しかしながら、上述の特許文献1の装置では、処理対象と装置との間には隙間があるなど、洗浄水が外部に飛散することがあった。一方、処理対象と装置とを更に密着するなどして洗浄水の外部飛散をより抑制しようとすると、装置が移動しにくくなることが考えられる。例えば、浄化媒体としてブラスト材を用い、ブラスト処理することにより壁面を浄化する装置などにおいては、浄化媒体の飛散は浄化処理の作業効率を低下させる。また、上述の特許文献2の装置では、弾性素材によるシール部材により設置面に吸着するものであるが、機密性を高めることと、滑らかに設置面上を移動させることとを両立する材質を見出すことは困難であり、吸着性を高めると移動性が低下し、移動性を高めると壁体から脱落することなどの問題があった。このように、処理対象に対して移動させて実行する浄化処理の作業性をより向上することが求められていた。
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、処理対象に対して移動させて実行する浄化処理の作業性をより向上することができる浄化装置及び吸着シール機構を提供することを主目的とする。
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の浄化装置は、
処理対象に対して浄化媒体を噴射する噴射部と吸引口から前記噴射後の浄化媒体を吸引する吸引部とを有する本体部と、
前記本体部に配設され、前記処理対象側に開口部が形成されたシール固定部材と、変形自在な柔軟性を有し該開口部から一部が膨出した状態で該シール固定部材に固定された柔軟部材と、該シール固定部材に固定され可撓性及び円滑性を有し該柔軟部材の膨出部を覆うアウターシートとを有し、前記処理対象に接触する吸着シール部と、
を備えたものである。
この浄化装置では、処理対象側に開口部が形成されたシール固定部材が本体部に配設されている。また、開口部からその一部が膨出した状態で変形自在な柔軟性を有する柔軟部材がシール固定部材に固定されている。また、柔軟部材の膨出部を覆う可撓性及び円滑性を有するアウターシートがシール固定部材に固定されている。そして、噴射部から浄化媒体を噴射すると共に、吸引部により本体部を負圧にして噴射後の浄化媒体を吸引することにより、処理対象の浄化処理を実行する。このように、柔軟性のあるインナーボールにより、吸着シール部と処理対象との間の密着性をより高めることができる。また、可撓性及び円滑性を有するアウターシートにより、浄化装置を処理対象上で円滑に移動させることができる。したがって、浄化処理の作業性をより向上することができる。ここで、「処理対象」としては、例えば、建屋外壁や内壁、鋼構造体の壁面、コンクリート壁面のほか、窓面などが挙げられる。また、アウターシートの「円滑性」は、摩擦係数により表すことができ、柔軟部材に比して摩擦係数が低いものとしてもよい。また、柔軟部材の「柔軟性」は、変形率により表すことができ、アウターシートに比して変形率の大きいものとしてもよい。
本発明の浄化装置において、前記吸着シール部は、前記開口部側が狭く底面側が広がった形状の溝が形成されている前記シール固定部材を有しているものとしてもよい。こうすれば、より強固にインナーボールを固定することができ、例えば不具合の発生をより抑制して、浄化処理の作業性をより向上することができる。
本発明の浄化装置において、前記吸着シール部は、前記処理対象に接触する側の表面にフッ素樹脂が形成された前記アウターシートを有しているものとしてもよい。こうすれば、より円滑に処理対象上を移動することができ、ひいては、浄化処理の作業性をより向上することができる。ここで、アウターシートは、フッ素樹脂により形成されていてもよいし、基材樹脂の表面にフッ素樹脂がコートされているものとしてもよい。
本発明の浄化装置において、前記吸着シール部は、前記吸引部の吸引により前記本体部が負圧になることにより前記処理対象に対して密着するものとしてもよい。こうすれば、噴射後の浄化媒体を吸引する吸引力を利用して、浄化装置を吸着シール部を介して処理対象に密着することができる。このとき、前記本体部は、空洞部が形成されており、前記吸着シール部が前記処理対象に接触すると該空洞部により浄化処理空間が形成され、前記浄化装置は、前記噴射部が前記浄化処理空間に前記浄化媒体を噴射し、前記吸引部が前記浄化処理空間から前記噴射後の浄化媒体を吸引することにより前記処理対象の浄化処理を行うものとしてもよい。
