以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態では、本発明の制御装置を自動車に搭載される内燃機関(以下、エンジンという)、特に、火花点火式のエンジンに適用した場合について説明する。
[エンジンの構成例]
以下に、まず図1を参照して、実施形態に関わる火花点火式エンジン1の構成の一例を説明する。図にはエンジン1の本体部分における1つの気筒2の構成のみを示しているが、エンジン1は例えば直列4気筒エンジンであって、シリンダブロック1aに形成された気筒2内には、図の上下方向に往復動するようにピストン3が収容されている。シリンダブロック1aの上部にはシリンダヘッド1bが組み付けられ、その下面とピストン3の上面との間が燃焼室となる。
ピストン3はコネクティングロッド4を介してクランクシャフト5に連結されていて、クランクシャフト5は、シリンダブロック1aの下部のクランクケースに収容されている。クランクシャフト5には、その回転角(クランク角)即ちクランクポジションを検出するためのシグナルロータ301aが取り付けられ、その外周面には複数の歯(突起)が等角度毎に設けられている。
そのシグナルロータ301aの側方近傍には例えば電磁ピックアップからなるクランクポジションセンサ301が配設され、クランクシャフト5が回転する際にシグナルロータ301aの歯数に対応するパルス信号を出力する。この信号からエンジン回転数を算出することができる。また、シグナルロータ301aには、外周の歯の例えば2枚分が欠落した欠歯部が設けられ、この欠歯部の通過に伴いパルス信号が欠落することから、基準となるクランク角位置を判定できる。
また、シリンダブロック1aの側壁には気筒2を取り囲むようにウォータジャケットが形成され、ここにはエンジン冷却水wの温度を検出するように水温センサ303が配設されている。シリンダブロック1aの下部は下方に向かって拡大されてクランクケースの上半分を構成し、その下方には、クランクケースの下半分を構成するようにオイルパン1cが取り付けられている。オイルパン1cには、エンジン各部に供給される潤滑油(エンジンオイル)が貯留されている。
一方、シリンダヘッド1bには気筒2内の燃焼室に臨むように点火プラグ6が配設されていて、その電極にはイグナイタ7から高電圧が供給されるようになっている。こうして高電圧を供給し点火プラグ6に通電するタイミング、即ちエンジン1の点火時期はイグナイタ7によって調整される。つまり、イグナイタ7は、エンジン1の点火時期を調整可能なアクチュエータであり、後述するECU(Electronic Control Unit)500によって制御される。
また、シリンダヘッド1bには、気筒2内の燃焼室に臨んでそれぞれ開口するように、吸気ポート11aおよび排気ポート12aが形成されている。吸気ポート11aには吸気マニホールド11bが連通していて、吸気通路11における吸気の流れの下流側を構成している。また、排気ポート12aには排気マニホールド12bが連通していて、排気通路12における排気ガスの流れの上流側を構成している。
吸気通路11の上流側には、図示は省略のエアクリーナの近傍に、吸入空気量を検出するエアフロメータ304(図2を参照)が配設され、その下流側に吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ8が配設されている。また、吸気通路11(吸気マニホールド11b)には、エンジン1に吸入される前の空気の温度(吸気温)を検出する吸気温センサ307(図2を参照)も配設されている。
この例ではスロットルバルブ8は、図外のアクセルペダルとの機械的な連結が切り離されていて、電動のスロットルモータ8aにより駆動されて開度が調整される。スロットル開度を検出するスロットル開度センサ305からの信号は、後述するECU500に送信される。ECU500は、エンジン1の運転状態(動作状態)に応じて好適な吸入空気量が得られるように、スロットルモータ8aを制御する。つまり、スロットルバルブ8は、エンジン1の吸入空気量を調整するアクチュエータの1つである。
前記のように燃焼室に臨む吸気ポート11aの開口は吸気バルブ13によって開閉され、これにより吸気通路11と燃焼室とが連通または遮断される。同様に排気ポート12aの開口は排気バルブ14によって開閉され、これにより排気通路12と燃焼室とが連通または遮断される。これら吸排気バルブ13,14の開閉駆動は、クランクシャフト5の回転がタイミングチェーンなどを介して伝達される吸気および排気の各カムシャフト15,16によって行われる。
この例では吸気カムシャフト15の近傍に、前記のクランクポジションセンサ301と同様に回転角を検出するためのカムポジションセンサ302が設けられている。一例としてカムポジションセンサ302はMREセンサであって、吸気カムシャフト15に設けられたロータの回転に伴い矩形波状の信号を発生する。この信号と前記のクランクポジションセンサ301からの信号とによって、所定気筒2の圧縮上死点(TDC)に対応する基準クランク角位置を判定できる。
また、排気通路12において排気マニホールド12bの下流には、一例として三元触媒からなる触媒17が配設されている。この触媒17においては、気筒2内の燃焼室から排気通路12に排気された排気ガス中のCO、HCの酸化およびNOxの還元が行われ、それらを無害なCO2、H2O、N2とすることで排気ガスの浄化が図られる。
この例では触媒17の上流側の排気通路12に、排気温センサ308と空燃比(A/F)センサ309とが配設され、触媒17の下流側の排気通路12にはO2センサ310が配設されている。
−燃料噴射系−
次に、エンジン1の燃料噴射系について説明する。
エンジン1の各気筒2には、それぞれ燃焼室内に直接、燃料を噴射するように筒内噴射用インジェクタ21(第1噴射弁)が配設されている。4つの気筒2のそれぞれの筒内噴射用インジェクタ21は共通の高圧燃料用デリバリパイプ20に接続されている。また、エンジン1の吸気通路11には、各吸気ポート11a内に燃料を噴射するようにポート噴射用インジェクタ22(第2噴射弁)が配設されている。ポート噴射用インジェクタ22も4つの気筒2にそれぞれ設けられ、共通の低圧燃料用デリバリパイプ23に接続されている。
前記高圧燃料用デリバリパイプ20および低圧燃料用デリバリパイプ23への燃料供給は、燃料ポンプである低圧ポンプ24および高圧ポンプ25(以下、単に燃料ポンプ24,25ともいう)によって行われる。低圧ポンプ24は、燃料タンク26内の燃料を汲み上げて、低圧燃料用デリバリパイプ23および高圧ポンプ25に供給する。高圧ポンプ25は、供給される低圧の燃料を所定以上の高圧にまで加圧して、高圧燃料用デリバリパイプ20に供給する。
この例では高圧燃料用デリバリパイプ20に、筒内噴射用インジェクタ21に供給する高圧燃料の圧力(燃圧)を検出するための高圧燃料用燃圧センサ311(図2を参照)が配設され、低圧燃料用デリバリパイプ23には、ポート噴射用インジェクタ22に供給する低圧燃料の圧力(燃圧)を検出するための低圧燃料用燃圧センサ312(図2を参照)が配設されている。
筒内噴射用インジェクタ21およびポート噴射用インジェクタ22は、いずれも所定電圧が印加されたときに開弁して燃料を噴射する電磁駆動式のアクチュエータである。また、高圧ポンプ25および低圧ポンプ24は、インジェクタ21,22に燃料を供給するアクチュエータである。インジェクタ21,22の動作、即ちそれぞれの燃料噴射回数(噴射モード)やその各回で噴射を開始する時期、および各回の噴射量など、並びに燃料ポンプ24,25の吐出量、吐出圧などは、後述するECU500によって制御される。
そして、筒内噴射用インジェクタ21およびポート噴射用インジェクタ22のいずれか一方または両方のインジェクタからの燃料噴射により、気筒2内の燃焼室には空気と燃料ガスとの混合気が形成される。この混合気が点火プラグ6によって点火されて燃焼・爆発するときに生じた高温高圧の燃焼ガスにより、ピストン3が押し下げられてクランクシャフト5を回転させる。燃焼ガスは、排気バルブ14の開弁に伴い排気通路12に排出されて排気ガスとなる。
−ECU−
ECU500は、図2に模式的に示すように、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、および、バックアップRAM504などを備えている。
ROM502は、各種制御プログラム、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。CPU501は、ROM502に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。また、RAM503は、CPU501での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM504は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU501、ROM502、RAM503およびバックアップRAM504は、バス507を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース505および出力インターフェース506と接続されている。
入力インターフェース505には、クランクポジションセンサ301、カムポジションセンサ302、水温センサ303、エアフロメータ304、スロットル開度センサ305、アクセル開度センサ306、吸気温センサ307、排気温センサ308、空燃比センサ309、O2センサ310、高圧燃料用燃圧センサ311、および、低圧燃料用燃圧センサ312などの各種センサ類が接続されている。
