以下、本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置を、自動車用内燃機関の吸気弁側に適用した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態が適用される車両は、いわゆるアイドリングストップ機構を有していると共に、内燃機関としては、高圧縮比仕様(例えば12.6)になっているものに適用されている。
本実施形態のバルブタイミング制御装置は、図1〜図4に示すように、機関のクランクシャフトによりタイミングチェーンを介して回転駆動される駆動回転体であるスプロケット1と、機関前後方向に沿って配置されて、前記スプロケット1に対して相対回転可能に設けられた吸気側のカムシャフト2と、前記スプロケット1とカムシャフト2との間に配置されて、該両者の相対回転位相を変換する位相変更機構3と、該位相変更機構3を、最進角位相と最遅角位相の間の中間位相位置及び最遅角位相の位置でロックさせるロック機構4と、前記位相変更機構3やロック機構4にそれぞれ油圧を別個独立に給排して各機構3、4を作動させる油圧回路5と、を備えている。
前記スプロケット1は、後述するハウジング7の後端開口を閉塞するリアカバーとして構成され、ほぼ肉厚円板状に形成されて、外周に前記タイミングチェーンが巻回された歯車部1aを有していると共に、中央には前記カムシャフト2に固定される後述のベーンロータ9の外周に回転自在に支持される支持孔1dが貫通形成されている。また、スプロケット1は、外周側の周方向等間隔位置に4つの雌ねじ孔1bが形成されている。
前記カムシャフト2は、図外のシリンダヘッドにカム軸受を介して回転自在に支持され、外周面には機関弁である吸気弁を開作動させる一気筒当たり2つの卵形の駆動カム(図示せず)が軸方向の位置に一体に固定されていると共に、一端部2aの内部軸心方向に雌ねじ孔2bが形成されている。
前記位相変更機構3は、図1〜図4に示すように、前記カムシャフト2の一端部2a側に設けられたハウジング7と、前記カムシャフト2の一端部の雌ねじ孔2bに螺着するカムボルト8を介して固定され、前記ハウジング7内に回転自在に収容された従動回転体であるベーンロータ9と、前記ハウジング7内の作動室に形成されて、該ハウジング7の内周面に内方(中心)に向かって突設された後述する4つのシュー10a〜10dと前記ベーンロータ9とによって隔成されたそれぞれ4つの遅角作動室である遅角油圧室11及び進角作動室である進角油圧室12と、を備えている。
前記ハウジング7は、円筒状のハウジング本体10と、プレス成形によって形成され、前記ハウジング本体10の前端開口を閉塞するフロントプレート13と、後端開口を閉塞するリアカバーとしての前記スプロケット1と、から構成されている。
前記ハウジング本体10は、焼結金属によって一体に形成され、内周面の円周方向ほぼ等間隔位置に4つの前記各シュー10a〜10dが一体に突設されていると共に、該各シュー10a〜10dの外周側にはボルト挿通孔10eがそれぞれ軸方向に貫通形成されている。
前記フロントプレート13は、金属製の薄板円盤状に形成されて、中央に貫通孔13aが形成されていると共に、外周側の周方向の等間隔位置に4つのボルト挿通孔13bが貫通形成されている。
そして、前記スプロケット1とハウジング本体10及びフロントプレート13は、前記各ボルト挿通孔13b、10eを挿通して前記各雌ねじ孔1bに螺着する4本のボルト14によって共締め固定されている。
なお、図2中、符番01は、前記スプロケット1の内側面の外周側に取り付けられた位置決め用ピンであって、この位置決め用ピン01は、前記ハウジング本体10の第1シュー10aの内部に形成された位置決め用孔02とフロントプレート13に貫通形成された位置決め孔03にそれぞれ挿入して、組付時のスプロケット1に対するハウジング本体10とフロントプレート13の位置決めを行うようになっている。
前記ベーンロータ9は、金属材によって一体に形成され、カムシャフト2の一端部に前記カムボルト8によって固定されたロータ15と、該ロータ15の外周面に円周方向のほぼ90°等間隔位置に放射状に突設された4つのベーン16a〜16dとから構成されている。
前記ロータ15は、図1にも示すように、比較的肉厚な円盤状に形成され、中央に有底円筒状の固定部15aを有していると共に、該固定部15aの底壁15bにカムボルト8が挿通するボルト挿通孔15cが貫通形成されて、底壁15bの内底面がカムボルト8の頭部8aの着座面になっている。また、固定部15aの内部には、カムボルト8全体を挿通させると共に、後述する通路構成部50が挿通固定される保持穴15dが形成されている。
そして、このロータ15は、互いに周方向で隣接する各ベーン16a〜16d間の円弧部位の外周面が同一曲率半径に設定されて、この各円弧部位の外周面には、前記シュー10a〜10dの各先端縁が対向配置されていると共に、該各先端縁にそれぞれ設けられたシール溝内に保持されたシール部材17aの内面が摺接するようになっている。この各シール部材17aは、ほぼコ字形状に形成されて、各シール溝の穴部側に設けられた板ばね17bによって前記ロータ15の各円弧部位の外周面方向へ付勢されている。
前記各ベーン16a〜16dは、その全体の突出長さがほぼ同一に設定されていると共に、円周方向の巾がほぼ同一の比較的肉厚に形成されて、それぞれが前記各シュー10a〜10dの間に配置されている。また、前記各ベーン16a〜16dの先端外周部には、断面矩形状にシール溝が軸方向に沿って形成されていると共に、該各シール溝には、ハウジング本体10の内周面に摺接するコ字形状のシール部材17cがそれぞれ設けられている。このシール部材17cは、内側に配置された板ばね17dによってハウジング本体10の内周面方向に付勢されている。
前記各シュー10a〜10dと各ベーン16a〜16dの各シール部材17a、17cによって、前記遅角油圧室11と進角油圧室12との間を常時シールするようになっている。
また、前記ベーンロータ9は、図3に示すように、遅角側へ相対回転すると第1ベーン16aの一側面が対向する前記第1シュー10aの対向側面に当接して最大遅角側の回転位置が規制され、進角側へ相対回転すると第1ベーン16aの他側面が対向する他の第2シュー10bの対向側面に当接して最大進角側の回転位置が規制されるようになっている。
このとき、他のベーン16b〜16dは、両側面が円周方向から対向する各シュー10a〜10dの対向面に当接せずに離間状態にある。したがって、ベーンロータ9とシュー10との当接精度が向上すると共に、前記各油圧室11,12への油圧の供給速度が速くなってベーンロータ9の正逆回転応答性が高くなる。
なお、前記ベーンロータ9は、ハウジング3との通常の相対回転制御時には、後述する第1ベーン16aが対応する第1シュー10aや第2シュー10bにそれぞれ当接した最遅角位相と最進角位相よりも内側で、つまり僅かに中間寄りの範囲内で相対回転制御されるようになっている。
前記各ベーン16a〜16dの回転軸方向の両側面と各シュー10a〜10dの両側面との間に、前述した各遅角油圧室11と各進角油圧室12が隔成されている。この各遅角油圧室11と各進角油圧室12は、それぞれの容積がほぼ同一に設定されている。