本発明の浄化装置において、前記柔軟部材は、複数のインナーボールであるものとしてもよい。こうすれば、複数のインナーボールを利用して、浄化処理の作業性をより向上することができる。このとき、前記吸着シール部は、環状の前記シール固定部材と該シール固定部材に環状に配列された前記複数のインナーボールとを有しているものとしてもよい。こうすれば、例えば、回転移動など、浄化装置の移動方向を様々に変化させても処理対象との密着性を確保しやすく、ひいては、浄化処理の作業性をより向上することができる。
あるいは、本発明の浄化装置において、前記柔軟部材は、インナーチューブであるものとしてもよい。こうすれば、インナーチューブを利用して、浄化処理の作業性をより向上することができる。このとき、本発明の浄化装置において、前記吸着シール部は、環状の前記シール固定部材と該シール固定部材に固定された環状の前記インナーチューブとを有しているものとしてもよい。こうすれば、例えば、回転移動など、浄化装置の移動方向を様々に変化させても処理対象との密着性を確保しやすく、ひいては、浄化処理の作業性をより向上することができる。
本発明の浄化装置は、前記処理対象上において前記本体部を移動させる移動装置、を備えたものとしてもよい。こうすれば、自走式浄化装置となり、作業員の作業量をより低減することができる。このとき、前記移動装置は、前記処理対象に接触する少なくとも1対の駆動車輪と該駆動車輪を駆動する駆動モータとを有しているものとしてもよい。
本発明の浄化装置において、前記噴射部は、前記処理対象の処理面に対して傾斜して前記本体部に配設されており、前記噴射部から前記吸引部まで前記浄化媒体を含む旋回流を生じさせるものとしてもよい。こうすれば、旋回流により処理対象の表面をより浄化することができる。このとき、前記噴射部は、前記本体部の外周縁側に前記浄化媒体を噴射するように傾斜して配設されているものとしてもよい。こうすれば、外周縁側から内周側に向かう旋回流を生成することができ、浄化媒体を回収しやすい。
本発明の浄化装置は、前記処理対象上において前記本体部を移動させる移動装置、を備え、前記噴射部は、前記処理対象の処理面に対して傾斜した状態で前記本体部の移動方向において該本体部の後方の位置に配設されており、前記吸引部は、前記本体部の移動方向において前記噴射部の前方の位置に配設されており、前記噴射部から前記吸引部まで前記浄化媒体を含む旋回流を生じさせるものとしてもよい。こうすれば、旋回流により処理対象の表面をより浄化することができる。あるいは、前記噴射部は、前記処理対象の処理面に対して傾斜した状態で前記本体部の移動方向において該本体部の前方の位置に配設されており、前記吸引部は、前記本体部の移動方向において前記噴射部の後方の位置に配設されており、前記噴射部から前記吸引部まで前記浄化媒体を含む旋回流を生じさせるものとしてもよい。このとき、前記噴射部は、前記本体部の外周縁側に前記浄化媒体を噴射するように傾斜して配設されているものとしてもよい。こうすれば、外周縁側から内周側に向かう旋回流を生成することができ、浄化媒体を回収しやすい。
本発明の浄化装置において、前記浄化媒体は、ブラスト材であり、前記本体部は、前記ブラスト材を噴射する噴射部と噴射後のブラスト材を吸引する吸引部とを有するものとしてもよい。こうすれば、ブラスト材を用いたブラスト処理によって処理対象を浄化することができる。
本発明の浄化システムは、上述したいずれかの浄化装置と、前記噴射部に接続され前記浄化媒体を該噴射部に供給する媒体供給ユニットと、前記吸引部に接続され該吸引部を介して取得した前記噴射後の浄化媒体を処理する回収ユニットと、を備えたものである。この浄化システムでは、上述した浄化装置と同様に、柔軟性のあるインナーボールにより、吸着シール部と処理対象との間の密着性をより高めることができる。また、可撓性及び円滑性を有するアウターシートにより、浄化装置を処理対象上で円滑に移動させることができる。したがって、浄化処理の作業性をより向上することができる。なお、上述したいずれかの浄化装置の態様を採用すれば、採用した構成に応じた効果が得られる。
本発明の吸着シール機構は、処理対象に対して浄化媒体を噴射する噴射部と吸引口から前記噴射後の浄化媒体を吸引する吸引部とを有する本体部、を備えた浄化装置に配設される吸着シール機構であって、前記本体部に配設され前記処理対象側に開口部が形成されたシール固定部材と、変形自在な柔軟性を有し該開口部から一部が膨出した状態で該シール固定部材に固定された柔軟部材と、該シール固定部材に固定され可撓性及び円滑性を有し該柔軟部材の膨出部を覆うアウターシートとを有し、前記処理対象に接触するものである。
