JP6171542B2 - ガスバリア性フィルム及びガスバリア性フィルムの製造方法 - Google Patents
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Description
高いガスバリア性を発現するSiOx蒸着膜を成膜できる蒸着材料は、SiとSiO2の混合物を加熱し、昇華したSiOガスを析出基体に析出させたもの、若しくは得られた析出SiOを破砕や研磨した後に成型するもの(析出タイプSiO)が用いられる。また、析出SiOを粉末にし、焼結成型を行なったもの(粉末焼結成型タイプSiO)を用いる場合もある。
特許文献1は粉体焼結タイプSiOの製造において粒径とその混合比、焼結条件によってスプラッシュ現象の低減を図っている。しかし、特許文献1では加熱手段が電子ビームであり、例えば、抵抗加熱のような従来の加熱手段に比べ蒸着材料が受ける熱衝撃のレベルが格段に高い。このため特許文献1では蒸着材料の局所的な熱勾配が大きくなり、蒸着材料のクラックや崩壊等が起きやすく、蒸着材料が崩れる際にスプラッシュ現象が発生することがある。また、特許文献1はスプラッシュ現象とガスバリアフィルムの性能との関係については記載がない。
本発明が解決しようとする課題は、十分なガスバリア性を有しつつ光学的特性に優れ、かつ生産性に優れたガスバリアフィルム、及び該フィルムを製造する方法を提供することにある。
<ガスバリア性フィルムA>
本発明のガスバリア性フィルムの第一の実施形態(以下、「第一の形態」ということがある)は、基材の少なくとも一方の面に、真空蒸着法(PVD)により形成した無機層を有し、前記真空蒸着法(PVD)により形成した無機層(以下、「PVD無機層」ということがある)が、メジアン径3〜100μmの無機物粉体を、直径がルツボの底部内径の10〜45%、高さがルツボの内部高さの45%以下の円柱状に焼結成型してなる蒸着材料を、加熱で気化することにより形成されてなる無機層(以下、「特定PVD無機層」ということがある)であるものである。
本発明のガスバリア性フィルムの第二の実施形態(以下、「第二の形態」ということがある)は,基材の少なくとも一方の面に、PVDにより形成した無機層、CVDにより形成した無機層(以下、「CVD無機層」ということがある)及びPVDにより形成した無機層をこの順で有し、前記真空蒸着法により形成した無機層の一以上が、メジアン径3〜100μmの無機物粉体を、直径がルツボの底部内径の10〜45%、高さがルツボの内部高さの45%以下の円柱状に焼結成型してなる蒸着材料を、加熱で気化することにより形成されてなる無機層(特定PVD無機層)であるものである。
本発明のガスバリア性フィルムの基材としては、プラスチックフィルムであることが好ましい。その原料としては、通常の包装材料や電子ペーパー、太陽電池の材料に使用しうる樹脂であれば特に制限なく用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体などのポリオレフィン;環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド;ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体部分加水分解物(EVOH)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、フッ素樹脂、アクリル樹脂、生分解性樹脂などが挙げられる。これらの中では、フィルム強度、コストなどの点から、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、生分解性樹脂が好ましく、特に、表面平滑性、フィルム強度、耐熱性等の点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステルが特に好ましい。
プラスチックフィルム中の樹脂の含有量は50〜100質量%であることが好ましい。
また、上記基材は、公知の添加剤、例えば、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤等を含有することができる。
本発明のガスバリア性フィルムは、第一の形態では、上記基材の少なくとも一方の面にPVD無機層を有し、第二の形態では、上記基材の少なくとも一方の面にPVD無機層、CVD無機層及びPVD無機層をこの順で有する。ここで、第一の形態のPVD無機層、第二の形態の少なくとも一方のPVD無機層は、特定PVD無機層である。なお、PVD無機層を複数有する場合、二以上のPVD無機層が特定PVD無機層であることが好ましく、すべてが特定PVD無機層であることがより好ましい。
