図1は本発明にかかる基板洗浄装置の第1実施形態を示す図である。また、図2は図1に示す装置の部分平面図である。この基板洗浄装置1は、基板Wの表面Wfを上方に向けたフェイスアップ状態で基板Wを保持しながら液体に超音波を印加した超音波印加液によって半導体ウエハ等の基板Wの裏面Wbに付着しているパーティクルなどの不要物を除去する装置である。より具体的には、上記液体としてDIW(脱イオン水:De Ionized Water)を用いるとともに、DIWに対して超音波を断続的に印加したパルス状超音波印加液を基板Wの裏面Wbに対して供給して裏面洗浄処理を施した後、DIWで濡れた基板Wをスピン乾燥させる装置である。なお、この実施形態では、基板Wの表面Wfにはpoly−Si等からなるデバイスパターンが形成されているという前提で以下に本実施形態の構成および動作について説明を行う。
基板洗浄装置1は、基板Wの表面Wfを上方に向けた状態で基板Wを略水平姿勢に保持して回転させるスピンチャック10を備えている。スピンチャック10は、回転支軸11がモータを含むチャック回転機構31の回転支軸に連結されており、チャック回転機構31の駆動により回転軸J(鉛直軸)回りに回転可能となっている。回転支軸11の上端部には、円盤状のスピンベース12が一体的にネジなどの締結部品によって連結されている。したがって、装置全体を制御する制御ユニット30からの動作指令に応じてチャック回転機構31が作動することによりスピンベース12が回転軸J回りに回転する。また、制御ユニット30はチャック回転機構31を制御して回転数を調整する。
スピンベース12の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン13が立設されている。チャックピン13は、円形の基板Wを確実に保持するために複数個設けてあればよく、スピンベース12の周縁部に沿って基板Wの回転中心(回転軸J)に対して等角度間隔で配置されている。なお、本実施形態では、図2に示すように、3つのチャックピン13が設けられている。
チャックピン13のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。各チャックピン13は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
スピンベース12に対して基板Wが受渡しされる際には、複数個のチャックピン13を解放状態とし、基板Wに対して洗浄処理を行う際には、複数個のチャックピン13を押圧状態とする。押圧状態とすることによって、複数個のチャックピン13は基板Wの周縁部を把持してその基板Wをスピンベース12から所定間隔を隔てた上方位置で略水平姿勢に保持することができる。これにより、基板Wはその表面(パターン形成面)Wfを上方に向け、裏面Wbを下方に向けた状態、つまりフェイスアップ状態で支持される。
このように基板Wを保持したスピンチャック10をチャック回転機構31により回転駆動することで基板Wを所定の回転数で回転させながら、基板Wの下方側から基板Wの裏面Wbの中央部、基板Wの外側からスピンベース12と基板Wとの間を介して基板Wの裏面Wbの周縁部、および基板Wの上方側から基板Wの表面Wfの中央部にDIWが供給されて洗浄処理が実行される。
本実施形態では、回転支軸11は中空形状に仕上げられており、その中空部分にDIW供給管14が挿通されている。このDIW供給管14はスピンベース12の上面まで延び、その端面が基板Wの裏面Wbの中央部を臨んでいる。つまり、DIW供給管14の上端部がノズル口141として機能する。一方、DIW供給管14の下端部はバルブ41およびガス濃度調整機構42を介してDIW供給源に配管接続される。このDIW供給源としては、基板洗浄装置1が設置される工場に装備される用力を用いてもよい。もちろん、基板洗浄装置1内にDIWの貯留タンクを設け、これをDIW供給源として用いてもよい。
