本発明に係る接着剤組成物は、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含み、当該スチレン単位の含有量が10重量%以上、90重量%以下であり、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下であるエラストマーを、40重量%以上含み、上記接着剤組成物を用いて形成した接着剤層は、溶剤によって膨潤することにより、その表面の接着性が低下するようになっている。
〔エラストマー〕
本発明に係る接着剤組成物に含まれるエラストマーは、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含み、当該スチレン単位の含有量が10重量%以上、90重量%以下であり、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲であればよい。
本明細書において「構成単位」とは、重合体であるエラストマーを構成する構造において、一分子の単量体に起因する構造を指す。
本明細書において「スチレン単位」とは、スチレンを重合したときに重合体に含まれる当該スチレン由来の構成単位を指す。
接着剤組成物は、スチレン単位の含有量が10重量%以上、90重量%以下の範囲であり、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲である。このようなエラストマーを40重量%以上含めば、当該接着剤組成物からなる接着剤層は、溶剤によって膨潤することにより、その表面の接着性が低下するので、当該接着剤層により接着したウエハと支持体とを、より速やかに分離することができる。また、このような接着剤組成物からなる接着剤層は、膨潤することによってその表面の接着性が低下するので、当該接着剤層により接着したウエハと支持体とを分離するときに、接着剤層を膨潤させればよく、溶解させる必要はない。したがって、ウエハと支持体とを分離するのに必要な溶剤の量を少量に抑えることができる。ここで、接着剤層が膨潤するとは、接着剤層に溶剤が浸透し、接着剤層が膨張して体積が変化するような状態を含む。
また、スチレン単位の含有量およびエラストマーの重量平均分子量が上記の範囲であることにより、ウエハがレジストリソグラフィー工程に供されるときに曝されるレジスト溶剤(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等)、酸(フッ化水素酸等)、およびアルカリ(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、N−メチルピロリドン等)に対して、接着剤層が優れた耐性を発揮する。
スチレン単位の含有量は、50重量%より多いことがより好ましい。また、エラストマーの重量平均分子量のより好ましい範囲は20,000以上であり、また、より好ましい範囲は150,000以下である。
エラストマーとしては、スチレン単位の含有量が10重量%以上、90重量%以下の範囲であり、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲であれば、種々のエラストマーを用いることができる。具体的には、例えば、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SBBS)、および、これらの水添物;スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー)(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEEPS)等が挙げられ、スチレン単位の含有量および重量平均分子量が上述の範囲であるものを用いることができる。
上記エラストマーは、水添物であることがより好ましい。エラストマーが水添物であれば、熱に対する安定性が向上して分解や重合等の変質が起こり難く、さらに、炭化水素系溶剤への溶解性およびレジスト溶剤への耐性により優れる。
また、上記エラストマーのうち、分子の両末端がスチレン部位であるエラストマーがより好ましい。熱安定性の高いスチレン部位を両末端にブロック構造として有することで、エラストマーはより高い耐熱性を示す。
さらに、エラストマーは、分子の両末端がスチレン部位である、スチレンおよび共役ジエンのブロックコポリマーの水添物であることがより好ましい。これにより、熱に対する安定性が向上して分解や重合等の変質が起こり難く、さらに、炭化水素系溶剤への溶解性およびレジスト溶剤への耐性により優れると共に、熱安定性の高いスチレン部位を両末端にブロック構造として有することで、より高い耐熱性を示す。
また、エラストマーは、必要に応じて、分子内に官能基含有原子団を少なくとも一つ有していてもよい。当該エラストマーは、例えば、公知のブロック共重合体に対して、変性剤を用いて官能基含有原子団を結合させることによって得ることができる。