また、前記各遅角油圧室11と各進角油圧室12は、図3に示すように、前記ロータ15の内部径方向に沿ってそれぞれ形成された第1連通路11aと第2連通路12aと遅角通路18、進角通路19を介して後述するオイルポンプ43の吐出通路43aにそれぞれに連通している。
前記ロック機構4は、機関の停止状態に応じて、ハウジング7に対してベーンロータ9を前記最遅角側の回転位置(図6Bの位置)と、最遅角側と最進角側の間の進角寄りの第1の中間回転位置(図7Bの位置)と、遅角寄りの第2の中間回転位置(図8Bの位置)にロック保持するようになっている。
前記最遅角側の回転位置は、図10に示すように、クランク角0°の角度位置に設定されており、これはアイドリングストップなどで機関温度が所定温度以上になっている場合の始動に適した回転位置である。
前記第1の中間回転位置は、イグニッションスイッチをオフ操作して機関停止後にロック機構4によってベーンロータ9がロックされる位置であって、図10に示すように、クランク角が約55°(VTC位相角が27.5°)の角度位置に設定されており、これは通常の冷機始動に適した回転位置である。
前記第2の中間回転位置は、図10に示すように、クランク角が約35°(VTC位相角が17.5°)の角度位置に設定されており、これは寒冷地などにおける極低温始動に適した回転位置である。
具体的に説明すれば、前記ロック機構4は、図4、図6〜図8に示すように、第1ロック機構4aと第2ロック機構4bからなり、前記スプロケット内側面1cの周方向のほぼ等間隔位置にそれぞれ穴構成部によって形成された第1〜第4ロック凹部である第1〜第4ロック穴24、25、26、27(第5ロック凹部を含む)と、前記ロータ15の周方向のほぼ等間隔位置に4つ設けられて、前記第1〜第4ロック穴24、25、26、27にそれぞれ係脱する第1〜第4ロック部材である第1〜第4ロックピン28、29、30、31と、該各ロックピン28〜31の前記各ロック穴24〜27に対する係合を解除させる第1、第2ロック解除通路41,42と、から主として構成されている。
前記第1、第2ロック穴24,25と第1、第2ロックピン28,29及び第1ロック解除通路41などによって第1ロック機構4aが構成され、第3,第4ロック穴と第3、第4ロックピン30,31及び第2ロック解除通路42などによって第2ロック機構4bが構成されている。
前記第1ロック穴24は、円周方向に沿った長穴の段差状に形成されて、前記スプロケット内側面1cを最上段として、遅角側から進角側に向かって低くなる段差状に形成され、遅角側の浅い円弧状の第1穴部24aと、進角側の深い円形状の第2穴部24bから階段状に構成されている。また、第1ロック穴24は、全体が第1ロックピン28の小径な先端部28aの外径よりも僅かに大きく形成されて、前記第2穴部24aに係入した前記先端部28aが円周方向へ僅かに移動可能になっている。また、第1ロック穴24は、前述したように、スプロケット1の内側面1cの前記ベーンロータ9の最遅角と最進角のやや進角側に寄った中間位置に形成されている。
したがって、第1ロックピン28が、ベーンロータ15の進角方向の回転に伴って先端部28aがスプロケット内側面1cに摺接しつつ第1ロック穴24の第1穴部24aに係入すると、この時点で先端部28aの側縁が第1穴部24aの内側面に当接してベーンロータ9の遅角方向の回転を規制するようになっていると共に、図7Aに示すように、第2穴部24bに当接した段階で遅角方向と進角方向の回転が規制されるようになっている。
前記第2ロック穴25は、第1ロック穴24と同じく遅角側から進角側に向かって円周方向に沿った長穴の階段状に形成されている。つまり、スプロケット1の内側面1cを最上段として、これより遅角側から進角側に向かって一段ずつ低くなる円弧状の第1穴部25aと長円状の第2穴部25bが階段状に形成され、この両穴部25a、25bは第1ロック穴24の第1、第2穴部24a、24bよりも円周方向に長く形成されている。
そして、前記第2ロックピン29の先端部29aが、前記第1穴部25aに係合するとベーンロータ9の遅角方向への回転が規制され、また第2穴部25bに係合すると第2ロックピン29の先端部29aは進角、遅角方向へ僅かに移動可能になっているが、図7Aに示すように、ベーンロータ9が進角側へ回転すると、前記先端部29aの側縁が第2穴部25b側の側面25cに当接して、前記第1ロックピン28と協働してベーンロータ9の遅角方向と遅角方向への回転を規制するようになっている。
前記第3ロック穴26は、これも円周方向に沿った長穴に形成されているが、穴部26aが段差状ではなく均一深さの平坦状に形成されていると共に、第3ロックピン30の先端部30aが係合するとベーンロータ15の遅角側と進角側への僅かな回転を許容するが、図8Aに示すように、ベーンロータ9の遅角側の所定以上の移動に伴い周方向の側面26bに前記先端部30aの側縁が当接してベーンロータ9の遅角方向への回転を規制するようになっている。
前記第4ロック穴27は、第1ロック穴24などと同じく円周方向に沿った長穴の階段状に形成されており、スプロケット1の内側面1cを最上段として、これより進角側から一段ずつ低くなる円形状の第4ロック凹部としての第1穴部27aと、第5ロック凹部としての第2穴部27bが階段状に形成され、この両穴部27a、27bは第2ロック穴25とほぼ同じ長さで円周方向へ長く形成されている。
前記第4ロックピン31の先端部31aが、図8Aに示すように、前記第1穴部27aに係合するとベーンロータ9の進角方向への移動が規制され、この時点では第3ロックピン30も第3ロック穴26に係合して遅角側への回転を規制していることから、両ロックピン30,31を介してベーンロータ9を遅角側の第2の中間回転位置に規制するようになっている。
また、第4ロックピン31の先端部31aが、図6Aに示すように、第4ロック穴27の第2穴部27bに係合することによって、ベーンロータ9を最遅角側の回転位置に規制するようになっている。
前記第1ロックピン28は、図2、図3、図6〜図8に示すように、前記ロータ15の前記第1、第2ベーン16a、16b間の部位の内部軸方向に貫通形成された第1ピン孔32a内に摺動自在に配置され、小径な前記先端部28aと、該先端部28aの後側に位置する中空状の大径部28bと、先端部28aと大径部28bとの間に形成された段差受圧面28cと、によって一体に形成されている。前記先端部28aは、先端面が前記第1ロック穴24の第1穴部24aに密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
また、この第1ロックピン28は、大径部28bの内部の凹溝穴部とフロントプレート13の内面との間に弾装された付勢部材である第1スプリング33のばね力によって第1ロック穴24に係合する方向へ付勢されている。
さらに、この第1ロックピン28は、図6A、図7Aなどに示すように、前記段差受圧面28cに前記ロータ15の内部に形成された第1通路孔37から第1ロック穴24を介して油圧が作用するようになっている。この油圧によって、第1ロックピン28が前記第1スプリング33のばね力に抗して後退移動して第1ロック穴24との係合が解除されるようになっている。
