以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る大便器をその前方斜め上方からみた斜視図である。図2は、大便器の背面図である。図3は、大便器の中央縦断面図である。説明の便宜上、各図には大便器の便座、便蓋、局部洗浄装置、サイドパネル等が取り外された状態が示されている。以下、便座に着座する大便器の利用者からみた位置関係に基づいて大便器構造の前後の位置関係を表現することがある。
図1に示すように、本実施形態の大便器1は、水洗式大便器であり、陶器製の便器本体2に樹脂製のタンク4を組み付けて構成される。便器本体2の後方には、図示しない局部洗浄装置や弁等の各種機能部品、便器本体2とタンク4とを接続するための配管6等が設けられている。タンク4の上端部には、内部の洗浄水を汲み上げるためのポンプ8が一体に設けられている。
図2に示すように、便器本体2には後方に突出(露出)するように排水管部9が設けられている。排水管部9は、排水ソケット10を介してトイレ(施工対象)の排水管に接続される。タンク4は、その前半部が排水ソケット10を迂回する形で便器本体2の下部領域に差し込まれ、後半部が便器本体2の後部に沿ってU字状に立設される態様で組み付けられる。
図3にも示すように、便器本体2は、汚物を受ける便鉢部12と、便鉢部12の底部から延びる排水管部9を有する。便鉢部12は、封水面13よりも下方に流出口14を有している。便鉢部12の左側上部には、その周縁に沿って旋回流を生成するためのリム通水路16が形成されている。一方、便鉢部12の右側上部には、その旋回流を流出口14に向けて落とし込む流れを生成するための後述する落とし込み流路18が形成されている(図4(a)参照)。排水管部9は、流出口14から後方に向けて斜め下方に延び、続いて斜め上方に延び、続いて鉛直方向下方に延びる湾曲形状を有する。すなわち、排水管部9の先端開口部(排水ソケット10との接続口)は、下方に向けて開口している。排水管部9は、排水ソケット10の上端部に開口した接続口20に先端部が挿入されるようにして接続される。排水ソケット10の下端は、床面22に引き出された排水管24に接続される。
便器本体2の下方は、タンク4および排水ソケット10を収容する収容空間25を形成している。すなわち、便器本体2の側壁部に囲まれた空間において、便鉢部12および排水管部9の下方領域と後方領域のスペースを有効利用する形でタンク4が設置される。タンク4は、その外形に沿った断熱材26により覆われており、結露が防止されている。
タンク4は、排水管部9の下面と相補形状の凹部28を上面に有し、便器本体2の下方空間に良好に収納される外形状に形成されている。また、詳細については後述するが、タンク4は、排水管部9の下流端部および排水ソケット10を取り囲むように平面視環状に形成され、後部が便器本体2の後壁29(図4参照)に沿って背面視U字状に立設される形状を有する(図2参照)。このような構成により、タンク4の容量を大きく確保しつつ、大便器1をローシルエットに構成できるようにしている。
図4は、便器本体を表す図である。(a)は平面図であり、(b)は右側面図であり、(c)は底面図であり、(d)は背面図である。図示のように、便器本体2は、平面視半楕円状をなし、平坦な後壁29の中央部から排水管部9が突出(露出)し、鉛直方向下方に延出している。排水管部9のやや上方にはT字状の配管6が配設されている。
配管6は、タンク4に接続される給水管部30と、給水管部30から左右に分岐した分岐管部32,34を有する。分岐管部32,34は樹脂材からなり、給水管部30は弾性体(ゴム等の軟質材)からなる。後壁29の左右上部には配管接続用の孔36,38が設けられており、分岐管部32は左側の孔36に接続され、リム通水路16に連通する。一方、分岐管部34は、右側の孔38に接続され、落とし込み流路18に連通する。給水管部30の先端(上流側端部)は下方に向けて開口している。また、分岐管部34には、後述する吸気部につながる接続管40が連設されている。接続管40は、弾性体(ゴム等の軟質材)からなる。接続管40は、孔38と反対側に延出し、その先端は下方に向けて開口している。
便器本体2の底面には、タンク4を嵌合させるための凹部42が形成されている。この凹部42は平面視半楕円状(U字状)をなし、所定深さを有する。凹部42の底面には排水管部9の一部が隆起しており、タンク4の凹部28と相補形状となっている。凹部42は、上述した収容空間25を形成する。
図5は、タンクを上方からみた斜視図である。図6は、タンクの外観を表す図である。(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は右側面図である。(d)は背面図であり、(e)は平面図であり、(f)は底面図である。図7は、タンクの内部形状を表す断面図である。(a)は図6(a)のA−A矢視断面図であり、(b)は図6(a)のB−B矢視断面図であり、(c)は図6(a)のC−C矢視断面図である。(d)は図6(e)のD−D矢視断面図であり、(f)は図6(e)のE−E矢視断面図である。