ガス濃度調整機構42は、DIW供給源から供給されるDIWに窒素ガスを溶解させてDIW中のガス濃度を飽和レベル程度にまで高め、これによってガスリッチなDIWを作成する機能を有している。具体的な構成としては例えば特開2004−79990号公報に記載されたものを用いることができる。このようにDIWでの溶存ガス濃度を増大させると、DIWへの超音波の印加によって気泡の発生と消滅、つまりキャビテーションが促進され、優れた洗浄効果が得られる。そこで、本実施形態では、上記洗浄効果を得るためにガスリッチなDIW(以下「キャビテーション促進液」という)を作成する。そして、バルブ制御機構32がバルブ41に開指令を与えると、バルブ41が開いてガス濃度調整機構42から圧送されるキャビテーション促進液がDIW供給管14に送り込まれる。これによって、キャビテーション促進液がDIW供給管14の上端部に設けられるノズル口141から基板Wの裏面中央部に向けて吐出される。一方、バルブ制御機構32からの閉指令に応じてバルブ41が閉じると、基板Wの裏面中央部へのキャビテーション促進液の供給が停止される。この実施形態では、後述するように基板Wを回転させたままキャビテーション促進液の吐出を行うが、これによって、基板Wの裏面Wbに供給されたキャビテーション促進液は遠心力により基板Wの周縁部に広がりキャビテーション促進液による液膜Lb(図5参照)が形成される。
また、ガス濃度調整機構42とバルブ41とを接続する配管の中間部では、別の配管が分岐し、図1に示すようにチャックピン13よりも外側(同図の左手側)に固定配置された超音波ノズル50側に延設され、その先端部は超音波ノズル50の導入口51に接続される。この分岐配管にバルブ43が介挿されている。このため、バルブ制御機構32がバルブ43に開指令を与えると、バルブ43が開いてガス濃度調整機構42から圧送されるキャビテーション促進液が超音波ノズル50に送り込まれ、吐出口52から基板Wの裏面Wbに沿わすように吐出される。この吐出されたキャビテーション促進液は基板Wの外側からスピンベース12と基板Wとの間を介して基板Wの裏面Wbの周縁部に供給される。一方、バルブ制御機構32からの閉指令に応じてバルブ43が閉じると、超音波ノズル50へのキャビテーション促進液の圧送が停止され、キャビテーション促進液の供給も停止される。
超音波ノズル50には振動子53が配置されてキャビテーション促進液に対して超音波振動を印加する。より詳しくは、振動子53は図1に示すように吐出口52から吐出されるキャビテーション促進液の吐出方向において吐出口52の反対側に配置されている。そして、制御ユニット30からの制御信号に基づき発振器60から発振信号が振動子53に出力されると、振動子53が超音波振動する。本実施形態では、発振器60は、一定周波数の信号を連続的に振動子53に与えるのではなく、図3に示すように一定時間(時間幅Ton)だけ振動子53を発振させるON信号と、一定時間(時間幅Toff)だけ振動子53の発振を停止するOFF信号を交互に切り替える発振信号を出力する。これによって、特許文献2に記載の発明と同様に超音波洗浄の能力を高めている。
さらに、基板Wの上方側から基板Wの表面Wfの中央部にDIWを供給する機能と、基板Wの表面側にガスを供給する機能とを達成するために、本実施形態は次のように構成されている。すなわち、基板表面の略中央部の上方には、流体噴射ヘッド70が設けられている。流体噴射ヘッド70の上部から2つの流体導入部711、721が立設されている。これらのうち流体導入部711は、外部の窒素ガス供給源から圧送されてくる窒素ガスと、DIW供給源から圧送されてくるDIWとを取り込む機能を有している。一方、流体導入部721は外部の窒素ガス供給源から圧送されてくる窒素ガスを取り込む機能のみを有している。より詳しくは、流体導入部711に対して、外部の窒素ガス供給源と接続されバルブ712を介挿してなる配管713が接続されるとともに、外部のDIW供給源と接続され脱ガス機構81およびバルブ82を介挿してなる配管714が接続されている。
また、流体導入部711の内部には、2本の供給路715、716が上下方向に延設されており、各供給路715、716の下方端が流体噴射ヘッド70の下面(基板Wの表面Wfと対向する面)で基板Wの略中央に向けて開口し、それぞれガス吐出口717およびDIW吐出口718として機能する。また、各供給路715、716の上方端はそれぞれ配管713、714に連通されている。このため、バルブ制御機構32がバルブ712に開指令を与えると、バルブ712が開いて窒素ガス供給源から供給される窒素ガスを流体噴射ヘッド70へ送り込む。また、バルブ制御機構32がバルブ82に開指令を与えると、バルブ82が開いて脱ガス機構81を経由したDIWを流体噴射ヘッド70へ送り込む。一方、バルブ制御機構32からの閉指令に応じてバルブ712、82が閉じると、窒素ガスおよびDIWの供給がそれぞれ停止される。
