本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。更に、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係るトラクタの構成例を示す側面図である。図2は、実施形態1に係るトラクタの構成例を示す平面図である。図3は、実施形態1に係るトラクタが有するウインチの伝動機構の構成例を示す線図である。図4は、実施形態1に係るトラクタが有するフロントアクスルの伝動機構を示す模式図である。
実施形態1に係るトラクタ1−1は、作業員等のオペレータが走行車体2に搭乗して運転操作をしながら、圃場を耕起する作業機械等を牽引したり、圃場に散布する薬液が収容される薬液タンク61を搭載したりする、いわゆるホイールトラクタである。トラクタ1−1は、図1に示すように、走行車体2と、トランスミッション9と、フロントアクスル10と、リヤアクスル20と、ウインチ30と、ブーム昇降機構40と、ブーム50と、薬液供給機構60と、を含み、さらに図3に示すように、動力分割機構70と、クラッチ80と、を含んで構成されている。なお、本実施形態において、トラクタ1−1の進行方向は、図1に示すように、走行車体(2)の前後方向に沿った方向であり、トラクタ1−1の直進時、薬液タンク61からブーム昇降機構40に向かう方向である。また、走行車体2の車幅方向あるいは左右方向は、上記進行方向に対して水平に直交する方向である。また、走行車体2の上下方向は、上記進行方向に対して鉛直に直交する方向である。
走行車体2は、メインフレーム3と、ステアリングハンドル4と、運転座席5(図2参照)と、前輪6と、後輪7と、を含んで構成されている。メインフレーム3は、走行車体2の前後に延びて形成されている。メインフレーム3の前端には、フロントバンパ3aが設けられている。ステアリングハンドル4は、オペレータによる回動操作によって、少なくとも左右の前輪6を操舵することで、トラクタ1−1の進行方向を変更する。運転座席5は、オペレータがトラクタ1−1の運転操作をする際に着座するための座席である。運転座席5の右側には、後述するデフロック用クラッチペダルDPが配置され、運転座席5の左側にはウインチ用クラッチペダルWPが配置されている。さらに、運転座席5の右側には、ブーム50の開閉や薬液の散布等の動作を制御するための操作部90が配置されている。前輪6は、走行車体2の前側の車幅方向の左右に配置されている。前輪6は、少なくともステアリングハンドル4の回動操作により操舵される操舵輪である。前輪6は、フロントアクスル10に装着され、トランスミッション9を介して伝達されるエンジン8の動力により回転駆動される。後輪7は、走行車体2の後側の車幅方向の左右に配置されている。後輪7は、リヤアクスル20に装着され、トランスミッション9を介して伝達されるエンジン8の動力により回転駆動される。
トランスミッション9は、図1に示すように、メインフレーム3に取り付けられている。トランスミッション9は、例えば、図3に示すように、入力軸9aと、変速軸9bと、中間軸9cと、出力軸9dと、を含んで構成されている。入力軸9aは、後述するクラッチ80の出力軸82と連結されている。入力軸9aは、複数段の変速ギヤを有している。変速軸9bは、入力軸9aの複数段の変速ギヤと選択的に噛み合って、入力軸9aから伝達される動力の回転数を変速する。中間軸9cは、変速軸9bから出力軸9dへ動力を伝達する。出力軸9dは、前輪駆動軸FDと後輪駆動軸RDとに連結されている。
フロントアクスル10は、メインフレーム3に取り付けられている。フロントアクスル10は、図4に示すように、前輪6を回転駆動させるための伝動装置をフロントアクスルケース11に内装している。フロントアクスル10は、前輪駆動軸FDを介して、トランスミッション9の出力軸9dから動力が伝達される。フロントアクスル10は、入力軸12と、デファレンシャルギヤ13と、フロントアクスル軸14と、ウインチクラッチギヤ15と、ワンウェイクラッチギヤ16と、出力軸17と、デフロッククラッチギヤ18と、を含んで構成されている。入力軸12は、前輪駆動軸FDと連結されている。入力軸12は、その回転軸線方向が前後方向と平行である。入力軸12は、デファレンシャルギヤ13と噛み合うベベルギヤ12aを有している。デファレンシャルギヤ13は、ドライブピニオンとリングギヤとを有する、いわゆる差動装置である。デファレンシャルギヤ13は、入力軸12と噛み合うベベルギヤ13aを有している。デファレンシャルギヤ13は、フロントアクスル軸14を構成する右側フロントアクスル軸14Rと左側フロントアクスル軸14Lとに動力を振り分ける。フロントアクスル軸14は、デファレンシャルギヤ13から動力が伝達される。フロントアクスル軸14は、トランスミッション9で減速され、デファレンシャルギヤ13でさらに減速されて動力が伝達されるため、回転数が遅くなる。
