JP6247009B2 - 開瞼器 - Google Patents

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Description

本発明は開瞼器に関するものであり、特に、眼科手術の際や眼内への薬剤投与の際などに、上下の瞼を開くために使用される開瞼器に関するものである。
近年、先進諸国では、中途失明原因のトップである加齢黄斑変性症の治療法として血管新生阻害剤の硝子体内局所投与が有効とされ、これら薬剤の認可に伴い硝子体注射が爆発的に増えている。この血管新生阻害剤の硝子体注射は毎月〜隔月の頻度で実施される。この実施の際、その都度、開瞼器を用いて開瞼し、点眼麻酔が効いた後に注射処置を行う。このように、最近では開瞼器の使用が非常に増えている。
図1(a)は、開瞼器100を患者の右眼に装用した際の概略図である。図1(a)に示す開瞼器100は、U字状に湾曲させて形成した腕部200の両端に、上瞼401と下瞼402にそれぞれ引っ掛ける2つの湾曲プレートよりなる瞼押え部300をろう付け等により接合したもので、腕部200のバネ反発力によって開瞼状態を保つものである。
各瞼押え部(310,320)は、瞼の内側に差し込まれる内側挿入片(311,321、図示せず)と瞼の外側を押える外側押え片(312,322)とを持ちつつ、断面U字状に形成されている。そして、患者自身の閉瞼力に負けないよう、腕部200には高い曲げ弾性率を有する線材が使用されている。
これらの開瞼器100は、腕部200の両端に設けた瞼押え部300を眼400の上瞼401と下瞼402に引っ掛けることにより、睫毛403を瞼押え部(310,320)により押えつつ、腕部200のバネ反発力によって上瞼401と下瞼402を開くことができる。
これまでの開瞼器は金属製のものが主流であった(特許文献1参照)。そこで、本発明者は、使い捨てを可能として滅菌の面倒を無くす一方、ばね作用を発揮する腕部を持つタイプでありながら、しなやかな弾力性と柔らかな接触感を発揮する開瞼器を発明するに至っている(特許文献2及び3参照)。使い捨てタイプの開瞼器は、使い捨てタイプであるが故に、開瞼器を使いまわすことに起因する感染症のリスクを無くすことができ、その結果、使い捨てタイプの開瞼器が著しく普及しつつある。
実用新案登録第3102573号公報 特開2010−119433号公報 特開2010−227457号公報
白内障手術、網膜硝子体手術、緑内障手術などの内眼手術や翼状片切除などの外眼手術を行う場合、まず、角結膜及びその周囲を消毒する必要がある。その上で、フィルム状のドレープを患者の顔の上に掛けた後、開瞼器を使って開瞼した状態で処置を行っている。
手術の際、角結膜及びその周囲を消毒することは極めて重要である。なぜならば、術後眼内炎が発生するか否かは、この消毒が適切に行われるか否かに大きく依存するためである。
術後眼内炎(以降、単に「眼内炎」とも言う。)は感染症の一種であり、眼科手術によって眼球に形成された傷口から、眼球内が細菌や真菌(例えば、かび、カンジダ菌、アクネ(ニキビ)菌等)で感染し、毛様充血、前房混濁、前房蓄膿、硝子体混濁が生じ、網膜や硝子体等が炎症を起こす状態を指す。患者が眼内炎に罹ると、視力低下、眼痛などの症状が現われる。更に悪化すると、角膜、強膜、眼球周囲組織にまで炎症が波及してしまい、患者は全眼球炎に罹り、重篤な状態となるおそれもある。
患者が眼内炎に罹った場合、再び眼科手術を行い、眼球内を洗浄することになるが、視力の回復が困難となり、視力予後に重大な影響を与えるおそれもある。そのため、術者にとっては、患者が眼内炎に罹らないようにするために、細心の注意を払う必要がある。
その具体的な手法としては、手術前に角結膜及びその周囲を消毒液により消毒する手法、硝子体灌流液内に抗菌薬を入れつつ硝子体手術をする手法、手術後に抗菌薬を硝子体内に注射する手法、手術後に抗菌薬や抗炎症薬を点眼する手法等が知られている。
その一方、日本だけでも年間約100万件の白内障手術が行われている。現在、白内障の手術後の眼内炎の発症確率は500分の1ないし3000分の1と言われている。そうなると、年間約300〜2000件、眼内炎が発症していることになる。