官能基含有原子団とは、一つ以上の官能基を含む原子団を指す。官能基含有原子団が含む官能基としては、例えば、アミノ基、酸無水物基(好ましくは無水マレイン酸基)、イミド基、ウレタン基、エポキシ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、およびアルコキシシラン基(当該アルコキシシラン基は炭素数1〜6であることが好ましい)が挙げられる。エラストマーが分子内に官能基含有原子団を少なくとも一つ有することにより、接着剤組成物の柔軟性および接着性がより向上する。
上記エラストマーとして用いることができる市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(商品名)」、同社製「ハイブラー(商品名)」、旭化成株式会社製「タフテック(商品名)」、JSR株式会社製「ダイナロン(商品名)」等が挙げられる。
本発明に係る接着剤組成物に含まれるエラストマーの含有量は、40重量%以上であればよいが、50重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることが最も好ましい。
また、エラストマーは、複数の種類を混合して用いてもよい。つまり、本発明に係る接着剤組成物は複数の種類のエラストマーを含んでもよい。本発明の接着剤組成物が、複数の種類のエラストマーを含む場合、混合した結果、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲になるように調整すればよい。そして、複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含み当該スチレン単位の含有量が10重量%以上、90重量%以下の範囲であり、複数の種類のエラストマーの総含有量が、40重量%以上であれば、本発明の範疇である。また、本発明に係る接着剤組成物において、複数の種類のエラストマーを含む場合、混合した結果、スチレン単位の含有量が上記の範囲となるように調整してもよい。例えば、スチレン単位の含有量が65重量%である株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton2104と、スチレン単位の含有量が12重量%であるセプトン(商品名)のSepton2063とを重量比1対1で混合すると接着剤組成物に含まれるエラストマー全体に対するスチレン含有量は38〜39重量%となり、10重量%以上、90重量%以下となる。また、例えば、スチレン単位が10重量%のものと60重量%のものとを1対1で混合すると35重量%となり、上記の範囲内となる。本発明はこのような形態でもよい。また、本発明に係る接着剤組成物に含まれる複数の種類のエラストマーは、全て上記の範囲でスチレン単位を含むことが最も好ましい。
本発明に係る接着剤組成物に含まれるエラストマーは、溶剤に対する相溶性を示すユニットと非相溶性を示すユニットとを有することが好ましい。このように、接着剤組成物に含まれるエラストマーに、溶剤に対する極性の異なるユニットが含まれていることによって、このような接着剤組成物からなる接着剤層に溶剤を添加したときに、接着剤層が膨潤し、その表面の接着性を低下させることができる。ここで、溶剤に対する相溶性を示すユニットとしては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの極性溶剤に対して相溶性を示すスチレン単位が挙げられ、非相溶性を示すユニットとしては、例えば、上記極性溶剤に対して非相溶性を示す長鎖アルキル単位が挙げられる。したがって、本発明に係る接着剤組成物に含まれるエラストマーとして、スチレン単位と長鎖アルキル単位とを含む水添スチレン系エラストマーを例示することができる。
また、本発明に係る接着剤組成物は、炭化水素樹脂を含んでいてもよい。炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有し、単量体組成物を重合してなる樹脂である。炭化水素樹脂として、シクロオレフィン系ポリマーが挙げられる。
シクロオレフィン系ポリマーとしては、具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂などが挙げられる。
前記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、またはこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーがより好ましい。
炭化水素樹脂を構成する単量体成分は、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、アルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、炭素数2〜10のアルケンモノマーが挙げられ、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィンが挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