また、入力インターフェース505にはイグニッションスイッチ313も接続されており、このイグニッションスイッチ313がオン操作されると、スタータモータ(図示せず)によるエンジン1のクランキングが開始されるようになっている。一方、出力インターフェース506には、点火プラグ6のイグナイタ7、スロットルバルブ8のスロットルモータ8a、筒内噴射用インジェクタ21、ポート噴射用インジェクタ22、低圧ポンプ24、および高圧ポンプ25などが接続されている。
そして、ECU500は、前記した各種センサ301〜312やスイッチ313からの信号などに基づいて、前記イグナイタ7による点火プラグ6の通電制御、スロットルバルブ8(スロットルモータ8a)の駆動制御、インジェクタ21,22およびポンプ24,25の駆動制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。
これによってエンジン1の動作が好適に制御され、ドライバビリティ、排気ガスおよび燃費という基本的な機能要求がバランス良く満たされるようになる。つまり、ECU500は、エンジン1の各種の機能に関する要求を複数のアクチュエータ(イグナイタ7、スロットルバルブ8、インジェクタ21,22、ポンプ24,25など)の協調制御によって実現するものである。ECU500により実行される制御プログラムによって、本発明の実施形態としての内燃機関の制御装置が実現する。
[制御装置の階層構造]
次に、制御装置の構成について詳細に説明する。図3は、制御装置の各要素をブロックで示し、ブロック間の信号の伝達を矢印で示している。この例では制御装置は、5つの階層510〜550からなる階層型の制御構造を有し、最上位には要求発生階層510が、その下位には物理量調停階層520および制御量設定階層530が、さらにその下位には制御量調停階層540が設けられ、最下位にはアクチュエータ7,8,…へそれぞれ駆動信号を出力する制御出力階層550が設けられている。
前記の5つの階層510〜550間では信号の流れは一方向であり、最上位の要求発生階層510から下位の物理量調停階層520へ、物理量調停階層520から下位の制御量設定階層530へ、さらに制御量設定階層530から下位の制御量調停階層540へ、と信号が伝達される。また、図示は省略するが、それらの階層510〜550とは独立して各階層510〜550にそれぞれ共通の信号を並列に配信する共通信号配信系統が設けられている。
階層510〜550間を伝達される信号と、共通信号配信系統により配信される信号とには次のような違いがある。階層510〜550間を伝達される信号はエンジン1の機能に関する要求を信号化したものであり、最終的にはアクチュエータ7,8,…の制御量に変換される信号である。これに対し、共通信号配信系統によって配信される信号は、要求を発生させたり制御量を演算したりする上で必要な情報を含んだ信号である。
具体的には、共通信号配信系統により配信される信号は、エンジン1の運転条件や運転状態に関する情報(エンジン回転数、吸入空気量、推定トルク、現時点の実点火時期、冷却水温度、運転モードなど)であり、その情報源はエンジン1に設けられた各種のセンサ301〜312や制御装置内部の推定機能などである。これらの情報は各階層510〜550で共通に利用される共通エンジン情報であるので、各階層510〜550に並列に配信することとすれば、階層510〜550間の通信量を削減できるだけでなく、階層510〜550間における情報の同時性を保つこともできる。
−要求発生階層−
以下、各階層510〜550の構成と、そこで行われる処理について上位の階層から順に説明する。まず、要求発生階層510には、複数の要求出力部511〜519が配置されている。ここでいう要求とはエンジン1の機能に関する要求(エンジン1に求められている性能とも言える)であり、要求出力部511〜519はエンジン1の機能毎に設けられている。エンジン1の機能は種々多様であり、エンジン1に何を求めるか、何を優先するかによって、要求発生階層510に配置する要求出力部の内容は異なってくる。
本実施形態では、エンジン1を自動車のドライバの運転操作に応じて効率良く運転するとともに、自然環境の保護という要請にも応えるべく、基本的な機能としてドライバビリティ、排気ガス、燃費をバランス良く満たすことを制御の前提としている。このため要求発生階層510には、まず、ドライバビリティに関する機能に対応して要求出力部511が設けられ、排気ガスに関する機能に対応して要求出力部512が設けられ、燃費に関する機能に対応して要求出力部513が設けられている。
また、本実施形態では、前記3つの基本的な機能要求以外に、例えばインジェクタ21,22のそれぞれによる噴射の回数や時期など、基本的な噴射機能の要求があり、それ以外にもF/C(燃料カット)前の燃圧低減、触媒17の急速暖機、成層燃焼状態での始動(成層始動)、アイドリングストップであるS&S停止等々、特定の状態で発生する各種要求があることも考慮している。よって、図3に表れているように要求発生階層510には、前記のような要求にそれぞれ対応する要求出力部514〜519も設けられているが、これらの要求出力部514〜519について詳しくは後述する。
前記の要求出力部511〜513は、エンジン1のドライバビリティ、排気ガスおよび燃費という基本的な機能要求を数値化して出力する。アクチュエータ7,8,…の制御量は、以下に説明するように演算によって決定されるので、要求を数値化することでアクチュエータ7,8,…の制御量に要求を反映させることが可能になる。本実施形態では、前記の基本的な機能要求については、エンジン1の動作に関わる物理量で表現する。
その物理量としてはトルク、効率および空燃比の3種のみを用いる。エンジン1の出力(広義の出力)は主としてトルク、熱、排気ガス(熱と成分)ということができ、これらの出力は上述のドライバビリティ、排気ガス、燃費といった機能に関係している。そして、これらの出力を制御するためにはトルク、効率および空燃比の3種の物理量を決めればよいので、これら3種の物理量を用いて要求を表現し、アクチュエータ7,8,…の動作を制御することで、エンジン1の出力に要求を反映させることが可能になる。
図3では、一例として要求出力部511が、ドライバビリティに関する要求(ドラビリ要求)をトルクや効率で表現した要求値として出力している。例えば、要求が自動車の加速であれば、その要求はトルクによって表現することができる。要求がエンストの防止であれば、その要求は効率(効率アップ)によって表現することができる。
また、要求出力部512は、排気ガスに関する要求を効率や空燃比で表現した要求値として出力している。例えば、要求が触媒17の暖機であれば、その要求は効率(効率ダウン)によって表現することができるし、空燃比によっても表現することができる。効率ダウンによれば、排気ガス温度を高めることができ、空燃比によれば、触媒17で反応がしやすい雰囲気にすることができる。
さらに、要求出力部513は、燃費に関する要求を効率や空燃比で表現した要求値として出力している。例えば、要求が燃焼効率の上昇であれば、その要求は効率(効率アップ)によって表現することができる。要求がポンピングロスの低減であれば、その要求は空燃比(リーンバーン)によって表現することができる。
なお、各要求出力部511〜513からそれぞれ出力される要求値は、各物理量につき1つには限定されない。一例として、要求出力部511からは、ドライバからの要求トルク(アクセル開度から計算されるトルク)だけでなく、VSC(Vehicle Stability Control system)、TRC(Traction Control System)、ABS(Antilock Brake System)、トランスミッション等の車両制御にかかる各種デバイスから要求されるトルクも同時に出力されている。効率に関しても同様である。
要求発生階層510には共通信号配信系統から共通エンジン情報が配信されている。各要求出力部511〜513では、共通エンジン情報を参照して出力すべき要求値を決定している。エンジン1の運転条件や運転状態によって要求の内容が変わるからである。例えば排気温センサ308により触媒温度が測定されている場合、要求出力部512では、その温度情報に基づいて触媒17の暖機の必要性を判定し、判定結果に応じて効率要求値や空燃比要求値を出力する。
さて、上述のように、要求発生階層510の要求出力部511〜513からは、トルク、効率或いは空燃比で表現された複数の要求が出力されるが、それらの要求を全て同時に且つ完全に実現することはできない。複数のトルク要求があったとしても実現できるトルクは1つだからである。同様に、複数の効率要求に対して実現できる効率は1つであり、複数の空燃比要求に対して実現できる空燃比は1つである。このため、要求の調停という処理が必要となる。
−物理量調停階層−
物理量調停階層520では、要求発生階層510から出力される要求値の調停が行なわれる。物理量調停階層520には、要求の分類である物理量毎に調停部521〜523が設けられている。調停部521はトルクで表現された要求値を集約して1つのトルク要求値に調停する。調停部522は効率で表現された要求値を集約して1つの効率要求値に調停する。そして、調停部523は空燃比で表現された要求値を集約して1つの空燃比要求値に調停する。
これらの各調停部521〜523は、予め定められた規則に従って調停を行なう。ここでいう規則とは、例えば最大値選択、最小値選択、平均、或いは重ね合わせなど、複数の数値から1つの数値を得るための計算規則であり、それら複数の計算規則を適宜に組み合わせたものとすることもできる。但し、どのような規則とするかは設計に委ねられるものであって、本発明に関しては規則の内容に限定はない。また、物理量調停階層520にも共通信号配信系統から共通エンジン情報が配信されており、各調停部521〜523において共通エンジン情報を利用することは可能である。
