ところで、上述の特許文献1に開示された無針注射器を用いて動物に注射を行う場合、注射対象の動物がウサギなどのように体毛を多く有するものであるときは、体毛が邪魔になって射出口を当接させる位置を目視することが困難になる。また、規正部材や射出口と皮膚との間に体毛が挟まれることによって、射出口を皮膚に対して十分に密着させることが困難になり得る。なお、同様の問題は、規正部材を備えていない無針注射器を用いたとしても生じ得る。ここで、規正部材や射出口が当接される位置に生えている体毛を予め剃毛等の処置によって除去しておけば、射出口を十分に密着させることが可能になる。しかしながら、注射行為全体に必要な労力が増してしまうため、無針注射器の利便性が損なわれることになる。
本発明は、上記した問題に鑑み、表面に比較的に多くの体毛が生えている注射対象領域に、より容易に注射を行うことのできる無針注射器を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る無針注射器では、注射対象領域の表面に生えている体毛を傾倒させることで射出口が当接される位置を露出させるとともに、射出口が当該位置に当接されるまで当該位置が露出された状態を維持することのできる突出部材を設けた。
詳細には、本発明に係る無針注射器は、注射針を介することなく、注射目的物質を射出することによって体毛を有する生体の注射対象領域に該注射目的物質を注射する無針注射器であって、前記無針注射器の外殻容器を形成するハウジングと、前記ハウジング内に設けられ、前記注射目的物質が射出される射出口が形成されたノズル部と、前記ハウジングに設けられた、その先端が前記射出口より前記注射目的物質の射出方向側に突出した部材であって、該先端による前記注射対象領域の表面に沿った移動によって該表面に生えてい
る体毛をその移動方向に傾倒させることで前記射出口が当接される当接位置を露出させる第1突出部材と、を備え、前記第1突出部材は、前記射出口が前記当接位置に近付けられたときに、前記傾倒された体毛を傾倒状態に維持しながら変形することで、該射出口を該第1突出部材より前記射出方向側に突出させるように構成される。
上述の注射目的物質は、生体の注射対象領域の内部で効能が期待される成分を含むものであり、射出口からの射出が可能である限りにおいて、ハウジング内での収容状態や、流体・粉体等の物理的形態は問われない。すなわち、注射目的物質は、一般には液体であるが、射出を可能とする流動性が担保されればゲル状の固体であってもよい。更には、注射目的物質は、粉体の状態であってもよい。そして、注射目的物質には、注射対象領域内に送り込むべき成分が含まれ、当該成分は注射目的物質の内部に溶解した状態で存在してもよく、または当該成分が溶解せずに単に混合された状態であってもよい。
本発明に係る無針注射器においては、注射目的物質の射出は、周知の加圧機構によって加圧されることで行われる。この加圧機構としては、注射目的物質を加圧して射出できる限りにおいて、様々な機構を採用することができる。たとえば、バネ等による弾性力を利用したもの、加圧されたガスを利用したもの、火薬の燃焼で発生するガスの圧力を利用したもの、加圧のための電気的アクチュエータ(モータやピエゾ素子等)を利用したもの等が挙げられる。また、ユーザの手動によって加圧を達成させる形態も採用し得る。これらの加圧機構は、無針注射器のハウジング内に収容されることが好ましい。
そして、本発明に係る無針注射器においては、外殻容器としてのハウジングに、その先端が射出口より注射目的物質の射出方向側に突出した第1突出部材が設けられる。これにより、使用者が、まず無針注射器を注射対象領域に対して近付けた際には、射出口が当接する前に、第1突出部材の先端が注射対象領域の表面に当接する。なお、第1突出部材の先端が当該表面に当接している状態には、当該先端の一部または全部が、注射対象領域の表面に生えている体毛を挟みながら当該表面に当接している状態も含まれる。そして、第1突出部材の先端が、注射対象領域の表面に当接した状態で当該表面に沿って移動すると、移動中に当該先端に押圧された体毛がその移動方向に傾倒される。これにより、当該表面において体毛が傾倒された領域と、傾倒されていない領域との境界及びその近傍に、射出口を当接させる目標としての位置(すなわち、射出口が当接される当接位置)が露出される。このようにして当接位置が露出されたときには、第1突出部材の先端は、注射対象領域の表面に接しているか、あるいは、当該先端と当該表面との間に挟まれている体毛の厚さだけ当該表面から離れていると考えられる。ここで、上述の第1突出部材は、射出口が当該当接位置に近付けられたときには、傾倒された体毛を傾倒状態に維持しながら変形することで、当該射出口を自身の先端より射出方向側に突出させることができる。したがって、本発明に係る無針注射器によれば、当接位置が露出された状態を第1突出部材によって維持しながら、射出口を当該当接位置に当接させることが可能になるため、注射対象領域の表面に比較的に多くの体毛が生えている場合であっても、より容易に注射を行うことが可能になる。
