以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
図1に示す本実施例の画像形成システム1は、インクジェットプリンタとして構成される。この画像形成システム1は、給紙トレイ21に収容された矩形状の用紙Qを1枚ずつ分離して、これをインクジェットヘッド80の下方に搬送する。そして、インクジェットヘッド80にインク液滴を吐出させることによって、用紙Qに画像を形成する。
この画像形成システム1は、用紙Qを給紙トレイ21からインクジェットヘッド80の下方に搬送するための構成として給紙機構20及び用紙搬送機構60を備える。給紙機構20は、給紙トレイ21に収容された用紙Qを搬送ローラ61とピンチローラ62との間のニップ位置に供給するための機構である。
給紙機構20は、給紙トレイ21と、アーム23と、給紙ローラ25と、Uターンパス27と、複数の接触ユニット29とを備え、給紙ローラ25の回転により給紙トレイ21に積層された用紙Qを1枚ずつ分離して下流に搬送する。アーム23は、給紙ローラ25を回転可能な状態で保持し、自重又はバネによる付勢力により給紙ローラ25を給紙トレイ21における最上層の用紙Qに押し当てる。
給紙ローラ25の回転により、給紙トレイ21から下流に搬送される用紙Qは、Uターンパス27により移動を規制されて、上記ニップ位置に供給される。複数の接触ユニット29は、このニップ位置より用紙搬送路上流の地点に設けられ、この地点を通過する用紙Qと接触して、用紙Qに反力を作用させる。本明細書で言う「反力」は、用紙Qを搬送する方向とは逆向きに働く力のことを言う。
一方、用紙搬送機構60は、搬送ローラ61とピンチローラ62との間のニップ位置に供給された用紙Qを、インクジェットヘッド80の下方に搬送するための機構である。用紙搬送機構60は、搬送ローラ61と、ピンチローラ62と、排紙ローラ64と、拍車ローラ65と、プラテン67とを備える。ピンチローラ62は、搬送ローラ61に対向配置され、拍車ローラ65は、排紙ローラ64に対向配置される。排紙ローラ64は、搬送ローラ61よりも用紙搬送路下流に配置され、プラテン67は、搬送ローラ61と排紙ローラ64との間に設けられて、用紙Qを下方から支持する。
この用紙搬送機構60は、給紙機構20から供給された用紙Qを、搬送ローラ61とピンチローラ62との間に挟持して、搬送ローラ61の回転により下流に搬送する。搬送ローラ61の回転に伴ってピンチローラ62は従動回転する。上述のニップ位置は、搬送ローラ61とピンチローラ62とによって用紙Qが挟持(ニップ)される位置に対応する。
用紙搬送機構60は、ニップ位置を通過しプラテン67に下方から支持されて排紙ローラ64に到達した用紙Qを、排紙ローラ64と拍車ローラ65との間で挟持し、これを排紙ローラ64の回転により下流に搬送する。排紙ローラ64より下流に搬送された用紙Qは、排紙トレイ(図示せず)に排出される。
この他、画像形成システム1が備えるインクジェットヘッド80は、キャリッジ71に搭載された状態で、プラテン67の上方に配置される。インクジェットヘッド80は、キャリッジ71と共に、プラテン67の上方において、用紙搬送方向とは直交する主走査方向(図1紙面法線方向)に定速搬送される。そして、この定速搬送中に、インク液滴を下方に吐出する。これによって、用紙Qに主走査方向の画像を形成する。
続いて、画像形成システム1の詳細構成を、図2を用いて説明する。図2に示すように、画像形成システム1は、給紙部10と、記録部50と、メインユニット90と、通信インタフェース100とを備える。
給紙部10は、給紙機構20、並びに、この給紙機構20を駆動及び制御するための要素群から構成される。具体的に、給紙部10は、給紙機構20と、ASFモータ31と、ASF駆動回路33と、ロータリエンコーダ35と、信号処理回路37と、ASFコントローラ40とを備える。
ASFモータ31は、給紙ローラ25を回転駆動する直流モータであり、ASF駆動回路33によって駆動される。ASF駆動回路33は、ASFコントローラ40から入力される操作量(制御入力)Uに応じた駆動電流をASFモータ31に印加するように、ASFモータ31をPWM制御する。
ロータリエンコーダ35は、周知のロータリエンコーダであり、給紙ローラ25の回転軸又はASFモータ31の回転軸に設けられて、給紙ローラ25の回転に応じたパルス信号を出力する。信号処理回路37は、このロータリエンコーダ35からの出力信号に基づき、操作量Uに対応する制御出力として、給紙ローラ25の位置X及び速度Vを検出する。ここで検出される位置Xは、リセットされた時点からの給紙ローラ25の回転量を表し、速度Vは、給紙ローラ25の回転速度を表す。