また、炭化水素樹脂を構成する単量体成分として、シクロオレフィンモノマーを含有することが、高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)の観点から好ましい。炭化水素樹脂を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、炭化水素樹脂を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、特に限定されないが、溶解性および溶液での経時安定性の観点からは80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
また、炭化水素樹脂を構成する単量体成分として、直鎖状または分岐鎖状のアルケンモノマーを含有してもよい。炭化水素樹脂を構成する単量体成分全体に対するアルケンモノマーの割合は、溶解性および柔軟性の観点からは10〜90モル%であることが好ましく、20〜85モル%であることがより好ましく、30〜80モル%であることがさらに好ましい。
なお、炭化水素樹脂は、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂のように、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生を抑制する上で好ましい。
単量体成分を重合する際の重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
炭化水素樹脂として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」および「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」などが挙げられる。
炭化水素樹脂のガラス転移点(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。炭化水素樹脂のガラス転移点が60℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに接着剤層の軟化を抑制することができる。
(溶剤)
本発明に係る接着剤組成物に含まれる溶剤(主溶剤)は、エラストマーを溶解する機能を有していればよく、例えば、非極性の炭化水素系溶剤、並びに、極性および無極性の石油系溶剤等を用いることができる。
また、上記溶剤は、縮合多環式炭化水素を含んでいることがより好ましい。溶剤が縮合多環式炭化水素を含むことにより、接着剤組成物を液体状態で(特に低温にて)保存したときに生じ得る白濁化を防止することができ、製品安定性を向上させることができる。
炭化水素系溶剤としては、直鎖状、分岐状または環状の炭化水素が挙げられる。当該炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の炭素数3から15の直鎖状の炭化水素;メチルオクタン等の炭素数4から15の分岐状の炭化水素;p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、α−ピネン、β−ピネン、α−ツジョン、β−ツジョン等の環状の炭化水素が挙げられる。
石油系溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)等が挙げられる。
また、縮合多環式炭化水素とは、二つ以上の単環がそれぞれの環の辺を互いに一つだけ供給してできる縮合環の炭化水素であり、二つの単環が縮合されてなる炭化水素を用いることが好ましい。
そのような縮合多環式炭化水素としては、5員環および6員環の組み合わせ、または二つの6員環の組み合わせが挙げられる。5員環および6員環を組み合わせた縮合多環式炭化水素としては、例えば、インデン、ペンタレン、インダン、テトラヒドロインデン等が挙げられ、二つの6員環を組み合わせた縮合多環式炭化水素としては、例えば、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
これら溶剤は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。また、溶剤が上記縮合多環式炭化水素を含む場合、溶剤に含まれる成分は上記縮合多環式炭化水素のみであってもよいし、例えば、飽和脂肪族炭化水素等の他の成分を含有していてもよい。この場合、縮合多環式炭化水素の含有量が炭化水素系溶剤全体の40重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。縮合多環式炭化水素の含有量が炭化水素系溶剤全体の40重量%以上である場合には、上記樹脂に対する高い溶解性が発揮することができる。縮合多環式炭化水素と飽和脂肪族炭化水素との混合比が上記範囲内であれば、縮合多環式炭化水素の臭気を緩和させることができる。