特定PVD無機層は、真空蒸着法により形成され、より具体的には、メジアン径3〜100μmの無機物粉体を、直径がルツボの内径の10〜45%、高さがルツボの内部高さの45%以下の円柱状に焼結成型してなる蒸着材料を、加熱で気化することにより、基材上に形成される。このような特定PVD無機層は、スプラッシュ現象が抑制されるため、ガスバリア性と透明性に優れ、かつ前記性能を有するPVD無機層を速い蒸着速度を維持したまま得ることができる。この理由は以下(1)、(2)のように考えられる。
一方、無機物粉体の粒径が小さい場合は、粒径が大きい場合に比べて低温にて焼結成型体の強度が発揮できるとともに、成型体の表面積が大きくなり、加熱効率の点から蒸散速度を高くすることができる。しかし、その反面、粒径が小さい場合、加熱蒸散での蒸着残渣の発生が多くなる。蒸着残渣とは蒸着後にルツボ内に残るカスのことであり、残渣が発生すると蒸着速度の低下を招く。
たとえば無機物粉体がSiOの場合、蒸着残渣は、二酸化珪素(SiO2 )やルツボを構成する材料との反応物などからなる。すなわち、SiO粉末焼結型の蒸着材料では、原料であるSiO粉末の粒表面の酸化分(SiO2 )が残渣になるため、残渣量が必然的に多くなり、また同時に、粒表面の酸化膜が蒸着の障害となるため、蒸着速度が低下する。
本発明では、蒸着材料を構成する無機物粉体として、メジアン径3〜100μmの無機物粉体を用いていることから、焼結成型体の強度が優れることによりスプラッシュ現象の発生もなく、残渣の発生を抑制できることにより、蒸着速度を十分なものとすることができ、かつ長時間の成膜も可能となる。
無機物粉体のメジアン径は3〜10μmとすることが好ましい。なお、メジアン径とは、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径のことをいう。本発明ではレーザー回折散乱法に基づきメジアン径を算出している。
なお、図1に示すように、ルツボの底部内径aとは、ルツボ素材の肉厚部分を除いた底部の径であり、底部が円形であるときは直径を指し、底部が多角形や楕円等の円形以外の形状であるときは、底部の外周上の任意の点を結ぶ直線の中で最も長い直線の長さを指す。また、ルツボの内部高さbとは、ルツボ素材の肉厚部分を除いた底部から開口部までの距離を示す。
このような無機物粉体から形成される特定PVD層は、SiOxから構成されることが好ましい。この場合、xの範囲はバリア性の点で1.20〜1.90であることが好ましく、1.20〜1.70であることがより好ましく、1.20〜1.45であることがさらに好ましい。
蒸着材料の加熱温度は、通常900〜1600℃、好ましくは1200〜1400℃である。本発明では高温に加熱してもスプラッシュ現象が生じないため高速での生産が可能となる。
たとえば、一酸化珪素を含む蒸着材料が加熱により気化すると、一酸化珪素ガスが発生する。この一酸化珪素ガスは非常に反応性が高く、ルツボを構成する黒鉛部材との間で下記のような反応が生じる。
C(s)+SiO(g) → SiC(s)+CO(g)
C(s)+SiO(g) → Si(s) + CO(g)
上記反応により生じる一酸化炭素ガスは、PVD無機層の不純物となり得るだけでなく、蒸着装置内の真空度を低下させ、PVD無機層に構造欠陥を生じ得る。この結果、ガスバリア性フィルムの光学性能等の性能が低下することとなる。また、成膜したい面積や求める性能によってルツボを単体ではなく複数個用いることも可能であるが、その場合特に一酸化炭素ガス発生は多くなる。加えて上記反応は継続的に生じることから、同一製造工程内においても時間の経過により欠陥の発生頻度が変動し、たとえば製造開始段階と製造終了段階では、ガスバリア性や光学特性に差が生じ、生産安定性を良好にすることができない。
蒸着材料が珪素の場合は、珪素粉末の表面に生成した自然酸化膜(SiO2)と珪素粉末(Si)との間で下記反応が生じ、一酸化珪素ガスが発生する。当該一酸化珪素ガスは、ルツボを構成する黒鉛部材と上記同様の反応を生じることから、蒸着材料が珪素の場合でも上記同様の性能低下が発生する。なお、蒸着材料が珪素と二酸化珪素との混合物の場合も同様のことがいえる。
SiO2(s)+Si(s) → 2SiO(g)
したがって、ルツボとして収納部の内側表面が蒸着材料を気化した際に発生するガスに対し不活性な材料からなるものを用いることにより、PVD無機層内に不純物や結晶欠陥を有することがなく、より一層ガスバリア性および透明性に優れたガスバリアフィルムを得ることができる。
上記ルツボとしては、黒鉛等のベース材料からなる収納部の内側表面若しくは全体表面を不活性な材料で被覆したもの、ベース材料となる収納部の内側に不活性な材料からなる収納部を勘合させたもの、ルツボ全体が当該不活性な材料からなるものが挙げられる。長期間の安定性の観点からは、ルツボ全体が不活性な材料から構成されていることが好ましい。
