以下に、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態における燃料電池システムに用いられる燃料電池スタックについて説明する。
燃料電池スタックは、複数枚の燃料電池を積層したものであり、本実施形態では、車両を駆動する電動モータに電力を供給する電源として用いられる。
燃料電池は、アノード電極(いわゆる燃料極)と、カソード電極(いわゆる酸化剤極)と、これらの電極に挟まれた電解質膜と、を備える。
燃料電池は、アノード電極に供給される水素を含有するアノードガス(いわゆる燃料ガス)と、カソード電極に供給される酸素を含有するカソードガス(いわゆる酸化剤ガス)とが電気化学反応を起こして発電する。燃料電池の電気化学反応(発電反応)は、アノード電極及びカソード電極において、以下のとおり進行する。
アノード電極: 2H2 → 4H++4e− ・・・(1)
カソード電極: 4H++4e−+O2 → 2H2O ・・・(2)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック110の一例を示す斜視図である。
燃料電池スタック110は、複数の単セル1と、一対の集電板2a及び2bと、一対の絶縁板3a及び3bと、一対のエンドプレート4a及び4bと、不図示の4本のテンションロッドに螺合するナット5と、を有する。
単セル1は、固体高分子型の燃料電池である。単セル1は、1ボルト程度の起電圧を生じる。単セル1の構造については図2を参照して後述する。
一対の集電板2a及び2bは、積層された複数の単セル1の外側にそれぞれ配置される。集電板2a及び2bは、ガス不透過性の導電性部材によって形成される。ガス不透過性の導電部材は、例えば緻密質カーボンである。集電板2a及び2bは、上辺の一部に出力端子6を備える。出力端子6から、燃料電池スタック110に積層された単セル1ごとに生じる電子e−が取り出される。
一対の絶縁板3a及び3bは、集電板2a及び2bの外側にそれぞれ配置される。絶縁板3a及び3bは、絶縁性の部材、例えばゴムによって形成される。
一対のエンドプレート4a及び4bは、絶縁板3a及び3bの外側にそれぞれ配置される。エンドプレート4a及び4bは、剛性を備える金属性の材料、例えば鋼によって形成される。
一対のエンドプレート4a及び4bのうち一方のエンドプレート4aには、冷却水入口孔41a及び冷却水出口孔41bと、アノードガス入口孔42a及びアノードガス出口孔42bと、カソードガスの入口孔43a及び出口孔43bとが形成される。なお、冷却水入口孔41a、アノードガス出口孔42b及びカソードガス入口孔43aは、エンドプレート4aの一端側(図中右側)に形成され、冷却水出口孔41b、アノードガス入口孔42a及びカソードガス出口孔43bは、他端側(図中左側)に形成される。
ここで、アノードガス入口孔42aに水素を供給する方法としては、例えば水素ガスを水素貯蔵装置から直接供給する方法、又は、水素を含有する燃料を改質して改質した水素含有ガスを供給する方法がある。なお、水素貯蔵装置としては、高圧ガスタンクや、液化水素タンク、水素吸蔵合金タンク等がある。燃料ガスとしては、天然ガス、メタノール、ガソリン等が考えられる。また酸化剤ガスとしては、一般的に空気が使用される。
ナット5は、燃料電池スタック110の内部を貫通する4本のテンションロッドの両端部に形成された雄ねじ部に螺合する。テンションロッドにナット5を螺合締結することで、燃料電池スタック110が積層方向に締め付けられる。テンションロッドは、剛性を備えた金属材料、例えば鋼によって形成される。テンションロッドの表面には、単セル1同士が電気的に短絡することを防止するために、絶縁処理が施される。
図2は、図1のII-II線に沿う方向から見た単セル1の断面を示す図である。
単セル1は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下「MEA」という。)11を、アノードセパレータ20とカソードセパレータ30とで挟持して構成される。
MEA11は、電解質膜11aとアノード電極11bとカソード電極11cとを有する。MEA11は、電解質膜11aの一方の面にアノード電極11bを有し、他方の面にカソード電極11cを有する。
電解質膜11aは、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜11aは、水を含んだ湿った状態で良好な電気伝導性を示す。
アノード電極11b及びカソード電極11cは、ガス拡散層、撥水層、及び触媒層から構成される。ガス拡散層は、充分なガス拡散性および導電性を有する部材、例えば、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスによって形成される。撥水層は、ポリエチレンフルオロエチレンと炭素材とを含む層である。触媒層は、白金が担持されたカーボンブラック粒子によって形成される。
アノードセパレータ20は、アノード電極11bと接する。アノードセパレータ20は、アノード電極11bと接する側に、アノード電極11bにアノードガスを供給するためのアノードガス流路24を有する。そして、アノード電極11bと直接接する面(後述する流路リブ25の頂面)25aの反対面に、燃料電池スタック110を冷却する冷却水が流れる冷却水流路26を有する。
カソードセパレータ30も同様に、カソード電極11cと接する側に、カソード電極11cにカソードガスを供給するためのカソードガス流路34を有し、カソード電極11cと接する面(後述する流路リブ35の頂面)35aの反対面に冷却水流路36を有する。アノードセパレータ20及びカソードセパレータ30は、金属又はカーボンである。
なお、アノードセパレータ20の冷却水流路26とカソードセパレータ30の冷却水流路36とが互いに向き合うように形成されて、1つの冷却水流路51が形成される。
また、アノードガス流路24を流れるアノードガスと、カソードガス流路34を流れるカソードガスとは、MEA11を介して互いに逆向きに流れる。本実施形態では、アノードガス流路24を流れるアノードガスは紙面奥から手前へ流れ、カソードガス流路34を流れるカソードガスは紙面手前から奥へ流れる。
図3Aは、アノードセパレータ20をアノード電極側から見た平面図である。
アノードセパレータ20の一端(図中左側)には、上から順に、カソードガス出口孔43b、冷却水出口孔41b、アノードガス入口孔42aが形成される。一方、アノードセパレータ20の他端(図中右側)には、上から順に、アノードガス出口孔42b、冷却水入口孔41a、カソードガス入口孔43aが形成される。
また、アノードセパレータ20の表面には、アノードガス拡散部21と、複数の溝状のアノードガス流路24と、アノードガス合流部27とが形成される。
アノードガス流路24は、ガス流路底面24aからアノード電極側へ突出してアノード電極と接する複数の流路リブ25の間に形成される流路である。なお、流路リブ25の背面が、前述した冷却水流路26となっている。流路リブ25の側面25bはテーパ状となっており、流路リブ頂面25aからガス流路底面24aへ向けて一定の角度で傾斜している。これにより、アノードガス流路24を流れるガスの余分な乱流が抑制されるので、圧力損失が低減される。
アノードガス拡散部21は、アノードガス入口孔42aとアノードガス流路24との間に形成される。アノードガス拡散部21には、アノードガスを各アノードガス流路24へ均等に分配するために、アノードガス拡散部底面21aからアノード電極へ突出してアノード電極と接する複数の突起状の拡散リブ222が格子状に形成される。
アノードガス合流部27は、アノードガス流路24とアノードガス出口孔42bとの間に形成される。アノードガス合流部27は、アノードガス流路24からアノードガス出口孔42bへ向かって幅が狭くなっていくガス流路である。
アノードガス合流部27には、アノードガス合流部底面27aからアノード電極へ突出してアノード電極と接する複数の合流リブ28が形成される。アノードガス合流部27は、この合流リブ28によって複数の領域(ガス合流流路)29に区分けされる。
合流リブ28は、ガス流路終端24cからアノードガス出口孔42bへ向かって形成される。合流リブ28は、アノードガス出口孔42bへ行くほどガス合流流路29の幅が狭くなるように形成される。合流リブ28は、アノードガス流路24から各ガス合流流路29に流れ込むガス流量が略同一となるように形成される。合流リブ28の本数は、流路リブ25の本数よりも少ない。なお、隣接するガス合流流路29の流路幅がアノードガス流路24の流路幅と略同一になるまで、一部の流路リブ25の終端が延長されている。
図3Bは、カソードセパレータ30をカソード電極11c側から見た平面図である。
カソードセパレータ30は、アノードセパレータ20と同様の構成である。カソードセパレータ30は、カソードガス拡散部31と、カソードガス流路34と、流路リブ35と、カソードガス合流部37とを有する。