ところで、上述の第1突出部材は、例えばシリコンゴム等の弾性材料から形成された板状の部材であるのがよい。当該部材の寸法や弾性的性質は、傾倒させた体毛をその復元力に抗して傾倒させた状態で維持することができ、かつ、射出口が当該部材の先端より射出方向側に突出するまで変形できるように、適宜設定すればよい。また、当該部材の弾性的性質等は、射出口が当接位置に近付けられる際に第1突出部材が変形することによって、体毛を傾倒させるために第1突出部材の先端を移動させた方向とは反対の方向へ射出口が移動するように、適宜設定するとよい。なお、当該部材の幅は、少なくとも射出口の直径以上であることが好ましい。また、上述の第1突出部材の先端による注射対象領域の表面に沿った移動は、無針注射器のハウジングが注射対象領域の表面に沿った方向に移動され
ることによって生じる移動と、当該ハウジングが注射対象領域に近づく方向に移動されるときに第1突出部材が変形することによって生じる移動とを含む。
なお、上述の無針注射器においては、前記第1突出部材は、前記体毛を梳くための櫛状部をその先端に備えてもよい。この構成によれば、当該先端による注射対象領域に沿った移動がより滑らかになるため、体毛をより容易に傾倒させることが可能になる。
また、上述の無針注射器は、前記第1突出部材の前記射出方向への突出量を調整するための調整部を備えてもよい。ここで、注射対象領域に生えている体毛が相対的に長い場合には、第1突出部材の先端を注射対象領域に当接させることや、体毛の傾倒状態を安定的に維持することがより困難になると想定される。この場合には、第1突出部材の突出量が大きいほど、射出口を当接させるための一連の操作が容易になると考えられる。そこで、このような構成を採用することにより、注射対象領域に生えている体毛の長さに応じて第1突出部材の突出量を調整することが可能になるため、より容易に注射を行うことが可能になる。
また、本発明に係る無針注射器は、前記第1突出部材に加えて、前記ハウジングに設けられた、その先端が前記射出口より前記注射目的物質の射出方向側に突出した部材であって、該先端による前記注射対象領域の表面に沿った移動によって該表面に生えている体毛をその移動方向に傾倒させることで前記当接位置を露出させる第2突出部材を備え、前記第2突出部材は、前記射出口が前記当接位置に近付けられたときに、前記傾倒された体毛を傾倒状態に維持しながら変形することで、該射出口を該第2突出部材の先端より前記射出方向側に突出させるように構成されるとよい。そして、前記第1突出部材及び前記第2突出部材は、前記当接位置を挟んで一方側と他方側とにそれぞれの先端が当接するように構成され、かつ、前記射出口が前記当接位置に近付けられたときに、それぞれの先端が該当接位置から遠ざかる互いに反対の方向に移動するように構成されるとよい。
上述の構成によれば、射出口が当接位置に近付けられたときには、注射対象領域の表面上における当接位置を挟んで一方側に生えている体毛と他方側に生えている体毛が、第1突出部材及び第2突出部材のそれぞれによって、当接位置から遠ざかる互いに反対の方向に傾倒される。そして、上述の第1突出部材及び第2突出部材のそれぞれは、それぞれが傾倒している体毛を傾倒状態に維持しながら変形する。したがって、上述の構成を備える無針注射器によれば、当接位置の両側の体毛を傾倒させた状態で、射出口を当該当接位置に当接させることが可能になるため、第1突出部材のみが設けられた構成に比して、より容易に注射を行うことが可能になる。
また、上述の無針注射器においては、前記第2突出部材は、前記体毛を梳くための櫛状部をその先端に備えてもよい。この構成によれば、当該先端による注射対象領域に沿った移動がより滑らかになるため、体毛をより容易に傾倒させることが可能になる。
また、上述の無針注射器においては、前記第1突出部材は、前記ハウジングの一の側面に設けられ、前記当接位置の近傍に生えている体毛をその先端の移動方向に傾倒させるための傾倒部を該先端に備え、前記第2突出部材は、前記ハウジングの前記一の側面に対向する他の側面に設けられ、前記当接位置の近傍に生えている体毛のうちの前記第1突出部材によって傾倒されない他の体毛をその先端の移動方向に傾倒させるための傾倒部を該先端に備えてもよい。ハウジングの一の側面に第1突出部材が設けられ、当該側面に対向する他の側面に第2突出部材が設けられている場合、両突出部材のそれぞれの先端が注射対象領域に当接された際の当接位置は、その後に射出口が当接される位置よりも注射対象領域の表面に沿った方向にある程度離れた位置になり得る。つまり、この場合には、両突出部材の先端が当接位置の近傍まで達しないために、当接位置の近傍に生えている体毛を傾
倒させることが困難になる。そこで、上述の構成を採用すれば、両突出部材のそれぞれの先端が備える傾倒部によって当接位置の近傍に生えている体毛を傾倒させることができるため、射出口が当接位置に近付けられたときに、当接位置をより確実に露出させることが可能になる。
また、上述の無針注射器は、前記第2突出部材の前記射出方向への突出量を調整するための更なる調整部を備えてもよい。この構成とすれば、上述のように、注射対象領域に生えている体毛の長さに応じて第2突出部材の突出量を調整することが可能になるため、より容易に注射を行うことが可能になる。
また、本発明に係る無針注射器は、前記第1突出部材に加えて、前記ハウジングに設けられた、その先端が前記第1突出部材の先端より前記注射目的物質の射出方向側に突出した部材であって、該先端による前記注射対象領域の表面に沿った移動によって該表面に生えている体毛をその移動方向に傾倒させることで前記射出口が当接される当接位置を露出させる第3突出部材を備え、前記第3突出部材は、前記射出口が前記当接位置に近付けられたときに、前記傾倒された体毛を傾倒状態に維持しながら前記ハウジングに対して変位することで、該射出口を該第3突出部材の先端より前記射出方向側に突出させ、前記第1突出部材及び前記第3突出部材は、前記当接位置を挟んで一方側と他方側とにそれぞれの先端が当接するように構成され、かつ、前記射出口が前記当接位置に近付けられたときに、前記第1突出部材の先端が該当接位置及び前記第3突出部材の先端から遠ざかる方向に移動するように構成されてもよい。
