以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.脈拍計の構成例
まず、図1を用いて本実施形態の脈拍計(広義には電子機器)の基本的な構成例を説明する。なお、図1は脈拍計の一例を示すものであり、本実施形態の脈拍計に含まれる構成が簡略化或いは省略されている場合もあるし、本実施形態の脈拍計では必須の構成でないものが含まれている場合もある。
図1に示すように、本実施形態の脈拍計は、脈波検出部10と、体動検出部20と、処理部100と、表示部70とを含む。ただし、脈拍計は図1の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略・変更したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
脈波検出部10は、脈波センサー11のセンサー情報(脈波センサー信号)に基づいて信号を出力する。脈波検出部10は、例えば脈波センサー11と、フィルター処理部15と、A/D変換部16を含むことができる。ただし、脈波検出部10は図1の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素(例えば信号を増幅する増幅部等)を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
脈波センサー11は、脈波信号を検出するためのセンサーであり、例えば光電センサー等が考えられる。なお、脈波センサー11として光電センサーを用いる場合には、太陽光等の外光の信号成分をカットするように構成されているセンサーを用いてもよい。これは例えば、フォトダイオードを複数設け、それらの信号を用いてフィードバック処理等で差分情報を求める構成等により実現できる。
なお、脈波センサー11は光電センサーに限定されず、超音波を用いたセンサーであってもよい。この場合、脈波センサー11は2つの圧電素子を有し、一方の圧電素子を励振させて生体内に超音波を送信するとともに、当該超音波が生体の血流によって反射されたものを他方の圧電素子により受信する。送信した超音波と受信した超音波には、血流のドップラー効果によって周波数変化が生じるため、この場合にも血流量に対応する信号を取得することができ、拍動情報の推定が可能である。また、脈波センサー11として他のセンサーを用いてもよい。
フィルター処理部15は、脈波センサー11からのセンサー情報に対してハイパスフィルター処理を行う。なお、ハイパスフィルターのカットオフ周波数は典型的な脈拍数から求められてもよい。例えば、通常の人の脈拍数は、毎分30回を下回るケースは非常に少ない。つまり、心拍に由来する信号の周波数は0.5Hz以下になることはまれであるから、この範囲の周波数帯の情報をカットしたとしても、取得したい信号に対する悪影響は小さいはずである。よって、カットオフ周波数としては0.5Hz程度を設定してもよい。また、状況によっては1Hz等の異なるカットオフ周波数を設定してもよい。さらに言えば、人の脈拍数には典型的な上限値を想定することも可能であるから、フィルター処理部15ではハイパスフィルター処理ではなくバンドパスフィルター処理を行ってもよい。高周波側のカットオフ周波数もある程度自由に設定可能であるが、例えば4Hz等の値を用いればよい。
A/D変換部16では、A/D変換処理を行い、デジタル信号を出力する。なお、上述のフィルター処理部15での処理は、A/D変換処理の前に行われるアナログフィルター処理であってもよいし、A/D変換処理の後に行われるデジタルフィルター処理であってもよい。
体動検出部20は、種々のセンサーのセンサー情報に基づいて体動に応じた信号(体動検出信号)を出力する。体動検出部20は、例えば加速度センサー21と、圧力センサー22と、A/D変換部26を含むことができる。ただし、体動検出部20はその他のセンサー(例えばジャイロセンサー)や、信号を増幅する増幅部等を含んでもよい。また、複数種類のセンサーを設ける必要はなく、1種類のセンサーを含む構成であってもよい。
処理部100は、信号処理部110と、拍動情報演算部120を含む。ただし、処理部100は図1の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。信号処理部110は、脈波検出部10からの出力信号や、体動検出部20からの出力信号に対して信号処理を行う。
信号処理部110は、脈波信号処理部111と、体動信号処理部113と、体動ノイズ低減部115を含むことができる。
脈波信号処理部111は、脈波検出部10からの信号に対して、何らかの信号処理を行う。なお、図1のD1で示した脈波検出部10からの出力としては、脈波センサー信号に基づく種々の信号が考えられる。例えば、後述する拍動情報の演算はDC成分カット後の脈波センサー信号(以下、脈波検出信号とも表記する。また、後の説明ではこれと同等の信号をAC成分信号と表記する)に基づいて行われることが多いため、D1にはハイパスフィルター処理後の脈波センサー信号が含まれることが想定される。ただし、フィルター処理が行われていない信号が出力されてもよいし、場合によってはローパスフィルター処理後の脈波センサー信号が出力されてもよい。D1に複数の信号(例えばハイパスフィルター処理前の脈波センサー信号と、処理後の脈波センサー信号の両方)が含まれる場合には、脈波信号処理部111での処理は、D1に含まれる信号の全部に対して行われてもよいし、一部に対して行われてもよい。処理内容も種々考えられ、例えば脈波検出信号に対するイコライザー処理であってもよいし、他の処理であってもよい。
体動信号処理部113は、体動検出部20からの体動検出信号に対して、種々の信号処理を行う。D1と同様に、D2で示した体動検出部20からの出力としても種々の信号が考えられる。例えば、図1の例では加速度センサー21と、圧力センサー22を含んでいるため、D2の体動検出信号は加速度信号と圧力信号とを含むことになる。また、体動検出用センサーは、ジャイロセンサー等、他のセンサーを用いることも可能であるから、D2にはセンサーの種類に対応する種類の出力信号が含まれることになる。体動信号処理部113での処理は、D2に含まれる信号の全部に対して行われてもよいし、一部に対して行われてもよい。例えば、D2に含まれる信号の比較処理を行って、体動ノイズ低減部115でのノイズ低減処理で用いられる信号を決定する処理を行ってもよい。
なお、脈波信号処理部111での処理において、脈波検出部10からの信号に併せて体動検出信号も用いるものとしてもよい。同様に、体動信号処理部113での処理において、体動検出信号に併せて脈波検出部10からの信号も用いるものとしてもよい。また、脈波検出部10からの出力信号に対して、脈波信号処理部111において所与の処理が行われた後の信号を、体動信号処理部113での処理に用いてもよいし、その逆であってもよい。
体動ノイズ低減部115は、体動検出信号を用いて、脈波検出信号から体動に起因したノイズ(体動ノイズ)を低減する処理を行う。適応フィルターを用いたノイズ低減処理の具体例を図2に示す。脈波センサー11から取得された脈波センサー信号には、心拍に起因する成分の他に、体動に起因する成分も含まれている。それは、拍動情報の演算に用いられる脈波検出信号(DC成分カット後の脈波センサー信号)でも同様である。このうち拍動情報の演算に有用であるのは心拍に起因する成分であって、体動に起因する成分は演算の妨げとなる。よって、体動センサーを用いて体動に起因する信号(体動検出信号)を取得し、脈波検出信号から体動検出信号と相関のある信号成分(推定体動ノイズ成分と呼ぶ)を除去することで、脈波検出信号に含まれる体動ノイズを低減する。ただし、脈波検出信号中の体動ノイズと、体動センサーからの体動検出信号は、ともに同一の体動に起因する信号であったとしてもその信号レベルまで同一であるとは限らない。よって、体動検出信号に対して適応的にフィルター係数が決定されるフィルター処理を行うことで、推定体動ノイズ成分を算出し、脈波検出信号と推定体動ノイズ成分の差分をとるものとする。
以上の処理を周波数スペクトルで説明したものが図3(A)〜図3(C)である。図3(A)等は、上部に信号の時間変化波形を示し、下部にその周波数スペクトルを示したものである。図3(A)は体動ノイズ低減前の脈波検出信号を表したものであり、A1及びA2に示したように、スペクトルにおいて値の大きい周波数が2つ現れている。このうち一方が心拍に起因するものであり、他方が体動に起因するものである。なお、A1よりも高い周波数にも値が大きいものがあるが、A1,A2の整数倍に相当する高周波成分であるため、ここでは考慮しない。以下、図3(B)、図3(C)においても高周波成分が見られるが、同様にここでは考慮しないものとする。
