JP6196512B2 - 放熱性及び繰り返し曲げ加工性に優れた銅合金板 - Google Patents
放熱性及び繰り返し曲げ加工性に優れた銅合金板 Download PDFInfo
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Description
発熱への対応として、FPCに放熱板としてアルミニウム板を張り合わせた場合、FPCの回路を構成している銅配線との線熱膨張係数の違いにより、FPC回路にそりが生じるという問題がある。さらに、熱による膨張、収縮を繰り返すことで、FPCの銅配線が繰返し引張り応力を受け、破断に至ることもある。
放熱板として銅板を用いた場合には上記問題は発生しないが、銅はアルミニウムよりも加工硬化係数が大きいため、複雑な形状にFPCを成型する際に、曲げ部にクラックが発生し易い。クラックが発生すると、これを車載などの繰返し振動が加わる環境下で使用する場合、クラックが進展して破断に至るなどの問題が生じる。
一方、放熱部品に用いられる銅合金板は導電率が高いという特徴から、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車等で用いられる大電流用コネクタや端子といった、大電流用電子部品としてもよく用いられる。大電流を流す部品は、通電時の発熱を軽減する目的から、例えば0.3〜2.0mmといった厚い銅合金板から加工されることが多いが、厚みが大きくなると曲げ加工の際にクラックが発生しやすくなるため、曲げ加工性に関わる問題は大電流用電子部品においても深刻である。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、放熱性、導電性、繰返し曲げ加工性、及び、形状維持性に優れた銅合金板を提供することを課題とする。
導電率が60%IACS以上であり、
引張強さが350MPa以上であり、
結晶の[001]方位と材料のND方向とを含む面に垂直な方向を軸とした回転角をΦ、ND方向を軸とした回転角をφ1、[001]方向を軸とした回転角をφ2と表記した場合に、ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組であるオイラー角(φ1,Φ,φ2)につき、オイラー角(0,0,0)の結晶方位の極密度が2以上である銅合金板である。
合金元素添加のベースのCuとしてはJIS H3100 C1020に規格する無酸素銅又はJIS H3100 C1100に規格するタフピッチ銅が適する。酸素濃度は、タフピッチ銅では0.02〜0.05質量%、無酸素銅では0.001質量%以下が通常である。
本発明の銅合金板は、Agを0〜1.0質量%、Tiを0〜0.08質量%、Niを0〜2.0質量%、Znを0〜3.5質量%、Cr、Fe、In、P、Si、Sn及びZrの群から選択された一種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる。
Cuと比較し酸化しやすいCr、Fe、In、Ni、P、Si、Sn、Ti、Zn及びZrは、無酸素銅溶湯中に添加するのが一般的である。酸素を含有する溶銅にP、Si等の脱酸剤を添加して酸素濃度を10ppm以下に下げた後、これら合金元素を添加しても良い。AgはCuより酸化し難いので、タフピッチ銅溶湯中、無酸素銅溶湯中ともに添加できる。
Agは添加による導電率の低下の影響が小さいため、特に制限はないが、添加濃度が高くなると共にコストが増加するため、1.0質量%以下とする。
添加による導電率低下の影響が大きいCr、Fe、In、P、Si、Sn、Zrは、これら元素の合計につき、0.5質量%以下、また、特に影響が大きいTiは、0.08質量%以下とする。また、Niは2.0質量%以下、Znは3.5質量%以下とする。
加熱された材料を効率よく冷却するには、接合する放熱材として熱伝導が良い材料が求められる。熱伝導率は、一般に、材料の導電率が高いものほど良い。LED照明点灯時の発熱を考えると、LEDの実装密度や照明装置の形状などの影響要因もあるが、導電率が60%IACS以上であればよく、70%IACS以上であればより好ましい。