前記第2ロックピン29は、第1ロックピン28と同じくロータ15の第2ベーン16bと第3ベーン16cの間に位置する部位の内部軸方向に貫通形成された第2ピン孔32b内に摺動自在に配置され、外形が第1ロックピン28と同じく段差径状に形成されて、小径な先端部29aと、中空状の大径部29bと、段差受圧面29cと、によって一体に形成されている。前記先端部29aは、先端面が前記第2ロック穴25の各穴部25a、25bに密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
この第2ロックピン29は、大径部29bの後端側から内部軸方向に形成された凹溝穴部とフロントプレート13の内面との間に弾装された付勢部材である第2スプリング34のばね力によって第2ロック穴25に係合する方向へ付勢されている。
また、この第2ロックピン29は、前記段差受圧面29cに前記ロータ15の内部に形成されたである第2通路孔38から油圧が作用するようになっている。この油圧によって、第2ロックピン29が前記第2スプリング34のばね力に抗して後退移動して第2ロック穴25との係合が解除されるようになっている。
前記第3ロックピン30は、前記ロータ15の第3ベーン16cと第4ベーン16dの間に位置する部位の内部軸方向に貫通形成された第3ピン穴32c内に摺動自在に配置され、外径が段差径状に形成されて、第1ロックピン28と同じく、小径な前記先端部30aと、中空状の大径部30bと、段差受圧面30cと、によって一体に形成されている。前記先端部30aは、先端面が前記第3ロック穴26の各穴部26aの底面に密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
また、この第3ロックピン30は、大径部30bの後端側から内部軸方向に形成された凹溝穴部とフロントプレート13の内面との間に弾装された付勢部材である第3スプリング35のばね力によって第3ロック穴26に係合する方向へ付勢されている。
また、この第3ロックピン30は、前記段差受圧面30cに前記ロータ15の内部に形成された第3通路孔39から油圧が作用するようになっている。この油圧によって、第3ロックピン30が前記第3スプリング35のばね力に抗して後退移動して第3ロック穴26との係合が解除されるようになっている。
前記第4ロックピン31は、前記ロータ15の第4ベーン16dと第1ベーン16aの間に位置する部位の内部軸方向に貫通形成された第4ピン穴32d内に摺動自在に配置され、外径が段差径状に形成されて、第1ロックピン28と同じく、小径な前記先端部31aと、中空状の大径部31bと、段差受圧面31cと、によって一体に形成されている。前記先端部31aは、先端面が前記第4ロック穴27の各穴部27a、27bの底面に密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
また、第4ロックピン31は、大径部31bの後端側から内部軸方向に形成された凹溝穴部とフロントプレート13の内面との間に弾装された付勢部材である第4スプリング36のばね力によって第4ロック穴27に係合する方向へ付勢されている。
この第4ロックピン31は、前記段差受圧面31cに前記ロータ15の内部に形成された第4通路孔40から油圧が作用するようになっている。この油圧によって、第4ロックピン31が前記第4スプリング36のばね力に抗して後退移動して第4ロック穴27との係合が解除されるようになっている。
なお、各第1〜第4ロックピン28〜31の各先端面を含む前記各段差受圧面28c〜31cの受圧面積は同一に設定されている。
また、図4に示すように、前記第1、第2通路孔37,38は、後述する第1ロック解除通路41に連通している一方、第3、第4通路孔39,40は、第2ロック解除通路42に連通している。
これによって、ベーンロータ9は、図10に示すように、全体として4段階のラチェット作用によって遅角方向への回転を規制されながら進角方向へ相対回転して、最終的に最遅角位相と最進角位相との間の中間位相位置に保持されるようになっている。
なお、前記第1〜第4ピン孔32a〜32dのフロントプレート13側の孔縁には、各ロックピン28〜31の良好な摺動性を確保するために大気に連通する呼吸溝52がそれぞれ形成されている。
前記油圧回路6は、図1及び図4に示すように、前記各遅角油圧室11に対して第1連通路11aを介して油圧を給排する遅角通路18と、各進角油圧室12に対して第2連通路12aを介して油圧を給排する進角通路19と、前記各第1〜第4通路孔37〜40にそれぞれ油圧を供給、排出する前記第1、第2ロック解除通路41,42と、前記遅角、進角通路18,19に作動油を選択的に供給すると共に、第1、第2ロック解除通路41,42に作動油を吐出通路43aを介して供給する流体圧供給源であるオイルポンプ43と、機関運転状態に応じて前記遅角通路18と進角通路19の流路を選択的に切り換える第1電磁切換弁44と、前記第1ロック解除通路41に対する作動油の給排をオン−オフ的に切り換える第2電磁切換弁45と、前記第2ロック解除通路42に対する作動油の給排を切り換える第3電磁切換弁46と、前記第2電磁切換弁45の上流側に設けられて、内部に油圧を蓄圧するアキュムレータ47と、該アキュムレータ47の上流側に設けられて、前記オイルポンプ43から吐出された吐出油圧を前記アキュムレータ47方向のみに通流させる逆止弁48と、を主として備えている。
前記遅角通路18と進角通路19及び第1、第2ロック解除通路41,42は、図1及び図4に示すように、これらの一部が内燃機関のシリンダブロックに取り付けされたチェーンカバー49の内部と、該チェーンカバー49に一体に設けられた円柱状の通路構成部50の内部にそれぞれ形成されている。
前記通路構成部50は、前記ロータ15の固定部15a内に挿通固定されていると共に、外周に形成された複数の環状溝には各通路間及び外部との間をシールする4つのシール部材51が嵌着固定されている。
前記遅角通路18と進角通路19とは、それぞれの一端部が前記第1電磁切換弁44の図外の各ポートに接続されている一方、他端側が前記第1,第2連通路11a、12aを介して前記各遅角油圧室11と各進角油圧室12にそれぞれ連通している。
前記第1ロック解除通路41は、図1、図4に示すように、一端側が第2電磁切換弁45の図外のロックポートに接続されている一方、他端側が前記第1、第2通路孔37,38を介して各ロックピン28,29の段差受圧面28c、29cにそれぞれ連通している。
一方、第2ロック解除通路42は、一端側が第3電磁切換弁46の図外のロックポートに接続されている一方、他端側が前記第3、第4通路孔39,40を介して各ロックピン30,31の段差受圧面30c、31cにそれぞれ連通している。
