JP6212983B2 - 防熱性床構造体の施工方法 - Google Patents

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Description

本発明は、防熱性を必要とする船舶等の床構造体に用いられる流動性を有する防熱性水硬性組成物を用いた防熱性床構造体の施工方法に関する。
防熱性が求められる船舶用のA60級仕切り甲板などの床構造体において、防熱性を有する乾式ボードを敷き、モルタル等で仕上げる工法が一般的に用いられる。
しかし、実際の下地鋼板は溶接部の存在により、凹凸があるため、乾式ボードでは部分的な浮き部が発生し、荷重によりクラックが発生するといった問題がある。また、乾式ボードは、設置に時間がかかること、ジョイント部分の隙間や段差を無くす等の理由により、保護モルタルによる仕上げが入るなど、複数の工程を必要とするため、施工が複雑で時間を要する。また、細かく入り組んだ場所では乾式ボードを切って使用する必要があり、廃材の発生によるロスも発生することから、乾式ボードの代わりに湿式施工による、セメント、混和材、吸水性を有する中空骨材、補強材、混和剤および水を含む密度が0.6〜1.2g/cm、であり、且つ吸水性を有する中空骨材が容積比で55%〜90%含む断熱材組成物が特許文献1に開示されている。
特許文献2には、軽量で耐水性や断熱性を有し、特にクラック発生を抑制することができる、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏の和に対して0.15〜1.5重量倍のポリマーディスパージョンと骨材として軽量発泡骨材(バーミキュライト、パーライト、シリカバルーン等の無機系発泡体)を配合してなるモルタル組成物が開示されている。
特許文献3には、水硬性成分としてアルミナセメント、ポルトランドセメント、石膏を含み、船舶甲板等の鋼板下地への適応が可能な、施工性に優れたレベリング材を使用した複合床構造体及びその施工方法が開示されている。
特開2007−290946号公報 特開昭61−40862号公報 特開2010−77702号公報
しかしながら、防熱材を湿式とした上記発明は、平坦性及び平滑性のある床面の形成に高い技能と長い施工時間が必要であり、施工後に次工程へ移行するための歩行可能な硬化表面状態となるまでに長い養生期間が必要であることから、さらなる改良を必要としていた。さらに、組成物において、粉体に液体混和材、水、等を現場にて各々を計量し混合させるなど複雑な調製手順や手間、容器や残材などの廃材ロス等の課題を有していた。
そこで、本発明は、躯体との隙間、浮き、クラックを抑制し、良好な流動性による優れた施工性や短時間で平坦性及び平滑性のある床面を形成することができ、液体混和材を使用せず、現場で水と混練するだけで得られ、材料ロスも少なく施工効率が良く、優れた速硬性により次工程を早期に実現でき、工期短縮が可能な防熱性水硬性組成物を用いた防熱性床構造体の施工方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明者らは、下地接着モルタル施工工程と、モルタル施工工程と、硬化体形成工程と、を有する防熱性床構造体の施工方法において、アルミナセメント、ポルトランドセメント、石膏、無機粉体、軽量骨材、流動化剤を含む防熱性水硬性組成物を用いることによって、優れた流動性、施工性及び平滑性を有するモルタル組成物を得ることができ、さらに、モルタル組成物は優れた速硬性を有することから、施工後の早期開放(次工程への早期移行)が可能であり、軽量で防熱性に優れ、良好な強度特性を有し、収縮が小さく、クラックの発生を抑制できるモルタル硬化体を得ることが可能であることを見出し、且つ、鋼板との十分な接着性を有する防熱性床構造体を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、鋼板床に下地接着モルタルを施工し、下地接着モルタル層を形成する下地接着モルタル施工工程と、下地接着モルタル層の上面に、防熱性水硬性組成物と水とを混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、モルタル組成物を硬化させて、モルタル硬化体を形成する硬化体形成工程と、を有する防熱性床構造体の施工方法であって、防熱性水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機粉体と、軽量骨材と、流動化剤とを含み、無機粉体は、高炉スラグ微粉末及び水酸化アルミニウム微粉末から選ばれる一種又は二種以上であり、軽量骨材は、ガラスを主成分とする原料を焼成して得られたものであり、吸水時間2時間における吸水率が9%以下である、防熱性床構造体の施工方法を提供する。
本発明の防熱性床構造体の施工方法の好ましい態様[(1)〜(4)]を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることがより好ましい。
(1)本発明の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対して、無機粉体30〜200質量部、軽量骨材10〜120質量部含むことが好ましい。これにより、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、より軽量で防熱性に優れるモルタル硬化体を得ることができる。
(2)本発明の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物は、水硬性成分は、水硬性成分100質量%中にアルミナセメント30〜60質量%、ポルトランドセメント15〜50質量%及び石膏10〜40質量%含むことが好ましい。これにより、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、より優れた速硬性を有するモルタル組成物を得ることができ、施工後の早期開放がより確実となる。また、良好な強度特性や低収縮性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
(3)本発明の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物は、軽量骨材は、粒子径が800μm以上の粒子を含まず、且つ粒子径が212μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合が85〜100質量%であり、見かけ比重が0.15〜0.8kg/Lであることが好ましい。これにより、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、より軽量で防熱性に優れるモルタル硬化体を得ることができる。