図5に示すように、タンク4は、平面視U字状の本体44の後部に背面視U字状の流入出部46を連設して構成されている。本体44と流入出部46とは合成樹脂材にて一体成形されており、タンク4の下部は内部が環状に連通している。詳細については後述するが、本体44の内部には前部貯留部44aおよび側部貯留部44b,44dが形成されており、これらが側部貯留部44b→前部貯留部44a→側部貯留部44dの順に連通して平面視U字状の本体連通路45aを形成している。一方、流入出部46の下部には左右を連通させる後部貯留部44cが設けられている。後部貯留部44cは、本体連通路45aよりも相対的に低位置にある。そして、その本体連通路45aと後部貯留部44cとが、流入出部46の下部にて上下方向の段差を有する形で連通されることにより、平面視環状の環状通路45が形成されている。この環状通路45の内壁により形成されるタンク4の下部に形成される環状孔が、排水ソケット10を上下方向に挿通させる挿通孔64として機能する。タンク4の後部右側が上方から洗浄水を導入する導入部47を構成し、後部左側が上方へ洗浄水を導出する導出部48を構成する。
タンク4の後部右側の上部には、洗浄水を導入するための流入管52と、タンク4内の水位を検知するフロートスイッチ54と、タンク4の内外に空気を吸排気可能な吸排気部55と、タンク4から溢れた水を便器本体2に排出するためのオーバーフロー接続部56とが設けられている。流入管52は、給水源に連通した図示しない導水管に接続される。オーバーフロー接続部56は、上方に向けて開口し、配管6の接続管40に連結される。
一方、タンク4の後部左側の上部には、内部の洗浄水を汲み上げて送り出すためのポンプ8と、ポンプ8により送り出された洗浄水を便器本体2に向けて導出するための流出管58とが設けられている。ポンプ8は、導出部48の上面に一体に設けられている。流出管58は、樹脂材からなり、ポンプ8と一体に設けられている。流出管58は、上方に向けて開口し、配管6の給水管部30に連結される。タンク4の後部右側と後部左側とは、空気抜き用のホース60により接続されている。本実施形態において、タンク4、ポンプ8および流出管58は、便器本体2に向けて洗浄水を供給する「給水ユニット」を構成する。
流入管52を介して洗浄水が導入されると、タンク4の水位が上昇する。このとき、その水位が設定水位に到達すると、フロートスイッチ54が検知信号を出力する。これにより、図示しない導水管に設けられた開閉弁が閉弁して洗浄水の供給を停止させる。これにより、タンク4は設定量の洗浄水を貯水することができる。このようにタンク4に洗浄水が流入して水位が上昇する際、タンク4の左側後部の上方に空気が集まるが、その空気はホース60を介してタンク4の右側後部に導出され、吸排気部55を介して排気される。これにより、タンク4内に洗浄水を良好に貯水することができる。吸排気部55は、また、流出管58から洗浄水を流出させる際、空気をタンク4内に吸気する。これにより、タンク4は、貯水した洗浄水を流出管58から良好に流出させることができる。
ポンプ8の駆動により、タンク4内の洗浄水が流出管58を介して配管6に導出される。このとき、洗浄水は、一方で分岐管部32を介してリム通水路16に導かれる。それにより、便鉢部12にリム通水路16に沿って前方に流れる洗浄水を吐水することができる。また、洗浄水は、他方で分岐管部34を介して落とし込み流路18に導かれる。それにより、便鉢部12の後部表面に沿って流れ落ちる洗浄水を吐水することができる。
図6(a)〜(c)に示すように、本体44の下部には、下方に向けて段階的に幅広となる2段の凹状(アーチ状)に形成された段付挿通部62が設けられている。この挿通部62を設けたことで、後述するリフォームトイレ仕様の排水ソケットに対してもタンク4を容易に組み付け可能とされ、タンク4の汎用性が高められている。
図6(d)〜(f)に示すように、導入部47と導出部48とは下部にて連結されている。図6(f)に示すように、タンク4の下部は、前部貯留部44a、側部貯留部44b、後部貯留部44c、側部貯留部44dが環状に一体に設けられ、内部で環状に連通している。後部貯留部44cは、導入部47および導出部48と上下方向に一体に設けられ、内部で上下に連通している。このような構成により、タンク4の後半部中央には、貯留部44a〜44dにより取り囲まれる挿通孔64が形成されている。本実施形態において、前部貯留部44aが「第1タンク部」として機能し、後部貯留部44cが「第2タンク部」として機能し、側部貯留部44b,44dが「第3タンク部」として機能する。また、挿通孔64が「挿通部」として機能する)。
