JP6246074B2 - 高張力鋼板の引張圧縮試験方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、高強度の高張力鋼板ほど延性が低下するものであり、この高張力鋼板を用いてプレス成形した際には、寸法精度の不良が発生する可能性がある。プレス成形時にdc発生する寸法精度の不良の原因の1つとしては、例えば、スプリングバックが挙げられる。
スプリングバックを精度よく予測するためには、バウシンガー効果を考慮した材料モデルを用いるとよいことがわかっている。
このような、負荷方向が反転した時(例えば引張→圧縮)の降伏応力や加工硬化特性であるバウシンガー効果は、スプリングバックの予測する際に考慮する必要がある。
例えば、プレス成形では、「曲げ−曲げ戻し」といったひずみ履歴が発生するため、バウシンガー効果を考慮した材料モデルを用いることがスプリングバックの予測精度の向上に有効である。特に、高張力鋼板の場合、高強度であるためバウシンガー効果も大きくなる。そのため、バウシンガー効果を考慮した材料モデルは必須である。
引張圧縮試験方法としては、特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1には、試験片の試験部に引張から圧縮へと、圧縮から引張へとの何れかの負荷繰り返し試験を行う引張圧縮試験方法であって、試験片の試験部長さLと試験部幅Wの関係と試験部肩Rを設定し、試験片の側面に抵抗溶接にて接合した伸び計保持金具に伸び計を弾性体で固定し、試験片をその厚さ方向両側から座屈防止治具と座屈防止ベース治具とで挟み、バネで座屈に抵抗する力を発生させた状態下で、前記試験部に前記負荷繰り返し試験を施す引張圧縮試験方法が開示されている。
高張力鋼板の引張圧縮試験の圧縮試験時に発生する座屈を防止するためには、引張圧縮試験に用いる試験片における試験部位(平行部)の長さを短くすることが有効である。
また、座屈応力を向上させるために、座屈を防止する冶具などを用いて引張圧縮試験(特に圧縮試験)を行う方法もあるが、新たに冶具を用意しなければならないため、引張圧縮試験装置が複雑な構成となり、引張圧縮試験が煩雑となる虞がある。たとえ、座屈を防止する冶具を用いて、高張力鋼板の引張圧縮試験を行っても、試験片と冶具との摩擦の影響により、引張圧縮試験を正確に行えない虞がある。
本発明の高張力鋼板の引張圧縮試験方法は、引張圧縮試験の試験部位である平行部と、前記平行部の両端側に設けられ、且つ当該平行部より幅広に形成されているチャック部と、を有する高張力鋼板の試験片を用いて、引張圧縮試験を行う試験方法において、前記平行部の長さLと、当該平行部の幅Wとの比率が、2.4≦L/W≦3.4とされていることを特徴とする。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。従って、本発明の技術的範囲は、本実施形態に開示内容だけに限定されるものではない。
例えば、本実施形態では、高張力鋼板は、590MPa級以上(590MPa級、780MPa級、980MPa級など)の高張力鋼板を例に挙げて説明する。しかしながら、
この3種類の高張力鋼板は一つの例であり、例えば1500MPa級などの超高張力鋼板にも本願発明は適用可能である。つまり、本願発明は、590級以上の高張力鋼板であれば、特に限定しない。
図1は、本発明の高張力鋼板の引張圧縮試験方法に用いられる試験片1の形状を模式的に示した図であり、右側は正面図であり、左側がその側面図である。
図1に示すように、本発明の引張圧縮試験方法に用いられる試験片1は、製造された高張力鋼板から切り出して作成されるものであって、高張力鋼板の製品規格で設定されている厚みtを有する薄鋼板である。板厚tとしては、例えば0.8mm厚、1.0mm厚、1.2mm厚、1.4mm厚などが挙げられる。つまり、この試験片1は、試験対象となる高張力鋼板の板厚tとされるものであるので、特に限定はしない。
平行部2(以降、試験部と呼ぶ)は、幅方向の両端部(エッジ)を長手方向に平行とした帯状の部位であり、試験片1の略中途部に設けられている。試験部2は、長手方向の長さLが当該試験部2の幅Wより十分に長いものとされている。
一方、チャック部3は、試験片1において引張圧縮試験装置に取り付けられる部位であって、試験部2の長手方向の両端部側に一対設けられている。このチャック部3は、平面視で略矩形状に形成されていて、幅は試験部2の幅Wより広いものとされている。
幅広部4は、引張圧縮試験中にチャック部3と試験部2とが切り替わる部位に応力がかかることを防ぐための部位であり、この幅広部4が存在することで、試験部2に応力が均一にかかるようになる。
なお、この幅広部4は、試験部2の幅Wからチャック部3の幅へと滑らかに拡張されるように形成されていれば、形状は特に問わない。すなわち、幅広部4の両端部が、切り取りR部とされていなくてもよく、例えば平面視でテーパ状であってもよい。
始めに、試験部2の長さLと幅Wとの比率(L/W)の下限値を設定する理由としては、引張圧縮試験の引張試験時に生じる可能性がある「試験部領域内の局所変形」を抑制するためである。
を評価した。
なお、引張圧縮試験の引張試験時における一様変形領域内の局所変形を抑制するためには、真ひずみe1がn値(=一様変形領域における「最大ひずみ」)より大きい値となるようにするとよい。
表1に示すように、本実施形態においては、試験片1の条件を9つとした。