ASFコントローラ40は、メインユニット90からの命令に従って動作して、ASFモータ31に対する操作量Uを演算し、これをASF駆動回路33に入力する。これによって、給紙ローラ25の回転を制御する。例えば、ASFコントローラ40は、フィードフォワード制御及びフォードバック制御の少なくとも一方により操作量Uを演算し、給紙ローラ25の回転(位置X及び速度Vの少なくとも一方)を制御する。
この他、記録部50は、用紙搬送機構60、キャリッジ71及びインクジェットヘッド80、並びに、これらを駆動及び制御するための要素群から構成される。具体的に、記録部50は、用紙搬送機構60と、PFモータ69と、CR搬送機構70と、CRモータ79と、インクジェットヘッド80と、ヘッド駆動回路89とを備える。記録部50には、この他に、PFモータ69、CRモータ79及びヘッド駆動回路89を制御するコントローラや各種エンコーダ等が設けられるが、これらの図示及び説明については省略する。
PFモータ69は、用紙搬送機構60が備える搬送ローラ61を回転駆動する直流モータであり、図示しない駆動回路によって駆動される。用紙搬送機構60においては、搬送ローラ61と排紙ローラ64とがベルト機構65により連結されており、排紙ローラ64は、PFモータ69からの動力を搬送ローラ61及びベルト機構65を介して間接的に受けて、搬送ローラ61と同期回転する。即ち、PFモータ69の回転によって、搬送ロー
ラ61及び排紙ローラ64は、互いに連動するように回転し、周方向に同量回転する。
また、CR搬送機構70は、インクジェットヘッド80を搭載するキャリッジ71を備え、CRモータ79からの動力を受けてキャリッジ71を主走査方向に搬送する。CRモータ79は、CR搬送機構70に動力を付与する直流モータであり、図示しない駆動回路によって駆動される。
インクジェットヘッド80は、ヘッド駆動回路89によって駆動されて、インク液滴を吐出する。PFモータ69及びCRモータ79の駆動回路並びにヘッド駆動回路89を制御する上記コントローラは、メインユニット90からの命令に従って動作する。
メインユニット90は、画像形成システム1を統括制御するものであり、CPU91、ROM93及びRAM95を備える。CPU91は、ROM93に格納された各種プログラムに従う処理を実行する。RAM95は、このCPU91による処理実行時に作業用メモリとして使用される。
メインユニット90のCPU91は、通信インタフェース100を介して外部装置から印刷対象データを受信すると、この印刷対象データに基づく画像が用紙Qに形成されるように、給紙部10及び記録部50に対して命令を入力する。通信インタフェース100は、例えば、USBインタフェースやLANインタフェースを備え、パーソナルコンピュータ等の外部装置と通信可能な構成にされる。以下では、メインユニット90のCPU91が実行する処理を、メインユニット90を動作主体として説明する。
続いて、接触ユニット29の配列及び構成について図3を用いて説明する。図3上段に示すように、接触ユニット29は、給紙ローラ25より用紙搬送路下流の地点であって搬送ローラ61による用紙Qのニップ位置より用紙搬送路上流の地点に設けられ、用紙搬送方向とは直交する方向(主走査方向)に配列されている。換言すれば、接触ユニット29は、給紙ローラ25及び搬送ローラ61の回転軸方向に対して平行に配列されている。
具体的に、本実施例の画像形成システム1は、二つの接触ユニット29が用紙搬送方向とは直交する方向に、所定距離Lだけ離れて配置された構成にされている。図3上段は、用紙Qの上方から見た接触ユニット29の配置を示す図であり、図3下段は、用紙Qの表面に平行な方向から見た接触ユニット29の側面を示す図である。
図1及び図3からも理解できるように、接触ユニット29の夫々は、用紙搬送路の上方において、用紙搬送方向とは直交する方向に回転軸を有したアームとして構成されている。これら接触ユニット29の夫々は、用紙Qと接触していない場合には、回転軸を基点に垂れ下がった状態で、用紙Qの搬送経路を遮断する。
一方、これら接触ユニット29の夫々は、用紙Qと接触すると、図4に示すように、用紙Qからの力の作用を受けて、用紙Qの搬送経路の内側から外側(上方)に押し出されるように回動する。用紙Qは、このように上方に回動する接触ユニット29の下方に形成された空隙を通って、搬送ローラ61による用紙Qのニップ位置に移動する。図4上段、中段、及び下段に示す接触ユニット29の側面図は、用紙Qが搬送方向下流に移動する各段階での接触ユニット29と用紙Qとの関係を示すものである。
