JP6188929B2 - 肺高血圧症の検査方法 - Google Patents

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Description

本発明は、主に肺高血圧症の検査方法に関する。また、本発明は肺高血圧症を検出するためのバイオマーカー、肺高血圧症の検査キットにも関する。
肺高血圧症は種々の原因により肺動脈の血圧が高くなる疾患である。WHOなどの分類においては、肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary arterial hypertension(PAH))、左心疾患による肺高血圧症(Pulmonary hypertension owing to left heart disease)、肺疾患および/または低酸素による肺高血圧症(Pulmonary hypertension owing to lung disease and/or hypoxia)、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(Chronic thromboembolic pulmonary hypertension(CTEPH))、およびその他の原因不明の複合式要因による肺高血圧症に分類される(非特許文献1〜5)。我が国では難病(特定疾患)に指定をされている疾患が多く含まれ、末期症状では肺移植が必要となる場合もある。
例えば、肺動脈性肺高血圧症においては、微小肺動脈の狭窄が生じることで、肺動脈の血圧が異常に高くなる。微小肺動脈の狭窄は、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の異常な増殖や変性が引き起こすと考えられている。肺動脈性肺高血圧症は、未治療の場合の5年生存率が20%という致死性疾患である。早期診断は循環器専門医でも難しく、診断された時点で既に終末期にあることも多い。重症患者を救う手段は依然として肺移植以外に無いが、ドナー数は限られ移植まで間に合わない症例が多い。若年症例の多くは急速に進行し、内科的多剤併用療法によっても右心不全により命を落とす症例が後を絶たない。近年我が国において患者数が増加傾向にあるが、未だ疾患の原因は十分には明らかにされていない。
近年、治療方法の進歩により、肺高血圧症は正しく診断を行うことができれば、十分な治療効果が期待できる。特に発見が初期であれば、治療の効果が期待でき、予後の改善を期待できる。例えば、肺動脈性肺高血圧症を初期の段階で発見できた場合には、適切な処置を行うことで、5年生存率は50%程度となる。
しかしながら、肺高血圧症の患者が初期に訴える自覚症状は、労作時の息切れ、倦怠感などの非特異的な症状に止まる。そのため、医師は主に問診を通じて、患者が肺高血圧症を有している可能性を判断する必要がある。さらに、肺高血圧症を正確に検査するためには、右心カテーテル検査、肺換気・血流シンチグラム、胸部造影CT等の検査を行う必要がある。すなわち、肺高血圧症の検査は、入院が必要であり、患者及び医療従事者の双方にとって負担が大きいのが現状である。
このような現状において、外来おいて、主にスクリーニング目的で、採血などによりに実施できる、簡便かつ正確に肺高血圧症を検査できる方法が望まれている。
また、セレノプロテインP(Selenoprotein P)タンパク質は、Se含有タンパク質(selenoprotein family)の1つであり、セレノシステイン残基を複数有する蛋白質である。セレノプロテインPタンパク質は、2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の原因の1つとなることや、肝細胞では、細胞外からのセレノプロテインPタンパク質による刺激が、細胞内のAMPK活性を抑制することも明らかにされている(非特許文献6)。しかしながら、セレノプロテインPタンパク質はそのシグナル経路も含め、未だ不明な点が多い。
日本循環器学会:肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版) J Am Col Cardiol 2009; 54(suppl): S78-84. Circulation 2009; 119: 2250-2294. Eur Heart J 2009; 30: 2493-2537. Euro Respir J 2009; 34: 1219-1263. Cell Metabolism 2010; 12: 483-495. J Am Col Cardiol 2013; 62(25 suppl): D34-41.
