JP6242525B1 - ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ユーグレナ(Euglena)属を含むユーグレナ藻に由来し、β-1,3-グルカン合成活性を示すβ-1,3-グルカン合成酵素を提供する。【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるβ-1,3-グルカン合成酵素。特定のアミノ酸配列で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、β-1,3-グルカン合成活性を有するアミノ酸配列【選択図】図6

Description

本発明は、ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法に関する。
微細藻類ユーグレナ・グラシリス(学名:Euglena gracilis)は直鎖状のβ-1,3-グルカンの集合体であるパラミロンを貯蔵多糖として大量に生産する。パラミロンはウリジン二リン酸グルコース(UDP−グルコース)から合成されるが、その合成機構はほとんど知られていない。
微細藻類Euglena gracilisは一本の鞭毛で遊走し、かつ葉緑体によって光合成を行う単細胞生物である。ユーグレナ細胞はパラミロンと呼ばれる貯蔵多糖を生産・蓄積する。パラミロンはβ-1,3-結合のみからなる約700のグルコース分子を含んだ直鎖状のグルカンから構成されている。パラミロンは高い結晶度(約90%)を示す円盤状の顆粒であり、その量は、特に従属栄養条件下では、しばしば乾燥重量の50%を超える。
貯蔵されたパラミロンは、炭素源枯渇、アンモニウムイオンの存在や高濃度酸素条件といった環境変化に応じた細胞の恒常性維持のために代謝される。加えて、嫌気的な条件に曝されたときにユーグレナはパラミロンをワックスエステルに変換する。この現象は、正味のATP生産を伴うため、ワックスエステル発酵と呼ばれている。さらに、パラミロンは細胞小器官の発達のためにも分解される。暗所で培養されたユーグレナ細胞は連続的な光刺激により素早くパラミロンを分解し、得られた炭素源を葉緑体の初期発達過程の脂質合成に利用することが知られている。
これまでユーグレナ細胞のパラミロン生合成に対する知見はいくらかの研究者によって蓄積されてきた。電子顕微鏡による観察では二つの細胞小器官がパラミロン合成に関与しており、それらの寄与は細胞がおかれた栄養条件に依存していることが明らかにされている。光独立条件下では膜に包まれたパラミロン顆粒が葉緑体のピレノイドに隣接した細胞質に局在している(非特許文献1)。対して、従属栄養条件下では細胞内のミトコンドリアは非常に肥大した小胞を持っている。膜に包まれたパラミロン顆粒はこれらの小胞内に現れ、その後細胞質に放出される様子が観察されている(非特許文献2)。酵素学的な解析ではパラミロン合成酵素はUDP−グルコースを基質として利用するUDP−グルコース−β-1,3-グルカンβ-3-グルコシルトランスフェラーゼ(UDP-glucose-β-1,3-glucanβ-3-glucosyltransferase)、つまり、UDP−グルコースのグルコシル残基を、β-1,3-グルカンの3位の水酸基に転移させる化学反応を触媒する酵素であることが示されている。加えて、パラミロン合成酵素は、分子量37kDaと54kDaのUDP−グルコース結合ペプチドを含む670kDaの酵素複合体であることが知られている。しかしながら、酵素の局在には議論の余地がある。MarechalとGoldemberg(非特許文献3,4)はその酵素活性がパラミロンを除いた全膜画分で検出されたことを示しているが、一方でBaumerらはその活性がパラミロン画分で検出されたと報告している(非特許文献5)。このように、ユーグレナのパラミロン合成酵素の生化学的性質に関する限定的な情報は存在するが、これまでの研究は分子レベルの特徴づけにまでは至っていない。
真菌や植物のような真核生物において、β-1,3-グルカン合成酵素(GS)はglycosyl
transferase family 48(GT48)に分類される。このグループはUDP−グルコースからグルコース残基をβ-1,3-D-グルカンに転移させるタンパク質ファミリーである。主な真核生物のGSは16個の膜貫通へリックス(TMH)をもつ巨大膜タンパク質(〜230kDa)であり、細胞質に面する中央の親水性ループによってTMHが二つのクラスターに分けられた独特なトポロジーを示す。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)Fks1pのような真菌のGSは、グリコーゲン(β-1,4-glucan)合成酵素で予想されたUDP−グルコース結合コンセンサス([R/K]XGG)モチーフと相同なモチーフ(RXTG)を保存しており、この相同モチーフは細胞質に面した親水性ループに存在している。対して、細菌型GSであるAgrobacterium sp. ATCC31749のカードラン合成酵素はセルロース(β-1,4-glucan)合成酵素と類似しており、D,D,DモチーフとQXXRWモチーフを保存している。これらモチーフは細菌や植物のセルロース合成酵素においてUDP−グルコースと結合し、グルコース残基を転移させるコンセンサス配列である。
A.M. Orcival-Lafont et al., "Le plastidome chez Euglena gracilis Z", J. Phycol., vol.10, pp.300-307 (1974). J. Briand et al., "Paramylon synthesis inheterotrophic and photoheterotrophic Euglena (Euglenophyceae)", J. Phycol.,vol.16, pp.234-239 (1980). S. H. Goldemberg et al., "Biosynthesis of paramylon in Euglena gracilis", Biochim.Biophys. Acta, vol.71, pp.743-744 (1963). L. R. Marechalet al., "Uridinediphosphate glucose-beta-1,3-glucan beta-3-glucosyltransferase from Euglenagracilis", J. Biol.Chem., vol.239, pp.3163-3167 (1964). D. Baumer et al., "Isolation andcharacterization of paramylon synthase from Euglena gracilis (Euglenophyceae)", J. Phycol., vol.37,pp.38-46 (2001).