それに対して、図3(B)は体動検出信号を表したものであり、体動検出信号の要因となった体動が1種類であれば、B1に示したように値が大きい周波数が1つ現れる。ここで、B1の周波数は図3(A)のA2に対応している。このような場合に、図2に示したような手法で脈波検出信号と推定体動ノイズ成分との差分をとることで、図3(C)の信号が得られる。図から明らかなように、心拍及び体動に起因する2つのピークA1,A2を持つ脈波検出信号から、体動に起因するピークB1を持つ推定体動ノイズ成分を引くことで、脈波検出信号中の体動成分(A2に対応)が除かれ、結果として心拍に起因するピークC1(周波数はA1に対応)が残ることになる。
なお、脈波検出信号に含まれる体動ノイズと、体動検出信号とが対応していること、及び体動検出信号にノイズ低減処理に悪影響を及ぼす信号成分が含まれていないこと等が保証される状況では、体動ノイズ低減部115において周波数解析を行う必要はないため、図3(A)、図3(B)の下部に示された周波数スペクトルは考慮せずともよい。ただし、体動検出信号の取得に用いられるセンサーの種類等によっては、上記の条件が満たされないケースも起こりえる。その場合には、例えば体動信号処理部113において、上記条件を満たすように体動検出信号を加工してもよいし、上記条件を見たさない体動検出信号を体動ノイズ低減部115等への出力から除外してもよい。なお、上記条件を満たすか否かの判定を行う手法としては種々考えられるが、例えば周波数解析により得られる、図3(A)、図3(B)の下部に示したような周波数スペクトルを利用してもよい。
拍動情報演算部120は、入力信号に基づいて拍動情報を演算する。拍動情報とは例えば脈拍数の値でもよい。例えば、拍動情報演算部120は、体動ノイズ低減部115でのノイズ低減処理後の脈波検出信号に対してFFT等の周波数解析を行ってスペクトルを求め、求めたスペクトルにおいて代表的な周波数を心拍の周波数とする処理を行ってもよい。その場合、求めた周波数を60倍した値が一般的に用いられる脈拍数(心拍数)となる。
なお、拍動情報は脈拍数には限定されず、例えば脈拍数を表す情報(心拍の周波数や周期等)であってもよい。また、拍動の状態を表す情報であってもよく、例えば血流量そのもの(或いはその変動)を表す値を拍動情報としてもよい。ただし、血流量と脈波センサー信号の信号値との関係にはユーザーごとに個人差があるため、血流量等を拍動情報とする場合には当該個人差に対応するための補正処理を行うことが望ましい。
また、入力された脈波検出信号の時間変化波形上で、所与の値(上ピーク、下ピーク、或いは所与の閾値以上の値等)が現れるタイミングを検出し、そのタイミングの間隔に相当する時間から、心拍の周期を求めて拍動情報を演算してもよい。或いは、脈波検出信号の波形を矩形波に変形し、当該矩形波の立ち上がり等を用いることでも拍動情報を演算できる。この場合、周波数解析を行わなくてもよいため、計算量や消費電力の面で優位である。ただし、この手法では周波数軸への変換はせずに信号値をそのまま用いているため、ある程度波形が整っている必要があることから、ノイズが多い状況等では周波数解析を行うことが望ましい。
表示部70(広義には出力部)は、演算した拍動情報等の提示に用いられる各種の表示画面を表示するためのものであり、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどにより実現できる。
上述した脈拍計の具体例を図4(A)、図4(B)に示す。図4(A)は、腕時計型の脈拍計の例である。脈波センサー11及び表示部70を含むベース部400は、保持機構300(例えばバンド等)によって、被検体(ユーザー)の左手首200に装着されている。図4(B)は、指装着型の例である。被検体の指先に挿入するためのリング状のガイド302の底部に、脈波センサー11が設けられている。ただし、図4(B)の場合には表示部70を設ける空間的余裕がないため、表示部70(及び必要に応じて処理部100に相当する部分)は脈波センサー11に接続された有線ケーブルの他端側等に設けられることが想定される。
後述する本実施形態の手法はいずれのタイプの脈拍計にも適用可能であるが、腕時計型の脈拍計(図4(A)の例)に適用するのが、より好ましい。ただし、図4(A)の例では、脈波センサー11が、手首外側(腕時計の裏蓋面と接触する部位)など、脈波センサー信号を取得しにくい部位に装着される。このため、脈波センサー11から出力される脈波センサー信号の振幅が総じて小さくなる傾向にある。よって、後述する本実施形態のように、何らかの手法により拍動情報の精度に関する処理を行うことが望ましい。
2.本実施形態の手法
上述したように、光電センサー等の脈波センサー11を用いることで、血行状態(例えば血流量)に対応した脈波センサー信号を取得することができる。しかし、腕等を強く圧迫した場合に、当該圧迫部分よりも末端側の部位では血流量が少なくなることからも容易に理解できるように、生体(狭義には血管)への外圧により血流量は変化する。つまり、外圧が過剰に強ければ脈波センサー信号の信号値を小さくしてしまい、相対的にノイズの影響が大きくなる(SN状態が悪くなる)ため、その後の処理に支障を来す(例えば脈波センサー信号に基づく拍動情報の精度が低下する)。
また、外圧が過小でも脈波センサー信号の信号値が小さくなり好ましくない。その要因の一つとしては静脈に起因する成分の影響が考えられる。脈波センサー11では、動脈に起因する成分と静脈に起因する成分の両方を取得することになるが、広く用いられている手法は、そのうちの動脈成分に基づいて拍動情報の演算等を行うものであり、静脈成分はかえって脈波センサー信号の信号値を小さくする等の悪影響を及ぼす。つまり、外圧が過小の場合には静脈成分の影響が出てしまい脈波センサー信号の信号値が小さくなってしまい、この場合も好ましくないと言える。外圧に対するAC成分信号(脈波検出信号)の変化特性例を図6に示す。図6から明らかなように押圧が過剰又は過小の場合には信号値が小さくなることがわかる。
外圧を加えることで血流が低下する点は動脈も静脈も同様であるが、生体の特徴から、静脈は動脈に比べて小さい外圧で十分血流が低下することが知られている。つまり、静脈での血流が十分低下(狭義には消失)する点(以下、静脈消失点と表記)での圧力をV1、動脈での血流が十分低下する点(以下、動脈消失点と表記)での圧力をV2とした場合には、V1<V2の関係が成り立つ。この場合、外圧がV2よりも大きい場合が上述した外圧が過剰に強い状況に相当することになり、本来取得したい動脈成分まで消失してしまっており十分な信号値が得られない。一方、外圧がV1よりも小さい場合が上述した外圧が過小な状況に相当することになり、静脈成分の影響を受けてしまい、やはり十分な信号値が得られない。
つまり、V1<V<V2を満たす外圧Vを被検体に加えることで、静脈成分の影響を十分に抑止し、かつ動脈成分の血流を必要以上に低下させないことが可能になる。本実施形態では上記条件を満たすVを適正押圧とする。なお、適正押圧は上記条件を満たすV全てではなく、その一部範囲や特定の圧力値等を指すものであってもよい。
従来、圧力センサー等を用いて生体情報を検出する部分での接触圧を測定するとともに、その接触圧と所与の基準値との比較処理に基づいて、現在の圧力が適正押圧であるか否かをグラフ表示としてユーザーに提示する手法等が開示されている。しかし、脈拍などのバイタルサインは極めて個人差が大きく、上述した適正押圧もユーザーごとに異なる値(範囲)をとる。よって、測定した接触圧との比較対象となる基準値をユーザーごとに決定しなければ個人差に対応できないところ、従来手法は単純な圧力という物理情報に基づく処理が記載されているにすぎない。圧力という物理情報に個人差に起因する信号がのるとは考えにくく、かつ個人差に対応した基準値の設定手法等も開示されていない以上、従来手法には個人差に対応する手法は開示されていないということになる。
よって、従来手法ではグラフ表示等によりユーザーに対して外圧の大きさの調整を指示したとしても、基準となる適正押圧が個人差に対応できていない以上、指示に従った結果が適切な状態になっているかどうかはわからず、この点が第1の問題点として考えられる。
また、従来手法の第2の問題点として、接触圧と機器の保持状態(装着状態)の対応関係については触れられていないことが挙げられる。つまり、適正押圧の圧力値がわかっていたとしても、どのように機器を装着すればその圧力値が得られるかということはわからない。ユーザーがある状態で装着して接触圧を測定した上であれば、そこから圧力の上げ下げ(例えばバンドを締めるか緩めるか)の指示はできるが、一回接触圧の情報を取得しなければそもそも指示を開始することができないことになる。よって、機器を再装着する場合には、毎回装着状態を調整する必要があった。