この吸着シール機構では、上述した浄化装置と同様に、柔軟性のあるインナーボールにより、吸着シール部と処理対象との間の密着性をより高めることができる。また、可撓性及び円滑性を有するアウターシートにより、浄化装置を処理対象上で円滑に移動させることができる。したがって、浄化処理の作業性をより向上することができる。なお、この吸着シール機構において、上述した浄化装置の種々の態様を採用してもよい。
[第1実施形態]
次に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は、浄化システム10の構成の概略を示す構成図である。図2は、自走式ブラスト装置20の構成の概略を示す構成図である。図3は、自走式ブラスト装置20の構成の断面を示す説明図である。図4は、吸着シール部30の説明図である。図5は、吸着シール部30の構成の概略を示す構成図である。
本発明の浄化システム10は、図1に示すように、浄化媒体としてのブラスト材を供給及び回収するブラスト材処理装置11と、本発明の浄化装置としての自走式ブラスト装置20とを備えている。ブラスト材処理装置11は、ブラスト材をホース12を介して自走式ブラスト装置20へ供給するブラスト材供給ユニット14(媒体供給ユニット)と、ホース15を介してブラスト処理後のブラスト材を回収し分離するリサイクルユニット16(回収ユニット)と、回収したブラスト材を収容する回収タンク18と、を備えている。ブラスト材供給ユニット14は、コンプレッサー(図示せず)を備えており、供給タンク(図示せず)に収容されたブラスト材を用い、ブラスト材を含むエアーを自走式ブラスト装置20の噴射部23へ供給する。リサイクルユニット16は、図示しないバグフィルター、バキュームブロアーを備えており、ブラスト処理後の錆や付着物などの汚染物質とブラスト材とをその比重差や粒度などを利用して分離する処理を行う。回収したブラスト材は、回収タンク18に収容され、その後、ブラスト材供給ユニット14へ供給される。なお、ブラスト方式は、エアーによりブラスト材を回収するエアー式ブラストとしてもよいし、遠心力によりブラスト材を回収する遠心式ブラストとしてもよい。
自走式ブラスト装置20は、図2,3に示すように、表面を浄化することを要する処理対象としての壁体50に対してブラスト材を噴射するブラスト処理を、自走しながら実行する装置として構成されている。この自走式ブラスト装置20は、浄化処理空間が形成される本体部21と、装置を移動する移動装置22と、処理対象と装置とを密着させる吸着シール部30とを備えている。表面を浄化することを要する処理対象としては、例えば、建屋外壁や内壁、鋼構造体の壁面、コンクリート壁面などが挙げられる。
本体部21は、図2に示すように、天板を有し、空洞部29が形成された円錐形状の壁部を有しており、処理対象に対してブラスト材を噴射する噴射部23が天板に配設されると共に、吸引口28から噴射後のブラスト材を吸引する吸引部24が側面の壁部に配設されている。この噴射部23には、ホース12が接続されており(図1参照)、このホース12の先に、コンプレッサーを含むブラスト材供給ユニット14が接続されている。噴射部23は、ブラスト材を含むエアーを噴射口27から処理対象側に噴射することにより、処理対象表面に存在する錆や付着した汚れを打ち落とす。この噴射部23は、壁体50に対して垂直になるよう本体部21に配設されており、壁体50に対して垂直にブラスト材を打ち付ける。吸引部24には、ホース15が接続されており、このホース15の先にブラスト材のリサイクルユニット16が接続されている。
ブラスト材は、処理対象を研磨可能な粒子を含んでいればよく、例えば、所定の硬度を有する粒子を用いることができ、例えば、無機粒子や金属粒子としてもよい。無機粒子としては、例えば、砂や酸化珪素、酸化アルミニウム炭化珪素などの粒子が挙げられる。また、金属粒子としては、スチールグリッドなどの粒子を用いることができる。ブラスト材の粒度は、表面を浄化することを要する処理対象の材質に応じて、適宜選択することができる。また、ブラスト材の噴射速度及び噴射量は、表面を浄化することを要する処理対象の材質に応じて、適宜選択することができる。
