以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のディーゼルエンジンの排気後処理装置を示す概略構成図である。図1において、ディーゼルエンジン1の吸気通路2には可変ノズル型のターボチャージャ3の吸気コンプレッサを備える。吸入空気は吸気コンプレッサによって過給され、インタークーラ4で冷却され、常開のスロットル弁5を通過した後、コレクタ6を経て、各気筒のシリンダ内へ流入する。燃料は、コモンレール式燃料噴射装置により、すなわち、高圧燃料ポンプ7により高圧化されてコモンレール8に送られ、各気筒の燃料噴射弁9からシリンダ内へ直接噴射される。シリンダ内に流入した空気と噴射された燃料はここで圧縮着火により燃焼し、排気は排気通路10へ流出する。
排気通路10に流出した排気の一部は、EGRガスとして、EGR通路11によりEGR弁12を介して吸気側に還流される。排気の残りは、可変ノズル型のターボチャージャ3の排気タービンを通り、排気タービンを駆動する。
EGR通路11にはEGRクーラ31を備える。EGRクーラ31はEGRガスを冷却水や冷却風を用いて冷却するものである。また、EGRクーラ31をバイパスするバイパス通路32と、このバイパス通路32の分岐部にあってEGRガスの流路を切換え得る流路切換弁33と備える。流路切換弁33は、例えば非通電時にバイパス通路32を遮断してEGRガスをEGRクーラ31に流し、通電時にはEGRクーラ31のある通路を遮断し、EGRガスをバイパス通路32に流すものである。これらバイパス通路32及び流路切換弁33を設けている理由は低温時のHC対策である。
エンジンコントローラ21には、アクセルセンサ22からのアクセル開度(アクセルペダルの踏込量のこと)ACC、クランク角センサ23からのエンジン回転速度Neの各信号が入力されている。そしてエンジンコントローラ21では、エンジン負荷(アクセル開度など)及びエンジン回転速度Neに基づいて、メイン噴射の燃料噴射時期及び燃料噴射量を算出し、これらに対応する開弁指令信号を燃料噴射弁9に出力する。また、エンジンコントローラ21では、目標EGR率と目標吸入空気量とが得られるようにEGR制御と過給圧制御を協調して行う。なお、エンジンコントローラ21は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成されている。
排気通路10の排気タービン下流には、排気中のパティキュレートを捕集するフィルタ(Diesel Particulate Filter)13を配置してある。フィルタ13のパティキュレート堆積量が所定値(閾値)に達すると、エンジンコントローラ21ではフィルタ13の再生処理を行う。例えばメイン噴射直後の膨張行程あるいは排気行程でポスト噴射を行うことにより排気をパティキュレートの燃焼する温度にまで上昇させてフィルタ13の再生処理を行い、フィルタ13に堆積しているパティキュレートを燃焼除去し、フィルタ13を再生する。目標となる再生温度が得られるようにエンジンの負荷及び回転速度(運転条件)に応じてポスト噴射量とポスト噴射時期とを予め定めておき、そのときのエンジンの負荷及び回転速度に応じたポスト噴射量とポスト噴射時期とが得られるようにポスト噴射を行う。
フィルタ13に堆積しているパティキュレートの全てが燃焼除去される完全再生を行わせるには再生処理時にフィルタ13の許容温度を超えない範囲で少しでもパティキュレートの燃焼温度を高めてやることが必要となる。このため本実施形態ではフィルタ13の上流に酸化触媒(貴金属)14を配置してある。この酸化触媒14によりフィルタ13の再生処理のためのポスト噴射によって流入する排気成分(HC、CO)を燃焼させて排気の温度を高めフィルタ13内のパティキュレートの燃焼を促進させる。なお、フィルタ13を構成する担体に酸化触媒をコーティングしてもよい。このときには、パティキュレートが燃焼する際の酸化反応を促進してその分フィルタ13のベッド温度を実質的に上昇させ、フィルタ13内のパティキュレートの燃焼を促進させることができる。
なお、触媒は酸化触媒14に限られない。酸化機能を備える触媒であれば、酸化触媒に代えることができる。図1は酸化触媒14として三元触媒(TWC)を採用する場合である。
酸化触媒14とフィルタ13との間には、酸素雰囲気で排気中のNOx(窒素酸化物)をトラップ(例えば吸着)し、還元雰囲気ではトラップしていたNOxを脱離し、排気中のHCを還元剤として用いて還元・浄化するNOxトラップ触媒(LNT)15を備える。酸素雰囲気は排気の空気過剰率が1.0(理論空燃比相当の値)より大きいときに得られる。一方、還元雰囲気は排気の空気過剰率が1.0以下のときに得られる。
このため、NOxトラップ触媒15のNOx堆積量が所定値(閾値)に到達したときにはNOxトラップ触媒15を流れる排気を酸素雰囲気から還元雰囲気へと切換えるためリッチスパイク処理を行う必要がある。ここでのリッチスパイク処理は、メイン噴射直後の膨張行程あるいは排気行程でポスト噴射を行って、排気通路10に排出される未燃のHC量を増やし、このHCを還元剤としてNOxトラップ触媒15に供給することである。
ディーゼルエンジン1では、通常運転時に1.0(理論空燃比相当の値)よりも大きな値の空気過剰率(理論空燃比よりもリーン側の空燃比)で運転するので、ポスト噴射の追加だけでは排気の空気過剰率を1.0へと切換えることができない。このため、通常運転時に全開位置にあるスロットル弁5をリッチスパイク処理時に閉じてやることでシリンダに流入する吸入空気量(シリンダ吸入空気量)Qacを減らし、これによって、排気の空気過剰率を1.0以下へと切換える。つまり、メイン噴射量とポスト噴射量の合計の燃料噴射量Qfuelと、シリンダ吸入空気量Qacとで定まる空気過剰率が1.0以下となるように、ポスト噴射量とスロットル弁開度(吸入空気量)とを定めるのである。ここで、リッチスパイク処理時のスロットル弁開度を定めてやれば、ポスト噴射量が一義的に定まる。
また、所定の時間毎(一定の周期)にNOxトラップ触媒15にトラップされる所定時間当たりのNOx量を算出し、この所定時間当たりのNOx量を加算(積算)してNOxトラップ触媒15に堆積するNOx堆積量を算出する。このNOx堆積量と、予め定めてある閾値とを比較し、NOx堆積量が閾値以上となったとき(NOxトラップ触媒15の再生時期となったとき)、ポスト噴射(リッチスパイク処理)を実行する。
このようにして、通常運転時にNOx堆積量が閾値以上となったとき、スロットル弁開度を全開状態から所定のスロットル弁開度へと切換える(スロットル絞りを行う)と共に、ポスト噴射を開始する。そして、一定期間を経過したときポスト噴射を終了しスロットル弁5を全開位置へと戻す。
