以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
[発明の概要]
(第1の概要)
本発明では、3次元点群に対してたわみ付きの円筒モデルを当てはめることで、柱状構造物のたわみ量を推定する。ここで、当てはめるとは、最適な形状モデルパラメータを探索することであり、評価関数の値が高くなるような繰り返し処理を行い、最も評価値が良いときのモデルパラメータを出力することを意味する。
電柱がたわむ原因は、電力線や通信線などのケーブルの張力の影響や変圧器などの付属品の荷重である。図2に示すように、ケーブル等の張力および付属品の荷重等の合力により生じた柱状構造物への曲げモーメントによりたわみが生じる。
このとき、柱状構造物の中心軸は直線と仮定するよりも、図2に示すように、たわみが発生した位置に設定したローカル座標系(x’―y’座標)において凸関数、例えば、y=x2(xの二乗)のような関数のような極値が1つだけ存在する関数、であると仮定した方が精度よく形状を表現できる。本発明では3次元の円筒モデルの中心軸を凸な関数で表現した3次元円筒モデル(以下、たわみ付き円筒モデル)を用いることで、形状解析を行い、たわみ量の自動推定を実現する。
(第2の概要)
しかしながら、歪んだ柱状構造物についても、つまりに不安全と判定されるような柱状構造物であっても、そのたわみ量は微小であるため、たわみ付き円筒モデルを当てはめた結果だけでは推定の信頼性がきわめて低い。例えば、10mの柱状構造物に対してたわみ量が20cm程度ぐらいである。以下 、柱状構造物に「たわみがある」と記載した場合には、上記のたわみ量以上の形状変形を有しているという意味とする。
そのため、中心軸を凸関数(例えば2次関数)で表現したときに、推定した係数の大きさだけでは判定が難しい。図3に示すように、真っ直ぐな円筒表面を計測して取得した点群について、その点群に当てはめた2次関数の曲線モデルの係数と、不安全と判定される柱状構造物の表面の点群に対して、その点群から求めた2次曲線モデルの係数について差が生じない。理由は、計測時に推定誤差(ノイズ)が生じるためである。
そこで本発明では、たわみの無い円筒モデル(以下、円筒モデルと記載する)とたわみ付き円筒モデルのスコア値と比較をして、たわみ円筒モデルのスコア値が大きいとき、計測ノイズではなくて、柱状構造物の形状がたわんでいることによりたわみが発生していると考える。これにより、計測ノイズや付属品等の影響により、誤ってたわみが発生している(不安全な設備である)と出力することを抑制できる。(図4参照)これは、機械学習や統計学の分野で、スコア値に差分がないときは過学習を避けるためになるべく単純なモデルを利用するような考え方と同じである。
(第3の概要)
更に、計測ノイズの影響が小さいと、柱状構造物の中心軸を表現する最適な1つの凸関数を求めやすい(図5(A))。しかし、計測ノイズの影響が大きいとき、例えばMMSで計測すると、柱状構造物の表面上の計測された面積が少ないため、計測点群がモデル当てはめをした際に、形状決定するのに十分な形状情報を有しておらず、ノイズの影響のある計測点群にオーバーフィッティング(過適応)して柱状構造物の中心軸を表現する凸関数が複数当てはまりやすい(図5(B))。この場合、仮にスコア値の差が大きいため、たわみ推定が存在することは確認できるが、そのたわみの量を正確に推定することが難しい状況がある。そこで、本発明では推定した結果が、信頼度の高い結果であるかも同時に推定する。
まず、点群のサンプリングによる複数の異なる条件で、例えば異なる計測点群を選択して、たわみ量を複数回推定し、その推定結果の期待値を算出する。これは機械学習や統計学の分野で用いられるクロスバリデーションの考え方と同じであり、計測ノイズにオーバーフィッティングすることを抑制する効果がある。
このとき、推定したたわみ量の分布状態から、推定したたわみ量の信頼度も算出し、上記のたわみ付円筒モデルのスコア値に優位性があり、かつたわみ量期待値が大きく信頼度が大きいときに、不安全な柱状構造物であると判定できる。この場合、設備管理者へ点検優先度の高いものであると示唆できる。
(第4の概要)
また、たわみが生じる箇所は、柱状構造物の部材の影響によるが、経験的に地面から数m高い位置のことが多い。そのため、コンクリート柱に特化して考えると、たわみが発生する箇所(以下、たわみ開始点)の位置を考慮して、円筒中心軸について、たわみ開始点よりもZ軸の小さい側を直線モデル、たわみ開始点よりもZ軸の大きい側を凸関数曲線モデルにするようなたわみ付き円筒モデルを用いることで、更に高精度にたわみ推定を行うことが可能である。
[実施形態の概説]
本発明は、電柱や信号などの柱状構造物をレーザースキャナで計測し、得られた3次元点群を用いてその柱状構造物のたわみ量を推定する技術である。
たわみ推定の前処理として、非特許文献3のような既存技術を用いて、柱状構造物を円筒モデルと見立てて検出し、位置と柱状構造物の中心軸の傾きを求める。次に、柱状構造物の中心軸周辺の点群を用いて、その構造物のたわみ量と信頼度を推定すればよい。
ここで、本発明における柱状構造物のたわみとは、外力によりまっすぐな柱状構造物が弓なりに形状を変化したことを意味する。具体的には、柱状構造物のたわみとは、図6に示すように、柱状物体の上端部の中心位置からたわみ開始位置G0における接線(柱状物体の傾きの方向)への垂線の足までの長さdhのこととする。もしくは、柱状構造物のたわみとは、上端部と下端部を結んだ直線と、凸関数の凸部(極値)の位置までの最短距離dcのこととする。電柱点検における実際の現場では、上端部の移動量dhを参考にするが、下端部近くに障害物、例えば車や木など、が存在するときにたわみ開始位置G0付近の点群が計測できないので接線方向の推定精度が低下しやすい。そのため、上端部移動量dhの大きさと相関の高いdcも参考指標として利用できる。
本発明は、電柱や信号、標識などの柱状構造物のたわみ量の推定および推定したたわみ量の信頼度算出を目的としているが、それ以外の柱状物体の形状推定も可能な技術である。
以下の実施形態では、具体的な例としてレーザーレンジファインダにより取得した点群を用いたたわみ推定方法について説明する。
ここで、3次元とは、緯度、経度、海抜(高さ)情報でもよいし、ユーザーが設定した特定の位置を原点とした3次元ユークリッド座標系でも極座標系でもよい。以下の例では、ユーザーが設定した原点における3次元ユークリッド座標系(各方向をX,Y,Z座標とする)を想定する。各座標の単位はメートル(m)やセンチメートル(cm)、ミリメートル(mm)で表現するが、他の単位でもよい。3次元点とは、各点に上記の3次元座標に、その点群が撮影された時刻や、レーザーの反射強度や赤・青・緑などの色情報等が付与されている点である。3次元点に付与される情報に制限はないが、少なくとも位置情報(X,Y,Z座標)は付与されたものであり、3次元点群とはその3次元点が2点以上集まった集合である。