(4)本発明の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物は、さらに増粘剤、消泡剤、凝結調整剤及び樹脂粉末から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含むことが好ましい。これにより、モルタル組成物の硬化がより確実となる。
本発明によれば、軽量で防熱性に優れ、良好な強度特性を有し、収縮が小さく、クラックの発生を抑制できるモルタル硬化体を形成可能で、且つ優れた流動性、施工性及び平滑性を有し、さらに、施工後の早期開放(次工程への早期移行)が可能な優れた速硬性を有するモルタル組成物、及びそのようなモルタル組成物を調製することが可能な防熱性水硬性組成物を用いた防熱性床構造体の施工方法を提供することができる。また、この施工方法により、鋼板との十分な接着性を有する防熱性床構造体を提供することができる。
耐火試験用試験体を示す模式図である。 耐火試験装置を示す模式図である。 耐火試験装置に試験体を設置した模式図である。 長さ変化測定装置を示す模式図である。
<防熱性床構造体の施工方法>
本発明の防熱性床構造体の施工方法の好適な実施形態について以下に説明する。本実施形態の防熱性床構造体の施工方法は、防熱性を必要とする船舶等の床構造体に用いられる施工方法であり、下地接着モルタル施工工程と、モルタル施工工程と、硬化体形成工程と、仕上げ材施工工程と、を含む。以下、各工程の詳細について説明する。
下地接着モルタル施工工程は、船舶等の鋼板床の上面に下地接着モルタルを施工し、下地接着モルタル層を形成する工程である。具体的には、まず、鋼板床の上面を箒または掃除機等を用いて埃等を清掃する。次に、下地接着モルタルを鋼板床の上面に施工(塗布)し、乾燥させて下地接着モルタル層を形成する。塗布にあたっては刷毛やコテ等を適宜選択して用いることができる。下地接着モルタルの塗布量は、好ましくは200〜1600g/mであり、より好ましくは250〜1500g/mであり、さらに好ましくは300〜1400g/mであり、特に好ましくは350〜1300g/mである。下地接着モルタルの塗布量が、上述の範囲であることによって、接着性がより向上する。
下地接着モルタルとしては、アルミナセメント、細骨材、合成樹脂エマルジョン、を含むポリマーセメントモルタルを好適に用いることができる。
下地接着モルタルに用いられるアルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、それらの主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。なかでも、2800〜4000cm/gのブレーン比表面積を有するアルミナセメントを用いることが好ましい。また、化学分析値として求められるアルミナセメント中のAl量は、30〜60質量%が好ましく、Fe量は、0.5〜20質量%が好ましい。アルミナセメントのブレーン比表面積は、JIS R 2521:1995「耐火物用アルミナセメントの物理試験方法」に準じて求められる。
下地接着モルタルに用いられる細骨材としては、最大粒子径が425μm以下であり、細骨材100質量%中に300μm超の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含むことが好ましい。このような細骨材として、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類、スラグ細骨材、再生細骨材、から適宜選択して用いることができる。特に細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂及び砕砂等の砂類から選択したものを好適に用いることができる。
細骨材の粒子径は、JIS Z 8801:2006に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本発明において、「300μm超の粒子径を有する粗粒分」とは、300μm篩いを用いたときの篩上残分の粒子の質量割合のことをいう。
細骨材中に300μm超の粒子径を有する粗粒分を5質量%以上含む場合、下地接着モルタルの施工性及び接着性が低下する傾向にある。上記粗粒分の下限値は特に制限がなく、0質量%であってもよい。優れた自己流動性を得るため、細骨材中の粗粒分は、より好ましくは0〜4質量%であり、さらに好ましくは0〜2質量%であり、特に好ましくは0〜1質量%である。
下地接着モルタルに用いられる細骨材の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、好ましくは50〜400質量部であり、より好ましくは100〜350質量部であり、さらに好ましくは150〜300質量部であり、特に好ましくは200〜250質量部である。細骨材の含有量が上述の範囲であることによって、施工性及び接着性がより向上する。
下地接着モルタルに用いられる合成樹脂エマルジョンとしては、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョンなどの公知の建築材料用エマルジョンを用いることができる。すなわち、合成樹脂エマルジョンの合成樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル酸誘導体、エチレン、酢酸ビニルなどのα−オレフィン化合物、スチレンなどのビニル化合物、ブタジエンなどの重合成分の重合体又は共重合体を用いることができる。
下地接着モルタルに用いられる合成樹脂エマルジョンの含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、固形分量に換算して、好ましくは50〜500質量部であり、より好ましくは75〜400質量部であり、さらに好ましくは100〜300質量部であり、特に好ましくは150〜200質量部である。細骨材の含有量が上述の範囲であることによって、施工性及び接着性がより向上する。
なお、合成樹脂エマルジョンの固形分量とは、合成樹脂エマルジョン中の水分を蒸発させて残った固形分の質量である。合成樹脂エマルジョンから固形分を差し引いたものを合成樹脂エマルジョン中の水分とする。また、下地接着モルタル中の合成樹脂エマルジョンを液体部とし、下地接着モルタルから合成樹脂エマルジョンを除いた部分を粉体部とする。液体部として水を加えることもできる。
下地接着モルタルの調製は、下地接着モルタルの粉体部と液体部とを所定の割合で配合して混練することにより調製することができる。混練には、ハンドミキサーやモルタルミキサー等を適宜選択して用いることができる。また、混練時間は、2〜5分間が好ましい。
下地接着モルタルは、その特性を損なわない範囲で、さらに、無機充填材を添加してもよい。