上記飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の炭素数3から15の直鎖状の炭化水素;メチルオクタン等の炭素数4から15の分岐状の炭化水素;p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン等が挙げられる。
なお、本発明の接着剤組成物における溶剤の含有量としては、当該接着剤組成物を用いて成膜する接着剤層の厚さに応じて適宜調整すればよいが、例えば、接着剤組成物の全量を100重量部としたとき、20重量部以上、90重量部以下の範囲であることが好ましい。溶剤の含有量が上記範囲内であれば、粘度調整が容易となる。
(熱重合禁止剤)
本発明に係る接着剤組成物は、必要に応じて熱重合禁止剤を含有していてもよい。熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止する機能を有する。具体的には、熱重合禁止剤は、ラジカルに対して高い反応性を示すため、モノマーよりも優先的に反応してモノマーの重合を禁止する。接着剤組成物は、熱重合禁止剤を含むことにより、高温環境下(特に、250℃〜350℃)において重合反応が抑制される。
例えば、半導体製造工程においては、サポートプレート(支持体)が貼り付けられたウエハを250℃で1時間加熱する高温プロセスがある。このとき、高温により接着剤組成物の重合が起こると、高温プロセス後にウエハからサポートプレートを剥離する剥離液への接着剤組成物の溶解性が低下し、ウエハからサポートプレートを良好に剥離することができなくなる。ところが、接着剤組成物が熱重合禁止剤を含むことにより、熱による酸化およびそれに伴う重合反応が抑制されるため、高温プロセスを経たとしてもウエハからサポートプレートを容易に剥離することができ、残渣の発生を抑えることができる。
熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止する機能を有していればよく、特に限定されるものではないが、フェノール構造を有する熱重合禁止剤が好ましい。これにより、接着剤組成物は大気下での高温処理後にも良好な溶解性を確保することができる。フェノール構造を有する熱重合禁止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を用いることが可能であり、例えば、ピロガロール、ベンゾキノン、ヒドロキノン、メチレンブルー、tert−ブチルカテコール、モノベンジルエーテル、メチルヒドロキノン、アミルキノン、アミロキシヒドロキノン、n−ブチルフェノール、フェノール、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−[1−〔4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル〕エチリデン]ビスフェノール、4,4’,4”−エチリデントリス(2−メチルフェノール)、4,4’,4”−エチリデントリスフェノール、1,1,3−トリス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロパン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、n−オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名IRGANOX1010、BASF社製)、トリス(3,5−ジ−tert−ブチルヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。熱重合禁止剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
熱重合禁止剤の含有量は、エラストマーの種類、並びに接着剤組成物の用途および使用環境に応じて適宜決定すればよいが、例えば、エラストマーの量を100重量部としたとき、0.1重量部以上、10重量部以下であることが好ましい。熱重合禁止剤の含有量が上記範囲内であれば、熱による重合を抑える効果が良好に発揮され、高温プロセス後において、接着剤組成物の剥離液に対する溶解性の低下をさらに抑えることができる。
また、本発明に係る接着剤組成物は、必要に応じて、エラストマーを溶解するための溶剤(主溶剤)とは異なる組成からなり、熱重合禁止剤を溶解する添加溶剤をさらに含有していてもよい。添加溶剤としては、特に限定されないが、接着剤組成物に含まれる各成分を溶解する有機溶剤を用いることができる。
上記有機溶剤としては、接着剤組成物に含まれる各成分を溶解して均一な溶液にすることができる溶剤であればよく、任意の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機溶剤の具体例としては、例えば、極性基として酸素原子、カルボニル基またはアセトキシ基等を有するテルペン溶剤が挙げられ、例えば、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファーが挙げられる。また、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、上記多価アルコール類または上記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