前記オイルポンプ43は、機関のクランクシャフトによって回転駆動するトロコイドポンプなどの一般的なものであって、アウター、インナーロータの回転によってオイルパン56内から吸入通路を介して吸入された作動油を吐出通路43aに吐出して、その一部が図外のメインオイルギャラリーM/Gから内燃機関の各摺動部などに供給されると共に、他が第1〜第3分岐通路53,54,55を介して前記第1〜第3電磁切換弁44〜46側にそれぞれ供給されるようになっている。
なお、吐出通路43aの下流側には、図外の濾過フィルタが設けられていると共に、吐出油圧を前記各分岐通路53〜55方向のみに通流させるチェック弁57aが設けられている。また、吐出通路43aから吐出された過剰な作動油を、ドレン通路を介してオイルパン56に戻して適正な流量に制御する流量制御弁57が設けられている。
前記第1電磁切換弁44は、図4に示すように、4ポート3方向型であって、各構成部材については具体的に符番を入れて説明しないが、概略的には、ほぼ円筒状のバルブボディと、該バルブボディ内に軸方向へ摺動自在に設けられたスプール弁体と、バルブボディの内部一端側に設けられて、スプール弁を一方向へ付勢する付勢部材であるバルブスプリングと、バルブボディの一端部に設けられて、前記スプール弁をバルブスプリングのばね力に抗して他方向へ移動させる電磁コイルと、から主として構成されている。
第2電磁切換弁45は、一般的な3ポート3方向型であって、構造的には図5A〜Cにも示すように、バルブボディ45aや、ボール弁体45b、図外のバルブスプリング、電磁コイル、固定鉄心、可動プランジャなどを有し、第1ロック解除通路41に対して第2分岐通路54と第2ドレン通路59を相対的に切り換え制御するようになっている。
第3電磁切換弁46は、第2電磁切換弁45と同じ構成の3ポート3方向型であって、第2ロック解除通路42に対して第3分岐通路55と第3ドレン通路60を相対的に切り換え制御するようになっている。
前記アキュムレータ47は、前記第2分岐通路54の途中に設けられ、図5A〜Cに示すように、チェーンカバー49内に形成された円柱状のシリンダ61と、該シリンダ61の内部に摺動自在に設けられた有底円筒状のピストン62と、前記シリンダ61の内底面とピストン62の底壁62aとの間に形成された蓄圧室63と、該ピストン62の内底面と蓄圧室63の開口端を液密的に閉止する蓋部材64との間に弾装されて、前記ピストン62を介して蓄圧室63内の油圧を圧縮する方向へ付勢するばね部材65と、前記ピストン62の外周に設けられて、蓄圧室63内をシールするシールリング66と、を備えている。
前記蓄圧室63は、底部側が第2分岐通路54から分岐した分岐路54aの端部が接続されている。
前記シールリング66は、前記ピストン62の蓋部材64側寄りの外周に形成された環状溝に嵌着固定されており、したがって、蓄圧室63から十分に離れた位置に設けられている。このため、シールリング66は、蓄圧室63内の高油圧を直接受けることがなく、シリンダ61内周面とピストン62外周面との間の微小隙間を介して油圧が作用することから、耐久性が向上する。
また、前記第1ロック解除通路41の下流側の一部は、図1に示すように、前記保持孔15d内のボルト頭部8aと通路構成部50の先端部との間に形成された空間部15eを通ることなく、通路構成部50内に形成された小径通路41aによって構成されている。このように、前記空間部15eを避けることによって、前記蓄圧室63の容積に影響を与えることがなくなる。つまり、蓄圧室63の容積を、前記空間部15eを考慮して大きく設定する必要がなくなる。
前記逆止弁48は、図5A〜Cに示すように、バルブボディ48の内部に形成された通路孔48aの内部開口端48cをボール弁体48bが開閉して、オイルポンプ43からの吐出油圧をアキュムレータ47側に通流させるが、アキュムレータ47からオイルポンプ43方向への油圧の通流を阻止するようになっている。したがって、アキュムレータ47には、図5Aに示すように、オイルポンプ43の作動中に吐出通路43aから第2分岐通路54及び逆止弁48を通って油圧が供給される。これによって、前記ピストン62が、ばね部材65のばね力に抗して後退移動して蓄圧室63に高油圧が蓄圧されるようになっている。
したがって、前アキュムレータ47は、図4及び図5Aに示すように、オイルポンプ43の作動中に吐出通路43aに吐出された油圧が前記逆止弁48のボール弁体48bを押し開いて前記分岐路54aから蓄圧室63に供給される。これにより、前記ピストン62がばね部材65のばね力に抗して後退移動して蓄圧室63に高油圧を蓄圧するようになっている。
また、オイルポンプ43の作動が停止した場合は、図5Bに示すように、前記蓄圧室63の高油圧によって逆止弁48のボール弁体48bが通路内部の開口端を閉止して、蓄圧室63からの油圧の逆流が阻止されるようになっている。なお、この時点では、第2電磁切換弁45は、後述の電子コントローラによってオフ信号が出力されて、ボール弁体45bが第1分岐通路54内の油圧の通流を阻止している。
さらに、この状態で第2電磁切換弁45にオン信号が出力されると、図5Cに示すように、前記ボール弁体45bが開成されて、蓄圧室63の内部に蓄圧された高油圧が前記第1分岐通路54を通って第1ロック解除通路41に圧送されるようになっている。
そして、前記第1〜第3電磁切換弁44〜46は、図外の電子コントローラ(ECU)から出力される制御電流と前記各バルブスプリングとの相対的な圧力によって制御されている。
第1電磁切換弁44は、電子コントローラからの通電遮断(非通電)と通電(通電量も含む)よって前記スプール弁を前後方向の所定の位置に移動させて、前記第1分岐通路53に対して遅角通路18と進角通路18、19を切り換えや、遅角通路18と進角通路19とドレン通路58とを切り換えるようになっている。
つまり、非通電状態で、遅角通路18と進角通路19の両方をドレン通路58に連通させ、また、通電状態でもその通電量に応じて前記第1分岐通路53と両方の通路18,19を連通するか、第1分岐通路53に対して前記遅角通路18と進角通路19のいずれか一方を連通させ、同時にいずれか他方の通路18,19をドレン通路58に連通させるようになっている。
一方、第2、第3電磁切換弁45、46は、電子コントローラからのオン−オフ的な通電信号によってボール弁体がいずれか一方に移動して、前記第1、第2ロック解除通路41,42と吐出通路43a、あるいは第1、第2ロック解除通路41,42とドレン通路59、60を選択的に切り換えるようになっている。
このように、第1電磁切換弁44側では、前記スプール弁を軸方向の所定の位置に移動させることによって、各ポートを選択的に切り換えてタイミングスプロケット1に対するベーンロータ9の相対回転角度を変化させる。一方、第2、第3電磁切換弁45、46側では、第1、第2ロックピン28、29と第3、第4ロックピン30、31の各ロック穴24〜27への係入ロックとロック解除を選択的に行ってベーンロータ9の自由な回転の許容と第1、第2中間位相位置及び最遅角位置で回転をロックするようになっている。
