JP6209645B2 - 鋼部材の塗装塗り替え工法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼部材の表面に塗布されている既存の塗膜を剥離して、再度塗装を行う塗装塗り替え工法に関する。本発明において鋼部材とは、橋梁、高架道路、送電鉄塔や電波塔などの建築物といった鋼構造物、それら鋼構造物に使用されている又は使用される鋼製品、鋼部品をはじめとして、各種分野における各種鋼材をいう。
橋梁の主桁や補鋼材等に利用される鋼部材の表面には塗装が施されている。橋梁等に採用される塗装系は、錆止めに鉛丹や鉛系錆止め塗装を用いるA系塗装及びB系塗装と、錆止めに無機ジンクリッチペイント(以下、「無機ジンク」という)を用いるC系塗装に大別される。従来は多くの鋼橋の塗装系としてA系塗装及びB系塗装が採用されていたが、現在ではほとんどの鋼橋の塗装系としてC系塗装が採用されている。こうしたA系塗装やB系塗装、C系塗装といった呼称は、公益社団法人日本道路協会による「鋼道路橋防食便覧」と呼ばれる規準に記載されている。
C系塗装では、図7(a)に示すように、ブラストされた鋼部材Xの表面に錆止め用の無機ジンクが塗布され、その外側(上)から霧状のミストコートが噴霧されて無機ジンク中の空気孔が埋められて錆止め層1が形成されている。ミストコートの外側には、エポキシ樹脂やフッ素樹脂、ポリウレタン樹脂等による外塗り層(塗膜)2が形成されている。
他方、A系塗装及びB系塗装では、図7(b)に示すように、ブラストされた鋼部材Xの表面にエッチングプライマーが塗布され、そのエッチングプライマーの外側(上)に鉛丹あるいは鉛系錆止めペイントが塗布されて錆止め層1が形成されている。鉛丹あるいは鉛系錆止めペイントの外側には、フタル酸樹脂塗料等の樹脂塗料が塗布されて外塗り層2が形成されている。
ところで、鋼構造物の塗装は風雨や紫外線等の様々な要因によって腐食や劣化が生じるため、定期的に塗り替えを行う必要がある。また、A系塗装やB系塗装のように、防錆材料として鉛丹が用いられている場合、鋼部材表面のすべての塗装を除去することが防錆面で好ましいが、C系塗装の場合、錆止め層の無機ジンクが犠牲防食作用を発揮するため、健全である限り、錆止め層を残したまま塗り替えを行うのが好ましいと考えられている。
すべての塗装を除去する場合は、そのまま放置すると塗装を剥離した露出面に新たな錆が発生するため、四時間以内に露出した鋼部材に防錆加工を施さなければならず、作業工程の増加、作業コスト及び材料コストの増加等の観点から、C系塗装のように防錆効果が高く錆止め層が有害でなく、すべての塗装を除去する必要がない場合には、可能な限り塗装は残しておくのが望ましい。
従来、鋼構造物表面の塗装を剥離する工法として、グラインダーやサンダー、カップブラシ等の機械器具を用いて表面を削り取る工法(特許文献1)や、剥離剤を塗布する化学的な工法(特許文献2)、電磁誘導加熱による誘導加熱で剥離する工法(特許文献3及び4)、サンドブラスト等で塗装を削り取る方法等が提案されている。
特開2011−056333号公報 特許第3985966号公報 米国特許第7857914号公報 特開2014−014933号公報
C系塗装が採用されている場合、錆止め層を残すのが好ましいが、前記機械器具を用いて表面を切削する工法では、錆止め層だけを残して塗装を切削するのは困難であり、切削片や切削粉の飛散防止のための設備に時間やコストがかかるほか、切削粉等の飛散による作業環境の悪化や騒音等、様々な問題が生じる。剥離剤を塗布して塗装を剥離する化学的な処理工法では、気温が20℃以上にならないと化学反応が活性化しなかったり、また活性化するまでに長時間を要するため、作業スケジュールを組めない等の弊害がある。また、従来の高周波誘導加熱装置はウィンチで吊り上げなければならないほど重いため、使い勝手が悪いという難点がある。ブラストによる工法では、切削粉の飛散防止設備が必要である、設備が大掛かりになる、作業員に高度な粉塵対策が要求される、供給環境では、作業足場を密閉するために大きな風荷重が作用する等の難点がある。
A系塗装やB系塗装が採用されている場合、剥離される錆止め層と外塗り層はともに産業廃棄物として扱われるが、両者は、例えばPCB(ポリ塩化ビフェニル)を含有する塗料が外塗り層に含まれているとその処理方法を変えて対処する必要が生じるため、廃棄処分に際しては両者を明確に分離して廃棄するのが好ましい。この点、前記機械器具では両者を分離して切削することは困難であり、化学的処理方法や誘導加熱による方法、ブラストによる方法では、前記弊害がある。
