図1に示すように、以下に説明する自動灌水システムは、水供給装置10と制御装置30とを備える。水供給装置10は、植物20を育成する圃場21に灌水するための水を供給する。制御装置30は、水供給装置10から圃場21に水を供給するタイミングおよび水の供給量を制御する。さらに、制御装置30は、処理部31と入力部32とを備える。処理部31は、水供給装置10への指示内容を生成する。この指示内容は、圃場21に植物20の播種または定植を行った後の所定期間において、所定期間の開始時に1回目の灌水を行い、かつ1回目の灌水を行った日の翌日以降で所定期間の終了までに2回目以降の灌水を行うように生成される。入力部32は、圃場21が保水可能な最大水量である最大灌水量に関する情報、および圃場21に灌水した後に圃場21から消失する水分量である消失量に関する情報が入力される。さらに、処理部31は、1回目の灌水における水の供給量である第1の供給量を最大灌水量から減算した値と、消失量とを用いて、2回目以降の灌水のタイミングを定める。
また、入力部32は、所定期間の開始直前における圃場21の保水量の情報が入力され、処理部31は、当該保水量を最大灌水量から減算した値を、第1の供給量に用いることが望ましい。さらに、入力部32は、圃場21の保水量の情報が、pF値の範囲を区分するpF計36の表示色に対応付けられた複数段階で入力されるようにしてもよい。
自動灌水システムは、圃場21の温度、照度、日射量のうちの少なくとも1種類を環境値として監視するセンサ35をさらに備えていてもよい。この場合、入力部32は、センサ35から環境値が入力され、処理部31は、2回目以降の灌水を、圃場21への前回の灌水の直後から環境値の累積値が所定の基準値に達した時点で行うことが望ましい。
また、制御装置30は、圃場21への灌水のタイミングを手動または自動で変更する変更部33をさらに備えることが望ましい。
以下、本実施形態をさらに詳しく説明する。ここでは、自動灌水システムが、図2に示す農業用ハウスに用いられる場合を例として説明する。ただし、以下に説明する自動灌水システムを、農業用ハウス以外の場所で使用することを妨げる趣旨ではない。
農業用ハウスは、植物20(図1参照)を育成する環境を整えることを目的としたハウス本体40を備える。ハウス本体40は、構造材としての金属製パイプを組み合わせて構成されたフレーム41と、フレーム41により支持された被覆材42とを備える。被覆材42は、透光性を有する(望ましくは、透明である)合成樹脂フィルムが用いられる。
ハウス本体40は、断面逆U字状に形成された断面半円状の屋根部400と、屋根部400を支持し互いに対向する一対の側壁部401,402と、側壁部401,402に直交し互いに対向する一対の妻壁部403,404とを一体に備える。ハウス本体40は、一対の妻壁部403,404を通る方向における寸法が、一対の側壁部401,402を通る方向における寸法に比べて十分(たとえば、10倍以上)に大きい。したがって、以下では、一対の妻壁部403,404を通る方向を長手方向といい、一対の側壁部401,402を通る方向を短手方向という。上述したハウス本体40は一例であって、ハウス本体40の構成を限定する趣旨ではなく、ハウス本体40に他の材料を用いることや他の形状に形成することを妨げない。
ハウス本体40を設置する向きにとくに制限はないが、土地の形状による制約がなく、かつ日照を妨げる障害物の影響を考慮しなくてもよい場合には、一般的には、短手方向を東西方向に向けるように設置される。これは、ハウス本体40の長手方向が東西方向に向いている場合よりも、短手方向が東西方向に向いているほうが、ハウス本体40の中で育成される植物に対する日照量の積算量にばらつきが少ないからである。
ハウス本体40は、内部に入射する外光を減光させる第1位置と、内部に入射する外光を減光させない第2位置との間で移動可能であるカーテン51を備える。また、ハウス本体40は、内部と外部との間で通気させる開位置と、内部と外部との間で通気させない閉位置との間で移動可能である窓52を備える。
ハウス本体40は、カーテン51として、屋根部400に沿って配置された天井カーテン510と、それぞれの側壁部401,402に沿って配置された側カーテン511とを備える。天井カーテン510は、第1位置と第2位置との間で移動することにより、屋根部400からの外光の入射量を調節する。側カーテン511は、第1位置と第2位置との間で移動することにより、側壁部401,402からの外光の入射量を調節する。
