JP6273636B2 - カスパーゼ阻害剤を含む、TGF−βに起因する障害を治療または予防するための医薬およびその応用 - Google Patents

カスパーゼ阻害剤を含む、TGF−βに起因する障害を治療または予防するための医薬およびその応用 Download PDF

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Description

本発明は、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルおよびミトコンドリア異常の少なくとも1つに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための技術、方法、ならびにそのための薬剤、ならびにこの技術を応用した角膜内皮細胞の保存技術に関する。
視覚情報は、眼球の最前面の透明な組織である角膜から取り入れられた光が、網膜に達して網膜の神経細胞を興奮させ、発生した電気信号が視神経を経由して大脳の視覚野に伝達することで認識される。良好な視力を得るためには、角膜が透明であることが必要である。角膜の透明性は、角膜内皮細胞のポンプ機能とバリア機能により、含水率が一定に保たれることにより保持される。
ヒトの角膜内皮細胞は、出生時には1平方ミリメートル当たり約3000個の密度で存在しているが、一度障害を受けると再生する能力は極めて限定的である。フックス角膜内皮ジストロフィは、角膜の内側の内皮細胞が異常を来し角膜内皮細胞の密度が著しく減少し、その結果、角膜の浮腫を生じたりする疾患であり、その原因は不明である。また、フックス角膜内皮ジストロフィでは、コラーゲン、フィブロネクチン等の細胞外マトリクスが角膜の後部にあるデスメ膜の後面の一部分に沈着しグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚を生じる。グッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚はフックス角膜内皮ジストロフィ患者における羞明、霧視の原因であり患者のQOLを著しく損なう。このように、フィブロネクチンなどの細胞外マトリクスはまた、角膜内皮面の疣贅(グッタータ)や、デスメ膜の混濁グッテー等の視力低下の原因となる症状に関連しており、曇り、角膜混濁や白斑などの角膜の濁りに関連する角膜内皮障害の主な原因となりうる。フックス角膜内皮ジストロフィは角膜移植以外に有効な治療法はないとされるが、日本での角膜提供は不足しており、角膜移植の待機患者約2600人に対し、年間に国内で行われている角膜移植件数は1700件程度である。
フックス角膜内皮ジストロフィについては、フックス角膜患者由来の角膜内皮細胞の培養(非特許文献1および3)や不死化の報告(非特許文献2)があるが、細胞外マトリックスの過剰産生を伴うなどの疾患の特徴を維持した、治療薬、進行予防薬のスクリーニングに適切な細胞の報告はないため、その治療薬の開発には限界があり、現在のところ臨床で使用されている治療薬は存在せず角膜移植に頼らざるを得ない。
また特許文献1は、角膜の線維症および/または濁りを治療するためのTGF−β1インヒビターペプチドを開示する。特許文献2はTGF−β1,2,3に結合する抗体を開示する。特許文献3は、角膜内皮障害の治療にNrf2アゴニストまたはアクチベーターが使用され得ること角膜内皮障害の治療にNrf2アゴニストまたはアクチベーターが使用され得ることを開示する。特許文献4は、トランスフォーミング増殖因子TGF−β1(TGF−β1)と結合することができ、かつ、サイトカインとの直接的結合によりTGF−β1の生物活性の強力な阻害剤となるペプチドを開示する。特許文献5は、BMP‐7ポリペプチドを含む瘢痕形成抑制剤を開示する。特許文献6は、TGF−β阻害作用が治療上または予防上有効である疾患として、角膜障害を概括的に記載する。
特表2013-520405公報 国際公開第2012/167143号 国際公開第2012/009171号 特表2007-525204号公報 特表2006-508169号公報 国際公開第2004/018430号
Zaniolo K, et al. Exp Eye Res.;94(1):22-31. 2012 Azizi B, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2;52(13):9291-9297. 2011 Kelliher C. et al. Exp Eye Res Vol.93(6), 880-888, 2011
本発明者らは、フックス角膜内皮ジストロフィの角膜内皮障害モデルの細胞において、トランスフォーミング増殖因子−β2(TGF−β2)に代表される薬剤を用いることでTGF−βシグナルが障害を生じることを見出し、このような障害が、驚くべきことにカスパーゼ阻害剤によって治療可能であることを見出し、本発明を完成させた。また、本発明者らは、ミトコンドリア異常がカスパーゼ阻害剤により治癒可能であることを見出した。これらにより、本発明は、カスパーゼ阻害剤を、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)および/またはミトコンドリア異常に起因する角膜内皮障害(特に、フックス角膜内皮ジストロフィの角膜内皮障害)の治療または予防に使用することに応用することを見出し、本発明を完成するに至った。フックス角膜内皮ジストロフィ等の角膜内皮障害では、細胞死(特にアポトーシス)の抑制を主なターゲットとして治療または予防が試みられているが、視機能という点では細胞外マトリクス(ECM)(例えば、フィブロネクチン等)の過剰産生が主因とされる濁りにより視機能が良好ではなくなるという点も指摘されている。細胞死と細胞外マトリクスとは独立した事象であるため、両方を抑制することができることは好ましい。本発明では、本発明者らは、カスパーゼを阻害することにより、予想外にフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)の過剰発現を抑制することができることを見出した。これにより、本発明者らは、カスパーゼ阻害剤を、細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮障害(例えば、グッテー、デスメ層の肥厚、角膜混濁、白斑などの濁りの症状など)の改善、治療または予防にも応用可能であることを見出した。さらに、本発明者らは、カスパーゼ阻害剤が、角膜内皮細胞の凍結保存による細胞障害を抑制することも見出した。
したがって、本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルおよびミトコンドリア異常の少なくとも1つに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬。
(項目2)前記症状、障害または疾患はTGF−βシグナルおよびミトコンドリア異常に関連するものである、項目1に記載の医薬。
(項目3)前記ミトコンドリア異常が、ミトコンドリア膜電位低下、ミトコンドリアの形態異常、およびミトコンドリア生合成の低下のうちのいずれか1つまたは複数から選択される、項目1に記載の医薬。
(項目4)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)、および特発性角膜内皮障害からなる群より選択される、項目1に記載の医薬。
(項目5)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、項目1〜4のいずれかに記載の医薬。
(項目6)前記医薬は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける角膜内皮細胞のミトコンドリア膜電位低下を抑制することにより、フックス角膜内皮ジストロフィの進行を防止するものである、項目5に記載の医薬。
(項目7)カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞の保存または保存後の培養のための組成物。
(項目8)前記保存は凍結保存である、項目7に記載の組成物。
(項目9)カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞の増殖を促進するための組成物。
(項目10)p38MAPキナーゼをさらに含む、項目9に記載の組成物。
(項目11)前記カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ−3阻害剤である、項目1〜10のいずれかに記載の医薬または組成物。
(項目11A)前記カスパーゼ阻害剤は、panカスパーゼ阻害剤である、項目1〜11のいずれかに記載の医薬または組成物。
(項目12)前記カスパーゼ阻害剤は、Z−VD−FMK、Z−VAD−FMK、エムリカサンおよびニボカサンからなる群より選択される、項目1〜11または11Aのいずれかに記載の医薬または組成物。
(項目13)前記Z−VD−FMKの濃度は、約3μM〜約100μMである、項目12に記載の医薬または組成物。
(項目14)前記Z−VAD−FMKの濃度は、約3μM〜約30μMである、項目12に記載の医薬または組成物。
(項目15)前記エムリカサンの濃度は、約1μM〜約100μMである、項目12に記載の医薬または組成物。
(項目16)前記ニボカサンの濃度は、約30μM〜約300μMである、項目12に記載の医薬または組成物。
(項目17)前記カスパーゼ阻害剤が水溶性である、項目1〜11、11A、または12〜16のいずれかに記載の医薬または組成物。
(項目18)前記カスパーゼ阻害剤が点眼剤として提供される、項目1〜17に記載の医薬。
別の局面では、本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目X1)カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルおよびミトコンドリア異常の少なくとも1つに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬。
(項目X2)前記症状、障害または疾患はTGF−βシグナルおよびミトコンドリア異常に関連するものである、項目X1に記載の医薬。
(項目X3)前記ミトコンドリア異常が、ミトコンドリア膜電位低下、ミトコンドリアの形態異常、およびミトコンドリア生合成の低下のうちのいずれか1つまたは複数から選択される、項目X1またはX2に記載の医薬。
(項目X4)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)、および特発性角膜内皮障害からなる群より選択される、項目X1〜X3のいずれか1項に記載の医薬。
(項目X5)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、項目X1〜X4のいずれかに記載の医薬。
(項目X6)前記医薬は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける角膜内皮細胞のミトコンドリア膜電位低下を抑制することにより、フックス角膜内皮ジストロフィの進行を防止するものである、項目X1〜X5のいずれか1項に記載の医薬。
(項目X7)前記医薬は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける細胞外マトリクスの過剰産生に起因する症状を治療または予防するものである、項目X5に記載の医薬。
(項目X8)前記症状は、角膜内皮面の疣贅(グッタータ)、デスメ膜の混濁グッテー、デスメ膜の肥厚、霧視、ハロー、グレア、視力低下、角膜混濁、白斑および視感覚の異常からなる群より選択される少なくとも1つを含む、項目X7に記載の医薬。
(項目X9)カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬。
(項目X10)前記症状、障害または疾患は、角膜内皮細胞におけるフィブロネクチンの過剰発現に起因する、項目X9に記載の医薬。
(項目X11)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、グッテーの形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、混濁、瘢痕、角膜片雲、角膜斑、角膜白斑、羞明、および霧視からなる群より選択される項目X7またはX8に記載の医薬。
(項目X12)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、項目X9〜X11のいずれかに記載の医薬。
(項目X13)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける、グッテーの形成およびデスメ膜の肥厚から選択される少なくとも1つを含む、項目X9〜X12のいずれか1項に記載の医薬。
(項目X14)カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナル、ミトコンドリア異常および細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬。
(項目X15)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、その他の角膜内皮ジストロフィ、ならびに、薬物、手術、外傷、感染症、またはぶどう膜炎による角膜内皮障害からなる群より選択される項目X14に記載の医薬。
(項目X16)前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、項目X14またはX15に記載の医薬。
(項目X17)カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞の保存または保存後の培養のための組成物。
(項目X18)前記保存は凍結保存である、項目X17に記載の組成物。
(項目X19)カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞の増殖を促進するための組成物。
(項目X20)p38MAPキナーゼをさらに含む、項目X19に記載の組成物。
(項目X21)前記カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ−3阻害剤である、項目X1〜X20のいずれかに記載の医薬または組成物。
(項目X21A)前記カスパーゼ阻害剤は、panカスパーゼ阻害剤である、項目1〜21のいずれかに記載の医薬または組成物。
(項目X22)前記カスパーゼ阻害剤は、Z−VD−FMK、Z−VAD−FMK、エムリカサンおよびニボカサンからなる群より選択される、項目X1〜X21またはX21Aのいずれかに記載の医薬または組成物。
(項目X23)前記Z−VD−FMKの濃度は、約3μM〜約100μMである、項目X22に記載の医薬または組成物。
(項目X24)前記Z−VAD−FMKの濃度は、約3μM〜約30μMである、項目X22に記載の医薬または組成物。
(項目X25)前記エムリカサンの濃度は、約1μM〜約100μMである、項目X22に記載の医薬または組成物。
(項目X26)前記ニボカサンの濃度は、約30μM〜約300μMである、項目X22に記載の医薬または組成物。
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
本発明は、フックス角膜内皮ジストロフィ等におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する障害または疾患、ならびに/またはミトコンドリア異常に起因する疾患を処置または予防しうる医薬を提供する。また、グッテーまたはデスメ層の肥厚、角膜混濁、白斑などの濁りの症状)などの細胞外マトリクス(例えば、フィブロネクチン)の過剰産生に起因する角膜内皮細障害に起因する疾患を処置または予防しうる医薬も提供する。さらに、本発明は、角膜内皮細胞の保存のための組成物または角膜内皮細胞の増殖を促進するための組成物を提供する。
図1は、UV照射後の角膜内皮細胞の顕微鏡画像およびカスパーゼ3/7活性のグラフを示す。左パネルは、コントロール群、UV照射群、UV照射+エムリカサン添加群、UV照射+Z−VD−FMK添加群、およびUV照射+Z−VAD−FMK添加群の位相差顕微鏡像を示す。右のグラフは、縦軸がUV照射群に対するカスパーゼ3/7活性(%)を示し、横軸は、左から、コントロール、UV照射群、UV照射+エムリカサン添加群(10μM)、UV照射+Z−VD−FMK添加群(10μM)、およびUV照射+Z−VAD−FMK添加群(10μM)を示す。*は統計学的有意(p<0.01)を示す。 図2は、Z−VD−FMK添加群におけるUV照射後の角膜内皮細胞の顕微鏡画像およびウェスタンブロットの結果を示す。左パネルは、コントロール群、UV照射群、UV照射+Z−VAD−FMK添加群(10μM)、およびUV照射+Z−VD−FMK添加群(3、10、20、30、100μM)の位相差顕微鏡像(倍率×200)を示す。UVの強度は100J/mを使用した。右パネルは、上記群の各々のカスパーゼ3、PARPおよびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。 図3は、エムリカサン添加群におけるUV照射後の角膜内皮細胞の顕微鏡画像およびウェスタンブロットの結果を示す。左パネルは、コントロール群、UV照射群、UV照射+Z−VD−FMK添加群(10μM)、およびUV照射+エムリカサン添加群(1、3、10、30、100μM)の位相差顕微鏡(倍率×200)を示す。UVの強度は100J/mを使用した。右パネルは、上記群の各々のカスパーゼ3、PARPおよびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。 図4は、ニボカサン添加群におけるUV照射後の角膜内皮細胞の顕微鏡画像およびウェスタンブロットの結果を示す。左パネルは、コントロール群、UV照射群、UV照射+Z−VD−FMK添加群(10μM)、およびUV照射+ニボカサン添加群(1、3、10、30、100μM)の位相差顕微鏡(倍率×200)を示す。UVの強度は100J/mを使用した。右パネルは、上記群の各々のカスパーゼ3、PARPおよびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。 図5は、培養サル角膜内皮細胞の過酸化水素による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を示す。左パネルは、角膜内皮細胞のコントロール群、H添加群(1000μM)、H+Z−VAD−FMK添加群(10μM)、H+Z−VD−FMK添加群(10μM)、H+エムリカサン添加群(10μM)、およびH+ニボカサン添加群(100μM)の位相差顕微鏡像(倍率×200)を示す。右パネルは、上記群の各々のカスパーゼ3、PARP、GAPDHおよびCHOPのウェスタンブロットの結果を示す。 図6は、培養サル角膜内皮細胞のMG132による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を示す。左パネルは、角膜内皮細胞のコントロール群、MG132添加群(10μM)、MG132+Z−VAD−FMK添加群(10μM)、MG132+Z−VD−FMK添加群(10μM)、MG132+エムリカサン添加群(10μM)、およびMG132+ニボカサン添加群(100μM)の位相差顕微鏡像(倍率×200)を示す。右パネルは、上記群の各々のカスパーゼ3、PARP、GAPDHおよびCHOPのウェスタンブロットの結果を示す。 図7は、培養サル角膜内皮細胞のタプシガルギン(TG)による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を示す。左パネルは、角膜内皮細胞のコントロール群、TG添加群(10μM)、TG+Z−VAD−FMK添加群(10μM)、およびTG+エムリカサン添加群(10μM)の位相差顕微鏡像(倍率×200)を示す。右パネルは、上記群の各々のカスパーゼ3、PARP、GAPDHおよびCHOPのウェスタンブロットの結果を示す。 図8は、培養サル角膜内皮細胞のCCCPによる細胞障害対するカスパーゼ阻害剤の効果を示す。コントロール群、CCCP添加群(50μM)、CCCP+Z−VAD−FMK添加群(10μM)、CCCP+Z−VD−FMK添加群(10μM)、およびCCCP+エムリカサン添加群(10μM)のカスパーゼ3、PARP、およびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。 図9は、UV照射されたウサギ角膜内皮細胞におけるAnnexin Vの蛍光観察を示す。左パネルは、コントロール群、UV照射群(250J/m)、UV+Z−VD−FMK添加群(10μM)、UV+Z−VAD−FMK添加群(10μM)、UV+エムリカサン添加群(10μM)、UV+ニボカサン添加群(100μM)の共焦点顕微鏡像を示す。右のグラフは、縦軸は、Annexin V陽性細胞(%)を示し、横軸は、左から、コントロール群、UV照射群、UV+Z−VD−FMK添加群、UV+Z−VAD−FMK添加群、UV+エムリカサン添加群およびUV+ニボカサン添加群を示す。*は統計学的有意(p<0.01)を示す。 図10は、UV照射されたウサギ角膜内皮細胞の機能障害および形態異常の観察を示す。上段はN−カドヘリン、中段はZO−1、下段はphalloidinの蛍光を示している。