添加溶剤の含有量は、熱重合禁止剤の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、熱重合禁止剤を1重量部としたとき、1重量部以上、50重量部以下であることが好ましく、1〜30重量部がさらに好ましく、1〜15重量部が最も好ましい。熱重合禁止剤の含有量が上記範囲内であれば、熱重合禁止剤を十分に溶解することができる。
(その他の成分)
本発明に係る接着剤組成物は、本発明における接着剤組成物の本質的な特性を損なわない範囲において、混和性を有する他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、接着剤組成物の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤および界面活性剤等の、慣用されている各種添加剤が挙げられる。
(接着剤組成物の調製方法)
本発明に係る接着剤組成物の調製方法は特に限定されず、公知の方法を用いればよいが、例えば、エラストマーを溶剤に溶解させ、既存の攪拌装置を用いて、各組成を攪拌することにより、本発明に係る接着剤組成物を得ることができる。
また、本発明に係る接着剤組成物に熱重合禁止剤を添加する場合には、熱重合禁止剤を、予め熱重合禁止剤を溶解させるための添加溶剤に溶解させたものを添加することが好ましい。
〔本発明に係る接着剤組成物の用途〕
本発明に係る接着剤組成物は、例えば、ウエハと当該ウエハの支持体とを貼り付け、積層体を形成するために用いられる。
支持体は、例えば、ウエハを薄化する工程で支持する役割を果たす部材であり、本発明に係る接着剤組成物によってウエハに接着される。一実施形態において、支持体は、例えば、その膜厚が500〜1000μmであるガラスまたはシリコンで形成されている。
本発明に係る接着剤組成物からなる接着剤層は、溶剤によって膨潤することにより、その表面の接着性が低下するので、当該接着剤層により接着したウエハと支持体とを、より速やかに分離することができる。また、本発明に係る接着剤組成物からなる接着剤層は、膨潤することによってその表面の接着性が低下するので、当該接着剤層により接着したウエハと支持体とを分離するときに、接着剤層を膨潤させればよく、溶解させる必要はない。したがって、ウエハと支持体とを分離するのに必要な溶剤の量を少量に抑えることができる。このように、本発明に係る接着剤組成物は、ウエハと当該ウエハの支持体とを接着する用途に特に適している。
なお、一実施形態において、支持体には、支持体を厚さ方向に貫通する穴が設けられている。この穴を介して接着剤組成物を溶解する溶剤を支持体とウエハとの間に流し込むことによって、支持体と基板とを容易に分離することができる。
また、他の実施形態において、支持体とウエハとの間には、接着剤層の他に反応層が介在していてもよい。反応層は、支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっており、反応層に光等を照射して反応層を変質させることによって、支持体とウエハとを容易に分離することができる。この場合、支持体は厚さ方向に貫通する穴が設けられていない支持体を用いることが好ましい。
反応層に照射する光としては、反応層が吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、リビーレーザ、ガラスレーザ、YVO4レーザ、LDレーザー、ファイバーレーザー等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He−Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、または、非レーザ光を適宜用いればよい。反応層に吸収されるべき光の波長としては、これに限定されるものではないが、例えば、600nm以下の波長の光であればよい。
反応層は、例えば光等によって分解される光吸収剤を含んでいてもよい。光吸収剤としては、例えば、グラファイト粉、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、テルルなどの微粒子金属粉末、黒色酸化チタンなどの金属酸化物粉末、カーボンブラック、または芳香族ジアミノ系金属錯体、脂肪族ジアミン系金属錯体、芳香族ジチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、スクアリリウム系化合物、シアニン系色素、メチン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの染料もしくは顔料を用いることができる。このような反応層は、例えば、バインダー樹脂と混合して、支持体上に塗布することによって形成することができる。また、光吸収基を有する樹脂を用いることもできる。
