以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
<ラインプリンタの概要>
図2は、本発明の実施形態に係る記録装置A1の概略構成を示す説明図である。記録装置A1は、インクジェット式のラインプリンタであり、制御ユニットA2、インクカートリッジA61〜A64、記録ヘッドA7、および記録媒体搬送機構A8などを備えている。インクカートリッジA61〜A64は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の色を表す各インクに対応している。
記録ヘッドA7は、搬送される記録媒体の幅全体の長さにわたって記録可能に構成されたラインヘッドタイプの記録ヘッドであり、記録媒体と対向する面に、記録媒体の搬送方向と直交する方向に配置されたサーマル方式の複数のノズルを備えている。インクカートリッジA61〜A64内の各インクは、インク導入管A61a〜A64aを通じて記録ヘッドA7のノズルに供給され、これらのノズルからインクが吐出されて、記録媒体A100に記録が行われる。
記録媒体搬送機構A8は、紙送りモーターA81と紙送りローラーA82とを備えている。紙送りモーターA81は、紙送りローラーA82を回転させることで、記録媒体A100を記録ヘッドA7の記録位置まで紙送りローラーA82の回転軸と直交する方向に搬送する。
制御ユニットA2は、CPU(A3)とRAM(A41)とROM(A42)とによって構成されており、上述した記録ヘッドA7や紙送りローラーA81の動作を制御する。CPU(A3)は、ROM(A42)内に記憶された制御プログラムをRAM(A41)に展開して実行することで、後述する画像に対するさまざまな処理を行い、記録ヘッドA7で記録する画像データの生成や、前記記録媒体搬送機構の制御などを行う。
図3(a)および(b)は、記録ヘッドA7の詳細構成を示す図である。図3(a)に示すように、本実施形態に適用可能な記録ヘッドの1つの例として、記録ヘッドA7は、インクを吐出する複数のノズルからなるノズル列を複数有する記録チップA71、A72、A73、A74をノズル列方向に並べて構成される。これらの記録チップから吐出されるインク滴は、紙送り(記録媒体の搬送)とインクの吐出タイミングとを調整することにより、記録媒体において記録媒体搬送方向に延びる同一ラスターに記録ドットを形成することができる。
本例では記録ヘッドA7はインク色毎に設けられているものとしたが、本発明においてはこれに限定されず、1つの記録ヘッドで複数の色のインクを吐出可能な構成としてもよい。
本例では記録ヘッドにおける記録チップの数は4つとしたが、本発明においてはこれに限定されない。また、本例では、複数の記録チップは千鳥状に配置されているが、本発明においてはこれに限定されず、例えば一直線上に形成されていてもよい。
図3(b)は、記録ヘッドA7を構成する複数の記録チップのうち、記録チップA71を説明する概略図である。記録チップA71は、複数のノズルにより構成されるノズル群として4つのノズル列A71a、A71b、A71c、A71dを備えている。本例では、記録チップA72〜A74も、それぞれ、記録チップA71と同様に構成されている。
本例では、各記録チップがノズル群として4列のノズル列を持つ構成とした。しかしながら、本発明においては、各記録チップが2列以上の複数のノズル列を有する構成であれば、これに限定されない。
また、本実施形態の記録装置A1はサーマル式の記録ヘッドとした。しかしながら、本発明においてはこれに限定されず、複数の記録ドットを同一のラスターに形成して画像データの記録を行うことのできるラインヘッドであればよい。例えばピエゾ式など他のインク吐出方式のインクジェット式記録ヘッドであってもよい。さらに、インク色も、前述したC、M、Y、K以外であってもよい。
<画像処理部および画像処理の概要>
図1および図2を参照しつつ、図4のフローに基づいて、本発明の第1の実施形態の画像処理の流れを説明する。図1は、本発明の実施形態の画像処理部の概要を示すブロック図である。図2は、上述のとおり、本発明の実施形態に係る記録装置A1の概略構成を示す説明図である。図4は、本発明の実施形態の画像処理の概要を説明するフロー図である。
図4のステップD01は、画像取得のステップである。ステップD01において、図2の制御ユニットA2は、図1の画像入力部A31を用いて、図2のメモリーカードA91より記録すべき画像データを読み込む。本発明の第1の実施形態の画像処理における画像データは、解像度600dpi、R(赤)、G(緑)、B(青)各色8bit、256階調のカラー画像であるものとする。しかし、本発明は、モノクロ画像データに対しても、同様に適用することができる。
図4のステップD02は、色変換処理のステップである。ステップD02において、図1の色変換処理部A32は、ステップD01で読み込んだ画像データについての色変換処理を行い、解像度600dpi、C、M、Y、K各色8bit、256階調のデータへと変換する。本明細書において色変換処理とは、R、G、Bの各階調値の組み合わせによって表現されているRGBカラー画像を、記録のために使用される各色の階調値によって表現されたデータに変換する処理である。前述したように、記録装置A1はC、M、Y、Kの4色のインクを用いて画像を記録する。そこで本実施形態において、色変換処理部A32は、R、G、Bで表された画像データをC、M、Y、Kの各色の階調値によって表現されたデータに変換する処理を行う。
図4のステップD03は、入力画像補正処理のステップである。ステップD03において、図1の入力画像補正部A33は、ステップD02で変換された各色の階調データ毎に、階調データ画像内の各画素のインク濃度を予測し、画像補正を行う。ステップD03における入力画像補正処理は、本発明において特徴的な構成であり、詳細に後述する。各画素の補正処理が終了すると、図4のステップD04に進む。