無機充填材は、炭酸カルシウム微粉末、タルク、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、フライアッシュ、酸化チタン粉末、から適宜選択して添加することができる。下地接着モルタルに用いられる無機充填材の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、好ましくは0超〜200質量部であり、より好ましくは1〜150質量部であり、さらに好ましくは2〜100質量部であり、特に好ましくは3〜50質量部である。無機充填材の含有量が上述の範囲であることによって、施工性がより向上することが期待できる。
モルタル施工工程は、下地接着モルタル層の上面に、防熱性水硬性組成物と水とを混練して調製したモルタル組成物を施工する工程である。具体的には、防熱性水硬性組成物と水とを所定量配合して混練してモルタル組成物を調製し、下地接着モルタル層の上面に施工(流し込み)する。その後、コテあるいはトンボを用いてモルタル組成物表面が平坦及び平滑になるように表面を均す作業を行い、モルタル組成物表面を平坦及び平滑にする。混練には、ハンドミキサーやモルタルミキサー等を適宜選択して用いることができる。また、混練時間は、2〜5分間が好ましい。さらに、モルタル組成物の施工厚みは、好ましくは15〜40mmであり、より好ましくは18〜35mmであり、さらに好ましくは20〜32mmであり、特に好ましくは22〜30mmである。モルタル組成物の施工厚みが上述の範囲であることによって、防熱性と軽量性をバランス良く得ることができる。ここで用いる防熱性水硬性組成物及びモルタル組成物については、後述する。
硬化体形成工程は、モルタル組成物を硬化させて、モルタル硬化体を形成する工程である。具体的には、施工したモルタル組成物の表面硬度が次工程に移行できる程度に硬化し、モルタル硬化体を形成する工程である。モルタル硬化体については、後述する。
本実施形態の防熱性床構造体の施工方法は、さらに仕上げ材施工工程を好適に用いることができる。具体的には、モルタル硬化体の上面に建築用途で用いられるシートやタイル等の張り物及び塗り床材等の仕上げ材を施工する工程である。なかでも難燃性を有する仕上げ材を用いることが好ましい。
以上述べたような施工方法により、防熱性床構造体を得ることができる。この方法によって得られたモルタル硬化体は、軽量で防熱性に優れ、良好な強度特性を有し、収縮が小さく、クラックの発生を抑制できる。このため、本実施形態の施工方法によって施工された防熱性床構造体は耐久性に優れ、鋼板との十分な接着性を有する。
また、本実施形態の施工方法は、特定の防熱性水硬性組成物及びモルタル組成物を用いていることから、優れた流動性、施工性及び平滑性を有し、さらに、施工後の早期開放(次工程への早期移行)が可能な優れた速硬性を有する。
次に、本実施形態の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物の一例を説明する。本実施形態の防熱性床構造体の施工方法では、以下に述べるような防熱性水硬性組成物を用いるので、優れた流動性、施工性及び平滑性を有し、さらに、施工後の早期開放(次工程への早期移行)が可能な優れた速硬性を有するとともに、軽量で防熱性に優れ、良好な強度特性を有し、収縮が小さく、クラックの発生を抑制できるモルタル硬化体を有する防熱性床構造体を得ることができる。
<防熱性水硬性組成物>
本実施形態の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機粉体と、軽量骨材と、流動化剤とを含む防熱性水硬性組成物である。
アルミナセメントは、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、それらの主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。なかでも、2800〜4000cm/gのブレーン比表面積を有するアルミナセメントを用いることが好ましい。また、化学分析値として求められるアルミナセメント中のAl量は、30〜60質量%が好ましく、Fe量は、0.5〜20質量%が好ましい。アルミナセメントのブレーン比表面積は、JIS R 2521:1995「耐火物用アルミナセメントの物理試験方法」に準じて求められる。
ポルトランドセメントは、水硬性材料として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。これらのなかでも、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」で規定されるポルトランドセメントを用いることが好ましい。速硬性の観点から、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントの使用が好ましい。
石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏及び無水石膏が挙げられ、排煙脱硫やフッ酸製造工程等で副産される石膏、又は天然に産出される石膏のいずれも使用することができる。施工性の観点から、無水石膏の使用が好ましい。
水硬性成分の配合割合は、水硬性成分100質量%中に、好ましくはアルミナセメント30〜60質量%、ポルトランドセメント15〜50質量%及び石膏10〜40質量%含み、より好ましくはアルミナセメント35〜55質量%、ポルトランドセメント20〜45質量%、無水石膏15〜35質量%含み、さらに好ましくはアルミナセメント40〜50質量%、ポルトランドセメント25〜40質量%、無水石膏18〜30質量%含み、特に好ましくはアルミナセメント41〜47質量%、ポルトランドセメント27〜37質量%、無水石膏20〜28質量%含む。
水硬性成分の配合割合が上述の範囲であることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、より優れた速硬性を有するモルタル組成物を得ることができ、施工後の早期開放がより確実となる。また、良好な強度特性や低収縮性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
無機粉体は、高炉スラグ微粉末及び水酸化アルミニウム微粉末から選ばれる一種又は二種以上である。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定される高炉スラグ微粉末であることが好ましい。高炉スラグ微粉末を用いることで、強度発現性及び寸法安定性をより高めることができる。また、高炉スラグ微粉末は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い測定されるブレーン比表面積が、好ましくは3000cm/g以上であり、より好ましくは3000〜8000cm/gであり、さらに好ましくは3500〜6000cm/gであり、特に好ましくは4000〜5000cm/gである。ブレーン比表面積が上述の範囲であることによって、寸法安定性及び防熱性に優れ、良好な強度特性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
