JP6226511B2 - 放熱性及び繰り返し曲げ加工性に優れた銅合金板 - Google Patents
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発熱への対応として、FPCに放熱板としてアルミニウム板を張り合わせた場合、FPCの回路を構成している銅配線との線熱膨張係数の違いにより、FPC回路にそりが生じるという問題がある。さらに、熱による膨張、収縮を繰り返すことで、FPCの銅配線が繰返し引張り応力を受け、破断に至ることもある。
放熱板として銅板を用いた場合には上記問題は発生しないが、銅はアルミニウムよりも加工硬化係数が大きいため、複雑な形状にFPCを成型する際に、曲げ部にクラックが発生し易い。クラックが発生すると、これを車載などの繰返し振動が加わる環境下で使用する場合、クラックが進展して破断に至るなどの問題が生じる。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、放熱性、繰返し曲げ加工性、及び、形状維持性に優れた銅合金板を提供することを課題とする。
本発明の銅合金板は、Agを0〜1.0質量%、Tiを0〜0.08質量%、Niを0〜2.0質量%、Znを0〜3.5質量%、Cr、Fe、In、P、Si、Sn及びZrの群から選択された一種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部Cu及び不純物からなる。
Agは添加による導電率の低下の影響が小さいため、特に制限はないが、添加濃度が高くなると共にコストが増加するため、1.0質量%以下とする。
添加による導電率低下の影響が大きいCr、Fe、In、P、Si、Sn、Zrは、これら元素の合計につき、0.5質量%以下、また、特に影響が大きいTiは、0.08質量%以下とする。また、Niは2.0質量%以下、Znは3.5質量%以下とする。
銅箔の耐熱性を改善するために、銅にAg、Ti、Ni、Zn、Cr、Fe、In、P、Si、Sn及びZrからなる群から選択された一種以上を合計で0.01質量%以上添加してもよい。添加元素の合計濃度が0.01質量%を下回ると、添加元素の効果が発現せず耐熱性が不足するおそれがある。
Cuと比較し酸化しやすいCr、Fe、In、Ni、P、Si、Sn、Ti、Zn及びZrは、無酸素銅溶湯中に添加するのが一般的である。酸素を含有する溶銅にP、Si等の脱酸剤を添加して酸素濃度を10ppm以下に下げた後、これら合金元素を添加しても良い。AgはCuより酸化し難いので、タフピッチ銅溶湯中、無酸素銅溶湯中ともに添加できる。
加熱された材料を効率よく冷却するには、接合する放熱材として熱伝導が良い材料が求められる。熱伝導率は、一般に、材料の導電率が高いものほど良い。LED照明点灯時の発熱を考えると、LEDの実装密度や照明装置の形状などの影響要因もあるが、導電率が60%IACS以上であればよく、70%IACS以上であればより好ましい。
繰返し曲げ加工性については、集合組織との関係を調べたところ、理由は定かではないが、銅合金板表面の法線方向の結晶方位を表したステレオ三角に対してベクトル法による表示で用いられる等面積分割を行って得られた所定位置の結晶方位の集積度と、繰返し曲げ性とに相関が見られた。具体的には、銅合金板表面の法線方向の結晶方位を表したステレオ三角に対し、ベクトル法による表示で用いられる等面積分割を行って得られたボックス番号29の結晶方位の集積度が4以下であればよく、3以下であればより好ましい。また、銅合金板表面の法線方向の結晶方位を表したステレオ三角に対し、ベクトル法による表示で用いられる等面積分割を行って得られたボックス番号29の結晶方位の集積度の下限は繰返し曲げ性の観点からは特に限定する必要は無いが、例えば0.01以上、又は0.05以上であり、典型的には0.1以上である。
図1は、銅合金の結晶方位を表すベクトル法(2軸極点図法)の回転角のステレオ投影図表示である。図1において、銅合金板表面の法線方向(ND)を表す点NDは、それが載っているステレオ三角(T1)上の座標(ψ、λ)で示されている。このステレオ三角を、等面積分割(Ruerらによる)で36個に区分したものが図2である。この図2のステレオ三角における結晶方位のうち、番号29で示された領域にあるものが「ボックス番号29の結晶方位」である(古林、「再結晶と材料組織」、第1版、内田老鶴圃、第88〜89頁参照)。また、「ボックス番号29の結晶方位の集積度」は、ボックス番号29に相当する方位で表される極点図上の区画の平均強度を表す。