前記電子コントローラは、内部のコンピュータが図外のクランク角センサ(機関回転数検出)やエアーフローメータ、機関水温センサ、機関温度センサ、スロットルバルブ開度センサおよびカムシャフト2の現在の回転位相を検出するカム角センサなどの各種センサ類からの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出すると共に、前述したように、前記第1〜第3電磁切換弁44〜46の各電磁コイルに制御電流を出力して前記各弁体の移動位置を制御して、前記各ポートを選択的に切り換え制御するようになっている。
そして、車両のイグニッションスイッチをオフ操作して機関停止させた場合と、走行時のアイドリングストップなどの一時的な機関停止の場合とに分けて前記第2、第3電磁切換弁45、46へ制御電流を出力するようになっている。
〔本実施形態の作動〕
以下、本実施形態のバルブタイミング制御装置の作動を説明する。まず、車両の通常走行後にイグニッションスイッチをオフ操作して機関を停止させた場合について説明する。
イグニッションスイッチをオフ操作すると、電子コントローラから第1〜第3電磁切換弁44〜46への通電が遮断されることから、各弁体はバルブスプリングのばね力で一方向の位置に移動する。これによって、吐出通路43aに対して遅角通路18及び進角通路19の両方を連通させると共に、各ロック解除通路41,42とドレン通路59、60を連通させる。また、オイルポンプ43の駆動も停止されることから、いずれかの油圧室11,12や各第1〜第3通路孔37〜40への作動油の供給が停止される。
そして、このイグニッションスイッチをオフ操作する前のアイドリング運転時には、第1電磁切換弁44への通電によって吐出通路43aと遅角通路18が連通されると共に、ドレン通路58と進角通路19が連通される。このとき、第2、第3電磁切換弁45、46にオン信号が継続的に出力されて、前記アキュムレータ47の油圧が第1ロック解除通路41を介して第1、第2通路孔37,38から第1、第2ロックピン28、29の各段差受圧面28c、29cに作用すると共に、オイルポンプ43の油圧が第3,第4通路孔39,40から第3、第4ロックピン30,31の各段差受圧面30c、31cにそれぞれ作用する。これによって、各ロックピン28〜31は、第1〜第4ロック穴24〜27の位置から抜け出てベーンロータ9のロックが解除された状態になる。
よって、ベーンロータ9は、ロックが解除された状態が維持されていることから、各遅角油圧室11に供給された作動油圧によって最遅角側の回転位置になっている。つまり、図6Aに示す最遅角位置であるが、この時点では油圧によって第4ロックピン31は第4ロック穴27に係合していない状態になっている。
この状態で、イグニッションスイッチがオフ操作されると、操作初期のアクセサリーモードの際に、第1電磁切換弁44への通電が遮断(非通電)されて、遅角通路18も進角通路19と同じくドレン通路58に連通させることから、各遅角油圧室11内も低圧状態になる。
そして、この機関の停止直前では、カムシャフト2に作用する正負の交番トルクが発生し、特に、負のトルクによってベーンロータ9が前記最遅角位置から進角側へ僅かに回転する。このとき、前記第2、第3電磁切換弁45,46への通電もオフされて、各ロック解除通路41、42と各ドレン通路59,60が連通される。これによって、各通路孔37〜40から各ロックピン28〜31への解除用油圧の供給が遮断されることから、各ロックピン28〜31は、それぞれのスプリング33〜36のばね力によって進出方向に付勢される。
このため、各ロックピン28〜31は、ベーンロータ9の進角方向への回転に伴い、各先端部28a〜31aがスプロケット内側面1cに摺接しつつ図中、左方向へ移動して、まず第2ロックピン29の先端部がスプロケット内側面1cから第2ロック穴25の第1穴部25aに係合する。これによって、ベーンロータ9は、遅角側の交番トルクが作用しても遅角方向への回転が規制される。
続いて進角側の交番トルクが作用してベーンロータ9がさらに進角方向へ回転すると、第1ロックピン28の先端部28aが第1ロック穴24の第1穴部24aに一旦係合し、その後、図7Aに示すように、さらに第2穴部24bに階段を下りるように係合すると共に、第2ロックピン29が第2ロック穴25の第2穴部25bに同じく段階を下りるように係合しつつ該第2穴部25b内において進角側へ摺動する。同時に、第3ロックピン30も対応する第3ロック穴26の穴部26aに係合しつつ進角側へ摺動する。
これによって、図7Aに示すように、第1、第2ロックピン28、29によって第1、第2ロック穴24,25の間を挟むような状態で係合配置される。したがって、ここで、ベーンロータ9に正の交番トルクが作用して遅角側へ回転しようとするが、第1ロックピン28の先端部28aの側縁が第1穴部24bの立ち上がり段差面に当接して遅角側への回転が規制される一方、ベーンロータ9に負の交番トルクが作用して進角側へ回転しようとしても、第2ロックピン29の先端部29aの側縁が第2穴部25bの立ち上がり段差面25cに当接して進角側への回転が規制される。
よって、ベーンロータ9は、進角よりの中間回転位相位置、つまり、図9及び図10に示すVTC位相が約27.5°の第1の中間位相位置にロック保持される。この第1中間回転位置は、通常の冷機始動に適した位置である。
なお、この状態では、第4ロックピン31は、図7Aに示すように、スプリング36のばね力によって先端部31aが第4ロック穴27の孔縁、つまり、スプロケット内側面1cに弾接している。
その後、長時間経過後に機関を始動(低温始動)するために、イグニッションスイッチをオン操作すると、その直後の初爆(クランキング開始)によってオイルポンプ43が駆動すると共に、第1電磁切換弁44に通電されて吐出通路43aに対して遅角通路18と進角通路19の両方を連通させる。このため、ポンプ吐出油圧が遅角通路18と進角通路19を介して各遅角油圧室11と各進角油圧室12にそれぞれ供給される。
一方、前記第1、第2ロック解除通路41,42と各ドレン通路56、60は連通された状態になっていることから、各ロックピン28〜30は、各スプリング33〜35のばね力によって各ロック穴24〜26に係合した状態を維持している。
したがって、前記ベーンロータ9は、前記第1の中間回転位相位置に保持されていることから、クランキング時の燃焼が良好になって排気エミッション性能が向上すると共に、始動性が良好になる。
続いて、アイドリング運転から例えば機関常用運転域に移行すると、電子コントローラから第2、第3電磁切換弁45、46に制御電流が出力されて、各分岐通路54、55と各ロック解除通路41,42が連通されると共に、第1電磁切換弁44に所定量の電流が適宜出力されて、吐出通路43aに対する遅角通路18と進角通路19との連通を適宜選択される。
したがって、ロック機構4側では、各分岐通路54,55から各ロック解除通路41,42を介して各通路孔37〜40を通った油圧が各ロックピン28〜31の段差受圧面28c〜31cに作用して各ロックピン28〜31を各ロック穴24〜27から抜け出させて係合を解除する。したがって、ベーンロータ9の自由な正逆回転が許容されると共に、遅角、進角油圧室11,12への選択的な油圧の供給によってベーンロータ9は、機関運転状態に応じて進角側あるいは遅角側へ相対回転して、燃費や機関の出力などの機関性能を十分に引き出すことが可能になる。
