〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係るループヒートパイプの構成例を示している。図1に示す構成は一例であり、本発明が斯かる構成に限定されるものではない。
図1に示すループヒートパイプ2は、本開示のループヒートパイプの一例であり、たとえばPC(Personal Computer)や携帯電話機、携帯情報処理装置などの電子装置に搭載される電子部品に設置され、その電子部品を冷却する冷却手段として機能する。この電子部品は、たとえば電子装置を動作させるためのコンピュータを構成するプロセッサやメモリモジュール、記憶部品、その他の機能部品が含まれており、駆動に伴って発熱する発熱体6の一例である。ループヒートパイプ2は、発熱体6に接触させ、またはその近傍に配置する蒸発部4、発熱体6から離間して配置される凝縮部10が含まれる。そして、蒸発部4と凝縮部10は、内部に液相の冷媒12を流す液管14と、内部に気相の冷媒16を流す蒸気管18とによって冷媒の循環経路を形成している。
蒸発部4は、内部に循環する液相の冷媒12に発熱体6が発した熱を吸熱させ、この冷媒12を気化させる手段の一例である。冷媒12は、気相の冷媒16に相変化するための気化熱(潜熱)によって発熱体6を冷却させる。
凝縮部10は、蒸発した気相の冷媒16を取り込み、その冷媒16を放熱させて、凝縮により液相の冷媒12に相変化させる。冷媒16は、液相の冷媒12への相変化による凝縮熱(潜熱)によって熱移送を行う。そして、液化された冷媒12は、液管14を通じて蒸発部4側に流されて、再び吸熱に利用される。
なお、蒸発部4および凝縮部10は、内部に冷媒12、16を流す流路が直線状のものに限られない。内部管路は、たとえば吸熱または放熱効率を上げるために、所定の長さで前後に折り返した往復管を形成し、吸熱または放熱経路を長くとってもよい。
ループヒートパイプ2は、たとえば電子装置内部において、電子部品が実装される基板やケース部品などに設置されており、蒸発部4と凝縮部10とが上下方向や斜め方向など、高低をもつ状態で配置されてもよく、または平面方向に同等の高さで配置されてもよい。また、液管14および蒸気管18は、たとえば蒸発部4と凝縮部10の配置距離や配置方向、ループヒートパイプ2の電子装置内部における設置状態、または電子装置内部の他の機能部品との配置関係などに応じて、経路の形状が形成されればよい。すなわち、液管14および蒸気管18は、たとえば蒸発部4と凝縮部10との間を直線状に連結させてもよく、または所定の長さで折返して形成して、流路を長くとってもよい。
<蒸発部4の内部構成について>
蒸発部4は、たとえば内部に冷媒12を通水させて発熱体6から吸熱させる吸熱管路20、この吸熱管路20の一部に設置されて冷媒12を流動させる流動手段22、吸熱管路20に連通され、気化した冷媒16を流す蒸気部24が含まれる。また蒸発部4には、蒸気部24と吸熱管路20とを連通させる還流路28が設置される。
吸熱管路20は、たとえば蒸発部4の筐体に接触して設置され、または筐体と一体に形成され、発熱体6から取り込んだ熱を液相の冷媒12に伝熱させる熱交換手段の一例である。吸熱管路20は、蒸発部4内において、単一に形成されてもよく、または径小な複数の管路で形成されてもよい。蒸発部4は、たとえば液相冷媒12の液面が吸熱管路20の出口側に設定され、加熱によって冷媒12が蒸発すると、その蒸発分の冷媒12が吸熱管路20側に供給される。吸熱管路20における冷媒12の蒸発と供給処理は、たとえば所定の時間(タイミング)毎に繰り返し行われるほか、連続的に行われる場合もある。
流動手段22は、吸熱管路20内に冷媒12を流動させる手段の一例であり、たとえば少なくとも吸熱管路20の出口側の一部に設置される。またこの流動手段22は、吸熱管路20内の冷媒12を流動させることで、ループヒートパイプ2の全体に対して冷媒12、16を循環させる手段として利用してもよい。流動手段22は、たとえば吸熱管路20とは独立した流動部品であるウィック(Wick)などを設置してもよく、または吸熱管路20と一体に形成し、管路形状などによって冷媒12を所定方向に流動させるものであってもよい。このような流動手段22は、たとえば内部に冷媒12を通水させ、その通水時に、冷媒12に対して流動力P1を付与して流動させる。この流動力P1は、たとえば冷媒12と流動手段22内に形成された管路の壁面などとの間に生じる毛細管力などが含まれる。そして流動力P1の付与は、たとえば吸熱管路20内において、冷媒12の気化により生じる液面の変位に応じて行われる。