これら接触ユニット29は、図4からも理解できるように、用紙Qからの力の作用を受けて上方に押し上げられる際に、用紙Qに対して反力を作用させる。この反力は、給紙ローラ25を介してASFモータ31に作用する。本実施例の画像形成システム1では、用紙Qが接触ユニット29と接触することでASFモータ31に作用する反力を観測するこ
とにより、用紙Qに作用する反力を観測し、用紙Qの斜行を検知する。
即ち、用紙Qが斜行していないときには、図3上段に示すように、用紙Qが複数の接触ユニット29に同時に接触する。一方、用紙Qが斜行しているときには、図5に示すように、用紙Qが複数の接触ユニット29に異なるタイミングで接触するように移動する。本実施例では、このような斜行の有無によって異なる接触事象によって生じるASFモータ31に作用する反力の変化を観測することにより、用紙Qの斜行を検知する。
この反力の変化を観測するために、ASFコントローラ40は、図6に示すように、コントローラ本体41と、外乱オブザーバ43と、反力推定器45とを備えた構成にされる。
コントローラ本体41は、操作量Uを演算して、給紙ローラ25の回転(位置X及び速度Vの少なくとも一方)を制御するASFコントローラ40の主要部である。このコントローラ本体41には、信号処理回路37にて検出された給紙ローラ25の位置X及び速度Vが入力される。一方、コントローラ本体41から出力される操作量Uは、ASF駆動回路33及び外乱オブザーバ43に入力される。
外乱オブザーバ43は、制御対象に作用する外乱を推定するものであり、逆モデル演算部431と、減算器433と、ローパスフィルタ435とを備える。ここ言う制御対象は、ASF駆動回路33への操作量Uの入力から信号処理回路37による制御出力(位置X及び速度V)の検出までの伝達系に対応する。
逆モデル演算部431は、信号処理回路37で検出された速度Vを、制御対象の伝達モデルに対応する逆モデルの伝達関数H-1を用いて、対応する操作量U*に変換する。伝達関数H-1は、例えば、入出力特性モデルHを、剛体モデルにより表現して定めることができる。具体的に、伝達関数H-1は、定数K及びラプラス演算子sを用いて、入出力特性モデルをH=K/sで表現したときの逆数H-1=(1/K)・sで定めることができる。
減算器433は、コントローラ本体41からの操作量Uと、逆モデル演算部431にて算出された操作量U*との偏差(U−U*)を算出する。ローパスフィルタ435は、この偏差(U−U*)から高周波成分を除去する。
外乱オブザーバ43は、このローパスフィルタ435による高周波成分除去後の偏差(U−U*)を、外乱推定値τとして出力する。偏差(U−U*)は、操作量Uが電流指令値である関係上、単位をアンペアとするものであるが、直流モータが駆動源である場合、アンペアとトルク(反力)との間には比例関係が成立する。このため、偏差(U−U*)は、外乱としてASFモータ31に作用する力を間接的に表す。
反力推定器45は、この外乱推定値τに基づき、ASFモータ31に作用する反力の推定値Rを算出する。外乱推定値τには、給紙ローラ25及びASFモータ31の回転に伴う粘性摩擦成分及び動摩擦成分が含まれる。反力推定器45は、外乱推定値τから粘性摩擦成分及び動摩擦成分を除去することによって、反力推定値Rを算出する。
例えば、反力推定器45は、摩擦力推定部451にて外乱推定値τに含まれる摩擦成分を推定し、減算器453にて、外乱推定値τから摩擦成分の推定値を減算することにより、反力推定値Rを算出する構成にされる。摩擦力推定部451は、給紙ローラ25の速度Vに所定係数γを乗算して、粘性摩擦成分の推定値(γ・V)を算出することができる。そして、これに動摩擦成分の推定値μNを加えて、上記摩擦成分の推定値(γ・V+μN)を算出することができる。
反力推定器45によって算出された反力推定値Rは、コントローラ本体41に入力されて斜行検知のために利用される。図7(A)(B)には、用紙Qが接触ユニット29に接触することによって生じる反力推定値R及びその時間微分としての微分値dRの変化を示す。図7(A)は、斜行時における反力推定値R及びその微分値dRの変化を示すグラフであり、図7(B)は、非斜行時における反力推定値R及びその微分値dRの変化を示すグラフである。
上述したように、接触ユニット29は、用紙搬送方向とは直交する方向に二つ配列されている。このため、図5に示すように、用紙Qが斜行し、用紙Qが搬送方向に対してゼロではない傾きθを有している場合、用紙Qは二つの接触ユニット29の夫々に対して異なるタイミングで接触する。