繰返し曲げ加工性については、集合組織との関係を調べたところ、理由は定かではないが、特定の結晶方位の極密度と、繰返し曲げ性とに相関が見られた。具体的には、図1に示すように、結晶の[001]方位と材料のND方向とを含む面に垂直な方向を軸とした回転角をΦ、ND方向を軸とした回転角をφ1、[001]方向を軸とした回転角をφ2と表記した場合に、ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組であるオイラー角(φ1,Φ,φ2)につき、オイラー角(0,0,0)の結晶方位の極密度が2以上に制御されていればよく、5以上に制御されていれば好ましく、さらに10以上に制御されていればより好ましい。ここで、「RD」は圧延方向、「ND」は圧延面に垂直な方向、「TD」は幅方向である。
材料を所定の形状に成形した後、初期の加工形状を維持するには、ある程度の材料強度が必要である。加工形状の構造などの影響要因もあるが、材料強度である引張強さが350MPa未満の場合には、材料に加わる力で容易に変形する。このため、引張強さは350MPa以上である必要がある。強度の上限については特に設定しないが、材料の加工度を上げることで強度を高くした場合には、一般に曲げ加工性が劣化することが知られており、従って、曲げ加工性とのバランスを考慮して材料を加工すれば良い。また、引張強さは400MPa以上であるのがより好ましい。
耐熱性については、LED照明の特性から、照明機器として長時間使用できるよう、通常は150℃未満の温度で使用されるように設計される。この熱によって材料が軟化した場合には初期の加工形状を維持することができない。このような現象を避けるため、耐熱性を確保することは重要である。一方、照明機器としては数万時間程度の使用が想定されるが、これをそのまま再現する長時間の加熱試験は現実的ではないため、目安として、実使用条件よりも高温で短時間、ここでは200℃で30分間保持する条件で加熱し、引張強さ250MPa以上の場合に耐熱性が良好と判断した。また、200℃で30分間加熱後に300MPa以上を維持するのがより好ましい。なお、耐熱性は結晶方位の極密度との相関が見られ、結晶の[001]方位と材料のND方向とを含む面に垂直な方向を軸とした回転角をΦ、ND方向を軸とした回転角をφ1、[001]方向を軸とした回転角をφ2と表記した場合に、ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組であるオイラー角(φ1,Φ,φ2)につき、オイラー角(0,0,0)の結晶方位の極密度が35を超えると耐熱性が不良となることがある。このため、当該オイラー角(0,0,0)の結晶方位の極密度は35以下に制御されていればよく、30以下に制御されていればより好ましい。
本発明に係る銅合金板の厚みは、0.05〜0.3mmであるのが好ましい。銅合金板の厚みが0.05mm未満であると材料が薄いために形状を維持するのが困難という問題が生じることがあり、0.3mm超であるとFPC基板等の用途においては材料が厚すぎるために製品の重量が重くなりすぎるという問題が生じることがある。また、このように、本発明に係る銅合金板は銅箔の形態も含んでいる。
なお、FPC基板以外の放熱用電子部品の用途、大電流用電子部品の用途等においては、厚みが0.3〜2.0mmの銅合金板も好適に用いられることがある。
ここで、大電流用電子部品としては、特に限定されず一般に大電流用として用いられるものを含み、例えば、10アンペア以上、より典型的には30アンペア以上、さらに典型的には50アンペア以上の電流が流れる電子部品を示す。電気自動車用やハイブリッド自動車等用のコネクタでは100アンペア以上の電流が流れるものもある。
銅合金板の成分、形状維持性及び結晶方位の極密度が上記の特性範囲にあれば、製造条件によらず、本発明の効果は発現する。本発明の銅合金板は、例えば、次のようなプロセスによって製造することができる。
先述の形状維持性及び結晶方位の極密度を満たす銅箔は、最終再結晶焼鈍の昇温速度、ならびに最終再結晶焼鈍の直後に行われる最終冷間圧延の加工条件である総加工度、及び、1パス目の加工度を調整することで得られる。ここで、最終再結晶焼鈍とは、製品の厚みまで加工する最終冷間圧延の前の再結晶焼鈍である。また、最終冷間圧延では、一対のロール間に材料を繰返し通過させ(以下「パス」とする)、厚みを仕上げていく。ここで、1パス目とは、最終再結晶焼鈍後の材料を製品の厚みに仕上げる最終冷間圧延における最初のパスを示す。