ところで、酸素雰囲気から還元雰囲気へと切換えた直後には、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15に酸素雰囲気中にストレージされた酸素が残存する。このため、酸素雰囲気から還元雰囲気への切換直後には、NOx還元剤としてのHC、COを供給しても、NOxトラップ触媒15にストレージされている酸素が、NOxよりも先に脱離してきてこれらの還元剤を酸化(消費)する。同様に、NOxトラップ触媒15上流の酸化触媒にストレージされている酸素によっても、NOx還元剤としてのHC、COが酸化(消費)される。つまり、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15にストレージされている酸素を全て消費した後でないと、NOxトラップ触媒15に堆積しているNOxを還元することができないのである。
このため、リッチスパイク処理を初期処理と後期処理の2段に分離する従来装置がある。これを図2を参照して説明すると、図2はリッチスパイク処理時にフロントラムダ(第1空気過剰率)、リアラムダ(第2空気過剰率)がどのように変化するのかを示している。ここで、フロントラムダとは酸化触媒14上流を流れる排気の空気過剰率のことである。リアラムダとはNOxトラップ触媒15の下流を流れる排気の空気過剰率のことである。
図2に示したように、従来装置では、t1のタイミングからの初期処理でフロントラムダを1.0(理論空燃比)より小さいほぼ0.9(リッチ)の第1基本空気過剰率λ0とし、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15にストレージされている酸素を消費させる。この状態でリアラムダが1.0になるのを待ち、リアラムダが1.0になったt2のタイミングで酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15にストレージされている酸素が全て無くなったと判定し、初期処理を終了する。
そして、t2のタイミングからの後期処理ではフロントラムダを1.0近傍の第2基本空気過剰率λ1に制御することで還元剤をNOxトラップ触媒15に供給し、NOxトラップ触媒15に堆積しているNOxを還元浄化する。
t1のタイミングから一定時間が経過するt3のタイミングでNOxトラップ触媒15に堆積しているNOxを全て還元浄化したと判断し、後期処理を、従ってリッチスパイク処理を終了する。
しかしながら、従来装置には改善の余地があることが判明している。これについて図3を参照して説明すると、図3もリッチスパイク処理時にフロントラムダ、リアラムダがどのように変化するのかを示している。ただし、図2と相違して、負荷変動により初期処理でフロントラムダが0.9の第1基本空気過剰率λ0にまで到達しなかった場合である。このようにフロントラムダが第1基本空気過剰率λ0である0.9に到達できなかった原因がリッチスパイク処理開始直後の負荷変動である。例えば、アクセルペダルを踏み込んで車両を加速したとき、上記のようにNOx堆積量が閾値以上となっていれば、第1基本空気過剰率λ0を0.9とするリッチスパイク処理が開始される。この場合に、初期処理を開始した直後にアクセルペダルが戻されることがある。このときには、燃料噴射量(上記のポスト噴射量)がアクセルペダルが戻されない場合よりも減少し、初期処理中のフロントラムダを0.9の第1基本空気過剰率λ0にまで到達させることができずに終わる。リッチスパイク処理を開始した直後のエンジン負荷の急激な減少を「リッチスパイク処理開始直後の負荷変動」で定義すれば、当該負荷変動によって、図3に示したように初期処理中のフロントラムダを0.9へと到達させることができなくなるのである。リッチスパイク処理開始直後の負荷変動を、以下単に「負荷変動」という。
初期処理中のフロントラムダが0.9まで至らないと、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15にストレージされている酸素を全て消費できず、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15に消費できなかった酸素が残存する。これによって、リアラムダがリーン側より1.0を横切るのが図2の場合より遅れる。図3では、t11のタイミングでリアラムダがリーン側より1.0になり、後期処理に移っているが、リアラムダはt11以降もリーン側に居続け、後期処理を終了するt13の手前のt12のタイミングで再び1.0を横切っている。これは、t11からt12までの期間でNOx浄化のために供給する還元剤が酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15に残存する酸素の消費に使われることを意味する。残存酸素の消費に還元剤が使われるのであるから、触媒15に堆積しているNOxの全てを還元することができず、NOx浄化率が悪くなる。
そこで本発明の第1実施形態では、初期処理中のリアラムダとフロントラムダの相対値により、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測する。初期処理開始時には第1基本空気過剰率λ0を算出するので、予測した残存酸素量に基づいてこの第1基本空気過剰率λ0の補正量(初期処理中のリッチ化の程度)を制御する。ここで、リアラムダとフロントラムダの相対値とは、リアラムダとフロントラムダの差分またはリアラムダとフロントラムダの比のことである。以下では、リアラムダとフロントラムダの差分の場合で説明する。
具体的に図4を参照して説明すると、図4はリッチスパイク処理時に排気の目標空気過剰率、排気の実空気過剰率であるフロントラムダ及びリアラムダがどのように変化するのかを表したモデル図である。ここで、図4第1段目には負荷変動がないときの目標空気過剰率の変化を実線で、負荷変動があるときの目標空気過剰率の変化を破線で重ねて示している。図4第2段目には、負荷変動がないときのフロントラムダとリアラムダの変化を実線で、負荷変動があるときのリアラムダの変化を破線で重ねて示している。横軸のt1、t2、t3のタイミングは図3の場合に合わせている。
図4において、初期処理を開始するt1のタイミングで第1基本空気過剰率λ0を0.9としたとき、負荷変動がなければ初期処理中のフロントラムダ(実際値)は、リーン側の値より0.9へと大きく低下し、やがて0.9へと落ち着く。
第1基本空気過剰率λ0をリッチ側の0.9とすることによって、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15に残存する酸素が消費され、やがて全ての酸素が消費されたt2のタイミングでリアラムダがリーン側より1.0を横切る。リアラムダがリーン側より1.0を横切るt2のタイミングで初期処理を終了し、後期処理に移行する。
後期処理では排気の目標空気過剰率を1.0近傍の第2基本空気過剰率λ1に設定する。これによって、NOxトラップ触媒15に還元剤が供給されることになり、NOxトラップ触媒15に堆積しているNOxが還元浄化されてゆく。後期処理をどのくらいの期間、継続すればNOxトラップ触媒15に堆積しているNOxの全てを還元できるかは予め分かっている。従って、その期間が経過するt3のタイミング、つまりt1より所定時間Δt2が経過したt3のタイミングで後期処理を終了し、通常運転に戻る。