[第1の実施の形態]
(たわみ推定装置全体の説明)
図7は、本発明の第1の実施形態による柱状構造物のたわみ推定装置100の構成を示すブロック図である。たわみ推定装置100は、CPU(Central Processing Unit)、RAM、2次記憶装置、プログラムを記憶するROMを備えたコンピュータで構成される。たわみ推定装置100には、被写体計測部101、入力部102、及び出力部107が接続されている。
図7において、被写体計測部101は、レーザーレンジファインダや、赤外線センサ、または超音波センサなど、被写体とセンサとの距離を測定可能な装置であり、物体の表面上の位置を計測した計測結果である複数の位置を表す3次元点群を出力する。例えば、レーザーレンジファインダをGPS(Global Positioning System)が搭載された車の上、もしくはGPSの搭載された飛行機に搭載し、移動しながら計測することで、屋外の環境の人工物、例えばワイヤ、建物、木、道路や道路以外の地面など不特定多数の被写体の3次元位置(点の座標)を計測するシステムである。本実施形態では、被写体計測部101として、車上にGPSとレーザーレンジファインダとが搭載されているMMS(Mobile Mapping System)を想定している。ただし、被写体計測部101は、ある特定の位置(交差点など)1箇所からの計測部であってもよい。
入力部102は、マウスやキーボードなどのユーザーインターフェースであり、たわみ推定処理部105で使用するパラメータを入力するものである。また、パラメータを記憶したUSBメモリなどの外部記憶媒体でもよく、記憶部103にパラメータを供給する。
たわみ推定装置100は、上記2次記憶装置に設けられた記憶部103、柱状構造物検出部104、たわみ推定処理部105、及び構造物安全性判定部106を備えている。
記憶部103は、3次元点群記憶部110と演算処理用パラメータ記憶部111と柱状構造物パラメータ記憶部112とから構成される。3次元点群記憶部110は、被写体計測部101から取得した3次元点群を記憶し、柱状構造物検出部104とたわみ推定処理部105に供給する。演算処理用パラメータ記憶部111は、入力部102から取得したパラメータの値を記憶し、柱状構造物検出部104とたわみ推定処理部105に供給する。柱状構造物パラメータ記憶部112は、たわみ推定処理部105から取得した、たわみ状態パラメータ、スコア比、たわみ量の期待値、および信頼度を含む柱状構造物パラメータを記憶し、構造物安全性判定部106へ供給する。これら3つの手段により構成される記憶部103は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)や、SSD(Solid State Drive)等のハードウェアによる記憶装置である。
柱状構造物検出部104は、3次元点群記憶部110から3次元点群を取得して、柱状構造物を検出し、柱状構造物毎に、柱状構造物の位置、中心軸の方向、半径、及び長さ等のパラメータを推定し、柱状構造物パラメータ記憶部112へ供給する。本発明では、非特許文献3のような既存技術を用いることとする。もしくは、既に設備管理DBなどに登録されている場合には、入力部102から情報を得られるため、柱状構造物検出部104の処理を省くことも可能である。
たわみ推定処理部105は、入力処理部118、取得部119、局所領域形状解析部120、円筒モデル比較部121、たわみ期待値推定部122、信頼度算出部123、出力処理部124、及び繰り返し処理部125を備えている。たわみ推定処理部105は、記憶部103の3次元点群記憶部110から3次元点群を取得し、柱状構造物パラメータ記憶部112から柱状構造物パラメータを取得し、推定したたわみ量と信頼度を記憶部103へ供給する。
入力処理部118は、後述するパラメータを入力する。取得部119は、3次元点群と柱状構造物パラメータに基づいて、柱状構造物Iの中心軸から半径Rcut(=RI+ΔR)以内に含まれる3次元点群を取得する。
局所領域形状解析部120は、柱状構造物の中心軸周辺の3次元点群、及び柱状構造物パラメータを取得し、柱状構造物を含む領域を複数の領域に分割した局所領域を設定し、各局所領域の形状情報を表す円筒パラメータを推定して円筒モデル比較部121へ出力する。
円筒モデル比較部121は、局所領域形状解析部120で推定した円筒モデルパラメータ、および柱状構造物の中心軸周辺の3次元点群を取得し、第1の円筒モデルとたわみ付き第2の円筒モデルの当てはめ処理を行う。これらの結果を比較して、たわみ付き第2の円筒モデルの優位性の度合いを示すスコア比を算出し、算出したスコア比と共に、たわみがあるか否かを示すたわみ状態パラメータを、たわみ期待値推定部122へ供給する。
たわみ期待値推定部122は、柱状構造物パラメータを取得し、たわみ付き第2の円筒モデルたわみ付き第2の円筒モデルにおける上端部の中心位置の移動量dhもしくは上端部と下端部の中心位置と凸部(凸関数の極値位置)との最短距離dcとの距離を指標としてたわみ量を推定し、推定したたわみ量に基づいて、たわみ量の期待値を算出し、信頼度算出部123へ提供する。
信頼度算出部123は、推定したたわみ量及び算出したたわみ量の期待値を取得し、推定したたわみ量の信頼度を算出する。
出力処理部124は、スコア比、たわみ状態パラメータ、たわみ量の期待値、及び信頼度を、記憶部103の柱状構造物パラメータ記憶部112へ供給する。
繰り返し処理部125は、処理が繰り返し実行されるように制御する。
構造物安全性判定部106は、柱状構造物パラメータ記憶部112から柱状構造物パラメータを取得し、柱状構造物の安全性を判定し、判定結果を出力部107へ供給する。このとき、たわみ量および信頼度から不安全と判定されたときには、不安全と判定された柱状構造物全ての座標および警告信号を出力部107へ供給する。
出力部107は、CRT(Cathode Ray Tube)、LCD(Liquid Crystal Display)、PDP(Plasma Display Panel)等のディスプレイやプリンタなどであり、本装置により求めたたわみ量および警告表示の有無を画面表示もしくは印刷等により保守管理担当者へ示すことに用いる。ここで、警告信号を構造物安全性判定部106から取得した場合には、不安全と判定された柱状構造物の座標情報と信頼度、たわみ量をリスト化したものを表示することに用いる。
なお、柱状構造物検出部104、たわみ推定処理部105(局所領域形状解析部120、円筒モデル比較部121、たわみ期待値推定部122、及び信頼度算出部123)、及び構造物安全性判定部106の各々をコンピュータで構成するようにしてもよい。
次に、本実施形態の作用を説明する。
(たわみ推定処理部105の動作説明)