本発明の解決課題は、鋼部材の塗装の塗り替えに際して、錆止め層を残して外塗り層だけを剥離し、残した錆止め層の上に新たな塗料(新塗料)を塗り替える鋼部材の塗装塗り替え工法を提供することにある。また、残した錆止め層の厚さ方向の一部(表層側)を切削除去して厚さ方向深層側(深層部)を残し、又は、残した錆止め層のすべて(表層側から深層部まで)を切削除去して鋼部材表面を露出させ、残された深層部又は露出した鋼部材露出面に新たな錆止め材(新錆止め材)を塗布し、その新錆止め材に新たな塗料(新塗料)を塗布する鋼部材の塗装塗り替え工法を提供することにある
本発明の第一の塗装塗り替え工法は、鋼部材の表面に錆止め層、外塗り層(塗膜)を備えた鋼部材の塗装塗り替え工法であり、手持ち式の誘導加熱装置を前記鋼部材の外側に宛がい、その鋼部材の外側に宛がった手持ち式の誘導加熱装置による誘導加熱によって鋼部材表面を加熱してその熱で塗膜を軟化させて当該外塗り層を浮き上がらせて前記錆止め層から分離させ軟化して錆止め層から浮き上がって分離した外塗り層をシート状態あるいは飛散せずに固まった状態で剥離し、鋼部材表面に残った既存の錆止め層の上に新たな塗料(新塗料)を塗ることで鋼部材の塗装を塗り替える工法である。
本発明の第二の塗装塗り替え工法は、第一の塗装塗り替え工法と同様に、手持ち式の誘導加熱装置を前記鋼部材の外側に宛がい、その鋼部材の外側に宛がった手持ち式の誘導加熱装置による誘導加熱によって鋼部材表面を加熱してその熱で塗膜を軟化させて当該外塗り層を浮き上がらせて前記錆止め層から分離させ軟化して錆止め層から浮き上がって分離した外塗り層をシート状態あるいは飛散せずに固まった状態で剥離し、鋼部材表面に残した錆止め層の厚さ方向の一部(表層側)を切削除去して錆止め層の厚さ方向の深層部を残し、又は、錆止め層の厚さ方向の表層側から深層部までのすべてを切削除去し、表層側を切削除去して残した残存錆止め層に、又はすべてを切削除去して露出させた鋼部材露出面に、防錆効果のある新防錆材料を塗布して新たな錆止め層(新錆止め層)を形成し、その新錆止め層に新たな塗料(新塗料)を塗って新上塗り層を形成する鋼部材の塗装塗り替る工法である。この場合、鋼(Fe)よりもイオン化傾向の大きな亜鉛(Zn)を主体とした新防錆材料を塗布して新防錆層を形成することで、新防錆材料とその上に塗布した新塗料との電気化学的作用による犠牲防食作用を得ることができる。
本発明の第一の塗装塗り替え工法は次の効果を奏する。
(1)鋼材表面に残した既存の錆止め層を再利用することができるため、施工スピードを大幅に短縮することができるとともに、塗り替えに要するコストを抑えることができる。
(2)外塗り層をシート状態あるいは飛散しないで固まった状態で剥離するため、有害物質を含む塗料が粉塵となって飛散することがなく、作業環境が悪化しない。
(3)鋼材表面の既存の錆止め層を残すため、産業廃棄物の量を削減することができる。
(4)誘導加熱装置を鋼部材に宛がうだけでよいため、作業者の経験や熟練による差が生じにくい。
(5)錆止め層と外塗り層を分離して剥離できるため、外塗り層にPCBが含有されている塗膜も安全にしかも最低限の量で廃棄でき、PCBやダイオキシンの発生等、産業廃棄物処理による環境への悪影響を低減することができる。
本発明の第二の塗装塗り替え工法は次の効果を奏する。
(1)外塗り層をシート状態あるいは飛散しないで固まった状態で剥離するため、有害物質を含む塗料が粉塵となって飛散することがなく、作業環境が悪化しない。
(2)錆止め層と外塗り層を分離して剥離できるため、外塗り層にPCBが含有されている塗膜も安全にしかも最低限の量で廃棄でき、PCBやダイオキシンの発生等、産業廃棄物処理による環境への悪影響を低減することができる。
(3)誘導加熱装置を鋼部材に宛がうだけでよいため、作業者の経験や熟練による差が生じにくい。
(4)新錆止め材にイオン化傾向の大きな亜鉛を含有する新防錆材料を塗ることで、その新防錆材料とその上の新塗料との接触による電気化学的な犠牲防食作用で鋼部材の防錆効果が得られる。
本発明の第一の塗装塗り替え工法の一例を示すフローチャート。 本発明の第二の塗装塗り替え工法の一例を示すフローチャート。 本発明の塗装塗り替え工法に用いる高周波誘導加熱装置の一例を示す斜視図。 (a)はヘッドと変流器(CT)の連結部の説明図、(b)はコイル電極の説明図。 高周波誘導加熱装置の冷媒の流れの説明図。 図3の高周波誘導加熱装置を用いて本発明の塗装塗り替え工法を実施する場合の説明図。 (a)は防錆材料として無機ジンクが用いられたC系塗装の概要説明図、(b)は防錆材料として鉛丹が用いられたA系塗装の概要説明図。 防錆材料として無機ジンクが用いられたC系塗装の拡大断面写真。
(実施形態1)