材料を所定の形状に成形した後、初期の加工形状を維持するには、ある程度の材料強度が必要である。加工形状の構造などの影響要因もあるが、材料強度である引張強さが350MPa未満の場合には、材料に加わる力で容易に変形する。このため、引張強さは350MPa以上である必要がある。強度の上限については特に設定しないが、材料の加工度を上げることで強度を高くした場合には、一般に曲げ加工性が劣化することが知られており、従って、曲げ加工性とのバランスを考慮して材料を加工すれば良い。また、引張強さは400MPa以上であるのがより好ましい。
耐熱性については、LED照明の特性から、照明機器として長時間使用できるよう、通常は150℃未満の温度で使用されるように設計される。この熱によって材料が軟化した場合には初期の加工形状を維持することができない。このような現象を避けるため、耐熱性を確保することは重要である。一方、照明機器としては数万時間程度の使用が想定されるが、これをそのまま再現する長時間の加熱試験は現実的ではないため、目安として、実使用条件よりも高温で短時間、ここでは200℃で30分間保持する条件で加熱し、引張強さ250MPa以上の場合に耐熱性が良好と判断した。また、200℃で30分間加熱後に300MPa以上を維持するのがより好ましい。なお、耐熱性は結晶方位の集積度との相関が見られ、銅合金板表面の法線方向の結晶方位を表したステレオ三角に対し、ベクトル法による表示で用いられる等面積分割を行って得られたボックス番号29の結晶方位の集積度が1未満であると耐熱性が不良となることがある。このため、当該ボックス番号29の結晶方位の集積度は1以上であるのが好ましい。
先述の形状維持性及び結晶方位の集積度を満たす銅箔は、最終再結晶焼鈍の昇温速度、ならびに最終再結晶焼鈍の直後に行われる最終冷間圧延の加工条件である総加工度、及び、1パス目の加工度を調整することで得られる。ここで、最終再結晶焼鈍とは、製品の厚みまで加工する最終冷間圧延の前の再結晶焼鈍である。また、最終冷間圧延では、一対のロール間に材料を繰返し通過させ(以下「パス」とする)、厚みを仕上げていく。ここで、1パス目とは、最終再結晶焼鈍後の材料を製品の厚みに仕上げる最終冷間圧延における最初のパスを示す。
最終再結晶焼鈍の昇温速度は12〜50℃/sであれば良い。昇温速度が12℃/s未満である場合、及び、50℃/s超である場合は、先述の繰返し曲げ加工性を満たすことが困難である。
最終冷間圧延の総加工度の上限値は特に限定はされない。最終冷間圧延の総加工度は一般的には85%以下である。加工度は、圧延前と圧延後との厚みの差を圧延前の厚みで除した値を百分率で表したものである。また、総加工度の下限値については、合金成分や濃度により異なり、引張強さの下限値を超えるように設定すれば良い。例えば、Snを0.12質量%含む銅箔については、最終冷間圧延の総加工度は50%以上であればよく、60%以上であればより好ましい。
最終冷間圧延の1パス目の加工度は20%以下であれば良い。最終冷間圧延の1パス目の加工度が20%を超える場合は、本発明に係る結晶方位の集積度の規定を満たすことができず、先述の繰り返し曲げ加工性を満たすことが困難である。
表1〜3に記載の各種銅母材に、表1〜3に記載の各種元素を添加し、厚み100mmのインゴットを鋳造した。次に、インゴットを熱間圧延にて5mmまで圧延し、酸化スケールを除去した後、冷間圧延と焼鈍を繰り返し、最終冷間圧延にて表1〜3に記載の条件で0.05〜0.3mmまで圧延した。なお、最終冷間圧延の直前に最終再結晶焼鈍を行った。最終再結晶焼鈍は表1〜3に記載の昇温速度で、材料温度が最高で500℃となるよう加熱し、室温(25℃)から500℃まで到達する時間から、昇温速度を算出した。そして、材料温度が500℃に到達後、直ちに冷却を行った。
JIS Z 2241に準じて、圧延平行方向が長手方向となるように採取したJIS13B号試験片を供試材とし、引張り試験により引張強さを求めた。引張り試験では、ORIENTEC社製のUTM−10Tを用い、引張り速度5mm/分にて、同一試料につきn=2で測定した平均値を測定値とした。引張強さが350MPa以上のとき、形状維持性を○とし、引張強さが350MPa未満のとき、形状維持性を×と評価した。
最終冷間圧延後の板厚にて、JIS H 0505に準拠した四端子法により測定した導電率(%IACS)にて評価した。