まず、本実施形態のたわみ推定装置100によるたわみ推定処理部105全体の入出力について説明する。ただし、たわみ推定処理部105の各部(120〜123)は、各部に対応する処理(S3_1〜S3_4)を実行する。図8は、本実施形態のたわみ推定処理部105が実行する処理のフローチャートである。
ステップS1で、入力処理部118は、3次元点群記憶部110から3次元点群、演算処理用パラメータ記憶部111からたわみ推定処理部105の演算処理で使用する演算処理用パラメータ、柱状構造物パラメータ記憶部112から柱状構造物パラメータ(位置、中心軸の方向、半径、長さ)を入力する。
ここで、各柱状構造物を区別する番号をI(∈1,2,...,NI)、柱状構造物の総数をNIで表示する。柱状構造物パラメータとは、柱状構造物の位置、例えば、下端部の3次元座標PI_bottom、中心軸の方向
、構造物の長さLI、半径RI等の柱状構造物に関する形状情報のこととする。
ステップS7で、繰り返し処理部125は、番号Iに1をセット(代入)する。以下では、繰り返し処理部125は、ステップS4の終了条件を満たすまでNI回、ステップS2とステップS3の処理が実行されるように処理する。
ステップS2において、取得部119は、柱状構造物Iの中心軸から半径Rcut(=RI+ΔR)以内に含まれる3次元点群を取得する。被写体計測部101は、柱状構造物Iの表面の3次元位置を計測するので、3次元点群は、柱状構造物Iの表面の3次元位置と、存在すれば柱状構造物Iの表面に取り付けられた付属品の表面の3次元位置とが含まれる。上記ΔRは演算処理用パラメータ記憶部111に登録されているパラメータである。以降では、このようなパラメータを「実験的に決めるパラメータである」と記載する。本実施形態においては、例えばΔR=0.05(m)とした。
ここで、取得した3次元点群の数をNm、各3次元点を区別する番号をm(∈1,2,...,Nm)で表示する。注目点mの位置座標をベクトルで表すと、ベクトルpmは次式によりX軸、Y軸、Z軸の成分で構成される。ただし、右上の添え字の記号「T」は転置を意味とする。
ただし、xm、ym、zmはX、Y、Z軸の成分である。
ステップS3において、たわみ推定処理部105は、柱状構造物IのパラメータおよびステップS1で取得した3次元点群を入力し、たわみ推定処理を行い、たわみ量を推定し、たわみ量の期待値と信頼度を算出する。また、スコア比及びたわみ状態パラメータを出力する。
ステップS4で、繰り返し処理部125は、番号Iが柱状構造物の総数NI以上か否かを判断することにより、全ての柱状構造物について以上の処理(S2〜S3)が終了したか否かを判断する。全ての柱状構造物について以上の処理(S2〜S3)が終了したと判断された場合、ステップS5で、出力処理部124は、各柱状構造物について、スコア比と、たわみ状態パラメータと、推定したたわみ量と、たわみ量の期待値と、信頼度とを記憶部103(柱状構造物パラメータ記憶部112)に出力する。全ての柱状構造物について処理が終了していないと判断された場合、ステップS6で、繰り返し処理部125は、I←I+1とし、処理は、ステップS2へ戻る。ただし、数式「I←I+1」はIの数を1つ増やしてIに代入するという意味である。
以下、ステップS3について詳細な説明をする。以下、座標系の軸に対して、右上の添え字として記号「'」(ダッシュ)があるものは、ローカル座標系の軸であることを明示するために記載している。
(ステップS3−1:局所領域形状解析処理)
柱状構造物Iのパラメータとその柱状構造物Iから半径Rcut以内の3次元点の点群Pmを入力とし、複数(具体的には、S313で決定されるNran個)の局所領域円筒パラメータ(中心位置、半径、中心軸の方向)とテーパの有無を出力する。以下では、柱状構造物Iの中心軸から半径Rcut以内の3次元点群Pmのことを柱状構造物Iの周辺点群Pmと記載する。
ステップS3−1の処理を示すフローチャートを図9に示す。
S311において、局所領域形状解析部120は、柱状構造物Iの周辺点群Pmを入力する。具体的には、下記の式を満たす3次元点が入力される点である。
ただし、pallは計測した全ての3次元点群の点を意味する。
S312において、局所領域形状解析部120は、柱状構造物Iの中心軸から半径Rcut以内の領域において、各々柱状構造物Iの中心軸方向の隣の領域と一部重複する複数の局所領域を設定する。周辺点群Pmに含まれる3次元点をpm(m∈1,2,3,..., Nm)、点群の総数をNm、柱状構造物Iの中心軸方向をZI'軸、中心軸に垂直な2つの軸をY’軸、X’軸、下端部の中心位置PI_bottomを原点としたローカル座標系を設定すると、図10に示すように点周辺点群Pmを中心軸の方向
に分割する。ローカル座標原点PI_bottomから、ZI'軸方向へ長さΔsずつ区切った区間を設定すると、局所領域RSs(s∈1,2,3,...,NS)に含まれる3次元点は以下の式を満たす。
ただし、Δsは実験的に決めるパラメータであり、本実施形態ではΔs=1.5(m)とする。
ここで数学的な記号の意味を記載すると、記号
は方向、つまり長さが1のベクトルであること(2ノルムが1であること)を明示するための記号とし、記号
はベクトルの2ノルムの大きさとする。記号ベクトル間の記号「・」はベクトルの内積演算、記号「×」はベクトルの外積、スカラー量とベクトル間の記号「・」は掛け算を意味する。
式(3−1)の物理的な意味は、柱状構造物Iの周辺点について、ローカル座標のZ’軸に射影した点が(k・Δs)から±Δsの範囲に入る3次元点群である。
ステップS313において、局所領域形状解析部120は、各局所領域内の3次元点群に対して第1の円筒モデルの当てはめを行うことで、該当する局所領域における円筒の表面形状の情報を抽出し、各局所領域の円筒パラメータ登録処理をする。具体的には、柱状構図物の付属品の影響を抑えるために、RANSAC処理(図11)により円筒当てはめを行い、最もスコア値の高い第1の円筒モデルのパラメータから上位Nran個について、局所領域における円筒パラメータとして登録を行う。
RANSACによる円筒当てはめは既存手法である。ただし、本実施形態においてたわみ推定を高い性能で実施する必要があるために、図11のフローチャートを用いて説明する。なお、局所領域形状解析部120は、図11に示した処理を、上記ステップS312(図9)で設定された複数の局所領域の各々について実行する。
ステップA_1において、局所領域形状解析部120は、局所領域内における柱状構造物Iの中心軸から半径Rcut以内に位置する3次元点群(周辺点群)を入力する。
ステップA_2において、局所領域形状解析部120は、ステップA_3からステップA_6の処理をKloop回まで繰り返す回数kを1にセットする。回数Kloopは実験的に決めるパラメータであり、本実施形態ではKloop=1000とした。