本発明の第一の塗装塗り替え工法(以下「塗り替え工法」という)を、図面を参照して説明する。この実施形態の塗り替え工法は、図1に示すように、鋼部材Xの外側に宛がった誘導加熱装置10の誘導加熱で鋼部材Xの表面を加熱して当該鋼部材X表面の塗装のうち錆止め層1の外側の外塗り層2を軟化させる軟化工程S1と、軟化した外塗り層2を剥離手段によって錆止め層1からシート状の塊として(シート状態で)剥離する剥離工程S2と、外塗り層2の剥離によって露出した錆止め層1に新たな塗料を塗って鋼部材Xの塗装を塗り替える塗り替え工程S3を備えたものである。本発明では誘導加熱装置に高周波誘導加熱装置(induction heating:IH)が適するが、可能であれば低周波誘導加熱装置を使用することもできる。以下では高周波誘導加熱装置を使用する場合を一例として説明する。本発明の高周波誘導加熱装置における冷却部は水冷式、空冷式、その他いずれの冷却方式でもよいが、以下では水冷式の場合を一例として説明する。本願の鋼部材Xには例えば橋梁の主桁等が含まれる。説明の便宜上、それぞれの工程の説明に先立ち、この実施形態の塗装系の概要について説明を行う。
[塗装系]
この実施形態の塗装系は、防錆材料として無機ジンクが用いられたC系塗装である。この塗装系は、図7(a)に示すように、ブラストされた鋼部材Xの表面(ブラスト面)に防錆材料として無機ジンク(無機ジンクリッチプライマーや無機ジンクリッチペイント等)が塗布され、その外側から霧状のミストコートが噴霧されて無機ジンク中の空気孔が埋められ、錆止め層1が形成されている。ミストコートの外側には、エポキシ樹脂が中塗りされ、そのエポキシ樹脂の外側にフッ素系樹脂やポリウレタン系樹脂が上塗りされて外塗り層2が形成されている。前記外塗り層2は一例であり、外塗り層2の構造はこれ以外であってもよい。
[軟化工程]
前記軟化工程S1は、高周波誘導加熱装置(以下「誘導加熱装置」という)10の誘導加熱で鋼部材Xの表面を加熱して当該鋼部材X表面の塗装のうち錆止め層1の外側の外塗り層2を軟化させる工程である。この工程を経ることによって外塗り層2が錆止め層1から分離される(浮き上がる)。鋼部材Xの外側に誘導加熱装置10を宛がい、当該誘導加熱装置10に交流電源を供給して、誘導加熱により鋼部材Xの表面を加熱する。この状態を維持しながら、誘導加熱装置10を鋼部材Xに沿って移動させる。誘導加熱装置10の移動スピードは、加熱対象箇所に1〜2秒程度滞在するスピードとするのが好ましい。塗装剥離の対象とする鋼材表面の加熱温度は100℃以上250℃未満、特に、150℃〜200℃程度が適する。加熱温度が250℃を超えると過加熱により、塗装から有害成分が発生するおそれがあり、100℃未満だと加熱不足により塗装の分離が不完全になるおそれがある。ただし、これらの数値は一例であり、塗装の種類や雰囲気温度、湿度、天気等の各種状況に応じて、最適な条件を選択すればよい。誘導加熱装置10は、既存のものを用いることができる。
錆止め層1が鋼部材Xから分離せず、外塗り層2のみが錆止め層1から分離する理由は、(1)鋼部材Xと錆止め層1は金属系ということもあり樹脂系である外塗り層2の材料に比べ線膨張係数が低く伸びにくいのに対して、外塗り層2の線膨張係数が高く伸びやすいこと、(2)加熱によって外塗り層2の塗装が伸びて劣化すること、(3)鋼部材X表面がブラストされているため、図8に示すように、鋼部材X表面が機械的に微細な凹凸が生じ、そこに防錆材料(無機ジンクや後述する鉛丹。以下同じ。)も微細に凸凹状に密着すること(4)これら(1)、(2)、(3)の理由が複合されて生じること等が考えられる。
前記(1)の線膨張係数の差について説明すると、例えば、鉄(鋼部材)と無機ジンクの線膨張係数は120×10−5程度、樹脂(外塗り層)の線膨張係数は800×10−5程度であり、両者の線膨張係数は大きく異なる。このため、無機ジンクと樹脂(外塗り層)の界面に差が生じ、鋼部材Xの表面を誘導加熱装置10で加熱すると、錆止め層1が鋼部材Xから分離することなく、外塗り層2のみが錆止め層1から分離すると考えられる。
前記(2)の加熱による外塗り層2の劣化という点について説明すると、誘導加熱装置10によって鋼部材Xが加熱され、その表面側の外塗り層2が加熱されると、塗装が軟化して劣化が生じる。これに対し、誘導加熱装置10での加熱温度は鋼部材Xの耐熱温度以下であり、鋼部材Xや亜鉛を主成分とする無機ジンクの劣化は生じない。この結果、無機ジンクは鋼部材Xに固着したまま分離せず、劣化が生じた外側の外塗り層2のみが錆止め層1から分離すると考えられる。
前記(3)の鋼部材Xと防錆材料の密着性について説明すると、鋼部材Xの表面はブラストされて図7(a)(b)及び図8のように粗面化されている(凹凸が存在している)ため、平滑な表面に塗布する場合に比べて、防錆材料が機械的に密着しやすくなると考えられる。
[剥離工程]
前記剥離工程S2は、前記軟化工程により軟化した外塗り層2を、既存のカワスキやスクレーパ等で錆止め層1から剥離する工程である。外塗り層2は前記軟化工程S1で軟化して錆止め層1から分離した状態であり、カワスキ等によってシート状態やあるいは飛散しないで固まった状態で剥離することができる。ただし、剥離後の錆止め層1の表面には若干の塗装が残るため、残った塗装はカワスキ等で掻きとるのが望ましい。剥離した又は掻き取った外塗り層の塗料は回収する(外塗り層回収工程:図1のS2a)。
