以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における位置検出システムの構成を示す図、図2は本発明の第1の実施の形態における3次元地図を示す図である。なお、図2において、(a)は2次元地図、(b)は(a)に対応する3次元地図である。
図において、11は本実施の形態における位置検出システムの位置検出装置であり、位置検出システムのサーバとしての情報提供サーバ31と通信可能に接続されている。該情報提供サーバ31は、例えば、地図情報、道路情報、天気情報等の各種情報を配信する図示されない情報センタに配設されたサーバであって、CPU、MPU等の演算装置、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク等の記憶装置、通信インターフェイス等を備えるコンピュータである。
そして、前記位置検出装置11は、人物が携帯したり、自動車等の車両に装着したりして搬送することが可能な可搬装置であって、後述される測位衛星41からの信号を受信し、現在位置を検出して表示装置の表示画面等に出力することができる装置であれば、いかなる種類の装置であってもよく、例えば、携帯電話機やスマートフォンであるが、携帯情報端末、PDA(Personal Digital Assistant:個人用携帯情報端末)、小型パーソナルコンピュータ、ウェアラブルコンピュータ、携帯ゲーム機、車両用ナビゲーション装置等いかなるものであってもよい。なお、前記位置検出装置11は、一種のコンピュータであって、CPU、MPU等の演算装置、半導体メモリ等の記憶装置、液晶ディスプレイ、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)等の表示装置、キーボード、ジョイスティック、十字キー、押しボタン、タッチパネル等の入力装置、前記表示装置を制御する表示制御装置、及び、通信インターフェイス等の送受信装置を備える。
また、前記位置検出装置11は、機能の観点から、図に示されるように、受信ユニット12、測位ユニット21及び通信部17を備える。
前記受信ユニット12は、例えば、市販されているGPS受信器と同様のものであり、測位衛星41から送信された衛星信号を受信する受信部13と、該受信部13が受信したすべての測位衛星41からの衛星信号に基づき、測位衛星41の位置と位置検出装置11の位置との間の擬似距離を算出して出力する擬似距離算出部14と、測位衛星41から送信された衛星信号を受信するためのアンテナ15とを含んでいる。なお、前記測位衛星41は、具体的には、地球を周回するGPS衛星であるが、中国のCOMPASSシステム、欧州のGALILEOシステム、日本のQuasi−Zenith衛星システム等の測位衛星41を含んでいてもよい。また、前記受信ユニット12は、受信部13が受信した測位衛星41の位置等の情報及び擬似距離算出部14が算出した擬似距離等の情報を所定の時間間隔(例えば、1秒毎)で出力する。
前記測位ユニット21は、位置検出装置11の位置を算出する位置算出部22と、該位置算出部22の算出した位置の周辺に存在する複数の位置を探索する周辺探索部23と、位置検出装置11の位置から測位衛星41までの電波伝播に生じ得るマルチパスに含まれるNLOS(Non−Line−of−Sight)反射パスの遅延距離を推定するマルチパス推定部としてのNLOS反射パス推定部24と、前記周辺探索部23が探索した位置に基づいて候補位置を選択する候補位置選択部25と、該候補位置選択部25が選択した候補位置に基づいて位置検出装置11の現在位置を決定して出力する現在位置決定部としての出力決定部26と、3次元地図情報を含む地図情報を記憶して格納する地図データベース27とを含んでいる。
具体的には、前記位置算出部22は、受信ユニット12が出力した測位衛星41の位置と擬似距離とを用いて位置検出装置11の位置を算出する。なお、前記位置算出部22は、初期位置算出部としても機能し、当初に算出した位置検出装置11の位置を初期位置として出力する。そして、前記NLOS反射パス推定部24は、3次元地図情報及びレイトレーシング法を用いてNLOS反射パス遅延距離を推定する。また、前記候補位置選択部25は、前記周辺探索部23が探索した位置における擬似距離を算出し、該擬似距離に基づいて選択した位置を候補位置とする。なお、前記候補位置選択部25は、位置算出部22が算出した位置検出装置11の位置との距離が所定値以内の位置を、候補位置として選択することもできる。さらに、前記出力決定部26は、位置算出部22が算出した位置検出装置11の位置との距離が所定値以内の候補位置に基づいて位置検出装置11の現在位置を決定して出力する。
なお、3次元地図情報は、例えば、高層ビル等の構造物の高さを含むものであることが望ましい。このような3次元地図情報は、市販されているものであってもよいし、いかなる種類のものであってもよいが、本実施の形態においては、本発明の発明者が作成した3次元地図情報を使用した場合について説明する。具体的には、2次元地図情報から構造物や道路の形状を含む2次元座標の情報を取得し、該情報と高度の情報とを組み合わせることによって、前記3次元地図情報を作成した。なお、前記2次元地図情報としてはオープンストリートマップ(Open Street Map:OSM)を使用し、数値表層モデル(Digital Surface Model)としては朝日航洋株式会社のgood−3D(R)を使用した。また、数値標高モデル(Digital Elevation Model)は、水平方向1〔m〕のメッシュ毎の情報であり、その正確度は水平方向50〔cm〕及び鉛直方向15〔cm〕である。
図2(a)は、東京都内のある場所(具体的には、東京都千代田区内における神田錦町三丁目と一ツ橋二丁目との境界を走る白山通りにおける一ツ橋交差点近傍)の2次元地図を示し、図2(b)は、本発明の発明者が作成した図2(a)の2次元地図に対応する3次元地図である。該3次元地図には、構造物の3次元情報が含まれている。
前記通信部17は、例えば、市販されている通信モジュールと同様のものであり、有線又は無線の公衆通信回線網、専用通信回線網、携帯電話回線網、インターネット等の通信回線網を通して、情報提供サーバ31と通信を行う。そして、位置検出装置11は、前記通信部17を介して情報提供サーバ31と通信を行うことによって、例えば、位置検出装置11の位置を含む地域乃至所望の地域の2次元地図情報、3次元地図情報等の地図情報や、道路情報、天気情報等の各種情報を取得することができる。したがって、前記地図データベース27には、多量の地図情報を格納しておく必要はなく、必要な地域の地図情報のみを随時情報提供サーバ31から取得して格納しておけばよい。なお、情報提供サーバ31との通信速度が十分に速い場合には、地図データベース27を省略することもできる。また、測位ユニット21が出力した位置検出装置11の現在位置を情報提供サーバ31に送信することもできる。もっとも、必要がなければ、情報提供サーバ31を省略することもできる。