ステップA_3において、局所領域形状解析部120は、局所領域内における柱状構造物Iの中心軸から半径Rcut以内に位置する3次元点群の中からランダムに2点を選択(サンプリング)し、2点間の方向を処理k回目における中心軸の方向
とする。具体的には2点の座標の差分をとり、ノルムを1にするように長さを正規化すればよい。
の記号「k」はステップA_2からステップA_7の繰り返し処理における処理のk(∈1,2,...,Kloop)番目の回数を意味する。
ステップA_4において、局所領域形状解析部120は、局所領域内における柱状構造物Iの中心軸から半径Rcut以内に位置する3次元点群の中からランダムにNr個の点を選択し、選択したNr個の各点の中心軸の方向
に垂直でかつ局所領域の重心を通る平面へ射影した座標位置を求める。平面の基底ベクトルは、
に直交して、かつ重心を通る2つのベクトルであればよい。例えば、グローバル座標のX軸とY軸について、
方向に直交するように、グラム・シュミットの正規直交化法を用いて変換してもよい。この平面上での座標位置は、平面の基底の軸方向
と注目点jの位置ベクトルpjとの内積で求まる。ランダムに選択した点の位置座標をpj、ランダムに選択したNr個の点の重心位置をqg kとすると、上記平面での座標[x'j,y'j]は次式で求まる。
ここで、Nrは実験的に決めるパラメータであり、本実施形態ではNr=5とした。
ステップA_5において、局所領域形状解析部120は、選択したNr個を上記平面上に射影した点群について、最小二乗法により円の当てはめを行い、各々局所領域の形状を規定する半径re kと平面上での中心位置の座標[xe k,ye k]を円筒パラメータとして求める。具体的には、以下の評価式Estraightを最小化するように求めればよい。
ステップA_6において、局所領域形状解析部120は、ステップA_5で求めた円筒パラメータ(半径、中心位置)の評価を行う。評価方法は幾つか存在するが、例えば円筒表面上に存在する3次元点群の数や円筒表面上に存在する3次元点の範囲(面積)等が用いられる。
点の数をモデルの評価基準となるスコア値として求めた例を以下に示す。スコア値は、局所領域RSkに含まれる合計Ns個の3次元点psの各々を、中心軸
に垂直な平面へ射影した点(x's,y's)、半径re k、及び中心位置の座標(xe k,ye k)を用いて、下記の評価関数Scorestraightにより求まる。
ここで、Theは実験的に決めるパラメータであり、本実施形態ではThe=0.02(m)とした。上記式のFはスカラーの値であることを意味する。
ステップA_7において、局所領域形状解析部120は、繰り返し回数がKloop以上終了したか判定を行う。Kloop以上の処理が終了したと判断された場合には、処理は、ステップSA_8に進む。Kloop以上の処理が終了していないと判断された場合には、処理は、ステップA_3に戻る。
ステップA_8において、局所領域形状解析部120は、最も高いスコア値からNran個の円筒パラメータを出力する(図12(B)参照)。このとき出力する円筒パラメータは、図12(A)に示すように、局所領域の形状を規定する中心位置、半径、中心軸の方向、及びスコア値である。中心位置については、平面上の座標系(2次元ベクトル)からグローバル座標系へ変換をした位置座標qs(3次元ベクトル)として出力する。ステップA_8の後、処理は、図9のステップS314に進む。
以上が円筒当てはめによる、円筒パラメータ登録処理である。
図9のステップS314において、局所領域形状解析部120は、テーパ有無の判定処理を行う。図13に示すように、各局所領域RSsについて最も良いスコア値(Scorestraightが最大)のときの半径(局所領域円筒半径)の大きさを縦軸、各局所領域の中心位置を横軸にプロットしたときの2次元座標点群を求める。横軸におけるZminは、最下位置の局所領域の中心位置である。このとき、点群に直線当てはめを行ったときの傾きの絶対値が、閾値THlean以上のときに「テーパが有る」と判定する。図13に示すように、傾きをb、半径rの大きさをY軸に、Yt軸との切片の値をC、中心軸方向をXt軸とした2軸を例で示すと、
の式で表した時に、bの符号が負であり、かつ|b|の大きさが閾値THleanより小さいときは柱状構造物にテーパが無いと判定し、|b|の大きさが閾値THlean以上ならテーパが有ると判定する。物理的な意味を補足すると、「テーパが有る」とは、柱状構造物の形状が中心軸方向において一定の割合で小さく変化していることを意味する。
なお、ステップS314については処理を省略してもよい。この場合、ステップS3−2におけるステップS321で入力されることがなく、ステップS322における第1のスコア値Scorestraightの算出に用いないこととなる。
ステップS315において、局所領域形状解析部120は、各局所領域の円筒パラメータ(中心位置、半径、中心軸の方向)とテーパの有無とを出力する。ステップS315の後、処理は、図8のステップS3−2に戻る。
(ステップS3−2:円筒モデル比較処理)
円筒モデル比較部121は、ステップS1で入力された柱状構造物Iのパラメータおよび、柱状構造物Iの周辺点群Pm、ステップS3−1の出力であるテーパ有無を入力とし、円筒モデル比較結果のスコア比Ratioscoreを出力する。
次に、ステップS3_2の円筒モデル比較処理について説明する(図14参照)。ステップS3_2では、円筒モデル比較部121は、柱状物体Iについて、柱状構造物Iにたわみがないと仮定した場合の柱状構造物Iを規定する第1の円筒モデルと、柱状構造物Iにたわみがあると仮定した場合の柱状構造物Iを規定するたわみ付き第2の円筒モデルとの当てはめ処理を行い、2つのモデルに対して算出される第1のスコア値及び第2のスコア値を比較することで、不安全と判定されるべきたわみが発生しているかどうか判定を行う。これにより、本来はまっすぐな柱状構造物が、計測時のノイズの影響により、誤ってたわみが発生していると判定することを抑制する。
ステップS321では、円筒モデル比較部121は、ステップS1で入力された柱状構造物Iのパラメータ、柱状構造物Iの周辺点群、及びステップS3_1の出力であるテーパ有無の判定結果を入力する。
ステップS321の後、処理は、ステップS322、S323に移行する。なお、円筒モデル比較部121は、ステップS322の後に、ステップS323を実行してもよく、ステップS323の後に、ステップS322を実行してもよい。
ステップS322では、円筒モデル比較部121は、柱状構造物Iの周辺の3次元点群を用いて、柱状構造物Iにたわみがないと仮定した場合の柱状構造物Iを規定する第1の円筒モデルの当てはめによる第1のスコア値Scorestraightを算出する。この処理はRANSACによる円筒当てはめ処理(図9のステップS313(図11))と同じである。ただし、ステップS3においてテーパが有りと判定された場合のみ、図15のようにテーパ値により一定の割合で半径の大きさが変化する。