そこで本出願人は、脈波センサー信号に基づいた適正押圧の判定手法を提案する。脈波センサー信号はユーザーごとにその特徴が現れるものであるため、脈波センサー信号に基づく判定であれば、個人差に対応することが可能になる。さらにいえば、同一ユーザーであっても体調等の変化により適正押圧の範囲が変動しうるが、本実施形態の手法であればそのような変化にも対応できる。
ただし、上述したように脈波センサー信号の信号値はユーザーごとに異なるため、適正押圧における信号値も比較的大きいユーザーと小さいユーザーとが存在する。そのため、ある押圧での信号値を単独で用いたとしても、当該押圧が適正押圧であるか否かの判定は困難である。よって、本実施形態では押圧を変化させながら脈波センサー信号を取得して、押圧に対する脈波センサー信号の変化特性を用いることで適正押圧か否かの判定を行うことを想定している。
また、本実施形態では適正押圧にあるか否かを判定を行った際に、適正押圧と判定された場合の保持状態特定情報を記憶する。これは例えば、何番目のバンド穴を用いて機器を装着すれば、このユーザーの場合適正押圧を加えることができるという情報等である。このようにすれば、押圧の値ではなくバンドの締め具合等により適正な装着状態を規定できるため、直感的でありユーザーにとってわかりやすい。また、記憶しておいた保持状態特定情報を表示すれば、ユーザーは容易に適正押圧を実現する保持状態を再現できる。つまり、再装着時に調整等は不要となり、利便性等の観点から有利である。
なお、従来手法にはポンプ等を用いて自動的に加圧、減圧する手法も併せて開示されている。この手法はユーザーの手動での装着状態調整が不要であるという点では好ましいが、手首装着型機器のように、日常生活や運動中に用いることを想定した場合、サイズや消費電力等を考えると現実的ではないため、ここではそのような手法は考慮しない。つまり、本実施形態では適正押圧判定の際に押圧を変化させることは上述したとおりであるが、その押圧変化はユーザーの手で行われることが想定される。そのため、システムが適切な押圧変化をユーザーに指示するためにも、表示部等のインターフェースを用いたユーザーとのインタラクションが重要となる。
以下、脈拍計のシステム構成例について述べた後、脈波センサー信号に基づく適正押圧の判定手法について説明する。最後に、ユーザーとのインタラクションを想定した表示制御手法について説明する。
なお、厳密には血行状態は外圧だけではなく、血管内部の圧力である内圧にも依存することが知られている。ただし本実施形態では、後述するように適切な指示画面を表示する制御を行うことで、内圧の変動をできるだけ抑止し、その状態で外圧を変化させて適正押圧の判定等の処理を行う。よって、本実施形態の手法では内圧が大きく変化するのは例外的な状況であり、そのような場合は特に考慮しない。そのため、押圧という用語が外圧を意味するのはもちろんのこと、特に断りがなく圧力や接触圧といった用語が使われた場合にも、当該用語は外圧を指すものとする。
3.システム構成例
図5に本実施形態の脈拍計のシステム構成例を示す。脈拍計は、脈波検出部10と、体動検出部20と、処理部100と、表示部70と、外部I/F部80と、記憶部90を含む。ただし脈拍計は、図5の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。例えば、本実施形態では体動ノイズの低減は必須ではなく、処理部100の体動ノイズ低減部115等を省略してもよい。なお、脈拍計の全体構成としては図4(A)に示したように、保持機構300とベース部400とを含むものが考えられ、図5に示した各部は図4(A)のベース部400に含まれることが想定される。
脈波検出部10は、脈波センサー11と、フィルター処理部15−1,15−2と、A/D変換部16−1,16−2を含む。ただし脈波検出部10は、図5の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
脈波センサー11は、図1を用いて上述したように光電センサー等を用いる。フィルター処理部15−1は、本実施形態ではハイパスフィルター処理を行うハイパスフィルターにより実現され、フィルター処理部15−2は、本実施形態ではローパスフィルター処理を行うローパスフィルターにより実現される。つまり、フィルター処理部15−1の出力は、脈波センサー信号の高周波成分であるAC成分信号であり、フィルター処理部15−2の出力は、脈波センサー信号の低周波成分であるDC成分信号である。本実施形態では、脈波検出部10はA/D変換部16−1と、A/D変換部16−2を含み、それぞれ入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。
図5に示したように、脈波センサー11は、フィルター処理部15−1とフィルター処理部15−2に接続される。フィルター処理部15−1はA/D変換部16−1に接続される。A/D変換部16−1は体動ノイズ低減部115と、後述する適正押圧判定部119に接続される。また、フィルター処理部15−2はA/D変換部16−2に接続される。A/D変換部16−2は適正押圧判定部119に接続される。
なお、脈波検出部10はフィルター処理部15−2を省略してもよい。その場合、A/D変換部16−2の出力は脈波センサー信号の高周波成分と低周波成分の両方を含む信号となる。その他、脈波検出部10に含まれる各部の接続については種々の変形実施が可能である。
体動検出部20は、加速度センサー21と、A/D変換部26を含む。加速度センサー21はA/D変換部26に接続され、A/D変換部26は体動ノイズ低減部115と、適正押圧判定部119に接続されている。なお、体動検出部20は体動を検出するセンサーを有すればよく、加速度センサー21を他のセンサーに変更してもよいし、複数のセンサーを有していてもよい。
処理部100は、信号処理部110と、拍動情報演算部120と、表示制御部130と、時間計測部140と、初期保持状態推定部150と、を含み、信号処理部110は、体動ノイズ低減部115と、適正押圧判定部119を含む。ただし、処理部100や信号処理部110は、図5の構成に限定されず、これらの一部の構成要素(例えば体動ノイズ低減部115)を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
適正押圧判定部119は、A/D変換部16−1からのAC成分信号、及びA/D変換部16−2からのDC成分信号の少なくとも一方に基づいて、当該信号取得タイミングに対応する押圧が適正押圧であるか否かの判定を行う。この際、体動検出部20からの体動検出信号や、時間計測部140からの時間計測情報等を用いてもよい。また、外部I/F部80からの情報等に基づいて適正押圧であると判定された際における保持機構300の保持状態を特定する保持状態特定情報を取得し、取得した保持状態特定情報を記憶部90及び表示制御部130に出力する。適正押圧判定部119での処理の詳細は後述する。
体動ノイズ低減部115は、A/D変換部16−1からのAC成分信号に対して、体動検出部20からの体動検出信号に基づいて体動ノイズの低減処理を行う。体動ノイズ低減部115の処理内容については図2等を用いて上述したものと同様であるため、詳細な説明は省略する。また、拍動情報演算部120での処理も上述した通りである。
表示制御部130は、表示部70での表示のための制御を行う。例えば、適正押圧判定部119での判定の際には押圧を変化させる必要があるが、適切な押圧変化を実現できるように、ユーザーに対して指示を行う指示画面を表示する制御を行う。また、適正押圧か否かの判定用環境を設定する指示を行う指示画面を表示する制御を行ってもよい。その他、拍動情報演算部120で演算された拍動情報の表示制御等も行う。詳細は後述する。
時間計測部140は、時間の計測処理を行う。例えば、所与の間隔でタイムスタンプ等の時刻情報を取得するタイマーを有し、取得した時刻情報の差分等から時間を計測するものが考えられる。
初期保持状態推定部150は、記憶部90に記憶したユーザーの個人情報を基に、ユーザーにとって最適な保持機構300の保持状態を推定する処理を行う。例えば、事前に統計調査等を行いユーザーの個人情報(BMI、性別、年齢等)と最適なバンド穴位置の相関関係を求め、多項式近似を行うことによって相関式を得ておき、相関式にユーザーの個人情報を代入することで最適なバンド穴位置を推定することが考えられる。
表示部70は、表示制御部130での制御内容に従って、種々の情報を表示する。外部I/F部80は、外部とのインターフェースとなるものであり、狭義にはユーザーが脈拍計の各種操作を行うための各種ボタンやGUI等を有する操作部であってもよい。記憶部90は、処理部100等のワーク領域となるもので、その機能はRAM等のメモリーやHDD(ハードディスクドライブ)などにより実現できる。記憶部90は種々の情報を記憶するが、特に適正押圧判定部119において取得された保持状態特定情報を記憶する。
4.脈波センサー信号に基づく適正押圧判定
