JP6225759B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
すなわち、従来の方向性電磁鋼板の製造工程では、1300℃を超える高温でのスラブ加熱が必要であったため、その製造コストは極めて高いものにならざるを得ず、近年の製造コスト低減の要求に応えることができないというところに問題を残していた。
この技術によれば、一次再結晶から二次再結晶までに増硫処理を行うことによって、一次再結晶粒界に偏析するS量が増すため、インヒビターレス法において最も重要な集合組織に起因する結晶の粒界性格の差異を強めることが可能となる。その結果、Goss方位以外の方位粒を囲む粒界の移動が適度に抑制されるので、二次再結晶が安定化するのである。
また、これと同時に、本発明は、インヒビターレス技術を利用した方向性電磁鋼板製造に重要な一次再結晶集合組織を良好なものとして、鋼板の磁気特性を改善することを可能とするものである。
他方、増硫処理は、焼鈍分離剤中に硫化物および/または硫酸塩を添加することによって、二次再結晶焼鈍の昇温過程で、鋼板表面よりSを拡散させるものであるが、その際、上述したような凹凸が多く存在すると、Sが浸入する表面積が大きくなって、その部分だけ増硫量が増加してしまうと考えられる。
ここで、Raは、凹凸の平均高さからの算術平均であるため、緩やかで大きな凹凸があった場合、Raとしては大きな値となるものの、鋼板の表面積はそれほど大きいものとはならない。一方で、光沢度は、緩やかで大きな凹凸の場合、良好な値を示すが、凹凸が急峻である場合には、端的に低位な値を示す。これは、光沢度が物質表面の正反射(鏡面反射)の程度を表す量であり、拡散反射が生じるような表面では、その値が低下することによるものである。
まず、組織形成の観点から考えると、方向性電磁鋼板の製造時の冷間圧延において、熱延板焼鈍から最終板厚とするまでの間に、700℃以上となるような再結晶焼鈍過程(中間焼鈍)を行なわない場合は、熱延板焼鈍過程で生じた(001)<110>組織の低減、破壊が一次再結晶集合組織の作り込みに重要であると考えられている。
εm ≒ (vR/(R´・h1)1/2)(2/(2−r))(r)1/2
ここで、vRはロール周速度(mm/s)、R´はロール半径(mm)、h1はロール入側板厚(mm)、rは圧下率(%)である。
その結果から、圧延板での光沢度を高めることで二次再結晶安定性のばらつきが低減できること、および、歪み速度を適正な範囲で圧延することで集合組織の改質と共にオイルピットを抑制し、光沢度を高めることができることを新規に知見した。
これらの知見を基に、さらに検討を行い、本発明を完成させた。
1.質量%および質量ppmで、C:0.10%以下、Si:2.0%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.5%以下を含有し、かつ、Al:100ppm未満、S、Se、OおよびN:各50ppm以下に抑制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、表面光沢度:Gs20が80以上である冷延鋼板。
Ni:0.005〜1.50%、
Sn:0.01〜0.50%、
Sb:0.005〜0.50%、
Cu:0.01〜0.50%、
Cr:0.01〜l.50%、
P:0.0050〜0.50%、
Nb:0.0005〜0.0200%および
Mo:0.01〜0.50%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有させる前記1に記載の冷延鋼板。
上記冷間圧延時、総圧下率が50%を超えた後の圧延のうち、1パス当たりの圧下率が25%を超える圧延を少なくとも1パス以上行うと共に、最も圧下率の高いパスでの歪速度を6×102s-1以下とし、さらに該最も圧下率の高いパスにおける直前の鋼板温度を130℃以上として、上記冷延鋼板を、表面光沢度:Gs20で80以上とする方向性電磁鋼板の製造方法。
Ni:0.005〜1.50%、
Sn:0.01〜0.50%、
Sb:0.005〜0.50%、
Cu:0.01〜0.50%、
Cr:0.01〜l.50%、
P:0.0050〜0.50%、
Nb:0.0005〜0.0200%および
Mo:0.01〜0.50%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有させる前記3〜6のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