本発明は、主に肺高血圧症の検査方法を提供すること、特に簡便かつ正確に肺高血圧症を検査できる方法を提供することを主な課題とする。また、本発明は肺高血圧症を検出するためのバイオマーカー、肺高血圧症の検査キットを提供することも課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を指標として、肺高血圧症の検査ができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに検討をかさねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を包含する。
項1、被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を指標とする、肺高血圧症の検査方法。
項2、[1]被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を測定する工程、及び
[2]上記[1]の結果に基づき、肺高血圧症の有無及び/又はリスクを評価する工程を含む、請求項1に記載の方法。
項3、セレノプロテインPタンパク質の濃度が予め設定したカットオフ値より大きい場合に、肺高血圧症である及び/又は発症するリスクがあると評価する、請求項2に記載の方法。
項4、被験対象由来の試料が血漿である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
項5、セレノプロテインPタンパク質からなる、肺高血圧症を検出するためのバイオマーカー。
項6、被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を測定するための手段を含む、肺高血圧症の検査キット。
項7、下記の工程を含む、肺高血圧症の治療方法:
(i)被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を指標として肺高血圧症の検査をする工程、及び
(ii)肺高血圧症が検出された被験対象に、肺高血圧症を治療及び/又は肺高血圧症の進行の予防をするための処置を行う工程。
本発明により、簡便かつ正確に肺高血圧症を検査できる方法が提供される。本発明の検査方法は、患者の血液を検査することで行うことができる、外来診療で実施することができるなどの理由により、患者及び医療従事者の双方への負担が小さい。
本発明の検査方法により、肺高血圧症の患者が積極的に検査され、その結果、患者が有効な治療を早期に受けることができるようになると期待される。
図1は、肺高血圧症患者(PH、N=146)及び対照患者(Control、N=19)の血漿中セレノプロテインPタンパク質の濃度の測定結果を箱ひげ図により示す。肺高血圧症患者の血漿中で、セレノプロテインPタンパク質の濃度(ng/ml)が上昇している。P<0.001 図2は、特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺血管平滑筋細胞におけるセレノプロテインPタンパク質の検出結果を示す。正常酸素圧(normoxia)、低酸素圧(hypoxia)及びfasudil存在下での低酸素圧(hypoxia + fasudil)のそれぞれの条件下における、独立試行4例の結果を示す。上段は全細胞溶解液(whole cell lysates)、下段は条件培地(conditioned medium)における、ウェスタンブロット解析によるセレノプロテインPタンパク質の検出をそれぞれ示す。 図3は、肺高血圧症患者(PH、n=203)及び対照患者(Control、n=20)の血漿中セレノプロテインPタンパク質の濃度の測定結果を箱ひげ図により示す。 図4は、病型別の肺高血圧症患者の血漿中セレノプロテインPタンパク質の濃度の測定結果を箱ひげ図により示す。図中の星印及び丸印は、外れ値を示す。
1.肺高血圧症の検査方法
肺高血圧症
本発明の検査方法は、肺高血圧症を対象とする。
肺高血圧症とは、臨床所見として上昇した肺動脈圧(mPAP、例えば25mmHg以上)が認められる疾患を包含する。肺高血圧症は、肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary arterial hypertension(PAH))、左心疾患による肺高血圧症(Pulmonary hypertension owing to left heart disease)、肺疾患および/または低酸素による肺高血圧症(Pulmonary hypertension owing to lung disease and/or hypoxia)、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(Chronic thromboembolic pulmonary hypertension(CTEPH))、その他の原因不明の複合式要因による肺高血圧症などを包含する。