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、パラミロン合成酵素のユーグレナ生細胞内の量を調整することにより、パラミロン含有率を増加させる方法を提供することにある。
前記課題は、ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法であって、ユーグレナにおけるパラミロン合成酵素の発現量を増加させるパラミロン合成酵素発現量制御工程を行い、前記パラミロン合成酵素発現量制御工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程を含むことを特徴とするユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法により解決される
このとき、前記パラミロン合成酵素発現量制御工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を薄くするように調整する工程を含むとよい。
前記課題は、ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法であって、培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程を含むことを特徴とするユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法により解決される。
このとき、前記培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を薄くするように調整する工程を含むとよい。
発明によれば、パラミロン合成酵素の発現量を増やすことで、ユーグレナに含まれるβ-1,3-グルカンであるパラミロンの含有量を増加させることができる。
EgGSL1とEgGSL2を伴ったβ-1,3-グルカン合成酵素の既知の触媒サブユニットの系統樹を示す図である。 EgGSL1とEgGSL2のドメイン構造の模式図である。 Transmembrane hidden Markov model programによって得られた膜貫通へリックスの予測結果を示す図である。 EgGSL1とEgGSL2のトポロジーを示す図である。 葉緑体欠損型SM-ZK株におけるRT-PCRによるサイレンシングの確認の結果を示す図である。 葉緑体欠損型SM-ZK株におけるモックコントロールとEgGSL1遺伝子とEgGSL2遺伝子のノックダウン株におけるパラミロン蓄積量を示すグラフである。 葉緑体欠損型SM-ZK株におけるモックコントロールとEgGSL1遺伝子とEgGSL2遺伝子のノックダウン株における典型的な細胞の顕微鏡写真である。 葉緑体欠損型SM-ZK株におけるモックコントロールとEgGSL1遺伝子とEgGSL2遺伝子のノックダウン株が示す生育曲線を示すグラフである。 野生型E. gracilis Z株における、従属条件下でのモックコントロールとEgGSL1遺伝子とEgGSL2遺伝子のノックダウン株におけるパラミロン蓄積量を示すグラフである。 野生型E. gracilis Z株における、従属条件下でのモックコントロールとEgGSL1遺伝子とEgGSL2遺伝子のノックダウン株が示すクロロフィル量の経日的変化を示すグラフである。 野生型E. gracilis Z株における、独立条件下でのモックコントロールとEgGSL1遺伝子とEgGSL2遺伝子のノックダウン株におけるパラミロン蓄積量を示すグラフである。 従属栄養条件下でのZ株におけるユーグレナノックダウン細胞のdsRNA誘導の6日後(DAI)に得られた全RNAを用いたRT-PCRによるEgGSL1およびEgGSL2発現のノックダウンの確認。伸長因子EF-1α転写物を対照として増幅した。 従属栄養条件におけるZ株におけるdsRNA誘導の1〜6日後のEgGSL1およびEgGSL2の対照および各ノックダウン系における増殖曲線。エラーバーは、3つの独立した試験からの標準偏差を表す。 光独立栄養性条件下でのZ株におけるユーグレナノックダウン細胞のdsRNA誘導の6日後(DAI)に得られた全RNAを用いたRT-PCRによるEgGSL1およびEgGSL2発現のノックダウンの確認。伸長因子EF-1α転写物を対照として増幅した。 光独立栄養条件におけるZ株におけるdsRNA誘導の1〜6日後のEgGSL1およびEgGSL2の対照および各ノックダウン系における増殖曲線。エラーバーは、3つの独立した試験からの標準偏差を表す。 放射性UDP−グルコースの取り込み活性試験によるβ-1,3-グルカン合成酵素活性の局在解析結果を示すグラフである。 全膜(TM)画分とパラミロン(PM)画分から抽出された粗膜タンパク質におけるモックコントロールとKD-gsl2間の放射性UDP−グルコースの取り込み活性の比較の結果を示すグラフである。 アニリンブルー蛍光実験によるUDP−グルコース取り込み産物におけるβ-1,3-グルカン相対量の比較の結果を示すグラフである。 E. gracilisにおけるEgGSL1遺伝子およびEgGSL2遺伝子の発現レベルの評価結果を示すグラフである。 UDP−グルコースの試験管内取り込み活性において合成された生成物の構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。 試験3において検討を行った培養液中のユーグレナ細胞濃度とユーグレナ細胞に含まれるパラミロン含有率の関係を示すグラフである。 試験3において検討を行った培養液中のユーグレナ細胞濃度とユーグレナ細胞におけるEgGSL2遺伝子発現量の関係を示すグラフである。 試験3において検討を行ったEgGSL2遺伝子発現量とユーグレナ細胞に含まれる炭水化物含有率の関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について、図1から図23までを参照しながら説明する。
本実施形態は、ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法に関するものである。
(定義)
本明細書において、「GS」とは、β-1,3-グルカン合成酵素(β-1,3-glucan synthase)をいう。
本明細書において、「KD」とは、ノックダウン(Knockdown)をいう。
本明細書において、「DAI」とは、dsRNA導入後の日数(Day(s) after dsRNA introduction)をいう。
本明細書において、「GT48」とは、グリコシルトランスフェラーゼファミリー48(Glycosyl transferase family 48)をいう。
本明細書において、「GH」とは、グリコシドヒドロラーゼ(Glycoside hydrolase)をいう。
本明細書において、「TM画分」とは、全膜画分(Total membrane fraction, TM fraction)をいう。
本明細書において、「PM画分」とは、パラミロン画分(Paramylon fraction, PM fraction)をいう。
本実施形態のパラミロン合成酵素には、ユーグレナが産生するパラミロンを合成するタンパク質が含まれる。
本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素には、ユーグレナが産生するβ-1,3-グルカンを合成するタンパク質が含まれる。
パラミロン(Paramylon)は、約700のグルコース分子がβ-1,3-結合により重合した高分子体(β-1,3-グルカン)であり、ユーグレナ属を含むユーグレナ藻が含有する貯蔵多糖である。パラミロン粒子は、扁平な回転楕円体粒子であり、β-1,3-グルカン鎖がらせん状に絡まりあって形成されている。
パラミロン粒子は、培養されたユーグレナから任意の適切な方法で単離および微粒子状に精製され、通常粉末体として提供されている。
例えば、パラミロン粒子は、(1)任意の適切な培地中でのユーグレナ細胞の培養;(2)当該培地からのユーグレナ細胞の分離;(3)分離されたユーグレナ細胞からのパラミロンの単離;(4)単離されたパラミロンの精製;および必要に応じて(5)冷却およびその後の凍結乾燥、又は加熱乾燥などの方法による乾燥により得ることができる。ユーグレナ細胞としては、全ての種類のユーグレナ細胞、例えばEuglena gracilis、Euglena intermedia、Euglena piride、及びその他のユーグレナ類、例えばAstaia longaを用いることができる。
ユーグレナ細胞の培養は、例えば供給バッチ法を用いて行われ得る。ユーグレナ細胞の分離は、例えば、培養液の遠心分離または単純な沈降によって行われ得る。パラミロンの単離は、例えば、大部分が生物分解される種類の非イオン性または陰イオン性の界面活性剤を用いて行われ得る。パラミロンの精製は、実質的には単離と同時に行われ得る。