カソードガス拡散部31には拡散リブ322が設けられる。カソードガス合流部37には、合流リブ38が設けられ、ガス合流流路39が形成される。
カソードセパレータ30は、MEA11を介してアノードセパレータ20と対向しているため、カソードセパレータ30の一端側(図3Bの左側)は、アノードセパレータ20の他端側(図3Aの右側)となる。そして、カソードセパレータ30の他端側(図3Bの右側)が、アノードセパレータ20の一端側(図3Aの左側)となる。
したがって、カソードセパレータ30の一端側(図3Bの左側)には、アノードセパレータ20の他端側に形成される3つの孔と同じアノードガス出口孔42b、冷却水入口孔41a、カソードガス入口孔43aが形成される。そして、カソードセパレータ30の他端側(図3Bの右側)にも、アノードセパレータ20の一端側に形成される3つの孔と同じカソードガス出口孔43b、冷却水出口孔41b、アノードガス入口孔42aが形成される。
図4は、本発明の第1実施形態における燃料電池システム101の構成を示す概略図である。
燃料電池システム101は、燃料電池スタック110にアノードガス及びカソードガスを供給すると共に、負荷に応じて燃料電池スタック110を発電させる。
燃料電池システム101は、アノードガス循環系の燃料電池システムである。燃料電池システム101は、燃料電池スタック110と、アノードガス給排装置200と、コントローラ400と、を備える。
なお、図1に示した燃料電池スタック110の入口孔43aにカソードガスを供給するカソードガス供給装置、及び燃料電池スタック110の入口孔41aに冷却水を供給する冷却装置については、便宜上、図示を省略している。
燃料電池スタック110は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けると共に、燃料電池スタック110に接続された負荷に応じて発電する。負荷は、例えば車両に搭載された電動モータや、燃料電池スタック110の発電を補助する補機等である。補機としては、例えば燃料電池スタック110にカソードガスを供給するコンプレッサなどが挙げられる。
燃料電池スタック110では、積層された複数枚の単セル1が互いに直列に接続されていることから、単セル1ごとに生じるセル電圧の総和が、負荷に対する出力電圧となる。
アノードガス給排装置200は、高圧タンク210と、アノードガス供給通路220と、アノード調圧弁230と、エゼクタ240と、アノードガス排出通路250と、バッファタンク260と、循環通路270と、パージ通路280と、パージ弁290とを備える。さらにアノードガス給排装置200は、第1圧力センサ411と、第2圧力センサ412と、温度センサ420とを備える。
高圧タンク210は、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路220は、高圧タンク210から流れ出るアノードガスを燃料電池スタック110に供給するために用いられる通路である。アノードガス供給通路220の一端部は高圧タンク210に接続され、他端部は、図1に示した燃料電池スタック110のアノードガス入口孔42aに接続される。
アノード調圧弁230は、アノードガス供給通路220に設けられる。アノード調圧弁230は、高圧タンク210から押し出されるアノードガスを所望の圧力に調節して燃料電池スタック110に供給する。アノード調圧弁230は、連続的又は段階的に弁の開度を調節可能な電磁弁である。アノード調圧弁230の開度は、コントローラ400によって制御される。アノード調圧弁230の開度が大きくなるほど、アノード調圧弁230が開かれて燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力P2が上昇する。
第1圧力センサ411及び温度センサ420は、アノード調圧弁230とエゼクタ240との間のアノードガス供給通路220に設けられる。
第1圧力センサ410は、アノード調圧弁230からエゼクタ240に供給されるアノードガスの供給圧力P1を検出する。第1圧力センサ410は、供給圧力P1を示す検出信号をコントローラ400に出力する。
温度センサ420は、エゼクタ240よりも上流側のアノードガスの温度(以下、「エゼクタ240の上流温度」という。)Tgを検出する。温度センサ420は、エゼクタ240の上流温度Tgを示す検出信号をコントローラ400に出力する。
エゼクタ240は、アノード調圧弁230よりも下流のアノードガス供給通路220に対して循環通路270が合流する部分に設けられる。エゼクタ240は、アノード調圧弁230から供給されるアノードガスの供給流量を燃料電池スタック110に供給しつつ、循環通路270からアノードガスを吸引してそのアノードガスを燃料電池スタック110に循環させる機械式のポンプである。エゼクタ240の詳細については、図5A及び図5Bを参照して後述する。
第2圧力センサ412は、エゼクタ240よりも下流であって燃料電池スタック110の近傍にあるアノードガス供給通路220に設けられる。第2圧力センサ412は、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力P2を検出する。第2圧力センサ412は、圧力P2を示す検出信号をコントローラ400に出力する。圧力P2は、図3Aに示したアノードガス流路24の圧力として用いられる。
アノードガス排出通路250は、図1に示した燃料電池スタック110のアノードガス出口孔42bからアノードガスを排出する通路である。アノードガス排出通路250には、燃料電池スタック110からアノードオフガスが排出される。
アノードオフガスとは、燃料電池スタック110の発電反応に使用されなかった余剰のアノードガスと不純物ガスとの混合ガスのことである。また不純物ガスとは、カソードガス流路34からMEA11を介してアノードガス流路24にクロスリーク(透過)してきた水蒸気や窒素ガスなどの不活性ガスのことである。
バッファタンク260は、燃料電池スタック110からアノードガス排出通路250を通って流れてきたアノードオフガスを一時的に蓄える。アノードオフガス中の水蒸気の一部はバッファタンク260で凝縮して液水となり、アノードオフガスから分離される。
パージ通路280は、バッファタンク260に蓄積された窒素ガスを含むアノードオフガスと液水とを排出する通路である。パージ通路280の一端部はバッファタンク260の下流側に接続され、他端部は開口している。
パージ弁290は、パージ通路280に設けられる。パージ弁290は、バッファタンク260に溜められたアノードオフガスと液水とを、パージ通路280を介して外部へ排出する。パージ弁290は、連続的又は段階的に弁の開度を調節可能な電磁弁である。パージ弁290の開度は、コントローラ400によって制御される。パージ弁290の開度は、アノードオフガス中のアノードガス濃度が一定の値以下になるように調節される。
循環通路270は、バッファタンク260から流れ出るアノードオフガスをアノードガス供給通路220に合流させる通路である。循環通路270の一端部は、バッファタンク260に接続され、他端部はエゼクタ240の吸引口に接続される。
コントローラ400は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ400には、前述した第1圧力センサ411、第2圧力センサ412、及び温度センサ420の他にも、燃料電池システム101の運転状態や、燃料電池スタック110に接続される負荷の作動状態などを検出する各種センサの信号等が入力される。
各種センサとしては、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ510や、外気温度Tairを検出する外気温センサ421などがある。外気温センサ421は、例えばコントローラ400の近傍に設けられる。
コントローラ400は、上述の各種センサ等から入力される信号や、燃料電池システム101の部品への指令信号などに基づいて、燃料電池スタック110の運転状態を制御する。
例えば、コントローラ400は、アクセルストロークセンサ510から出力される踏み込み量に基づいて、電動モータから燃料電池スタック110に要求される要求電力、すなわち要求負荷を算出する。
そしてコントローラ400は、その要求負荷が大きくなるほど、燃料電池スタック110に供給されるカソードガスの流量を大きくする。これと共にコントローラ400は、要求負荷が大きくなるほど、アノード調圧弁230の開度を大きくすることにより、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力を高くする。
また、コントローラ400は、燃料電池スタック110の温度状態や、湿潤状態、内部の圧力状態、水蒸気の分圧状態、排出水素の希釈状態などに応じて、カソードガス圧力及び流量の制御やアノードガス圧力の制御を制限する。