画像は、左から、角膜内皮細胞のコントロール群、UV照射群(250J/m)、UV+Z−VD−FMK添加群、UV+Z−VAD−FMK添加群、およびUV+エムリカサン添加群を示す。 図11は、不死化フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来細胞(iFECD)のTGF−β2による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を示す。画像は、それぞれiFECDのコントロール群、TGF−β2添加群(10ng/mL)、TGF−β2+SB431542添加群(10μM)、TGF−β2+Z−VD−FMK添加群(10μM)、TGF−β2+Z−VAD−FMK添加群(10μM)、およびTGF−β2+エムリカサン添加群(10μM)を示す。倍率は100倍を使用した。 図12は、TGF−β2に誘導されるプログラム細胞死を測定するためのフローサイトメトリーの結果を示す。それぞれ、コントロール群、TGF−β2添加群、TGF−β2+SB431542添加群(10μM)、TGF−β2+Z−VD−FMK添加群(10μM)、およびTGF−β2+エムリカサン添加群(10μM)のフローサイトメトリーの結果を示す。 図13は、フローサイトメトリーにより測定されたAnnexin V陽性細胞率のグラフを示す。縦軸は、図12のQ1−LRの値(割合)をAnnexin V陽性細胞率(%)としてを示し、横軸は、左から、コントロール群、TGF−β2添加群、TGF−β2+SB431542添加群、TGF−β2+Z−VD−FMK添加群、およびTGF−β2+エムリカサン添加群を示す。平均±SE、n=3としてデータを示し、Dunnet検定を使用してp値を計算した。**は統計学的有意(p<0.01)を示す。 図14は、フックス角膜内皮ジストロフィ疾患細胞モデルにおけるTGF−β2による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を示す。カスパーゼ3、PARPおよびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。左から、コントロール群、TGF−β2添加群、TGF−β2+SB431542添加群(10μM)、TGF−β2+Z−VAD−FMK添加群(10μM)、TGF−β2+Z−VD−FMK添加群(10μM)、およびTGF−β2+エムリカサン添加群(10μM)を示す。 図15は、ウサギ角膜を用いたカスパーゼ阻害剤の角膜保存に対する効果を示す。左パネル上段はN−カドヘリン、中段はZO−1、下段はPhalloidinの蛍光画像を示し、左列はコントロール群、右列はエムリカサン添加群(10μM)を示す。右のグラフは、縦軸が、アクチンの収縮環の形成を認める細胞の割合(%)を示し、左がコントロール群、右がエムリカサン添加群を示す。*は統計学的有意(p<0.01)を示す。 図16は、種々の凍結保存液の使用による細胞生存率の測定を示す。左のグラフは、トリパンブルー陰性細胞(%)を示す。右のグラフは、CellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assayにより測定された細胞生存率(%)を示す。各グラフにおいて、左から、CELL BANKER PLUS、CELL BANKER 2、STEM−CELLBANKER、KM BANKER、CnT−CRYO、OptiMEM+10%FBS+10%DMSO、および凍結保存を行っていないコントロール群を示す。 図17は、各種凍結保存液における角膜内皮細胞の凍結後の細胞生着を観察した位相差顕微鏡像を示す。上段は、Y27632非存在下で培養した角膜内皮細胞の位相差顕微鏡像であり、下段は、Y27632存在下で培養した角膜内皮細胞の位相差顕微鏡像である。左から、使用した保存液、CELL BANKER PLUS、CELL BANKER 2、STEM−CELLBANKER、KM BANKER、CnT−CRYO、およびOptiMEM+10%FBS+10%DMSOを示す。 図18は、各種凍結保存液における角膜内皮細胞の凍結後の細胞数のグラフを示す。縦軸は、細胞数(個)を示し、左から、CELL BANKER PLUS、CELL BANKER 2、STEM−CELLBANKER、KM BANKER、CnT−CRYO、OptiMEM+10%FBS+10%DMSOおよび凍結保存を経ていない継代培養細胞ご確認ください。を示す。 図19は、角膜内皮凍結保存後の角膜内皮細胞のZ−VD−FMKのカスパーゼ阻害による効果を示す。左の画像が、カスパーゼ阻害剤を添加せずにDMSOを添加したコントロール(培地としてKM BANKERを使用)の角膜内皮細胞を示し、右の画像が、Z−VD−FMK添加した場合の角膜内皮細胞を示している。 図20は、Z−VD−FMKによる角膜内皮凍結保存における細胞障害の減少を示す。左のグラフが、凍結から常温に回復した直後の細胞生存率(%)を示し、左が凍結保存液にZ−VD−FMKを添加していないFreeze control、右が凍結保存液にZ−VD−FMKを添加しているFreeze+Z−VD−FMKを示している。右のグラフは、細胞を解凍してからDMSOまたはZ−VD−FMKを添加して24時間後の細胞数を示す。左側4つがSB203580を添加していない群であり、右側4つがSB203580を添加している群である。左からFreeze controlのDMSO添加群、Freeze controlのZ−VD−FMK添加群、Freeze+Z−VD−FMKのDMSO添加群、およびFreeze+Z−VD−FMKのZ−VD−FMK添加群を示している。 図21は、Z−VD−FMKが複数の保存溶媒への添加における凍結後の細胞培養を促進することを示す。左から、凍結保存液として、培地にDMSOを添加したもの、Cell Banker、およびKM Banker使用した群を示し、各群中、左から凍結保存後の添加なし(DMSO群)、Y27632添加(5μM)、およびZ−VD−FMK添加(5μM)したデータを示す。縦軸は、DMSO群の細胞数に対する倍数変化を示す。 図22は、不死化フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来細胞(iFECD)におけるTGF−β2によるフィブロネクチンの過剰発現に対するカスパーゼ阻害剤の抑制効果を示す。 図23は、不死化フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来細胞(iFECD)における、フィブロネクチン、p−Smad2、Smad2およびGAPDHについてのウェスタンブロットの結果を示す。 図24は、視力と角膜内皮細胞およびECM沈着との関係の概略図を示す。角膜内皮細胞およびECM沈着が増加するにつれて視力が低下することが示される。ECM沈着によるグッテーまたはデスメ層の肥厚は、フックス角膜内皮ジストロフィ患者において一般的には30代から40代に生じ始め、生涯を通じて進行する。進行により霧視、ハロー、グレア、視力低下などの視力障害を生じる。また同時に角膜内皮細胞死が進行するが角膜内皮細胞密度が約1000個/mmを下回るまではポンプ機能を残された角膜内皮が代償することで角膜の透明性は維持される。一方で、約1000個/mmを下回ると角膜に前房水が進入することで角膜浮腫をきたし、重篤な視力障害を生じる。本技術はECM沈着および角膜内皮細胞死の双方を抑制することで、視機能を維持することができるものである。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(定義)
本明細書において「カスパーゼ」とは、システインを活性中心に持ち、アスパラギン酸のC末端側でペプチド結合を加水分解するエンドペプチダーゼの総称である。カスパーゼは、サイトカイン(インターロイキン1β等)のプロセッシングに機能しており、プログラム細胞死の実行や炎症反応に関与していることが知られている。すべてのカスパーゼは酵素前駆体として翻訳され、活性化は自分自身、または他のカスパーゼによる分解によって活性化され、カスケードの形式で機能する。カスパーゼは、発見された順に番号が付けられており、現在に至るまで哺乳類においてカスパーゼ1からカスパーゼ14までが知られている。ヒトの細胞においては10種類程度発見されている。例えば、カスパーゼ1はサイトカインのプロセシングによる炎症誘導に機能し、カスパーゼ3はプログラム細胞死の実行に直接関与し、カスパーゼ8はカスケードの上流に位置しプログラム細胞死のシグナル伝達を担っている。
本明細書において、「カスパーゼ阻害剤」とは、任意のカスパーゼのシグナル伝達を阻害する任意の薬剤をいう。したがって、カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼファミリーのうちのいずれか1つまたは複数を阻害することができる化合物である。カスパーゼ阻害剤は、水溶性のものが好ましい。水溶性でなければ、溶媒として身体に適合しにくいものを使用することが必要となりうるからである。水溶性かどうかについては薬局方の溶解度の定義に基づき分類されうる。すなわち、溶質1gまたは1mLを溶かすのに要する溶媒量として、極めて溶けやすい:1mL未満;溶けやすい:1mL以上10mL未満;やや溶けやすい:10mL以上30mL未満;やや溶けにくい:30mL以上100mL未満;溶けにくい:100mL以上1000mL未満;極めて溶けにくい:1000mL以上10000mL未満;ほとんど溶けない:10000mL以上と定義されており、本明細書においても同様に評価する。水溶性とは、水を溶媒としたときに、これらのうち有効量を溶解させるものであれば、任意の溶解性のものを利用することができることが理解される。このような水溶性の成分であれば、点眼剤としても有利に使用される。
本発明において使用され得るカスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ阻害活性を有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、特開2012−036150号公報、特開2007−308501号公報、特開2005−089324号公報、特開2002−338474号公報、特開2001−302516号公報、特表2009−542689号公報、国際公開第2006/054757号などに記載された化合物が挙げられ、この他にもZ−VAD−FMK(汎([pan]カスパーゼ阻害剤)、Z−VD−FMK(カスパーゼ1,3,6,7,8および9阻害剤であって実質的に汎カスパーゼ阻害剤である)、Emricasan(エムリカサン)(全カスパーゼ阻害剤)、Nivocasan(ニボカサン)(カスパーゼ1,3,7および9阻害剤であって実質的に汎カスパーゼ阻害剤である)Z−YVAD−FMK(カスパーゼ1阻害剤)、Z−VDVAD−FMK(カスパーゼ2阻害剤)、Z−DEVD−FMK(カスパーゼ3阻害剤)、Z−LEVD−FMK(カスパーゼ4阻害剤)、Z−WEHD−FMK(カスパーゼ5阻害剤)、Z−VEID−FMK(カスパーゼ6阻害剤)、Z−IETD−FMK(カスパーゼ8阻害剤)、Z−LEHD−FMK(カスパーゼ9阻害剤)、Z−AEVD−FMK(カスパーゼ10阻害剤)、Z−LEED−FMK(カスパーゼ13阻害剤)が挙げられるがこれらに限定されない。
好ましいカスパーゼ阻害剤としては、エムリカサンが挙げられるが、これに限定されない。別の好ましいカスパーゼ阻害剤としては、Z−VAD−FMK、Z−VD−FMK、ニボカサンが例示されるがこれらに限定されない。カスパーゼ阻害剤は、全カスパーゼを阻害することができるのが好ましいが、選択的なカスパーゼ阻害剤であってもよい。選択的なカスパーゼ阻害剤とは、カスパーゼファミリーのうちの1つのカスパーゼを阻害するか、複数のカスパーゼを阻害するカスパーゼ阻害剤をいう。理論に束縛されることを望まないが、カスパーゼ3はプログラム細胞死に直接的に関与されているとされているため、カスパーゼ3を阻害するものが直接的かつ効果的であるが、カスパーゼカスケードにおける上流のカスパーゼ(例えば、カスパーゼ2、8、9、10等)を阻害することにより間接的にカスパーゼ3を阻害するものでもよい。あるいは、カスパーゼ3と同様にプログラム細胞死の実行因子とされているカスパーゼ6やカスパーゼ7を阻害するものでもよいし、カスパーゼカスケードにおける上流のカスパーゼを阻害することにより間接的にカスパーゼ6またはカスパーゼ7を阻害するものでもよい。好ましくは、使用されるカスパーゼ阻害剤は「汎(pan)カスパーゼ阻害剤」であることが有利である。一方で、プログラム細胞死の直接的な因子ではないが、プログラム細胞死のシグナル伝達に重要な分子とされているカスパーゼ8を阻害するカスパーゼ阻害剤を直接または間接的に阻害するカスパーゼ阻害剤であってもよい。
このほかの、本発明で用いることができるカスパーゼ阻害剤としては、例えば、カスパーゼに対する中和抗体、カスパーゼの活性を阻害する化合物、カスパーゼをコードする遺伝子の転写を阻害する化合物(例えば、アンチセンス核酸、RNAi、リボザイム)、ペプチド、および植物成分等の化合物が挙げられる。使用される濃度として、約50nmol/l〜100μmol/lが例示され、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lであるがこれらに限定されない。
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用により、カスパーゼのシグナル伝達経路のメンバー等をコードする遺伝子(核酸)の発現および/または機能を阻害してもよい。一つの実施形態としては、上述のカスパーゼ等をコードする遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、上述のカスパーゼ等をコードする遺伝子の翻訳領域だけでなく、非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで所望の動物(細胞)に形質転換することができる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物(細胞)が有するカスパーゼ等をコードする遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に阻害するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも12塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は必ずしもこの長さに限定されず、例えば、11塩基以下、100塩基以上、または500塩基以上であってもよい。アンチセンス核酸は、DNAのみから構成されていてもよいが、DNA以外の核酸、例えば、ロックド核酸(LNA)を含んでいてもよい。1つの実施形態としては、本発明で用いられるアンチセンス核酸は、5’末端にLNA、3’末端にLNAを含むLNA含有アンチセンス核酸であってもよい。また、本発明において、アンチセンス核酸を用いる実施形態では、例えば平島および井上,新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現,日本生化学会編,東京化学同人,1993,319-347.に記載される方法を用いて、カスパーゼ等の核酸配列に基づき、アンチセンス配列を設計することができる。
カスパーゼ等の発現の阻害は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.)。
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3’側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al.,FEBS Lett, 1988, 228,228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.、 Koizumi,M. et al., Nucl. Acids Res., 1989,17, 7059.)。
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えば、タバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan,JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi,Y. & Sasaki,N., Nucl. Acids Res,1991, 19, 6751.、菊池洋,化学と生物, 1992, 30,112.)。このように、リボザイムを用いてカスパーゼ等をコードする遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻害することができる。
カスパーゼ等の内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interference、以下「RNAi」と略称する)によっても行うことができる。RNAiは、2本鎖RNA(dsRNA)が直接細胞内に取り込まれると、このdsRNAと相同な配列を持つ遺伝子の発現が抑えられ現在注目を浴びている手法である。哺乳類細胞においては、短鎖dsRNA(siRNA)を用いることにより、RNAiを誘導する事が可能で、RNAiは、ノックアウトマウスと比較して、効果が安定、実験が容易、費用が安価であるなど、多くの利点を有している。siRNAについては、本明細書において他の箇所において詳述される。
本明細書において、「siRNA」とは、15〜40塩基からなる二本鎖RNA部分を有するRNA分子であり、前記siRNAのアンチセンス鎖と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。詳細には、本発明におけるsiRNAは、カスパーゼ等のmRNA中の連続したRNA配列と相同な配列からなるセンスRNA鎖と、該センスRNA配列に相補的な配列からなるアンチセンスRNA鎖とからなる二本鎖RNA部分を含むRNAである。かかるsiRNAおよび後述の変異体siRNAの設計および製造は当業者の技量の範囲内である。カスパーゼ等の配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。また、一方の鎖が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。siRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。
二本鎖RNA部分の長さは、塩基として、15〜40塩基、好ましくは15〜30塩基、より好ましくは15〜25塩基、更に好ましくは18〜23塩基、最も好ましくは19〜21塩基である。これらの上限および下限は、これら特定のものに限定されず、これら列挙されているものの任意の組み合わせであってもよいことが理解される。siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の末端構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよく、3’端が突き出したタイプが好ましい。センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖の3’末端に数個の塩基、好ましくは1〜3個の塩基、さらに好ましくは2個の塩基からなるオーバーハングを有するsiRNAは、標的遺伝子の発現を抑制する効果が大きい場合が多く、好ましいものである。オーバーハングの塩基の種類は特に制限はなく、RNAを構成する塩基あるいはDNAを構成する塩基のいずれであってもよい。好ましいオーバーハング配列としては、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)等を挙げることができる。例えば、好ましいsiRNAとしては、全てのsiRNAのセンス・アンチセンス鎖の、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)をつけているものが挙げられるがそれに限定されない。
さらに、上記siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の一方または両方において1〜数個までのヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されているsiRNAも用いることができる。ここで、1〜数塩基とは、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜4塩基、さらに好ましくは1〜3塩基、最も好ましくは1〜2塩基である。かかる変異の具体例としては、3’オーバーハング部分の塩基数を0〜3個としたもの、3’−オーバーハング部分の塩基配列を他の塩基配列に変更したもの、あるいは塩基の挿入、付加または欠失により上記センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖の長さが1〜3塩基異なるもの、センス鎖および/またはアンチセンス鎖において塩基が別の塩基にて置換されているもの等が挙げられるが、これらに限定されない。ただし、これらの変異体siRNAにおいてセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイゼーションしうること、ならびにこれらの変異体siRNAが変異を有しないsiRNAと同等の遺伝子発現抑制能を有することが必要である。