具体的には、例えば以下の手順が採用され得る:ユーグレナ・グラシリス粉末((株)ユーグレナ社製)を蒸留水に入れ、室温で2日間撹拌する。これを超音波処理して細胞膜を破壊し、遠心分離により粗製パラミロン粒子を回収する。回収したパラミロン粒子を1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に分散し、95℃で2時間処理し、再度遠心分離により回収したパラミロン粒子を0.1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に分散して50℃で30分間処理する。当該操作により脂質やタンパク質を除去し、その後アセトンおよびエーテルで洗浄した後、50℃で乾燥して精製パラミロン粒子を得ることができる。なお、ユーグレナからのパラミロンの単離および精製方法は周知であり、例えば、E. Ziegler, "Die naturlichen und kunstlichen Aromen" Heidelberg, Germany, 1982, Chapter 4.3 "Gefriertrocken"、DE4328329、または特表2003−529538号公報に記載されている。
(β-1,3-グルカン合成酵素及びパラミロン合成酵素)
β-1,3-グルカン合成酵素及びパラミロン合成酵素の例としては、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)由来、特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株のβ-1,3-グルカン合成酵素及びパラミロン合成酵素が挙げられる。
なお、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)のSM−ZK株(葉緑体欠損株)等の変異体株や変種のE. gracilis var. bacillaris、近縁種のEuglena anabaena var. minor、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株由来のβ-1,3-グルカン合成酵素及びパラミロン合成酵素であってもよい。
ユーグレナ属を含むユーグレナ藻は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用してもよく、また、すでに単離されている任意のユーグレナ藻を使用してもよい。
本実施形態のユーグレナ属、ユーグレナ藻は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
また、本実施形態のパラミロン合成酵素の他の例としては、配列表の配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を活性中心に据える複合体が挙げられる。
配列番号2で表されるアミノ酸配列は、本明細書においてEgGSL1と命名したものである。配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子を含むヌクレオチド配列は、配列番号1(EgGSL1(E. gracilis Glucan Synthase Like 1)遺伝子又はcomp52518_c0_seq1と呼ぶ)の通りである。
配列番号4で表されるアミノ酸配列は、本明細書においてEgGSL2と命名したものである。配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子を含むヌクレオチド配列は、配列番号3(EgGSL2(E. gracilis Glucan Synthase Like 2)遺伝子又はcomp36157_c0_seq1と呼ぶ)の通りである。
また、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質において、1個または数個の部位に、1個または数個のアミノ酸残基が、置換、欠失、挿入および/または付加したタンパク質も、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を有する限り、本実施形態のタンパク質に含まれる。数個とは75個を超えない個数を意味し、好適には50個、さらに好適には25個、さらに好適には10個を超えない個数をいう。
タンパク質の別の例としては、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、特に好ましくは95%以上のヌクレオチド配列相同性、同一性又は類似性を有するタンパク質も、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を有する限り、本実施形態のタンパク質に含まれる。
(ポリヌクレオチド)
「本実施形態のポリヌクレオチド」とは、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素をコードするポリヌクレオチドをいう。ポリヌクレオチドとしては、cDNA、ゲノムDNA、人工的に改変されたDNA、化学的に合成されたDNAなど、現在知られる限りどのような形態をとっていても良い。
本実施形態のポリヌクレオチドの例としては、配列番号1のヌクレオチド番号1から7923に示されるヌクレオチド配列であり、且つ、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を有するタンパク質をコードするDNA、配列番号3のヌクレオチド番号1から7448に示されるヌクレオチド配列であり、且つ、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を有するタンパク質をコードするDNAが、挙げられる。
本実施形態のポリヌクレオチドの別の例としては、配列番号1のヌクレオチド番号1から7923に示されるヌクレオチド配列、配列番号3のヌクレオチド番号1から7448に示されるヌクレオチド配列と、それぞれ、70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、特に好ましくは95%以上のヌクレオチド配列相同性、同一性又は類似性を有し、且つ、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、自然界で発見される変異型DNA、人為的に改変した変異型DNA、異種生物由来の相同DNA、同一DNA又は類似DNAなどが含まれる。
本実施形態のポリヌクレオチドの別の例としては、配列番号1のヌクレオチド番号1から7923に示されるヌクレオチド配列、配列番号3のヌクレオチド番号1から7448に示されるヌクレオチド配列と、それぞれ、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
また、配列番号1のヌクレオチド番号1から7923に示されるヌクレオチド配列、配列番号3のヌクレオチド番号1から7448に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドも、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を有するタンパク質をコードする領域を含む限り、本実施形態のポリヌクレオチドに含まれるものである。
また、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素には、本実施形態のポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。
また、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素には、本実施形態のポリヌクレオチドを用いて、DNAを末端から削る公知の方法や、カセット変異法などに従って作製された任意の一つもしくは二つ以上のアミノ酸を欠失させた改変体も含む。
このように、本実施形態のポリヌクレオチドを基に遺伝子工学的手法により得られるタンパク質であっても、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を有する限り本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素に含まれる。
このようなβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素は、必ずしも配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列の全てを有するものである必要はなく、例えばその部分配列からなるタンパク質であっても、β-1,3-グルカン合成活性又はパラミロン合成活性を示す限り、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素に包含される。また、このようなβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素をコードするDNAも本実施形態に含まれる。