本実施形態では、上記したように脱ガス機構81が設けられているが、それはDIWから溶存ガスを取り去る、つまり脱ガス処理を施して流体噴射ヘッド70に送り込むDIW中の溶存ガス濃度を低下させるためであり、これによってDIW内でのキャビテーションの発生を抑制することができる。なお、ここでは、DIWに対して脱ガス処理を施してキャビテーション強度を低下させたものを「キャビテーション抑制液」と称し、その技術的意義については後で詳述する。
流体噴射ヘッド70に設けられた、もう一方の流体導入部721には、窒素ガス供給源と接続されバルブ722を介挿してなる配管723が接続されている。バルブ722は制御ユニット30により制御されたバルブ制御機構32によって開閉制御されており、必要に応じてバルブ722を開くことにより、窒素ガス供給源から供給される窒素ガスがガス供給路724を介して流体噴射ヘッド70の内部に形成されたバッファ空間BFに案内される。さらに、流体噴射ヘッド70の側面外周部には、バッファ空間BFに連通されたガス噴射口725が設けられている。
上記したように本実施形態では、2種類の窒素ガス供給系統を有している。そのうちの一方、つまり窒素ガス供給源、バルブ712、配管713および供給路715で構成される供給系統では、窒素ガス供給源から圧送される窒素ガスは、供給路715を通って流体噴射ヘッド70の下面に設けられたガス吐出口717から基板Wの表面中央部に向けて吐出される。
また、他方、つまり窒素ガス供給源、バルブ722、配管723およびガス供給路724で構成される供給系統では、窒素ガス供給源から圧送される窒素ガスは、流体噴射ヘッド70内に形成されたバッファ空間BFに送り込まれた後、ガス噴射口725を通って外部に向け噴射される。このとき、窒素ガスは略水平方向に延びるスリット状のガス噴射口725を通して押し出されるため、噴射された窒素ガスの広がりは、上下方向にはその範囲が規制される一方、水平方向(周方向)にはほぼ等方的となる。つまり、ガス噴射口725から窒素ガスが噴射されることにより、基板Wの上部には、その略中央部から周縁部に向かう薄層状の気流が形成される。特にこの実施形態では、圧送されてきたガスをいったんバッファ空間BFに案内し、そこからガス噴射口725を通して噴射しているので、周方向において均一な噴射量が得られる。また、加圧された窒素ガスが小さなギャップを通って噴出されることにより流速が速くなり、窒素ガスは周囲に向けて勢いよく噴射される。その結果、流体噴射ヘッド70の周囲から窒素ガス流が噴射され、基板Wの表面Wfに向け落下してくるゴミやミスト等および外部雰囲気を基板Wの表面Wfから遮断する。
このように構成された流体噴射ヘッド70は図示を省略するアームによってスピンベース12の上方に保持される一方、該アームは制御ユニット30により制御されるヘッド昇降機構33に接続されて昇降可能に構成されている。かかる構成により、スピンチャック10に保持される基板Wの表面Wfに対して流体噴射ヘッド70が所定の間隔(例えば2〜10mm程度)で対向位置決めされる。また、流体噴射ヘッド70、スピンチャック10、ヘッド昇降機構33およびチャック回転機構31は処理チャンバー(図示省略)内に収容されている。
また、図2に示すように、スピンチャック10の回転方向RDにおいて超音波ノズル50の上流側に角度θnp(<180゜)だけ離れた位置にセンサ80が配置されている。このセンサ80は、例えばチャックピン13と同じ高さ位置に固定配置された投光部と受光部を備え、チャックピン13で反射された反射光を受光することでチャックピン13を検出し、ピン検出信号を制御ユニット30に送る。なお、この実施形態では、投受光式のセンサを用いているが、それ以外のセンサ、例えば静電容量式のセンサを用いてチャックピン13を検出するように構成してもよい。
なお、図1中の符号34は、タッチパネルなどにより構成される表示操作部であり、制御ユニット30から与えられる画像情報を表示する表示部として機能と、ユーザが表示部に表示されたキーやボタンなどを操作して入力した情報を受け取り、制御ユニット30の送信する操作入力部として機能とを兼ね備えている。もちろん、表示部と操作入力部とを個別に設けてもよいことは言うまでもない。また、図1中の符号301は制御ユニット30に設けられた記憶部であり、洗浄処理を行うに際して予め設定される種々の条件、つまり処理条件や洗浄プログラム等を記憶する機能を有している。
次に、上記のように構成された装置の動作について図2ないし図5を参照しつつ説明する。図3は発振信号とピン検出信号とのタイミングを示す図である。また、図4は図1に示す基板洗浄装置の動作を示すフローチャートである。さらに、図5は図1に示す基板洗浄装置の動作を模式的に示す図である。