図4のステップD04は、量子化処理のステップである。ステップD04において、図1の量子化処理部A34を用いて量子化処理を行う。この量子化処理は、画像データの高い階調数を、記録装置A1で記録可能な低い階調数にする処理、すなわち、階調値を適切に低減させる処理である。本例では、8bit、256階調の画像データを5値にするものとして説明する。一般的に、量子化処理としては誤差拡散法やディザ法が用いられることが多い。
ここで、図11(a)および(b)を参照して、本発明の実施形態に適用可能な量子化処理方法を説明する。図11(a)は、一般的な誤差拡散処理フローを示す図であり、図11(b)は、閾値(threshold)と、出力Level(Out)と、評価値(Evaluation)と、の関係を示す説明図である。図11(a)および(b)を用いて、5値の多値誤差拡散処理について説明する。
まず、図11(a)を参照して、画像濃度値(In)と周辺画素からの拡散誤差値(dIn)とを加算して、補正濃度値(In+dIn)を得る。そして、比較器にて、求めた補正濃度値(In+dIn)と閾値(threshold)とを比較し、補正濃度値の値に応じて閾値により定められた出力Level(Out)を出力する。これを図11(b)の説明図を用いて具体的に説明する。求めた補正濃度値(In+dIn)が「32以下」であれば、補正濃度値の値に応じて定められた出力Level(Out)は「Level0」であるので、これを出力する。以下同様であり、例えば、補正濃度値(In+dIn)が「32より大きく96以下」であれば、出力Level(Out)として「Level1」を出力する。
再度図11(a)を参照して、次に、補正濃度値(In+dIn)から評価値(Evaluation)を引いた多値化誤差(Error=In+dIn-Evaluation)を算出する。算出した多値化誤差を周辺画素へ拡散させるために、重み付け演算を行って誤差バッファに加算する。ここで、図11(b)を参照して、出力Level(Out)と評価値(Evaluation)との関係を説明する。出力Level(Out)が「Level4」であれば、評価値(Evaluation)は「255」となる。以下同様に、評価値(Evaluation)は、出力Level(Out)が「Level3」なら「192」、「Level2」なら「128」、「Level1」なら「64」、「Level0」なら「0」となる。
再度図11(a)を参照して、次に、注目する画素位置に拡散された誤差値を誤差バッファから取り出し、重み係数の総和で正規化し、次の画素の拡散誤差(dIn)とする。以上の処理を全画素について繰り返し実行する。以上のようにして、8bit、256階調のデータを、記録装置A1で記録可能な5階調へと量子化する。
図4に戻り、画像処理の流れの説明を続ける。図4のステップD05は、ドット記録配置および使用ノズル列を決定するステップである。ステップD05において、図1のドット記録位置・使用ノズル列決定部A35を用いて、ステップD04で記録画素単位で低階調に量子化された量子化データ後の画像データから、記録画素内に記録するドットの配置とドットの記録に使用するノズルとを決定する。
図12(a)〜(d)を参照して、記録ドット配置および使用ノズル列について説明する。図12(a)〜(d)は、記録画素の解像度が600dpiで出力Level0〜4の5値の量子化後の画像データを解像度が1200dpiのドットパターンで表すための、ドット記録位置と各ドット付与に使用するノズルのノズル列とをパターンで示している。図12(a)〜(d)は、それぞれ出力LevelがLevel1〜4の場合に相当する。出力LevelがLevel0の場合については、付与するドットが存在しないため、図示を省略している。図12(a)〜(d)中、実線で描かれる正方形は、解像度600dpiの1つの記録画素を示す。解像度600dpiの1つの記録画素は、図中、点線によって、解像度1200dpiの4つの小さな正方形に4分割されている。ドットの記録は、解像度1200dpiの正方形のうちのいずれかの位置に対して行われる。図中、アルファベットが記入された解像度1200dpiの正方形の位置は、ドットを記録するドット記録位置に相当する。また、図中のアルファベットa〜dは、各ノズル列71a〜71dの番号の末尾のアルファベットに対応しており、その位置のドットをどのノズル列のノズルを使用して付与するかを示す。
例えば、量子化処理後の結果、出力LevelがLevel1となった場合、解像度600dpiの記録画素内には、1画素につき1ドットのドットが記録される。このとき、1つの記録画素内におけるドット記録位置は、図13(a)〜(d)に示されるように、「左上」、「左下」、「右下」、および「右上」のいずれかとなる。このドット記録位置は、図12(a)に示すパターンに従い、ノズル列71a、71b、71c、および71dのいずれかのノズルに割り振られる。すなわち、ドット記録位置が「左上」のドットは、図12(a)に示されるアルファベットaに従ってノズル列71aのノズルに割り振られ、ノズル列71aのノズルで記録されることになる。ドット記録位置が「左下」のドットは、図12(a)に示されるアルファベットbに従ってノズル列71bのノズルに割り振られ、ノズル列71bのノズルで記録されることになる。同様に、ドット記録位置が「右下」のドットはノズル列71cのノズルに、記録位置が「右上」のドットはノズル列71dのノズルに割り振られ、それぞれこれらのノズルで記録されることになる。
図4のステップD05では、このように、図12(a)〜(d)に示すパターンに基づいてドット記録位置および使用するノズル列の決定をまとめて行う。しかしながら、本発明においてはこれに限定されず、ドット記録位置の決定の処理および使用するノズル列の決定の処理を、それぞれ個々に行ってもよい。以後、図12(a)〜(d)に示すパターンをインデックスと呼ぶ。
インデックスは、図1のインデックス記憶部A51に記憶されている。図1のドット記録位置・使用ノズル列決定部A35は、インデックス記憶部A51からインデックス情報を受け取る。ドット記録位置・使用ノズル列決定部A35は、受け取ったインデックス情報に基づき、各ノズル列についてのドット記録位置を決定し、各ノズル列A71a〜A71dのそれぞれで記録するノズル列別記録データ(解像度1200dpi、2値)を生成する。