なお、第2基本空気過剰率λ1を1.0よりも少しだけ小さい値(リッチ側の値)に設定している。これは、次の理由による。すなわち、ディーゼルエンジンでは、酸素の利用率が悪く、常に酸素を余らせた状態で燃焼が行われる。このため、第2基本空気過剰率λ1を1.0より少し小さい値としても、実質的には排気中に酸素が存在する。1.0近傍で発生するHC、COをこの排気中に存在する酸素で酸化させるため、後期処理中の排気の目標空気過剰率を1.0よりも少しだけ小さい値に設定しているのである。
さて、初期処理時のリアラムダとフロントラムダの差分Δλは酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測する値となる。例えば図2に示したように負荷変動がないときには差分Δλは相対的に大きく、図3に示したように負荷変動があるときには差分Δλは相対的に小さい。つまり、差分Δλが相対的に大きいときには酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量が相対的に小さいと、差分Δλが相対的に小さいときには酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量は相対的に大きいと予測できる。
ここで、初期処理の開始直後には第1基本空気過剰率λ0を追いかけて実際値としてのリアラムダ、フロントラムダが大きく変化するので、その各変化がある程度落ち着いたt21のタイミング、つまりt1より一定時間Δt1が経過したタイミングでの差分Δλを採用する。t21のタイミングは適合により定める。
このように、差分Δλによって残存酸素量を予測するとすれば、差分Δλが相対的に小さい場合に、差分Δλが相対的に大きい場合より酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量が大きいことを表す。従って、負荷変動がある(差分Δλが相対的に小さい)と判定したタイミングで、初期処理の開始時に算出した第1基本空気過剰率λ0を空気過剰率補正量を用いてリッチ側に制御してやればよい。例えば、図4第1段目に実線で示したように、負荷変動がない(差分Δλが相対的に大きい)とき、初期処理中の排気の目標空気過剰率を第1基本空気過剰率λ0に設定している。一方、図4第1段目に破線で重ねて示したように、t21で負荷変動がある(差分Δλが相対的に小さい)ことが分かったとき、第1基本空気過剰率λ0より空気過剰率補正量だけ小さい値を目標空気過剰率mλとしている。これによって、負荷変動があるときの初期処理中の目標空気過剰率と負荷変動がないときの初期処理中の目標空気過剰率との間に、ハッチングで示した面積差が生じる(図4第1段目参照)。つまり、負荷変動があるときには、負荷変動がないときより当該面積差だけ多い分の還元剤の供給を初期処理中に行うことができる。初期処理中に還元剤の供給量が増えることによって、酸化触媒及びNOxトラップ触媒の残存酸素を消費することができるのである。
なお、図4第3段目〜第5段目には、後述する図5A、図5Bのフローチャートで導入している初期処理フラグ、補正フラグ、後期処理フラグの動きを示している。ここで、第3段目〜第5段目は負荷変動がないときの初期処理フラグ、補正フラグ、後期処理フラグの動きである。
上記のフロントラムダは酸化触媒14の上流に設けたフロント広域空燃比センサ24(図1参照)により、上記のリアラムダはNOxトラップ触媒15の下流に設けたリア広域空燃比センサ25(図1参照)により検出する。各広域空燃比センサは、排気の空燃比をリニアに検出するものである。
なお、第1実施形態は酸化触媒14を備えるため、NOxトラップ触媒15に残存する酸素だけでなく、酸化触媒14に残存する酸素をも考慮する必要があるのであるが、酸化触媒14を備えない場合にも本発明の適用がある。この場合には、NOxトラップ触媒15に残存する酸素だけを考慮すればよい。
エンジンコントローラ21で行われる本実施形態のリッチスパイク処理を図5A、図5Bのフローチャートを参照して詳述する。
図5A、図5Bのフローはリッチスパイク処理時の排気の目標空気過剰率mλを算出するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ1では、NOxトラップ触媒15の再生時期になったか否かをみる。これは、例えばNOx堆積量が閾値以上となったとき、再生許可フラグをゼロから1に切換えるようにしておく。そして、この再生許可フラグをみて再生許可フラグ=0であればNOxトラップ触媒15の再生時期になっていないと、再生許可フラグ=1であればNOxトラップ触媒15の再生時期になったと判定させればよい。再生許可フラグ=0よりNOxトラップ触媒15の再生時期になっていないときにはそのまま今回の処理を終了する。
ステップ1で再生許可フラグ=1よりNOxトラップ触媒15の再生時期になったときにはステップ2に進み、後期処理フラグ(エンジンの始動時にゼロに初期設定)をみる。ここでは、後期処理フラグ=0であるとしてステップ3に進み、初期処理フラグ(エンジンの始動時にゼロに初期設定)をみる。ここでは、初期処理フラグ=0であるとしてステップ4、5に進む。
ステップ4では第1基本空気過剰率λ0を算出し、これをステップ5で排気の目標空気過剰率mλに入れる。基本空気過剰率λ0は、負荷変動がないとした場合に酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15にストレージされている酸素を全て消費するための値である。基本空気過剰率λ0は、たとえば運転条件(エンジン負荷と回転速度)に応じたマップ値で与えておけばよい。残存酸素を消費するため基本空気過剰率λ0は1.0より小さい値で、簡単には一定値(例えば0.9)でかまわない。ステップ6は初期処理フラグ=1として今回の処理を終了する。
ステップ6で初期処理フラグ=1としたことより、次回にはステップ3よりステップ7以降へと進む。ステップ7では補正フラグ(エンジンの始動時にゼロに初期設定)をみる。ここでは、補正フラグ=0であるとしてステップ8に進み、初期処理開始タイミングからの経過時間と一定時間Δt1を比較する。ここで、一定時間Δt1は、初期処理の開始後に差分Δλを算出するタイミングを定める値で、予め定めておく。初期処理開始タイミングからの経過時間が一定時間Δt1に満たないときにはステップ9に進み、前回の排気の目標空気過剰率である「mλ(前回)」の値をそのまま今回の排気の目標空気過剰率mλに移すことによって、初期処理の開始時に算出した排気の基本空気過剰率λ0を維持する。
初期処理開始タイミングからの経過時間が一定時間Δt1に満たない間はステップ8よりステップ9に進み、ステップ9の操作を繰り返す。やがて、初期処理開始タイミングからの経過時間が一定時間Δt1に到達したときには、初期処理開始後に差分Δλを算出するタイミングになったと判断する。このときにはステップ8よりステップ10以降に進む。
ステップ10〜16は、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測し、初期処理開始時に算出した第1基本目標空気過剰率λ0を、予測した残存酸素量に応じた補正量を用いて小さくなる側(リッチ側)に制御する部分である。ここでは、目標空気過剰率mλを次式により算出する。