水酸化アルミニウム微粉末は、製造方法に特に限定されるものではなく、一般的な方法で製造された水酸化アルミニウム微粉末を使用することができる。また、水酸化アルミニウム微粉末の純度(アルミニウム微粉末中におけるAl(OH)の割合)は95質量%が好ましく、96質量%以上がより好ましく、97質量%がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましい。さらに、水酸化アルミニウム微粉末の平均粒子径は、50〜85μmの範囲であることが好ましく、55〜80μmの範囲であることがより好ましく、60〜75μmの範囲であることが特に好ましい。水酸化アルミニウム微粉末の純度や平均粒子径が上述の範囲であることによって、防熱性に優れ、良好な強度特性を有するモルタル硬化体を得ることができる。ここで、平均粒子径とは乾式ふるいによる測定により得られる値である。
無機粉体の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは30〜200質量部含み、より好ましくは35〜100質量部含み、さらに好ましくは40〜80質量部含み、特に好ましくは45〜75質量部含む。無機粉体の含有量が上述の範囲であることによって、寸法安定性及び防熱性に優れ、良好な強度特性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
軽量骨材は、ガラスを主成分とする原料(例えば、ガラスの含有量が80質量%以上)を焼成する焼成工程を有する製造方法によって得られるガラス発泡体からなる軽量骨材(ガラス発泡骨材)である。原料に含まれるガラスとしては、ビンや板ガラス等の廃ガラスを用いることができる。また、ガラス発泡骨材は軽量であり、主成分としてガラスを含有する球状物であるため、強度が高いうえに吸水量も少ない。したがって、モルタル硬化体の強度を確保しながら、一層の軽量化を図ることができる。
軽量骨材(ガラス骨材)の製造方法は、例えば、主成分として廃ガラスを含む原料をボールミル等の粉砕機で粉砕して調合する調合工程と、調合した原料を造粒機又はスプレードライヤーで球状化して粒状物を得る球状化工程と、粒状物をロータリーキルン等で焼成する焼成工程と、振動篩機により分級する分級工程と、を有する。
軽量骨材の見かけ比重は、好ましくは0.15〜0.8kg/L(リットル)であり、より好ましくは0.2〜0.6kg/Lであり、さらに好ましくは0.25〜0.5kg/Lであり、特に好ましくは0.3〜0.45kg/Lである。軽量骨材の見かけ比重を、上述の範囲にすることによって、より軽量で防熱性に優れるモルタル硬化体を得ることができる。ここで、見かけ比重は、パウダーテスタを用いて測定することにより得られる値である。
軽量骨材の吸水率は、吸水時間2時間において、好ましくは9%以下であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下であり、特に好ましくは6%以下である。また、軽量骨材の吸水率は、給水時間24時間において、好ましくは12%以下であり、より好ましくは11%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは9%以下である。軽量骨材の吸水率を、上述の値以下にすることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、より軽量で防熱性に優れるモルタル硬化体を得ることができる。ここで、吸水率は、JIS A 1134:2006「構造用軽量細骨材の密度及び吸水率試験方法」に準じて求められる。
軽量骨材は、粒子径が800μm以上の粒子を含まず、且つ粒子径が212μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合が85〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることがより好ましく、95〜100質量%であることがさらに好ましく、97〜100質量%であることが特に好ましい。軽量骨材の質量割合を、上述の範囲にすることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、より軽量で防熱性に優れるモルタル硬化体を得ることができる。
軽量骨材の粒子径は、JIS Z 8801:2006に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本明細書において、「粒子径212μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合」とは、篩目600μmの篩いを用いたとき、篩目600μmの篩いを通過し、且つ篩目212μmの篩を用いたとき、篩目212μmの篩上に残る粒子の軽量骨材全体に対する質量割合のことをいう。
軽量骨材の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは10〜120質量部であり、より好ましくは15〜110質量部であり、さらに好ましくは20〜105質量部であり、特に好ましくは25〜100質量部である。軽量骨材の含有量を上述の範囲にすることによって、より軽量で防熱性に優れるモルタル硬化体を得ることができる。
流動化剤は、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテル・ポリカルボン酸系等の市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系及びポリエーテル・ポリカルボン酸等の市販の流動化剤を用いることが好ましい。
流動化剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部であり、より好ましくは0.05〜1.5質量部であり、さらに好ましくは0.1〜1質量部であり、特に好ましくは0.15〜0.5質量部である。流動化剤の含有量を上述の範囲にすることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。
本実施形態の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物は、さらに増粘剤、消泡剤、凝結調整剤及び樹脂粉末から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
増粘剤は、増粘剤としては、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの市販品が挙げられる。中でもセルロース系増粘剤は価格や入手のし易さの観点から好ましい。セルロース系増粘剤には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等があり、その種類を問わず組み合わせて用いることができる。増粘剤を用いることで、防熱性水硬性組成物の材料分離抵抗性を向上することができる。