移動装置22は、処理対象上において本体部21を移動させるものであり、処理対象に接触する1対の駆動車輪25と、この駆動車輪25を駆動する駆動モータ26とを有している。駆動車輪25は、本体部21の両側の側面に回転駆動可能に固定されている。この移動装置22は、図示しない操作用ボックスに接続されており、この操作ボックスのレバー等を作業者が操作することにより、1対の駆動車輪25の両輪を回転駆動すると本体部21を前後に走行させ、片輪を回転駆動すると本体部21を左又は右に旋回させる。
吸着シール部30は、本発明の吸着シール機構であり、本体部21の空洞部29の開口縁に配設されている。吸着シール部30は、吸引部24の吸引により本体部21の空洞部29が負圧になることにより処理対象に対して密着する。吸着シール部30は、図1〜5に示すように、本体部21に配設されたシール固定部材31と、シール固定部材31に嵌め込まれた柔軟部材としての複数のインナーボール37と、インナーボール37の表面を覆うアウターシート39とを有している。この吸着シール部30では、図4に示すように、環状のシール固定部材31とシール固定部材31に環状に配列された複数のインナーボール37とを有している。
シール固定部材31は、図5に示すように、本体部21の開口縁に配設され、処理対象側に開口部32が形成されている。このシール固定部材31は、開口部32側が狭く底面33側が広がった形状の溝34が形成されている。また、シール固定部材31は、アウターシート39を挟み込んで固定する固定具35や固定具35をシール固定部材31の本体へ固定するビス36などを処理対象側に有する。
インナーボール37は、変形自在な柔軟性を有し開口部32から一部が膨出した状態でシール固定部材31に固定されている。インナーボール37のうち開口部32から膨出した部分を膨出部38と称して説明する。このインナーボール37は、例えば、ゴムなどの弾性体としてもよく、スポンジとしてもよい。このインナーボール37の材質としては、例えば、天然ゴム(NR)や、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリウレタンなどが挙げられる。インナーボール37は、例えば、ウレタンなどのスポンジとすることが好ましい。このインナーボール37は、アウターシート39に比して柔軟性(例えば変形率)が高いものであることが好ましい。
アウターシート39は、可撓性及び円滑性を有し複数のインナーボール37の膨出部38を覆うようにシール固定部材31に固定されている。アウターシート39は、インナーボール37に期して円滑性が高い(例えば摩擦係数が低い)ものであることが好ましい。アウターシート39は、処理対象に接触する側の表面の摩擦係数がより小さい方が好ましく、その表面にフッ素樹脂が形成されているものとしてもよい。なお、アウターシート39は、その表面のみにフッ素樹脂が形成されているものとしてもよいし、アウターシート39の全体がフッ素樹脂により形成されているものとしてもよい。このアウターシート39は、例えば樹脂フィルムなどを用いてもよい。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)などが挙げられる。また、フッ素樹脂を表面に形成する樹脂フィルムとしては、ポリプロピレン(PP)などの一般的な樹脂フィルムが挙げられる。
次に、こうして構成された本実施形態の自走式ブラスト装置20の動作、特に垂直な壁体の表面を浄化処理する動作について、図1を用いて説明する。まず、作業員は、自走式ブラスト装置20の噴射部23に、ホース12を介してブラスト材供給ユニット14を接続すると共に、吸引部24にホース15を介してリサイクルユニット16を接続する。次に、作業者は、自走式ブラスト装置20を持ち上げ、壁体50の壁面に吸着シール部30が接触するように配置し、吸引部24により空洞部29を吸引する。このように、自走式ブラスト装置20は、本体部21には空洞部29が形成されており、吸着シール部30が壁体50(処理対象)に接触すると空洞部29により浄化処理空間が形成される。また、自走式ブラスト装置20は、吸引部24からの吸引により空洞部29が負圧になることによって、吸着シール部30を介して処理対象に吸着した状態で駆動車輪25の回転駆動により処理対象上を走行する。そして、自走式ブラスト装置20は、作業者の操作に基づいて、壁体50上を移動しながら、噴射部23が浄化処理空間にブラスト材を噴射し、吸引部24が浄化処理空間から噴射後のブラスト材を吸引することにより壁体50のブラスト処理を行うのである。そして、ブラスト材処理装置11により、ブラスト処理後のブラスト材を回収する。
