以下、本発明のブレーキ装置を実現する形態を、図面に基づき説明する。
[実施例1]
図1は、実施例1のブレーキ装置(以下、装置1という。)の全体斜視図である。装置1は、車輪を駆動する原動機として、エンジンのほか、電動式のモータ(ジェネレータ)を備えたハイブリッド車や、電動式のモータ(ジェネレータ)のみを備えた電気自動車等の、電動車両のブレーキシステムに適用される。このような電動車両においては、モータ(ジェネレータ)を含む回生制動装置により、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することで車両を制動する回生制動を実行可能である。なお、例えばエンジンのみを駆動源とする非電動車両に適用することとしてもよい。装置1は、車両の各車輪にブレーキ液圧を付与して制動力を発生させる液圧式ブレーキ装置である。具体的には、車両の各車輪に設けられたホイルシリンダ8にブレーキ液(オイル)が供給されると、ホイルシリンダ8内のピストンが押圧され、車輪と共に回転するブレーキディスクに摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に液圧制動力が付与される。なお、ディスクブレーキではなくドラムブレーキを用いてもよい。装置1は、この液圧制動力を制御することで、回生制動装置による回生制動力と液圧制動力とを最適に配分して所望の制動力、例えば運転者(ドライバ)の要求する制動力を発生させる回生協調制御を実行可能に設けられている。
装置1は、運転者のブレーキ操作の入力を受けるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル2と、運転者によるブレーキペダル2の踏込み量(ペダルストローク)に対する踏込み力(ブレーキ操作力)の変化割合を可変にするリンク機構3と、ブレーキ液を貯留するブレーキ液源としてのリザーバタンク(以下、リザーバという)4と、リンク機構3を介してブレーキペダル2に接続されると共にリザーバ4からブレーキ液を供給され、運転者によるブレーキペダル2の操作(ブレーキ操作)に伴ってブレーキ液圧を発生させる第1のブレーキ液圧発生源としてのマスタシリンダ5と、ブレーキ操作量としてブレーキペダル2の変位量を検出するストロークセンサ90(ブレーキ操作量検出手段)と、リザーバ4又はマスタシリンダ5からブレーキ液を供給され、運転者によるブレーキ操作とは独立にブレーキ液圧を発生させる第2のブレーキ液圧発生源としての液圧ユニット6と、液圧ユニット6の作動を制御する電子制御ユニット(以下、ECUという)10とを備える。リザーバ4、マスタシリンダ5、液圧ユニット6(電磁弁やポンプ7)、ECU10は一体に設けられており、装置1は1つのユニットとして構成されている。液圧ユニット6には、ポンプ7を駆動するモータ60が一体に取付けられている。
装置1は、車両のエンジンが発生する負圧を利用してブレーキ操作力(ブレーキペダルの踏力)を倍力ないし増幅する負圧ブースタ(以下、エンジン負圧ブースタという)を備えていない。装置1は、液圧ユニット6を用いることで、運転者のブレーキ操作から独立して各ホイルシリンダ8の液圧すなわち液圧制動力を制御可能に設けられたブレーキ制御装置である。装置1は、このブレーキ液圧制御により、運転者のブレーキ操作力では不足する液圧制動力を発生してブレーキ操作を補助する倍力機能を発揮する。すなわち、負圧ブースタを備えない代わりに液圧ユニット6を作動させることで、ブレーキ操作力を補助可能に設けられている。また、装置1は、上記回生協調制御の他、車両の横滑り等を防止して車両挙動を安定化するための自動ブレーキ制御(VDCないしESC)や、車輪ロックを防止するアンチロックブレーキ制御(ABS)等を実行可能に設けられている。
図2は、装置1の概略構成を液圧ユニット6の液圧回路と共に示す図である。マスタシリンダ5については、その軸を通る平面で切った部分断面を示す。以下、説明の便宜上、ピストン54の軸が延びる方向にx軸を設け、ブレーキペダル2とは反対側(ブレーキペダル2の踏み込みに応じてピストン54がストロークする方向)を正方向とする。液圧制動システムは2系統(プライマリP系統及びセカンダリS系統)のブレーキ配管を有しており、例えばX配管である。なお、H配管等、他の配管形式でもよい。P系統に対応して設けられた部材にはその符号の末尾に添字pを、S系統に対応する部材を示す符号の末尾には添字sをそれぞれ付して区別する。
リンク機構3は、ブレーキペダル2とマスタシリンダ5との間に、マスタシリンダ5に対し一体的に接続されるように設けられており、側面視で棒状の第1リンク31と、側面視で三角状の第2リンク32とを有する。ブレーキペダル2の根元部は軸200により車体側に回転自在に支持されている。第2リンク32の第1の角部は軸320により車体側に回転自在に支持されている。第1リンク31の一端は軸310によりブレーキペダル2の根元部に回転自在に支持されている。第1リンク31の他端は軸311により第2リンク32の第2の角部に回転自在に支持されている。第2リンク32の第3の角部は軸321により入力部材としてのプッシュロッド30のx軸負方向端部に回転自在に支持されている。
図3は、マスタシリンダ5の内部構造を示す図であり、ピストン54の軸心を通る平面でシリンダ50を切った部分断面を示す。マスタシリンダ5は、運転者のブレーキ操作の状態に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ液圧)を発生するタンデム型のマスタシリンダであり、有底筒状のシリンダ50と、シリンダ50の内周面に摺動可能に挿入され、ブレーキペダル2(プッシュロッド30)と連動する2つのピストン54p、54sと、シリンダ50の内周面とピストン54p、54sの外周面との間をシールする複数のシール部材であるピストンシール55とを備える。シリンダ50は、液圧ユニット6に接続してホイルシリンダ8と連通可能に設けられた吐出ポート(供給ポート)501と、リザーバ4に接続してこれと連通する補給ポート502とを、P、S系統毎に備える。P系統のポート501,502はシリンダ50のx軸負方向側に設けられ、S系統のポート501,502はx軸正方向側に設けられている。各系統において、吐出ポート501は補給ポート502よりもx軸正方向側に設けられている。また、P系統のポート501p,502p間のx軸方向所定位置には、液圧ユニット6に接続してポンプ7の吸入部70と連通する吸入ポート503が設けられている。P系統の吐出ポート501pと吸入ポート503との間のx軸方向所定位置には、液圧ユニット6に接続してリリーフ弁28と連通するリリーフポート504が設けられている。
シリンダ50の内周面は、略円筒状に形成されており、x軸正方向端部で袋状に閉じられている。シリンダ50の内周壁は、各吐出ポート501p,501s及びS系統の補給ポート502sが開口する所定のx軸正方向側範囲で比較的小径に設けられた小径部50aと、リリーフポート504及び吸入ポート503が開口する所定のx軸負方向範囲で比較的大径に設けられた大径部50bとを有し、大径部50bはシリンダ50のx軸負方向端部に開口している。更に、大径部50bのうち、P系統の補給ポート502pが開口する所定のx軸方向範囲は、大径部50bの他の部分よりも大径に設けられた第2大径部50cとなっている。シリンダ50の内周壁には、軸心を取り囲んで周方向に延びる環状の溝が複数形成されている。第1環状溝505は、吐出ポート501と補給ポート502との間のx軸方向所定位置(小径部50a)に、P、S系統毎に設けられている。第1環状溝505には第1ピストンシール551が設置される。第2環状溝506は、補給ポート502よりもx軸負方向側に、P、S系統毎に設けられている。P系統では大径部50bに設けられ、S系統では小径部50aに設けられている。第2環状溝505には第2ピストンシール552が設置される。第3環状溝507は、吸入ポート503とリリーフポート504との間のx軸方向所定位置(大径部50b)に設けられている。第3環状溝507には第3ピストンシール553が設置される。第4環状溝508は、吸入ポート503とP系統の補給ポート502pとの間のx軸方向所定位置(大径部50b)に設けられている。第4環状溝508には第4ピストンシール554が設置される。
ピストン54は、略円柱状である。S系統のピストン54sはシリンダ50のx軸正方向側(小径部50a)に収容される一方、P系統のピストン54pはシリンダ50のx軸負方向側(小径部50a及び大径部50b)に収容される。ピストン54pはx軸負方向側に開口する有底孔540を有しており、有底孔540内にはプッシュロッド30のx軸正方向端部が設置される。両ピストン54p,54sの間には、付勢部材としてのコイルスプリング561が押し縮められた状態で設置されている。ピストン54sとシリンダ50のx軸正方向端部との間には、コイルスプリング562が押し縮められた状態で設置されている。ピストン54pは、コイルスプリング561によりx軸負方向側に付勢されると共に、ブレーキペダル2の踏み込みによりプッシュロッド30を介してx軸正方向側に付勢される。ピストン54Sは、コイルスプリング561によりx軸正方向側に付勢されると共に、コイルスプリング562によりx軸負方向側に付勢される。コイルスプリング561,562は、ピストン54の戻しばねであると共に、ブレーキペダル2に対して適当な反力を付与する反力付与手段である。
P系統のピストン54pは、x軸正方向側に形成された第1小径部541と、第1小径部541のx軸負方向側に隣接して第1小径部541よりも大径に形成された第1大径部542と、第1大径部542のx軸負方向側に隣接して第1小径部541と略同じ径に形成された第2小径部543と、第2小径部543のx軸負方向側に隣接して第1大径部542と略同径に形成され、内周側に有底孔540が形成された第2大径部544とを備える。プッシュロッド30は、第2大径部544(有底孔540)のx軸負方向側の開口部から挿入されてx軸正方向側の底部に当接するように設置される。第1小径部541は、シリンダ50の小径部50aよりも僅かに小径に設けられており、往復移動可能に小径部50aのx軸負方向側に設置されている。第1小径部541には、第1ピストンシール551が摺接する。第1大径部542は、シリンダ50の大径部50bよりも僅かに小径に設けられており、(第2大径部50cよりもx軸正方向側の)大径部50bに往復移動可能に設置されている。第1大径部542には、第3ピストンシール553が摺接する。第2大径部544は、シリンダ50の(主に第2大径部50cよりもx軸負方向側の)大径部50bに往復移動可能に設置されている。第2大径部544には、第2ピストンシール552が摺接する。ピストン54が初期位置からx軸正方向側に所定ストロークX0以上移動すると、第2大径部544に第4ピストンシール554が摺接するようになる。S系統のピストン54Sは、P系統のピストン54pの第1小径部541と略同じ径に形成され、往復移動可能にシリンダ50の小径部50aのx軸正方向側に設置されている。ピストン54sには、第1ピストンシール551sおよび第2ピストンシール552sが摺接する。
P系統についてみると、第1ピストンシール551pは、そのx軸正方向側に第1液室51pを画成する。第1液室51pは、主に、ピストン54p(第1小径部541)のx軸正方向端面とピストン54sのx軸負方向端面とシリンダ50(小径部50a)の内周面との間の空間により構成されている。第1液室51pには吐出ポート501pが常時開口する。第3ピストンシール553は、そのx軸正方向側に第2液室52を画成する。第2液室52は、主に、ピストン54p(第1大径部542)のx軸正方向端面(第1小径部541と第1大径部542を接続するテーパ面)と第1小径部541の外周面とシリンダ50(大径部50b)の内周面との間の空間により構成されている。第2液室52にはリリーフポート504が常時開口する。第2ピストンシール552は、第3ピストンシール553と共に第3液室53を画成する。第3液室53は、主に、ピストン54pの第1大径部542のx軸負方向端面(第1大径部542と第2小径部543を接続するテーパ面)と第2小径部543及び第2大径部544の外周面とシリンダ50(大径部50b及び第2大径部50c)の内周面との間の空間により構成されている。第3液室53には補給ポート502と吸入ポート503が常時開口する。S系統についてみると、第1ピストンシール551sは、そのx軸正方向側に第1液室51sを画成する。第1液室51sは、主に、ピストン54sのx軸正方向端面とシリンダ50(小径部50a)の内周面との間の空間により構成されている。第1液室51sには吐出ポート501sが常時開口する。
図3に示すように、ブレーキペダル2が踏み込まれていない初期状態で、ピストン54pの第2大径部544(のx軸正方向端)と第4ピストンシール554(のリップ部)の内径側端部との間には、所定のx軸方向距離X0が設けられている。ピストン54pの初期位置からx軸正方向側への移動量(以下、ピストンストロークXという)が上記距離X0(以下、所定ストロークという)未満(0≦X<X0)では、第4ピストンシール554は、ピストン54pの第2小径部543を囲繞する位置にあって第2大径部544の外周に摺接しない。一方、ピストンストロークXがX0以上(X≧X0)のときは、第4ピストンシール554が第2大径部542に摺接する。なお、所定ストロークX0は、例えば、運転者の通常のブレーキ操作(操作力ないしペダルストローク)によりピストン54がストロークする範囲の最大値に設定する。