このため、排水ソケット10の上方からタンク4を組み付けることが可能となる。このとき、排水ソケット10の接続口20が挿通孔64に挿通され、タンク4の組み付け後も上方に向けて露出されるようになる。また、タンク4が排水ソケット10を取り囲む形状とすることによりデッドスペースが少なくなるため、便器本体2の下部および後部をスペースを最大限に利用することができ、タンク4を大きく構成することができる。
このような構成により、図7(a)〜(e)に示すように、タンク4において、下半部にてつながる環状の通路と、後半部にてつながるU字状の通路とが一つながりとなる。すなわち、タンク4の下半部において上述した環状通路45が形成され(図5参照)、タンク4の後半部においては流入出部46の内方にU字状通路51が形成される(図7(e)参照)。そして、これら環状通路45とU字状通路51とが連通する。このような構成により、洗浄水の貯留するための内部スペースを大きく確保することができる。
なお、図7(e)に示すように、導出部48の内部には上下に延在する吸水管49が設けられている。吸水管49の上端部はポンプ8を介して流出管58に連通している。一方、吸水管49の下端部には逆止弁50が設けられている。ポンプ8が駆動されると逆止弁50が開弁し、タンク4内の洗浄水が吸水管49を介して汲み上げられるようになる。
図8は、便器本体2とタンク4とを組み付けた状態を底面側からみた図である。図示のように、タンク4の本体44が便器本体2の凹部42に収まるように両者が組み付けられる。このとき、図示のように、本体44の外形と凹部42の形状との間には若干の隙間をもたせ、両者の組み付けが容易となるようにしている。
図9は、排水ソケット10の構成を示す図である。(a)は正面図であり、(b)は右側面図であり、(c)は平面図であり、(d)は底面図である。(e)は、排水ソケット10とタンク4とが取り付けられた状態を底面側からみた図である。図9(a)〜(d)に示すように、排水ソケット10は、排水管部9の下流端を受け入れるソケット本体70と、排水管24に接続されるとともに床面22に固定される取付部72と、ソケット本体70と取付部72とを連結するアジャスタ部74とを有する(図3参照)。
ソケット本体70は、合成樹脂材からなる配管部76の上端部に円筒状の接続部78を組み付けて構成される。接続部78は弾性体(例えばゴム)からなり、上述した接続口20が形成されている。配管部76の側壁には補強用のリブ77が複数設けられている。ソケット本体70は、後方にやや湾曲した形状を有する。
一方、取付部72は合成樹脂材からなり、下方と側方にそれぞれ開口している。取付部72の下端にはフランジ部80が設けられ、床面22に対して安定に固定できるようにされている。取付部72の側面とフランジ部80との間には、補強用のリブが複数設けられている。
アジャスタ部74は、合成樹脂製の筒体からなり、床面22に対して平行に設置される。アジャスタ部74は、その一端がソケット本体70の下端開口部に連結され、他端が取付部72の側部開口部に挿通されるようにして連結される。アジャスタ部74の取付部72側の端部を切り落とすことにより、ソケット本体70と取付部72との間隔を適宜調整することができる。
ソケット本体70の下端には、タンク4との位置決め用の嵌合部82が設けられている。嵌合部82は、左右に延在する板状体からなり、その中央部がやや後方に湾曲した形状を有する。この湾曲形状は、タンク4の下部側面と相補形状となっている。すなわち、図9(e)に示すように、タンク4における流入出部46の下端部の前面形状が、嵌合部82の形状とほぼ対応する。このため、タンク4を排水ソケット10に組み付けると、排水ソケット10に対するタンク4の位置、つまりタンク4の施工位置が自ずと定まるようになる。嵌合部82には、排水ソケット10を床面に固定する際に図示しないねじが挿通されるねじ挿通孔84が設けられている。
なお、図9(c)および(e)に示すように、タンク4における段付挿通部62の上部の幅w3が、排水ソケット10におけるアジャスタ部74の最大幅w1よりも大きくされている(w3>w1)。また、タンク4における段付挿通部62の下部の幅w4が、排水ソケット10におけるフランジ部80の最大幅w2よりも大きくされている(w4>w2)。このため、アジャスタ部74の長さが変更されたとしても、アジャスタ部74やフランジ部80がタンク4に干渉することがない。すなわち、タンク4は、排水ソケット10におけるアジャスタ部74の長さ変更を許容するため汎用性が高く、特にリフォームトイレ仕様に好適である。
図10は、タンク下部の構造を詳細に表す図である。(a)はタンク4の中央矢視断面図であり、図7(a)に対応する。(b)はタンク4の正面図であり、図6(a)に対応する。(c)は底面図であり、図6(f)に対応する。図11は、タンク4と排水ソケット10との組みつけ構造を詳細に表す図である。(a)は図10(a)に対応し、(b)は図10(b)に対応し、(c)は図10(c)に対応する。なお、各図においては説明の便宜上、タンク4の脚部を着色して示している。