次に、前記構成の位置検出装置11の動作について説明する。まず、3次元地図情報を使用したレイトレーシング法について説明する。
図3は本発明の第1の実施の形態におけるマルチパスを計算するレイトレーシングシミュレーションの例を示す図、図4は本発明の第1の実施の形態におけるマルチパスを検出する方法を説明する図である。なお、図4において、(a)はLOSパスを示す図、(b)はNLOS反射パスを示す図である。
本実施の形態において、測位衛星41からの電波伝播のシミュレーションは、レイトレーシング法と図3に示されるような3次元地図とを用いて行われる。図3は、図2に示される地域内の一部の3次元地図である。また、図4は、測位衛星41からの電波伝播が建物42の表面43に反射される状態の模式図であり、測位衛星41からの電波伝播のマルチパスがどのように検出されるかを示している。
図において、44は、建物42の表面43を含む平面であり、41’は、平面44に対する測位衛星41の鏡像であり、線45は、位置検出装置11の現在位置からの視野内にある測位衛星41、すなわち、LOS(Line−of−Sight)である測位衛星41からの電波伝播であるLOSパス(直接パス)を示し、線46は、建物42の表面43で反射したLOSである測位衛星41からの電波伝播である反射パスを示し、線47は、位置検出装置11の現在位置からの視野内にない測位衛星41、すなわち、NLOSである測位衛星41からの電波伝播であるNLOS反射パスを示している。なお、NLOSである測位衛星41からの電波伝播に直接パスはあり得ない。
本実施の形態において用いたレイトレーシング法は、イメージング法と称される方法である。また、建物42の表面43は鏡面であるものと仮定し、反射パスは反射の法則に従うものと仮定した。そして、測位衛星41からの電波伝播のマルチパスを見出すためには、まず、建物42の表面43に対する測位衛星41の鏡像41’の位置が算出され、続いて、鏡像41’とアンテナ15とを結ぶ線分が建物42の表面43と交差するか否かが判断される。そして、交差する場合には、測位衛星41及びアンテナ15の位置と建物42の表面43上の反射点との間に障害物が存在するか否かが検討される。さらに、障害物が存在しない場合には、測位衛星41からの電波伝播は、反射パスであると判断される。図4(b)に示されるように、測位衛星41とアンテナ15の位置との間に建物42等の障害物が存在する場合には、測位衛星41からの電波伝播はNLOS反射パスであると判断される。
次に、測位衛星41の位置と擬似距離とを用いて位置検出装置11の位置を検出する原理について説明する。なお、測位衛星41はGPS衛星であるものとして説明する。
次に、マルチパスの影響を考慮して現在位置を検出する第1の方法について説明する。
図5は本発明の第1の実施の形態における第1の方法によって検出された現在位置の軌跡を示す図である。
擬似距離の生データは、信号の伝播時間に光の速度を乗じることによって得られるが、信号の伝播時間には各種のエラーが含まれているので、擬似距離は修正される必要がある。n番目の測位衛星41について算出された擬似距離Rn は、次の式(2)で表される。
Rn =ρn +c(δtr −δTn )+In +Tn +εn ・・・式(2)
ここで、ρn は、n番目の測位衛星41までの幾何学的距離、δTn は、衛星時計のGPS時系からの遅れ、Iは、電離層による遅延距離、Tは、対流圏による遅延距離、εは、マルチパス、受信ユニット12のノイズ及びアンテナ15の遅れに起因するエラーである。
なお、衛星時計のGPS時系からの遅れは、放送暦によって計算された値を用いて修正される。また、電離層による遅延距離は、Klobucharモデルによって修正され、対流圏による遅延距離は、Saastamoinenモデルによって修正される。残りのエラーは、マルチパスのエラー及び受信ユニット12のノイズのエラーである。
ここで、ノイズが無視し得る程度に小さいとすると、マルチパスのエラーのみを除去すればよいことが分かる。そして、マルチパスのエラーは、レイトレーシング法と図3に示されるような3次元地図とを用いた電波伝播のシミュレーションに基づく推定によって除去することができる。
そして、本発明の発明者は、このような第1の方法によって位置を検出する実験を図2に示される場所で行った。実験に使用した受信器は、表1に示されるようなデータを出力するGPS受信器である。
また、図5には、地図上にプロットされた実験の結果が示されている。なお、図5に示される地図は、図2の幅方向中央付近を少し傾斜して上下方向に走る通りの近傍を拡大した3次元地図である。図5において、白抜きの太い直線51は、道路上を発明者が前記GPS受信器を所持して移動した実際の経路である。また、複数の丸印52は、前記GPS受信器の出力に基づき、第1の方法によって検出した位置の軌跡を示している。さらに、複数の三角印53は、前記GPS受信器が出力した位置の軌跡を示している。
なお、前記GPS受信器の出力は、軌跡をスムーズにするために、何らかのフィルタを適用している、と推定される。そのため、本実験においては、第1の方法によって検出した位置に対しても、パーティクルフィルタを適用した。
図5から明らかなように、丸印52で示される軌跡は、三角印53で示される軌跡と比較して、完全に一致してはいないものの、誤差の大きさ、傾向等において、同様の性質を示している。
次に、マルチパスの影響を考慮して現在位置を検出する第2の方法について説明する。
図6は本発明の第1の実施の形態における第2の方法による1段目のメッシュの格子点を示す図、図7は本発明の第1の実施の形態における第2の方法による2段目のメッシュの格子点を示す図、図8は本発明の第1の実施の形態における第2の方法によって検出された現在位置の軌跡を示す図である。
第2の方法は、前記式(1)の解を求めて検出した位置を初期位置とし、該初期位置の周辺の複数位置における擬似距離を算出し、該擬似距離に基づいて検出した位置を候補位置とし、前記初期位置との距離が所定値以内の候補位置に基づいて現在位置を検出する方法である。そして、本実施の形態における位置検出装置11は、第2の方法によって現在位置を検出する。
図8には、出力決定部26が出力した出力位置、すなわち、位置検出装置11の現在位置を地図上にプロットした結果が示されている。なお、図8に示される地図は、図5とほぼ同一の範囲を示す3次元地図である。図8において、白抜きの太い直線51は、道路上を発明者が位置検出装置11を所持して移動した実際の経路である。また、複数の四角印54は、出力決定部26が出力した位置検出装置11の現在位置の軌跡である。なお、複数の丸印52は、第1の方法によって検出した位置の軌跡であって、参考のために示されている。また、前記四角印54及び丸印52は、パーティクルフィルタを適用して得られたものである。
図8から明らかなように、四角印54で示される軌跡は、丸印52で示される軌跡と比較して、実際の経路にかなり接近していることが分かる。