各ピストンシール55は、内径側にリップ部を備える周知の断面カップ状のシール部材(カップシール)であり、リップ部がピストン54の外周面に摺接した状態では、一方向へのブレーキ液の流れを許容し、他方向へのブレーキ液の流れを抑制する。P系統についてみると、第1ピストンシール551は、第2液室52から第1液室51へのブレーキ液の流れのみを許容し、第1液室51から第2液室52へのブレーキ液の流れを抑制する向きに配置されている。第2ピストンシール552は、第3液室53からシリンダ50の外部へのブレーキ液の流れを抑制する向きに配置されている。第3ピストンシール553は、第3液室53から第2液室52へのブレーキ液の流れのみを許容し、第2液室52から第3液室53へのブレーキ液の流れを抑制する向きに配置されている。第4ピストンシール554は、第2大径部544に摺接した状態(ピストン54pがX0以上ストロークした状態)で、補給ポート502から吸入ポート503へのブレーキ液の流れのみを許容し、吸入ポート503から補給ポート502へのブレーキ液の流れを抑制する向きに配置されている。S系統についてみると、第1ピストンシール551は、補給ポート502sから第1液室51へのブレーキ液の流れのみを許容し、第1液室51から補給ポート502sへのブレーキ液の流れを抑制する向きに配置されている。第2ピストンシール552は、P系統の第1液室51pから補給ポート502sへのブレーキ液の流れを抑制する向きに配置されている。
リリーフポート504には、リリーフ油路18が接続されている。リリーフ油路18は、後述する吸入油路14に合流しており、吸入油路14を介して吸入ポート503に接続されている。リリーフ油路18には、リリーフ弁28が設けられている。リリーフ弁28は、吸入ポート503(吸入油路14)側からリリーフポート504(第2液室52)側へのブレーキ液の流れを禁止すると共に、リリーフポート504側の液圧(第2液室52の液圧)が所定圧(リリーフ圧)以上になると開弁して、リリーフポート504(第2液室52)側から吸入ポート503(吸入油路14)側へのブレーキ液の流れを許容する。具体的には、リリーフ弁28は、弁体としてのボール280と、リリーフ油路18が開口する弁座281と、付勢部材としての弾性体(コイルスプリング)282とを有している。弾性体282は、ボール280を弁座281に押し付けてリリーフ油路18の開口を塞ぐ方向に常時付勢する。リリーフポート504側の液圧(第2液室52の液圧)は、ボール280を弾性体282とは反対側、すなわち弁座281から離す方向に押圧する。弾性体281の付勢力(セット荷重)を調整することで、ボール280が弁座281から離れるときのリリーフ圧が調整される。
以上のように、マスタシリンダ5は、吐出ポート501に接続する第1液室51と、リリーフポート504に連通する第2液室52とを備え、第1、第2液室51、52は、リザーバ4からブレーキ液の補給を受けることが可能に設けられている。第1液室51は、運転者のブレーキ操作によってピストン54がx軸正方向側にストロークすると容積が縮小し、液圧を発生する。これにより、第1液室51から吐出ポート501を介してホイルシリンダ8に向けてブレーキ液が供給される。なお、P系統とS系統では、第1液室51p、51sに略同じ液圧が発生する。
図2に示すように、液圧ユニット6は、各車輪FL〜RRに設けられたホイルシリンダ8とマスタシリンダ5との間に設けられており、各ホイルシリンダ8にマスタシリンダ液圧又は制御液圧を個別に供給可能である。液圧ユニット6は、各ホイルシリンダ8に供給する制御液圧を発生するための液圧機器(アクチュエータ)として、液圧発生源であるポンプ7及び複数の制御弁(電磁弁)を有している。ポンプ7は、モータ60により回転駆動されてマスタシリンダ5又はリザーバ4内のブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ8に向けて吐出する。本実施例1では、音振性能等で優れたギヤポンプ、具体的には外接歯車式ポンプを採用する。ポンプ7は両系統で共通に用いられ、同一のモータ60により駆動される。電磁弁は、制御信号に応じて開閉動作してブレーキ液の流れを制御する。以下、各輪FL〜RRに対応して設けられた部材にはその符号の末尾にそれぞれ添字a〜dを付して区別する。
液圧ユニット6は、マスタシリンダ5の吐出ポート501とポンプ7の吐出部71とを接続する第1油路11と、第1油路11に設けられた常開の(非通電状態で開弁する)遮断弁(ゲートアウト弁)21と、第1油路11におけるポンプ7の吐出部71と遮断弁21との間の分岐部110から分岐してホイルシリンダ8と接続する第2油路12と、第2油路12に設けられた常開の増圧弁22と、マスタシリンダ5の吸入ポート503とポンプ7の吸入部70とを接続する吸入油路14と、第2油路12と吸入油路14を接続する第1減圧油路15と、第1減圧油路15に設けられた常閉の(非通電状態で閉弁する)第1減圧弁25と、第1油路11pにおけるマスタシリンダ5の吐出ポート501pと遮断弁21pとの間から分岐して吸入油路14と接続する第2減圧油路16と、第2減圧油路16に設けられた常閉の第2減圧弁26と、第1油路11のポンプ7の吐出部71と遮断弁21との間(分岐部110d)から分岐して吸入油路14と接続する第3減圧油路17と、第3減圧油路17に設けられた常閉の第3減圧弁27と、を備える。また、P系統の第1油路11pとS系統の第1油路11sは合流してポンプ7の吐出部71に接続する。上記合流前の第1油路11p、11sのいずれか(実施例1では第1油路11p)には、ポンプ7の吐出部71と遮断弁21との間(実施例1ではP系統の分岐部110aとS系統の分岐部110bと間)に、常閉の連通弁23が設けられている。連通弁23は、第1油路11p、11s間の連通・遮断を切り替え可能に設けられている。遮断弁21、増圧弁22、連通弁23、各系統の第1減圧弁25のうち少なくとも1つ(実施例1では前輪FL,FRの第1減圧弁25a、25b)、及び第2減圧弁27は、ソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される比例制御弁である。他の弁(後輪RL,RRの第1減圧弁25c、25d、及び第2減圧弁26)は、オン・オフ制御されるオン・オフ弁である。尚、上記他の弁に比例制御弁を用いることも可能である。
第1油路11には、分岐部110cとポンプ7の吐出部71との間に、吐出部71側から分岐部110c側へのブレーキ液の流れのみを許容し、反対方向の流れを禁止するチェック弁(ポンプ7の吐出弁)24が設けられている。チェック弁24は、運転者のブレーキ操作によるマスタシリンダ5(第1液室51)側からの高圧がポンプ7の吐出部71に作用することを抑制することで、ポンプ7の耐久性を向上する。第2油路12には、増圧弁22と並列に油路120が設けられている。油路120には、ホイルシリンダ8側から分岐部110側へのブレーキ液の流れのみを許容し、反対方向の流れを禁止するチェック弁220が設けられている。チェック弁220は、ホイルシリンダ8からブレーキ液をマスタシリンダ5側へ戻す際に開弁し、第2油路12(増圧弁22)だけでなく油路120(チェック弁220)をも介してブレーキ液を戻すことで、ホイルシリンダ液圧の減圧を円滑にする。吸入油路14は、第1減圧弁25の低圧側(ホイルシリンダ8側とは反対側)とポンプ7の低圧側(吸入部70)を、内部リザーバ等を介さずに直接、マスタシリンダ5の吸入ポート503と接続する。
P系統で、第1油路11pにおけるマスタシリンダ5の吐出ポート501と遮断弁21との間には、この箇所の液圧を検出する液圧センサ91が設けられ、その検出値はECU10に入力される。P系統とS系統では、第1液室51p、51sに略同じ液圧が発生するため、液圧センサ91により検出される液圧は、第1液室51p、51sの液圧(マスタシリンダ液圧)である。また、P、S系統で、第1油路11におけるポンプ7の吐出部71(分岐部110)と遮断弁21との間には、この箇所の液圧(ポンプ吐出圧)を検出する液圧センサ92が設けられ、その検出値はECU10に入力される。
マスタシリンダ5の第1液室51とホイルシリンダ8とを接続するブレーキ系統は、ペダル踏力を用いて発生させたマスタシリンダ液圧によりホイルシリンダ液圧を創生(以下、踏力ブレーキという)する第1の系統を構成し、通常ブレーキ(非倍力制御)を実現する。一方、ポンプ7を含み、マスタシリンダ5の第3液室53(リザーバ4)とホイルシリンダ8を接続するブレーキ系統は、ポンプ7を用いて発生させた液圧によりホイルシリンダ液圧を創生(以下、ポンプアップという)する第2の系統を構成し、倍力制御や回生協調制御等を実現する。ここで、マスタシリンダ5のピストン54がX0未満だけストロークした位置にあり、補給ポート502と吸入ポート503が連通した状態を第1の状態といい、ピストン54がX0以上ストロークした位置にあり、補給ポート502と吸入ポート503が遮断された状態(補給ポート502から吸入ポート503へのブレーキ液の流れが許容され、反対方向の流れが抑制された状態)を第2の状態という。装置1は、第1及び第2の状態で(すなわちピストンストロークXの大きさに関わらず)、運転者のブレーキ操作により発生する第1液室51の液圧によって(すなわち第1の系統により)ホイルシリンダ液圧を創生可能に設けられている。この液圧創生手段は、第1ブレーキ液圧創生装置を構成する。また、装置1は、運転者や回生制動装置等が要求するブレーキ液圧を実現するよう、ポンプ7を作動させ(すなわち第2の系統により)、ホイルシリンダ液圧を創生可能に設けられている。この液圧創生手段は、第2ブレーキ液圧創生装置を構成する。
液圧ユニット6とECU10は、各種情報に基づきポンプ7及び電磁弁(遮断弁21等)を作動させてホイルシリンダ8の液圧を制御する液圧制御部を構成する。ECU10は、ストロークセンサ90の検出値の入力を受けてブレーキ操作量としてのブレーキペダル2の変位量(以下、ペダルストロークSという)を検出するブレーキ操作量検出部101と、検出されたブレーキ操作量(ペダルストロークS)に基づき目標ホイルシリンダ液圧を算出する目標ホイルシリンダ液圧算出部102とを備える。なお、ストロークセンサ90は、ブレーキペダル2の変位量を直接検出するものに限らず、プッシュロッド30の変位量を検出するものであってもよい。また、ブレーキペダル2の踏力を検出する踏力センサを設け、その検出値に基づきブレーキ操作量を検出することとしてもよい。すなわち、制御に用いるブレーキ操作量として、ペダルストロークSに限らず、他の適当な変数を用いてもよい。
具体的には、目標ホイルシリンダ液圧算出部102は、検出されたペダルストロークSに基づき、所定の倍力比、すなわちペダルストロークSと運転者の要求ブレーキ液圧(運転者が要求する車両減速度G)との間の理想の関係特性を実現する目標ホイルシリンダ液圧を算出する。実施例1では、例えば、通常サイズのエンジン負圧ブースタを備え、かつリンク機構3や後述するファーストフィル機構5a(段付きのピストン54p及びリリーフ弁28に係る構成)を備えないブレーキ装置(以下、比較例1という)において、エンジン負圧ブースタの作動時に実現されるペダルストロークSとホイルシリンダ液圧P(ブレーキ液圧)との間の所定の関係特性(図14参照)を、目標ホイルシリンダ液圧を算出するための上記理想の関係特性とする。また、目標ホイルシリンダ液圧算出部102は、回生協調制御時には、回生制動力との関係で目標ホイルシリンダ液圧を算出する。具体的には、回生制動装置のコントロールユニットから入力される回生制動力と目標ホイルシリンダ液圧に相当する液圧制動力との和が、運転者の要求する車両減速度(要求ブレーキ液圧)を充足するような目標ホイルシリンダ液圧を算出する。なお、VDC時には、例えば検出された車両運動状態量(横加速度等)に基づき、所望の車両運動状態を実現するよう、各車輪の目標ホイルシリンダ液圧を算出する。
ECU10は、算出された目標ホイルシリンダ液圧に基づき、第1ブレーキ液圧創生装置と第2ブレーキ液圧創生装置とを切り替えると共に、第2ブレーキ液圧創生装置の作動を制御する。具体的には、ECU10は、ブレーキ操作量検出部101によりブレーキ操作の開始を検出すると、算出した目標ホイルシリンダ液圧が所定値P1(例えば急ブレーキ時でない通常時のブレーキ操作で発生する車両減速度Gの最大値相当)以下である場合、第1ブレーキ液圧創生装置によりホイルシリンダ液圧を創生する。一方、算出した目標ホイルシリンダ液圧が所定の液圧P1より高い場合、液圧ユニット6を作動状態とする。すなわち、第2ブレーキ液圧創生装置によりホイルシリンダ液圧を創生する。ECU10は、液圧ユニット6の各アクチュエータ(第2ブレーキ液圧創生装置)を制御して各ホイルシリンダ8の液圧を増圧する増圧制御部103と、同液圧を減圧する減圧制御部104と、同液圧を保持する保持制御部105とを備える。
[液圧制御部の作動]
図4〜図9は、液圧ユニット6の各制御時におけるブレーキ液の流れの概略を太線で示す。
(通常ブレーキ:踏力ブレーキ時)
装置1は、制動初期、すなわちブレーキ操作が開始された後の所定の低圧域(0<P≦P1)では、第1ブレーキ液圧創生装置(第1の系統)によりホイルシリンダ液圧Pを創生する。具体的には、ECU10は、ブレーキ操作量検出部101によりブレーキ操作の開始が検出されると、算出された目標ホイルシリンダ液圧が所定の液圧P1以下である場合、液圧ユニット6を非通電状態とし、ポンプ7及び各電磁弁を非作動(非通電状態)とする。液圧P1は、車両減速度Gに換算すると、0.1〜0.2G程度に相当する。よって、図4に示すように、ブレーキペダル2の踏み込み操作に応じて、マスタシリンダ5(第1液室51)から各ホイルシリンダ8に向けてブレーキ液が供給される(増圧時)。また、ブレーキペダル2が踏み戻されると、各ホイルシリンダ8からマスタシリンダ5(第1液室51)に向けてブレーキ液が戻される(減圧時)。具体的には、マスタシリンダ5の各系統の第1液室51から、第1油路11及び第2油路12を介して、各ホイルシリンダ8にブレーキ液が給排される。すなわち、ブレーキペダル2の操作に応じて発生する第1液室51の液圧(マスタシリンダ液圧)がホイルシリンダ8に供給される。なお、ファーストフィル機構5aにより、プライマリ側の第1液室51pから、セカンダリ側の第1液室51sよりも多くのブレーキ液が供給されるおそれがある場合には、各輪に同圧を供給するため、連通弁23を開弁方向に制御することとしてもよい。