なお、調停部521〜523においては、エンジン1が実際に実現することができる上限トルクや下限トルクを調停に加味していない。また、他の調停部521〜523の調停結果も調停に加味していない。つまり、各調停部521〜523はそれぞれ、エンジン1の実現可能範囲の上下限や他の調停部の調停結果は加味せずに調停を行なっている。このことも制御の演算負荷の軽減に寄与している。
以上のように各調停部521〜523にて調停が行なわれることで、物理量調停階層520からは1つのトルク要求値と、1つの効率要求値と、1つの空燃比要求値とが出力される。そして、その下位の階層である制御量設定階層530では、これら調停されたトルク要求値、効率要求値および空燃比要求値に基づいて各アクチュエータ7,8,…の制御量が設定される。
−制御量設定階層−
本実施形態では、制御量設定階層530に1つの調整変換部531が設けられ、まず、物理量調停階層520にて調停されたトルク要求値、効率要求値および空燃比要求値の大きさを調整する。前述のように物理量調停階層520ではエンジン1の実現可能範囲は調停に加味されていないため、各要求値の大きさによっては、エンジン1を適正に運転できない可能性がある。そこで、調整変換部531は、エンジン1の適正運転が可能になるように各要求値を相互の関係に基づいて調整する。
制御量設定階層530よりも上位の階層では、トルク要求値、効率要求値および空燃比要求値はそれぞれが独立に演算され、演算に関わる要素間で演算値が相互に使用されたり参照されたりすることはなかった。つまり、制御量設定階層530において初めてトルク要求値、効率要求値、空燃比要求値が相互に参照されることになる。調整対象はトルク要求値、効率要求値および空燃比要求値の3つに限定されるので、調整に要する演算負荷は小さくて済む。
前記の調整をどのように行なうかは設計に委ねられるものであって、本発明に関しては調整の内容に限定はない。但し、トルク要求値、効率要求値および空燃比要求値の間に優先順位がある場合には、より優先順位の低い要求値を調整(修正)するのが好ましい。例えば、優先順位が高い要求値は、できるだけそのままアクチュエータ7,8,…の制御量に反映し、優先順位が低い要求値は調整した上でアクチュエータ7,8,…の制御量に反映する。
こうすれば、エンジン1の適正運転が可能な範囲内で、優先順位が高い要求を十分に実現しつつ、優先順位が低い要求も或る程度は実現することができる。一例として、トルク要求値が最も優先順位が高い場合には、効率要求値と空燃比要求値とを修正し、そのうちより優先順位が低いほうの修正度合いを大きくする。エンジン1の運転条件等によって優先順位が変わるのであれば、共通信号配信系統から配信される共通エンジン情報に基づいて優先順位を判定し、どの要求値を修正するのか決定すればよい。
また、制御量設定階層530では、物理量調停階層520から入力される要求値と、共通信号配信系統から配信される共通エンジン情報とを用いて新たな信号を生成する。例えば、調停部521にて調停されたトルク要求値と、共通エンジン情報に含まれる推定トルクとの比が除算部(図示せず)にて演算される。推定トルクは、現在の吸入空気量および空燃比のもと点火時期をMBTとした場合に出力されるトルクである。推定トルクの演算は制御装置の別のタスクにて行なわれている。
詳しい説明は省略するが、前記のようにトルク要求値の優先順位が最も高い場合には、以上の処理の結果として制御量設定階層530において、トルク要求値、修正された効率要求値、修正された空燃比要求値、およびトルク効率が算出される。これらの信号のうちトルク要求値および修正された効率要求値からスロットル開度が算出(変換)されて、制御量調停階層540に伝達される。
具体的には、まず、修正された効率要求値でトルク要求値が除算される。修正された効率要求値は1以下の値なので、これによりトルク要求値を除算すれば、トルク要求値は嵩上げされることになる。こうして嵩上げされたトルク要求値が空気量に変換され、空気量からスロットル開度が演算される。なお、トルク要求値の空気量への変換、および空気量からのスロットル開度の演算は、予め設定したマップを参照して行われる。
また、点火時期については主にトルク効率から算出(変換)される。この際、トルク要求値や修正された空燃比要求値も参照信号として用いられる。具体的にはトルク効率からマップを参照して、MBTに対する遅角量が演算される。トルク効率が小さいほど遅角量は大きい値になり、結果、トルクダウンが行われることになる。前記のトルク要求値の嵩上げは、遅角によるトルクダウンを補償するための処理である。
本実施形態では、トルク効率に基づく点火時期の遅角と、効率要求値に基づいたトルク要求値の嵩上げとによって、トルク要求値と効率要求値の双方の実現を可能にしている。なお、前記のトルク要求値および修正された空燃比要求値は、トルク効率を遅角量に変換するためのマップの選定に用いられる。そして、遅角量とMBT(或いは基本点火時期)とから最終的な点火時期が演算される。
以上の処理の結果として、本実施形態において制御量設定階層530(調整変換部531)から制御量調停階層540に伝達される信号は、スロットル開度の要求値、点火時期の要求値および空燃比の要求値となる。これらの信号はそれぞれ、制御量調停階層540の調停部541,542,543に入力されて、詳しくは後述するが、要求発生階層510から直接的に伝達される他の要求値とともに調停される。
−制御量調停階層−
一例として図3に示すように制御量調停階層540には、要求の分類であるアクチュエータ7,8,…の制御量に対応して調停部541〜543(543a〜543i)が設けられている。図示の例では調停部541は、スロットル開度の要求値を集約して1つの要求値に調停する。また、調停部542は、点火時期の要求値を集約して1つの要求値に調停する。
さらに調停部543は、燃料噴射に関連する複数の制御量の要求値を一括して調停する。図示の例では調停部543は、インジェクタ21,22の動作を表す7つの噴射制御量をそれぞれ調停する第1〜第7の調停部543a〜543gと、低圧ポンプ24の吐出量(ポンプ制御量)を調停する第8の調停部543hと、高圧ポンプ25の吐出圧(ポンプ制御量)を調停する第9の調停部543iとが一体的に組み合わされた噴射機能調停部である。
このようにインジェクタ21,22、低圧ポンプ24、高圧ポンプ25といった複数のアクチュエータに関わる複数の制御量を互いに関連づけて一体的に調停するために、噴射機能調停部543は、例えば制御プログラムの同じ処理ステップにおいて9個の調停部543a〜543iの機能を実現するように構成されている。こうすると、インジェクタ21,22や燃料ポンプ24,25の制御量の調停の同時性を確保することができる。
前記の各調停部541〜543(543a〜543i)も、物理量調停階層520の各調停部521〜523と同様に、予め定められた規則に従って調停を行なう。その規則については設計に委ねられるもので、本発明に関しては規則の内容に限定はない。なお、制御量調停階層540にも共通信号配信系統から共通エンジン情報が配信されており、各調停部541〜543において共通エンジン情報を利用することができる。
以上の各調停部541〜543(543a〜543i)においてそれぞれ、各種要求の調停が行なわれて、制御量調停階層540からは個々のアクチュエータ7,8,…の制御量の要求値、即ちスロットル開度要求値と、点火時期要求値と、インジェクタ21,22の動作に関わる後述の7つの噴射制御量の要求値と、低圧ポンプ24の吐出量および高圧ポンプ25の吐出圧、即ち2つのポンプ制御量の要求値と、が出力される。
−制御出力階層−
制御量調停階層540の下位の階層である制御出力階層550では、前記のように調停された要求値からアクチュエータ7,8,…のそれぞれへの駆動信号が出力されて、出力される。図示の例では最下位の制御出力階層550には、前記制御量調停階層540から伝達される信号に対応して制御出力部551〜555が設けられている。制御出力部551(スロットル駆動制御部)には、前記スロットル開度の要求値の調停部541からスロットル開度要求値が伝達され、これに応じてスロットル駆動信号が出力される。
また、制御出力部552(イグナイタ通電制御部)には、前記制御量調停階層540の点火時期の要求値の調停部542から点火時期要求値が伝達され、これに応じてイグナイタ通電信号が出力される。制御出力部553(噴射弁駆動制御部であるインジェクタ駆動制御部)には、前記噴射機能調停部543の第1〜第7の調停部543a〜543gから噴射制御量の要求値が伝達され、これに応じてインジェクタ駆動信号が出力される。
さらに、制御出力部554(低圧ポンプ駆動制御部)には、噴射機能調停部543の第8の調停部543hから燃料の吐出量の要求値が伝達され、これに応じて低圧ポンプ駆動信号が出力される。制御出力部555(高圧ポンプ駆動制御部)には、噴射機能調停部543の第9の調停部543iから燃料の吐出圧の要求値が伝達され、これに応じて高圧ポンプ駆動信号が出力される。
なお、前記の制御出力部551,552におけるスロットル駆動信号やイグナイタ通電信号の出力などに際して、制御出力部553に伝達される噴射制御量の要求値のうち、後述する噴射モードの要求値が参照されて、これに含まれる識別数からエンジン1が例えば成層始動や触媒急速暖機などの特定の状態にあることが識別される。また、制御出力部553におけるインジェクタ駆動信号の出力に際しては、後述の如く制御出力部552において点火時期から決定される噴射モード確定限界が参照される。
−噴射機能要求の調停−
以下では、上述した制御量調停階層540におけるアクチュエータの制御量の調停について、特にインジェクタ21,22の動作に関わる噴射制御量など、噴射機能要求の調停について、図3の他に図4、5も参照して詳細に説明する。
