<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る定着装置、及びこの定着装置を備えた画像形成装置の一例を図1〜図11に従って説明する。なお図中に示す矢印Vは、鉛直方向であって装置上下方向を示し、矢印Hは水平方向であって装置幅(装置左右)方向を示し、矢印Dは水平方向であって装置奥行方向を示す。
(全体構成)
本実施形態に係る画像形成装置10では、図11に示されるように、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のトナー(現像剤)による画像形成を行う画像形成部の一例としての画像形成ユニット12Y、12M、12C、12Kが、画像形成装置10の筐体11内の中央側で装置幅方向に対して斜め左下方向へ向けて配列されている。なお、画像形成ユニット12の配置順は、右上から左下へ向けて、Y、M、C、Kとなっている。
また、各画像形成ユニット12Y〜12Kは、収容される各色のトナーを除いて同様の構成となっている。したがって、以後の説明では、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色を区別するときには、数字の後にY、M、C、Kの英字を付加した符号で説明するが、各色を区別する必要がない場合は、数字の後のY、M、C、Kの英字は省略する。
各画像形成ユニット12Y〜12Kの上方には、各画像形成ユニット12Y〜12Kで形成されたトナー像(画像)を記録媒体の一例としてのシート部材Pに転写させる転写ユニット14が設けられている。転写ユニット14は、無端状の中間転写ベルト16と、中間転写ベルト16の内側に配置され、各画像形成ユニット12Y〜12Kの各トナー像を中間転写ベルト16に転写させるための4つの一次転写ロール18Y、18M、18C、18Kと、中間転写ベルト16上で重ねられたトナー像をシート部材Pに転写させるための二次転写ロール20とを含んで構成されている。
中間転写ベルト16は、二次転写ロール20と対向して配置され、図示しないモータで駆動される駆動ロール26と、回転可能に支持された支持ロール22とに巻き掛けられており、駆動ロール26が、図示しないモータで駆動されて回転することにより、中間転写ベルト16が矢印A方向(図示の時計回り方向)に循環移動されるようになっている。
各一次転写ロール18Y〜18Kは、中間転写ベルト16を挟んで、それぞれの画像形成ユニット12Y〜12Kの後述する像保持体28と対向して配置されている。そして、各一次転写ロール18Y〜18Kには、トナー極性とは逆極性(本実施形態では一例として正極性)の転写電圧が印加されるようになっている。
また、二次転写ロール20にも、トナー極性とは逆極性の転写電圧が印加されるようになっている。なお、中間転写ベルト16の支持ロール22が設けられている位置の外周面には、図示しないクリーニング装置が設けられており、このクリーニング装置によって、中間転写ベルト16上の残留トナーや紙粉等が除去されるようになっている。
一方、画像形成ユニット12の下方には、シート部材Pが収納された給紙部46が設けられている。また、給紙部46の左端から鉛直上方向には、シート部材Pが搬送される用紙搬送路50が設けられている。
用紙搬送路50には、シート部材Pを給紙部46から送り出す送出ロール48と、シート部材Pを搬送する一対のロールで構成された搬送ロール52と、中間転写ベルト16上の画像の移動タイミングとシート部材Pの搬送タイミングとを合わせる一対のロールで構成された位置合わせロール54とが設けられている。
そして、給紙部46から送出ロール48によって順次送り出されたシート部材Pは、用紙搬送路50を経由し、位置合わせロール54によって中間転写ベルト16の二次転写位置まで搬送されるようになっている。
用紙搬送路50上における二次転写ロール20の下流側(上方)には、定着装置100が設けられている。定着装置100は、定着ベルト102と加圧ロール104(押付部材の一例)を有しており、シート部材Pを加熱・加圧してシート部材Pに転写されたトナー画像をシート部材Pに定着させるようになっている。なお、定着装置100については、詳細を後述する。
また、用紙搬送路50上で定着装置100の下流側には、定着後のシート部材Pを筐体11の外側へ排出する一対のロールで構成された排出ロール66が設けられており、排出ロール66で排出されたシート部材Pは、筐体11の上面に形成された排出部67に排出されるようになっている。なお、筐体11内で、転写ユニット14の上方には、画像形成装置10の各部の駆動制御を行う制御部36が設けられている。
次に、画像形成ユニット12について説明する。
図10で示されるように、画像形成ユニット12は、矢印B方向(図示の反時計回り方向)に回転駆動される像保持体28と、像保持体28の外周面に接触して像保持体28を帯電させる帯電ロール72と、像保持体28の外周面に露光光を照射して静電潜像を形成する露光手段の一例としての露光ユニット70と、像保持体28の外周面の静電潜像をトナーで現像する現像ロール78と、転写後の像保持体28の外周面に光を照射して除電を行う除電ランプ74と、除電後の像保持体28の外周面を清掃するクリーニングブレード76とを有している。