上述の構成によれば、使用者が、まず無針注射器を注射対象領域に対して近付けた際には、第3突出部材の先端が注射対象領域の表面に当接する。そして、第3突出部材の先端が、注射対象領域の表面に当接した状態で当該表面に沿って移動すると、移動中に当該先端に押圧された体毛がその移動方向に傾倒される。これにより、射出口が当接される当接位置が露出される。つまり、第3突出部材によって、当接位置を挟んで他方側に生えている体毛がまずは傾倒される。そして、射出口が当接位置に近付けられたときには、第1突出部材が当接位置を挟んで一方側に生えている体毛を当接位置から遠ざかる方向に傾倒させる。なお、射出口が当接位置に近付けられたときには、第1突出部材が傾倒している体毛を傾倒状態に維持しながら変形するとともに、第3突出部材が傾倒している体毛を傾倒状態に維持しながら変位する。したがって、上述の構成を備える無針注射器によれば、当接位置の両側の体毛を傾倒させた状態で、射出口を当該当接位置に当接させることが可能になるため、第1突出部材のみが設けられた構成に比して、より容易に注射を行うことが可能になる。
本発明に係る無針注射器によれば、表面に比較的に多くの体毛が生えている注射対象領域に、より容易に注射を行うことが可能になる。
以下に、図面を参照して本発明に係る無針注射器の実施例について説明する。なお、以下の実施例の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
[実施例1]
図1は本発明の第1の実施例に係る注射器1の構成を模式的に示す断面図である。また、図2は注射器1を、その先端側から見たときの斜視図である。注射器1は、本発明に係る注射目的物質に相当する注射液を、生体内の注射対象領域(例えば、動物の皮膚構造体)に直接に送り届ける注射針を有していない無針注射器である。なお、本実施例では、注射目的物質を液体としているが、これには生体内に注射される物質の内容や形態を限定する意図はない。上述の通り、例えば皮膚構造体に注射すべき物質はその治療目的に応じて様々であるため、皮膚構造体に届けるべき成分が当該治療目的に適応している限りにおいては、溶解していても溶解していなくてもよく、また注射目的物質も、エネルギーにより注射器1から皮膚構造体に対して射出され得るものであれば、その具体的な形態は不問であり、液体、ゲル状等様々な形態が採用できる。
注射器1は、外殻容器を形成するハウジング2を備えており、その内部には先端部から後端部にかけてノズルホルダ5、ピストンホルダ3、及び点火器ホルダ12が一列に並べられている。なお、ハウジング2は、図2に示すように、概ね直方体状の形状を有するが、本発明ではハウジング自体の形状は限定されるものではない。またノズルホルダ5、ピストンホルダ3、及び点火器ホルダ12は概ね円筒状の形状を有する。そして、ハウジング2の後端部からキャップ30が装着されることによって、ノズルホルダ5、ピストンホルダ3、点火器ホルダ12がハウジング2内に固定される。なお、本実施例において、「先端部」と称する場合は、後述するように注射液の射出方向(ピストン4の推進方向)における構成要素の端部を意味するものであり、一方で、「後端部」と称する場合は、先端部とは反対の側における構成要素の端部を意味するものである。
ここで、ハウジング2には、ノズルホルダ5、ピストンホルダ3、点火器ホルダ12を収容するための空間を画定する内孔2aが形成されている。更に、ハウジング2の先端部において、内孔2aとハウジング2の外部とを連通するように形成される貫通孔2bが設けられている。貫通孔2bと内孔2aの中心は同軸上に設けられ、貫通孔2bの内径は、内孔2aの内径よりも小さく設定されている。そのため、ハウジング2の先端部側の内部には、段部2cが形成されている。
ここで、点火器ホルダ12に取り付けられる点火器20の例について、図3に基づいて説明する。点火器20は電気式の点火装置であり、表面が絶縁カバーで覆われたカップ21によって、点火薬22を配置するための空間が該カップ21内に画定される。そして、その空間に金属ヘッダ24が配置され、その上面に筒状のチャージホルダ23が設けられている。該チャージホルダ23によって点火薬22が保持される。この点火薬22の底部には、片方の導電ピン28と金属ヘッダ24を電気的に接続したブリッジワイヤ26が配線されている。なお、二本の導電ピン28は互いが絶縁状態となるように、絶縁体25を介して金属ヘッダ24に固定される。さらに、二本の導電ピン28が延出するカップ21の開放口側は、樹脂27によって導電ピン28間の絶縁性を良好に維持した状態で保護されている。
このように構成される点火器20においては、キャップ30において接続された電源部(不図示)によって二本の導電ピン28間に電圧印加されるとブリッジワイヤ26に電流が流れ、それにより点火薬22が燃焼する。なお、この電圧印加は、電源部のボタンをユーザが押下することで実現される。そして、電圧印加の結果、点火薬22の燃焼による燃焼生成物はチャージホルダ23の開口部から噴出されることになる。そこで、本発明においては、点火器20での点火薬22の燃焼生成物が、点火器ホルダ12の内部に形成された燃焼室11内に流れ込むように、点火器ホルダ12に対する点火器20の相対位置関係が設定されている。