蒸気部24は、たとえば一端側が吸熱管路20の出口側に連通され、気化した気相の冷媒16を取り込み、図示しない他端側に連結された蒸気管18側に冷媒16を流す手段の一例である。蒸気部24は、少なくとも吸熱管路20との連通側において、吸熱管路20の内径よりも径大に形成されており、また他端側の蒸気管18と同等の管径に形成すればよい。
<還流路28について>
蒸気部24には、たとえば冷媒16の流動経路に対して周縁側の管壁の一部に形成された開口部26に還流路28が連結されている。開口部26は、蒸気部24において、吸熱管路20との連通部分に近接した位置であって、たとえば冷媒16が結露した液化冷媒30が発生し易い管壁部分に形成されている。より具体的には、開口部26は、たとえば発熱体6から離間した側の管壁側であって、発熱体6側の管壁およびその周辺部分の温度と温度差が生じ易い部分に形成されればよい。開口部26の形成位置は、たとえば蒸気部24の形状や発熱体6との配置位置、および蒸発部4の筐体形状や厚さなどに基づいて決定してもよい。
開口部26に設置された還流路28は、他端側が吸熱管路20の途中部分であって、流動手段22の流入口側に接続される。還流路28は、結露水である液化冷媒30を回収し、冷媒12として吸熱管路20内に還流させる手段の一例である。還流路28は、たとえばループヒートパイプ2が吸熱処理を行っている場合、管路内が冷媒12で満たされており、冷媒12の液面が開口部26に形成される。
蒸発部4内では、吸熱による冷媒12の蒸発および流動手段22による流動力P1を冷媒12に付加させることで、通常の吸熱処理において、全ての冷媒12または大部分の冷媒12が液管14側から流動手段22側に流される。蒸気部24内が結露し、開口部26内の冷媒12の液面と液化冷媒30とが繋がり、液面が変位する。このとき還流路28は、還流路28内の冷媒12が流動力P1によって吸熱管路20側に引込まれることで、液面が開口部26内まで変位され、液化冷媒30を還流路28内に回収する。
斯かる構成によれば、少なくとも吸熱管路20の出口側に結露した液化冷媒30を滞留させないので、吸熱管路内20に冷媒12の液面を保持させることができ、ループヒートパイプ2の冷媒循環機能を維持させることができる。また、結露した液化冷媒30を吸熱管路20側に還流させ、ループヒートパイプ2内の冷媒12の循環量を維持することで、冷却機能の安定化が図られる。
〔第2の実施の形態〕
図2は、第2の実施の形態に係るループヒートパイプの構成例を示している。図2に示す構成は一例であり、本発明が斯かる構成に限定されるものではない。
図2に示すループヒートパイプ40は、本開示のループヒートパイプの一例であり、内部に循環させる冷媒12、16の相変化により発熱体6の熱を吸熱し、熱移送して放熱させる。この冷媒12、16は、たとえば水やアルコールなど、設定される加熱温度で気化するとともに、冷却により凝縮の設定温度で液化する媒体が用いられる。ループヒートパイプ40には、発熱体6に近接させて吸熱する蒸発部42、発熱体6から離間した位置で放熱させる凝縮部44が含まれ、この蒸発部42と凝縮部44との間に液相の冷媒12を流す液管14、気相の冷媒16を流す蒸気管18を備える。
<蒸発部42について>
蒸発部42は、たとえば内部に冷媒12を通水させる細管48が形成されており、この細管48内に冷媒12を通水させ、気化させて蒸気部50側に流す。すなわち、この細管48は、内部に通水させた冷媒12によって熱を吸熱させる吸熱管路の一例である。また、細管48は、たとえば液管14よりも径小に形成することで、内部に通水された冷媒12に対し、毛細管力を利用して冷媒12を循環させる循環手段の一例である。
ここで、管路内の液体に作用する毛細管力は、管壁と液体との接触面との濡れ易さ(液面角度)と液面の表面積を最小にしようとする表面張力および液体の密度によって大きさが決まり、管路内において液面を変位させる。この液面には、小径の管路の方が大きな毛細管力が作用する。そのため細管48は、たとえば吸熱によって気化した分の冷媒12を液管14からより大きな力で引張ることができ、これによって、ループヒートパイプ40全体の冷媒12に対し、大きな循環力を作用させることができる。
また、細管48には、細管48で蒸発した冷媒16を集約させ、蒸気管18側に流す蒸気部50の周縁側の一部に連通した還流路28が合流する。
蒸発部42は、たとえば図3に示すように、複数の細管48が並列に配置されており、液管14を通じて供給される冷媒12を分岐して流動させる。蒸発部42は、図示しない発熱体6の一面側に対して、これらの細管48を対向して配置する。これにより蒸発部42は、発熱体6に対して細管48の対向面積が大きくなり、冷媒12による吸熱効率を上げることができる。