また、帯電ロール72、露光ユニット70、現像ロール78、除電ランプ74、クリーニングブレード76は、それぞれ像保持体28の外周面と対向して、像保持体28の回転方向上流側から下流側へ向けて、この順番で配置されている。
さらに、帯電ロール72に対して像保持体28の反対側には、帯電ロール72の外周面に付着したトナーの外添剤などを取り除くためのクリーニングロール68が回転可能に設けられている。帯電ロール72は、図示しない通電手段に接続されており、従動回転しながら画像形成時に通電され、像保持体28の外周面を帯電させるようになっている。
現像ロール78の下側には、図示しないトナー供給部から供給された現像剤(一例として、樹脂製のトナーと金属製のキャリアの混合物)を撹拌(混合)して現像ロール78に供給する螺旋状の2本の搬送部材38が設けられている。また、現像ロール78の外周面と対向して薄層形成ロール24が設けられている。
薄層形成ロール24は、像保持体28よりも現像ロール78の回転方向の上流側で、現像ロール78の外周面と間隔を空けて配置されており、現像ロール78の外周面上における現像剤の通過量を規制して、現像ロール78上に予め決められた厚さの現像剤層(薄層)を形成するようになっている。
現像ロール78は、固定されたマグネットロール(図示省略)と、マグネットロールの外側で回転可能に設けられた筒状の現像スリーブ(図示省略)とで構成されている。なお、現像ロール78と像保持体28との間には、現像時に電圧が付与されて電界が形成され、現像ロール78は、回転しながら現像剤中のトナーを像保持体28の静電潜像に向けて移動させるようになっている。
また、画像形成ユニット12は、下ハウジング13と上ハウジング15とで構成される本体部を有している。下ハウジング13には、現像ロール78、搬送部材38、薄層形成ロール24が設けられており、上ハウジング15には、像保持体28、露光ユニット70、帯電ロール72、クリーニングロール68、クリーニングブレード76、除電ランプ74が設けられている。
(全体構成の作用)
次に、画像形成装置10の画像形成工程について説明する。
図11で示されるように、画像形成装置10の各ユニットが作動状態になると、制御部36で画像処理が施された画像データは、各色の色材階調データに変換され、露光ユニット70に順次出力される。
各色の色材階調データに応じて露光ユニット70が各露光光を出射し、帯電ロール72によって帯電した各像保持体28の外周面を露光する。これにより、各像保持体28の外周面に静電潜像が形成される。
各像保持体28の外周面に形成された静電潜像は、現像ロール78によってそれぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナー画像(現像剤像)として現像(顕在化)される。そして、各画像形成ユニット12Y〜12Kの像保持体28上に順次形成された各色のトナー像は、4つの一次転写ロール18Y〜18Kによって中間転写ベルト16上に順次多重転写される。
中間転写ベルト16上に多重転写された各色のトナー像は、給紙部46から搬送されてきたシート部材P上に二次転写ロール20によって二次転写される。そして、シート部材P上の各色のトナー像が定着装置100で定着され、定着後のシート部材Pは、排出ロール66によって排出部67に排出される。
なお、トナー像の一次転写が終了した後の像保持体28の外周面は、クリーニングブレード76によって残留トナーや紙粉等が除去される。
(定着装置の構成)
次に、定着装置100について説明する。
定着装置100は、図7に示されるように、シート部材Pの進入又は排出のための開口120A、120Bが形成された筐体120を備えている。筐体120の内部には、無端状の定着ベルト102(無端部材の一例)が備えられている。定着ベルト102の両端には、円筒状で回転軸を備えたキャップ部材(図示省略)が嵌合して固定されており、定着ベルト102が、回転軸を中心として、回転可能に支持されている。また、一方のキャップ部材には、定着ベルト102を回転させるモータ(図示省略)の回転力が伝達されるギヤが形成されている。そして、モータを稼働させることで、定着ベルト102は矢印E方向へ回転するようになっている。
また、定着ベルト102の外周面の一部と対向する位置には、絶縁性の部材で構成されたボビン108が配置されている。
〔ボビン〕
ボビン108は、図7に示されるように、定着ベルト102の回転軸方向(本実施形態では、装置奥行方向と同一方向)から見て、定着ベルト102の外周面に倣った円弧状とされている。さらに、ボビン108において、定着ベルト102に対して反対側の面の周方向の中央側に凸部108Aが形成されている。なお、ボビン108と定着ベルト102との間隔は1〜3mm程度となっている。