すなわち、例えば機関の常用運転域に移行した場合は、第1電磁切換弁44に通電されて、吐出通路43aと遅角通路18を連通させると共に、進角通路19とドレン通路58を連通させる。
一方、第2、第3電磁切換弁45,45に通電されて、各分岐通路54、55と各ロック通路41、42を連通させる。これによって、各ロックピン28〜31は各ロック穴24〜27から抜け出た状態が維持される一方、第1電磁切換弁4の切り換え制御によって例えば進角油圧室12の油圧が排出されて低圧になる一方、遅角油圧室11が高圧になることから、ベーンロータ9をハウジング7に対して遅角側に回転させる。
よって、吸気弁と排気弁のバルブオーバーラップが小さくなって筒内の残留ガスが減少して燃焼効率が向上し、機関回転の安定化と燃費の向上が図れる。
その後、例えば機関高回転高負荷域に移行した場合は、第1電磁切換弁44への通電量を大きくする。これによって、遅角通路18とドレン通路58が連通されると共に、進角通路19と吐出通路43aを連通させると共に、第2、第3電磁切換弁45,46への通電状態が維持されて各分岐通54,55に対して各ロック解除通路41,42が連通状態を維持されている。
したがって、各ロックピン28〜31の各ロック穴24〜27に対する係合が解除された状態になっていると共に、遅角油圧室11が低圧になる一方、進角油圧室12が高圧になる。このため、ベーンロータ9は、ハウジング7に対して最進角側に回転する。これにより、カムシャフト2は、スプロケット1に対して最進角の相対回転位相に変換される。
これによって、吸気弁と排気弁のバルブオーバーラップが大きくなって、吸気充填効率が高くなって機関の出力トルクの向上が図れる。
このように、機関の運転状態に応じて、電子コントローラが第1〜第3電磁切換弁44〜46に通電、あるいは通電を遮断して、前記位相変換機構3とロック機構4を制御してタイミングスプロケット1に対するカムシャフト2の最適な相対回転位置に制御することから、バルブタイミングの制御精度の向上が図れる。
〔機関が自動的に停止した場合〕
アイドリングストップなどによって機関が自動的に停止する場合は、前記イグニッションスイッチを操作して停止させた場合と同じく、この機関の自動停止前のアイドリング回転時に、第1電磁切換弁44を介して吐出通路43aと遅角通路18を連通させると共に、進角通路19とドレン通路58を連通させる。同時に、第2、第3電磁切換弁44,45を介して各ロック解除通路41,42と各ドレン通路59,60とを連通させる。したがって、各遅角油圧室11に作動油圧が供給されて、前記ベーンロータ9は、図6Bに示すように、最遅角側の回転位置になる。
このとき、前記ロック機構4は、各通路孔37〜40に油圧が供給されていないことから、第1〜第3ロックピン28〜30の先端部28a〜30aが、図6Aに示すように、第1〜第3ロック穴24〜26の位置から外れて各スプリング37,38の付勢力によってスプロケット1の内側面1cに弾接していると共に、第4ロックピン31の先端部31aがスプリング36のばね力によって第4ロック穴27の第5ロック凹部である第2穴部27bに係合する。
これによって、前記ベーンロータ9は、最遅角側の回転位置に安定かつ確実にロックされことから、その後、機関の自動的な再始動時(クラインキング初期)には、吸気弁は最遅角位相の状態で始動が開始される。したがって、燃焼室の有効圧縮比が低下して良好な始動性を確保しつつ機関の振動を十分に抑制することができる。プレイグニッション(ノッキング)の発生が抑制されつつ良好な始動性と機関振動の抑制が図れる。
なお、機関が自動的に始動された後は、前述と同じく、前記第2、第3電磁切換弁45、46に通電されて、各分岐通路54、55と各ロック解除通路41,42を連通させるため、第1〜第4ロックピン28〜31は、各ロック穴24〜27から抜け出て係合が解除される。これによって、ベーンロータ9の自由な正逆回転を確保できる。
〔機関の極低温始動時〕
次に、前記機関停止時における温度環境が極寒冷地であって、再始動時には機関が極低温状態になっていた場合について説明する。
イグニッションスイッチをオフ操作して機関を停止させた後のベーンロータ9は、前述した図7A、Bに示すように、特に第1、第2ロックピン28、29が第1,第2ロック穴24,25に係合して第1の中間回転位相位置にロック保持されている。
したがって、機関再始動のためにイグニッションスイッチをオン操作すると、アクセサリーモード中に、現在の機関温度を検出した前記電子コントローラが所定温度以下の極低温状態であると判断した場合は、第2電磁切換弁45のみにオン信号を出力する。
これによって、第2分岐通路54と第1ロック解除通路41が連通すると同時に、前記アキュムレータ47内の高油圧が第2分岐通路54から第1ロック解除通路41を通って第1、第2通路孔37,38から第1、第2ロックピン28、29の各段差受圧面28c、29cに即座に作用する。したがって、第1ロックピン28と第2ロックピン29は、図8Aに示すように、その各先端部28a,29aが第1、第2ロック穴24,25から速やかに抜け出してベーンロータ9のロックを解除する。
次に、クランキングの初爆時に前記カムシャフト2に作用するフリクショントルクによってベーンロータ9に遅角側への回転力が作用すると、該ベーンロータ9は、図8A,Bに示すように、スプリング35のばね力によって進出方向に付勢された第3ロックピン30の先端部30aが第3ロック穴26内を摺動しつつ遅角側の側壁に当接してそれ以上の遅角方向の回転が規制されると共に、第4ロックピン31の先端部31aが第4ロック穴27の第1穴部27aに係合して両ロックピン30、31で両ロック穴26、27間を挟持する状態になる。これによって、この回転位置、つまり第2の中間回転位置に確実にロック保持される。この回転位置は、図9及び図10に示すように、VTC角度で約17.5°であって、極低温始動に適した回転位置である。
したがって、極低温時の機関始動時において、イグニッションスイッチをオン操作してクランキングが開始されると、該クランキング初爆から完爆までの燃焼性が良好になり、極低温時における始動性の向上が図れる。
以上のように、本実施形態では、前記ベーンロータ9を、通常の機関低温始動時には、第1、第2ロック機構4a、4bによってVTC角度約27.5°の第1中間回転位相にロック保持し、また、アイドリングストップ時には、最遅角側にロック保持することができるため、始動性の向上が図れる。
しかも、極低温始動時には、第1ロック機構4aのアキュムレータ47の高油圧を第1ロック解除通路41へ強制的に供給して、第1、第2ロックピン38,29を第1,第2ロック穴24、25から速やかに抜け出させて(後退移動させて)ロックを解除することができる。
したがって、始動時の環境によらず、いずれの始動時、特に油圧の粘性が高くなる極低温始動時にもロック機構4によるロックを速やかに解除することが可能になる。
前記アキュムレータ47は、その配設位置がオイルポンプ43よりも十分に下流側で第1、第2ロック穴24、25に近い位置になっていることから、内部の高油圧を各ロック穴24,25へ速やかに供給することができ、この点でも第1、第2ロックピン28,29のロック解除応答性が向上する。