最終再結晶焼鈍の昇温速度は12〜50℃/sであれば良い。昇温速度が12℃/s未満である場合、及び、50℃/s超である場合は、先述の繰返し曲げ加工性を満たすことが困難である。
最終冷間圧延の総加工度の上限値は特に限定はされない。最終冷間圧延の総加工度は一般的には85%以下である。加工度は、圧延前と圧延後との厚みの差を圧延前の厚みで除した値を百分率で表したものである。また、総加工度の下限値については、合金成分や濃度により異なり、引張強さの下限値を超えるように設定すれば良い。例えば、Snを0.12質量%含む銅箔については、最終冷間圧延の総加工度は50%以上であればよく、60%以上であればより好ましい。
最終冷間圧延の1パス目の加工度は20%以下であれば良い。最終冷間圧延の1パス目の加工度が20%を超える場合は、本発明に係る結晶方位の極密度の規定を満たすことができず、先述の繰り返し曲げ加工性を満たすことが困難である。
本発明の銅合金板は、リードフレーム、コネクタ、端子、ピン、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、放熱板、二次電池用箔材等の電子機器部品等に使用することができる。特に、本発明の銅合金板は、放熱用電子部品である放熱板の用途として有用であり、その中でも、LED照明を実装したFPCの材料、スマートフォンやタブレットPCで用いられる液晶フレーム等として好適に用いられる。さらに、電気自動車、ハイブリッド自動車等で用いられる大電流用コネクタや端子等の大電流用電子部品としても、特に好適に用いられる。
表1〜3に記載の各種銅母材に、表1〜3に記載の各種元素を添加し、厚み100mmのインゴットを鋳造した。次に、インゴットを熱間圧延にて5mmまで圧延し、酸化スケールを除去した後、冷間圧延と焼鈍を繰り返し、最終冷間圧延にて表1〜3に記載の条件で0.05〜1.2mmまで圧延した。なお、最終冷間圧延の直前に最終再結晶焼鈍を行った。最終再結晶焼鈍は表1〜3に記載の昇温速度で、材料温度が最高で500℃となるよう加熱し、室温(25℃)から500℃まで到達する時間から、昇温速度を算出した。そして、材料温度が500℃に到達後、直ちに冷却を行った。
JIS Z 2241に準じて、圧延平行方向が長手方向となるように採取したJIS13B号試験片を供試材とし、引張り試験により引張強さを求めた。引張り試験では、ORIENTEC社製のUTM−10Tを用い、引張り速度5mm/分にて、同一試料につきn=2で測定した平均値を測定値とした。引張強さが350MPa以上のとき、形状維持性を○とし、引張強さが350MPa未満のとき、形状維持性を×と評価した。
最終冷間圧延後の板厚にて、JIS H 0505に準拠した四端子法により測定した導電率(%IACS)にて評価した。
20mm四方に切り出した試料を結晶方位の極密度測定に供した。結晶の[001]方位と材料のND方向とを含む面に垂直な方向を軸とした回転角をΦ、ND方向を軸とした回転角をφ1、[001]方向を軸とした回転角をφ2と表記した場合に、ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組であるオイラー角(φ1,Φ,φ2)につき、(0,0,0)の結晶方位の極密度を評価した。具体的には、まず、株式会社リガク製X線回折装置RINT-2000を用いて、Schultzの反射法による正極点測定を行った。次に、測定したデータについて、株式会社リガク製ソフトウェアPole Figure DataProcessingを用いて極点図化し、株式会社ノルム工学製Standard ODFを用いてオイラー角を主軸とするオイラー空間における結晶粒方位分布関数ODF(Orientation Dsitribution Function)を求め、当該オイラー角の極密度を評価した。
上記のJIS13B号試験片を用い、これを加熱炉に入れて温度が200℃に達した後に30分間保持して試料を取り出し、空冷して引張り試験に供した。引張り試験は、上記と同じ条件で実施した。耐熱性の評価基準は以下の通りとした:
○:引張強さ300MPa以上
△:引張強さ250MPa以上〜300MPa未満
×:引張強さ250MPa未満
以下の手順で、繰返し曲げ加工性を評価した。
(1)圧延平行方向および直角方向につき、長さ50mm×幅10mmに試料を切り出した。