図10に示すように、タンク4における側部貯留部44b,44dの下部には、それぞれ脚部66が設けられている。脚部66は、各側部貯留部と一体に設けられているが、それ自体は貯留部を構成していない。この左右一対の脚部66により、タンク4が床面に対して安定に設置される。また、左右一対の側部貯留部44b,44dと左右一対の脚部66とに挟まれる空間により上述した段付挿通部62が形成される。本実施形態において、前部貯留部44aと側部貯留部44b,44dとが本体44(タンク本体)を構成する。
各脚部66は、小幅にて後部貯留部44cから各側部貯留部の側壁に沿うように前方に延在するが、各側部貯留部の後半部にのみ位置する。すなわち、各側部貯留部の前半部と各脚部との間には段差68が設けられており、タンク4の下面における段差68よりも前方が開放されている。このようにして、本体44の下部には排水ソケット10の前方に突き抜けるようにして開口する収容スペース(開放空間)が形成されている。それにより、排水ソケット10の取付部72とタンク4との干渉が確実に防止される。一対の脚部66の対向面は互いに平行であり、その間隔が常に一定とされている。
脚部66の基端部、つまり後部貯留部44cとの連結部近傍の下面には、所定の深さおよび前後幅で切り欠かれた切欠部69(「嵌合部」として機能する)が設けられている。左右一対の切欠部69には、上述した排水ソケット10の嵌合部82が嵌合される。切欠部69の深さおよび幅は、それぞれ嵌合部82の厚さ、幅にほぼ等しい。
以上のような構成により、タンク4と排水ソケット10とを安定に組みつけることができる。また、本実施形態のようにリフォームトイレ仕様の排水ソケット10に対してもタンク4を容易に組み付け可能とされ、タンク4の汎用性が高められる。
すなわち、図11に示すように、嵌合部82が切欠部69と嵌合することにより、排水ソケット10とタンク4との位置決めがなされ、両者が安定に組みつけられる。後部貯留部44cは、排水ソケット10の接続部78よりも下方に位置する。また、リフォームトイレ仕様では図中点線にて示すように、アジャスタ部74の長さが調整されることによりタンク4に対する取付部72の相対位置が変化し得るところ、タンク4の挿通部62が収容スペースとして柔軟に機能する。すなわち、図11(a)および(c)に示すように、取付部72の長さを変化させたとしても、取付部72のフランジ部80がタンク4に干渉することはない。
なお、図示の例では、フランジ部80の幅が一対の脚部66の間隔よりもやや小さくされているが、変形例においては、フランジ部80の幅を脚部66の間隔よりも大きくしてもよい。その場合、フランジ部80が脚部66に干渉する手前の位置まではアジャスタ部74を短くすることができる。このような場合でも、タンク4の直下の収容スペースに排水ソケット10の取付部72を収容することができる。
次に、大便器1の洗浄動作について説明する。
便器洗浄の待機状態において図示しない洗浄スイッチが操作されると、図示しない制御部によりポンプ8が駆動される。それにより、タンク4内の洗浄水が汲み上げられ、配管6を介して便鉢部12に吐水される。設定水量の洗浄水が吐水され、タンク4内の水位が最低水位になると、ポンプ8の駆動が停止される。なお、このようにタンク4内の水位が低下する際、吸排気部55からタンク4内に空気が吸気されるため、タンク4内に貯水された洗浄水が流出管58から良好に流出する。ポンプ8の駆動が停止すると、逆止弁50が吸水管49の連通口を閉鎖し、洗浄水が上流側へ逆流することを阻止する。
ポンプ8の駆動が終了すると、図示しない導水管に設けられた開閉弁が開弁し、洗浄水が流入管52を介してタンク4内に流入する。それによりタンク4内の水位が上昇すると、導出部48の上方に空気が集まるが、この空気は空気抜き用のホース60を介して吸排気部55側に排気される。このため、タンク4内に洗浄水を良好に貯水することができる。そして、タンク4内の水位が上昇し、設定水位になると、フロートスイッチ54が検知信号を出力し、導水管に設けられた開閉弁が閉弁される。このようにしてタンク4内が満水状態となり、便器洗浄の待機状態に復帰される。
次に、大便器1の施工方法について説明する。
図12および図13は、大便器1の施工方法を表す図である。図12は斜め前方からみた様子を示し、図13は斜め後方からみた様子を示している。各図(a)〜(c)は、施工作業の流れを示している。なお、本実施形態では、トイレのリフォームに際して既設の排水管24の位置を変更できない状況での施工、つまりいわゆるリフォームトイレ仕様の施工方法について説明する。
大便器1の施工に際しては、排水ソケット10を位置決めの基準としてタンク4、便器本体2を順次組み付ける手法を採用する。すなわち、従来のようにタンク4を便器本体2に組み付けた状態で施工するのではなく、タンク4と便器本体2とを個別に順次設置する手法を採用する。