増粘剤の20℃における2%水溶液の粘度は、好ましくは20000〜40000mPa・sであり、より好ましくは22000〜38000mPa・sであり、さらに好ましくは24000〜36000mPa・sであり、特に好ましくは25000〜35000mPa・sである。増粘剤の粘度を上述の範囲にすることによって、より優れた施工性や材料分離抵抗性を有するモルタル組成物を得ることができる。ここで、増粘剤の粘度は、増粘剤を2質量%含む水溶液(20℃)をB型粘度系を用いて測定することにより得ることができる。
増粘剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部であり、より好ましくは0.15〜1質量部であり、さらに好ましくは0.2〜0.9質量部であり、特に好ましくは0.25〜0.8質量部である。増粘剤の含有量を上述の範囲にすることによって、より優れた施工性や材料分離抵抗性を有するモルタル組成物を得ることができる。
消泡剤は、シリコーン系、アルコール系及び/又はポリエーテル系などの合成物質及び/又は植物由来の天然物質など、公知のものが挙げられる。中でもポリエーテル系消泡剤は価格や入手のし易さの観点から好ましい。消泡剤を用いることで、防熱性水硬性組成物の消泡効果を向上することができる。
消泡剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜0.3質量部であり、より好ましくは0.03〜0.2質量部であり、さらに好ましくは0.04〜0.15質量部であり、特に好ましくは0.05〜0.12質量部である。消泡剤の含有量を上述の範囲にすることによって、より優れた施工性や消泡性を有するモルタル組成物を得ることができる。
凝結調整剤は、水硬性成分の水和反応を促進する凝結促進剤と水硬性成分の水和反応を遅延する凝結遅延剤があり、使用する水硬性成分の配合に応じてこれらの成分や含有量を適宜選択し、組み合わせて使用することができる。
凝結遅延剤は、公知のものを用いることができる。一例として、オキシカルボン酸類等の有機酸や、グルコース、マルトース、デキストリン等の糖類、重炭酸ナトリウムやリン酸ナトリウム等を、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシ酸を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩及びカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩及びマグネシウム塩等)を挙げることができ、ナトリウム塩がより好ましい。また、特に、酒石酸ナトリウムが、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面から好ましく、重炭酸ナトリウムと併用することが更に好ましい。
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができる。例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩、硫酸アルミニウム及び塩化カルシウムを好適に用いることができ、これらを数種組み合わせて使用することができる。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム及び水酸化リチウム等の無機リチウム塩や、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム及びクエン酸リチウム等の有機酸有機リチウム塩を挙げることができる。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
公知の凝結遅延剤及び凝結促進剤を組み合わせて使用する凝結調整剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1.0質量部であり、
より好ましくは0.05〜0.8質量部であり、
さらに好ましくは0.1〜0.7質量部であり、
特に好ましくは0.2〜0.6質量部である。凝結調整剤の含有量を上述の範囲で用いることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。
樹脂粉末は、特にその種類及び製造方法は限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができる。また、樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂粉末の表面に付着しているものを好適に用いることができる。また、樹脂粉末としては、水性ポリマーディスパージョンを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形の樹脂粉末を用いることができる。本発明では、樹脂粉末として保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を用いることができる。特に、保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル供重合体の再乳化形樹脂粉末を用いることが好ましい。
樹脂粉末の1次粒子(エマルジョン)の平均粒子径は、好ましくは0.2〜0.8μmの範囲であり、より好ましくは0.25〜0.75μmの範囲であり、さらに好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であり、特に好ましくは0.35〜0.65μmの範囲のものを選択して用いることが好ましい。平均粒子径が上述の範囲であることにより、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得ることができる。
1次粒子の平均粒子径が上述の範囲の樹脂粉末を用いた防熱性水硬性組成物は、モルタル組成物の施工作業を行う過程で、より良好な施工性を得ることができる。
樹脂粉末の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは2〜7質量部であり、より好ましくは2.5〜6.5質量部であり、さらに好ましくは3〜6質量部であり、特に好ましくは3.5〜5.5質量部である。樹脂粉末の含有量を上述の範囲とすることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、より優れた防熱性や接着性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
本実施形態の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物は、防熱性を必要とする船舶等の床構造体に好適に用いることができる。本実施形態の防熱性水硬性組成物を用いて、優れた流動性、施工性、平滑性及び速硬性を有するモルタル組成物を得ることができる。