(通常ブレーキ:倍力制御時)
装置1は、ブレーキ操作が行われている間、所定の高圧域(P1<P)では、第2ブレーキ液圧創生装置(第2の系統)によりホイルシリンダ液圧Pを創生することで、倍力機能を実現する。具体的には、ECU10は、ブレーキ操作が行われた状態で、算出された目標ホイルシリンダ液圧が所定の液圧P1より高い場合に、液圧ユニット6を駆動し、ホイルシリンダ液圧を創生する。以下、増圧・減圧・保持の各作動を説明する。
図5に示すように、ECU10の増圧制御部103は、ブレーキ操作(踏み込み)が行われた状態で、ポンプ7を駆動すると共に、遮断弁21を閉弁方向に制御し、増圧弁22を開弁方向に制御し、連通弁23を開弁方向に制御することで、ホイルシリンダ液圧を増圧する。このように容易な制御により増圧制御を実施できる。液圧センサ92の検出値に基づきポンプ7の回転数(吐出量)等を制御することで、ホイルシリンダ液圧が目標液圧となるように制御する。実施例1では、増圧弁22を比例制御弁としているため、細かい制御が可能となり、滑らかな増圧制御が実現可能となっている。ポンプ7は、リザーバ4内のブレーキ液をマスタシリンダ5(補給ポート502、第3液室53、及び吸入ポート503)並びに吸入油路14を介して吸入する。また、第2減圧弁26が開弁方向に制御(比例制御弁を用いた場合には開弁量を制御)されているため、ポンプ7は、マスタシリンダ5の第1液室51p内のブレーキ液を第2減圧油路16及び吸入油路14を介して吸入する。ポンプ7が吐出したブレーキ液は、第2油路12を介して各ホイルシリンダ8に供給される。連通弁23が開弁方向に制御されているため、ポンプ7が吐出したブレーキ液は、P、S両系統のホイルシリンダ8に供給される。このように、遮断弁21と増圧弁22との間に連通弁23を設け、P系統とS系統を互いに接続しているため、1つのポンプ7と1つのモータ60(1組のポンプ・モータ)で4輪を昇圧することができる。よって、液圧ユニット6を簡略な構成とし、装置1の小型化・軽量化を図ることができる。なお、液圧ユニット6において、ポンプ・モータのユニットと各電磁弁のユニットとを別体の構成としてもよい。この場合、一体とした場合よりも各ユニットを収容する筺体(ハウジング)を小さくすることができ、車両搭載性を向上することができる。また、車室から離れたところにポンプ・モータを設置することで、音振の影響を改善することができる。また、ECU10の増圧制御部103は、遮断弁21を閉弁方向に制御し、液圧センサ91の検出値に基づき第2減圧弁26を開弁方向に制御(比例制御弁を用いた場合には開弁量を制御)することで、マスタシリンダ液圧が目標液圧となるように制御する。マスタシリンダ5のプライマリ側の第1液室51pから吐出されたブレーキ液は、第2減圧弁26を通って、吸入油路14およびマスタシリンダの第3液室を介してリザーバ4に戻される。
図6に示すように、ECU10の減圧制御部104は、ブレーキ操作(踏み戻し)が行われた状態で、遮断弁21を閉弁方向に制御し、増圧弁22を開弁方向に制御し、連通弁23を開弁方向に制御し、第3減圧弁27を開弁方向に制御することで、ホイルシリンダ液圧を減圧する。このように容易な制御により減圧制御を実施できる。液圧センサ92の検出値に基づき第3減圧弁27の開弁量等を制御することで、ホイルシリンダ液圧が目標液圧となるように制御する。実施例1では、第3減圧弁27を比例制御弁としているため、細かい制御が可能となり、滑らかな減圧制御が実現可能となっている。各ホイルシリンダ8から、第2油路12、第3減圧油路17、及び吸入油路14を介してマスタシリンダ5の第3液室53に戻されたブレーキ液は、ピストンストロークXの大きさがX0未満(第1の状態)であれば、補給ポート502を通ってリザーバ4に戻される。よって、ホイルシリンダ8の減圧制御を円滑にするために、ピストンストロークXの大きさがX0未満となることが好ましい。よって、X0は、マスタシリンダ5(第1液室51)からホイルシリンダ8へのブレーキ液の供給が遮断された状態で、運転者の通常のブレーキ操作(踏力FないしペダルストロークS)によりピストン54pがストロークする範囲の最大値以上に設定される。各ホイルシリンダ8からのブレーキ液は、吸入油路14を介してマスタシリンダ5の第3液室53(リザーバ4)に戻される。一方、遮断弁21により第1油路11が遮断されているため、ホイルシリンダ8からマスタシリンダ5の第1液室51へブレーキ液が戻ることが抑制される。なお、ECU10の減圧制御部104は、遮断弁21を閉弁方向に制御し、液圧センサ91の検出値に基づき第2減圧弁26を開弁方向に制御することで、マスタシリンダ液圧が目標液圧となるように制御することとしてもよい。また、第3減圧弁27の代わりに第1減圧弁25を制御して各ホイルシリンダ液圧を減圧することとしてもよい。実施例1では、第3減圧弁27を介して減圧することとしたため、制御を簡素化することができる。すなわち、各車輪のホイルシリンダ液圧を個別に制御する必要がなく、1つの第3減圧弁27を制御することで、4輪のホイルシリンダ液圧を同時に減圧することができる。よって、電力消費も抑制できる。
ECU10の保持制御部105は、ブレーキ操作(保持)が行われた状態で、遮断弁21を閉弁方向に制御し、連通弁23を開弁方向に制御し、その他のアクチュエータを非作動とする。このように容易な制御により保持制御を実施できる。遮断弁21により第1油路11が遮断されるため、マスタシリンダ5の第1液室51からホイルシリンダ8にブレーキ液が供給されない。各ホイルシリンダ8の液圧は、遮断弁21からも第1減圧弁25、第3減圧弁27からも逃げないため、保持される。
(回生協調制御)
ブレーキ操作が行われた状態で、回生制動装置が作動しているとき、装置1は、第2ブレーキ液圧創生装置(第2の系統)によりホイルシリンダ液圧を創生することで、回生協調制御を実行する。具体的には、ECU10は、検出されたブレーキ操作量(運転者の要求制動力)及び入力される回生制動力の値に基づき目標ホイルシリンダ液圧を算出し、この目標ホイルシリンダ液圧を実現するように、液圧ユニット6を駆動する。例えば、減圧制御部104は、第1又は第2ブレーキ液圧創生装置によりホイルシリンダ液圧を発生させているとき(通常ブレーキ時)、回生制動装置による回生制動力の増加等に伴ってホイルシリンダ液圧を減圧する。減圧・増圧・保持の各制御時の液圧ユニット6の具体的な作動は、基本的に、通常ブレーキ時(倍力制御時)と同様である。以下、説明する。
図7に示すように、ECU10の減圧制御部104は、ブレーキ操作(踏み込み、踏み戻し、ないし保持)が行われた状態で、通常ブレーキ時(倍力制御時)の減圧制御と同様、遮断弁21を閉弁方向に制御し、増圧弁22を開弁方向に制御し、連通弁23を開弁方向に制御し、第3減圧弁27を開弁方向に制御することで、ホイルシリンダ液圧を減圧する。液圧センサ92の検出値に基づき第3減圧弁27の開弁量等を制御することで、ホイルシリンダ液圧が目標液圧となるように制御する。また、ECU10の減圧制御部104は、遮断弁21を閉弁方向に制御し、液圧センサ91の検出値に基づき第2減圧弁26を開弁方向に制御(比例制御弁を用いた場合には開弁量を制御)することで、マスタシリンダ液圧が目標液圧となるように制御する。例えばブレーキペダルの踏み込み時には、マスタシリンダ5のプライマリ側の第1液室54pから吐出されたブレーキ液は、第2減圧弁26を通って、吸入油路14およびマスタシリンダの第3液室を介してリザーバ4に戻される。
図8に示すように、ECU10の保持制御部105は、ブレーキ操作(踏み込み、踏み戻し、ないし保持)が行われた状態で、通常ブレーキ時(倍力制御時)の保持制御と同様、遮断弁21を閉弁方向に制御し、増圧弁22及び連通弁23を開弁方向に制御し、第1減圧弁25及び第3減圧弁27を閉弁方向に制御することで、各ホイルシリンダ8の液圧を保持する。また、ECU10の保持制御部105は、遮断弁21を閉弁方向に制御し、液圧センサ91の検出値に基づき第2減圧弁26を開弁方向に制御(比例制御弁を用いた場合には開弁量を制御)することで、マスタシリンダ液圧が目標液圧となるように制御する。例えばブレーキペダルの踏み込み時には、マスタシリンダ5のプライマリ側の第1液室から吐出されたブレーキ液は、第2減圧弁26を通って、吸入油路14およびマスタシリンダ5の第3液室53を介してリザーバ4に戻される。
図9に示すように、ECU10の増圧制御部103は、ブレーキ操作(踏み込み、踏み戻し、ないし保持)が行われた状態で、通常ブレーキ時(倍力制御時)の増圧制御と同様、ポンプ7を駆動すると共に、遮断弁21を閉弁方向に制御し、増圧弁22を開弁方向に制御し、連通弁23を開弁方向に制御することで、ホイルシリンダ液圧を増圧する。液圧センサ92の検出値に基づきポンプ7の回転数(吐出量)等を制御することで、ホイルシリンダ液圧が目標液圧となるように制御する。また、ECU10の増圧制御部103は、遮断弁21を閉弁方向に制御し、液圧センサ91の検出値に基づき第2減圧弁26を開弁方向に制御することで、マスタシリンダ液圧が目標液圧となるように制御する。例えばブレーキペダルの踏み込み時には、マスタシリンダ5のプライマリ側の第1液室51pから吐出されたブレーキ液は、第2減圧弁26を通って、吸入油路14に供給される。
(VDC・ABS)
ブレーキ操作が行われた状態又は行われない状態で、装置1は、第2ブレーキ液圧創生装置(第2の系統)によりホイルシリンダ液圧を創生することで、VDC制御を実行する。具体的には、ECU10は、算出された目標ホイルシリンダ液圧を実現するように、液圧ユニット6を駆動する。また、ブレーキ操作が行われた状態で、車輪のロックが検出されたとき、装置1は、第2ブレーキ液圧創生装置(第2の系統)によりホイルシリンダ液圧を創生することで、ABS制御を実行する。具体的には、ECU10は、ホイルシリンダ液圧の減圧・保持・増圧を繰り返すことで、車輪のスリップ率が所定範囲内に収まるよう、液圧ユニット6を駆動する。なお、目標ホイルシリンダ液圧を設定し、この目標ホイルシリンダ液圧となるようにホイルシリンダ液圧を制御することでABS制御を行うこととしてもよい。減圧・増圧・保持の各制御時の液圧ユニット6の具体的な作動は、回生協調制御時と同様である。ただし、VDC・ABSでは、各増圧弁22の開閉を制御することで制御対象輪のホイルシリンダ液圧を個別に増圧し、第3減圧弁27ではなく各第1減圧弁25の開閉を制御することで、制御対象輪のホイルシリンダ液圧を個別に減圧する。また、必ずしも第2減圧弁26を開弁制御してマスタシリンダ液圧を制御しなくてもよい。また、ABSでの保持・増圧時には、増圧弁22以外のアクチュエータを制御せず(遮断弁21を開弁状態とし)、各増圧弁22のみを制御することで、各ホイルシリンダ液圧を保持・増圧することとしてもよい。
[実施例1の作用]
次に、装置1の作用を説明する。
[リンク機構の作動]
ブレーキペダル2が踏み込まれると、ブレーキペダル2の根元部が軸200の周りで回転する。この回転力(踏力)が、リンク機構3を介して、プッシュロッド30をx軸正方向側に移動させる直線方向の力に変換される。このとき、ブレーキペダル2の踏み込み量(ペダルストロークS)の大小に応じて、この踏み込み量Sの変化分ΔSに対するプッシュロッド30のx軸方向移動量(ピストンストロークX)の変化分ΔXが所望の特性で変化するように、リンク機構3が配列されている。言換えると、プッシュロッド30(ピストン54p)を同じ量だけ移動させるために必要なブレーキペダル2の踏み込み力(以下、踏力Fという)が、ペダルストロークSに応じて所望の特性で変化するように、リンク機構3(例えば支軸の位置やリンクの形状、長さ等)が調整されている。具体的には、ピストンストロークXに対するペダルストロークSの比k(=ΔS/ΔX)、言い換えると、踏力Fに対するプッシュロッド30によるピストン54pの推進力(以下、ピストン推力Fpという)の比k(レバー比ないし倍力比)は、ペダルストロークSがゼロから所定値S1までの範囲にあり比較的小さい領域では大きく(例えばk=5〜7程度に)、ペダルストロークSが所定値S1よりも大きい範囲にあり比較的大きい領域では小さく(例えばk=3〜4程度に)なるように、設定されている。
図10は、(後述するファーストフィル機構5aが設けられていない)通常のマスタシリンダにリンク機構3を適用した場合の、踏力Fと第1液室51の液圧(ホイルシリンダ8の液圧Pに相当)との関係特性を示す。踏力Fがゼロから所定値F1(実施例1では、ペダルストロークSが所定値S1のときの踏力Fの大きさ)までの範囲内にあって比較的小さいときの、踏力Fに対するピストン推力Fpの変化率(レバー比k)は、踏力Fが所定値F1を超えた範囲にあって比較的大きいときの上記変化率よりも、大きい。すなわち、ペダルストロークSが比較的小さいときは、リンク機構3によりレバー比が大きく設定されているため、ペダルストロークSが比較的大きいときよりも、同じ踏力Fに対してピストン推力Fpが大きくなり、少ない踏力Fで大きなピストン推進力Fpを得ることができる。ここで、(後述するファーストフィル機構5aが設けられていない)通常のマスタシリンダにあっては、液圧Pは、ピストン推力Fpに正比例する。よって、踏力Fと液圧Pの関係特性は、図10のようになる。ペダルストロークS(踏力F)の大小に応じて、所定値S1(F1)を境にレバー比kが変化するため、踏力Fに対する液圧Pの変化割合も、所定値S1(F1)を境にして変化する。なお、所定値S1(F1)のときの液圧Pは、例えば、踏力ブレーキとポンプアップとを切り替える基準となる液圧と同じ値P1に設定するが、これに限らない。