処理の開始前には、バルブ41、43、82、712、722はいずれも閉じられており、スピンチャック10は静止している。また、第1実施形態では、処理条件のひとつとして発振信号のON信号の時間幅TonおよびOFF信号の時間幅Toffが制御ユニット30の記憶部301に記憶されている。これは、ON信号とOFF信号を交互に切り替える発振信号を発振器60で発生させ、当該発振信号を振動子53に与えることで、キャビテーション促進液に対する超音波の印加と印加停止を交互に繰り返して洗浄能力の向上を図るためである。そして、超音波が断続的または間欠的に印加されたキャビテーション促進液による裏面洗浄処理を行う際には、制御ユニット30は記憶部301から上記時間幅Ton、Toffを読み出し、処理条件のひとつとして設定する(ステップS101)。
発振信号のON信号の時間幅TonおよびOFF信号の時間幅Toffが設定されると、制御ユニット30は時間幅Ton、Toffに対応するスピンチャック10の回転数(以下「適合回転数」という)を算出する(ステップS102)。この適合回転数とは、各チャックピン13が超音波ノズル50と対向している時間幅T13がOFF信号の時間幅Toff以下となるときのスピンチャック10の回転数を意味している。つまり、スピンチャック10を適合回転数で回転させる場合、例えば図2(a)に示すようにチャックピン13がセンサ80の検出位置に移動してくると、センサ80からピン検出信号が出力されるが、それからスピンチャック10が角度θnpだけ回転方向RDに回転移動すると、チャックピン13は図2(b)に示すように超音波ノズル50と対向し、時間幅T13かけて超音波ノズル50の吐出口52の前を通過する。ここで、超音波ノズル50の吐出口52からキャビテーション促進液(DIW)を吐出しながらスピンチャック10を回転移動させると、チャックピン13が超音波ノズル50と対向する毎に、キャビテーション促進液は時間幅T13の間だけチャックピン13を介して基板Wの裏面Wbに供給される。そこで、本実施形態では、後述するようにスピンチャック10の回転数制御と、ピン検出信号に対する発振信号の同期制御とを組み合わせることで、例えば図3に示すように、チャックピン13が超音波ノズル50と対向している時間幅T13の間、超音波ノズル50から吐出されたキャビテーション促進液に対しては発振器60から振動子53にOFF信号が与えられている。これによって、発振器60から振動子53にON信号が与えられ、超音波の印加を受けたキャビテーション促進液はチャックピン13を経由することなく直接基板Wの裏面Wbに供給される。
図4に戻って説明を続ける。上記のように適合回転数が求まり、裏面洗浄処理の開始準備が完了すると、基板搬送ロボット(図示省略)により1枚の基板Wがスピンチャック10に載置されチャックピン13により保持される(ステップS103:第1工程)。このとき、必要に応じてヘッド昇降機構33を作動させて流体噴射ヘッド70をスピンチャック10から上方の離間位置に移動させれば基板の搬入をよりスムーズに行うことができるが、基板と流体噴射ヘッド70との間に十分な距離が確保されていれば流体噴射ヘッド70の移動は不要である。後述する基板搬出時においても同様である。
次のステップS104ではスピンチャック10の回転を開始する(第2工程)。また、基板WへのDIW供給を開始する(ステップS105)。より詳しくは、バルブ41、43を開いてキャビテーション促進液をノズル口141および吐出口52から基板Wの裏面Wbに向けて吐出する。また、バルブ82を開いてキャビテーション抑制液をDIW吐出口718から基板Wの表面Wfに向けて吐出する。これによって、図5に示すように基板Wの表面Wf上にキャビテーション抑制液の液膜Lfが形成される。
そして、スピンチャック10の回転数がステップS102で算出された適合回転数に到達する(ステップS106で「YES」)と、ピン検出信号に同期して発振器60から発振信号を振動子53に出力する(ステップS107:第3工程)。例えば図3に示すようにチャックピン13がセンサ80によって検出されてピン検出信号が出力されるが、当該チャックピン13が超音波ノズル50の吐出口52を通過した時点から発振器60からON信号とOFF信号が交互に振動子53に出力され、超音波ノズル50内のキャビテーション促進液への超音波の断続的な印加が開始される。つまり、例えば図5(a)に示すようにチャックピン13が超音波ノズル50と対向するのに対応し、振動子53にはOFF信号が与えられ、超音波が印加されていないキャビテーション促進液が吐出口52から吐出され、当該キャビテーション促進液はチャックピン13を介して基板Wの裏面Wbに供給される。一方、チャックピン13が超音波ノズル50と対向していない間、振動子53にはON信号とOFF信号が交互に与えられ、超音波が断続的に印加されたキャビテーション促進液が吐出口52から吐出され、チャックピン13を経由せずに直接基板Wの裏面Wbに供給され、裏面Wbに付着するパーティクルを効果的に除去する。