このように異なるタイミングで用紙Qが接触ユニット29の夫々に接触する場合には、図7(A)に示すように、反力推定値Rが、一つ目の接触ユニット29に用紙Qが接触した時点T1直後において急上昇し、その後一旦減少するが、二つ目の接触ユニット29に用紙Qが接触した時点T2直後において再度急上昇する。従って、用紙Qが斜行している場合には、反力推定値Rの微分値dRには、鋭いピークが二度生じる。
一方、用紙Qが斜行しておらず、用紙Qの傾きθがゼロである場合、図3に示すように、用紙Qは、二つの接触ユニット29の夫々に対して同時に接触する。
この場合には、図7(B)に示すように、反力推定値Rが、二つの接触ユニット29に用紙Qが接触した時点T3直後において急上昇するものの、その後は徐々に減少し、再度上昇しない。従って、用紙Qが斜行しておらず真っ直ぐ用紙搬送方向に移動している場合、反力推定値Rの微分値dRには、鋭いピークが基本的に一度しか生じない。
本実施例では、このような微分値dRのピークであって閾値THを超えるピークの発生回数をカウントすることによって用紙Qの斜行を検知すると共に、当該ピークの発生間隔に基づき、用紙Qの傾きθを算出(推定)する。
続いて、メインユニット90が印刷対象データを受信して給紙の必要が生じたときに実行する給紙命令処理の内容、及び、メインユニット90からの命令に従って、ASFコントローラ40のコントローラ本体41が実行する給紙処理の内容を、図8(A)及び図8(B)を用いて説明する。
メインユニット90は、図8(A)に示す給紙命令処理を実行すると、印刷対象データ受信時に外部装置から指定された動作モードに基づき、この動作モードで給紙を行う際の用紙Qの搬送速度に対応した閾値TH及び判定値Dを、ROM93に記憶された閾値テーブル及び判定値テーブルから読み出す(S110)。
閾値テーブルは、給紙時の用紙Qの搬送速度毎に、設定すべき閾値THを定義するテーブルである。閾値THは、搬送速度が高くなるほど大きな値を示すように定義される。一方、判定値テーブルは、給紙時の用紙Qの搬送速度毎に、設定すべき判定値Dを定義するテーブルである。判定値Dは、S410に示されるように、微分値dRにおける二回目のピークの発生を待機する時間に対応するものである。この判定値Dは、搬送速度が高くなるほど小さな値を示すように定義される。これら閾値TH及び判定値Dについては、設計者が実験等により適値を求めて定めることができる。
S110での処理を終えると、メインユニット90は、ASFコントローラ40のコントローラ本体41に、給紙処理時の動作パラメータを設定して、コントローラ本体41に
給紙処理の開始命令を入力する(S120)。その後、当該給紙命令処理を終了する。
S120でコントローラ本体41に設定する動作パラメータには、用紙Qの搬送速度、この搬送速度に対応した閾値TH及び判定値D、並びに、詳細を後述するレジスト量テーブル(TBL)が含まれる。これらの動作パラメータは、コントローラ本体41が有する記憶部411に記憶される。
一方、コントローラ本体41は、メインユニット90からの命令を受けて給紙処理を開始すると、フラグFをゼロにリセットする処理及び経過時間ΔTをゼロにリセットする処理を実行した後(S210)、S220以降の処理を実行する。
S220では、まず給紙ローラ25を定速回転させる第一のモータ制御処理を開始する。コントローラ本体41は、例えば上記第一のモータ制御処理として、目標とする用紙Qの搬送速度に対応する速度まで給紙ローラ25を加速させ、その後給紙ローラ25を定速回転させるように、ASFモータ31に対する操作量Uを逐次演算して、これをASF駆動回路33に入力する処理を実行する。第一のモータ制御処理は、例えば、フィードバック制御により行われてもよいし、フィードフォワード制御により行われてもよい。
その後、コントローラ本体41は、第一のモータ制御処理を継続した状態で、S230に移行し、図9に示す斜行判定処理を実行する。
斜行判定処理を開始すると、コントローラ本体41は、反力推定器45から得られる反力推定値Rの微分値dRを算出する(310)。ここでの微分値dRは、反力推定値Rを時間微分した値であるが、反力推定値Rを距離微分した値(例えば、位置Xで微分した値)であってもよい。そして、この微分値dRがメインユニット90から設定された閾値THを超えたか否かを判断する(S320)。S320では、微分値dRの前回値が閾値TH以下であり、今回の微分値dRが閾値THより大きい場合に、微分値dRが閾値THを超えたと肯定判断し、それ以外の場合には、否定判断する。