図5Aは、本実施形態におけるエゼクタ240の詳細構成を示す断面図である。
エゼクタ240は、ノズル241及びディフューザ242により構成される。
ノズル241は、アノード調圧弁230から供給口240Aに供給されたアノードガスの流れを加速してディフューザ242に噴射する。ノズル241に供給されるアノードガスの供給流量は、要求負荷に基づいて算出される流量であり、燃料電池スタック110によって発電に伴い消費されるアノードガス量に相当する。
ノズル241は円筒状に形成される。ノズル241の先端部には、供給口240Aよりも狭い開口が形成される。これにより、供給口240Aに供給されたアノードガスの流速が先端部で速くなるので、先端部でアノードガスがディフューザ242へ噴射される。
ディフューザ242は、アノードオフガスを燃料電池スタック110に循環させるために、ノズル241から噴射されたアノードガスの流速によって、循環通路270からアノードオフガスを吸引する。そしてディフューザ242は、吸引したアノードオフガスの循環流量と、ノズル241から噴射されたアノードガスの供給流量とを足し合わせたアノードガス総流量を、吐出口240Cから燃料電池スタック110へ吐出する。
ディフューザ242は、ノズル241と同軸上に合流通路が形成される。合流通路の開口は、吐出口240Cに近づくにつれて広く形成される。ディフューザ242には、吸引口240Bからノズル241の先端部分まで延びる円筒状の吸引室が形成され、吸引室と合流通路とが連通している。
図5Bは、アノード調圧弁230によって調整されるアノードガス供給圧力に応じて、エゼクタ240に供給されるアノードガス供給流量が変化する特性248を示す図である。
ここでは、横軸が、アノード調圧弁230からノズル241に供給されるアノードガスの供給圧力を示し、縦軸が、ノズル241に供給されるアノードガスの供給流量を標準状態でのアノードガス流量(NL/min)に換算した値を示す。
図5Bに示すように、ノズル241に供給されるアノードガスの供給流量は、ノズル241に供給されるアノードガスの供給圧力に比例する。
このため、負荷から要求される要求電力が増加するほど、アノード調圧弁230から供給されるアノードガスの供給圧力が大きくなるので、ノズル241に供給されるアノードガスの供給流量は増加する。これにより、ディフューザ242によって吸引されるアノードオフガスの循環流量が増加する。
このように、エゼクタ240を用いて、燃料電池スタック110から排出されるアノードオフガスを吸引して燃料電池スタック110に循環させることにより、余剰のアノードガスを再利用することが可能になる。
一方、負荷からの要求電力が小さくなると、ノズル241へのアノードガスの供給流量が少なくなるため、ディフューザ242で吸引されるアノードオフガスの吸引量が減少し、燃料電池スタック110にアノードオフガスが循環されなくなる。
この対策として本実施形態では、燃料電池スタック110から排出されるアノードオフガスがエゼクタ240によって十分に循環されるように、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力を脈動させる。
これに加えて本実施形態では、アノードオフガスに含まれる水蒸気を利用して、燃料電池スタック110の内部を加湿する。
具体的には、エゼクタ240によって、図3Aに示したアノードガス流路24へアノードオフガスを十分に循環させることで、アノードガス流路24の湿度が全体的に上昇する。これに伴い、アノードガス流路24の湿度と、乾燥したカソードガスが流れる上流側のカソードガス流路34の湿度との差が大きくなる。この相対的な湿度の差がドライビングフォースとなり、アノードガス流路24内の水蒸気が、MEA11を介してカソードガス流路34内へ拡散し、電解質膜11aが加湿される。これにより、MEA11において効率よく発電が行われることになる。
図6は、アノードガスの圧力を脈動させるために定められた脈動制御マップの一例を示す観念図である。脈動制御マップは、コントローラ400に予め記録される。
図6には、エゼクタ240から燃料電池スタック110に供給されるアノードガス圧力P2の目標値が実線により示されている。また、参考としてアノード調圧弁230からエゼクタ240に供給されるアノードガス供給圧力P1の最大値が破線により示されている。
ここでは、縦軸が、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの目標圧力Ptを示し、横軸が燃料電池スタック110に対する要求負荷Lreqを示す。要求負荷Lreqは、例えば電動モータから要求される要求電力に基づいて算出される。
図6に示すように、アノードガスの目標圧力Ptとして、脈動上限圧力P2_up、及び、脈動下限圧力P2_dnの2つの目標値が定められている。これにより、アノードガスの圧力P2が脈動するようにアノード調圧弁230が制御される。
脈動上限圧力P2_upと脈動下限圧力P2_dnとは、要求負荷Lreqに比例して大きくなる。このため、要求負荷Lreqが大きくなるほど、脈動上限圧力P2_upと脈動下限圧力P2_dnとは共に高くなる。
脈動下限圧力P2_dnは、燃料電池の加湿に必要な生成水量をアノードガスに含有させるのに最低限必要となるアノードガスの圧力に定められる。
要求負荷Lreqがゼロ(0)から負荷L1までの低負荷範囲においては、脈動上限圧力P2_upと脈動下限圧力P2_dnとは、ほぼ一定の値に定められる。要求負荷Lreqが大きくなるほど、脈動上限圧力P2_upは大きくなる。
脈動上限圧力P2_upは、エゼクタ240によって燃料電池スタック110に循環させるアノードオフガスの循環流量に基づいて定められる。すなわち脈動上限圧力P2_upは、アノードオフガスの循環流量が燃料電池スタック110の加湿に必要な流量となるように設定される。
例えば、脈動上限圧力P2_upは、アノード調圧弁230からノズル241に供給されるアノードガスの供給流量に対するアノードオフガスの循環流量の流量比が30%(パーセント)以上となるように設定される。流量比は、アノードオフガスの循環流量をアノードガスの供給流量で除算して求められる。
脈動幅ΔPは、脈動上限圧力P2と脈動下限圧力P2_dnとの差であり、アノードガス圧力P2が変動する幅である。脈動幅ΔPは、例えば、要求負荷Lreqが変動する範囲の全ての値において30%の流量比を確保できる幅に定められる。
また要求負荷Lreqが負荷L1よりも高い高負荷範囲においては、要求負荷Lreqの上昇に伴う脈動上限圧力P2_up及び脈動下限圧力P2_dnの増加幅が、低負荷範囲に比べて大きくなる。
この理由は、要求負荷Lreqが大きくなるほど燃料電池スタック110に供給されるカソードガス圧力が高くなることで、燃料電池スタック内のカソードガス圧力とアノードガス圧力との極間差圧が大きくなり過ぎMEA11が損傷するのを防止するためである。
図6では、要求負荷Lreqに応じてアノードガスの目標圧力Ptが設定された脈動制御マップについて説明したが、要求負荷Lreqの代わりに要求負荷Lreqと相関のあるパラメータを用いてもよい。例えば、要求負荷Lreqと相関のあるパラメータとしてはアノードガスの要求流量が挙げられる。
図7は、アノードガスの圧力P2を脈動させる脈動制御の手法を説明する図である。図7には、アノードガスの圧力波形とアノード調圧弁230の開閉状態とが時間軸を共通にして示されている。
時刻t1では、アノード調圧弁230が全開(ON)に設定される。これにより、エゼクタ240を介して、アノード調圧弁230から燃料電池スタック110へアノードガスが吐出されるので、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力P2が上昇する。
時刻t2では、アノードガス圧力P2が脈動上限圧力P2_upまで上昇するので、アノード調圧弁230が全閉(OFF)に設定される。これにより、燃料電池スタック110へのアノードガスの供給が停止される。この状態では、燃料電池スタック110に供給されたアノードガスが発電反応によって消費されるので、燃料電池スタック110内に存在するアノードガスが減少してアノードガスの圧力P2が低下する。
時刻t3では、アノードガスの圧力P2が脈動下限圧力P2_dnまで低下するので、アノード調圧弁230が再び全開に設定され、アノード調圧弁230から燃料電池スタック110にアノードガスが供給され、アノードガスの圧力P2が上昇する。
このように、図6に示した脈動制御マップを参照し、要求負荷Lreqに対応付けられた脈動上限圧力P2_up及び脈動下限圧力P2_dnを交互に切り替えることにより、アノードガスの圧力P2を脈動させる。これにより、エゼクタ240によって、燃料電池の湿潤状態を確保できる循環流量でアノードオフガスが吸引されて燃料電池スタック110に供給される。