ウインチクラッチギヤ15は、ワンウェイクラッチギヤ16との係合状態または開放状態を切り替える。ウインチクラッチギヤ15は、クラッチレバー15aとクラッチワイヤ15bとを介してウインチ用クラッチペダルWP(図2参照)と連結されている。ワンウェイクラッチギヤ16は、走行車体2が前進する際の左側フロントアクスル軸14Lの回転方向に対して、左側フロントアクスル軸14Lから動力が伝達されない、ワンウェイクラッチ機能を有している。すなわち、ワンウェイクラッチギヤ16は、走行車体2の前進時および停車時にはフリーホイール状態となり、オペレータが手動でウインチ30からウインチワイヤ32を引き出すことができる状態となる。ワンウェイクラッチギヤ16は、走行車体2の前進時にウインチクラッチギヤ15と係合状態となると、フロントアクスル軸14Lと同方向に回転してウインチ30でウインチワイヤ32を巻き取らせる。ワンウェイクラッチギヤ16は、出力軸17と噛み合うベベルギヤ16aを有している。出力軸17は、その回転軸線方向が前後方向と平行である。出力軸17は、ワンウェイクラッチギヤ16と噛み合うベベルギヤ17aを有している。出力軸17は、動力軸DSと連結されている。デフロッククラッチギヤ18は、オペレータによるデフロック用クラッチペダルDP(図2参照)の踏み込み操作によってデファレンシャルギヤ13をデフロックさせる。
ここで、フロントアクスル10の動力伝達経路、すなわち前輪6の動力伝達経路は、図4に示すように、入力軸12からデファレンシャルギヤ13、デファレンシャルギヤ13からフロントアクスル軸14、フロントアクスル軸14から前輪6となっている。
リヤアクスル20は、メインフレーム3に取り付けられている。リヤアクスル20は、後輪7を回転駆動させるための伝動装置をリヤアクスルケース21に内装している。リヤアクスル20は、図3に示すように、後輪駆動軸RDを介して、トランスミッション9の出力軸9dから動力が伝達される。リヤアクスル20は、入力軸22と、デファレンシャルギヤ23と、リヤアクスル軸24と、を含んで構成されている。入力軸22は、後輪駆動軸RDと連結されている。
ウインチ30は、図2に示すように、ボルトB等の固定手段により、フロントバンパ3aの前側に着脱可能に取り付けられている。ウインチ30は、左右一対の昇降リンク41の間に配置されている。ウインチ30は、図1に示すように、トランスミッション9の下端よりも高い位置に配置されている。ウインチ30は、ウインチ30を駆動するための動力が後述する前輪6の動力伝達経路から伝達される。本実施形態において、ウインチ30を駆動するための動力は、前輪6のフロントアクスル10から動力軸DSを介して伝達される。ウインチ30は、図2に示すように、フック31と、ウインチワイヤ32と、ドラム33と、入力軸34と、を備えている。フック31は、走行車体2の前側に取り付けられている。フック31は、ウインチワイヤ32を介してドラム33と連結されている。ドラム33は、その回転軸線方向が左右方向と平行である。ドラム33は、入力軸34により回転駆動する。ドラム33は、上述のようにフロントアクスル軸14の回転数が遅くなることから、適正な回転数で回転される。ドラム33は、ウインチクラッチギヤ15を係合状態とし、走行車体2を前進させた時には、ウインチワイヤ32を巻き取る方向に回転し、ウインチクラッチギヤ15を開放状態とし、走行車体2を後進させたときには、フリーホイール状態となって入力軸34の動力がドラム33に伝達されない、いわゆるカムクラッチ構成となっている。このため、ドラム33は、ウインチワイヤ32をオペレータが手動で引き出し可能である。なお、本実施形態において、ドラム33が適正な回転数で回転されるとは、ウインチワイヤ32の巻き取り速度と走行車体2の前進速度とが一致する速度で回転されることである。