ボビン108には、通電によって磁界Hを発生する励磁コイル110(磁界発生部材の一例)が、凸部108Aを中心として複数回巻き回されている。励磁コイル110と対向する位置には、ボビン108の円弧状に倣って円弧状に形成された磁性体コア112が配置され、磁性体コア112はボビン108又は励磁コイル110に支持されている。
〔定着ベルト〕
定着ベルト102は、図9に示されるように、内側から外側に向けて配置される基層124、発熱層126、弾性層128、及び離型層130を含んで構成されており、これらが積層され一体となっている。また、定着ベルト102は、一例として、直径が30mm、幅方向長さが370mmとなっている。
基層124は、発熱層126を支持する強度を有し、耐熱性があり、磁界Hの磁束を貫通させ、磁界の作用により発熱しにくい部材で構成されている。本実施形態では、基層124として、厚さ35μmの非磁性ステンレス鋼が用いられている。
発熱層126は、電磁誘導により発熱する部材で構成されている。また、発熱層126は、磁界Hの磁束を貫通させるために、磁界Hが侵入可能な厚さである表皮深さよりも薄くされている。本実施形態では、発熱層126として、厚さ10μmの銅が用いられている。
弾性層128は、弾性と耐熱性とを有する部材で構成されている。本実施形態では、弾性層128として、厚さ200μmのシリコンゴムが用いられている。
離型層130は、シート部材Pを定着ベルト102から剥離し易くする部材で構成されている。本実施形態では、離型層130として、厚さ30μmの四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂が用いられている。
さらに、図7に示されるように、定着ベルト102の内側で、励磁コイル110と径方向に対向しない領域で、かつ、シート部材Pの排出側の領域(図中上側の領域)に、定着ベルト102の温度を検知する温度検知センサ134が配置されている。
また、定着ベルト102の内側には、ボビン108に対して定着ベルト102を挟んで径方向の反対側には、定着ベルト102の内周面に沿う円弧状とされ、定着ベルト102の内周面と接触する接触部材152(移動部材の一例)が備えられている。
〔接触部材〕
接触部材152は、層状に配置される感温磁性部材である感温磁性板114と、感温磁性板114に対して内側に層状に配置される基板154とを有している。
感温磁性板114は、図8(A)に示されるように、感温特性を有する。
定着ベルト102の定着(加熱)設定温度以上で、定着ベルト102の耐熱温度以下の温度領域にある透磁率変化開始温度から、透磁率が連続的に低下し始める感温特性を有する部材で構成されている。本実施形態では、感温磁性板114として、厚さ300μmの鉄‐ニッケル合金(Fe−Ni)が用いられている。
なお、透磁率変化開始温度とは、透磁率(JIS C2531で測定)が低下し始める温度であり、磁界の磁束の貫通量が変化し始める点をいう(図8(B)参照)。
基板154は、感温磁性板114で生じた熱を保持すると共に、保持した熱を装置奥行方向に伝導する部材で構成されている。これにより、感温磁性板114の装置奥行方向の温度分布が同様となり、局部的な(部分的な)昇温が抑制されるようになっている。また、感温磁性板114の温度が上昇して透磁率変化開始温度以上で透磁率が低下した場合には、定着ベルト102を貫通する磁束が減少し定着ベルト102の発熱量が抑制されるようになっている。本実施形態では、基板154として、厚さ400μmのアルミニウムが用いられている。
また、図7に示されるように、定着ベルト102の内側で、励磁コイル110と径方向に対向しない領域で、かつ、シート部材Pの進入側の領域(図中下側の領域)に、感温磁性板114の温度を検知する温度検知センサ135が配置されている。
一方、接触部材152の内側(図中左側)には、支持部材118が備えられている。
〔支持部材〕
支持部材118は、装置奥行方向に延び、アルミニウム板を折り曲げて形成され、前述した表皮深さ以上の厚さを有しており、磁界Hの磁束が貫通しない部材で構成されている。
支持部材118は、接触部材152の上端(一端側の部分の一例)と接触部材152の下端(他端側の部分の一例)とに跨るように配置されている。そして、支持部材118の上端が、接触部材152の上端を支持し、支持部材118の下端が、接触部材152の下端を支持している。
また、支持部材118において上端と下端との間の部分には、後述するロッド184が貫通する貫通孔118Aが形成されている。
さらに、支持部材118が装置幅方向に移動するように、支持部材118を支持するフレーム158が備えられている。
〔フレーム〕
フレーム158は、図4に示されるように、支持部材118を挟んで接触部材152に対して反対側に配置されている。そして、フレーム158は、装置奥行方向に延びる本体部材160と、支持部材118の上側の部分を支持する上側支持部材162と、支持部材118の下側の部分を支持する下側支持部材164と、を備えている。