[塗り替え工程]
前記塗り替え工程S3は、剥離工程S2での外塗り層2の剥離によって露出した錆止め層1の外側に、新たな塗料を塗って鋼部材Xの塗装を塗り替える工程である。この実施形態では、エポキシ樹脂を中塗りした後、そのエポキシ樹脂の外側にフッ素系樹脂又はポリウレタン系樹脂を上塗りする場合を一例としているが、外塗り層2はこれ以外の塗料で構成することもできる。錆止め層1に塗布する塗料は、剥離した塗装と同じものでも異なるものでもよい。塗料の塗布に際しては、下塗り、中塗り、上塗りを必要に応じて行うことができる。塗料の塗布量や塗布厚等は、既存の場合と同様とすることができる。また、新たな塗料を塗布する前に、露出した錆止め層1を洗浄するようにしてもよい。補足的に防錆材料を重ね塗りすることもできる。防錆材料を重ね塗りすることによって、防錆材料が剥離されて露出しているような場合でも、鋼部材Xの表面からの発錆を防止することができる。新たな塗料の付着を高めるためには、外塗り層を剥離して残した錆止め層1を、研削材に重曹を用いた重曹ブラスト、バキュームブラスト、レーザーブラスト等の各種ブラスト工法により再ブラストすることもできる(図1に仮想線で示すS2b工程)。この再ブラストは錆止め層1の厚さ方向表層側が多少粗面化される程度の強さのブラストが望ましく、錆止め層1の厚さ方向のすべてが剥離する(損傷する)様な過度のブラストは避けるのが望ましい。
(実施形態2)
本発明の第二の塗り替え工法を、図面を参照して説明する。この実施形態の塗り替え工法は、図2に示すように、鋼部材Xの外側に宛がった誘導加熱装置10の誘導加熱で鋼部材Xの表面を加熱して当該鋼部材X表面の塗装のうち錆止め層1の外側の外塗り層2を軟化させる軟化工程S11と、軟化させた外塗り層2を剥離手段によって錆止め層1からシート状態やあるいは飛散しないで固まった状態で剥離する剥離工程S12と、外塗り層2の剥離によって露出した錆止め層1を切削する切削工程S13と、外塗り層2を剥離して残した錆止め層1を切削除去して露出させた鋼部材Xの表面(鋼部材露出面)に新防錆材料を塗布して新錆止め層を形成する錆止め層形成工程S14と、新錆止め層の外側に新たな塗料を塗って鋼部材Xの塗装を塗り替える塗り替え工程S15を備えたものである。説明の便宜上、それぞれの工程の説明に先立ち、この実施形態の塗装系の概要について説明を行う。
[塗装系]
この実施形態の塗装系は防錆材料として鉛丹あるいは鉛系錆止めペイントが用いられたA系塗装である。この塗装系は、図7(b)に示すように、ブラストされた鋼部材Xの表面にエッチングプライマーが塗布され、そのエッチングプライマーの外側に鉛丹あるいは鉛系錆止めペイントが塗布されて錆止め層1が形成されている。鉛丹の外側には、フタル酸樹脂塗料等の樹脂塗料が塗布されて外塗り層2が形成されている。前記外塗り層2は一例であり、外塗り層2の構造はこれ以外であってもよい。
[軟化工程]
前記軟化工程S11は、鋼部材Xの外側に宛がった誘導加熱装置10の誘導加熱で鋼部材Xを加熱して当該鋼部材X表面の塗装のうち錆止め層1の外側の外塗り層2を軟化させる工程である。この工程を経ることによって外塗り層2が錆止め層1から分離される(浮き上がる)。錆止め層1が鋼部材Xから分離せず、外塗り層2のみが錆止め層1から分離する理由は、前記実施形態1における(1)〜(3)と同様である。
[剥離工程]
前記剥離工程S12は、前記軟化工程S11により軟化した外塗り層2を、既存のカワスキやスクレーパ等で錆止め層1から剥離する工程である。外塗り層2は前記軟化工程S11で軟化して錆止め層1から分離した状態であり、カワスキ等によってシート状態で剥離することができる。剥離した外塗り層2にはPCBが含まれていることもあるが、本発明の塗膜塗り替え工法によれば、外塗り層2をシート状態もしくは飛散しないで固まった状態で剥離することができるので、剥離片の回収が容易である。ただし、剥離後の錆止め層1の表面には若干の塗装が残るため、残った部分はカワスキ等で掻きとるのが望ましい。剥離した外塗り層2の塗料は回収する(図2の外塗り層回収工程(S12a)。
[切削工程]