収納部の形状や容積、開口部の面積等のルツボの形状や大きさに関係する要素は、非蒸着物の大きさなどに合わせて、公知の範囲で適宜選択することができる。
不活性な材料は、蒸着時に高温にさらされることから、その融点は1600℃以上であることが好ましい。
第一の形態および第二の形態ともに、特定PVD無機層以外のPVD無機層(以下、「一般PVD無機層」ということがある)を有していてもよい。
一般PVD無機層を構成する無機物質としては、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、ダイヤモンドライクカーボン、あるいはこれらの酸化物、炭化物、窒化物の単独又は混合物等が挙げられる。これらの中でも、ガスバリア性の点から、好ましくは酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化炭化窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、ダイヤモンドライクカーボン等である。さらにこれらの中でも、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化窒化珪素及び酸化アルミニウムは、高いガスバリア性が安定に維持できる点でより好ましく、特に酸化珪素(SiOx)が好ましい。PVD無機層は上記無機物質を1種単独で含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
また、一般PVD無機層の厚さ、蒸着材料の形状、圧力等の各種条件は、特定PVD無機層と同様とすることができ、各種条件の好適条件も同様とすることができる。
本発明の第二の実施形態においては、PVD無機層上に、CVD無機層を形成する。CVD無機層により、前記一般PVD無機層が有する欠陥や特定PVD層が有するわずかな欠陥の目止めが行われ、ガスバリア性や層間の密着性が向上するものと考えられる。
また、本発明の第二の形態においては、PVD無機層、CVD無機層及びPVD無機層の順で積層構造とすることにより、CVD無機層自体はガスバリア性に直接殆ど寄与しないが、PVD無機層に対しては、下層には目止め効果および上層にはアンカー効果を発揮するため、単にPVD無機層を厚く成膜した場合やPVD無機層同士あるいはCVD無機層同士を積層した場合と比較して、飛躍的にガスバリア性が向上する。
なお、上記効果をより有効にするためには、PVD層が特定PVD層であることが好ましい。
また、本発明の第二の形態においては、PVD無機層を形成した後に、CVD無機層及びPVD無機層の形成を行うが、このCVD無機層及びPVD無機層の形成は、さらに1回以上繰り返して行うことができる。すなわち、本発明においては、品質安定性の点からPVD無機層、CVD無機層及びPVD無機層の上に、さらにCVD無機層及びPVD無機層からなる1以上の構成単位を有することが好ましく、構成単位の数が1〜3であることがより好ましく、1〜2であることがさらに好ましい。
また、CVD無機層の炭素含有量は0.5at.%以上であることが好ましく、1at.%以上であることがより好ましく、2at.%以上であることが更に好ましい。中間層に炭素が僅かながら含まれることで、応力の緩和が効率よくなされ、本発明のガスバリア性フィルムのカールが低減される。
以上の点から、上記CVD無機層における炭素含有量は、好ましくは0.5at.%以上20at.%未満の範囲にあり、より好ましくは0.5at.%以上10at.%未満の範囲にあり、より好ましくは0.5at.%以上5at.%未満の範囲にあり、より好ましくは1at.%以上5at.%未満の範囲にあり、さらに好ましくは2at.%以上5at.%未満の範囲にある。ここで、「at.%」とは、原子組成百分率(atomic %)を示す。
X線光電子分光法(XPS法)による炭素含有量の具体的な測定方法は後述の通りである。
上記CVD無機層の厚さは、断面TEM法により測定した値が20nm未満である。上記範囲であることにより、PVD無機層同士の分子間力が有効に作用することで、密着性がより向上する。また同時に化学蒸着法による生産速度を真空蒸着法と同等程度に高めることができるため、生産効率が向上すると共に製造設備も小型化、簡素化でき、安価なバリアフィルムを製造することができる。上記観点から、CVD無機層の厚さは、10nm未満であることが好ましく、5nm未満であることがより好ましく、3nm未満であることがさらに好ましい。
上記観点から、CVD無機層の厚さは、0.01nm以上20nm未満であることが好ましく、0.1nm以上20nm未満であることがより好ましく、0.1nm以上10nm未満であることがさらに好ましく、0.1nm以上5nm未満であることが特に好ましく、0.1nm以上3nm未満であることがより特に好ましい。