mλ=λ0−λHOS …(1)
ただし、λ0:第1基本空気過剰率、
λHOS:空気過剰率補正量、
すなわち、第1基本空気過剰率λ0から空気過剰率補正量λHOSを差し引くことによって第1基本空気過剰率λ0を小さくなる側(リッチ側)に補正した値を排気の目標空気過剰率mλとする。
上記(1)式右辺の空気過剰率補正量λHOSを次式により算出する。
λHOS=λHOS0+IntHOS+TlntHOS+SVHOS
…(2)
ただし、λHOS0:空気過剰率補正量基本値、
IntHOS:インターバル補正量、
TlntHOS:触媒温度補正量、
SVHOS:空間速度補正量、
以下、各補正量を具体的に説明する。まず、ステップ10ではフロント広域空燃比センサ24により検出されるフロントラムダ、リア広域空燃比センサ25により検出されるリアラムダの差分Δλを算出する。このときのフロントラムダ、リアラムダの値は、初期処理開始タイミングから一定時間Δt1が経過したときのものである。ここでは、リアラムダの値のほうがフロントラムダの値より大きいので、リアラムダからフロントラムダを差し引いた値を差分Δλとする。差分Δλは酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測する値である。この差分Δλが相対的に小さいときには、差分Δλが相対的に大きいときより酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量が多いと予測する。
ステップ11では差分Δλから図6を内容とするテーブルを検索することにより、空気過剰率補正量基本値λHOS0を算出する。図6に示したように、空気過剰率補正量基本値λHOS0は、差分Δλが所定値Δλ0を超える領域でゼロとなり、差分Δλが所定値Δλ0以下の領域では差分Δλが小さくなるほど大きくなる値である。酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測する値である差分Δλは、差分Δλが所定値Δλ0以下の領域でこの値が相対的に小さいときのほうがこの値が相対的に大きいときより残存酸素が相対的に多いことを表す。負荷変動がある(Δλが相対的に小さい)ときに負荷変動がない(Δλが相対的に大きい)ときよりλHOS0を大きくしているのは、次の理由による。すなわち、負荷変動がある(Δλが相対的に小さい)ときには、負荷変動がない(Δλが相対的に大きい)ときより触媒14、15の残存酸素が多く、残存酸素が多いほうが小さくなる側(リッチ側)への補正量を大きくする必要があるためである。
また、横軸の所定値Δλ0は、負荷変動がないとしたときの差分Δλで、予め適合により求めておく。そのときの差分Δλが所定値Δλ0以上であるときには、所定値Δλ0未満である(負荷変動がある)ときと異なり残存酸素が余分に生じることがなく、従って第1基本空気過剰率λ0を小さくなる側(リッチ側)に補正する必要がない。そこで、差分Δλが所定値Δλ0以上の領域では空気過剰率補正量基本値λHOS0をゼロとしている。
ステップ12ではリッチスパイク処理のインターバルIntから図7を内容とするテーブルを検索することによりインターバル補正量IntHOSを算出する。ここで、「リッチスパイク処理のインターバル」とは、1回のリッチスパイク処理の終了から次のリッチスパイク処理の開始までの期間のことである。また、横軸の所定値Int0は図6の空気過剰率補正量基本値λHOS0を適合したときのインターバルIntである。図7に示したように、インターバル補正量IntHOSは、インターバルIntが所定値Int0より大きい領域でプラスの値となり、インターバルIntが所定値Int0より小さい領域でマイナスの値となる。これはリッチスパイク処理のインターバルIntが所定値Int0より大きい領域で残存酸素が適合時より多く、インターバルIntが所定値Int0より小さい領域で残存酸素が適合時より少ないと考えられるためである。
ステップ13ではNOxトラップ触媒15の触媒温度Tlntから図8を内容とするテーブルを検索することにより触媒温度補正量TlntHOSを算出する。触媒温度Tlntは触媒温度センサ26(図1参照)により検出する。横軸の所定値Tlnt0は図6の空気過剰率補正量基本値λHOS0を適合したときの触媒温度である。図8に示したように、触媒温度補正量TlntHOSは、触媒温度Tlntが所定値Tlnt0より小さい領域でプラスの値となり、触媒温度Tlntが所定値Tlnt0より大きい領域でマイナスの値となる。これは触媒温度Tlntが所定値Tlnt0より大きい領域で残存酸素が適合時より多く脱離してくるし、所定値Tlnt0より小さい領域で残存酸素が適合時より少なく脱離してくると考えられるためである。
ステップ14では排気の空間速度SVから図9を内容とするテーブルを検索することにより空間速度補正量SVHOSを算出する。ここで、排気の空間速度SV[1/hour]は排気の体積流量Qexh[l/hour]をNOxトラップ触媒15の触媒容積[l]で除算することにより算出する。排気の体積流量Qexhの算出方法は公知である。図9に示したように、空間速度補正量SVHOSは、排気の空間速度SVが所定値SV0より大きい領域でプラスの値となり、排気の空間速度SVが所定値SV0より小さい領域でマイナスの値となる。これは排気の空間速度SVがSV0より大きい領域で残存酸素が適合時より多く、排気の空間速度SVが所定値SV0より小さい領域で残存酸素が適合時より少ないと考えられるためである。排気の空間速度SVが所定値SV0より小さい領域で残存酸素が適合時より少ないのは、排気の空間速度SVが小さいほうが酸素の消費が速くなるためである。
ステップ15では、このようにして算出した空気過剰率補正量基本値λHOS0、インターバル補正量IntHOS、触媒温度補正量TlntHOS、空間速度補正量SVHOSから次式により空気過剰率補正量λHOSを算出する。
λHOS=λHOS0+IntHOS+TlntHOS+SVHOS
…(3)
(3)式は上記(2)式と同じである。
ステップ16では、この空気過剰率補正量λHOSと第1基本空気過剰率λ0から次式により排気の目標空気過剰率mλを算出する。
mλ=λ0−λHOS …(4)
(4)式は上記(1)式と同じである。ステップ17では補正フラグ=1として今回の処理を終了する。
ステップ17で補正フラグ=1としたことより、次回にはステップ7より図5Bのステップ18以降へと進む。
図5Bにおいてステップ18では、リア広域空燃比センサ25により検出されるリアラムダがリーン側より1.0(理論空燃比)を横切ってリッチ側に反転したか否かをみる。リアラムダがリーン側より1.0を横切る前にはステップ19に進み、前回の排気の目標空気過剰率である「mλ(前回)」の値をそのまま今回の排気の目標空気過剰率mλに移すことによって、ステップ15で算出された排気の目標空気過剰率mλを維持する。