前記切削工程S13は、外塗り層2の剥離によって露出した錆止め層1を切削する工程である。この切削工程S13では前記錆止め層1の厚さ方向表層側を切削除去(一部切削除去)して厚さ方向鋼部材側(深層側)を残すことも、厚さ方向のすべてを切削除去(全部切削除去)して鋼部材Xを露出させることもできる。錆止め層1の切削には、飛散防止のため切削機械器具に集塵機能付きのものを使用するのが望ましい。例えば、既存のグラインダーやサンダー、カップブラシ、バキュームブラストレーザーブラスト等の機械器具を用いることができる。一部切削除去の場合も全部切削除去の場合も、切削除去された錆止め層1の錆止め塗料は回収する(図2のS13a)。一部切削除去の場合は残された深層側の錆止め層(残存錆止め層)を、全部切削除去の場合は露出した鋼部材露出面を、再ブラスト加工(図2のS13b)して粗面化することもできる。この再ブラスト加工も残存錆止め層の表層側が多少粗面化される程度の強さのブラストが望ましく、残存錆止め層の厚さ方向のすべてが剥離する(損傷する)様な過度のブラストは避けるのが望ましい。鋼部材露出面の再ブラスト加工もその表面が多少粗面化される程度の強さのブラストが望ましい。この再ブラストにもバキュームブラストやレーザーブラスト等を用いることができる。この再ブラストにバキュームブラストやレーザーブラストを用いた場合、前記切削工程(図2の切削工程S13)と再ブラスト工程を同時に行うことができる。
[錆止め層形成工程]
前記錆止め層形成工程S14は、もとの錆止め層1のすべてを切削除去することによって露出した鋼部材露出面、又はもとの錆止め層1の表層部を切削除去して残した深層側の残存錆止め層の上に新たな防錆材料を塗布して新たな錆止め層を形成する工程である。錆止め層はこれ以外の方法で形成することもできる。この場合、防錆効果のある新たな錆止め材を塗布して新錆止め層を形成し、その新錆止め層に新たな塗料を塗って新外塗り層を形成する。新錆止め層は鋼(Fe)よりもイオン化傾向の大きな亜鉛、つまりZnを主体とした新防錆材料が適する。この新防錆材料を塗布して新錆止め層を形成することにより、新防錆材料とその上に塗布した新塗料との電気化学的作用による犠牲防食作用を得ることができる。新防錆材料としては、例えば、有機ジンクリッチペイントや無機ジンクリッチペイントを用いることができる。無機ジンクリッチペイントの空気孔は、霧状のミストコートを噴霧することによって封孔する。
[塗り替え工程]
前記塗り替え工程S15は、前記錆止め層形成工程S14により形成された新たな錆止め層の外側に新たな塗料を塗って新外塗り層を形成する工程である。この実施形態では、前記新錆止め層の外側(上)にエポキシ樹脂が中塗りされ、そのエポキシ樹脂の外側にフッ素系樹脂やポリウレタン系樹脂が上塗りされて外塗り層が形成してある。前記新外塗り層は一例であり、新外塗り層の構造はこれ以外であってもよい。
(誘導加熱装置)
本発明の塗り替え工法は、例えば、図3〜図6に示す誘導加熱装置10を用いて実施することができる。この誘導加熱装置10は、加熱ヘッド11と、変流器CTと、高周波電源12(図5、図6)と、循環装置13(図5)を備えたものである。誘導加熱装置10が低周波誘導加熱装置の場合は、図5の高周波電源12は低周波電源となる。図5の循環装置13は水冷式の場合であるが、空冷式、その他の冷却方式であってもよい。
前記加熱ヘッド11は、ベース14と、加熱コイル15と、加熱コイル15の両端部に設けられたコイル電極16a、16bと、ベース14から立設されて対向配置された二枚の支持材18と、両支持材18間に配置固定された機器取付け部20と、機器取付け部20に取り付けられたセンサ取付け部21を備えている。
前記加熱コイル15には金属パイプが使用され、その金属パイプの内部空間は冷媒通路として冷却媒体、例えば冷却水や冷却空気(冷却ガス)を流して循環させられるようにしてある。図3に示す加熱コイル15は一本の金属パイプが平面視楕円形状に曲げ加工されたものであり、その外周面には絶縁処理が施されている。加熱コイル15は、平面視楕円形状の部分がベース14のセット空間に配置され、その両端部にコイル電極16a、16bが設けられている。加熱コイル15の両端部は、それぞれのコイル電極16a、16bに設けられた通孔22に連結され、加熱コイル15内に冷却媒体を循環させられるようにしてある。通孔22の上下には止め孔23が開口されている。
前記二つの支持材18はL字状部材であり、両支持材18の間に機器取付け部20が設けられている。一例として図3に示す機器取付け部20は金属平板であり、後端側に凹部24が設けられている。凹部24には、変流器CTとの連結固定に用いる連結材25の一部が嵌合するようにしてある。機器取付け部20の上面には、側面視三角形状の台座26が設けられ、その台座26の上面にセンサ取付け部21が設けられている。センサ取付け部21には、開口部が形成され、その開口部に非接触の温度センサ27を差し込めるようにしてある。温度センサ27には汎用の非接触の温度センサ27を使用することができる。温度センサ27は、加熱コイル15を鋼部材Xの外周に宛がったときに、当該鋼部材X表面までの距離が100mm程度となるようにするのが適する。ただし、この数値は一例であり、これ以外であってもよい。