入力軸34は、その回転軸線方向が前後方向と平行である。入力軸34は、動力軸DSと連結されている。入力軸34は、ドラム33を回転駆動する。入力軸34とドラム33とは、例えば、ベベルギヤ等で噛み合っている。動力軸DSは、走行車体2の前側の車幅方向の一方、本実施形態では左側に設けられている。動力軸DSは、図1に示すように、トランスミッション9の下端よりも高い位置に配置されている。動力軸DSは、その回転軸線方向が前後方向と平行である。動力軸DSは、伸縮可能で動力伝達可能なスプライン軸である。動力軸DSは、フロントアクスル10の出力軸17およびウインチ30の入力軸34のそれぞれとユニバーサルジョイントを介して、着脱可能に連結されている。
ここで、ウインチ30へ伝達されるエンジン8からの動力伝達経路は、図3に示すように、エンジン8から動力分割機構70、動力分割機構70からクラッチ80、クラッチ80からトランスミッション9、トランスミッション9からフロントアクスル10、フロントアクスル10からウインチ30となっている。さらに、ウインチ30へ伝達されるフロントアクスル10からの動力伝達経路は、図4に示すように、入力軸12からデファレンシャルギヤ13、デファレンシャルギヤ13から左側フロントアクスル軸14L、左側フロントアクスル軸14Lからウインチクラッチギヤ15、ウインチクラッチギヤ15からワンウェイクラッチギヤ16、ワンウェイクラッチギヤ16から出力軸17、出力軸17から動力軸DS、動力軸DSから入力軸34(図2参照)となっている。
ブーム昇降機構40は、左右一対の昇降リンク41と、昇降シリンダ42と、ブーム取付フレーム43と、ブーム開閉シリンダ44と、を含んで構成されている。昇降リンク41は、走行車体2の前側に取り付けられ、ブーム50を昇降させる。昇降リンク41は、メインフレーム3の前側から前方に延長されている。昇降リンク41は、ブーム取付フレーム43を平行に昇降させる、いわゆる平行リンクである。昇降シリンダ42は、昇降リンク41の前端に設けられている。昇降シリンダ42は、シリンダを伸縮させることで、昇降リンク41の前側を昇降させる。ブーム取付フレーム43は、昇降リンク41の前端に設けられている。ブーム取付フレーム43には、ブーム50が取り付けられている。ブーム開閉シリンダ44は、ブーム取付フレーム43の左右方向の両端側のそれぞれに設けられている。
ブーム50は、薬液を散布するためのものである。ブーム50は、走行車体2の前側に取り付けられている。ブーム50は、サイドブーム51と、センターブーム52と、を含んで構成されている。サイドブーム51は、ブーム取付フレーム43の左右方向の両端のそれぞれに回動可能に設けられている。サイドブーム51は、運転座席5の右側に配置された操作部90をオペレータが操作することにより、走行車体2の左右方向に延びる散布姿勢と、走行車体2の左右両側に沿う収納姿勢とに切り替え可能である。サイドブーム51には、薬液を噴射する複数のノズルが設けられている。複数のノズルは、サイドブーム51の散布姿勢において、薬液の噴射方向が下方に向けられる。センターブーム52は、ブーム取付フレーム43の前側に設けられている。センターブーム52は、車幅方向に平行に延びている。センターブーム52には、薬液を噴射する複数のノズルが設けられており、複数のノズルは、薬液の噴射方向が下方に向けられている。
薬液供給機構60は、図1に示すように、薬液タンク61と、防除ポンプ62と、を含んで構成されている。薬液タンク61は、ブーム50から散布される薬液を収容する容器である。薬液タンク61は、走行車体2の後端側に配置されている。薬液タンク61は、メインフレーム3上に着脱可能に搭載されている。防除ポンプ62は、エンジン8からの動力により駆動される。防除ポンプ62は、薬液タンク61内の薬液をブーム50へ送液する。なお、薬液は、肥料、農薬等を溶媒(例えば、水)に溶解させた液体、または、肥料、農薬等の固形分を含む液体(例えば、水)等の液状物である。
ここで、防除ポンプ62へ伝達されるエンジン8からの動力伝達経路は、図3に示すように、エンジン8から動力分割機構70、動力分割機構70から薬液供給機構60、薬液供給機構60から防除ポンプ62となっている。さらに、防除ポンプ62へ伝達される薬液供給機構60からの動力伝達経路は、プーリ63aを有する入力軸63から伝動ベルト65を介してプーリ64aを有するポンプ入力軸64、ポンプ入力軸64から防除ポンプ62となっている。