肺高血圧症の一病態として、肺動脈性肺高血圧症が挙げられる。肺動脈性肺高血圧症の顕著な臨床所見としては、上昇した肺動脈圧(mPAP、例えば25mmHg以上)と正常な肺動脈楔入圧(右心房圧)(PCWP、例えば、15mmHg以下)(以上は、例えば右心カテーテル検査で測定できる。);肺血流分布の異常が認められないこと(例えば、肺換気・血流シンチグラム検査により測定できる。)が挙げられる。
肺動脈性肺高血圧症は、血管内皮機能低下・血管平滑筋細胞増殖・炎症細胞浸潤などが複雑に相互作用し、肺微小血管の壁肥厚または狭小化(肺血管リモデリング)が進行する致死性疾患である。早期診断は循環器専門医でも難しく、肺移植実施施設に紹介された時点で、既に終末期にあることも多い。重症患者を救う最終手段は依然として肺移植以外に無いが、ドナー数は限られ、移植まで間に合わない症例が多い。なかでも、特発性肺動脈性肺高血圧症患者(Idiopathic PAH、IPAH)の多くは急速な進行を示し、肺動脈血管平滑筋細胞の異常増殖を特徴とする高度の肺動脈リモデリングを示すため、内科的多剤併用療法によっても右心不全のコントロールは難しく、若くして命を落とす症例が後を絶たない。従って、病期が進行する前に早期に診断及び治療をする必要性がある。
肺動脈性肺高血圧症は、特発性肺動脈性肺高血圧症(Idiopathic pulmonary arterial hypertension(IPAH))、遺伝性肺動脈性肺高血圧症(Heritable pulmonary arterial hypertension)、薬物/毒物誘起性肺動脈性肺高血圧症、他病態に関係した肺動脈性肺高血圧症、新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmonary hypertension of newborn)、結合組織病(Connective tissue disease)、門脈肺高血圧(Portal hypertension、porto-PH)、先天性心疾患(Congenital heart diseases、shunt PAH)等の病態を包含する。
肺動脈性肺高血圧症以外の肺高血圧症の各々についても、その病態は公知である。具体的には、我が国におけるガイドライン(非特許文献1)及び欧米のガイドライン(非特許文献2〜5)などの記載を参照することができる。
2013年のニース会議において、肺高血圧症の定義と臨床分類が改定された(本明細書において、「ニース分類」という。)(非特許文献1、非特許文献7)。
検査方法
本発明の検査方法は、被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を指標とする。
本明細書において、「検査」とは、肺高血圧症の有無の検査、及び、肺高血圧症のリスクの検査を含む。好ましくは、肺高血圧症の有無の検査を指す。「リスクの検査」とは、将来肺高血圧症を発症する可能性の有無の検査、判定を含む。「検査」は、「判定」、「診断」と換言することもできる。
試料、被験対象
本発明の検査方法において、試料は被験対象から採取したものを用いる。
試料は、検査方法の被験対象に由来する。被験対象は、特に限定されるものではないが、ヒトを含む哺乳類が例示される。非ヒト哺乳類としては、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマなどが挙げられる。本発明の検査方法の好ましい被験対象は、ヒトである。被験対象がヒトである場合、労作時の息切れ、胸部違和感などの肺高血圧症に特徴的な自覚症状を有する患者、好ましくは肺高血圧症の疑いがある患者が、被験対象として挙げられる。
被験対象がヒトである場合、被験対象の性別、年齢、人種は特に限定されない。本発明の好ましい態様の1つにおいては、被験対象は東洋人(例えば、日本人、中国人、韓国人など。)、特に日本人である。また、本発明の好ましい態様の1つにおいては、統計的に患者が多いとの観点から、被験対象は女性である。
試料としては、被験対象に由来する血液試料を好適に用いることができる。血液試料の具体例には、例えば血液(全血)及び血液に由来する血清、血漿などが含まれる。血液試料は好ましくは血漿である。血漿は、血液から血球成分を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させない条件下(例えば、クエン酸ナトリウムの存在下。)で遠心分離に供した際の上澄みとして得ることができる。