本体部材160は、装置奥行方向に延びるように配置されている。また、本体部材160は、装置奥行方向から見て外形が五角形とされ、本体部材160の内部には、空間160Aが形成されている。そして、本体部材160の装置奥行方向の両端は、筐体120に固定されている。
また、本体部材160の上面160Bに、上側支持部材162が取り付けられ、本体部材160の下面160Cに、下側支持部材164が取り付けられている。
上側支持部材162は、図1に示されるように、円柱状の棒材を折り曲げることで逆L字状に形成され、装置奥行方向に間隔を空けて複数個配置されている。上側支持部材162において、支持部材118に向けて装置幅方向に延びる延設部162Bには、径寸法が広げられた拡径部162Aが形成されている。さらに、延設部162Bの先端側は、支持部材118に形成された図示せぬ貫通孔を貫通している。これにより、支持部材118の上側の部分は、延設部162Bに案内されて装置幅方向に移動するようになっている。
さらに、拡径部162Aと支持部材118との間には、支持部材118を介して接触部材152の上側の部分(一端側の部分一例)を定着ベルト102の内周面に向けて付勢するコイルバネ166(第一付勢部の一例)が配置されている。
下側支持部材164は、円柱状の棒材を折り曲げることでL字状に形成され、装置奥行方向に間隔を空けて複数個配置されている。下側支持部材164において、支持部材118に向けて装置幅方向に延びる延設部164Bには、径寸法が広げられた拡径部164Aが形成されている。さらに、延設部164Bの先端側は、支持部材118に形成された図示せぬ貫通孔を貫通している。これにより、支持部材118の下側の部分は、延設部164Bに案内されて装置幅方向に移動するようになっている。
さらに、拡径部164Aと支持部材118との間には、支持部材118を介して接触部材152の下側の部分(他端側の部分一例)を定着ベルト102の内周面に向けて付勢するコイルバネ170(第二付勢部の一例)が配置されている。
このように、接触部材152を定着ベルト102の内周面に向けて付勢する付勢部材の一例としての付勢機構150は、コイルバネ166及びコイルバネ170を含んで構成されている。なお、コイルバネ170及びコイルバネ166の付勢力(ばね力)については、後述する対抗機構180と共に説明する。
一方、本体部材160の内部に形成された空間160Aには、支持部材118を本体部材160側に引き込み、接触部材152と定着ベルト102の内周面とを離間させる対抗機構180(対抗部材の一例)が備えられている。
〔対抗機構〕
対抗機構180は、図3に示されるように、装置奥行方向を軸方向とする偏心カム182と、偏心カム182の周面に基端が接し、先端が貫通孔118Aを貫通するロッド184とを備えている。偏心カム182及びロッド184は、装置奥行方向において、支持部材118の両側に配置されている。
偏心カム182の軸部182Aの両端は、筐体120に図示せぬ軸受を介して回転可能に支持され、この軸部182Aには、図示せぬ駆動部材(例えば、ステッピングモータ)から回転力が伝達されるようになっている。
ロッド184は、本体部材160に形成された貫通孔160D、及び貫通孔118Aを貫通している。そして、ロッド184の先端が基端に対して下方に位置するように、ロッド184は、装置幅方向に対して傾斜している。さらに、ロッド184の基端には、径寸法が広げられた拡径部184Aが形成され、ロッド184の先端には、径寸法が広げられた拡径部184Bが形成されている。
また、拡径部184Aと貫通孔160Dの周縁との間には、コイルバネ186が配置されている。このコイルバネ186は、拡径部184Aを偏心カム182の外周面に押し付けるように、ロッド184を偏心カム182側に向けて付勢している。
これに対して、ロッド184の先端は、支持部材118の貫通孔118Aを貫通し、貫通したロッド184の先端に前述した拡径部184Bが形成されている。
図5に示されるように、離間位置に移動した接触部材152と定着ベルト102の内周面との距離が、装置奥行方向から見て、予め決められた範囲内に入るように、接触部材152の位置を規制するストッパー140、142が備えられている。
ストッパー140、142は、装置奥行方向に間隔を空けて夫々6個配置されている。ストッパー140は、離間位置に移動した接触部材152の位置を規制するように、支持部材118の上側の部分と当たり、ストッパー142は、離間位置に移動した接触部材152の位置を規制するように、支持部材118の下側の部分と当たるようになっている。
次に、コイルバネ166、コイルバネ170、及びコイルバネ186の付勢力(ばね力)について説明する。
以下の説明では、全てのコイルバネ166によって接触部材152の上側を定着ベルト102の内周面に向けて付勢する力を「上側付勢力」と称する。これに対して、全てのコイルバネ170によって接触部材152の下側を定着ベルト102の内周面に向けて付勢する力を「下側付勢力」と称する。また、全てのコイルバネ186によってロッド184を偏心カム182側に向けて付勢する力を「対抗付勢力」と称する。さらに、図5に示されるように、ロッド184による引込力が支持部材118に作用する部位を部位Gする。