動力分割機構70は、図3に示すように、入力軸71と、第一中間軸72と、第一出力軸73と、第二中間軸74と、第二出力軸75と、を含んで構成されている。入力軸71は、エンジン8の出力軸8aと連結されている。第一中間軸72は、入力軸71および第一出力軸73のそれぞれと噛み合っている。第一出力軸73は、薬液供給機構60の入力軸63と連結されている。第二中間軸74は、入力軸71および第二出力軸75のそれぞれと噛み合っている。第二出力軸75は、クラッチ80と連結されている。
クラッチ80は、摩擦板81と、出力軸82と、を含む、いわゆる多板クラッチである。摩擦板81は、例えば、ドライブプレートとドリブンプレートとを有し、これらのプレート同士の係合状態と開放状態とがオペレータによるクラッチペダルCP(図2参照)の踏み込み操作で切り替えられる。
次に、図5を参照して、実施形態1に係るトラクタ1−1を圃場Fから脱出させる動作について説明する。図5は、実施形態1に係るトラクタが有するウインチを使用している状態を説明するための説明図である。
例えば、図5に示すように、泥炭水田や超湿田等の圃場Fにおいて薬液を散布する防除作業中に、後輪7が沈下して防除作業の続行が不可能あるいは走行不能となったトラクタ1−1を、圃場Fから脱出させる場合、まず、オペレータは、クラッチペダルCPとシフトレバーSLとを操作し、シフトレバーSLをニュートラルポジションに切り替える。ここで、ブーム昇降機構40の昇降リンク41を上昇させておくと、ウインチ30が走行車体2の前方に露出するため、ウインチ30のフック31をオペレータが取り扱いやすくなる。
次に、オペレータは、運転座席5から圃場Fへ降りて走行車体2の前側に移動し、ウインチ30のフック31を持って、走行車体2の前進方向へ向かって移動し、ドラム33からウインチワイヤ32を引き出して、畦道等の地面GL上に停車中の乗用作業車100(例えばトラクタ)にフック31を引っ掛ける。ここで、乗用作業車100は、例えば、その後側には崖W等があり、後進できない状態となっており、トラクタ1−1を牽引することはできない。また、ドラム33からウインチワイヤ32を引き出す際、フロントアクスル10では、走行車体2の前進時のフロントアクスル軸14(左側フロントアクスル軸14L)の回転方向とは逆方向にワンウェイクラッチギヤ16がフリーホイール状態で回転する。
次に、オペレータは、トラクタ1−1に乗車して運転座席5に着座し、クラッチペダルCPとシフトレバーSLとを操作して、シフトレバーSLを例えば低速側ポジションとし、デフロック用クラッチペダルDPを踏み込み操作してデフロッククラッチギヤ18を係合状態、すなわちデファレンシャルギヤ13をデフロックさせ、ウインチ用クラッチペダルWPを踏み込み操作してウインチクラッチギヤ15を係合状態とし、前後輪6、7を前進方向に回転させつつ、ドラム33を巻き取り方向へ回転させる。ここで、フロントアクスル10では、ウインチクラッチギヤ15が係合状態となり、ワンウェイクラッチギヤ16が走行車体2の前進時のフロントアクスル軸14(左側フロントアクスル軸14L)の回転方向と同方向に回転し、ワンウェイクラッチギヤ16の回転に伴って、出力軸17、動力軸DS、入力軸34、ドラム33のそれぞれが巻き取り方向に回転する。また、ウインチワイヤ32の巻き取り速度、すなわちドラム33の回転速度は、前輪6の回転速度、すなわち走行車体2の前進速度に対応していることから、ウインチワイヤ32の巻き取りが安定して行われ、トラクタ1−1を安定に走行させることができる。この際、フロントアクスル10のローリングに応じて動力軸DSが伸縮するため、フロントアクスル10の出力軸17とウインチ30の入力軸34との距離の変化に動力軸DSが対応する。
また、オペレータがステアリングハンドル4の操舵操作を行うことにより、ウインチワイヤ32の延長方向にトラクタ1−1の進行方向(走行車体2の向き)を合わせると、より安定にトラクタ1−1を走行させることができる。また、オペレータが運転座席5に着座したまま脱出作業を行うことができ、脱出状況に応じてウインチ用クラッチペダルWPをこまめに踏み込み操作し、ウインチ30の駆動をこまめに入り切りすることもできる。このため、安全に、走行車体2を損傷させないように脱出作業を行うことができる。