まず、本発明において鋼スラブの成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、鋼板の圧下率を除き、「%」「ppm」表示は特に断らない限り質量%、質量ppmを意味するものとする。
C:0.10%以下
Cは、0.01%以上含有させることで一次再結晶集合組織を改善することができる。一方、含有量が0.10%を超えるとかえって一次再結晶集合組織の劣化を招き、脱炭も困難となるため、本発明では0.10%以下に限定した。磁気特性の観点から望ましい添加量は、0.01〜0.06%の範囲である。なお、要求される磁気特性のレベルがさほど高くない場合には、一次再結晶焼鈍における脱炭を省略あるいは簡略化するために、Cを0.01%以下とすることができる。
Siは、電気抵抗を高めることによって鉄損を改善する有用元素であるため、2.0%以上含有させることが必要な一方で、含有量が4.5%を超えると冷間圧延性が著しく劣化するので、Siは2.0%以上4.5%以下に限定した。
Mnは、製造時における熱間加工性を向上させる効果があるが、含有量が0.5%を超えた場合には、一次再結晶集合組織が悪化して磁気特性の劣化を招くので、Mnは0.5%以下に限定した。一方、熱間での加工性を確保するため、Mn含有量の下限は0.01%とした。
S、SeおよびO量が、いずれか一つでも50ppmを超えると、インヒビターレス法で重要な一次再結晶組織の均一性を損なうことになる。この理由は、粗大な酸化物や、スラブ加熱によって粗大化したMnS,MnSeが、一次再結晶焼鈍時の粒成長を部分的に抑制するためである。従って、S、SeおよびOはいずれも、50ppm以下に抑制するものとした。
Alは、表面に緻密な酸化膜を形成し、脱炭も阻害することがあるためAlはsol.Al量で100ppm未満に抑制する。但し、酸素親和力の高いAlは、製鋼で微量添加することによって鋼中の溶存酸素量を低減し、特性劣化につながる酸化物系介在物の低減などを見込めるため、100ppm未満の範囲で添加することにより磁性劣化を抑制することができる。
Nについては、インヒビターとしての作用を防止する必要があると同時に、過剰に存在した場合、Si窒化物が形成され、冷間圧延時、鋼板割れの基点となることがあるため、鋼スラブで50ppm以下に抑制する。
Ni:0.005〜1.50%
Niは、熱延板組織の均一性を高めることによって、磁気特性を改善する働きがあり、そのためには0.005%以上含有させることが好ましいが、含有量が1.50%を超えると二次再結晶が困難となり、磁気特性が劣化するので、Niは0.005〜1.50%の範囲で含有させることが望ましい。
Snは、二次再結晶焼鈍中の鋼板の窒化や酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して磁気特性を向上させる有用元素であり、そのためには0.01%以上含有させることが好ましいが、0.50%を超えて含有されると冷間圧延性が劣化するので、Snは0.01〜0.50%の範囲で含有させることが望ましい。
Sbは、二次再結晶焼鈍中の鋼板の窒化や酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して磁気特性を効果的に向上させる有用元素であり、その目的のためには0.005%以上含有させることが好ましいが、0.50%を超えて含有されると冷間圧延性が劣化するので、Sbは0.005〜0.50%の範囲で含有させることが望ましい。
Cuは、二次再結晶焼鈍中の鋼板の酸化を抑制し、良好な結晶方位を有する結晶粒の二次再結晶を促進して磁気特性を効果的に向上させる働きがあり、そのためには0.01%以上含有させることが好ましいが、0.50%を超えて含有されると熱間圧延性の劣化を招くので、Cuは0.01〜0.50%の範囲で含有させることが望ましい。
Crは、フォルステライト被膜の形成を安定化させる働きがあり、そのためには0.01%以上含有させることが好ましいが、一方で含有量が1.50%を超えると二次再結晶が困難となり、磁気特性が劣化するので、Crは0.01〜1.50%の範囲で含有させることが望ましい。
Pは、フォルステライト被膜の形成を安定化させる働きがあり、そのためには0.0050%以上含有させることが好ましいが、含有量が0.50%を超えると冷間圧延性が劣化するので、Pは0.0050〜0.50%の範囲で含有させることが望ましい。