また、この実施形態では、電子コントローラから前記第2、第3電磁切換弁45、46に通電されて前記吐出通路43a(第3分岐通路55)やアキュムレータ47(第2分岐通路54)と各ロック解除通路41,42が連通され、オイルポンプ43やアキュムレータ47aから各ロック解除通路41,42に供給された作動油圧は、各通路孔37〜40を介して各段差受圧面28c〜31cに同時かつ同圧に作用することから、第1〜第2ロックピン28〜31を各ロック穴24〜27から同時に退出させることができる。
すなわち、前記第1、第2分岐通路41,42の通路断面積が同一に形成され、また第1〜第4通路孔37〜41の通路断面積も同一に形成されていることから、各段差受圧面28c〜31cには、同時かつ同一の油圧が作用する。このため、各ロックピン28〜31を、対応する第1〜第4ロック穴24〜27から同時に退出させることができる。したがって、ロックピンの退出が遅れてロック穴の孔縁に引っ掛かってしまうといったおそれがなくなることから、所望のバルブタイミング制御を行うことができると共に、この制御を応答性良く行うことが可能になる。
また、ベーンロータ9のロータ15に、ピン孔32a〜32dを介して第1、2ロックピン27、28と第3、第4ロックピン30、31を設けたため、各ベーン16a〜16dの周方向の肉厚を十分に薄くすることができる。これによって、ベーンロータ9のハウジング7に対する相対回転角度を十分に拡大することが可能になる。
また、本実施形態では、アイドリングストップなどで機関が自動的に停止した場合には、ロック機構4によってベーンロータ9を最遅角側の回転位置に、油圧ではなく機械的にロックさせるようにしたため、油圧源を別途設ける必要がなくなる。このため、装置の簡素化が図れると共に、コストの低減化が図れる。
さらに、機関を手動停止させた場合には、前記ロック機構4によってベーンロータ9を第1の中間回転位相位置へ回転させる際に、第1ロック穴24と第2ロック穴25の階段状の各穴部24a、25aによって第1ロックピン28と第2ロックピン29は必ず進角側の各穴部24b、25b方向のみにラチェット式に案内移動されることから、かかる案内作用の確実性と安定性を担保できる。
また、ベーンロータ9を最遅角側へ回転させる場合にも、第4ロックピン31は、第4ロック穴27の階段状穴部27a、27bによってラチェット式に案内移動されることから、この場合もかかる案内作用の確実性と安定性を担保できる。
前記各通路孔37〜41に供給される油圧を、前記遅角、進角油圧室11,12の油圧を用いるのではないことから、遅角、進角油圧室11,12の油圧を用いる場合に比較して、前記各通路孔37〜41に対する油圧の供給応答性が良好になり、各ロックピン28〜31の抜け出し移動(退出)の応答性が向上する。
また、本実施形態では、ロック機構4を、第1、第2、第4ロック穴24、25、27の階段状のラチェット方式を採用したことによって、各ロック穴24、25、27が形成される前記スプロケット1の肉厚を小さくすることができる。つまり、例えば、ロックピンを単一とし、ロック穴の階段状の各穴部を連続的に形成する場合は、この階段状の高さを確保するために前記スプロケット1の肉厚を厚くしなければならないが、前述のように、各ロック穴に3つに分けることによってスプロケット1の肉厚を小さくできるので、バルブタイミング制御装置の軸方向の長さを短くでき、レイアウトの自由度が向上する。
〔第2実施形態〕
図11は、本発明の第2実施形態を示し、油圧回路5の回路構成を一部変更したもので、遅角通路18と進角通路19の一部は、第1実施形態と同じく前記通路構成部5に形成されているが、前記第1ロック解除通路41と第2ロック解除通路42は、前記カムシャフト2の内部とロータ15の固定部15a内に連続して形成されている。
このように、前記第1、第2ロック解除通路41、42を、カムシャフト2とロータ15の内部に形成したことによって、通路途中でのシール、つまり、前記通路構成部5に設けられたシール部材51などが不要になるので、製造作業と組立作業が容易になると共に、コストの低減化が図れる。
〔第3実施形態〕
図12は第3実施形態を示し、前記アキュムレータ47の構造を変更したもので、シリンダ61内に、合成樹脂材によって形成された伸縮自在なベローズ67を配置すると共に、該ベローズ67の先端部にピストン68を一体に形成したものである。
前記ベローズ67は、伸張方向にばね力が付与されてピストン68を蓄圧室63内の油圧を圧縮する方向に付勢している。
したがって、オイルポンプ43の作動中に吐出油圧が逆止弁48を介して蓄圧室63に供給されるとピストン68がベローズ67のばね力に抗して後退移動することにより、蓄圧室63に高油圧が蓄圧されるようになっている。
他の構成は第1実施形態と同じであるから、前述した同一の作用効果が得られると共に、ピストン68と一体のベローズ67を用いることによって、構造が簡素化されると共に、組付作業性が良好になる。
〔第4実施形態〕
図13は第4実施形態を示し、前記第3電磁切換弁46の構造を変更したもので、第3電磁切換弁46は、バルブボディ70の内部に電磁コイル71と固定鉄心72、可動プランジャ73が収容されており、該可動プランジャ73は、先端側にボール弁体75を押し出すプッシュロッド74が設けられていると共に、後端側に可動プランジャ74を介してプッシュロッド74を進出方向へ付勢するバルブスプリング76が弾装されている。
前記ボール弁体75は、第3分岐通路55の途中に配置されて、前記第3分岐通路55の通路開口端55aを閉止するか、第2ロック解除通路42とドレン通路60を連通するようになっている。
すなわち、前記電磁コイル71への非通電時(オフ)には、前記可動プランジャ73がバルブスプリング76のばね力によって進出してプッシュロッド74を介してボール弁体75を押し出す。これによって、ボール弁体75が前記通路開口端55aを閉止して、第3分岐通路55とロック解除通路42との連通を遮断すると共に、ロック解除通路42とドレン通路60とを連通させて、第3、第4ロックピン30、31をばね部材35,36のばね力によってロック穴26,27へ係合させる。
一方、前記電磁コイル71へ電子コントローラから通電(オン)されると、可動プランジャ73がバルブスプリング76のばね力に抗して後退移動することから、プッシュロッド74とボール弁体75も後退移動して前記通路開口端55aと第2ロック解除通路42を連通させると共に、通路開口端55aとドレン通路60の連通を遮断する。これによって、第3、第4ロックピン30,31のロックが解除されるようになっている。
また、前記各実施形態では、機関のいずれの温度環境においても、前記アキュムレータ47の蓄圧を利用して各ロックピン28,29の各ロック穴24、25からのロックを速やかに解除するようになっているが、この方法以外に、図4の仮想線で示すように、前記アキュムレータ47やオイルポンプ43を廃止して、オイルポンプ80を電動モータ81によって駆動することも可能である。