次に、オペレータは、圃場Fから地面GLへトラクタ1−1を移動させた後、ウインチ用クラッチペダルWPを踏み込み操作してウインチクラッチギヤ15を開放状態とし、デフロック用クラッチペダルDPを踏み込み操作してデフロッククラッチギヤ18を開放状態とし、クラッチペダルCPとシフトレバーSLとを操作してシフトレバーSLをニュートラルポジションとし、ウインチ30によるウインチワイヤ32の巻き取りを停止させる。このようにして、トラクタ1−1を圃場Fから脱出させる。なお、オペレータは、ウインチ30によるウインチワイヤ32の巻き取りを停止させた後、運転座席5から地面GLへ降りて、乗用作業車100からフック31を取り外した後、ドラム33を巻き取り方向に回転させてウインチワイヤ32を巻き取らせる。
以上のように、実施形態1に係るトラクタ1−1によれば、ウインチ30をフロントバンパ3aの前側に取り付け、ウインチ30のフック31を走行車体2の前側に取り付けたので、従来のトラクタではウインチワイヤを複数のローラに掛け回す必要があったが、その必要がなくなり、ウインチ30を使用する際の手間がかからない。
また、トラクタ1−1によれば、前輪6の動力伝達経路の動力によりウインチ30を駆動するので、電動モータで駆動されるウインチを有する従来技術のトラクタではウインチ用減速機が必要なため複雑な構成となっていたが、ウインチ30の構成を簡略化することができる。また、トラクタ1−1によれば、前輪6を駆動するための動力伝達経路の動力でウインチ30を駆動するので、電動モータを有する従来技術のウインチよりも、ウインチ30を小型化することができ、牽引力を強くすることができる。
また、トラクタ1−1によれば、ウインチ30をフロントバンパ3aの前側に取り付け、ウインチ30のフック31を走行車体2の前側に取り付けたため、走行車体の下側の複数のローラにウインチワイヤを掛け回す従来技術のトラクタではウインチワイヤと作物とが接触しやすかったが、ウインチ30、フック31およびウインチワイヤ32と作物との接触を抑制することができる。
また、トラクタ1−1によれば、フロントアクスル10から動力軸DSを介して、ウインチ30を駆動するための動力が伝達され、動力軸DSが走行車体2の前側の車幅方向の一方、すなわち左側に設けられているため、動力軸DSの構成が簡単なものとなる。また、トラクタ1−1によれば、左右一対の昇降リンク41の間にウインチ30を配置しているため、ウインチ30がブーム50の昇降を妨げない。また、トラクタ1−1によれば、ウインチ30が設けられているため、例えば、乗用作業車100の後側に崖Wがあって乗用作業車100によるトラクタ1−1の牽引ができない場合であっても、ウインチ30のフック31を乗用作業車100に引っ掛けることで、トラクタ1−1が自力でウインチワイヤ32を牽引することができ、自力で圃場等から脱出することができる。
また、トラクタ1−1によれば、電動モータで駆動されるウインチを有する従来技術のトラクタよりも、ウインチ30の動力伝達経路を簡略化、小型化することができるので、ウインチ30を省スペースで配置できる。また、トラクタ1−1によれば、フロントアクスル10の出力軸17からウインチ30の入力軸34へは、動力軸DSにより動力を伝達する構成であるため、出力軸17から入力軸34までの構成部品点数を抑えることができ、電動モータで駆動されるウインチを有する従来技術のトラクタよりもコストを抑えることができる。
また、トラクタ1−1によれば、ウインチ30をエンジン8からの動力により駆動するメカ駆動構成とすることで、電気式ウインチにみられる電気的なショートや伝動モータの発熱による牽引力低下等の電動式ウインチ特有のトラブルや性能低下がない。また、トラクタ1−1によれば、ウインチ30をメカ駆動構成にすることで、動力の取り出しが容易で、部品点数が少ない設計が可能となり、低価格で牽引力の強いウインチ30を提供することができる。