還流路28は、たとえば蒸気部50および細管48に対し、図示しない発熱体6に対向させない面に並列に配置される。これにより還流路28内に溜められた冷媒12が発熱体6からの熱を吸熱し、気化するのを防止し、または最小限に抑えている。そのほか蒸発部42には、たとえば液管14と連通し、供給された冷媒12を細管48に分流させる液部52が形成される。
<細管48および還流路28の構成例について>
細管48には、たとえば図4のAに示すように、蒸気部50との連通部分に向けて、細管48の管径Daよりも径小な管径Dbの液流動管路54が形成されている。この液流動管路54は、ループヒートパイプ40の通常冷却動作において、細管48から取り込んだ冷媒12に吸熱させて気化させる。還流路28は、一端を細管48の途中部分であって、液流動管路54の流入口の前面に合流させている。この液流動管路54の管径Dbは、還流路28の管径Dcよりも十分に径小に形成されている。これにより液流動管路54は、並列に形成された還流路28よりも大きな毛細管力を生じさせて、内部に冷媒12を流動させる流動手段の一例である。
還流路28の管径Dcは、細管48の管径Daよりも径小に形成されている。これにより蒸発部42内における冷媒12が流れる管路の管径を比較すると、以下の条件となる。すなわち、細管48の管径Da>還流路28の管径Dc>液流動管路54の管径Dbとなり、これらの管径により作用する毛細管力は、細管48の毛細管力Pa<還流路28の毛細管力Pc<液流動管路54の毛細管力Pbとなる。
液流動管路54は、発熱体6から発した熱の吸熱を高めるために、たとえば流路一面の高さを発熱体6の近接側において、細管48と同様の高さに形成すればよい。
還流路28は、たとえば蒸気部50内に形成される開口部26の周囲に結露した液化冷媒30を導くための導水部56を形成してもよい。この導水部56は、たとえば図4のBに示すように、開口部26の周囲に、開口部26側に向けて円形またはそれに近似した形状であって、斜めに傾斜させたテーパ形状に形成すればよい。導水部56は、たとえば最縁部分の開口径Ddが還流路28の管径Dcよりも大きくなるように形成されている。
複数の細管48が隣接する蒸気部50では、たとえば隣接する導水部56同士を連結し、細管48の隣接方向に対して連続的に形成されてもよい。
<凝縮部44の構成について>
図5は、凝縮部内の構成および冷媒の状態例を示している。
図5に示す凝縮部44は、図示しない蒸気管18から流入した冷媒16を冷却することで冷媒16を凝縮させ、液化状態に相変化させて液管14側に流す。凝縮部44の管径Deは、たとえば液管14や蒸気管18と同等に形成してもよく、または液管14や蒸気管18よりも径大に形成して、管路の表面積を大きくとり、冷却機能を高めてもよい。凝縮部44は、たとえば冷媒16の冷却手段として、表面のケースなどに放熱手段46が設置される。この放熱手段46は、たとえば凝縮部44の表面に伝熱部材で形成された放熱フィンを設けてもよく、または冷却ファンなどを設置し、凝縮部44のケースや内部管路に対して冷却風を強制対流させてもよい。
凝縮部44は、内部管路の一部に液化した冷媒12の液面が形成される。この冷媒12の液面は、たとえば放熱手段46の放熱機能や冷媒16の温度、または発熱体6の発熱温度などに応じて位置が変位する。凝縮部44内の冷媒12には、液面おいて、蒸気管16側に向けて、管径Deに応じた毛細管力Peが作用する。この凝縮部44の内部管路の管径Deは、蒸発部42に形成された還流路28の導水部56の開口径Ddよりも小さく形成されている。さらにこの管径Deは、還流路28の管径Dcおよび液流動管路54の管径Dbよりも大きく設定されている。
<ループヒートパイプ40内における冷媒の流動状態について>
ループヒートパイプ40は、蒸発部42内の細管48、液流動管路54に充填された液相の冷媒12に作用する毛細管力により、発熱体6に対する冷却処理を実行する。また、蒸発部42では、蒸気部50内の内部に液化冷媒30が結露した場合、この液化冷媒30を導水部56で回収し、還流路28を通じて細管48側に流す。
次に蒸発部42内部における冷媒12の状態および冷媒12に作用する力の状態例について、ループヒートパイプ40の動作段階に基づいて説明する。
<蒸発部42に対する冷媒12の充填段階について>
図6および図7は、冷媒12の充填時における蒸発部42内部の状態例を示している。図6、図7に示す状態は一例である。