前記変流器CTは、加熱ヘッド11及び高周波電源12に連結され、高周波電源12からの電流を加熱コイル15に供給するのに適した電流(大電流)に変換するものである。変流器CTには、産業用IHに汎用の変流器を使用することができる。現場作業の利便性の面から、携行可能なハンディー式の変流器CTが好ましい。
前記変流器CTには前記連結材25が連結されている。一例として図4(a)に示す連結材25は二つの金属製のブロックであり、当該ブロックの上面に凸部28が形成されている。連結材25の側方には、作業者が作業時に握るハンドル30が設けられている。連結材25の前面には半円盤状の給電部(外部電極)29a、29bが固定されている。図4(a)の外部電極29a、29bは肉厚の銅板であり、ほぼ中央部に通孔31が貫通され、その上下に止め孔32が開口されている。通孔31の端面には漏洩防止用のパッキン33が嵌合されている。パッキン33はゴム、樹脂等の弾性材で成型されている。外部電極29a、29bは銅以外の金属製であってもよい。
前記変流器CTは、連結材25を加熱ヘッド11の機器取付け部20に固定することによって、加熱ヘッド11に連結されている。具体的には、変流器CTの外部電極29a、29bとコイル電極16a、16bを突き合わせ、通孔22、31同士を連通させるとともに、連結材25の凸部28を機器取付け部20の凹部24に嵌合し、所定箇所を螺子止めすることによって、変流器CTと加熱ヘッド11とが連結されている。
変流器CTには、蛇腹式の保護ホース34が接続されている。保護ホース34内には電源ケーブル(図示しない)が配設されるとともに、冷媒ホースが配管されている。電源ケーブルは外部電極29a、29bと変流器CTの間に配線され、変流器CTから外部電極29a、29bに交流電流を給電し、その外部電極29a、29bと接続されるコイル電極16a、16bから加熱コイル15に交流電流が供給されるようにしてある。冷媒ホースは加熱コイル15内に冷却媒体を供給する供給ホース35と加熱コイル15内を通過した冷却媒体が戻る戻りホース36を備えている。両ホース35、36は循環装置13と外部電極29a、29bの通孔31に連結され、循環装置13−吸水ホース35−高周波電源12の冷却板38−外部電源29a、29bの通孔31−コイル電極16a、16bの通孔22−加熱コイル15内の冷媒通路−戻りホース36−循環装置13の冷却経路を循環して、前記冷却板38及び加熱コイル15が冷却されるようにしてある。前記冷却経路には、冷却媒体の温度を計測する白金側温体39とともに、流量調整用の電磁バルブ40及び逆流防止弁41が設けられている。
前記保護ホース34の外側にはケーブル42が配設され、その一端側に温度センサ27が、他端側に温度センサ27からの検知信号を増幅する増幅器43が接続されている。
図示は省略するが、前記誘導加熱装置10は、例えば、電源スイッチ、出力コントローラ、タイマ、パワーメータ、ワーク温度表示器、冷媒温度表示器、加熱オン中表示灯、アラームリセットスイッチ、非常停止スイッチ、非接触センサアンプ、変流器CTの押釦スイッチ等を備えた制御盤で操作することができる。制御盤は遠隔操作することもできる。
前記電源スイッチは電源を入れるもの、出力コントローラは出力調整ボリュームにて出力を設定するもの、タイマは加熱オフ時間を設定するもの、パワーメータは加熱オン時の電力を表示するもの、ワーク温度表示器は非接触の温度センサ27(図6)の上限温度を設定するもの、冷媒温度表示器は冷却媒体入口側の白金測温体39(図5)の上限温度を設定するもの、加熱オン中表示灯は変流器CT側の加熱スイッチがオンであることを示すもの、アラームリセットスイッチはアラームをリセットするもの、非常停止スイッチは非常時に加熱オンを停止するもの、非接触センサアンプ(温度センサアンプ)は非接触の温度センサ27(図6)の検知信号を取込んで増幅するもの、変流器CTの押釦スイッチは加熱オンと加熱オフを切り替えるものである。
前記使用装置は一例であり、本発明の塗り替え工法は他の誘導加熱装置を用いて実施することもできる。
(実施例1)
本発明の塗り替え工法の第一の実施例を、図1を参照して説明する。この実施例は、前記使用装置を用いて前記実施形態1に記載の塗り替え工法を実施する場合の例である。
(1)塗装の塗り替えに先立ち、足場や飛散防止設備等を準備する(事前準備)。
(2)前記誘導加熱装置10を、塗り替え対象である鋼部材Xの表面に宛がう。
(3)鋼部材Xの表面に宛がった状態で、変流器CTのスイッチをオンにして誘導加熱装置10に交流電源を供給し、誘導加熱により鋼部材Xを加熱する。
(4)前記(3)の状態を維持しながら、誘導加熱装置10を鋼部材Xに沿って移動させる。このとき、誘導加熱装置10の移動スピードは、加熱対象箇所が150℃から200℃程度となるスピードとするのが好ましい。
(5)誘導加熱装置10による誘導加熱によって鋼部材Xを加熱すると、その熱によって外塗り層2が軟化して錆止め層1から分離する((2)〜(5)が軟化工程S1)。