また、反応層として、プラズマCVD法により形成した無機膜または有機膜を用いてもよい。無機膜としては、例えば、金属膜を用いることができる。また、有機膜としては、フルオロカーボン膜を用いることができる。このような反応膜は、例えば、支持体上にプラズマCVD法により形成することができる。
また、本発明に係る接着剤組成物は、支持体と接着した後に薄化工程に供されるウエハと当該支持体との接着に好適に用いられる。上述のように、この支持体はウエハを薄化する際に当該ウエハの強度を保持する。本発明に係る接着剤組成物はこのようなウエハと支持体との接着に好適に用いられる。
また、本発明に係る接着剤組成物は、優れた耐熱性を有しているので、支持体と接着した後に150℃以上の環境下に曝されるウエハと当該支持体との接着に好適に用いられる。具体的には180℃以上、さらには220℃以上の環境下にも好適に用いることができる。
なお、本発明に係る接着剤組成物を用いてウエハと支持体とを接着する積層体の製造方法、当該積層体のウエハを薄化するウエハの薄化方法、当該積層体を220℃以上の温度で加熱する方法も本発明の範疇である。
〔接着剤組成物により形成された接着剤層の除去〕
本発明に係る接着剤組成物によって接着されたウエハと支持体とを、上記の反応層を変質すること等によって分離した後に、接着剤層を除去する場合、当該接着剤層を膨潤させる溶剤を接着剤層に供給すれば、接着剤層が膨潤してその表面の接着性が低下し、容易に除去することができる。また、上記の反応層等を用いずに、ウエハと支持体とを接着した状態で、接着剤層を膨潤させる溶剤を接着剤層に直接供給することによって、接着剤層が膨潤してその表面の接着性が低下し、ウエハと支持体とを容易に分離すると共に、ウエハから接着剤層を容易に除去することができる。この場合、接着剤層への溶剤の供給効率を上げるため、支持体には貫通した穴が設けられていることがより好ましい。
ウエハと支持体とを接着する接着剤層に、接着剤層を膨潤させる溶剤を供給する方法としては、例えば、接着剤層に上記溶剤を塗布する方法、支持体が分離されたウエハを上記溶剤中に浸漬する方法等が挙げられる。上記溶剤を接着剤層に供給するとき、上記溶剤を加温するまたは超音波を照射する等、溶剤の浸透を促進させるようにしてもよい。支持体が分離されたウエハを上記溶剤中に浸漬する方法によってウエハから接着剤層を除去した場合、接着剤層を除去した後の溶剤をフィルター等によりろ過すれば、溶剤を再利用することができる。
上述のようにウエハから接着剤層を除去した後、ウエハ表面にさらに溶剤を供給して、ウエハ表面を洗浄してもよい。ウエハ表面を洗浄する溶剤は、接着剤層を膨潤させるために用いた溶剤と同一であってもよいし、接着剤層を溶解させるような他の溶剤であってもよい。
〔接着フィルム〕
本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用形態を採用することができる。例えば、接着剤組成物を液体状態のまま、所望する接着剤層の膜厚に応じて適宜、公知の方法を用いて、被加工体であるウエハ上や支持体上に塗布し、乾燥させて接着剤層を形成する方法を採用してもよく、或いは、可撓性フィルム等のフィルム上に接着剤組成物を塗布し、乾燥させて接着剤層を形成することにより接着フィルムとした後、当該接着フィルムを、被加工体であるウエハや支持体に貼り付ける方法を採用してもよい。
このように、本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、本発明に係る接着剤組成物を含有する接着剤層が形成されている。
接着フィルムは、接着剤層にさらに保護フィルムを被覆して用いてもよい。この場合には、接着剤層上の保護フィルムを剥離し、被加工体の上に露出した接着剤層を重ねた後、接着剤層から上記フィルムを剥離することによって被加工体上に接着剤層を容易に設けることができる。
したがって、この接着フィルムを用いれば、被加工体の上に直接、接着剤組成物を塗布して接着剤層を形成する場合と比較して、膜厚がより均一でかつ表面平滑性の良好な接着剤層を形成することができる。
接着フィルムを構成する上記フィルムは、当該フィルム上に形成された接着剤層を剥離してウエハや支持体に貼り付ける(転写する)ことができるように離型性を備えていればよく、特に限定されるものではないが、可撓性フィルムであることがより好ましい。可撓性フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等の、膜厚15〜125μmの合成樹脂フィルムが挙げられる。上記フィルムには、必要に応じて、接着剤層の転写が容易となるように離型処理が施されていることが好ましい。
上記接着フィルムを形成する方法としては、接着剤層の乾燥後の膜厚が例えば10〜1000μmとなるように、所望する接着剤層の膜厚に応じて適宜、公知の方法を用いて、フィルム上に、本発明に係る接着剤組成物を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