この実施形態によれば、電動モータ81を利用することによって、オイルポンプ80を強制的に作動させて、油圧を各分岐通路53〜55に供給することも可能であり、特に第1ロック解除通路41に強制的に供給できるので、機関のいずれの温度環境においても各ロックピン28,29を速やかにロック解除することが可能になる。
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば車両としてアイドリングストップ仕様のもの以外に、駆動源としていわゆる内燃機関と駆動モータを利用したハイブリッド仕様のものにも適用可能である。
さらに、高圧縮比型の内燃機関ばかりか、通常の圧縮比の内燃機関にも適用することができる。
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記ハウジングに対して前記ベーンロータが最遅角の回転位置となった状態でもロック可能となっていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項b〕請求項aに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第3ロック部材または前記第4ロック部材の一方が第5ロック凹部に係入されることによって、前記ハウジングに対して前記ベーンロータが最遅角位置でロックされることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項c〕請求項bに記載された内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第5ロック凹部は、前記第3ロック凹部または第4ロック凹部の底部に連続して設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項d〕請求項1に記載された内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第1ロック凹部または第2ロック凹部の少なくとも一方には、進角方向に向かって深くなる段差が設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項e〕請求項dに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第1ロック凹部及び第2ロック凹部の両方に進角方向に向かって深くなる段差が設けられ、前記第1ロック部材が前記第1ロック凹部の段差を下るタイミングと、前記第2ロック部材が第2ロック凹部の段差を下るタイミングが異なっていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項f〕請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第1ロック機構によってロックしている状態で、前記第3ロック部材が前記第3ロック凹部にまたは前記第4ロック部材が第4ロック凹部に係入されるようになっていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項g〕請求項fに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記第1ロック機構によってロックしている状態で、前記第3ロック凹部に、または第4ロック凹部に係入されている前記第3ロック部材または第4ロック部材は、前記第3ロック凹部に、または第4ロック凹部内における最も進角側に寄った状態で係入されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項h〕請求項gに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第2ロック機構は、前記第1ロック機構によってロックしている状態で係入させている前記第3ロック部材または前記第4ロック部材の一方が、第3ロック凹部または第4ロック凹部内で最も遅角側に移動した状態で、前記第3ロック部材または第4ロック部材の他方が、前記第3ロック凹部または第4ロック凹部における最も進角側で係入されることによってロックされることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項i〕請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第1〜第4ロック部材は、カムシャフトの回転軸方向に移動するように前記ロータに配置されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項j〕請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第1ロック機構と第2ロック機構には、前記進角作動室と遅角作動室に給排される経路とは異なる独立した経路から油圧が供給されることによってロックが解除されることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項k〕請求項jに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第1ロック機構と第2ロック機構への油圧の給排は、異なる2つの電磁弁によって制御されることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項l〕請求項kに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
前記第1ロック機構へ供給される油圧は、逆止弁と電磁弁との間に設けられたアキュムレータ内に蓄圧されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項m〕請求項kに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
イグニッションスイッチをオフ操作して内燃機関を停止させる際には、前記第1ロック機構によってロックさせ、
内燃機関を始動させる際の温度が所定以下である場合には、前記第1ロック機構によってロックさせたい位置で始動させ、
内燃機関を始動させる際の温度が所定温度以上である場合には、前記第1ロック機構のロックを解除すると共に、前記第2ロック機構によってロックさせて内燃機関を始動させることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
〔請求項n〕請求項mに記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、
運転者の操作によらずに自動的に内燃機関が停止し、自動的に始動する車両に用いられ、
運転者の操作によらず自動的に内燃機関が停止した場合には、前記第3ロック部材またはだい4ロック部材の一方が、第5ロック凹部に係入することによって、前記ハウジングに対してベーンロータを最遅角位置でロックして内燃機関を始動させることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。