そして、対抗付勢力は、全ての状態で、上側付勢力と下側付勢力とを合計した付勢力に対して強くされている。
また、接触部材152が離間位置に移動した状態で、上側付勢力によって部位Gに生じる回転モーメントが、下側付勢力によって部位Gに生じる回転モーメントに比して大きくなるよう各パラメータが決められている。本実施形態では、パラメータとしては、コイルバネ166、170のばね定数及び圧縮量、装置上下方向における部位Gからコイルバネ166、170までの距離(図中T1、T2)が挙げられる。
この構成により、偏心カム182を回転させることで、ロッド184がロッド184の長手方向に移動し、上側付勢力及び下側付勢力に対抗する対抗力が支持部材118に付与され、コイルバネ166及びコイルバネ170を縮ませる。これにより、支持部材118及び接触部材152が装置幅方向に移動するようになっている。そして、偏心カム182を回転させて支持部材118を最も本体部材160側に引き込むと、図5に示されるように、接触部材152の全体が定着ベルト102の内周面と離間し、接触部材152が離間位置に移動するようになっている。
また、接触部材152が離間位置に移動した状態から、偏心カム182を90度回転させる。そうすると、支持部材118及び接触部材152の移動が一部許容され、支持部材118が傾き、図2に示されるように、接触部材152の上側の部分(上側の半分程度:図中範囲K)が定着ベルト102の内周面と接し、接触部材152が中間位置に移動するようになっている。
さらに、接触部材152が中間位置に移動した状態から、図示せぬ駆動部材の回転力により、偏心カム182が90度回転する。そうすると、支持部材118及び接触部材152の移動が全部許容され、接触部材152の下側の部分が装置幅方向に移動し、図1に示されるように、接触部材152の全体が定着ベルト102の内周面と接触し、接触部材152が接触位置に移動するようになっている。
なお、前述した動作に対して逆の動作を行うことで、接触部材152が、接触位置から中間位置に移動し、さらに、中間位置から離間位置に移動するようになっている。
そして、ユーザからの指示等により制御部36が接触部材152を移動させることで、定着装置100は、急速立上モードと、高生産性モードと、中間モードと、に切り替えられるようになっている。
急速立上モードは、ユーザによってジョブが指示された後の定着ベルト102の昇温時間(以下「ベルト昇温時間」)を短くすることを優先するモードである。急速立上モードでは、接触部材152は、離間位置に移動している。
高生産性モードは、定着ベルト102が昇温して指示されたジョブ(複数枚のシート部材Pに画像を形成するジョブ)が開始されてから終了するまでのジョブが実行されている時間(以下「ジョブ実行時間」)を短くすることを優先するモードでる。高生産性モードでは、接触部材152は、接触位置に移動している。
高生産性モードの際のベルト昇温時間は、急速立上モードの際のベルト昇温時間に比して長いが、高生産性モードの際のジョブ実行時間は、急速立上モードの際のジョブ実行時間に比して短くなっている。
中間モードは、ベルト昇温時間及びジョブ実行時間の両方について、ユーザに許容されるモードである、中間モードでは、接触部材152は、中間位置に移動している。
中間モードの際のベルト昇温時間は、急速立上モードの際のベルト昇温時間に比して長く、高生産性モードのベルト昇温時間に比して短くなっている。さらに、中間モードの際のジョブ実行時間は、急速立上モードのジョブ実行時間に比して短く、高生産性モードのジョブ実行時間に比して長くなっている。
なお、急速立上モード、高生産性モード、及び中間モードの詳細については、後述する作用と共に説明する。
一方、図7に示されるように、本体部材160において支持部材118が配置される側に対して反対側には、加圧ロール104との間で定着ベルト102を挟む押圧パット132が固定されている。本実施形態では、押圧パット132を構成する材料として、液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer)が用いられている。
〔加圧ロール〕
加圧ロール104は、図7に示されるように、アルミニウム等の金属からなる芯金104Aと、この芯金104Aに被覆される厚さ5mmの発泡シリコンゴムのスポンジ弾性層104Bと、を備えている。さらに、加圧ロール104は、このスポンジ弾性層104Bの外側に、厚さ50μmのカーボン入りの四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)からなる離型層(図示省略)を備えている。
また、加圧ロール104の芯金104Aは、図示せぬリトラクト機構によって移動し、装置幅方向に移動するようになっている。そして、このリトラクト機構によって、加圧ロール104は、定着ベルト102と接して定着ベルト102を加圧する加圧位置(図6、図7参照)と、定着ベルト102と離間する非加圧位置(図5参照)とに移動するようになっている。