なお、本実施の形態においては、初期位置の周囲に設定した1段目のメッシュの格子点を第1探索点とし、該第1探索点に基づいて算出した第1評価位置と初期位置との空間距離が第1閾値以下となる第1探索点を第1候補位置として求め、該第1候補位置の周囲に設定した2段目のメッシュの格子点を第2探索点とし、該第2探索点に基づいて算出した第2評価位置と初期位置との空間距離が第2閾値以下となる第2探索点を第2候補位置として求め、該第2候補位置に基づいて出力位置を決定する例について説明したが、第2候補位置を求めることなく、第1候補位置に基づいて出力位置を決定することもできる。換言すると、メッシュを設定し、該メッシュの格子点を探索点とし、該探索点のうちから選択した候補位置を求める工程は、必ずしも、2回繰り返して行われる必要はなく、1回のみであってもよいし、また、必要があれば、3回以上繰り返して行われてもよい。つまり、メッシュを設定し、該メッシュの格子点を探索点とし、該探索点のうちから選択した候補位置を求める工程は、1回であってもよいし、複数回繰り返して行われてもよい。
また、パーティクルフィルタの適用は、適宜省略することもできる。さらに、パーティクルフィルタ以外のフィルタ(例えば、カルマンフィルタ等)を適用することもできる。
このように、本実施の形態において、位置検出装置11は、測位衛星41からの衛星信号を受信し、受信した衛星信号に基づき、測位衛星41までの擬似距離を算出する受信ユニット12と、受信ユニット12が算出した擬似距離に基づいて初期位置を算出し、3次元地図情報及びレイトレーシング法を用いて初期位置の周辺の複数位置における測位衛星41までの擬似距離を算出し、算出した擬似距離に基づいて複数位置のうちから候補位置を選択し、初期位置との距離が所定条件を満たす程度に小さい候補位置に基づいて現在位置を決定する測位ユニット21とを有する。
また、位置検出方法においては、測位衛星41からの衛星信号を受信し、受信した衛星信号に基づき、測位衛星41までの擬似距離を算出し、算出した擬似距離に基づいて初期位置を算出し、3次元地図情報及びレイトレーシング法を用いて初期位置の周辺の複数位置における測位衛星41までの擬似距離を算出し、算出した擬似距離に基づいて複数位置のうちから候補位置を選択し、初期位置との距離が所定条件を満たす程度に小さい候補位置に基づいて現在位置を決定する。
これにより、構造物、地形等によって測位衛星41からの衛星信号が複雑な影響を受ける環境下であっても、NLOS反射パスを含むマルチパスの影響を適切に排除して、短時間で、かつ、低コストで安定的に正確な現在位置を決定して出力することができる。
さらに、複数位置は、初期位置の周囲に設定されたメッシュの格子点であり、測位ユニット21は、メッシュを設定し、設定したメッシュの格子点を探索点に設定し、各探索点から各測位衛星41までの擬似距離であって、3次元地図情報とレイトレーシング法とによって推定したNLOS反射パス遅延距離を含む探索点擬似距離を算出し、算出した探索点擬似距離に基づいて評価位置を算出し、算出した評価位置と初期位置との距離が閾値以下である探索点を候補位置として選択する。これにより、受信ユニット12が算出した擬似距離に基づいて算出した初期位置が概ね正しいとの想定が成立しない場合であっても、初期位置の周囲に設定した探索点のうちから選択し、候補位置に基づいて現在位置を決定することができるので、正確な現在位置を決定して出力することができる。
さらに、測位ユニット21は、選択した候補位置の周囲にメッシュを設定し、探索点の設定、探索点擬似距離の算出、評価位置の算出、及び、候補位置の選択を繰り返す。このように、メッシュを設定し、メッシュの格子点を探索点とし、探索点のうちから候補位置を選択する工程を複数回繰り返すので、より適切な候補位置を選択することができ、より正確な現在位置を決定して出力することができる。
さらに、測位ユニット21は、選択した候補位置の数が所定数未満である場合、初期位置との距離が最小の候補位置を現在位置に決定し、選択した候補位置の数が所定数以上である場合、初期位置との距離が閾値以下の候補位置を再度選択し、再度選択した候補位置に対して初期位置との距離の逆数で重みを付けた平均値を算出して現在位置を決定する。これにより、正確に現在位置を決定することができる。
さらに、測位ユニット21は、決定した現在位置にパーティクルフィルタを適用して得られた結果を出力する。これにより、スムーズな現在位置の軌跡を得ることができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図9は本発明の第2の実施の形態における第2の方法による探索点を示す図、図10は本発明の第2の実施の形態における第2の方法によってパーティクルフィルタを適用した際のパーティクルの分布の例を示す図である。なお、図9において、(a)〜(c)は、探索点及び評価位置を設定する工程を示す図である。
本実施の形態において、マルチパスの影響を考慮して現在位置を検出する第2の方法は、前記式(1)の解を求めて検出した位置を初期位置とし、該初期位置の周辺の複数位置における擬似距離を算出し、該擬似距離に基づいて検出した位置を候補位置とし、前記初期位置との距離が所定値以内の候補位置に基づいて現在位置を検出する方法である点において、前記第1の実施の形態と同様であるが、初期位置の周辺の複数位置が、前記第1の実施の形態においては、設定されたメッシュの格子点であるのに対し、ランダムに設定した位置である点で相違する。
なお、位置検出装置11の構成及びマルチパスの影響を考慮して現在位置を検出する第1の方法については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
なお、その他の点の動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図11は本発明の第3の実施の形態におけるNLOSパス及びLOSパスと構造物のエッジとの関係を説明する図である。なお、図において、(a)はパスが構造物の外側を通る場合の図、(b)はパスが構造物によって遮られている場合の図である。
本実施の形態においては、構造物の誤差モデルを考慮して位置推定を行う。そのため、構造物について、該構造物の形状等を計測したデータベースである数値表層モデル等が示す構造物のエッジ(縁)を基準に一定範囲をレイ(Ray)乃至パスが通過する場合、LOS及びNLOSの両方を仮定して計算し、尤もらしい方を判別する。
具体的には、NLOS反射パス推定部24は、レイトレーシング法に基づいてマルチパスのエラーを推定する前に、位置検出装置11の現在位置からの視野内にある測位衛星41がLOSであるかNLOSであるかの判定を行う。該判定は、位置検出装置11の現在位置と各測位衛星41とを結ぶ線分上に障害物が存在するか否かに基づいて、行われる。この場合、3次元地図情報に含まれる不確かさ(構造物の誤差)を考慮する必要があるので、図11に示されるような、位置検出装置11の周囲の構造物のエッジとレイ乃至パスとの最短距離dmin を算出する。