血液試料が由来する血管は限定されない。体循環の血管(動脈(末梢動脈)、静脈(末梢静脈)、毛細血管。)又は肺循環の血管(肺動脈、肺静脈、肺毛細血管。)から採血することができる。採血の簡便性の観点から、体循環の血管、特に静脈(末梢静脈)から採血をすることが好ましい。肺循環の血管は、右心カテーテル検査の際に採血をすることができる。
本発明の検査方法は、好ましくは、
[1]被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を測定する工程、及び
[2]上記[1]の結果に基づき、肺高血圧症の有無及び/又はリスクを評価する工程を含む、検査方法である。
セレノプロテインPタンパク質の試料中濃度
本発明の検査方法において、セレノプロテインP(Selenoprotein P、SeP)タンパク質の試料中濃度を指標とする。
セレノプロテインPタンパク質は、公知のタンパク質である。ヒトセレノプロテインPタンパク質は、selenoprotein P, plasma, 1(SEPP1)遺伝子座にコードされる、Se含有タンパク質(selenoprotein family)の1つであり、セレノシステイン残基を複数有する蛋白質である。主に肝臓から細胞外に分泌されることが知られている。名称の「P」は、「plasma」を意味する。
セレノプロテインPタンパク質は、2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の原因の1つとなることが知られている。一方で、肝細胞では、細胞外からのセレノプロテインPタンパク質による刺激が、細胞内のAMPK活性を抑制することも明らかにされている(非特許文献6)。しかしながら、セレノプロテインPタンパク質はそのシグナル経路も含め、未だ不明な点が多い。特に、肺高血圧症との関与は知られていない。
例えば、ヒト(Homo sapiens)及びマウス(Mus musculus)のセレノプロテインPタンパク質のアミノ酸配列及びこれをコードするmRNAの配列は、米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)が提供するGenBankに、下記のアクセッション番号で登録されている(複数のリビジョン(revision)が登録されている場合、最新のリビジョンを指すと理解される。):
ヒトセレノプロテインP タンパク質:NP_005401、NP_001078955、NP_001087195
ヒトセレノプロテインP mRNA:NM_005410、NM_001085486、NM_001093726
マウスセレノプロテインP タンパク質:NP_033181、NP_001036078、NP_001036079
マウスセレノプロテインP mRNA:NM_009155、NM_001042613 、NM_001042614。
セレノプロテインPタンパク質の血中濃度を測定する手段は、当業者が適宜選択することができる。好適には、セレノプロテインPタンパク質を特異的に検出することができる抗体(すなわち、セレノプロテインPタンパク質に特異的に結合する抗体。)(抗体(イムノグロブリンタンパク質)分子の全長、及び、F(ab)、F(ab')2等のフラグメントを含む。)を用いた免疫学的検定が例示される。免疫学的検定としては、ELISA、EIA、ウェスタンブロットなどが例示され、中でもELISAなどの定量的試験を行える手法が好ましい。免疫学的検定に用いる抗体は、試料中のセレノプロテインPタンパク質を特異的に検出することができる抗体であれば、特に限定されない。
セレノプロテインPタンパク質の試料中濃度の測定は、市販の試薬を使用して行うこともできる。例えば、ELISAによりセレノプロテインPタンパク質の試料中濃度を測定する試薬として、市販品を使用することができる。市販品の例としては、Human Selenoprotein P , SEPP1 ELISA Kit (Cusabaio社製、型番CSB-EL021018HU)が挙げられるが、これに限定されるものではない。その他、セレノプロテインPタンパク質を検出するための抗体として、抗セレノプロテインP抗体(SANRA CRUZ社製、型番sc-30162)などの市販のセレノプロテインPタンパク質に特異的に結合する抗体を使用することもできる。
測定されるセレノプロテインPタンパク質の試料中濃度は、絶対値及び相対値のいずれであってもよい。好ましくは、セレノプロテインPタンパク質の試料中濃度は、その絶対値が測定される。
評価基準