そのため、円筒当てはめ処理ステップAにおける入力する点が、局所領域RSkに含まれる3次元点群ではなくて、柱状構造物Iの周辺の3次元点群全てであることと、ステップA_6のスコア値の算出式のみが異なる。
ステップA_6のスコア算出時における、繰り返し処理k回目の中心軸Z’kに垂直な平面の基底ベクトルを
とし、テーパ値をα、重心位置をqg k、注目点の番号をm、注目点の位置ベクトルをpmとすると、第1のスコア値Scorestraightは、次の通りである。なお、本ステップ322では、柱状構造物Iにはたわみがないと仮定している。よって、各局所領域の中心位置は、直線状に位置する。下の式の中心位置(xe k,ye k)及び重心位置qg kは、複数の局所領域の中から選択した1つの局所領域の中心位置及び重心位置である。
ここで、テーパ値αは柱状構造物の規格値を使用してもよいし、実験的に決定してもよい。本実施形態では、α=1/150とした。閾値TheはステップA_6と同じである。
ここで、上記中心位置及び半径は、柱状構造物Iにたわみがないと仮定した場合の柱状構造物Iを規定する第1の円筒モデルのモデルパラメータであり、当該柱状構造物Iの形状を表現する。実際の柱状構造物Iに付属物がなくたわみもなければ、第1のスコア値Scorestraightは、3次元点の総数Nmと一致致し又は近い値となる。即ち、上記第1の円筒モデルのモデルパラメータにより表現される柱状構造物の形状は、実際の柱状構造物Iと一致する。上記中心位置及び半径は、実際の柱状構造物Iの形状を正しく規定していると評価できる。
しかし、実際の柱状構造物Iにたわみがあると、上記中心位置及び注目点間の距離と上記半径との差Fの絶対値は閾値The以上と判定され、第1のスコア値Scorestraightは、3次元点の総数Nmより少なくなる。即ち、上記第1の円筒モデルのモデルパラメータにより表現される柱状構造物の形状は、実際の柱状構造物Iと一致しない。実際の柱状構造物Iにあるたわみが大きくなるに従って、第1のスコア値Scorestraightは3次元点の総数Nmより小さくなる。
ステップS323では、円筒モデル比較部121は、柱状構造物Iの周辺の3次元点群を用いて、RANSACによるたわみ付き第2の円筒モデルの当てはめ処理を行う。ステップS322の第1の円筒モデルの当てはめ処理との大きな違いは、この中心軸の設定方法であり、スコア値の算出は同様に行うことができる。中心軸は、ステップS3_1の局所領域形状解析処理で求めた円筒モデルパラメータを用いて、N次の凸関数により推定する。このとき、凸関数は2次関数でも3次関数でもよいが、本実施形態では2次関数を用いた例を示す。
第2の円筒モデル当てはめの詳細な説明の前に、図16(A)〜図16(C)に中心軸推定処理の概要を説明する。まず、円筒モデル比較部121は、局所領域形状解析処理(図8のステップ3−1(図9))で推定した円筒モデルパラメータをランダムに2つ選び、たわみ付き第2の円筒モデルの中心軸(凸関数)が存在する平面を推定する。次に、円筒モデル比較部121は、この平面上に、局所領域形状解析処理で推定した円筒パラメータからランダムに数点選択した中心位置の点を射影し、平面上(ローカル座標系)での座標を求める。円筒モデル比較部121は、この射影した点群を用いて、凸関数のパラメータを算出する。円筒モデル比較部121は、最後の凸関数のパラメータから、たわみ開始位置を算出する。
以下、ステップS323を実現する方法として、円筒モデル比較部121は、ステップBのRANSACによるたわみ付き第2の円筒モデルの当てはめ処理を説明する(図17参照)。
ステップB_1において、円筒モデル比較部121は、ステップS1で入力された柱状構造物Iのパラメータ、ステップS2で取得した柱状構造物Iの周辺点群Pm、S314で出力したテーパの有無の判定結果、及び局所領域円筒パラメータ登録処理で出力した円筒パラメータを入力する。
ステップB_2において、円筒モデル比較部121は、回数kを1にセットする。
ステップB_3において(図16(A)参照)、円筒モデル比較部121は、第2の円筒モデルの中心軸が存在する平面を推定する。まず、たわみ開始位置G0での接線方向u軸を推定する。局所領域で推定した円筒パラメータ(円の中心位置及び半径、中心軸方向)を区別する番号c(c∈1,2,3,...,Nc)、円筒パラメータcの中心軸方向をuc、局所領域において推定した円筒パラメータの数をNcとすると、ランダムに選んだ2つの局所領域の中心軸の方向uc1、uc2を用いて以下の式で接線方向ukを求める。
ただし、frandは0〜1の値をとる乱数とする。上記式は、ランダムに選んだ2つの局所領域の中心軸の方向uc1、uc2を用いて接線方向ukを合成(計算)することを意味する。
また、後処理のために平面の基底ベクトルであるukの第三成分が正となるように向きを調整する。ukの第三成分、つまりグローバル座標系でのZ軸の値が負の値であるとき、ukの向きを変更する。
たわみ方向を規定するv軸は、uc1からukの方向成分を、グラム・シュミットの直交化法により0にして、ノルムが1となるように正規化することで求める。
上記平面の中心位置は、選択した2つの局所領域の円筒パラメータの中心位置(qc1,qc2)の重心とする。
ここで、添え字の「k」は、繰り返し処理がk回目のときの推定結果であることを意味する。
ステップB_4において、円筒モデル比較部121は、たわみ付き第2の円筒モデルの中心軸の存在する平面をローカル座標系とし、ランダムに選択した円筒パラメータにおけるNj個の中心位置を中心軸が存在する平面へ射影して、その平面で基底される空間(たわみ円筒ローカル座標系)での座標を求める。
以下、このたわみ円筒ローカル座標系の軸はu軸、v軸で表現し、その座標値(スカラー値)は、それぞれxとyで表現する。また位置ベクトルの右上の添え字として記号「'」(ダッシュ)があるものは、ローカル座標に射影した点の位置ベクトルもしくはローカル座標系での座標値であることを明示するためにつけている。
局所領域で推定した円筒パラメータについて、ランダムに選択した円筒パラメータを区別する番号をj、その円筒パラメータの中心位置をpjとすると、たわみ円筒ローカル座標系での座標pj(=[xj,yj]T)への変換式は次式で求まる。
ステップB_5において(図16(B)参照)、円筒モデル比較部121は、たわみ付き第2の円筒モデルの中心軸を表現する凸関数を、たわみ付き第2の円筒モデルのモデルパラメータとして求める。凸関数は2次関数でも3次関数やそれ以上の次元の数でもよいが、本実施形態では2次関数とする。経験的に、安全・不安全の評価を行う柱状構造物は、形状の変形量が微小であるため、ノイズに影響されにくい2次か3次などの低い次元の関数の方が好ましい。本実施形態では2次関数を例として示す。2次数の係数をa、b、cとすると、下記の評価関数を最小化するように係数として求めればよい。
