以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。以下では本発明を全血試料の前処理に適用した例によって説明する。しかし、本発明は全血試料の前処理だけに適用されるものではなく、血清や血漿など他の試料に対しても同様に適用可能である。
全血試料の前処理を自動で行う本実施例の分析用試料前処理装置は、全血試料の分注、溶血処理、後段の分析のための内部標準物質の添加、除タンパク質処理を複数の検体に対して自動的かつ並列に実行する装置である。前処理の大まかな流れは以下の通りである。最初に硫酸亜鉛を空のバイアルに分注しておく。全血試料を分注する前に全血試料の入ったチューブに振動を加え、軽く攪拌する。攪拌直後にチューブから吸引した全血試料をバイアルに吐出し、バイアルをセプタム付きキャップにより閉栓した後、強く攪拌して溶血させる。次に、セプタムのスリットに通したシリンジの針から内部標準物質を含んだメタノールをバイアルに吐出し、強く攪拌する。その後、凝集したタンパク質を遠心機で沈殿させ、除タンパク質を行う。最後に、セプタムのスリットにシリンジの針を通して上清を回収する。溶血後の処理手順として、メタノールの添加と上清の回収があるため、セプタム付きキャップで蓋をするバイアルを用いないと、最低でも、蓋を2回開け、1回閉める操作が必要となる。そこで、本実施例では、セプタム付きキャップで閉栓するバイアルを利用して1つの閉栓機構の設置だけで全ての処理を行うことを可能とし、複数の閉栓機構、開栓機構を不要とした。
図1は、本発明による分析用試料前処理装置のシステム構成例を示す概略平面図である。
本実施例の分析用試料前処理装置は、前処理中の試料を収容するバイアル(スナップバイアル)10を周方向に複数個保持して一定の時間間隔で所定の角度ずつ間欠的に回転駆動されるロータリーテーブル100と、ロータリーテーブルの周囲に配置されてバイアル内の試料に対して種々の処理を行う複数の処理部を備える。バイアルは処理の途中でセプタム付きキャップを用いて閉栓される。セプタムにはスリットが設けられている。ロータリーテーブル100は上方から見て、反時計回りに回転する。ロータリーテーブル100の周囲には、ロータリーテーブルの回転方向に向かって、硫酸亜鉛分注処理部200、全血攪拌及び分注処理部300、閉栓及び攪拌処理部400、メタノール分注処理部500、攪拌処理部600、遠心処理部700、上清回収処理部800が順に配置されている。ロータリーテーブル100が矢印で示した回転方向に一分毎に一定の角度ずつ回転することにより、それぞれの処理部によりバイアル10内の全血試料に対して硫酸亜鉛分注処理、全血攪拌及び分注処理、閉栓及び攪拌処理、メタノール分注処理、攪拌処理、遠心処理、上清回収処理の各処理が順番に実行される。ロータリーテーブル100の回転制御及び各処理部200〜800における動作制御は、制御部900によって統一的に実行される。
本実施例では、ロータリーテーブル100の中心から半径R1の円周上にバイアル10を保持する穴(バイアル置き場)が一定間隔で複数設けられ、その内側の半径R2(R1>R2)の円周上に試料の入ったチューブ50を保持する穴(チューブ置き場)が複数設けられている。バイアル置き場とチューブ置き場は対になって同数設けられ、対をなすバイアル置き場とチューブ置き場はロータリーテーブルの動径方向に整列している。ここでは、ロータリーテーブルに20個のバイアル置き場と20個のチューブ置き場を設けた例によって説明する。
図2は、硫酸亜鉛分注処理部200の構成例を示す概略図である。硫酸亜鉛分注処理部200は、容器から一定量の硫酸亜鉛を吸引し、ロータリーテーブルの外周側に保持されたバイアルに吐出する処理を行う。
硫酸亜鉛分注処理部200は、ノズル211の先端に使い捨てチップ212を装着可能な吸引吐出ポンプ210、ポンプ210を水平方向に移動させる水平ステージ220、ポンプ210を垂直方向に移動させるZステージ230、複数の使い捨てチップ212を保持するチップラック240、硫酸亜鉛溶液を入れるための容器250、使い捨てチップを廃棄するためのチップ廃棄箱260を備える。チップ廃棄箱260の上部には、使い捨てチップをポンプのノズル211から取り外すための切欠き261を有するチップ取り外し具262が設けられている。
ポンプ210のノズル211に使い捨てチップ212を装着する際には、水平ステージ220を駆動してポンプ210をチップラック240に保持された使い捨てチップ212の上方に移動する。そこからZステージ230を駆動してポンプ210を下降させ、ポンプ210のノズル先端をチップラック240に保持された使い捨てチップ212に差し込む。その後、Zステージ230を駆動してポンプ210を上昇させることで、ノズル211の先端に使い捨てチップ212を装着することができる。
ポンプ210のノズル211から使い捨てチップ212を取り外す際には、水平ステージ220を駆動してポンプ210をチップ廃棄箱260の上方に移動する。そこからZステージ230を駆動して、ノズル211に装着された使い捨てチップ212の上端がチップ取り外し具262より下方に位置するまで下降させる。次に、再び水平ステージ220を駆動してポンプのノズル211をチップ取り外し具262の切欠き261に挿入する。切欠き261は、ノズル211の直径よりは大きく、使い捨てチップ212の上端の寸法よりは小さく設定されている。その後、Zステージ230を駆動してポンプ210を上昇させると、ノズル211はチップ取り外し具262の切欠き261内を自由に上昇することができるが、使い捨てチップ212はチップ取り外し具262に衝突して上昇が止められるため、ノズル211から使い捨てチップ212を取り外すことができる。外された使い捨てチップ212はチップ廃棄箱260の中に落ちる。