また、トラクタ1−1によれば、トランスミッション9の下端よりも高い位置にウインチ30および動力軸DSを配置しているため、機体の最低地上高を確保することができ、例えば、枕地での旋回時、動力軸DSの全長の移動分面積と作物が接触する度合いを小さくすることができる。このため、作物損傷を最小にできる。このため、トラクタ1−1によれば、防除作業中に、作物とウインチ30とが接触して作物が損傷することを抑制することができ、作物の巻き込みや作物とウインチ30や動力軸DSとの接触を防止できる。
また、トラクタ1−1によれば、トランスミッション9およびデファレンシャルギヤ13によりフロントアクスル軸14の回転数を遅くするため、ウインチ30のドラム33の回転数を適正回転数にすることができ、ウインチワイヤ32の折損または走行車体2の破損を抑制し、脱出作業を円滑に進めることができる。さらに、トラクタ1−1によれば、ウインチ30のドラム33の回転数を適正回転数にすることで、ウインチ30を駆動するために馬力の大きいエンジンを搭載する必要がない。
また、トラクタ1−1によれば、動力軸DSをフロントアクスル10の出力軸17とウインチ30の入力軸34とに着脱可能とし、ウインチ30をボルトB等でフロントバンパ3aに着脱可能としているので、ウインチ30の取り付けや取り外しを簡単に行うことができ、走行車体2にウインチ30を短時間で組み付けることができる。
また、トラクタ1−1によれば、ウインチクラッチギヤ15を係合状態とすることでワンウェイクラッチギヤ16が駆動されるように構成したので、常時駆動する場合には機械的な負荷や摩耗が増加するが、脱出走行時のみにウインチ30を駆動させることができ、安全性と機械的な利点とを兼ね備える。
また、トラクタ1−1によれば、ぬかるんだ圃場や超湿田等での作業を行う乗用作業車に必須であるデフロック機能を備えており、沈没した走行車体2を脱出させる場合は、ワンウェイクラッチギヤ16とウインチ30とを同時に作動させることで、走行車体2の前後輪6、7の回転駆動力とウインチ30の巻き取りによる牽引力とを活かせるので、短時間で容易に脱出できる。
また、トラクタ1−1によれば、運転座席5の周囲にデフロック用クラッチペダルDPおよびウインチ用クラッチペダルWPが配置されているので、オペレータが運転座席5に着座したまま、デフロッククラッチギヤ18によるデファレンシャルギヤ13のデフロックと、ウインチ30によるウインチワイヤ32の巻き取りとを制御することができ、走行車体2の脱出状況を判断しながら任意の操作を行える。
また、トラクタ1−1によれば、ウインチワイヤ32の引き出し方向に対してフリーホイール状態となるワンウェイクラッチギヤ16を設けたことにより、ウインチ30からウインチワイヤ32を容易に引き出すことができ、脱出作業時のウインチ30の作業性がよい。
〔実施形態2〕
次に、図6、図7を参照して、実施形態2に係るトラクタ1−2について説明する。図6は、実施形態2に係るトラクタの構成例を示す側面図である。図7は、図6に示すトラクタの背面図である。実施形態2に係るトラクタ1−2の基本構成は、実施形態1に係るトラクタ1−1と同様であるので、同一部分の構成の説明は省略する。
実施形態2に係るトラクタ1−2では、図6に示すように、走行車体2の後側にキャリア3bが設けられている。さらに、実施形態2に係るトラクタ1−2では、キャリア3bにウインチ30が設けられ、リヤアクスル20からウインチ30に動力を伝達する動力軸DSがメインフレーム3の下側に設けられている。
キャリア3bは、メインフレーム3の後端に着脱可能に取り付けられている。キャリア3bは、走行車体2の前後方向に延長して形成されている。
リヤアクスル20は、上記実施形態1に係るトラクタ1−1が有するフロントアクスル10と同様の構成である。本実施形態において、リヤアクスル20は、図3に示すように、入力軸22と、デファレンシャルギヤ23と、左右一対のリヤアクスル軸24L、24Rと、デフロッククラッチギヤ28と、を含んで構成されている。さらに、リヤアクスル20は、図6に示すように、出力軸27と、図示しないウインチクラッチギヤおよびワンウェイクラッチギヤと、を含んでいる。
ここで、リヤアクスル20の動力伝達経路、すなわち後輪7の動力伝達経路は、入力軸22からデファレンシャルギヤ23、デファレンシャルギヤ23からリヤアクスル軸24L、24R、リヤアクスル軸24L、24Rから後輪7となっている。また、ウインチ30へ伝達されるリヤアクスル20からの動力伝達経路は、入力軸22からデファレンシャルギヤ23、デファレンシャルギヤ23から左側リヤアクスル軸24L、左側リヤアクスル軸24Lから図示しないウインチクラッチギヤ、ウインチクラッチギヤから図示しないワンウェイクラッチギヤ、ワンウェイクラッチギヤから出力軸27、出力軸27から動力軸DS、動力軸DSから入力軸34となっている。