さらに、siRNAは、一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(Short Hairpin RNA;shRNA)であってもよい。shRNAは、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖RNA、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖RNA、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含むRNAであり、センス鎖部分とアンチセンス鎖部分がハイブリダイズし、二本鎖RNA部分を形成する。
siRNAは、臨床使用の際には、いわゆるoff−target効果を示さないことが望ましい。off−target効果とは、標的遺伝子以外に、使用したsiRNAに部分的にホモロジーのある別の遺伝子の発現を抑制する作用をいう。off−target効果を避けるために、候補siRNAについて、予めDNAマイクロアレイなどを利用して交差反応がないことを確認することが可能である。また、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などが提供する公知のデータベースを用いて、標的となる遺伝子以外に候補siRNAの配列と相同性が高い部分を含む遺伝子が存在しないかを確認する事によって、off−target効果を避けることが可能である。
本発明のsiRNAを作製するには、化学合成による方法および遺伝子組換え技術を用いる方法等、公知の方法を適宜用いることができる。合成による方法では、配列情報に基づき、常法により二本鎖RNAを合成することができる。また、遺伝子組換え技術を用いる方法では、センス鎖配列やアンチセンス鎖配列をコードする発現ベクターを構築し、該ベクターを宿主細胞に導入後、転写により生成されたセンス鎖RNAやアンチセンス鎖RNAをそれぞれ取得することによって作製することもできる。また、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含み、ヘアピン構造を形成するshRNAを発現させることにより、所望の二本鎖RNAを作製することもできる。
siRNAは、標的遺伝子の発現抑制活性を有する限りにおいては、siRNAを構成する核酸の全体またはその一部は、天然の核酸であってもよいし、修飾された核酸であってもよい。
本発明におけるsiRNAは、必ずしも標的配列に対する一組の2本鎖RNAである必要はなく、標的配列を含んだ領域に対する複数組(この「複数」とは特に制限されないが、好ましくは2〜5個程度の少数を指す。)の2本鎖RNAの混合物であってもよい。ここで標的配列に対応した核酸混合物としてのsiRNAは、当業者においては市販の核酸合成機およびDICER酵素を用いて適宜作製することが可能であり、また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。なお、本発明のsiRNAには、所謂「カクテルsiRNA」が含まれる。また、本発明におけるsiRNAは、必ずしも全てのヌクレオチドがリボヌクレオチド(RNA)でなくともよい。即ち、本発明において、siRNAを構成する1もしくは複数のリボヌクレオチドは、対応するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。この「対応する」とは、糖部分の構造は異なるものの、同一の塩基種(アデニン、グアニン、シトシン、チミン(ウラシル))であることを指す。例えば、アデニンを有するリボヌクレオチドに対応するデオキシリボヌクレオチドとは、アデニンを有するデオキシリボヌクレオチドのことをいう。
さらに、本発明の上記RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、カスパーゼ等の発現を抑制し得る核酸の好ましい実施形態に含まれる。例えば、本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、目的のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
本発明において標的遺伝子の発現を抑制する核酸には、修飾された核酸を用いてもよい。修飾された核酸とは、ヌクレオシド(塩基部位、糖部位)および/またはヌクレオシド間結合部位に修飾が施されていて、天然の核酸と異なった構造を有するものを意味する。修飾された核酸を構成する「修飾されたヌクレオシド」としては、例えば、無塩基(abasic)ヌクレオシド;アラビノヌクレオシド、2’−デオキシウリジン、α−デオキシリボヌクレオシド、β−L−デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシド;ペプチド核酸(PNA)、ホスフェート基が結合したペプチド核酸(PHONA)、ロックド核酸(LNA)、モルホリノ核酸等が挙げられる。上記糖修飾を有するヌクレオシドには、2’−O−メチルリボース、2’−デオキシ−2’−フルオロリボース、3’−O−メチルリボース等の置換五単糖;1’,2’−デオキシリボース;アラビノース;置換アラビノース糖;六単糖およびアルファ−アノマーの糖修飾を有するヌクレオシドが含まれる。これらのヌクレオシドは塩基部位が修飾された修飾塩基であってもよい。このような修飾塩基には、例えば、5−ヒドロキシシトシン、5−フルオロウラシル、4−チオウラシル等のピリミジン;6−メチルアデニン、6−チオグアノシン等のプリン;および他の複素環塩基等が挙げられる。
修飾された核酸を構成する「修飾されたヌクレオシド間結合」としては、例えば、アルキルリンカー、グリセリルリンカー、アミノリンカー、ポリ(エチレングリコール)結合、メチルホスホネートヌクレオシド間結合;メチルホスホノチオエート、ホスホトリエステル、ホスホチオトリエステル、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、トリエステルプロドラッグ、スルホン、スルホンアミド、サルファメート、ホルムアセタール、N−メチルヒドロキシルアミン、カルボネート、カルバメート、モルホリノ、ボラノホスホネート、ホスホルアミデートなどの非天然ヌクレオシド間結合が挙げられる。
本発明の二本鎖siRNAに含まれる核酸配列としては、カスパーゼまたは他のカスパーゼのシグナル伝達のメンバーに対するsiRNAなどを挙げることができる。
また、本発明の核酸または薬剤をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAまたはshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入することができる。そして、得られる細胞を例えば、静脈内、動脈内等に全身投与する。眼の必要な部位等に局所的に投与することもできる。siRNAはin vitroにおいては非常に優れた特異的転写後抑制効果を示すが、in vivoにおいては血清中のヌクレアーゼ活性により速やかに分解されてしまうため持続時間が限られるためより最適で効果的なデリバリーシステム開発が求められてきた。一つの例としては、Ochiya,T et al.,Nature Med.,5:707-710,1999、Curr.Gene Ther.,1 :31-52,2001より生体親和性材料であるアテロコラーゲンが核酸と
混合し複合体を形成させると、生体中の分解酵素から核酸を保護する作用がありsiRNAのキャリアーとして非常に適しているキャリアーであると報告されており、このような形態を利用することができるが、本発明の核酸、治療または予防薬の導入の方法はこれには限られない。このようにして、生体内においては血清中の核酸分解酵素の働きにより、速やかに分解されてしまうため長時間の効果の継続を達成することができる。例えば、Takeshita F. PNAS.(2003) 102(34) 12177-82、Minakuchi Y Nucleic Acids Reserch(2004) 32(13) e109では、牛皮膚由来のアテロコラーゲンが核酸と複合体を形成し、生体内の分解酵素から核酸を保護する作用があり、siRNAのキャリアーとして非常に適していると報告されており、このような技術を用いることができる。
本明細書において「iFECD」(immobilized Fuchs’ endothelial corneal dystrophy)は、フックス角膜内皮ジストロフィの不死化細胞の略称である。
本明細書において「iFECD」(immobilized Fuchs’ endothelial corneal dystrophy)は、フックス角膜内皮ジストロフィの不死化細胞の略称である。 本明細書において「HCEC」(human corneal endothelial cells)とは、ヒト角膜内皮細胞の略称である。「iHCEC」は、不死化(immobilized)ヒト角膜内皮細胞の略称である。
本明細書において、「プログラム細胞死」とは、あらかじめプログラムされているかのように決まった時期や環境で自発的に細胞が死ぬ現象を指す。プログラム細胞死は、例えば「アポトーシス」を含む意味で使用される。
本明細書において「トランスフォーミング増殖因子−β(トランスフォーミング成長因子−β;略称TGF−βとも表示される)」とは、当該分野で用いられるものと同様の意味で用いられ、様々な硬化性疾患や、関節リウマチ、増殖性硝子体網膜症の病態形成を担い、脱毛に深く関与し、免疫担当細胞の働きを抑制する一方、プロテアーゼの過剰産生を抑制することによって肺組織が分解され肺気腫に陥るのを防ぎ、癌細胞の増殖を抑制するなど、多彩な生物活性を示す分子量25kDのホモダイマー多機能性サイトカインである。「TGF−βシグナル」とは、TGF−βによって媒介されるシグナルであって、TGF−βによって惹起されるものをいう。TGF−βシグナル例えば、TGF−β2によって媒介されるシグナルが含まれ、このほか、TGF−β1、TGF−β3等によって媒介されるシグナルも例示される。TGF−βについて、ヒトでは、TGF−β1〜β3までの相同性約70%の3つのアイソフォームが存在し、その作用は類似している。TGF−βはレセプターに結合できない分子量約300kDの不活性な潜在型として産生され、標的細胞表面やその周囲において活性化されてレセプターに結合できる活性型となり、その作用を発揮する。
理論に束縛されることを望まないが、標的細胞におけるTGF−βの作用はSmadという情報伝達を担う一連のタンパク質のリン酸化経路によって伝達されるとされている。まず、活性型TGF−βが標的細胞表面に存在するII型TGF−βレセプターに結合すると、II型レセプター2分子とI型TGF−βレセプター2分子からなるレセプター複合体が形成され、II型レセプターがI型レセプターをリン酸化する。次に、リン酸化I型レセプターは、Smad2またはSmad3をリン酸化すると、リン酸化されたSmad2およびSmad3はSmad4と複合体を形成して核に移行し、標的遺伝子プロモーター領域に存在するCAGA boxと呼ばれる標的配列に結合し、コアクチベーターとともに標的遺伝子の転写発現を誘導するとされている。
トランスフォーミング(形質転換)増殖因子−β(TGF−β)シグナル伝達経路は、その標的遺伝子の調節によって、細胞増殖および分化、増殖停止、プログラム細胞死、ならびに上皮間充織分化転換(EMT;上皮間葉転換ともいう)といったような、多くの細胞活性を調節することができる。TGF−β自体(例えば、TGF−β1、TGF−β2およびTGF−β3)、アクチビンおよび骨形成タンパク質(BMP)が含まれる、TGF−βファミリーのメンバーは、細胞増殖、分化、移動およびプログラム細胞死等の強力な調節剤である。
TGF−βは、Bリンパ球、Tリンパ球および活性化マクロファージを含め、多くの細胞により、および多くの他の細胞型により産生される、約24Kdのタンパク質である。免疫系に対するTGF−βの効果の中には、IL−2レセプター誘導、IL−1誘発性胸腺細胞増殖の阻害、およびIFN−γ誘発性マクロファージ活性化の遮断がある。TGF−βは、様々な病的状態に関与すると考えられており(Border et al.(1992)J.Clin.Invest.90:1)、そして腫瘍抑制物質または腫瘍プロモーターのいずれかとして機能することが十分裏付けられている。
TGF−βは、2つのセリン/スレオニンキナーゼ細胞表面レセプターであるTGF−βRIIおよびALK5によって、そのシグナル伝達を媒介する。TGF−βシグナル伝達は、TGF−βRIIがALK5レセプターをリン酸化するのを可能とする、リガンド誘発性レセプター二量体化で開始される。そのリン酸化は、ALK5キナーゼ活性を活性化して、活性化ALK5は次に、下流エフェクターSmadタンパク質(MADの脊椎動物相同体、または「Mothers against DPP(デカペンタプレジック)」タンパク質)、Smad2または3をリン酸化する。Smad4とのp−Smad2/3複合体は、核に入って、標的遺伝子の転写を活性化する。
Smad3は、SmadのR−Smad(レセプター−活性化Smad)サブグループのメンバーであって、TGF−βレセプターによる転写活性化の直接メディエーターである。TGF−β刺激は、Smad2およびSmad3のリン酸化および活性化をもたらし、これらは、Smad4(脊椎動物における「共通(common)Smad」または「co−Smad」)と複合体を形成し、これが核と共に蓄積して、標的遺伝子の転写を調節する。R−Smadは、細胞質に局在し、そしてTGF−βレセプターによるリガンド誘発性リン酸化で、co−Smadと複合体を形成して、核へと移動し、ここで、それらは、クロマチンおよび協同転写因子と関連のある遺伝子発現を調節する。Smad6およびSmad7は阻害性Smad(「I−Smad」)であり、すなわち、TGF−βにより転写的に誘発されて、TGF−βシグナル伝達の阻害剤として機能する(Feng et al.(2005)Annu.Rev.Cell.Dev.Biol.21:659)。Smad6/7は、R−Smadのレセプター媒介活性化を妨げることにより、それらの阻害効果を発揮する;それらは、R−Smadの動員およびリン酸化を競合的に妨げる、I型レセプターと関連する。Smad6およびSmad7は、Smad6/7相互作用タンパク質のユビキチン化および分解をもたらす、E3ユビキチンリガーゼを補充することが知られている。
TGF−βシグナル伝達経路は、このほか、BMP−7などによって伝達される経路も存在し、これは、ALK−1/2/3/6を経由し、Smad1/5/8を介して機能が発現されるとされている。TGF−βシグナル伝達経路については、J. Massagu’e, Annu. Rev. Biochem. 1998. 67: 753-91;Vilar JMG, Jansen R, Sander C (2006) PLoS Comput Biol 2(1):e3; Leask, A., Abraham, D. J. FASEB J.18, 816-827 (2004); Coert Margadant & Arnoud Sonnenberg EMBO reports (2010)11, 97-105; Joel Rosenbloom et al., Ann Intern Med. 2010; 152: 159-166等を参照のこと。
本明細書において「トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患」とは、角膜内皮細胞におけるTGF−βに誘導される任意の角膜内皮の症状、障害または疾患を指す。本発明では、角膜内皮細胞、例えば、フックス角膜内皮ジストロフィのモデル細胞(例えば、iFECD)を、TGF−β2に曝露したところ、驚くべきことに種々の障害(例えば、プログラム細胞死)が生じた。このような現象は従来よく解明されていなかった現象である。そして、本発明者らは、このTGF−βシグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患をさらに分析したところ、予想外にも、カスパーゼ阻害剤によって、この障害を抑制することができることを見出した。TGF−βシグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患はカスパーゼのシグナル伝達経路とは異なるものであり、また、使用したカスパーゼ阻害剤はTGF−βのシグナル伝達経路を抑制しているものではないことから、これまでに未解明の疾患・障害の発露の経路およびその治療または予防の態様を見出すことができたといえる。したがって、本発明は、角膜内皮について新たな治療/予防技術を提供するものと位置付けることができると考えられる。TGF−βシグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患としては、例えば、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術後の障害、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD:posterior polymorphous dystrophy)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED:congenital hereditary endothelial dystrophy)、および特発性角膜内皮障害等において、TGF−βの発現がみられるものを挙げることができるがそれらに限定されない。特にTGF−β2の発現が通常より亢進している角膜内皮細胞または角膜内皮組織では、本発明で見出された障害またはそれに関連する障害が発現または亢進していると考えられることから、そのような角膜内皮細胞または角膜内皮組織がみられる任意の角膜内皮の症状、障害または疾患は、特に本発明の対象として意図される。
本明細書において「ミトコンドリア異常に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患」は、ミトコンドリア異常に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患をいう。ミトコンドリア異常に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患としては、例えば、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術後の障害、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD:posterior polymorphous dystrophy)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED:congenital hereditary endothelial dystrophy)、および特発性角膜内皮障害において、ミトコンドリア異常がみられる任意のものを挙げることができるがそれらに限定されない。
本明細書において「角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現」とは、正常な角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの発現レベルと比べて、異常なレベルで細胞外マトリックスを発現することをいう。「異常なレベルで細胞外マトリックスを発現する」とは、フィブロネクチン等の細胞外マトリクスタンパク質が、正常形態における細胞外マトリクスにおいて産生されている量よりも多く産生されていることをいう。産生状況は刺激なしのものに加え、必要に応じてトランスフォーミング増殖因子(TGF)βに対する応答により発現量が増加することも含む。たとえば、ヒト角膜内皮細胞についていえば、正常における細胞外マトリクスの量の約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.3倍以上、約1.4倍以上、約1.5倍以上、約1.6倍以上、約1.7倍以上、約1.8倍以上、約1.9倍以上、約2.0倍以上でありうる。正常に対する相違は統計学的に有意であることが好ましいが必ずしも有意でなくともよく、医学的に有意な相違であればよい。
本明細書において、「細胞外マトリクス(ECM)の過剰産生に起因する角膜内皮障害」またはその「症状」とは、主に細胞外マトリクスに起因する濁りや沈着、肥厚等に関連する障害またはその症状であり、角膜内皮面の疣贅(グッタータ)や、デスメ膜の混濁グッテー等の、デスメ膜の肥厚等が生じ、視力低下の原因となる症状に関連するものである。フックス角膜ジストロフィなどの角膜内皮障害においては、角膜内皮細胞の細胞死(特にアポトーシス)が原因による症状悪化とは異なり、この細胞外マトリクスの過剰産生は細胞数の減少が起こらなかったとしても視力、視感覚を悪化させるものであり、細胞死を抑制できたとしても取り組まなければならない点である。本発明では、「混濁」又は「沈着」に起因する角膜内皮障害の原因をカスパーゼ阻害剤が抑制することができることが判明したといえ、このことは、本発明が、「細胞外マトリクス(ECM)の過剰産生に起因する角膜内皮障害」および関連する症状を改善、治療または予防することができることを支持するものといえる。「細胞外マトリクス(ECM)の過剰産生に起因する角膜内皮障害」またはその「症状」には以下:混濁、瘢痕、角膜片雲、角膜斑、角膜白斑などを挙げることができるが、これらに限定されない。