S320で微分値dRが閾値THを超えたと判断すると(S320でYes)、コントローラ本体41は、S330に移行し、フラグFが値1にセットされているか否かを判断する。S330では、フラグFが値1にセットされているか否かによって、微分値dRが閾値THを超える事象が二回発生したか否かを判断する。
そして、フラグが値1にセットされていないと判断すると(S330でNo)、フラグを値1にセットする一方(S340)、この時点において信号処理回路37が検出する給紙ローラ25の位置Xを、第一位置X1として記憶する(S350)。ここで記憶される第一位置X1は、微分値dRが閾値THを超えるピークの初回発生時点(図7に示す時点T1,T3直後)における給紙ローラ25の位置Xである。
その後、コントローラ本体41は、経過時間ΔTの計測をゼロから開始し(S360)、斜行判定処理を一旦終了する。S360の処理実行によっては、この時点からの経過時間ΔTが計測される。
一方、S330でフラグFが値1にセットされていると判断すると、コントローラ本体41は、この時点において信号処理回路37が検出する給紙ローラ25の位置Xを、第二位置X2として記憶する(S370)。ここで記憶される第二位置X2は、微分値dRが閾値THを超えるピークの二回目発生時点(図7に示す時点T2直後)における給紙ローラ25の位置Xである。
その後、コントローラ本体41は、第一位置X1及び第二位置X2に基づき、微分値d
Rが閾値THを超える事象の一回目の発生時点から、二回目の発生時点までの用紙搬送量Yを算出する(S380)。
第二位置X2から第一位置X1を引いた値(X2−X1)は、二つの上記ピーク間(時点T1から時点T2までの期間)における給紙ローラ25の回転量に対応する。従って、値(X2−X1)に、給紙ローラ25の円周2πrを乗算した値(X2−X1)・2πrを、用紙搬送量Yとして算出する(S380)。パラメータrは、給紙ローラ25の半径を表す。
その後、コントローラ本体41は、二つの接触ユニット29の位置関係と用紙搬送量Yとに基づき、用紙Qの搬送方向に対する傾きθを算出する(S390)。図5に示す幾何学的関係から、傾きθに対応するtanθは、接触ユニット間の長さL及び用紙搬送量Yを用いて式tanθ=Y/Lで表すことができる。即ち、S390では、式θ=atan(Y/L)に従って、用紙Qの傾きθを算出する。
S390において傾きθを算出すると、コントローラ本体41は、この用紙Qの傾きθに対応したレジスト量を設定して(S400)、斜行判定処理を終了する。
ここで、レジスト量について説明する。本実施例の画像形成システム1によれば、搬送ローラ61は、給紙トレイ21から搬送された用紙Qが搬送ローラ61による用紙Qのニップ位置に到達する時点において、停止した状態又は逆回転した状態にされる。
「逆回転」方向は、用紙Qが搬送経路の下流に搬送されるローラの回転方向(正回転方向)とは逆方向の回転方向を表す。上述の説明からも理解できるように、本明細書において、単にローラが「回転する」と表現した場合のローラの回転方向は「正回転」方向を表す。
搬送ローラ61が停止した状態又は逆回転した状態によれば、ニップ位置に到達した用紙Qは、搬送ローラ61及びピンチローラ62によって一旦堰き止められる。このように用紙Qが堰き止められた状態で給紙ローラ25を更に回転させて用紙Qを給紙トレイ21から下流に押し出すと、用紙Qの斜行は改善される。上述のレジスト量は、用紙Qをニップ位置に供給してから追加的に給紙ローラ25を回転させる量に対応する。
このレジスト量は、斜行を補正(改善)することができる程度に大きい値であるのが好ましいが、過度に大きなレジスト量を設定すると、用紙Qの先端が傷ついてしまう可能性がある。また、過度に大きなレジスト量は、ASFモータ31に大きな負荷を及ぼし、ASFモータ31の耐久性を悪化させる原因になり得る。
このため、S400では、記憶部411が記憶するレジスト量テーブルを参照して、S390で算出した傾きθに対応した適切なレジスト量を設定する。レジスト量テーブルは、傾きの範囲毎に、設定すべきレジスト量が定義されたテーブルである。
コントローラ本体41は、このレジスト量テーブルに従って、例えば、傾きθの0≦θ<θ1であるときは、レジスト量をゼロに設定し、傾きθがθ1≦θ<θ2であるときには、レジスト量をゼロより大きい第一の値A1に設定し、傾きθがθ2<θであるときには、レジスト量を第一の値A1より更に大きい第二の値A2に設定する。θ1,θ2,A1,A2の適値については、設計者が実験より求めることができる。