そして、最短距離dmin の絶対値|dmin |が閾値dthreshold 以上である場合には、障害物が存在すればNLOSであり、障害物が存在しなければLOSであると判別する。また、絶対値|dmin |が閾値dthreshold 未満である場合には、NLOS及びLOSの両方を仮定して計算し、尤もらしい方を選択する。なお、前記閾値dthreshold の数値は、3次元地図情報の精度に応じて設定されるが、例えば、1〔m〕である。
なお、尤もらしさの判別は、次の(7)〜(9)の方法のうちのいずれか1つ、又は、複数個の選択によって行われる。
(7)最小2乗法の残差:位置検出装置11の現在位置の検出は、加重最小2乗法を用いて、前記式(1)のような擬似距離列の式の解を求めることによって行われるが、その残差をもって尤もらしさの指標とする。具体的には、NLOSであるとして、そのマルチパス遅延距離を擬似距離に含めた場合の残差と、LOSであるとした場合の残差とを比較し、残差の小さい方を選択する。
(8)信号受信強度:測位衛星41からの衛星信号のある時点における信号受信強度、すなわち、受信電力がその時点までの受信電力の平均値より非常に大きい場合には、LOSであるとし、非常に小さい場合にはNLOSであるとする。
なお、位置検出装置11の構成及びその他の点の動作については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図12は本発明の第4の実施の形態におけるNLOSである確率の例を示す図である。
本実施の形態においても、前記第3の実施の形態と同様に、構造物の誤差モデルを考慮して位置推定を行う。もっとも、本実施の形態においては、構造物のエッジの存在位置に誤差モデルを仮定し、レイが構造物のエッジ近傍を通る場合、前記第3の実施の形態のように、構造物のエッジとレイとの最短距離dmin についての閾値dthreshold を設定する代わりに、誤差モデルによってNLOS及びLOSの確率を定義する。すなわち、最短距離dmin に応じたNLOS及びLOSの確率を定義する。そして、該確率を前記第2の実施の形態において説明したパーティクルフィルタのような位置推定モデルに組み入れる。
具体的には、図11に示されるように、構造物のエッジから外側に向かう方向を正とした場合、構造物のエッジとレイとの最短距離をdmin とし、NLOSである確率は、図12に示されるような相補誤差関数の積分値に従うものとする。なお、NLOSである確率は、次の式(16)で定義される。
ここで、N(x、0、σmap )は確率変数x、期待値0、分散σmap に従う正規分布である。また、σmap は3次元地図の精度から決定される。図12には、縦軸にNLOSである確率P(NLOS|dmin )を取り、横軸に最短距離dmin を取り、σmap =0.25とした例が示されている。
本実施の形態においては、この確率をもってNLOSであるかLOSであるかの判定を行い、擬似距離を求め、候補位置の評価を行う。この際、候補位置の尤もらしさの指標に対して、判定されたNLOS又はLOSの尤もらしさとして、この確率を乗じる。つまり、候補位置の尤度に対し、LOSであると判定された場合にはLOSの確率を乗じ、NLOSであると判定された場合にはNLOSの確率を乗じる。
例えば、前記第2の実施の形態において説明したパーティクルフィルタにおける尤度関数をα(i) (t)=Lmultipath Ltransitionとすると、この尤度関数に測位衛星41の数だけP(LOS|dmin )又はP(NLOS|dmin )を乗じる。その結果、尤度関数は、次の式(17)のようになる。
なお、位置検出装置11の構成及びその他の点の動作については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第4の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図13は本発明の第5の実施の形態における位置検出システムの構成を示す図である。
本実施の形態の位置検出システムにおいて、位置検出装置11は、図に示されるように、機能部として測位ユニット21を備えておらず、該測位ユニット21に代えて、受信ユニット12の擬似距離算出部14が算出した擬似距離に基づいて初期位置を算出する測位計算部28を備える。一方、情報提供サーバ31は、位置検出装置11の位置を算出する位置算出部22と、該位置算出部22の算出した位置の周辺に存在する複数の位置を探索する周辺探索部23と、位置検出装置11の位置から測位衛星41までの電波伝播に生じ得るマルチパスに含まれるNLOS反射パスの遅延距離を推定するNLOS反射パス推定部24と、前記周辺探索部23が探索した位置に基づいて候補位置を選択する候補位置選択部25と、該候補位置選択部25が選択した候補位置に基づいて位置検出装置11の現在位置を決定して出力する現在位置決定部としての出力決定部26と、3次元地図情報を含む地図情報を記憶して格納する地図データベース27とを含む測位ユニット21を備える。
そして、位置検出装置11は、受信ユニット12が出力した測位衛星41の位置、擬似距離、信号受信強度等、及び、測位計算部28が算出した初期位置を含む情報を、通信部17を介して情報提供サーバ31に送信する。すると、該情報提供サーバ31は、位置検出装置11から受信した情報に基づき、3次元地図情報及びレイトレーシング法を用いて初期位置の周囲に複数の候補位置を選択し、選択された候補位置に基づいて現在位置を決定して出力し、出力された現在位置を位置検出装置11に返信する。
このように、本実施の形態の位置検出システムにおいては、機能部としての測位ユニット21が位置検出装置11に備えられておらず、情報提供サーバ31に備えられているので、位置検出装置11の演算負荷及び記憶負荷を低減することができる。したがって、位置検出装置11が、例えば、携帯電話機やスマートフォンのように、演算能力及び記憶能力が比較的低く、バッテリー等の電源の容量が比較的小さな装置であっても、正確な現在位置の出力を長時間に亘(わた)って継続することができる。
また、情報提供サーバ31に多数の位置検出装置11を通信可能に接続することによって、各位置検出装置11から受信した情報を、いわゆるプローブデータとして、情報提供サーバ31に蓄積して利用することができる。
なお、本実施の形態においては、測位ユニット21の機能のすべてを位置検出装置11から情報提供サーバ31に移した例について説明したが、測位ユニット21の機能の一部、例えば、地図データベース27等、のみを情報提供サーバ31に移し、残りを位置検出装置11に残すこともできる。また、情報提供サーバ31及び位置検出装置11の両方が測位ユニット21の機能の全部を備えるようにすることもできる。