さらに、加圧ロール104の芯金104Aには、図示せぬモータからの回転力が伝達され、加圧ロール104は、図7に示す矢印F方向(矢印E方向と反対方向)に回転するようになっている。
(定着装置の作用)
次に、ユーザからの指示等により、定着装置100が急速立上モードで稼働する場合、定着装置100が高生産性モードで稼働する場合、及び定着装置100が中間モードで稼働する場合、について説明する。
〔急速立上モード〕
定着装置100の非稼働状態では、図5に示されるように、加圧ロール104は、定着ベルト102と離間する非加圧位置に移動しており、接触部材152は、定着ベルト102の内周面と離間する離間位置に移動している。
ユーザによりジョブが指示され、画像形成装置10が稼働すると、トナー画像が転写されたシート部材Pが定着装置100へ向けて搬送される。そして、定着装置100では、制御部36の制御によって、接触部材152の離間位置への移動が維持される。また、定着ベルト102が、図示せぬモータからの回転力を受けて矢印E方向に回転する。
さらに、励磁コイル110に交流電流が供給され、励磁コイル110の周囲に磁気回路としての磁界Hが生成消滅を繰り返す。そして、磁界Hが定着ベルト102の発熱層126(図9参照)を横切ると、磁界Hの変化を妨げる磁界が生じるように発熱層126に渦電流が発生する。これより、定着ベルト102が発熱する。ここで、接触部材152が離間位置に移動しているため、接触部材152が接触位置に移動している場合に比して、定着ベルト102を1℃昇温させるための熱量(以下「ベルト熱量」)が小さい。これにより、ベルト昇温時間は、接触部材152が接触位置に移動している場合に比して、短い。
定着ベルト102が定着設定温度に達した後、加圧ロール104は、図示せぬモータからの回転力を受けて矢印F方向に回転する。さらに、リトラクト機構が作動し、加圧ロール104が、図6に示されるように、非加圧位置から加圧位置に移動する。加圧ロール104が、加圧位置に移動すると、定着ベルト102へ伝達されている回転力が解除され、定着ベルト102は、回転する加圧ロール104に従動して回転する。
そして、定着装置100に向けて搬送られたシート部材Pは、定着設定温度(170℃)となっている定着ベルト102と、加圧ロール104とによって押圧され、トナー画像がシート部材Pの表面に定着する。そして、トナー画像が定着したシート部材Pは、排出ロール66によって排出部67に排出される(図11参照)。
定着ベルト102の温度は、シート部材Pと接することで低下する。温度が低下した定着ベルト102の温度は、温度検知センサ134によって検知され、定着ベルト102の温度が定着設定温度を下回っている場合は、再度、励磁コイル110に交流電流が供給され、定着ベルト102の温度が上昇する。このように、励磁コイル110への交流電流の供給と供給停止を繰り返すことで、励磁コイル110によって磁界Hが間欠的に生じ、定着ベルト102の温度が定着設定温度に維持される。
ここで、前述したように、接触部材152が離間位置に移動しているため、ベルト熱量が小さい。これにより、定着ベルト102がシート部材Pと接することで低下する定着ベルト102の温度の変化量は、接触部材152が接触位置に移動している場合の定着ベルト102の温度の変化量に比して、大きい。このため、定着ベルト102を再度昇温しなければならい。
そして、制御部36は、定着ベルト102が昇温される時間を考慮し、シート部材Pの搬送速度(又は搬送間隔)を調整する。
〔高生産性モード〕
高生成性モードについては、急速立上モードとは異なる部分を主に説明する。
ユーザによりジョブが指示され、画像形成装置10が稼働すると、トナー画像が転写されたシート部材Pが定着装置100へ向けて搬送される。そして、定着装置100では、制御部36の制御によって、偏心カム182が180度回転し、図1に示されるように、接触部材152の全体が定着ベルト102の内周面と接触し、接触部材152が離間位置から接触位置に移動する。また、定着ベルト102が、図示せぬモータからの回転力を受けて矢印E方向に回転する。
そして、励磁コイル110(図4参照)によって生じる磁界Hにより、定着ベルト102が発熱する。ここで、接触部材152が接触位置に移動しているため、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して、ベルト熱量が大きくなる。これにより、ベルト昇温時間は、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して、長くなる。
定着ベルト102が定着設定温度に達した後、加圧ロール104は、リトラクト機構によって、非加圧位置から加圧位置に移動する。そして、定着装置100に向けて搬送られたシート部材Pは、定着設定温度となっている定着ベルト102と、加圧ロール104とによって押圧され、トナー画像がシート部材Pの表面に定着する。