以上のようにして、図4に示す画像処理の一連のフローが終了する。図4のフローに従ってノズル列毎に生成されたノズル列別記録データを、各記録チップの各ノズル列A71a〜A71dに送付し、記録媒体上に複数の記録ドットを形成することで、画像の記録が行われる。詳細には、図2の紙送りモーターA81を駆動し、この動きに合わせて、ノズル列別記録データに基づいて記録ヘッドA7からインク液滴を吐出する。
このように、図4のフローによると、量子化処理(ステップD04)前に1度のみ画像補正処理(ステップD03)がなされた画像データが得られる。
ここで、先程保留していた図4のステップD03の入力画像補正処理の詳細な説明を行う。図4のステップD03では、インク濃度を予測して画像補正を行う。以下、インク濃度の予測と画像補正とに分けて処理を説明する。
<インク濃度の予測>
まず始めにインク濃度の予測について説明する。本実施形態において、インク濃度の予測にはインクの濃縮の度合いを示す積算値を用いる。
記録を行う際のノズル内のインクの濃縮の度合いは、画像内の各画素に付与するインクの量によって変化する。
画像において画像処理を行おうとしている画素(以下、注目画素という)に対して記録するドットの数がゼロの場合は、ノズルからインクは吐出されないので、ノズル内のインクの濃縮は進む。以下、記録するドットの数がゼロの画素を「空白画素」というものとする。
記録装置の記録動作において、記録を行っていく向き(プリント方向)に、空白画素がしばらく連続した後、インクを付与すべき画素が出現して、インクのドットが記録される場合を考える。ノズルから1発目に吐出されるインクは、濃縮が進んでいて、このインクにより記録される1つ目のドットの記録濃度は高い傾向がある。この1つ目のドット記録のために、濃縮したインクは消費されるので、同一のノズルから続いて2発目に吐出されるインクの濃縮の程度は、1発目に吐出されるインクの濃縮の程度よりも小さくなる傾向がある。したがって、2発目に吐出されるインクにより記録されるドットの記録濃度は、1発目に吐出されるインクにより記録されるドットの記録濃度と比べて低くなる傾向がある。
図8は、プリント方向において連続する空白画素の数と、インクの濃縮の度合いと、の関係を表したグラフである。詳細には、横軸は、前回インクを吐出した画素から次にインクを吐出する画素までの間の空白画素の数を示す。空白画素の数と、走査速度(ラインプリンタにおける搬送速度)との関係から、横軸を時間として表現することもできる。また、縦軸は、インクの濃縮の度合いを表す指標として、濃縮されていない状態のインクで記録されたドットの光学濃度に対するその時点のインクで記録されたドットの光学濃度の倍率(以下、単にインク濃縮倍率ともいう)を示す。図8中、実線で示されるグラフは、1つのノズルがインクを吐出しないまま所定の数だけ空白画素が続いた後にインクを1発吐出して形成した1つ目のドットについてのグラフである。また、破線で示されるグラフは、1つのノズルがインクを吐出しないまま所定の数だけ空白画素が続いた後にインクを2発連続して吐出して形成した2つのドットのうちの2つ目のドットについてのグラフである。以下、実線グラフおよび破線グラフを参照して、記録されるドットの濃度の変化を説明する。
図8において、空白画素数が0のとき、すなわちインクの濃縮が進んでいない段階で形成されるドットの記録濃度は、1つ目のドットも2つ目のドットも同一の濃度aである。この段階でのインク濃縮倍率は、1である。また、画素数Cbだけ空白画素が続いた後に形成されるドットの記録濃度は、1つ目のドットが濃度bであり、2つ目のドットが濃度b’である。前述のように、1つ目のドットは濃縮したインクで記録が行われるので記録濃度が高く、2つ目のドットは、1つ目のドットの記録のために濃縮したインクが消費された後のインクで記録が行われるので、記録濃度が低くなっている。すなわち、記録濃度については、式b>b’の関係が成り立つ。また、インク濃縮倍率については、式Pb>Pb’>1の関係が成り立つ。同様に、画素数Ccだけ空白画素が続いた後に形成されるドットの記録濃度は、1つ目のドットが濃度cであり、2つ目のドットが濃度c’である。このとき、記録濃度については式c>c’、およびインク濃縮倍率については式Pc>Pc’>1の関係が成り立つ。
このように、2つ目のドットについての破線グラフにおいて画素数Ccだけ空白画素が続いた後に形成されたドットの記録濃度は濃度c’であり、これは、座標(Cc,Pc’)として示される。図8を参照して、1つ目のドットについての実線グラフにおいては、座標(CQ,Pc’)で示される点Qにおいて、記録濃度がこれと同等の濃度c’となる。したがって、この2つ目のドットは、画素数CQだけ空白画素が続いた後の1発目の吐出により記録されたドットと、記録濃度が同等であり、記録に用いられるインクの濃縮の度合いが同等であるものとして扱うことができる。すなわち、この2つ目のドットを記録した後に空白画素が続く場合は、インクの濃縮は、点Qを基点として、実線グラフの描く曲線に従って進む。また、この2つ目のドットを記録した後に続けて3発目のインクの吐出を行って3つ目のドットが記録される場合は、3つ目のドットの記録濃度は、点Qを通って横軸に直交する線が破線グラフと交わる点(X座標CQ)における濃度となる。
以上、使用されるノズルが1つである場合について説明した。1つのドット記録位置に対して使用可能なノズルが1つである場合は、注目画素よりも前に記録走査される画素の情報と注目画素で形成されるドットの配置とから、図8のグラフに従い、インクの濃縮倍率および注目画素内のドットの記録濃度を求めることができる。
ここで、複数のノズルを配列してなるノズル列を複数備える記録ヘッドでドットを記録する場合を考える。本例では4列のノズル列を備える記録ヘッドで記録を行う。図4のステップD03の画像補正においては、4列のノズル列のうちのどのノズルでドットが記録されるかは、特定できない。この場合に図8に例示されるグラフをそのまま適用しようとすると、どのノズルからインクが吐出されるかが分からないため、記録に用いられる各ノズル内のインクの濃縮の度合いが不明となり、画素に付与されるドットの記録濃度を正確に求めることはできない。