このように、リンク機構3は、運転者のブレーキ操作量(ペダルストロークSないし踏力F)に応じてレバー比kを可変にすることで、運転者のブレーキ操作力(踏力F)に対するピストン推力Fpの変化割合を可変にする操作力可変機構である(例えば運転者のブレーキ操作力を低減する倍力機構である)と共に、踏力Fに対する液圧P(第1液室51からホイルシリンダ8に向けて供給されるブレーキ液圧)の変化割合を可変にする液圧可変機構である。
[ファーストフィル機構の作動]
図11および図12は、図3と同様の部分断面図であり、ブレーキペダル2が踏み込まれたときのマスタシリンダ5におけるブレーキ液の流れの要部を矢印で示す。図11は、ペダルストロークSが所定値S1以下であるときの作動を示し、図12は、ペダルストロークSが所定値S1を超えたときの作動を示す。以下、説明を簡単にするため、リンク機構3が設けられておらず、また、通常時の(例えば急ブレーキ時でない)ブレーキ操作であってペダルストローク速度dS/dtが所定範囲内であるとする。リンク機構3が設けられていない場合、ピストンストロークXはペダルストロークSに比例する。よって、簡単のため、S=Xとする。なお、リンク機構3が設けられている場合でも、Xは、リンク機構3の配列に基づき、Sに対して一対一の関係で決定される。実施例1のマスタシリンダ5では、ピストン54の少なくとも一方(ピストン54p)は、部分的に口径が異なる(第1小径部541と第1大径部542を有する)段付形状である。また、ピストンストロークXにかかわらず、第1ピストンシール551により、第2液室52から第1液室51へのブレーキ液の流れが許容される一方、逆方向のブレーキ液の流れが抑制される。第3ピストンシール553により、第3液室53(リザーバ4側)から第2液室52へのブレーキ液の流れが許容される一方、逆方向のブレーキ液の流れが抑制される。さらに、マスタシリンダ5には第2液室52に連通するリリーフ弁28が設けられている。
これにより、ピストンストロークX(ペダルストロークS)に応じて、(第1大径部542が画成する)第2液室52の液圧が所定値(リリーフ圧)以上になるまでは第2液室52から(第1小径部541が画成する)第1液室51pへブレーキ液が供給され、第2液室52の液圧が所定値(リリーフ圧)以上になると第2液室52から第1液室51へのブレーキ液の供給が抑制されるようになっている。具体的には、ピストンストロークX(ペダルストロークS)が比較的小さい(第2液室52の液圧がリリーフ圧となる所定ストロークS1未満である)とき、第2液室52の液圧はリリーフ圧より低いため、リリーフ弁28は閉じた状態である。一方、第1液室51はホイルシリンダ8に連通しているため、ピストンストロークXの増大に応じた容積縮小に対する液圧の上昇率(液圧剛性)は、第2液室52のほうが第1液室51よりも高くなる。すなわち、ブレーキ踏み込み直後は、第2液室52のほうが第1液室51よりも高圧となる。よって、図11に示すように、第2液室52のブレーキ液は第3ピストンシール553を通過して第1液室51側へ流れる。第1液室51からは、通常の(例えばピストンが第1小径部541のみを有し第1大径部542を有しない)マスタシリンダよりも多くのブレーキ液が、ホイルシリンダ8に向けて供給される。すなわち、ピストン54pは、ペダルストロークSがS1に達する(第2液室52の液圧がリリーフ圧に達する)まではいわば大径ピストンとして機能する。具体的には、第1大径部542の受圧面積とピストンストロークXとの積(第2液室52の容積縮小)に相当するブレーキ液量が第1液室51へ供給される。このブレーキ液量と、第1小径部541の受圧面積とピストンストロークXとの積(第1液室51の容積縮小)に相当するブレーキ液量とを足し合わせたものが、第1液室51からホイルシリンダ8へ向けて供給される。
一方、ピストンストロークX(ペダルストロークS)が比較的大きい(S1以上である)とき、第2液室52の液圧がリリーフ圧以上となるため、リリーフ弁28が開く。よって、図12に示すように、第2液室52のブレーキ液はリリーフ弁28を通過してリザーバ4側へ流れる。第1液室51のほうが第2液室52(リリーフ圧)より低圧でない限り、第2液室52のブレーキ液はリリーフ弁28を通過してリザーバ4側へ排出され、第1ピストンシール551を通過して第1液室51に供給されない。すなわち、ピストン54pは、ペダルストロークSがS1以上(第2液室52の液圧がリリーフ圧以上)となってからはいわば小径ピストンとして機能する。具体的には、第1小径部541の受圧面積とピストンストロークXとの積(第1液室51の容積縮小)に相当するブレーキ液量のみが、第1液室51からホイルシリンダ8へ向けて供給される。なお、第2液室52の液圧(リリーフ圧)のほうが第1液室51の液圧よりも高い場合には、上記と同様に第1ピストンシール551を通過して第1液室51にブレーキ液が供給される。よって、ペダルストロークSに応じて、第1液室51から液圧ユニット6(ホイルシリンダ8)に向けて供給されるブレーキ液の量(以下、液量Qという)が変化する。
図13は、液量QとペダルストロークSとの関係特性を示す。図13に示すように、ペダルストロークSがゼロから所定値S1までの範囲内にあって比較的小さいときの、ペダルストロークSに対する液量Qの変化率(変化勾配)は、ペダルストロークSが所定値S1を超えた範囲にあって比較的大きいときの上記変化率よりも、大きい。なお、実施例1では、所定値S1は、リンク機構3のレバー比kが変化する値と同じであることとするが、これに限られない。このように、ピストン54pの段付形状およびリリーフ弁28に係る上記構成は、ペダルストロークSの大小に応じて、ペダルストロークSに対する液量Qの変化率を上記のように変化させるファーストフィル機構5aを構成し、ブレーキ踏み込み直後にマスタシリンダ5からホイルシリンダ8へ供給される総液量を増大させる機能を有する。ファーストフィル機構5aを備えることで、ブレーキ踏み込み直後からホイルシリンダ8へ十分な液量を供給することができる。よって、ホイルシリンダ8におけるブレーキパッドとブレーキディスクとの間の距離を増やし、両者の引きずりによるエネルギ損失等を抑制した場合(言換えるとホイルシリンダ8内のピストンのガタ詰めに必要な液量が増大した場合)でも、速やかにガタ詰めを行ってホイルシリンダ液圧を増大させることができ、これによりエネルギ効率の向上を図ることができる。なお、ファーストフィル機構5aは、液量Qの変化率を可変にすることができるものであればよく、実施例1の構成(段付きピストン54pやリリーフ弁28)に限られない。
また、ペダルストロークSと踏力Fとの関係について見ると、第1小径部541に作用する第1液室51の液圧(ホイルシリンダ8の液圧Pに相当)は、ホイルシリンダ8の液圧剛性にしたがい、ホイルシリンダ8へある程度のブレーキ液量が供給されるまでは、比較的小さな勾配で増大する一方、ホイルシリンダ8へ十分なブレーキ液量が供給された後は、ペダルストロークSに応じて比較的大きな勾配で増大する。これに対し、第1大径部542に作用する第2液室52の液圧は、リリーフ圧に達するまでは、ペダルストロークSに応じて、比較的大きな(第1液室51の液圧よりも大きな)勾配で増大すると共に、リリーフ圧に達した後は、それ以上に変化しない。よって、ピストン51p(第1小径部541と第1大径部542)が全体として受ける液圧、言い換えると液圧によるペダル反力(踏力F)は、ペダルストロークSの大小(例えば第2液室52の液圧がリリーフ圧となる所定値S1を超えるか否か)に応じて、ペダルストロークSに対する変化率が変わりうる。言い換えると、ペダルストロークSが所定値S1に達するまでは、ピストン54pがいわば(受圧面積が大きい)大径ピストンとして機能することで、ペダルストロークSに対して比較的大きな勾配で踏力Fが変化し(比較的大きな踏力Fが必要になり)、ペダルストロークSがS1を超えると、ピストン54pがいわば(受圧面積が小さい)小径ピストンとして機能することで、ペダルストロークSに対して比較的小さな勾配で踏力Fが変化する(比較的小さな踏力Fで済む)ように、ブレーキ特性を適宜設定することが可能である。
このように、ファーストフィル機構5aは、運転者のブレーキ操作量(ペダルストロークSないしリリーフ圧)に応じて、ペダルストロークSに対する液量Qの変化割合を可変にする液量可変機構であると共に、ペダルストロークSに対するブレーキ操作力(踏力F)の変化割合を可変にする操作力可変機構である。
[フェールセーフ機構の作動]
実施例1のマスタシリンダ5を採用した場合、液圧制御部(電磁弁)の失陥時のフェールセーフ性能を向上することができる。すなわち、マスタシリンダ5の第3液室53は、ピストン54pのストロークXがX0未満であれば、図11及び図12に示すように補給ポート502pと吸入ポート503との連通が第4ピストンシール554により遮断されず、許容される。よって、第3液室53の圧力はリザーバ4と略同じ低圧(大気圧)である。運転者のブレーキ操作によってピストン54pがx軸正方向側にX0以上ストロークすると、第4ピストンシール554により補給ポート502pと吸入ポート503との連通が遮断される。具体的には、第3液室53において、吸入ポート503から補給ポート502pへのブレーキ液の流れが抑制される(補給ポート502pから吸入ポート503へのブレーキ液の流れのみが許容される)。このように、ピストン54pが一定以上ストロークすると吸入油路14とリザーバとの連通を遮断するため、常閉弁(第1〜第3減圧弁25〜27)の開故障時であっても、ホイルシリンダ8からリザーバ4へのブレーキ液の流れを抑制し、液圧ユニット6内にブレーキ液圧を確保することが可能となる。
例えば前左輪FLの第1減圧弁25aが開故障して閉じなくなった場合、この車輪FLのホイルシリンダ8aを含むP系統内のブレーキ液は第1減圧油路15aを介して低圧の吸入油路14に流出する。このため、このP系統のホイルシリンダ8の液圧を増圧することが困難となる。ここで、上記失陥時には、マスタシリンダ5の第1液室51からホイルシリンダ8に至る油路内の圧力が一時的に低下するため、運転者のブレーキ操作によってマスタシリンダ5のピストン54pがx軸正方向側にX0以上ストロークする。よって、第2の状態となり、第3液室53における吸入ポート503(吸入油路14p側)から補給ポート502(リザーバ4側)へのブレーキ液の流れが抑制される。よって、P系統のホイルシリンダ8内のブレーキ液が吸入油路14からリザーバ4へ流出することが抑制される。一方、マスタシリンダ5の第1液室51からはブレーキペダル2の操作に応じたマスタシリンダ液圧が各ホイルシリンダ8へ供給される。よって、ホイルシリンダ8aを含め、P系統の各ホイルシリンダ8の液圧が創生される。このように、ある第1減圧弁25aが開固着したような場合でも、ピストンストロークXがX0以上であれば、第1減圧弁25aを閉弁したときと同様の状態、すなわち吸入油路14がリザーバ4(大気圧)と連通しない状態となるため、P系統失陥とならず、踏力ブレーキを維持することができる。他の常閉弁(第2、第3減圧弁26、27)が開故障した場合も、同様のメカニズムにより、踏力ブレーキを維持することができる。
以上のように、ピストン54pの(第2小径部543と第2大径部544を有する)段付形状及び第4ピストンシール554に係る上記構成は、フェールセーフ機構を構成する。なお、失陥時、ピストンストロークXの大きさがX0以上(第2の状態)では、第4ピストンシール554よりもx軸正方向側(吸入ポート503側)における第3液室53の液圧は、少なくとも第1液室51の液圧(マスタシリンダ液圧)を超えない。このため、ポンプ7の吸入部70には吐出部71以上の圧力が作用しない。よって、ポンプ7(のシール部材等)の耐久性を維持することができる。また、非失陥時、第2の系統(ポンプ7)による各制御(倍力、回生協調、VDC、ABS)は、運転者の通常のブレーキ操作量の範囲内で行われる。このため、ピストンストロークXがX0未満(第1の状態)となり、マスタシリンダ5の吸入ポート503と補給ポート502が連通する。よって、第3液室53の圧力はリザーバ4の低圧(大気圧)と略同じとなるため、ポンプ7の吸入部70には高圧が作用しない。したがって、ポンプ7の耐久性を維持・向上できる。
[エネルギ効率の向上]
装置1は、検出されたペダルストロークSに基づき液圧ユニット6(第2ブレーキ液圧創生装置)を作動させることで、所望のブレーキ特性を実現する。言換えると、運転者のブレーキ操作力とは別のエネルギ源によりホイルシリンダ液圧を発生させることで、運転者のブレーキ操作力を低減する倍力機能を実現する。従来、運転者のブレーキ操作力とは別のエネルギ源(エンジン負圧ブースタ等)により運転者のブレーキ操作力を低減するための補助力を発生する倍力装置を備えたブレーキ装置が知られている。しかし、従来のブレーキ装置では、運転者のブレーキ操作に応じて倍力装置を常時作動させる構成であるため、エネルギの効率を向上させることに限界があった。これに対し、装置1は、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、液圧ユニット6(第2ブレーキ液圧創生装置)の作動(ポンプアップ)を抑制する。よって、倍力機能を実現しつつ、エネルギ効率を向上することができる。