図6に示す蒸発部42は、たとえば冷却対象である発熱体6が駆動する前、または発熱体6に対する吸熱処理の開始状態の一例を示している。ループヒートパイプ40は、たとえば初期動作時や、直前まで停止や休止状態が維持されるなどにより、還流路28や液流動管路54内の経路途中に冷媒12の液面が配置されている。そこで、蒸発部42では、たとえば冷却準備処理として、冷媒12の充填を行う。冷媒12の充填では、たとえば液管14や蒸発部42の一部に外部から冷媒12を補充するほか、液管14などに滞留している冷媒12を蒸発部42側に流動させる処理を行う。
蒸発部42の細管48側に冷媒12が供給されると、細管48よりも管径が小さく形成された液流動管路54および還流路28内に冷媒12が充填される。このとき還流路28内の冷媒12液面には、毛細管力Pcにより冷媒12が細管48側から蒸気部50側の開口部26側まで吸い上げられる。また、液流動管路54内の冷媒12液面には、毛細管力Pbにより冷媒12が液流動管路54と蒸気部50側との境界部分まで吸い上げられる。
細管48、還流路28および液流動管路54内に冷媒12が充填されると、図7に示すように、その液面が連通した蒸気部50の境界部分に形成される。このような冷媒12の液面の形成は、たとえば還流路28または液流動管路54の管径に対して、蒸気部50が径大となっていることに基づく。つまり、毛細管力は、液面が周縁の管壁に濡れることで生じるが、径小な管と径大な管が連通する場合、その連通部分から径大な管に対して「濡れ」が広がらないため、液面が連通部分に形成され、蒸気部50内に溢れない。このように液面が蒸気部50との連通部分に設定されると、冷媒12の充填段階が完了する。
<冷媒12による吸熱処理について>
図8、図9は、発熱体6が発熱したときの冷媒12の状態例を示している。
発熱体6の駆動開始など、発熱体6が発熱する状態になると、蒸発部42は、たとえばケースで受熱し、細管48や液流動管路54内の冷媒12に伝熱する。液流動管路54内には、たとえば加熱された高温の冷媒12と、気化した冷媒16とが混在している。気化した冷媒16は、蒸気となって液流動管路54から蒸気部50側に流れる。そして蒸気部50に流入した冷媒16は、たとえば高圧状態となっており、高速で蒸気管18内を通じて凝縮部44側に流れる。
液流動管路54は、冷媒12の一部が気化して冷媒12が減少することで、冷媒12の液面が細管48側に後退する。このとき冷媒12には、液面を蒸気部50との連通部分まで戻そうとする毛細管力Pbが作用する。液流動管路54によって冷媒12に作用する毛細管力Pbは、図8のBに示すように、還流路28内に作用する毛細管力Pcや、凝縮部44内にある、冷媒12の液面に作用する毛細管力Peに比べて大きい。従って液流動管路54には、この毛細管力Pbにより、図9に示すように細管48から冷媒12が引込まれて充填されて、液面が変位する。液面が蒸気部50との連通部分まで達すると、冷媒12は、液流動管路54側への流入が停止する。
また、還流路28内の冷媒12は、たとえば液流動管路54内の冷媒12が気化すると、一部が液流動管路54側に流入する。還流路28の液面に対し、蒸気部50側に向けて作用する毛細管力Pcは、液流動管路54の液面に作用する毛細管力Pbよりも小さい。したがって、液流動管路54内の冷媒12に毛細管力Pbが作用すると、還流路28側の毛細管力Pcが対抗できず、冷媒12の一部が細管48側の合流部X側に流入し、液流動管路54側に充填される。また、還流路28に作用する毛細管力Pbは、凝縮部44側の液面の毛細管力Peよりも大きい。これにより還流路28は、冷媒12が減少すると、細管48側から合流部Xを通じて、冷媒12が充填され、液面が開口部26まで移動する。
<結露した液化冷媒30の回収原理について>
図10、図11、図12、図13は、蒸気部50内に発生した液化冷媒の回収原理を示している。図10、図11、図12、図13に示す構成や現象は一例である。
蒸発部42の蒸気部50の管壁には、たとえばケースの表面温度や蒸発部42周辺の温度との温度差により、冷媒16が冷やされて結露した液化冷媒30が付着する。液化冷媒30は、たとえば蒸気部50のうち、発熱体6から離間した管壁側に発生し易い。そして還流路28は、蒸気部50に対し、液化冷媒30が発生し易い部分に開口部26を開口して連通されている。
液化冷媒30は、たとえば時間経過や発熱体6の発熱温度変化などによって継続的に発生するとともに、蒸気部50の管壁において液化冷媒30が結合することで大きく発達する。液化冷媒30は、図10に示すように、開口部26周縁の導水部56側に発生し、または一部が導水部56に接触すると、導水部56のテーパ面によって開口部26内に導かれ、開口部26内の冷媒12と結合する。また、導水部56内に導かれた液化冷媒30は、たとえば液体の連続性により、近接した液化冷媒30を導水部56側に引込む。導水部56は、たとえば表面部分を親水性の材料で形成されてもよく、または表面部分にガラスコーティングなどの親水処理が施されてもよい。