天井カーテン510と側カーテン511とは、第1の駆動装置(図示せず)により独立して駆動される。また、それぞれの側壁部401,402に設けられた側カーテン511も第1の駆動装置により独立して駆動される。第1の駆動装置は、モータのような動力源(図示せず)を備え、天井カーテン510と側カーテン511とにそれぞれ対応した駆動機構を備えている。
窓52は、それぞれの側壁部401,402に設けられる。窓52は、開度が調節されることにより、ハウス本体40の内部と外部との間で通気する際の空気の通気抵抗を調節する。ハウス本体40は、側壁部401,402のほかに、妻壁部403,404にも窓(図示せず)を備えていることが望ましい。
それぞれの側壁部401,402に設けられた窓52は、第2の駆動装置(図示せず)により独立して駆動される。第2の駆動装置は、モータのような動力源(図示せず)を備え、窓52にそれぞれ対応した駆動機構を備えている。
天井カーテン510、側カーテン511のそれぞれの位置を変化させると、外光を減光させる程度が変化し、ハウス本体40に流入する熱量が調節される。すなわち、天井カーテン510、側カーテン511をそれぞれ移動させることにより、ハウス本体40の内部温度の上昇速度が調節される。
一方、窓52のそれぞれの開度を変化させると、ハウス本体40の内部と外部との間で空気が流通する速度が調節される。つまり、窓52のそれぞれの開度を変化させることにより、ハウス本体40の内部と外部とで空気が入れ替わる速度が調節され、ハウス本体40の内部温度が調節される。したがって、ハウス本体40の内外に温度差があれば、窓52のそれぞれの開度を調節することにより、ハウス本体40の内部温度が調節される。また、ハウス本体40の内外の湿度に差があれば、窓52のそれぞれの開度を調節することにより、ハウス本体40の内部湿度も調節される。
上述のように、カーテン51の位置と窓52の開度とを適宜に調節することによって、ハウス本体40の内部温度と内部湿度とを変化させることが可能である。たとえば、夏季で晴天の日中であれば、天井カーテン510、側カーテン511を閉じ、かつ窓52の開度を大きくすれば、ハウス本体40の内部温度の上昇が抑制される。
ところで、ハウス本体40は、植物の育成環境を制御するために、圃場21に灌水するための灌水装置11を備え、さらに、植物20(図1参照)の上方にミストを発生させるミスト発生装置15を備える。また、ハウス本体40の妻壁部403,404の上部に、ハウス本体40の換気ないし送風を行うためのファン16が設けられる。
灌水装置11は、柔軟な素材で形成された散水チューブ111を備える。散水チューブ111は、側壁部401と圃場21との間および側壁部402と圃場21との間に、それぞれハウス本体40の長手方向に沿って配置される。散水チューブ111は、複数箇所に小孔(図示せず)を備え、注水されると小孔を通して圃場21の上方に向かって水を噴出させる。散水チューブ111から噴出した水は、圃場21に落下し圃場21への灌水を行う。
ミスト発生装置15は、圃場21の上方に位置するように、ハウス本体40の屋根部400から吊り下げられた給水管151を備える。給水管151の適宜箇所には、ミストを発生させるためのノズル(図示せず)が取り付けられており、給水管151に注水することによりノズルからミストを発生させることが可能になっている。ミストは圃場21に対する水分の供給にはあまり寄与しないが、ミストを発生させると圃場21の周辺において気温を調節することが可能である。
灌水装置11は、図1に示すように、水源13および給水弁12とともに水供給装置10を構成する。水供給装置10はミスト発生装置15を含んでいてもよいが、ここでは要旨ではないから詳細は省略する。水源13から灌水装置11へは給水管路14を通して水が供給される。水源13は、井戸水、河川水、雨水、市水などが単独または組み合わせて用いられる。また、給水弁12は、水源13と灌水装置11との間の給水管路14に配置されており、給水弁12を制御装置30が制御することにより、灌水装置11から圃場21への供給量が調節される。
ここでは、給水弁12として開閉を行う電磁弁を用いる場合を想定しているが、給水弁12は開度の調節が可能な電動弁であってもよい。なお、灌水装置11およびミスト発生装置15と水源13との間の適宜箇所には、ポンプ(図示せず)が配置され、ポンプが運転されることにより水源13からの水が加圧され、灌水装置11あるいはミスト発生装置15から水が吐出する。制御装置30の構成および動作については後述する。