(6)錆止め層1から分離した外塗り層2を、カワスキやスクレーパ等でシート状態あるいは飛散しないような状態で剥離する。剥離後の錆止め層1の表面に塗装が残っているときは、残った塗装もカワスキやスクレーパ等で掻きとる(剥離工程S2)。
(7)シート状態あるいは飛散しないような状態で剥離した剥離片及びカワスキ等で掻きとった残りの塗装片を回収する(外塗り層回収工程S2a)。場合によっては、外塗り層との付着力を高めるため、研削材に重曹を用いた重曹ブラストや素地調整の可能なバキュームブラストやレーザーブラストで、錆止め層1の表面をブラストする(再ブラスト工程:図1のS2b)こともできる。この場合のブラストは錆止め層1を過度に傷つけない程度に行う。
(8)外塗り層2の剥離によって露出した錆止め層1の外側又は前記のように再ブラストした錆止め層1の外側に、新塗料を塗り、新外塗り層を形成する(塗り替え工程S3)。
(実施例2)
本発明の塗り替え工法の第二の実施例を、図2を参照して説明する。この実施例は、前記使用装置を用いて前記実施形態2に記載の塗り替え工法を実施する場合の例である。
(1)塗装の塗り替えに先立ち、足場や飛散防止設備等を準備する(事前準備)。
(2)前記誘導加熱装置10を、塗り替え対象である鋼部材Xの表面に宛がう。
(3)鋼部材Xの表面に宛がった状態で、変流器CTのスイッチをオンにして誘導加熱装置10に交流電源を供給し、誘導加熱により鋼部材Xを加熱する。
(4)前記(3)の状態を維持しながら、誘導加熱装置10を鋼部材Xに沿って移動させる。このとき、誘導加熱装置10の移動スピードは、加熱対象箇所が150℃から200℃程度となるスピードとするのが好ましい。
(5)誘導加熱装置10による誘導加熱によって鋼部材Xを加熱すると、その熱によって外塗り層2が軟化して錆止め層1から分離する((2)〜(5)が軟化工程S11)。
(6)錆止め層1から分離した外塗り層2を、カワスキやスクレーパ等でシート状態あるいは飛散しないような状態で剥離する。剥離後の錆止め層1の表面に塗装が残っているときは、残った塗装もカワスキやスクレーパ等で掻きとる(剥離工程S12)。
(7)シート状態あるいは飛散しないような状態で剥離した剥離片及びカワスキ等で掻きとった残りの塗装片を回収する(外塗り層回収工程S12a)。
(8)外塗り層2の剥離によって露出した錆止め層1を、グラインダーやサンダー、カップブラシ、バキュームブラスト、レーザーブラスト等の機械器具によって切削除去して鋼部材Xの表面の一部もしくはすべてを露出させる。
(9)切削した錆止め層1の切削粉は回収する(錆止め層回収工程S13a)。ただし、バキュームブラストの場合は回収機能があるため、ブラストとは別に回収する必要はない。レーザーブラストの場合、塗膜は気化する。
(10)錆止め層1の切削によって露出した鋼部材露出面に新たな錆止め材として無機ジンクを塗布し、その無機ジンクの外側から霧状のミストコートを噴霧して無機ジンク中の空気孔を埋めて新たな錆止め層1を形成する(錆止め層形成工程S14)。新防錆材料の塗布前に鋼部材Xをバキュームブラスト等により再度ブラストしてもよい(再ブラスト工程S13b)。バキュームブラストやレーザーブラストの場合、錆止め層回収工程S13aと再ブラスト工程S13bを同時に行うことができる。
(11)新たな錆止め層1の外側に新塗料を塗り、新たな外塗り層2を形成する(塗り替え工程S15)。
(その他の実施例)
前記両実施例は一例であり、本発明の塗装塗り替え工法は、これ以外の手順で実施することもできる。
本発明の塗り替え工法は、各種鋼構造物の塗装の塗り替えに適用することができるが、鋼橋の鋼桁や海洋構造物、タンク、水門、プラント、各種鉄塔といった重防食塗装が採用される各種鋼部材の塗装の塗り替えに特に適する工法である。
1 錆止め層
2 外塗り層
10 高周波誘導加熱装置(誘導加熱装置)
11 加熱ヘッド
12 高周波電源
13 循環装置
14 ベース
15 加熱コイル
16a、16b コイル電極
18 支持材
20 機器取付け部
21 センサ取付け部
22 通孔
23 止め孔
24 凹部
25 連結材
26 台座
27 温度センサ
28 凸部
29a、29b 給電部(外部電極)
30 ハンドル
31 通孔
32 止め孔
33 パッキン
34 保護ホース
35 供給ホース
36 戻りホース
38 冷却板
39 白金側温体
40 流量調整バルブ
41 逆流防止弁
42 ケーブル
43 増幅器
CT 変流器
X 鋼部材

Claims (7)

  1. 鋼部材表面の塗装を剥離して塗装を塗り替える工法であって、
    手持ち式の誘導加熱装置を前記鋼部材の外側に宛がい、その鋼部材の外側に宛がった手持ち式の誘導加熱装置の誘導加熱で鋼部材表面を加熱して当該鋼部材表面の塗装のうち錆止め層の外側の外塗り層を軟化させ、当該外塗り層を浮き上がらせて前記錆止め層から分離させる軟化工程と、