導水部56に導かれた液化冷媒30は、図11のAに示すように、還流路28内の冷媒12と結合した状態で導水部56内に滞留する。このとき還流路28内の冷媒12は、液化冷媒30との結合により径大な導水部56内に液面が形成され、開口径Ddに基づく毛細管力Pdが作用する。
導水部56の開口径Ddは、凝縮部44内の管径Deよりも径大であることから、図11のBに示すように、毛細管力Pdが凝縮部44側の毛細管力Peよりも小さくなる。したがって、液流動管路54に作用する毛細管力Pbに対し、細管48側よりも還流路28内の冷媒12が引張られ易い状態となる。
液流動管路54は、内部の冷媒12の気化により液面が後退すると、毛細管力Pbを作用させて冷媒12を取り込む。この毛細管力Pbに対し、還流路28内の冷媒12に作用する毛細管力Pdは小さいので、還流路28側から冷媒12および液化冷媒30が液流動管路54側に取り込まれる。そして還流路28では、この冷媒12および液化冷媒30が液流動管路54側に取り込まれることで、液面が導水部56から開口部26側に後退する。
還流路28では、図12のAに示すように、液面が開口部26側まで後退すると、管径Dcに基づく毛細管力Pcが蒸気部50側に向けて作用する。この毛細管力Pcは、図12のBに示すように、凝縮部44内の液面に作用する毛細管力Peよりも強いため、還流路28から液流動管路54側への流入が停止し、または減少する。そして細管48側から液流動管路54への冷媒12の流入量が増加する。
そして液流動管路54は、図13に示すように、冷媒12の液面が蒸気部50との連通部分に到達すると、毛細管力Pbが減少し、または無くなり、冷媒12の充填が停止される。そして、蒸気部50では、還流路28内の冷媒12および取り込んだ液化冷媒30の液面の変位により、蒸気部50内の開口部26周辺に非結露エリアαを形成することができる。この開口部26は、蒸気部50と液流動管路54との連通部分の近傍に形成し、非結露エリアαが設けられることで、液化冷媒30が気化した冷媒16や液流動管路54内の冷媒12と繋がるのを阻止できる。
<液化冷媒の回収手段の変形例について>
図14は、導水部56およびその周辺構成の変形例を示している。
図14のAに示す蒸気部50は、たとえば液流動管路54との連通部分の周縁の壁部57の全部または開口部26の形成方向側の一部を冷媒12または液化冷媒30に対して濡れ難い部材で形成し、または表面を濡れ難い材質でコーティング処理を施してもよい。壁部57は、たとえば冷媒12や液化冷媒30が水の場合、疎水性材料で形成するほか、表面に耐熱性の撥水処理や鏡面処理を施してもよい。これにより、蒸気部50では、たとえば導水部56で回収できない壁部57側に、結露した液化冷媒30を付着させないことで、液化冷媒30と気化した冷媒16との接触を阻止することができる。
また、図14のBに示すように、開口部26、還流路28および導水部56は円形の場合に限られず、たとえば四角形やその他の多角形で形成されてもよい。開口部26、還流路28および導水部56の形状は、たとえば冷媒12に対する流路抵抗や、蒸気部50内に対する形成面積などに基づいて設定してもよい。また、開口部26、還流路28および導水部56を角形で形成することで、加工処理の簡易化が図れる。
斯かる構成によれば、液流動管路54内に冷媒12の液面を維持させることで、冷媒12の吸熱、気化による冷媒16の放出、液面の後退に基づく毛細管力による冷媒12の充填が繰り返され、冷媒12の滞留による高温化などを阻止し、冷却機能が維持される。また、結露した液化冷媒30によって蒸気部50内に冷媒の液面が形成されるのを阻止し、冷媒12の気化と充填とが繰り返えされて冷媒12の循環機能を維持させることで、蒸発部42の吸熱能力を安定化させることができる。ループヒートパイプ40内の管径の大小によって液面に生じる毛細管力のバランスによって還流路28内の冷媒12および液化冷媒30の流動方向が調整でき、強制的に流動させる手段などを別途設けることがなく、簡易な構成で結露水の回収ができ、ループヒートパイプの小型化や軽量化が図れる。
〔第3の実施の形態〕
図15は、第3の実施の形態に係る蒸発部の構成例を示している。図15に示す構成は一例であり、本発明が斯かる構成に限定されるものではない。