上記CVD無機層の厚さの断面TEM法による測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行い、具体的には、実施例に記載の方法により行うことができる。
またプラズマCVD法以外でも、熱CVD法、Cat−CVD法(触媒化学気相成長)、光CVD法、MOCVD法等の公知の方法を用いることができる。このうち量産性や成膜品質に優れる点で熱CVD法、Cat−CVD法が好ましい。
本発明のガスバリア性フィルムにおいては、前記基材とPVD無機層との密着性を向上させるため、基材とPVD無機層の間に、アンカーコート層を設けることが好ましい。アンカーコート層の構成成分としては、生産性の点から、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂やエチレンビニルアルコール系樹脂等のビニルアルコール系樹脂、イソシアネート基含有樹脂、カルボジイミド系樹脂、アルコキシル基含有樹脂、エポキシ系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、スチレン系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂等を単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
前記樹脂としては、ガスバリア性フィルムとした際のガスバリア性や密着性の点から、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂及びイソシアネート基含有樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を用いることが好ましい。なかでも、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びイソシアネート基含有樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂がより好ましく、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂が更に好ましい。
上記樹脂を構成するポリマーの分子量は、ガスバリア性、密着性の点から、数平均分子量で、3,000〜50,000が好ましく、より好ましくは4,000〜40,000であり、さらに好ましくは5,000〜30,000である。
また、アンカーコート層には、硬化剤を配合し、架橋することが好ましい。該硬化剤としては、イソシアネート系化合物等が挙げられる。
上記イソシアネート系化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートや、キシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。ガスバリア性、密着性の点から、イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートが好ましく、より好ましくはイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネートである。
アンカーコート層には、その他、公知の各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、水性エポキシ樹脂、アルキルチタネート、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、染料、抗菌剤、滑剤、無機充填剤、ブロッキング防止剤等を挙げることができる。
また、基材へのアンカーコート剤の塗布性、接着性を改良するため、アンカーコート剤の塗布前に基材に通常の化学処理、放電処理などの表面処理を施してもよい。
また、本発明のガスバリア性フィルムは、上記各無機層を形成した側の最上層に保護層を形成することが好ましい。
上記保護層としては、具体的には、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂やエチレンビニルアルコール系樹脂等のビニルアルコール系樹脂、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体、ビニルエステル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、イソシアネート基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、アルコキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂等の樹脂層が挙げられる。