<モルタル組成物>
上述の防熱性水硬性組成物と水とを配合し混練することによってモルタル組成物を調製することができる。モルタル組成物は、防熱性を必要とする船舶等の床構造体に好適に用いることができる。モルタル組成物を調製する際に、水の配合量を適宜変更することによって、モルタル組成物のフロー値を調整することができる。このように水の配合量を変更することによって、用途に適したモルタル組成物を調製することができる。ここで、フロー値とは、社団法人日本建築学会JASS 15M−103「セルフレベリング材の品質基準」に準拠して測定される値(単位:mm)である。
水の配合量は、防熱性水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは25〜60質量部であり、より好ましくは30〜55質量部であり、さらに好ましくは32〜53質量部であり、特に好ましくは34〜52質量部である。
モルタル組成物の20℃におけるフロー値は、好ましくは160〜210mmであり、より好ましくは165〜200mmであり、さらに好ましくは168〜197mmであり、特に好ましくは170〜195mmである。フロー値が上述の範囲であることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物とすることができる。
また、施工性の指標の一つとしてコテ作業性がある。モルタル組成物を施工面に流し込んだ後に、コテあるいはトンボを用いてモルタル組成物表面が平坦及び平滑になるように表面を均す作業を行う。表面を均す際に、コテやトンボに掛かる力が軽く、表面からコテやトンボを離す際にべたつかず軽い力で離すことができ、容易に表面を平坦及び平滑にできる方が良い。モルタル組成物のコテ作業性は、好ましくは○であり、より好ましくは◎である。×の場合はモルタル組成物表面を平坦及び平滑に施工することが困難である。
さらに、モルタル組成物は、施工後の早期開放(次工程への早期移行)を行うために、施工後に速やかに硬化を開始することができる。この速硬性の指標として、モルタル組成物を調製後、材齢3時間の表面硬度は、好ましくは6以上であり、より好ましくは7以上であり、さらに好ましくは8以上であり、特に好ましくは9以上である。表面硬度が上述の値以上であることによって、優れた速硬性を有し、施工後の早期開放(次工程への早期移行)が可能となる。
<モルタル硬化体>
上述のモルタル組成物を硬化させることによってモルタル硬化体を得ることができる。モルタル硬化体は、防熱性を必要とする船舶等の床構造体に好適に用いることができる。すなわち、上述のモルタル組成物が硬化して形成されるモルタル硬化体は、軽量で防熱性に優れ、良好な強度特性を有し、収縮が小さく、クラックの発生を抑制できる。また、本実施形態の防熱性床構造体の施工方法により施工された防熱性床構造体は、鋼板との十分な接着性を有する。
モルタル硬化体の材齢28日の比重は、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.4以下であり、さらに好ましくは1.3以下であり、特に好ましくは1.2以下である。比重が上述の値以下であることによって、優れた軽量性を有することがより確実となる。
モルタル硬化体の防熱性の指標の一つとして、耐火試験における60分昇温後の最高温度が、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは225℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下であり、特に好ましくは175℃以下である。また、耐火試験における60分昇温後の平均温度が、好ましくは220℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、さらに好ましくは180℃以下であり、特に好ましくは160℃以下である。最高温度及び平均温度が上述の値以下であることによって、優れた防熱性を有する。ここで、耐火試験の方法については後述する。
モルタル硬化体の防熱性の指標の一つとして、熱伝導率が、好ましくは0.50W/m・K以下であり、より好ましくは0.40W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.30W/m・K以下であり、特に好ましくは0.25W/m・K以下である。熱伝導率が上述の値以下であることによって、優れた防熱性を有する。ここで、熱伝導率の測定方法については後述のモルタル組成物及びモルタル硬化体の物性の評価方法にて詳細を説明する。
モルタル硬化体の材齢28日の圧縮強度は、好ましくは5N/mm以上であり、より好ましくは10N/mm以上であり、特に好ましくは15N/mm以上である。圧縮強度が上述の値以上であることによって、良好な強度特性を有する。ここで、圧縮強度とは、社団法人日本建築学会JASS 15M−103「セルフレベリング材の品質基準」に準拠して測定される値(単位:N/mm)である。
モルタル硬化体の材齢28日の収縮率は、好ましくは−0.100%〜0であり、より好ましくは−0.090%〜0であり、さらに好ましくは−0.080%〜0であり、特に好ましくは−0.060%〜0である。収縮率が上述の範囲であることによって、収縮が小さく、クラックの発生を抑制できる(優れた低収縮性を有する)。ここで、(−)マイナスは収縮を表す。また、収縮率の測定方法については後述のモルタル組成物及びモルタル硬化体の物性の評価方法にて詳細を説明する。
鋼板に下地接着モルタルを施工し、その上にモルタル組成物を施工した防熱性床構造体の材齢14日の接着強度は、好ましくは1N/mm以上であり、より好ましくは1.2N/mm以上であり、さらに好ましくは1.4N/mm以上であり、特に好ましくは1.5N/mm以上である。接着強度が上述の範囲であることによって、防熱性床構造体は、鋼板との十分な接着性を有する。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
以下に実験例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
(実験例1)
[使用材料]
以下(1)〜(9)に示す防熱性水硬性組成物に用いる原材料を準備した。
(1)水硬性成分
・アルミナセメント[AC](Al量39質量%、Fe量14質量%、ブレーン比表面積3100cm/g、ケルネオス社製)
・ポルトランドセメント[PC](早強ポルトランドセメント、ブレーン比表面積=4500cm/g、宇部三菱セメント社製)
・石膏[GG](フッ酸無水石膏、ブレーン比表面積3880cm/g、セントラル硝子社製)
上記材料を表2に示す割合で配合し、水硬性成分を調製した。
(2)無機粉体