一方、アノードガス圧力の脈動幅ΔPによってMEA11には応力が生じる。脈動幅ΔPによってMEA11に生じる応力は、アノードガス拡散部21とアノードガス流路24との間の境界部分や、アノードガス流路24の外周部分で特に大きくなる。これらの箇所に繰り返し応力が生じることにより、燃料電池スタック110の耐久性は低下してしまう。
図8は、アノードガス圧力の脈動幅ΔPと燃料電池スタック110の耐久性との関係を示す図である。ここでは、横軸が、アノードガスの圧力を繰り返し脈動させたときの脈動回数Nを対数により示し、縦軸が、脈動幅ΔPによってMEA11に生じる応力の限界値(限界応力)を示す。
図8に示すように、脈動回数Nが多くなるほど、MEA11の限界応力は低下する。すなわち、脈動回数Nが多くなるほど、燃料電池スタック110の耐久性が低下してしまう。
万一、脈動幅ΔPによってアノードガス流路24の境界部分や外周部分において限界応力を超える応力が生じると、これらの箇所に設けられたガスシール部材が破れてアノードガスや生成水などがリークしてしまう。
この対策として本実施形態では、アノードオフガスに含まれる水蒸気を利用して電解質膜11aの乾燥を抑えつつ、燃料電池スタック110の耐久性が低下するのを抑制する。
コントローラ400は、エゼクタ240の上流温度Tgに基づいて、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを小さくする。
図9は、アノードガス供給圧力P1に対するアノードオフガス循環流量Qsの循環特性がエゼクタ240の上流温度Tgに応じて変化することを示した図である。
ここでは、エゼクタ240の上流温度Tgが異なる2つの循環特性が示されている。破線で示した循環特性は、実線で示した循環特性よりもエゼクタ240の上流温度Tgが高いときの特性である。
また、縦軸は、アノード調圧弁230からエゼクタ240に供給されるアノードガスの供給圧力P1を示し、横軸は、エゼクタ240から吸引されるアノードオフガスの循環流量Qsを示す。
図9に示すように、アノードガスの供給圧力P1が大きくなるほど、アノードオフガスの循環流量Qsは大きくなる。さらにアノードガスの供給圧力P1が一定の状態では、エゼクタ240の上流温度Tgが高くなるほど、アノードオフガスの循環流量Qsが大きくなる。
例えば、アノードガスの供給圧力P1aにおいて、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇して、実線で示した循環特性から破線で示した循環特性になったときには、アノードオフガスの循環流量Qs2は、上昇前の循環流量Qs1から変化量ΔQaだけ増加する。
この理由は、アノードガスの供給圧力P1aが一定の状態でエゼクタ240の上流温度が上昇すると、これに伴いエゼクタ240に供給されるアノードガスのエンタルピー、つまり内部エネルギーが上昇するからである。この内部エネルギーの増加によって、エゼクタ240から吐出されるアノードガスのエンタルピーについても、エネルギー保存の法則に従い増加するので、アノードガスの循環流量Qsが増加する。
このように、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇することに伴い、エゼクタ240によって吸引されるアノードオフガスの循環流量Qsが変化量ΔQaだけ増加するので、その増加量ΔQaだけ、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを下げることが可能となる。
図8に示すように、脈動幅ΔP1でアノードガスの圧力を脈動させたときに比べて、脈動幅ΔP1よりも狭い脈動幅ΔP2でアノードガスの圧力を脈動させたときには、MEA11で許容できる脈動回数を1桁以上増やすことができる。このように、脈動幅ΔPを狭くすることにより、MEA11における限界応力の低下が抑えられるので、燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制することができる。
そこで本実施形態では、エゼクタ240の上流温度Tgが大きくなるほど、脈動幅ΔPを小さくすることにより、アノードオフガスを利用してMEA11の乾燥を抑えつつ、燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制する。
図10は、本実施形態におけるコントローラ400に予め記録される脈動幅補正マップの一例を示す図である。
脈動幅補正マップでは、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを補正する補正係数Cがエゼクタ240の上流温度Tgごとに対応付けられている。ここでは、横軸がエゼクタ240の上流温度Tgを示し、縦軸が補正係数Cを示す。
補正係数の上限値C_upは、例えば、MEA11の限界応力に基づいて定められる。補正係数の下限値C_dnは、例えば、要求負荷Lreqの全範囲においてMEA11の湿潤状態を維持するのに必要となる脈動幅ΔPに基づいて定められる。
また、温度T1から温度T2までの範囲においては、エゼクタ240の上流温度Tgが大きくなるほど、補正係数Cは小さな値に定められる。これにより、エゼクタ240の上流温度Tgが大きくほど、アノードガスの圧力を脈動させる脈動幅ΔPを小さくすることができる。
本実施形態では、エゼクタ240の上流温度Tgが、燃料電池スタック110の発電に適した発電温度Tmとなったときに、補正係数Cは「1.0」となる。発電温度Tmは、例えば70℃である。
なお、脈動幅補正マップにおいて補正特性402は、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇するほど補正係数Cが単調に減少するように設定されているが、エゼクタ240の循環特性に合わせて補正特性402を曲線にしてもよい。
図11は、補正係数Cにより脈動幅ΔPが小さく補正されたときの脈動制御マップを観念的に示した図である。
図11に示すように、エゼクタ240の上流温度Tgが大きくなるほど、脈動幅ΔPが補正係数Cによって小さく補正される。このため、エゼクタ240の上流温度Tgが大きくなるほど、補正後の脈動上限圧力P2c_upは、図6の脈動制御マップに設定された脈動上限圧力P2_upよりも低下する。
図12は、本実施形態におけるエゼクタ240の上流温度Tgが上昇したときの脈動幅ΔPの変化を示す図である。
図12(A)は、アノードガスの圧力P2を脈動させたときの脈動波形を示す。図12(B)は、エゼクタ240によって循環通路270から吸引されるアノードオフガスの循環流量Qsの脈動波形を示す。図12(A)及び図12(B)の横軸は、互いに共通の時間軸である。
ここでは、脈動幅ΔPを小さく補正したときの脈動波形が実線により示され、脈動幅ΔPを補正する前の脈動波形が破線により示されている。
図12(A)に示すように脈動上限圧力P2_upを下げることに伴い、脈動幅ΔPが小さくなると共に脈動周期Tpが短くなる。しかしながら、図9に示したように、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇することに伴いアノードオフガスの循環流量Qsが増加するので、図12(B)に示すように循環流量Qsについての平均流量Qs_aveは、補正前の平均流量と同じレベルになる。
したがって、エゼクタ240の上流温度Tgに応じて脈動幅ΔPを小さくすることによって、MEA11の加湿に必要なアノードオフガスの循環流量Qsを確保しつつ、燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制することができる。
次に、燃料電池システム101の動作の詳細について、図13及び図14を参照して詳細に説明する。
図13は、本実施形態における燃料電池システム101を制御する制御方法の一例を示すフローチャートである。
まず、燃料電池システム101の起動スイッチがOFFからONに切り替えられると、コントローラ400は、燃料電池システム101の起動処理を実行する。
そしてステップS901においてコントローラ400は、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの圧力P2を示す検出信号を第2圧力センサ412から取得する。
その後、ステップS902においてコントローラ400は、燃料電池スタック110に要求される要求負荷Lreqを取得する。例えば、要求負荷Lreqは、アクセルストロークセンサ510によって検出された踏み込み量に基づいて算出される。
ステップS903においてコントローラ400は、エゼクタ240よりも上流側のアノードガスの上流温度Tgを温度センサ420から取得する。