硫酸亜鉛分注処理部200は、制御部900による制御のもとで次のように動作する。ロータリーテーブル100に保持されたバイアル10に硫酸亜鉛を分注するに先立って、ポンプ210のノズル先端にチップラック240から新しい使い捨てチップ212を装着する。その後、水平ステージ220を駆動してポンプ210を容器250の上方に移動させ、そこからZステージ230を駆動してポンプ210を降下させ、使い捨てチップ212の先端を容器250内に挿入する。ポンプ210を駆動して容器250から所定量の硫酸亜鉛溶液を使い捨てチップ212に吸引する。吸引が終わると、Zステージ230及び水平ステージ220を駆動してポンプ210を移動し、ノズル211に装着された使い捨てチップ212をロータリーテーブル100に保持されたバイアル10に挿入し、吸引した硫酸亜鉛溶液をそのバイアル10に吐出する。その後、ステージ駆動によりポンプ210を移動し、ノズル211に装着された使用済みの使い捨てチップ212をチップ廃棄箱260のチップ取り外し具262を使って取り外す。
図3は、全血攪拌及び分注処理部300のうち分注処理部の構成例を示す概略図である。全血分注処理部300は、制御部900による制御のもとに、ロータリーテーブル100の内周側に位置するチューブ50から全血試料を吸引し、それをロータリーテーブルの外周側に位置するバイアル10に吐出する処理を行う。
全血分注処理部は、基本的に図2に示した硫酸亜鉛分注処理部と類似の構造を有する。すなわち、ノズル311の先端に使い捨てチップ312を装着可能な吸引吐出ポンプ310、ポンプ310を水平方向に移動させる水平ステージ320、ポンプ310を垂直方向に移動させるZステージ330、複数の使い捨てチップ312を保持するチップラック340、使い捨てチップ340を廃棄するためのチップ廃棄箱360を備える。チップ廃棄箱360の上部には、使い捨てチップ312をポンプ310のノズル311から取り外すための切欠き361を有するチップ取り外し具362が設けられている。
全血分注処理部は、制御部900からの指示に従って次のように動作する。ロータリーテーブル100に保持されたチューブ50から全血試料を吸引するに先立って、ポンプ310のノズル先端にチップラック340から新しい使い捨てチップ312を装着する。ノズル311の先端への使い捨てチップ312の装着、脱着の際の動作手順は前述の通りである。水平ステージ320を駆動してノズル先端に新しい使い捨てチップ312を装着したポンプ310をロータリーテーブル100の内周側に保持されている全血試料の入ったチューブ50の上方に移動する。その後、Zステージ330を駆動してポンプ310を降下させ、ノズル先端の使い捨てチップ312をチューブ50内に挿入して全血試料を所定量吸引し、吸引した全血試料をそのチューブ50に隣接する外周側の硫酸亜鉛が入ったバイアル10に吐出する。全血試料は粘度が高いため内径の小さな使い捨てチップを用いると詰まりが生じる。そこで、全血分注処理部で用いる使い捨てチップ312には、内径が1mm〜3mmのものを用いるのがよい。本実施例では、内径1.5mmの使い捨てチップを用いた。また、このような先太のチップはスリット付きであってもセプタムを貫通させるのに困難が伴うので、この時点でバイアル10には蓋をしていない。
図4は、血攪拌及び分注処理部300のうち攪拌処理部370の構成例を示す概略図である。攪拌処理部370は、本実施例ではロータリーテーブル100に保持された全血試料の入ったチューブ50の下方に設けられており、ポンプ310による全血試料の吸引の直前にチューブ50に振動を与えてチューブ内の全血試料を攪拌し、試料の均一化を図る。
本実施例の攪拌処理部370は、両軸シャフト371を備えるステッピングモータ372を有する。両軸シャフト371の一端には突起のあるロータ373が取り付けられ、他端には回転円板375が取り付けられている。回転円板375は、台座376に固定されたフォトセンサ377と共にロータリエンコーダを構成する。ロータ373は周方向の4個所に突起374を有し、モータ372が1回転する間に突起374がロータリーテーブル100のチューブ置き場の穴から下方に突出しているチューブ50の底部に4回衝突し、チューブ50に振動を与えて内部の全血試料を攪拌する。モータ372の停止時にはロータリエンコーダによりモータシャフト371の回転角度を制御し、ロータ373の突起374がチューブ50の下に来ないような回転位置でモータ372を停止させる。これにより、ロータリーテーブル100が回転移動するとき、全血試料の入ったチューブ50は攪拌処理部のロータ373に邪魔されることなくスムーズに移動することが可能になる。
図5は、閉栓及び攪拌処理部400の構成例を示す概略図である。閉栓処理は、ロータリーテーブル100によって搬送されてきた硫酸亜鉛と全血試料入りのバイアル10の上端に蓋、すなわちセプタム付きキャップを押し付けてスナップ式に嵌め込む処理である。これ以降、全血試料の前処理はセプタム付きキャップが嵌められて上部開口が閉じられたバイアル10内で行われる。
閉栓及び攪拌処理部400は、複数のセプタム付きキャップ11を保持するキャップラック440、下端にキャップを保持して移動する把持部410、把持部410を水平方向に移動させる水平ステージ420、把持部410を垂直方向に移動させるZステージ430を備える。撹拌処理は、セプタム付きキャップで蓋をされたバイアルの内容物を撹拌する処理である。撹拌処理部は、撹拌用ミキサ450、及びその上方に設けられて撹拌用ミキサに押し付けられるバイアルを通す穴を備えるガイド460を有する。攪拌用ミキサ450には、最大回転数が3400rpmであり、接触センサを備えるボルテックスミキサを用いた。撹拌用ミキサ450のON/OFFは接触センサを用いて行った。