本発明の検査方法において、試料中のSelenoprotein Pタンパク質の濃度測定に基づき、肺高血圧症の有無及び/又はリスクを評価することができる。検査方法における評価基準は、当業者が適宜選択することができる。
評価基準として、予め設定したカットオフ値を使用することができる。例えば、セレノプロテインPタンパク質の濃度を指標とする場合、試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度が予め設定したカットオフ値より大きい場合に、肺高血圧症の存在及び/又は発症の可能性があると判定することができる。
上記カットオフ値は、種々の統計解析手法により求めることができる。肺高血圧症における中央値若しくは平均値、ROC曲線解析に基づく値(例えば、Youden's index。)などが例示される。カットオフ値を複数設定することもできる。
セレノプロテインPタンパク質の濃度を指標とする場合、例えば、カットオフ値を、10μg/ml程度の値に設定することができる。なお、健常者におけるセレノプロテインPタンパク質の濃度は、通常、3〜8μg/ml程度の範囲内である。
その他の指標
本発明の検査方法は、他の公知の、あるいは将来的に見出される肺高血圧症の検査方法と組み合わせてもよい。
本発明のある態様においては、被験対象の三尖弁の圧格差(TRPG)を測定する工程を含む検査方法とすることができる。TRPGは、心臓超音波検査により測定することができる。TRGPとは、心臓から押し出された血液への圧力と、弁を通った後の血液への圧力の差を指し、心エコー法により算出することができる。通常は、TRPGが約50mmHg以上である場合に、被験対象は肺高血圧症を発症している可能性が高いと判定することができる。本発明の検査方法のこのような態様においては、TRPGが約50mmHg以上である場合に加えて、TRPGが約50mmHg以下であり、かつ、測定した検体中のセレノプロテインPタンパク質の濃度があらかじめ設定したカットオフ値以上である場合にも、被験対象は肺高血圧症を発症している可能性が高いと判定することができる。
かくして、被験対象の肺高血圧症が検査される。
本発明の検査方法により肺高血圧症である又は発症のリスクがあると評価された被験対象は、右心カテーテル検査、肺換気・血流シンチグラム検査、胸部CT(コンピューター断層撮影法)検査、肺動脈造影、光干渉断層撮影(optical coherence tomography、OCT)などによる肺高血圧症の有無の精密検査及び/又は病巣部の確定を行うことが好ましい。
さらに、特に精密検査により肺高血圧症である蓋然性が高いと判断された場合には、肺高血圧症を治療及び/又は疾患の進行を予防するための適切な処置を行うことが好ましい。例えば肺高血圧症が肺動脈性肺高血圧症である場合、エンドセリン受容体拮抗剤(例えばボセンタン、アンブリセンタン。)の投与、プロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)製剤の投与、ホスホジエステラーゼ−5(PDE-5)阻害剤(例えば、シルデナフィル、タダラフィル)の投与が挙げられる。これらの治療法は1種単独で行っても、2種以上組み合わせて行っても良い。治療効果が高いとの観点から、併用療法、特に3種の併用療法が好ましい。
また、本発明の検査方法により肺高血圧症である又は発症のリスクがあると評価されなかった被験対象は、即座の対応は必要がないものの、十分な経過観察を行うことが望ましい。
2.キット
本発明は、肺高血圧症を検査するためのキットをも提供する。
本発明のキットは、被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を測定するための手段を含む。
セレノプロテインPタンパク質の濃度を測定するための手段としては、前述のセレノプロテインPタンパク質を特異的に検出する抗体を用いた免疫学的検定などを実施するための手段が例示される。具体的には、セレノプロテインPタンパク質を特異的に検出することができる抗体、及び/又は、その他のELISA法、EIA法、ウェスタンブロット法などの免疫学的検定を実施するための試薬が例示される。
また、本発明のキットには、必要に応じて他の成分を含めることができる。他の成分は、例えば試料を採取するための道具(例えば、注射器。)、ポジティブコントロール試料(例えば、肺高血圧症であることが確定している患者由来の試料。)及びネガティブコントロール試料(例えば、肺高血圧症でないことが確定している患者(健常者)由来の試料。)などが挙げられるが、これに限定されない。上記検査方法を行うための手順を書き記した書面などを含むこともできる。
本発明のキットは、常法に従い、上記成分を適宜備えることで作製することができる。