この他、S320において否定判断すると、コントローラ本体41は、S410に移行し、S360で計測を開始した経過時間ΔTが、メインユニット90により設定された判定値Dを超えているか否かを判断する。
S360で経過時間ΔTの計測が開始されるのは、微分値dRに閾値THを超える初回ピークが発生した時点であり、微分値dRに閾値THを超えるピークが一度も発生していない場合は、経過時間ΔT=0である。この場合、S410においては否定判断し、斜行判定処理を終了する。同様に、微分値dRに閾値THを超える初回ピークが発生した後であっても、経過時間ΔTが判定値Dを超えていない場合には、S410で否定判断し、斜行判定処理を終了する。
一方、初回ピーク発生後、微分値dRに閾値THを超える第二のピークが発生しないことに起因して、経過時間ΔTが判定値Dを超えた場合には、S410において肯定判断し、S420に移行する。そして、用紙Qの傾きθがゼロであると判定する。即ち、初回ピークの発生時点から判定値Dに対応する時間待っても、第二のピークが発生しない場合には、その後も第二のピークは発生しないとみなして、用紙Qの斜行は発生していないと判定する。
その後、コントローラ本体41は、S430に移行し、傾きθ=0に対応するレジスト量として値ゼロを設定した後、当該斜行判定処理を終了する。
このようにして斜行判定処理(S230)を終了すると、コントローラ本体41は、S240に移行し、直前の斜行判定処理においてレジスト量が設定されたか否かを判断する。そしてレジスト量が設定されていないと判断すると、S230に移行し、レジスト量が設定されるまで、第一のモータ制御処理を実行しながら斜行判定処理を繰返し実行する。
一方、レジスト量が設定されたと判断すると(S240でYes)、コントローラ本体41は、第一のモータ制御処理に代えて、給紙ローラ25を、非斜行時の目標停止位置から上記設定されたレジスト量分だけ下流の位置まで回転させる第二のモータ制御処理を実行し(S250)、その後当該モータ制御処理を終了して当該給紙処理を終了する。
ここで言う非斜行時の目標停止位置は、斜行が発生していないとき(θ=0であるとき)に給紙ローラ25を停止させるべき位置として定められるものであり、用紙Qをニップ位置まで搬送して停止させるのに必要十分な給紙ローラ25の回転量に対応する位置に定められる。
レジスト量がゼロに設定されている場合、S250では、第二のモータ制御処理として、給紙ローラ25を上記目標停止位置まで回転させて停止させるASFモータ31に対するモータ制御(操作量Uの演算)を行う。一方、レジスト量が非ゼロに設定されている場合には、レジスト量がゼロに設定されている場合よりもレジスト量分、給紙ローラ25を定速回転させる期間を延ばすことにより、給紙ローラ25を上記目標停止位置よりもレジスト量分延長した位置に停止させる。
以上、本実施例の画像形成システム1について説明したが、本実施例によれば、給紙ローラ25と搬送ローラ61との間の用紙搬送路における特定領域に、複数の接触ユニット29を、用紙搬送方向とは直交する方向に配置した。これによって、用紙Qの斜行が発生していないときには、複数の接触ユニット29に同時に用紙Qが接触し、用紙Qの斜行が発生しているときには、複数の接触ユニット29に異なるタイミングで用紙Qが接触するように、画像形成システム1を構成した。
そして、用紙Qと接触ユニット29との接触によって生じるASFモータ31に作用する反力の変化を、ASFモータ31に対する制御入力(操作量U)及び制御出力(速度V)に基づき反力推定値Rを算出することによって観測するようにした。具体的には、反力推定値Rの微分値dRと閾値THとを比較することによって、用紙Qと接触ユニット29
との接触によって生じる反力の変化を検知するようにした。
そして、閾値THを超える微分値dRのピークが複数回発生した場合には、これら複数ピークの間での用紙搬送量Y(換言すれば給紙ローラ25の回転量)と、配列された接触ユニット29の位置関係とから、用紙Qの傾きθを算出するようにした。これによって、用紙Qの斜行を検知するようにした。また、ピークが一回しか発生しなかった場合には、用紙Qの斜行は発生していないとみなし、傾きθとしてゼロを算出するようにした。
そして、算出した傾きθに基づいて、給紙部10から記録部50へ用紙Qを供給する際の用紙Qの搬送量(レジスト量)を切り替えるようにした。従って、本実施例によれば、従来技術のように光学センサを用いなくても、適切に用紙Qの斜行を検知して、斜行の有無や用紙Qの傾きθに応じた適切な給紙処理を行うことができる。