ユーグレナ属の培養液としては、例えば、窒素源、リン源、ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液、例えば、改変Cramer−Myers培地((NHHPO 1.0g/L、KHPO 1.0g/L、MgSO・7HO 0.2g/L、CaCl・2HO 0.02g/L、Fe(SO・7HO 3mg/L、MnCl・4HO 1.8mg/L、CoSO・7HO 1.5mg/L、ZnSO・7HO 0.4mg/L、NaMoO・2HO 0.2mg/L、CuSO・5HO 0.02g/L、チアミン塩酸塩(ビタミンB) 0.1mg/L、シアノコバラミン(ビタミンB12)、(pH3.5))を用いることができる。なお、(NHHPOは、(NHSOやNHaqに変換することも可能である。また、そのほか、ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、株式会社学会出版センター)の記載に基づき調製される公知のHutner培地、Koren−Hutner培地を用いてもよい。
培養液のpHは好ましくは2以上、また、その上限は、好ましくは6以下、より好ましくは4.5以下である。pHを酸性側にすることにより、光合成微生物は他の微生物よりも優勢に生育することができるため、コンタミネーションを抑制することができる。
但し、培養温度、pH、通気撹拌量は、ユーグレナによるパラミロン合成酵素産生(β-1,3-グルカン合成酵素産生)に適するように、適宜選択することができる。
また、ユーグレナ属の培養は、フラスコ培養や発酵槽を用いた培養、回分培養法、半回分培養法(流加培養法)、連続培養法(灌流培養法)等、いずれの液体培養法により行ってもよい。
本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素は、ユーグレナ属の破砕液から精製したもの、粗精製したものを用いたものでも良い。
ユーグレナ属の培養終了後に、ユーグレナ属を破砕した破砕溶液を得て、この破砕溶液を、通常の再構成処理、蛋白沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、凍結融解法、超音波破砕、限外ろ過、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、それらの組み合わせ等によって粗精製したり、精製したりしたものを用いることもできる。
(組換えベクター、形質転換体、β-1,3-グルカン合成酵素の製造方法及びパラミロン合成酵素の製造方法)
また、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素は、プラスミドベクターに本実施形態のDNAが挿入された組換えプラスミドで宿主細胞を形質転換し、この形質転換された細胞の培養産物から得る事もできる。このように適当なベクターに本実施形態のDNAが挿入された組換えプラスミドも本実施形態に含まれる。
ベクターとしては、プラスミドベクターが好適に用いられるが、コスミドベクター、バクテリオファージ、ウイルスベクター、人工染色体ベクター等、公知の種々のベクターを用いることができる。
このようなベクターにより、他の原核生物、または真核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、適当なプロモーター配列および/または形質発現に関わる配列を有するベクターを用いるか、もしくはそのような配列を導入することにより、発現ベクターとすることで、それぞれの宿主において遺伝子を発現させることが可能である。
上記ベクターを宿主細胞に導入することにより、細胞を得ることができる。宿主細胞は、ベクターを導入することができる細胞であれば原核細胞であっても真核細胞であってもよい。
原核細胞の宿主としては、例えば、麹菌(Aspergillus oryzae)を好適に用いることができるが、その他、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)等であってもよい。
また、麹菌としては、Aspergillus oryzaeのほか、Aspergillus sojae、Aspergillus awamori、Aspergillus kawachii、Aspergillus usami、Aspergillus tamari、Aspergillus Glaucus等のアスペルギルス属に属する麹菌を用いることができる。
真核細胞の宿主細胞としては、例えば、脊椎動物、昆虫、酵母などの細胞を用いることができる。
宿主細胞として麹菌(A. oryzae)を用いる場合、プラスミドベクターとしては、α−アミラーゼ遺伝子プロモーター(amyBp)を利用した麹菌発現ベクターpPPamyBSPを用いると好適である。
細胞への遺伝子導入は、麹菌宿主のプロトプラストを調製して、公知のプロトプラストPEG法(ポリエチレングリコール法)により好適に行うことができるが、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、ヌクレオフェクション法、リン酸カルシウム法、インジェクション法、マイクロインジェクション法等、その他の公知の導入技術によっても行うことができる。
ベクターを宿主細胞に導入して得た本実施形態の形質転換体は、常法に従い培養することができ、培養により細胞内、または細胞外に本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素が産生される。
形質転換体の培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択できる。
宿主細胞として麹菌を用いた場合には、YPM培地等の公知の培地を用いることができる。また、そのほか、PDA(Potato Dextrose Agar)培地、PDB(Potato Dextrose Broth)培地や、小麦ふすまを含むふすま培地等を用いてもよい。
形質転換体の培養により形質転換体の細胞内または細胞外に組換えタンパク質として産生される本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素は、培養産物中から、そのタンパク質の物理化学的性質、化学的性質、生化学的性質(酵素活性など)等を利用した各種の分離操作により分離、精製することができる。例えば、通常の再構成処理、蛋白沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、凍結融解法、超音波破砕、限外ろ過、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、それらの組み合わせ等を利用できる。
例えば、組換えタンパク質として産生される本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素が、菌体外に分泌される場合は、培地に蒸留水を加えて撹拌し、室温で約3時間放置してからろ紙でろ過することにより、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素を抽出することができる。
また、組換えタンパク質として産生される本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素が、菌体内に局在する場合は、例えば、緩衝液を培地に加え、破砕装置を用いて氷冷しながら間欠運転で破砕し、得られた破砕液を遠心分離して上澄を回収することにより、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素を抽出することができる。
このように、本実施形態の形質転換体を培養し、培養産物を分離、精製等することにより、高収率で、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素又はパラミロン合成酵素を、工業的規模で製造できる。
本実施形態のポリヌクレオチドが導入された形質転換体から得られたβ-1,3-グルカン合成酵素の具体的な性質について以下に示すが、本実施形態のβ-1,3-グルカン合成酵素の有する性質は、これらに限定されない。
(1)作用:ウリジン二リン酸グルコースのグルコシル残基をβ-1,3-グルカンの3位の水酸基に転移させる。
(2)基質特異性:少なくとも、(結晶性)β-1,3-グルカンを合成する。
(3)アミノ酸配列を基に計算される分子量:304kDa又は258kDaである。
(4)至適pH:至適pHが、7〜9である。
(5)至滴温度:至適温度が、20℃以上30℃以下である。
本実施形態のポリヌクレオチドが導入された形質転換体から得られたパラミロン合成酵素の具体的な性質について以下に示すが、本実施形態のパラミロン合成酵素の有する性質は、これらに限定されない。
(1)作用:ウリジン二リン酸グルコースのグルコシル残基をβ-1,3-グルカンの3位の水酸基に転移させる。
(2)基質特異性:少なくとも、(結晶性)パラミロンを合成する。
(3)アミノ酸配列を基に計算される分子量:670kDaである。
(4)至適pH:至適pHが、7〜9である。
(5)至滴温度:至適温度が、20℃以上30℃以下である。
(β-1,3-グルカンの製造方法)
また、本実施形態には、ウリジン二リン酸グルコース(uridine diphosphate(UDP)−グルコース)に、β-1,3-グルカン合成酵素を作用させることにより、β-1,3-グルカンを生成させるβ-1,3-グルカンの製造方法も含まれる。