本発明では、複数のノズル列を備える記録ヘッドで記録を行う場合に、画像データの色分解後の記録濃度信号の入力値に基づく画素に付与するドット数と、図8から求められるドット記録濃度とから、画素に付与されるドットの記録濃度を確率的に計算して求める。
まず、図9(a)および(b)を用いて、本発明の第1の実施形態の画像処理における画像データ、およびインク濃度の予測を説明する。
図9(a)を参照して、画像処理の対象となる画像データについて説明する。図9(a)は、空白画素が続いた後に、色分解後の入力値が64である均一なベタ画像を記録する画像データを示す。以下、画像データの色分解後の入力値を、単に「入力値」ともいう。図中斜線を引いた部分にインクが付与される。図9(a)における左右方向は、図2に示す記録装置A1における記録媒体搬送方向(以下、単に搬送方向ともいう)に対応する。図9(a)に示す右向きの矢印は、プリント方向を示し、この方向に沿って画像処理を行う。入力値64の画像データは、5値への量子化の後は、解像度が600dpiの記録画素に対しドットを1つ付与するデータとなっている。
図9(b)は、図9(a)に示されるベタ画像E01周辺の画像データの拡大図である。画素E10、E11、およびE12は、それぞれ、解像度が300dpiの画素を示す。本実施形態においては、解像度が300dpiの画素の画像データ毎に画像補正処理を行うものとし、この画素を、処理画素または補正対象領域ともいう。1つの処理画素は、解像度が600dpiの記録画素を4つ(2×2画素)含む。画像処理は、プリント方向に沿って、1つの記録画素の幅を1行とした行単位毎に、2記録画素ずつ行う。すなわち、例えば補正対象領域として画素E11に注目するとする。この場合、図中、上側の2画素(E111およびE112)についての画像処理と、下側の2画素(E113およびE114)についての画像処理とを独立して行う。
なお、本実施形態では、画像処理を行う画素単位を記録画素で2画素としたが、本発明においては画像処理を行う画素単位は2画素に限定されない。また、本実施形態では画像処理を行う行単位を1行としたが、本発明においては画像処理の行単位は1行に限定されない。
続いて、本実施形態におけるインク濃度の予測を具体的に説明する。本実施形態では、上述のように、画像処理を、搬送方向に沿って行毎に記録画素2つずつ行う。記録画素中に存在するドットの記録濃度の平均を、インク濃縮の積算値(以下、単に積算値ともいう)として定義する。本実施形態では、2つの記録画素についての積算値に基づいて、インク濃度予測および画像補正処理を行う。
図9(b)に示す処理画素E11内の上側の行の画素E111に最初に付与されるドットは、使用されるノズルに関わらず、空白画素が続きインクの吐出がしばらく行われていなかった後の1発目のインクの吐出により形成されるドットとなる。画素E111において、1つ目のドットが、画素数Ccだけ空白画素が続いた後に形成されたものとすると、図8より、このドットの記録濃度は濃度cである。このとき、インク濃縮の積算値は、下式(1)で表すことができる。
1つ目のドットについてのインク濃縮の積算値
=1発目のドットの記録濃度c ・・・(1)
入力値に従って画素E111には1ドットのみしか記録されないので、式(1)に示される濃度cがそのまま画素E111についてのインク濃縮の積算値となり、その値は、図8のグラフから直接的に求めることができる。
次いで、画素E112においても、入力値に従ってドットが1ドットのみ記録される。このとき、画素E112において、ドットは、図13(a)〜(d)に示す4つのドット記録位置のいずれかに配置される。ここで、記録ヘッドには4つのノズル列があり、使用されるノズル列においては2つのノズルのうちのいずれかのノズルが使用される。そのため、画素E112に対してインクの吐出が可能なノズルは合計で8つある。そのうちの1つは、画素E111のドットを記録したノズルと同一のノズルである。画素E112のドットが、画素E111のドットを記録したノズルと同一のノズルからインクを吐出することにより記録される場合は、その吐出はそのノズルにとっての2発目の吐出となる。また、1発目の吐出を行ったノズルとは別のノズル、すなわち、合計8つのノズルのうちの7つのノズルのいずれかからインクが吐出される場合は、それより前は空白画素が続いていたのであるから、その吐出は、その別のノズルにとっての1発目の吐出となる。
したがって、このときのインク濃縮の積算値は、下式(2)により確率的に計算することができる。
2つ目のドットについてのインク濃縮の積算値
=1発目のドットの記録濃度c×7/8+2発目のドットの記録濃度c’×1/8 ・・・(2)
画素E112では1ドットしか記録されないので、式(2)に示される記録濃度がそのまま画素E112についてのインク濃縮の積算値となる。
処理画素E11内では、上側の行の2つの記録画素である画素E111および画素E112に合計2つのドットが記録される。そのため、画素E111および画素E112の2つの記録画素についてのインク濃縮の積算値は、式(1)および(2)の平均となり、下式(3)で表すことができる。
画素E111および画素E112についてのインク濃縮の積算値
=(式(1)+式(2))/2
=(15c+c’)/16 ・・・(3)
このように、まず、直前の記録画素までで吐出されるインクの発数を数える。次いで、注目する記録画素に対するインクの吐出に用いられるノズルとそのノズルからのインクの発数とを確率的に決定し、図8に従ってドットの記録濃度を当てはめる。これにより、各記録画素についてのインク濃縮の積算値を求めることができる。また、複数の記録画素を含む処理画素についてのインク濃縮の積算値を、画像処理単位(ここでは、1行×2画素)毎に、画像処理単位に含まれる記録画素についてのインク濃縮の積算値の平均値として、求めることができる。