このように超音波を断続的に印加したキャビテーション促進液による洗浄処理は処理条件で予め設定された時間だけ継続して行われ、ステップS108で当該設定時間の経過が確認されると、発振器60が発振信号の出力を停止し(ステップS109)、それに続いてバルブ41、43、82を閉じてキャビテーション促進液(DIW)およびキャビテーション抑制液(DIW)の供給を停止する(ステップS110)。
こうして洗浄処理が完了すると、基板Wの表面Wfおよび裏面Wbに残るDIWを除去する乾燥処理を行う。すなわち、基板Wを回転させたまま、バルブ722を開き、流体噴射ヘッド70の周囲に設けられたガス噴射口725から窒素ガスの噴射を開始する(ステップS111)。続いて、バルブ712を開き、流体噴射ヘッド70の下面に設けられたガス吐出口717から窒素ガスを基板Wの表面Wfに向けて供給を開始する(ステップS112)。
ガス噴射口725から供給される窒素ガスの流速は速く、しかも上下方向の噴射方向が絞られており、基板Wの上部において中央部から周囲に向かって放射状に流れる窒素ガスのカーテンを形成している。一方、ガス吐出口717から供給される窒素ガスの流速はこれより遅く、かつ基板Wの表面Wfに向けて強く吹き付ける流れとならないように流量が制限される。このため、ガス吐出口717から供給される窒素ガスは、ガス噴射口725から噴射されるカーテン状のガス層と基板Wの表面Wfとにより囲まれる空間に残存する空気をパージし該空間を窒素雰囲気に保つように作用する。そこで、ここでは、ガス噴射口725から供給される窒素ガスを「カーテン用ガス」と称する一方、ガス吐出口717から吐出される窒素ガスを「パージ用ガス」と称している。
こうして基板Wの上方にガスのカーテンを形成するとともに基板Wの表面Wfを窒素雰囲気に保った状態で、スピンチャック10の回転数を上げて基板Wを高速回転させ(ステップS113)、基板Wの表面Wfおよび裏面Wbの液体を振り切ることによって基板Wを乾燥させる。乾燥処理の実行中においてはカーテン用ガスおよびパージ用ガスを供給し続けることによって、乾燥した基板Wの表面Wfへのミスト等の付着や酸化が防止される。乾燥処理が終了するとスピンチャック10の回転を停止し(ステップS114)、パージ用ガスおよびカーテン用ガスの供給を順次停止する(ステップS115、S116)。そして、基板搬送ロボットが乾燥された基板Wをスピンチャック10から取り出し、別の装置へ搬出することで(ステップS117)、1枚の基板Wに対する裏面洗浄処理が完了する。また上記処理を繰り返すことにより、複数の基板を順次処理することができる。
以上のように、この実施形態では、超音波が断続的あるいは間欠的に印加されたキャビテーション促進液を用いて基板Wの裏面Wbを超音波洗浄している。しかも、図2(a)および図5(a)に示すようにチャックピン13が超音波ノズル50と対向して超音波ノズル50から吐出されたキャビテーション促進液がチャックピン13に供給されてしまうタイミング(以下「NP対向タイミング」という)においては、図3に示すように、発振器60から振動子53にOFF信号を出力するように構成している。このため、超音波の印加を受けたキャビテーション促進液は必ずチャックピン13を経由することなく直接基板Wの裏面Wbに供給される。したがって、チャックピン13によって超音波が減衰されることなく、高い洗浄効率で基板Wの裏面Wbを洗浄することができる。その結果、短時間で基板洗浄を行うことができ、洗浄液(DIW)の消費量や電力消費量を低減することができる。
また、上記実施形態では、単に時間幅Ton、Toffに基づいて適合回転数を算出しているだけでなく、センサ80から出力されるピン検出信号に同期して発振信号を出力させている。このため、超音波ノズル50から吐出されたキャビテーション促進液がチャックピン13に供給されるタイミング、つまりNP対向タイミングでOFF信号が正確に振動子53に与えられ、上記作用効果を確実なものとしている。