ハウス本体40の内部あるいは外部には、温度、湿度、照度、日照量などの群から選択される1種類以上の環境値を監視するセンサ35(図1参照)が設けられる。たとえば、温度、湿度を監視するセンサ35であればハウス本体40の内部と外部とに設けられ、照度を監視するセンサ35であればハウス本体40の内部に設けられ、日照量を監視するセンサ35であればハウス本体40の外部に設けられることが望ましい。カーテン51、窓52、ファン16は、センサ35が監視する植物20の育成環境に基づいて制御装置30が制御する。また、制御装置30は、上述したように、灌水装置11およびミスト発生装置15への給水を制御する。さらに、図示例では、圃場21における作土層(表土)のpF値を監視するpF計36が設けられている。このpF計36は、pF値の範囲が複数段階に区分され、段階ごとに表示色が対応付けられている。この構成については後述する。
以下では、主として植物20の成長段階に応じて、灌水装置11への給水を制御する技術について説明する。この場合も、灌水装置11への給水は、植物20の成長段階だけではなく、センサ35が監視する育成環境を併用して制御されることが望ましい。ここに、本実施形態では、植物20として、ホウレンソウ、小松菜のような軟弱野菜を想定しており、播種から収穫までの期間が植物20の育成期間になっている。
なお、植物20の種類によっては、播種を別に行って育苗後に圃場21に定植を行う場合もあり、この種の植物20は、育成期間が定植後から収穫までの期間になる。さらにまた、植物20の種類によっては、収穫が短期間(1〜2日程度)では終了せずに、収穫の期間が比較的長い期間(たとえば、10日以上)に亘って継続する場合もあり、この種の植物20は、収穫の終了時点が育成期間の終了時点になる。
本実施形態は、播種を行ってから収穫までの期間が、育成期間になる植物20を想定して説明する。つまり、1つの圃場21について植物20を収穫する期間は比較的短い期間になる場合を想定する。ここでは、植物20としてホウレンソウを想定し、植物20の成長段階を4段階に分ける。すなわち、播種から発芽までを第1期、発芽から本葉が4枚になるまでの期間を第2期、本葉4枚から草丈が20cmまでの期間を第3期、草丈が20cmから25cmに成長するまでの期間を第4期とする。第4期の終了時点が収穫時点である。
さらに、植物20を夏季において育成する場合を想定しており、第1期の開始から第4期の終了までの日数は35〜40日程度になっている。第1期は5日間程度であり、第2期、第3期、第4期はそれぞれ10日間程度である。つまり、本実施形態では、播種を行った後の所定期間は、植物20の育成期間であって、35〜40日程度になる。また、第1期の前には、圃場21の耕起および施肥を行って土作りを行う。この期間には、天井カーテン510は閉じ、灌水装置11およびミスト発生装置15への給水は行わない。
第1期は播種により開始される。また、播種の直後に制御装置30の運転が開始され、1回目の灌水が行われる。第1期には、天井カーテン510は閉じた状態に維持される。播種の直後では土壌の保水量は少ないから、灌水装置11による灌水は多めにし、ミスト発生装置15によるミストも多めにする。
第2期には、天井カーテン510は、原則として閉じた状態に維持されるが、完全に閉じた状態ではなく、必要に応じて適宜に開閉が行われる。灌水装置11による灌水は控えめにするが(以下に説明する動作では灌水は行っていない)、ミスト発生装置15からのミストは第1期と同様に多めにする。第2期は病害が発生しやすいから、湿度の調節が重要であり、また、灌水は最小限にとどめることが必要である。
第3期には、天井カーテン510を開ける頻度を第2期よりも増加させる。灌水装置11による灌水およびミスト発生装置15からのミストは、植物20に応じた標準的な量とする。この期間には、葉数が増加するから十分な灌水を行うことにより、葉数および草丈の確保を行う。
第4期には、天井カーテン510を開ける頻度を第3期よりもさらに多くする。灌水装置11による灌水およびミスト発生装置15からのミストは、植物20に応じた標準的な量とするが、灌水を控えることによって、植物20の品質を向上させることが望ましい。