ウインチ30は、上記実施形態1に係るトラクタ1−1が有するウインチ30と同様の構成である。本実施形態において、ウインチ30は、図6に示すように、キャリア3bの下側に取り付けられ、フック31は、キャリア3bの下側に着脱可能に引っ掛けられている。ウインチ30は、トランスミッション9の下端よりも高い位置に配置されている。ウインチ30は、ウインチ30を駆動するための動力が後輪7の動力伝達経路から伝達される。本実施形態において、ウインチ30を駆動するための動力は、後輪7のリヤアクスル20から動力軸DSを介して伝達される。ウインチ30に動力を伝達する動力軸DSは、動力軸DSが走行車体2の後側の下側を通過し、トランスミッション9の下端よりも高い位置に配置されている。動力軸DSは、伸縮可能で動力伝達可能なスプライン軸である。動力軸DSは、リヤアクスル20の出力軸27およびウインチ30の入力軸34のそれぞれとユニバーサルジョイントを介して、着脱可能に連結されている。
以上のように、実施形態2に係るトラクタ1−2によれば、ウインチ30を走行車体2の後側のキャリア3bに設けたため、従来のトラクタではウインチワイヤを複数のローラに掛け回す必要があったが、その必要がなくなり、ウインチ30を使用する際の手間がかからない。また、トラクタ1−2によれば、走行車体2の後側のキャリア3bに設けたウインチ30により、走行車体2の前側に畔道がない、前側に牽引できない、前側の畔まで距離がありワイヤが届かない等の場合、後進にてトラクタ1−2を脱出させることができる。
また、トラクタ1−2によれば、キャリア3bを着脱可能にメインフレーム3に取り付けたので、着脱可能な薬液タンク61とともにキャリア3bをメインフレーム3から取り外すことで、例えば、ロータリカルチなどのアタッチメントをメインフレーム3に搭載することができる。このため、トラクタ1−2によれば、防除作業その他の管理作業においてウインチ30が阻害することがなく、トラクタ1−2の汎用性を高めることができる。
また、実施形態2に係るトラクタ1−2によれば、後輪7の動力伝達経路の動力によりウインチ30を駆動するので、電動モータで駆動されるウインチを有する従来技術のトラクタよりも、ウインチ30の構成を簡単にすることができ、その簡単な構成で、電動モータで駆動されるウインチよりも牽引力を強くすることができる。また、トラクタ1−2によれば、リヤアクスル20から動力軸DSを介してウインチ30を駆動するための動力が伝達され、動力軸DSが走行車体2の後側の下側を通過するため、動力軸DSの構成を簡単にすることができる。
また、実施形態2に係るトラクタ1−2によれば、ウインチ30を走行車体2の後側のキャリア3bに設けたため、従来技術のトラクタよりも、ウインチワイヤ32と作物との接触を抑制することができる。
また、トラクタ1−2によれば、走行車体2の後側のキャリア3bにウインチ30を設けたことにより、圃場に沈下したトラクタ1−2は、走行車体2をまっすぐ後側へ脱出させなければならない場合が多いことから、後側へ脱出させる際に、走行車体2のバランスを維持させやすい。
また、トラクタ1−2によれば、トランスミッション9の下端よりも高い位置にウインチ30および動力軸DSを配置しているため、防除作業中に、作物とウインチ30とが接触して作物が損傷することを抑制することができ、作物の巻き込みや作物とウインチ30や動力軸DSとの接触を防止できる。
なお、上記の実施形態1においては走行車体2の前側にウインチ30を設け、上記の実施形態2においては走行車体2の後側にウインチ30を設けているが、走行車体2の前側および後側の両方にウインチ30を設けてもよい。これにより、走行車体2の前側および後側の両方へ脱出可能となる。
また、上記の実施形態1、2において、DSは、走行車体2の車幅方向の一方(左側)に設けられているが、他方(右側)であってもよい。また、DSは、フロントアクスル10では左側に設け、リヤアクスル20では右側に設けてもよい。これにより、フロントアクスル10とリヤアクスル20とで部品の共通化を図ることができる。