ステップS904においてコントローラ400は、ステップS903で取得された上流温度Tgに基づいて、脈動幅ΔPを補正する補正係数Cを演算する。本実施形態では、コントローラ400は、図10に示した脈動幅補正マップを参照し、エゼクタ240の上流温度Tgに対応付けられた補正係数Cを算出する。
これにより、エゼクタ240の上流温度Tgが高くなるほど、補正係数Cは小さくなる。なお、コントローラ400は、脈動幅補正マップに代えて、予め定められた演算式を用いて補正係数Cを算出してもよい。
ステップS910においてコントローラ400は、ステップS902で取得された要求負荷Lreqに基づいて、アノードガスの圧力P2を脈動させるために定められた脈動制御を実行する。ステップS910で実行される脈動制御の詳細については、図14を参照して後述する。
その後、ステップS905においてコントローラ400は、燃料電池スタック110の運転が停止されたか否かを判断する。例えば、コントローラ400は、燃料電池システム101の起動スイッチがOFFに切り替えられたことを検出すると、燃料電池スタック110の運転が停止されたと判断する。
燃料電池スタック110の運転が停止されていない場合には、コントローラ400は、ステップS904に戻り、燃料電池スタック110の運転が停止されるまで、ステップS904及びS910の処理を繰り返す。一方、燃料電池スタック110の運転が停止された場合には、コントローラ400は、燃料電池システム101の制御方法を終了する。
図14は、コントローラ400で実行されるアノードガス圧力の脈動制御S910についての処理手順例を示すフローチャートである。
ステップS911において、コントローラ400は、ステップS904で補正係数Cが算出されると、図6に示した脈動制御マップを参照し、要求負荷Lreqに対応付けられた脈動上限圧力P2_upと脈動下限圧力P2_dnとの間の脈動幅ΔPを演算する。
そしてコントローラ400は、脈動幅ΔPを補正係数Cに基づいて補正する。具体的には、コントローラ400は、脈動幅ΔPに対して補正係数Cを乗算することにより、補正後の脈動幅ΔPcを算出する。これにより、コントローラ400は、エゼクタ240の上流温度Tgが高くなるほど、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを小さくすることができる。
ステップS912において、コントローラ400は、脈動制御マップを参照して、補正後の脈動幅ΔPcに基づいて脈動上限圧力P2_up及び脈動下限圧力P2_dnを算出する。
具体的には、コントローラ400は、脈動制御マップに対応付けられた脈動下限圧力P2_dnに対し、補正後の脈動幅ΔPcを加算することにより、脈動上限圧力P2_upを補正する。これにより、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇するほど、補正後の脈動上限圧力P2c_upは低くなる。
ステップS913においてコントローラ400は、アノードガス目標圧力Ptを補正後の脈動上限圧力P2c_upに設定する。
そしてステップS914においてコントローラ400は、アノード調圧弁230を開く。本実施形態ではコントローラ400はアノード調圧弁230の開度を全開に設定する。これにより、第2圧力センサ412で検出されるアノードガスの圧力P2が上昇する。なお、コントローラ400は、アノード調圧弁230の開度を、全開と全閉との間の所定の値に設定するようにしてもよい。
ステップS915においてコントローラ400は、第2圧力センサ412から出力される検出値P2が脈動上限圧力P2c_upまで上昇したか否かを判断する。そしてコントローラ400は、アノードガスの圧力P2が脈動上限圧力P2c_upに達していない場合には、ステップS914に戻り、アノードガスの圧力P2が脈動上限圧力P2c_upに達するまでアノード調圧弁230を開いた状態に維持する。
ステップS916においてコントローラ400は、第2圧力センサ412の検出値が脈動上限圧力P2c_upに達すると、アノードガス目標圧力Ptを、脈動上限圧力P2c_upから、図6に示された脈動下限圧力P2_dnに切り替える。
そしてステップS917においてコントローラ400は、アノード調圧弁230を閉じる。本実施形態ではコントローラ400はアノード調圧弁230の開度を全閉に設定する。なお、コントローラ400は、アノード調圧弁230の開度を、全閉ではなく、ステップS914で設定された開度よりも小さな値に設定するようにしてもよい。
ステップS917でアノード調圧弁230が閉じられると、燃料電池スタック110にはアノードガスが供給されなくなる。この状態では、燃料電池スタック110内において要求負荷Lreqに相当するアノードガスが消費されるので、アノードガスの圧力P2が下降する。
ステップS918においてコントローラ400は、第2圧力センサ412から出力される検出値P2が脈動下限圧力P2_dnまで低下したか否かを判断する。そしてコントローラ400は、アノードガスの圧力P2が脈動下限圧力P2_dnに達していない場合には、ステップS917に戻り、アノードガスの圧力P2が脈動下限圧力P2_dnに達するまでアノード調圧弁230を閉じた状態に維持する。
コントローラ400は、第2圧力センサ412の検出値が、脈動下限圧力P2_dnに達すると、アノードガス圧力の脈動制御が終了して図13に示した燃料電池システム101の制御方法に戻り、ステップS905に進む。
このように、コントローラ400は、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇するほど、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを狭くして脈動上限圧力P2_upを低くする。これにより、燃料電池を加湿するのに必要となるアノードオフガスの循環流量Qsを確保しつつ、脈動幅ΔPによってMEA11に生じる応力を抑えることができる。したがって、燃料電池スタック110の乾燥を抑制しつつ、燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制することができる。
なお、本実施形態では、補正後の脈動幅ΔPcを、脈動制御マップに対応付けられた脈動下限圧力P2_dnに加算して脈動上限圧力P2_upを補正する例について説明したが、補正後の脈動幅ΔPcに基づいて脈動下限圧力P2_dnを補正してもよい。
この場合には、コントローラ400は、脈動制御マップに対応付けられた脈動上限圧力P2_upに対し、補正後の脈動幅ΔPを加算して脈動下限圧力P2_dnを補正する。これにより、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇するほど、脈動下限圧力P2_dnが高くなるので、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを小さくしつつ、エゼクタ240によって循環されるアノードオフガスの循環流量を多めに確保することができる。したがって、燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制しつつ、MEA11を十分に湿らせて発電性能を高めることができる。
なお、本実施形態では第2圧力センサ412を用いてアノードガスの圧力P2を昇圧する例について説明したが、アノード調圧弁230を開いている時間、すなわちアノードガスの供給時間を、所定の時間に固定して圧力P2を昇圧してもよい。例えば、所定の時間は、脈動制御が実行される要求負荷の全範囲でアノードガスの圧力P2が脈動下限圧力P2_dnから脈動上限圧力P2_upに達する時間に設定される。
本発明の第1実施形態によれば、燃料電池システム101は、アノードガス供給通路220に供給されるアノードガスの圧力を調整するアノード調圧弁230と、アノードオフガスを燃料電池スタック110に循環させるエゼクタ240とを含む。
そしてコントローラ400は、アノードオフガスの循環流量Qsによって定められた脈動幅ΔPに基づいて、アノードガスの圧力P2が脈動するようにアノード調圧弁230の開度を制御する。これにより、エゼクタ240によってアノードオフガスの循環流量Qsを十分に確保することができる。
さらにコントローラ400は、エゼクタ240よりも上流を流れるアノードガスの上流温度Tgに基づいて、アノードガス圧力P2の脈動幅ΔPを変更する。
これにより、エゼクタ240の上流温度Tgが低くなるほど、脈動幅ΔPを広くすることができる。このため、図9に示したように、上流温度Tgの低下に伴いアノードオフガスの循環流量Qsが減少しても、減少した分だけ、脈動上限圧力P2_upを上げることができるので、燃料電池スタック110にアノードオフガスを確実に循環させることができる。