なかでも無機層のガスバリア性向上の点から上記のうち水溶性樹脂の樹脂層が好ましく、さらに該水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂及びエチレン−不飽和カルボン酸共重合体から選択される少なくとも1種が好ましい。上記保護層に用いられる樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、保護層には、ガスバリア性、耐摩耗性、滑り性向上のため、シリカゾル、アルミナゾル等の無機酸化物ゾル等、粒子状無機フィラー及び層状無機フィラーから選ばれる1種以上の無機粒子を配合することができる。
保護層の厚さは、印刷性、加工性の点から、好ましくは0.05〜10μm、より好ましくは0.1〜3μmである。その形成方法としては、公知のコーティング方法が適宜採択される。例えば、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクタコーター、バーコーター、スプレイを用いたコーティング方法等の方法がいずれも使用できる。また、基材に無機層及び構成単位層等を形成した後、コート液に浸漬して保護層の形成を行ってもよい。コーティング後は、80〜200℃程度の温度での熱風乾燥、熱ロール乾燥等の加熱乾燥や、赤外線乾燥等の公知の乾燥方法を用いて溶媒を蒸発させることにより、均一な保護層が形成される。
本発明の第一の形態のガスバリア性フィルムとしては、ガスバリア性、密着性の点から、以下のような態様を好ましく用いることができる。
(1)基材/AC/特定PVD無機層/保護層
(2)基材/AC/特定PVD無機層/特定PVD無機層/保護層
(3)基材/特定PVD無機層/保護層
(4)基材/特定PVD無機層/特定PVD無機層
(5)基材/特定PVD無機層
(6)基材/AC/特定PVD無機層/一般PVD無機層/保護層
なお、上記態様中、「AC」はアンカーコート層を指し、「/」は層の界面を指す。
本発明のガスバリア性フィルムとしては、ガスバリア性、密着性の点から、以下のような態様を好ましく用いることができる。
(1)基材/AC/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層
(2)基材/AC/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層
(3)基材/AC/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層
(4)基材/AC/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/保護層
(5)基材/AC/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/保護層
(6)基材/AC/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/保護層
(8)基材/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層
(9)基材/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層
(10)基材/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/保護層
(11)基材/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/保護層
(12)基材/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/CVD無機層/特定PVD無機層/保護層
(13)基材/AC/特定PVD無機層/CVD無機層/一般PVD無機層/保護層
なお、上記態様中、「AC」はアンカーコート層を指し、「/」は層の界面を指す。
通常の実施態様としては、上記無機層あるいは保護層の上にプラスチックフィルムを設けたガスバリア性積層フィルムが各種用途に使用される。上記プラスチックフィルムの厚さは、積層構造体の基材としての機械強度、可撓性、透明性等の点から、通常5〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲で用途に応じて選択される。保護層の上のプラスチックフィルムは基材で例示したものと同様のものを用いることができる。