ところで、圃場21を形成する土壌の水分保持能力は使用する土壌により異なる。典型的な例として、図3に水分保持能力が高い土壌の水分特性曲線を示し、図4に水分保持能力が低い土壌の水分特性曲線を示す。水分特性曲線は、植物20を育成する期間に先立って事前の測定によって求められる。一般に、水分保持能力が高い土壌は、灌水の頻度は少なくなるが、水分が過多になりやすく、育成する植物20に病害が発生する可能性が高くなる。一方、水分保持能力が低い土壌は、灌水の頻度が多くなり、灌水の頻度が多いために、土壌中の肥料が流出しやすくなる。図3、図4における符号SI,M0〜M8の意味は後述する。
図3および図4では、圃場21を形成する土壌の乾湿状態を、pF計36(テンシオメータ)で計測した土壌水分張力(実際にはpF値)で表し、水分特性曲線をpF値に対する土壌の体積含水率の関係で表している。育成する植物20の成長が阻害される限界点(成長阻害水分点という)X1はpF値で表される。成長阻害水分点X1は、育成する植物20によって異なる。図示例において、pF値の上限値(成長阻害水分点)は3.0に定められている。すなわち、植物20を育成するために、pF値が3.0以下になるように土壌の水分量を調節することが求められる。
ところで、図3、図4において、符号SI、M0〜M8はpF値を計測した時点を表している(図5参照)。時点SIは、圃場21に灌水を行う前であって、圃場21における作土層(表土)のpF値は3.0に調整されている。一方、時点M0は、灌水を行っている期間であって、圃場21における作土層の体積含水率は理論上は飽和含水率に達していると言える。したがって、時点M0の体積含水率を飽和含水率の理論値X2とする。灌水を行った直後の時点M1では、体積含水率は飽和含水率の理論値X2とほぼ一致する。
図5の上図は、pF値を計測した時点と、灌水のタイミングおよび量の設定例を表している。図5において、符号I〜IVは、植物20の育成期間における第1期〜第4期にそれぞれ対応している。なお、図5に示す例では、第1期と第2期とを7日間ずつとし、第3期と第4期とを10日間ずつとしている。つまり、植物20の育成期間は、合計34日間になっている。
図示例において、1回目の灌水は播種の直後の時点であり、2回目の灌水は第3期の開始時点であり、3回目の灌水は第3期の5日目に設定している。時点M2は第3期の開始直前(2回目の灌水の直前)、時点M3は2回目の灌水の直後、時点M4は第3期の5日目における3回目の灌水の直前、時点M5は3回目の灌水の直後を表している。また、時点M6は第4期の初日、時点M7は第4期の開始から5.5日が経過した時点、時点M8は第4期の10日目(収穫直前)を表している。
図3に示す例では、土壌の水分保持能力が高いために、図5に示す灌水のタイミングにより、植物20の播種から収穫までの期間において、pF値が成長阻害水分点X1より小さい範囲に維持されている。一方、図4に示す例では、土壌の水分保持能力が低いために、図5に示す3回の灌水では、収穫の前にpF値が成長阻害水分点X1よりも大きくなって土壌が乾燥しているから、図5に示す灌水のタイミングでは水分不足が生じる。すなわち、土壌の水分保持能力に応じて灌水のタイミングを調節することが必要であることがわかる。
なお、図3、図4に示す例では、灌水を行う水の供給量は、時点SI,M2,M4における圃場21の保水量に対して、それぞれ圃場21の体積含水率が飽和含水率X2に達する程度に設定している。
以下、灌水装置11への給水の制御に関してさらに具体的に説明する。上述した説明からわかるように、圃場21を形成する土壌に応じて灌水を行うには、対象となる土壌の水分特性曲線を知る必要がある。水分特性曲線は、土壌のサンプルを用いて作成される。水分特性曲線の作成技術は周知であるから説明を省略する。
水分特性曲線が作成されていれば、水分特性曲線から体積含水率の飽和値(飽和体積含水率)を読み取ることができる。たとえば、図3に示す土壌であれば飽和体積含水率は約70%、図4に示す土壌であれば飽和体積含水率は約30%になる。そして、飽和体積含水率がわかれば、飽和体積含水率に作土層の体積を乗じることにより、作土層が保水可能な最大水量(最大灌水量)が算出される。
ところで、図1に示す制御装置30は、処理部31が灌水を行うタイミングおよび灌水の際の給水量を定め、指示部34を通して給水弁12の開閉を制御する。ここでは、給水弁12を開放している時間に応じて灌水装置11から圃場21に灌水する水量が決まる場合を想定する。つまり、灌水装置11に供給する水圧は一定であり、給水弁12の開度も一定とする。言い換えると、灌水装置11に給水する水圧を変化させる構成、あるいは給水弁12の開度を変化させる構成であっても、以下に説明する技術を採用することが可能である。