ここで、評価関数Ebentについて、最小二乗法を用いて係数a、b、cを求めてもよいし、非線形の数値解析手法を用いて求めてもよい。
求めた係数により、たわみ開始位置gkは次式で求まる(図16(C)参照)。
次に、たわみ開始位置での半径の大きさrkを設定する。本来中心軸において下端からの距離に応じて半径は変化するが、たわみ量が微小であると考えて、たわみ開始位置での接線方向の距離に比例して半径が変化する、つまり近似できると考える。
選択したNj個の円筒パラメータの中からランダムに1つ選んだ半径rselectに対して、たわみ開始位置と選択した円筒パラメータの中心位置のu軸上での位置xselectとの距離に比例した値とする。
ただし、テーパがないと判定された柱状構造物Iについてはrk=rselectとする。また、Njは実験的に決めるパラメータであり、本実施形態ではNj=5とした。
ステップB_6において、円筒モデル比較部121は、第2のスコア値ScoreBentを算出する。柱状構造物Iの周辺の各3次元点pmについて、たわみ付き第2の円筒モデルのモデルパラメータにより表現される柱状構造物の表面上に存在するかどうか判定し、モデル表面上に存在するときに第2のスコア値として加算する。
モデル表面上に存在するかどうかは、注目点から、凸関数で表現された中心軸への最短距離により判定する。具体的には、注目点pmからの垂線の足qhを求め、線分pmqhがたわみ付円筒モデルの半径rhと近い値であれば、モデル表面上に存在すると判定する。
3次元空間中の曲線モデルと3次元点との最短距離を算出する方法は幾つかあるが、本実施形態では、図18に示すようにステップB_5で設定した凸関数の基底軸(u軸、v軸)へ射影した点p'mと凸関数の中心軸との最短距離から三平方の定理により算出する。射影点p'm(=[x’m,y’m])は、たわみ円筒ローカル座標系の座標として次式により求まる。
次に、射影点のu軸上での座標により場合分けして最短点を求める。座標位置x’mの値が、たわみ開始位置gkのu軸上での位置ugの値より小さいときは、ステップB_6_1を行い、u軸上での位置が大きいときはステップB_6_2を行う。
ステップB_6_1において、円筒モデル比較部121は、3次元点pmとたわみ開始点gkを通るu軸と平行な直線との距離として最短距離dist(pm)を求める。
ステップB_6_2において、円筒モデル比較部121は、まず3次元点pmを射影した射影点p’mとたわみ開始点gkを通るステップB_5で求めた2次関数について、最短距離dist1を求める。
ここで、幾何的な性質から、点からある曲線までの最短距離の位置まで引いた線分と、最短距離の位置での接線は直交するという関係性がある。よって、最短位置qh(=q’h=[x’h,y’h])での接線方向
と射影点p’mから最短位置qhまでの方向
の内積は0となり、次式が成立する。
未知数(変数)はx’hのみであるから、x’hの方程式として解くことができる。この方程式はニュートン法や修正ニュートン法などの数値解析手法で解くことが可能である。
ただし、この方程式は高次の方程式のため、一般的に複数の解が求まる。そのため、求まる複数の解について、射影点p’mから最も近い位置が最短位置qhの位置x’hとする。
最短距離dist1は次式で求まる。
次に、円筒モデル比較部121は、点pmと射影した射影点p’mとの距離dist2を求める。
点pmと垂線の足の位置qhとの距離distは、幾何的な関係から次式で求まる。
ステップB_6_2において、上記では幾何的な関係から最短距離を求めたが、この方法以外にも例えば、ラグランジュの未定乗数法を用いて解いてもよい。制約条件は、最短位置の点が2次関数上に存在することとし、射影点p’mと凸関数曲線上の点において距離が最小となる解(極値)を求めればよい。
ステップB_6_1もしくはステップB_6_2により求めた点pmにおける最短距離dist(pm)を用いて、第2のスコア値は次式により求まる。
ここでTheは実験的に決まるパラメータであり、本実施形態ではThe=0.02とした。
ここで、上記中心軸は、柱状構造物Iにたわみがあると仮定した場合の柱状構造物Iを規定するたわみ付き第2の円筒モデルのモデルパラメータであり、当該柱状構造物Iの形状を表現する。実際の柱状構造物Iに付属品がなくかつ当該中心軸に対応するたわみがあると、第2のスコア値Scorebentは、3次元点の総数Nmと一致致し又は近い値となる。よって、第2のスコア値Scorebentが3次元点の総数Nmと一致し又は近い値の場合には、実際の柱状構造物Iに上記中心軸に対応するたわみが存在すると評価できる。一方、実際の柱状構造物Iにたわみがないと、dist(pm)がThe以上となる注目点が多くなり、第2のスコア値Scorebentは、3次元点の総数Nmより少なくなる。
ステップB_7において、円筒モデル比較部121は、回数kがTloop以上か否かを判断することにより、繰り返し処理の回数kがTloop回以上か否かを判断し、繰り返し処理の回数kがTloop回以上と判断された場合、処理は、ステップB−8に進む。繰り返し処理の回数kがTloop回以上と判断されなかった場合、ステップB−9において、円筒モデル比較部121は、k←k+1とし、処理は、ステップB_3へ戻る。
ステップB_8において、円筒モデル比較部121は、スコア値Scorebentが最も高いモデルパラメータについて、柱状構造物Iの柱状構造物パラメータとして出力する。ここで、出力するモデルパラメータとは、たわみ中心軸の存在するローカル座標系および凸関数の係数および、たわみ開始位置、たわみ開始位置での半径、たわみ開始位置での凸関数の接線方向である。
以降の処理のために、出力するパラメータの記号を記載する。
たわみ開始位置G0←gk、たわみ開始位置での半径R0←rk、たわみ開始位置での凸関数の接線方向
として出力する。ステップB−8の後、処理は、図14のステップS324に進む。
ステップS324において、円筒モデル比較部121は、円筒モデル当てはめ処理で求めた第1のスコア値Scorestraight と、第2の円筒モデルのスコア値Scorebentとを、以下の式にあるように比較して、スコア比Ratioscoreを算出し、スコア比Ratioscoreが、閾値THbentより大きいか否かを判定する。
ここで、THbentは実験的に決めるパラメータであり、本実施形態ではTHbent=1.2とした。ただし、THbentの設定は1.0以上とする。
実際の柱状構造物Iにたわみがなければ、第1のスコア値Scorestraightは、3次元点の総数Nmと一致又は近い値となるのに対し、第2のスコア値Scorebentは、3次元点の総数Nmより少なくなる。この場合、スコア比Ratioscoreは、THbent未満となる。逆に、実際の柱状構造物Iに、上記中心軸に対応するたわみがあると、第1のスコア値Scorestraightは、3次元点の総数Nmより少なくなるのに対し、第2のスコア値Scorebentは、3次元点の総数Nmと一致致又は近い値となる。よって、スコア比Ratioscoreは、THbent以上となる。