好ましい実施形態では、本発明が対象とする症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィに関する障害である。フックス角膜内皮ジストロフィに関しては、角膜内皮細胞におけるTGF−β誘導が関与していることが示されており、FECDにおける細胞喪失に関与し得ることも示されている。したがって、TGF−βシグナル伝達経路の阻害は、FECDの有効な治療になり得ることが当然予想される。しかしながら、本発明者らは、予想外にも、カスパーゼ阻害剤が、TGF−βシグナルに起因する障害を抑制できることを見出した。
本発明の医薬は、フックス角膜内皮ジストロフィの中でもひとつの重要な異常または障害の原因となるTGF−β2に誘導される細胞障害等を処置しうることから、フックス角膜内皮ジストロフィの治療または予防に有用であることが理解される。特に、本発明では実施例において、フックス角膜内皮ジストロフィモデルにおいてTGF−β2に誘導される細胞障害あるいはプログラム細胞死を抑制することができたことから本発明は、フックス角膜内皮ジストロフィモデルにおけるTGF−β2に関連する重症患者の治療に使用することができると考えられる。また、本発明の医薬は、予想外にも細胞外マトリックス(ECM)の過剰発現を抑制することが可能であり、ECMのデスメ層への沈着などの角膜内皮における障害等を処置または予防し得る。したがって、本発明は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける角膜内皮細胞の障害や、角膜内皮密度低下、グッテー(guttae)の形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、角膜上皮障害、混濁、瘢痕、角膜実質混濁、羞明、霧視、視力障害、眼痛、流涙、充血、疼痛、水疱性角膜症、眼の不快感、コントラスト低下、ハロー、グレアおよび角膜実質の浮腫などを処置しまたは予防し得る。
具体的な実施形態では、本発明はまた、ミトコンドリア異常、例えば、ミトコンドリア膜電位低下、ミトコンドリアの形態異常、ミトコンドリア生合成の低下等を抑制することができる。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience; Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience; Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press; Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates; Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates; Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press; Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates; Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress; Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press; Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press; Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall; Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim; Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press; Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されている。角膜内皮細胞については、Nancy Joyceらの報告{Joyce, 2004 #161} {Joyce, 2003 #7}がよく知られているが、前述のごとく長期培養、継代培養により線維芽細胞様の形質転換を生じ、効率的な培養法の研究が現在も行われている。これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
<医薬>
1つの局面において、本発明は、カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患の治療または予防のための医薬を提供する。
別の局面において、本発明は、カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるミトコンドリア異常に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患の治療または予防のための医薬を提供する。
さらなる局面において、本発明は、カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルおよびミトコンドリア異常に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患の治療または予防のための医薬を提供する。
カスパーゼは、種々のシグナル伝達に関与するとされており、炎症に関与するともされているが、角膜内皮では、そのメカニズムのすべては明らかにされておらず、TGF−βシグナル、ミトコンドリア障害またはその両方に起因する角膜内皮障害の治癒または予防に有効であることは予想できなかった。
1つの実施形態では、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術後の障害、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD:posterior polymorphous dystrophy)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED:congenital hereditary endothelial dystrophy)、および特発性角膜内皮障害からなる群より選択される。
1つの実施形態では、角膜内皮細胞におけるミトコンドリア異常に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術後の障害、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD:posterior polymorphous dystrophy)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED:congenital hereditary endothelial dystrophy)、および特発性角膜内皮障害からなる群より選択される。好ましい実施形態では、TGF−βシグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、TGF−β2に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患である。
1つの実施形態では、ミトコンドリア異常としては、ミトコンドリア膜電位低下、ミトコンドリアの形態異常、ミトコンドリア生合成などが挙げられるが、これらに限定されない。
1つのさらなる好ましい実施形態では、本発明は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける細胞外マトリクスの過剰産生に起因する症状を治療または予防する作用効果を有し、このような症状の治療または予防のための医薬または治療法もしくは予防法を提供する。このような症状としては、角膜内皮面の疣贅(グッタータ)、デスメ膜の混濁グッテー、デスメ膜の肥厚、霧視、ハロー、グレア、視力低下、角膜混濁、白斑および視感覚の異常等を挙げることができる。細胞外マトリクスの過剰産生に起因する症状については、さらに以下に述べる。
さらに別の局面において、本発明は、カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬を提供する。上述のとおり、カスパーゼ阻害剤は、TGF−βシグナルおよびミトコンドリア異常に起因する角膜内皮障害等を処置または予防し得るものであるが、カスパーゼ阻害剤がさらに角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現を抑制することが可能であることは驚くべきことであった。これは、カスパーゼ阻害剤が、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナル、ミトコンドリア異常、および細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮障害を同時に処置し得ることを示唆する。特に、フックス角膜内皮ジストロフィは、TGF−βシグナルおよびミトコンドリア異常に起因して角膜内皮細胞の密度が著しく減少し、さらに細胞外マトリクスがデスメ膜に沈着しグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚を生じる疾患であるため、細胞外マトリックスの過剰発現を抑制することは、フックス角膜内皮ジストロフィの治療および予防における著明な改善が可能であり、場合によっては完全な治癒が可能であることを意味している。また、フックス角膜内皮ジストロフィ等の角膜内皮障害における細胞外マトリクス過剰産生により発生し得るグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚やこのほか混濁や沈着に関連する症状(遷延化する角膜浮腫による不可逆的な角膜実質混濁など)を改善し、処置しまたは予防することができる。
1つの実施形態では、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、角膜内皮細胞におけるフィブロネクチンの過剰発現に起因し得る。
1つの実施形態では、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、グッテーの形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、混濁、瘢痕、角膜実質混濁、角膜上皮浮腫、角膜上皮障害、羞明、および霧視からなる群より選択される。
別の局面において、本発明は、カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナル、ミトコンドリア異常および細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬を提供する。カスパーゼ阻害剤は、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナル、ミトコンドリア異常、および細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮障害を同時に処置または予防し得る。
1つの実施形態では、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナル、ミトコンドリア異常および細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、その他の角膜内皮ジストロフィ、ならびに薬物、手術、外傷、感染症、ぶどう膜炎などによる角膜内皮障害からなる群より選択される。
1つの実施形態では、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナル、ミトコンドリア異常および細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む。フックス角膜内皮ジストロフィは、TGF−βシグナルおよびミトコンドリア異常に起因して角膜内皮細胞の密度が著しく減少し、さらに細胞外マトリクスがデスメ膜に沈着しグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚などの障害等を生じる疾患であるため、細胞外マトリックスの過剰発現を抑制することは、フックス角膜内皮ジストロフィの著明な改善が可能であり、場合によっては完全な治癒が可能であることを意味している。
1つの実施形態において、本発明の利用法としては、例えば点眼薬が挙げられるが、これに限定されず、前房内への注射、徐放剤への含浸、結膜下注射、全身投与(内服、静脈注射)などの投与方法も挙げることができる。
1つの実施形態において、本発明において用いられるカスパーゼ阻害剤は、TGF−βシグナルまたはミトコンドリアに起因する任意の角膜内皮の症状、障害または疾患の治療または予防に有効である限りどのような種類のものを使用してもよいが、好ましくは、カスパーゼ−3を阻害するもの、さらに好ましくは、汎(pan)カスパーゼ阻害剤を用いることが好ましい。具体的なカスパーゼ阻害剤としては、Z−VAD−FMK、Z−VD−FMK、Emricasan(エムリカサン)、Nivocasan(ニボカサン)、Z−YVAD−FMK、Z−VDVAD−FMK、Z−DEVD−FMK、Z−LEVD−FMK、Z−WEHD−FMK、Z−VEID−FMK、Z−IETD−FMK、Z−LEHD−FMK、Z−AEVD−FMK、Z−LEED−FMKからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
本発明の医薬において、上記カスパーゼ阻害剤は、単独で使用されてもよく、組み合わせて使用されてもよい。本発明で使用されるカスパーゼ阻害剤の濃度は、通常約0.1〜300μM(μmol/l)、好ましくは約1〜150μM、より好ましくは約3〜30μMであり、2種以上のカスパーゼ阻害剤を組み合わせて使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜300μM、約0.01〜150μM、約0.001〜100μM、約0.01〜75μM、約0.05〜50μM、約1〜10μM、約0.01〜10μM、約0.05〜10μM、約0.075〜10μM、約0.1〜10μM、約0.5〜10μM、約0.75〜10μM、約1.0〜10μM、約1.25〜10μM、約1.5〜10μM、約1.75〜10μM、約2.0〜10μM、約2.5〜10μM、約3.0〜10μM、約4.0〜10μM、約5.0〜10μM、約6.0〜10μM、約7.0〜10μM、約8.0〜10μM、約9.0〜10μM、約0.01〜50μM、約0.05〜5.0μM、約0.075〜5.0μM、約0.1〜5.0μM、約0.5〜5.0μM、約0.75〜5.0μM、約1.0〜5.0μM、約1.25〜5.0μM、約1.5〜5.0μM、約1.75〜5.0μM、約2.0〜5.0μM、約2.5〜5.0μM、約3.0〜5.0μM、約4.0〜5.0μM、約0.01〜3.0μM、約0.05〜3.0μM、約0.075〜3.0μM、約0.1〜3.0μM、約0.5〜3.0μM、約0.75〜3.0μM、約1.0〜3.0μM、約1.25〜3.0μM、約1.5〜3.0μM、約1.75〜3.0μM、約2.0〜3.0μM、約0.01〜1.0μM、約0.05〜1.0μM、約0.075〜1.0μM、約0.1〜1.0μM、約0.5〜1.0μM、約0.75〜1.0μM、約0.09〜35μM、約0.09〜3.2μMであり、約0.05〜1.0μM、約0.075〜1.0μM、約0.1〜1.0μM、約0.5〜1.0μM、約0.75〜1.0μMを挙げることができるがこれらに限定されない。
好ましい実施形態では、カスパーゼ阻害剤は、例えば、N−(ベンジルオキシカルボニル)−L−バリル−DL−アスパルチル−フルオロメチルケトン(Z−VD−FMK)、{ベンジルオキシカルボニル−L−バリル−L−アラニル−[(2s)−2−アミノ−3−(メトキシカルボニル)プロピオニル]}フルオロメタン(Z−VAD−FMK)、3−[2−[(2−tert−ブチル−フェニルアミノオキサリル)−アミノ]−プロピオニルアミノ]−4−オキソ−5−(2,3,5,6−テトラフルオロ−フェノキシ)−ペンタン酸(エムリカサン)および(R)−N−((2S,3S)−2−(フルオロメチル)−2−ヒドロキシ−5−オキソテトラヒドロフラン−3−イル)−5−イソプロピルl−3−(イソキノリン−1−イル)−4,5−ジヒドロイソキゾール−5−カルボキサミド(ニボカサン)ならびにそれらの塩からなる群より選択される。
別の実施形態では、カスパーゼ阻害剤は、Z−VD−FMKである。使用されるZ−VD−FMKの濃度としては、通常約1μM〜約150μMであり、好ましくは約3μM〜約100μMであり、より好ましくは約10μM〜約50μMである。
別の実施形態では、カスパーゼ阻害剤は、Z−VAD−FMKである。使用されるZ−VAD−FMKの濃度としては、通常約1μM〜約100μMであり、好ましくは、約3μM〜約30μM、より好ましくは、約10μMである。
別の実施形態では、カスパーゼ阻害剤は、エムリカサンである。使用されるエムリカサンの濃度としては、通常約0.3μM〜約150μMであり、好ましくは、約1μM〜約100μM、より好ましくは、約10μMである。
さらに別の実施形態では、カスパーゼ阻害剤は、ニボカサンである。使用されるニボカサンの濃度としては、通常約1μM〜約300μMであり、好ましくは、約30μM〜約300μMであり、より好ましくは、約100μMである。
好ましい実施形態では、エムリカサンが使用される。理論に束縛されることを望まないが、エムリカサンによる処置によって、他のカスパーゼ阻害剤に比べても、顕著な治療成績が示され、特に、フックス内皮ジストロフィ等のトランスフォーミング増殖因子−β2(TGF−β2)に関連する角膜内皮の疾患または障害、あるいはミトコンドリア異常に関連する角膜内皮の疾患または障害の治癒成績が顕著に改善することが見出されているからである。
1つの実施形態では、本発明の治療または予防するための医薬は、角膜内皮を有する任意の動物、例えば哺乳動物を対象とすることができ、好ましくは霊長類の角膜内皮の治療または予防を目的とする。好ましくは、この治療または予防の対象は、ヒトの角膜内皮である。
別の局面では、本発明は、カスパーゼ阻害剤の有効量をそれを必要な被験体に投与する工程を含む、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルおよびミトコンドリア異常の少なくとも1つに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患の治療または予防のための方法を提供する。
本明細書において「被験体」とは、本発明の治療および予防するための医薬または方法の投与(移植)対象を指し、被験体としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル等)があげられるが、霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。
特定の疾患、障害または状態の治療に有効な本発明の医薬の有効量は、障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。さらに、必要に応じて、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.001、1、5、10、15、100、または1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与回数、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、投与形態、対象臓器等により、適宜選択してもよい。例えば、本発明は点眼剤として使用され得る。また、本発明の医薬を前房内に注入することもできる。また治療薬は、治療有効量、または所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。治療マーカーが、投与後に有意に減少した場合に、治療効果があったと判断してもよい。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系から得られる用量−反応曲線から推定可能である。
<保存用組成物>
別の局面において、本発明は、カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞の保存のための組成物を提供する。好ましい実施形態では、保存は凍結保存である。本発明において用いられるカスパーゼ阻害剤は、本明細書において説明される任意の形態、例えば、医薬として説明されている実施形態のうち、保存用組成物として適切なものを用いることができると理解される。
本明細書において「保存用組成物」とは、ドナーから摘出した角膜片を、レシピエントに移植するまでの期間において保存するため、あるいは増殖前または増殖した角膜内皮細胞を保存するための組成物である。
1つの実施形態では、本発明の保存用組成物は、従来使用される保存剤または保存液に本発明のカスパーゼ阻害剤を添加して調製され得る。そのような角膜保存液としては、角膜移植時に通常用いられる保存液(強角膜片保存液(Optisol GS:登録商標)、角膜移植用眼球保存液(EPII:登録商標))、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。