図6は、バイアルとセプタム付きキャップの概略図である。左側はセプタム付きキャップ11を嵌めた状態のバイアル10の概略図であり、右側はバイアル10とセプタム12とキャップ11の分解図である。セプタム12には、細い使い捨てチップやシリンジの針を通すスリット13が設けられ、中央部に開口を有するキャップ11によってバイアル10の上端にスナップ式に押しつけることでスナップ式に嵌められる。
閉栓及び攪拌処理部400は、制御部900からの指示に基づいて次のように動作する。最初に水平ステージ420を駆動して把持部410をキャップラック440に保持されたセプタム付きキャップ11の上方位置に移動する。そこからZステージ430を駆動して把持部410を下降させ、把持部410で1個のキャップ11をつかむ。その後、Zステージ430を駆動して把持部410を上昇させると共に水平ステージ420を駆動して、キャップ11を把持した把持部410をロータリーテーブル100に保持されたバイアル10の上方に移動する。次に、Zステージ430を駆動してキャップ11を把持している把持部410をバイアル10に向けて下降させ、セプタム付きキャップ11をバイアル10に押しつけて閉栓する。
次に、閉栓したバイアル10のキャップ11を把持部410で把持したまま、Zステージ430及び水平ステージ420を駆動してバイアル10を攪拌用ミキサ450の上方に移動させ、ガイド460の穴を通してバイアル10を攪拌用ミキサ450に押しつける。撹拌用ミキサ450は接触センサによりバイアルの接触を検知して回転を開始し、それによってバイアル10の内容物が攪拌される。攪拌が終了すると、Zステージ430及び水平ステージ420を駆動して把持部410に把持されているバイアル10をロータリーテーブル100の元の位置に戻す。その後、把持部410によるバイアル10の保持を解除し、Zステージ430及び水平ステージ420を駆動して把持部410をホームポジションに移動して一連の動作を終了する。
図7から図10は、閉栓時の把持部の動作を説明する模式図である。本実施例では把持部410として、圧縮空気によって駆動されるエアハンドを用いた。エアハンドは圧縮空気によって互いに近づいた閉位置及び互いに遠ざかった開位置に駆動される一対のグリッパー411,412を備える。グリッパー411,412を閉位置に駆動することによって間にキャップ11をつかんだり、開位置に駆動することによってつかんでいるキャップ11を放したりすることができる。なお、把持部の機構として駆動源に圧縮空気を使うエアハンドに代えてモータでグリッパーを駆動する機構を用いてもよい。
図7は、キャップラック440のキャップ台441に置かれているセプタム12付きのキャップ11をエアハンドのグリッパー411,412でつかんだ状態を示す一部を破断して示した模式図である。図8はその断面模式図である。キャップ11はセプタム12と一体としてキャップラック440のキャップ台441に置かれている。エアハンドのグリッパー411,412は先端に内向きの爪413,414を備え、キャップ台441に置かれたキャップ11の周囲をグリッパー411,412で囲んで閉じたとき、キャップ11の下方にグリッパーの爪413,414が位置するように構成されている。従って、グリッパー411,412を閉位置に駆動し、その状態でエアハンドを上昇させると、キャップ11は下端がグリッパー411,412の爪413,414に引っかかってエアハンドと共に上昇し、キャップ台441から離れてエアハンドに把持される。
図9は、キャップ11の裏側から見た閉栓時のグリッパーの位置を示す模式図である。グリッパー411,412は閉位置にあり、グリッパーの爪413,414によってキャップ11は一対のグリッパー411,412の間に確実に保持されている。この状態で、エアハンドをロータリーテーブル100に保持されたバイアル10に対して上方から下降させることで、バイアル10の上端にセプタム12付きのキャップ11をスナップ式に嵌め込むことができる。
図10は、キャップ11の裏側から見た撹拌時のグリッパーの位置を示す模式図である。実際には、この状態ではキャップはバイアルに嵌められているが、バイアルは図示を省略している。撹拌時にはグリッパー411,412は開位置に駆動され、一対のグリッパー411,412の間には隙間が形成されている。上端が開放しているバイアルではなく閉栓したバイアルを撹拌するので、バイアルの内容物をこぼす心配なく強く撹拌することができる。また、グリッパー411,412の間に隙間があるので、撹拌時にバイアル10の内容物が少量セプタム12のスリット13を通って漏れ出たとしても、グリッパー411,412に付着して汚れになる可能性を低下させることができる。
図11は、メタノール分注処理部500の構成例を示す概略図である。メタノール分注処理は、内部標準物質含有メタノールを閉栓したバイアルにセプタムのスリットを通して分注する処理である。
メタノール分注処理部500は、内部標準物質含有メタノールを入れるための容器540、シリンジ510、シリンジ510を水平方向に移動させる水平ステージ520、シリンジ510を垂直方向に移動させるZステージ530、及びシリンジ510を洗浄するための洗浄ユニット550を備える。また、ロータリーテーブル100に載置されてメタノール分注処理部500の前に位置するバイアル10の上方に、シリンジ510の針511は自由に通るがバイアル10は通らない大きさの穴が設けられたガイド560が配置されている。シリンジの針511は内径が0.13mm〜0.94mmのものを用いるのがよい。メタノールは粘性が小さいため内径がこれより大きいと、シリンジ510内のメタノールが針511の先端から自然に滴下してしまい、分注時の制御が困難になる。また、セプタム12のスリット13を貫通させるには針511の径が細いほうが有利である。本実施例では、シリンジの針511として内径0.48mm、外径0.70mmのものを用いた。