一方、エゼクタ240の上流温度Tgが高くなるほど、脈動幅ΔPを狭くすることもできる。このため、上流温度Tgが上昇した場合には、これに伴いアノードオフガスの循環流量Qsが増加した分だけ、脈動上限圧力P2_upを下げることがきるので、脈動幅ΔPに起因する燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制しつつ、アノードオフガスの循環流量Qsを維持することができる。
このように、本実施形態によれば、エゼクタ240によって燃料電池に循環させるアノードオフガスの循環流量を十分に確保することができる。したがって、余剰のアノードガスを効率よく消費することができる。
これに加えて、燃料電池スタック110へアノードオフガスを十分に循環させることにより、アノードオフガスに含まれる水蒸気が多量に燃料電池スタック110へ供給されることになるので、燃料電池スタック110内のMEA11の乾燥を抑制することができる。このため、カソードガスを加湿する加湿器を燃料電池システムに設けることなく、燃料電池スタック110を発電に適した湿潤状態に維持することが可能となる。したがって、簡素な構成で、燃料電池スタック110の発電性能の低下を抑制することができる。
また、本実施形態では、温度センサ420が、エゼクタ240よりも上流のアノードガス供給通路220に設けられる。そしてコントローラ400は、温度センサ420により検出される上流温度Tgが高いときには、上流温度Tgが低いときに比べて、アノードガス圧力P2の脈動幅ΔPを小さくする。
このように温度センサ420を用いることにより、エゼクタ240の上流温度Tgを正確に検出できるので、エゼクタ240の上流温度が高くなったときに、正確にアノードガス圧力の脈動幅ΔPを抑えることができる。したがって、アノードオフガスの循環流量Qsを確保しつつ、燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制することができる。
なお、本実施形態では温度センサ420を用いてエゼクタ240の上流温度Tgを検出する例について説明したが、外気温センサ421を用いてエゼクタ240の上流温度Tgを推定してもよい。次にエゼクタ240の上流温度Tgを推定する例について説明する。
図15は、燃料電池システム101の制御方法についての他の例を示すフローチャートである。
この例では、図13で示したステップS903の代わりにステップS921及びS922が示されている。その他の処理については、図13で示した処理と同じであるためここでの説明を省略し、ステップS921及びS922の処理についてのみ説明する。
ステップS921においてコントローラ400は、外気温センサ421から外気温度Tairを取得する。
ステップS922においてコントローラ400は、外気温度Tairに基づいて、エゼクタ240の上流温度Tgを推定する。
具体的には、外気温度Tairとエゼクタ240の上流温度Tgとの関係を示す推定マップがコントローラ400に予め記録される。そしてコントローラ400は、外気温度Tairを取得すると、推定マップを参照し、その外気温度Tairに関係付けられたエゼクタ240の上流温度Tgを算出する。
ステップS904においてコントローラ400は、ステップS922でエゼクタ240の上流温度Tgが推定されると、その上流温度Tgに基づいて脈動幅ΔPの補正係数Cを算出する。
このように、外気温センサ421を利用してエゼクタ240の上流温度Tgを推定することにより、新たに温度センサ420を設けずに補正係数Cを求めることができる。したがって、第1実施形態よりも簡易な構成により、エゼクタ240の上流温度Tgの上昇に応じてアノードガス圧力の脈動幅ΔPを小さくすることができる。
(第2実施形態)
図16は、本発明の第2実施形態における燃料電池システム102の構成を示す図である。
燃料電池システム102は、燃料電池システム101の構成に加えて、燃料電池スタック110を冷却する冷却装置600を備える。以下では、燃料電池システム101の構成と同じ構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
冷却装置600は、冷却水循環通路610と、ラジエータ620と、循環ポンプ630と、熱交換器640とを備える。さらに冷却装置600は水温センサ430を備える。
冷却水循環通路610は、供給通路611と排出通路612とを含む。
供給通路611は、冷却水を燃料電池スタック110に通す冷却水通路である。供給通路611は、ラジエータ620の出口孔と、図1に示した燃料電池スタック110の冷却水入口孔41aとの間を接続する。
排出通路612は、燃料電池スタック110から排出された冷却水をラジエータ620に通す冷却水通路である。排出通路612は、図1に示した燃料電池スタック110の冷却水出口孔41aと、ラジエータ620の入口孔との間を接続する。
ラジエータ620は、燃料電池スタック110から排出された冷却水を冷却する。
循環ポンプ630は、供給通路611に設けられる。循環ポンプ630は、ラジエータ620で冷やされた冷却水を燃料電池スタック110に循環させる。
熱交換器640は、燃料電池スタック110から排出される冷却水を用いて、エゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱する。
熱交換器640は、アノード調圧弁230とエゼクタ240との間のアノードガス供給通路220に設けられる。本実施形態では、熱交換器640は、排出通路612をアノードガス供給通路220に近接させることにより実現される。
さらに熱交換器640は、エゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱するヒータ641を備える。
ヒータ641は、アノードガス供給通路220に設けられ、例えば、抵抗加熱式の電気ヒータや、誘導加熱式の電気ヒータにより実現される。ヒータ641は、コントローラ400によって不図示の電源と接続される。ヒータ641に対して電源が接続されると、ヒータ641に電力が供給されてヒータ641が加熱される。ヒータ641と電源との接続が遮断されると、ヒータ641の加熱が停止される。
水温センサ430は、熱交換器640よりも上流であって燃料電池スタック110の近傍にある排出通路612に設けられる。水温センサ430は、燃料電池スタック110から排出される冷却水の温度(以下、「スタック出口水温」という。)Twを検出する。水温センサ430は、スタック出口水温Twを示す検出信号をコントローラ400に出力する。
このように、エゼクタ240の上流に熱交換器640を設けることにより、燃料電池スタック110で温められた冷却水を利用して、エゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱することができる。このため、第1実施形態に比べて、エゼクタ240の上流温度Tgが高くなるので、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを小さくでき、燃料電池スタック110の耐久性の低下をより抑制することができる。
図17は、本実施形態の燃料電池システム102の制御方法の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の制御方法では、図13に示した一連の処理に加えて、ステップS931からS932までの処理が含まれている。そのため、これらの処理についてのみ説明する。
ステップS931においてコントローラ400は、ステップS903でエゼクタ240の上流温度Tgを取得した後、水温センサ430からスタック出口水温Twを取得する。
ステップS932においてコントローラ400は、スタック出口水温Twが水温閾値Th_wよりも高いか否かを判断する。
水温閾値Th_wは、本実施形態では、温度センサ420により検出されるエゼクタ240の上流温度Tgに設定される。これにより、スタック出口水温Twがエゼクタ240の上流温度Tgよりも高いか否かが分かるので、熱交換器640によってアノードガスを加熱できるか否かを判定できる。
あるいは、水温閾値Th_wは、アノードオフガスの循環流量Qsを確保できる所定の温度に設定されてもよい。これにより、熱交換器640及びヒータ641を用いてエゼクタ240の循環性能を早期に回復させることができる。
ステップS933においてコントローラ400は、スタック出口水温Twが水温閾値Th_w以下である場合には、ヒータ641に電力を供給する。これにより、ヒータ641が加熱されるので、エゼクタ240よりも上流のアノードガスが温められ、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇する。これに伴い、エゼクタ240に供給されるアノードガスの密度ρが低下する。