まず、図12(a)に示すように、予め床面22に設置された排水管24に対し、排水ソケット10を組み付ける。このとき、既設の排水管24の引き出し位置と大便器1の構造とに基づき、アジャスタ部74の長さを調整しておく。そして、取付部72を排水管24に固定することにより、排水ソケット10を床面22に設置する。
続いて、図12(b)に示すように、排水ソケット10を基準にタンク4を組み付ける。すなわち、上述のように切欠部69と嵌合部82を嵌合させるようにしてタンク4を排水ソケット10に連結し、このタンク4と排水ソケット10との連結ユニットをボルト90を介して床面22に固定する。このとき、図13(a)に示すように、排水ソケット10の接続部78がタンク4の挿通孔64に挿通される。それにより、タンク4が排水ソケット10に組み付けられ、床面22に対して設置される。
続いて、図12(c)に示すように、便器本体2をタンク4に対して組み付ける。このとき、排水ソケット10の接続口20が上方に向けて露出した状態にあり、また、オーバーフロー接続部56の接続口と、流出管58の接続口も上方に開口した状態となっている。一方、図13(b)に示すように、排水管部9、給水管部30および接続管40の各先端は、いずれも下方に開口している。このため、排水管部9を目視しながら排水ソケット10の接続口20に挿入していくと、給水管部30と流出管58とが自ずと接続され、接続管40とオーバーフロー接続部56が自ずと接続されるようになる。すなわち、便器本体2をタンク4の上方から被せるように取り付けることで、各配管の接続が極めて効率良くなされるようになる。
以上のように、便器本体2を排水ソケット10を基準に組み付けることで、タンク4が便器本体2に組み付けられ、便器本体2が床面22に対して設置される。このようにして大便器1の施工がほぼ完了する。その後、図示しない便座、便蓋、局部洗浄装置、サイドパネル等を組み付けることにより大便器1の設置が完了する。
以上に説明したように、本実施形態では、排水ソケット10を基準としてタンク4、便器本体2の順に個別に配設される。このため、前段工程においてタンク4と排水ソケット10との干渉を防止することができる。その際、排水ソケット10とタンク4との位置決めが両者の嵌合構造により自ずと実現されるため、タンク4の設置が容易である。
また、このように先にタンク4を設置する構成としたため、後段工程において便器本体2を設置する際にその後壁に露出した排水管部9を容易に視認することができる。タンク4の中央には排水ソケット10の接続口20が露出するため、その排水管部9を目視しながらその接続口20に容易に挿入することができる。このとき、既にタンク4の位置決めがなされているため、便器本体2をタンク4との干渉を避けながら設置することができる。さらに、便器本体2側の配管の接続口が下方に開口し、タンク4側の配管の接続口が上方に開口する構成としたため、便器本体2をタンク4に対して上方から組み付けるだけで両者の配管接続をほぼ完了させることができる。すなわち、便器本体2の設置作業が便器本体2とタンク4との組み付け作業を兼ねることになり、作業効率を向上させることができる。
さらに、本実施形態では、タンク4を排水ソケット10に対して挿通する形とし、便器本体2の下部および後部のスペースを有効活用するようにしたため、タンク4の容量を大きくしつつ、大便器1のローシルエットを実現することができる。また、タンク4の下面に前方に向けて延在する段付挿通部62を設け、排水ソケット10の形状変化(長さ変化)を許容する構成としたことで、タンク4の汎用性が実現されている。このことは、タンク4の形状とソケット本体70の形状とを合わせておきさえすれば、排水管24がいかなる位置にあろうとも概ね対応できることを意味する。すなわち、タンクについては排水ソケットの種類に応じて用意する必要がなく、また、排水ソケットについてはその部品の共用化を図ることができる。その結果、施工にかかるコスト削減を実現することができる。
[第2実施形態]
本実施形態の施工構造は、排水ソケットの構成が異なる点を除き、第1実施形態と同様の構成を有する。このため、以下において第1実施形態と同様の構成部分については同一の符号を付すなどして、その説明を省略する。図14は、第2実施形態に係る大便器の構造およびその施工構造を表す断面図である。図15は、排水ソケットの構成を示す図である。(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は平面図であり、(d)は底面図である。(e)は、排水ソケットとタンクとが取り付けられた状態を底面側からみた図である。
図14に示すように、本実施形態の施工構造は、床排水式である点では第1実施形態と同様であるが、排水ソケット210にアジャスタ部は設けられていない。すなわち、床面22に設置された排水管の位置に応じて排水ソケット210の長さを適宜変更できる構成ではない。しかし、このような構成においても、排水ソケット210を基準にタンク4、便器本体2を個別に順次設置する施工方法は有効に機能する。