なお、注射器1において用いられる点火薬22として、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。なお、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
ここで、図1に示す燃焼室11内には何も配置されていないが、点火薬22の燃焼で生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させる公知のガス発生剤を、燃焼室11内に配置するようにしてもよい。仮に燃焼室11内にガス発生剤を配置させる場合、その一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。このようなガス発生剤の併用は、上記点火薬22のみの場合と異なり、燃焼時に発生した所定のガスは常温においても気体成分を含むため、発生圧力の低下率は小さい。さらに、当該ガス発生剤の燃焼時の燃焼完了時間は、上記点火薬22と比べて極めて長いが、燃焼室11内に配置されるときの該ガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能である。このようにガス発生剤の量や形状、配置を調整することで、燃焼室11内での発生圧力を適宜調整できる。
次に、金属製のピストンホルダ3には、図1に示す注射器1の使用前において、金属製のピストン4を保持する貫通孔31が形成されている。そして、ピストン4は、この貫通孔31内を軸方向に沿って摺動可能となるように配置され、その一端(後端部側)が燃焼室11側に露出し、他端(先端部側)には封止部材4aが一体に取り付けられている。この封止部材4aは、ピストン4の摺動に伴って注射液が円滑に貫通孔14内を移動できる
ように、表面にシリコンオイルを薄く塗布したゴム製のものである。ピストン4や封止部材4aとピストンホルダ3内の貫通孔31との摩擦を低減するため、例えばフッ素ゴム製の封止部材を使用することが出来る。また貫通孔31表面にシリコン処理を行うことも出来る。
さらに、注射器1の先端部側でピストンホルダ3に隣接して、注射液を射出するためのノズル部6を保持するノズルホルダ5が配置されている。このノズル部6は、概ね円筒状の形状を有する。そして、ノズルホルダ5には、ノズル部6を収容するための空間を画定する内孔5aが形成されており、内孔5aは、その先端部側において、ノズル部6の先端部分が外部に露出した状態で保持されるように、ノズル部6の表面形状に合わせてテーパー部5bが形成されている。
一方で、ノズル部6は、ノズルホルダ5の内孔5aの内径とほぼ一致する外径を有するとともに、その先端部側には、ノズルホルダ5のテーパー部5bに対応するテーパー部が形成される。そして、ノズル部6には、注射器1から射出される注射液が最終的に流れる流路6aと、当該注射液が射出される射出口6bとが形成される。なお、ノズル部6の先端部は、ハウジング2の先端面2d及びノズルホルダ5の先端面5cよりも、射出方向側に突出するように形成される。これにより、射出口6bが注射対象領域に当接された際には、当該注射対象領域に対して射出口6bがより密着することができる。
ノズル部6は、樹脂成形により大量生産が可能なものであり、注射液の射出ごとに新しいノズル部に交換可能であるように形成されている。この結果、注射器1の使用者は、注射液の注射を行う度に常に新しいノズル部6を使用でき、衛生的な注射が実現される。また、流路6aの形状や大きさ等は、注射器1から射出される注射液の、射出後の挙動を決定付ける要素である。したがって、ノズル部6が上記の通り交換可能に形成されることで、注射すべき注射液を目標とする生体内の領域に送り込むのに適した流路を有するノズル部6を選択でき、以て当該注射液の射出を好適に実現することが可能となる。
上記のように、ハウジング2内において、ノズル部6及びノズルホルダ5、ピストン4及びピストンホルダ3、点火器ホルダ12が配置されると、図1に示す注射器1の使用前の状態では、ピストン4に取り付けられた封止部材4aと、ノズル部6の凹部6cとの間に、注射液を収容可能な収容空間13が形成される。図1の注射器1では、注射液は、注射器1が組み立てられた後に収容空間13に装填されることになる。なお、図1に示す構成では、注射液は完全に閉じられた空間に封入されておらず、注射器先端側は開放された状態となっている。しかし、ノズル部6の射出口6bの内径は極めて小さい(例えば100μm)ため、ピストン4によって荷重が加えられない限りは、このように収容空間13が半閉空間であっても注射液の表面張力によって注射液は収容空間13に収容された状態が保持され得る。そして、後述するように、その装填された注射液は、点火器20での点火薬22の燃焼によって生じるエネルギーで加圧されることでノズル部6の射出口6bから射出されることになる。