また、装置1は、エンジン負圧ブースタを備えず、これとは別のエネルギ源(液圧ユニット6)によりブレーキ操作力の不足を補う。よって、電動車両へ適用しやすい。また、エンジンを備えた車両に適用する場合には燃費を向上することができる。また、ABSやVDC用の液圧ユニットは既に多くのブレーキ装置に備えられているところ、装置1は、ブレーキ操作力の不足を補うエネルギ源として、エンジン負圧ブースタをなくし、上記液圧ユニットを利用する。よって、部品点数を減らしてコストを削減できると共に、装置の構成を簡素化して車両への搭載性を向上することができる。さらに、車両の小型化や軽量化が可能となり、これにより車両のエネルギ効率の向上を図ることができる。以下、比較例を用いて具体的に説明する。
まず、エンジン負圧ブースタの代わりにブレーキ操作力の不足を補うエネルギ源として、液圧ユニットとは別に設けた手段を用いるもの(比較例2、3)との対比で、実施例1の装置1の効果を説明する。実施例1は、マスタシリンダとホイルシリンダとの間に、ポンプを含む液圧ユニット(第1のエネルギ源)を備え、この液圧ユニットからのブレーキ液供給によりホイルシリンダ液圧を発生させることで、運転者のブレーキ操作力を低減すると共に、ESC等を実現可能としたものである。そのS−P(G)特性を図14及び図15に示す。比較例2は、ブレーキペダルとマスタシリンダとの間に、負圧ポンプ(第3のエネルギ源)により生成される負圧を用いて作動する負圧ブースタを設け、この負圧ブースタ(第1のエネルギ源)によりブレーキ操作力を増幅してマスタシリンダに伝達するようにしたものである。また、マスタシリンダとホイルシリンダとの間に、ポンプを含む液圧ユニット(第2のエネルギ源)を備えて横滑り防止制御ESC等を実現可能としたものである。そのS−P(G)特性を図16に示す。比較例3は、油圧ポンプ(第2のエネルギ源)の作動により高圧(圧力エネルギ)を蓄えるアキュムレータを備えると共に、ブレーキペダルとマスタシリンダとの間に、アキュムレータ(第1のエネルギ源)の高圧を用いて作動する液圧ブースタを設け、この液圧ブースタによりブレーキ操作力を増幅してマスタシリンダに伝達するようにしたものである。また、アキュムレータ(第1のエネルギ源)からのブレーキ液供給により液圧ユニットを介してホイルシリンダ液圧を発生させることで、ESC等を実現可能としたものである。そのS−P(G)特性を図17に示す。
比較例2,3は共に、ブレーキ踏み込み後の所定のブレーキ操作領域を含む全ブレーキ操作領域で、運転者のブレーキ操作に応じて倍力装置を作動させる。すなわち、ブレーキ操作中に常時、エネルギ源(比較例2では負圧ポンプと負圧ブースタ。比較例3では油圧ポンプとアキュムレータ)を用いて要求ブレーキ液圧を発生させる。よって、エネルギ効率を向上することに限界がある。これに対し、実施例1の装置1は、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、倍力装置の作動を抑制する。すなわち、上記操作領域では、運転者のブレーキ操作力によりブレーキ液圧を発生させることで、エネルギ源(液圧ユニット6)を可及的に用いないようにする。比較的高い減速度Gが必要なときには、エネルギ源(液圧ユニット6)を用いてホイルシリンダ液圧を確保する。このように、比較的使用頻度が高いブレーキ操作領域でエネルギ源を常時用いることを抑制するため、エネルギ効率を向上することができる。
また、比較例2,3は共に、液圧ユニットのほかに、ブレーキ操作力の不足を補うエネルギ源として、負圧ポンプや負圧ブースタ(比較例2)、または油圧ポンプやアキュムレータ(比較例3)を設けている。よって、部品点数が増加してコストが上昇するおそれがあると共に、ブレーキ装置が大型化・複雑化して車両への搭載性が悪化するおそれがある。さらには、車両が大型化したり重量が増大したりするため、車両のエネルギ効率が悪化するおそれがある。これに対し、実施例1の装置1は、既に多くのブレーキ装置に備えられているABSやVDC用の液圧ユニットを、ブレーキ操作力の不足を補うエネルギ源として利用する。よって、比較例1,2のような特別なエネルギ源が不要となるため、部品点数を減らしてコストを削減できると共に、装置の構成を簡素化して車両への搭載性を向上することができる。さらには、車両の小型化や軽量化が可能となり、これにより車両のエネルギ効率の向上を図ることができる。
[液圧ユニットの作動抑制]
次に、ブレーキ操作力の不足を補うエネルギ源として、エンジン負圧ブースタの代わりに液圧ユニットを備えたもの(比較例4)との対比で、実施例1の装置1の効果を説明する。比較例4は、比較例2,3と同様、ブレーキ踏み込み後の所定のブレーキ操作領域でも液圧ユニットを作動させて要求ブレーキ液圧を実現する。このため、ブレーキ装置を作動させるエネルギの効率向上に限界がある。また、ポンプアップが頻繁に行われ、ポンプの作動頻度が高くなる。よって、ポンプの耐久性が低下するおそれがあると共に、ブレーキ装置の静粛性(音振性能)が低下するおそれがある。これに対し、実施例1の装置1は、ブレーキ踏み込み開始後の所定のブレーキ操作領域では、踏力ブレーキを用いる。よって、ポンプアップを抑制して、装置1のエネルギ効率を向上することができると共に、ポンプ7の作動を抑制し、これによりポンプ7の耐久性及び装置1の静粛性を向上することができる。具体的には、装置1は、ホイルシリンダ液圧が所定の低圧域(0<P≦P1)ないし低減速度域となるブレーキ操作領域では踏力ブレーキを用い、ホイルシリンダ液圧が所定の高圧域(P1<P)ないし高減速度域となるブレーキ操作領域ではポンプアップにより運転者の要求ブレーキ液圧を実現する。このように、発現頻度が比較的高い、ホイルシリンダ液圧が所定の低圧域となる(車両減速度が所定の低減速度域となる)ブレーキ操作領域でポンプアップを抑制することで、ポンプ7の作動頻度を大幅に抑制することができる。
本出願人がシミュレーションにより検証した結果、ブレーキ操作の全領域でポンプアップした場合に対し、上記のように所定のブレーキ操作領域で踏力ブレーキを行う場合には、以下のようにポンプ7の作動頻度(ABSやVDCによるポンプ作動を除く)が削減されることが判った。すなわち、0.2Gまで踏力ブレーキした(ポンプアップを抑制した)場合には80%弱、0.15Gまで踏力ブレーキした場合には70%弱、0.1Gまで踏力ブレーキした場合には50%強、それぞれポンプ作動頻度を削減することができる。なお、ホイルシリンダ液圧が所定の低圧域(0<P≦P1)となるブレーキ操作領域でも、回生協調制御が行われてポンプアップが行われる場合がありうる。しかし、回生協調制御において、ポンプアップを伴うのは増圧制御のみである。また、この増圧制御は、通常、回生協調制御の終了時に一時的に行われるものであり、減圧制御や保持制御ではポンプアップは行われない。よって、ポンプ7の作動頻度の増大抑制効果が回生協調制御によって損なわれるおそれはない。
なお、ホイルシリンダ液圧が所定の低圧域となるブレーキ操作領域は、実施例1では、検出されたペダルストロークSに基づき算出される目標ホイルシリンダ液圧が所定の液圧P1以下である場合としたが、液圧センサ91により検出されたマスタシリンダ液圧または液圧センサ92により検出されたホイルシリンダ液圧が所定値以下である場合や、検出されたペダルストロークSが所定値S1以下である場合、その他、車両に備えられた加速度センサ等により検出された車両減速度Gが所定値以下である場合、ブレーキペダル2の踏力Fを検出する踏力センサを備えたものにあってはその検出値が所定値以下である場合等であってもよく、特に限定しない。
ここで、ブレーキアシスト制御装置、すなわちブレーキ操作速度が緊急ブレーキを示す所定値以上となったとき等の所定のアシスト条件が成立するとポンプアップを行い、運転者のブレーキ操作を補助する装置との相違を説明する。
実施例1の装置1は、ブレーキ操作速度の如何にかかわらず(すなわち、ブレーキ操作速度が、アシスト条件を成立させる上記所定値未満であっても)、ホイルシリンダ液圧が所定の低圧域(0<P≦P1)となる、ないし車両減速度Gが所定の低減速度域となるブレーキ操作領域では踏力ブレーキを用いる。一方、ホイルシリンダ液圧が所定の高圧域(P1<P)となる、ないし車両減速度Gが所定の高減速度域となるブレーキ操作領域では、ポンプアップにより運転者の要求ブレーキ液圧を実現するものである。よって、装置1は、ポンプアップを行う条件(ないし目的及び作用効果)が上記ブレーキアシスト制御装置とは異なる。
なお、装置1において、上記所定の低減速度時であっても、踏力ブレーキを用いることを前提として、さらにポンプアップを併用してホイルシリンダ液圧Pを増圧することとしてもよい。この場合、踏力ブレーキの分だけ、要求ブレーキ液圧を実現するためにポンプ7を作動させる必要がなくなる。よって、ポンプ7の作動を抑制し、耐久性や静粛性の低下を抑制するという上記作用効果を得ることができる。この場合、図18のタイムチャートに示すように、実施例1の装置1は、車両減速度Gの応答性を向上することができる。すなわち、低減速度時(例えば時刻tが0〜0.15secの間)は、モータ回転数が上昇するまでの遅れ時間がある。このため、ポンプ(モータ)のみによりホイルシリンダ液圧を増圧する比較例4では、ホイルシリンダ液圧Pの増圧勾配(時間に対する増加率)が比較的緩やかである。これに対し、装置1では、低減速度時であっても、踏力ブレーキによりホイルシリンダ液圧を増圧する分だけ、ホイルシリンダ液圧Pの増圧勾配(時間に対する増加率)を大きくすることができる。よって、例えば急ブレーキ時であっても、車両減速度Gの応答性を向上することができる。例えば、踏力Fの速度ないしペダルストロークSの速度に応じてポンプ7(モータ60)の回転数を設定すればよく、このように容易な制御で対応が可能である。一方、上記所定の低減速度時にはポンプアップを(VDCやABS等の場合を除いて)禁止し、踏力ブレーキのみとした場合には、ポンプ7の作動をより確実に抑制し、作動抑制による上記作用効果を向上することができる。
[フェールセーフ作用]
装置1は、倍力装置として液圧ユニット6を用いるため、液圧制御部、すなわち液圧ユニット6や電源系(ECU10)が失陥した場合に備え、運転者のブレーキ操作力により最低限必要な車両の減速度を実現するフェールセーフ機構を備える。具体的には、リンク機構3ないしファーストフィル機構5aを上記フェールセーフ機構として機能させる。上記最低限必要な車両の減速度は、踏力Fの最大値をFmax(例えば200N)としたときに発生する減速度(以下、失陥時理想減速度Gf*という)であり、(エンジン負圧ブースタを備えた)比較例1がエンジン負圧ブースタの失陥時に最大踏力Fmaxで発生可能な車両減速度Gfよりも高い値(例えば0.4G)に設定する。
リンク機構3は、踏力Fに対するピストン推力Fpの変化割合を可変にする操作力可変機構であり、実施例1では、ペダルストロークSが所定値S1よりも大きい範囲にあり比較的大きい領域では、レバー比kがリンク機構3を備えない比較例1よりも大きく(具体的にはk=3〜4程度に)なるように設定されている。よって、液圧制御部(液圧ユニット6等)の失陥時にも、ペダルストロークSが所定値S1を超えると運転者のブレーキ操作力を増幅することで、失陥時理想減速度Gf*を実現することが可能になる。ファーストフィル機構5aは、ペダルストロークSに対する踏力Fの変化割合を可変にする操作力可変機構であり、ペダルストロークSがS1を超えると、ピストン54pをいわば小径ピストンとして機能させることで、比較的小さな踏力FでペダルストロークSが増大するように設定することが可能である。よって、液圧ユニット6等の失陥時にも、ペダルストロークSがS1を超えると運転者のブレーキ操作力を増幅することで、失陥時理想減速度Gf*を実現することが可能になる。
よって、図14のS−G(P)特性に示すように、装置1は、液圧ユニット6等が失陥してポンプアップ非作動時にも、最大踏力FmaxでGf*を実現することができる。例えば上記比較例2,3は、ブレーキ操作力の不足を補うエネルギ源(比較例2では負圧ポンプと負圧ブースタ。比較例3ではポンプとアキュムレータ)の失陥時に、最低限必要な車両の減速度を発生可能なフェールセーフ機構を備えていないため、失陥対策が不十分である。これに対し、実施例1の装置1は、ブレーキ操作力の不足を補うエネルギ源(液圧ユニット6)の失陥時にも、最低限必要な車両の減速度Gf*を発生可能である。なお、実施例1ではリンク機構3とファーストフィル機構5aの両方を上記フェールセーフ機構として機能させることとしたが、どちらか一方を上記フェールセーフ機構として機能させることとしてもよい(実施例2,3参照)。実施例1では、ファーストフィル機構5aとリンク機構3の両方を備えるため、失陥時理想減速度Gf*をより容易に実現することができる。
[ブレーキ操作フィーリングの向上]
液圧ユニット6等の失陥時に失陥時理想減速度Gf*を実現するためだけであれば、例えばマスタシリンダのピストンを(段付ではなく単純な)小径にして、ブレーキ操作の全領域でピストンの受圧面積(ペダル反力)が比較例1よりも小さくなるよう設定すれば足りる。または、レバー比がブレーキ操作の全領域で比較例1よりも大きな一定値(例えば2倍)になるよう、レバー比を固定値として設定すれば足りる。エンジン負圧ブースタを備えないブレーキ装置において上記対策を施したものを、比較例5とする。しかし、この比較例5では、実施例1のようにブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域でポンプアップを抑制し、踏力ブレーキを実現しようとした場合、エンジン負圧ブースタを備えた比較例1に対して、ブレーキ特性(F−S−Gの各特性)が異なってくる。これにより、ブレーキ操作フィーリングの違和感を運転者に与えるおそれがある。例えば、以下のような問題が生じる。