まず、上述したように本実施形態の制御装置では、ドライバビリティ、排気ガスおよび燃費というエンジン1の基本的な機能要求をトルク、効率および空燃比という3種の物理量の組み合わせによって表現し、物理量調停階層520にて調停するようにしているが、燃料の噴射回数や各回の噴射時期、噴射割合(噴射量の割合)などはインジェクタ21,22の動作そのものの態様であるから、これを一旦、トルクや効率など物理量に変換して調停した上で再度、制御量を計算し直すというのでは余計な演算負荷が生じてしまう。
そこで、本実施形態では、上述したように制御量設定階層530の下位に制御量調停階層540を設けて、インジェクタ21,22の動作に関わる噴射制御量の要求値が物理量調停階層520を介さずに伝達され、調停されるようにしている。なお、詳しい説明は省略するが本実施形態では、燃料ポンプ24,25の動作に関わるポンプ制御量の要求値についても、同様に制御量調停階層540で調停される。
まず、図3に表れているように要求発生階層510には、エンジン1を適切に運転するために最小限、必要な基本的な噴射機能の要求を出力する要求出力部514を設けるとともに、例えばF/C前燃圧低減、触媒急速暖機、成層始動、S&S停止およびインジェクタ保護など、必要に応じて優先度の高い機能要求をそれぞれ出力する要求出力部515〜519も設けている。
これらの要求出力部514〜519からはそれぞれ要求が物理量ではなく、アクチュエータ7,8,…の制御量で表現された要求値として出力され、図3に示すように物理量調停階層520や制御量設定階層530を介さず、直接的に制御量調停階層540に伝達される。そして、これらの要求値が、上述したように制御量設定階層530から制御量調停階層540に伝達されるスロットル開度、点火時期および空燃比の要求値とともに各制御量毎に集約されて、制御量調停階層540の各調停部541〜543により制御量毎に1つの要求値に調停される。
具体的には、要求発生階層510の基本噴射機能の要求出力部514からの信号は、詳しくは図4も参照して後述するように7つの噴射制御量で表現されて、制御量調停階層540の噴射機能調停部543(図4を参照して後述する543b〜543dなど)へ伝達される。例えば、基本噴射機能要求としては、2つのインジェクタ21,22のそれぞれによる燃料の噴射回数(噴射モード)や各回の噴射時期、噴射割合などが挙げられる。
一例として、基本噴射の要求出力部514a(図4を参照)からは、エンジン1の所定運転領域において、燃料噴霧の分散性を高めて良好な混合気形成を促進すべく、いわゆるマルチ噴射(筒内噴射用およびポート噴射用の両方のインジェクタ21,22を動作させて、1回の燃焼サイクル中に複数回に分けて行う燃料噴射)のための噴射時期などの要求値が出力される。
なお、本実施形態では要求出力部514に、部品保護やノック防止などのための燃料の増量要求を出力する要求出力部514b〜514dが含まれている。詳しくは後述するが、このように燃料は増量するものの噴射モードなどは変更しない要求については、以下に述べる触媒急速暖機などのように噴射モードも変更する要求に比べると、混合気の燃焼性に及ぼす影響は小さいので、基本噴射機能の要求出力部514に含めている。
前記要求出力部514からの信号と同じように、F/C(燃料カット)前の燃圧低減の要求出力部515からの信号も噴射機能調停部543へ伝達される。これは、エンジン1の燃料カット制御が行われている間に高圧燃料用デリバリパイプ20内の燃料の温度が上昇して、その圧力(燃圧)が高くなり過ぎることがないように、予め燃料カット制御を開始する直前に筒内噴射用インジェクタ21を動作させ、少量の燃料を噴射させる制御である。そのために、要求出力部515からは筒内噴射用インジェクタ21を動作させるような要求値の信号が出力されて、制御量調停階層540の調停部543に伝達される。
一方、触媒急速暖機の要求出力部516および成層始動の要求出力部517からの信号はそれぞれ、制御量調停階層540のスロットル開度の要求値の調停部541と、点火時期の要求値の調停部542と、噴射機能調停部543とへ伝達される。触媒17の急速暖機というのは、エンジン1の冷間始動後などに最短時間で触媒17を暖機するために、排気温を最大限に上昇させる特殊な制御を行うことである。
具体的には、例えば、排気の昇温のために点火時期をTDC以後まで遅角させるとともに、スロットルバルブ8を開いて空気量を増大させ、排気熱量を可及的に増大させる。また、圧縮行程での燃料噴射時期を遅角させて、点火プラグ6の周りの混合気濃度を高める。そのために、要求出力部516からはスロットル開度を増大させる要求値、点火遅角の要求値、圧縮行程噴射の要求値および燃圧上昇の要求値の信号が出力される。
また、成層始動というのは、始動時間の短縮とスムーズなエンジン回転の立ち上がりとを両立するために、成層燃焼状態で始動する制御であり、筒内噴射用インジェクタ21により気筒2の圧縮行程で燃料を噴射させる(ポート噴射用インジェクタ22からも燃料を噴射させるようにしてもよい)。そのために要求出力部517からもスロットル開度や点火遅角の要求値とともに、圧縮行程噴射の要求値および燃圧上昇の要求値の信号が出力される。
さらに、S&S停止の要求出力部518からの信号も調停部541〜543へ伝達される。S&S停止というのは、自動車の停車に伴い所定の条件下でエンジン1の運転を自動停止させるアイドリングストップ制御のことであり、要求出力部518からはエンジン1の停止時の振動を抑制するためのスロットル閉の要求値と、点火を停止させる要求値と、燃料噴射および低圧ポンプ24の動作をそれぞれ停止させる要求値と、がそれぞれ出力される。
また、インジェクタ保護の要求出力部519からの信号は調停部543のみへ伝達される。この例ではインジェクタ保護の要求として具体的に、筒内噴射用インジェクタ21のOリングの保護のために、高圧燃料用デリバリパイプ20内の燃料圧力(燃圧)を低下させるようにしており、そのために要求出力部519からは高圧ポンプ25の吐出圧を低下させる要求値が出力される。
なお、本実施形態では、前記のように物理量調停階層520を介さずに制御量調停階層540に伝達される要求出力部514〜519からの信号に、予め優先順位が設定されており、以下に説明するように、その優先順位に基づいて調停が行われる。具体的な優先順位については設計に委ねられるもので特に限定はないが、一例として要求出力部515〜519からの要求は、要求出力部514からの基本噴射機能の要求よりも優先順位が高く設定されている。
−噴射制御量の調停−
以下では主に図4を参照して、噴射機能調停部543における噴射制御量の調停について詳しく説明する。上述したように噴射機能調停部543には、インジェクタ21,22の動作を表す7つの噴射制御量をそれぞれ調停する第1〜第7の調停部543a〜543gと、燃料ポンプ24,25の動作を表すポンプ制御量を調停する第8、第9の調停部543h,543iとが設けられ、それら噴射制御量とポンプ制御量とを一括して調停するようになっている。
第1の調停部543aは、噴射制御量の1つとして噴射モード、即ちインジェクタ21,22のそれぞれによる燃料の噴射回数を調停する。具体的に第1の調停部543aには要求発生階層510の要求出力部515〜518のそれぞれから、即ち、燃圧低減、触媒急速暖機、成層始動、S&S停止のそれぞれの要求に対応する噴射モードとして、少なくともインジェクタ21,22のそれぞれの噴射回数を含む信号が伝達される。
この噴射モードの信号には要求を識別して優先順位を表す数の情報も含まれており、例えば、エンジン1の通常運転(通常の自動車において最も使用頻度の高い、エンジン1のいわば定格の運転)の状態における基本噴射機能の要求は、ポート噴射用インジェクタ22のみ1回、噴射させる(ポート1回噴射)基本モードであり、このモードを識別する数を「1」とすれば、要求値は(101)という3桁の数になる。
また、通常の運転状態でも筒内噴射用インジェクタ21のみ1回、噴射させる(筒内1回噴射)場合の要求値は(011)になり、筒内噴射用およびポート噴射用のインジェクタ21,22を1回ずつ噴射させる(ポート1回+筒内1回噴射)マルチ噴射の場合は(111)になる。さらに、S&S停止などの要求に応じて燃料噴射を停止させる場合、その識別数を「0」とすれば、噴射モードの要求値は(000)となる。
なお、本実施形態では制御処理の簡略化のために、基本噴射機能の要求出力部514からは噴射モードの要求値の信号が伝達されないようにしている。すなわち、基本噴射機能の要求に対応する前記基本モード(101)は予め噴射機能調停部543に設定されており、要求出力部514からは伝達されない。他の要求出力部515〜519から噴射モードの要求値の信号が伝達されない場合に、前記基本モードが採用される。
前記第1の調停部543aと同様に第2の調停部543bは、噴射制御量の1つとしてインジェクタ21,22のそれぞれによる燃料の噴射時期(噴射開始時期)を調停する。第2の調停部543bには、要求発生階層510の要求出力部514(514a),516,517からそれぞれ、基本噴射、触媒急速暖機、成層始動のそれぞれの要求に対応する噴射時期の要求値として、各インジェクタ21,22のそれぞれの噴射開始時期を表す数値の組の信号が伝達される。
例えば、前記のように筒内噴射用インジェクタ21を1回と、ポート噴射用インジェクタ22を1回との都合、2回の噴射を行うのであれば、その各回の噴射の開始時期をクランク角で表現した数値の組の信号が伝達される。そして、前記第1の調停部543aと同様に予め定められた規則に従って調停が行われる。なお、噴射時期の要求値は、噴射モードで表された各回の噴射に順番に割り当てられるので、筒内噴射用インジェクタ21とポート噴射用インジェクタ22とを区別しなくてよい。
また、第3の調停部543cは噴射制御量の1つとして、エンジン1の始動時におけるインジェクタ21,22のそれぞれによる燃料噴射量を調停する。第3の調停部543cには、要求発生階層510の要求出力部514(514a),517からそれぞれ、基本噴射および成層始動のための噴射要求に対応する各回の燃料噴射量を表す数値の組の信号が伝達される。