眼科医である術者にとって、患者が眼内炎に罹るか否かは、術者にとっての危機管理と言う点を考慮すると、極めて敏感にならざるを得ない事項である。眼内炎が生じるおそれに関して、術者にとっての精神的負担は極めて大きい。そのため、眼内炎の発症を抑制することは、早急に解決すべき課題である。
そこで本発明は、眼内炎の発症を効果的に抑制可能な開瞼器を提供することを、主たる目的とする。
術者からの強い要望を受け、本発明者は上記の課題を解決する手段について検討を加えた。この検討に際し、まず、眼内炎の発症原因について検討を加えた。眼内炎の発症原因は、先にも述べたように細菌や真菌が眼内で感染することにある。そして、この細菌や真菌は、もちろん患者の体外に由来するものもあるが、患者の体内に由来するものもある。その中の一つが、上下瞼(401,402)の縁にあるマイボーム腺から排出される皮脂に含まれるアクネ菌である。マイボーム腺開口部404を概略的に示したのが、図1(b)である。
マイボーム腺は、皮脂を供給する皮脂腺の一つである。上下瞼(401,402)の縁に存在するマイボーム腺開口部404から、皮脂が供給される。この皮脂により、涙液膜の蒸発を防いだり、涙液膜が眼(角膜)400上に保持されたり、瞼を閉じた際に瞼内を気密にしたりすることが可能となる。
上述の通り、通常、皮脂は人間の役に立つものであるが、それと同時に皮脂はニキビの原因となるアクネ菌などの細菌を含むものでもある。手術中であっても、皮脂は、マイボーム腺により供給され続ける。これは、手術中、眼内にアクネ菌が入り込む余地が存在することを意味する。仮に、硝子体灌流液内に抗菌薬を入れつつ硝子体手術を行ったとしても、手術後、このアクネ菌が硝子体内に侵入し、爆発的に感染が起こる可能性も否定できない。
上記の点を鑑みて、本発明者は、皮脂がマイボーム腺により供給され続けたとしても、それと並行して、細菌や真菌を殺す薬剤を患者の眼に対して投与し続ければ、眼内にアクネ菌が入り込む余地を著しく減らせるのではないかと考えた。
それに加え、術者の作業工程が増加しないような配慮、新たな手術器具を用いることによる作業の煩雑化の防止を、本発明者は考慮に入れた。その結果、開瞼器に対し、薬剤を予め貯留自在である構造、且つ、貯留しておいた薬剤が手術中に自ずと投与され得る構造を設けるという知見を得た。
以上の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
腕部と、前記腕部の両端にそれぞれ設けられて上瞼と下瞼にそれぞれ引っ掛ける複数の瞼押え部とを有する開瞼器であって、
前記複数の瞼押え部のうち少なくともいずれかに、開口を有する薬剤貯留部が設けられたことを特徴とする開瞼器である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記薬剤貯留部は、前記複数の瞼押え部の全てに設けられたことを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、
前記薬剤貯留部は、前記瞼押え部の主表面に設けられた凹部を有することを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の発明において、
前記凹部は複数設けられていることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の発明において、
全体が樹脂の一体成型品として構成されたことを特徴とする。
本発明によれば、眼内炎の発症を効果的に抑制可能な開瞼器を提供できる。
(a)は、開瞼器を患者の右眼に装用した際の概略図である。(b)は、マイボーム腺開口部を概略的に示した図である。 本実施形態における開瞼器を示す概略図である。(a)は平面図、(b)はα方向から見た側面図、(c)はβ方向から見た正面図、(d)は(c)における瞼押え部の拡大図である。 本実施形態における開瞼器の瞼押え部を図2(a)のX−X’線にて断面視した概略図である。 本実施形態における別の一例である開瞼器を患者の右眼に装用した際の概略図である。