図15(a)〜(d)に示すように、排水ソケット210は、排水管部9の下流端を受け入れるソケット本体270と、排水管24に接続されるとともに床面22に固定される取付部272とを有する(図14参照)。
ソケット本体270は、合成樹脂材からなる配管部276の上端部に接続部78を組み付けて構成される。一方、取付部272は合成樹脂材からなり、配管部276となめらかにつながる配管部278と、その配管部278の下半部を覆うようにして支持する封止部279とを有する。封止部279は、配管部278と同心状に設けられ、床面22に形成された孔を上方から封止する。
封止部279の下端にはフランジ部280が設けられ、床面22に対して安定に固定できるようにされている。フランジ部280には、位置決め用の嵌合部282が一体に設けられている。嵌合部282は、左右に延在する板状体からなり、タンク4の下部側面と相補形状となる湾曲形状を有する。すなわち、図15(e)に示すように、タンク4における流入出部46の下端部の前面形状が、嵌合部282の形状とほぼ対応する。このため、タンク4を排水ソケット210に組み付けると、排水ソケット210に対するタンク4の位置、つまりタンク4の施工位置が自ずと定まるようになる。
なお、タンク4の一対の切欠部69には、それぞれねじ孔290が設けられており、嵌合部282におけるそのねじ孔290との対向部には、ねじ挿通孔292が設けられている。ねじ挿通孔292は段付孔とされており、ねじの頭部を収容可能に構成されている。タンク4と排水ソケット210とは、両者を嵌合させてねじ接合することにより、連結ユニットとすることができる。
本実施形態においても、大便器1の施工に際し、第1実施形態と同様の手法を採用することができる。本実施形態では、排水ソケット210の調整を想定していないため、リフォームトイレ仕様への適用には若干制約がかかるものの、その点を除けば第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
[第3実施形態]
本実施形態の施工構造は、壁排水式である点で第1実施形態と異なる。以下においては第1実施形態との相異点を中心に説明する。図16は、第3実施形態に係る大便器の構造およびその施工構造を表す断面図である。図17は、排水ソケットの構成を示す図である。(a)は背面図であり、(b)は右側面図であり、(c)は平面図であり、(d)は底面図である。(e)は、排水ソケットとタンクとが取り付けられた状態を底面側からみた図である。
図16に示すように、本実施形態の施工構造は、壁排水式であるため、排水ソケット310の排出口312の向きが接続口20に対して直角方向となる。すなわち、図17(a)〜(d)に示すように、排水ソケット310は、合成樹脂製の曲がり管として形成されたソケット本体370と、ソケット本体370を下方から支持する支持部372とを有する(図16参照)。排水ソケット310の上端部には接続部78が組み付けられている。
支持部372の下端にはフランジ部380が設けられ、床面22に対して安定に固定できるようにされている。フランジ部380には、位置決め用の嵌合部382が一体に設けられている。嵌合部382は、左右に延在する板状体からなり、タンク4の下部側面と相補形状となる湾曲形状を有する。すなわち、図17(e)に示すように、タンク4における流入出部46の下端部の前面形状が、嵌合部382の形状とほぼ対応する。このため、タンク4を排水ソケット310に組み付けると、排水ソケット310に対するタンク4の位置、つまりタンク4の施工位置が自ずと定まるようになる。
なお、嵌合部382におけるタンク4のねじ孔290との対向部には、ねじ挿通孔292が設けられている。タンク4と排水ソケット310とは、両者を嵌合させてねじ接合することにより、連結ユニットとすることができる。
次に、本実施形態における大便器1の施工方法について説明する。
図18は、大便器1の施工方法を表す図である。(a)〜(c)は、施工作業の流れを示している。本実施形態においても、排水ソケット310を位置決めの基準としてタンク4、便器本体2を順次組み付ける手法を採用する。ただし、排水ソケット310を壁面の排水管324に接続する前に、排水ソケット310とタンク4とを組み付ける点で第1実施形態とは異なる。
すなわち、図18(a)に示すように、まず排水ソケット310とタンク4とをねじ接合により組み付けて連結ユニット300を形成する。そして、図示しない壁面に予め設置された排水管324に対して排水ソケット310を接続し、この連結ユニット300を床面に対してボルト90により締結する。
続いて、図18(b)に示すように、便器本体2をタンク4に対して組み付ける。このとき、排水管部9を目視しながら排水ソケット310の接続口20に挿入していくと、給水管部30と流出管58とが自ずと接続され、接続管40とオーバーフロー接続部56が自ずと接続されるようになる。すなわち、便器本体2をタンク4の上方から被せるように取り付けることで、各配管の接続が極めて効率良くなされるようになる。