定着ベルト102の温度は、シート部材Pと接することで低下する。温度が低下した定着ベルト102の温度は、温度検知センサ134によって検知され、定着ベルト102の温度が定着設定温度を下回っている場合は、再度、励磁コイル110に交流電流が供給され、定着ベルト102の温度が上昇する。このように、励磁コイル110への交流電流の供給と供給停止を繰り返すことで、励磁コイル110によって磁界Hが間欠的に生じ、定着ベルト102の温度が定着設定温度に維持される。
ここで、前述したように、接触部材152が接触位置に移動しているため、ベルトを含めた熱容量が大きい。また、接触部材152も磁界Hにより発熱している。
そして、定着ベルト102がシート部材Pと接することで低下する温度の変化量は、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して、小さくなる。これにより、定着ベルト102を再度昇温させる頻度は、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して低くなる。
そして、制御部36は、定着ベルト102が昇温される時間を考慮し、シート部材Pの搬送速度(又は搬送間隔)を調整する。定着ベルト102を再度昇温させる頻度が、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して低くなるため、シート部材Pの搬送速度が、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して速くなる。これにより、ジョブ実行時間は、接触部材152が離間位置に移動している場合(急速立上モード)に比して、短くなる。
〔中間モード〕
中間モードについては、急速立上モードとは異なる部分を主に説明する。
ユーザによりジョブが指示され、画像形成装置10が稼働すると、トナー画像が転写されたシート部材Pが定着装置100へ向けて搬送される。そして、定着装置100では、制御部36の制御によって、偏心カム182が90度回転し、図2に示されるように、接触部材152の上側の部分が定着ベルト102の内周面と接し、接触部材152が中間位置に移動する。また、定着ベルト102が、図示せぬモータからの回転力を受けて矢印E方向に回転する。
そして、励磁コイル110(図4参照)によって生じる磁界Hにより、定着ベルト102が発熱する。ここで、接触部材152が中間位置に移動しているため、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して、ベルト熱量が大きくなり、接触部材152が接触位置に移動している場合に比して、ベルト熱量が小さくなる。これにより、ベルト昇温時間は、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して長くなり、接触部材152が接触位置に移動している場合に比して短くなる。
定着ベルト102が定着設定温度に達した後、加圧ロール104は、リトラクト機構によって、非加圧位置から加圧位置に移動する。そして、定着装置100に向けて搬送られたシート部材Pは、定着設定温度となっている定着ベルト102と、加圧ロール104とによって押圧され、トナー画像がシート部材Pの表面に定着する。
定着ベルト102の温度は、シート部材Pと接することで低下する。温度が低下した定着ベルト102の温度は、温度検知センサ134によって検知され、定着ベルト102の温度が定着設定温度を下回っている場合は、再度、励磁コイル110に交流電流が供給され、定着ベルト102の温度が上昇する。このように、励磁コイル110への交流電流の供給と供給停止を繰り返すことで、励磁コイル110によって磁界Hが間欠的に生じ、定着ベルト102の温度が定着設定温度に維持される。
ここで、前述したように、接触部材152が中間位置に移動しているため、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して、ベルトを含めた熱容量が大きく、接触部材152が接触位置に移動している場合に比して、ベルト熱量が小さい。また、接触部材152も磁界Hにより発熱している。
そして、定着ベルト102を再度昇温させる頻度は、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して低くなり、接触部材152が接触位置に移動している場合に比して高くなる。
このため、シート部材Pの搬送速度が、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して速くなり、接触部材152が接触位置に移動している場合に比して遅くなる。これにより、ジョブ実行時間は、接触部材152が離間位置に移動している場合に比して短くなり、接触部材152が接触位置に移動している場合に比して長くなる。
(まとめ)