以下、本発明の実施の形態について、図2及び図3を参照しつつ詳細に説明する。なお、一部、図1の符号を再び使用する。図2は、本実施形態における開瞼器を示す概略図であり、(a)は平面図、(b)はα方向から見た側面図、(c)はβ方向から見た正面図、(d)は(c)における瞼押え部の拡大図である。 図3は、本実施形態における開瞼器の瞼押え部を図2(a)のX−X’線にて断面視した概略図である。
なお、以降では、患者の右眼に開瞼器1を装着した例について述べる。ただ、開瞼器1の向きを上下反転すれば、もちろん左眼にも使用可能である。
本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.開瞼器
A)開瞼器の全体構造
B)腕部
C)瞼押え部
a)薬剤貯留部
2.開瞼器の使用方法(メカニズム)
3.実施の形態による効果
4.変形例等
なお、以下に記載が無い構成については、特許文献2(特開2010−119433号公報)や特許文献3(特開2010−227457号公報)等、公知の文献に記載の構成を採用しても構わない。
<1.開瞼器1>
A)開瞼器1の全体構造
図2に示すように、本実施形態における開瞼器1は、バネ性を持つよう射出成型により湾曲形成された熱可塑性樹脂からなる1本のワイヤー状の腕部2と、その腕部2の両端にそれぞれ結合されて眼の上瞼401と下瞼402にそれぞれ引っ掛ける2つの瞼押え部(31,32、まとめて瞼押え部3とも言う。)とを有している。ただ、腕部2や瞼押え部3の素材や形状、そして腕部2や瞼押え部3の機能を奏する部材(後述のアーム2や内側挿入片(31a,32a)、外側押え片(31b,32b)、湾曲プレートの数)の構成要素はあくまで一つの実施形態であり、これに限定されない。
この開瞼器1は、少なくとも腕部2は熱可塑性樹脂の成型品として構成されており、腕部2のバネ反発力によって開瞼状態を保つものである。そして、瞼押え部3には、開口Cを有する薬剤貯留部33が形成されている。もちろん、バネ反発力によって開瞼状態を保つもの以外であっても構わないが、本実施形態においては上記の例について述べる。
以下、開瞼器1の各部構成について説明する。
B)腕部2
本実施形態の腕部2は、U字状の1本のワイヤー形状を有している。そして、その両端に、2つの瞼押え部3が設けられている。この腕部2は、バネ性を持つよう射出成型により湾曲形成された熱可塑性樹脂からなる。以降、この腕部2のことを「アーム2」とも言う。
アーム2を設ける際、特許文献3に記載のように、瞼押え部(31,32)同士を接近させる方向に荷重を加えた際に発生するバネ反発力を調整する開瞼力調整部21をアーム2内側に設けても構わない。
こうすることにより、アーム2を過度に太くすることなく開瞼器1の開瞼力を確保できるため、手術器具がぶつかるなど手術の妨げを抑制すると共に、術野への圧迫感を軽減することができる。更に、アーム2の補強という点から見ると、開瞼力調整部21を設けることにより、荷重に対する支点を複数箇所とすることができ、引張応力が1箇所に集中することを防ぐことができる。これにより、瞼押え部(31,32)同士を接近させた際におけるアーム2の破損のおそれを低減することができる。
なお、図2(c)は、図2(a)の開瞼器1をβ方向から見た図(即ち正面図)であるが、図2(c)を見ればわかるように、U字状のアーム2の底の部分は、瞼押え部3の位置から下方へとシフトしている。これは、患者の右眼に開瞼器1を装用した際に、患者の顔の形状に沿って開瞼器1を配置し、省スペース化を図るための構成である。
C)瞼押え部3
本実施形態の上下の瞼押え部(31,32)は、瞼(401,402)の内側に差し込まれる内側挿入片(31a,32a)と、瞼(401,402)の外側を押える外側押え片(31b,32b)とを持つ断面U字状の湾曲プレートにより構成されている。そして、この瞼押え部3は、射出成型によりアーム2と一体に成型されたものである。つまり、本実施形態の開瞼器1は、全体が樹脂の一体成形品として構成されている。なお、この樹脂は、任意のものを使用して良く、例えば熱可塑性樹脂のようなエネルギーを受けて硬度が変化する樹脂を挙げることができる。