4.1 適正押圧の判定
次に脈波センサー信号に基づいて、適正押圧を判定する手法について説明する。上述したように、脈波センサー信号の信号値はユーザーによって異なるものであるから、適正押圧である場合の信号値が比較的大きいユーザーと比較的小さいユーザーが存在することになる。よって、所与の押圧の際の信号値のみを取得したとしても、信号値に基づいて当該押圧が適正押圧であるか否かという判定を行うことは困難である。例えば、信号値と所与の閾値との比較処理により、押圧が適正押圧であるか否かの判定を行おうとしても、複数のユーザーに対して汎用的に用いることができる閾値を設定することは難しい。
そこで本実施形態では、生体に対する押圧を変化させ、その押圧変化に対する脈波センサー信号の変化特性に基づいて適正押圧を判定する。信号値の大きさには個人差があるが、脈波センサー信号の変化特性はどのユーザーも同様の傾向を持つためである。例えば、離散的な押圧変化を考える場合には、それぞれ異なる第1〜第Mの押圧を順次生体に対して加え、各押圧での脈波センサー信号を取得する。そして、取得した第1〜第Mの脈波センサー信号に基づいて、第1〜第Mの押圧のうち、いずれの押圧が適正押圧であるかの判定を行えばよい。
なお、適正押圧は生体の特性に鑑みればある程度の範囲を持つ(上述したV1<V<V2を満たす範囲)ため、本実施形態により適正押圧であると判定される押圧は1つの圧力値に限定されず、複数の値を持ったり、所与の範囲により表されてもよい。
以下の説明では、脈拍計は図4(A)に示したように保持機構300としてバンドを有する腕時計型機器であり、そのバンドには図7に示したように複数の穴が設けられて、どの穴を用いて保持するかにより押圧を変更することができるものを想定している。ただし、保持機構300の構成はこれに限定されるものではない。
また、押圧変化はユーザーにより行われるが、それを実現するために表示部70に指示画面を表示する等の表示制御が行われる。表示制御等に基づく具体的なインタラクションについては後述するものとし、ここでは押圧変化が適切に行われたことを前提として、取得した脈波センサー信号に基づく判定処理を述べる。また、判定精度向上のためには、適切な判定用環境を設定する必要があるが、その環境設定も指示画面等の表示制御により行うものであり、詳細は後述する。ここでは押圧変化と同様に、適切な判定用環境が設定されたことを前提として説明を行う。
なお、上述したように本実施形態では、適正押圧をkPa等の単位の物理量ではなく、保持機構300の保持状態に対応づけて処理を行う。よって、以下の説明では記載を簡略化するために、押圧を変化させて適正押圧を判定するものとしているが、押圧を変化させるとは、保持機構300での保持状態を変化させることに相当するし、適正押圧を判定するとは、適正押圧を実現する保持状態を判定するということに相当する。
4.2 AC成分信号に基づく適正押圧判定
脈波センサー信号のAC成分に対応するAC成分信号に基づく判定について説明する。図8(A)、図8(B)に押圧変化に対するAC成分信号の信号値の変化特性を示す。ただし、図8(A)は押圧に対するAC成分信号の一般的な変化傾向を説明するための図である。図8(A)、図8(B)の横軸は時刻を表し、押圧の時間変化から明らかなように、時間とともに押圧を下げていく減圧方向でのグラフとなっている。
図8(A)に示したように、AC成分信号の振幅は、押圧が大きい場合には小さい値となるが、押圧を下げるほど振幅値が大きくなっていく。そして、押圧が所与の値よりも小さくなると振幅値は減少傾向に転ずる。AC成分信号は心拍に起因した信号であり、拍動情報の演算に用いられることを考慮すれば、AC成分信号の振幅値が大きい押圧を適正押圧とすればよい。例えば図8(A)であればE1で示した範囲が適正押圧となる。
つまり、AC成分信号を用いる場合には、各押圧での振幅値を算出し、算出した振幅値が大きくなる押圧を適正押圧とすればよい。具体例を図9(A)、図9(B)に示す。図9(A)はバンド穴位置を所与の位置に設定した際のAC成分信号の時間変化を表すものであり、横軸の単位は秒である。図9(A)の前半部分(0秒〜10秒程度の期間)は、バンド穴位置を設定したタイミング、及び当該タイミングからの時間経過が短い期間であり、この期間ではAC成分信号の信号値は安定しないため、振幅値の算出は行わない。つまり、振幅値はバンド装着後、所与の時間が経過してからの信号値(例えば図9(A)のF1の期間での信号値)に基づいて行われる。
ここで、振幅値はピークに基づいて算出すればよく、上ピークと下ピークのどちらか一方を用いてもよいが、ここではその両方から振幅値を算出するものとする。具体的には、AC成分信号の一周期(心臓の一拍の運動に対応)での最大値(上ピーク)と最小値(下ピーク)を検出し、最大値と最小値の差分値(Peak to peak)を当該周期での振幅値とする。図9(A)のF1に示したように、振幅値の算出期間はAC成分信号の一周期よりも長いことが想定されるため、当該算出期間において複数の差分値が取得される。図9(B)は差分値の時間変化の一例であり、拍動の一周期ごとに一回取得される差分値を取得順に並べたものである(横軸は取得順序を表すものであり秒等の単位ではない)。本実施形態では振幅値算出期間(F1)における当該複数の差分値の平均値を、設定されたバンド穴位置(及びそれに対応する押圧)での振幅値とすればよい。
なお、平均値は単純な平均値であってもよいし、極端に大きい(或いは小さい)データを平均値算出において除外するトリム平均値であってもよい。トリム平均値を用いるのであれば、除外範囲は標準偏差σ等から設定すればよく、例えば3σを用いればよい。
以上の処理により、所与の押圧(バンド穴位置)でのAC成分信号の振幅値が算出できる。適正押圧の判定では、各押圧での振幅値をそれぞれ求め、振幅値が最大となる押圧を適正押圧とすればよい。
4.3 DC成分信号に基づく適正押圧判定
脈波センサー信号のDC成分に対応するDC成分信号に基づく判定について説明する。図10に押圧変化に対するDC成分信号の信号値の変化特性を示す。ただし、図10は押圧に対するDC成分信号の一般的な変化傾向を説明するための図である。図8(A)、図8(B)とは異なり、図10の横軸は押圧を表す。
図10に示したように、押圧変化に対するDC成分信号の変化特性曲線において、静脈消失点に対応する押圧及び動脈消失点に対応する押圧はともに変曲点となる。つまり、DC成分信号の変曲点を検出することで、静脈消失点に対応する押圧及び動脈消失点に対応する押圧を検出することができる。上述したように、適正押圧は静脈消失点での押圧より大きく、かつ動脈消失点での押圧より小さい圧力であればよいため、この条件を満たす範囲で適正押圧を判定すればよい。また、上記条件を満たす圧力範囲のうち、1つの圧力値を適正押圧としてもよく、例えば静脈消失点での押圧と、動脈消失点での押圧の平均値を適正押圧としてもよい。
なお、DC成分信号の変化特性曲線の変曲点の検出手法は種々考えられる。例えば、図8(B)に示したように、時間の経過とともに押圧が変化していく場合であれば、それに対応したDC成分信号の時間変化曲線(つまり、横軸が時刻で縦軸がDC成分信号の信号値となるグラフ)も、押圧変化に対応するDC成分信号の変化特性を表すことになるため、この曲線の変曲点を検出するものとしてもよい。この手法であれば、各時刻で取得されたDC成分信号の信号値をそのまま用いることができるため、前処理等が不要という利点がある。
一方、上述の時間変化曲線では、グラフの横軸はあくまで時刻であり押圧ではないため、横軸方向での変化を考えた場合に、それが押圧の線形での変化に対応するわけではない。例えば、時刻T1〜T2の間での押圧を考えた場合に、押圧が一定の傾きを持って変化することは考えにくく、当該期間での押圧が不変であったり、T1〜T3(T3<T2)では第1の押圧でT3〜T2では第2の押圧となるような極端な変化をすることが考えられる。つまり、時間変化曲線ではなく、図10のような押圧変化曲線(横軸が押圧で、縦軸がDC成分信号の信号値となるグラフ)を用いた方が、押圧に対する変化特性が顕著に表れることが期待される。また、AC成分信号の説明でも触れたように、バンドを装着してから所与の時間は信号値が安定しないことが考えられるが、時間変化曲線ではそのような不安定な信号値がそのまま現れてしまうため処理に悪影響を及ぼす可能性がある。
そこで本実施形態では、所与の押圧が設定された場合に、当該押圧でのDC成分信号に基づいて1つの代表値を算出するものとする。この処理を複数の押圧において行うことで、押圧とDC成分信号との対応関係を表すグラフ(上述の押圧変化曲線)を取得することができるため、取得したグラフでの変曲点を検出すればよい。