メタノール分注処理部500は、制御部900からの指示に基づいて次のように動作する。水平ステージ520及びZステージ530を駆動してシリンジ510の針511を内部標準物質含有メタノールが入った容器540に挿入し、内部標準物質含有メタノールを所定量吸引する。次に、シリンジ510をロータリーテーブル100に保持されたバイアル10の上方に移動し、Zステージ530を駆動してシリンジ510を下降させ、シリンジの針511をガイド560の穴を通してセプタム12のスリット13からバイアル10内に挿入し、閉栓したバイアル10にメタノールを吐出する。吐出後、Zステージ530を駆動してシリンジ510を上昇させる。この時、シリンジの針511がセプタム12のスリット13に挟まっていて針511と一緒にバイアル10が持ち上がるため、ガイド560によりバイアル10が持ち上がるのを止めてシリンジの針511をセプタム12から抜く。その後、シリンジ510を洗浄ユニット550に移動し、シリンジ510の内洗、外洗をそれぞれ3回行う。洗浄液にはメタノールを用いる。シリンジ510の内洗は、メタノールを吸引し、吐出することで行う。
図12は、攪拌処理部600の構成例を示す概略図である。攪拌処理部600は、メタノール分注処理部においてメタノールを注入されたバイアルの内容物を撹拌する処理を行う。
撹拌処理部600は、バイアル10を把持する把持部610、把持部610を水平方向に移動させる水平ステージ620、把持部610を垂直方向に移動させるZステージ630、及び撹拌用ミキサ650を備える。攪拌用ミキサ650には、最大回転数が3400rpmであり、接触センサを備えるボルテックスミキサを用いた。撹拌用ミキサ650の上方には、バイアルを通し撹拌中のバイアルを保護する穴が設けられたガイド660が配置されている。把持部610には圧縮空気によって駆動されるエアハンドを用いたが、電動式の機構を用いてもよい。
撹拌処理部600は、制御部900の指示に基づいて次のように動作する。水平ステージ620を駆動して把持部610をロータリーテーブル100に保持されているバイアル10の上方に移動し、次にZステージ630を駆動して把持部610を降下させ、把持部610のグリッパーにより閉栓したバイアル10のキャップの部分をつかむ。その後、Zステージ630及び水平ステージ620を駆動して把持部610を攪拌用ミキサ650の上方に移動させ、Zステージ630を駆動して把持部610を降下させ、把持しているバイアル10をガイド660の穴を通して攪拌用ミキサ650に押しつける。撹拌用ミキサ650は接触センサによりバイアル10の接触を検知して回転を開始し、それによってバイアル10の内容物が攪拌される。攪拌が終了すると、Zステージ630及び水平ステージ620を駆動して、把持部610に保持されたバイアル10をロータリーテーブル100の元の位置に戻し、バイアル10の把持を解除する。
図13は攪拌処理部が備える把持部(エアハンド)610の概略図、図14は攪拌時の様子を示す模式図である。
図13は、グリッパーを開状態にしたエアハンドの概略図である。グリッパー611,612が開状態のとき、グリッパー611,612の下端に設けられた内向きの爪613,614の間を、バイアルのキャップが通過することができる。すなわち、グリッパー611,612を開状態にして閉栓したバイアル10の上方からエアハンドを降下させることで、グリッパー611,612の内側の空間にバイアルを閉栓しているキャップを包み込むことができる。その状態でグリッパー611,612を閉じると、図14にも示されているように、グリッパー611,612の下端に設けられた内向きの爪613,614の部分がバイアル10のくびれ部分をクランプする。グリッパー611,612を閉じたときグリッパーの内部に形成される空間の大きさは、キャップ11の径及び高さより大きいように設計されている。従って、図14に示した攪拌時に、エアハンドはグリッパーの爪613,614によってバイアル10のくびれ部の下に位置する肩の部分を下方に押してバイアル10を攪拌用ミキサに押しつけることになる。このとき、撹拌されているバイアル10のキャップ上方には空間が形成されている。
本実施例では、グリッパー611,612の形状として、閉栓及び攪拌処理部400が備える把持部のグリッパー411,412とは異なる形状を採用した。これは次のような理由による。当初、図9、図10に示した閉栓及び攪拌処理部400と共通のグリッパーを用いて攪拌を行っていたが、キャップ11とセプタム12の隙間から内容物が染み出す場合があることが判明した。これは、(1)バイアル10に入っている内容物の量が最初の攪拌時と比べて多いこと、(2)メタノールを加えたために内容物の粘性が下がったこと、が主な原因と考えられた。攪拌時にキャップ11を押さえてバイアル10を揺らす方式だと、キャップ11とバイアル10の間にどうしても隙間ができてしまうので、上記(1)(2)のような厳しい条件下では内容物が隙間から漏れ出ることが生じる。そこで、攪拌時にバイアル10のくびれ部の下の肩の部分を押さえると、キャップ11に力がかからないので隙間ができず、内容物の染み出しを防止することができる。
図15は、遠心処理部700の構成例を示す概略図である。遠心処理部700は、メタノールの添加により凝固した全血試料中の余分なタンパク質を遠心分離してバイアルの底に沈殿させる処理を行う。