本実施形態のβ-1,3-グルカンの製造方法では、UDP−グルコースを水又はリン酸バッファー等の緩衝バッファーに懸濁して得た懸濁液に、本実施形態に係るユーグレナ属由来のβ-1,3-グルカン合成酵素を添加し、pH7〜9、温度20〜30℃で、15分〜20時間インキュベートすることにより、UDP−グルコースにβ-1,3-グルカン合成酵素を作用させる。
これにより、UDP−グルコースから、β-1,3-グルカン合成酵素によってβ-1,3-グルカンが生成される。
また、本実施形態のβ-1,3-グルカンの製造方法では、UDP−グルコース懸濁液に、本実施形態のユーグレナ属由来のβ-1,3-グルカン合成酵素と共に、海藻などの藻類や、キノコなどの菌類、植物などに由来するβ-1,3-グルカン合成酵素を添加してもよい。
また、β-1,3-グルカン合成酵素と共に添加する酵素は、これらに限定されるものでなく、他のβ-1,3-グルカンなどの酵素であってもよい。
(パラミロンの製造方法)
また、本実施形態には、ウリジン二リン酸グルコース(uridine diphosphate(UDP)−グルコース)に、パラミロン合成酵素を作用させることにより、パラミロンを生成させるパラミロンの製造方法も含まれる。
本実施形態のパラミロンの製造方法では、UDP−グルコースを水又はリン酸バッファー等の緩衝バッファーに懸濁して得た懸濁液に、本実施形態に係るユーグレナ属由来のパラミロン合成酵素を添加し、pH7〜9、温度20〜30℃で、15分〜20時間インキュベートすることにより、UDP−グルコースにパラミロン合成酵素を作用させる。
これにより、UDP−グルコースから、パラミロン合成酵素によってパラミロンが生成される。
また、本実施形態のパラミロンの製造方法では、UDP−グルコース懸濁液に、本実施形態のユーグレナ属由来のパラミロン合成酵素と共に、海藻などの藻類や、キノコなどの菌類、植物などに由来するβ-1,3-グルカン合成酵素を添加してもよい。
また、パラミロン合成酵素と共に添加する酵素は、これらに限定されるものでなく、他のパラミロン合成酵素などの酵素であってもよい。
(ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法)
また、本実施形態には、ユーグレナにおけるβ-1,3-グルカン合成酵素の発現量を増加させることでβ-1,3-グルカン含有量、つまりパラミロン含有量を増加させる方法も含まれる。
本実施形態のユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法では、ユーグレナにおける下記(a)又は(b)の何れかのアミノ酸配列からなるβ-1,3-グルカン合成酵素の発現量を増加させるβ-1,3-グルカン合成酵素発現量制御工程を行うことを特徴とする。
(a)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列;
(b)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であって、β-1,3-グルカン合成活性を有するアミノ酸配列
β-1,3-グルカン合成酵素発現量制御工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程を含むものであり、例えば、培地の種類や、培地に含まれる成分の構成比、培養液のpH、培養温度、培養期間、培養液への光照射などの条件を適宜調整することで、培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整すればよい。
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験1 ユーグレナのトランスクリプトーム解析>
ユーグレナのワックスエステル生産は嫌気状態で進むため、本試験では、嫌気状態の際に発現量が変化する遺伝子を探すことにより、ワックスエステル生産に関与する遺伝子で、環境による発現制御を受けるものを同定することを目的とした。
具体的には、E. gracilis Z株のトランスクリプトームを好気状態、及び嫌気状態で比較することにより、嫌気状態の際に発現量が変化する遺伝子を探索した。
(試験1の結果及び考察)
パラミロンおよびワックスエステルはそれぞれ、好気性および嫌気性条件下でのE. gracilisにおける貯蔵化合物である。パラミロンは、UDP−グルコースからパラミロンシンターゼ(β-1,3-グルカンシンターゼまたはカロースシンターゼ)により合成される。他のβ-1,3-グルカンシンターゼとの類似性に基づいて、2つの遺伝子配列、comp36539_c1_seq4(配列番号5)およびcomp36157_c0_seq1(配列番号3)がパラミロンの合成に関与すると考えられた。両方の遺伝子配列のFPKM値を比較すると、comp36157_c0_seq1(配列番号3)の方がcomp36539_c1_seq4(配列番号5)よりも発現量が高いため、パラミロン合成に関与している可能性が高いと考えられる。
以前の研究では、グルカナーゼとホスホリラーゼが両方ともパラミロンの分解に関与していると報告されている。7つの遺伝子配列がβ-1,3-グルカナーゼとしてアノテーションされた。これらのうちの3つは、ユーグレナ抽出物から最近精製され、エンド型グルカナーゼとして同定された。一方、我々のアセンブリデータベースには、1,3-β-D-グルカンホスホリラーゼと有意な類似性を有する成分は見出されなかった。
<試験2 パラミロン合成酵素遺伝子のノックダウン試験>
試験1のE. gracilis Z株のトランスクリプトーム解析結果から、β-1,3-グルカンシンターゼと一部分が類似している二つのコンポーネント(comp36539_c1_seq4(配列番号5)及びcomp36157_c0_seq1(配列番号3))がパラミロン合成酵素であることが予測された。
本試験では、完全長配列comp52518_c0_seq1(配列番号1)及び部分配列comp36539_c1_seq4(配列番号5)をEgGSL1(E. gracilis Glucan Synthase Like 1)遺伝子と呼び、comp36157_c0_seq1(配列番号3)をEgGSL2(E. gracilis Glucan Synthase Like 2)遺伝子と呼ぶ。
本試験ではパラミロン生合成に寄与する遺伝子を分子レベルで同定するために、EgGSL1とEgGSL2のコンピューターシミュレーションによる機能予測を行い、ユーグレナ細胞のパラミロン生合成におけるEgGSL1遺伝子とEgGSL2遺伝子のノックダウンの影響を評価した。
(細胞および培養条件)
E. gracilis Z株は、従属栄養成長のためにKoren-Hutner(KH)培地中で培養され、独立栄養成長のためにCramer-Myers(CM)培地中、26℃、連続光下(100μmol・m-2・s-1))、120rpmで回転振盪して培養した。ストレプトマイシン漂白されたE. gracilis Z由来の変異体であるE. gracilis SM-ZK株を、KH培地中、Z株の培養条件と同じ条件で成長させた。細胞数は、電界マルチチャネル細胞計数システム(CASY、Roche Diagnostics、Tokyo、Japan)を用いて計数した。
(ノックダウン(KD)系の用意)
二本鎖RNA(dsRNA)によるGSL遺伝子のサイレンシングは、以前の報告に従って行われた(S. Tamaki et al., "Biochemical and physiological analyses of NADPH-dependent thioredoxin reductase isozymes in Euglena gracilis", Plant Sci., vol.236, pp.29-36 (2015)、S. Tamaki et al., "Identification and functional analysis of peroxiredoxin isoforms in Euglena gracilis", Biosci. Biotechnol. Biochem., vol.78, pp.593-601 (2014))。鋳型DNAを、以下の表1に示すT7 RNAポリメラーゼプロモーターを含むプライマーで増幅した:GSL1-dsRNA-1のためのGSL1-RNAi-F1(配列番号6)およびGSL1-RNAi-R1(配列番号7)、GSL1-dsRNA-2のためのGSL1-RNAi-F2(配列番号8)およびGSL1-RNAi-R2(配列番号9)、GSL1-dsRNA-3のためのGSL1-RNAi-F3(配列番号10)およびGSL1-RNAi-R3(配列番号11)、GSL2-dsRNA-1のためのGSL2-RNAi-F1(配列番号12)およびGSL2-RNAi-R1(配列番号13)、GSL2-dsRNA-2のためのGSL2-RNAi-F2(配列番号14)およびGSL2-RNAi-R2(配列番号15)、GSL2-dsRNA-3のためのGSL2-RNAi-F3(配列番号16)およびGSL2-RNAi-R3(配列番号17)。dsRNAは、MEGAscript(登録商標)RNAiキット(Thermo Fisher Scientific、Kanagawa、Japan)を用いて、製造者の指示に従って、鋳型DNAから合成した。