以上のように、便器本体2を排水ソケット310を基準に組み付けることで、タンク4が便器本体2に組み付けられ、便器本体2が図示しない壁面に対して設置される。このようにして大便器1の施工がほぼ完了する。その後、図示しない便座、便蓋、局部洗浄装置、サイドパネル等を組み付けることにより大便器1の設置が完了する。
このように、本実施形態の施工方法は、壁排水への適用である点で第1実施形態とは異なるが、大便器1の施工に際して排水ソケット310を基準にタンク4、便器本体2を順次設置する点では第1実施形態と同様である。このため、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
[第4実施形態]
本実施形態は、タンクと排水ソケットとの連結構造が第3実施形態と異なる。以下においては第3実施形態との相異点を中心に説明する。図19は、第4実施形態に係る連結ユニットの構造を表す斜視図である。
本実施形態では、排水ソケット410とタンク404とを組み付けて連結ユニット400を構成する。タンク404は、挿通孔64の上下方向中間部に内向きにやや突出した平面視U字状のベース部412を有する。このベース部412には、一対のねじ孔414が設けられている。
一方、排水ソケット410は、ソケット本体370と、ソケット本体370を下方から支持する支持部472とを有する。排水ソケット410の上端部には接続部78が組み付けられている。ソケット本体370の前面、つまり排出口312とは反対側面からは前方に向けて延出する板状の接合部420が設けられている。接合部420は、挿通孔64の内周面に沿う概略半円形状をなし、ベース部412に載置される。接合部420におけるねじ孔414との対向部には、ねじ挿通孔422が設けられている。
このような構成により、排水ソケット410は、タンク404の上方から組み付けられる。このとき、接合部420がねじ挿通孔422とねじ孔414とを合わせるようにしてベース部412に載置され、ねじ424により締結固定される。このように、排水ソケット410をタンク404に対して挿入して嵌合させ、両者を締結することにより、両者の位置決めがなされる。
本実施形態においても、排水ソケット410とタンク404とが予め連結されてユニット化され、その連結ユニット400と便器本体2(図16参照)とを組み付けるようにして大便器が構成される。このため、タンク404と排水ソケット410とを干渉させることなく大便器を排水管に設置することができる。
[第5実施形態]
本実施形態は、タンクと排水ソケットとの連結構造が第3,第4実施形態と異なる。以下においては第3,第4実施形態との相異点を中心に説明する。図20は、第5実施形態に係る連結ユニットの構造を下方からみた斜視図である。(a)は連結ユニットの組みつけ前の状態を示し、(b)は連結ユニットの組みつけ後の状態を示す。
本実施形態では、排水ソケット510とタンク504とを組み付けて連結ユニット500を構成する。タンク504の底部の左右には、排水ソケット510を嵌合させて固定するための嵌合部520が設けられている。嵌合部520は、第3実施形態の切欠部69よりも深く切り欠かれた切欠部522と、切欠部522の下方位置にて後部貯留部44cの前方に突設された支持部524とからなる。
一方、排水ソケット510の左右には、上向きに凸となる段差形状の嵌合部582が設けられている。タンク504と排水ソケット510とを組み付ける際には、図20(a)に示すように、タンク504の下方から排水ソケット510を挿通する。そして、図20(b)に示すように、嵌合部582を嵌合部520に嵌め込むことにより、両者を固定することができる。このように、排水ソケット510をタンク504に対して挿入して嵌合させることにより、自ずと両者の位置決めがなされる。
本実施形態においても、排水ソケット510とタンク504とが予め連結されてユニット化され、その連結ユニット500と便器本体2(図16参照)とを組み付けるようにして大便器が構成される。このため、タンク504と排水ソケット510とを干渉させることなく大便器を排水管に設置することができる。
[第6実施形態]
本実施形態は、タンクの構造が第2実施形態と異なる。以下においては第2実施形態との相異点を中心に説明する。図21は、第6実施形態に係るタンクを表す斜視図である。(a)はタンクを排水ソケットとの位置関係にて示し、(b)はタンクを排水ソケットおよび便器本体との位置関係にて示す。
本実施形態のタンク604は、その下部において、排水ソケット210の前方に配置される前部貯留部644aと、排水ソケット210の後方に配置される流入出部646とを、管状の連通部644bにより前後に接続して構成される。ここで、前部貯留部644aは「第1タンク部」として機能し、流入出部646は「第2タンク部」として機能し、連通部644bは「第3タンク部」として機能する。連通部644bは、排水ソケット210の片側(右側)にのみ設けられている。