遠心処理部700は、バイアルを把持する把持部710、把持部710を水平方向に移動させる水平ステージ720、把持部710を垂直方向に移動させるZステージ730、Zステージ730を垂直方向に対して傾斜させる揺動ステージ740、一度に10個のバイアルを収容して処理することのできる遠心機750、それぞれ10個のバイアル10と10個のサンプリングカップ15を載置して移動することのできる2個の搬送用プレート760、搬送用プレート760を遠心処理部が備える水平ステージ720の下方と後述する上清回収処理部が備える水平ステージの下方の間の所望位置に移動させるプレート搬送ステージ770を有する。各搬送用プレート760には予め10個の空のサンプリングカップ15が載置されており、その横にバイアルを載置する場所が10個分設けられている。2個の搬送用プレート760とプレート搬送ステージ770は、遠心処理部700と次段の上清回収処理部との間で共有される。遠心機750のロータ751の上部には、遠心機運転中の安全確保のために防護用のカバー752,753が設けられている。一方のカバー752は固定であり、他方の可動カバー753は開閉可能である。把持部710には、閉栓処理部400が備えるエアハンドと同様の機構を用いた。
遠心処理部700は、制御部900の制御下に次のように動作する。水平ステージ720を駆動して把持部710をロータリーテーブル100に保持されたバイアル10の上方に移動させ、次にZステージ730を駆動して把持部710を降下させ、把持部710のグリッパーの開閉動作によりバイアル10を把持する。ロータリーテーブルから引き上げられたバイアルは搬送用プレート760に移され、一時的にそこで保管される。その後、搬送用プレート760上のバイアルは、把持部710により把持されて1個ずつ遠心機750のロータ751に設けられたバイアル保持穴に挿入される。バイアル保持穴はロータ751の回転軸に対して斜め下方を向いているため、バイアル挿入時には縦長のバイアル10の中心軸をロータ751のバイアル挿入穴の軸方向に一致させる必要がある。そのため、揺動ステージ740を駆動して把持部710が取り付けられているZステージ730の軸を鉛直方向に対して傾斜させ、把持部710に把持されたバイアルの中心軸がロータ751のバイアル挿入穴の軸方向と一致するように調整する。その後、水平ステージ720とZステージ730を同時に駆動して、把持部710に把持されたバイアル10を遠心機750のロータ751のバイアル挿入穴に挿入する。
ロータ751を所定角度回転させてバイアル挿入動作を反復し、10個のバイアル挿入穴の全てにバイアルを挿入する。このときロータ751の正しい位置にバイアルを配置する必要があるため、ロータ751の回転位置を自動的に認識する必要がある。本実施例では、ロータ751の位置合わせを高速に行うために2つのセンサを用いた。最初にロータに照射したLEDの反射光をファイバーセンサで検知し、ラフな原点合わせを高速で行う。次に、遠心機750に備わっているエンコーダを用いて、精密な位置合わせを低速で行う。ロータ751へのバイアル挿入が完了すると、ロータ上部の可動カバー753を閉じる。その後、ロータ751を回転させて遠心処理を行う。遠心は6000Gで2分間行う。ロータ751に挿入した10個のバイアルについての遠心処理が終わると、挿入時と逆の動作を反復して遠心機750のロータ751からバイアルを抜き取り、搬送用プレート760の所定の位置に載置する。10個のバイアルが載置された搬送用プレート760は、プレート搬送ステージ770によって次段の上清回収処理部800に搬送される。
図16は、遠心機750の平面模式図である。遠心機750はロータケース754の中にロータ751を収容した構造を有し、高速回転中のロータ751がロータケース754から飛び出すことがないように上部に防護用のカバー752,753が設けられている。本実施例の遠心機は、ロータ751のバイアル挿入穴4個分の上部を覆う固定カバー752と、残りのバイアル挿入穴6個分の上部を覆う開閉可能な可動カバー753を備える。ロータ上部の一部だけを堅牢な固定カバー752で覆い、他の部分を開閉可能な可動カバー753で覆っているのはバイアルの挿入、取り出しのためにロータ751に上部からアクセスする必要があるためである。
図17は、遠心機の上部を覆う防護用カバーの他の例を示す平面模式図である。本例では、ロータへのバイアルの挿入や取り出しのために最低限必要な領域を開閉可能なカバーで覆い、残りの大部分の領域を堅牢な固定カバーで覆う構造とした。すなわち、ロータの直径上に位置する2個のバイアル挿入穴の上部領域のみを開閉可能な可動カバー756で覆い、残りの8個のバイアル挿入穴を含むロータ上部は2つの固定カバー752,755で覆う構造とした。可動構造は固定構造に比べて堅牢性に劣るため、本実施例のように可動カバーで覆う面積を小さくする方が遠心機の安全性は増す。なお、2個のバイアル挿入穴の上部を覆う可動カバー756を除去し、バイアル挿入のためにロータへのアクセスが必要な領域を常時開放した構造としても構わない。
図18は、上清回収処理部800の構成例を示す概略図である。上清回収処理部800では、遠心処理が終了したバイアル10から上清液を回収し、サンプリングカップ15に注入する処理を行う。この段階で全血試料の前処理は終了し、次にサンプリングカップ内に回収された上清液に対して液体クロマトグラフィや質量分析計を用いた所望の分析が実行されることになる。
上清回収処理部800は、バイアル10を閉栓しているセプタムを介して上清を吸引するシリンジ810、シリンジ810を水平方向に移動させる水平ステージ820、シリンジ810を垂直方向に移動させるZステージ830、シリンジ830を洗浄する洗浄ユニット840を備える。また、搬送用プレート760上のバイアル10やサンプリングカップ15に対してシリンジ810によって吸引、吐出動作をする位置の上方に、シリンジの針811は自由に通過できるがバイアル10やサンプリングカップ15は通過できない大きさの穴が設けられたガイド850が配置されている。搬送用プレート760とプレート搬送ステージ770は、遠心処理部700と上清回収処理部800の間を往復移動する。シリンジの針811は内径が0.13mm〜0.94mmのものを用いるのがよい。また、セプタムを貫通させるには針811の径が細いほうが有利である。本実施例では、シリンジの針811として内径0.48mm、外径0.70mmのものを用いた。