次に、ユーグレナ細胞をKH培地(Koren−Hutner培地)で2日間培養した培養物から、またはCM培地(Cramer−Myers培地)で3日間培養した培養物から、1×106個の細胞を回収した。収集した細胞は、それぞれのdsRNAを15μg含む100μLの培地に懸濁され、NEPA21エレクトロポレーター(Nepa Gene、Chiba、日本)を用いてエレクトロポレーションが行われた。
GSL遺伝子のサイレンシングを確実にするために、2種類のdsRNAを、これらの細胞に導入した:GSL1-KD_1およびGSL1-KD_2は、それぞれ、GSL1-dsRNA-1およびGSL1-dsRNA-2のdsRNAの組み合わせ、および、GSL1-dsRNA-1およびGSL1-dsRNA-3のdsRNAの組み合わせにより導入された。GSL2-KD_1およびGSL2-KD_2は、それぞれ、GSL2-dsRNA-1およびGSL2-dsRNA-2のdsRNAの組み合わせ、および、GSL2-dsRNA-1およびGSL2-dsRNA-3のdsRNAの組み合わせにより導入された。dsRNAに曝露された細胞を、新しい培地中で培養した。
(半定量的RT-PCR分析)
GSL遺伝子のノックダウンを確認するために、従来の報告に従ってdsRNA導入の6日後(DAI)にユーグレナ細胞から全RNAを単離した(S. Tamaki et al., "Identification and functional analysis of peroxiredoxin isoforms in Euglena gracilis", Biosci. Biotechnol. Biochem., vol.78, pp.593-601 (2014))。PCRは、以下の表2に示すプライマーを用い、30サイクル(GSL1遺伝子およびGSL2遺伝子)または25サイクル(EgEF1α遺伝子)行った:GSL1-sqPCR-F(配列番号18)、GSL1-sqPCR-R(配列番号19)、GSL2-sqPCR-F(配列番号20)、およびGSL2-sqPCR-R(配列番号21)。EgEF1α遺伝子は、以前に報告されたプライマーを用いて、コントロールとして増幅した(S. Tamaki et al., Plant Sci., vol.236, pp.29-36 (2015))。
(パラミロンの抽出と検出)
ユーグレナ細胞からパラミロンを、以前に記載された方法を用いて抽出した(27,29)。細胞は5800gで5分間遠心分離して収集した。細胞は凍結され、凍結乾燥器により乾燥された。乾燥した細胞はアセトン中で2回超音波処理して脱脂した。脱脂細胞からタンパク質を除去するために、細胞が1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に懸濁し、100℃の水浴中に30分間置いた。パラミロンは5800gで5分間遠心分離して回収し、0.1%(w/v)のSDSでリンスした。そのフラクションを、純水で洗浄し、そして、パラミロンを0.5N NaOHに溶解した。パラミロンの存在を、グルコース溶液を標準として用いたフェノール硫酸法により確認した。
(クロロフィルの抽出と定量)
1mLの培養物から採取された細胞を、1mLの80%(v/v)アセトン中でボルテックスした。10000gで5分間遠心分離した後、上清を用いてクロロフィルIIの存在を確認した。上清中のクロロフィルIIをArnonらの報告に従って測定した(I. D. Arnon et al., "Copper enzymes in isolated chloroplasts. Polyphenoloxidase in Beta Vulgaris", Plant Physiol., vol.24, pp.1-15 (1949))。
(ユーグレナ細胞からの酵素調製)
酵素調製のために、Marechalらの方法(R. L. Marechalet al., "Uridine diphosphate glucose-beta-1,3-glucan beta-3-glucosyltransferase from Euglena gracilis", J. Biol. Chem., vol.239, pp.3163-3167 (1964))が変更された。まず、E.gracilis Z株がKH培地を用いた従属栄養条件下、暗所で増殖された。採取した細胞を、破壊緩衝液(20mMトリス-HCl [pH7.4]、1mM Pefabloc SC、および0.04% [v/v] 2-メルカプトエタノール)に懸濁し、1気圧下でBioNeb(登録商標)破壊システム(Glas-Col LLC、IN、USA)を用いて4回破壊した。ホモジネートを上清に分離し、5分間2000gで遠心分離して沈殿させた。沈殿物を破壊緩衝液で2回洗浄した。沈殿は超純水に懸濁され、以後、パラミロン(PM)画分として使用された。上清および洗浄液は、100000gで1時間、超遠心分離した。沈殿物はスプーンで回収され、1.5mLの試験管中、超純水で均質化された。このホモジネートを全膜(TM)画分として用いた。TM画分およびPM画分中のタンパク質濃度は、2%(w/v)SDS溶液中、Pierce(登録商標)BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて決定された。塩およびデオキシコレートを用いてTM画分およびPM画分からのタンパク質を可溶化した後、界面活性剤混合物が、20100gで30分間(TM)、または、2000gで5分間(PM)遠心分離された。各上清は、透析緩衝液(10mMリン酸ナトリウム緩衝液[pH7.4]、1mM EDTA [pH8.0])に対して40時間透析された。透析液は採取され、TM画分およびPM画分からの酵素溶液として使用された。2つの異なる画分からの酵素溶液中のタンパク質濃度が、Pierce(登録商標)BCA Protein Assay Litで決定された。
(放射性UDP−グルコースの取り込み活性アッセイ)
UDP−[14C]グルコースの取り込み活性アッセイを、以前に報告された方法(D. Baumer et al., "Isolation and characterization of paramylon synthase from Euglena gracilis (Euglenophyceae)", J. Phycol., vol.37, pp.38-46, (2001))を修正した方法に従って行った。以下成分を含む反応混合物が最終体積70μLで調製された:16.8mM トリス−アセテート(pH8)、1mM CaCl2、1μM UDP−グルコース[14C(U)](0.1mCi・mL-1; American Radiolabeled Chemicals、MO、USA)、10μ cold-UDP−グルコース、プライマーとしてのラミナリン5mg・mL-1、50μLの酵素溶液と、遠心分離によって細胞ホモジネートから分離された上澄(Sup)、なおこの上澄(Sup)は、0.01mg(PM)、0.05mg(TM)、または0.1mg(Sup)のタンパク質を含んでいた。インキュベーションを25℃で15分間行い、混合物を5%(w/v)TCAに加え、1分間煮沸して酵素反応を停止させた。放射性ポリマーは、70%(v/v)エタノールで4回洗浄した。洗浄したポリマーを0.5mLのエタノールおよび2.5mLのClear-sol I(Nacalai Tesque、Kyoto、Japan)に懸濁した。懸濁液中の放射能は液体シンチレーションカウンターLS6000TA(Beckman Coulter、CA、USA)で測定した。
(β-1,3-グルカンの蛍光アッセイ)
蛍光アッセイにおける評価のためのUDP−グルコース取り込み活性アッセイの生成物を調製するために、放射性UDP−グルコースを含まない反応混合物を、前述の方法よりも、高濃度のcold-UDP−グルコース(1mM)および酵素溶液(0.05mgタンパク質)、低濃度のラミナリン(1mg・mL-1)で調製した。混合物を後25℃で30分間インキュベートした後、不溶性の沈殿物を2000gで30分間遠心分離して回収した。サンプルを500μLの超純水で3回洗浄した。アニリンブルーを用いた不溶性沈殿物の蛍光アッセイは、以前の報告された方法(E. Shedletzky et al., "A microtiter-based fluorescence assay for (1,3)-beta-glucan synthases", Anal. Biochem., vol.249, pp.88-93 (1997))に幾つかの変更を加えて行われた。沈殿物を60μLの1N NaOHに懸濁し、80℃で30分間加熱し、産生されたグルカンを可溶化した。
次に、210μLのアニリンブルー混合物(40容量の水中の0.1%[w/v]アニリンブルー、21体積の1N HCl、および59容量の1Mグリシン/NaOH緩衝液[pH9.5])を沈殿物溶液に添加し、50℃で30分間加熱してアニリンブルーとグルカンを結合させた。室温で冷却した後、200μLの反応溶液をNunc(登録商標)F96 MicroWell(登録商標)黒色ポリスチレンプレート(Thermo Fisher Scientific)に移動した。コロナグレーティングマイクロプレートリーダーSH-9000Lab(Hitachi High-Tech Science, Tokyo, Japan)を用いて、励起波長400nm、12半値幅、発光波長500nmでアニリンブルーの蛍光が定量された。