また、保護フィルムを用いる場合、保護フィルムとしては、接着剤層から剥離することができる限り限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリエチレンフィルムが好ましい。また、各保護フィルムは、シリコンをコーティングまたは焼き付けしてあることが好ましい。これにより、接着剤層からの剥離が容易となる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、15〜125μmであることが好ましい。これにより、保護フィルムを備えた接着フィルムの柔軟性を確保することができる。
接着フィルムの使用方法は、特に限定されるものではないが、例えば、保護フィルムを用いた場合には、これを剥離した上で、被加工体の上に露出した接着剤層を重ねて、フィルム上(接着剤層の形成された面の裏面)から加熱ローラを移動させることにより、接着剤層を被加工体の表面に熱圧着させる方法が挙げられる。このとき、接着フィルムから剥離した保護フィルムは、順次巻き取りローラなどのローラでロール状に巻き取れば、保存して再利用することが可能である。
〔貼付方法〕
本発明に係る貼付方法は、本発明に係る接着剤組成物を用いて形成した接着剤層によって、ウエハに支持体を貼り付ける貼付工程を包含することを特徴としている。本発明に係る接着剤組成物により形成した接着剤層を用いてウエハと支持体とを貼り付けることによって、当該接着剤層は、溶剤によって膨潤することにより、その表面の接着性が低下するので、ウエハと支持体とを、より速やかに分離することができる。
貼付工程においては、本発明に係る接着剤組成物を用いて予め形成した接着剤層を介してウエハに支持体を貼り付けてもよいし、ウエハ上または支持体上に接着剤組成物を塗布して焼成することによって形成した接着剤層を介してウエハに支持体を貼り付けてもよい。接着剤組成物の焼成温度、焼成時間等は、使用する接着剤組成物等に応じて適宜選択することができる。
また、貼付工程においては、減圧環境下で加熱および加圧することによって、ウエハに支持体を貼り付けることができる。ウエハに支持体を貼り付けるときの温度、時間および圧力は、使用する接着剤組成物等に応じて適宜選択することができるが、例えば、貼り付け温度は50〜250℃であり、好ましくは100℃〜250℃である。貼り付け時間は10秒〜15分であり、好ましくは30秒〜10分である。貼り付け圧力は100kg〜10,000kgであり、好ましくは1,000kg〜10,000kgである。また、貼付工程において、減圧状態(例えば、1Pa以下)でウエハと支持体を貼り付けることが好ましい。
また、本発明は、以下の[1]〜[10]に記載の発明であり得る。
[1] ウエハと当該ウエハの支持体とを接着するための接着剤組成物であって、
主鎖の構成単位としてスチレン単位を含み、当該スチレン単位の含有量が10重量%以上、90重量%以下であり、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下であるエラストマーを、40重量%以上含み、
上記接着剤組成物を用いて形成した接着剤層は、溶剤によって膨潤することにより、その表面の接着性が低下するようになっていることを特徴とする接着剤組成物。
[2] 上記エラストマーは水添物であることを特徴とする[1]に記載の接着剤組成物。
[3] 上記エラストマーの両末端はスチレンのブロック共重合体であることを特徴とする[1]または[2]に記載の接着剤組成物。
[4] 上記エラストマーはスチレンおよび共役ジエンのブロック共重合体であることを特徴とする[1]〜[3]の何れか一つに記載の接着剤組成物。
[5] 上記スチレン単位の含有量が、50重量%より多いことを特徴とする[1]〜[4]の何れか一つに記載の接着剤組成物。
[6] 上記エラストマーは、上記溶剤に対する相溶性を示すユニットと非相溶性を示すユニットとを有することを特徴とする[5]に記載の接着剤組成物。
[7] 上記ウエハは、上記支持体と接着した後に薄化工程に供されることを特徴とする[1]〜[6]の何れか一つに記載の接着剤組成物。
[8] 上記ウエハは、上記支持体と接着した後に220℃以上の環境下に曝されることを特徴とする[1]〜[7]の何れか一つに記載の接着剤組成物。
[9] フィルム上に、[1]〜[8]の何れか一つに記載の接着剤組成物を用いて形成した接着剤層が形成されていることを特徴とする接着フィルム。
[10] [1]〜[8]の何れか一つに記載の接着剤組成物を用いて形成した接着剤層によって、ウエハに当該ウエハの支持体を貼り付けることを特徴とする貼付方法。
〔接着剤組成物の調整〕
実施例1〜10並びに比較例1および比較例2において使用したエラストマー(樹脂成分)、重合禁止剤、主溶剤、添加溶剤を以下の表1に示す。なお、表1中の「部」は全て重量部である。