さらに、情報提供サーバ31が算出した現在位置等の情報を位置検出装置11に返信するか否かは、ケースバイケースで適宜選択することができる。例えば、プローブデータの蓄積が目的である場合には、算出した情報を位置検出装置11に返信する必要はない。
なお、位置検出装置11及び情報提供サーバ31のその他の点の構成及び動作については、前記第1〜第4の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。なお、第1〜第5の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第5の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
本実施の形態においては、構造物の建て替え等による構造変化を考慮する。具体的には、図11に示されるように、パスが構造物のエッジ近傍を通る場合、測位衛星41からの電波伝播がNLOSパス(反射パス)であると仮定するよりもLOSパス(直接パス)であると仮定する方が尤もらしいことが、前記第3の実施の形態で説明した(7)〜(9)の方法で判別された場合には、当該構造物は存在しない、と判定する。つまり、構造物へレイが到達する部分が、前述した構造物の誤差モデルで仮定した構造物の誤差範囲内であれば、構造物の計測誤差が原因であると判定し、前記構造物の誤差範囲外であれば、構造物が存在しないと判定する。
本実施の形態においても、前記第3の実施の形態と同様に、最短距離dmin の絶対値|dmin |が閾値dthreshold 以上である場合には、3次元地図情報を照会して、位置検出装置11の現在位置と各測位衛星41とを結ぶ線分上に障害物が存在するか否かを判別し、LOSであるかNLOSであるかの判定を行う。ここで、構造物の建て替え等に起因して、3次元地図情報が実際とは大きく異なる場合、当該構造物が存在しないと判定する。該判定は、次の(10)〜(14)の方法のうちのいずれか1つ、又は、複数個の選択によって行われる。
(10)NLOSであると仮定するよりも、LOSであると仮定する方が最小2乗法の残差が小さい場合には、構造物が存在しないと判定する。
(11)ある方向の単数又は複数の測位衛星41からのレイについての判定がNLOSであるにも拘わらず、反射パスが見つからない場合には、構造物が存在しないと判定する。
(12)ある方向の単数又は複数の測位衛星41からのレイについての判定がNLOSであるにも拘わらず、それらの受信強度がそれぞれの測位衛星41の平均受信強度と比較して十分に強い場合には、構造物が存在しないと判定する。
(13)前記(10)〜(12)で説明したケースの1つ又は複数が時間的に連続する場合には、構造物が存在しないと判定する。
(14)複数の位置検出装置11によって、前記(10)〜(13)で説明したケースが観測される場合には、構造物が存在しないと判定する。
なお、構造物が存在しないとの最終的な判定は、複数の位置検出装置11の判定に基づいて行われることが望ましい。特に、構造物の異なる部位にレイがクロスするようなケースは、構造物が存在しない可能性が高い。そこで、位置検出装置11は、情報提供サーバ31と通信を行い、構造物が存在しないと判定した場合、受信ユニット12が出力した測位衛星41の位置、擬似距離、信号受信強度等、位置検出装置11の現在位置等のデータを判定の結果とともに、情報提供サーバ31に送信することが望ましい。
これにより、該情報提供サーバ31は、複数の位置検出装置11の判定に基づいて構造物が存在しないと最終的に判定を行い、例えば、3次元地図情報における当該構造物の位置に未存在を示すフラグを立てることによって、3次元地図情報の修正を行うことができる。前記フラグの設定は、例えば、1〔m〕立方のメッシュの各セルに対して行ってもよいし、当該構造物全体で行ってもよい。なお、このような3次元地図情報の修正は、位置検出装置11が情報提供サーバ31から受信することによって、位置検出装置11の地図データベース27に含まれる3次元地図情報に反映させることもできる。
また、多数の位置検出装置11からデータを収集することによって、3次元地図情報に含まれていない構造物の存在を推定することができる。
例えば、空き地に高層ビル等の構造物が新築された場合のように、3次元地図情報では存在しないことになっている構造物が現実に存在する場合、該構造物の陰に入った測位衛星41に関しては、マルチパス推定等において矛盾が生じるので外れ値となり、測位に利用されない。したがって、測位自体は通常通りに行うことができ、さらに、その座標からLOSであるかNLOSであるかの判定に矛盾がある測位衛星41についてのデータを収集することができる。そして、情報提供サーバ31は、このようなデータを多数の位置検出装置11から収集することによって、3次元地図情報に含まれていない構造物の形状を推定することができる。
また、例えば、レイトレーシング法と3次元地図情報とによってLOSである可能性が高い場合であっても、前記第3の実施の形態で説明した(7)〜(9)の方法によってNLOSであることが疑われる場合がある。そして、NLOSであることが疑われるということは、パス上にパスを遮る構造物(3次元地図情報に含まれていない)が存在する可能性があるということである。この場合、3次元地図情報の立法メッシュ毎に投票を行って構造物の存在分布を決定する。立法メッシュに構造物の存在の投票を行う場合には、隣接する立法メッシュにも投票分布確率分布を設けることによって、ロバストな設計が可能となる。この場合には、構造物の形状が不明であるので、構造物全体として生成することはできない。
なお、本実施の形態においては、情報提供サーバ31が、位置検出装置11と通信を行うことによって、多数の位置検出装置11からのデータを収集し、構造物の有無について3次元地図情報の修正を行う例について説明したが、多数の位置検出装置11が相互に通信を行うことによってデータを収集し、構造物の有無について3次元地図情報の修正を行うようにすることもできる。
また、位置検出装置11及び情報提供サーバ31のその他の点の構成及び動作については、前記第1〜第5の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本発明の第7の実施の形態について説明する。なお、第1〜第6の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第6の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図14は本発明の第7の実施の形態における第2の方法による探索点を示す図である。
なお、位置検出装置11の構成及びマルチパスの影響を考慮して現在位置を検出する第1の方法については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