ガスバリア性積層フィルムの幅や長さは特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。なお、バリアフィルムを用いて工業製品を製造する上では、長尺の製品を製造可能であること、一度のプロセスで多数の製品を製造可能であることなどの生産性、コスト優位性の点から、フィルムの幅、長さは長い方が望ましい。フィルム幅は0.6m以上が好ましく、0.8m以上がより好ましく、1.0m以上がさらに好ましく、フィルムの長さは1000m以上が好ましく、3000m以上がより好ましく、5000m以上がさらに好ましい。
また、ガスバリア性積層フィルムは、例えば、無機層あるいは保護層の面上にヒートシールが可能な樹脂を使用することにより、ヒートシールが可能となり、種々の容器として使用できる。ヒートシールが可能な樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、アクリル系樹脂、生分解性樹脂等の公知の樹脂が例示される。
また、印刷層とヒートシール層との間に紙又はプラスチックフィルムを少なくとも1層積層することが可能である。プラスチックフィルムとしては、本発明のガスバリア性フィルムに用いられる基材と同様のものが使用できる。中でも、十分な積層体の剛性及び強度を得る観点から、紙、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂又は生分解性樹脂が好ましい。
なお、L*値、a*値及びb*値は、JIS Z8729のL*a*b*表色系のL*値、a*値及びb*値のことを意味し、これらの値はJIS Z8722に基づいて測定することができる。
本発明の第一の形態のガスバリア性フィルムは、基材の少なくとも一方の面に、メジアン径3〜100μmの無機物粉体を、直径がルツボの底部内径の10〜45%、高さがルツボの内部高さの45%以下の円柱状に焼結成型してなる蒸着材料を、加熱で気化する真空蒸着法により無機層を形成することにより製造できる。
また、PVD無機層を形成する際の基材の搬送速度は、100m/分とすることが好ましい。特定PVD層では高温でもスプラッシュ現象を抑制できるため、高速での製造が可能である。
また、本発明の第二の形態のガスバリア性フィルムは、基材の少なくとも一方の面に、真空蒸着法による無機層、化学蒸着法による無機層及び真空蒸着法による無機層をこの順で形成し、前記真空蒸着法による無機層の一以上を、メジアン径3〜100μmの無機物粉体を、直径がルツボの底部内径の10〜45%、高さがルツボの内部高さの45%以下の円柱状に焼結成型してなる蒸着材料を、加熱で気化する真空蒸着法により形成することにより製造できる。
また、CVD無機層を形成する際の基材の搬送速度は、生産性向上の観点から、100m/分以上であることが好ましく、200m/分以上であることがより好ましい。上記搬送速度については、上限は特にないが、フィルム搬送の安定性の観点から1000m/分以下が好ましい。
なお、CVD無機層には、耐水性、耐久性を高めるために、電子線照射による架橋処理を行うこともできる。
なお、上記各無機層の形成を繰り返す場合も、減圧下、連続して行うことが好ましい。本発明の第一の形態でPVD無機層自体を繰り返し積層する際も、同様に同一装置内にて、減圧下、連続して行うことが好ましい。
なお、以下の実施例及び比較例で得られたガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムについて下記の評価を行い、その結果を表1に示す。
蒸着材料(焼結体)を高さ30mmから厚さ7mmの透明ガラス上に落下させた際に、蒸着材料から飛散する150μm以上の大きさの破片の数を計測した。
蒸着装置に水晶振動子法の成膜モニタを設け、成膜速度を測定した。表には、実施例1の成膜速度を100%とした際の百分率を記載し、加熱時蒸発量とした。なお、全ての実施例および比較例において加熱熱量は同じとなるよう調整し、加熱時蒸発量を測定した。
ガスバリア性積層フィルム1平方メートルあたりの微細粒子数を、目視にて検査を行い、数をカウントした。
透湿面積10.0cm×10.0cm角のガスバリア性積層フィルムを2枚用い、蒸着層面を外側となるようにして吸湿剤として無水塩化カルシウム約20gを入れ四辺を封じた袋を作製し、その袋を温度40℃、相対湿度90%RHの恒湿装置に入れ、透湿度が安定した14日目から72時間以上間隔で30日目まで質量測定し、14日目以降の経過時間と袋重量との回帰直線の傾きから透湿度(g/m2/day)を算出した。
JIS K7361−1に準じ、日本電色工業社製の積分球式濁度計「ND−2000」によりガスバリア性フィルムの全光線透過率を測定した。
無機層の膜厚の測定は蛍光X線を用いて行った。この方法は、原子にX線を照射すると、その原子特有の蛍光X線を放射する現象を利用した方法で、放射される蛍光X線強度を測定することにより原子の数(量)を知ることができる。具体的には、フィルム上に既知の2種の厚みの薄膜を形成し、それぞれについて放射される特定の蛍光X線強度を測定し、この情報より検量線を作成する。測定試料について同様に蛍光X線強度を測定し、検量線からその膜厚を測定した。