このように構成される注射器1では、注射対象領域に対して射出口6bが密着した状態で点火器20に対して電源部が接続されると、電源部からの電流によって点火器20が作動する。すると点火薬22の燃焼によって、燃焼室11内に燃焼生成物が充満し、その圧力を注射液の射出のためのエネルギーとしてピストン4に伝える。エネルギーを受けてピストン4は貫通孔31を推進していき、収容空間13に収容されている注射液に圧力を加えていくことで、ノズル部6の流路6aを経て射出口6bから注射対象領域に向かって注射液が射出されることになる。射出された注射液には圧力が掛けられているため、注射対象領域の表面を貫通し、その内部に注射液が到達することで、注射器1における注射の目的を果たすことが可能となる。なお、ピストンホルダ3とノズル部6との当接部分には、
公知のシール手段を配設することが出来る。
ところで、注射器1においては、ハウジング2の側面2eには、注射対象領域の表面としての皮膚に生えている体毛を傾倒させるための突出部材8が設けられている。この突出部材8は、ハウジング2の側面2eの幅とほぼ同一の幅を有する板状の弾性体から形成され(図2参照)、その先端8aが、ノズル部6に設けられた射出口6bより注射液の射出方向側に突出するように設けられる。突出部材8の弾性の程度については後述するが、当該弾性体としては、例えばシリコンゴムが挙げられる。また、先端8aは、注射対象領域に沿った移動がより滑らかになるようにテーパー状に形成されるとともに、その幅方向に亘って体毛を梳くための櫛歯が形成された櫛状部8bを備える。また、突出部材8は、その後端側の部分が調整部9によって固定されることにより、ハウジング2の側面2eに対して位置決めされている。調整部9は、突出部材8を固定するための固定ネジ9aを有しており、この固定ネジ9aを締め込むことによって、突出部材8を側面2eに対して固定することができる。このような調整部9を採用することにより、固定ネジ9aを緩めた上で突出部材8をハウジング2の長手方向にスライドさせることにより、突出部材8のハウジング2の先端面2dからの突出量Pを適宜調整することが可能になる。
ここで、注射器1を用いて体毛の生えている注射対象領域に注射を行う際の実行手順について、図4Aから4Cを用いて説明する。なお、図4Aから4Cは、注射器1の先端部を側方から見た状態を模式的に示す図であり、当該実行手順の説明のために不要な構成の図示は適宜省略されている。
まず、体毛Hが生えている皮膚Sに向かって、使用者の操作によって注射器1が近付けられると、図4Aに示すように、突出部材8の先端8aが皮膚Sに対して当接する。なお、先端8aの一部または全部が、体毛Hを挟んで皮膚Sに当接していてもよいが、先端8aと皮膚Sとの間に体毛Hが挟まれることを可及的に抑制するために、突出部材8を体毛Hの角度に概ね沿うようにして皮膚Sに近付けることが望ましい。
次に、突出部材8の先端8aが皮膚Sに当接した状態で、注射器1が皮膚Sに沿った方向に移動されると、図4Bに示すように、移動中に先端8aに押圧された体毛Hの一部が先端8aの移動方向へ傾倒される。これにより、傾倒された体毛Hの根元付近に、射出口6bを当接させることのできる当接位置R1が、使用者によって目視できる程度に露出する。ここで、先端8aには体毛Hを梳くための櫛状部8bが設けられているため、先端8aの移動は滑らかに行われる。なお、傾倒されている体毛Hの角度は、体毛Hの長さや量、更には突出部材8による押圧力に依存する。そこで、使用者は、当接位置R1が十分に露出されるように、先端8aの移動距離Dや突出部材8を介して体毛Hを押圧する押圧力を適宜調整すればよい。
ここで、突出部材8の寸法や弾性的性質は、当接位置R1に射出口6bが近付けられたときに、傾倒された体毛Hを傾倒状態に維持しながら変形することで、射出口6bを先端8aより射出方向側に突出させることができるように設定されている。具体的には、使用者によって射出口6bを当接位置R1に近付けるような力が加えられると、突出部材8は、先端8aを支点にして湾曲するように変形する。これにより、先端8aにより保持された体毛Hの傾倒状態が維持されるため、当接位置R1が露出した状態が維持され得る。また、突出部材8がこのように変形することにより、射出口6bを当接位置R1に近付ける際に、射出口6bを、体毛Hの傾倒方向とは反対方向に、ある程度移動させることが可能になる。なお、図4Bに示す状態においては、突出部材8の先端8aは、自身と皮膚Sとの間に挟まれている体毛Hの厚さだけ皮膚Sから離れているが、上述のように、突出部材8の弾性的性質は、射出口6bを先端8aより射出方向側に突出させることができるように設定されている。ゆえに、突出部材8は、図4Cに示すように、射出口6bが当接位置
R1に当接するまで変形することができる。したがって、使用者は、射出口6bを露出された当接位置R1に近付ける操作をすることによって、体毛Hを避けながら射出口6bを当接位置R1に当接させることができる。
なお、図4Aから想定されるように、体毛Hが相対的に長い場合には、初めに突出部材8の先端8aを皮膚Sに対して当接させる際に、射出口6bが体毛Hの干渉を受けやすい。この場合には、突出部材8のハウジング2の先端面2dからの突出量Pが大きいほうが、先端8aを当接させる操作がより容易になる。また、図4Cから想定されるように、変形した突出部材8によって、射出口6bが当接位置R1に当接するまで当接位置R1が露出した状態が維持される際には、湾曲した突出部材8の胴部8bによっても体毛Hが押圧される。したがって、突出量Pが大きいほど、体毛Hの傾倒状態を維持しやすいと言える。ゆえに、体毛Hの長さに応じて、調整部9を用いて突出部材8の突出量Pを適宜調整することにより、体毛Hを避けながら射出口6bを当接位置R1に当接させる操作がより容易になる。