流入出部646は、直方体形状とされ、第1実施形態のようなU字状のものよりも容積が大きくされている。すなわち、流入出部646は、第1実施形態における導入部47と導出部48とを左右につなげるとともに後部貯留部44cを一体化したような構成とされている。後部貯留部44cと前部貯留部644aとは、その内部が連通部644bを介して連通している。
なお、本実施形態では、第1実施形態と同様にタンク604と排水ソケット210とは固定されないが、第2〜第5実施形態のように両者を固定して連結ユニットとしてもよい。また、本実施形態では、連通部644bを、排水ソケット210の片側にのみ設けたが、左右両側に設けてもよい。
本実施形態においても、大便器の施工に際して排水ソケット210を基準にタンク604、便器本体2を順次設置することができる。それにより、第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。本実施形態では、タンク604の下部に環状連通路は形成されないが、タンク604の中央に排水ソケット210を取り囲む態様の挿通部は形成される。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
上記実施形態では、タンクと排水ソケットとをねじ接合や嵌合構造により固定する例を示したが、他の組み付け方法を採用してもよい。図22は、変形例に係る連結ユニットを表す斜視図である。(a)は一つの変形例に係る連結ユニットを上方からみた斜視図であり、(b)は他の変形例に係る連結ユニットを下方からみた斜視図である。
例えば図22(a)に示すように、タンク4と排水ソケット10とを結束バンド710により連結して連結ユニット700としてもよい。結束バンド710は、弾性を有するゴムなどでもよいし、弾性を有しない紐などでもよい。あるいは、図22(b)に示すように、タンク4と排水ソケット10とを粘着テープ730により連結して連結ユニット720としてもよい。
上記実施形態では、脚部66が貯留部を構成しない構成を示した。変形例においては、脚部66が貯留部としての機能を有するようにしてもよい。それにより、タンクの容量をより大きく確保することが可能となる。その場合、タンクと脚部66とを樹脂材により一体成形してもよい。
上記第1実施形態では、床排水式の大便器の施工において、排水管に対して排水ソケットを組み付けた後、タンクを設置する構成を示した。変形例においては、排水ソケットとタンクとを組み付けて連結ユニットとした後、その連結ユニットを排水管に対して接続するようにしてもよい。
上記第3〜第5実施形態では、壁排水式の大便器の施工において、排水ソケットとタンクとを組み付けて連結ユニットとした後、その連結ユニットを排水管に対して接続する構成を示した。これは、タンクの下部が環状態様をなすため、排水ソケットを排水管に接続した後ではタンクを上方から組み付けることができないからである。変形例においては、排水ソケットを排水管に接続した後でも組み付けられるようタンクの形状を変更したうえで、第1実施形態と同様に排水管に対して排水ソケットを組み付けた後、タンクを設置するようにしてもよい。あるいは、排水ソケットに対してタンクを下方から組み付けられるよう排水管と排水ソケットとの位置関係を設定し、排水管に対して排水ソケットを組み付けた後、タンクを設置するようにしてもよい。
上記第1〜第5実施形態では、タンクの下部において四方の貯留部(44a〜44d)が環状につながり、排水ソケットを取り囲む構成を示した。変形例においては、タンクの下部が環状をなすものの、例えば前部貯留部の一部が分断されたり、後部貯留部の一部が分断されるなど、環状の一部が分断された構成としてもよい。このような構成によっても、排水ソケットを取り囲む態様の挿通孔は形成される。
上記実施形態では、排水ソケットとタンクとを固定する構成を説明した。変形例においては、排水ソケットを位置決めの基準としてタンクを配置するものの、両者を固定しない構成としてもよい。
上記実施形態では述べなかったが、タンクの脚部を貯留部と一体成形してもよいし、貯留部とは別体にて構成した後に組み付けてもよい。後者の場合、脚部を断熱材にて構成してもよい。
上記実施形態では、タンクの下面に段付挿通部を形成し、その前端が開放される構成を例示した。変形例においては、前部貯留部を前面視環状の貯留部とし、その環状部により挿通孔を形成してもよい。そして、排水ソケットのアジャスタ部がその挿通孔を挿通するように構成し、長さ調整可能となるようにしてもよい。このような構成においても、排水ソケットの前方に突き抜けるようにして開口する収容スペースが形成される。
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。