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の本体部21が本発明の本体部に相当し、移動装置22が移動装置に相当し、インナーボール37が柔軟部材に相当し、吸着シール部30が吸着シール部に相当する。また、ブラスト材供給ユニット14が媒体供給ユニットに相当し、リサイクルユニット16が回収ユニットに相当する。なお、本実施形態では、自走式ブラスト装置20を説明することにより本発明の吸着シール機構の一例も明らかにしている。
以上詳述した本実施形態の自走式ブラスト装置20によれば、壁体50側に開口部32が形成されたシール固定部材31が本体部21に配設されている。また、開口部32からその一部が膨出した状態で変形自在な柔軟性を有するインナーボール37がシール固定部材31に固定されている。また、可撓性を有し複数のインナーボール37の膨出部38を覆うアウターシート39がシール固定部材31に固定されている。そして、噴射部23からブラスト材を噴射すると共に、吸引部24により本体部21の空洞部29を負圧にして噴射後のブラスト材を吸引することにより、壁体50のブラスト処理を実行する。例えば、柔軟性を有しており壁体50の表面の凹凸に追従しやすい特性と、低摩擦性を有しており壁体50に対して滑らかに接触する特性と、を満たす単一の材質を得るのは困難である。例えば、柔軟性を有する複数のインナーボール37が配列した状態では、処理対象である壁体に対して滑りにくいことがある。一方、可撓性を有するアウターシート39では、壁体の凹凸に対して追従性が低いことがある。ここでは、柔軟性を有するインナーボール37により壁体50との密着性を高めると共に、可撓性を有し表面が円滑なアウターシート39により自走式ブラスト装置20を壁体50上で円滑に移動させることができる。したがって、壁体50上を移動させながら実行するブラスト処理の作業性をより向上することができる。
また、吸着シール部31は、開口部32側が狭く底面33側が広がった形状の溝34が形成されているため、より強固にインナーボール37を固定することができ、例えば不具合の発生をより抑制して、ブラスト処理の作業性をより向上することができる。更に、アウターシート39は壁体50に接触する側の表面にフッ素樹脂が形成されているため、より円滑に壁体50上を移動することができ、ひいては、ブラスト処理の作業性をより向上することができる。更にまた、環状のシール固定部材31とシール固定部材31に環状に配列された複数のインナーボール37とを有しているため、例えば、多角形状など角がある場合に比して、回転移動など、自走式ブラスト装置20の移動方向を様々に変化させても壁体50との密着性を確保しやすく、ひいては、ブラスト処理の作業性をより向上することができる。そして、吸引部24の吸引により本体部21が負圧になることにより壁体50に対して密着するため、ブラスト材を吸引する吸引力を利用して、吸着シール部30と壁体50とを密着することができる。そしてまた、壁体50上において本体部21を移動させる移動装置22を備えているため、自走式浄化装置となり、作業員の作業量をより低減することができる。また、複数配置されたインナーボール37は、適度に凹凸があるため、周期的な凹凸を有する処理対象(例えば、波板など)に対しより密着しやすく、好ましい。そして更にまた、自走式ブラスト装置20は、ブラスト材を用いたブラスト処理によって壁体50を浄化することができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態を図面を用いて説明する。図6は、別の自走式ブラスト装置120の構成の断面を示す説明図である。図7は、吸着シール部130の説明図である。図8は、吸着シール部30の構成の概略を示す構成図である。なお、自走式ブラスト装置120は、自走式ブラスト装置20とは吸着シール部130の構成が異なるものであるので、吸着シール部130の構成の説明を行い、自走式ブラスト装置20と同様の構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
吸着シール部130は、本発明の吸着シール機構であり、本体部21の空洞部29の開口縁に配設されている。吸着シール部130は、吸引部24の吸引により本体部21の空洞部29が負圧になることにより処理対象に対して密着する。吸着シール部130は、図6〜8に示すように、本体部21に配設されたシール固定部材31と、シール固定部材31に嵌め込まれたインナーチューブ137(本発明の柔軟部材)と、インナーチューブ137の表面を覆うアウターシート39とを有している。この吸着シール部130では、図7に示すように、環状のシール固定部材31とシール固定部材31に挿入されて固定された環状のインナーチューブ137とを有している。