処理画素E11の下側の行の2つの記録画素である画素E113および画素E114についても、同様にして、各記録画素についてのインク濃縮の積算値、および2つの記録画素についてのインク濃縮の積算値を求めることができる。
したがって、処理画素E11の上側の行の2つの記録画素についてのインク濃縮の積算値と、下側の行の2つの記録画素についてのインク濃縮の積算値とから、処理画素E11の全体としてのインク濃縮の積算値を、両者の平均値として計算することができる。
ここで、本実施形態では、直前の処理画素についてのインク濃縮の積算値と、注目画素についての入力値とから、直前の処理画素についてのインク濃縮の積算値からの積算値の変化量を、例えば後述するルックアップテーブルを参照して求める。そして、この変化量を加算すべき積算値として、注目画素についてのインク濃縮の積算値を更新する処理を行う。画素E11で加算すべき積算値は、下式(4)で表すこともできる。
画素E11で加算すべき積算値
=画素E11についての積算値− 画素E10についての積算値 ・・・(4)
図5(a)は、注目画素についての入力値と直前の画素についてのインク濃縮の積算値とを、注目画素についての入力値において加算すべき積算値に対応付けたルックアップテーブルである。以下、このテーブルを、積算値変化量テーブルと呼ぶ。本実施形態の例におけるインク濃度の予測は、次のようにして行われる。まず、注目画素についての入力値と直前の処理画素についてのインク濃縮の積算値とから、積算値変化量テーブルを参照して、積算値の変化量を求める。次に、注目画素についてのインク濃縮の積算値に、求めた積算値の変化量を加えて、注目画素についてのインク濃縮の積算値を更新する。
具体的には、図5(a)を参照して、入力値が0の場合は、積算値の変化量はインクの濃縮を表すプラスの値すなわち増分(本例では、100)となる。また、入力値が0より大きい場合は、インクが吐出されてインクの濃縮が解消される方向に進むため、積算値の変化量は、インクの濃縮の解消を表すマイナスの値すなわち減分となる。
図9(b)の例において、例えば処理画素E11の直前の処理画素E10についてのインク濃縮の積算値が3000であるものとする。このとき、処理画素E11中の記録画素に対して入力値32でドットが付与される場合、図5(a)の積算値変化量テーブルから、積算値変化量として−1000が得られる。この減分の値を直前の処理画素についてのインク濃縮の積算値に加算して、処理画素E11についてのインク濃縮の積算値を2000に更新する。このようにして、インク濃縮の積算値は、注目画素についての入力値に基づいて予測され、予測されたインク濃縮の積算値に基づいて、画像の補正処理が行われる。
<画像補正処理>
続いて、上述のようにして予測されたインク濃縮の積算値を基に行う、図4のステップD03における画像補正処理について説明する。
図10は、入力値(横軸)と、その入力値で記録したドットの明度(L*)(縦軸)との関係を表している。図10中、実線で示されるグラフは、図8における、1発目の吐出により記録されるドットの記録濃度が濃度aとなる濃縮が進んでいないインクについての、入力値と明度(L*)との関係を示す。破線で示されるグラフは、図8における、1発目の吐出により記録されるドットの記録濃度が濃度bとなる濃縮が進んだインクについての、入力値と明度(L*)との関係を示す。また、一点破線で示されるグラフは、図8における、1発目の吐出により記録されるドットの記録濃度が濃度cとなる濃縮がさらに進んだインクについての、入力値と明度(L*)との関係を示す。
空白画素が続いて濃縮が進んだインクを用いる場合に、濃縮が進んでいないインクを用いる場合と記録されるドットの明度が同等となるように、入力値の補正値を決めることができる。
例えば、1発目の吐出により記録されるドットの記録濃度が濃度cとなる濃縮が進んだインクを用いて記録を行う場合を考える。この場合、図10より、1発目のドットの記録濃度が濃度aとなる濃縮が進んでいないインクを用いて入力値(記録デューティ)Icで記録を行った場合のドットの明度と同等のドットの明度が得られるのは、入力値I’cで記録を行った場合である。したがって、この例の場合には、入力値I’cが補正値となる。
図5(b)は、図10に基づいて入力値、インク濃縮の積算値、および入力値の補正値の関係をテーブルにした例である。以下、このようなテーブルを補正テーブルと呼ぶ。補正テーブルにおいては、入力値とインク濃縮の積算値の閾値との関係で、入力値の補正値が設定されている。入力値とインク濃縮の積算値の閾値との比較により、それぞれの入力値の補正値が選択される。図5(b)の補正テーブルでは、インク濃縮の積算値の閾値は500および1000に設定されている。例えば、注目画素についての入力値が64である場合、インク濃縮の積算値が1000以上である時は、入力値64は、補正値32に置き換えられる。同様に、インク濃縮の積算値が500以上かつ1000未満の時は、入力値64は、補正値48に置き換えられる。インク濃縮の積算値が500未満の時は、入力値は64のままとなる。
<補正テーブルの閾値決定方法>
続いて、補正テーブルに用いられるインク濃縮の積算値の閾値を決定する方法について説明する。
図15は、本実施形態における、記録ドットの実際の濃度変化と、インク濃縮の積算値の変化との関係を説明する図である。図15の横軸は、図9(a)に示す画像E01における画素の位置をあらわしている。画像E01の画素E10は、空白画素からなる画素であるので、画像補正処理は不要である。
画像E01の最初の補正処理画素E11の補正開始位置を位置0とする。実線グラフは、4つのノズル列の各列2つのノズルが順次使われて画像が記録される場合の、記録されたドットの実際のインク濃度変化を示す。また、破線のグラフは、インク濃度を予測する際に計算したインク濃縮の積算値の変化を示す。
実際の濃度変化においては、4つのノズル列の2つのノズルの全て(計8ノズル)から1ドットずつインクが吐出されて初めて濃度が下がる。そのため、実線グラフで示される実際の記録濃度はしばらく高いままである。これに対して、上述したように、各画素についてのインク濃縮の積算値は記録される可能性のあるドットの濃度の平均を取って求められる。そのため、破線グラフで示されるインク濃縮の積算値は、インクの吐出が行われるにつれ、徐々に下がる。その結果、ドットの記録濃度の実際の変化とインク濃縮の積算値の変化とはずれてくる。