・水酸化アルミニウム微粉末(純度99.6%、平均粒子径66μm)
・高炉スラグ微粉末(ブレーン比表面積4400cm/g)
(3)軽量骨材
・ガラス質骨材(見かけ比重0.38kg/L、吸水率[6%/2時間、9%/24時間]、JIS篩を使用して測定した珪砂の粒度構成を表1に示す。)
(4)細骨材
・珪砂(6号、見かけ比重1.58kg/L、吸水率1.16%/24時間、JIS篩を使用して測定した珪砂の粒度構成を表1に示す。)
軽量骨材及び珪砂の見かけ比重は、ホソカワミクロン社製のパウダーテスタE型を用いて測定した。
軽量骨材の吸水率は、JIS A 1134:2006「構造用軽量細骨材の密度及び吸水率試験方法」に準じて測定し、珪砂の吸水率は、JIS A 1109:2006「細骨材の密度及び吸水率試験方法」に準拠して測定した。
Figure 0006212983
(5)流動化剤
・ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)
(6)増粘剤
・セルロース系増粘剤(ヒドロキシエチルメチルセルロース、20℃における2%水溶液粘度28800mPa・s、松本油脂社製)
増粘剤の粘度は、B型粘度計(東京計器社製デジタル粘度計:DVL−B)を用い、増粘剤を2質量%含む水溶液(20℃)について、ローターNo.4、ローター回転数12rpmの条件で測定した。
(7)消泡剤
・ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)
(8)凝結調整剤
・凝結調整剤(炭酸リチウム、酒石酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム)
(9)樹脂粉末
・アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル供重合体の再乳化形樹脂粉末(1次粒子(エマルジョン)の平均粒子径0.5μm)
上述の(1)水硬性成分、(2)無機粉体、(3)軽量骨材、(4)珪砂、(5)流動化剤、(6)増粘剤、(7)消泡剤、(8)凝結遅延剤、(9)樹脂粉末を表2に示す割合で防熱性水硬性組成物の各配合を調製した。
Figure 0006212983
[モルタル組成物の調製]
表2に示す配合割合で調製した防熱性水硬性組成物の各配合100質量部に対して、表3に示す水量を配合して混練し、各配合のモルタル組成物を調製した。混練は、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ケミスターラーを用いて回転数650rpmで3分間行った。
[モルタル組成物及びモルタル硬化体の物性の評価方法]
調製した防熱性水硬性組成物の各配合のモルタル組成物のフロー値、コテ作業性、表面硬度、及びモルタル硬化体の硬化体比重、耐火試験、熱伝導率、圧縮強度、収縮率を測定した。測定結果は表3に示す通りであった。また、各測定は以下に示す方法で行った。
(1)フロー値の測定方法
社団法人日本建築学会JASS 15M−103「セルフレベリング材の品質基準」に記載の試験方法に準拠してフロー値を測定した。
(2)コテ作業性の評価方法
20℃で調製した混練直後のモルタル組成物を、内寸610×305×25mmの型枠に施工し試験体を作製する際にコテを用いてモルタル組成物表面の均しを行い、コテに掛かる力が軽く、表面からコテを離す際にべたつかず軽い力で離すことができ、容易に表面を平坦及び平滑にできるかどうか評価した。
(3)表面硬度の測定方法
20℃で調製した混練直後のモルタル組成物を、内寸130×190mmのプラスチック容器に厚み10mmになるように施工し、材齢3時間の表面硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の4カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とした。
(4)硬化体比重の測定方法
材齢28日の圧縮強度用試験体の体積と重量を測定し、硬化体比重を求めた。
(5)耐火試験による防熱性の評価方法
図1に示すように温度20℃、相対湿度65%の条件下でモルタル組成物を610×305×25mmとなるように型枠に施工し、7日間養生した。その後、脱型して、温度60℃で24時間乾燥し、さらに温度20℃で24時間養生することで、モルタル硬化体3を形成した。鋼板2の上にモルタル硬化体3を設置することで、測定用の試験体1を調製した。耐火試験用のガス炉5は、図2に示すように内寸600×500×595mmで開口部を1面有するガス炉であり、開口部の対面に炉内加熱用のガスバーナー7が中心線Xに沿って縦に3基設置され、熱電対6がガスバーナー7と同じ高さになるように、開口部付近の左面より縦に3基設置されている。まず、調製した試験体1を、図3に示すように鋼板2が炉内側になるようにガス炉5の開口部に設置し、試験体1を固定するための固定具10を設置した。次に、隙間にセラミックウール断熱材9を詰め、試験体1のモルタル硬化体3に接するように表面温度測定用センサー8を中心線Xに沿って縦に5基設置した。炉内加熱温度を標準温度曲線(T=345log10(8t+1)+20)に沿って60分間でT=945℃となるように昇温制御し、測定開始(昇温開始)から60分後の5点の表面温度を測定し、最高温度及び5点の平均温度を算出した。表面温度測定用センサー8は、株式会社佐藤計量器社製防水型デジタル温度計(本体:SK−1250MCIIIα、センサーヘッド:MC−K307III)を使用した。
(6)熱伝導率の測定方法
京都電子工業社製QTM500を用いて熱伝導率を測定した。20℃で調製した混練直後のモルタル組成物を内寸100×200×厚み30mmの型枠に施工し、材齢28日養生したものを試験体とし、100×200mmの面の両面側より測定を行い、その平均値より算出した。測定温度は23℃とした。
(6)圧縮強度の測定方法
社団法人日本建築学会JASS 15M−103「セルフレベリング材の品質基準」に記載の試験方法に準拠して材齢28日の圧縮強度を測定した。
(7)収縮率の測定方法
収縮率の測定は、図4に示す長さ変化測定装置21を用いた。図4(a)は測定装置21の上面図であり、(b)は測定装置21の断面図である。20℃で調製した混練直後のモルタル組成物を型枠22内部に、型枠22の高さc(10mm)まで施工し、施工直後より長さ変化の測定を開始し、測定間隔は5分毎に行い、材齢28日まで気温20℃、相対湿度65%の環境下にて測定した。収縮率は、測定間隔毎における、図4(a)に示すSUS製円盤25bと渦電流式変位センサー24の端部(SUS製円盤25b側の端部)との間隔の変化量(mm)を、測定開始時のSUS製円盤25aとSUS製円盤25cとの間隔b(480mm)で除して、百分率で表した値とした。収縮率にマイナスの符号がつく場合は測定開始より収縮していることを意味し、長さ変化率に符号がつかない場合は測定開始より膨張していることを意味する。