所与の押圧が設定された場合の代表値の算出手法を、図11を用いて説明する。図11はバンド穴位置を所与の位置に設定した際のDC成分信号の時間変化を表す。図9(A)と同様に、図11の前半部分は、バンド穴位置を設定したタイミング、及び当該タイミングからの時間経過が短い期間であり、この期間ではDC成分信号の信号値は安定しないため、代表値の算出は行わず、G1に示したその後の期間を用いる。代表値の算出手法は種々考えられるが、例えば算出区間(図11のG1)でのDC成分信号の信号値の平均値をとればよい。AC成分信号での処理と同様に、平均値は単純な平均値であってもよいし、極端に大きい(或いは小さい)データを平均値算出において除外するトリム平均値であってもよい。このようにして、各押圧において代表値を求めることで、DC成分信号の押圧変化曲線を求めることができる。
なお、曲線からの変曲点の検出は数学的に重要な分野であり、コンピューターシステム等における変曲点検出についても多くの従来例が存在する。本実施形態ではそれらのうち任意の手法を用いることができることから、変曲点の検出手法についての詳細な説明は省略する。
4.4 AC成分信号及びDC成分信号に基づく適正押圧判定
本実施形態の適正押圧判定は、AC成分信号とDC成分信号の一方に基づいた処理だけでなく、両方の信号を用いたものであってもよい。
具体例を図12のフローチャートに示す。この処理が開始されると、まずAC成分信号に基づいて、振幅値が最大となる押圧VAを求める(S101)。そして、DC成分信号の変曲点検出を行って、静脈消失点での押圧VD1と動脈消失点での押圧VD2を求める(S102)。S101及びS102の具体的な処理は上述したとおりである。
その後、VD1<VA<VD2の関係が成り立つかの判定を行い(S103)、S103でYesの場合には、VAがDC成分信号から求められた適正範囲に含まれることから、VAの信頼性は確保されたものとして、VAを適正押圧とする(S104)。一方、S103でNoの場合には、VAの信頼性に疑問が残るということであるから、DC成分信号から求められたVD1及びVD2に基づいて適正押圧を決定する(S105)。具体的にはVD1とVD2の平均値を適正押圧とすればよい。
これにより、AC成分信号とDC成分信号の両方に基づいた適正押圧判定が可能になり、判定した適正押圧の精度向上等が期待できる。また、AC成分信号とDC成分信号の両方に基づいた処理は図12のフローチャートに示したものに限定されず、他の処理を行ってもよい。
5.表示制御手法
適正押圧判定における押圧変化は、ユーザーによる保持機構300の調整(例えばバンド穴位置の調整)により行われる。しかし、ユーザーが適正押圧判定の手順を全て把握しておくとなると、ユーザー負担が大きく好ましくない。よって本実施形態では、表示部70等のインターフェースを用いて脈拍計とユーザーとの間でインタラクションを行い、システム側(脈拍計側)から適切な指示を行うことでユーザー負担の軽減を図るものとする。
また、適正押圧判定の際には、押圧変化以外の要因により信号値が変動してしまうと、判定精度が低下し好ましくない。よって、好ましくない信号値の変動を抑止するために、所与の判定用環境の条件が満たされたか否かの判定を行い、条件が満たされたと判定された場合に適正押圧判定を行う。この際にも、条件が満たされていない場合にはユーザーに対して何らかの指示が必要となるため、表示部70等のインターフェースを用いるとよい。
以下、適正押圧判定における典型的な処理の流れを用いて、本実施形態におけるユーザーとシステムのインタラクション、及びその際に行われる表示制御等について説明する。
図13に適正押圧判定の処理を説明するフローチャートを示す。この処理が開始されると、まずAC成分信号とDC成分信号を測定する(S200)。そして、図14(B)の上部に示したように、AC成分信号の波形等を表示部70に表示する(S201)。S201の表示は必須ではないが、脈波センサー11により適切に信号が取得できていることをユーザーに通知できるため、機器の不良等はないという安心感を与えることができる。
次に、ユーザーにとって適したバンド穴位置の初期値を推定する(S202)。推定の処理の具体的内容は後述する。
図22は、初期保持状態推定の処理を説明するフローチャートである。この処理では、まず外部I/F部80によって入力され、記憶部90に記憶された個人情報を取得し、定数として設定する(S501)。ここでは、身長と体重によって算出されるX1=BMI(Body Mass Index)と、X2=性別と、X3=年齢と、の3つの定数を用いる例を挙げる。なお、BMIの算出方法は公知の手段によるものなので割愛する。
次に、記憶部90に記憶された相関式を取得し、前述のBMIと、性別と、年齢との3つの定数を用いて、前記相関式で演算を行うことによって、個人個人に最適な初期バンド穴位置αを算定する(S502)。
図20は、ユーザーの個人情報(BMI、性別、年齢)とバンド穴位置の相関を示す図である。図中の○点は20歳以上24歳未満男性のBMIと最適なバンド穴位置の関係で、×点は20歳以上24歳未満女性のBMIと最適なバンド穴位置の関係である。図中の実線は20歳以上24歳未満男性のBMIと最適なバンド穴位置の関係を線形近似したもので、点線は20歳以上24歳未満女性のBMIと最適なバンド穴位置の関係を線形近似したものである。前記相関式は、事前に統計調査を行うこと等によって、調査によって得たBMIと、性別と、年齢との3つの定数と、最適押圧の判定によって得られた適正なバンド穴位置の相関を求め、多項式(1次又はそれ以上の変数を持つ関数)近似を行い、前記記憶部90に記憶しておく。なお、図20は、事前に統計調査等が必要であるが、今回は、経済産業省人体寸法平均のデータを基に乱数を発生させたシミュレーション結果である。
また、後述する最適押圧判定の処理において、第2から第N番目の押圧調整方向が減圧する方向(つまりバンド穴位置を緩めていく方向)の場合、初期バンド穴位置αを予めきつくユーザーに指示することによって、最適押圧に調整できる可能性が向上し、ユーザーの利便性を向上することができる。
図21は、推定したバンド穴位置と実際に最適となったバンド穴位置のずれ(ばらつき)の例である。図中の○点は21歳以上54歳未満男性のBMIと最適なバンド穴位置の関係で、実線は21歳以上54歳未満男性のBMIと最適なバンド穴位置の関係を線形近似したものである。図中の一点鎖線は、推定した初期バンド穴位置αに+2(バンド穴を2つ分緩める)した例で、点線は、推定した初期バンド穴位置αに−2(バンド穴を2つ分締める)した例である。なお、図21は、標本数30名、21歳以上54歳未満男性において、本実施形態の脈拍計を用いた実測データである。
前述した予めきつくユーザーに指示する尺度は、相関式と、統計によって得られた実際値のずれの尺度σと、バンド穴の穴間隔d(バンド穴ピッチ)から決定することができ、例えば、3σ/dの整数化より得られるバンド穴の数だけきつくユーザーに指示することで、ほとんどの人(3σ)で最適押圧を得られる。統計によって得られた実際値のずれの尺度σの算出方法は、公知の統計手法により複数存在し、任意の手法を用いればよいので説明は割愛する。
これにより、ユーザーは、全ての保持状態について前記適正押圧であるか否か判定するよりも少ない判定回数で前記適正押圧が判定可能になり、ユーザーの利便性が向上する。
ただし、初期バンド穴位置αを算定する際に用いた個人情報は、BMIと、性別と、年齢との3つの変定数に限定する必要は無く、例えば機器を保持する部位の周囲長や体脂肪率等であってもよい。
また、前述の相関式は外部の大規模データベースによる、前記統計調査等よりも非常に大きなデータを多項式近似して相関式を得、無線通信等の通信手段によって、記憶部90に記憶してもよい。
また、前述の相関式は外部の大規模データベースによる、前記統計調査等よりも非常に大きなデータを多項式近似して相関式を得、無線通信等の通信手段によって、記憶部90に記憶した個人情報をアップロードし、大規模データベースが前記相関式で演算を行うことによって、個人個人に最適な初期バンド穴位置αを算定し、これを機器が取得してもよい。
また、後述する最適押圧判定の処理において、第2から第N番目の押圧調整方向が加圧する方向(つまりバンド穴位置を締めていく方向)の場合、初期バンド穴位置αを予めゆるくユーザーに指示してもよい。
その後、バンド穴位置を表す変数nをn=αに設定する(S203)。なお、ここでの変数nは脈拍計側が認識しているバンド穴位置を表すものであり、実際の保持機構300の保持状態が、nに対応するバンド穴位置による保持状態となることを保証するものではない。ただし、後述するようにユーザーが指示画面での指示に従った場合にはシステムの認識するバンド穴位置と、実際の保持状態とは対応する(一致する)。