まず、S−G特性に関し、比較例5のようにマスタシリンダのピストンを単に小径にした場合、通常の径のピストンを用いたもの(比較例1)よりも、同じペダルストロークSに対してホイルシリンダへ供給されるブレーキ液量Qが少なくなる。このため、図14のSαに示すように、同じホイルシリンダ液圧P(車両減速度G)を実現するために必要なペダルストロークSが、比較例1よりも大きくなる。このようにS−G特性が比較例1と乖離することから、ブレーキ踏み込み直後から、ブレーキ操作フィーリングの違和感を運転者に与えるおそれがある。また、F−G特性に関し、比較例5では、最大踏力Fmaxで失陥時理想減速度Gf*を実現することは可能であっても、比較例1と同様のF−G特性を実現することが困難である。具体的には、ブレーキ踏み込み直後から、同じホイルシリンダ液圧P(車両減速度G)を実現するために必要な踏力Fが、比較例1よりも大きくなる。例えば、比較例1のエンジン負圧ブースタの倍率を5倍とすると、比較例5の(固定)レバー比を2倍、ピストンの受圧面積比を1/1.5としても、比較例1の1.67倍の踏力Fが必要となる。よって、ブレーキ踏み込み直後から、ブレーキ操作フィーリングの違和感を運転者に与えるおそれがある。また、F−G特性およびF−S特性に関し、図19、図20に示すように、エンジン負圧ブースタを備えた比較例1にあっては、ブレーキ踏み込み直後は、踏力Fがゼロから所定値Fj未満の範囲においてペダルストロークS及び減速度Gが発生しない一方、踏力Fが所定値Fjになると、ペダルストロークS及び減速度Gが発生して一気に所定量まで増大する、という特性(ジャンプイン特性)がある。これに対し、比較例5では、エンジン負圧ブースタを備えず、踏力Fが略ゼロのときから、踏力Fの増大に応じてペダルストロークS及び減速度Gが徐々に増大する特性を有する。このため、上記ジャンプイン特性を模倣できない。すなわち、踏力Fjの近傍でペダルストロークS及び減速度Gが略ゼロから急激に増大し、その後は踏力Fに応じて緩やかに増大するという比較例1の特性を実現することができず、これによりブレーキ操作フィーリングの違和感を運転者に与えるおそれがある。
これらのブレーキ操作フィーリングの違和感を低減するために、例えば、ブレーキ踏み込み直後から液圧ユニットを作動させてポンプアップを行うと、上記のようにポンプの作動頻度が高くなってしまう。すなわち、比較例5において、失陥時理想減速度Gf*を実現することを前提としつつ、ポンプの作動頻度を低減することとブレーキ操作フィーリングの違和感を低減することとは、トレードオフの関係にある。これに対し、実施例1の装置1は、液圧可変機構、液量可変機構、ないし操作力可変機構としての、リンク機構3及びファーストフィル機構5aを備える。よって、ブレーキ踏み込み後の所定のブレーキ操作領域と、それ以外のブレーキ操作領域とで、ブレーキ特性を任意に変えることができる。したがって、失陥時理想減速度Gf*を実現しつつ、踏力ブレーキを行う上記所定のブレーキ操作領域ではブレーキ操作フィーリングの違和感を低減することができるため、上記トレードオフを解消することができる。
具体的には、上記S−G特性に関する問題に対し、実施例1の装置1は、ピストン54pを段付形状としたファーストフィル機構5aを設けた。すなわち、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、ピストン54pは受圧面積が大きい大径ピストンとして機能する。よって、図13に示すように、ペダルストロークSが比較的小さい(ホイルシリンダ液圧PがP1未満である)ときは、ペダルストロークSに対する液量Qの増大勾配が大きくなる。ここで、ホイルシリンダ液圧Pは液量Qに応じて増大する。したがって、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、S−G特性において、同じホイルシリンダ液圧P(車両減速度G)を実現するために必要なペダルストロークSを、比較例1に近づけることが可能となる。すなわち、図14に示すように、ペダルストロークSが0からS1までの範囲では、Sαが小さくなり、同じホイルシリンダ液圧P(車両減速度G)を実現するために必要なペダルストロークSが、比較例1に近づく。よって、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域で、ブレーキ操作フィーリングの違和感を抑制することができる。
また、上記F−G特性に関する問題に対し、実施例1の装置1は、リンク機構3のレバー比kを可変としたため、上記ブレーキ操作フィーリングの違和感を低減することが可能である。すなわち、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、他の操作領域よりもレバー比kを大きく設定する。よって、図10に示すように、ペダルストロークSが比較的小さい(液圧PがP1未満である)ときは、踏力Fに対する液圧Pの増大勾配が大きくなる。したがって、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、F−G特性において、同じホイルシリンダ液圧P(車両減速度G)を実現するために必要な踏力Fを、比較例1に近づけることが可能となる。また、ファーストフィル機構5aにより、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、ピストン54pは受圧面積が大きい大径ピストンとして機能する。よって、ピストンストロークXが比較的小さいときは、ピストンストロークXに対する液量Qの増大勾配が大きくなる。したがって、ペダルストロークSに関わらず踏力Fに対するピストンストロークXの変化割合が同じであれば、踏力Fに対する液量Qの増大勾配も大きくなって、F−G特性において、同じホイルシリンダ液圧P(車両減速度G)を実現するために必要な踏力Fを、比較例1に近づけることが可能となる。なお、ペダルストロークSが比較的小さいとき、ピストン54pの受圧面積が大きいと、踏力Fに対するピストンストロークXの増大勾配が抑制されるおそれがある。しかし、実施例1では、ファーストフィル機構5aに加えてリンク機構3を設けている。よって、ペダルストロークSが比較的小さいとき、ピストン54pの受圧面積が大きくても、リンク機構3のレバー比kを大きく設定することで、踏力Fに対するピストン推力Fpを増大させ、踏力Fに対するピストンストロークXの増大勾配を維持することが可能となる。したがって、より効果的に、F−G特性を比較例1に近づけることができる。より具体的には、実施例1では、図20に示すように、ピストン54pの受圧面積ないしリンク機構3のレバー比kを調整することで、踏力がFjからF1までの範囲での踏力Fに対する減速度Gの変化割合(傾き)を比較例1に近づける。加えて、マスタシリンダ5の無効踏力(実際にペダルストロークSないし減速度Gがゼロを超えて発生し始める踏力の大きさ)Foを調整することで、踏力Fに対して実際に発生する減速度Gの大きさを比較例1に近づける。
なお、ブレーキ操作量(ペダルストロークS等)が比較的大きいときは、ポンプアップによりホイルシリンダ液圧Pを発生させるため、踏力ブレーキにおける操作フィーリングに関する上記問題は生じない。よって、最大踏力Fmaxで失陥時理想減速度Gf*を実現することができさえすれば、レバー比kを任意に設定可能である。したがって、ブレーキ操作量が比較的大きいときは、ブレーキ操作量が小さいときよりも、レバー比kが小さくなるようにリンク機構3を設定することで、ペダルストロークSが過度に大きくなることを抑制することができる。
実施例1では、図19に示すように、最大踏力Fmax200Nで失陥時理想減速度Gf*を実現するときのペダルストロークSの値が70mm以内に収まるように設定している。
また、上記F−S特性に関する問題に対し、実施例1の装置1は、リンク機構3のレバー比kを可変としたため、上記ブレーキ操作フィーリングの違和感を低減することが可能である。すなわち、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、他の操作領域よりもレバー比kを大きく設定する。よって、図19に示すように、ペダルストロークSが比較的小さいときは、踏力Fに対するペダルストロークSの増大勾配が大きくなる。したがって、比較例1のジャンプイン特性を模擬することが可能となる。また、ファーストフィル機構5aのリリーフ圧の設定等により、踏力Fに対するペダルストロークSの変化割合(傾き)が変化する変曲点(F1)を調整することで、F−S特性を、ジャンプイン後の比較例1の特性に近づけることができる。さらに、マスタシリンダ5の無効踏力Foの大きさを調整することで、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域におけるF−S特性を、全体として、より効果的に比較例1に近づけることができる。
以上の構成により、実施例1では、失陥時理想減速度Gf*(Fmax=200Nで0.4G)をなるべくショートストロークで(ペダルストロークSが70mm以内で)達成しつつ、減速度Gが比較的小さい(0.1〜0.2G程度)領域、すなわちブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域では、F−S−Gの関係特性がエンジン負圧ブースタ付きの比較例1に近似するように模擬する。装置1が搭載される車種が異なっても、例えば以下のようにして、車種違いに対応させることができる。すなわち、軽量車から中・重量車まで対応可能な、小径の(第1小径部541の受圧面積が通常のマスタシリンダピストンよりも小さい)ファーストフィル機構5aにしておく。そして、車両諸元や踏力ブレーキ目標に基づき、リンク機構3のレバー比kやファーストフィル機構5aのリリーフ圧やマスタシリンダ5の無効踏力Foを調整することで、搭載される車種に応じた(エンジン負圧ブースタを備えた場合の)ブレーキ特性を模擬することができる。例えばリンク機構3(レバー比)のみを設計変更するだけで車種違いに対応させるようにすれば、装置1の搭載性を向上することができる。
なお、F−S−Gのブレーキ特性を調整する具体的な手段は、失陥時理想減速度Gf*を実現しつつ、ブレーキ特性を部分的にでも比較例1に近づけてブレーキ操作フィーリングの違和感を低減することができるものであればよく、実施例1のものに限らない。例えば、レバー比kやピストン54の受圧面積やリリーフ圧や無効踏力Foの具体的な設定方法は、実施例のものに限らない。また、ファーストフィル機構5aのみ、又はリンク機構3のみによりブレーキ特性を調整することとしてもよい(実施例2,3参照)。実施例1では、ファーストフィル機構5aとリンク機構3の両方を備えるため、ブレーキ特性をより容易に調整することができる。
[液圧ユニットによる作用]
装置1は、ペダルストロークSがS1を超えるブレーキ操作領域でも、液圧制御部により所望のブレーキ液圧を発生させることで、比較例1と同様のブレーキ特性を実現することが可能である。ここで、液圧制御部の構成は実施例1のものに限られない。実施例1の液圧制御部を採用した場合、更に以下の作用効果を奏する。以下、ブレーキ操作に応じてマスタシリンダM/Cの圧力室RからホイルシリンダW/Cへブレーキ液を供給しホイルシリンダW/Cを増圧可能な油路を油路Aとし、ブレーキ液源としてのリザーバRESから液圧発生源としてのポンプPへブレーキ液を供給可能な油路を油路Bとし、ホイルシリンダW/CからリザーバRESへブレーキ液を戻してホイルシリンダW/Cを減圧可能な油路を油路Cとする。マスタシリンダM/Cを液圧源とするブレーキ系統(油路A)は第1の系統を構成し、ポンプPを液圧源とするブレーキ系統(油路B)は第2の系統を構成する。
実施例1の液圧ユニット6では、油路B,C(油路14,15)が圧力室R(第1液室51)を介さずにリザーバ4に接続されているため、ポンプ7と各弁を制御することで任意のホイルシリンダ液圧を得つつ、ブレーキ操作フィーリングの悪化を抑制することが可能である。すなわち、第1、第2ブレーキ液圧創生装置毎に系統(油路Aと油路B,C)を分けたことで、制御性を向上することができる。例えば、回生制動装置が作動しているとき、回生制動力に応じて第2の系統(第2ブレーキ液圧創生装置)によりホイルシリンダ液圧を創生することで、第2の系統でブレーキバイワイヤBBW的にブレーキ制御できる。このため、高効率な回生ブレーキ制御を実現することができる。このとき、ホイルシリンダ液圧の増減圧時にブレーキ液がマスタシリンダ5の同じ圧力室R(第1液室51)から出入りしないため、液圧ユニット6の作動時のペダルフィーリング悪化を抑制することができる。
具体的には、液圧ユニット6は、マスタシリンダ5の吸入ポート503(又はリザーバ4)とポンプ7や第1〜第3減圧弁25〜27の低圧側(例えばポンプ吸入部70)とを直接接続する吸入油路14を備える。このように、吸入ポート503と各低圧側とを、内部リザーバ等(液圧ユニット内の容積室ないしブレーキ液貯留室)を介さずに直接接続することから、内部リザーバ等を省略でき、装置1(液圧ユニット6)の大型化の抑制及び部品レイアウト性の向上を図ることができる。また、ポンプ7の吸入抵抗の低減を図ることもできる。マスタシリンダ5には、リザーバ4とポンプ吸入部70とを連通する油路として、第3液室53が設けられている。第3液室53はプライマリ側及びセカンダリ側の第1液室51と隔離されている。よって、ペダルフィーリング悪化を抑制することができる。
液圧ユニット6は、ポンプ7と、ポンプ7の吐出部71とマスタシリンダ5の吐出ポート501を接続する第1油路11と、第1油路11に設けられた遮断弁21と、第1油路11におけるポンプ吐出部71と遮断弁21の間から分岐してホイルシリンダ8と接続する第2油路12と、第2油路12に設けられた増圧弁22と、第2油路12と吸入油路14を接続する第1減圧油路15と、第1減圧油路15に設けられた第1減圧弁25と、を備える。このように、既存のABS用ないしVDC用のシステムを小変更することで液圧ユニット6を構成できる。