(E. gracilisにおけるEgGSL1遺伝子およびEgGSL2遺伝子の発現レベルの評価)
KH培地を用いた従属栄養条件下、RNAiso(Takara、Japan)を用いて7日間増殖させたユーグレナ細胞から全RNAを抽出した。cDNAプールは、取扱説明書に従ってSuperScript II(Life Technologies)を用いて0.5mgの全RNAから調製した。以下の表3に示すプライマーセットを用いて定量的PCR分析を行った。EgGSL1遺伝子に対しては、GSL1_q-PCR_F(配列番号22)およびGSL1_q-PCR_R(配列番号23)を用い、EgGSL2遺伝子についてはGSL2_q-PCR_F(配列番号24)およびGSL2_q-PCR_R(配列番号25)を用い、E. gracilisリンゴ酸シンターゼついてはEgMS_q-PCR_F(配列番号26)およびEgMS_q-PCR_R(配列番号27)を用いて定量的PCR分析を行った。EgGSL1遺伝子およびEgGSL2遺伝子の相対発現レベルは、リンゴ酸シンターゼ遺伝子を用いて正規化した。
(試験2の結果及び考察)
(EgGSL1遺伝子とEgGSL2遺伝子は特有なドメイン構造を持った新規のb-1,3-グルカン合成酵素をコードしている)
ユーグレナにおいて遺伝子の転写物であるRNAにはspliced (or short)-leader (SL) 配列と呼ばれる典型的なsmall RNAがトランススプライシングによって5'末端に付与される。二つの候補配列の内の一つであるcomp36539_c1_seq4(配列番号5)は、そのSL配列を欠いていることから部分配列であることが予想された。そこで再検索によってSL配列を含むcomp36539の完全長配列comp52518_c0_seq1(配列番号1)を見いだした。EgGSL1遺伝子(配列番号1)とEgGSL2遺伝子(配列番号3)のコード領域の長さはそれぞれ8082bpと6765bpであり、304kDaと258kDaの予想分子量を示す2693と2254アミノ酸のタンパク質をそれぞれコードしていた。EgGSL1遺伝子(配列番号1)とEgGSL2遺伝子(配列番号3)のアミノ酸配列は低い相同性(10.6%)を示し、それぞれ個別のタンパク質をコードしていることが示唆された。BLASTXプログラム検索結果はEgGSL1(配列番号2)とEgGSL2(配列番号4)が、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のカロース(CalS)合成酵素ファミリーのメンバーであるCalS12やCalS7と相同であることを示唆した。しかしながら、EgGSL1(配列番号2)とEgGSL2(配列番号4)はいずれのシロイヌナズナCalSファミリータンパク質とも低い相同性を示した(EgGSL1 vs AtCalS12:6.3%、EgGSL2 vs AtCalS7:12.4%)。そして、それらは真菌や植物の既知のGSと異なるクレードに属していた(図1)。
InterProデータベースを用いたドメイン検索により、EgGSL1及びEgGSL2はGT48ドメイン(IPR003440)を持つことが示された(図2)。このドメインは真菌や植物のGSに高度に保存されており、UDP−グルコースからβ-1,3-グルカンへのグルコースの重合反応に関わると考えられている。出芽酵母Fks1PのN末端には1,3-beta-glucan synthase subunit FKS1 domain-1(FKS1_dom1:IPR026899)が存在する。このドメインは出芽酵母において生体内でのFks1pのグルカン合成活性に関与していることが知られている。しかしながら、両EgGSLのN末端領域には、FKS1_dom1ではなく、グルコシド結合を加水分解する酵素に広く保存されているglycoside hydrolase(GH)触媒ドメイン(IPR013781)を含むことが予想された。EgGSL2のみにおいてN末端に分泌経路へ導くシグナルペプチドを持つことが予測された。
ハイドロパシー解析から、両EgGSLはそれぞれ15と19のTMHをもつ複数回膜貫通タンパク質であることが示された。これらのTMHは中央の親水性ループによって二つのクラスターに分けられており、既知の真核生物型GSの典型的なトポロジーと一致していた(図3、図4)。既知の真核生物型GSと同様に、GT48ドメインを含むEgGSL2の中央ループは細胞質側に面していた(図4)。EgGSL2の中央ループはGT48ドメインを含んでいたが、既知の真核生物型GSと異なり非細胞質側に面すると予想された。EgGSL1とEgGSL2のGH触媒ドメインはそれぞれ第一ループとN末端のペプチドに局在し、非細胞質側に露出していた。
D,D,DとQXXRWモチーフは細菌や植物のセルロース合成酵素で高度に保存されているが、それらはAgrobacterium sp.のカードラン合成酵素にもみられる。既知の真核生物型GSと同様に、EgGSL2はそのモチーフを持っていなかった。対して、EgGSL1は1番目及び598番目のアミノ酸にQQVRW配列を持っていたが、D,D,Dモチーフは同定できなかった。真菌のGSにおいてUDP−グルコースと考えられているもう一つのコンセンサス配列であるRXTGはEgGSL1とEgGSL2にそれぞれ二ヶ所と一ヶ所に見いだされた。しかしながら、真菌のGSとは異なり、非細胞質側に露出することが予想された。これらの発見はEgGSL1とEgGSL2はタンパク質一次構造の点では細菌や真菌のGSよりも植物のGSと類似していることが示された。まとめると、両EgGSLは特有なドメイン構造を持った新規の真核生物型GSであると推定された。
(EgGSL1ではなく、EgGSL2がパラミロン蓄積に必要である)
パラミロン合成における両EgGSL遺伝子の役割を調べるために、ユーグレナ細胞におけるそれぞれのEgGSL遺伝子のdsRNAを介した遺伝子サイレンス実験を行った。この試験では野生型Z株よりも多くのパラミロンを蓄積する葉緑体欠損株であるSM-ZKを用いた。このことによってパラミロン合成能の評価が明確になる。我々は細胞内に導入されたdsRNAが目的EgGSLのmRNA発現を効果的に抑制できたかを確認した(図5)。モックコントロールとそれぞれのノックダウン(KD)株からパラミロンを抽出・定量した。モックコントロールやEgGSL1遺伝子(配列番号1)をノックダウンした株であるKD-gsl1株ではパラミロン蓄積量に差異はなかった。対して、EgGSL2遺伝子(配列番号3)をノックダウンした株であるKD-gsl2株ではパラミロン蓄積量に著しい減少が見られた(図6)。顕微鏡観察の結果、モックコントロールやKD-gsl1の細胞はパラミロン顆粒で満たされていたが、KD-gsl2の細胞は大小さまざまなパラミロン顆粒を含んでいた(図7)。モックコントロールやKD株の生育も調べた結果、KD-gsl1は細胞成長に影響を示さなかったが、KD-gsl2は生育遅延を示し、定常期に入る時間がモックコントロールやKD-gsl1株よりも一日遅れた(図8)。
次に、野生型Z株で同様の実験を行った。dsRNA導入後、細胞を光独立条件と光従属条件下で培養した(図9、図11、図12、図14)。両条件下においても、KD-gsl1株ではなく、KD-gsl2株でパラミロン蓄積量の著しい減少が示された。これらの結果はEgGSL2(配列番号4)のみがパラミロン合成に必要であることを示した。加えて、光従属条件下でKD-gsl2はクロロフィル蓄積に遅延を示した(図10)。このことはパラミロン分解から得られた炭素源が葉緑体発達に利用されることを示した以前の報告によって説明されるかもしれない。SM-ZK株の場合と比較して、野生型バックグラウンドのKD-gsl2は生育遅延を示さなかった(図13、図15)。興味深いことに、従属条件ではKD-gsl1株の細胞生育やクロロフィル蓄積がモックコントロールやKD-gsl2株よりも早かった(図10、図13)。このことから、EgGSL1(配列番号2)は生育や葉緑体発達の制御に関わっていると予想されたが、この酵素の正確な機能は未知である。
(EgGSL2はパラミロン合成に関与している)
モックコントロールとKD-gsl2株におけるβ-1,3-グルカン合成の内在活性を評価した。MarechalとGoldembergによる方法を基に全膜画分とパラミロン画分から粗膜タンパク質を抽出した。そして、これら酵素をUDP−グルコース取り込み実験に用いた。モックコントロールにおいてUDP−グルコース取り込みは全膜画分と較べてパラミロン画分において高レベルに検出された(図16、図17)。このことはUDP−グルコースの取り込みは主にパラミロン画分で起こることを示した。この取り込み活性はEgGSL2遺伝子(配列番号3)のKDによってほぼ完全に抑制された(図17)。