次に、図14(B)の下部に示したように、システム側で認識するバンド穴位置と、実際の保持状態が一致するように、ユーザーに対して指示する指示画面を表示する制御を行い、それとともにユーザーからの入力を受け付ける(S204)。図14(B)の例であれば、ユーザーは指示されたバンド穴位置による保持を試み、バンドを締めることができればOKを入力し、きつすぎて締めることができない、或いは緩すぎて十分な固定ができない等の場合にはNGを入力することになる。ただし、ユーザーとのインタラクションはこれに限定されるものではない。
S204に対するユーザーの入力を受け付け、OKが入力されたのか否かの判定を行う(S205)。S205でYesの場合には、指示画面により指示したバンド穴位置での装着ができたものと考え、その保持状態(及びそれに対応する押圧)でのAC成分信号、DC成分信号に基づく処理に移行する。具体的には、S206〜 S211において判定用環境の条件が満たされているかの判定を行い、満たされている場合にS212,S213で実際の処理を行う。以下具体的に説明する。
まず、判定用環境の条件として、体動が安定しているか否かの判定を行う(S206)。体動が安定していない場合には、当該体動に起因する成分(体動ノイズ)がAC成分信号に含まれることになり、適正押圧判定に支障を来すためである。S206の処理は、体動センサーからの体動検出信号に基づいて行えばよい。体動センサーとは例えば加速度センサー21であり、体動検出信号とは加速度検出値である。
図15(B)に加速度検出値の具体例を示す。図15(B)から明らかなように、体動がない場合に比べて、体動がある場合には加速度検出値の大きさが非常に大きくなる。よって、加速度検出値が大きい場合に体動が安定していないと判定し、加速度検出値が小さい場合に体動が安定していると判定すればよい。
ここでの加速度センサー21は3軸加速度センサーであり、その軸の方向は図15(C)に示したものであるとする。図15(C)のように、腕時計の文字盤部分(脈拍計では表示部70に相当)を含む平面を考えた場合に、当該平面に含まれ、かつ時計の12時方向がY軸であり、時計の3時方向がX軸となる。そして、Z軸はX軸及びY軸を含む平面に直交し、文字盤部分に対して被検体の手首側に向かう方向の軸となる。ただし、軸の方向はこれに限定されるものではない。
ここでは、図15(A)に示した3軸の合成加速度を算出し、算出した合成加速度の大きさと所与の閾値との比較処理に基づいて、体動が安定しているか否かの判定を行う。フローチャートを図16に示す。3軸合成加速度として、各軸の二乗和の平方根を求め(S301)、求めた3軸合成加速度と体動安定閾値との比較処理を行う(S302)。3軸合成加速度が体動安定閾値よりも大きい場合には、体動がある(安定していない)と判定し(S303)、そうでない場合には体動がない(安定している)と判定する(S304)。
以上の処理により体動が安定していない(S206でNoである)と判定された場合には、体動の安定を待つことになる。その際、システム側からユーザーに対して体動の安定化を指示することで、効率的に判定用環境の条件を実現することができると考えられる。そこで、表示部70において体動の安定化を指示する指示画面を表示する制御を行う(S207)。
S206でYesの場合には、2番目の判定用環境の条件として、ユーザーの姿勢に異常がないかの判定を行う(S208)。ここで姿勢とは、狭義には脈波センサー11の装着部位(ここでは手首を想定)と、心臓との高さの関係により決まる姿勢を指す。つまり、姿勢が変わると血管にかかる水頭圧の大きさが変化するため、血流量が変化してしまい、そのことによる適正押圧判定の精度低下を抑止するための条件として姿勢判定を行う。
一例としては、ユーザーが腕時計の文字盤部分を見る際の典型的な姿勢を基準姿勢とし、それに対して手首と心臓との高さの関係が大きく異なる姿勢を異常姿勢とすればよい。この際の加速度検出値の例を図17(A)、図17(B)に示す。図17(A)、図17(B)はグラフの視認性の問題から別の図となっているに過ぎず、X軸、Y軸、Z軸の各値は同一の加速度センサー21から取得されたものである。ここでの加速度センサー21の軸は図15(C)のものを用いているため、各軸の加速度検出値(体動が小さいことを前提としているため、各軸に働く重力加速度成分が主となる)の基準姿勢での典型的な範囲はある程度特定できる。例えば、文字盤部分を含む平面が水平面に近くなり、Z軸と重力方向が近くなることが考えられる。この場合、X軸、Y軸の値は0に近く、Z軸は1Gに近い値となる。よって、これらの値に基づいて基準姿勢における各軸の値の適正範囲を設定し、加速度検出値が当該適正範囲にあるか否かで姿勢を判定する。図17(A)、図17(B)に示したように、異常姿勢では各軸の値は適正範囲から外れることになる。
フローチャートを図18に示す。この処理が開始されると、まずX,Y,Zの各軸での加速度検出値を計測する(S401)。そして、あらかじめ設定された各軸の適正範囲と、S401で計測された加速度検出値との比較処理を行う(S402)。そして、全ての軸の加速度検出値が適正範囲にある場合には正常姿勢であると判定し(S403)、そうでない場合には異常姿勢と判定する(S404)。
なお、腕の肘から先の部分は水平に近い状態に保たれることが想定されるため、X軸の適正範囲は0Gを含む狭い範囲(例えば図18のように−0.1〜+0.1G等)でもよい。それに対して、手首の角度は人によって異なる可能性も高く、Y軸が0G、Z軸が1Gを基準としつつも、X軸よりも広い適正範囲を設定しておくことが望ましい。ただし、適正範囲は図18のS402に示した数値に限定されるものではない。
以上の処理により異常姿勢にある(S208でNoである)と判定された場合には、姿勢が正常になるのを待つことになる。その際には体動の安定化と同様に、ユーザーに対して正常姿勢をとることを指示する指示画面の表示制御を行うとよい(S209)。この場合、ユーザーの利便性等を考慮すれば、正常姿勢がどのような姿勢であるかが明確となる指示画面を表示することが望ましい。図13のS209に示したように文章により指示してもよいし、表示部70の解像度等に問題がなければ図を表示することで指示してもよい。
S208でYesの場合には、3番目の判定用環境の条件として、バンドの装着から一定時間が経過したかの判定を行う(S210)。保持機構300が穴を用いたバンド等により実現される場合には、所与のバンド穴での装着には、一旦バンドを当該バンド穴での装着時よりきつく締める必要がある。そのため、図9(A)或いは図11に示したように、装着時のAC成分信号及びDC成分信号は適正押圧判定には好ましくない大きな変動をする他、その後一定時間は信号値が安定しない。よって、適切な適正押圧判定を行うためには、そのような不安定な信号値を処理から除外するとよい。具体的には、装着後の一定時間は処理を行わずに待機し、当該一定時間の経過後に処理を開始する。
S210では、例えばタイマー等により実現される時間計測部140からの時間計測情報に基づいて、所与の時間が経過したかの判定を行えばよい。所与の時間が経過していない(S210でNoである)と判定された場合には、ユーザーに対して待機指示を行う指示画面を表示する制御を行う(S211)。
S210でYesと判定された場合には、判定用環境の条件が満たされているということになるから、AC成分信号に基づく処理及びDC成分信号に基づく処理を行う(S212,S213)。S212ではAC成分信号の振幅値を求める処理が行われ、S213ではDC成分信号の代表値(平均値)を求める処理が行われる。具体的な処理については上述してあるため、詳細な説明は省略する。
S213の処理後、或いはS205でNoと判定された場合には、nをインクリメントし(S214)、全てのバンド穴での処理を終えたかの判定を行う(S215)。S215でNoの場合には、S214でのインクリメント後のnに相当するバンド穴位置での処理を行う必要があるため、S204に戻り、システム側で認識しているバンド穴位置と、実際の保持状態が一致するように、ユーザーに対して指示する指示画面を表示する制御を行い、それとともにユーザーからの入力を受け付ける。以下の処理については同様である。
S215でYesの場合には、全てのバンド穴位置での処理が終了したということであるため、各バンド穴位置で演算されたAC成分信号の振幅値、及びDC成分信号の代表値に基づいて、適正押圧の判定を行う(S216)。具体的には、図12のフローチャートで示した処理等を行えばよい。
そして、適正押圧に対応するバンド穴位置(広義には保持状態特定情報)を記憶するとともに、図14(C)に示したように、適正なバンド穴位置をユーザーに通知するための画面を表示部70に表示する制御を行う(S217)。