マスタシリンダ5の吐出ポート501と増圧弁22との間に遮断弁21を設けているため、マスタシリンダ5の第1液室51をポンプ7の吐出側から遮断することができる。よって、液圧ユニット6の作動時のペダルフィーリングの悪化を抑制することができる。すなわち、液圧ユニット6の作動時、遮断弁21により第1油路11が遮断されると、第1液室51からホイルシリンダ8へのブレーキ液供給が抑制され、ブレーキペダル2の反力が確保されやすくなる。また、ポンプ7の吐出圧がマスタシリンダ5の第1液室51に伝達することが抑制される。よって、ブレーキペダル2に振動が発生して運転者に不快感を与えることが抑制される。
また、液圧ユニット6は、第1油路11におけるポンプ吐出部71と遮断弁21の間から分岐して吸入油路14と接続する第3減圧油路17と、第3減圧油路17に設けられた第3減圧弁27と、を備える。すなわち、遮断弁21と増圧弁22との間に第3減圧油路17および第3減圧弁27を設け、吸入油路14を介して第3減圧油路17をマスタシリンダ5の吸入ポート503に接続することで、第1、第2ブレーキ液圧創生装置毎に系統(油路Aと油路B,C)を分けた。例えば、マスタシリンダ5、又は液圧制御部によりホイルシリンダ液圧を発生させているとき、回生制動装置による制動力増加に伴って、液圧制御部はホイルシリンダ液圧を減圧する回生協調機能を備え、この回生協調機能は、遮断弁21を閉弁方向に制御し、増圧弁22を開弁方向に制御し、第3減圧弁27を開弁方向に制御し、ポンプ7を停止する。このように、マスタシリンダ5と液圧制御部(液圧ユニット6)を切り分けることで、制御性およびペダルフィーリングを向上することができる。ここで、第3減圧弁27は比例制御弁である。このように比例制御弁を使うことで、制御範囲を拡大することができる。
なお、第3減圧油路17または吸入油路14を吸入ポート503と接続するのではなく、リザーバ4に直接接続することとしてもよい。実施例1では第3減圧油路17および吸入油路14を吸入ポート503と接続したため、ブレーキ配管を簡素化できる。また、常閉弁(第3減圧弁27等)の失陥(開故障)時にも、上記のように、ピストン54pの(第2小径部543と第2大径部544を有する)段付形状に係るフェールセーフ機構により、踏力ブレーキを維持することができる。なお、P系統だけでなくS系統にも第3減圧油路17および第3減圧弁27を設けてもよい。実施例1では、連通弁23を設けると共に、S系統の第3減圧油路17および第3減圧弁27を省略したため、液圧ユニット6を簡略な構成とし、装置1の小型化・軽量化を図ることができる。
液圧ユニット6では、遮断弁21を閉弁してマスタシリンダ5とホイルシリンダ8との連通を遮断し、マスタシリンダ液圧とホイルシリンダ液圧とを独立して制御することが可能に設けられている。このため、ポンプアップ時にもブレーキ特性を任意に設定することが容易となる。例えば、液圧ユニット6は、第1油路11における吐出ポート501と遮断弁21の間から分岐して吸入油路14と接続する第2減圧油路16と、第2減圧油路16に設けられた第2減圧弁26と、を備える。すなわち、マスタシリンダ5の吐出ポート501と遮断弁21との間の第1油路11と、リザーバ4側(吸入油路14)とを接続する第2減圧油路16が設けられ、この第2減圧油路16上にストロークシミュレータ弁としての第2減圧弁26が設けられている。遮断弁21を閉弁方向に制御し、第2減圧弁26を開弁方向に制御することで、マスタシリンダ5で創生される液圧と液圧制御部(液圧ユニット6)で創生される液圧とを分離することができる。よって、マスタシリンダ5と液圧制御部(液圧ユニット6)のそれぞれが同時に作動しても相互干渉せず、かつ、運転者が違和感なくブレーキペダル2を操作できる。また、回生協調制御中は、運転者のブレーキ操作に関係なく、下流側でホイルシリンダ液圧を制御できる。
具体的には、遮断弁21を閉弁方向に制御したときでも、第2減圧弁26を開弁方向に制御(比例制御弁を用いた場合は開弁量を制御)することで、マスタシリンダ5の第1液室51p内のブレーキ液は、第2減圧油路16を介して吸入油路14(ポンプ7の吸入側またはマスタシリンダ5の第3液室53ないしリザーバ4)に流出することが可能になる。よって、遮断弁21を閉弁方向に制御することによるブレーキペダル2の板踏み感を抑制することができる。第2減圧弁26の開弁量を調整することで上記流出量(すなわち第1液室51pの液圧)を調整できる。また、ペダルストロークSに応じた反力をマスタシリンダ5のコイルスプリング561,562により発生することができる。言い換えると、コイルスプリング561,562と第2減圧油路16および第2減圧弁27によりストロークシミュレータが構成され、これにより液圧ユニット6の作動時のペダルフィーリングを任意に作ることができる。装置1は、ペダルストロークSがS1を超えたとき、遮断弁21を閉弁してマスタシリンダ5とホイルシリンダ8との連通を遮断した状態で、検出されたペダルストロークSに基づき第2減圧弁26等を制御することにより、マスタシリンダ液圧を制御する。これにより、F−S特性を調整することができる。具体的には、ブレーキ特性が比較例1に近づくよう調整する。
なお、第3減圧油路17と同様、第2減圧油路16を吸入ポート503と接続するのではなく、リザーバ4に直接接続することとしてもよい。また、P系統だけでなくS系統にも第2減圧油路16および第2減圧弁26を設けてもよい。
また、第2減圧弁26および第2減圧油路16を設ける代わりに、またはこれらを設けると共に、第2ブレーキ液圧創生装置(第2の系統)によりホイルシリンダ液圧を発生させているとき、マスタシリンダ5側の液圧(液圧センサ91の検出値)とポンプ吐出側の液圧(液圧センサ92の検出値)との差が所望の値となるように遮断弁21の開閉(通電量)を制御することとしてもよい。この場合、マスタシリンダ5側の液圧を制御してピストン54のストロークや反力を調整することで、ブレーキペダル2の操作フィーリングを向上することが可能となる。
[実施例1の効果]
以下、実施例1のブレーキ装置1が奏する効果を列挙する。
(1)運転者のブレーキ操作に伴って液圧を発生させるマスタシリンダ5と、エネルギ源(液圧ユニット6)により運転者のブレーキ操作力を低減する倍力装置(第2ブレーキ液圧創生装置)と、を備え、所定のブレーキ操作領域では、倍力装置の作動を抑制する。
よって、倍力機能を実現しつつ、エネルギ効率を向上することができる。
(2)倍力装置(第2ブレーキ液圧創生装置)は、エンジン負圧ブースタを備えず、これとは別のエネルギ源(液圧ユニット6)によりブレーキ操作力を低減する。
よって、電動車両へ適用しやすい。また、エンジンを備えた車両に適用する場合には燃費を向上することができる。
(3)上記エネルギ源は液圧ユニット6である。
よって、部品点数を減らしてコストを削減できると共に、装置の構成を簡素化して車両への搭載性を向上することができる。
(4)液圧ユニット6は、車輪に設けられたホイルシリンダ8に向けてブレーキ液を吐出するポンプ7を含む。
よって、ポンプ7の作動頻度を抑制し、これによりポンプ7の耐久性及び装置1の静粛性を向上することができる。
(5)具体的には、運転者によるブレーキ操作に伴って液圧を発生させるマスタシリンダ5と、ブレーキ操作量(ペダルストロークS)を検出するブレーキ操作量検出部101と、マスタシリンダ5内にブレーキ液を供給可能なリザーバ4と、マスタシリンダ5又はリザーバ4内のブレーキ液を吸入し、車輪に設けられたホイルシリンダ8に向けて吐出するポンプ7と、ブレーキ操作量検出部101によって検出されたブレーキ操作量に応じてポンプ7及び電磁弁(遮断弁21等)を作動させてホイルシリンダ8の液圧を制御する液圧制御部(液圧ユニット6、ECU10)と、を備え、所定のブレーキ操作領域では、マスタシリンダ5が発生する液圧によりホイルシリンダ液圧を創生する。
よって、上記(4)と同様の効果を得ることができる。
(6)上記所定のブレーキ操作領域は、ブレーキ操作開始後の所定のブレーキ操作領域である。
このように、比較的使用頻度が高いブレーキ操作領域でエネルギ源を常時用いることを抑制するため、エネルギ効率を効果的に向上することができる。また、比較的使用頻度が高いブレーキ操作領域でポンプ7が常時作動することを抑制するため、ポンプ7の耐久性及び装置1の静粛性を効果的に向上することができる。
(7)ブレーキ操作量検出部101で運転者のブレーキ操作の開始が検出されると、マスタシリンダ5によりホイルシリンダ液圧を創生する。
このように、ブレーキ操作の開始直後から、制動初期の低圧域をマスタシリンダ5で加圧することで、ポンプ7の作動頻度を大幅に少なくし、耐久性低下を抑えることができると共に、音振性能の悪化も抑制できる。
(8)ブレーキ操作量検出部101で検出されたブレーキ操作量(ペダルストロークS)に基づいて目標ホイルシリンダ液圧を算出する目標ホイルシリンダ液圧算出部102を備え、算出された目標ホイルシリンダ液圧が所定の液圧P1よりも高い場合に、ポンプ7及び液圧制御部によってホイルシリンダ液圧を創生する。
このように、目標液圧が高い場合に限りポンプ7を駆動するため、ポンプ7の耐久性等の向上を図ることができる。
(9)運転者のブレーキ操作量(ペダルストロークS、踏力F、ないしリリーフ圧)に応じて、ブレーキ操作力(踏力F)に対するマスタシリンダ5のピストン54pの推進力(ピストン推力Fp)の変化割合(レバー比k)、またはブレーキ操作部材の変位量(ペダルストロークS)に対するブレーキ操作力(踏力F)の変化割合を可変にする操作力可変機構(リンク機構3またはファーストフィル機構5a)を備える。
よって、液圧制御部の失陥時でも、運転者のブレーキ操作力により最低限必要な車両の減速度を実現するブレーキ液圧を発生させることができる。よって、装置1の信頼性を向上することができる。また、上記所定のブレーキ操作領域で、踏力ブレーキの特性を調整し、ブレーキ操作フィーリングの違和感を抑制することができる。
(10)運転者のブレーキ操作量(ペダルストロークSないしリリーフ圧)に応じて、ブレーキ操作部材の変位量(ペダルストロークS)に対する、マスタシリンダ5からホイルシリンダ8に向けて供給されるブレーキ液量Qの変化割合を可変にする液量可変機構(ファーストフィル機構5a)を備える。
よって、上記所定のブレーキ操作領域で、踏力ブレーキの特性を調整し、ブレーキ操作フィーリングの違和感を抑制することができる。
(11)運転者のブレーキ操作量(ペダルストロークSないし踏力F)に応じて、ブレーキ操作力(踏力F)に対する、マスタシリンダ5からホイルシリンダ8に向けて供給されるブレーキ液圧Pの変化割合を可変にする液圧可変機構(リンク機構3)を備える。
よって、上記所定のブレーキ操作領域で、踏力ブレーキの特性を調整し、ブレーキ操作フィーリングの違和感を抑制することができる。
[実施例2]
実施例2は、装置1がリンク機構3を備えない点で、実施例1と相違する。図21は、実施例2の装置1の概略構成を示す図である。実施例1と異なり、プッシュロッド30のx軸負方向端部はブレーキペダル2の根元部に連結されており、レバー比は固定である。他の構成は実施例1と同様であるため、説明を省略する。装置1は実施例1と同様のファーストフィル機構5aを備え、運転者のブレーキ操作量(ペダルストロークS)に対する液量Qの変化割合、ないしペダルストロークSに対するブレーキ操作力(踏力F)の変化割合を可変にする。よって、実施例1と同様の作用により、ポンプアップを抑制することでエネルギ効率やポンプ7の耐久性等を向上できるだけでなく、失陥時には理想減速度Gf*を実現してフェールセールを達成しつつ、踏力ブレーキ時にはブレーキ操作フィーリングの違和感を低減することができる。例えば、装置1を車重の比較的軽い車両(軽自動車等)に搭載する場合、リンク機構3を備えずとも、ファーストフィル機構5aにより失陥時理想減速度Gf*を実現することが容易である。
[実施例3]
実施例3は、装置1がファーストフィル機構5aを備えない点で、実施例1と相違する。図22は、実施例3の装置1の概略構成を示す図である。実施例1と異なり、マスタシリンダ5のピストン54pには第1大径部542が設けられていない。また、シリンダ50には第3ピストンシール553が備えられておらず、第2液室52が画成されていない。さらに、リリーフ油路18およびリリーフ弁28が設けられていない。他の構成は実施例1と同様であるため、説明を省略する。装置1は実施例1と同様のリンク機構3を備え、運転者のブレーキ操作力(踏力F)に対するピストン推力Fpの変化割合、ないし踏力Fに対する液圧Pの変化割合を可変にする。よって、実施例1と同様の作用により、ポンプアップを抑制することでエネルギ効率やポンプ7の耐久性等を向上できるだけでなく、失陥時には理想減速度Gf*を実現してフェールセールを達成しつつ、踏力ブレーキ時にはブレーキ操作フィーリングの違和感を低減することができる。
なお、装置1を搭載する車種に応じて、上記各効果のうち、ポンプアップを抑制せず、フェールセールを達成するようにしてもよい。例えば、装置1を車重の比較的重い車両に搭載する場合、リンク機構3のレバー比kを、ブレーキ踏込み前半には比較的小さく、ブレーキ踏込み後半には比較的大きくなるように設定する。この場合、車重が比較的重いため、ブレーキ踏込み前半には、ポンプアップにより運転者のブレーキ操作負担を軽減することができ、また、液圧ユニット6を制御することでブレーキ操作フィーリングを適宜調整することも可能である。一方、ブレーキ踏込み後半にはレバー比が大きくなることで、液圧制御部(電源系や液圧ユニット6)が失陥したときでも、理想減速度Gf*を実現してフェールセールを達成することができる。例えば上記比較例2,3は、ブレーキ操作力の不足を補うエネルギ源の失陥時に、最低限必要な車両減速度を発生可能なフェールセーフ機構を備えていないため、失陥対策が不十分である。これに対し、実施例2の装置1は、上記のように、エネルギ源(液圧ユニット6)の失陥時にも、最低限必要な車両の減速度Gf*を発生可能である。