一例として成層始動のために筒内噴射用インジェクタ21を1回と、ポート噴射用インジェクタ22を1回との都合、2回の噴射を行うのであれば、その各回の噴射量を表す数値の組の信号が伝達される。また、寒冷地などで均一燃焼状態で始動する場合は、ポート噴射用インジェクタ22による1回分の燃料噴射量の数値が伝達される。そして、前記第1、第2の調停部543a、543bと同様に予め定められた規則に従って調停が行われる。
このように始動時の燃料噴射量を運転状態と分けて調停するのは、始動時に気筒2への空気の充填量を精度良く算出することができないからである。エンジン1の運転中は、後述するように空気充填量と目標空燃比とから燃料噴射量を算出するが、始動時には空気の充填量を精度良く算出できないので、燃料噴射量は予め適合した値を設定しておかなくてはならない。そこで、成層燃焼での始動や均一燃焼での始動など、始動時のエンジン1の状態にマッチした燃料噴射量を予め設定しておき、その中から選択(調停)する。
第4の調停部543dは噴射制御量の1つとして、前記のような始動制御の完了を判定する基準値についての調停を行う。第4の調停部543dには、要求発生階層510の要求出力部514(514a),517から、均一燃焼の始動および成層始動のそれぞれの場合の始動完了判定の数値の信号が伝達される。そして、予め定められた規則に従って調停が行われる。
例えば、基本噴射による均一燃焼での始動の場合は、予め設定されているエンジン回転数(始動完了判定値)以上になれば始動完了と判定するが、成層始動の場合は比較すれば発生するトルクが小さいので、より高いエンジン回転数になってから始動完了と判定するように、判定回転数の選択(調停)が行われる。また、ハイブリッド自動車の場合、電動モータで走行しながらエンジンを始動することがあるので、さらに高い回転数になってから始動完了と判定するようにしてもよい。
第5の調停部543eは、噴射制御量の1つとして、エンジン1の運転中におけるインジェクタ21,22のそれぞれによる燃料噴射量の割合、即ち噴き分け率を調停する。第5の調停部543eには、要求発生階層510の要求出力部516,517からそれぞれ、触媒急速暖機および成層始動の要求に対応する噴き分け率の要求値として、各インジェクタ21,22による各回の噴射割合を表す数値の組の信号が伝達される。
一例として筒内噴射用インジェクタ21を2回と、ポート噴射用インジェクタ22を1回との都合、3回の噴射を行うのであれば、その噴射の順番にポート噴射の1回と筒内噴射の最初の1回とのそれぞれの噴射割合(例えば40%、40%)の要求値が伝達され、予め定められた規則に従って選択(調停)される。
なお、筒内噴射の2回目については残りの噴射割合(例えば20%)が割り当てられる。また、本実施形態では基本噴射機能の要求出力部514からは、噴き分け率の要求値の信号は伝達されない。基本噴射機能の要求に対応する噴き分け率は、基本モードによる1回のポート噴射に対応する基本値(即ち100%)が、図4に示すように噴射機能調停部543に予め記憶されている。
第6の調停部543fは、噴射制御量の1つとして、燃料の総噴射量の補正係数を調停する。すなわち、本実施形態では基本噴射機能の要求出力部514に、基本噴射の要求以外に部品保護、ノック防止および未寄与分の補正などのための燃料増量補正係数の要求値をそれぞれ出力する要求出力部514b〜514dが含まれている。これらの要求値(信号)は増量プレ調停部543jに伝達されて、予め定められた規則に従って選択(プレ調停)される。
こうしてプレ調停されて、増量プレ調停部543jから出力される噴射量補正係数の要求値が第6の調停部543fに伝達される一方、図4の例では、要求出力部516からも触媒急速暖機のための噴射量補正係数の要求値が第6の調停部543fに伝達され、予め定められた規則に従って調停される。このように分けて調停するのは、それぞれの調停に好適なロジックが異なっているからである。
すなわち、部品保護やノック防止などのようにプレ調停する要求(第1種の要求)は、燃料の総噴射量は変更するものの噴射モードなどは変更しない要求であり、一方、触媒急速暖機などの要求(第2種の要求)では、燃料の総噴射量だけでなく噴射モードも変更するので、気筒2内の混合気の燃焼性に及ぼす影響が大きい。そこで、前記のように増量プレ調停部543jにおいて前記第1種の要求に好適なロジックで噴射量補正係数を調停した上で、第6の調停部543fにおいて前記第2種の要求に好適なロジックで噴射量補正係数を調停するのである。
第7の調停部543gは、噴射制御量の1つとして、筒内噴射用インジェクタ21により気筒2の圧縮行程で燃料を噴射する場合の上限値、即ち圧縮噴射上限値の調停を行う。すなわち、気筒2の圧縮行程での燃料噴射量が多くなり過ぎると、混合気の濃度の偏りが大きくなってしまい、例えば点火プラグの周りが過濃になって燃焼状態が悪化することがある。
そこで、一例として第7の調停部543gには、要求出力部516から触媒急速暖機制御の際の筒内噴射用インジェクタ21による圧縮行程での燃料噴射量の上限値の信号が伝達され、また、要求出力部517からは成層始動の際の圧縮行程での燃料噴射量の上限値の信号が伝達される。そして、予め定められた規則に従って選択(調停)される。
なお、本実施形態では基本噴射機能の要求出力部514からは、圧縮行程での燃料噴射量の上限値の信号は伝達されない。基本噴射機能の要求に対応する噴射モードは基本モードであって、筒内噴射用インジェクタ21による燃料の噴射は行われないからである。図4に示すように噴射機能調停部543には便宜上、基本値(最大値)が予め記憶されている。
以上のように、7つの噴射制御量が同時性を保って、言い換えると互いに関連づけて一体として調停されることで、エンジン1の運転中および始動時における各種要求に対して好適なインジェクタ21,22の動作制御を実現可能になる。なお、第1〜7の調停部543a〜543gが、インジェクタ21,22の動作に関する噴射制御量の調停を行う噴射制御調停部を構成している。
−インジェクタ駆動信号の出力−
前記のように第1〜7の調停部543a〜543gでそれぞれ調停された噴射モードや噴射時期など噴射制御量の要求値は、図5に示すように制御出力階層550の制御出力部553に伝達され、ここにおいてインジェクタ21,22の駆動信号が出力される。本実施形態のように自動車に搭載されたエンジン1では、走行状態やドライバの運転操作などに応じて要求が時々刻々と変化し、これに応じて噴射制御量の要求値も常に変化することになる。
このように変化する要求を常に反映するように、インジェクタ21,22は噴射制御量の最新の要求値に応じて駆動するのが好ましいが、要求値の信号が制御出力部553に伝達されるタイミングによっては、要求値そのままでは採用できない場合がある。例えば、マルチ噴射における最初(1回目)の噴射の時期や分量などが確定した後に要求値が変化した場合、この最新の要求値に従って次回(同一燃焼サイクルにおける2回目)以降の噴射の時期や分量などを変更すると、既に確定している前記最初の噴射とのバランスが崩れる懸念がある。
そこで、本実施形態の特徴として制御出力部553は、噴射制御量の要求値が変化した場合に、その変化後の要求値をどの程度、実現できるか考慮してインジェクタ21,22の駆動信号を出力するようにしている。すなわち、図5に示すように制御出力部553には、第1および第2の調停部543a,543bから伝達される噴射モードおよび噴射時期の要求値が変化する都度、その時点における変化後の要求値の実現性に応じて、変化の前後少なくとも一方の要求値から噴射モードなどを仮に確定し、この要求値を記憶する噴射モード確定部553aが設けられている。
なお、実際には第1および第2の調停部543a,543bからの噴射モードおよび噴射時期の要求値は、所定時間(例えば8msec)の制御周期毎にECU500のRAM503に書き込まれて更新されており、前記噴射モード確定部553aは、所定クランク角(例えば30CA)の制御周期毎に前記の要求値をRAM503から読み出すようになっている。こうして噴射モード確定部553aにより要求値の読み出される時点が、要求値の伝達される時点である。
また、図5に示すように制御出力部553には、前記の仮に確定されている噴射モードを最終的に確定(本確定)するタイミングの判定部553bが設けられている。このタイミング判定部553bは、仮確定されている噴射モードにおける最初の噴射開始に間に合う最遅角時期(以下、噴射モード確定限界という)になったか否かを判定する。なお、噴射モード確定限界は、制御出力部552において点火時期の要求値に基づき、イグナイタ7の通電時間や制御の遅れなども考慮して、燃料噴射時期を確定しなくてはならない最遅角のタイミングとして算出される。
その噴射モード確定限界を参照してタイミング判定部553bは、エンジン1の各気筒2毎のインジェクタ21,22による複数回の噴射のうち、最初の噴射について、その噴射時期を確定すべきタイミングか否か判定する。そして、噴射時期を確定すべきと判定すれば、後述するように噴射モード確定部553aにおいて噴射モードおよび最初の噴射の時期が確定(本確定)される。なお、タイミング判定部553bは2回目以降の噴射についても、その噴射時期を確定すべきタイミングか否か判定する。
そうして確定された噴射モードなどに基づいて噴射量算出部553cが、インジェクタ21,22の各回の燃料噴射量を算出する。すなわち、図5に表れているように噴射量算出部553cには、噴射機能調停部543の第5〜7の調停部543e〜543gからそれぞれ噴き分け率、噴射量補正係数および圧縮噴射上限の要求値が伝達され、これらの要求値に基づいて前記の確定した噴射モードにおける各回の燃料の噴射量が算出される。