本発明の保存用組成物は、臓器移植などに用いられる角膜の保存用に用いられる。また、本発明の保存用組成物は、角膜内皮細胞を凍結保存するための保存液またはその成分としても用いられる。
凍結保存のために使用される本発明の保存用組成物の別の実施形態では、既存の凍結保存液に本発明のカスパーゼ阻害剤を含む保存用組成物を添加して使用することもできる。凍結保存液としては、例えば、タカラバイオにより提供されるCELLBANKER(登録商標)シリーズ(CELL BANKER PLUS(カタログ番号:CB021)、CELL BANKER 2(カタログ番号:CB031)、STEM−CELLBANKER(カタログ番号:CB043)など)、KM BANKER(コージンバイオ カタログ番号:KOJ−16092005)、およびFreezing Medium, Animal Component Free, CRYO Defined(Cnt−CRYOとも記載される)(CELLNTEC カタログ番号:CnT−CRYO−50)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに別の実施形態では、使用される凍結保存液はKM BANKERであってもよい。また、当業者であれば、上記凍結保存液の構成成分を適宜変更またはさらなる構成成分を添加し、改変された適切な凍結保存液を使用することができることが理解される。凍結保存のためには、例えば、本発明の保存液にグリセロール、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、アセトアミド等をさらに添加してもよい。
<増殖促進用組成物>
別の局面において、本発明は、角膜内皮細胞の増殖を促進するための組成物を提供する。本発明において用いられるカスパーゼ阻害剤は、本明細書において説明される任意の形態、例えば、医薬として説明されている実施形態のうち、保存用組成物として適切なものを用いることができると理解される。
1つの実施形態では、本発明の増殖促進用組成物は、従来使用される培地に本発明のカスパーゼ阻害剤を添加して調製され得る。また、本発明において使用されうる培養成分は、角膜内皮の培養に用いられうる成分であればどのようなものでも用いることができ、従来販売され使用されている培地成分であってもよく、あるいは、別途角膜内皮用に開発された成分であってもよい。そのような培地成分の例としては、OptiMEM、DMEM,M199、MEM等(これらは、THERMO−FISCHER=INVITROGEN等から入手可能)を挙げることができるがこれらに限定されない。
また、実施例において説明されるように、本発明のカスパーゼ阻害剤を含む増殖促進用組成物を添加した凍結保存液を培地成分として培養すると、角膜内皮細胞の細胞培養を促進することが見出されている。したがって、本発明の角膜内皮細胞の増殖促進用組成物に使用される培地成分として、凍結保存液を使用することも可能である。凍結保存液としては、例えば、タカラバイオにより提供されるCELLBANKER(登録商標)シリーズ(CELL BANKER PLUS(カタログ番号:CB021)、CELL BANKER 2(カタログ番号:CB031)、STEM−CELLBANKER(カタログ番号:CB043)など)、KM BANKER(コージンバイオ カタログ番号:KOJ−16092005)、およびFreezing Medium, Animal Component Free, CRYO Defined(CnT−CRYO)(CELLNTEC カタログ番号:CnT−CRYO−50)が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態では、使用される凍結保存液はKM BANKERがこのましいがこれに限定されない。
他の実施形態において、本発明の角膜内皮細胞の増殖を促進するための組成物は、p38MAPキナーゼ阻害剤をさらに含むことも可能である。「p38MAPキナーゼ阻害剤(「p38MAPK阻害剤」ともいう。)」とは、p38に関連するMAPキナーゼのシグナル伝達を阻害する任意の薬剤を指し、例えば、4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−5−(4−ピリジル)−1H−イミダゾール(SB−203580)、1−(カルバモイル−6−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジン−2−イル)−1−(2,6−ジフルオロフェニル)尿素(VX−702)、および3−[3−ブロモ−4−[(2,4−ジフルオロフェニル)メトキシ]−6−メチル−2−オキソピリジン−1−イル]−N,4−ジメチルベンザミド(PH797804)が挙げられるが、これらに限定されない。含まれるp38MAPキナーゼ阻害剤の濃度については、当業者であれば適宜選択することができるが、例えば、約0.1〜100μM(μmol/l)、好ましくは約0.1〜30μM、より好ましくは約1〜10μMであり、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜100μM、好ましくは、約0.01〜75μM、約0.05〜50μM、約1〜10μM、約0.01〜10μM、約0.05〜10μM、約0.075〜10μM、約0.1〜10μM、約0.5〜10μM、約0.75〜10μM、約1.0〜10μM、約1.25〜10μM、約1.5〜10μM、約1.75〜10μM、約2.0〜10μM、約2.5〜10μM、約3.0〜10μM、約4.0〜10μM、約5.0〜10μM、約6.0〜10μM、約7.0〜10μM、約8.0〜10μM、約9.0〜10μM、約0.01〜50μM、約0.05〜5.0μM、約0.075〜5.0μM、約0.1〜5.0μM、約0.5〜5.0μM、約0.75〜5.0μM、約1.0〜5.0μM、約1.25〜5.0μM、約1.5〜5.0μM、約1.75〜5.0μM、約2.0〜5.0μM、約2.5〜5.0μM、約3.0〜5.0μM、約4.0〜5.0μM、約0.01〜3.0μM、約0.05〜3.0μM、約0.075〜3.0μM、約0.1〜3.0μM、約0.5〜3.0μM、約0.75〜3.0μM、約1.0〜3.0μM、約1.25〜3.0μM、約1.5〜3.0μM、約1.75〜3.0μM、約2.0〜3.0μM、約0.01〜1.0μM、約0.05〜1.0μM、約0.075〜1.0μM、約0.1〜1.0μM、約0.5〜1.0μM、約0.75〜1.0μM、約0.09〜35μM、約0.09〜3.2μMであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μM、約0.075〜1.0μM、約0.1〜1.0μM、約0.5〜1.0μM、約0.75〜1.0μMを挙げることができるがこれらに限定されない。
本発明の増殖促進用組成物は、角膜内皮細胞の培養において用いられ得る。角膜内皮細胞の培養は代表的には以下のようになされる。
<1>角膜内皮細胞の採取および試験管内での培養
角膜内皮細胞はレシピエント自身または適切なドナーの角膜から常法で採取される。本発明における移植条件を考慮すれば、同種由来の角膜内皮細胞を準備すればよい。例えば、角膜組織のデスメ膜と内皮細胞層を角膜実質から剥離した後、培養皿に移し、ディスパーゼなどで処理する。これによって角膜内皮細胞はデスメ膜より脱落する。デスメ膜に残存している角膜内皮細胞はピペッティングなどによって脱落させることができる。デスメ膜を除去した後、本発明の培養液中で角膜内皮細胞を培養する。培地または培養液としては例えば市販のDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)(例えば、THERMO−FISCHER=INVITROGEN、カタログ番号:12320等を)にFBS(ウシ胎仔血清)(例えば、BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)、b−FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)(例えば、THERMO−FISCHER=INVITROGEN、カタログ番号:13256−029)、およびペニシリン、ストレプトマイシンなどの抗生物質を適宜添加し、さらに本発明の増殖促進用組成物の成分を添加したものを使用することができる。培養容器(培養皿)にはその表面にI型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンまたはウシ角膜内皮細胞の細胞外マトリックスなどをコーティングしてあるものを使用することが好ましい。あるいは、通常の培養容器をFNC coating mix(登録商標)(50ml(AES−0407)、ATHENA、カタログ番号:0407)等の市販のコーティング剤で処理したものを用いてもよい。
角膜内皮細胞を培養する際の温度条件は、角膜内皮細胞が生育する限りにおいて特に限定されないが、例えば約25℃〜約45℃、増殖効率を考慮すれば好ましくは約30℃〜約40℃、さらに好ましくは約37℃である。培養方法は、通常の細胞培養用インキュベーター内で、加湿下、約5〜10%のCO濃度の環境下で行われる。
<2>継代培養
培養に供された角膜内皮細胞が増殖した後に継代培養を行うことができる。好ましくはサブコンフルエントないしコンフルエントになった時点で継代培養を行う。継代培養は次のように行うことができる。まずトリプシン−EDTA等で処理することによって細胞を培養容器表面から剥がし、次いで細胞を回収する。回収した細胞に本発明の増殖促進用組成物を含む培地または培養液を加えて細胞浮遊液とする。細胞を回収する際、あるいは回収後に遠心処理を行うことが好ましい。かかる遠心分離処理によって細胞密度の高い細胞浮遊液を調製することができる。好ましい細胞密度は、約1〜2×10個/mLである。尚、ここでの遠心処理の条件としては、例えば、500rpm(30g)〜1000rpm(70g)、1〜10分を挙げることができる。
細胞浮遊液は上記の初代培養と同様に培養容器に播種され、培養に供される。継代時の希釈倍率は細胞の状態によっても異なるが、約1:2〜1:4、好ましくは約1:3である。継代培養は上記の初代培養と同様の培養条件で行うことができる。培養時間は使用する細胞の状態などによっても異なるが、例えば7〜30日間である。以上の継代培養は必要に応じて複数回行うことができる。本発明の増殖促進用組成物を含む培地または培養液において、増殖促進用組成物を用いることにより、増殖が促進され、培養期間の短縮が可能となる。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下に、本発明の例を記載する。該当する場合生物試料等の取り扱いは、厚生労働省、文部科学省等において規定される基準を遵守し、該当する場合はヘルシンキ宣言またはその宣言に基づき作成された倫理規定に基づいて行った。研究のための眼の寄贈については、全ての故人ドナーの近親者から同意書を得た。本研究は、エルランゲン大学(ドイツ)、SightLifeTM(Seattle,WA)アイバンクの倫理委員会またはそれに準ずるものの承認を受けた。
(調製例:フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の不死化角膜内皮細胞株(iFECD)モデルの作製)
本実施例では、フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の角膜内皮細胞から不死化角膜内皮細胞株(iFECD)を作製した。
(培養方法)
シアトルアイバンクから購入した研究用角膜より角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離し、コラゲナーゼを用いて基底膜よりはがして回収後、初代培養を行った。培地はOpti−MEM I Reduced−Serum Medium, Liquid(INVITROGEN カタログ番号:31985−070)に、8%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)、200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA カタログ番号:C7902−500G)、0.08% コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)、20μg/mlアスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)、50μg/mlゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)および5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)を加えた3T3フィーダー細胞用の馴化させたものを基本培地として用いた。また、基本培地にSB431542(1μmol/l)およびSB203580(4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルホニルフェニル)−5(4−ピリジル)イミダゾール<4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)(1μmol/l)を添加したもの(本明細書では「SB203580+SB431542+3T3馴化培地」ともいう)で培養した。
(取得方法)
フックス角膜内皮ジストロフィの臨床診断により水疱性角膜症に至り、角膜内皮移植(デスメ膜内皮角膜移植=DMEK)を実施されたヒト患者3名より文書による同意および倫理員会の承認のもと角膜内皮細胞を得た。DMEKの際に機械的に病的な角膜内細胞と基底膜であるデスメ膜とともに剥離し、角膜保存液であるOptisol−GS(ボシュロム社)に浸漬した。その後、コラゲナーゼ処理を行い酵素的に角膜内皮細胞を回収して、SB203580+SB431542+3T3馴化培地により培養した。培養したフックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の角膜内皮細胞はSV40ラージT抗原およびhTERT遺伝子をPCRにより増幅して、レンチウイルスベクター(pLenti6.3_V5−TOPO; Life Technologies Inc)に導入した。その後、レンチウイルスベクターを3種類のヘルパープラスミド(pLP1、pLP2、pLP/VSVG; Life Technologies Inc.)とともにトランスフェクション試薬(Fugene HD; Promega Corp., Madison, WI)を用いて293T 細胞 (RCB2202; Riken Bioresource Center, Ibaraki, Japan)に感染させた。48時間の感染後にウイルスを含む培養上清を回収して、5μg/mlのポリブレンを用いて、培養したフックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の角膜内皮細胞の培養液に添加して、SV40ラージT抗原およびhTERT遺伝子を導入した。フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の不死化角膜内皮細胞株(iFECD)の位相差顕微鏡像を確認した。コントロールとしてシアトルアイバンクから輸入した研究用角膜より培養した角膜内皮細胞を同様の方法で不死化し、正常角膜内皮細胞の不死化細胞株を作製した(iHCEC)。健常ドナー由来の不死化角膜内皮細胞株(iHCEC)および不死化角膜内皮細胞株(iFECD)の位相差顕微鏡像をみると、iHCECおよびiFECDはいずれも正常の角膜内皮細胞同様に一層の多角形の形態を有する。iHCECおよびiFECDはDMEM+10%FBSにより維持培養を行った。
(実施例1:UV照射後におけるカスパーゼ阻害剤によるカスパーゼ3の活性化の抑制)
本実施例では、UV照射後におけるカスパーゼ阻害剤によるカスパーゼ3の活性化の抑制を調べた。
(材料および方法)
培養サル角膜内皮細胞をFNC Coating Mixをコートした96ウェルプレートに5×10個播種し、37℃で5%COの条件下にてコンフルエントに到達するまで培養した。培地はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco,12320−032)+10% FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン(nacalai tesque、26252−94)を使用した。
本実施例では、以下のカスパーゼ阻害剤を使用した。
Z−VD−FMK (10μM)
Z−VAD−FMK (10μM)
エムリカサン (10μM)
次に、各阻害剤を上記の濃度で添加し37℃で5%COの条件下にて18時間インキュベートした。なお、コントロール群、UV照射群には各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide、Sterile−filtered)(nacalai tesque、13408−64)を添加した。培地は、Gibco DMEM+1% P/S(ペニシリン−ストレプトマイシン)を使用した。
その後、細胞上澄を除去し、細胞にUV(300J/m)を照射した。照射後、各阻害剤入りの培地を再度細胞に添加し、7時間培養を行った。その後Caspase−Glo 3/7 Assay(Promega,#G8091)を用いてカスパーゼ3/7活性の測定を行った。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤は細胞障害時のカスパーゼ3の活性化を抑制している)
図1のグラフは、カスパーゼ添加なしでUVを照射した場合のカスパーゼ3/7活性に対する、各カスパーゼ阻害剤を添加した場合のカスパーゼ3/7活性の割合を示している。示される通り、各阻害剤を添加した場合は、UVを添加していないコントロール群と同等のカスパーゼ3/7活性を示しており、カスパーゼ阻害剤が細胞障害時のカスパーゼ3の活性化を抑制していることが示された。
(実施例2:培養サル角膜内皮細胞のアポトーシスに対するカスパーゼ阻害剤の効果の検討)
本実施例では、培養サル角膜内皮細胞のアポトーシスに対するカスパーゼ阻害剤Z−VD−FMKの効果の検討を行った。
(材料および方法)
培養サル角膜内皮細胞をFNC Coating Mixをコートした12ウェルプレートに1×10個播種し、37℃で5%COの条件下にてコンフルエントに到達するまで培養した。培地はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco,12320−032)+10% FBS+1% Penicillin−Streptomycin(ペニシリン−ストレプトマイシン)(nacalai tesque,26252−94)を使用した。
本実施例では、以下のカスパーゼ阻害剤を使用した。
Z−VAD−FMK (10μM)
Z−VD−FMK (3、10、20、30、50μM)
エムリカサン (1、3、10、30、100μM)
ニボカサン (1、3、10、30、100μM)
各阻害剤を上記濃度で添加し37℃で5%COの条件下にて18時間インキュベートした。なお、コントロール群、UV群には各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide, Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。培地は、Gibco DMEM+1% P/S(ペニシリン−ストレプトマイシン混合溶液)を使用した。
その後、細胞上澄を除去し、細胞にUV(100J/m)を照射した。照射後、各阻害剤入りの培地を再度細胞に添加し、9時間培養を行った。
位相差顕微鏡下で細胞形態を観察した。観察後、以下手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。
1)タンパク質の回収
浮遊および死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800g、5分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% SDS、0.5% DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊および死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30sec、3回粉砕後に、4℃、15000rpm、10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。
2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質8μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗カスパーゼ3抗体(Cell Signaling、9662)、ウサギ抗PARP抗体(Cell Signaling、9542)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA934V,NA931V)を用いた。1次抗体はウサギ抗カスパーゼ3抗体およびウサギ抗PARP抗体:1000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:3000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(nacalai tesque、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)およびImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤は細胞障害時のカスパーゼ3の活性化を抑制し細胞死を抑える)