この対策としてステップS933においてコントローラ400は、さらにエゼクタ240の上流温度Tgの上昇に応じて、アノード調圧弁230からエゼクタ240に供給されるアノードガスの供給圧力P1を高くする。これにより、エゼクタ240に供給されるアノードガスの密度ρを一定に維持することができる。
一方、コントローラ400は、スタック出口水温Twが水温閾値Th_wよりも高い場合には、ヒータ641への電力供給を行わずにステップS904に進み、エゼクタ240の上流温度Tgに基づいて脈動幅ΔPの補正係数Cを算出する。
このように、スタック出口水温Twに応じて、ヒータ641への通電及びその遮断を切り替えることで、冷却水によってアノードガスを加熱できない場合にヒータ641を加熱することができる。したがって、熱交換器640及びヒータ641を互いに効率良く利用することができる。
本発明の第2実施形態によれば、燃料電池スタック110から排出される冷却水を熱交換器640に供給することによって、エゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱する。これにより、燃料電池スタック110の温度の上昇と共にエゼクタ240の上流温度Tgが上昇するので、脈動幅ΔPを小さくすることができる。
このように、燃料電池スタック110の発電に伴う発熱を冷却水により回収して、その冷却水と、エゼクタ240よりも上流のアノードガスとの間で熱交換することにより、効率良く、エゼクタ240の上流温度Tgを上昇させることができる。
なお、本実施形態ではスタック出口水温Twが水温閾値Th_wよりも低い場合であってもアノードガス圧力の脈動制御を実行する例について説明した。しかし、スタック出口水温Twが水温閾値Th_wよりも低い場合には、スタック出口水温Twが水温閾値Th_wを超えるまでは脈動制御を実行せずにアノードガス圧力P2が一定となるように制御するようにしてもよい。これにより、本実施形態に比べて燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制することができる。
また、本実施形態では、ヒータ641への通電又は遮断を判断するのに、スタック出口水温Twを用いる例について説明したが、スタック出口水温Twの代わりにエゼクタ240の上流温度Tgを用いてもよく、両者を用いてもよい。これにより、ヒータ641への通電をより的確に行うことが可能となる。
(第3実施形態)
図18は、本発明の第3実施形態における燃料電池システム103の構成を示す図である。
燃料電池システム103は、図16に示した冷却装置600に代えて冷却装置601を備えている。
冷却装置601は、冷却装置600の構成に加えてバイパス通路613と三方弁650とを備えている。
バイパス通路613は、熱交換器640をバイパスさせる冷却水通路である。バイパス通路613の一端部は三方弁650に接続され、他端部はラジエータ620の入口孔に接続された排出通路612と合流する。バイパス通路613によって、燃料電池スタック110から排出される冷却水を、熱交換器640に通さずにラジエータ620に循環させることが可能になる。
三方弁650は、熱交換器640よりも上流の排出通路612に設けられる。三方弁650は、燃料電池スタック110から排出される冷却水の循環経路を切り替える。三方弁650は、コントローラ400によって制御される。
循環経路は、三方弁650によって、冷却水をバイパス通路613に通さずに熱交換器640に通す第1経路、冷却水を熱交換器640に通さずにバイパス通路613に通す第2経路、又は冷却水を第1経路及び第2経路の両方に通す第3経路に設定される。
三方弁650は、燃料電池スタック110から熱交換器640に排出される冷却水を遮断する遮断弁として機能する。具体的には三方弁650は、燃料電池スタック110から排出される冷却水を通す冷却水通路を、熱交換器640からバイパス通路613へ切り替える。
このように、熱交換器640よりも上流にバイパス通路613及び三方弁650を設けることにより、スタック出口水温Twに応じて熱交換器640をバイパスさせることができる。
例えば、スタック出口水温Twがエゼクタ240の上流温度Tgよりも低い場合には、三方弁650を制御して熱交換器640をバイパスさせることにより、冷却水によってエゼクタ240の上流温度Tgが低下するのを防ぐことができる。
図19は、本実施形態における燃料電池システム103の制御方法の一例を示すフローチャートである。
ここでは、図13に示した一連の処理に加えて、ステップS941からS946までの処理が含まれているため、これらの処理についてのみ説明する。
ステップS941においてコントローラ400は、ステップS903でエゼクタ240の上流温度Tgを取得した後、水温センサ430からスタック出口水温Twを取得する。
ステップS942においてコントローラ400は、スタック出口水温Twが水温閾値Th_wよりも高いか否かを判断する。水温閾値Th_wは、例えば、温度センサ420により検出されるエゼクタ240の上流温度Tgに設定される。あるいは、水温閾値Th_wは、燃料電池スタック110から排出される冷却水が、エゼクタ240の上流温度Tgを超えるときの所定の温度に設定される。
ステップS943においてコントローラ400は、スタック出口水温Twが水温閾値Th_wよりも高い場合には、燃料電池スタック110から排出される冷却水が熱交換器640を通過する循環経路となるように三方弁650を設定する。
これにより、スタック出口水温Twがエゼクタ240の上流温度Tgよりも高くなったときに、燃料電池スタック110から排出される冷却水を熱交換器640に供給することができる。このため、燃料電池スタック110から排出される冷却水によって、エゼクタ240よりも上流のアノードガスが加熱されるので、エゼクタ240の上流温度Tgを確実に上昇させることができる。
一方、ステップS944においてコントローラ400は、スタック出口水温Twが水温閾値Th_w以下である場合には、燃料電池スタック110から排出される冷却水がバイパス通路613を通過する循環経路となるように三方弁650を切り替える。
これにより、スタック出口水温Twがエゼクタ240の上流温度Tgよりも低いときには、熱交換器640に供給される冷却水が遮断されるので、燃料電池スタック110から排出される冷却水によって、エゼクタ240よりも上流のアノードガスを冷却してしまうことを回避できる。
このようにスタック出口水温Twがエゼクタ240の上流温度Tgよりも高くなったときに限り、燃料電池スタック110から排出される冷却水が熱交換器640に供給されるので、エゼクタ240の上流温度Tgを速やかに上昇させることができる。
ステップS945においてコントローラ400は、エゼクタ240の上流温度Tgがガス温度閾値Th_gよりも高いか否かを判断する。ガス温度閾値Th_gは、エゼクタ240によって燃料電池スタック110に供給されるアノードオフガスの循環流量Qsを確保できる温度に設定される。ガス温度閾値Th_gは、例えば氷点温度に基づいて設定される。
ステップS946においてコントローラ400は、エゼクタ240の上流温度Tgがガス温度閾値Th_g以下である場合には、ヒータ641に電力を供給する。これにより、ヒータ641が加熱されるので、エゼクタ240よりも上流のアノードガスが温められ、エゼクタ240の上流温度Tgが上昇する。
コントローラ400は、ヒータ641に電力を供給するとともに、エゼクタ240の上流温度Tgの上昇に応じて、アノード調圧弁230からエゼクタ240に供給されるアノードガスの供給圧力P1を高くする。これにより、エゼクタ240に供給されるアノードガスの密度ρが一定に維持される。
そしてコントローラ400は、エゼクタ240の上流温度Tgがガス温度閾値Th_gよりも高くなるまで、ステップS942に戻り、熱交換器640及びヒータ641を用いてエゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱する。
その後、エゼクタ240の上流温度Tgがガス温度閾値Th_gよりも高くなった場合には、コントローラ400は、ステップS904に進み、脈動幅ΔPを狭くした状態でアノードガスの圧力を脈動させる。
本発明の第3実施形態によれば、熱交換器640よりも上流の排出通路612に三方弁650が設けられる。そしてコントローラ400は、スタック出口水温Twが所定の水温閾値Th_wよりも低い場合には、三方弁650を制御して燃料電池スタック110から熱交換器640に供給される冷却水を遮断する。
一般的に、高圧タンク210にアノードガスが充填された直後は、燃料電池スタック110に供給されるアノードガスの温度が、燃料電池スタック110から排出される冷却水の温度Twよりも高くなりやすい。また、零下で燃料電池システム103が起動されたときにも、エゼクタ240の上流温度がスタック出口水温Twよりも高くなることがある。