以上のように、本実施例に係る注射器1によれば、予め体毛Hを除去する処置等を施さなくても、注射器1を皮膚Sに対して近付ける操作のみによって、体毛Hを避けながら射出口6bを皮膚Sに当接させることができる。その結果、比較的に多くの体毛が生えている皮膚であっても、注射液を漏らすことなくより容易かつ確実に注射を行うことが可能になる。
[実施例2]
次に、本発明の第2の実施例に係る注射器101について、図5A、5B及び6に基づいて説明する。図5A及び5Bは、図4A等と同様に、注射器101の先端部を側方から見た状態を模式的に示す図であり、注射器101を用いて皮膚Sに注射を行う際の実行手順を説明するための図である。また、図6は、注射器101を、その先端側から見たときの正面図である。なお、以下においては、注射器101の構成要素の中で、上述の注射器1の構成要素と実質的に同一のものについては、同一の符号を用いるとともに説明は適宜省略する。
無針注射器である注射器101は、内部の構造が上述の注射器1と実質的に同一なハウジング102を有する。したがって、図5Aに示すように、ノズル部6の射出口6bは、ハウジング102の先端面102dよりも射出方向側に突出しており、皮膚Sに対して射出口6bが密着した状態で点火器20(不図示)に対して電源部が接続されると、射出口6bから皮膚Sに向かって注射液が射出される。
ここで、注射器101においては、皮膚Sに生えている体毛Hを傾倒させるために、第1突出部材108と第2突出部材109とが設けられている。第1突出部材108は、上述の実施例1における突出部材8と同様の弾性的性質を有する弾性体から形成されており、図6に示すように、2つの固定端のそれぞれが、ハウジング102における対向する両側面に設けられる。また、第2突出部材109も同様の構成を有する。そして、図5Aに示すように、第1突出部材108及び第2突出部材109は、それぞれの先端108a及び109aが、射出口6bより射出方向側に突出するように設けられている。なお、両突出部材108、109のそれぞれは、ハウジング102における射出口6bを挟んだ両側に設けられている。そして、両突出部材108、109は、図5Aに示すように注射器101を側方から見たときに、互いに交差するように屈曲した形状を有している。両突出部材108、109がこのような形状を有することにより、それぞれの先端108a、109aは、射出口6bを挟んだ一方側と他方側とに位置するようになる。両突出部材108、109がこのようにして構成されることにより、ハウジング102を皮膚Sに対して押し付けることで、射出口6bが当接される当接位置R2に近付けられたときには、当接位
置R2を挟んで一方側と他方側とにそれぞれの先端108a、109bが当接するとともに、それぞれの先端108a、109aが当接位置R2から皮膚Sに沿った水平方向に遠ざかる互いに反対の方向に移動する。また、上述の注射器1における突出部材8の先端8aと同様に、先端108aは、図6に示すように、テーパー状に形成されるとともに、その幅方向に亘って体毛を梳くための櫛状部108bを備える。また、先端109aも同様に櫛状部109bを備える。このような構成により、先端108a、109aによる、皮膚Sに沿った移動がより滑らかになる。更に、上述の注射器1と同様に、第1突出部材108は、ハウジング102の先端面102dからの突出量を調整するための調整部110を備える。また、第2突出部材109も同様に調整部111を備える。このような構成により、上述の注射器1と同様に、両突出部材108、109のそれぞれの突出量を適宜調整することができるため、射出口6bを当接位置R1に当接させる操作がより容易になる。
以下、注射器101を用いて体毛Hの生えている皮膚Sに注射を行う際の実行手順について、図5A及び5Bを用いて説明する。まず、皮膚Sに向かって、使用者の操作によって注射器101が近付けられると、図5Aに示すように、第1突出部材108の先端108a及び第2突出部材109の先端109aが皮膚Sに対して当接する。
次に、両先端108a、109aが皮膚Sに当接した状態で、射出口6bが皮膚Sに対してほぼ垂直に近付けられると、両突出部材108、109が湾曲するようにして変形することにより、それぞれの先端108a、109aが、当接位置R2から遠ざかる互いに反対の方向へ移動する。これにより、当接位置R2を挟んで一方側の体毛Hと、他方側の体毛Hとが互いに反対方向に傾倒されるため、傾倒された体毛Hの根元付近に当接位置R2が露出される。そして、両突出部材108、109は、射出口6bが当接位置R2に当接するまで、体毛Hを傾倒させた状態を維持しながら変形することができる。したがって、使用者が射出口6bを皮膚Sに対して更にほぼ垂直方向に近付けると、図5Bに示すように、射出口6bを当接位置R2に容易に当接させることが可能になる。
以上のように、本実施例に係る注射器101によれば、2つの突出部材を備えているために、射出口6bを皮膚Sに対して垂直方向に近付ける操作を行うのみで、体毛Hを避けながら射出口6bを皮膚Sに当接させることが可能になる。ゆえに、本実施例によれば、更により容易に注射を行うことが可能になる。
[実施例3]
次に、本発明の第3の実施例に係る注射器201について、図7A及び7Bに基づいて説明する。図7A及び7Bは、図4A等と同様に、注射器201の先端部を側方から見た状態を模式的に示す図であり、注射器201を用いて注射対象領域に注射を行う際の実行手順を説明するための図である。なお、以下においては、注射器201の構成要素の中で、上述の注射器1の構成要素と実質的に同一のものについては、同一の符号を用いるとともに説明は適宜省略する。