位置検出装置11の真の位置から観れば、3次元地図情報とレイトレーシング法とによって推定した測位衛星41までの距離と、受信ユニット12が測定した測位衛星41までの距離とは等しくなるはずである。そこで、本実施の形態においては、受信ユニット12が測定した測位衛星41までの距離である観測値と、3次元地図情報とレイトレーシング法とによって推定した測位衛星41までの距離である推定値とを比較する。
該推定値は、測位衛星41からの電波伝播がLOSパスである場合、直線距離になり、測位衛星41からの電波伝播が反射パスである場合、レイトレーシング法によって導出される反射パスの道のりになる。また、前記観測値は、受信ユニット12が測定した測位衛星41までの擬似距離には受信ユニット12が備える時計のGPS時系からの遅れ、電離層による遅延距離等のエラーが含まれているので、これらを除いた値である。なお、観測信号だけでは反射パスの影響を判定することができないので、前記観測値は反射パスの道のりに相当する。
次に、本発明の第8の実施の形態について説明する。なお、第1〜第7の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第7の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図15は本発明の第8の実施の形態におけるコリレータが出力する相関波の例を示す図、図16は本発明の第8の実施の形態における逆相マルチパスである可能性を考慮して検出された現在位置の軌跡を示す図である。なお、図16において、(a)は受信電力が閾値以下でLOSの場合に擬似距離を算出しないときの結果を示す図、(b)は受信電力が閾値以下でLOSの場合に逆相マルチパスである可能性を考慮したときの結果を示す図である。
前記第1及び第2の実施の形態においては、受信電力の強度から推定される測位衛星41の可視状況との整合性を考慮し、受信電力の強度が弱い場合には測位衛星41がLOSであり得ないとの前提に基づいて、ある探索点において、受信電力が所定の閾値以下の測位衛星41がLOSであると認識された場合には、当該探索点から当該測位衛星41までの擬似距離を算出しないようになっている。
しかしながら、受信電力の強度が弱い場合、測位衛星41がNLOSであることの他に、いわゆる逆相マルチパスである可能性が存在する。そこで、本実施の形態においては、3次元地図情報及びレイトレーシング法を用い、探索点からの視野内にある測位衛星41がLOSであり、かつ、前記探索点で観測された擬似距離と3次元地図情報及びレイトレーシング法に基づいて推定される擬似距離とが近い場合には、逆相マルチパスである可能性を考慮する。つまり、受信電力の強度が弱くても、測位衛星41がLOSである、と判定され得る。観測された擬似距離が推定される擬似距離よりも短い場合には、その可能性が更に高くなる。
なお、測位衛星41がLOSである場合でも、受信ユニット12は、マルチパスの影響を受け、直接パスを伝播した電波の他に反射パスを伝播した電波を受信し得る。そして、逆相マルチパスとは、測位衛星41から直接パスを伝播して受信ユニット12によって受信された電波の位相と、反射パスを伝播して受信ユニット12によって受信された電波の位相とがほぼ180度ずれてしまう、すなわち、ほぼ逆相になってしまうマルチパスを意味する。前記受信ユニット12等のGPS受信器は、通常、コリレータ(相関器)を備え、微弱電波信号の相関波の波形から真のピークを検出するようになっている。そのため、直接パスを伝播して受信された電波の位相と、反射パスを伝播して受信された電波の位相とがほぼ逆相になると、互いに打ち消し合うので、ピークが低くなり、受信電力の強度が弱くなる。
したがって、受信電力の強度が弱い場合、前記受信ユニット12が備える図示されないコリレータが出力する相関波の波形の左右対称性を評価することによって、測位衛星41がNLOSであるか、逆相マルチパスであるかを識別することができる。対称性が低ければNLOSであり、対称性が高ければ逆相マルチパスである、と考えられる。
なお、マルチパスの影響によって、図15に示されるように、GPS受信器のコリレータが出力する相関波の波形のピークが左右どちらかにずれることは、既に確認されている(例えば、非特許文献2参照。)。図15において、縦軸は相関値(無次元)を表し、横軸は時間(chip:チップ)を表している。なお、1〔chip〕は、約300〔m〕の遅延距離に相当する。
久保信明、安田明生、鈴木崇史、「衛星測位におけるマルチパス誤差の削減と高精度化への可能性について」、電子情報通信学会、ITS研究会研究報告、2004年7月「信学技報」、1−6頁。
また、探索点の移動軌跡、すなわち、トラッキングと受信電力の強度の時系列データとを併せた判定によって、NLOSと考えるよりも逆相マルチパスであると考える方が自然である場合には、例えば、現在までの探索点の位置から推定して、急にNLOSに変わるはずがないと考えられる場合には、逆相マルチパスであると判定する。
そこで、本実施の形態においては、測位衛星41からの受信電力の強度が弱い場合、測位ユニット21は、受信ユニット12が備えるコリレータが出力する相関波の波形に基づき、測位衛星41からの電波伝播がLOSであるかNLOSであるかを判定する。そして、測位ユニット21は、相関波の波形の左右対称性が高いときは、測位衛星41からの電波伝播がLOSであって逆相マルチパスであると判定する。
図16には、出力決定部26が出力した出力位置、すなわち、位置検出装置11の現在位置を地図上にプロットした結果が示されている。図16(a)は、前記第1及び第2の実施の形態のように、受信電力が所定の閾値以下の測位衛星41がLOSであると認識された探索点を棄却した、すなわち、候補位置として選択せずに、出力位置を算出した場合の結果である。図16(b)は、受信電力が所定の閾値以下の測位衛星41がLOSであると認識された探索点も、逆相マルチパスである可能性を考慮し、棄却することなく候補位置として選択し、出力位置を算出した場合の結果である。なお、図16に示される地図は、図5の中心付近の交差点及びその周辺を示す3次元地図である。
図16において、複数の四角印58は、道路上を発明者が位置検出装置11(GPS受信器)を所持して移動した実際の移動軌跡である。また、複数の丸印59は、出力決定部26が出力した位置検出装置11の現在位置の軌跡である。
図16(a)では出力位置として算出することができなかったいくつかの地点が、図16(b)では算出されていることが分かる。また、数字の上でも、図16(a)の結果では、探索の成功率が70〔%〕程度であるのに対し、図16(b)の結果では、探索の成功率が90〔%〕以上にまで上昇した。