キットの使用形態は特に限定されないが、上記検査方法に用いることが好ましい。上記検査方法に用いた場合、肺高血圧症の検査を容易に行うことが可能となる。
3.治療方法
本発明は、肺高血圧症の治療方法をも提供する。発明でいう「治療」とは、肺高血圧症の治療、並びに、症状の軽減及び再発防止のための維持療法を包含する。
本発明の治療方法は、
(i)被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を指標として肺高血圧症の検査をする工程、及び
(ii)肺高血圧症が検出された被験対象に、肺高血圧症を治療及び/又は肺高血圧症の進行の予防をするための処置を行う工程を含む。
工程(i)は、上記「1.」欄に記載の検査方法を行う。
次いで、肺高血圧症が検出された被験対象に、肺高血圧症を治療及び/又は肺高血圧症の進行の予防をするための処置を行う(工程(ii))。
工程(i)と工程(ii)との間に、心臓カテーテル検査、血管造影検査法(アンギオグラフィー:X線血管造影検査法、コンピュータ断層撮影(CT)血管造影検査法、核磁共鳴(MR)血管造影検査法などが含まれる。)などの精密検査による心血管疾患の有無の精密検査及び/又は病巣部の確定を行うことができる。
肺高血圧症の治療及び/又は心血管疾患の進行の予防をするための処置は、公知の適切な処置を行う。例えば肺高血圧症が肺動脈性肺高血圧症である場合、エンドセリン受容体拮抗剤(例えばボセンタン、アンブリセンタン。)の投与、プロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)製剤の投与、ホスホジエステラーゼ−5(PDE-5)阻害剤(例えば、シルデナフィル、タダラフィル)の投与が挙げられる。これらの処置は1種単独で行っても、2種以上組み合わせて行っても良い。治療効果が高いとの観点から、併用療法、特に3種の併用療法が好ましい。
かくして、肺高血圧症が治療される。
以下に、実施例等に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
統計解析及び箱ひげ図の作成は、IBM SPSS Statisticsを用いて行った。
実施例1 肺高血圧症の検査
肺高血圧症患者及び非肺高血圧症患者における、セレノプロテインPタンパク質の血漿中濃度を測定した。測定対象とした肺高血圧症患者は、肺動脈性肺高血圧症であると診断された患者であった。
<患者群>
以下の患者群から採取した血液について試験を行った。
(i)非肺高血圧症患者(non-PH)群(対照群):19人(心疾患を疑って心臓カテーテル検査を含め精査が行われたが、全く病変を見つめることが出来なかった健常者群)、及び
(ii)肺高血圧症患者(PH)群 :146人。
なお、本研究は東北大学倫理委員会の承認を受けて行い、全ての患者にインフォームドコンセントを行い、承諾を得て行ったものである。
<方法>
上記患者群から、右心カテーテル検査の時に得た末梢静脈由来の血液試料及び肺動脈由来の血液試料から血漿を分離し、セレノプロテインPタンパク質の血漿中濃度を、Human Selenoprotein P, SEPP1 ELISA Kit(Cusabaio社製、型番CSB-EL021018HU)を用いてELISAにより測定した。
<結果及び考察>
結果を図1に示す。図1に示すように、肺高血圧症患者のセレノプロテインPタンパク質の血漿中濃度は、非肺高血圧症患者と比べて有意に高いことが明らかとなった。
実施例2 肺高血圧症の検査
実施例1と同様に、肺高血圧症患者及び非肺高血圧症患者における、セレノプロテインPタンパク質の血漿中濃度を測定した。
<患者群>
以下の患者群から採取した血液について試験を行った。
(i)非肺高血圧症患者(non-PH)群(対照群):20人、及び
(ii)肺高血圧症患者(PH)群 :183人。
肺高血圧症患者の内訳は、以下の通りであった。
結合組織病(CPAH、ニース分類 第1群 4)-1):25人、
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH、ニース分類 第4群):51人、
特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH、ニース分類第1群 1)):58人、
肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症(Lung-PAH、ニース分類 第3群):10人、
詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症(non-categorized、ニース分類 第5群):13人、