エポキシ樹脂包埋超薄切片法で試料を調整し、日本電子株式会社製の断面TEM装置「JEM−1200EXII」により加速電圧120KVの条件で測定した。なお、10nm以下のCVD無機層の厚みについては、断面TEM法による測定においても正確な値を得ることは難しいため、同様の製膜条件にて製膜した20nm以上の比較的厚いCVD無機層を、断面TEM法により測定して単位搬送速度当たりの製膜レートを算出し、実施例記載の搬送速度で製膜した場合の厚みを算出した値としている。
<CVD無機層の炭素含有量>
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のXPS分析装置K−Alphaを使用し、XPS(X線光電子分光法)により結合エネルギーを測定し、Si2P、C1S、N1S、O1S等に対応するピーク面積から換算することによって元素組成(at.%)を算出した。なお、CVD無機層の炭素含有量は、XPSチャートのCVD無機層の部分の値を読み取ることで評価した。
(1)蒸着材料の作製
真空凝集装置で析出SiOを製造し、析出SiOを粉砕機で粉砕した後分級し、メジアン径3μmのSiO粉末を得た。次いで、金型中で加圧成型して、加圧時の破壊強度が5MPa以上、直径が後述の加熱用円筒形ルツボの内径の20%、高さが加熱用円筒形ルツボの内部高さの10%の円柱形状の成型体を得た。次いで、得られた成型体を、不活性雰囲気、大気圧の条件下で約1000℃で焼結し、蒸着材料(粉末SiO焼結体)を得た。
基材として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン製、「Q51C12」)を用い、そのコロナ処理面に、イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業製「コロネートL」)と飽和ポリエステル(東洋紡績製「バイロン300」、数平均分子量23000)とを1:1質量比で配合した混合物を塗布乾燥して厚さ100nmのアンカーコート層を形成した。
次いで、円筒形のタンタル製のルツボ(かさ密度:16.7Mg/m3,熱伝導率:57.5W/(m・K),底部内径:100mm,内部高さ:100mm)内に上記蒸着材料を設置し、真空蒸着装置を使用して2×10-3Paの真空下で加熱によりSiOを蒸発させ、アンカーコート層上に厚さ25.4nmのSiOxの真空蒸着膜(特定PVD無機層)を形成しガスバリア性フィルムを得た。基材の搬送速度は、100m/分であった。
実施例1において、SiO粉末としてメジアン径10μmのものを用い、特定PVD無機層の厚さを25.9nmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例2において、円柱成型体の直径を前述の加熱用円筒系ルツボの内径の10%、特定PVD無機層の厚さを25.3nmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例1において、SiO粉末としてメジアン径100μmのものを用い、特定PVD無機層の厚さを26.8nmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例2において、円柱成型体の直径を前述の加熱用円筒形ルツボの底部内径の45%、高さを加熱用円筒形ルツボの内部高さの45%とし、特定PVD無機層の厚さを26.0nmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例2において、特定PVD無機層の厚さを25.0nmとして設け、次いで、、圧力を大気圧に戻すことなく、HMDSN(ヘキサメチルジシラザン)と窒素ガスとArガスとを、モル比1:7:7の比率で導入し、0.4Paの真空下でプラズマとし無機層面上にCVD無機層(SiOCN(酸化炭化窒化珪素))を形成した(厚さ4nm)。CVD無機層の炭素含有率は4%であった。PVD層及びCVD無機層形成の際の基材の搬送速度は、100m/分であった。
次いで、圧力を大気圧に戻すことなく、2×10-3Paの真空下で、上記ルツボ内に上記蒸着材料を設置し、SiOを加熱により蒸発させ、CVD無機層上に厚さ35nmのSiOxの特定PVD無機層を形成し、ガスバリア性フィルムを得た。更にこのガスバリア性フィルムを用いて実施例1と同様にしてガスバリア性積層フィルムを得た。