したがって、このようにして計算したインク濃縮の積算値をそのまま参照して補正を行うと、4つのノズル列の計8つのノズルの使い方によっては、実際の記録濃度とずれて補正がされてしまい、濃度ムラが解消されない。これに対して、本実施形態では、実際のインク記録濃度の変化に合わせて、インク濃縮の積算値の閾値を決定する。これによると、計算したインク濃縮の積算値によっても、実際のインク記録濃度の変化の場合と乖離することなく、補正値が切り替わる補正テーブルを作成することができる。図15に示す例の場合は、実際のインク記録濃度が低くなるタイミングに合わせて、積算値が1000の部分と500の部分とに閾値を設定している。このようにして補正テーブルの閾値を決定する。
<画像補正処理の詳細フロー>
以上に説明したインク濃度の予測と画像補正方法とに基づいた、画像補正処理(図4のステップD03)を、図6および図7を用いて説明する。図6は、図1の入力画像補正部A33の詳細を示すブロック図である。図7は、図4のステップD03の画像補正処理の詳細を示すフロー図である。
記録ヘッドは、記録開始前に、ノズル内のインク濃縮を解消するためのメンテナンスとして、画像を形成しない吐出を行うものとする。したがって、記録開始時には、記録ヘッドの各ノズル内にインクの濃縮は起こっていないものとする。これに伴い、ノズル列A71a、A71b、A71c、およびA71dのノズルに対応するインク濃縮の積算値の初期値を、0(ゼロ)に設定しておく。インク濃縮の積算値は、積算値管理部(図6のA54)に記憶され、インク濃度の予測時に更新される。
まず、図7のステップD11で、入力画像補正部A33は、図6の積算値管理部A54の積算値カウンターからインク濃縮の積算値を参照する。次いで、ステップD12で、入力画像補正部A33は、ステップD11で参照した積算値と、注目画素についての入力値とから、補正テーブル記憶部A55に記憶してある補正テーブル(図5(b))内の補正値を参照する。次いで、ステップD13で、入力画像補正部A33は、画像補正部A52において、注目画素の入力値をステップD12で参照した補正値に置き換える。以上のようにして、注目画素についての入力値の補正を行う。注目画素の入力値を補正値に置き換える補正処理が終了すると、ステップD14に進む。
図7のステップD14では、ステップD13で入力値の補正を行った注目画素に対して、インク濃度の予測を行う。まず、図6の濃度予測部A53において、インク濃縮の積算値と注目画素についての補正値(すなわち、補正後の入力値)とから、積算値変化量テーブル記憶部A56に記憶された積算値変化量テーブル(図5(a))を参照して、対応する積算値変化量を求める。次いでステップD15で、入力画像補正部A33は、ステップD14で求めた積算値変化量を、追加積算値として、その時点で積算値管理部A54に記憶されている注目画素位置でのインク濃縮の積算値に対して加算する。このようにして、インク濃縮の積算値を更新する。
注目画素の入力値の補正とインク濃度の予測とが終わると、次の画素に進む。次の画素でも同様に、対象画素のインク濃縮の積算値と入力値とを参照し、入力値の補正とインク濃度の予測とを行い、積算値を更新する。この処理を繰り返し各画素について行うことで、記録時にインク濃縮による濃度ムラが発生し得る画素について、補正されたC、M、Y、K各色の階調データを得ることができる。
<画像データを用いた処理の説明>
図14(a)〜(f)を用いて、図4に示すフローの各ステップの処理前後の画像データを示しつつ、本実施形態の画像処理を説明する。本実施形態では、記録媒体の搬送方向に沿った2行(解像度600dpi/行)の画像データについて、プリントする順序に沿って、解像度600dpiで2×2画素ずつ画像処理を行っていく。説明のため、図9(a)および(b)に示すベタ画像E01部の画像データを参照する。
図14(a)は、図4のステップD01において読み込んだ、濃度信号値がR、G、B各色192のベタ画像のデータ({R,G,B}={192,192,192})を表す図である。
図14(b)は、ステップD01で読み込まれた図14(a)のベタ画像データを、図4のステップD02において、使用される4色のインク({C,M,Y,K})のそれぞれの階調値に変換した色変換後のデータを表す。ここでは説明の容易のため、インク色シアン({C})のみのデータを明示する。濃度信号値は192から64に変換されたものとし、変換後のデータである入力値({C}={64})が示されている。
図4のステップD02で色変換されると、ステップD03で、画像補正処理が順次行われる。まず、図9(a)に示される画像データの左上端から画像補正処理が行われる。画像補正処理はプリントする順序に沿って行われるところ、ベタ画像E01を構成する最初の記録画素が出現する部分までは空白画素が続く。空白画素は、入力値が0(ゼロ)の画素であり、ここではインクの吐出が行われないので、インクの濃縮が進む。そのため、インク濃縮の積算値はプラスの方向に変化する。図5(a)の積算値変化量テーブルを参照すると、入力値が0のとき、積算値の変化量は、プラス100である。インク濃縮の積算値は、初期値を0(ゼロ)として、空白画素が続く間は、本実施形態では2画素毎に100ずつ増加する。
空白画素が過ぎて、最初の記録画素を含む処理画素E11に到達したとき、直前の画素についての積算値は3000になっているものとする。画素E11で初めてインクが吐出されてドットが付与され、このとき、補正前の入力値は64であるものとする。図5(b)の補正テーブルを参照すると、積算値3000は閾値1000以上の値であるので、入力値の補正値は32である。したがって、注目画素についての入力値を64から補正値32に置き換える。 その結果が、図14(c)に示される。図14(c)は、最も左側の2×2画素、すなわち解像度600dpiの計4つの記録画素についての入力値が、画像補正処理により、他の画素についての入力値よりも小さくなっている場合の記録データを示す。この解像度600dpiの計4つの記録画素は、図9(b)に示す解像度300dpiの1つの処理画素E11に相当する。