また、上記実施形態では、裏面Wbを超音波洗浄するために、窒素ガスを飽和レベル程度にまで溶存させたキャビテーション促進液を用いている。このため、キャビテーション促進液に超音波が与えられることで数多くのキャビテーションが発生して裏面Wbを効果的に洗浄することが可能となっている。
さらに、超音波が印加されたキャビテーション促進液を裏面Wbに沿わすように与えているために表面Wf側にも音波が伝わり、パターンにダメージを与える可能性がある。しかしながら、本実施形態では、キャビテーション強度が小さいキャビテーション抑制液を用いて基板Wの表面Wfに液膜Lfを形成している。すなわち、表面Wfへの供給前に、DIWに対して脱ガス処理を施すことで溶存ガス濃度をキャビテーション促進液よりも低下させ、これによって基板Wの表面Wfに供給する液体、つまりキャビテーション抑制液のキャビテーション強度を低下させている。ここで、「キャビテーション強度」とは、超音波により液中で発生するキャビテーションにより基板Wに作用する単位面積当たりの応力を意味しており、このキャビテーション強度は、キャビテーション係数αおよび気泡崩壊エネルギーUによって決まる。すなわち、キャビテーション係数αは次式
α=(Pe-Pv)/(ρV2/2) … (式1)
ただし、Pe:静圧、Pv:蒸気圧、ρ:密度、V:流速、
で求められ、キャビテーション係数αが小さいほどキャビテーション強度は大きくなる。また、気泡崩壊エネルギーUは次式
U=4πr2σ=16πσ3/(Pe-Pv)2 … (式2)
ただし、r:崩壊前の気泡半径、σ:表面張力、
で求められ、気泡崩壊エネルギーUが大きいほどキャビテーション強度は大きくなる。
本実施形態では、脱ガス処理によってキャビテーション抑制液に溶存するガス濃度は低く抑えられているため、蒸気圧Pvは大幅に低下している。そのため、キャビテーション係数αは大きくなる一方で、気泡崩壊エネルギーUは小さくなり、キャビテーション抑制液のキャビテーション強度は小さくなっている。その結果、裏面洗浄処理時に表面Wf側に音波が伝わるものの、キャビテーション強度が低く抑えられ、基板表面側でのパターン損壊を効果的に抑制することができる。
ところで、上記第1実施形態では、時間幅Ton、Toffを処理条件として設定し、これらにスピンチャック10の回転数を適合させているが、スピンチャック10の回転数に対してON信号の時間幅TonおよびOFF信号の時間幅Toffを適合させてもよい(第2実施形態)。また、上記NP対向タイミングに合わせて発振器60からOFF信号を振動子53に出力させることを可能とする、ON信号およびOFF信号の切替(時間幅Ton、Toffの組み合わせ)と基板Wの回転数との組み合わせを複数個レシピ形式で記憶しておき、適宜選択可能に構成してもよい(第3実施形態)。これら第2実施形態および第3実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。以下、第2実施形態および第3実施形態について、それぞれ図6および図7を参照しつつ説明する。
図6は本発明にかかる基板洗浄装置の第2実施形態の動作を示す図である。この第2実施形態および後で説明する第3実施形態における装置構成は第1実施形態のそれと同一であり、時間幅と回転数の設定方法のみが相違する。したがって、同一構成については同一符号を付して構成説明を省略する。
第2実施形態では、処理条件のひとつとして超音波が断続的または間欠的に印加されたキャビテーション促進液による洗浄処理を行うときの基板Wの回転数が制御ユニット30の記憶部301に記憶されている。そして、裏面洗浄処理を行う際には、制御ユニット30は記憶部301から上記回転数を読み出し、処理条件のひとつとして設定する(ステップS201)。それに続いて、制御ユニット30は設定回転数に適合する時間幅Ton、Toffを算出する(ステップS202)。ここで、適合する時間幅Ton、Toffとは適合回転数と同種の意味を有している。つまり、スピンチャック10を設定回転数で回転させる場合、チャックピン13は図2(b)に示すように超音波ノズル50と対向し、時間幅T13かけて超音波ノズル50の吐出口52の前を通過する。したがって、第1実施形態と同様の作用効果を得るためには、時間幅Toffを時間幅T13以上に設定する必要がある。また、図3に示すように設定回転数でスピンチャック10を回転させながら、各チャックピン13が超音波ノズル50と対向する期間とOFF信号を出力する期間とを常に対応させるためには、時間幅Toffに対応して時間幅Tonも適合させる必要がある。これらを考慮して時間幅Ton、Toffの適合化を図っている。