無針注射器である注射器201は、内部の構造が上述の注射器1と実質的に同一なハウジング202を有する。したがって、図7Aに示すように、ノズル部6の射出口6bは、ハウジング202の先端面202dよりも射出方向側に突出しており、皮膚Sに対して射出口6bが密着した状態で点火器20(不図示)に対して電源部が接続されると、射出口6bから皮膚Sに向かって注射液が射出される。
ここで、注射器201においては、皮膚Sに生えている体毛Hを傾倒させるために、第1突出部材208と第2突出部材209とが設けられている。なお、両突出部材208、209は、上述の実施例1における突出部材8と同様の弾性的性質を有する板状の弾性体
から形成されている。図7Aに示すように、第1突出部材208は、ハウジング202の一の側面202aに設けられており、その先端208aには、後述する当接位置R3の近傍に生えている体毛を傾倒させるための傾倒部218を備えている。この傾倒部218は、先端208aの幅方向に複数設けられた、射出口6b側に突出した細いブラシ毛218aを有しており、各ブラシ毛218aの先端には球状の先端218bが形成されている。ブラシ毛218aは、体毛Hを梳くために適当な柔軟性を有する材料から形成される。また、先端218bは、皮膚Sへの刺激を和らげるとともに、ブラシ毛218aによってより効果的に体毛Hが傾倒されることを可能にする。また、複数のブラシ毛218aのうち、突出部材208の先端208aから射出口6b側にもっとも突出しているものは、射出口6bの直下まで突出している。具体的には、図7Aに示すように、射出口6bがハウジング202の中心に設けられている場合には、射出口6b側にもっとも突出しているブラシ毛218aの突出量Lは、ハウジングの幅Wの半値になる。また、第1突出部材208と同様の構成を有する第2突出部材209は、ハウジング202の他の側面202bに設けられており、その先端209aには、当接位置R3の近傍に生えている体毛を傾倒させるための傾倒部219を備えている。なお、傾倒部219は、上述の傾倒部218と同様に、球状の先端219bが形成されたブラシ毛219aを複数有する。ブラシ毛219aの数や長さ等は、上述のブラシ毛218aと同様である。
また、上述の注射器2と同様に、第1突出部材208は、ハウジング202の先端面202dからの突出量を調整するための調整部210を備える。また、また、第2突出部材209も同様に調整部211を備える。このような構成により、上述の注射器2と同様に、両突出部材208、209のそれぞれの突出量を適宜調整することができるため、射出口6bを当接位置R3に当接させる操作がより容易になる。
以下、注射器201を用いて体毛Hの生えている皮膚Sに注射を行う際の実行手順について、図7A及び7Bを用いて説明する。まず、皮膚Sに向かって、使用者の操作によって注射器201が近付けられると、図7Aに示すように、先端218b及び219bが皮膚Sに対して当接する。
次に、両先端218b、219bが皮膚Sに当接した状態で、射出口6bが皮膚Sに対してほぼ垂直に近付けられると、両突出部材208、209が湾曲するようにして変形することにより、それぞれの先端208a、209aが、当接位置R3から遠ざかる互いに反対の方向に移動する。両先端108a、109aが移動すると、同様に当接位置R3から遠ざかる互いに反対の方向に移動する傾倒部218、219によって、当接位置R3を挟んで一方側の体毛Hと他方側の体毛Hが互いに反対方向に傾倒される。これにより、射出口6bが当接される当接位置R3が露出される。そして、両突出部材208、209は、射出口6bが当接位置R3に当接するまで、体毛Hを傾倒させた状態を維持しながら変形することができる。したがって、使用者が射出口6bを皮膚Sに対して更にほぼ垂直方向に近付けると、図7Bに示すように、射出口6bを当接位置R3に容易に当接させることが可能になる。
以上のように、本実施例に係る注射器201によれば、両突出部材208、209のそれぞれが備える傾倒部218、219によって当接位置R3の近傍に生えている体毛Hを傾倒させることができるため、射出口6bを皮膚Sに対して垂直方向に近付ける操作を行うのみで、体毛Hを避けながら射出口6bを皮膚Sに当接させることが可能になる。ゆえに、本実施例によれば、更により容易に注射を行うことが可能になる。なお、両突出部材208、209は、それぞれの先端208a、209aが図7Bに示されるように変形するよう、あらかじめハウジング202に対して傾斜した状態で(すなわち、突出部材208、209間の距離が先端208a、209aになるほど大きくなる状態で)取り付けられていても良い。この場合には、複数のブラシ毛218aのうちの、第1突出部材208
の先端208aから射出口6b側にもっとも突出しているものの突出量は、その先端218bが射出口6bの直下まで突出するように設定される(ブラシ毛219aについても同様)。また、ブラシ毛218a、219aは体毛Hの傾倒とその状態の維持を行う目的で取り付けられており、この目的が達成される上では使用前にブラシ毛が伸びる方向を限定するものではない。
[実施例4]