具体的には、本実施形態の試験片1として、n値(加工硬化指数)の異なる3種類の鋼材、すなわち「590MPa級の高張力鋼板(n=0.15)」と、「780MPa級の高張力鋼板(n=0.13)」と、「980MPa級の高張力鋼板(n=0.10)」とを採用した。また、これら9つの試験片1の形状としては、試験部2の幅Wを10mmとし、幅広部4の幅方向の両端部の切り取り半径Rを2mmとした。
590MPa級の高張力鋼板の試験片(番号1)は、試験部の長さLと幅Wとの比率(L/W)が1.4と算出され、Δe=0.1のときの真ひずみe1が0.129と算出された。この算出された真ひずみe1とn値(n=0.15)を比較すると、n値の方が大きいことがわかる(n値>e1)。すなわち、番号1の試験片は、引張圧縮試験に適していないことが確認できる。
590MPa級の高張力鋼板の試験片1(番号2)は、試験部2の長さLと幅Wとの比率(L/W)が2.4と算出され、Δe=0.1のときの真ひずみe1が0.151と算出された。この算出された真ひずみe1とn値(n=0.15)を比較すると、真ひずみe1の方が大きいことがわかる(n値<e1)。すなわち、番号2の試験片1は、引張圧縮試験に適していることが確認できる。
590MPa級の高張力鋼板の試験片1(番号3)は、試験部2の長さLと幅Wとの比率(L/W)が3.4と算出され、Δe=0.1のときの真ひずみe1が0.166と算出された。この算出された真ひずみe1とn値(n=0.15)を比較すると、真ひずみe1の方が大きいことがわかる(n値<e1)。すなわち、番号3の試験片1は、引張圧縮試験に適していることが確認できる。
次に、上記した試験部2の長さLと幅Wとの比率(L/W)の上限値の設定について、説明する。
試験部2の長さLと幅Wとの比率(L/W)の上限値を設定するにあたっては、板厚ごと算出された試験片1の「試験部2の長さLと座屈応力」の関係を、オイラー(Euler)の座屈荷重式を基に求める。図3にその計算結果を示す。
なお、本実施形態においては、引張圧縮試験を実施する際に座屈対象となる部位を、試験部2に幅広部4を加えて考慮してもよい(座屈対象=試験部2+幅広部4)。
図3を参照すると、例えば、試験片1に1600MPa級の高張力鋼板(板厚t=1.0mm)を用いた場合、試験部2の長さLは20mm以下にするとよいことがわかる。また、試験片1に1600MPa級の高張力鋼板(板厚t=0.8mm)を用いた場合においては、試験部2の長さLを17mm以下とすることが好ましいことがわかる。
以上より、本発明の引張圧縮試験方法においては、試験片1の試験部2の長さLと幅Wとの比率をL/W<4とすることによって、圧縮試験時における試験片1の座屈を防止することが可能である。
例えば、590MPa級の高張力鋼板を用いた試験片1(板厚t=1.0mm)の場合、試験部2の長さLを30mm、幅Wを10mmとしてもよい(L/W=3)。
始めに、幅広部4の長手方向の長さlを設定する理由としては、変形しない領域を備えることで、引張圧縮試験時において試験片1の局所変形を抑制するためである。
幅広部4の長手方向の長さlは、本願発明者らが、試験片を作成する加工機の加工能力や試験片1(高張力鋼板)の加工性などの研究を重ねた結果、(板厚t×2)mm以上と知見した。
以下、本発明の高張力鋼板の引張圧縮試験方法の実験例について、図4〜図6を基に述べる。なお、図4の右側は、本実験例における試験片1の正面図であり、左側はその側面図である。
[実験例]
図4に示すような外形形状を有する試験片1を用いて、高張力鋼板の引張圧縮試験を実施した。なお、本実験例においては、引張圧縮試験を実施する際に座屈対象となる部位を、試験部2及び幅広部4とする。
板材を5枚積層して試験片1を作成するにあたっては、接着剤を用いて板材を密着させており、この密着された際の接着剤の厚さは各0.01mm〜0.02mm程度とされている。なお、この接着剤の厚さは極めて薄いので、引張圧縮試験に及ぼす影響がほとんど無いものとして考える。
図5には、引張圧縮試験を行った結果が示されている。この図を参照すると、本実験例の引張圧縮試験において、本実験例の試験片1に約−900MPa〜約1200MPaの真応力がかかっているが、試験部2の長さLと幅Wを、比率L/W≧2.4より求め、且つ5枚積層して試験片1を作成しているので、座屈応力が向上していることが確認できる。
また、本実験例の引張圧縮試験において、試験部2に付与される真ひずみを測定するために、試験部2の長手方向端部の一方側面に「伸び計(標点間距離:12.5mm)」を配備し、試験部2の幅方向中央に「ひずみゲージ(標点間距離:1.0mm)」を配備した。このように2つの測定手段(伸び計、ひずみゲージ)を設けておき、両者の測定結果を比較することで、加わる応力の均一性を知ることができる。
以上の実験結果より、上記のように作成した試験片1を用いることで、試験部2を一様に変形させることができるようになり、該試験部2にひずみを付与することができる。
すなわち、本発明の高張力鋼板の引張圧縮試験方法は、高張力鋼板の引張圧縮試験において、圧縮試験時の座屈を防止すると共に、引張試験時に局所変形を抑制することができ、精確な材料特性が測定可能となる。
2 平行部(試験部)
3 チャック部
4 幅広部
Claims (1)
- 引張圧縮試験の試験部位である平行部と、前記平行部の両端側に設けられ、且つ当該平行部より幅広に形成されているチャック部と、を有する高張力鋼板の試験片を用いて、引張圧縮試験を行う試験方法において、
前記平行部の長さLと、当該平行部の幅Wとの比率が、2.4≦L/W≦3.4とされている
ことを特徴とする高張力鋼板の引張圧縮試験方法。
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