処理部31は、植物20の育成期間の開始時に1回目の灌水を行い、かつ1回目の灌水を行った翌日以降で、植物20の育成期間の終了までに2回目以降の灌水を行うように、入力部32に入力された情報を用いて給水弁12への指示内容を生成する。1回目の灌水における圃場21への水の供給量(第1の供給量)は、最大灌水量と灌水直前(育成期間の開始直前)における圃場21の保水量とに基づいて定められる。最大灌水量は、上述したように、圃場21の土壌に関する水分特性曲線を用いて求められる。つまり、圃場21の最大灌水量は、水分特性曲線から求めらる飽和体積含水率と作土層の体積とから求められる。この計算は必ずしも制御装置30が行う必要はなく、計算結果が入力部32に与えられるようにしてもよい。
処理部31は、1回目の灌水を行う直前における圃場21の全体の保水量を最大灌水量から減算した差分を求め、この差分を1回目の灌水における圃場21への水の供給量に定める。ここに、第1の供給量は当該差分になるが、灌水装置11に供給した水の一部は散水チューブ111に水を満たすために用いられるから、灌水装置11への水の供給量は第1の供給量より多く設定される。たとえば、処理部31は、求めた第1の供給量が640リットルである場合、灌水装置11から圃場21には供給されない水量を考慮し、給水弁12を通過する水の量は1000リットル(≒1t)などに設定する。
灌水を行う直前における圃場21の保水量は、pF計36あるいは土壌水分計(図示せず)で計測されるか、実験によって求められる。図1では、pF計36から入力部32に入力されたpF値を用いて処理部31が保水量を求める例を示している。
ここに、第1の供給量を定めるためにpF計36を用いる場合、処理部31は、pF計36で計測されたpF値の範囲に基づいて、第1の供給量を大まかに定めるようにしてもよい。pF計36は、一般にpF値を表示色で複数段階に区分しており、たとえば、水分過多を黄色、水分適正範囲を緑色、水分不足範囲を赤色の表示色に対応付けている。このことを利用し、処理部31は、圃場21のpF値に対応する表示色に応じて第1の供給量を定めてもよい。すなわち、処理部31は、pF値が黄色の場合に第1の供給量をn1、pF値が緑色の場合に第1の供給量をn2、pF値が赤色の場合に第1の供給量をn3などとして対応付けるようにしてもよい(n1<n2<n3)。
たとえば、最大灌水量が7tである場合に、n1=2t、n2=3t、n3=5tなどに対応付けておけばよい。また、制御装置30に付設した操作表示器(図示せず)から入力部32にpF値の情報を入力する場合、操作表示器の画面に黄色、緑色、赤色の釦を表示しておき、pF計36が指示する表示色の釦を操作することによって、処理部31が第1の供給量を自動的に定めるようにしてもよい。このようにして第1の供給量を定めることを可能にしておけば、利用者はpF計36の表示色を読み取り、同じ色の釦を操作するだけの単純な作業で、1回目の灌水に際して適正な供給量を指示することが可能になる。
なお、操作表示器は、液晶表示器のようなフラットパネルディスプレイの画面にタッチパネルを重ねた構成が望ましい。なお、操作表示器は制御装置30に専用に付設するほか、スマートフォン、タブレット端末などを操作表示器として代用できるように制御装置30にインターフェイス(図示せず)を設けてもよい。
第1の供給量を定めるために土壌水分計を用いる場合、土壌水分計で計測された値を操作表示器に入力し、灌水を開始する操作を行うことによって、処理部31が第1の供給量を自動的に計算するようにしてもよい。
また、pF計36あるいは土壌水分計と制御装置30とが通信可能であってもよい。この場合、操作表示器で灌水を開始する操作を行ったときに、pF計36あるいは土壌水分計の計測値が入力部32に入力され、処理部31が第1の供給量を計算した後に、灌水が開始されるように構成されていることが望ましい。
ところで、2回目以降の灌水における圃場21への水の供給量(第2の供給量)は、以下のようにして定められる。すなわち、第2の供給量は、植物20の種類と、前回の灌水後に圃場21から消失した水分量(消失量)に応じて決められる。植物20の種類は、あらかじめ決まっているから、ここでは第2の供給量を決定する要素として消失量のみを考慮する。消失量は、植物20が利用した水分量と、圃場21の作土層より下層の土壌に浸透した水分量と、圃場21から蒸発した水分量との合計になるが、簡易には、水分の蒸発量を見積もることにより、消失量を予測することが可能である。圃場21からの水分の蒸発量は実験などにより求められ、入力部32に1日毎の水分の蒸発量が入力される。