上記のように適合時間幅Ton、Toffが求まり、裏面洗浄処理の開始準備が完了すると、基板搬送ロボット(図示省略)により1枚の基板Wがスピンチャック10に載置されチャックピン13により保持される(ステップS203)。これに続いて、スピンチャック10の回転を開始した(ステップS204)後、基板WへのDIW供給を開始する(ステップS205)。そして、スピンチャック10の回転数がステップS201で設定された設定回転数に到達する(ステップS206で「YES」)と、それ以降、第1実施形態のステップS107〜S117と同様にして超音波による裏面洗浄処理および乾燥処理を行う(ステップS207〜S217)。
図7は本発明にかかる基板洗浄装置の第3実施形態の動作を示す図である。この第3実施形態では、上記したようにNP対向タイミングに合わせて発振器60からOFF信号を振動子53に出力させることができる、時間幅Ton、Toffと基板Wの回転数との組み合わせを含むレシピ情報が複数個、制御ユニット30の記憶部301に予め記憶されている。そして、記憶部301からレシピ情報が読み出されて表示操作部34に表示される(ステップS301)。そして、ユーザが表示操作部34を操作して一のレシピ情報を選択すると、その選択されたレシピ情報に基づいて制御ユニット30はスピンチャック10の回転数および時間幅Ton、Toffを処理条件のひとつとして設定する(ステップS302)。
こうして、裏面洗浄処理の開始準備が完了すると、基板搬送ロボット(図示省略)により1枚の基板Wがスピンチャック10に載置されチャックピン13により保持される(ステップS303)。これに続いて、スピンチャック10の回転を開始した(ステップS304)後、基板WへのDIW供給を開始する(ステップS305)。そして、スピンチャック10の回転数がレシピ情報に含まれるレシピ回転数に到達する(ステップS306で「YES」)と、それ以降、第1実施形態のステップS107〜S117と同様にして超音波による裏面洗浄処理および乾燥処理を行う(ステップS307〜S317)。
このように、上記第1実施形態ないし第3実施形態では、チャックピン13が本発明の「保持部」の一例に相当している。チャック回転機構31が本発明の「移動機構」の一例に相当している。表示操作部34が本発明の「表示部」および「入力部」として機能しているが、表示部と入力部とを個別に設けてもよいことはいうまでもない。制御ユニット30が本発明の「制御部」として機能している。基板Wの裏面Wbおよび表面Wfがそれぞれ本発明の「一方主面」および「他方主面」に相当しており、脱ガス機構81およびバルブ82が本発明の「液膜形成部」として機能している。
上記第1実施形態ないし第3実施形態では、ON信号とOFF信号を交互に切り替える発振信号を振動子53に与えることで、キャビテーション促進液に対する超音波の印加と印加停止を交互に繰り返して洗浄能力の向上を図っている。そこで、洗浄能力を向上させるために時間幅Ton、Toffをどのように設定するのが好適であるかを検証した。
図8は発振信号と洗浄能力との関係を検証するための実験内容および実験結果を示す図である。ここでは、除去率の実験(以下「実験A」という)と、音圧の実験(以下「実験B」という)とを行った。
まず、実験Aについて説明する。同図(a)に示すように、300[mm]のシリコンウエハを基板Wとして用意し、予めパーティクル(Si屑)を基板Wの表面に分散して存在させる。そして、基板Wの表面Wfの中央部のうち6×8[squaremm]の測定領域についてパーティクル数を測定した後で当該基板Wの表面WfにDIWの液膜を形成する。それに続いて、図8(a)に示すように、基板Wの表面Wfから角度θ(=82゜)だけ傾いた方向に5[mm]離れて超音波ノズル50の吐出口52が位置するように超音波ノズル50を配置した。そして、この超音波ノズル50に対して流量1.5[L/min]でDIWを供給しながら周波数5[MHz]のON信号を有する発振信号を振動子53に与えて20[W]でDIWに超音波を印加し、その超音波印加液DIWを基板Wの表面Wfの中央部に30秒間供給した。その後で表面Wfの上記測定領域に残存するパーティクル数を測定し、パーティクルの除去率を求めた。このような実験を発振信号のON信号の時間幅TonおよびOFF信号の時間幅Toffを変更しつつ実行した。なお、この実験では、時間幅Tonと時間幅Toffとの比を(1:1)に設定する、つまり50%デューティーで行っており、図8(b)中の横軸のパルス時間[秒]は、ON信号の時間幅Tonであり、OFF信号の時間幅Toffでもある。なお、パーティクル数の測定はKLA−Tencor社製のウエハ検査装置SP1を用いて行った。図8(b)中の実線は上記実験Aの結果を示しており、この結果から次のことがわかる。つまり、パーティクルの除去率は、パルス時間が約5×10−5〜10−4[秒]付近で最大となり、それよりも短くても長くても減少する。