Nb、Moは、スラブ加熱時の温度変化による割れの抑制等を介して、熱延後のヘゲを抑制する効果を有している。そして、この効果は、それぞれ下限以上含有させなければ得られない一方で、それぞれ上限を超えると、炭化物や窒化物を形成するなどして最終製品まで残留すると、鉄損劣化を引き起こすおそれがある。そのため、添加する際には、上述の範囲とすることが望ましい。
上記成分組成範囲のいずれかに調整した鋼スラブを、再加熱することなくあるいは再加熱したのち、熱間圧延に供する。なお、スラブを再加熱する場合には、再加熱温度は、1000℃以上1300℃以下程度とすることが望ましい。というのは、1300℃を超えるスラブ加熱は、スラブの段階で鋼中にインヒビターをほとんど含まない本発明では無意味で、コストアップとなるばかりか、スラブでの結晶粒径を粗大化させ、(001)<110>の形成を助長することとなる。一方1000℃未満では、圧延荷重が高くなり、熱間圧延自体が困難となるからである。
時効効果による集合組織の改善は、ある程度の転位密度が必要である。また、そもそも圧下率の低い状態でオイルピットが形成されても、後の圧延で表面は平滑化され、凹凸が残ることはほとんどない。従って、本発明では、低圧下率の範囲は対象となりえない。他方、オイルピットの形成は、1パス当りの圧下率が高いほど生じやすいため、総圧下率で50%を超えた圧延後半部分での最も圧下率の高い圧延パスが対象となる。
圧延油の動粘度は、圧延油自身の温度によって変動するため、吹き付ける圧延油温度を高めることで、油の動粘度を低下させ、ロールバイト中への油引き込み量を低減することができる。また、集合組織の改善の観点からは、鋼板が高い温度を維持し、鋼中の固溶元素の拡散速度を高めた状態で圧延することによって、動的時効効果が得られやすくなる。
従って、本発明では、鋼板温度を高めることで、吹き付けた圧延油の温度を高め、ロールバイト中への油引き込み量を低減できるのと同時に、鋼板の集合組織の改質を達成することができるのである。
本発明に従い、圧延板での光沢度を高めることで、二次再結晶安定性のばらつきが低減できるが、歪み速度を適正な範囲で圧延することで集合組織の改質と共にオイルピットを抑制し、光沢度を高めることができる。
そして、本発明の冷延鋼板の表面光沢度については、Gs20で80以上とする。Gs20を80以上にすると、増硫処理の際に、増硫量が局所的に増加してしまうような凹凸が多く存在する場所の形成が効果的に制御されるため、二次再結晶の安定発現につながるからである。なお、表面光沢度の上限について、特に制限はないが、400超を実現しようとした場合、歪み速度を下げるためにライン速度の制約が大きくなるので、400程度までが好ましい。また、本発明の製造方法以外の方法で、鋼板の集合組織の作り込みと光沢度の向上を両立できる場合には、さらに高い光沢度としてもよい。
本発明では、この二次再結晶焼鈍工程において、均一な二次再結晶組織を発現させるために二次再結晶焼鈍工程の昇温過程において増硫処理を行う。そのために本発明では、上記の焼鈍分離剤中に、アルカリ金属やアルカリ土類金属や遷移金属の硫化物および/または硫酸塩を含有させる。
また、平坦化焼鈍により、鋼板の形状を整えることも可能であり、さらにこの平坦化焼鈍を絶縁被膜の焼き付け処理と兼備させることもできる。
かくして、本発明に従う方向性電磁鋼板を得ることができる。
C:0.024%、Si:3.3%、Mn:0.04%を含有し、S、Se、0を各々50ppm未満、Nを25ppm未満に抑制し、残部は、Feおよび不可避的不純物からなるインヒビター成分を含有しない鋼スラブを、1100℃に加熱後、熱間圧延により板厚:2.3mmと2.Ommの熱延板とした後、1060℃、30秒の熱延板焼鈍を施した。その後、ロール径:350mmのリバースミルによって、5パスで最終板厚:0.27mmとした。圧延は表1に示した圧延パススケジュールで行ない、圧延速度を変更することで歪み速度も変更した。また圧延後に吹き付ける油(クーラント)の使用量を変更することによって鋼板温度を制御した。
得られた圧延コイルの長手方向より、500m間隔で4箇所の位置から、それぞれ供試材として1条件につき5枚の100mm×300mm試験片を切り出し、計20枚のサンプルを得た。得られたサンプルは、全てレーザー粗度計を用いてRaを測定した後、JIS−Z8741に従い光沢度を評価した。光沢度は入射角を20度とするGs20で評価した。
これに、均熱温度:840℃、均熱時間:100秒の一次再結晶焼鈍を施した。一部サンプルは通電加熱炉を用いて、500〜700℃間の昇温速度が70℃/sとなる急熱処理を行なった。また、他試料についてもNH3ガス雰囲気中で700℃×2分のバッチ処理を行なうことにより窒化処理を行なった。