    軟化して錆止め層から浮き上がって分離した外塗り層を剥離手段によって錆止め層からシート状態あるいは飛散しないで固まった状態で剥離する剥離工程と、
    外塗り層の剥離によって露出した既存の錆止め層をブラストすることなく、当該錆止め層の上に新たな塗料を塗って鋼部材の塗装を塗り替える塗り替え工程を備えた、
    ことを特徴とする塗装塗り替え工法。
  2. 鋼部材表面の塗装を剥離して塗装を塗り替える工法であって、
    手持ち式の誘導加熱装置を前記鋼部材の外側に宛がい、その鋼部材の外側に宛がった手持ち式の誘導加熱装置の誘導加熱で鋼部材表面を加熱して当該鋼部材表面の塗装のうち錆止め層の外側の外塗り層を軟化させ、当該外塗り層を浮き上がらせて前記錆止め層から分離させる軟化工程と、
    軟化して錆止め層から浮き上がって分離した外塗り層を剥離手段によって錆止め層からシート状態あるいは飛散しないで固まった状態で剥離する剥離工程と、
    外塗り層剥離によって露出した既存の錆止め層をブラストする再ブラスト工程と、
    前記ブラスト加工された既存の錆止め層の上に、新たな塗料を塗って鋼部材の塗装を塗り替える塗り替え工程を備えた、
    ことを特徴とする塗装塗り替え工法。
  3. 鋼部材表面の塗装を剥離して塗装を塗り替える工法であって、
    手持ち式の誘導加熱装置を前記鋼部材の外側に宛がい、その鋼部材の外側に宛がった手持ち式の誘導加熱装置の誘導加熱で鋼部材表面を加熱して当該鋼部材表面の塗装のうち錆止め層の外側の外塗り層を軟化させ、当該外塗り層を浮き上がらせて前記錆止め層から分離させる軟化工程と、
    軟化して錆止め層から浮き上がって分離した外塗り層を剥離手段によって錆止め層からシート状態あるいは飛散しないで固まった状態で剥離する剥離工程と、
    外塗り層の剥離によって露出した錆止め層の一部又は全部を切削する切削工程と、
    前記切削工程で一部切削により残された残存錆止め層、又は全部切削により露出した鋼部材露出面を粗面化するための再ブラストをすることなく、当該残存錆止め層の上又は鋼部材露出面の上に新たな防錆材料を塗布して新たな錆止め層を形成する錆止め層形成工程と、
    前記新たな錆止め層の外側に新たな塗料を塗って鋼部材の塗装を塗り替える塗り替え工程を備えた、
    ことを特徴とする塗装塗り替え工法。
  4. 鋼部材表面の塗装を剥離して塗装を塗り替える工法であって、
    手持ち式の誘導加熱装置を前記鋼部材の外側に宛がい、その鋼部材の外側に宛がった手持ち式の誘導加熱装置の誘導加熱で鋼部材表面を加熱して当該鋼部材表面の塗装のうち錆止め層の外側の外塗り層を軟化させ、当該外塗り層を浮き上がらせて前記錆止め層から分離させる軟化工程と、
    軟化して錆止め層から浮き上がって分離した外塗り層を剥離手段によって錆止め層からシート状態あるいは飛散しないで固まった状態で剥離する剥離工程と、
    外塗り層の剥離によって露出した錆止め層の一部又は全部を切削する切削工程と、
    前記切削工程で一部切削により残された残存錆止め層又は、全部切削により露出した鋼部材露出表面をブラスト加工する再ブラスト工程
    前記ブラスト加工された残存錆止め層又は鋼部材露出表面に、新たな防錆材料を塗布して新たな錆止め層を形成する錆止め層形成工程と、
    前記新たな錆止め層の外側に新たな塗料を塗って鋼部材の塗装を塗り替える塗り替え工程を備えた、
    ことを特徴とする塗装塗り替え工法。
  5. 請求項3又は請求項4記載の塗装塗り替え工法において、
    鋼よりもイオン化傾向の大きな亜鉛を主体とした防錆材料を塗布して新たな錆止め層を形成して、新たな錆止め層とその上に塗布した新たな塗料との電気化学的作用による犠牲防食作用が得られるようにした、
    ことを特徴とする塗装塗り替え工法。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の塗装塗り替え工法において、
    錆止め層と外塗り層の膨張係数の差異により、錆止め層を残して塗膜を分離できるように誘導加熱装置による加熱温度を、剥離する鋼部材の表面温度が150℃〜200℃となる温度に設定した、
    ことを特徴とする塗装塗り替え工法。
  7. 請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の塗装塗り替え工法において、
    塗り替え前の鋼部材の塗装系が、防錆材料として無機ジンクリッチペイントが用いられた塗装系である、又は、鉛丹もしくは鉛系錆止めペイントが用いられた塗装系である、
    ことを特徴とする塗装塗り替え工法。
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