付言すると、斜行検知のために光学センサを用いる場合には、画像形成システム1の筐体内に、光学センサを配置する空間や配線する空間を設ける必要があった。これに対し、本実施例のように光学センサを用いない場合には、光学センサを配置するスペースが不要であることは勿論のこと、配線が不要であるために、画像形成システム1を小型にすることができる。更には、比較的高価な光学センサを用いなくて済み、画像形成システム1を安価に製造することができる。更に言えば、光学センサとコントローラとを電気的に接続する場合に発生する接続不良等を心配しなくて済み、耐久性のある画像形成システム1を安価に製造することができる。
また、本実施例によれば、反力推定値Rから斜行を検知する際に、反力推定値Rの微分値Rを用いるようにしたので、ASFモータ31に作用する定常的な反力の影響を抑え、高精度に微分値Rから用紙Qと接触ユニット29との接触事象を観測することができる。
この他、本実施例によれば、閾値TH及び判定値Dとして用紙Qの搬送速度に応じた値をメインユニット90からASFコントローラ40に設定するようにしたので、より適切な斜行検知を行うことができる。即ち、用紙Qの搬送速度が高くなれば、用紙Qと接触ユニット29との接触によって生じる反力も高くなるが、本実施例によれば、用紙Qの搬送速度に応じて、適切な閾値TH及び判定値Dを用いて、斜行を検知することができるので、斜行の誤検知や、斜行の検知漏れが生じる可能性を抑えることができる。
ところで、接触ユニット29の数及び配置は、上記実施例に限定されず、種々の態様を採ることができる。以下では、接触ユニット29の数及び配置の異なる変形例の画像形成システム1を説明する。
[第一変形例]
第一変形例の画像形成システム1は、図10(A)に示すように、接触ユニット29が、給紙ローラ25と搬送ローラ61との間の用紙搬送路の特定領域において、三つ設けられたものである。これら接触ユニット29は、用紙搬送方向とは直交する方向において不等間隔で配列される。
図10(A)に示す例によれば、第一の接触ユニット29と第二の接触ユニット29との間の距離間隔はL1である。これに対し、第二の接触ユニット29と第三の接触ユニット29との間の距離間隔はL1とは異なるL2である。
本変形例の画像形成システム1によれば、用紙Qの斜行が発生している場合には、反力推定値Rの微分値dRが閾値THを超えるピークが、三つ生じることになる。一方、斜行が発生していない場合には、ピークが一つ生じることになる。従って、本変形例によれば
、ピークの発生回数に基づいて、用紙Qの斜行を検知することができる。
更に本変形例によれば、斜行発生時、上記三つのピークの発生間隔(これらのピーク間の用紙搬送量Y)に着目することで、用紙Qが搬送方向の左右どちらに傾いているかを判断することができる。即ち、初回及び二回目のピークの発生間隔と、二回目及び三回目のピークの発生間隔とのどちらが長いかを判断することにより、用紙Qが搬送方向の左右どちらに傾いているかを判断することができる。
従って、本変形例によれば、一層高度な斜行検知を行うことができる。尚、本変形例の画像形成システム1は、三つの接触ユニット29のうちの二つに着目することで、上述した実施例と同様の手法で用紙Qの傾きθを算出することができる。
付言すると、本変形例の更なる変形例としては、三つの接触ユニット29を等間隔に配置する例が考えられる。この他、接触ユニット29は四つ以上配置されてもよい。
[第二変形例]
第二変形例の画像形成システム1は、図10(B)に示すように、接触ユニット29が、給紙ローラ25と搬送ローラ61との間の用紙搬送路の特定領域において、三つ設けられたものである。これら三つの接触ユニット29は、用紙搬送方向とは交差する二方向に、くの字(L字)状に配列される。換言すれば、これら三つの接触ユニット29は、用紙搬送方向とは交差する二辺及び用紙搬送方向とは直交する一辺を有する三角形の頂点を形成するように配置される。図10(B)に示す例によれば、これら三つの接触ユニット29は、用紙搬送方向に直交する方向において等間隔に(距離L/2間隔で)配置されている。
本変形例の画像形成システム1によれば、斜行が発生していないときには、反力推定値Rの微分値dRが閾値THを超えるピークが二回発生する。一方、斜行が発生しているときには、ピークが三回発生する。但し、ここでは用紙搬送路の構造によって、生じ得る用紙Qの傾きθに限界があるものとする。即ち、用紙搬送方向とは直交しない方向に配置される二つの接触ユニット29を結ぶ辺に平行に、用紙Qの辺が配置されることはないものとする。