なお、実際は、前記噴き分け率や噴射量補正係数などの要求値もRAM503に書き込まれて更新されており、噴射量算出部553cによって読み出される。噴射量算出部553cは、空燃比の目標値(基本値として予め理論空燃比が設定されている)と、気筒2内への空気の充填量(共通エンジン情報に含まれている)と、噴き分け率とから各回の燃料の噴射量を算出する。また、噴射量算出部553cは、必要に応じて噴射量補正係数を用いて、燃料噴射量を補正するとともに圧縮行程での噴射についてはその噴射量を上限値までに制限する。
そうして算出された噴射量の要求値と、噴射機能調停部543の第3の調停部543cからの始動時の燃料噴射量の要求値とが、制御出力部553の噴射量選択部553dに入力されて、いずれかの要求値が選択される。すなわち、噴射機能調停部543の第4の調停部543dから伝達される始動完了判定値(例えばエンジン回転数)に基づいて、これよりも実際のエンジン回転数(共通エンジン情報に含まれている)が低ければ始動時の燃料噴射量が選択される一方、実際のエンジン回転数の方が高くなれば、前記のように噴射量算出部553cによって算出された燃料噴射量が選択される。
このようにして選択された燃料噴射量の要求値と、現在の燃圧(共通エンジン情報に含まれている高圧燃料用デリバリパイプ20および低圧燃料用デリバリパイプ23の燃圧)と、各インジェクタ21,22の流量係数とに基づいて、噴射パルス算出部553eにより、それぞれのインジェクタ21,22による各回の燃料噴射期間、即ち噴射パルス巾が算出される。こうして算出されたパルス巾のインジェクタ駆動信号がインジェクタ21,22へ出力される。
−噴射モードの確定−
次に本実施形態の特徴部分として、前記噴射モード確定部553aにおける噴射モードなどの確定について図6も参照して詳細に説明する。前記したように噴射モード確定部553aでは、RAM503から読み出す噴射モードおよび噴射時期の要求値が変化する都度、その時点において変化後の要求値をどの程度、実現できるかを考慮し、また、噴射モードが変化したか、噴射時期が変化したかも考慮して要求値を確定(仮の確定を含む)する。
すなわち、変化後の要求値そのままにインジェクタ21,22を駆動できるのであれば、この要求値に基づいてインジェクタ駆動信号を出力すればよいが、要求値を読み出すタイミングによっては、例えば最初の噴射が既に開始されていたり、その開始時期までに燃圧を十分に昇圧させることができなかったりして、次に燃料を噴射供給すべき気筒2への最初の噴射に間に合わないことがある。
この場合、本実施形態では主に噴射モードが変化しているか否かに着目して、要求値の確定の仕方を変えるようにしている。すなわち、噴射制御量の要求値の中で噴射モードが変化している場合には、混合気の形成過程や燃焼性に比較的大きな変化があると考えられるので、最初の噴射開始に間に合うのであれば主に変化後の要求値に基づいて、また、間に合わないのであれば主に変化前の要求値に基づいて、インジェクタ21,22の駆動信号を出力する。
一方、変化後の要求値において噴射モードが変化しておらず、噴射時期や噴き分け率などが変化している場合は、その時点で1回の燃焼サイクルにおける最初の噴射に間に合うか否かに依らず、噴射時期や噴き分け率の変化を噴射制御に反映させるように、その変化後の要求値に基づいてインジェクタ21,22駆動信号を出力する。
より具体的には図6に、噴射モードの要求値と、インジェクタ21,22のそれぞれの最初の噴射時期(ポート噴射時期および筒内噴射時期)の要求値との変化に応じて、エンジン1の各気筒2毎の噴射モードおよび噴射時期が確定される様子を示す。上述したように噴射時期についてはポート噴射、筒内噴射の区別はなく、噴射モードに定められた各回の噴射に順に割り当てられるが、図6には説明の便宜上、要求値をポート噴射時期および筒内噴射時期と区別して表している。
また、本実施形態の直列4気筒エンジン1の点火順は、♯1、♯3、♯4、♯2であり、各気筒2のクランク角はその圧縮上死点TDCを基準として、互いに180CAずれている。図の例では、各気筒2毎にTDCから進角側に720CAまでの1燃焼サイクルをB0〜B720と表している。なお、図に階段状に表しているのは、クランクポジションセンサ301からの出力信号に基づく30CAクランクカウンタの値である。
同図に表れているように、まず、時刻t1では、噴射モードの要求値が(011)から(101)に変化するとともに、筒内噴射時期がB310からB290に変化しており、一方、ポート噴射時期はB530のまま変化していない。そして、その変化した噴射モードが時刻t2(♯1気筒2のクランク角B420、♯3気筒2のクランク角B600)において噴射モード確定部553aにより読み出される。
この時点、即ち噴射モードの要求値が変化した時刻t2で最初の噴射の開始時期(ポート噴射時期B530)が♯1気筒2については既に過去になっていて、噴射開始に間に合わない(実行不能)。そこで、♯1気筒2については変化前の噴射モード(011)およびその最初の噴射時期B310が確定される(仮確定であり、図には破線で示す)。一方、♯3気筒2のクランク角はB600であり、最初の噴射開始(ポート噴射時期B530)に間に合うので、ここでは変化後の噴射モード(101)およびその最初の噴射時期(ポート噴射時期B530)が仮確定される。
次に時刻t3で噴射モードの要求値が(101)から(111)に変化し、ポート噴射時期がB530からB500に変化すると、この変化した噴射モードが時刻t4(♯1気筒2のクランク角B360、♯3気筒2のクランク角B540、♯4気筒2のTDC)において噴射モード確定部553aによって読み出される。この時点でも最初の噴射開始(ポート噴射時期B500)は♯1気筒2については既に過去であるから、変化前の噴射モード(011)およびその最初の噴射時期B310が再び仮確定される。
一方、♯3気筒のクランク角はB510であり、最初の噴射開始(ポート噴射時期B500)に間に合うので、再び変化後の噴射モード(111)および最初の噴射時期(ポート噴射時期B500)が仮確定される。また、TDCにある♯4気筒2も最初の噴射開始(B500)に間に合うので、変化後の噴射モード(111)およびその最初の噴射時期が仮確定される。
そして、時刻t5になるとB330の♯1気筒2は、仮確定している噴射モード(011)の最初の噴射時期(筒内噴射時期B310)から噴射モード確定限界となり、この噴射モード(011)と最初の噴射時期とが本確定される(実線で示す)。また、B510の♯3気筒2でも仮確定している最初の噴射時期(ポート噴射時期B500)が噴射モード確定限界になって、噴射モード(111)と最初の噴射時期とが本確定される。なお、この時点では♯3気筒2の2回目の噴射時期は仮確定のままである。
次に時刻t6では、噴射モードの要求値が(111)で変化しないままポート噴射時期のみB500からB530に変化し、これを受けて時刻t7では、B660の♯4気筒2の噴射モード(011)はそのままに最初の噴射時期(ポート噴射時期B500)だけがB530へと変化する(仮確定)。時刻t8では、噴射モードは(111)のままポート噴射時期がB530からB570に変化し、これを受けて時刻t9では、B570の♯4気筒2の噴射モード(011)はそのままに最初の噴射時期(ポート噴射時期B570)になったことから、その噴射モードおよび最初の噴射時期が直ちに本確定される。
さらに、時刻t10では、噴射モードの要求値が(111)で変化しないまま筒内噴射時期のみB290からB320に変化し、これを受けて時刻t11では、B330の♯3気筒2の2回目の噴射時期がB320に変化し、且つこの2回目の噴射開始ぎりぎりなので、直ちに本確定される。つまり、2回以上の噴射を行う♯3気筒2においては、最初の噴射および2回目の噴射のそれぞれの時期がぎりぎりのタイミングで本確定される。
なお、前記の時刻t11ではB510の♯4気筒2においても2回目の噴射時期がB320に変化して仮確定されており、また、B690の♯2気筒2においても2回目の噴射時期がB320に変化して仮確定されている。
以上のように本実施形態では、エンジン1の運転中に制御量調停階層540の噴射機能調停部543から伝達される噴射制御量の要求値が変化した場合に、そのうちの噴射モードが変化しているか否かによって、要求値の確定の仕方が異なるものとなる。すなわち、噴射モードが変化している場合は、その最初の噴射を要求通り実行できれば、即ち、変化した要求値そのままにインジェクタ21,22を駆動できるのであれば、変化後の要求値が確定される。この要求値に基づいてインジェクタ駆動信号を出力することで、燃料の噴射制御に最新の要求を好適に反映させることができる。
一方、噴射モードの最初の噴射に間に合わないなど、変化した要求値そのままにはインジェクタ21,22を駆動できないのであれば、次回以降の噴射の時期や分量だけを変更すると、最初の噴射とのバランスが崩れる虞があるので、この場合は変化前の要求値を確定する。この要求値に基づいてインジェクタ駆動信号を出力することで、燃焼状態の悪化を回避することができる。なお、この場合でも、次回または次々回の燃焼サイクルでは、変化後の要求値に基づいてインジェクタ駆動信号が出力される。
また、噴射制御量の要求値のうち噴射モードは変化せず、噴射時期や噴き分け率などが変化している場合は、この変化を反映させても混合気の燃焼性に及ぼす影響は大きくないと考えられる。そこで、その時点で最初の噴射に間に合うか否かに依らず、各回の噴射については変化後の要求値を確定し、この要求値に基づいてインジェクタ駆動信号を出力することで、より最新の要求を燃料の噴射制御に反映させることができる。