やがて、ステップ18でリアラムダがリーン側より1.0を横切ってリッチ側に反転したときには初期処理より後期処理に移行させるためステップ20に進み、排気の目標空気過剰率mλに第2基本空気過剰率λ1を設定する。第2基本空気過剰率λ1は、負荷変動がないとした場合にNOxトラップ触媒15に堆積しているNOxを全て還元浄化するための値である。第2基本空気過剰率λ1としては1.0近傍の値を設定している。実際には1.0でなく1.0より小さい値を設定する。これは、1.0近傍で発生するHC、COを排気中に存在する酸素で酸化させるためである。
ステップ21では初期処理を終了するため初期処理フラグ=0とする。ステップ22では後期処理フラグ=1として、今回の処理を終了する。
ステップ21、22で初期処理フラグ=0、後期処理フラグ=1としたことより、次回には図5Aのステップ2より図5Bのステップ23以降へと進む。
図5Bにおいてステップ23ではリッチスパイク処理の開始から所定時間Δt2が経過したか否かをみる。リッチスパイク処理の開始から所定時間Δt2が経過していなければステップ24に進み、前回の排気の目標空気過剰率である「mλ(前回)」の値をそのまま今回の排気の目標空気過剰率mλに移すことによって、ステップ20で設定した第2基本空気過剰率λ1を維持する。
やがて、ステップ23でリッチスパイク処理の開始から所定時間Δt2が経過したときにはリッチスパイク処理を終了するためステップ25、26、27、28に進む。ステップ25では排気の目標空気過剰率に1.0より大きな値(リーン)を入れる。これはエンジンをリーン運転するときの目標空気過剰率である。
ステップ26、27、28では補正フラグ=0、後期処理フラグ=0、再生許可フラグ=0とする。
図5Bのステップ28で再生許可フラグ=0としたことより、次回には図5Aのステップ1よりステップ2以降へと進むことができない。
図示しないフローでは、図5A、図5Bのフローにより算出された目標空気過剰率mλが得られるようにスロットル弁開度とポスト噴射量とが制御される。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態では、NOxトラップ触媒15と、フロントラムダ(NOxトラップ触媒15上流の排気の空気過剰率である第1空気過剰率)を検出するフロント広域空燃比センサ24(第1空気過剰率検出手段)と、リアラムダ(NOxトラップ触媒15下流の排気の空気過剰率である第2空気過剰率)を検出するリア広域空燃比センサ25(第2空気過剰率検出手段)と、NOxトラップ触媒15の再生時期になったとき、初期処理中の排気の空気過剰率をリッチ化する初期処理手段(図5Aのステップ1〜6、ステップ1〜3、7〜9参照)と、排気の空気過剰率をリッチ化した後に後期処理中の排気の空気過剰率を1.0近傍の第2基本空気過剰率にする後期処理手段(図5Bのステップ18、20〜22、ステップ23、24参照)と、排気の空気過剰率をリッチ化している間におけるリアラムダとフロントラムダの相対値により、NOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測する残存酸素量予測手段(図5Aのステップ3、7、8、10参照)と、残存酸素量予測手段により予測される残存酸素量に基づいて空気過剰率補正量基本値λHOS0(初期処理中のリッチ化の程度)を制御するリッチ化程度制御手段(図5Aのステップ3、7、8、10、11、15、16、17、図5Bのステップ18、19参照)とを備えている。本実施形態によれば、負荷変動によりフロントラムダが初期処理の開始時に算出する第1基本空気過剰率λ0まで到達できないことからそのままではNOxトラップ触媒15に酸素が残存することになってしまう場合であっても、空気過剰率補正量基本値λHOS0(初期処理中のリッチ化の程度)の制御によってNOxトラップ触媒15の残存酸素を初期処理中の消費することが可能となり、NOx浄化率の悪化を抑制することができる。
本実施形態によれば、リアラムダ(検出される第2空気過剰率)とフロントラムダ(検出される第1空気過剰率)の相対値は両者の差分Δλであり、この差分Δλに従い、差分Δλが小さいほどNOxトラップ触媒15の残存酸素量が多いと予測するので、NOxトラップ触媒15の残存酸素量を簡易に予測できる。
本実施形態によれば、リッチ化程度制御手段は、差分Δλが小さいほど空気過剰率補正量基本値λHOS0(初期処理中のリッチ化の程度)を大きくするので(図6参照)、NOxトラップ触媒15の残存酸素量の多少に拘わらず、NOxトラップ触媒15の残存酸素を消費できる。
本実施形態によれば、空気過剰率補正量基本値λHOS0(初期処理中のリッチ化の程度)を、リッチスパイク処理のインターバルInt、NOx触媒15の触媒温度Tlnt、排気の空間速度SVの少なくとも一つによって補正するので(図5Aのステップ12〜15参照)、リッチスパイク処理のインターバルInt、NOxトラップ触媒15の触媒温度Tlnt、排気の空間速度SVが、空気過剰率補正量基本値λHOS0を適合したときのリッチスパイク処理のインターバルInt、NOxトラップ触媒15の触媒温度Tlnt、排気の空間速度SVから相違しても、空気過剰率補正量λHOS(初期処理中のリッチ化の程度)を最適に与えることができる。
(第2実施形態)
図10はリッチスパイク処理時に排気の目標空気過剰率、排気の実空気過剰率であるフロントラムダ及びリアラムダがどのように変化するのかを表した第2実施形態のモデル図で、第1実施形態の図4と置き換わるものである。第1実施形態の図4と同じ部分には同じに記載している。ここで、図10第1段目には負荷変動がないときの目標空気過剰率の変化を実線で、負荷変動があるときの目標空気過剰率の変化を一点鎖線で重ねて示している。図10第2段目には、負荷変動がないときのフロントラムダとリアラムダの変化を実線で、負荷変動があるときのリアラムダの変化を破線で重ねて示している。
第1実施形態では、初期処理時のリアラムダがリーン側よりリッチ側に反転するt2のタイミングで酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15から全ての酸素が消失したと判断し、後期処理へと移行させた。実際には、リアラムダセンサ25はNOxトラップ触媒15下流の排気の酸素濃度を検出しているだけで、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を計測しているわけでない。そこで第2実施形態では、初期処理時にリアラムダとフロントラムダの差分Δλを積分し、その積分値がしきい値を超えたときに、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15から全ての酸素が消失したと判定し、後期処理へと切換える。
詳述すると、図10において、初期処理時におけるリアラムダとフロントラムダの間の面積は酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15が消失する残存酸素量を表す。ただし、初期処理開始直後でフロントラムダが急激に低下している途中にリアラムダとフロントラムダの間の面積の算出を開始するのでは、リアラムダとフロントラムダの間の面積の算出値が安定しない。このため、フロントラムダがリーン側より1.0を横後って低下し、フロントラムダがある程度安定した値となったタイミングよりリアラムダとフロントラムダの間の面積の算出を開始することで、面積の算出値を安定させることができる。