図15に示す蒸発部60は、本開示のループヒートパイプの蒸発部の一例であり、液管14から冷媒12が供給され、複数の細管48内に作用する毛細管力で冷媒12をループヒートパイプ内に循環させる。そして蒸発部60は、細管48内において、図示しない発熱体6から発した熱を冷媒12に吸熱させ、気化した冷媒16が蒸気部50を通じて蒸気管18側に排出させる。またこの細管48には、たとえば蒸気部50と連通する終端側の一部にウィック62が設置されている。
<ウィック62を備えた蒸発部60内部の構成について>
図16は、蒸発部内部の構成例を示している。図16に示す構成は一例である。
ウィック62は、本開示の流動手段の一例であり、毛細管力を冷媒12に付与して流動させる。ウィック62は、たとえば内層と外層の二層構造で形成され、内層に液相の冷媒12が通水される。そして外層には、たとえば内層表面に沿って微小な孔が形成されるほか、多数の微小な孔を形成した繊維部材が織り込まれて形成される多孔質構造となっており、この孔内に作用する毛細管力Pbによって内層の冷媒12を吸い上げる。
細管48には、たとえば図16のAに示すように、蒸気部50と連通する細管48の終端側の一部であって、細管48に対して還流路28と並列にウィック62が設置される流路64が形成されている。流路64は、設置されるウィック62の外層径に応じて形成されるが、たとえば細管48と同等の径で形成されればよい。ウィック62は、たとえば流路64に対し、図示しない接着手段を介在させるほか、固定手段によって固定させてもよく、または流路64の内表面に嵌合させてもよい。
還流路28は、図16のBに示すように、発熱体6から離間した部分に形成され、発熱体6に対してウィック62を介して対向状態となる。
ウィック62に生じる毛細管力Pbは、たとえば外層の孔の径により設定される。この蒸発部60では、冷却手段である細管48からウィック62側に冷媒12を流動させる
ため、還流路28側に作用する毛細管力Pc、凝縮部44側の冷媒12の液面に作用する毛細管力Peよりも強く冷媒12を流動させる必要がある。従って、ウィック62は、たとえば少なくとも、還流路28内の毛細管力Pcより大きな毛細管力Pbを作用させるように外層径が設定される。
<蒸発部60に対する冷媒12の充填段階について>
図17および図18は、冷媒充填時における蒸発部内の状態例を示している。
図17に示す蒸発部60は、細管48、ウィック62の終端側およびその外層表面側に冷媒12を満たすため、液管14や凝縮部44側の冷媒12を取り込み、充填処理を行う。液面が後退したウィック62には、たとえば孔径に基づいて発揮される毛細管力Pbが作用する。また還流路28には、管径Dcに基づいた毛細管力Pcが作用する。
細管48、還流路28およびウィック62内に冷媒12が充填されると、図18に示すように、冷媒12の液面が連通した蒸気部50の境界部分に形成される。
<冷媒12による吸熱処理および結露した液化冷媒30の回収処理について>
図19、図20、図21は、結露発生時の蒸発部内の状態例を示している。図19、図20、図21に示す構成は一例である。
発熱体6が発熱状態になると、ウィック62は、たとえば蒸発部60のケースを通じて加熱され、外層の表面側で冷媒12に吸熱させて気化させる。ウィック62は、気化した冷媒16が外層側から蒸気部50側に流されることで、冷媒12の液面が内層側に後退する。そしてウィック62は、孔に作用する毛細管力Pbにより、内層側から気化した分の冷媒12を外層側に吸い上げて充填し、冷媒12の液面を外層表面に形成させる。
還流路28内の冷媒12は、たとえば還流路28の液面に作用する毛細管力Pcがウィック62の毛細管力Pbよりも小さいことから、ウィック62が冷媒12を吸い上げるのに伴い、一部がウィック62側に流入する。そしてウィック62による冷媒12の吸い上げが止まると、還流路28は、毛細管力Pcにより細管48から冷媒12を吸い上げ、液面が開口部26側に復帰する。
ウィック62から放出される高温蒸気の冷媒16は、たとえば一部が蒸気部50内で結露することで液化冷媒30となり蒸気部50の管壁に付着する。この液化冷媒30は、既述のように、一部が導水部56を通じて開口部26内の冷媒12と繋がる。導水部56では、たとえば図20に示すように、開口部26および導水部56周辺の液化冷媒30を導き、滞留させる。このとき還流路28内の冷媒12は、導水部56に回収された液化冷媒30と繋がり、液面が導水部56内に形成されることで、径大な導水部56の開口径Ddに基づく毛細管力Pdが作用する。