しかも、前記のように要求値の変化に応じて仮確定を繰り返し、その最初の噴射を実行可能なぎりぎりのタイミング(噴射モード確定限界)で噴射モードなどを本確定するとともに、2回目以降の各回の噴射についても実行可能なぎりぎりのタイミングまで待って本確定するようにしており、このことによってもインジェクタ21,22の駆動制御に最新の要求を反映させることができる。
−気筒別燃料カット制御からの復帰−
次に、燃料カット制御から復帰する場合について図7〜9を参照して説明する。この実施形態のエンジン1では、必要に応じて4つの気筒2のうち1つ以上の燃焼を中断する、いわゆる燃料カット(F/C)制御が行われ、この気筒2の燃焼を再開する復帰時には、最初に燃料噴射を再開する気筒2への最初の燃料噴射の時期をできるだけ遅角側に設定することによって、迅速な復帰が図られている。
すなわち、F/C制御中の気筒2の燃焼を再開させる要求が伝達されてきたとき、この気筒2が既に噴射モード確定限界を過ぎていると、次の燃焼サイクルまでは燃料を噴射することができない。そこで、最初に復帰する気筒2の噴射時期はできるだけ遅角側に設定することで、噴射できる可能性を高めるようにしている。具体的には噴射時期は、例えばB240くらいにして、気筒2の吸気行程の半ばから圧縮行程の半ばにかけて燃料を噴射するようにしている。
但し、このように最初に復帰する気筒2の噴射時期を遅角側に設定していると、これがさらに少しでも遅角したときには、点火までの燃料噴霧の蒸発が不十分になってしまい、混合気の燃焼性が悪化して失火に至る虞もある。つまり、F/C制御から最初に復帰する気筒2では噴射時期を厳守する必要があり、少しでも遅角させることはできない。
そこで、本実施形態ではF/C制御からの復帰の際に噴射モードの要求値が(000)から(011)や(101)に変化した時点で(噴射開始を要求するものに変化した時点で)、最初にF/C制御から復帰する気筒2において最初の噴射が間に合うのであれば、インジェクタ駆動信号を出力する一方、最初の噴射が間に合わないのであれば、この噴射要求に対するインジェクタ駆動信号は出力しないようにしている。
具体的に図7に示す例では、♯1〜♯3の3つの気筒2でF/C制御中であり、♯4気筒2は燃焼中の気筒別F/C制御が行われており、時刻t1で♯1〜♯3の3つの気筒2について復帰要求が出されている(F/C要求OFF)。この時刻t1では、最初に点火時期を迎える♯3気筒2のクランク角がB60で噴射時期B240は既に過去になっているので、この♯3気筒2への燃料噴射は実行されない(図には破線で"INJ"と示す)。
すなわち、4つの気筒2のうち最初にF/C制御から復帰する♯3気筒2においては、最初の噴射に間に合わないので、燃焼状態の悪化を防ぐためにインジェクタ21,22の駆動は行わない。一方、前記の時刻t1においてB240の♯4気筒2は元々、燃焼中であり、復帰気筒ではないので、直ちに変化後の噴射モードおよびその最初の噴射時期B240が確定され、燃料噴射が実行される(図に実線で"INJ"と示す)。
そうして要求値が変化した時刻t1の直後に噴射時期の要求値はB240からB270に変化する。前記のように噴射時期を遅角側に設定する目的は初爆を早めるためであり、これは最初に復帰する気筒2だけでよいので、2番目以降に復帰する気筒2では、より早く空気との混合を促進して燃焼状態が良くなるように、噴射時期を進角させるのである。そして、時刻t2においてB270になった♯2気筒2では噴射モードなどが確定されて、燃料噴射が実行される。
次に図8に示す例では、♯1,♯3の2つの気筒2でF/C制御中であり、♯2,♯4の2つの気筒2は燃焼中の気筒別F/C制御が行われている。そして、時刻t1で♯1,♯3の2つの気筒2について復帰要求が出されるとともに、♯4気筒2についてはF/C要求が出されている。この時刻t1でB60の♯3気筒2では、前記図7の例と同じく燃料噴射は行われず、F/C要求が出された♯4気筒2でも燃料噴射は行われない。♯2気筒2は元々、燃焼中であり、時刻t2においてB270になると燃料噴射が行われる。
次に図9に示す例では、♯1〜♯3の3つの気筒2でF/C制御中であり、♯4気筒2のみ燃焼中の気筒別F/C制御が行われている。そして、時刻t1で♯1,♯3の2つの気筒2に復帰要求が出されるとともに、♯4気筒2にはF/C要求が出されている。この時刻t1でB60の♯3気筒2では、前記の例と同じく燃料噴射は行われず、F/C要求が出された♯4気筒2でも燃料噴射は行われず、F/C制御中の♯2気筒2でも燃料噴射は行われない。♯1気筒2は元々、燃焼中であり、時刻t2においてB270になると燃料噴射が行われる。
このように気筒別F/C制御からの復帰の際は、最初に復帰する気筒2では噴射時期をできるだけ遅角側に設定するとともに、その噴射時期を厳守する一方、それ以降に復帰する気筒2では噴射時期を進角させるとともに、噴射時期を厳守できなくても燃料噴射は行うことで、いわゆる噴射抜けを防止することができる。これにより燃焼状態の悪化を抑制しつつ、迅速な復帰が可能になる。
−エンジン始動時−
次に、エンジンの始動時について図10を参照して説明する。なお、説明の便宜上、図1を参照して上述した直列4気筒エンジン1ではなく、V型8気筒エンジンに本発明を適用した例について説明する。このV型8気筒エンジンの2つのバンクにはそれぞれ4つの気筒が並び、各バンクにおける気筒内のピストンや動弁系、燃料噴射系などの構造は概ね直列4気筒エンジン1と同じであって、制御系統も同様に構成されているので、対応する部材には同じ符号を付する。
まず、エンジンの始動時には、クランクシャフト5の回転(クランキング)によって点火順を迎える複数の気筒2へ順番に燃料の供給を開始する。この場合、前記したF/C制御からの復帰時と同じく、最初に燃料を噴射する気筒2への噴射時期は遅角側に設定することで、実際に噴射を実行できる可能性が高くなって始動の迅速化につながる。具体的には、クランキング回転数が低回転(例えば200〜400rpm)であることを考慮して、噴射時期は例えばB150くらいに設定している。
そして、前記したF/C制御からの復帰時と同じく、噴射モードの要求値が(000)から例えば(013)など噴射開始の要求値に変化した時点で(噴射開始を要求するものに変化した時点で)、この変化後の要求値における最初の噴射が間に合う気筒2から順に、インジェクタ21,22の駆動信号が出力される。
言い換えると、始動時のクランキングによって点火順を迎える♯1〜♯8の8つの気筒2のうち、前記のように遅角側に設定された噴射時期に最初の噴射が間に合うものの中で最も早く点火順を迎える気筒2に、最初に燃料を噴射する。こうして始動時の噴射要求に無理なく応えられる気筒2を選んで、順に燃焼を開始させることによって、燃焼性の悪化を招くことなく始動の迅速化が図られる。
図10には、前記の図7〜9と同様に噴射時期の要求値が変化した場合に、これに応じて♯1〜♯8の各気筒2で燃料噴射が行われる様子を模式的に示すとともに、併せてイグナイタ7への通電開始時期や噴射モード確定限界の変化なども示している。なお、V型8気筒エンジンの点火順は便宜上、♯1、♯2、…としており、各気筒2のクランク角は、その圧縮上死点TDCを基準として互いに90CAずれている。
図10に表れているように、まず、始動時のクランキングによって時刻t1でエンジン回転数Neが所定値になる。このとき、噴射時期の要求値は前記の如くB150とされ、通電開始時期はB30、噴射モード確定限界はB40にそれぞれ設定されている。時刻t2では、カムポジションセンサ302からの信号に基づいてクランク角が仮に確定され、10CAクランクカウンタのカウントアップが開始される。
前記10CAクランクカウンタは、クランキングの初期にカムポジションセンサ302からの信号に基づいて10CAずつカウントアップされるものである。すなわち、始動時にクランクシャフト5が回転を初めてから暫くの間、シグナルロータ301aの欠歯部がクランクポジションセンサ301を通過するまでは、基準となるクランク角位置が分からないので、クランク角が正確でない可能性がある。そこで、この間はカムポジションセンサ302からの信号に基づく10CAクランクカウンタを用いるのである。
本実施形態では、10CAクランクカウンタおよび30CAクランクカウンタの双方がECU500のクランク角計数部(図示は省略)によってカウントされるが、10CAクランクカウンタの値には吸気カムシャフト15やスプロケット、タイミングチェーンなどの組み付け誤差が含まれており、30CAクランクカウンタに比べて精度が低いので、気筒2への点火制御の開始は30CAクランクカウンタが確定するまで待たなくてはならない。
そこで、エンジンの始動時には、まず、10CAクランクカウンタの信号に基づいて30CAクランクカウンタの確定するであろう時期を予測し、この時期以降に最初に点火可能になる気筒2から順に噴射モードや噴射時期などを確定してゆく。前記したように始動の際、最初の噴射時期の要求値はB150に設定され、噴射モード確定限界はB40に、イグナイタ7への通電開始時期はB30に、それぞれ設定されている。
すなわち、通電開始時期は本来、点火時期から通電時間分を遡ったものとして設定され、さらに所定時間だけ遡った時点が噴射モード確定限界として設定されるが、前記のように始動時には暫くの間、30CAクランクカウンタが確定せず、クランク角の変化と時間との対応関係が不確かになるので、予めB30、B40にそれぞれ設定することによって初爆の遅れを防止するのである。なお、クランキング中はエンジン回転数Neが低いので、B30に通電を開始すれば点火コイルへの充電時間は十分である。
図10に戻って、前記の時刻t2で10CAクランクカウンタが確定し、そのカウントアップが開始されると、まず、最初に点火順を迎える♯6気筒2については噴射モード確定限界(B40)以前であるが、噴射時期(B150)が既に過去になっているので、変化前の(エンジン停止中の)噴射モード(000)が確定される。よって、図に破線で"INJ"と示すように♯6気筒2への燃料噴射は行われない。