シール固定部材31は、図8に示すように、本体部21の開口縁に配設され、処理対象側に開口部32が形成されている。このシール固定部材31は、開口部32側が狭く底面33側が広がった形状の溝34が形成されている。また、シール固定部材31は、アウターシート39を挟み込んで固定する固定具35や固定具35をシール固定部材31の本体へ固定するビス36などを処理対象側に有する。
インナーチューブ137は、変形自在な柔軟性を有し開口部32から一部が膨出した状態でシール固定部材31に固定されている。インナーチューブ137のうち開口部32から膨出した部分を膨出部138と称して説明する。このインナーチューブ137は、例えば、ゴムなどの弾性体としてもよい。インナーチューブ137の材質は、例えば、天然ゴム(NR)や、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリウレタンなどが挙げられる。このインナーチューブ137は、例えば、ウレタンなどの樹脂とすることが好ましい。このインナーチューブ137には、中空部137aが形成されている。この中空部137aには、例えば、エアーや油、水などが充填されているものとしてもよい。このインナーチューブ137は、アウターシート39に比して柔軟性(例えば変形率)が高いものであることが好ましい。
次に、こうして構成された本実施形態の自走式ブラスト装置120の動作、特に垂直な壁体の表面を浄化処理する動作について説明する。自走式ブラスト装置20と同様に、図1に示すように、作業員は、ブラスト材供給ユニット14及びリサイクルユニット16を接続し、自走式ブラスト装置120を持ち上げ、壁体50の壁面に吸着シール部130が接触するように配置する。次に、吸引部24により空洞部29を吸引させると、自走式ブラスト装置120は、吸引部24からの吸引により空洞部29が負圧になることによって、吸着シール部130を介して処理対象に吸着した状態となる。そして、自走式ブラスト装置120は、作業者の操作に基づいて、壁体50上を移動しながら、噴射部23が浄化処理空間にブラスト材を噴射し、吸引部24が浄化処理空間から噴射後のブラスト材を吸引することにより壁体50のブラスト処理を行うのである。そして、ブラスト材処理装置11により、ブラスト処理後のブラスト材を回収する。
以上詳述した本実施形態の自走式ブラスト装置120によれば、壁体50側に開口部32が形成されたシール固定部材31が本体部21に配設されている。また、開口部32からその一部が膨出した状態で変形自在な柔軟性を有するインナーチューブ137がシール固定部材31に固定されている。また、可撓性を有しインナーチューブ137の膨出部138を覆うアウターシート39がシール固定部材31に固定されている。そして、噴射部23からブラスト材を噴射すると共に、吸引部24により本体部21の空洞部29を負圧にして噴射後のブラスト材を吸引することにより、壁体50のブラスト処理を実行する。ここで、柔軟性を有しており壁体50の表面の凹凸に追従しやすい特性と、低摩擦性を有しており壁体50に対して滑らかに接触する特性と、を満たす単一の材質を得るのは困難である。例えば、柔軟性を有するインナーチューブ137では、処理対象である壁体に対して滑りにくいことがある。一方、可撓性を有するアウターシート39では、壁体の凹凸に対して追従性が低いことがある。ここでは、柔軟性を有するインナーチューブ137により壁体50との密着性を高めると共に、可撓性を有し表面が円滑なアウターシート39により自走式ブラスト装置120を壁体50上で円滑に移動させることができる。したがって、壁体50上を移動させながら実行するブラスト処理の作業性をより向上することができる。