この毛細管力Pdは、凝縮部44側の毛細管力Peよりも小さい。そのため還流路28は、ウィック62による冷媒12の吸い上げが行われると、冷媒12および液化冷媒30がウィック62側に流動し、液面が導水部56から開口部26側まで後退する。そして、還流路28では、たとえば図21に示すように、液面が開口部26側まで後退すると、管径Dcに基づく毛細管力Pcが蒸気部50側に向けて作用することで、ウィック62側への冷媒12の流入が停止し、または減少する。
蒸発部60では、ウィック62の毛細管力Pbによる冷媒12の吸い上げを利用して、還流路28および導水部56が取り込んだ液化冷媒30を回収し、吸熱のための冷媒12として利用する。これにより蒸気部50では、開口部26の周辺に非結露エリアを形成させ、気化した冷媒16やウィック62内の冷媒12と液化冷媒30が繋がるのを阻止する。
斯かる構成によれば、細管48の終端側に所定の毛細管力を発揮するウィック62を設けることで、液化冷媒30の回収が可能となり、細管48内部の加工処理が容易となる。
〔比較例〕
次に、従来のループヒートパイプの蒸発部内部の構成の比較例を説明する。図22は、蒸発部における結露状態の比較例を示している。
図22のAに示すループヒートパイプの蒸発部80において、吸熱管路82は、毛細管力により内部に冷媒12が充填されており、毛細管力により蒸気部84との連通部分に冷媒12の液面を吸い上げることで、ループヒートパイプ内に冷媒12を循環させている。
蒸気部84には、たとえば管路内のうち、発熱体86から離間した管壁側周辺の温度が低くなることで、気化した冷媒16が結露し、液化冷媒88が付着する場合がある。そして蒸気部84では、たとえば図22のBに示すように、吸熱管路82との連通部分に近い管壁に付着した液化冷媒88が気化した冷媒16と接触すると、この冷媒16を冷却し、結露させることになる。また、液化冷媒88が成長し、径大化することで吸熱管路82内の冷媒12と繋がる場合がある。そして蒸発部80では、結露の増加や液化冷媒88と冷媒12との結合が発生すると、冷媒12の液面が吸熱管路82から蒸気部84に前進してしまう可能性がある。
蒸気部84は、吸熱管路82よりも径大に形成されていることから、冷媒12に作用する毛細管力が小さくなり、ループヒートパイプ内における冷媒12、16の循環機能が低下する。このとき、吸熱管路82では、たとえば発熱体86から発した熱が冷媒12により吸熱されるが、蒸気部84内に液面があるため、冷媒12全体に熱が拡散してしまい、気化し難くなる。また吸熱管路82では、たとえば一部の冷媒12が気化し、気泡となって冷媒12の液面側に流れるが、毛細管力が作用せず、冷媒12の流動や循環は生じない。そのほか蒸気部84内に滞留した冷媒12は、たとえば発熱体86に近い面側が気化するが、発熱体86から離間した管壁側は気化し難くなり、冷媒12の気化が管路内で不安定化する。そのため、蒸発部80内部での冷媒12の液面の後退が生じ難く、冷媒12の循環機能が低下する。
また、蒸発部80は、たとえば発熱体86の放出熱量が多いなどの場合、蒸気部84内に溜まった冷媒12が高温となり、全て気化させて液面が吸熱管路82内に後退する可能性がある。しかし、蒸気部84内の冷媒12が気化するまでに時間を要すれば、発熱体86やその周囲が高温化してしまうことになり、発熱体86の安定的な冷却が行えない。
このような構成に対し、本開示のループヒートパイプによれば、蒸気部50内で結露した液化冷媒30を導水部56で取り込むとともに、吸熱管路側への冷媒12の循環を維持しつつ、毛細管力を利用して液化冷媒30を還流路28側に回収する。そして蒸気部50において、液化冷媒30を吸熱管路側に滞留させないので、冷媒12が吸熱管路から溢れさせるのを防止するほか、気化した冷媒16と液化冷媒30との接触を抑えることができる。これによりループヒートパイプは、蒸発部において、毛細管力を利用した冷媒12の循環状態を維持でき、安定的な冷却を行うことができる。
以上説明した実施形態について、その特徴事項や変形例を以下に列挙する。
(1) 上記実施形態では、ウィック62を細管48の先端側の一部に設置し、細管48の途中に還流路28を合流させる構成例を示したがこれに限られない。蒸発部60は、たとえば液部52(図15)に対して単一の流路または複数の流路64が形成され、その内部にウィック62を設けて形成してもよい。すなわち、上記実施の形態では、ループヒートパイプに対して冷媒12を循環させる毛細管力は、細管48内に作用する毛細管力Paとウィック62に生じる毛細管力Pbの合力となっているのに対し、ウィック62による毛細管力Pbのみで冷媒12を循環させてもよい。