以上の本実施形態では、脈拍計は図5に示したように、脈波センサー信号を出力する脈波センサー11を有する脈波検出部10と、脈波検出部10からの信号に基づいて拍動情報を演算する処理部100と、処理部100での処理結果を表示する表示部70と、被験体の個人情報と処理部100での処理結果とを記憶する記憶部90と、脈拍計を被検体に保持する保持機構300(図4(A)に示す)を含む。そして、処理部100は、前記記憶部に記憶した前記被験体の個人情報を基に、前記被験体にとって最適な前記保持機構の保持状態を推定し、脈波検出部10における被検体への押圧が適正押圧か否かを判定する。記憶部90は、脈波検出部10における被検体への押圧が適正押圧であると判定された際の保持状態特定情報を記憶する。また、処理部100は、保持状態特定情報を表示部70に表示する制御を行う。
ここで、保持状態特定情報とは、保持機構300での保持状態を特定する情報である。例えば、脈拍計が図4(A)に示したようにバンドにより保持される機器であれば、保持状態特定情報とはバンドの状態を特定する情報となる。具体的には、図7のように穴を用いてバンドを固定する場合には、何番目のバンド穴位置を用いて脈拍計を保持しているかという情報が保持状態特定情報となる。なお、バンドは穴を用いるものに限定されず、目盛りがあるベリクロタイプのバンドや、ラチェットタイプのバンドを用いてもよい。また、保持機構300はバンドに限定されるものではなく、脈拍計を被検体に固定でき、脈波センサー11でのセンサー情報の取得を妨げないものであれば任意の機構を用いることができる。
これにより、脈拍計での適正押圧の判定を行った上で、その適正押圧に対応する保持状態特定情報を記憶、表示することが可能になる。適正押圧をkPaやmmHg等の単位により求めることができたとしても、当該適正押圧を実現するには保持機構300をどのような状態にすればよいかの判断は容易ではない。その点、適正押圧と保持状態特定情報とを対応づけることにより、ユーザー側は適正押圧の数値等を意識する必要がなくなり、バンドの締め具合等の直感的な手法により適正押圧となっているか否かを認識することができる。そのため、一回適正押圧の判定が行われた後であれば、機器の再装着時等にも適正押圧が付加される状態を容易に再現することができ、ユーザーの利便性の向上等が期待できる。
また、適正押圧とは、上述したように静脈消失点(静脈回復点)に対応する押圧よりも大きく、動脈消失点(動脈回復点)に対応する押圧よりも小さい範囲の圧力となる。つまり、以上の本実施形態では、脈拍計は脈波センサー信号を出力する脈波センサー11を有する脈波検出部10と、脈波検出部10からの信号に基づいて拍動情報を演算する処理部100と、処理部100での処理結果を表示する表示部70と、被験体の個人情報と処理部100での処理結果を記憶する記憶部90と、脈拍計を被検体に保持する保持機構300とを含み、処理部100は、前記記憶部に記憶した前記被験体の個人情報を基に、前記被験体にとって最適な前記保持機構の保持状態を推定し、脈波検出部10における被検体への押圧が、静脈消失点(静脈回復点)に対応する押圧よりも大きく、動脈消失点(動脈回復点)に対応する押圧よりも小さい範囲に含まれるか否かを判定し、記憶部90は、脈波検出部10における被検体への押圧が前記範囲に含まれると判定された際における保持機構300の保持状態を特定する保持状態特定情報を記憶し、処理部100は、保持状態特定情報を表示部70に表示する制御を行ってもよい。
また、処理部100は、脈波センサー信号に基づいて、押圧が適正押圧であるか否かを判定してもよい。
これにより、個人差を考慮した適正押圧判定が可能になる。従来手法では、圧力値等の物理情報に基づく処理が行われていたため、個人差が考慮されていなかったが、個人差の大きいバイタルサインである脈波センサー信号を用いることで、ユーザーごとの適正押圧を適切に判定することができる。また、同一ユーザーの体調変化等に基づく適正押圧の変動にも対応可能である。本実施形態の手法により判定された適正押圧を付加した状態で、拍動情報の演算等を行うことで、求められた拍動情報の精度の向上等が可能になる。
また、処理部100は、脈波センサー信号のAC成分に対応するAC成分信号、及び脈波センサー信号のDC成分に対応するDC成分信号の少なくとも一方の信号に基づいて、押圧が適正押圧であるか否かを判定してもよい。
ここで、AC成分信号は高周波成分に対応し、DC成分は低周波成分に対応するが、高低の基準となる周波数は、例えば拍動の周波数等に基づいて決定されてもよい。AC成分信号は、拍動情報の演算等にも用いられることを考慮すれば、心拍に起因する成分を含むことが求められる。被検体の生物的な特徴を考えると、脈拍数の典型的な下限値はある程度定めることが可能であり、例えば脈拍数が30(回/分)を下回るケースは多くない。よって、心拍に起因する信号が脈拍数30に対応する周波数(0.5Hz)以下の周波数帯に含まれることはまれであると考えられるため、当該周波数より高い周波数を高周波成分、それよりも低い周波数を低周波成分としてもよい。
これにより、AC成分信号とDC成分信号の少なくとも一方を用いた適正押圧判定が可能になる。AC成分信号は振幅値に特徴が現れ、DC成分信号は変曲点に特徴が現れる。どちらか一方からも適正押圧の判定は可能であるが、図12のフローチャートに示したように、両方の信号を用いることで判定精度を向上させることが可能になる。
また、処理部100は、押圧を変化させた場合のAC成分信号の変化特性に基づいて、押圧が適正押圧であるか否かを判定してもよい。具体的には、押圧を変化させた場合のAC成分信号の振幅の変化特性に基づいて、押圧が適正押圧であるか否かを判定してもよい。
これにより、押圧に対するAC成分信号の変化特性に基づいた判定が可能になる。脈波センサー信号は個人差の大きいバイタルサインであり、そのAC成分に対応するAC成分信号も個人差は大きい。よって、適正押圧時の信号値の大きさにも個人差があることから、所与の押圧での信号値のみから当該押圧が適正押圧か否かを判定することは困難である。その点、押圧に対する変化特性を用いれば、上記個人差に左右されない適切な判定が可能になる。なお、図8に示したように、AC成分信号は適正押圧において振幅値が相対的に大きいことがわかっているため、具体的には振幅値の変化特性に基づいて判定を行えばよい。
また、処理部100は、押圧を変化させた場合のDC成分信号の変化特性に基づいて、押圧が適正押圧であるか否かを判定してもよい。具体的には、押圧を変化させた場合のDC成分信号の変化特性に基づいて、DC成分信号の変曲点を検出し、検出した変曲点に基づいて押圧が適正押圧であるか否かを判定してもよい。
これにより、押圧に対するDC成分信号の変化特性に基づいた判定が可能になる。DC成分信号は血流の容積を表すものであり、加圧(減圧)過程では、静脈消失点(静脈回復点)、動脈消失点(動脈回復点)で変曲点が現れるため、精度のよい適正押圧判定が可能になるとともに、適正押圧を範囲として求める場合に、その上限値及び下限値を正確に決定することができる。
また、処理部100は、押圧が適正押圧であるか否かの判定用環境の設定指示を行う指示画面を、表示部70に表示する制御を行ってもよい。
ここで判定用環境とは、例えば体動が安定しており、姿勢が異常ではなく、かつ保持機構300での保持状態が決定されてから一定時間が経過しているという条件を満たす環境のことである。なお、判定用環境は上記以外の条件を追加してもよいし、上記の条件の一部又は全部(他の条件を追加する場合)を除外してもよく、その内容は種々の設定が可能である。
これにより、判定用環境の設定指示を行うことが可能になる。従来手法の圧力値等を用いる手法とは異なり、本実施形態ではバイタルサインである脈波センサー信号に基づいて判定を行うため、押圧の変化以外の要因でも信号値が変動してしまう。脈波センサー信号の信号値だけからでは、その変動要因の特定や切り分けが困難であるため、押圧以外の要因による信号値の変動は極力抑止する必要がある。ここではそのような条件を満たす環境を判定用環境として、当該判定用環境を満たすようにユーザーに対して指示を行うことで、精度よく適正押圧判定を行うことが可能になる。
また、処理部100は、被検体の体動の安定化を指示する画面を、指示画面として表示部70に表示する制御を行ってもよい。
これにより、体動の安定化指示を行うことが可能になる。体動が大きい場合、脈波センサー信号には当該体動に起因した成分(体動ノイズ)が混入することになり、そこから求められたAC成分信号やDC成分信号にも体動ノイズがのってしまう。よって、体動ノイズの影響を抑止して正確な適正押圧判定を行うためには、体動の安定化を図ることが望ましい。体動はユーザーにより行われ、脈拍計がユーザーの体動を物理的に抑制することは困難である以上、ユーザーにとってわかりやすい形で指示を行うことが現実的かつ効果的な手法である。
また、処理部100は、所与の判定用姿勢を被検体にとらせる指示を行う画面を、指示画面として表示部70に表示する制御を行ってもよい。