以上説明したように、定着装置100は、接触部材152が接触位置に移動するように接触部材152を付勢する付勢機構150と、接触部材152を接触位置から離間位置に移動させる対抗機構180と、を備えている。これより、対抗機構180、及び付勢機構150を用いない構成と比して、接触部材152を、接触位置と離間位置とに移動させる簡易な構成が得られる。
また、付勢機構150、及び対抗機構180が、定着ベルト102の内部に配置されているため、定着ベルト102の外部に、付勢機構又は対抗機構が配置される場合と比して、装置奥行方向における定着装置100の専有空間が小さくされる。
また、付勢機構150は、接触部材152の上側の部分を定着ベルト102の内周面に向けて付勢するコイルバネ166と、接触部材152の下側の部分を定着ベルト102の内周面に向けて付勢するコイルバネ170とを備えている。このため、接触部材152の中央だけを定着ベルト102の内周面に向けて付勢する場合と比して、接触部材152の姿勢を安定させた状態で、接触部材152が定着ベルト102の内周面に向けて付勢される。
また、支持部材118は、装置奥行方向に延び、励磁コイル110によって生じる磁界Hの磁束が貫通しない厚さとなっている。このため、磁界Hが、偏心カム182等に到達するのが抑制され、磁界Hによる偏心カム182等への影響が抑制される。
また、接触部材152を離間位置に移動させることで、ベルト昇温時間が優先される急速立上モードとなり、接触部材152を接触位置に移動させることで、ジョブ実行時間が優先される高生産性モードとなる。さらに、接触部材152を中間位置に移動させることで、ベルト昇温時間及びジョブ実行時間の両方について、ユーザに許容される中間モードとなる。
また、画像形成装置10においては、装置奥行方向における定着装置100の専有空間が小さくされることで、画像形成装置10が小型化される。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る定着装置、及び画像形成装置の一例について図12、図13に従って説明する。なお、第1実施形態と同一部材については、同一符号を付してその説明を省略し、第1実施形態と異なる部分を主に説明する。
図12に示されるように、第2実施形態の定着装置200の本体部材160の上面160Bに、上側支持部材202が取り付けられ、本体部材160の下面160Cに、下側支持部材204が取り付けられている。
上側支持部材202は、円柱状の棒材を折り曲げることで逆L字状に形成され、装置奥行方向に間隔を空けて複数個配置されている。上側支持部材202において、支持部材118に向けて装置幅方向に延びる延設部202Bの先端側は、支持部材118に形成された円状の貫通孔118Cを貫通している。これにより、支持部材118の上側の部分は、延設部202Bに案内されて装置幅方向に移動するようになっている。
下側支持部材204は、円柱状の棒材を折り曲げることでL字状に形成され、装置奥行方向に間隔を空けて複数個配置されている。下側支持部材204において、支持部材118に向けて装置幅方向に延びる延設部204Bの先端側は、支持部材118に形成された円状の貫通孔118Dを貫通している。これにより、支持部材118の下側の部分は、延設部204Bに案内されて装置幅方向に移動するようになっている。
このように、上側支持部材202及び下側支持部材204によって、支持部材118が装置幅方向に移動するようになっている。
さらに、本体部材160の貫通孔160Dの周縁と、支持部材118の貫通孔118Aの周縁との間には、付勢機構210を構成するコイルバネ212が配置されている。このコイルバネ212は、支持部材118を介して接触部材152を定着ベルト102の内周面に向けて付勢している。
そして、全てのコイルバネ186の付勢力は、全ての状態で、全てのコイルバネ212の付勢力に比して強くされている。
この構成において、偏心カム182を回転させることで、図12、図13に示されるように、接触部材152が、接触位置と離間位置とに移動するようになっている。
他の第2実施形態の作用については、付勢機構150が上側に配置されるコイルバネ166、及び下側に配置されるコイルバネ170を備えていることによって奏する作用以外の第1実施形態の作用と同様である。
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記第1実施形態の接触部材152の中間位置では、接触部材152の上側の部分が定着ベルト102の内周面と接したが、接触部材152の下側の部分が定着ベルト102の内周面と接してもよい。
また、上記第1実施形態の接触部材152の中間位置では、接触部材152の上側の半分程度が定着ベルト102の内周面と接したが、接触部材152と定着ベルト102の内周面とが接する面積については、必要とされるベルト熱量に基づいて決めればよい。
また、上記第1実施形態では、接触部材152の中間位置は、1箇所だけであったが、複数個所であってもよい。
また、上記第1実施形態では、接触部材152が中間位置に移動したが、接触部材152が接触位置と離間位置とだけに移動してもよい。