C:0.020%、Si:3.34%、Mn:0.04%を含有し、Se、0を各々50ppm未満、Alを50ppm、Nを40ppmまで抑制し、Sを20ppmに低減し、さらに種々の添加元素を表2に示すように添加し、残部は、Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを得た。スラブは、1250℃に加熱後、熱間圧延により板厚:2.4mmの熱延板とした後、1060℃、10秒の熱延板焼鈍を施し、4スタンドタンデム圧延機の前半2パスで、圧下率を50%以上とし、3パス目で最高圧下率:42%とするパススケジュールで最終板厚:0.29mmとした。その他の圧延条件は表2に示したとおりである。実施例1と同様に、得られた圧延コイルより長手方向に、500m間隔で4箇所の位置から、それぞれ供試材として1条件につき5枚の100mm×300mm試験片を切り出し、計20枚のサンプルを得た。得られたサンプルに対し、全てJIS−Z8741に従って入射角を20度とする光沢度:Gs20で、鋼板の光沢度を評価した。また条件No.1〜8についてはS増量を評価するため、1条件につき6枚ずつ計24枚のサンプルを作製した。
ついで、均熱温度:900℃、均熱時間:20秒の一次再結晶焼鈍を施した。ここで、一部サンプルについては、通電加熱炉を用いた急熱処理(500〜700℃間の昇温速度が70℃/s)とNH3ガス雰囲気中で700℃×2分のバッチ処理による窒化処理を施した。
次に、鋼板にMgOを主剤とする焼鈍分離剤を塗布し、種々の硫酸塩、硫化物を添加し二次再結晶焼鈍に供した。条件No.1〜8については、二次再結晶に供した24枚の試料のうち、4枚を900℃で降温し、化学分析により鋼中のS量(900℃引出増硫量)を定量した。
試験結果として、試験片20枚のW17/50の平均値とその標準偏差を表2に併記する。
Claims (5)
- 質量%および質量ppmで、C:0.10%以下、Si:2.0%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.5%以下を含有し、かつ、Al:100ppm未満、S、Se、OおよびN:各50ppm以下に抑制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板に熱延板焼鈍を施した後、中間焼鈍を行わずに総圧下率:85%以上となる冷間圧延によって冷間圧延板とし、該冷間圧延板に一次再結晶焼鈍を施し、二次再結晶焼鈍時の焼鈍分離剤にMgOと共に、硫化物および/または硫酸塩を含有させることにより、二次再結晶焼鈍工程の昇温過程における鋼板に対して2質量ppm以上200質量ppm以下の増硫処理を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記冷間圧延時、総圧下率が50%を超えた後の圧延のうち、1パス当たりの圧下率が25%を超える圧延を少なくとも1パス以上行うと共に、最も圧下率の高いパスでの歪速度を6×102s-1以下とし、さらに該最も圧下率の高いパスにおける直前の鋼板温度を130℃以上として、上記冷間圧延板を、表面光沢度:Gs20で80以上とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 前記焼鈍分離剤中に含有させる硫化物および/または硫酸塩の量を0.2〜15質量%の範囲とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記冷間圧延板の一次再結晶焼鈍において、500〜700℃間の昇温速度を50℃/s以上とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項において、一次再結晶焼鈍中、あるいは一次再結晶焼鈍後に窒化処理を行なう方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼スラブに、さらに質量%で、
Ni:0.005〜1.50%、
Sn:0.01〜0.50%、
Sb:0.005〜0.50%、
Cu:0.01〜0.50%、
Cr:0.01〜l.50%、
P:0.0050〜0.50%、
Nb:0.0005〜0.0200%および
Mo:0.01〜0.50%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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