なお、本実施形態の開瞼器1のように、アーム2と瞼押え部3とが樹脂からなり、瞼押え部3とアーム2とが一体成型された開瞼器1ならば、異なる開瞼力を有する開瞼器1を多種多量に生産することができ、この利点はさらに増大する。射出成型の際には、特許文献3に記載のように、瞼押え部(31,32)同士を接近させる方向に荷重を加える際に発生する引張応力が最大となる部分以外の部分に、アーム2の樹脂注入部を設けておくのが好ましい。
また、断面U字状の上下の瞼押え部(31,32)は、腕部2のある側と反対側に若干の角度θ(約20°)だけ開き気味に形成されている。また、断面U字状の上下の瞼押え部(31,32)の背中部分(U字の底に相当する部分)は半径Rの曲率で凹状に湾曲している。
また、特許文献3に記載のように、内側挿入片(31a,32a)が瞼(401,402)の縁に沿う方向の長さLaよりも、外側押え片(31b,32b)が瞼(401,402)の縁に沿う方向の長さLbの方が大きく設定されていてもよい。こうすることにより、サイズの大きい外側押え片(31b,32b)によって、上下の瞼(401,402)の多くの睫毛403やその根元を覆い隠すことができる。
また、図2(d)に示すように、瞼押え部(31,32)を構成する湾曲プレートの厚みが、内側挿入片(31a,32a)と外側押え片(31b,32b)のつながるU字状の湾曲部から両先端部に向けて徐々に薄くなるように変化していても良い。
なお、瞼押え部3を構成する湾曲プレートの厚みの変化は、特許文献3に記載のように、連続的に設けてあるのが好ましいが、段階的に設けてあってもよい。
図2(d)で言うと、寸法t1よりも寸法t2、t3の方が小さくなっている(t1>t2=t3)。この場合、例えば、t1=約0.6mm、t2=t3=約0.4mmになっている。t1の寸法の許容幅は、例えば、0.5〜0.7mmの範囲であることが好ましく、t2及びt3の寸法の許容幅は、例えば0.3〜0.5mmの範囲であることが好ましい。あまりにも最小厚み部分を薄くすると割れやすくなる。そのため、最低でも割れが起きにくい厚みを確保しておく必要がある。しかも、後述するように、瞼押え部3に対し、薬剤貯留部33として窪みを形成するため、ある程度の厚みを確保する必要がある。
以下、本実施形態の特徴である薬剤貯留部33について説明する。
a)薬剤貯留部33
本実施形態における薬剤貯留部33は、上下の瞼押え部(31,32)各々の主表面に設けられている。そして、本実施形態における薬剤貯留部33は、その名の通り、薬剤を貯留自在な部分である。つまり、手術中において、皮脂がマイボーム腺により供給され続けたとしても、それと並行して、瞼押え部3に貯留しておいた薬剤を、患者の眼に対して断続的に投与し続けられる構成が、薬剤貯留部33である。この薬剤貯留部33は開口Cを有するように、瞼押え部3の主表面に設けられている。
本実施形態においては、意図的に、開口Cを有する薬剤貯留部33を設けることにより、本実施形態の開瞼器1は、従来のように瞼押え部3を構成するU字状の湾曲プレートそれ自体の底部に液が溜まるという構成とは全く異なる構成を有している。
なお、本実施形態における薬剤貯留部33は、凹部(窪み)を有する構成である。図3に示すように、開口Cとは、この凹部の一部であり、開口Cから薬剤が出入りすることになる。薬剤が開口Cから凹部に流れ込み、この凹部に薬剤が貯留された状態で、本実施形態の開瞼器1は使用される。この薬剤としては、特に限定はないが、バンコマイシン、セフタジジムのような液体状の抗菌薬やポビドンヨードのような消毒液が挙げられる。
なお、上記の凹部は複数設けられているのが好ましい。その方が、薬剤の貯留量を多く確保することが可能になり、手術中に、眼内炎の発症の原因の細菌や真菌を殺すことが可能となり、ひいては眼内炎の発症を更に効果的に抑制することが可能となる。
また、瞼押え部3において上記の薬剤貯留部33が設けられる面としては、図2(c)や図2(d)に示すように、瞼(401,402)と接触する側の面Aでも構わないし、その反対側の面Bに形成されていても構わない。なお、瞼(401,402)と接触する側の面とは、瞼押え部3のU字状の湾曲部において内側の湾曲面Aのことを指す。また、その反対側の面とは、瞼押え部3のU字状の湾曲部において外側の湾曲面Bのことを指す。