結果を図2〜4に示す。位相差顕微鏡像からUV照射群は顕著に細胞障害を受けている様子が観察された。さらに、ウェスタンブロットの結果から、UV照射群において活性型である切断された約17kDaのカスパーゼ3が認められた。UV照射+Z−VAD−FMK添加群では、試験したすべての濃度域において約17kDaの活性型切断カスパーゼ3は観察されず、非活性型である切断された約19kDaのカスパーゼ3が観察された(図2)。エムリカサン添加群においては、試験したすべての濃度域において活性型切断カスパーゼ3は観察されず、その上、約19kDaの非活性型切断カスパーゼ3も、1および3μM添加時においてわずかに観察されるだけで、その他の濃度では観察されなかった(図3)。これは、カスパーゼ3の活性化を強く抑制していることを意味している。ニボカサン添加群においては、100μMの濃度でカスパーゼ3の抑制効果が観察された(図4)。これらの結果から、カスパーゼ阻害剤は細胞障害時のカスパーゼ3の活性化を抑制していることが明らかになった。
(実施例3:培養サル角膜内皮細胞の過酸化水素による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果)
本実施例では、培養サル角膜内皮細胞の過酸化水素による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を検討した。
(材料および方法)
培養サル角膜内皮細胞をFNC Coating Mixをコートした12ウェルプレートに1×10個播種し、37℃で5%COの条件下にてコンフルエントに到達するまで培養した。培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(Gibco,12320−032)+10% FBS+1% Penicillin−Streptomycin(nacalai tesque, 26252−94)を使用した。
本実施例では、以下のカスパーゼ阻害剤を使用した。
Z−VAD−FMK (10μM)
Z−VD−FMK (10μM)
エムリカサン (10μM)
ニボカサン (100μM)
各阻害剤を上記の濃度で添加し37℃で5%COの条件下にて18時間インキュベートした。なお、コントロール群および過酸化水素群には各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。培地は、Gibco DMEM+1% P/Sを使用した。
その後、細胞上澄を除去し、1000μM過酸化水素と各阻害剤入りの培地を細胞に添加し、24時間培養を行った。コントロール群には過酸化水素の溶媒である滅菌水と各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。過酸化水素群には1000μM過酸化水素とDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した培地を添加した。
位相差顕微鏡下で細胞形態およびアポトーシスを観察した。観察後、以下手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。
1)タンパク質の回収
浮遊および死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800g、5分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% SDS、0.5%
DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊および死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpm、10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。
2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質9.6μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗カスパーゼ3抗体(Cell Signaling、9662)、ウサギ抗PARP抗体(Cell Signaling、9542)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)、マウス抗CHOP抗体(Cell Signaling、2895)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA934V,NA931V)を用いた。1次抗体はウサギ抗カスパーゼ3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗PARP抗体:2000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:3000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(nacalai tesque、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)およびImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤は過酸化水素による細胞障害時のカスパーゼ3の活性化を抑制する)
過酸化水素は、その強力な酸化作用に起因して細胞に障害を与えることが知られている。本実施例において、カスパーゼ阻害剤が過酸化水素による細胞障害を抑制することを確認した。結果を図5に示す。示される通り、過酸化水素のみ添加した群では、活性型切断カスパーゼ3が認められるのに対し、過酸化水素+カスパーゼ阻害剤添加群においては、活性型切断カスパーゼ3は認められず、細胞障害を抑制していた。したがって、カスパーゼ阻害剤は過酸化水素による細胞障害時のカスパーゼ3の活性化を抑制する。
(実施例4:培養サル角膜内皮細胞のMG132による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果)
本実施例では、培養サル角膜内皮細胞のMG132による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を検討した。
(材料および方法)
培養サル角膜内皮細胞を、FNC Coating Mixをコートした12ウェルプレートに1×10個播種し、37℃で5%COの条件下にてコンフルエントに到達するまで培養した。培地はダルベッコ改変イーグル培地(Gibco, 12320−032)+10% FBS+1% Penicillin−Streptomycin(nacalai tesque, 26252−94)を使用した。
本実施例では、以下のカスパーゼ阻害剤を使用した。
Z−VAD−FMK (10μM)
Z−VD−FMK (10μM)
エムリカサン (10μM)
ニボカサン (100μM)
次に、各阻害剤を上記の濃度で添加し37℃で5%COの条件下にて6時間インキュベートした。なお、コントロール群およびMG132群には各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。培地はGibco DMEM+1% P/Sを使用した。
その後、細胞上澄を除去し、10μM MG132と各阻害剤入りの培地を細胞に添加し、18時間培養を行った。コントロール群にはMG132と各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。
位相差顕微鏡下で細胞形態およびアポトーシスを観察した。観察後、以下手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。
1)タンパク質の回収
浮遊および死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800g、5分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% SDS、0.5% DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊および死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpm、10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。
2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質10μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗カスパーゼ3抗体(Cell Signaling、9662)、ウサギ抗PARP抗体(Cell Signaling、9542)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)、マウス抗CHOP抗体(Cell Signaling、2895)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA934V,NA931V)を用いた。1次抗体はウサギ抗カスパーゼ3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗PARP抗体:2000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:3000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(nacalai tesque、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)およびImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤はMG132により誘導されるunfolded proteinによる細胞障害を抑制し、小胞体ストレスによるカスパーゼ3の活性化を抑制する)
MG132はプロテアソーム阻害剤であり、これにより折り畳まれなかったタンパク質(unfolded protein)がもたらされ、小胞体ストレスが生じる。小胞体ストレスの蓄積によりカスパーゼ3が活性化され、細胞が障害を受ける。本実施例では、カスパーゼ阻害剤添加群におけるMG132により誘導される細胞障害の抑制効果を確認した。結果を図6に示す。MG132群において観察されるカスパーゼ3の活性化は、カスパーゼ阻害剤添加群においては観察されなかった。したがって、カスパーゼ阻害剤はMG132により誘導される小胞体ストレスによるカスパーゼ3の活性化を抑制する。
(実施例5:培養サル角膜内皮細胞のタプシガルギン(TG)による細胞障害対するカスパーゼ阻害剤の効果の検討)
本実施例では、培養サル角膜内皮細胞のTGによる細胞障害対するカスパーゼ阻害剤の効果の検討を行った。
(材料および方法)
培養サル角膜内皮細胞をFNC Coating Mixをコートした12ウェルプレートに1×10個播種し、37℃で5%COの条件下にてコンフルエントに到達するまで培養した。培地はダルベッコ改変イーグル培地(Gibco, 12320−032)+10% FBS+1% Penicillin−Streptomycin(nacalai tesque, 26252−94)を使用した。
本実施例では、以下のカスパーゼ阻害剤を使用した。
Z−VAD−FMK (10μM)
エムリカサン (10μM)
次に、各阻害剤を上記の濃度で添加し37℃で5%COの条件下にて18時間インキュベートした。なお、コントロール群およびTG群には各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。培地は、Gibco DMEM, 1% P/Sを使用した。
その後、細胞上澄を除去し、10μM TGと各阻害剤入りの培地を細胞に添加し、5時間培養を行った。コントロール群にはTGと各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。
位相差顕微鏡下で細胞形態を観察した。観察後、以下手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。
1)タンパク質の回収
浮遊および死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800g、5分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% SDS、0.5% DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊および死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpm、10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。
2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質5.7μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗カスパーゼ 3抗体(Cell Signaling、9662)、ウサギ抗PARP抗体(Cell Signaling、9542)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)、マウス抗CHOP抗体(Cell Signaling、2895)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA934V,NA931V)を用いた。1次抗体はウサギ抗カスパーゼ3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗PARP抗体:2000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:3000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(nacalai tesque、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)およびImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤はタプシガルギン(TG)により誘導されるunfolded proteinによる細胞障害を抑制し小胞体ストレスによるカスパーゼ3の活性化を抑制する)
タプシガルギン(TG)は、MG132と同様、小胞体ストレスを誘導する。本実施例では、カスパーゼ阻害剤添加群におけるTGにより誘導される細胞障害の抑制効果を確認した。結果を図7に示す。TGのみ添加した場合、活性型である切断された約17kDaのカスパーゼが観察されるのに対し、カスパーゼ阻害剤を添加した場合は、活性型切断カスパーゼは観察されなかった。したがって、カスパーゼ阻害剤はTGにより誘導される小胞体ストレスによるカスパーゼ3の活性化を抑制する。
(実施例6:培養サル角膜内皮細胞のCCCPによる細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果)
本実施例では、培養サル角膜内皮細胞のCCCPによる細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を検討した。
(材料および方法)
培養サル角膜内皮細胞をFNC Coating Mixをコートした12ウェルプレートに1×10個播種し、37℃で5%CO2の条件下にてコンフルエントに到達するまで培養した。培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(Gibco, 12320−032)+10% FBS+1% Penicillin−Streptomycin(nacalai tesque, 26252−94)を使用した。
本実施例では、以下のカスパーゼ阻害剤を使用した。
Z−VAD−FMK (10μM)
Z−VD−FMK (10μM)
エムリカサン (10μM)
各阻害剤を上記濃度で添加し37℃で5%COの条件下にて16時間インキュベートした。なお、コントロール群およびCCCP群には各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。培地はGibco DMEM+1% P/Sを使用した。
その後、細胞上澄を除去し、50μM CCCPと各阻害剤入りの培地を細胞に添加し、6時間培養を行った。コントロール群にはCCCPと各試薬の溶媒であるDMSO(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered)(nacalai tesque,13408−64)を添加した。
位相差顕微鏡下で細胞形態を観察した。観察後、以下手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。
1)タンパク質の回収
浮遊および死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800g、5分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% SDS、0.5% DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊および死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpm、10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。
2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質5μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗カスパーゼ3抗体(Cell Signaling、9662)、ウサギ抗PARP抗体(Cell Signaling、9542)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA934V,NA931V)を用いた。1次抗体はウサギ抗カスパーゼ3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗PARP抗体:2000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:3000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(nacalai tesque、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)およびImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤はCCCPにより誘導されるミトコンドリア膜電位低下によるミトコンドリア依存性のプログラム細胞死を抑制する)
脱共役剤であるCCCPを添加した場合、脱共役に起因してミトコンドリア膜電位が低下し、ミトコンドリア障害が誘導される。ミトコンドリア障害はプログラム細胞死を誘導し、すなわちカスパーゼが活性化される。そのため、CCCPを添加した場合は、約17kDaの切断されたカスパーゼ3が観察され、カスパーゼ3の活性化が認められた(図8)。しかしながら、カスパーゼ阻害剤を添加した場合は、カスパーゼ3の活性化が抑制された。これらの結果から、カスパーゼ阻害剤は、ミトコンドリア障害による細胞障害を抑制することができることが明らかになった。
(実施例7:UV照射されたウサギ角膜内皮細胞におけるAnnexin Vの蛍光観察)
本実施例では、UV照射されたウサギ角膜内皮細胞におけるAnnexin Vの蛍光観察を行った。
(材料および方法)
本実施例では、以下のカスパーゼ阻害剤を使用した。
Z−VAD−FMK (10μM)
Z−VD−FMK (10μM)
エムリカサン (10μM)
ニボカサン (100μM)
安楽死後0〜24時間のウサギ眼球を本実施例で用いた。実体顕微鏡下で角膜輪部に沿ってスプリング剪刃を用いて強膜を切除し、水晶体および虹彩を取り除き強角膜片を作成した。強角膜片を4分割し、コントロール群および各カスパーゼ阻害剤添加群とした。角膜の分割後、コントロール群はDMSOを添加したOptisol−GS(登録商標)(Bausch&Lomb)を、カスパーゼ阻害剤添加群では各阻害剤を添加したOptisol−GS(登録商標)にて16時間のプレトリートを遮光下にて行った。PBS(−)にて角膜を2回洗浄後、角膜内皮細胞にUV 250J/mを照射し、再び遮光下にて24時間4℃で保存した。保存液にはコントロール群にはDMSOを、カスパーゼ阻害剤添加群には各試薬を添加したOptisol−GS(登録商標)を用いた。