(2)曲げR=0.5mmにて、90°にV曲げ加工し、これを元の短冊状に曲げ戻した後、90°V曲げ加工と曲げ戻しを繰り返した。
(3)上記操作を繰り返して、1回毎に90°V曲げした時の曲げ加工部を50倍に拡大観察し、クラックまたは破断発生の有無を確認した。そして、クラックまたは破断が発生しない最大曲げ回数を調査した。クラックが発生しない最大曲げ回数が5回以上を「◎」、4回を「○」、3回を「△」、3回未満を「×」として評価した。
表1〜3に評価条件及び結果を示す。
比較例1は、添加元素濃度が高すぎるため、導電率が低くて放熱性が悪かった。
比較例2と6は、最終冷間圧延における1パス目の加工度が20%を超えているため、結晶方位の極密度の規定を満たしておらず、繰返し曲げ加工性が悪かった。
比較例3と7は、最終再結晶焼鈍における昇温速度が12℃/s未満となっているため、結晶方位の極密度の規定を満たしておらず、繰返し曲げ加工性が悪かった。
比較例4は、最終再結晶焼鈍における昇温速度が50℃/sを超えているため、結晶方位の極密度の規定を満たしておらず、繰返し曲げ加工性が悪かった。
比較例5は、最終冷間圧延における圧延総加工度が低すぎるため、引張り強さが350MPa未満となっており、形状維持性が悪かった。
Claims (15)
- Agを0〜1.0質量%、Tiを0〜0.08質量%、Niを0〜2.0質量%、Znを0〜3.5質量%、Cr、Fe、In、P、Si、Sn及びZrの群から選択された一種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、
導電率が60%IACS以上であり、
引張強さが350MPa以上であり、
結晶の[001]方位と材料のND方向とを含む面に垂直な方向を軸とした回転角をΦ、ND方向を軸とした回転角をφ1、[001]方向を軸とした回転角をφ2と表記した場合に、ND軸を回転軸としてφ1だけ回転させた後に、ND軸とz軸とを一致させるためにΦだけ回転させ、最後に[001]軸周りにφ2だけ回転させることで材料のND,TD,RDと結晶の[001],[010],[100]とが一致する角度の組であるオイラー角(φ1,Φ,φ2)につき、オイラー角(0,0,0)の結晶方位の極密度が2以上である銅合金板。 - Ag、Ti、Ni、Zn、Cr、Fe、In、P、Si、Sn及びZrからなる群から選択された一種以上を合計で0.01質量%以上含有する請求項1に記載の銅合金板。
- Zrを0.01〜0.20質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる請求項2に記載の銅合金板。
- Snを0.01〜0.20質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる請求項2に記載の銅合金板。
- Feを0.05〜0.35質量%、Pを0.01〜0.12質量%、Snを0〜0.03質量%、Niを0〜0.1質量%、Znを0〜0.5質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる請求項2に記載の銅合金板。
- 前記オイラー角(0,0,0)の結晶方位の極密度が35以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の銅合金板。
- 前記オイラー角(0,0,0)の結晶方位の極密度が10以上30以下である請求項6に記載の銅合金板。
- 引張強さが200℃で30分間加熱後に250MPa以上である請求項1〜7のいずれか一項に記載の銅合金板。
- 放熱用電子部品に用いられる請求項1〜8のいずれか一項に記載の銅合金板。
- 大電流用電子部品に用いられる請求項1〜8のいずれか一項に記載の銅合金板。
- FPC基板用である請求項1〜8のいずれか一項に記載の銅合金板。
- LED照明を実装したFPC基板用である請求項11に記載の銅合金板。
- 厚みが0.05〜0.3mmである請求項1〜12のいずれか一項に記載の銅合金板。
- 請求項1〜13のいずれか一項に記載の銅合金板を用いた電子機器部品。
- 請求項1〜13のいずれか一項に記載の銅合金板を用いたLED照明を実装したFPC。
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