スコア比RatioscoreがTHbent以上の場合、即ち、たわみ付き第2の円筒モデルについて算出される第2のスコア値Scorebentに優位性があるときに、たわみが存在すると判定する。たわみが有りと判定されたとき、ステップS325で、円筒モデル比較部121は、たわみ状態パラメータβ=1とし、それ以外はたわみ状態パラメータβ=0として出力する。
なお、上記優位性を判断するためには、第1のスコア値Scorestraight及び第2のスコア値Scorebentに代えて、第1の円筒モデル、たわみ付き第2の円筒モデルの表面上に存在する点の範囲(面積)を用いてもよい。
(ステップS3−3:たわみ量期待値算出処理)
たわみ量期待値算出処理は、Ratioscore>THbentの場合に実行される。Ratioscore>THbentでない場合には、算出されたたわみ量から柱状構造物Iにたわみが発生していると判断しても、これは、柱状構造物Iに取り付けられた付属品の影響により柱状構造物Iにたわみが発生していると判断できる。よって、柱状構造物Iには、不安定であると判断できるたわみは発生していないと判断できる。逆に、Ratioscore>THbentの場合、算出したたわみ量には付属品の影響は少ない。しかし、算出されたたわみ量は、計測ノイズにオーバーフィッティング(過剰適合)して、算出されている可能性がある。そこで、本実施形態では、たわみ量期待値算出処理が実行される。
たわみ期待値推定部122は、ステップS1で入力された柱状構造物Iのパラメータおよび、柱状構造物Iの周辺点群を入力とし、ステップS3−4へ出力する。
たわみ期待値推定部122は、ステップS3−3では、たわみ量期待値算出処理を行う。たわみ量期待値の処理フローチャートは図19に示す。
図19のステップS331において、たわみ期待値推定部122は、柱状構造物Iのパラメータおよび柱状構造物Iの周辺の3次元点群を入力する。
以下では、dl=1からdl=DLoopになるまで、ステップS332からステップS335の処理を繰り返し行う。まず、ステップS331Aで、たわみ期待値推定部122は、回数dlに1をセットする。
ステップS332において、たわみ期待値推定部122は、柱状構造物Iの周辺点群Pmについて点密度の正規化処理として、サンプリング処理を行う。各局所領域RSs(s∈1,2,3,...,NS)について、Ls個の点群をランダムに選択する(図20参照)。当該局所領域はS312で設定したものである。局所領域は重複しているため、同一点が2回選択されることもあるが、それは問題ない。
なお、たわみ期待値推定部122は、後述する処理(ステップS332〜S335)を繰り返す毎に、柱状構造物Iの周辺点群の中からサンプリングした3次元点群の組み合わせに基づいて、たわみ量を推定している。よって、たわみ期待値推定部122は、周辺点群の内の複数の点(LS個の点)を有する複数の組合せの各々についてたわみ量を推定している。
ここで、Lsは実験的に決めるパラメータである。本実施形態では、各局所領域RSsについて円筒当てはめを行った出力すべて(Nran個×Ns個)のスコア値の中央値とする。ただし、小数点以下は切り捨てた値とする。なお、NranはS313で登録処理をした局所領域円筒パラメータの数である。
ステップS333において、たわみ期待値推定部122は、たわみ付き第2の円筒モデルの当てはめ処理を行う。この処理はステップBの処理(図14のステップS323(図17))と同一であるが、入力する3次元点群が正規化処理を行った後の3次元点群であることが異なる。また、dl回目の処理の入力点群Pdlランダムに選択しているため、選択された3次元点群は繰り返し処理ごとに異なるが、3次元点の数はLs×Ns個と同じである。
ステップS334において、たわみ期待値推定部122は、上記ステップS333の当てはめ処理の結果に基づいて、たわみ量γdlを推定する。たわみ量の指標は、本実施形態では図6(A)に示すように、上端部の中心位置とたわみ開始位置G0での接線との距離dh、もしくは、図6(B)に示すように、上端部の中心位置と下端部の中心位置を結んだ直線と中心軸を表現する凸関数との最も離れた位置の距離dcとする2つの指標とする。
(指標としてdhを用いた場合の算出方法)
まず、図6(A)を参照して、指標としてdhを用いた場合の算出方法を説明する。
たわみ期待値推定部122は、本実施形態では、たわみ付き第2の円筒モデルの当てはめ処理により求めた中心軸を量子化して算出した点と上端部と下端部の中心位置を結んだ直線との距離として求める。たわみ開始位置G0の線方向
について、下端部と上端部の間の区間をΔwずつ区切り、それぞれの区間w(∈1,2,3,...,Nw)の中心位置での中心軸のローカル座標系での座標を求める。
次に、上記ローカル座標系での座標値をグローバル座標系での3次元位置をqwで表し、たわみ開始位置G0での接線をU’方向で表すと、上端部の中心位置qtopと下端部の中心位置qbottomは次式で求まる。
上端部の中心位置qtopから接線
の距離dhは次式により求まる。
たわみ量γdlは次式により求まる。
もしくは、単位長さあたりの変形量として、次式により求めてもよい。
ただし、Δwは実験的に決める長さの量であり、本稿ではΔw=0.01(m)とした。柱状構造物Iの周辺点群について、U’軸上に射影したとき、射影した座標の最大値と最小値の差分をΔwで割った値がNwとなる。
(指標としてdcを用いた場合の算出方法)
次に、図6(B)参照してdcを用いた場合の算出方法を説明する。
たわみ期待値推定部122は、本実施形態では、たわみ付き第2の円筒モデルの当てはめ処理により求めた中心軸を量子化して算出した点と上端部と下端部の中心位置を結んだ直線との距離として求める。
たわみ開始位置G0の接線方向
について、下端部と上端部の間の区間をΔwずつ区切り、それぞれの区間wの中心位置での中心軸のローカル座標系での座標を求める。次に、この座標値をグローバル座標系での3次元位置をqwで表すと、次式により凸部量dcは求まる。
たわみ量γdlは次式により求まる。
もしくは、単位長さあたりの変形量として、次式により求めてもよい。
ステップS335において、たわみ期待値推定部122は、回数dlがDLoop以上であるか否かを判断することにより、繰り返し処理の回数dlがDLoop回以上であるか否かを判断する。繰り返し処理の回数dlがDLoop回以上であれば、処理は、ステップ336に進む。繰り返し処理の回数dlがDLoop回以上でないときは、ステップ338で、たわみ期待値推定部122は、dl=dl+1とし、処理は、ステップS332の処理へ戻る。