なお、位置検出装置11の構成及びその他の点の動作については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本発明の第9の実施の形態について説明する。なお、第1〜第8の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第8の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図17−1は本発明の第9の実施の形態における反射波とコリレータが出力する相関波との関係を示す図、図17−2は本発明の第9の実施の形態における遅延距離とマルチパス誤差との関係を示す図、図18は本発明の第9の実施の形態におけるマルチパス誤差を補正して検出された現在位置を示す図である。なお、図17−1において、(a)は反射波が同相である場合を示す図、(b)は反射波が逆相である場合を示す図であり、図17−2において、(a)は通常のコリレータの場合を示す図、(b)は複数種類のコリレータを比較した場合を示す図である。
前記第1及び第2の実施の形態においては、受信電力の強度から推定される測位衛星41の可視状況との整合性を考慮し、受信電力の強度が強い場合には測位衛星41がNLOSであり得ないからLOSであるとの前提に基づいて、反射パスを考慮することなく、当該探索点から当該測位衛星41までの擬似距離を算出するようになっている。
しかしながら、測位衛星41がLOSである場合でも、受信ユニット12は、マルチパスの影響を受け、直接パスを伝播した電波の他に反射パスを伝播した電波を受信し得る。そこで、本実施の形態においては、3次元地図情報及びレイトレーシング法を用い、測位衛星41からの電波伝播がLOSであるかNLOSであるかを判定し、LOSである場合には直接パス及び反射パスの両方を含むマルチパスであるか否かを判定し、マルチパスであるときには受信ユニット12が算出した擬似距離を反射パスの遅延を考慮して補正し、補正した擬似距離に基づいて現在位置を決定する。つまり、測位衛星41からの受信電力の強度が強い場合、測位ユニット21は、3次元地図情報及びレイトレーシング法を用いて測位衛星41がLOSであるかNLOSであるかを判定し、LOSであってマルチパスであるときは、遅延を考慮して擬似距離を補正し、補正した擬似距離に基づいて現在位置を決定する。
なお、測位衛星41がNLOSである場合には、前記第1及び第2の実施の形態の場合と同様に、当該測位衛星41からの電波を測位計算に使用しない。
そして、測位衛星41がLOSである場合には、当該測位衛星41からの直接波(直接パスを伝播した電波)のみを受信しているのか、又は、直接波のみならず建物の壁面等で反射された反射波(反射パスを伝播した電波)をも受信しているのか、つまり、マルチパスであるのか、を判定する。
ここで、マルチパスであるか否かを判定するためには、2つの方法がある。
第1の方法は、3次元地図情報及びレイトレーシング法によって電波伝播の経路、すなわち、パスを判定する方法である。この方法では、測位衛星41から位置検出装置11乃至受信ユニット12までに、直接パス及び反射パスの両方が存在すればマルチパスであると判定し、直接パスのみであればマルチパスでないと判定する。
また、第2の方法は、コリレータが出力する相関波の波形に基づいて判定する方法である。直接波のみが受信される環境において、相関波の波形は、図17−1で実線で示されるような形状となる。しかし、破線で示されるような反射波も同時に受信すると、出力される相関波の波形は、一点鎖線で示されるように歪(ゆが)んだものとなる。したがって、相関波の波形に基づいて、直接パス及び反射パスの両方を含むマルチパスであるか否かを判定することができる。なお、反射波の直接波に対する位相によって相関波の波形が変化する。すなわち、同相であれば、図17−1(a)に示されるように、右側が膨らみ、逆相であれば、図17−1(b)に示されるように、右側が凹む。
本発明の発明者は、第1の方法を採用して実験を行った。第1の方法をでは、3次元地図情報及びレイトレーシング法によって反射パスの存在が判定されると、該反射パスの直接パスに対する遅延距離を求めることができる。なお、反射波の直接波に対する位相の判定は、受信電力の強度を参考にして行うことができる。すなわち、受信電力の強度が強ければ同相であり、弱ければ逆相であると判定することができる。また、受信ユニット12が相関波を出力可能である場合には、該相関波の波形に基づいて、反射波の直接波に対する位相を判定することができる。
なお、前記遅延の考慮の方法は、次の(18)及び(19)の2通りである。
(18)平均化された(経験値による)モデルを仮定し、検波(測距)の誤差を見積もる。
(19)ビル等の構造物の表面の素材(反射率)を考慮した反射波を実際に波形に重ねて、検波(測距)の誤差を見積もる。
反射パスの直接パスに対する遅延距離に応じた擬似距離に含まれるマルチパス誤差の大きさは、コリレータの種類、反射波の強度、位相、遅延距離によって決まる。この理論値がどのようになるかは、図17−2に示されている。
図17−2に示されるように、コリレータの仕様に基づいて理論的に求めた遅延距離とマルチパス誤差との関係が確認されている(例えば、非特許文献3参照。)。図17−2において、(a)は通常のコリレータの場合を示し、(b)は複数種類のコリレータを比較した場合を示している。なお、図17−2は、マルチパス反射波の振幅は直接波(直接パスを伝播した電波)の振幅の半分である、と仮定して算出されている。実際には、マルチパス反射波の振幅や遅延距離は、時々刻々に変化するので、マルチパス誤差は、図17−2に示される最大値の範囲内で生じることになる。
M. Braasch, "Performance comparison of multipath mitigating receiver architectures,"in Aerospace Conference, 2001, IEEE Proceedings., vol. 3, 2001, pp.3/1309-3/1315 vol.3 。
これに基づいて、本発明の発明者が実験に使用した位置検出装置11(GPS受信器)におけるマルチパス誤差のモデルを考える。最近のGPS受信器が備えるコリレータは、いわゆるナローコリレータ(Narrow Correlator)である場合が多いので、ここでは、ナローコリレータを想定し、図17−2(b)に基づき、簡単な見積もりとして、遅延距離dに対するマルチパス誤差εは、次の式(19)又は(20)で表されるものとする。
ε=(α/30)d (d<30の場合) ・・・式(19)
ε=α (d≧30の場合) ・・・式(20)
ここで、αは、経験的に、6〔m〕であるものとする。
そして、測位ユニット21は、遅延距離dに応じたマルチパス誤差εを算出し、該マルチパス誤差εによって擬似距離を補正する。
図18には、発明者等が位置検出装置11を携帯しながら20秒間静止した状態で測位した結果、すなわち、位置検出装置11で現在位置を検出した第1の実験の結果が示されている。
具体的には、前記第1及び第2の実施の形態で説明したような初期位置の周辺に複数位置(探索点)を設定して該複数位置における擬似距離を算出する方法を採用することなく、加重最小2乗法(重み付き最小2乗法)を用いて、前記式(1)の解を求めた結果である。なお、図18に示される地図は、図16に示される交差点及びその周辺を拡大して示す3次元地図である。