門脈肺高血圧(proto-PH、ニーズ分類 第1群 4)-3):6人、及び
先天性心疾患(shunt PAH、ニース分類 第1群 4)-4):20人。
なお、本研究は東北大学倫理委員会の承認を受けて行い、全ての患者にインフォームドコンセントを行い、承諾を得て行ったものである。
<方法>
実施例1と同様にして、上記患者群から取得した血液試料から血漿を分離し、セレノプロテインPタンパク質の血漿中濃度を測定した。
<結果及び考察>
結果を図3及び図4に示す。図3は測定をした肺高血圧症患者の全体についての結果を示し、図4は肺高血圧の病型ごとの結果を示す。肺高血圧症の病型によらず、すべての病型の肺高血圧症患者において、セレノプロテインPタンパク質の血漿中濃度は、非肺高血圧症患者と比べて有意に高いことが明らかとなった。
参考例1]
特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)患者の肺血管平滑筋(Pulmonary Artery Smooth Muscle Cells、PASMC)(以下、IPAH-PASMCともいう。)における、低酸素圧刺激に対する反応性を観察した。
<材料>
特発性肺動脈性肺高血圧症患者の肺血管平滑筋から、初代培養細胞系統を文献Ogawa A, Nakamura K, Matsubara H, Fujio H, Ikeda T, Kobayashi K, Miyazaki I, Asanuma M, Miyaji K, Miura D, Kusano KF, Date H, Ohe T. Circulation. 2005;112:1806-1812.準じて樹立した。特発性肺動脈性肺高血圧症患者の肺血管平滑筋は、外径が1.5mm以下の肺動脈から単離をした。
<培養条件>
IPAH-PASMCは、10%FBS(ウシ胎仔血清、終濃度)を添加したD-MEM培地中で、温度37℃の恒温恒湿条件下、95%の大気と5%の二酸化炭素中で、常法に従い培養を行った。試験には、70〜80%コンフルエンスの、継代4〜7代目(Passage 4 to 7)の細胞を用いた。
<試験方法>
試験に用いる細胞を、正常酸素圧(normoxia、酸素濃度21%)、低酸素圧(hypoxia、酸素濃度2%)及びファスジル(fasudil)存在下での低酸素圧(Hydroxyfasudil濃度:10μM)のそれぞれの条件下で24時間培養した。
培養後、それぞれの試料について、全細胞溶解液(whole cell lysates)及び条件培地(conditioned medium)を調製し、ウェスタンブロット解析によりセレノプロテインPタンパク質を検出した。
<結果及び考察>
結果を図2に示す。特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺血管平滑筋細胞は、低酸素圧下で、正常酸素濃度圧下と比べて、細胞外(培地中)へのセレノプロテインPタンパク質の分泌が亢進することが明らかとなった。また、Rhoキナーゼ(ROCK)に対する阻害剤であるファスジル(fasudil)の存在下では、低酸素条件下においても、セレノプロテインPタンパク質の分泌の亢進は観察されなかった。
以上の実験結果から、肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈血管平滑筋細胞において、低酸素刺激により、セレノプロテインPタンパク質がRhoキナーゼ依存性に分泌されることが示唆される。

Claims (6)

  1. 被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を指標とする、肺高血圧症の検査方法。
  2. [1]被験対象由来の試料中のセレノプロテインPタンパク質の濃度を測定する工程、及び
    [2]上記[1]の結果に基づ、肺高血圧症の有無及び/又はリスクを判定するための工程を含む、請求項1に記載の方法。
  3. セレノプロテインPタンパク質の濃度が予め設定したカットオフ値より大きい場合に、肺高血圧症である及び/又は発症するリスクがあると判定するための、請求項2に記載の方法。
  4. 被験対象由来の試料が血漿である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. セレノプロテインPタンパク質からなる、肺高血圧症を検出するためのバイオマーカー。
  6. セレノプロテインPタンパク質に特異的に結合する抗体を含む、肺高血圧症の検査キット。
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