上清回収処理部800は、制御部900の制御下に次のように動作する。水平ステージ820を駆動してシリンジ810を搬送用プレート760に載置されているバイアル10の上方に移動する。次に、Zステージ830を駆動してシリンジ810を降下させ、シリンジの針811をガイド850の穴を通過させてセプタムのスリットからバイアル10内に挿入し、上清を吸引する。吸引後、Zステージ830を駆動してシリンジ810を上昇させる。この時、シリンジの針811がセプタムのスリットに挟まっていてシリンジの針811と共にバイアル10が持ち上がるので、ガイド850を利用してバイアル10の上昇を止め、シリンジの針811をセプタムのスリットから引き抜く。
その後、水平ステージ820を駆動してシリンジ810を搬送用プレート760に載置されているサンプリングカップ15の上方に移動させる。次に、Zステージ830を駆動してシリンジ810を降下させ、シリンジの針811をガイド850の穴及びサンプリングカップ15を閉栓しているセプタムのスリットを通してサンプリングカップ15に挿入し、回収した上清を吐出する。上清吐出後、ガイド850を利用してセプタムのスリットに挟まったシリンジの針811を引き抜き、シリンジ810を上昇させる。その後、水平ステージ820及びZステージ830を駆動してシリンジ810を洗浄ユニット840に移動させ、シリンジ810の内洗、外洗をそれぞれ3回行う。洗浄液にはメタノールを用いる。シリンジの内洗は、メタノールを吸引し、吐出することで行う。なお、サンプリングカップ15には、キャップやセプタムで閉栓していない上部開口が開放したものを用いてもよい。
表1は、本実施例の試料前処理装置による全血試料前処理工程の詳細例を示す工程図である。本実施例では、患者の全血検体が500μL入った容量2.0mLのチューブ50を20本準備し、それをロータリーテーブル100の内周側のチューブ置き場に設置する。その後、制御部900の制御下に、各処理部200〜800による工程I〜IXの試料前処理が自動で実行される。
工程Iは、図2に示した硫酸亜鉛分注処理部200によって行われる。最初に、吸引吐出ポンプ210のノズル211に装着されている使用済みの使い捨てチップ212がチップ廃棄箱260に廃棄され、チップラック240に置かれた新しい使い捨てチップ212がノズル211に装着される。次に、ポンプ210により容器250から0.5M硫酸亜鉛水溶液が210μL吸引され、ロータリーテーブル100の外周側のバイアル置き場に載置されたバイアル10に分注される。なお、工程Iでは使い捨てチップ212を必ずしも毎回新しい使い捨てチップに交換する必要はなく、数回あるいは数十回の硫酸亜鉛水溶液を分注した後に新しい使い捨てチップに交換するようにしてもよい。使い捨てチップの利用により、洗浄ユニットの設置や洗浄処理を省略することができる。
工程IIは、図3及び図4に示した全血攪拌及び分注処理部300によって行われる。最初に、吸引吐出ポンプ310のノズル311に装着されている使用済みの使い捨てチップ312がチップ廃棄箱360に廃棄され、チップラック340に置かれた新しい使い捨てチップ312がノズル311に装着される。次に、攪拌部370が駆動されて全血試料の入ったチューブ50が10秒以上攪拌される。攪拌が終了した直後に吸引吐出ポンプ310と使い捨てチップ312により、チューブ50からバイアル10に全血試料が70μL移し替えられる。
図19は、攪拌前後のチューブの様子を示す図である。チューブ内の全血試料は、攪拌前には下部の濃い液層と上部の薄い液層に分離しているように見えるが、攪拌することによって均質化されていることが分かる。なお、硫酸亜鉛水溶液の入ったバイアルに全血試料を分注した後は、できるだけ早く攪拌することができるように、全血試料の分注は1分毎に回転するロータリーテーブルの回転直前のタイミングで行うのが好ましい。そうすることにより、分注が終了したバイアルは直ちに次段の閉栓及び撹拌処理部に搬送され、硫酸亜鉛水溶液と混合された全血試料は混合ののち最短時間で撹拌される。
工程IIIは、図5に示した閉栓及び攪拌処理部400によって行われる。最初に把持部410でキャップラック440からセプタム付きキャップ11が1個取られ、それが硫酸亜鉛水溶液と全血試料の入ったバイアル10に対して上方から降下されてバイアルの閉栓が行われる。その後、キャップを把持したままの把持部410が上方に移動され、ロータリーテーブル100から閉栓したバイアル10が取り出される。取り出されたバイアル10は攪拌用ミキサ450に押しつけられ、10秒以上、3400rpmで撹拌されて溶血される。攪拌処理が終了すると、バイアル10はロータリーテーブル100の元の位置に戻される。
工程IVは、図11に示したメタノール分注処理部500によって行われる。最初に、シリンジ510が洗浄ユニット550に移動され、シリンジ510の内洗、外洗がそれぞれ3回行われる。次に、シリンジ510を用いて容器540から内部標準物質含有メタノールが280μL吸引され、シリンジの針511がセプタムのスリットを通して閉栓されたままのバイアル10に挿入され、吐出する。
工程Vは、図12に示した攪拌処理部600によって行われる。把持部610によってロータリーテーブル100から内部標準物質含有メタノールが分注されたバイアル10が取り出される。取り出されたバイアル10は攪拌用ミキサ650に10秒以上押しつけられて3400rpmで攪拌される。攪拌が終わると、バイアル10はロータリーテーブル100に戻される。