次に、本発明の第4の実施例に係る注射器301について、図8A及び8Bに基づいて説明する。図8A及び8Bは、図4A等と同様に、注射器301の先端部を側方から見た状態を模式的に示す図であり、注射器301を用いて皮膚Sに注射を行う際の実行手順を説明するための図である。なお、以下においては、注射器301の構成要素の中で、上述の注射器1の構成要素と実質的に同一のものについては、同一の符号を用いるとともに説明は適宜省略する。
無針注射器である注射器301は、内部の構造が上述の注射器1と実質的に同一なハウジング302を有する。したがって、図8Aに示すように、ノズル部6の射出口6bは、ハウジング302の先端面302dよりも射出方向側に突出しており、皮膚Sに対して射出口6bが密着した状態で点火器20(不図示)に対して電源部が接続されると、射出口6bから皮膚Sに向かって注射液が射出される。
ここで、注射器301においては、皮膚Sに生えている体毛Hを傾倒させるために、第1突出部材308と第2突出部材309とが設けられている。図8Aに示すように、第2突出部材309は、その先端309aが第1突出部材308の先端308aより注射液の射出方向側に突出している。また、第1突出部材308及び第2突出部材309のそれぞれは、上述の実施例2と同様に、ハウジング302における射出口6bを挟んだ両側に設けられており、図8Aに示すように注射器301を側方から見たときに、互いに交差するように屈曲した形状を有している。ゆえに、先端308a、309aは、射出口6bを挟んだ一方側と他方側とに位置するようになる。また、注射器301をその先端側から見た正面図は、上述の図6に示す図と同様になる。ここで、第1突出部材308は、上述の実施例2における第1突出部材108と同様の弾性的性質や形状を有する。一方、第2突出部材309は、上述の実施例2における第2突出部材109と同様の形状を有するが、剛体から形成されており、ハウジング302に対して、注射液の射出方向に摺動自在に設けられている。詳細には、第2突出部材309の固定端が、ハウジング302の対向する側面に設けられた、長手方向に延在するスライドレール310に摺動自在に固定される。両突出部材308、309がこのようにして構成されることにより、射出口6bが後述する当接位置R4に近付けられたときには、先端308aが当接位置R4から皮膚Sに沿った水平向きに遠ざかる方向に移動するとともに、先端309aが、ハウジング302に対して上述の射出方向とは反対方向に変位する。
なお、上述の実施例2と同様に、両突出部材308、309のそれぞれの先端308a、309bに体毛を梳くための櫛状部を設けてもよい。また、両突出部材308、309の、ハウジング302の先端面302dからの突出量を調整するための調整部を備えてもよい。
以下、注射器301を用いて体毛Hの生えている皮膚Sに注射を行う際の実行手順について、図8A及び8Bを用いて説明する。まず、皮膚Sに向かって、使用者の操作によって注射器301が近付けられると、第2突出部材309の先端309aが皮膚Sに対して当接する。次に、先端309aが皮膚Sに当接した状態で、注射器301が皮膚Sに沿った方向(図8Aに示す矢印の方向)に移動されると、図8Aに示すように、移動中に先端309aに押圧された体毛Hの一部が先端309aの移動方向へ傾倒される。
次に、先端309aによって体毛Hの一部が傾倒された状態で、射出口6bが皮膚Sに対してほぼ垂直に近付けられると、第1突出部材308が湾曲するようにして変形することにより、先端308aが、当接位置R4及び第2突出部材309の先端309aから遠ざかる方向に移動する。これにより、当接位置R4近傍の傾倒されていない体毛Hの一部が、先端308aの移動方向に傾倒される。これにより、射出口6bが当接される当接位置R4が露出される。そして、第1突出部材308は、射出口6bが当接位置R4に当接するまで、体毛Hを傾倒させた状態を維持しながら変形することができる。一方、第2突出部材309は、射出口6bが当接位置R4に当接するまで、体毛Hを傾倒させた状態を維持しながらハウジング302に対して変位することができる。したがって、使用者が射出口6bを皮膚Sに対して更にほぼ垂直方向に近付けると、図8Bに示すように、射出口6bを当接位置R4に容易に当接させることが可能になる。
以上のように、本実施例に係る注射器301によれば、両突出部材308、309のそれぞれによって当接位置R4の近傍に生えている体毛Hを傾倒させることができるため、射出口6bを皮膚Sに対して垂直方向に近付ける操作を行い、体毛Hを避けながら射出口6bを皮膚Sに当接させることが可能になる。ゆえに、本実施例によれば、より容易に注射を行うことが可能になる。
なお、本実施例においては、スライドレール310上に、点火器20に対して電源部を接続させるスイッチ311を設けてもよい。第2突出部材309は剛体から構成されているため、スライドレール310上における第2突出部材309の位置に基づいて、第2突出部材309の先端309aの位置を検知することができる。ゆえに、先端309aが射出口6bよりも注射液の射出方向側に突出する位置に達したことが検知された際に、電源部を接続させるスイッチ311が閉じられるようにして、射出口6bが皮膚Sに対して当接した際に、自動的に注射液が射出される無針注射器を提供することができる。
以上の実施例ではハウジングの形状は略直方体としたが、アダプタを介して上記の機構を呈するように突出部材を配置できれば、ハウジングの断面形状は円、楕円などのほかの形であっても良い。また駆動源は火薬を使用したものとしたが、加圧ガスやバネであっても良い。