20mm四方に切り出した試料を結晶方位の集積度測定に供した。板表面の法線方向の結晶方位を表したステレオ三角に対し、ベクトル法による表示で用いられる等面積分割を行って得られたボックス番号29の結晶方位の集積度を評価した。具体的には、まず、株式会社リガク製X線回折装置RINT-2000を用いて、Schultzの反射法による正極点測定を行った。次に、測定したデータについて、株式会社リガク製ソフトウェアPole Figure DataProcessingを用いて極点図化し、株式会社ノルム工学製Standard ODF及びInverseDispを用いて図2の分割を行い、集積度を評価した。
上記のJIS13B号試験片を用い、これを加熱炉に入れて温度が200℃に達した後に30分間保持して試料を取り出し、空冷して引張り試験に供した。引張り試験は、上記と同じ条件で実施した。引張強さ250MPa以上の場合を耐熱性が良好(○)と判断し、引張強さ250MPa未満の場合を耐熱性が不良(×)と判断した。
以下の手順で、繰返し曲げ加工性を評価した。
(1)圧延平行方向および直角方向につき、長さ50mm×幅10mmに試料を切り出した。
(2)曲げR=0.5mmにて、90°にV曲げ加工し、これを元の短冊状に曲げ戻した後、90°V曲げ加工と曲げ戻しを繰り返した。
(3)上記操作を繰り返して、1回毎に90°V曲げした時の曲げ加工部を50倍に拡大観察し、クラックまたは破断発生の有無を確認した。そして、クラックまたは破断が発生しない最大曲げ回数を調査した。クラックが発生しない最大曲げ回数が5回以上を「◎」、4回を「○」、3回を「△」、3回未満を「×」として評価した。
表1〜3に評価条件及び結果を示す。
比較例1は、添加元素濃度が高すぎるため、導電率が低くて放熱性が悪かった。
比較例2と6は、最終冷間圧延における1パス目の加工度が20%を超えているため、結晶方位の集積度の規定を満たしておらず、繰返し曲げ加工性が悪かった。
比較例3は、最終再結晶焼鈍における昇温速度が12℃/s未満となっているため、結晶方位の集積度の規定を満たしておらず、繰返し曲げ加工性が悪かった。
比較例4は、最終再結晶焼鈍における昇温速度が50℃/sを超えているため、結晶方位の集積度の規定を満たしておらず、繰返し曲げ加工性が悪かった。
比較例5は、最終冷間圧延における圧延総加工度が低すぎるため、引張り強さが350MPa未満となっており、形状維持性が悪かった。
Claims (10)
- Cu及び不純物からなり、
導電率が60%IACS以上であり、
引張強さが350MPa以上であり、
板表面の法線方向の結晶方位を表したステレオ三角に対し、ベクトル法による表示で用いられる等面積分割を行って得られたボックス番号29の結晶方位の集積度が4以下である銅合金板。 - Ag、Ti、Ni、Zn、Cr、Fe、In、P、Si、Sn、及びZrの群から選択された一種以上を含み、且つ、
Agを0〜1.0質量%、Tiを0〜0.08質量%、Niを0〜2.0質量%、Znを0〜3.5質量%、Cr、Fe、In、P、Si、Sn、及びZrの群から選択された一種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部Cu及び不純物からなり、
導電率が60%IACS以上であり、
引張強さが350MPa以上であり、
板表面の法線方向の結晶方位を表したステレオ三角に対し、ベクトル法による表示で用いられる等面積分割を行って得られたボックス番号29の結晶方位の集積度が4以下である銅合金板。 - Ag、Ti、Ni、Zn、Cr、Fe、In、P、Si、Sn及びZrからなる群から選択された一種以上を合計で0.01質量%以上含有する請求項2に記載の銅合金板。
- 前記ボックス番号29の結晶方位の集積度が1以上である請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金板。
- 引張強さが200℃で30分間加熱後に250MPa以上である請求項3又は4に記載の銅合金板。
- FPC基板用である請求項1〜5のいずれかに記載の銅合金板。
- LED照明を実装したFPC基板用である請求項6に記載の銅合金板。
- 厚みが0.05〜0.3mmである請求項1〜7のいずれかに記載の銅合金板。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の銅合金板を用いた電子機器部品。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の銅合金板を用いたLED照明を実装したFPC。
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