図18において、四角印は、交差点の北西の角に位置する位置検出装置11の真の現在位置を示している。三角印61は、観測された擬似距離、すなわち、受信ユニット12が出力した擬似距離をそのまま使用して測位計算を行った結果である。また、丸印62は、そこから、前記モデルによるマルチパス誤差εを算出し、該マルチパス誤差εによって補正した擬似距離によって測位計算を行った結果である。20秒間の結果であるため、三角印61及び丸印62ともに、測位計算を行った結果が複数存在する。三角印61よりも丸印62の方が真の現在位置に近いことが分かる。
このように、受信ユニット12が出力した擬似距離には、マルチパス誤差が含まれており、測位した20秒間の平均誤差は、13.7〔m〕であった。ここからマルチパス誤差を補正した結果、20秒間の平均誤差を6.8〔m〕まで低減することができた。
次に、本実施の形態における第2の実験の結果について説明する。該第2の実験では、前記式(1)の解を求めて検出した位置を初期位置とし、該初期位置の周辺にランダムに設定した複数の探索点における擬似距離を算出し、該擬似距離に基づいて候補位置を選択し、前記初期位置との距離、及び、前回の位置からの移動距離という指標を用いて評価を行い尤度を定め、該尤度に基づいて加重平均を取ることによって現在位置を推定する方法である点において、前記第2の実施の形態と同様であるが、本実施の形態においては、前記式(19)又は(20)で表されるようなマルチパス誤差εを考慮する点で相違する。
図19は本発明の第9の実施の形態における真の現在位置におけるレイトレーシングの第1の例を示す図、図20は本発明の第9の実施の形態における候補位置の第1の例を示す図、図21は本発明の第9の実施の形態における真の現在位置におけるレイトレーシングの第2の例を示す図、図22は本発明の第9の実施の形態における候補位置の第2の例を示す図である。なお、図20及び22において、(a)はマルチパス誤差εを考慮しない場合を示す図、(b)はマルチパス誤差εを考慮する場合を示す図である。
図19には、第1の現在位置における測位衛星41からの電波伝播が示されている。なお、図19に示される地図は、図18と同一の交差点及びその周辺を示す3次元地図であって、四角印は、交差点の北東の角に位置する位置検出装置11の真の現在位置を示している。線45は、位置検出装置11の現在位置からの視野内にある測位衛星41からの電波伝播である直接パスを示し、線46は、構造物の表面で反射した前記測位衛星41からの電波伝播である反射パスを示している。図19では、直接パスを示す線45が4本であり、反射パスを示す線46も4本であるから、4つのすべての測位衛星41からの電波がマルチパスとなっていることが分かる。
マルチパス誤差εを考慮しない場合、正解座標、すなわち、真の現在位置において観測された擬似距離と3次元地図情報及びレイトレーシング法に基づいて推定される擬似距離との差の平均は、2.1〔m〕となり、候補位置の分布は、図20(a)に示されるようになった。図20(a)及び(b)において、小さな複数の丸印65は尤度の低い候補位置、やや大きな複数の丸印64は尤度の高い候補位置、最も大きな単一の丸印63はすべての候補位置の加重平均、すなわち、推定結果である。該推定結果の誤差は、3.3〔m〕であった。
これに対し、マルチパス誤差εを考慮する場合、真の現在位置において観測された擬似距離と3次元地図情報及びレイトレーシング法に基づいて推定される擬似距離との差の平均は、0.5〔m〕となり、候補位置の分布は、図20(b)に示されるようになった。そして、推定結果の誤差は、0.5〔m〕であった。マルチパス誤差εを考慮しない場合と比較して、推定結果の誤差が大きく低減された。
また、図21には、第2の現在位置における測位衛星41からの電波伝播が示されている。なお、図21に示される地図は、図18及び19と同一の交差点及びその周辺を示す3次元地図であって、四角印は、交差点の北西の角に位置する位置検出装置11の真の現在位置を示している。図19と同様に、線45は、位置検出装置11の現在位置からの視野内にある測位衛星41からの電波伝播である直接パスを示し、線46は、構造物の表面で反射した前記測位衛星41からの電波伝播である反射パスを示している。図21では、直接パスを示す線45が4本であり、反射パスを示す線46が3本であるから、4つのうちの3つの測位衛星41からの電波がマルチパスとなっていることが分かる。
マルチパス誤差εを考慮しない場合、真の現在位置において観測された擬似距離と3次元地図情報及びレイトレーシング法に基づいて推定される擬似距離との差の平均は、1.9〔m〕となり、候補位置の分布は、図22(a)に示されるようになった。そして、推定結果の誤差は、12.9〔m〕であった。
これに対し、マルチパス誤差εを考慮する場合、真の現在位置において観測された擬似距離と3次元地図情報及びレイトレーシング法に基づいて推定される擬似距離との差の平均は、1.5〔m〕となり、候補位置の分布は、図22(b)に示されるようになった。そして、推定結果の誤差は、2.3〔m〕であった。マルチパス誤差εを考慮しない場合と比較して、推定結果の誤差が大きく低減された。
なお、位置検出装置11の構成及びその他の点の動作については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本発明の第10の実施の形態について説明する。なお、第1〜第9の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第9の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
本実施の形態においては、3次元地図情報のエラーの可能性、具体的には、構造物の壁面に対する垂線方向の位置エラーの可能性を考慮してポジショニングの計算を行う。つまり、構造物の外壁面の座標を前記垂線方向に変化させることによって、最小2乗法の残差、すなわち、誤差が小さくなる位置を探索し、この位置を構造物の外壁面の本来の座標であると推定する。位置検出装置11の現在位置の検出は、加重最小2乗法を用いて、前記式(1)のような擬似距離列の式の解を求めることによって行われるが、本実施の形態においては、その誤差が小さくなる位置を探索し、本来の位置であると推定する。
また、このようにして推定した結果を、エラー空間に投票することによって、エラー分布を作成することができる。この場合、位置検出装置11を使用する一人のユーザが複数回行った推定の結果を投票してもよいし、複数のユーザが各自の位置検出装置11を使用して行った推定の結果を投票してもよい。また、前記エラー分布に基づき、構造物の外壁面の座標について3次元地図情報の修正を行うようにすることもできる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。