Figure 0006212983
表3に示す通り、軽量骨材を使用せず珪砂を使用した比較例1は、硬化体比重が1.75と大きく、熱伝導率が0.85W/m・Kと大きく、耐火試験の60分昇温の最高温度は310℃及び平均温度は286℃と各々高く、防熱性が悪い結果を示した。軽量骨材が133質量部と多く含む比較例2は、フロー値が155mmと低く、材齢3時間の表面硬度が5と低く、圧縮強度が4.7N/mmと低い結果を示した。軽量骨材及び珪砂を含まない比較例3は、フロー値は良好であるが、コテ作業性が×と悪く、収縮率の測定においてひび割れが発生した。
実施例1〜9は、硬化体比重が小さく、熱電度率が低い結果を示し、耐火試験の60分昇温の最高温度及び平均温度が低く、防熱性は良好であった。フロー値も約180mm前後と良好であり、コテ作業性も良好であった。また、材齢3時間の表面硬度も10以上であり、優れた速硬性を示した。中でも、実施例6〜8はより防熱性が良好であり、実施例1及び9は収縮率が小さく、より良好であった。
以上のことから、本実施形態の防熱性床構造体の施工方法に用いられる防熱性水硬性組成物は、軽量で防熱性に優れ、良好な強度特性を有し、収縮が小さく、クラックの発生を抑制できるモルタル硬化体を形成可能で、且つ優れた流動性、施工性及び平滑性を有し、さらに、施工後の早期開放(次工程への早期移行)が可能な優れた速硬性を有するモルタル組成物を調製することが可能であることが確認された。
(実験例2)
[使用材料]
以下(1)〜(4)に示す下地接着モルタルに用いる原材料を準備した。
(1)アルミナセメント
・[AC−I](Al量52質量%、Fe量1.5質量%、ブレーン比表面積3200cm/g、ケルネオス社製)
・[AC−II](Al量39質量%、Fe量14質量%、ブレーン比表面積3100cm/g、ケルネオス社製)
(2)細骨材
・珪砂[S−I](7号+8号=重量比24:45、最大粒子径425μm以下、300μm超の粒子径を有する粗粒分が0.3質量%)
・珪砂[S−II](7号、最大粒子径425μm以下、300μm超の粒子径を有する粗粒分が0.1質量%)
(3)無機充填材
・酸化チタン(純度95%)
・タルク(篩45μm残分1質量%)
(4)合成樹脂エマルジョン
・アクリル酸/メタクリル酸エステル共重合体エマルジョン[AC樹脂](固形分量55質量%)
・エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョン[EVA樹脂](固形分量55質量%)
上述の(1)アルミナセメント、(2)細骨材、(3)無機充填材、(4)合成樹脂エマルジョンを表4に示す割合で配合し、混練して下地接着モルタルを各々調製した。混練は、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ケミスターラーを用いて回転数650rpmで3分間行った。なお、表4の合成樹脂エマルジョンの配合量は、固形分量を示す。
Figure 0006212983
[防熱性床構造体の物性の評価方法]
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、調製した各配合の下地接着モルタルを鋼板の上に400g/mとなるように塗布し、3時間乾燥して下地接着モルタル層を形成した後、その上に実施例9の防熱性水硬性組成物から得られたモルタル組成物を、40×40×厚み30mmとなるように設置した型枠に施工し、14日間養生して防熱性床構造体の試験体を作製した。試験体のモルタル硬化体上面に40×40mmの鋼製のアタッチメントをエポキシ系接着剤を用いて接着させ、建研式引張試験機を用いて接着強度を測定した。測定結果は表5に示すとおりであった。
Figure 0006212983
表5のとおり、実施例10及び実施例11ともに十分な接着性を示した。
以上のことから、本実施例の防熱性床構造体の施工方法によって得られる防熱性床構造体は、鋼板との十分な接着性を有することが確認された。
1…試験体、2…鋼板、3…モルタル硬化体、5…ガス炉、6…熱電対、7…ガスバーナー、8…表面温度測定用センサー、9…セラミックウール断熱材、10…固定具、21…長さ変化測定装置、22…型枠、23…緩衝材、24…渦電流式変位センサー、25…SUS製円盤(25a,25b,25c)、26…SUS棒(26a,26b)、27…フッ素樹脂シート

Claims (5)

  1. 鋼板床に下地接着モルタルを施工し、下地接着モルタル層を形成する下地接着モルタル施工工程と、
    前記下地接着モルタル層の上面に、防熱性水硬性組成物と水とを混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、
    前記モルタル組成物を硬化させて、モルタル硬化体を形成する硬化体形成工程と、を有する防熱性床構造体の施工方法であって、
    前記防熱性水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機粉体と、軽量骨材と、流動化剤とを含み、
    前記無機粉体は、高炉スラグ微粉末及び水酸化アルミニウム微粉末から選ばれる一種又は二種以上であり、
    前記軽量骨材は、ガラスを主成分とする原料を焼成して得られたものであり、吸水時間2時間における吸水率が9%以下であ
    前記下地接着モルタルは、アルミナセメント、細骨材、合成樹脂エマルジョン、を含むポリマーセメントモルタルであり、
    前記水硬性成分は、水硬性成分100質量%中にアルミナセメント30〜60質量%、ポルトランドセメント15〜50質量%及び石膏10〜40質量%含み、
    前記水硬性成分100質量部に対して、無機粉体30〜200質量部、軽量骨材10〜120質量部含む、
    防熱性床構造体の施工方法。
  2. 前記軽量骨材は、粒子径が800μm以上の粒子を含まず、且つ粒子径が212μm以上であり且つ600μm未満である粒子の質量割合が85〜100質量%であり、見かけ比重が0.15〜0.8kg/Lである、
    請求項1記載の防熱性床構造体の施工方法。
  3. 前記防熱性水硬性組成物は、さらに増粘剤、消泡剤、凝結調整剤及び樹脂粉末から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含む、
    請求項1又は請求項2記載の防熱性床構造体の施工方法。
  4. 前記水硬性成分100質量部に対して、流動化剤0.01〜2質量部含む、
    請求項1〜3のいずれか1項記載の防熱性床構造体の施工方法。
  5. 前記下地接着モルタルに含まれるアルミナセメント100質量部に対して細骨材50〜400質量部、固形分量に換算した合成樹脂エマルジョン50〜500質量部である、
    請求項1〜4のいずれか1項記載の防熱性床構造体の施工方法。
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