強角膜片をPBS(−)で洗浄し,MEBCYTO−Apoptosis Kit (Annexin V−FITC Kit)(メーカー:MBL,Code:4700)を用い、37℃で15分間染色した。その後、4%ホルムアルデヒドで10分間固定した。固定後、DAPI Solution(メーカー:DOJINDO,Code:GA098)で30分間染色し、退色防止剤を加え封入した。共焦点顕微鏡でAnnexin Vおよび核の観察を蛍光観察により行った。また、フローサイトメトリーよりAnnexin V陽性細胞の割合を測定した。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤は細胞障害による角膜内皮細胞のプログラム細胞死を抑制する)
図9に示される通り、UV照射群では、Annexin V陽性のアポトーシス細胞が観察され、その割合も顕著に高かった。他方で、カスパーゼ阻害剤添加群においては、Annexin Vの蛍光はほとんど観察されず、Annexin V陽性細胞の割合に関しても、UV照射なしのコントロール群よりも低いか、コントロール群と同等のAnnexin V陽性細胞の割合を示した。
(実施例8:UV照射されたウサギ角膜内皮細胞の機能障害および形態異常の観察)
本実施例では、UV照射されたウサギ角膜内皮細胞の機能障害および形態異常を共焦点顕微鏡で観察した。
(材料および方法)
本実施例では、以下のカスパーゼ阻害剤を使用した。
Z−VD−FMK (10μM)
Z−VAD−FMK (10μM)
エムリカサン (10μM)
安楽死後0〜24時間のウサギ眼球を本実施例で用いた。実体顕微鏡下で角膜輪部に沿ってスプリング剪刃を用いて強膜を切除し、水晶体および虹彩を取り除き強角膜片を作成した。強角膜片を4分割し、コントロール群および各カスパーゼ阻害剤添加群とした。角膜の分割後、コントロール群はDMSOを添加したOptisol−GS(登録商標)(Bausch&Lomb)、カスパーゼ阻害剤添加群では各試薬を添加したOptisol−GS(登録商標)にて16時間のプレトリートを遮光下にて行った。PBS(−)にて角膜を2回洗浄後、角膜内皮細胞にUV 250J/mを照射し、再び遮光下にて24時間4℃で保存した。保存液にはカスパーゼ阻害剤添加群には各阻害剤を添加したOptisol−GS(登録商標)を用いた。コントロール群には阻害剤の溶媒であるDMSOをOptisol−GS(登録商標)に添加した。
強角膜片をPBS(−)で洗浄した後に4%ホルムアルデヒドで10分間室温(RT)で固定し、1%ウシ血清アルブミン(BSA)とともに60分間インキュベートした。N−カドヘリン(BD Bioscience)およびZO−1(Zymed Laboratories)に対する抗体を1:300希釈を用いて実施した。二次抗体には、Alexa Fluor(登録商標)488標識ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies)およびAlexa Fluor(登録商標)(Invitrogen、A11009)1:1000希釈を使用した。アクチンの染色には、phalloidin(Life Technologies)546の1:400希釈を使用した。次いで、細胞の核をDAPI(Cell stain DAPI Solution;Dojindo,Kumamoto,Japan)で染色した。その後、共焦点顕微鏡(TCS SP2 AOBS; Leica Microsystems, Wetzlar Germany)を用いて蛍光観察を行った。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤は細胞障害刺激による角膜内皮細胞の機能障害および形態異常を抑制する)
結果を図10に示す。N−カドヘリン、ZO−1は、アドへレンスジャンクションやタイトジャンクションに関与するタンパク質であり、これらの蛍光観察により角膜内皮細胞の機能の一つであるバリア機能を評価することができる。UV照射群では、N−カドヘリンの蛍光がほとんど観察されず、アドへレンスジャンクションが障害されていることがわかる。また、ZO−1の蛍光観察からは、タイトジャンクションが障害されていることがわかる。phalloidinは、細胞形態の維持等を含む様々な役割を持つアクチンに結合するため、細胞形態を評価することができる。phalloidinの蛍光画像からわかるように、UV照射群では、コントロールでは細胞の皮質部分に局在するアクチンが細切れになり異常な局在を示している。これらのUV対照群における観察とは対照的に、UV照射+カスパーゼ阻害剤添加群においては、コントロール群(UV照射なし)と同様に細胞の機能・形態が維持されていることが認められる。
(実施例9:不死化フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来細胞(iFECD)のTGF−β2による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果)
本実施例では、不死化フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来細胞(iFECD)のTGF−β2による細胞障害に対するカスパーゼ阻害剤の効果を検討した。
(材料および方法)
iFECDをコーティングされていない12ウェルプレートに1.2×10ずつ播種し、37℃で5%COの条件下にて24時間培養した。培地はダルベッコ改変イーグル培地(nacalai tesque,26252−94)+10% FBS(Biological Industries/04−001−1A)+1% Penicillin−Streptomycin(nacalai tesque, 26252−94)を使用した。
播種してから24時間後、各阻害剤を10μMの濃度で添加し37℃で5%COの条件下にて24時間インキュベートした。なお、コントロール群、TGF−β2群は培地を交換した。培地は、DMEM+2% FBS+1% P/Sを使用した。
試薬は以下のものを使用した:
SB431542(和光純薬工業株式会社/192−16541)、Z−VAD−FMK(ペプチド研究所/3188−v)、Z−VD−FMK(異性体混合物)(和光純薬工業株式会社/262−02061)、エムリカサン(CHEMSCENE,LLC/CS−0599)。
次に、TGF−β2(製造元:R&D Systems, Inc.、販売元:和光純薬工業株式会社/製造元コード302−B2−002,302−B2−010、販売元コード:553−62881,559−62883)(10ng/mL)のみまたはTGF−β2(10ng/mL)と各阻害剤(10μM)の両方を添加し24時間後に位相差顕微鏡を用いて細胞形態およびプログラム細胞死を観察した。
観察後、以下の手順でフローサイトメトリーを用いてAnnexin Vの陽性細胞率を検討した。
浮遊および死細胞も回収するため、細胞をダルベッコPBS(−)(ニッスイ/05913)1mLで2回洗浄した溶液も回収し、200μL/ウェルのAccutase(INNOVAT/AT104)を滴下し、5分間インキュベートした。インキュベートした後、ダルベッコ改変イーグル培地(nacalai tesque,26252−94)1mLで洗浄し、4℃、1500rpm、5分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。沈殿物にダルベッコPBS(−)を1mL加えピペッティングしてから4℃、1500rpm、5分遠心し上清を除去した。その後Binding Buffer(MBL/4700−300)92.5μL、Annexin V−FITC(Reagent)(MBL/4700−100)5μL/ウェル、Propidium Iodide(PI)2.5μL/ウェルを滴下し、ピペッティングした後5分間室温で遮光しながらインキュベートした後、BD Accuri TM C6 Flow Cytometer(日本ベクトン・ディッキソン株式会社)を用いてAnnexin Vの陽性細胞率を測定した。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤はフックス角膜内皮ジストロフィ疾患細胞モデルの角膜内皮細胞のアポトーシスを抑制する)
図11に示される通り、TGF−β2群において顕著な細胞死が観察されたが、各カスパーゼ阻害剤が添加された群においては、TGF−β2阻害剤であるSB431542を添加した群と同様に、プログラム細胞死が抑制されていたことが観察された。この結果は、カスパーゼ阻害剤がTGF−β2刺激による細胞障害を抑制することができることを示している。
フローサイトメトリーの結果を図12および図13に示す。カスパーゼ阻害剤添加群は、TGF−β2添加群よりもAnnexin V陽性細胞率が低かった。これは、TGF−β2により誘導される角膜内皮細胞の障害を、TGF−βシグナル阻害とは別の経路にも拘らず同程度にカスパーゼ阻害剤が強く抑制したことを意味する。
(実施例10:不死化フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来細胞(iFECD)におけるTGF−β2によるカスパーゼ3の活性化)
本実施例では、不死化フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来細胞(iFECD)におけるTGF−β2によるカスパーゼ3の活性化に対するカスパーゼ阻害剤の抑制効果を調べた。
(材料および方法)
IFECDの培養は実施例9と同様の手順で行った。
1)タンパク質の回収
浮遊および死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞をダルベッコPBS(−)(ニッスイ/05913)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800g、5分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% SDS、0.5% DOC、1% NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊および死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で3分間超音波を当てたのち、4℃、1500rpm、10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。
2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質(各ウェルにそれぞれ9μl流し、タンパク質量は、Cleaved−Caspase3およびGAPDHは約5.4μg、PARPは約6.2μgであった。)をSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、Anti−GAPDH mAb(株式会社医学生物学研究所/M171−3)、PARP Antibody(CSTジャパン株式会社/9542S)、Caspase−3 Antibody(CSTジャパン株式会社/9662S)を用いた。2次抗体はECL Mouse IgG, HRP−Linked Whole Ab (ヒツジ由来)(GE Healthcare Life Sciences/ NA931V)、ECL Rabbit IgG, HRP−linked whole Ab(ロバ由来)(GE Healthcare Life Sciences/ NA934V)を用いた。1次抗体はAnti−GAPDH mAbを3000倍希釈、PARP Antibodyを2000倍希釈、Caspase−3 Antibodyを1000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi−Lumi One Ultra(ナカライテスク株式会社/11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)およびImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。
(結果)
(カスパーゼ阻害剤はフックス角膜内皮ジストロフィ疾患細胞モデルのカスパーゼ3の活性化を抑制する)
ウェスタンブロットの結果を図14に示す。示される通り、カスパーゼ阻害剤添加群においては、活性化型の切断カスパーゼ3のバンド(約17kDa)が観察されず、カスパーゼ阻害剤が、フックス角膜内皮ジストロフィ疾患細胞モデルのカスパーゼ3の活性化を抑制することが示された。
(実施例11:ウサギ角膜を用いたカスパーゼ阻害剤の角膜保存に対する効果の検討)
本実施例では、ウサギ角膜を用いたカスパーゼ阻害剤の角膜保存に対する効果を検討した。
(材料および方法)
安楽死後0〜24時間のウサギ眼球を実験に用いた。実体顕微鏡下で角膜輪部に沿ってスプリング剪刃を用いて強膜を切除し、水晶体および虹彩を取り除き強角膜片を作成した。強角膜片を2分割し、コントロール群およびエムリカサン添加群とした。角膜の分割後、コントロール群はDMSOを添加したOptisol−GS(登録商標)(Bausch&Lomb)、カスパーゼ阻害剤添加群ではエムリカサンを添加したOptisol−GS(登録商標)にて2週間4℃で静置した。
その後、強角膜片をPBS(−)で洗浄した後に4%ホルムアルデヒドで10分間室温(RT)で固定し、1%ウシ血清アルブミン(BSA)とともに60分間インキュベートした。N−カドヘリン(BD Bioscience)およびZO−1(Zymed Laboratories)に対する抗体を1:300希釈で使用した。二次抗体には、Alexa Fluor(登録商標)488標識ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies、A11009)の1:1000希釈したものを使用した。アクチンの染色には、phalloidin(Life Technologies)546の1:400希釈を使用した。次いで、細胞の核をDAPI(Cell stain DAPI Solution;Dojindo,Kumamoto,Japan)で染色した。共焦点顕微鏡(TCS SP2 AOBS; Leica Microsystems, Wetzlar Germany)を用いて蛍光観察を行った。蛍光顕微鏡像をもとにアクチンの収縮環が認められた細胞をカウントして、割合を測定した。
(結果)
(Emricasanは角膜保存液への添加により角膜保存中の角膜内皮障害を抑制する)
結果を図15に示す。4℃で2週間保存後の蛍光画像からわかるように、コントロール群は細胞障害を受けているのに対し、エムリカサン添加群は、4℃で2週間保存してもほとんど細胞障害を受けず、細胞の形態異常が観察されなかった。また、細胞障害に際して認められるアクチンの収縮環の出現をエムリカサンが有意に抑制した。
(実施例12:凍結保存液の検討)
本実施例では、凍結保存液の検討を行った。
(材料および方法)
市販される凍結保存液、CELL BANKER PLUS(タカラバイオ カタログ番号:CB021)、CELL BANKER 2(タカラバイオ カタログ番号:CB031)、STEM−CELLBANKER(タカラバイオ カタログ番号:CB043)、KM BANKER(コージンバイオ カタログ番号:KOJ−16092005)、Freezing Medium, Animal Component Free, CRYO Defined(Cnt−CRYO)(CELLNTEC カタログ番号:CnT−CRYO−50)、およびOptiMEM(INVITROGEN)に10%(v/v)となるようにウシ胎児血清とDMSO(ナカライテスク)を添加し、凍結保存液として用いた。
試験には培地はOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN カタログ番号:31985−070)+8%ウシ胎仔血清(FBS)(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA カタログ番号:C7902−500G)+0.08% コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)+20μg/ml アスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)+50μg/ml ゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)+5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)をMSCフィーダー細胞用に馴化させたものを用いた。上記培地で培養したヒト角膜内皮細胞を用いた。各凍結保存液に上記細胞を細胞濃度100,000個/mlとなるように懸濁し、それぞれをクライオチューブ(CORNING カタログ番号:430488)に1mLずつ入れた。次いで凍結チューブをバイセル(日本フリーザー カタログ番号:BICELL)に入れ、−80℃で10日間保存した後、37℃水浴にてチューブを浸漬して解凍した。解凍後、培地で洗浄してトリパンブルー色素排除法により、生細胞数と死細胞数を測定した。
下記式により、各凍結保存液についての生存率を算出した。
生存率=生細胞数/(生細胞数+死細胞数)×100
また10,000細胞ずつ分注してCellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega カタログ番号:G7570)で、生存率を算出した。
(結果)
(市販される各種凍結保存液においてKM bankerは角膜内皮細胞の細胞障害抑制に優れる)
結果を図16に示す。トリパンブルー陰性細胞の割合は凍結保存液間で差は認められなかった。しかしながら、より代謝活性のある細胞に由来するATPを定量することにより算出された細胞生存率は、Km bankerが最も高く、コントロールとほとんど変わらなかった。
(実施例13:各種凍結保存液における角膜内皮細胞の凍結後の細胞生着)
本実施例では、各種凍結保存液における角膜内皮細胞の凍結後の細胞生着を観察した。
(材料および方法)
実施例12と同様に角膜内皮細胞の凍結保存および解凍を行った。
解凍後、細胞をラミニンE8(ベリタス)でコーティングした96ウェルプレートに1ウェルあたり5000細胞播種し、Y27632存在下および非存在下で培養した。培養3日後、位相差顕微鏡像を取得した(倍率:100倍)。
また、凍結した細胞と同ロットの細胞を用いて検量線を描き、CellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega カタログ番号:G7570)を実施し、細胞数を測定した(n=6)。
(結果)
(KM bankerは角膜内皮細胞の凍結後の細胞生着を促進する)
図17に示される顕微鏡像からわかるように、KM bankerを使用した場合、細胞生着が促進されていることが観察された。さらに、図18に示されるように、KM bankerを使用した場合、凍結保存を経ていない継代培養細胞と比較してわずかに細胞数が少なかったが、他の凍結保存液を使用した場合と比較して顕著に高い細胞数を示した。これは、KM bankerは、角膜内皮細胞の凍結保存後の細胞生着を促進していることを示している。
(実施例14:Z−VD−FMKのカスパーゼ阻害による角膜内皮凍結保存後の角膜内皮細胞培養の促進)
本実施例では、角膜内皮凍結保存後の角膜内皮細胞培養におけるZ−VD−FMKのカスパーゼ阻害の効果を検証した。
(材料および方法)
試験にはMSC−CM(MSC順化培地)で培養したヒト角膜内皮細胞を用いた。ヒト角膜内皮細胞を培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいたPBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。PBS(−)除去後、TrypLE Select(×10)(GIBCO、A12177−01)を添加し、37℃(5% CO)で10分インキュベートした。その後、KM BANKERで凍結保存した。−80℃で3日間保存した後、37℃水浴にてチューブを浸漬して解凍した。また細胞をラミニンE8をコーティングした12ウェルプレートに100,000細胞播種し、播種時に最終濃度5μmol/lとなるようにZ−VD−FMK添加した。Z−VAD−FMKを添加しない群に関してはDMSOを添加した。
(結果)
(Z−VD−FMKは角膜内皮凍結保存後の角膜内皮細胞培養を促進する)
図19に示される通り、カスパーゼ阻害剤であるZ−VD−FMKを添加した場合は、凍結保存後の角膜内皮細胞培養において細胞増殖を促進した。したがって、カスパーゼ阻害剤は、角膜内皮細胞の増殖に有用であることが明らかになった。
(実施例15:Z−VD−FMKによる角膜内皮凍結保存における細胞障害の減少)
本実施例では、Z−VD−FMKによる角膜内皮凍結保存における細胞障害の減少を調べた。
(材料および方法)
試験にはMSC−CMで培養したヒト角膜内皮細胞を用いた。ヒト角膜内皮細胞を培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいたPBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。PBS(−)除去後、TrypLE Select(×10)(GIBCO、A12177−01)を添加し、37℃(5% CO)で10分インキュベートした。その後、KM BANKERに最終濃度10μmol/lとなるようにZ−VD−FMK(和光純薬工業 カタログ番号:262−02061)を加えて凍結保存した。なお、コントロール群には、試薬の溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)(Dimethyl Sulfoxide,Sterile−filtered;nacalai tesque,13408−64)を添加して凍結した。