ここで、初期処理の開始後にフロントラムダが安定した値になったか否かはフロントラムダの微分値に基づいて判定する。つまり、フロントラムダがリーン側より1.0を横切ってリッチ側に反転しかつフロントラムダの微分値(絶対値で扱う)がしきい値(正の値で扱う)以下となるタイミングでフロントラムダの値が安定したと判断する。フロントラムダの微分値と比較するためのしきい値は、例えば図10第2段目に示したように、フロントラムダへの接線である。このとき、フロントラムダの微分値(絶対値で扱う)がこのしきい値(正の値で扱う)以下となるタイミングはt31である。t31のタイミングも最終的には適合により定める。
また、t31のタイミングを起点として、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15から全ての酸素が消失するときの、リアラムダとフロントラムダの間の面積は実験やシミュレーションにより予め知り知り得る。このため、t31のタイミングを起点として、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15から全ての酸素が消失するときの、リアラムダとフロントラムダの間の面積をしきい値として予め定めておく。一方、t31のタイミングよりリアラムダとフロントラムダの差分Δλを一定周期で積算すれば、その積算値SMΔλはリアラムダとフロントラムダの間の面積に相当する。従って、面積相当値である差分Δλの積算値SMΔλと予め定めてあるしきい値を比較し、差分Δλの積算値SMΔλがしきい値に到達するt32のタイミングで、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15から全ての酸素が消失したと判定できることとなる。
図11A、図11Bのフローは第2実施形態のリッチスパイク処理時の排気の目標空気過剰率mλを算出するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第1実施形態の図5A、図5Bと同一部分には同一のステップ番号を付している。
第1実施形態の図5A、図5Bと相違する部分は図11Bのステップ31〜36である。第1実施形態と相違する部分を主に説明すると、図11Bにおいてステップ31、32はリアラムダとフロントラムダの間の面積を算出するタイミングになったか否かを判定する部分である。
ステップ31ではフロントラムダと1.0を比較し、ステップ32ではフロントラムダの微分値Dλfとしきい値を比較する。ここで、フロントラムダは図10に示したように初期処理の開始とともに小さくなる値であるので、初期処理時のフロントラムダの微分値Dλfはマイナスの値となる。しかしながら、マイナスの値は扱いにくいので、絶対値で扱う。また、フロントラムダの微分値Dλfと比較するしきい値にも正の値を採用する。フロントラムダが1.0以下でないか、またはフロントラムダが1.0以下となってもフロントラムダの微分値Dλfがしきい値以下となっていないときには、まだリアラムダとフロントラムダの間の面積を算出するタイミングになっていないと判断する。このときにはステップ19に進み、前回の排気の目標空気過剰率である「mλ(前回)」の値をそのまま今回の排気の目標空気過剰率mλに移すことによって、図11Aのステップ15で算出された排気の目標空気過剰率を維持する。
一方、ステップ31、32でフロントラムダが1.0以下となりかつフロントラムダの微分値Dλfがしきい値以下となったときには、フロントラムダの値が安定した、従ってリアラムダとフロントラムダの間の面積を算出するタイミングになったと判断する。このときにはステップ33に進み、図11Aのステップ9と同様にしてフロント広域空燃比センサ24により検出されるフロントラムダ、リア広域空燃比センサ25により検出されるリアラムダの差分Δλを算出する。ここでも、リアラムダの値のほうがフロントラムダの値より大きいので、リアラムダからフロントラムダを差し引いた値を差分Δλとする。
ステップ34では差分Δλの積算値SMΔλを次式により算出する。
SMΔλ=SMΔλ(前回)+Δλ …(5)
ただし、SMΔλ(前回):SMΔλの前回値、
(5)式右辺の積算値の前回値であるSMΔλ(前回)の初期値にはゼロを入れておく。
ステップ35では差分Δλの積算値SMΔλとしきい値を比較する。ここで、しきい値は、リアラムダとフロントラムダの間の面積を算出するタイミングを起点として、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15から全ての酸素が消失するときの、リアラムダとフロントラムダの間の面積で、予め定めておく。差分Δλの積算値SMΔλがしきい値以下であるときには、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15から全ての酸素がまだ消失していないと判断し、ステップ19に進む。ステップ19では、前回の排気の目標空気過剰率であるλ(前回)の値をそのまま今回の排気の目標空気過剰率mλに移すことによって、図11Aのステップ15で算出された排気の目標空気過剰率を維持する。
その後もステップ33、34での差分Δλの積算を続けることで差分Δλの積算値SMΔλが増加してゆく(図10第3段目参照)。やがて差分Δλの積算値SMΔλがしきい値を超えたときには、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15から全ての酸素が消失したと判断し、ステップ20以降の後期処理に進む。
ステップ23でリッチスパイク処理の開始から所定時間Δt2が経過したときにはリッチスパイク処理を終了するため第1実施形態と同じにステップ25、26、27、28の操作を実行した後、ステップ36で差分Δλの積算値SMΔλ=0とする。
このように、第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。さらに、第2実施形態によれば、後期処理手段は、リアラムダ(検出される第2空気過剰率)とフロントラムダ(検出される第1空気過剰率)との差分Δλを積算(積分)し、その差分Δλの積算値SMΔλ(積分値)がしきい値を超えたときに排気の目標空気過剰率を第2基本空気過剰率λ1にするので(図11Bのステップ33、34、35、20〜22参照)、NOxトラップ触媒15の残存酸素量を正しく算出することができることから、NOxトラップ触媒15の残存酸素が全て消失したか否かの判定精度がよくなる。
排気中の酸素がなくなると、リア広域空燃比センサ25により検出されるリアラムダは反転する。しかしながら、NOxトラップ触媒15に酸素が残存し、NOxトラップ触媒15から酸素がじわじわ脱離しているような事態は、リア広域空燃比センサ25によっては検出することができない。こうした事態は差分Δλを積算(積分)することで初めて評価できるのである。