2回目以降の灌水のタイミングは、圃場21の水分特性曲線と1日毎の水分の蒸発量とに応じて設定される。すなわち、植物20の播種から収穫までの育成期間において、1回当たりの灌水量に対して、pF値が成長阻害水分点X1(図3、図4参照)よりも小さい状態が維持できるように灌水のタイミングが定められる。そのため、2回目以降の灌水を行うタイミングを定めるには、圃場21における水分の蒸発量を事前に処理部31に与える必要がある。
もっとも、水分の蒸発量を直接計測することは困難である。ただし、圃場21からの水分の蒸発量は、ハウス本体40の内部における温度および湿度、ハウス本体40の内部における照度あるいはハウス本体40の外部における日照量などと関連性を有している。たとえば、図6に示すように、水分の蒸発量の合計は、ハウス本体40の内部における照度の累積値(累積照度)の増加に伴って単調に増加し、さらに、ハウス本体40の内部における温度θ1,θ2,θ3(θ1>θ2>θ3)が高いほど水分の蒸発量が増加する。すなわち、水分の蒸発量は、環境の影響を受ける。
このことを利用して水分の蒸発量を推定するために、温度、照度、日射量の群から選択される1種類以上の環境値を監視するセンサ35が設けられる。上述したように、圃場21における水分の蒸発量の合計は、環境値の累積値の増加に伴って単調に増加するから、環境値の累積値は、圃場21からの水分の蒸発量の累積値に代えて用いることが可能である。
この場合、処理部31には、環境値の累積値に対応する基準値が定められる。処理部31は、センサ35が監視した環境値の累積値が当該基準値に達すると指示部34に通知し、指示部34は給水弁12を開放するように指示する。給水弁12は、第2の供給量(たとえば、1t)の水が通過する程度の時間だけ開放された後に閉じられる。
2回目の灌水を行った後、環境値の累積値はリセットされ、処理部31は環境値を新たに積算する。ここで、処理部31は、2回目の灌水の後に、環境値の累積値が上記基準値に達した場合に、環境値のリセットから環境値の累積値が上記基準値に達するまでの時間に基づいて3回目の灌水における供給量を調節することが望ましい。
たとえば、処理部31に基準時間が設定され、環境値の累積値がリセット後に基準値に達するまでの時間が、基準時間未満の場合は第2の供給量の全量の水を灌水装置11に供給し、基準時間以上の場合は第2の供給量の半量の水を灌水装置11に供給する。一例を示すと、基準時間が3時間であり、第2の供給量が1tであるとすれば、環境値の累積値がリセット後に基準値に達した時間が、3時間未満であれば灌水装置11に1tの水を供給し、3時間以上であれば灌水装置11に0.5tの水を供給する。
基準時間および第2の供給量は適宜に設定することが可能である。また、環境値の累積値がリセット後に基準値に達するまでの時間が基準時間以上の場合に、灌水装置11に供給する水の量を、基準時間未満の場合よりも多くするという関係であればよく、灌水装置11に供給する水の量は適宜に設定される。4回目以降の灌水についても、環境値の累積値をリセットしてから環境値の累積値が基準値に達するまでの時間に応じて、灌水装置11への水の供給量が調節される。
なお、2回目以降の灌水における1回の当たりの水の供給量を簡便に設定する場合には、第2の供給量を一定量に定めることが可能である。この場合、処理部31は、最大灌水量と第1の供給量との差分を求め、当該差分を第2の供給量で除算することによって、2回目以降の灌水の回数を決めることができる。
たとえば、最大灌水量が7tであって、第1の供給量が3tであったとすれば、2回目以降の灌水による水の供給量を4tとし、処理部31は、2回目以降の灌水において4tの水を分配する。ここで、1日の当たりの灌水量の最大値を1tに定めるとすれば、4tの水は4日に分けられる。なお、上述したように、灌水装置11に供給した水の一部は圃場21には供給されないから、灌水装置11への実際の供給量は、第2の供給量に対して補正値を加算する必要がある。
上述した制御装置30の動作は自動化されているが、圃場21の状態によっては作土層の水分が不足する場合が生じる。このような場合に備えて、制御装置30は、別途に設けたセンサの出力あるいは利用者が操作するスイッチなどからの指示によって、圃場21への灌水のタイミングを自動あるいは手動で変更する変更部33を備えていることが望ましい。
なお、上述した実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんのことである。