。この場合、コンピュータがプログラムを実行することにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、かかるプログラムをコンピュータに読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することにより上記実施形態と同様の処理を実現してもよい。以下に、波の送信プログラムを実行するコンピュータの一例を説明する。
図16は、波の送信プログラムを実行するコンピュータを示す図である。図16に示すように、コンピュータ1000は、例えば、メモリ1010と、CPU(Central Processing Unit)1020と、ハードディスクドライブインタフェース1030と、ディスクドライブインタフェース1040と、シリアルポートインタフェース1050と、ビデオアダプタ1060と、ネットワークインタフェース1070とを有する。これらの各部は、バス1080によって接続される。
メモリ1010は、ROM(Read Only Memory)1011およびRAM(Random Access Memory)1012を含む。ROM1011は、例えば、BIOS(Basic Input Output System)等のブートプログラムを記憶する。ハードディスクドライブインタフェース1030は、ハードディスクドライブ1090に接続される。ディスクドライブインタフェース1040は、ディスクドライブ1100に接続される。ディスクドライブ1100には、例えば、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能な記憶媒体が挿入される。シリアルポートインタフェース1050には、例えば、マウス1110およびキーボード1120が接続される。ビデオアダプタ1060には、例えば、ディスプレイ1130が接続される。
ここで、図16に示すように、ハードディスクドライブ1090は、例えば、OS1091、アプリケーションプログラム1092、プログラムモジュール1093およびプログラムデータ1094を記憶する。上記実施形態で説明した各情報は、例えばハードディスクドライブ1090やメモリ1010に記憶される。
また、波の送信プログラムは、例えば、コンピュータ1000によって実行される指令が記述されたプログラムモジュールとして、ハードディスクドライブ1090に記憶される。具体的には、上記実施形態で説明した波の送信方法が記述されたプログラムモジュールが、ハードディスクドライブ1090に記憶される。
また、波の送信プログラムによる情報処理に用いられるデータは、プログラムデータとして、例えば、ハードディスクドライブ1090に記憶される。そして、CPU1020が、ハードディスクドライブ1090に記憶されたプログラムモジュール1093やプログラムデータ1094を必要に応じてRAM1012に読み出して、上述した各手順を実行する。
なお、波の送信プログラムに係るプログラムモジュール1093やプログラムデータ1094は、ハードディスクドライブ1090に記憶される場合に限られず、例えば、着脱可能な記憶媒体に記憶されて、ディスクドライブ1100等を介してCPU1020によって読み出されてもよい。あるいは、検出プログラムに係るプログラムモジュール1093やプログラムデータ1094は、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)等のネットワークを介して接続された他のコンピュータに記憶され、ネットワークインタフェース1070を介してCPU1020によって読み出されてもよい。