実施例1において、SiO粉末としてメジアン径1μmのものを用い、特定PVD無機層の厚さを24.0nmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例1において、SiO粉末としてメジアン径500μmのものを用い、特定PVD無機層の厚さを28.0nmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例2において、実施例2の成型体と高さは同じであり、実施例2の成型体の直径寸法を一辺とした四角柱とし、特定PVD無機層の厚さを25.3nmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例1において、SiO粉末としてメジアン径15μmのものを用い、円柱成型体の直径を前述の加熱用円筒形ルツボの底部内径の7%とし、特定PVD層の厚みを25.7μmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例1において、SiO粉末としてメジアン径15μmのものを用い、円柱成型体の直径を前述の加熱用円筒形ルツボの底部内径の75%とし、特定PVD層の厚みを25.9μmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
実施例1において、SiO粉末としてメジアン径15μmのものを用い、円柱成型体の直径を前述の加熱用円筒形ルツボの底部内径の10%、高さを加熱用円筒形ルツボの内部高さの80%とし、特定PVD層の厚みを25.3μmとした以外は同様にしてガスバリア性フィルム及びガスバリア性積層フィルムを作製した。
一方、比較例1のものは蒸着材料のメジアン径が小さく、比較例4のものは蒸着材料の成型体の直径が小さいことから、加熱時蒸発量が少なく、生産性に劣るものであった。
また、比較例2、3、5及び6のものは、何れもスプラッシュ現象が発生し、水蒸気透過率が高く、全光線透過率も低いものであった。これら比較例においてスプラッシュ現象が生じる原因は、比較例2のものは、蒸着材料のメジアン径が大きいため、成型体の強度が十分ではないこと、比較例3のものは、蒸着材料の成型体の形状が四角柱であり、頂点が局部的に高温になりやすいこと、比較例5のものは、蒸着材料の成型体の直径が大きく、成型体一個あたりの熱分布が大きくなること、比較例6のものは、蒸着材料の成型体の高さが高く、ルツボ底面から離れた領域が多くなり、成型体に熱ムラが生じること、と考えられる。
11・・・・収納部
12・・・・開口部
111・・・収納部の内側表面
112・・・収納部の外側表面
Claims (9)
- 基材の少なくとも一方の面に、メジアン径3〜100μmの無機物粉体を、直径がルツボの底部内径の10〜45%、高さがルツボの内部高さの45%以下の円柱状に焼結成型してなる蒸着材料をルツボ内に設置し、加熱で気化する真空蒸着法により無機層を形成する、ガスバリア性フィルムの製造方法。
- 基材の少なくとも一方の面に、真空蒸着法による無機層、化学蒸着法による無機層及び真空蒸着法による無機層をこの順で形成し、前記真空蒸着法による無機層の一以上を、メジアン径3〜100μmの無機物粉体を、直径がルツボの底部内径の10〜45%、高さがルツボの内部高さの45%以下の円柱状に焼結成型してなる蒸着材料をルツボ内に設置し、加熱で気化する真空蒸着法により形成する、ガスバリア性フィルムの製造方法。
- 前記無機物粉体として、珪素粉体及び/又は一酸化珪素粉体を含む請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
- 前記蒸着材料を加熱で気化して形成されてなる無機層が2層以上積層されてなる請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
- JIS K7105に準拠する全光線透過率が85%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
- 前記蒸着材料が、収納部の内側表面が一酸化珪素ガスに対し不活性な材料からなるルツボに設置されてなる請求項3〜5のいずれかに記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
- 前記不活性な材料が、金属又は金属化合物である請求項6に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
- 前記金属又は金属化合物の融点が1600℃以上である請求項7に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
- 前記金属化合物が炭化珪素又は窒化珪素である請求項7に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
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