また、時刻t2においては、2番目に点火順を迎える♯7気筒2では噴射開始(B150)に間に合うものの、イグナイタ7への通電開始時期(B30)が、予測される30CAクランクカウンタの確定以前になるので、この♯7気筒2についても変化前の(エンジン停止中の)噴射モードが確定され、燃料噴射は行われない(B30における点火も行われないことを図に破線で"IG"と示す)。
一方、3番目に点火順を迎える♯8気筒2は、前記♯7気筒2と同じく噴射開始(B150)に間に合うだけでなく、通電開始時期(B30)も、予測される30CAクランクカウンタの確定以降になる。そこで、時刻t3において変化後の(始動のための)噴射モードおよびその最初の噴射時期(B150)が確定されて、燃料噴射が実行される(図に実線で"INJ"と示す)。
これを受けて時刻t4では、混合気の燃焼性向上のために噴射時期の要求値がB270まで進角される。このため時刻t5では、次に点火順を迎える♯1気筒2において噴射時期が過去になるが、この♯1気筒2は、始動後に最初に燃料噴射する気筒ではないので、噴射時期を厳守することなく直ちに変化後の(始動のための)噴射モードおよびその噴射時期B270が確定されて、燃料噴射が実行される。
つまり、エンジン始動時にも最初に燃焼させる気筒2では噴射時期をできるだけ遅角側に設定するとともに、その噴射時期を厳守する一方、それ以降に復帰する気筒2では噴射時期を進角させるとともに、噴射時期を厳守できなくても燃料噴射は行うことによって、いわゆる噴射抜けを防止している。
続いて時刻t6では、30CAクランクカウンタが確定し、これに基づいて正確な点火制御が可能になるので、B30の♯8気筒2にてイグナイタ7の通電制御が開始され、時刻t7で点火プラグ6により混合気への点火が行われる。こうして最初の点火が実行されると、その後の時刻t8において通電開始時期および噴射モード確定限界が、それぞれの本来の時期(点火時期+通電時間、通電開始時期+10CA)に戻される。
また、図示の例では少し遅れて噴射時期の要求値がB30に変化しており、これ以降、燃料噴射は気筒2の圧縮行程終盤で行われるようになる。続いて時刻t9では、前記♯8気筒2での燃焼の開始(初爆)によってエンジン回転数Neが上昇し始め、これが所定の始動完了判定値Ne*に達した時刻t10では、エンジン1の始動完了が判定されて、始動時後の通常運転のための制御に移行する。
すなわち、始動時に比べてエンジン回転数Neが高くなることを考慮して、制御周期が10CA処理から30CA処理に切り替えられる。始動時にはエンジンの回転変動が大きくなるので、10CA処理とすることで精度を高める一方、エンジン回転数Neの高くなる通常運転の際は、30CA処理とすることで制御の演算負荷の増大を抑えるのである。また、併せて噴射モード確定限界は通電開始時期+10CAから通電開始時期+30CAなどに切り替えられる。
すなわち、前記したように噴射モード確定限界は、通電開始時期から少し遡って設定すればよいので、始動時のようにエンジン回転数Neの低い間は10CA処理であれば通電開始時期+10CAとし、30CA処理であれば通電開始時期+30CAとする。但し、通常運転になるとエンジン回転数Neが高くなって、通電開始時期から少し遡っただけでは足りないことがあるので、噴射モード確定限界は、通電開始時期+所定期間とB90+所定期間との大きな方としている。
図示の例では、♯3気筒2において通電開始時期+所定期間(L1)よりもB90+所定期間(L2)の方が大きいので、B90+所定期間が噴射モード確定限界とされ(時刻t11)、噴射開始ギリギリではないが、噴射モードおよびその最初の噴射時期(B30)が確定される。そして、時刻t12で♯3気筒2の燃料噴射が実行され、以下、時刻t13では♯4気筒2、時刻t14では♯5気筒2、…と順に燃料噴射が実行される。
なお、前記した10CAおよび30CAの制御周期の切り替えについて本実施形態では、インジェクタ21,22の制御出力部553において、エンジン回転数Neに基づいて切り替えるか否か判定し、この判定結果をイグナイタ7の制御出力部552に出力する。これにより、インジェクタ21,22の駆動制御とイグナイタ7の通電制御との両方で、タイミングを合わせて制御周期を切り替えることができる。
以上のようにエンジン始動の際にも、最初に燃焼させる気筒2の噴射時期をできるだけ遅角側に設定するとともに、始動要求が伝達された時点で、1回の燃焼サイクルのうちの最初の噴射を無理なく実行可能な気筒2を選んで、燃料を噴射させる。そして、続いて燃焼させる気筒2では噴射時期を進角させて燃焼性向上を図りつつ、この噴射時期を厳守できなくても燃料を噴射させることで、噴射抜けを防止する。このようにすれば、燃焼性を悪化させることなく、迅速且つスムーズな始動が可能になる。
−燃料カット制御からの復帰−
次に、前記のV型8気筒エンジンにおいて全気筒2のF/C制御から復帰する場合について、図11を参照して説明する。この場合は、図7〜9を参照して上述した気筒別F/C制御からの復帰時とはやや異なり、前記の始動時と同様に♯1〜♯8の気筒2から噴射要求に無理なく応えられるものを選んで順に燃焼を開始させる。但し、始動時とは異なりエンジン回転数Neが或る程度、高くなっており、また、30CAクランクカウンタは既に確定している。
図11には便宜上、♯2〜♯6気筒2についてのみ示すが、この例では♯1〜♯8の全気筒2でF/C制御が行われており、時刻t1において全気筒2に復帰要求が出されている(F/C要求OFF)。この際、噴射時期の要求値は、気筒別F/C制御のときと同じく最初に復帰する気筒2については、できるだけ遅角側(図の例ではB240)に設定されている。
前記の時刻t1では、最初に点火時期を迎える♯3気筒2のクランク角がB120で噴射時期(B240)が既に過去になっているので、この♯3気筒2への燃料噴射は行われない(図には破線で"INJ"と示す)。同様に、次に点火時期を迎える♯4気筒2でもクランク角がB210で、噴射時期(B240)が既に過去になっているので、この♯4気筒2への燃料噴射も行われない。
これに対し、その次に点火時期を迎える♯5気筒2のクランク角はB300で、噴射時期(B240)に間に合うので、時刻t2においてB240になると噴射モードなどが確定され、燃料噴射が実行される(図に実線で"INJ"と示す)。その直後に噴射時期の要求値はB240からB270に変化し(時刻t3)、その後の時刻t4ではB270の♯6気筒2でも噴射モードなどが確定されて、燃料噴射が実行される。
こうして♯1〜♯8の全気筒2のF/C制御から復帰する際にも、最初に復帰する気筒2の噴射時期をできるだけ遅角側に設定するとともに、この噴射時期を厳守できる気筒2から順に噴射を開始し、続いて復帰する気筒2では噴射時期を進角させるとともに、噴射時期は厳守しないことによって、燃焼状態の悪化を抑制しつつ迅速且つスムーズな復帰が可能になる。
−本実施形態の制御装置の奏する効果−
以上、説明したとおり本実施形態の制御装置では、まず、階層構造の最上位の要求発生階層510からその下位の物理量調停階層520、制御量設定階層530、制御量調停階層540を経て制御出力階層550まで一方向に信号が伝達されるので、制御演算負荷の低減が図られる。しかも、ドライバビリティ、排気ガスおよび燃費というエンジン1の基本的な機能要求をトルク、効率および空燃比という3種の物理量の組み合わせによって表現し、物理量調停階層520にて調停するようにしているので、それらの基本的な要求をバランス良く満たした好適な状態でエンジン1を運転することができる。
一方、各気筒2毎のインジェクタ21,22による燃料噴射の制御量(噴射制御量)に関する要求や成層始動、触媒急速暖機などの要求は、物理量調停を介さずに直接的に制御量調停階層540に伝達し、噴射機能調停部543にて調停するようにしている。よって一旦、前記の物理量に変換して調停し再度、制御量に計算し直すという余計な演算負荷が生じず、このことによって制御の遅れを小さくできる。
さらに、前記噴射機能調停部543によって調停された噴射制御量の要求値が伝達される制御出力階層550の制御出力部553において、その要求値が変化した時点で変化後の要求値をどの程度、実現できるかに応じて(つまり要求値の実現性に応じて)、この変化の前後少なくとも一方の要求値に基づきインジェクタ21,22の駆動信号を出力する。これにより、燃焼性を損なうことなく燃料噴射制御に極力、最新の要求を反映させることができる。
−その他の実施形態−
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば前記の実施形態ではエンジン1への基本的な機能要求としてドライバビリティ、排気ガスおよび燃費の3つを挙げており、これらをトルク、効率および空燃比の3つの物理量で表現して調停するようにしているが、これに限定されることはない。
また、前記3つの物理量ではなく、アクチュエータ7,8,…の制御量で表現して調停する機能要求も、前記実施形態で挙げているF/C前燃圧低減や成層始動、触媒急速暖機などの制御に限定されない。それ以外にも例えば、エンジン1の複数の気筒2の幾つかを休止させる気筒休止制御もあるし、フェールセーフ、OBDなどの各種機能要求も挙げられる。
また、前記の実施形態では本発明を、筒内噴射用インジェクタ21およびポート噴射用インジェクタ22を備えたエンジン1に適用した場合について説明したが、これにも限定されず、本発明は、筒内噴射用インジェクタ21のみを備えたエンジンの制御装置としても適用可能である。
さらに、前記の実施形態では、本発明の制御装置を車両に搭載される火花点火式エンジン1に適用した場合について説明したが、本発明は火花点火式エンジン1以外のエンジン、例えばディーゼルエンジンにも適用可能であり、電動機も備えたハイブリッドシステムに備わるエンジンにも適用可能である。