ステップS336において、たわみ期待値推定部122は、ステップS334によって推定されたたわみ量γdlに基づいて、たわみ量の期待値を算出する。
処理dl回目の第2のスコア値をScorebent(dl)、処理dl回目で推定したたわみ量をγdlで表すと、たわみ量期待値μは次式で求まる。
なお、Scorebent(dl)はステップS333の繰り返し処理で算出されたものである。
ステップS337において、たわみ期待値推定部122は、推定したたわみ量の期待値と繰り返し処理で求めたたわみ量(γ1, γ2,...,γDloop)の全てを出力する。ステップS337の後、処理は、図8のステップS3_4に進む。
(ステップS3−4:信頼度算出処理)
信頼度算出部123は、ステップS3−3で算出した推定したDLoop個のたわみ量とたわみ量期待値μを入力とし、信頼度τを出力する。
ステップS3−4において、信頼度算出部123は、ステップS3−3で算出した推定したDLoop個のたわみ量とたわみ量期待値μに基づいて、信頼度を算出する。信頼度算出部123は、ステップS3−3で算出したDLoop個のたわみ量γdlにおける標準偏差から信頼度を求める。図21に示す繰り返し処理dl回目のたわみ量γdl、たわみ量期待値μ、たわみ量標準偏差σにより、信頼度τは次式で求まる。
ここで、信頼度τは、0から1の値をとり、τ=1.0のときに最も信頼度が大きいと判定し、τ=0のときに最も信頼度が低いと判定する値である。なお、信頼度τは、上式以外に、例えば、1/(1+σ)として計算してもよい。
(構造物安全性判定部106の動作説明)
最後に、構造物安全性判定部106について説明する。構造物安全性判定部106は、たわみ推定処理部から出力された柱状構造物パラメータを用いて、各柱状構造物について安全か不安全な状態であるかの判定を行う。
各柱状構造物において、柱状構造物パラメータであるたわみ状態パラメータβとたわみ期待値μと信頼度τとスコア比Ratioscoreについて、以下の3つの方程式を満たすとき不安全な状態であると判定する。
ここで、閾値THexpと閾値THτは実験的に決めるパラメータであり、本実施形態ではTHexp=0.2(m)、THτ=0.95とした。RatioscoreはステップS324の出力値である。
上記3つの式を満たす場合、不安全と判定された柱状構造物の全ての座標および警告信号を出力部107へ供給する。出力部107は、上記ディスプレイに、不安全と判定された柱状構造物の全てについて、各不安全と判定された柱状構造物に対応して、当該柱状構造物の位置座標、たわみ量、期待値、及び信頼度をリスト化して表示(警告表示)したり印刷したりする。これにより保守管理担当者へ不安全と判定された柱状構造物を示すことができる。
(第2の実施形態)
上記の第1の実施形態において、計算効率の点から図8に示すたわみ推定処理の中で局所領域形状解析処理を行っていた。しかしながら、オフライン作業で十分な時間をかけて点群解析するときには、以下に示すように局所領域形状解析処理を省いてもよい。(図22)
このとき、ステップ3のステップ3−1の円筒モデル比較処理において、図17のステップB−3とB−4の処理が、局所領域で推定した円筒パラメータを用いている部分が変更になる。
ステップBのステップB−3とB−4はたわみ円筒モデルの中心軸を推定する前処理として必要な処理である。図16に示してあるように、円筒パラメータの中心軸方向を用いてたわみ中心軸の存在平面(ローカル座標系)を設定し、円筒パラメータの中心位置をプロットした点群を凸なN次関数で近似することで中心軸を推定している。この部分について、局所領域で推定した円筒パラメータの「中心軸方向」および「中心位置」の算出方法について代替手段を示す。
ステップB_3において(図23参照)、たわみ付き第2の円筒モデルの中心軸が存在する平面を推定する。まず、たわみ開始位置GOでの接線方向u軸を推定する。注目する柱状構造物Iの周辺点群からランダムに選んだ2点(q1,q2)選ぶ。その選んだ2点の法線ベクトルを、
と記載すると、外積ベクトルc1を次のように、算出する。
同様にして、柱状構造物Iの周辺点群から、更に選択した2点から外積ベクトルukを求める。この2つの外積ベクトルから、以下の式で接線方向ukを求める。
ただし、frandは0〜1の値をとる乱数とする。上記式は、算出した2つの外積ベクトルuc1とuc2の加算ベクトルを用いて接線方向ukを算出することを意味する。
平面の中心位置は、選択した2点の法線ベクトル
について、接線方向ベクトルukに垂直な平面上での交点qkとする。ただし、この平面は選択した2点の内の1点(q1)を通るとする。
たわみ方向v軸は、外積ベクトルuc1から、接線方向ukの方向成分を、グラム・シュミットの直交化法により0にして、ノルムが1となるように正規化することで求める。
ステップB−4においては、円筒パラメータで求めた中心位置の代わりに、上記のように算出した交点qkをNj個用いれば、以降は同様に処理でたわみ量を推定できる。
つまり、ステップB−3において、事前にNran×Ns個の法線の外積ベクトルおよび法線の交点位置を求めておけば、以降は明細書に記載の手順でたわみ量が推定可能である。
パラメータについては、ステップS332において、点密度の正規化処理のサンプリング処理の点群選択数Lsは、明細書では「各局所領域RSsについて円筒当てはめを行った出力すべてのスコア値の中央値とする」と記載した。しかし、第2の実施形態においては実験的に決めるパラメータである。
密度が少ない場所の点群数を参考にすればよく、例えば、柱状構造物の上端部(密度が少ない場所)において1mあたりの点群数が100点、柱状構造物の長さが10mとしたら、Ls=1000(100×10)点とすればよい。
[実施形態の効果]
第1の実施形態及び第2の実施形態の各々により、3次元点群を用いて柱状構造物のたわみ推定を自動化でき、柱状構造物の保守点検の稼働コストを減らす効果がある。また、レーザースキャナで計測したときに、被計測範囲が狭いため計測ノイズの影響が大きい状況でも、中心軸のたわみ量の誤推定結果を出力することを抑制できる。更に、計測した点群から条件を変化させて複数回たわみ量を推定することで、推定したたわみ推定量の信頼度を算出でき、設備管理者に対して保守点検の優先度を示唆することができる。
[変形例]
なお、たわみ推定装置100の各処理を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、当該記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、たわみ推定装置100に係る上述した種々の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施形態に基づき図面を参照して具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。