また、吸着シール部31は、開口部32側が狭く底面33側が広がった形状の溝34が形成されているため、より強固にインナーチューブ137を固定することができ、例えば不具合の発生をより抑制して、ブラスト処理の作業性をより向上することができる。更に、アウターシート39は壁体50に接触する側の表面にフッ素樹脂が形成されているため、より円滑に壁体50上を移動することができ、ひいては、ブラスト処理の作業性をより向上することができる。更にまた、環状のシール固定部材31と環状のインナーチューブ137とを有しているため、例えば、多角形状など角がある場合に比して、回転移動など、自走式ブラスト装置120の移動方向を様々に変化させても壁体50との密着性を確保しやすく、ひいては、ブラスト処理の作業性をより向上することができる。また、チューブを溝34に入れやすい。そして、吸引部24の吸引により本体部21が負圧になることにより壁体50に対して密着するため、ブラスト材を吸引する吸引力を利用して、吸着シール部130と壁体50とを密着することができる。そしてまた、壁体50上において本体部21を移動させる移動装置22を備えているため、自走式浄化装置となり、作業員の作業量をより低減することができる。そして更にまた、自走式ブラスト装置120は、ブラスト材を用いたブラスト処理によって壁体50を浄化することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、吸着シール部30は、開口部32側が狭く底面33側が広がった形状の溝34が形成されているシール固定部材31を有するものとしたが、インナーチューブ137を固定したり、インナーボール37を複数配列させて固定するものとすれば、特にこれに限定されない。例えば、開口部32側が狭くなくてもよいし、溝34を有さないものとしてもよい。上記シール固定部材31の構成を採用せずとも、インナーボール37やインナーチューブ137の脱落をより抑制する構造を採用することが好ましい。
上述した実施形態では、アウターシート39は、フッ素樹脂が形成されているものとしたが、特にこれに限定されない。なお、アウターシート39は、処理対象に対して滑りやすい材質とすることが好ましい。
上述した実施形態では、移動装置22を備えるものとしたが、図9に示すように、移動装置22を省略してもよい。図6は、別のブラスト装置20B,120Bの構成の断面を示す説明図である。このブラスト装置20B,120Bでは、自走式ブラスト装置20と同様の構成についてはこれと同じ番号を付してその説明を省略する。このブラスト装置20Bは、移動装置22を備えていない点と圧力ゲージ40を備えている点以外は自走式ブラスト装置20と同様の構成である。また、ブラスト装置120Bは、移動装置22を備えていない点と圧力ゲージ40を備えている点以外は自走式ブラスト装置120と同様の構成である。このブラスト装置20B,120Bでは、本体部21を作業者が移動するものとしてもよいし、処理対象の壁面に水平に固定したスライダーから本体部21をワイヤーで吊し、このワイヤーを移動させることで本体部21を移動するものとしてもよい。こうしても、吸着シール部30によって、処理対象に密着すると共に円滑に移動可能であるから、処理対象に対して本体部を移動させて実行する浄化処理の作業性をより向上することができる。
上述した第1実施形態では、シール固定部材31が環状に形成されており、インナーボール37が環状に配列されているものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、多角形状に形成されているものとしてもよい。なお、シール固定部材31は、本体部21の移動がしやすい形状とすることが好ましい。
上述した第1実施形態では、中実であるインナーボール37を用いるものとして説明したが、中空のインナーボールを用いるものとしてもよい。こうしても、浄化処理の作業性をより向上することができる。
上述した第2実施形態では、シール固定部材31が環状に形成されており、環状のインナーチューブ137が固定されているものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、多角形状に形成されているものとしてもよい。なお、シール固定部材31は、本体部21の移動がしやすい形状とすることが好ましい。
上述した第2実施形態では、環状に形成されたシール固定部材31に1つのインナーチューブ137を備えるものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、複数のインナーチューブを備えるものとしてもよい。具体的には、棒状のインナーチューブを複数配置することにより、環状のシール固定部材31とするものとしてもよい。こうしても、複数のインナーチューブにより壁体50との密着性を高めることができる。
上述した第2実施形態では、中空部137aが形成されたインナーチューブ137としたが、中空部137aを形成しない、中実のインナーチューブとしてもよい。こうしても、柔軟性を有するインナーチューブにより壁体50との密着性を高めることができる。