これに対して本実施形態では、スタック出口水温Twがエゼクタ240の上流温度Tgよりも低い場合には、燃料電池スタック110から熱交換器640への通水を停止する。これにより、燃料電池スタック110から排出される冷却水によって、エゼクタ240よりも上流のアノードガスが冷やされてしまうことを回避することができる。
なお、本実施形態では、エゼクタ240の上流温度Tgが、ガス温度閾値Th_gを超えるまではアノードガス圧力の脈動制御を実行しない例について説明した。しかし、エゼクタ240の上流温度Tgが、ガス温度閾値Th_gを超えていない場合であっても、アノードガス圧力の脈動制御を実行してもよい。これにより、早期に燃料電池システム103を起動させることができる。
(第4実施形態)
図20は、本発明の第4実施形態における燃料電池システム104の構成を示す図である。
燃料電池システム104は、燃料電池システム101の構成に加えて、負荷装置120を冷却する冷却装置700を備える。
冷却装置700は、負荷装置120と、冷却水循環通路710と、ラジエータ720と、循環ポンプ730と、熱交換器740とを備える。さらに冷却装置700は水温センサ440を備える。
負荷装置120は、燃料電池スタック110に接続される電気的な負荷である。負荷装置120は、例えば電動モータや、燃料電池スタック110の直流電力を交流電力に変換して電動モータに供給するインバータなどである。負荷装置120は、冷却水循環通路710を流れる冷却水によって冷却される。
冷却水循環通路710は、供給通路711と排出通路712とを含む。
供給通路711は、冷却水を負荷装置120に通す冷却水通路である。供給通路711は、ラジエータ720の出口孔と、負荷装置120の冷却水入口孔との間を接続する。
排出通路712は、負荷装置120から排出された冷却水をラジエータ720に通す冷却水通路である。排出通路712は、負荷装置120の冷却水出口孔とラジエータ720の入口孔との間を接続する。
ラジエータ720は、負荷装置120から排出された冷却水を冷却する。
循環ポンプ730は、供給通路711に設けられる。循環ポンプ730は、ラジエータ720で冷やされた冷却水を負荷装置120に循環させる。
熱交換器740は、負荷装置120から排出される冷却水を用いてエゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱する。
熱交換器740は、アノード調圧弁230とエゼクタ240との間のアノードガス供給通路220に設けられる。本実施形態では、熱交換器740は、排出通路712をアノードガス供給通路220に近接させることにより実現される。
水温センサ440は、熱交換器740よりも上流であって負荷装置120の近傍にある排出通路712に設けられる。水温センサ440は、負荷装置120から排出される冷却水の温度(以下、「負荷出口水温」という。)Twを検出する。水温センサ440は、負荷出口水温Twを示す検出信号をコントローラ400に出力する。
このように、エゼクタ240の上流に熱交換器740を設けることにより、負荷装置120で温められた冷却水を利用して、エゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱することができる。一般的に、負荷装置120で温められる冷却水は、燃料電池スタック110で温められる冷却水よりも温度の上昇が早い。このため、第1実施形態に比べて、エゼクタ240の上流温度Tgが高くなるので、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを小さくでき、燃料電池スタック110の耐久性の低下をより抑制することができる。
本発明の第4実施形態によれば、負荷装置120から排出される冷却水を熱交換器740に供給することによって、エゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱する。これにより、負荷装置120の温度上昇と共にエゼクタ240の上流温度Tgが上昇するので、脈動幅ΔPを早期に抑制することができる。
このように、電動モータやインバータの駆動に伴う発熱を冷却水により回収して、その冷却水と、エゼクタ240よりも上流のアノードガスとの間で熱交換することにより、効率良く、エゼクタ240の上流温度Tgを上昇させることができる。
また、第2及び第3実施形態に比べて、冷却水の温度上昇が早いので、速やかにエゼクタ240の上流温度Tgを上昇させることができる。すなわち、燃料電池スタック110から排出される冷却水を利用する場合に比べて、エゼクタ240の上流温度Tgを迅速に昇温させることができる。
(第5実施形態)
図21は、本発明の第5実施形態における燃料電池システム105の構成を示す図である。
燃料電池システム105は、燃料電池システム101の構成に加え、エゼクタ240に対して凍結を防止するために設けられた凍結防止ヒータ840を備える。なお、温度センサ420は、アノードガス供給通路220に配置されるが、便宜上、アノードガス供給通路220から離れた位置に示されている。
凍結防止ヒータ840は、エゼクタ240よりも上流のアノードガス供給通路220からエゼクタ240の全体に設けられる。凍結防止ヒータ840は、例えば、抵抗加熱式の電気ヒータや、誘導加熱式の電気ヒータにより実現される。凍結防止ヒータ840に対する通電又は遮断は、コントローラ400によって切り替えられる。
コントローラ400は、例えば、外気温センサ421により検出される外気温度Tairが氷点温度よりも低い場合には、エゼクタ240の凍結を防止するために、不図示の電源から凍結防止ヒータ840に通電して凍結防止ヒータ840を加熱する。
さらに本実施形態では、コントローラ400は、エゼクタ240の上流温度Tgが、エゼクタ240の循環性能を確保するために必要な循環温度よりも低い場合には、アノードガス圧力の脈動制御を実行しつつ、凍結防止ヒータ840を加熱する。
エゼクタ240の循環温度は、エゼクタ240によって燃料電池スタック110に供給されるアノードオフガスの循環流量Qsを確保できる温度に設定される。循環温度は、例えば、氷点温度や燃料電池スタック110の発電に適した温度などに設定される。
本発明の第5実施形態によれば、コントローラ400は、アノードガスの圧力P2を脈動させているときに、凍結防止ヒータ840に電力を供給することにより、エゼクタ240よりも上流のアノードガスを加熱する。
これにより、凍結防止ヒータ840を利用して、エゼクタ240の上流温度Tgを上昇させることができるので、新たにヒータを設けることなく、アノードガス圧力の脈動幅ΔPを速やかに小さくすることができる。
また本実施形態では、コントローラ400は、エゼクタ240の上流温度Tgが、エゼクタ240の循環性能を確保するために定められた循環温度になるまで、凍結防止ヒータ840を加熱する。これにより、燃料電池システム103が低温時に起動された場合において、エゼクタ240の吸引(ポンプ)性能を早期に回復させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、本実施形態では、エゼクタ240の上流温度Tgを高くして脈動幅ΔPを狭くして燃料電池スタック110の耐久性の低下を抑制する例について説明したが、エゼクタ240の上流温度Tgを高くして燃料電池スタック110を加湿するようにしてもよい。
例えば、図16又は図21に示した燃料電池システム102又は105において、燃料電池スタック110の湿潤状態と相関のあるパラメータとして、燃料電池スタック110の内部抵抗や温度を検出する。そしてコントローラ400は、そのパラメータが所定の湿潤閾値よりも低い場合には、ヒータ641又は、凍結防止ヒータ840を加熱する。湿潤閾値は、例えば、実験等によって定められる。
このように、燃料電池スタック110が乾燥した状態のときにエゼクタ240の上流温度Tgを上昇させることにより、エゼクタ240によって循環されるアノードオフガスの循環流量Qsが増加するので、燃料電池スタック110の乾燥を抑制することができる。
また、本実施形態では、第2圧力センサ412の検出信号を用いてアノードガスの圧力P2を脈動させる例について説明したが、計測カウンタで計測された経過時間に応じて、脈動上限圧力P2_upと脈動下限圧力P2_dnとを切り替えるようにしてもよい。例えば、コントローラ400は、実験等によって定められた切替時間が経過するたびに、アノードガス目標圧力Ptを脈動下限圧力P2_dnから脈動上限圧力P2_upに切り替え、予め定められた昇圧時間が経過した後に脈動下限圧力P2_dnに戻して計測カウンタをリセットする。
また、アノード調圧弁230は、ON/OFFバルブでもよく、ソレノイドバルブであってもよい。
また、本実施形態では、アノードガス供給通路220を加熱する例について説明したが、高圧タンク210を温めてもよい。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。