そして、蒸発部60では、たとえばウィック62の内層の流入側に還流路28を合流させ、回収した液化冷媒30を流路64内に還流させるようにしてもよい。このような構成によれば、ウィック62は、たとえば外層に形成した微細孔によって毛細管力を生じさせ、冷媒12を流動させる。これによりウィック62は、流入側から蒸気部50との連通側の蒸発位置までの管路径を大きくとることができ、管路内の流動抵抗の影響が抑えられ、循環効率を高めることができる。
(2) 上記実施の形態では、還流路28は、蒸発部42のケースの内部に一体的に形成された場合を示したがこれに限られない。還流路28は、たとえば蒸発部42と独立したユニットとして形成され、蒸発部42のケース外部から取付け、または分離可能に構成してもよい。また、蒸発部42は、たとえば蒸気部50に対し、実際の使用状態に応じて、結露の発生し易い部分を選択して還流路28の取付位置を調整可能に形成してもよい。
(3) 上記実施の形態では、還流路28の開口部26の周縁にテーパ状の導水部56を形成する場合を示したがこれに限られない。導水部56は、還流路28内の冷媒12と繋がった液化冷媒30の液面の開口径Ddを径大にすればよく、たとえば開口部26の周縁に矩形の凹部が形成されてもよい。この凹部による導水部56によっても、径大な開口径Ddにより作用する毛細管力Pdが凝縮部44内の冷媒12液面に作用する毛細管力Peよりも十分に小さく設定されることで、液化冷媒30を還流路28内に回収させることができる。
次に、以上述べた実施例を含む実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。以下の付記に本発明が限定されるものではない。
(付記1)発熱体が発した熱により内部の冷媒を気化させて吸熱する蒸発部と、
前記蒸発部に対して凝縮部から液相の冷媒を流す液管路と、
前記蒸発部の出側に連通され、蒸発した気相の冷媒を前記凝縮部側に流す蒸気管路と、
を備え、
前記蒸発部は、
少なくとも出口側の一部に毛細管力を利用して液相の冷媒を流動させる流動手段を備え、内部に通水させた冷媒によって熱を吸熱させる吸熱管路と、
前記吸熱管路に連通され、蒸発した冷媒を前記蒸気管路側に流す蒸気部と、
前記蒸気部の周縁であって前記吸熱管路の近接側に開口部が形成され、前記蒸気部内に発生する結露水を取り込み、前記流動手段の流入側に結露水を還流させる還流管路と、
を備えることを特徴とする、ループヒートパイプ。
(付記2)前記還流管路は、前記吸熱管路との連結部分から前記蒸気部側の前記開口部まで冷媒が充填され、前記蒸気部内の結露水が前記開口部側で冷媒と繋がることで前記還流管路に作用する毛細管力を低下させて、結露水を取り込むことを特徴とする、付記1に記載のループヒートパイプ。
(付記3)前記開口部は、前記蒸気部側に向けて径大なテーパ状の導水部が形成されることを特徴とする、付記1または付記2に記載のループヒートパイプ。
(付記4)前記吸熱管路は、前記液管路よりも径小に形成され、前記流動手段とともに、毛細管力により液相の冷媒を前記凝縮部から前記液管路内に導き、循環させる循環手段で形成されることを特徴とする、付記1ないし付記3のいずれか1つに記載のループヒートパイプ。
(付記5)前記還流管路内の冷媒および結露水は、液面が前記開口部から前記蒸気部内に達することで前記流動手段の毛細管力により前記吸熱管路側に引かれ、液面が前記開口部内に有ることで毛細管力により前記蒸気部側に向けて液面が引かれることを特徴とする、付記1ないし付記4のいずれか1つに記載のループヒートパイプ。
(付記6)前記蒸気部は、前記吸熱管路および前記還流管路よりも径大に形成されることを特徴とする、付記1ないし付記5のいずれか1つに記載のループヒートパイプ。
(付記7)前記循環手段により生じる毛細管力は、前記還流管路内に作用する毛細管力よりも大きく設定することを特徴とする、付記4ないし付記6のいずれか1つに記載のループヒートパイプ。
(付記8)前記流動手段は、前記吸熱管路の一部を前記還流管路よりも径小に形成し、前記還流管路と並列に形成されることを特徴とする、付記1ないし付記7のいずれか1つに記載のループヒートパイプ。
(付記9)前記流動手段は、前記吸熱管路の一部に冷媒を流動させる多孔質構造が形成されることを特徴とする、付記1ないし付記7のいずれか1つに記載のループヒートパイプ。
以上説明したように、本発明の好ましい実施形態等について説明したが、本発明は、上記記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、または明細書に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論であり、斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。