従って、本変形例によれば、ピークの発生回数に基づいて、斜行を検知することができる。更に、本変形例によれば、三回目のピークの発生を待たずに、二回のピークの発生間隔(これらのピーク間の用紙搬送量Y)に基づき、斜行が発生しているかどうかを判断することができる。即ち、本変形例によれば、ピークの発生回数に依らずピークの発生間隔だけに基づいて、用紙Qの斜行を検知することも可能である。
このように、本変形例によれば、三回目のピークの発生を待たずに二回のピークの発生間隔で斜行を検知することができ、効率的に斜行を検知することができる。勿論、これらのピークの発生間隔に基づいては、用紙の傾きθを算出することも可能である。また、ピークの発生回数と発生間隔の両者に基づいて、用紙Qの斜行を検知することで、斜行の検知精度を高めることも可能である。
[第三変形例]
第三変形例の画像形成システム1は、図10(C)に示すように、接触ユニット29が、給紙ローラ25と搬送ローラ61との間の用紙搬送路の特定領域において、三つ設けられたものである。これら三つの接触ユニット29は、用紙搬送方向とは交差する方向であって、用紙搬送方向とは直交しない方向に一列に配置される。図10(C)に示す例によれば、これら三つの接触ユニット29は、用紙搬送方向に直交する方向に距離L/2間隔で等間隔に配置され、用紙搬送方向に距離M間隔で等間隔に配置されるようにして、用紙
搬送方向とは交差する方向に配列されている。
本変形例の画像形成システム1によれば、用紙搬送路の構造によって、生じ得る用紙Qの傾きθには限界があり、例えば、三つの接触ユニット29を結ぶ線分に平行に、用紙Qの辺が配置されることはないものとする。この場合には、斜行の有無に依らず、反力推定値Rの微分値dRが閾値THを超えるピークは三回発生する。
本変形例によれば、これらのピークの発生間隔(これらのピーク間の用紙搬送量Y)を計測することにより、斜行の有無を検出することができ、用紙Qの傾きθを算出することができる。更なる変形例として、接触ユニット29は二つだけ設けられてもよいし、四つ以上設けられてもよい。
[他の実施形態]
以上には、変形例を含む本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく種々の態様を採り得る。例えば、上記実施例としては、画像形成システム1に、本発明を適用した例を説明したが、本発明は、給紙機構20に対応した原稿を搬送するための機構を備える画像読取システム等にも適用することができる。
本発明を、画像読取システムに適用した場合には、例えば、読取画像の回転補正に、傾きθの情報を用いることができる。この他、本発明は、シートを搬送する機能を有した種々のシステム及び機器に適用することができる。
また、上記実施例によれば、コントローラ本体41は、反力推定器45から得られる反力推定値Rの微分値dRを閾値THと比較することで、接触ユニット29に用紙Qが接触したことを検知していた。しかしながら、反力推定値Rを閾値と比較し、接触ユニット29に用紙Qが接触したことを検知してもよい。
また、上記実施例によれば、接触ユニット29として、回動可能なアーム構成の接触ユニットを例示したが、接触ユニット29は、例えば、ゴム材などの変形可能な弾性材によって構成されてもよい。この場合、接触ユニット29は、用紙Qと接触しないとき用紙Qの搬送経路を遮断するが、用紙Qと接触すると変形して用紙Qを下流に通過させる構成にされ得る。付言すると、接触ユニット29は、用紙Qと接触したときに反力が上昇するものであれば、様々な形態を採り得る。
また、上記実施例によれば、斜行の有無及び傾きθの情報を、レジスト量の調整に用いるようにしたが、斜行の有無及び傾きθの情報は、単に用紙搬送を緊急停止させるか否かの判断のために用いることも可能である。更に言えば、斜行の有無を表す情報は、単に搬送エラーをユーザに報知するために用いられてもよい。本発明は、斜行検知後の処理動作について何ら限定するものではなく、これらの処理動作について種々の態様を採り得る。
[用語間の対応関係]
最後に用語間の対応関係について説明する。給紙機構20は、搬送デバイスの一例に対応し、給紙機構20が備える接触ユニット29は、接触部の一例に対応する。また、ASFコントローラ40が備えるコントローラ本体41は、モータ制御ユニット及び検知ユニットの一例に対応し、外乱オブザーバ43及び反力推定器45は、反力推定ユニットの一例に対応する。また、メインユニット90が実行するS110,S120にて実現される機能は、設定ユニットによって実現される機能の一例に対応する。この他、給紙部10は、シート搬送装置の一例に対応し、記録部50は、画像形成装置の一例に対応する。