後で<2.開瞼器1の使用方法(メカニズム)>にて述べるが、患者の瞼(401,402)の動きに合わせて瞼押え部3に加わる圧力が変動し、それに伴い薬剤貯留部33に加わる圧力も変動する。
瞼(401,402)と接触する側の面Aに薬剤貯留部33が形成されていれば、薬剤貯留部33が圧力変動を受けやすくなり、薬剤貯留部33が変形しやすくなる。その結果、薬剤貯留部33に貯留された薬剤がポンピングにより患者の眼球(主に角膜表面)(以降、眼(角膜)400と言う。)へと投与されやすくなる。
その一方、瞼(401,402)と接触する側の面Aでは、睫毛404と共にフィルム状のドレープを巻き込みながら瞼が開かれる。そのため、ドレープの存在により、瞼(401,402)と瞼押え部(31,32)との直接接触が妨げられていることがままある。また、ドレープにより、薬剤貯留部33に貯留された薬剤がマイボーム腺開口部404や眼(角膜)400に行き届きにくくなることも考えられる。そこで、反対側の面Bに薬剤貯留部33が形成されていれば、ドレープを気にせず、薬剤をポンピングにより眼(角膜)400へと投与することも可能になると考えられる。
なお、反対側の面Bに薬剤貯留部33を形成する場合、薬剤が眼(角膜)400に効果的に届くように、以下のような構成上の工夫を行うことも可能である。この工夫について、図4を用いて説明する。図4は、本実施形態における別の一例である開瞼器を患者の右眼に装用した際の概略図である。
この例によれば、瞼押え部(31,32)の少なくともいずれかにおいて、外側押え片(31b,32b)における外側の湾曲面Bに、複数の凹部からなる薬剤貯留部33を設ける。そして、同じく外側の湾曲面Bに対し、薬剤貯留部33における複数の凹部から連通する形で内側挿入片(31a,32a)に向かう溝34を形成する。こうすることにより、薬剤貯留部33に貯留された薬剤が、溝34を伝って眼(角膜)400へと届きやすくなる。この溝34は、内側挿入片(31a,32a)の面Bと面Aの境界まで延伸しているのが好ましい。
開瞼器1を用いた手術中だと、外側押え片(31b,32b)は天地方向の天の方向に位置し、内側挿入片(31a,32a)は天地方向の地の方向に位置する。そして、内側挿入片(31a,32a)の更に地の方向に眼(角膜)400が位置する。そのため、外側の湾曲面Bにおいて、外側押え片(31b,32b)に形成された薬剤貯留部33に貯留された薬剤は開口Cから出て地の方向に向かうため、溝34を伝い、内側挿入片(31a,32a)を越えて眼(角膜)400へと容易に届くことになる。もちろん、上述の薬剤のポンピングが行われるという効果も奏する。
また、上記の構成を採用することにより、開瞼器1に対して薬剤を追加的に供給することも可能となる。一例を挙げると、図4に示すように、薬剤が染み込んだ脱脂綿等の吸水性物質(例えば手術用スポンジ500(破線で記載))を外側押え片(31b,32b)の上(手術中においては外側押え片(31b,32b)から見て天の方向)に載置しておく。こうすることにより、薬剤貯留部33に貯留された薬剤が不足しても、手術用スポンジ500から薬剤が薬剤貯留部33に供給される。そして、薬剤貯留部33に貯留された薬剤、そして手術用スポンジ500に染み込ませた薬剤が共に不足してきたら、手術用スポンジ500にスポイト等で薬剤を補給する。そうすれば、手術用スポンジ500から十分な量の薬剤が薬剤貯留部33に供給されることになり、結果的に薬剤貯留部33から眼(角膜)400へと十分な量の薬剤を投与することが可能となる。上記の構成によれば、本実施形態の効果に加え、開瞼器1に対して容易に、薬剤を追加的に供給することが可能となり、術者の負担を軽減することが可能となる。
ただ、結局のところ、薬剤貯留部33は、上記の両面(A,B)に設けても構わないし、いずれかの面に設けても構わない。また、手術中に投与する薬剤の量に応じて、いずれかの面に薬剤貯留部33を設けるかを決定しても構わない。