エラストマーとして、株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton2004(SEP:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック)、HG252(SEEPS−OH:ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン 末端水酸基変性)、Septon4033(SEPS:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、Septon8007(SEBS:ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン)、Septon2104(SEPS:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、Septon2063(SEPS:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、旭化成株式会社製のタフテック(商品名)のH1053(SEBS、水添スチレン系熱可塑性エラストマー)、H1051(SEBS:スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロックコポリマー)、H1043(SEBS:ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン、水添スチレン系熱可塑性エラストマー)、ポリプラスチック株式会社製のTOPAS8007(シクロオレフィンコポリマー、エチレン:ノルボルネン=35:65(重量比)のコポリマー)、三井化学株式会社製のAPL8008T(シクロオレフィンコポリマー、エチレン:テトラシクロドデセン=80:20のコポリマー)を用いた。
また、実施例1〜10および比較例1および2の各エラストマーのスチレン含有量および分子量を表2に示す。重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)にて測定した。スチレン含有量は各商品に添付の説明に記載されていた数値である。なお、スチレンを含有しないエラストマーについては、スチレン含有量の欄に「−」と記載した。
さらに、熱重合禁止剤としては、BASF社製の「IRGANOX(商品名)1010」を用いた。また、主溶剤としては、下記化学式(I)に示すデカヒドロナフタレンを用いた。また、添加溶剤として、酢酸ブチルを用いた。
実施例1の接着剤組成物の調整は次の通り行なった。まず、表1に示すエラストマー100重量部を主溶剤であるデカヒドロナフタレンに25%濃度で溶解させた。次に熱重合禁止剤であるIRGANOX1010を溶解させた酢酸ブチル溶液を、エラストマー100重量部に対して、熱重合禁止剤が1重量部、酢酸ブチルが15重量部となるように加えた。これにより、接着剤組成物を得た。また、実施例2〜10、比較例1および2についても、表1に示す比率で、同様の手法により接着剤組成物を得た。
〔積層体の形成〕
半導体ウエハ基板(Si、12インチ)に、各接着剤組成物をスピン塗布し、100℃、160℃、200℃で各5分間焼成して膜厚100μmの接着剤層を形成した。
なお、各接着剤組成物の成膜性は、15μm以上の塗布が可能か否かを目視で確認することによって評価した。15μm以上の塗布が可能であれば「○」、不可能であれば「×」とした。結果を表1に示す。
一方、ベアガラス製の支持体(12インチガラス基板、厚さ700μm)には、流量400sccm、圧力700mTorr、高周波電力2500Wおよび成膜温度240℃の条件下において、反応ガスとしてC4F8を使用したCVD法により、分離層であるフルオロカーボン膜(厚さ1μm)を形成した。
ウエハ上に成膜した接着剤層と支持体に形成した剥離層とを、215℃の減圧下において、1,000kgで貼り合わせて、積層体を形成した。各接着剤組成物を用いて形成した積層体について、その後の薄化処理および加熱処理における破損並びにウエハの面内均一性の低下につながる貼付不良(未接着部分)がないことを目視で確認した。
〔積層体の薄化・加熱処理〕
形成した各積層体において、ウエハの裏面をDISCO社製のバックグラインド装置を用いて薄化処理(50μm)した後、N2環境下において、220℃で3時間の加熱処理を行い、薄化処理に対する耐性、および、耐熱性(表1)に問題がないことを確認した。なお、表1において、耐熱性に問題がなければ「○」、問題があれば「×」で示した。
〔剥離処理〕
薄化処理および加熱処理後の積層体に対して、支持体側から532nmのレーザを照射し、支持体と接着剤層との間を分離した。支持体が分離されたウエハを、室温で200mLのPGMEA溶剤中に5分間浸漬した。PGMEA溶剤中に浸漬した後に、ウエハから接着剤層を分離可能か否かを評価した。ウエハから接着剤層が分離可能であれば「○」、不可能であれば「×」とした。結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜10の各接着剤組成物を用いて形成した接着剤層はPGMEA溶剤に浸漬することで膜状に膨潤し、ウエハから容易に分離できることを確認した。一方、比較例1および比較例2の各接着剤組成物を用いて形成した接着剤層は、PGMEA溶剤に浸漬しても膨潤せず、ウエハから分離することができなかった。