ここで、判定用姿勢とは、被検体の心臓と脈波検出部10との相対的な位置関係に基づいて規定される姿勢を指す。被検体の心臓と脈波検出部10との相対的な位置関係(具体的には高さ)が変動すると、水頭圧が変動する。例えば、腕を上げた状態では腕をおろした状態に比べて、水頭圧の変化に起因して血流量が減少することになる。つまり、ここでの判定用姿勢とは、水頭圧により(押圧変化とは独立して)血流量が変動することを抑止するために設定される姿勢のことである。
これにより、適正押圧判定時において異常姿勢がとられることを抑止できるため、水頭圧に起因する適正押圧判定の精度低下を抑止することが可能になる。判定用姿勢とは、表示部70でのインタラクションを前提とする本実施形態では、ユーザーが自然に表示部70を見ることができる姿勢(例えば腕時計の文字盤部分を見る際の姿勢)が好ましいが、これに限定されるものではない。ユーザーへの指示は、体動の安定化と同様に表示部70に表示する手法が、わかりやすく効果的と考えられる。
また、処理部100は、所与の時間、被検体に対して待機を指示する画面を、指示画面として表示部70に表示する制御を行ってもよい。
これにより、ユーザーに一定時間待機させることで、精度よく適正押圧判定を行うことが可能になる。これは、実際に手動でバンド調整を行う場合にはある程度の作業時間を要することや、図9(A)及び図11に示したように信号値自体が安定するまでに一定時間(10秒程度)を必要とすることによる。
また、処理部100は、指示画面に表示された判定用環境の条件が満たされたか否かの判断を行い、条件が満たされたと判断された場合に、押圧が適正押圧であるか否かの判定を行ってもよい。具体的には、体動センサーからの体動検出信号、又は時間計測部140からの時間計測情報に基づいて、指示画面に表示された判定用環境の条件が満たされたか否かの判断を行う。
これにより、判定用環境の条件が満たされた場合に、適正押圧判定を行うことが可能になる。指示画面を表示部70に表示することで、ユーザーに対して判定用環境を実現する指示を送ることは可能であるが、ユーザーが実際に指示に従うかは保証されていない。よって、システム側で条件が満たされているかの判定を行って、条件が満たされている場合に処理を行うことで、判定精度の向上等を図ることが可能になる。体動の安定化及び異常姿勢の排除については、図15(A)や図17(A)、図17(B)に示したように加速度センサー21等の体動センサーを用いればよい。また、時間経過に関してはタイマー等により実現される時間計測部140からの時間計測情報を用いればよい。
また、処理部100は、処理モードとして、保持状態特定情報取得モードと、拍動情報を演算する拍動情報演算モードを有してもよい。保持状態特定情報取得モードに設定された場合に、押圧が適正押圧であるか否かの判定結果に基づいて保持状態特定情報を取得するとともに、取得した保持状態特定情報を記憶部90に記憶する。そして、保持状態特定情報の取得後に拍動情報演算モードに設定された場合に、記憶部90に記憶された保持状態特定情報を読み出し、読み出した保持状態特定情報を表示部70に表示する制御を行ってもよい。
これにより、保持状態特定情報取得モードにおいて、適正押圧判定を行って保持状態特定情報を取得した上で、拍動情報演算モードでは取得した保持状態特定情報を表示部70に表示することができるため、拍動情報の演算時には演算に適した保持状態を容易に実現することが可能になる。適正押圧を判定し、その際の保持状態特定情報を求めたとしても、その結果を脈拍計の主たる処理である拍動情報の演算に用いることができないのでは効果的ではない。よって、保持状態特定情報の取得と、拍動情報の演算が連続しないこと等まで考慮すれば、取得した保持状態特定情報は記憶部90に一旦記憶することが必要になるし、拍動情報演算モードに入った場合には、ユーザーに対してわかりやすい形で保持状態特定情報を提示することが必要となる。
また、保持機構300は、保持状態として、脈波検出部10における被検体への押圧が異なる第1〜第N(Nは2以上の整数)の状態をとってもよい。そして、処理部100は、第1〜第Nの状態の各状態での押圧が適正押圧であるか否かの判定結果に基づいて、第1〜第Nの状態のうち少なくとも1つの状態に対応する情報を保持状態特定情報として取得する。
これにより、離散的な複数の保持状態を取り得る保持機構300(例えば穴を有するバンド等)において、上述の処理を行い、その結果の保持状態特定情報として、複数の保持状態のうちの少なくとも1つの状態(例えば何番目のバンド穴位置で保持するという状態)を取得することが可能になる。
また、処理部100は、第i(iは1≦i≦Nを満たす整数)の状態での押圧が適正押圧であるか否かの判定の後に、保持機構300での保持状態を、第iの状態よりも押圧が小さい第j(jは1≦j≦N、j≠iを満たす整数)の状態に変更する指示を行う指示画面を表示部70に表示する制御を行ってもよい。
これにより、減圧過程において適正押圧判定を行うことが可能になる。図19(A)〜図19(C)に例を示す。図19(C)に示したように、ここでは前半では加圧が行われ、後半では減圧が行われている。なお、バンド穴位置の変更時に非常に大きな押圧が現れ、対応するAC成分信号にも大きな信号値が現れているが、これは図9(A)等に示したように、適正押圧判定では除外されるものである。
図19(B)に示したように、AC成分信号は加圧過程、減圧過程の両方においてバンド穴位置7の前後で大きな振幅が現れるため、適正押圧の判定は可能である。しかし、減圧過程の方がより大きな振幅値となるため、判定が容易と考えられる。
一方、図19(A)に示したように、DC成分信号の変曲点は、減圧過程では明確であるのに対して、加圧過程では不明確である。信号値の小幅な変動まで考慮すれば、加圧過程においてDC成分信号の変曲点を検出することは可能であるが、AC成分信号と同様に減圧過程の方が判定は容易である。
以上のことから、減圧過程において適正押圧判定を行うことで、加圧過程を用いる場合に比べて精度よく判定を行うことが可能になる。
また以上の本実施形態は、脈波センサー11を有する脈波検出部10と、脈波検出部10における被検体への押圧が適正押圧か否かを判定するとともに、脈波検出部10からの信号に基づいて被検体の拍動情報を演算する処理部100と、処理部100での処理結果を表示する表示部70と、処理部100での処理結果を記憶する記憶部90を含む脈拍計に適用できる。そして、処理部100は、押圧が適正押圧であるか否かの判定用環境の設定指示を行う指示画面を、表示部70に表示する制御を行う。
これにより、保持機構300により保持以外の手法により押圧が変更される場合にも、判定用環境の指示画面を表示することで、適切な状況で押圧判定を行うことが可能になる。押圧変化の手法がどのようなものであっても、適正押圧判定に用いる信号値が押圧変化以外の要因で変動することは好ましくない以上、判定用環境の設定は重要であり、当該判定用環境の設定指示を行う指示画面を表示部70に表示する利点は大きい。
また、処理部100は、指示画面に表示された判定用環境の条件が満たされたか否かの判断を行い、条件が満たされたと判断された場合の脈波検出部10からの信号に基づいて、押圧が適正押圧であるか否かの判定を行ってもよい。
これにより、判定用環境の条件が満たされた場合の信号(狭義には脈波センサー信号であり、さらに狭義にはAC成分信号及びDC成分信号の少なくとも一方)に基づいた適正押圧判定が可能になる。システム側で判定用環境の条件が満たされたか否かを判断すること、及び適正押圧判定に脈波検出部10からの信号を用いることの利点については上述した通りである。
また、本実施形態の脈拍計は、その処理の一部又は大部分をプログラムにより実現してもよい。この場合には、CPU等のプロセッサーがプログラムを実行することで、本実施形態の脈拍計が実現される。具体的には、情報記憶媒体に記憶されたプログラムが読み出され、読み出されたプログラムをCPU等のプロセッサーが実行する。ここで、情報記憶媒体(コンピューターにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(DVD、CD等)、HDD(ハードディスクドライブ)、或いはメモリー(カード型メモリー、ROM等)などにより実現できる。そして、CPU等のプロセッサーは、情報記憶媒体に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。即ち、情報記憶媒体には、本実施形態の各部としてコンピューター(操作部、処理部、記憶部、出力部を備える装置)を機能させるためのプログラム(各部の処理をコンピューターに実行させるためのプログラム)が記憶される。
なお、以上のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また脈拍計の構成、動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。