なお、上記の薬剤貯留部33が凹部を有する場合、当該凹部は溝形状でも構わないし、非貫通の孔形状でも構わない。本実施形態においては、非貫通の孔形状である場合について述べる。それをわかりやすく図示したものが、図2(b)である。
図2(b)においては、当該凹部を平面視楕円状の窪みとしたうえで、それらの配置状況が示されている。図1(a)に示されるように患者の右眼に開瞼器1を装着した際、上瞼401において眼外から眼内へと向かう方向(図2(b)においては左側から右側に向かう方向)へと、複数の凹部が2列にわたり形成されている。また、平面視楕円状の窪みの長径を2mm、短径を1mm、孔の深さを0.5mmに設定し、各列における孔同士の間隔を1mmとしている。また、複数の凹部の各列は、瞼押え部3の上下方向中心から各々1mm離れた部分に孔の中心が位置するように配置されている。
もちろん、上記の薬剤貯留部33は一例に過ぎず、薬剤を貯留することができるのならば、薬剤貯留部33の形状及び数はこれに限定されるものではない。その他の変形例については、後で<4.変形例等>にて述べる。
<2.開瞼器1の使用方法(メカニズム)>
以下、本実施形態における開瞼器1の使用方法(メカニズム)について説明する。
まず、フィルム状のドレープを患者の顔の上に掛け、その上に手術布を患者の上に掛ける。ドレープ及び手術布は、患者の眼球の部分は切り抜かれ、患者の眼球が露出するようになっている。そして、角結膜及びその周囲(特にマイボーム腺開口部404が存在する上下瞼(401,402)の縁)を消毒する。
その一方、本実施形態の開瞼器1の薬剤貯留部33に抗菌薬を貯留させる作業を行う。なお、貯留方法としては任意のもので構わない。一例を挙げるとすると、開瞼器1を抗菌薬に漬けることにより、凹部(窪み)に抗菌薬が貯まるようにするという手法が挙げられる。
その後、予め抗菌薬が貯留されている開瞼器1を使って、患者の瞼(401,402)を開瞼する。内側挿入片(31a,32a)が、瞼(401,402)の内側に差し込まれることになる。それと共に、外側押え片(31b,32b)が、ドレープの一部を巻き込みつつ、睫毛403やその根元を覆い隠す。
患者の瞼(401,402)は閉じようとする方向に力が働いており、開瞼器1の瞼押え部3には瞼(401,402)により力が加わっている。そして、手術中、患者に麻酔が効いていたとしても、患者の瞼(401,402)は僅かながら生理的に振動する。その結果、瞼押え部3に加わる力(ひいては薬剤貯留部33に加わる力)も変動する。この力の変動により、瞼押え部3ひいては薬剤貯留部33が僅かに変形し、貯留された薬剤が薬剤貯留部33の開口Cから少しずつ押し出され、いわゆるポンピングが行われる。つまり、瞼(401,402)によって薬剤貯留部33に加わる力に応じて、薬剤貯留部33内にある薬剤が開口Cから外に出る。
開瞼器1からの薬剤の投与が、上記のようにポンピングを利用して開瞼器1により自ずと行われることにより、薬剤の投与を少しずつ行うことが可能となり、少なくとも手術中は、断続的に薬剤を患者の眼(主に角膜)400に投与し続けることが可能となる。しかもそれは、術者の手を煩わせることなく行われる。
<3.実施の形態による効果>
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
まず、皮脂がマイボーム腺により供給され続けたとしても、それと並行して、細菌や真菌を殺す薬剤を患者の眼に対して投与し続けることが可能になり、眼内に細菌や真菌が入り込む余地を著しく減らすことが可能になる。
それに加え、開瞼器1に対し、薬剤を予め貯留自在である構造、且つ、貯留しておいた薬剤が手術中に自ずと投与され得る構造という比較的簡素な構造を設けることにより、術者の作業工程の増加を防ぐことができるし、新たな手術器具を用いることによる作業の煩雑化を防止することもできる。
また、本実施形態における開瞼器1を、全体を熱可塑性樹脂の一体成型で構成する場合、容易に低コストで大量生産することができる。これにより、使い捨ての使用が可能となり、滅菌処理を不要として、大量の使用要求に応えることができる。