第2実施形態によれば、差分Δλの積算(積分)は、フロントラムダ(検出される第1空気過剰率)が1.0以下となり、かつフロントラムダ(検出される第1空気過剰率)の微分値Dλfが予め定めたしきい値以下となってから開始するので(図11Bのステップ31、32参照)、安定した値の積算値SMΔλ(積分値)が求まることになり、NOxトラップ触媒15の残存酸素が全て消失したか否かの判定精度が向上する。
(第3実施形態)
図12はリッチスパイク処理時に排気の目標空気過剰率、排気の実空気過剰率であるフロントラムダ及びリアラムダがどのように変化するのかを表した第3実施形態のモデル図で、第1実施形態の図4と置き換わるものである。第1実施形態の図4と同じ部分には同じに記載している。ここで、図12第1段目には負荷変動がないときの目標空気過剰率の変化を実線で、負荷変動があるときの目標空気過剰率の変化を一点鎖線で重ねて示している。図12第2段目には、負荷変動がないときのフロントラムダとリアラムダの変化を実線で、負荷変動があるときのリアラムダの変化を破線で重ねて示している。
第1実施形態では、負荷変動があるとき初期処理の開始時に算出した第1基本空気過剰率λ0を空気過剰率補正量を用いて小さくなる側(リッチ側)に補正することによって、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を全て消失させた。しかしながら、運転条件によっては、空気過剰率補正量を用いて第1基本空気過剰率λ0を小さくなる側(リッチ側)に補正することができないことがある。
負荷変動があるとき、第1実施形態で第1基本空気過剰率λ0を空気過剰率補正量を用いて小さくなる側に補正したのは、初期処理中におけるリアラムダとフロントラムダの間の面積を増やして、触媒14、15から全ての酸素を消失させるためであった。この場合、初期処理の開始時に算出した第1基本空気過剰率λ0はそのままで、初期処理期間を長くすることによっても、初期処理中におけるリアラムダとフロントラムダの間の面積を増やすことができる。
そこで第3実施形態では、初期処理開始時には第1基本空気過剰率λ0を算出するとともに基本初期処理時間τ0を算出し、予測した残存酸素量に基づいてこの基本初期処理時間τ0の補正量(初期処理中のリッチ化の期間)を制御する。例えば、図12第1段目に実線で示したように、負荷変動がない(差分Δλが相対的に大きい)とき、初期処理中の排気の目標空気過剰率を第1基本空気過剰率λ0に、初期処理時間を基本初期処理時間τ0に設定している。一方、図12第1段目に一点鎖線で重ねて示したように、t21で負荷変動がある(差分Δλが相対的に小さい)ことが分かったとき、基本初期処理時間τ0より初期処理時間補正量だけ長い値を目標初期処理時間mτとしている。これによって、負荷変動があるときの初期処理中の目標空気過剰率と負荷変動がないときの初期処理中の目標空気過剰率との間に、ハッチングで示した面積差が生じる(図12第1段目参照)。つまり、負荷変動があるときには、負荷変動がないときより当該面積差だけ多い分の還元剤の供給を行うことができる。還元剤の供給量が増えることによって、酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素を消費することができるのである。
図13A、図13Bのフローは第3実施形態のリッチスパイク処理時の排気の目標空気過剰率mλ及び目標初期処理時間mτを算出するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第1実施形態の図5A、図5Bと同一部分には同一のステップ番号を付している。
第1実施形態の図5A、図5Bと相違する部分は図13Aのステップ41〜46である。ただし、第3実施形態では、初期処理の開始時に算出した基本空気過剰率λ0を補正することはしないので、ステップ8と9の位置を入れ換えている。
第1実施形態と相違する部分を主に説明すると、図13Aにおいてステップ41〜46は、初期処理開始時に算出した基本初期処理時間τ0を、予測した残存酸素量に応じた初期処理時間補正量を用いて長くなる側に補正する部分である。ここでは、目標初期処理時間mτを次式により算出する。
mτ=τ0+τHOS …(6)
ただし、τ0:基本初期処理時間、
τHOS:初期処理時間補正量、
すなわち、基本初期処理時間τ0に初期処理時間補正量τHOSを加算することによって基本初期処理時間τ0を長くなる側に補正した値を目標初期処理時間mτとする。
上記(6)式右辺の初期処理時間補正量τHOSを次式により算出する。
τHOS=τHOS0+IntHOS2+TlntHOS2+SVHOS2
…(7)
ただし、τHOS0:初期処理時間補正量基本値、
IntHOS2:インターバル補正量、
TlntHOS2:触媒温度補正量、
SVHOS2:空間速度補正量、
以下、各補正量を具体的に説明する。まず、ステップ9ではフロント広域空燃比センサ24により検出されるフロントラムダ、リア広域空燃比センサ25により検出されるリアラムダの差分Δλを算出する。このときのフロントラムダ、リアラムダの値は、初期処理開始タイミングから一定時間Δt1が経過したときのものである。ここでは、リアラムダの値のほうがフロントラムダの値より大きいので、リアラムダからフロントラムダを差し引いた値を差分Δλとする。差分Δλは酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測する値である。この差分Δλが相対的に小さいときには、差分Δλが相対的に大きいときより酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量が多いと予測する。
ステップ41では差分Δλから図14を内容とするテーブルを検索することにより、初期処理時間補正量基本値τHOS0を算出する。図14に示したように、初期処理時間補正量基本値τHOS0は、差分Δλが所定値Δλ0を超える領域でゼロとなり、差分Δλが所定値Δλ0以下の領域では差分Δλが小さくなるほど大きくなる値である。酸化触媒14及びNOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測する値である差分Δλは、差分Δλが所定値Δλ0以下の領域でこの値が相対的に小さいときのほうがこの値が相対的に大きいときより残存酸素が相対的に多いことを表す。負荷変動がある(Δλが相対的に小さい)ときに負荷変動がない(Δλが相対的に大きい)ときよりτHOS0を大きくしているのは、次の理由による。すなわち、負荷変動がある(Δλが相対的に大きい)ときには、負荷変動がない(Δλが相対的に大きい)ときより触媒14、15の残存酸素が多く、残存酸素が多いほうが長くする側への補正量を大きくする必要があるためである。
また、横軸の所定値Δλ0は、負荷変動がないとしたときの差分Δλで予め適合により求めておく。そのときの差分Δλが所定値Δλ以上であるであるときには、残存酸素が生じることがなく、従って基本初期処理時間τ0を長くする側に補正する必要がないので、差分Δλが所定値Δλ0以上の領域では初期処理時間補正量基本値τHOS0をゼロとしている。