ここで、インク濃度の予測を行う。図7のフローに従い、注目画素の補正値(補正後の入力値)とインク濃縮の積算値とを用いて、図5(a)の積算値変化量テーブルを参照する。補正値が32で積算値が3000の場合であるので、積算値変化量は−1000である。この積算値変化量は、注目画素についての積算値を求めるために、直前の画素についての積算値に追加すべき積算値の値である。したがって、直前の画素についての積算値3000に積算値変化量−1000を加えると、積算値は2000となり、これが注目画素についての積算値となる。この値により、積算値管理部A54の記憶が更新される。このように、図9(b)に示す処理画素E11についての処理が終わると、プリント方向すなわち画像処理方向下流である図9(b)における右側に移行し、隣接する処理画素E12についても同様にして補正処理を行う。この繰り返し処理により、図14(d)に示される補正処理後の画像データを得る。
図14(d)は、図4のステップD03において画像データを8bit、256階調から、画像記録装置A1で記録可能な階調数に変換した結果を示す図である。本例では、記録可能な階調数として5値を採用している。先に説明したように、図11(a)および(b)に示す誤差拡散処理により、入力値は、出力Levelに変換される。例えば入力値が64である画素については、入力値64({C}={64})は、出力Level1({C}={Level1})に変換される。また、入力値64が画像補正処理によって補正値(補正後の入力値)48または32に置き換えられた画素については、以下の変換が行われる。すなわち、まず補正値48({C}={48})は、図11(b)を参照して、閾値32を超え、かつ閾値96以下の値であるので、出力Level1に変換される。また、補正値32({C}={32})は、図11(b)を参照して、閾値32以下の値であるので、出力Level0に変換される。図14(e)は、このようにして得られた、図4のステップD04における量子化処理の結果を示す。誤差拡散処理に従い、Level1とLevel0とが入り混じった出力Levelとなっている。
Level0およびLevel1の階調値は、図12(a)に示すインデックスを用いて、1200dpiの位置毎の記録ドットの有無を示すデータに変換される。図14(f)は、図4のステップD05において決定したドット記録配置を示す。ドット記録配置はノズル列毎に割り振られ、使用するノズル列が決定される。これにより、4つのノズル列A71a〜A71dのノズル列毎の画像データが生成される。
以上の処理を行う本実施形態によれば、画像の濃度ムラの原因となり得る画素を量子化前に予測し、補正された画像データを得ることができる。これにより、軽い処理負荷で記録することが可能の画像形成装置を提供できる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態と共通する点については、説明を割愛する。
上述した第1の実施形態では、補正テーブルのインク濃縮の積算値の閾値を、記録濃度の実際の変化に合致させることによって決定している。しかしながら、画像補正処理を開始する画素(以下、補正開始画素という)の濃度によっては、共通する閾値を用いた場合に、入力値を補正するタイミングが本来補正すべきタイミングからずれることが考えられる。
図16(a)および(b)は、補正処理を開始する時点におけるインク濃縮の積算値がそれぞれ異なる場合の、補正時の積算値の変化を示す図である。各図において、実線グラフは、記録濃度の実際の変化を示し、点線グラフは、予測したインク濃縮の積算値の変化を示す。
図16(a)は、第1の実施形態で説明した構成でのインク濃縮の積算値の変化を示す。この例の場合、補正開始画素についての積算値は3000であり、閾値は、1000および500である。実際の濃度変化に合致させて閾値を決定しているので、積算値に基づく補正のタイミングと、実際の記録濃度に基づく補正のタイミングとに、ずれが生じていない。
これに対し、図16(b)は、補正開始画素についての積算値が1800の場合である。この場合は、積算値が3000の場合に決定した閾値(1000および500)をそのまま設定していると、積算値を判断基準として求める補正値は、実際の濃度変化に従う場合に補正値が切り替わるタイミングの前に、切り替ってしまうこととなる。その様子を、図16(b)中の破線円内に示す。すなわち、インク濃縮の積算値の閾値を、補正開始画素についての積算値が3000の場合の実際の濃度変化に合致させて設定すると、補正開始画素の積算値が3000以外の値である場合に、補正のタイミングがずれてしまう場合がある。補正の精度を向上させるために、第2の実施形態では、複数の補正テーブルを用いる。すなわち、補正テーブル記憶部A55(図17)には複数の補正テーブルが記憶されていて、補正開始画素についてのインク濃縮の積算値に基づいて、補正テーブルの1つが選択され(図19(a))、選択された補正テーブルに基づいて補正が行われる。
<補正開始画素の判断>
第2の実施形態においては、注目画素が補正開始画素かどうかを判断するシステムを備える。本例では、補正開始画素であるか否かの判断条件として、入力値に着目する。注目画素の入力値が所定値を超えていて、かつ入力値が所定値以下の画素が注目画素の直前の画素までで所定数(n個)連続している場合に、その注目画素を補正開始画素であると判断する。
判断条件として用いる入力値の所定値について、図20を用いて説明する。図20は、図10と同様に、入力値(横軸)と、その入力値でドットを記録した記録媒体についての明度(L*)(縦軸)との関係を表す。入力値が空白画素の入力値(すなわち、0(ゼロ))に近いほど、明度が高く、入力値が大きくなるほど、明度が低くなっている。入力値が小さく明度の高い画素領域では、記録媒体自体の白さ(以下、紙白という)の影響が大きく、記録画像の濃度ムラが視認されにくい。そのような領域では、濃縮度合が異なるインクを用いて記録して記録濃度が異なる場合の、明度L*のずれが小さくなる。