なお、本実施形態における開瞼器1が創出される際には、「瞼におけるマイボーム腺から排出される細菌や真菌への対策」という課題を本発明者は認識し、その上で「患者の瞼(401,402)によって開瞼器1に力が加わっており、患者の瞼は僅かながら生理的に変動すること」に本発明者は着目している。この患者の瞼(401,402)の変動を、貯留された薬剤を開口Cから外に押し出すポンピングに利用するという知見に基づき、本実施形態における開瞼器1が創出されている。このような課題についても、上記の生理学的性質を利用した薬剤投与を自在とする開瞼器についても、本発明者が知る限りでは、いずれの文献にも記載されていない。
以上の通り、本実施形態の開瞼器1によれば、眼内炎の発症を効果的に抑制することが可能となる。
<4.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
上記の実施形態では、上瞼401を押える瞼押え部31と、下瞼402を押える瞼押え部32との両方に、薬剤貯留部33を設ける場合について述べた。上下の瞼押え部(31,32)に薬剤貯留部33を設けた方が、貯留される薬剤の量が多くなる。ただ、所定の量の薬剤を薬剤貯留部33にて貯留できるのならば、一方の瞼押え部3にのみ薬剤貯留部33を設けても構わない。
また、マイボーム腺は、下瞼402よりも上瞼401に数多く存在する。それを鑑みて、上瞼401を押える瞼押え部31にのみ薬剤貯留部33を設けても構わない。また、上下の瞼押え部(31,32)に薬剤貯留部33を設けつつ、薬剤貯留部33における凹部(窪み)の数を、相違させても構わない。具体的に言うと、下瞼402を押える瞼押え部32よりも、上瞼401を押える瞼押え部31に数多く凹部を形成しても構わない。また、上瞼401と下瞼402との開瞼力の違い、即ち上瞼401と下瞼402との間でのポンピングされ得る薬剤の量の違いに応じて、薬剤貯留部33により貯留される薬剤の量が調整されるように薬剤貯留部33を形成しても構わない。
また、薬剤貯留部33が凹部を有する場合、開口Cの大きさは任意で構わないが、凹部における開口Cの大きさを、凹部における他の部分に比べて小さくするのが好ましい。例えて言えば、図3において、薬剤貯留部33における凹部を、開口Cが比較的狭くなっているタコツボ形状とするのが好ましい。こうすることにより、薬剤貯留部33に薬剤を貯留しやすくなる一方、手術中に薬剤が一度に投与されることを抑制し、徐々に薬剤を投与することが可能となる。
上記の実施形態では、薬剤貯留部33が凹部を複数有する場合について述べた。その一方、単数の凹部が瞼押え部3の主表面に設けられても構わない。具体例を挙げるとすれば、平面視複数本の溝であって互いに連通することにより薬剤の貯留量を所定量確保している凹部が挙げられる。
上記の実施形態では、薬剤貯留部33が凹部(窪み)である場合について述べた。その一方、薬剤貯留部33が凸部(出っ張り)により構成されていても構わない。具体的に言うと、瞼押え部3の主表面に凸部(出っ張り)を形成しておく。この凸部が、瞼押え部3の主表面の一部を囲むように形成されることにより、薬剤溜まりを形成することができる。そして、この薬剤溜まりを複数形成するように、瞼押え部3の主表面に凸部を形成しても構わない。また、薬剤貯留部33が、上記の凹部(窪み)及び凸部(出っ張り)の組み合わせにより形成されていても構わない。ただ、瞼押え部3の主表面に、例えばシボ加工のように単に凹凸を形成しても、薬剤を貯留することは困難である。そのため、本実施形態における薬剤貯留部33は、あくまで、皮脂がマイボーム腺により供給され続けたとしても、それと並行して、瞼押え部3に貯留しておいた薬剤を、患者の眼に対して断続的に供給し続けられる、開口Cを有する構成であり、単なるシボ加工により形成される形状とは異なる。
上記の実施形態では、薬剤が液体である場合について述べた。その一方、薬剤は液体ないし固体でも構わず、開瞼器1を患者に装着すると固体だった薬剤が体温で液体となるような物質を薬剤として用いても構わない。また、薬剤貯留部33に脱脂綿等の吸水性物質を予め設けておき、吸水性物質に薬剤を染み込ませたうえで開瞼器1を患者に装着可能な構造を開瞼器1に採用しても構わない。その一例が、上述した例である手術用スポンジ500を用いた例である。別の例としては、凹部の中に脱脂綿等の吸水性物質を設ける例も挙げられる。