上述した実施形態では、噴射部23は、壁体50に対してほぼ垂直になるよう本体部21に配設されたものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、図10に示すように、処理対象(例えば壁体)の処理面に対して傾斜して本体部21に配設された噴射部23Cを備えた自走式ブラスト装置20Cとしてもよい。図10は、別のブラスト装置20Cの構成を示す説明図であり、図10(a)が平面図、図10(b)が正面からの断面図である。図11は、ブラスト装置20Cのブラスト材の流れを説明する概念図である。図10に示すように、噴射部23Cは、吸着シール部30が吸着する壁体の表面の垂直方向に対して、傾斜して本体部21に配設されている。また、噴射部23Cは、本体部21の外周縁側にブラスト材を噴射するように傾斜して配設されている。この噴射部23Cは、壁体の処理面に対して傾斜した状態で本体部21の主たる移動方向において本体部21の後方の位置に配設されている。また、吸引部24は、本体部24の移動方向において噴射部23Cの前方の位置に配設されている。この吸引部24は、本体部21の中央上方に配設されている。この自走式ブラスト装置20Cでは、図11に示すように、噴射部23Cからブラスト材を噴射させると、噴射部23Cから吸引部24Cまでブラスト材を含む空気の旋回流を生じさせる。こうすれば、旋回流により処理対象(壁体)の表面をより浄化することができる。また、外周縁側から内周側(中央の吸引部24)に向かう旋回流を生成することができ、ブラスト材を回収しやすい。あるいは、噴射部は、壁体の処理面に対して傾斜した状態で本体部21の主たる移動方向において本体部21の前方の位置に配設されており、吸引部は、本体部21の主たる移動方向において噴射部の後方の位置に配設されているものとしてもよい。なお、これらの態様において、吸着シール部130を採用した構成や、移動装置22を省略した構成(図9参照)としてもよい。
上述した実施形態では、ブラスト材を浄化媒体とし、浄化処理をブラスト処理として説明したが、処理対象の表面を浄化するものとすれば、特にこれに限定されない。例えば、浄化媒体を洗浄水とし、浄化処理を洗浄処理としてもよい。このとき、処理対象としては、例えば窓面などとしてもよい。こうしても、処理対象に対して本体部を移動させて実行する浄化処理の作業性をより向上することができる。
上述した実施形態では、吸着シール部30を備えた自走式ブラスト装置20として説明したが、特にこれに限定されず、例えば、吸着シール機構としての吸着シール部30や、吸着シール部130としてもよい。こうしても、吸着シール部30や、吸着シール部130を本体部21に配設して用いれば、上述した吸着シール部30や、吸着シール部130と同様の効果が得られる。
以下には、自走式ブラスト装置を具体的に作製して評価した結果を実施例として説明する。図12は、作製した自走式ブラスト装置の外観写真である。なお、図12の吸着シール部の外観写真は、アウターシートを除外した写真である。自走式ブラスト装置は、図6に示す噴射部及び吸引部を有する構造とし、ブラスト方式として遠心式及びエアー式の2機を作製し、それぞれ実施例1,2とした。インナーチューブは、ウレタン製のチューブとし、中空部にはエアーを充填した。アウターシートは、樹脂フイルム(ポリテトラフルオロエチレン)を使用した。また、比較例として吸着シール部30を備えないエアーオープン式のブラスト装置を用意し、試験を行った。処理対象は、火力発電所のボイラー炉内蒸発管とした。試験条件などを表1に示す。比較例1のエアーオープン式のブラスト装置では、ブラスト材が破砕し、再利用が困難であった。また、回収作業に時間を要し、ブラスト速度を上げることができなかった。これに対し、実施例1,2の自走式ブラスト装置を用いてブラスト処理を行ったところ、投射回収しながらブラスト可能であり、ブラスト速度をより高めることが可能であった。また、ブラスト材は回収再利用可能であった。このように、自走式ブラスト装置を用いた場合、インナーチューブ及びアウターシートを備えた吸着シール部により、処理対象と密着性をより高め、装置を処理対象上で円滑に移動させることができた。その結果、ブラスト処理の作業性をより向上することができた。なお、インナーボールを発泡ウレタン製のボールとし、アウターシートを樹脂フイルム(ポリテトラフルオロエチレン)とした自走式ブラスト装置も作製したが、上述と同様の結果が得られた。