図20を参照すると、太い点線で囲まれた入力値が0からIpの範囲では、ドットの記録濃度が濃度a〜cの間では、記録画像の濃度ムラが視認されない。そのため、入力値0からIpの範囲では、インクの濃縮が進んでも、入力値の補正を行う必要がない。
したがって、補正開始画素であるか否かの判断条件としての入力値の所定値としては、インクの濃縮が進んでも記録画像に濃度ムラが認識されない範囲の入力値を設定する。
また、上述の所定数(n個)は、記録動作において、インクの濃縮が進み、次の画素についての入力値が所定値を超える場合に入力値の補正が必要となるインク濃縮の積算値に達するまでに記録走査を行う画素数である。インク濃縮の積算値が増えるか減るかは、注目画素よりも前の画素についての入力値に応じたドット発数によって決まる。そのため、所定数(n個)は、注目画素よりも前に記録走査を行う画素についての入力値に応じて変動する。
<画像補正処理のフロー>
図18は、第2の実施形態における図4のステップD03の画像補正処理の詳細を説明するフローである。図17は、第2の実施形態における入力画像補正部A33の詳細ブロック図である。以下、図17および図18を用いて、第2の実施形態における画像補正処理の詳細を説明する。
まず、図18のステップD21において、図17の入力画像補正部A33の画像補正部A52は、積算値管理部A54にあるインク濃縮の積算値を参照する。
次いで、図18のステップD22において、図17の所定位置以下画素判断部A58は、入力された多値の画像において、注目画素の入力値が所定値以下かどうかの判断を行う。所定値以下であれば、ステップD29に進む。所定値を超えていれば、その注目画素は補正開始画素であり、ステップD23に進む。
ステップD29において、入力値が所定位置以下の画素の数を計測する所定値以下画素計測部A59は、注目画素を入力値が所定位置以下の画素としてカウントし、ステップD26に進む。
ステップD23において、補正開始画素判断部A57は、上述した方法で、注目画素が補正開始画素かどうかの判断を行う。すなわち、補正開始画素判断部A57は、所定値以下画素計測部A59を参照し、前の画素までに入力値が所定値以下の画素が所定数(n個)連続しているかどうかの判断を行う。所定数連続しているならば、注目画素は補正開始画素であるとして、ステップD24に進む。所定数に達していないならば、注目画素は補正開始画素ではないと判断し、ステップD25に進む。
ステップD24において、画像補正部A52は、ステップD21で参照した、注目画素のインク濃縮の積算値に基づいて、補正テーブル記憶部A55に記憶されている複数の補正テーブルのうち1つを選択する。
ステップD25において、画像補正部A52は、選択された補正テーブルに基づいて、注目画素の入力値の補正を行う。
ステップD26において、濃度予測部A53は、注目画素の直前の画素についてのインク濃縮の積算値と、注目画素についての入力値または補正値とから、積算値変化量テーブルの積算値変化量(すなわち追加積算値)を参照する。
ステップD27において、ステップD26で参照した追加積算値を注目画素の直前の画素についてのインク濃縮の積算値に加算して、積算値管理部A54に記憶されたインク濃縮の積算値を更新する。
ステップD28において、次の画素があればステップD21に戻り、次の画素において画像補正処理とインク濃度の予測処理とを繰り返す。次の画素がなければ、補正画像を得て、図18に示す画像補正処理を終了する。
次いで、図4のステップD04の量子化処理に移る。ステップD04以降の処理については、第1の実施形態の場合と同様であるため、説明を省略する。
以上に説明した第2の実施形態において、選択された複数の補正テーブルは、それぞれの補正開始画素のインク濃縮の積算値において、図15を用いて説明した第1の実施形態と同様の方法で積算値の閾値を設定した補正テーブルである。図19(b)は、補正テーブルの例を示す。選択された補正テーブルを用いた画像補正手段により、注目画素の画像補正、すなわち濃度補正が行われる。濃度補正された注目画素の入力値と注目画素位置でのインク濃縮の積算値とから、インク濃度予測手段によりインク濃縮の積算値の算出が行われて、次の画素の画像補正処理に移行する。
図21(a)および(b)は、それぞれ補正開始画素のインク濃縮の積算値に基づいて決めた入力値補正のための積算値の閾値を設定した時の、積算値の変化を説明している。図21(a)および(b)では、どちらもドットの記録濃度が実際に切り替わるタイミングに対応した積算値の閾値が設定されているため、補正値のずれが起こらない。図21(a)に示す、補正開始画素の積算値が3000であるときは、図19(b)の補正テーブル1が選択され、以後補正テーブル1を用いて補正が行われる。図21(b)に示す、補正開始画素の積算値が1800であるときは、図19(b)の補正テーブル2が選択され、以後補正テーブル2を用いて補正が行われる。テーブル1とテーブル2とは、入力値と積算値の閾値との関係がそれぞれ違うテーブルであり、入力値の補正値が切り替わる積算値のタイミングが違っている。テーブル1は積算値1000および500、ならびにテーブル2は積算値700が閾値であり、閾値を境に入力値の補正値が切り替わる。
上述のように、図17の補正開始判断部A57により、補正開始画素であると判断されると、それぞれの補正開始画素の積算値において、実際の濃度変化に合致させた補正テーブルを選択する。これにより、第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加え、さらに、補正のずれの発生を抑制することができる。
上述の実施形態においては、記録装置A1内で画像データから記録ドット配置まで一連の処理を実施したが、本発明の構成はこれに限定されない。本発明のフローをホスト装置側で処理して、記録装置A1ではホスト装置から送られてきた画像データをそのまま記録してもよく、また、記録装置A1とホスト装置とで処理を分担してもよい。