工程VI〜VIIIは、図15に示した遠心処理部700によって行われる。
工程VIでは、把持部710を用いてロータリーテーブル100から取り出されたバイアル10が遠心機750のロータ751に設けられたバイアル保持穴に挿入される。このとき、搬送用プレート760がバイアルの仮置き場として利用され、ロータリーテーブル100から取り出されたバイアル10が一旦搬送用プレート760に搬送され、そこから遠心機750のロータに搬送される場合もある。
工程VIIでは、遠心機750のロータが高速回転(6000G、2分間)され、10個のバイアルに対して同時に遠心処理が行われる。遠心処理によって余分なタンパク質が沈殿する 除タンパク質が行われる。
工程VIIIでは、把持部710を用いて遠心機750のロータからバイアル10が1個ずつ取り出され、元の搬送用プレート760に並べて載置される。
工程IXは、図18に示した上清回収処理部800によって行われる。最初に、シリンジ810が洗浄ユニット840に移動され、シリンジの内洗、外洗がそれぞれ3回行われる。次に、シリンジの針811が搬送用プレート760に置かれた閉栓されたままのバイアル10のセプタムのスリットからバイアル内に挿入され、上清が350μL回収され、サンプルカップ15に移し替えられる。
図20は、前処理工程のタイムチャートの例を示す図である。横軸が時間(単位は分)、縦軸が検体番号である。それぞれの工程を表1に示したIからIXの工程番号で示した。工程I〜VI及び工程VIII〜IXはそれぞれ1分以内に処理が終了し、1分の間隔で次の工程に進む。工程VIIは1分以内に終了できない処理であるため、10検体をまとめて3分以内に処理する。
図20に示したタイムチャートで処理開始後6分〜15分に工程VIを行う#1〜10のバイアルは、2個ある搬送用プレートのうち第1の搬送用プレートをバイアルの仮置き場として利用して、タイミングを調整しながら停止状態にある遠心機のロータのバイアル挿入穴に順次挿入される。より詳細には、処理開始後6分〜10分に工程VIを行う#1〜5のバイアルは、2個ある搬送用プレートのうち第1の搬送用プレートをバイアルの仮置き場として利用し、第1の搬送用プレートに運ばれ、一旦そこに載置される。その後、#1〜4のバイアルは処理開始後11分に第1の搬送用プレートから順次遠心機のロータに挿入される。#5のバイアルは処理開始後12分に第1の搬送用プレートから遠心機に搬送され、ロータに挿入される。#6〜10のバイアルは、ロータリーテーブルから直接遠心機のロータに搬送され、バイアル挿入穴に挿入される。図中の工程VIに続く右向き矢印は、ロータリーテーブルから取り出されたバイアルが一時的に搬送用プレートに仮置きされ、矢印の右端の時間に遠心機のバイアル挿入穴に挿入されることを示している。
このように#1〜10のバイアルの全てについてロータリーテーブルから遠心機のロータに直接搬送することができないのは、#11〜20のバイアルに対するタイムチャートを見れば分かるように、ロータリーテーブルからバイアルを取り出したタイミングと工程VII及び工程VIIIにおける処理との関係で遠心機のロータのバイアル挿入穴にアクセスすることが不可能な時間帯があるからである。その時間帯に入った時には、ロータリーテーブルから取り出したバイアルを一旦搬送用プレート760に仮置きしてタイミングを調整し、遠心機のロータ751が停止してバイアル挿入穴にアクセル可能になったときに、搬送用プレート760から遠心機のロータのバイアル挿入穴に順次挿入するように制御される。
その後、処理開始後16〜18分に、ロータに挿入された#1〜10の10個のバイアルに対して同時に工程VIIの遠心処理が行われる。工程VIIが終了した処理開始後19〜20分に工程VIIIが行われる。これは、本実施例の場合、1分間でロータから5個のバイアルを取り出すことが可能なため、遠心機のロータから10個のバイアルを取り出す処理には2分間を要するためである。遠心機のロータから取り出された#1〜10の10個のバイアルは第1の搬送用プレートに載置される。
処理開始後16分〜25分に工程VIが終了した#11〜20のバイアルは、2個ある搬送用プレートのうち第2の搬送用プレートをバイアルの仮置き場として利用し、タイミングを調整しながら停止状態にある遠心機のロータのバイアル挿入穴に順次挿入される。26分以降に工程VIが終了したバイアルに対しては、10個ずつ上記第1の搬送用プレート及び第2の搬送用プレートへの振り分けを繰り返す。処理開始後19分〜20分に工程VIIIが終了した#1〜10のバイアルは遠心機のロータから第1の搬送用プレートに戻され、処理開始後29分〜30分に工程VIIIが終了した#11〜20のバイアルは第2の搬送用プレートに戻される。これ以降、同様にバイアルは10個ずつ上記第1の搬送用プレート及び第2の搬送用プレートへの振り分けが繰り返される。
全処理時間を合計すると21分であるため、1検体の処理にかかる時間は21分である。全ての動作が並列で行われる21分以降は1分ごとに上清を回収できるため、定常状態のスループットは10検体/10分である。
ここで、工程Iと工程IIは順序を入れ替えても構わない。すなわち、バイアルに最初に全血試料を分注し、そのあとで硫酸亜鉛を分注してもよい。内部標準物質は工程IVのメタノールではなく、工程Iの硫酸亜鉛に含有させてもよい。また、硫酸亜鉛は溶血させるための試薬である。溶血は、硫酸亜鉛、塩化アンモニウム、塩化ナトリウムなどを用いて浸透圧が高い溶媒を調製し、赤血球を破裂することで行われる。また、赤血球の細胞膜を構成する脂質を溶解、損傷させる界面活性剤やメタノール、アセトニトリル、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの有機溶媒を用いても溶血を起すことができる。溶血試薬として、硫酸亜鉛に代えて上記試薬を用いても良い。