次に実験Bについて説明する。実験Bでは、発振信号のON信号の時間幅TonおよびOFF信号の時間幅Toffを変更しつつ超音波ノズル50の吐出口52から吐出されるDIW中の音圧をハイドロホンで計測した。図8(b)中の破線は上記実験Bの結果を示しており、この結果から次のことがわかる。つまり、音圧は、パルス時間が約5×10−5[秒]付近で最大となり、それよりも短くても長くても減少する。
これらの実験A、Bを比較してわかるように、パーティクルの除去率が最大となるパルス時間と、音圧が最大となるパルス時間とがほぼ等しく、しかもパルス時間の変化に伴う両者の減少度合いもほぼ同様である。したがって、基板洗浄装置1において超音波ノズル50から吐出されるキャビテーション促進液における超音波の音圧について、ON信号の時間幅Tonに対する変化を予め計測しておき、その計測結果に基づいてON信号の時間幅Tonを設定してもよい。より具体的には、音圧がピークとなるピーク時間幅を求め、ON信号の時間幅Tonを上記ピーク時間幅もしくはピークの半値全幅となる範囲内の値に設定することで、パーティクルの除去率を高めて裏面洗浄の効率を高めることができる。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、キャビテーション促進液に対して超音波を断続的または間欠的に印加して基板Wの裏面Wbに供給しているが、使用する液体はキャビテーション促進液に限定されるものではない。例えばDIW供給源から供給されるDIWをそのまま用いてもよい。また、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、ハイドロフルオロエーテル(HFE)を主たる成分とする液体、SC1(アンモニア水と過酸化水素水との混合水溶液)、DIWに炭酸ガスや水素などの気体を溶存させた機能水など、基板洗浄に用いる一般的な洗浄液を用いてもよい。
また、上記実施形態では、キャビテーション抑制液として脱ガス処理したDIWを用いているが、これに限定されるものではなく、キャビテーション強度が超音波ノズル50から吐出される超音波印加液よりも小さな液体をキャビテーション抑制液として用いることができる。すなわち、キャビテーション抑制液としては、キャビテーション係数αが大きい、および/または気泡崩壊エネルギーUが小さい液体を用いるのが好適である。例えばDIWのキャビテーション係数αおよび気泡崩壊エネルギーUを「1」とした場合、イソプロピルアルコール、HFE7300、HFE7100のそれらは以下の通りである。なお、HFE7300、HFE7100は、それぞれ住友スリーエム株式会社製の商品名ノベック(登録商標)7300、7100を意味している。
例えばイソプロピルアルコールのキャビテーション係数αはDIWに比べて大きく、しかも気泡崩壊エネルギーUはDIWよりも大幅に小さい。したがって、イソプロピルアルコールあるいはイソプロピルアルコールとDIWとを混合させた混合液をキャビテーション抑制液として好適に用いることができる。また、イソプロピルアルコールおよび上記混合液はいわゆる低表面張力液であるため、これらを基板Wの表面Wfに供給して液膜Lfを形成しておくことは乾燥処理時でのパターン倒壊を効果的に防止する上でも望ましい。
また、上記実施形態では、基板Wの表面Wfにキャビテーション抑制液の液膜Lfを形成しているが、液膜Lfの形成は必須事項ではなく、任意事項である。例えば基板Wの表面Wfにパターンが形成されていない場合には液膜Lfの形成は不要である。
また、上記実施形態では、超音波ノズル50に対して基板WをRD方向に相対的に回転移動させるために、超音波ノズル50を固定配置する一方で、スピンチャック10を回転させることで複数のチャックピン13を基板Wの回転中心、つまり回転軸Jを中心として同心円状に移動させている。ここで、超音波ノズル50も回転軸Jを中心として同心円状に移動させてもよい。また、超音波ノズル50のみを回転軸Jを中心として同心円状に移動させてもよい。
また、上記実施形態では基板Wの裏面Wbを洗浄しているが、本発明の適用対象は基板Wの裏面Wbに限定されるものではなく、基板Wの表面Wfを超音波洗浄する装置にも適用可能である。