UDP−グルコース取り込み実験の生成物がβ-1,3-グルカンであるかを調べるために、我々はアニリンブルーを用いた。アニリンブルーはβ-1,3-グルカンに優先的に結合し強い蛍光を放つ複合体を形成する。強い蛍光はモックコントロールタンパク質から合成された生成物で検出されたが、KD-gsl2においてはその蛍光は約10%まで減少した(図18)。このことはUDP−グルコース取り込み実験の生成物がβ-1,3-グルカンであることを示した。我々の発見はEgGSL2がパラミロン会合膜におけるUDP−グルコースからβ-1,3-グルカンを生み出す主な酵素であることを示した。EgGSL2遺伝子(配列番号3)の発現レベルはEgGSL1遺伝子(配列番号1)の発現レベルよりも高かった(図19)。このこともEgGSL2(配列番号4)がパラミロン生合成を司る支配的な酵素であることを支持した。
UDP−グルコース取り込み実験の生成物は綿状沈殿物として現れた。走査型電子顕微鏡観察によって、その生成物は様々な大きさの球状顆粒の集合体であることが示された(図20)。パラミロンは均一な大きさで円盤状の顆粒であるが、これらの顆粒はパラミロンの典型的な形とは異なっていた。このことは、パラミロン画分から抽出されたタンパク質を用いた試験管内合成では不十分であることを示し、何らかの未知の因子が生体内での成熟したパラミロン分子の形成に不可欠であることを示した。
パラミロン合成酵素は分子量670kDaのタンパク質複合体であることが報告されている。そして、この複合体は37kDaと54kDaの二つのUDP−グルコース結合サブユニットを含む。同様に、真核生物型GSはいくつかのサブユニットから成るタンパク質複合体を形成する。この複合体の中でGSタンパク質は触媒サブユニットとして機能している。EgGSL2(配列番号4)はユーグレナ細胞におけるパラミロン合成酵素複合体の触媒サブユニットであるかもしれない。さらに、UDP−グルコース結合コンセンサス配列はEgGSL2の一次配列上に一ヶ所見出された。しかしながら、真菌のGSと異なり、その配列は細胞質に面するペプチド鎖には局在していなかった(図4)。このことからこの配列はUDP−グルコース結合能を有していないことが示唆された。植物のGSの一つであるAtCalS1はそのコンセンサス配列を持たない。AtCalS1の作用機序の場合、AtUGT1がUDP−グルコースと結合しAtCalS1へ転移させていると考えられている。ユーグレナパラミロン合成酵素複合体の二つの未知のサブユニットは同じ機能を果たすかもしれない。このことから、シロイヌナズナCalSの機能と似た機能分担メカニズムがE. gracilisにおいても存在すると推定された。したがって、本試験におけるパラミロン生産の主要な酵素としてのEgGSL2の同定はE. gracilisにおけるパラミロン生合成の全体のメカニズムを明らかにする優れた糸口になるであろう。
以上、本試験の結果かから、EgGSL1遺伝子(配列番号1)ではなく、EgGSL2遺伝子(配列番号3)のノックダウンがユーグレナ細胞においてパラミロン蓄積を顕著に阻害した。加えて、β-1,3-グルカン合成能はユーグレナ細胞から抽出されたパラミロン会合膜画分において検出された。EgGSL2(配列番号4)がパラミロン生合成における支配的な酵素であることが示された。
<試験3 EgGSL2の発現量とパラミロン含量の相関についての検討>
本試験では、試験2においてユーグレナのパラミロン合成酵素のサブユニットであることが示されたEgGSL2(配列番号4)の発現量と、ユーグレナに含有されるパラミロン量の相関について検討を行った。
具体的には、単位体積当たりのユーグレナ細胞数(ユーグレナ細胞濃度)を変化させた場合に、ユーグレナ細胞に含まれるパラミロンの含有率、及びEgGSL2遺伝子(配列番号3)の相対発現量(EgGSL2の発現量)がどのように変化するのかを検討した。また、ユーグレナ細胞に含まれる炭水化物の含有率とEgGSL2遺伝子の相対発現量(EgGSL2の発現量)の関係を検討した。
(ユーグレナの培養)
5本の試験管(各50mL)にKoren−Hutner培地(KH培地,アルギニン塩酸塩:0.5g/L,アスパラギン酸:0.3g/L,グルコース:12g/L,グルタミン酸:4g/L,グリシン0.3g/L,ヒスチジン塩酸塩0.05g/L,リンゴ酸:6.5g/L,クエン酸3Na:0.5g/L,コハク酸2Na:0.1g/L,(NHSO:0.5g/L,NHHCO:0.25g/L,KHPO:0.25g/L,MgCO:0.6g/L,CaCO:0.12g/L,EDTA−Na:50mg/L,FeSO(NHSO・6HO:50mg/L,MnSO・HO:18mg/L,ZnSO・7HO:25mg/L,(NHMo24・4HO:4mg/L,CuSO:1.2mg/L,NHVO:0.5mg/L,CoSO・7HO:0.5mg/L,HBO:0.6mg/L,NiSO・6HO:0.5mg/L,ビタミンB:2.5mg/L,ビタミンB12:0.005mg/L(pH3.5))を添加し、空気曝気培養にてE.gracilis Z株の培養を行った。光量は〜100μmol/msとした。培養液に含まれるユーグレナ細胞の濃度が異なる4つの試料を用意した。各試料でユーグレナ藻体を1ml×2ずつRNA抽出用に回収し、残りをパラミロン定量用に全量回収した。回収した試料から、それぞれ遠心分離により上清を除き、凍結した。パラミロン定量用に回収した試料は更に凍結乾燥した。
(リアルタイムPCR)
RNA抽出用の試料からRNA抽出試薬(株式会社ニッポンジーン製、Isogen)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNAを1μg利用して逆転写を行い、10倍に希釈した反応液をテンプレートとし、リアルタイムPCRを実施した。EgGSL2遺伝子発現量を、g-tublin遺伝子の発現量を用いて規格化した。
使用したプライマーを以下の表4に示す。
(パラミロンの定量)
回収したユーグレナの凍結乾燥粉末からパラミロンを抽出し、フェノール硫酸法にてパラミロンの定量を行った。また、最初の乾燥藻体重量と比較して炭水化物含有率を決定した。
(試験3の結果及び考察)
図21は、培養液中のユーグレナ細胞濃度と、ユーグレナ細胞に含まれるパラミロンの含量率の関係を示すグラフである。細胞濃度が薄い場合に、細胞濃度が濃い場合よりもパラミロン含有率が多くなることがわかった。
図22は、培養液中のユーグレナ細胞濃度と、ユーグレナ細胞におけるEgGSL2遺伝子相対発現量の関係を示すグラフである。細胞濃度が薄い場合に、細胞濃度が濃い場合よりもEgGSL2遺伝子発現量、つまりパラミロン合成酵素のサブユニットであるEgGSL2の発現量が多くなることがわかった。
図23は、ユーグレナ細胞におけるEgGSL2遺伝子相対発現量と、ユーグレナ細胞に含まれる炭水化物含有率の関係を示すグラフである。EgGSL2遺伝子発現量と炭水化物含有率には正の相関があることがわかった。
以上の結果から、ユーグレナ細胞におけるEgGSL2発現量をコントロールすることで、ユーグレナ細胞に含まれるパラミロン含有量をコントロールできることができることがわかった。より詳細には、ユーグレナ細胞におけるEgGSL2発現量を増やすことで、ユーグレナ細胞に含まれるパラミロン含有量を増加させることができることがわかった。ユーグレナ細胞におけるEgGSL2発現量を増やすためには、例えば、培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整すればよい。

Claims (4)

  1. ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法であって、
    ユーグレナにおけるパラミロン合成酵素の発現量を増加させるパラミロン合成酵素発現量制御工程を行い、
    前記パラミロン合成酵素発現量制御工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程を含むことを特徴とするユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法。
  2. 前記パラミロン合成酵素発現量制御工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を薄くするように調整する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法。
  3. ユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法であって、
    培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程を含むことを特徴とするユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法。
  4. 前記培養液中のユーグレナ細胞濃度を調整する工程は、培養液中のユーグレナ細胞濃度を薄くするように調整する工程を含むことを特徴とする請求項3に記載のユーグレナのパラミロン含有量を増加させる方法。
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