ステップ42ではリッチスパイク処理のインターバルIntから図15を内容とするテーブルを検索することによりインターバル補正量IntHOS2を算出する。ここで、「リッチスパイク処理のインターバル」とは、前述したように1のリッチスパイク処理の終了から次のリッチスパイク処理の開始までの期間のことである。また、横軸の所定値Int0は図14の初期処理時間補正量基本値τHOS0を適合したときのインターバルIntである。図15に示したように、インターバル補正量IntHOS2は、インターバルIntが所定値Int0より大きい領域でプラスの値となり、インターバルIntが所定値Int0より小さい領域でマイナスの値となる。これはリッチスパイク処理のインターバルIntが所定値Int0より大きい領域で残存酸素が適合時より多く、インターバルIntが所定値Int0より小さい領域で残存酸素が適合時より少ないと考えられるためである。
ステップ43ではNOxトラップ触媒15の触媒温度Tlntから図16を内容とするテーブルを検索することにより触媒温度補正量TlntHOS2を算出する。触媒温度Tlntは前述したように触媒温度センサ26により検出する。横軸の所定値Tlnt0は図14の初期処理時間補正量基本値τHOS0を適合したときの触媒温度である。図16に示したように、触媒温度補正量TlntHOS2は、触媒温度Tlntが所定値Tlnt0より小さい領域でプラスの値となり、触媒温度Tlntが所定値Tlnt0より大きい領域でマイナスの値となる。これは触媒温度Tlntが所定値Tlnt0より大きい領域で残存酸素が適合時より多く脱離してくるし、所定値Tlnt0より小さい領域で残存酸素が適合時より少なく脱離してくると考えられるためである。
ステップ44では排気の空間速度SVから図17を内容とするテーブルを検索することにより空間速度補正量SVHOS2を算出する。ここで、排気の空間速度SV[1/hour]は前述したように排気の体積流量Qexh[l/hour]をNOxトラップ触媒15の触媒容積[l]で除算することにより算出する。排気の体積流量Qexhの算出方法は公知である。図17に示したように、空間速度補正量SVHOS2は、排気の空間速度SVが所定値SV0より大きい領域でプラスの値となり、排気の空間速度SVが所定値SV0より小さい領域でマイナスの値となる。これは排気の空間速度SVが所定値SV0より大きい領域で残存酸素が適合時より多く、排気の空間速度SVが所定値SVより小さい領域で残存酸素が適合時より少ないと考えられるためである。排気の空間速度SVが所定値SV0より小さい領域で残存酸素が適合時より少ないのは、排気の空間速度SVが小さいほうが酸素の消費が速くなるためである。
ステップ45では、このようにして算出した初期処理時間補正量基本値τHOS0、インターバル補正量IntHOS2、触媒温度補正量TlntHOS2、空間速度補正量SVHOS2から次式により初期処理時間補正量τHOSを算出する。
τλHOS=τλHOS0+IntHOS2+TlntHOS2+SVHOS2
…(8)
(8)式は上記(7)式と同じである。
ステップ46では、この初期処理時間補正量τHOSと基本初期処理時間τ0から次式により目標初期処理時間mτを算出する。
mτ=τ0−τHOS …(9)
(9)式は上記(6)式と同じである。ステップ17では補正フラグ=1として今回の処理を終了する。
ステップ17で補正フラグ=1としたことより、次回にはステップ7より図13Bのステップ18以降へと進む。
このように第3実施形態でも、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。さらに、第3実施形態では、NOxトラップ触媒15と、フロントラムダ(NOxトラップ触媒15上流の排気の空気過剰率である第1空気過剰率)を検出するフロント広域空燃比センサ24(第1空気過剰率検出手段)と、リアラムダ(NOxトラップ触媒15下流の排気の空気過剰率である第2空気過剰率)を検出するリア広域空燃比センサ25(第2空気過剰率検出手段)と、NOxトラップ触媒15の再生時期になったとき、排気の空気過剰率をリッチ化する初期処理手段(図13Aのステップ1〜6、ステップ1〜3、7、9参照)と、前記排気の空気過剰率をリッチ化した後に排気の空気過剰率を1.0近傍にする後期処理手段(図13Bのステップ18、20〜22、ステップ23、24参照)と、排気の空気過剰率をリッチ化している間におけるリアラムダとフロントラムダの相対値により、NOxトラップ触媒15の残存酸素量を予測する残存酸素量予測手段(図13Aのステップ3、7、8、10参照)と、残存酸素量予測手段により予測される残存酸素量に基づいて初期処理時間補正量基本値τHOS0(初期処理中のリッチ化の期間)を制御するリッチ化期間制御手段(図13Aのステップ3、7、8、10、41、45、46、17、図13Bのステップ18、19参照)とを備えている。本実施形態によれば、負荷変動によりフロントラムダが初期処理の開始時に算出する排気の基本空気過剰率λ0まで到達できないことからそのままでは後期処理時にNOxトラップ触媒15に酸素が残存することになってしまう場合であっても、初期処理時間補正量基本値τHOS0(初期処理中のリッチ化の期間)の制御によってNOxトラップ触媒15の残存酸素を消費することが可能となり、NOx浄化率の悪化を抑制することができる。
第3実施形態によれば、リッチ化期間制御手段は、差分Δλが小さいほど初期処理時間補正量基本値τHOS0(初期処理中のリッチ化の期間)を長くするので(図14参照)、NOxトラップ触媒15の残存酸素量の多少に拘わらず、NOxトラップ触媒15の残存酸素を消費できる。
第3実施形態によれば、初期処理時間補正量基本値τHOS0(リッチ化の期間)を、リッチスパイク処理のインターバルInt、NOx触媒15の触媒温度Tlnt、排気の空間速度SVの少なくとも一つによって補正するので(図13Aのステップ42〜45参照)、リッチスパイク処理のインターバルInt、NOxトラップ触媒15の触媒温度Tlnt、排気の空間速度SVが、初期処理時間補正量基本値τHOS0を適合した時のリッチスパイク処理のインターバルInt、NOxトラップ触媒15の触媒温度Tlnt、排気の空間速度SVから相違しても、初期処理時間補正量τHOS(初期処理中のリッチ化の程度)を最適に与えることができる。
実施形態では、酸化触媒とNOxトラップ触媒が別体である場合で説明したが、NOxトラップ触媒に酸化触媒を含ませたものであってもかまわない。
実施形態では、コモンレール式燃料噴射装置のみを備える場合で説明したが、酸化触媒上流の排気通路に燃料を供給する燃料添加装置を備えるものにも適用がある。
第1実施形態では、リアラムダが1.0を横切ってリッチ側に反転したときに初期処理より後期処理に移行させる場合で説明したが、この場合に限られるものでない。例えば、リアラムダが1.05を横切ってリッチ側に反転したときに初期処理より後期処理に移行させたり、リアラムダが0.95を横切ってリッチ側に反転したときに初期処理より後期処理に移行させたりする場合にも適用がある。このように、切換えるタイミングを1.05や0.95へとシフトさせる理由は、そうしたい要求があるためである。