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成はこれらの実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、装置1は、エンジンを備えた車両に適用した場合に、エンジン負圧ブースタを備えることとしてもよい。この場合、(液圧制御部に加えて)エンジン負圧ブースタが失陥したとき、実施例と同様の構成及び作用により、失陥時理想減速度Gf*を実現することができる。また、小型のエンジン負圧ブースタを備えることとした場合には、実施例と同様の構成及び作用により、(通常サイズのエンジン負圧ブースタを備えた)比較例1と同様のブレーキ操作フィーリングを実現することが可能である。
液圧ユニット6の形式は実施例のものに限らない。例えば、1つのポンプを両系統で共用するのではなく、ポンプを各系統に設けてもよい。また、ポンプ7は外接歯車式に限らず、例えば内接歯車式であってもよい。また、ギヤポンプに限らず、例えばプランジャポンプであってもよい。
マスタシリンダ5の形式は実施例のものに限らない。例えば、実施例1ではファーストフィル機構5aや第3液室53(吸入ポート503)をプライマリ側に設けたが、プライマリ側に加えて、又はプライマリ側に代えて、セカンダリ側にファーストフィル機構5aや第3液室53(吸入ポート503)を設けてもよい。
ファーストフィル機構5aのリリーフ弁28を、マスタシリンダ5側でなく、液圧ユニット6側に配置することとしてもよい。
以下に、実施例から把握される、特許請求の範囲に記載した以外の発明を列挙する。
(A4)前記液圧制御部は、
前記ポンプと、
前記ポンプの吐出部と前記マスタシリンダの吐出ポートを接続する第1油路と、
前記第1油路に設けられた遮断弁と、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁の間から分岐して前記ホイルシリンダと接続する第2油路と、
前記第2油路に設けられた増圧弁と、
前記マスタシリンダ又は前記リザーバの吸入ポートと前記ポンプの吸入部を接続する吸入油路と、
前記第2油路と前記吸入油路を接続する第1減圧油路と、
前記第1減圧油路に設けられた第1減圧弁と、
前記第1油路の前記マスタシリンダの吐出ポートと前記遮断弁の間から分岐して前記吸入油路と接続する第2減圧油路と、
前記第2減圧油路に設けられた第2減圧弁と、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁との間から分岐して前記吸入油路と接続する第3減圧油路と、
前記第3減圧油路に設けられた第3減圧弁と、
を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
よって、既存のシステムからの小変更で液圧制御部を構成することが可能である。
(A5)前記液圧制御部は、前記マスタシリンダ又は前記リザーバの吸入ポートと前記ポンプの吸入部を直接接続する吸入油路を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
よって、内部リザーバを介さずに直接接続することで前記液圧制御部の大型化を抑制でき、ポンプの吸入抵抗の低減にもつながる。
(A6)上記(A5)に記載のブレーキ装置において、
前記液圧制御部は、
前記ポンプと、
前記ポンプの吐出部と前記マスタシリンダの吐出ポートとを接続する第1油路に設けられた遮断弁と、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁の間から分岐して前記ホイルシリンダと接続する第2油路と、
前記第2油路に設けられた増圧弁と、
前記第2油路と前記吸入油路を接続する第1減圧油路と、
前記第1減圧油路に設けられた第1減圧弁と、を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
よって、既存のシステムからの小変更で液圧制御部を構成することが可能である。
(A7)上記(A6)に記載のブレーキ装置において、
前記液圧制御部は、
前記第1油路の前記マスタシリンダの吐出ポートと前記遮断弁の間から分岐して前記吸入油路と接続する第2減圧油路と、
前記減圧油路2に設けられた第2減圧弁と、を備え、
前記遮断弁を閉弁方向に制御し、前記第2減圧弁を開弁方向に制御することで、前記マスタシリンダで創生される液圧と前記液圧制御部で創生される液圧とを分離することを特徴とするブレーキ装置。
よって、マスタシリンダと液圧制御部のそれぞれが同時に作動しても相互干渉せず、かつ、運転者が違和感なくブレーキペダルを操作できる。
(A8)上記(A6)に記載のブレーキ装置において、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁との間から分岐して前記吸入油路と接続する第3減圧油路を設け、
前記第3減圧油路に比例制御弁を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
よって、比例制御弁を使うことで制御範囲を拡大することができる。
(A9)上記(A6)に記載のブレーキ装置において、
前記液圧制御部は、前記遮断弁を閉弁方向に制御し、前記増圧弁を開弁方向に制御し、前記第1減圧弁を閉弁方向に制御し、前記ポンプを駆動する増圧制御を実行することを特徴とするブレーキ装置。
よって、容易な制御で増圧制御を実施できる。
(A10)上記(A8)に記載のブレーキ装置において、
前記液圧制御部は、前記遮断弁を閉弁方向に制御し、前記増圧弁を開弁方向に制御し、前記第3減圧弁を開弁方向に制御し、前記ポンプを停止する減圧制御を実行することを特徴とするブレーキ装置。
よって、容易な制御で減圧制御を実施できる。
(B1)回生制動装置を備えた車両に用いられるブレーキ装置であって、
運転者によるブレーキペダル操作に伴ってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダル操作量検出部と、
前記マスタシリンダ内にブレーキ液を供給可能なリザーバと、
前記マスタシリンダ又は前記リザーバ内のブレーキ液を吸入し、車輪に設けられたホイルシリンダに向けて吐出するポンプと、
前記ブレーキペダル操作量検出部によって検出されたブレーキペダル操作量に応じて前記ポンプ及び電磁弁を作動させて前記ホイルシリンダの液圧を制御する液圧制御部と、を備え、
運転者によるブレーキペダル操作の開始後の所定のブレーキペダル操作領域では、前記マスタシリンダが発生する液圧により前記ホイルシリンダの液圧を創生し、
前記回生制動装置が作動しているときは前記液圧制御部によりホイルシリンダ液圧を創生することを特徴とするブレーキ装置。
このようにマスタシリンダと液圧制御部を切り分けることで、制御性やペダルフィーリングを向上することができる。
(B2)上記(B1)に記載のブレーキ装置において、
前記液圧制御部は、
前記ポンプと、
前記ポンプの吐出部と前記マスタシリンダの吐出ポートを接続する第1油路と、
前記第1油路に設けられた遮断弁と、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁の間から分岐して前記ホイルシリンダと接続する第2油路と、
前記第2油路に設けられた増圧弁と、
前記マスタシリンダ又は前記リザーバの吸入ポートと前記ポンプの吸入部を接続する吸入油路と、
前記第2油路と前記吸入油路を接続する第1減圧油路と、
前記第1減圧油路に設けられた第1減圧弁と、
前記第1油路の前記マスタシリンダの吐出ポートと前記遮断弁の間から分岐して前記吸入油路と接続する第2減圧油路と、
前記第2減圧油路に設けられた第2減圧弁と、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁との間から分岐して前記吸入油路と接続する第3減圧油路と、
前記第3減圧油路に設けられた第3減圧弁と、を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
よって、既存のシステムからの小変更で液圧制御部を構成することが可能である。
(B3)上記(B2)に記載のブレーキ装置において、
前記マスタシリンダ、又は前記液圧制御部によりホイルシリンダ液圧を発生させているとき、前記回生制動装置による制動力増加に伴って、前記液圧制御部は前記ホイルシリンダ液圧を減圧する回生協調機能を備え、
前記回生協調機能は、前記遮断弁を閉弁方向に制御し、前記増圧弁を開弁方向に制御し、前記第3減圧弁を開弁方向に制御することを特徴とするブレーキ装置。
このようにマスタシリンダと液圧制御部を切り分けることで、制御性やペダルフィーリングを向上することができる。
(B4)上記(B2)に記載のブレーキ装置において、
前記遮断弁を閉弁方向に制御し、前記第2減圧弁を開弁方向に制御することで、前記マスタシリンダで創生される液圧と前記液圧制御部で創生される液圧とを分離することを特徴とするブレーキ装置。
よって、マスタシリンダと液圧制御部のそれぞれが同時に作動しても相互干渉せず、かつ、運転者が違和感なくブレーキペダルを操作できる。回生協調中は運転者のブレーキペダル操作に関係なく、下流側でホイルシリンダ液圧を制御できる。
(C1)運転者のブレーキペダル操作に伴ってピストンが変位することでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、
前記マスタシリンダに対し一体的に接続され、運転者のブレーキペダル操作量に応じて、運転者のブレーキペダル操作力に対する前記ピストンの推進力の変化割合、または前記ブレーキペダルの変位量に対する前記ブレーキペダル操作力の変化割合を可変にする操作力可変機構と、を備え、
前記マスタシリンダと車輪に設けられたホイルシリンダの間に前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間の油路にブレーキ液圧を発生させて前記ホイルシリンダの液圧を創生するポンプを設けたことを特徴とするブレーキ装置。
よって、少ないブレーキペダル操作力で高いブレーキ液圧を発生できるため、ポンプを作動させなくても十分な制動力が得られる。また、失陥時の信頼性が高められる。
(C2)上記(C1)に記載のブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダル操作量検出部を備え、
前記ブレーキペダル操作量検出部で運転者のブレーキ操作の開始が検出されると、前記マスタシリンダによりホイルシリンダ液圧を創生することを特徴とするブレーキ装置。
よって、制動初期の低圧域をマスタシリンダで加圧することで、ポンプの作動頻度を少なくできるため、耐久性低下を抑えることができると共に、音振性能の悪化も抑制できる。
(C3)上記(C2)に記載のブレーキ装置において、
前記ブレーキペダル操作量検出部で検出されたブレーキペダル操作量に基づいて目標ホイルシリンダ液圧を算出する目標ホイルシリンダ液圧算出部を備え、
前記算出された目標ホイルシリンダ液圧が所定の液圧よりも高い場合に、前記ポンプ及び前記液圧制御部によってホイルシリンダ液圧を創生することを特徴とするブレーキ装置。
よって、目標液圧が高い場合にのみポンプを駆動するため耐久性向上が図れる。
(C4)上記(C1)に記載のブレーキ装置において、
前記ポンプの吐出部と前記マスタシリンダの吐出ポートを接続する第1油路と、
前記第1油路に設けられた遮断弁と、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁の間から分岐して前記ホイルシリンダと接続する第2油路と、
前記第2油路に設けられた増圧弁と、
前記マスタシリンダ又は前記リザーバの吸入ポートと前記ポンプの吸入部を接続する吸入油路と、
前記第2油路と前記吸入油路を接続する第1減圧油路と、
前記第1減圧油路に設けられた第1減圧弁と、
前記第1油路の前記マスタシリンダの吐出ポートと前記遮断弁の間から分岐して前記吸入油路と接続する第2減圧油路と、
前記第2減圧油路に設けられた第2減圧弁と、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁との間から分岐して前記吸入油路と接続する第3減圧油路と、
前記第3減圧油路に設けられた第3減圧弁と、を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
よって、既存のシステムからの小変更で液圧制御部を構成することが可能である。
(C5)上記(C4)に記載のブレーキ装置において、
前記遮断弁を閉弁方向に制御し、前記第2減圧弁を開弁方向に制御することで、前記マスタシリンダで創生される液圧と前記ポンプで創生される液圧とを分離することを特徴とするブレーキ装置。
よって、マスタシリンダと液圧制御部のそれぞれが同時に作動しても相互干渉せず、かつ、運転者が違和感なくブレーキペダルを操作できる。回生協調中は運転者のブレーキペダル操作に関係なく、下流側でホイルシリンダ液圧を制御できる。
(C6)上記(C4)に記載のブレーキ装置において、
前記第1油路の前記ポンプの吐出部と前記遮断弁との間から分岐して前記吸入油路と接続する第3減圧油路を設け、
前記第3減圧油路に比例制御弁を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
よって、比例制御弁を使うことで制御範囲を拡大できる。