また、工程IVで用いるメタノールは血液に含まれる不要なタンパク質を除去する目的で用いる試薬である。メタノールでタンパク質を凝集させると8,000G程度の遠心力で不要なタンパク質を 除去することができようになる。タンパク質凝集試薬として、メタノールに替えてアセトニトリル、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの有機溶媒を用いても同様の効果が得られる。有機溶媒は水で希釈してあってもよい。例えば、50%メタノールを用いてもよい。
また、上記実施例では、セプタムとして一方向にスリットが入ったものを用いたが、十字に切り込みが入ったセプタムを用いても良い。シリンジの針先の形状としては、スリットが入ったセプタムを前提として、先端が90°にカットされ研磨されたLCチップを用いたが、針先端を丸め、研磨したドームチップやセプタムを押し分けて通るコーンチップを用いてもよい。また、スリットの入っていないセプタムを用いることもできる。セプタムによって容器に蓋をするため、強い力で攪拌することが可能になる。
なお、閉栓時にスリットの入っていないセプタムを用いることも可能である。その場合には、シリンジの針として、セプタムを貫通可能な先の尖った針先形状を有するベベルチップを用いると良い。スリットの入っていないセプタムを用いると完全に密閉した容器内で溶血させることができ、スリットの入ったセプタムで蓋をした容器よりも、強い力で攪拌できる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
例えば、上記実施例ではロータリーテーブルに20個のチューブ置き場を用意し、装置の運転に先立ってオペレータがマニュアルでチューブ置き場に試料の入ったチューブを載置することによって、20個の検体を連続処理する例を説明した。しかし、本発明の分析用試料前処理装置は簡単な変更を加えるだけで、より多くの検体を連続処理することが可能である。すなわち、バイアルに試料を分注し終わったチューブをロータリーテーブルから取り出すチューブ取り出し機構と共に、ロータリーテーブルの傍に新しい試料の入ったチューブを搬送するチューブ搬送機構、及び搬送されてきたチューブをチューブ搬送機構からロータリーテーブルのチューブ置き場に移し替えるチューブ載置機構を追加設置する。更に、未使用のバイアルを搬送するバイアル搬送機構と、搬送されてきたバイアルをバイアル搬送機構からロータリーテーブルのバイアル置き場に移し替えるバイアル載置機構を追加設置する。これによりロータリーテーブル上にバイアルと試料の入ったチューブが連続的に供給され、20個以上の検体に対する連続前処理が可能になる。チューブ取り出し機構、チューブ載置機構及びバイアル載置機構は、例えば図5や図12に示したようなエアハンドを用いて構成することができる。また、チューブ搬送機構やバイアル搬送機構は、コンベアやラックを用いた既知の機構を用いて容易に実現することができる。
また、20個以上の検体を連続前処理するには、硫酸亜鉛分注処理部200や全血攪拌及び分注処理部300における使い捨てチップの補充機構、閉栓及び攪拌処理部400におけるセプタム付きキャップの補充機構、遠心処理部700及び上清回収処理部800に付随するプレート搬送ステージ770へのサンプルカップ15の補充機構、及びプレート搬送ステージ770からのバイアル10及びサンプルカップ15の取り出し機構、あるいはサンプルカップ15やバイアル10を載置したままプレート搬送ステージ770を交換する機構も必要となる。これらの機構も既知の搬送機構などを用いて容易に実現可能である。
更に、上記実施例では試料の入ったチューブを空のバイアルと共にロータリーテーブルの上に保持し、チューブからバイアルに試料を分注するように構成したが、この構成は本発明にとって必須ではない。チューブ搬送機構によって試料の入ったチューブをロータリーテーブルの傍に搬送し、先端に使い捨てチップを装着した吸引吐出ポンプによってチューブ搬送機構に保持されているチューブから試料を吸引し、それをロータリーテーブルに保持されているバイアルに吐出するように構成してもよい。この場合には、ロータリーテーブルの内周側に設けたチューブ置きは不要になる。なお、全血試料に対しては試料吸引の直前にチューブ内の試料を攪拌するのが望ましく、チューブ搬送機構の近傍に攪拌部を設置し、チューブ一本だけエアハンド等を用いて攪拌部に移動させ攪拌しても良いし、複数個のチューブを置いた容器ごと移動させ、ロータリーテーブルと同様の方法で攪拌させても良い。
また、バイアルを各処理部に決められたタイミングで搬送する機構として上記実施例ではロータリーテーブルを用いた。ロータリーテーブルを用いると複数の処理部をロータリーテーブルの周囲に配置することができるので、分析用試料前処理装置をコンパクトに構成できる。他の例として、複数の処理部の間を直線的なバイアル搬送機構によって結んでも構わない。
また、上記実施例では全血試料の前処理について説明した。しかし、本発明の分析用試料前処理装置は全血試料以外の試料、例えば血清や血漿の前処理にも使用することができる。血清や血漿の前処理においては、溶血処理は不要である。従って、本発明の分析用試料前処理装置を血清や血漿の前処理に適用する場合には、工程Iの硫酸亜鉛を分注する硫酸亜鉛分注部を停止させた状態で使用すればよい。血清、血漿試料においても、全血試料のように工程IIで行う直前の事前攪拌が望ましいが、必ずしも必須ではない。工程IIIの攪拌は不要になる。