−80℃で3日間保存した後、37℃水浴にてチューブを浸漬して解凍した。解凍後、培地で洗浄してトリパンブルー色素排除法により、生細胞数と死細胞数を測定した。また細胞をラミニンE8をコーティングした96ウェルプレートに10,000細胞播種し、播種時に最終濃度5μmol/lとなるようようにZ−VD−FMK、または最終濃度10μmol/lとなるようにSB203580(Cayman、カタログ番号:13067)を添加した。Z−VAD−FMKおよびSB203580を添加しない群に関してはDMSOを添加した。播種して24時間後、CellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega カタログ番号:G7570)を実施して発光量を測定した。
(結果)
(Z−VD−FMKによるカスパーゼ阻害は角膜内皮凍結保存による細胞障害を減らす)
本実施例では、凍結保存におけるカスパーゼ阻害剤の細胞生存率に対する影響および凍結保存後に添加したカスパーゼ阻害剤の細胞数に対する影響を調べた。凍結から常温に回復した直後の細胞生存率は、Z−VD−FMKを凍結保存液に添加した場合(Freeze+Z−VD−FMK)、添加していない場合(Freeze control)と比べ細胞生存率が高かった(図20左)。Freeze control群において、凍結保存後にZ−VD−FMKを添加した場合、細胞障害が抑制され、細胞数は、凍結保存後にDMSOを添加した場合と比較しておよそ1.7倍であった。Freeze+Z−VD−FMK群においては、凍結保存後にDMSOを添加した場合、細胞数はおよそ2.2倍であり、凍結保存後にさらにZ−VD−FMKを添加した場合は、およそ2.5倍であった。また、p38MAPK阻害剤であるSB203580を添加した場合は相乗効果が確認された。
(実施例16:Z−VD−FMKは複数の凍結保存液への添加において凍結後の細胞培養を促進する)
(材料および方法)
試験にはMSC−CMで培養したヒト角膜内皮細胞を用いた。ヒト角膜内皮細胞を培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいたPBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。PBS(−)除去後、TrypLE Select(×10)(GIBCO、A12177−01)を添加し、37℃(5% CO)で10分インキュベートした。その後、Cell BANKER、KM BANKERを凍結保存液として使用して凍結保存した。コントロールにはDMSOを使用した。−80℃で3日間保存した後、37℃水浴にてチューブを浸漬して解凍した。
また細胞をラミニンE8をコーティングした96ウェルプレートに10,000細胞播種し、播種時に最終濃度5μmol/lとなるようにZ−VD−FMK、または最終濃度5μmol/lとなるようにY27632(和光純薬工業 カタログ番号:253−00513)を添加した。Z−VAD−FMKおよびY27632を添加しない群に関してはDMSOを添加した。播種して24時間後、CellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega カタログ番号:G7570)を実施してGROWMAX(プロメガ)で発光量を測定した。
(結果)
(Z−VD−FMKは複数の凍結保存液への添加における凍結後の細胞培養を促進する)
結果を図21に示す。示される通り、凍結保存後にZ−VAD−MKを添加した場合、添加していない場合と比べて顕著に細胞数が多いことが認められる。また、Cell Bankerを凍結保存液として使用した場合でも、KM Bankerを凍結保存液として使用した場合でも、Z−VAD−MKの効果は同等であることがわかる。したがって、Z−VAD−MKは、いずれの凍結保存液において添加しても同様に細胞培養を促進することが示された。
(実施例17:TGFβによるフィブロネクチン産生に対するカスパーゼ阻害剤の抑制効果)
本実施例では、カスパーゼ阻害剤がTGF−β2による角膜内皮細胞の細胞外マトリックス産生を抑制することを確認した。
(蛍光観察)
(材料および方法)
24ウェルプレートに丸ガラスを置き、エタノールで5分間消毒しラミニン−511 E8 Fragmentでコーティングした。その後、iFECDを4.0×10ずつ播種し、6割〜7割コンフルエントになるまで37℃(5% CO)で培養した。培地はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、nacalai tesque、08456−36)+10%FBS(Thermo Fisher Scientific、S1820−500)+1%ペニシリン−ストレプトマイシン(nacalai tesque、26252−94)を使用した。その後、SB431542(和光純薬工業株式会社/192−16541)、Z−VD−FMK(異性体混合物)(和光純薬株式会社/262−02061)、エムリカサン(CHEMSCENE、LLC/CS−0599)を10μMの濃度で添加し24時間インキュベートした。コントロール群、TGF−β2添加群は培地交換を行った。培地はDMEM+2%FBS+1%P/Sを用いた。その後、TGF−β2(10ng/mL)のみまたはTGF−β2(10ng/mL)と各阻害剤(10μM)の両方を添加し24時間後に下記の方法で免疫染色を行った。
刺激してから24時間後の細胞をPBS(−)で洗浄し、4%PFAで室温で10分間固定した。その後0.5%トライトンで5分間透過処理をし、1%BSAで1時間ブロッキングをした。一次抗体反応を室温で一時間または一晩行った。このとき、フィブロネクチン(BD Bioscinece,610077)に対する抗体を1:400に希釈して用いた。二次抗体にはAlexa488標識ヤギ抗体マウスIgG(Life Technologies、A11009)の1:1000希釈したものを用いた。さらに、細胞核をDAPI(Cell stain DAPI Solution;Dojindo、Kumamoto、Japan)を1:2000で希釈したもので染色した。共焦点顕微鏡(Leica Microsystems CMS GmcH Am Friendensplatz 3 68165 Mannheim,Germany)を用いて蛍光観察を行った。
(ウェスタンブロットによる発現の確認)
(材料および方法)
iFECDを12ウェルプレートに1.0×10ずつ播種し、6割〜7割コンフルエントになるまで37℃(5%CO)で培養した。培地はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、nacalai tesque、08456−36)+10%FBS(Thermo Fisher Scientific、S1820−500)+1%ペニシリン−ストレプトマイシン(nacalai tesque、26252−94)を使用した。その後、SB431542(和光純薬工業株式会社/192−16541)、Z−VD−FMK(異性体混合物)(和光純薬株式会社/262−02061)エムリカサン(CHEMSCENE、LLC/CS−0599)を10μMの濃度で添加し24時間インキュベートした。コントロール群、TGF−β2添加群は培地交換を行った。培地はDMEM+2%FBS+1%P/Sを用いた。その後、TGF−β2(10ng/mL)のみまたはTGF−β2(10ng/mL)と各阻害剤(10μM)の両方を添加し24時間後に下記の方法でタンパクを回収した。
(1)タンパク質の回収
浮遊及び死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800g、15分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% SDS、0.5% DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後上記浮遊および死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて3分粉砕後、10分遠心し(4℃、15000rpm)、タンパク質の上清を回収した。
(2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質8μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体にはマウス抗フィブロネクチン抗体(BD Bioscinece,610077)、ウサギ抗Smad2抗体(cell signaling、5339P)、ウサギ抗p−Smad2抗体(cell signaling、3108S)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171ー3)を用いた。2次抗体はペルオキシターゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA934V、NA931V)を用いた。1次抗体はマウス抗Fibronectin抗体を20000倍希釈、ウサギ抗Smad2抗体およびウサギ抗p−Smad2抗体を1000倍希釈、GAPDHを3000倍希釈し、二次抗体は5000倍希釈した。
検出にはChemi Lumi ONE Ultra(nacalai tesque、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度はAmershamTM Imager 600(GE Healthcare社)により解析した。
(結果)
結果を図22および23に示す。本実施例では、TGF−β2刺激による細胞外マトリックス産生に対するカスパーゼ阻害剤の効果について検討を行った。TGF−β2添加群において、フィブロネクチンの発現がコントロールに比べ増加していた。それに対し、TGF−β2+カスパーゼ阻害剤添加群において発現が減少していた。また、TGF−β2添加群、TGF−β2+カスパーゼ阻害剤においてリン酸化Smad2(p−Smad2)の発現が認められた。
(考察)
図22および図23から明らかなように、TGF−β2添加群においてはフィブロネクチンの過剰発現が認められ、TGF−β2阻害剤であるSB431542添加群においては、TGF−β2によるフィブロネクチンの過剰発現が抑制されており、またTGF−β2刺激によりリン酸化されるSmad2の存在も認められなかった。他方で、カスパーゼ阻害剤であるZ−VD−FMKまたはエムリカサンを添加した群では、フィブロネクチンの過剰発現が抑制されていたにもかかわらず、p−Smad2の存在が認められた。これは、カスパーゼ阻害剤が、TGF−β2シグナルとは異なる経路でフィブロネクチンの過剰発現を抑制していることが示唆される。実際、カスパーゼは細胞死に関与していることが知られているが、細胞外マトリックスの発現に関与していることは知られていなかった。したがって、カスパーゼ阻害剤が、TGF−β2シグナルとは異なる経路でフィブロネクチンの過剰発現を抑制することは予想外であった。
フックス角膜内皮ジストロフィにおいてはフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスの過剰産生およびデスメ膜への沈着による、デスメ膜肥厚、グッテー(guttae)の形成などの障害が生じる。これらの障害は、フックス角膜内皮ジストロフィ患者において一般的には30代から40代に生じ始め、生涯を通じて進行する。進行により霧視、ハロー、グレア、視力低下などの視力障害を生じる。さらに、フックス角膜内皮ジストロフィでは角膜内皮細胞が継続的に障害されるが、細胞密度が約1000個/mmを下回るまではポンプ機能を残された角膜内皮が代償することで角膜の透明性は維持される。一方で、約1000個/mmを下回ると角膜に前房水が進入することで、角膜浮腫が生じ視力障害を生じる(図23)。このように、フックス角膜内皮ジストロフィ患者では、主に細胞外マトリックスの過剰産生と角膜内皮細胞死の2つの原因により視機能障害が生じる。本発明におけるカスパーゼ阻害剤の働きは、細胞外マトリックス産生の抑制および角膜内皮細胞死抑制の双方に働くことで、フックス角膜内皮ジストロフィ治療に特に有用であると言える。
(実施例18:製剤例:カスパーゼ阻害剤を含有する角膜保存液)
本実施例では、製剤例として、カスパーゼ阻害剤を含有する角膜保存液を以下のように製造する。
常法により下に示す保存液を調製する。
エムリカサン 0.5695mg
Optisol−GS(Bausch−Lomb)適量
全量100mL
エムリカサンはChemscene社製を用いることができる。
(実施例19:点眼剤の調製例)
各濃度の被験物質の組成を以下に示す。
エムリカサン 1〜10mM(569.5-5695mg)
または、他のカスパーゼ阻害剤の適切な濃度
塩化ナトリウム 0.85g
リン酸二水素ナトリウム二水和物 0.1g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
全量100mL(pH7.0)
濃度は、以下からなる基剤を用いて希釈してもよい。
塩化ナトリウム 0.85g
リン酸二水素ナトリウム二水和物 0.1g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
全量100mL(pH7.0)
(実施例20:治療例)
フックス角膜内皮ジストロフィおよび類縁の角膜内皮疾患と診断された際に(具体例としては、1)細隙灯顕微鏡検査によるグッテー形成、デスメ膜肥厚、角膜上皮浮腫、角膜実質浮腫の観察、2)スペキュラマイクロスコープによるグッテー像、角膜内皮障害像の観察、3)ペンタカム、OCT、超音波角膜厚測定装置などによる角膜浮腫の観察、4)遺伝子診断により高リスクと判断された場合)使用する。想定例としては、点眼薬、前房内注射、徐放剤を用いた投与、硝子体内注射、結膜下注射などがある。
有効成分以外の各成分としては、例えば、日本薬局方またはその等価物に適合した、市販のものを利用することができる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本出願は、2015年12月24日に出願された日本国出願特願2015−251787号に基づく優先権の利益を主張し、その内容は、その全体が参考として援用される。
角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナル、ミトコンドリア異常、および/または細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮障害の治療または予防のための医薬が提供され、特に、フックス角膜内皮ジストロフィの角膜内皮障害を治療または予防するための医薬が提供された。このような技術に基づく製剤等に関連する技術に関与する産業(製薬等)において利用可能な技術が提供される。

Claims (34)

  1. カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬。
  2. 前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)、および特発性角膜内皮障害からなる群より選択される、請求項1に記載の医薬。
  3. 前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、請求項1または2に記載の医薬。
  4. 前記医薬は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける細胞外マトリクスの過剰産生に起因する症状を治療または予防するものである、請求項に記載の医薬。
  5. 前記症状は、角膜内皮面の疣贅(グッタータ)、デスメ膜の混濁グッテー、デスメ膜の肥厚、霧視、ハロー、グレア、視力低下、角膜混濁、白斑および視感覚の異常からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項に記載の医薬。
  6. カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬。
  7. 前記症状、障害または疾患は、角膜内皮細胞におけるフィブロネクチンの過剰発現に起因する、請求項に記載の医薬。
  8. 前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、グッテーの形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、混濁、瘢痕、角膜片雲、角膜斑、角膜白斑、羞明、および霧視からなる群より選択される請求項に記載の医薬。
  9. 前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、請求項のいずれかに記載の医薬。
  10. 前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける、グッテーの形成およびデスメ膜の肥厚から選択される少なくとも1つを含む、請求項に記載の医薬。
  11. カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルおよび細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬。
  12. 前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、その他の角膜内皮ジストロフィ、ならびに、薬物、手術、外傷、感染症、またはぶどう膜炎による角膜内皮障害からなる群より選択される請求項11に記載の医薬。
  13. 前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、請求項1または1に記載の医薬。
  14. カスパーゼ阻害剤を含む凍結保存液を含む、角膜内皮細胞の凍結保存または凍結保存後の培養のための組成物。
  15. カスパーゼ阻害剤を含む、角膜内皮細胞の増殖を促進するための組成物。
  16. p38MAPキナーゼをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
  17. 前記カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ−3阻害剤である、請求項1〜16のいずれかに記載の医薬または組成物。
  18. 前記カスパーゼ阻害剤は、Z−VD−FMK、Z−VAD−FMK、エムリカサンおよびニボカサンからなる群より選択される、請求項1〜13のいずれかに記載の医薬。
  19. 前記Z−VD−FMKの濃度は、約3μM〜約100μMである、請求項18に記載の医薬。
  20. 前記Z−VAD−FMKの濃度は、約3μM〜約30μMである、請求項18に記載の医薬。
  21. 前記エムリカサンの濃度は、約1μM〜約100μMである、請求項18に記載の医薬。
  22. 前記ニボカサンの濃度は、約30μM〜約300μMである、請求項18に記載の医薬。
  23. 前記カスパーゼ阻害剤は、Z−VD−FMK、Z−VADFMK、エムリカサンおよびニボカサンからなる群より選択される、請求項14または15に記載の組成物。
  24. 前記Z−VD−FMKの濃度は、約3μM〜約100μMである、請求項23に記載の組成物。
  25. 前記Z−VAD−FMKの濃度は、約3μM〜約30μMである、請求項23に記載の組成物。
  26. 前記エムリカサンの濃度は、約1μM〜約100μMである、請求項23に記載の組成物。
  27. 前記ニボカサンの濃度は、約30μM〜約300μMである、請求項23に記載の組成物。
  28. カスパーゼ阻害剤を含む、フックス角膜内皮ジストロフィを治療または予防するための医薬であって、該カスパーゼ阻害剤はエムリカサンである、医薬。
  29. 前記フックス角膜内皮ジストロフィは、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルに起因する、請求項28に記載の医薬。
  30. 前記フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する、請求項28に記載の医薬。
  31. 前記フックス角膜内皮ジストロフィは、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルおよび細胞外マトリックスの過剰発現に起因する、請求項28に記載の医薬。
  32. 前記エムリカサンの濃度は、約1μM〜約100μMである、請求項29〜31のいずれかに記載の医薬
  33. 前記カスパーゼ阻害剤はZ−VD−FMKであり、前記凍結保存液はKM BANKER(商標)、CELL BANKER(登録商標)、またはこれらの改変された凍結保存液である、請求項1に記載の組成物。
  34. 前記カスパーゼ阻害剤はZ−VD−FMKである、請求項1または16に記載の組成物。
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