上記の実施形態では、瞼押え部3をプレート状としたが、ワイヤー状の瞼押え部3に薬剤貯留部33を設けても構わない。ただ、プレート状の瞼押え部3の方が貯留可能な薬剤の量を多くすることができるので、瞼押え部3をプレート状とするのが好ましい。
上記の実施形態では、アーム2と瞼押え部3とが、樹脂の一体成形品として構成される場合について記載しているが、アーム2と瞼押え部3とが別体成形品として構成されても構わない。ただ、大量生産する上でのコストダウンという点から、一体に設けられているのが好ましい。
なお、上記の実施形態における開瞼器1は、射出成型により製造されている。その一方、ブロック状の樹脂材から構造物を削り出す方法、樹脂製型中もしくは金型中で重合硬化する方法、または熱可塑性樹脂を用いた射出成型による方法などの樹脂成型方法を用いても構わない。ただ、大量の製品を製造できるという点では、射出成型が好ましい。
上記の実施形態は、手術中に薬剤を患者の眼(角膜)400に単に供給するものではなく、薬剤を瞼押え部3に貯留しておき、手術中に徐々に薬剤が投与されていく構成を具体化したものである。これは、術者の作業工程が増加しないような配慮、新たな手術器具を用いることによる作業の煩雑化の防止を、本発明者が考慮に入れることにより創出された構成である。しかしながら、上記の問題点を考慮から外すのならば、「貯留部」ではなく、薬剤を供給するための流路のような「供給部」を開瞼器1に設けることも選択肢として考えられる。そして、手術中に開瞼器1の外部から薬剤を開瞼器1内の流路に供給し、最終的に流路の末端の開口Cから患者の眼(角膜)400へと薬剤を投与する構造も、選択肢として考えられる。また、瞼押え部3以外の部分(例えば腕部2)に薬剤貯留部33を設けたり、薬剤を供給できるような構成を備えさせたりすることも選択肢として考えられる。ただ、上記の実施形態のように、複数の瞼押え部3のうち少なくともいずれかに、開口Cを有する薬剤貯留部33が設けられる方が、薬剤を効果的に投与する点及び術者の作業効率と言う点では好ましいことは言うまでもない。
1 開瞼器
2 腕部
21 開瞼力調整部
3 瞼押え部
31 (上瞼の)瞼押え部
31a (上瞼の)内側挿入片
31b (上瞼の)外側押え片
32 (下瞼の)瞼押え部
32a (下瞼の)内側挿入片
32b (下瞼の)外側押え片
33 薬剤貯留部
34 溝
100 開瞼器
200 腕部
300 瞼押え部
310 (上瞼の)瞼押え部
311 (上瞼の)内側挿入片
312 (上瞼の)外側押え片
320 (下瞼の)瞼押え部
321 (下瞼の)内側挿入片
322 (下瞼の)外側押え片
400 眼(角膜)
401 上瞼
402 下瞼
403 睫毛
404 マイボーム腺開口部
500 手術用スポンジ
A 瞼押え部のU字状の湾曲部において内側の湾曲面
B 瞼押え部のU字状の湾曲部において外側の湾曲面
C (薬剤貯留部の)開口

Claims (4)

  1. 腕部と、前記腕部の両端にそれぞれ設けられて上瞼と下瞼にそれぞれ引っ掛ける複数の瞼押え部とを有する開瞼器であって、
    前記複数の瞼押え部のうち少なくともいずれかにおける瞼と接触する側の面に、液体状の薬剤を貯留する非貫通の凹部を有する薬剤貯留部が設けられ
    前記薬剤貯留部は、装用者の瞼によって圧力変動を受けて変形する際に、前記凹部に貯留された薬剤がポンピングされる構成を有することを特徴とする開瞼器。
  2. 前記薬剤貯留部は、前記複数の瞼押え部の全てに設けられたことを特徴とする請求項1に記載の開瞼器。
  3. 前記凹部は複数設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の開瞼器。
  4. 全体が樹脂の一体成型品として構成されたことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の開瞼器。
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